説明

抗菌成分の含有量が低減された合成ポリペプチド含有水性化粧品

【課題】他の抗菌成分を実質的に含有しなくとも抗菌性に優れ、長期に亘って安定な水性化粧品を提供する。
【解決手段】本発明の水性化粧品は、抗菌成分を実質的に含有せず、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドを含有する。抗菌成分の割合は、例えば、100ppm以下であってもよい。水性化粧品は、前記合成ポリペプチドが基剤としての水に溶解又は分散した水溶液又は水分散液の形態を有していてもよく、合成ポリペプチドの濃度は0.01〜5重量%程度であってもよい。前記合成ポリペプチドは、分子量分布において1万以上の範囲に分子量のピークを有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を基剤として用い、コラーゲン様成分を含有するにも拘わらず、実質的に抗菌成分を含有しなくても、高い抗菌性を有するとともに、病原体感染の危険性が無く、高い安全性を有する水性化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品は、タンパク質、多糖類などの有機成分を含有するとともに、水溶液又はゲル状の形態だけでなく、クリーム状の化粧品であっても、水分の含有量が多く、容器から手などに取って定期的に繰り返し使用するため、雑菌などの微生物が繁殖し易い。例えば、近年、多くの化粧品に、コラーゲン等の天然由来成分が含まれているが、コラーゲンは、ほ乳動物や魚由来のタンパク質であることから、精製処理を行っても、使用に伴う微生物の混入により、雑菌が繁殖し易い。また、化粧品中で微生物が繁殖すると、化粧品の汚染だけでなく、化粧品が変質又は物理的に劣化したり、腐敗したりする。また、汚染された化粧品の使用により、皮膚が汚染されたり、皮膚障害を起こす場合もある。
【0003】
そのため、一般には、化粧品に、抗菌剤又は防腐剤(例えば、パラベン類、パラオキシ安息香酸エステルなど)、殺菌剤(例えば、フェノキシエタノールなど)などの抗菌成分を添加することにより、雑菌の繁殖を防止し、長期に亘る化粧品の安定性を担保している。また、複数種の微生物に対する抗菌又は殺菌作用を化粧品に付与するため、複数種の抗菌成分を併用したり、これらの抗菌成分の使用量を多くする場合もある。しかし、これらの抗菌成分は、使用者の肌質や使用量の程度、併用する抗菌成分の組合せなどによって、刺激が強かったり、化粧品かぶれなどの皮膚障害を及ぼすことがあり、これらの抗菌成分自体の安全性が疑問視されている。例えば、アトピー性皮膚炎等の症状があるような皮膚の弱い使用者は、皮膚本来のバリア機能が弱いことから、防腐剤等の抗菌成分に過敏に反応してかゆみ等を引き起こす場合がある。このような背景から、近年、抗菌剤又は防腐剤などと称される抗菌成分を含まないか又はその配合量がより少ない化粧品が望まれている。
【0004】
一般に、上記のような抗菌又は防腐剤等を含まない化粧品では、使用期間を短期間にするため、容器のサイズを小さくして使用期限を設けたり、冷蔵庫への保管を推奨したり、化粧品を手に取る際に、直接容器が手に触れないように、容器をスポイト式にしたりしている。しかし、これらの対策では、使用者の使用状況によっては、微生物の混入や繁殖を防ぐことが難しいため、従来の抗菌又は防腐剤以外の抗菌又は防腐効果などを有するアルコール、有機酸塩などを添加することにより、微生物の繁殖を抑制している場合も多い。例えば、特開2003−2810号公報(特許文献1)には、パラベン、有機酸塩、ε−ポリリジン及び/又はその塩を含有する化粧品が、少量のパラベン使用であっても、微生物による腐敗や劣化が起こりにくいことが開示されている。また、特開2000−264830号公報(特許文献2)には、糖類と多価アルコール類とを含有し、使用性、安全性及び防腐性を有する化粧品組成物が開示されている。しかし、アルコールや有機酸塩などはパラベン類などの従来の抗菌又は防腐剤などと比較すると、安全性は比較的高い(低毒性である)ものの、十分な抗菌又は防腐性を付与するには、多量に使用する必要がある。また、多量に使用すると、化粧品中の成分(例えば、コラーゲンなどのタンパク質など)が変性したり、使用者によっては、肌に刺激を感じたり、肌トラブルを起こす場合もある。従って、このような低毒性の抗菌成分を用いても、抗菌又は防腐性(殺菌性)又は化粧品の安定性と、皮膚に対する低刺激性とを両立することは困難である。
【0005】
一方、特開2003−113040号公報(特許文献3)には、アイチュリン系ペプチドを有効成分とする抗菌性化粧料組成物が、化粧品の微生物汚染に対する安定性を高め、ビタミンなどの脂溶性の機能成分の皮膚浸透性を高めることが開示されている。しかし、このような化粧料では、化粧品本来に要求される特性、例えば、保湿性などの特性は、別途保湿剤などの有効成分を添加しなければならない。
【0006】
また、特開2005−60314号公報(特許文献4)には、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドで構成された化粧料が開示され、特開2007−137875号公報(特許文献5)には、上記合成ポリペプチドで構成された多孔状又は非多孔状の水溶性化粧品が開示されている。しかし、特許文献4及び5には、水性化粧品の抗菌性又は防腐性について何ら開示されていない。
【特許文献1】特開2003−2810号公報(請求項1、段落番号[0095])
【特許文献2】特開2000−264830号公報(請求項1、段落番号[0036])
【特許文献3】特開2003−113040号公報(請求項1、段落番号[0124])
【特許文献4】特開2005−60314号公報(請求項1)
【特許文献5】特開2007−137875号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、皮膚障害を起こす虞のある抗菌成分を実質的に含有しなくても、長期に亘り、微生物による汚染が防止され、優れた安定性を有する水性化粧品を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、コラーゲンの優れた特性を有しながらも、病原体の感染や病原因子の伝達を生じる危険性がなく、安全性に優れる水性化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定のアミノ酸配列を有するコラーゲン様の合成ポリペプチドを含有する水性化粧品が、実質的に抗菌成分を含有しなくても高い抗菌又は防腐性を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の水性化粧品は、ポリペプチドを含む化粧品であって、抗菌成分を実質的に含まず、前記ポリペプチドとして、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドを含有する。水性化粧品において、前記抗菌成分の割合は100ppm以下(例えば、10ppm以下)であってもよい。水性化粧品は、前記合成ポリペプチドが基剤としての水に溶解又は分散した水溶液又は水分散液の形態を有していてもよく、合成ポリペプチドの濃度は0.01〜5重量%程度であってもよい。前記水性化粧品は、通常、滅菌処理されている。前記合成ポリペプチドは、分子量分布において1万以上の範囲に分子量のピークを有していてもよい。前記合成ポリペプチドは、下記式(1)〜(3)で表されるユニットで構成されたポリペプチド(I)、及び下記式(4)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットと、下記式(5)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットとを含むポリペプチド(II)から選択された少なくとも一種のポリペプチドであってもよい。
【0011】
[-(OC-(CH)-CO)-(Pro-Y-Gly)-] (1)
[-(OC-(CH)-CO)-(Z)-] (2)
[-HN-R-NH-] (3)
(式中、mは1〜18の整数、p及びqは同一又は異なって0又は1、YはProまたはHypを表し、nは1〜20の整数を表す。Zはアミノ酸残基又は2〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、rは1〜20の整数を表し、Rは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を表す。aとbとの割合(モル比)は、a/b=100/0〜30/70であり、p=1及びq=0であるときc=a、p=0及びq=1であるときc=bであり、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である。)
