説明

抗菌性羽毛及びその製造方法

【課題】人体や環境に安全な材料を用いて、ポリフェノールの抗菌性が持続する抗菌性羽毛を提供する。
【解決手段】抗菌性羽毛の製造方法は、羽毛に加水分解ケラチンを接触させる前処理と、前処理を施した羽毛にポリフェノールを接触させるポリフェノール加工とを有する。抗菌性羽毛は、羽毛内部に浸透する加水分解ケラチンと、加水分解ケラチンにより羽毛内部及び/又は表面に担持されるポリフェノールとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノールを利用した抗菌性羽毛及びその製造方法に関し、特に、緑茶に含まれるカテキン等の天然抗菌成分であるポリフェノールの機能性を、人体への安全性が高い素材を用いて付与した抗菌性羽毛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛等のタンパク質系繊維に抗菌性を付与する方法が研究され、従来の技術として、1)第4級アンモニウム塩等の有機系合成抗菌剤を用いる方法(下記特許文献1参照)、2)塩素処理及びポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を併用する方法(下記特許文献2参照)、3)コバルト等の金属を用いる方法(下記特許文献3参照)、4)キトサン等の動物性抗菌剤を付与する方法(下記特許文献4参照)などが行われている。しかし、近年、大気汚染や水質汚濁等が問題となり、又、皮膚刺激やアレルギー等への対応も望まれるようになり、新たな方法として、5)オゾンを羽毛布団中に封入する方法(下記特許文献5参照)、6)バインダーを用いて茶ポリフェノールを羽毛に固着させて機能性(風合い及び抗菌性等)を向上させる加工方法(下記特許文献6参照)などが見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−80166号公報
【特許文献2】特開2003−306873号公報
【特許文献3】特開平6−184937号公報
【特許文献4】特開平11−43866号公報
【特許文献5】特開平7−50970号公報
【特許文献6】特開2001−123376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記5)の方法は、羽毛を中綿とする縫製製品を仕上げる間に製品内部に抗菌成分を導入するので、個々の羽毛に抗菌性を付与するものではなく、抗菌効果が持続するのは、不安定な抗菌成分が残存する比較的短期間のみであり、効果の持続性は期待できない。また、上記6)の方法は、茶ポリフェノールを固着するために用いるバインダーとして第4級アンモニウム塩を用いているため、環境や人体への安全性の面で懸念が残る。
【0005】
このようなことから、環境や人体への安全性について問題を生じることなく、抗菌効果の持続性が期待できる羽毛の抗菌処理方法を見出す必要がある。
【0006】
本発明は、環境や人体への安全性が高く、抗菌効果の持続性が期待できる抗菌性羽毛を提供することを課題とする。
【0007】
又、本発明は、安全性が高く、抗菌効果の持続性が期待できる抗菌性羽毛を、環境や人体への安全性が高い資材及び加工条件によって効率的に供給可能な羽毛の抗菌加工方法及び抗菌性羽毛の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、抗菌効果が持続するように抗菌性成分を羽毛に担持可能な安全性の高い加工処理について検討を重ねたところ、加水分解ケラチンを媒染助剤として用いて羽毛をポリフェノール加工することによって、安全性及び持続性の高い抗菌性を羽毛に付与できることを見出し、本発明の実現に至った。
【0009】
本発明の一態様によれば、抗菌性羽毛の製造方法は、羽毛に加水分解ケラチンを接触させる前処理と、前記前処理を施した羽毛にポリフェノールを接触させるポリフェノール加工とを有することを要旨とする。
【0010】
上記抗菌性羽毛の製造方法によって、羽毛に浸透する加水分解ケラチンと、羽毛表面上のポリフェノールとを有する抗菌性羽毛が製造される。
【0011】
又、本発明の一態様によれば、抗菌性羽毛は、羽毛内部に浸透する加水分解ケラチンと、前記加水分解ケラチンにより羽毛内部及び/又は表面に担持されるポリフェノールとを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抗菌加工に従来使用されていたバインダー樹脂、工業用金属塩、カチオン系合成高分子等を使用せずに、環境及び人体に対する安全性の高い素材を用いてタンパク質系繊維をポリフェノール加工して抗菌性を付与することができ、抗菌性が持続するポリフェノール加工羽毛が提供される。水質汚染等の環境に対する負荷が少なく、ポリフェノールの機能性を活かしつつ安全性の高いポリフェノール加工羽毛を製造できる。耐洗濯性等の堅牢性に優れた抗菌性羽毛を提供できるので、ポリフェノールの機能性を利用した羽毛製品の用途開発に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
緑茶などに含まれるカテキン等のポリフェノール化合物は、抗菌性、消臭等の有用な機能を有する機能性成分であるので、様々な製品にこれらの機能を付与するための利用が研究されている。ポリフェノール化合物は、水酸基により親水性を有する化合物であるが、羽毛等の動物タンパク質系繊維は水馴染みがよくないので、単にポリフェノール化合物を羽毛に接触させても羽毛表面にポリフェノール化合物を担持できない。このため、親水性のポリフェノールを羽毛に結合するための処理が必要となる。
【0014】
本発明では、人体や環境に負荷を与える懸念のある物質の使用を回避するために、ポリフェノールを羽毛に担持するための処理剤として加水分解ケラチンを使用する。加水分解ケラチンは、羽毛や羊毛等の動物の毛、皮膚、爪等を構成する蛋白質成分であるケラチンの加水分解物であり、羽毛等のケラチン質への浸透性を有する。以下、本発明の抗菌性羽毛の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の抗菌性羽毛の製造方法は、羽毛を加水分解ケラチンに接触させて羽毛の凹凸や隙間内部に加水分解ケラチンを浸透させる前処理と、前処理を経た羽毛をポリフェノールに接触させてポリフェノールの抗菌性を羽毛に付与するポリフェノール加工とを有する。加水分解ケラチンを用いた前処理が施されることによって、加水分解ケラチンが結合剤又は媒染助剤として作用し、羽毛に付与される抗菌性が耐久性の高いものとなる。
【0016】
用いられる羽毛として、ホワイトダウン、ホワイトフェザー、グレーダウン、グレーフェザー等の水鳥羽毛が挙げられ、形状及び色調は問わない。予め、異物や汚れ等を洗浄除去した後の羽毛原毛を用いて、前処理及びポリフェノール加工を施す。
【0017】
加水分解ケラチンは、酸、アルカリ又は酵素あるいはこれらを併用してケラチン質原料を部分的に加水分解してペプチド状態にすることによって得られ(例えば、特開2008−280326号公報等に記載の方法によって調製できる)、概して、分子量300〜1000程度のポリペプチド製品として市場に提供されている。つまり、加水分解ケラチンは、低分子量ケラチンと考えることができ、羽毛等のケラチン質への浸透性を有する。本発明において、加水分解ケラチンは、ケラチン質原料から調製しても市販品を利用してもよいが、羽毛洗浄工場から排出される廃羽毛などを用いて調製することができ、このような廃材を利用すると、廃物処理費用の削減及び原料費の削減等に有利である。
【0018】
加水分解ケラチンを調製する場合、ケラチン原料としては、ケラチンを含むタンパク質素材であれば良く、例えば、ヒトの毛髪や、羊、馬、ヤク、牛等の獣毛、鶏やアヒル等の鳥類の羽毛などが挙げられ、また、爪や家畜の角、蹄なども利用できる。更に、これらを用いた加工品、例えば、羽毛布団等の羽毛寝具や衣類、羊毛生地及びこれらの廃材も利用可能である。ケラチン加水分解物の調製方法は、特に限定する必要はなく、公知の方法によって調製することができ、例えば、前述にもあるように、酸、アルカリ、過酸化物等を用いて可溶化する方法、還元条件下でタンパク変性剤又は酵素を用いて分解する方法(例えば、特開2005−247692号公報、特開2006−124341号公報、特開2008−247925号公報、特開平6−116300号公報参照)などがある。更に、加水分解ケラチンの誘導体も使用可能であり、例えば、ケイ素化合物によるシリル化誘導体、第4級アンモニウム塩によるカチオン化誘導体、脂肪酸等によるアシル化誘導体などが挙げられる。