-Pro-Y-Gly- (4)
(式中、Yは前記に同じ)
-Pro-V-Gly-W-Ala-Gly- (5)
(式中、VはGln、Asn、Leu、Ile、ValまたはAla、WはIleまたはLeuを表す。)
前記合成ポリペプチドは、下記式(1a)で表されるペプチドユニットの繰り返し単位で構成されており、このユニットの割合が、合成ポリペプチド中80重量%以上であり、分子量分布において2×10〜500×10の範囲に分子量のピークを有し、かつ合成ポリペプチドの少なくとも一部が3重らせん構造を形成可能であるポリペプチドであってもよい。
【0012】
-(Pro-Y-Gly)- (1a)
(式中、YはPro又はHypを示し、nは1〜15の整数を表す)
本発明には、水性化粧品に、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドを添加して、水性化粧品における微生物の繁殖を防止(微生物の発育を防止又は阻止)する方法も含まれる。
【0013】
なお、本明細書中、「抗菌成分」とは、抗菌、殺菌、抗真菌及び/又は防腐作用などを有する成分を意味し、従来の抗菌剤、殺菌剤及び防腐剤などの抗菌活性を有する抗菌活性成分の他、抗菌活性を示さず、微生物に対する生育阻害環境を形成する環境阻害成分を含む意味で用いる。また、本明細書中、「抗菌性」とは、微生物(細菌、真菌、酵母など)の発育を阻止又は阻害したり、微生物を死滅させる作用又は効果を意味し、微生物の繁殖を抑制又は防止する作用又は効果も含む意味で使用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性化粧品は、特定のアミノ酸配列を有し、かつコラーゲン様の構造を形成可能な合成ポリペプチドを含有するため、皮膚障害を起こす虞のある抗菌成分の含有量が少ないか又は抗菌成分を実質的に含まなくても、長期に亘り、微生物による汚染が防止され、安定性に優れている。また、前記水性化粧品は、コラーゲンの優れた特性を有しながらも、病原体の感染や病原因子の伝達を生じる危険性がなく、安全性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水性化粧品は、ポリペプチドを含む化粧品であって、抗菌成分を実質的に含まず、前記ポリペプチドとして、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドを含有する。
【0016】
(合成ポリペプチド)
本明細書中、各種アミノ酸残基を次の略号で記述する。
【0017】
Ala :L−アラニン残基
Arg :L−アルギニン残基
Asn :L−アスパラギン残基
Asp :L−アスパラギン酸残基
Cys :L−システイン残基
Gln :L−グルタミン残基
Glu :L−グルタミン酸残基
Gly :グリシン残基
His :L−ヒスチジン残基
Hyp :L−ヒドロキシプロリン残基
Ile :L−イソロイシン残基
Leu :L−ロイシン残基
Lys :L−リジン残基
Met :L−メチオニン残基
Phe :L−フェニルアラニン残基
Pro :L−プロリン残基
Sar :サルコシン残基
Ser :L−セリン残基
Thr :L−トレオニン残基
Trp :L−トリプトファン残基
Tyr :L−チロシン残基
Val :L−バリン残基
また、本明細書においては、常法に従って、N末端のアミノ酸残基を左側に位置させ、C末端のアミノ酸残基を右側に位置させて、ペプチド鎖のアミノ酸配列を記述する。
【0018】
前記合成ポリペプチドは、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有している。このアミノ酸配列は、3重らせん構造の安定性に寄与するため、前記ポリペプチドは、コラーゲン組織(コラーゲン状の組織)又はコラーゲン様の構造を形成する限り種々のポリペプチドが使用できる。このようなポリペプチドには、具体的には、下記式(1)〜(3)で表されるペプチドユニットで構成されたポリペプチド(I)及び下記式(4)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットと、下記式(5)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットとを含むポリペプチド(II)などが含まれる。これらのポリペプチドは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
[-(OC-(CH)-CO)-(Pro-Y-Gly)-] (1)
[-(OC-(CH)-CO)-(Z)-] (2)
[-HN-R-NH-] (3)
-Pro-Y-Gly- (4)
-Pro-V-Gly-W-Ala-Gly- (5)
(式中、mは1〜18の整数、p及びqは同一又は異なって0又は1、YはProまたはHypを表し、nは1〜20の整数を表す。Zはアミノ酸残基又は2〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、rは1〜20の整数を表し、Rは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を表す。aとbとの割合(モル比)はa/b=100/0〜30/70であり、p=1及びq=0であるときc=a、p=0及びq=1であるときc=bであり、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である;
VはGln、Asn、Leu、Ile、ValまたはAla、WはIleまたはLeuを表す。)
前記ポリペプチド(I)は、前記ペプチドユニット(1) を必須ユニットとし、さらにペプチドユニット(1)は、Pro-Y-Glyの繰返し配列を含むことが必要である。なお、3重らせん構造の安定性及び合成の容易性などの点から、繰返し数nは、1〜20、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10(例えば、1〜5)、特に1〜3程度であってもよい。なお、繰り返し数nは、合成ポリペプチド(I)の調製において、原料ペプチドのアミノ酸の繰り返し数に対応する。調製の点からは、nが1〜4(特に1〜3)のペプチドを原料として用いると、液相法によりポリペプチドを合成できるため、工業的に有利である。
【0020】
前記式(1)において、Yは、Pro又はHypいずれであってもよいが、3重らせん構造の安定性からHypであるのがより好ましい。なお、Hypは、通常、4Hyp(例えば、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン)残基である。
【0021】
さらに、メチレン鎖(CH)の繰り返し数を示すmは、通常、1〜18、好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜10(特に2〜6)程度である。また、pは0又は1である。
【0022】
前記ペプチドユニット(2)において、Zはアミノ酸残基、又は2〜10個のアミノ酸残基で構成された任意の配列のペプチド鎖を表す。Zは、特に制限されないが、ポリペプチドの物理的及び生物学的性質の点から、ペプチド鎖Zは、通常、Gly、Sar、Ser、Glu、Asp、Lys、His、Ala、Val、Leu、Arg、Pro、Tyr、Ileから選択されたアミノ酸残基又は2〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖、特に、Gly、Sar、Ser、Glu、Asp、Lys、Arg、Pro、Valから選択されたアミノ酸残基、又は2〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を有している場合が多い。ペプチド鎖Zは、Gly、Sar、Ser、Glu、Asp、Lys、Arg-Gly-Asp、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg、Ile-Lys-Val-Ala-Val、Val-Pro-Gly-Val-Gly、Asp-Gly-Glu-Ala、Gly-Ile-Ala-Gly、His-Ala-Val、Glu-Arg-Leu-Glu、Lys-Asp-Pro-Lys-Arg-Leu、Arg-Ser-Arg-Lysで示される配列を含むのが好ましい。
【0023】
ペプチド鎖Zの繰り返し数を示すrは、合成の容易性及びポリペプチドの物理的又は生物学的性質の点から、通常、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5程度である。
【0024】
式(2)において、メチレン鎖(CH)の繰り返し数を示すmは、前記式(1)と同様に、1〜18、好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜10(特に2〜6)程度である。また、qは0又は1である。
【0025】
なお、前記式において、m、n、及びrは、通常、原料となるアミノ酸又はペプチド中の繰り返し数に対応している。 なお、前記式(1)及び(2)において、p及びqのうち少なくとも一方が1である(すなわち、ジカルボン酸ユニットを含む)とき、ポリペプチドは、前記式(3)で表されるユニット(ジアミンユニット)を含んでいる。このユニット(3)において、Rで表される直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレンなどのC1−18アルキレン基(又はアルキリデン基)が例示できる。前記アルキレン基Rは、直鎖状のメチレン鎖(CH)(式中、sは1〜18の整数を表す)であってもよい。好ましいRは、C2−12アルキレン基(さらに好ましくはC2−10アルキレン基,特にC2−6アルキレン基)である。
【0026】
ペプチドユニット(1)とペプチドユニット(2)との割合(a/b)は、100/0〜30/70(モル比)、好ましくは100/0〜40/60(モル比)、さらに好ましくは100/0〜50/50(モル比)程度である。
【0027】
さらに、ユニット(3)の割合は、前記式(1)のpの値、前記式(2)のqの値に応じて選択でき、p=1及びq=0であるとき、c=aであり、p=0及びq=1であるとき、c=bである。また、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である。
【0028】
すなわち、前記ポリペプチド(I)には、(a)前記式(1)でp=0であるペプチドユニット[-(Pro-Y-Gly)-]の繰り返し単位で構成されたポリペプチド、(b)前記式(1)でp=0であるペプチドユニット[-(Pro-Y-Gly)-]と前記式(2)でq=0であるペプチドユニット[-(Z)-]とをa:bの割合(モル比)で含む繰り返し単位で構成されたポリペプチド、(c)前記式(1)でp=1であるペプチドユニット[-(OC-(CH)-CO)-(Pro-Y-Gly)-]と前記式(3)で表されるユニット[-HN-R-NH-]とを1:1の割合(モル比)で含む繰り返し単位で構成されたポリペプチド、(d)前記式(1)でp=1であるペプチドユニット[-(OC-(CH)-CO)-(Pro-Y-Gly)-]と前記式(2)でq=1であるペプチドユニット[-(OC-(CH)-CO)-(Z)-]と前記式(3)で表されるユニット[-HN-R-NH-]とをa:b:a+bの割合(モル比)で含む繰り返し単位で構成されたポリペプチドが含まれる。
【0029】
一方、前記ポリペプチド(II)は、必須ユニットとして、-Pro-Y-Gly-で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニット(4)を含有する。このユニット(4)は、3重らせん構造の安定性の点から、ポリペプチド中において、-(Pro-Y-Gly)-で表される繰返し構造を形成してもよい。この配列の繰返し数dは、例えば、1〜20、好ましくは2〜15、さらに好ましくは3〜10程度である。なお、この繰り返し数dは、合成ポリペプチド(II)の調製において、原料ペプチドのアミノ酸の繰り返し数に対応する。調製の点からは、dが1〜4(特に1〜3)のペプチドを原料として用いると、液相法によりポリペプチドを合成できるため、工業的に有利である。また、Yは、ProまたはHypのいずれであってもよいが、前記と同様に、3重らせん構造の安定性からHyp[通常、4Hyp(例えば、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン)残基]であるのが好ましい。
【0030】
また、本発明におけるポリペプチド(II)は、-Pro-V-Gly-W-Ala-Gly-で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニット(5)を含有している。
【0031】
Vは、Gln、Asn、Leu、Ile、ValまたはAlaのいずれであってもよいが、Gln、Asn、Leu、Val、Ala、特にGln、Leuがより好ましい。WはIleまたはLeuのいずれでもよいが、Ileがより好ましい。
【0032】
VとWとの組み合わせは、例えば、VがGln、Asn、Leu、Ile、Val及びAlaから選択された一種(例えば、Gln又はLeu)であり、WがIleであるペプチドや、VがGln、Asn、Leu、Ile、Val及びAlaから選択された一種(例えば、Gln又はLeu)であり、WがLeuであるペプチドなどが挙げられる。
【0033】
YとVとWとの組み合わせは、YがHyp、VがGln、Asn、Leu、Ile、Val及びAlaから選択された一種(例えば、Gln又はLeu)、WがIle又はLeuであるペプチドや、YがPro、VがGln、Asn、Leu、Ile、Val及びAlaから選択された一種(例えば、Gln又はLeu)、WがIle又はLeuであるペプチドなどが挙げられる。
【0034】
さらに、ポリペプチドの物理的及び生物学的性質を阻害しない範囲で、ポリペプチド(II)は他のアミノ酸残基やペプチド鎖(ユニット)を含んでいてもよい。他のアミノ酸残基又はペプチド鎖としては、前記ペプチドユニット(2)の-(Z)-で表されるペプチド鎖などが挙げられる。ポリペプチド(II)は、物理的及び生物学的性質の点から、例えば、Gly、Sar、Ser、Glu、Asp、Lys、His、Ala、Val、Leu、Arg、Pro、Tyr、Ileから選択されたアミノ酸残基又は2〜10個のアミノ酸残基から構成されているペプチド鎖、特に、Gly、Sar、Ser、Glu、Asp、Lys、Arg、Pro、Valから選択されたアミノ酸残基又は2〜10個のアミノ酸残基から構成されているペプチド鎖を有している場合が多い。具体的には、例えば、Gly、Sar、Ser、Glu、Asp、Lys、Arg-Gly-Asp、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg、Ile-Lys-Val-Ala-Val、Val-Pro-Gly-Val-Gly、Asp-Gly-Glu-Ala、Gly-Ile-Ala-Gly、His-Ala-Val、Glu-Arg-Leu-Glu、Lys-Asp-Pro-Lys-Arg-Leu、Arg-Ser-Arg-Lysで示されるアミノ酸残基やペプチド鎖を含むのが好ましい。
【0035】
前記ポリペプチド(II)において、前記ペプチドユニット(4)と前記ペプチドユニット(5)との割合(モル比)は、(4)/(5)=99/1〜30/70、好ましくは98/2〜40/60、さらに好ましくは95/5〜50/50程度である。
【0036】
前記ペプチドユニット(4)及び前記ペプチドユニット(5)の合計量と、他のペプチドユニットとの割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜50/50、好ましくは100/0〜60/40、さらに好ましくは100/0〜70/30程度である。
【0037】
合成ポリペプチドのうち、特に、前記式(1)でp=0であるペプチドユニット[-(Pro-Y-Gly)-](1a)の繰り返し単位で構成されたポリペプチド、特に、ペプチドユニット[-(Pro-Hyp-Gly)-](1b)の繰り返し単位で構成されたポリペプチドが好ましい。また、式(1a)及び(1b)における繰り返し単位nが1〜15の整数、好ましくは1〜10の整数であるポリペプチド(例えば、繰り返し数nがこのような範囲のペプチドを原料として用いて得られるポリペプチドなど)が好ましい。なお、前記繰り返し単位の割合は、合成ポリペプチド中50重量%以上(例えば、60〜100重量%程度)、好ましくは70重量%以上(例えば、70〜95重量%程度)、さらに好ましくは80重量%以上(例えば、80〜90重量%程度)である。さらに、これらの合成ポリペプチドのうち、分子量分布において、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による球状蛋白質換算で、5×10〜100×10の範囲に分子量のピークを有し、かつ合成ポリペプチドの少なくとも一部が3重らせん構造を形成可能であるポリペプチドも好ましい。
【0038】