【0019】
水鳥羽毛と羊毛とでは、ケラチン質の構成アミノ酸組成が異なるので、加水分解ケラチンの組成もケラチン原料によって異なる。詳細には、水鳥羽毛由来の加水分解ケラチンは、ポリペプチドを構成するアミノ酸における親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸との割合が1:1.3程度であり、羊毛由来の加水分解ケラチンより疎水アミノ酸の割合が高い。本発明においては、何れの加水分解ケラチンも使用可能であり、適宜ケラチン原料から調製したり市販製品から選択して利用することができるが、羽毛への馴染みの点からは羽毛由来の加水分解ケラチンの方が好ましい。ポリフェノールを好適に羽毛上に固定する上で、ポリペプチドの分子量が300〜1000程度の加水分解ケラチンが好ましい。
【0020】
加水分解ケラチンは、中性域においてアニオン性の水溶性物質であり、加水分解ケラチンの水溶液に羽毛を接触させると、加水分解ケラチンは羽毛のケラチン質に浸透する。従って、前処理では、清浄な羽毛原毛を加水分解ケラチンの水溶液に浸漬して羽毛と加水分解ケラチンとを十分に接触させる。これにより内部に浸透した加水分解ケラチンは、羽毛と親水性物質とを結合する結合剤として作用し得る状態になる。この時に用いる加水分解ケラチン量は、羽毛に対する割合が0.01〜10質量%程度、好ましくは0.5〜3.0質量%となる量に調整するとよく、水溶液の濃度としては0.1〜3g/L程度であることが浸透性などの点から好ましい。又、液の温度は10〜95℃程度、好ましくは35〜80℃程度に加温して、3〜60分程度、好ましくは10分程度保持するとよく、これによって加水分解ケラチンが羽毛内に好適に浸透する。
【0021】
ポリフェノール加工では、ポリフェノールを用いて羽毛に抗菌性を付与する。つまり、加水分解ケラチンが浸透した羽毛をポリフェノールと接触させて、ポリフェノールを加水分解ケラチンを介して羽毛内部及び/又は表面上に固定する。本発明では、茶に含まれる天然抗菌成分であるカテキン等を含む茶ポリフェノールを用いるが、これに限定されるわけではなく、他の天然ポリフェノールも使用でき、適宜単独で又は組み合わせて使用することができる。ポリフェノールは、水性液の状態で羽毛に供給すると良く、羽毛を水性液に浸漬することで、羽毛に浸透した加水分解ケラチンと接触して担持される。前処理で余剰となった加水分解ケラチンによる影響を排除するために、ポリフェノール加工は、前処理において使用した加水分解ケラチン水溶液を羽毛から除去して行うことが好ましく、例えば、前処理後の染浴から加水分解ケラチン水溶液を排出して、ポリフェノールを含む水性液に羽毛を浸漬するか、或いは、前処理後の羽毛を新たな水に浸漬してポリフェノールを添加するとよい。使用するポリフェノールの量は、羽毛に対する割合が0.1〜5質量%程度となるように調整するとよく、水性液の濃度としては0.02〜5g/L程度であることが抗菌性及び清浄度の点から好ましい。ポリフェノール素材は、市場に提供されているポリフェノール製品から適宜選択して利用でき、又、茶葉から抽出した茶飲料等、ポリフェノールを含有する原料から抽出したものを利用してもよい。羽毛は、不純物が絡み込むと除去が容易ではなく、不純物を除去して羽毛の清浄度を上げるために水洗等の処理を大幅に増やす必要が生じるので、加工に使用するポリフェノールは不純物の少ないものが好ましい。この点に関して、テアフラン90S(商品名、株式会社伊藤園製)として提供される茶カテキン製剤は、ポリフェノール濃度が90質量%以上であり、他の市販品に比べて不純物が非常に少ないので、本発明において用いる上で極めて有利である。
【0022】
ポリフェノール加工において、羽毛と接触させたポリフェノール水性液は、pH3〜11程度、好ましくはpH4〜7程度の酸性から中性付近で、35〜95℃程度、好ましくは50〜80℃程度に加温して5〜60分程度保持することが好ましい。これにより、ポリフェノールは、羽毛の微細な凹凸や空隙に浸透した加水分解ケラチンによって羽毛内部や表面に好適に担持される。ポリフェノールはアニオン性水酸基を有するが、羽毛に担持されたポリフェノールの水酸基は、加水分解ケラチンのカチオン性アミノ基と会合した状態にあると考えられる。
【0023】
ポリフェノール加工を経た羽毛は、ポリフェノール水性液を除去し、適宜水洗して余剰のポリフェノールを除去する。
【0024】
加水分解ケラチンは、羽毛のケラチン質に容易に浸透するが、浸透した加水分解ケラチンがケラチン質から脱離するのも容易である。従って、ケラチン質に浸透した加水分解ケラチンは、ポリフェノール加工後の水洗において漏出する可能性がある。この点に関し、加水分解ケラチンのpHによる状態変化は、加水分解ケラチンの脱離を抑制する上で有効に利用できる。詳細には、加水分解ケラチンは、他の蛋白質加水分解物と同様に、構成アミノ酸の官能基に起因してpHによって状態変化を起こし、中性域ではアニオン性の水溶性物質であるが、pH4程度以下の酸性領域では瞬時に凝集して水難溶性に変化し、凝集後に高分子化して分子量が増加する。従って、中性域付近において加水分解ケラチンを浸透させた羽毛を、ポリフェノールに接触させた後にpH3〜4の酸性に調整することによって、加水分解ケラチンが凝集・高分子化して羽毛から脱離し難く定着する。従って、ポリフェノール加工後の羽毛は、定着処理として、水洗する前に一旦pHを酸性に調整すると好ましい。この点に関し、ポリフェノール自体がフェノール基による弱酸性を呈するので、加水分解ケラチンを凝集させ易い。また、加水分解ケラチンにカチオンを吸着させるとケラチンの分子量を増加させることができるので、これを利用して浸透した加水分解ケラチンを脱離し難くしてもよい。
【0025】
工場用水等は水質が変動する場合があるが、上述の操作において使用する水のpH条件が変動すると、加工状態に影響を及ぼす。故に、使用する水のpHは適宜確認し、必要に応じてクエン酸、クエン酸ナトリウム、重曹等を用いて適宜pHを調整することが好ましい。
【0026】
上述のようにして、前処理、ポリフェノール加工及び水洗を行った羽毛は、脱水、乾燥等によって水分を除去すれば、ポリフェノールによる抗菌性が付与された羽毛として提供できる。尚、加水分解ケラチンは、中性域ではアニオン性物質であるので、カチオン性物質と容易に結合する性質がある。従って、ポリフェノール加工前にカチオンと接触すると、ポリフェノール加工が難しくなる。
【0027】
加水分解ケラチンを用いた前処理においては、処理による羽毛の色相変化が少なく、ポリフェノール加工後の羽毛は、水濡れ等によるポリフェノール成分のにじみが少ないので、本発明で得られる抗菌性羽毛は、外観が好適に維持され、清浄度が良好に保たれる。又、ポリフェノールの羽毛への担持が安定しており、洗濯堅牢度も良好である。
【0028】
本発明は、水を弾き易い羽毛に親水性のポリフェノールを好適に担持して、ポリフェノールの機能を羽毛上で長時間持続させることができるので、羽毛を利用した様々な製品に抗菌性、消臭性、抗酸化性などのポリフェノールの機能を付与して高品質の製品を提供することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下の手順に従って、羽毛をポリフェノール又は抗菌剤で処理して加工羽毛を作成し、抗菌性の洗濯堅牢度、ポリフェノールの色変化の有無、及び、清浄度を調べた。結果を表1に示す。
【0030】
(試料1)
予め水洗により汚れ等を除いたホワイトダウン1kgを、染浴中で約20Lの水に浸漬して、十分に水を含浸させた。これに、羽毛由来の加水分解ケラチン粉末(商品名:ケラタイド、東洋羽毛工業株式会社製)10gを加えて40℃で10分間攪拌した。その後、染浴の水を排出し、新たな水を投入して染浴の液量を20Lに調整した。これに、ポリフェノールとして茶カテキン(商品名:テアフラン90S、株式会社伊藤園製)3gを添加し、染浴の水を加熱して60℃まで昇温し、温度を維持して5分間攪拌した後、60分間静置して羽毛をカテキン液に十分に浸漬した。この後、染浴の水を排出して、流水で十分に水洗した後、羽毛を取り出して脱水、乾燥することによりポリフェノール加工羽毛を得た。