前記合成ポリペプチド(ポリペプチド(I)、(II)など)は、環化により6員環を形成することなく、鎖状のポリペプチドを形成しており、溶媒(水、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの親水性溶媒又はそれらの混合溶媒)に可溶である。前記ポリペプチドは、分子量分布において、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による球状蛋白質換算で、例えば、5000以上(例えば、5×10〜1000×10程度)、好ましくは1万以上(例えば、1×10〜500×10程度)、さらに好ましくは2万以上(例えば、2×10〜500×10程度)の範囲に分子量のピークを示す。また、前記合成ポリペプチドは、上記分子量分布において、5万以上(例えば、5×10〜500×10程度)、好ましくは10万以上(例えば、10×10〜300×10程度)、さらに好ましくは15万以上(例えば、15×10〜100×10程度)の範囲に分子量のピークを有していてもよい。なお、水系GPC測定は、溶離液として、水溶液(例えば、塩化ナトリウムを含有するリン酸塩緩衝液など)を用いて行うことができ、標準物質としては、例えば、アマシャム・バイオサイエンス(株)製(又はGEヘルスケアバイオサイエンス(株)製)のGel Filtration LMW Calibration Kit(リボヌクレアーゼA、キモトリプシノーゲンA、オバルブミン、アルブミンなどを含有)、Gel Filtration HMW Calibration Kit(アルドラーゼ、カタラーゼ、フェリチン、チログロブリンなどを含有)などが使用できる。
【0039】
さらに、これらのポリペプチドは、円二色性スペクトルにおいて、波長220〜230nmに正のコットン効果を示し、波長195〜205nmに負のコットン効果を示す。そのため、ポリペプチドの少なくとも一部(すなわち、一部または全部)が3重らせん構造を形成可能であり、コラーゲン様ポリペプチドを形成する。なお、コットン効果とは、旋光性物質において特定の波長で左右の円偏光に対する吸収係数が異なるために起こる現象をいう。
【0040】
これらのポリペプチドは、コラーゲン組織(コラーゲン状の組織)を形成可能である。上記3重らせん構造を形成したポリペプチド鎖が自己集合して、数nm〜数十nmの原線維を形成し、さらにこれらの原線維が配列して数μm〜数十μmの繊維構造を形成することができる。これらは、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、あるいは原子間力顕微鏡により観察することができる。
【0041】
前記ポリペプチド(I)及び/又は(II)は、生分解性、特に生体内分解性を有していてもよい。例えば、前記ポリペプチド(II)はコラゲナーゼ分解性を有している。
【0042】
合成ポリペプチドは、生理学的又は薬理学的に許容される塩であってもよく、例えば、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸など)、有機酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、オレイン酸、パルミチン酸など)、金属(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムなど)、有機塩基(トリメチルアミン、トリエチルアミン、t−ブチルアミン、ベンジルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、アルギニンなど)との塩であってもよい。これらの塩形成化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの塩は、通常の塩形成反応によって得ることができる。
【0043】
前記合成ポリペプチドは、哺乳動物由来のコラーゲンと異なり、病原体や病原性因子[例えば、病原性に転化したタンパク質(例えば、異常型プリオンなど)など]の感染や伝達の危険性がない。そのため、前記ポリペプチドは、安全性が高く、しかも、高い保湿性及び安定性を有している。特に、ポリペプチドの構造(ペプチド結合や3重らせん構造など)を長期に亘り維持できるとともに、滅菌処理(γ線照射などによる処理など)を施してもポリペプチド構造を維持することができ、安定性に優れている。
【0044】
(ポリペプチドの製造方法)
前記の合成ポリペプチドは、ポリペプチドを構成するアミノ酸やペプチドセグメントを縮合反応に供する慣用の方法により得ることができる。また、最終的に前記ユニットがポリペプチド中に含まれている限り特に制限されず、例えば、アミノ酸を縮合反応する方法や、ペプチドセグメントとアミノ酸を縮合する方法により得てもよいが、予め、前記アミノ酸配列を有するペプチド又はその誘導体などのペプチド成分を調製し、このペプチド成分を縮合する方法により得るのが好ましい。前記ペプチド成分のペプチド鎖の合成は、通常のペプチド合成方法、例えば、固相合成法または液相合成法によって調製できる。ペプチド合成には、慣用の方法、例えば、縮合剤を用いるカップリング方法、活性エステル法(p−ニトロフェニルエステル(ONp)、ペンタフルオロフェニルエステル(Opfp)などのフェニルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(ONSu)などのN−ヒドロキシジカルボン酸イミドエステル、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステル(Obt)など)、混合酸無水物法、アジド法などが利用できる。好ましい方法では、少なくとも縮合剤(好ましくは後述する縮合剤、特に後述する縮合剤と縮合助剤との組合せ)を用いる場合が多い。
【0045】
さらに、ペプチドの合成では、アミノ酸又はペプチドフラグメントの種類に応じて、アミノ基、カルボキシル基、他の官能基(グアニジノ基、イミダゾリル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、ω−カルボキシル基など)の保護基による保護と、接触還元や強酸処理(無水フッ化水素、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸など)による保護基の脱離・除去とが繰り返し行われる。例えば、アミノ基の保護基には、ベンジルオキシカルボニル基(Z)、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基(Z(OMe))、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)、t−ブトキシカルボニル基(Boc)、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル基(Npys)などが利用でき、カルボキシル基の保護基には、ベンジルオキシ基(OBzl),フェナシルオキシ基(OPac)、t−ブトキシ基(OBu)、メトキシ基(OMe)、エトキシ基(OEt)などが利用できる。なお、ペプチド合成には自動合成装置を利用してもよい。ポリペプチド合成の詳細については、特開2005−60314号公報などを参照できる。
【0046】
より詳細には、ポリペプチド(I)は、例えば、少なくとも下記式(1a)で表されるペプチド又はその誘導体(A)を縮合し、ポリペプチドを調製する。
【0047】
X-(Pro-Y-Gly)-OH (1a)
(式中、XはH又はHOOC-(CH)-CO-(mは前記に同じ)を表し、Y及びnは前記に同じ)。
【0048】
前記式(1a)で表されるペプチド又はその誘導体(A)は、下記式(2a)で示されるペプチド又はその誘導体(B)と共縮合させて、ポリペプチドを調製してもよい。
【0049】
X-(Z)-OH (2a)
(式中、XはH又はHOOC-(CH)-CO-(mは前記に同じ)を表し、Z及びrは前記に同じ)。
【0050】
なお、前記X=HOOC-(CH)-CO-に対応する化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC3−20の脂肪族ジカルボン酸又はそれらの酸無水物などが例示できる。これらの化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの化合物も慣用のアミド結合生成法(例えば、後述する第三級アミンなどを触媒とする反応など)反応や前記ペプチド合成法に従って反応させることにより、前記(1a)及び(2a)で示される化合物を得ることができる。
【0051】
ペプチド又はその誘導体(A)とペプチド又その誘導体(B)との使用割合は、例えば、前者(A)/後者(B)=100/0〜30/70(モル%)、好ましくは100/0〜40/60(モル%)、さらに好ましくは100/0〜50/50(モル%)程度である。
【0052】