【0031】
(試料2)
予め水洗により汚れ等を除いたホワイトダウン1kgを、染浴中で約20Lの水に浸漬して、十分に水を含浸させた。これに、羊毛由来の加水分解ケラチン液剤(商品名:プロモイス、成和化成株式会社製)10gを加えて40℃で10分間攪拌した。その後、染浴の水を排出し、新たな水を投入して染浴の液量を20Lに調整した。これに、ポリフェノールとして茶カテキン(商品名:テアフラン90S、株式会社伊藤園製)3gを添加し、染浴の水を加熱して60℃まで昇温し、温度を維持して5分間攪拌した後、60分間静置して羽毛をカテキン液に十分に浸漬した。この後、染浴の水を排出して、流水で十分に水洗した後、羽毛を取り出して脱水、乾燥することによりポリフェノール加工羽毛を得た。
【0032】
(試料3)
予め水洗により汚れ等を除いたホワイトダウン1kgを、染浴中で約15Lの水に浸漬して、十分に水を含浸させた。これに、カチオン剤(商品名:カチオノンKCN、一方社油脂社製4級アンモニウム塩)100gを加えて10分間攪拌した。更に、水酸化ナトリウム水溶液(濃度約20g/L)を調製して染浴に加えて10分間攪拌した。その後、約3Lの水を加えて染浴の液量を20Lに調整し、染浴の水を加熱して80℃まで昇温し、温度を維持して30分間攪拌しながら羽毛を十分に浸漬した。この後、染浴の水を排出して、流水で十分に水洗して中和しながら洗浄水を排出して、カチオン化羽毛を得た。
【0033】
染浴中のカチオン化羽毛に約15Lの水を投入して浸した。茶カテキン(商品名:テアフラン30F、株式会社伊藤園製)5gを約1Lの水に溶解して染浴に投入し、水を追加して染浴の液量を20Lに調整した。これを加熱して30℃まで昇温し、温度を維持して20分間攪拌しながら羽毛を十分に浸漬した。この後、染浴の液を排出して、流水で羽毛を念入りに水洗し、羽毛を取り出して脱水、乾燥することにより、ポリフェノール加工羽毛を得た。
【0034】
(試料4)
予め水洗により汚れ等を除いたホワイトダウン1kgを、染浴中で約20Lの水に浸漬して、十分に水を含浸させた。これに、金属系抗菌剤として酢酸銅10gを加え、加熱して80℃まで昇温し、温度を維持して5分間攪拌した後、60分間静置しながら羽毛を十分に浸漬した。この後、染浴の水を排出して、流水で十分に水洗し、羽毛を取り出して脱水、乾燥することにより、銅イオン加工羽毛を得た。
【0035】
(試料5)
予め水洗により汚れ等を除いたホワイトダウン1kgを、染浴中で約20Lの水に浸漬して、十分に水を含浸させた。これに、有機系抗菌剤として高分子カチオン剤(商品名:SX−1、高松油脂社製)50gを加え、加熱して80℃まで昇温し、温度を維持して5分間攪拌した後、60分間静置しながら羽毛を十分に浸漬した。この後、染浴の水を排出して、流水で十分に水洗し、羽毛を取り出して脱水、乾燥することにより、有機系抗菌加工羽毛を得た。
【0036】
(抗菌性の洗濯堅牢度)
JIS L0217 103号の規定に従って加工羽毛を3回洗濯し、洗濯前後における加工羽毛の抗菌性(JIS L1902 黄色ブドウ球菌を用いた菌液吸収法における静菌活性値)を測定した。
【0037】
(色相変化)
羽毛の加工前後における色相変化を目視により観察した。羽毛の色相は、原羽毛の白色に近いものが良い。
【0038】
(清浄度)
加工羽毛試料から、3.0±0.1gの試験分を4つ取り分け、各試験分について以下の操作を行った。
【0039】
試験分を共栓付き三角フラスコに入れて蒸留水100mlを加え、羽毛が十分に湿潤するまで攪拌した。更に、蒸留水200mlを加え、攪拌して羽毛を十分に水に浸漬させた後、振とう機を用いて45分間振とうした。この後、フラスコの内容物を濾過器で濾過し、濾過液を得た。
【0040】