さらに、前記式(1a)及び/又は式(2a)においてXがHである場合には必要ではないが、XがHOOC-(CH)-CO-(mは前記に同じ)であるとき、前記ペプチド又はその誘導体(A)及び/又はペプチド又はその誘導体(B)は、アミド基を形成するため、下記式(3a)で表される化合物(C)との共縮合反応に供される。
【0053】
HN-R-NH (3a)
(式中、Rは前記に同じ)。
【0054】
前記式(3a)で表される化合物としては、前記式(3)に対応するジアミン類、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC1−18アルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミン類などが例示できる。これらの化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0055】
前記ジアミン化合物(C)の使用量は、例えば、前記ペプチド又はその誘導体(A)(B)のうち一方のペプチド又はその誘導体がX=HOOC-(CH)-CO-(mは前記に同じ)を有する場合、このような基を有するペプチド又はその誘導体1モルに対して、前記ジアミン化合物(C)の使用量は、実質的に1モル(例えば、0.95〜1.05モル程度)用いる必要がある。
【0056】
ポリペプチド(II)の調製において、前記アミノ酸配列を有するペプチドを少なくとも含むペプチド成分を反応させる方法には、(a)式(4)及び(5)で表される双方のアミノ酸配列を有するペプチド(すなわち、式(4)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットと、式(5)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットとの双方のユニットを有するペプチド)を少なくとも含むペプチド成分を縮合する方法と、(b)式(4)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドと、式(5)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドとを少なくとも含むペプチド成分を縮合する方法とが含まれる。
【0057】
方法(a)及び(b)において、式(1)及び(2)で表される双方のアミノ酸配列を有するペプチドは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、この方法において、ペプチド成分としては、前記ペプチドに加え、目的のポリペプチドに応じて他のペプチド(例えば、アミノ酸配列(1)及び/又はアミノ酸配列(2)を有するペプチド、前記他のアミノ酸残基やペプチド鎖を含むペプチドなど)を用いてもよい。
【0058】
ペプチド成分の縮合反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒は、上記ペプチド成分を溶解又は懸濁(一部または全部を溶解)可能であればよく、通常、水及び/又は有機溶剤が使用できる。溶媒としては、例えば、水、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホロアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、窒素含有環状化合物(N−メチルピロリドン、ピリジンなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなど)、及びこれらの混合溶媒が例示できる。これらの溶媒のうち、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが繁用される。
【0059】
これらのペプチド成分の反応は、通常、少なくとも脱水剤(脱水縮合剤)又は縮合剤の存在下で行うことができ、脱水縮合剤と縮合助剤との存在下で反応させると、二量化や環化を抑制しつつ、円滑にポリペプチドを生成できる。
【0060】
脱水縮合剤は、前記溶媒中で脱水縮合を効率よく行える限り特に制限されず、例えば、カルボジイミド系縮合剤[ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC=WSCI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など]、フルオロホスフェート系縮合剤[O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N′,N′−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(BOP)など]、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)などが例示できる。これらの脱水縮合剤は単独で又は二種以上組み合わせて混合物として使用できる。好ましい脱水縮合剤は、カルボジイミド系縮合剤[例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩]である。
【0061】
縮合助剤は、上記縮合剤の反応を促進する限り特に制限されず、例えば、N−ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類[例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド(HONSu)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HONB)などのN−ヒドロキシジカルボン酸イミド類]、N−ヒドロキシトリアゾール類[例えば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)などのN−ヒドロキシベンゾトリアゾール類]、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOObt)などのトリアジン類、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステルなどが例示できる。これらの縮合助剤も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい縮合助剤は、N−ヒドロキシジカルボン酸イミド類[HONSuなど]、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はN−ヒドロキシベンゾトリアジン類[HOBtなど]である。
【0062】
前記脱水縮合剤と縮合助剤とは適当に組み合わせて使用できる。前記脱水縮合剤と縮合助剤との組合せとしては、例えば、DCC-HONSu(HOBt又はHOObt)、WSCI-HONSu(HOBt又はHOObt)などが例示できる。
【0063】
脱水縮合剤の使用量は、前記ペプチド成分(前記ジアミン化合物も含む)の総量1モルに対して、通常、水を含まない非水系溶媒を用いる場合0.7〜5モル、好ましくは0.8〜2.5モル、さらに好ましくは0.9〜2.3モル(例えば1〜2モル)程度である。水を含む溶媒(水系溶媒)においては、水による脱水縮合剤の失活があるので、脱水縮合剤の使用量は、前記ペプチド成分の総量1モルに対して、通常、2〜500モル(例えば、2〜50モル)、好ましくは3〜250モル(例えば、5〜25モル)、さらに好ましくは4〜125モル(例えば、10〜20モル)程度である。縮合助剤の使用量は、溶媒の種類に関係なく、前記ペプチド成分の総量1モルに対して、例えば、0.05〜5モル(例えば、0.5〜5モル)、好ましくは0.1〜2モル(例えば、0.7〜2モル)、さらに好ましくは0.12〜1.5モル(例えば、0.8〜1.5モル)程度であり、特に0.15〜1モル(例えば、0.17〜0.5モル)程度であってもよい。
【0064】
前記縮合反応において、反応系のpHを調節してもよく、反応に関与しない塩基を添加してもよい。pHの調節は、通常、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、有機塩基、無機酸(塩酸など)や有機酸を用いて行うことができ、通常、反応溶液が中性付近(pH=6〜8程度)にpH調整される。前記反応に関与しない塩基としては、第三級アミン類、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミン類、N−メチルモルホリン、ピリジンなどの複素環式第三級アミン類などが例示できる。このような塩基の使用量は、通常、ペプチドの総モル数の1〜2倍程度の範囲から選択できる。
【0065】
(水性化粧品)