上述で得た4つの試験分の濾過液を、2個ずつ纏めて2つの測定液とした。各測定液を、JIS K0102の規定による透視度計の標識板上の透視部に投入し、上部から測定液を透視し、測定液を通して標識板の二重十字模様が認識できるか否かを確認しながら、模様が認識できるまで測定液を排出した。透視部に残っている測定液の深さを透視度計の目盛りによって測定した。2つの測定液について透視度計で測定される深さの数値の平均値(単位:mm)を算出し、加工羽毛の清浄度として表1に示す。
【0041】
(表1)
加工羽毛の抗菌性、色相変化及び清浄度
抗菌性
洗濯前 洗濯後 色相変化 清浄度
原羽毛 0.0 0.0 白色
試料1 >4.1 >4.1 淡ベージュ >500
試料2 1.6 2.0 淡ベージュ >500
試料3 2.9 1.2 茶色 500
試料4 0.6 0.0 青色 >500
試料5 0.0 0.0 白色 >500
【0042】
表1から明らかなように、加水分解ケラチンを用いた前処理の後にポリフェノール加工を施した試料1及び2は、洗濯後にも抗菌性を保持しているが、カチオン処理後にポリフェノール加工を施した試料3は、明らかに抗菌性が低下し、洗濯耐久性に劣ることが解る。金属系抗菌剤または有機系抗菌剤を用いた試料4,5においては、抗菌性が殆ど付与されていない。
【0043】
また、色相変化については、試料1及び2の色相変化は少ないが、試料3,4は明らかに変色している。試料5は、変色が見られないが、抗菌剤での処理が有効でないためと考えられる。
【0044】
このように、加水分解ケラチンを用いた前処理によってポリフェノールが羽毛に良好に固着され、洗濯堅牢性を有する抗菌性を発揮し、色相も安定した清浄度の高い羽毛が得られる。加水分解ケラチンを用いているので、身体や環境に対する安全性も保持している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
人体や環境に安全な素材を用いてポリフェノールの機能を羽毛に付与し、ポリフェノール加工の洗濯堅牢度を改善することができるので、掛け布団、敷き布団、枕、ベッド等の寝具類や、ジャケット、ベスト、パンツ、グローブ、帽子、マフラー、ソックス、ブーツ、スリッパ等の衣類・服飾品、ソファ、クッション、椅子、カーテン等の家具類、膝掛け、バッグ、保温用カバー等の雑貨など、様々な羽毛利用製品に幅広く適用して高品質の製品を提供することができ、ポリフェノールの機能性を利用した製品の用途開発を促進することができる。従って、ポリフェノール加工羽毛製品の普及に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽毛に加水分解ケラチンを接触させる前処理と、前記前処理を施した羽毛にポリフェノールを接触させるポリフェノール加工とを有する抗菌性羽毛の製造方法。
【請求項2】
前記前処理は、加水分解ケラチン水溶液を用意する工程と、加水分解ケラチン水溶液に羽毛を浸漬する工程とを有する請求項1記載の抗菌性羽毛の製造方法。
【請求項3】
前記ポリフェノール加工は、ポリフェノール含有水性液を用意する工程と、ポリフェノール含有水性液に羽毛を浸漬する工程とを有する請求項1又は2に記載の抗菌性羽毛の製造方法。
【請求項4】
前記ポリフェノールは、茶カテキンを含む請求項1〜3の何れかに記載の抗菌性羽毛の製造方法
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の抗菌性羽毛の製造方法によって製造され、羽毛に浸透する加水分解ケラチンと、羽毛内部及び/又は表面上のポリフェノールとを有する抗菌性羽毛。
【請求項6】
羽毛内部に浸透する加水分解ケラチンと、前記加水分解ケラチンにより羽毛内部及び/又は表面に担持されるポリフェノールとを有する抗菌性羽毛。

【公開番号】特開2012−87428(P2012−87428A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233787(P2010−233787)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(000222521)東洋羽毛工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】