本発明の水性化粧品の形態は、主たる基剤(又は担体)として水を含有する化粧品であれば、特に制限されず、ゲル状水性化粧品、乳液状水性化粧品、クリーム状水性化粧品などであってもよいが、通常、合成ポリペプチドが基剤としての水に溶解又は分散した水溶液又は水分散液の形態(液状水性化粧品(化粧水))である。
【0066】
水性化粧品における合成ポリペプチドの濃度は、特に制限されず、例えば、0.01〜10重量%程度の範囲から選択できるが、通常、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%程度であってもよい。
【0067】
水性化粧品は、水以外の基剤を含有しなくてもよいが、化粧品の形態に応じて、必要により、水以外の基剤を含有してもよい。このような基剤としては、例えば、動植物系油性基剤(ホホバ油、オリーブ油、やし油、つばき油、マカデミアンナッツ油、ひまし油、スクアランなど)、鉱物系油性基剤(流動パラフィン、ポリブテン、シリコーン油など)、合成系油性基剤(合成エステル油、合成ポリエーテル油など)、水溶性有機溶媒[低級脂肪族アルコール(エタノール、イソプロパノールなど);アルキレングリコール類(エチレングリコール、ポリエチレングリコールなど);グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール類;乳酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウムなどのカルボン酸類など]などの液状基剤;脂肪酸エステル、高級アルコール、高級脂肪酸、ゲル基剤(ガム類、アルギン酸などの多糖類、ローヤルゼリーなどのタンパク質などの粘液質など)などの固形又は半固形基剤などが挙げられる。これらの基剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの基剤の割合は、水100重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部程度であってもよい。
【0068】
本発明の水性化粧品は高い抗菌性を有している。そのため、他の抗菌成分の割合が少なく、例えば、100ppm以下(例えば、0〜100ppm程度)、好ましくは50ppm以下(例えば、0〜50ppm程度)、さらに好ましくは10ppm以下(例えば、0〜10ppm程度)、特に0〜5ppm(例えば、0.01〜3ppm)程度であっても、化粧品の抗菌性を維持でき、長期に亘り化粧品の安定性を維持できる。すなわち、本発明の化粧品は、コラーゲン様のポリペプチドという微生物が繁殖し易いと考えられる成分を含有し、しかも水性化粧品という微生物が極めて繁殖し易い形態であるにも拘わらず、コラーゲン様のポリペプチドを含有するため、他の抗菌成分を実質的に含有しなくても抗菌性に優れている。また、他の抗菌成分を含有する場合であっても、その使用量を大幅に低減できるため、抗菌性を維持しつつも、肌に対する刺激を低減でき、使用感にも優れている。
【0069】
上記のような抗菌成分としては、例えば、フェノール系化合物(フェノール、クロルクレゾール、クロルキシレノール、プロピルメチルフェノール、レゾルシン、オルトフェニルフェノール、パラオキシ安息香酸エステル、チモール、クレゾール、パラクロルフェノールなど)、有機酸類[有機酸、有機酸エステル又はこれらの塩、例えば、芳香族カルボン酸類{安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(パラベン)、サリチル酸、サリチル酸ナトリウムなど}、脂肪族カルボン酸類{クエン酸塩、リンゴ酸塩などの脂肪族オキシ酸塩;デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ウンデシレン酸モノエタノールアミドなど)、ハロゲン化物[ハロカルバニリド類(トリクロロカルバニリド、トリフルオロメチルジクロルカルバニリドなど)、クロルヘキシジン類(塩酸クロルヘキシジン、グルクロン酸クロルヘキシジンなど)、トリクロルヒドロキシジフェニルエーテル、トリクロサン等)、第四級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ジステアリルメチルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化アルキルイソキノリリニウム、臭化ドミファンなど)、両性界面活性剤(塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルアミノエチルグリシン、ラウロイルザルコシンナトリウムなど)、陽イオン性界面活性剤(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)、イソチアゾリノン類(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどの他、特開2006−273719号公報に記載のイソチアゾリノン化合物など)、アミンオキシド類(ジメチルラウリルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドなど)、アポラクトフェリン、抗菌又は殺菌性塩基性タンパク質又はペプチド(アイチュリン系ペプチド、サーファクチン系ペプチド、プロタミン又はその塩(硫酸プロタミンなど)など)、ポリリジン類(ε−ポリリジン又はその塩(無機酸又は有機酸などとの塩など)など)、抗菌性金属化合物(銀イオン、銅イオンなどを生成可能な金属化合物など)、抗菌性酵素(プロテアーゼ、リパーゼ、オキシドレダクターゼ、カルボヒドラーゼ、トランスフェラーゼ、フィターゼなど)、感光素、チラム、クロラミンT、ヒノキチオール、ジャーマル、グライダント、ダウィシルなどの抗菌活性成分;アルコール類(エタノール、クロロブタノール、フェノキシエタノールなどの置換基を有していてもよいアルカノール;エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、グリセリンモノエチルエーテルなどの脂肪族ポリオール又はそのエーテルなど)、糖類(グルコース、マルチトール、キシリトールなどの糖アルコール類など)などの生育阻害環境を形成する成分などが挙げられる。なお、これらの抗菌成分の中でも、パラオキシ安息香酸エステルやフェノキシエタノールは、特に化粧品用防腐剤として汎用されている。
【0070】
本発明の水性化粧品は、前記合成ポリペプチドと基剤として水とを含んでいればよく、他の成分を含有しなくてもよいが、必要により、化粧品用途において使用される慣用の成分、例えば、有効成分及び/又は添加剤などを含有してもよい。
【0071】
前記有効成分としては、保湿剤[ピロリドンカルボン酸ナトリウム;アミノ酸類(セリン、グリシン、スレオニン、アラニンなど);多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コンドロイチンヘパリンなど);タンパク質(ビトロネクチン、フィブロネクチン、ケラチン、エラスチン、ローヤルゼリー、セリシンなど)など]、収れん剤(クエン酸、乳酸、酒石酸などのオキシ酸又はこれらの塩など;塩化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;硫酸亜鉛、スルホフェノキソ亜鉛などの亜鉛化合物;プロアントシアニジン類;ハマメリス、白樺などのタンニン含有植物抽出物;ガイヨウエキス、ダイオウエキス、スギナエキスなど)、エモリエント剤(トリグリセリド油、スクワラン、エステル油などの油性成分を、モノグリセリドなどの非イオン乳化剤などにより乳化した乳化物など)、皮膚軟化剤(サリチル酸又はその誘導体、乳酸、尿素など)、抗酸化剤(トコフェロール又はその誘導体;アントシアニンなどのポリフェノール類など)、紫外線吸収剤や紫外線を散乱する無機顔料、美白剤(アスコルビン酸又はその誘導体、システイン、プラセンタエキス、アルブチン、コウジ酸、ルシノール、エラグ酸、カミツレ抽出物など)、制汗剤(アルミニウム化合物、亜鉛化合物、タンニンなどの収れん剤など)、肌荒れ防止剤(グリチルリチン酸塩、ビタミン類など)、抗炎症剤(アラントイン、グアイアズレン、グリチルリチン酸又はその塩、グリチルレチン酸又はその塩、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、イブプロフェン、インドメタシン、酸化亜鉛、或いはこれらの誘導体;アルニカ抽出物などの植物抽出物など)、補酵素(コエンザイムQ10など)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなど)、アミノ酸(トリプトファン、システインなど)、細胞賦活剤(リボフラビン、ピリドキシン、ニコチン酸、パントテン酸、α−トコフェロール、又はこれらの誘導体;ユキノシタエキスなどの植物抽出物など)、しみそばかす用化粧品の有効成分(チロシナーゼ活性阻害剤、メラニン還元剤など)、ニキビ用化粧品の有効成分(硫黄などの角質軟化剤、消炎剤、副腎皮質ホルモン、皮脂分泌抑制剤など)などが挙げられる。前記他の有効成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。他の有効成分の割合は、合成ポリペプチド100重量部に対して、固形分換算で、0.01〜30重量部、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
【0072】
前記添加剤としては、界面活性剤(陰イオン性、非イオン性界面活性剤など)、無機塩類(硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムなど)、着色剤、繊維(ナイロン繊維などの合成繊維、天然繊維など)、研磨剤(リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、無水ケイ酸など)、発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、粘結剤(前記例示の粘液質、例えば、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナンなど)、不透明化剤、香料(合成香料、精油、精油成分など)、植物抽出物、pH調整剤(炭酸水素ナトリウムなどの塩基;リン酸一水素ナトリウムなどの酸;ホウ砂など)、キレート剤、金属イオン封鎖剤、固化剤、可溶化剤、可塑剤、ゲル化剤(有機変性ベントナイトなど)、増粘剤、有機溶剤、還元剤(チオグリコール酸又はその塩、システインなど)、塩基性剤、酸化剤、清涼剤(メントールなど)などが挙げられる。前記添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記添加剤の割合は、合成ポリペプチド100重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部、0.1〜2重量部程度であってもよい。
【0073】
なお、前記他の基剤、有効成分及び添加剤は、塩の形態で用いてもよい。このような塩としては、生理的又は薬学上許容できる塩が好ましく、例えば、有機酸塩(例えば、酢酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩などのカルボン酸塩;メタンスルホン酸塩などの有機スルホン酸塩など)、無機酸塩(例えば、塩酸塩など)、有機塩基との塩(例えば、トリメチルアミン塩、エタノールアミン塩などの第三級アミンとの塩など)、無機塩基との塩(例えば、アンモニウム塩;ナトリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩など)が挙げられる。なお、他の基剤、有効成分、及び添加剤は、前記ポリペプチドの特性を損なわない限り、ポリペプチドに対して相互作用性を有していてもよいが、通常、相互作用性(反応性、分解性など)を有しない。
【0074】
(水性化粧品の製造方法)
本発明の水性化粧品は、少なくとも前記合成ポリペプチドと、基剤としての水と、必要により他の成分(他の基剤、有効成分、添加剤など)を混合することにより製造できる。好ましくは、前記水性化粧品は、前記合成ポリペプチドを、基剤としての水に溶解又は分散させることにより製造できる。なお、水性化粧品中の合成ポリペプチドの濃度調整は、合成ポリペプチドの製造に伴って得られる反応混合物を限外ろ過に供することにより行ってもよい。限外ろ過による濃度調整の詳細については、例えば、特開2007−137875号公報などを参照できる。
【0075】
水性化粧品は、抗菌性を維持するため、滅菌処理してもよい。滅菌処理は、慣用の滅菌処理方法(加熱処理(高温滅菌処理、低温滅菌処理など)、γ線照射など)により行うことができる。好ましい滅菌処理方法は、低温滅菌処理又はγ線照射処理などである。例えば、低温滅菌(又は殺菌)処理では、50〜80℃(好ましくは55〜70℃)程度の温度で、10〜120分、好ましくは15〜60分、さらに好ましくは20〜40分程度処理してもよい。合成ポリペプチドは、比較的高温でも変質しないため、有効に滅菌処理することができる。
【0076】
また、本発明では、水性化粧品に、少なくとも前記合成ポリペプチドを添加することにより、水性化粧品における微生物の繁殖又は発育を防止又は阻止することができ、このような方法も本発明に含まれる。合成ポリペプチドを添加する水性化粧品の形態は、前記例示の形態から適宜選択できる。水性化粧品は、必要により、水以外の基剤(前記例示の基剤など)、有効成分(前記例示の有効成分など)、添加剤(前記例示の添加剤など)などを含有していてもよい。なお、水性化粧品は、他の抗菌成分(前記例示の抗菌成分など)を含有してもよいが、通常、他の抗菌剤の割合が極微量又は他の抗菌剤を実質的に含有しなくても前記合成ポリペプチドを添加することにより、有効に、抗菌性を付与することができる。水性化粧品中の他の抗菌剤の割合は、前記例示の範囲から選択できる。
【0077】
また、合成ポリペプチドの添加量は、得られる水性化粧品中の合成ポリペプチドの濃度が、例えば、0.01〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%(例えば、0.05〜3重量%)、さらに好ましくは0.1〜2重量%程度となるように調整してもよい。
【0078】
水性化粧品の外皮への適用方法は、特に制限されず、化粧品の形態に応じて適宜外皮に適用できる。例えば、液状の水性化粧品は、直接外皮に適用してもよく、マスク(不織布などで形成されたマスク)に含浸させて外皮に適用してもよく、マスクを外皮に接触させた状態で、水性化粧品を滴下又はスプレーなどにより適用してもよい。また、液状の水性化粧品は、固形状の化粧品(化粧水に溶解させて使用する用途の固形状化粧品、例えば、カプセル状、スポンジ状、フィルム状などの形態の化粧品)を溶解又は混合(若しくは稀釈)して、得られる混合物を外皮に適用する用途などにも適している。
【0079】
また、本発明の水性化粧品の用途は、特に制限されず、美白用化粧品、保湿用化粧品、エージングケア用化粧品、日焼けケア用化粧品、アクネ用化粧品、アストリンゼント化粧品などの種々の化粧品に利用できる。
【0080】
水性化粧品の適用回数は、用途などに応じて、適宜選択でき、例えば、1日あたり1〜5回、好ましくは1〜3回程度、所定部位に適用できる。なお、水性化粧品は、水性化粧品に含まれる他の成分(有効成分、他の基剤、添加剤など)の種類に応じて、外皮に適用後、必要に応じて、水や湯などにより洗い落としてもよく、洗い流すことなく使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の水性化粧品は、抗菌性及びコラーゲン様の特性に優れるため、顔だけでなく、手足、背中、バスト、首などの体全体の外皮に適用するに有用である。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0083】
実施例1
(1)合成ポリペプチドの製造
式:Pro-Hyp-Glyで示されるペプチド(チッソ(株)製)60gを1.2Lのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し、室温で攪拌した。得られた混合液に5.68gの1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(縮合助剤)を加え、溶解又は懸濁させ、さらに攪拌しながら4℃まで冷却した。得られた混合物に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)201.6gを加え、4℃にて2時間攪拌し、次いで20℃にて46時間攪拌した。
【0084】
得られた反応液の一部を採取して、水で60倍に希釈し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GEヘルスケアバイオサイエンス(株)製、AKTA Explorer システム、カラム:Superdex 200HR 10/30、流速:0.5mL/min、溶離液:150mMのNaClを含む10mM phosphate buffer(pH 7.4))に供したところ、分子量が25万以上にポリペプチドのピークが認められた。分子量はGEヘルスケアバイオサイエンス(株)製のGel Filtration LMW Calibration Kit 及びGel Filtration HMW Calibration Kitを標準物質として使用し、算出した。
【0085】
上記反応液をミキサー(BRAUN製、ブラウンマルチクイック5550CA)で粉砕し、粉砕物を水で6〜8倍に希釈して攪拌し、限外ろ過膜(旭化成ケミカルズ(株)製、マイクローザラボモジュールAHP1010、膜サイズ:分画分子量5万)を用いて、限外ろ過に供した。1回のろ過で、3〜4Lの不純物を含むろ液を排出させ、目的ポリペプチドを含む溶液に水を加えて希釈し、さらに限外ろ過を行った。この操作を10〜12回繰り返し、合計約40Lをろ液として分離させ、残液をポリペプチド濃度が約1重量%強になるまで濃縮し、ポリペプチド水溶液を得た。このポリペプチド水溶液の濃度を、実施例1と同様に算出し、この算出結果に基づいて、ポリペプチド濃度が1重量%の水溶液(以下、単に、「人工コラーゲン1%水溶液」と称する場合がある)を調製した。なお、水溶液の比重は、水と同じであるとして計算した。人工コラーゲン1%水溶液の一部を採取してポリペプチドの円二色性スペクトルを測定したところ、225nmに正のコットン効果、198nmに負のコットン効果が観測され、3重らせん構造を形成していることが確認された。
【0086】
(2)水性化粧品の調製
上記(1)の工程で得られた人工コラーゲン1%水溶液30重量部を滅菌水70重量部で稀釈し、密閉可能な容器(滅菌済)に充填して、60℃で30分間低温殺菌することにより、容器に充填された水性化粧品(以下、人工コラーゲン0.3%水溶液と称する場合がある)を調製した。
【0087】
試験例1(一般生菌数試験)
実施例1の(2)の工程で得られた人工コラーゲン0.3%水溶液を、インキュベーター中(35℃)で保存して1ヵ月毎に生菌数試験を行い、6ヶ月間の生菌数追跡試験を行った。
【0088】
より詳細には、インキュベーター中で保存した人工コラーゲン0.3%水溶液の容器を一ヶ月毎に1つ取り出し、人工コラーゲン0.3%水溶液を1mL採取して、一般生菌数検査シート(チッソ(株)製)上に滴下し、35℃にて48時間培養後、シート上の生菌数を測定した。なお、人工コラーゲン0.3%水溶液は、生菌数試験を行うまでは、容器を開封することなく保存した。その結果、一般生菌数は、1ヵ月〜6ヵ月まで全てにおいて0個であり、未開封の状態において、一般生菌の繁殖は全く見られなかった。
【0089】
試験例2
実施例1の工程(2)で得られた人工コラーゲン0.3%水溶液を、常温保存し、手を、抗菌性ハンドソープを用いて洗浄後、5秒間、容器のフタを開ける開封試験を1日2回実施し、1、2、4、8、16及び32日後に、一般細菌数、カビ数及び酵母数の試験を行った。
【0090】
なお、一般細菌数は、SCDLP寒天平板培養法(SCDLP培地:日本製薬(株)製)により、30℃にて72時間培養し、試料中の生菌数を測定することにより、試料1g中の一般細菌数として算出した。また、カビ及び酵母数の測定は、GPLP寒天平板培養法(GPLP寒天培地:日本製薬(株)製)により、25℃にて7日間培養し、試料中の生菌数を測定し、試料0.1g中の個数を算出することにより行った。なお、一般細菌の検出限界は100である。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1からも明らかなように、実施例の水性化粧品は、開封条件下であっても、一般細菌、カビ及び酵母のいずれも検出限界以下であり、微生物の繁殖が見られず、抗菌性に優れている。
【0093】
試験例3(消長試験)
実施例1の工程(2)で得られた人工コラーゲン0.3%水溶液を、下記分離菌A〜Eを用いて消長試験の評価を行った。
【0094】
(1)試験菌
分離菌A:大腸菌(Eschericia coli NBRC 3972)
分離菌B:緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275)
分離菌C:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC 13276)
分離菌D:カンジダ(Candida albicans NBRC 1594)
分離菌E:クロコウジカビ(Aspergillus niger NBRC 9455)
(2)試験
人工コラーゲン0.3%水溶液(検体)20mLを滅菌した合成樹脂製容器に入れ、この検体に、上記の各試験菌を含む試験菌液をそれぞれ0.1mL添加、混合した。得られた試料を25℃±1℃で保存し、1、4、7、14、21、27及び28日間後に、下記の消長試験測定に供した。
【0095】
前記試料のうち、分離菌A〜Cを用いた試料については、SCDLPA培地(SCDLP寒天培地:日本製薬(株)製)を用い32.5℃±1℃で、また、分離菌D及びEを用いた試料については、GPLPA培地(GPLP寒天培地:日本製薬(株)製)を用い22.5℃±1℃で、それぞれ混釈平板培養法により5日間培養し、生残菌数を、試料1mL中の個数として測定した。
【0096】
なお、分離菌A〜Cを用いた上記の菌液は、試験菌をSCDA培地(SCD寒天培地:栄研化学(株)製)で32.5℃±1℃にて、18〜24時間培養した後、菌体を生理食塩水に懸濁させ、1mL当たりの菌数が約10となるように調製した。また、分離菌D及びEを用いた上記の菌液は、試験菌をPDA培地(ポテトデキストロース寒天培地:栄研化学(株)製)で、22.5℃±1℃にて、7日間培養した後、形成された胞子を生理食塩水(0.05重量%ポリソルベート80含有)に懸濁させ、1mL当たりの胞子数が約10となるように調製した。
【0097】
結果を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
表2の結果から明らかなように、実施例の水性化粧品は、上記の分離菌のいずれに対しても高い抗菌性を有しており、繁殖を顕著に抑制できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドを含む化粧品であって、実質的に抗菌成分を含まず、前記ポリペプチドとして、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドを含有する水性化粧品。
【請求項2】
抗菌成分の割合が100ppm以下である請求項1記載の水性化粧品。
【請求項3】
抗菌成分の割合が10ppm以下である請求項1又は2記載の水性化粧品。
【請求項4】
基剤としての水に合成ポリペプチドが溶解又は分散した水溶液又は水分散液の形態を有しており、合成ポリペプチドの濃度が0.01〜5重量%である請求項1〜3のいずれかの項に記載の水性化粧品。
【請求項5】
滅菌処理されている請求項1〜4のいずれかの項に記載の水性化粧品。
【請求項6】
合成ポリペプチドが、分子量分布において1万以上の範囲に分子量のピークを有する請求項1〜5のいずれかの項に記載の水性化粧品。
【請求項7】
合成ポリペプチドが、下記式(1)〜(3)で表されるユニットで構成されたポリペプチド(I)、及び下記式(4)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットと、下記式(5)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドユニットとを含むポリペプチド(II)から選択された少なくとも一種のポリペプチドである請求項1〜6のいずれかの項に記載の水性化粧品。
[-(OC-(CH)-CO)-(Pro-Y-Gly)-] (1)
[-(OC-(CH)-CO)-(Z)-] (2)
[-HN-R-NH-] (3)
(式中、mは1〜18の整数、p及びqは同一又は異なって0又は1、YはProまたはHypを表し、nは1〜20の整数を表す。Zはアミノ酸残基又は2〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、rは1〜20の整数を表し、Rは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を表す。aとbとの割合(モル比)は、a/b=100/0〜30/70であり、p=1及びq=0であるときc=a、p=0及びq=1であるときc=bであり、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である。)
-Pro-Y-Gly- (4)
(式中、Yは前記に同じ)
-Pro-V-Gly-W-Ala-Gly- (5)
(式中、VはGln、Asn、Leu、Ile、ValまたはAla、WはIleまたはLeuを表す。)
【請求項8】
合成ポリペプチドが、下記式で表されるペプチドユニット
-(Pro-Y-Gly)- (1a)
(式中、YはPro又はHypを示し、nは1〜15の整数を表す)
の繰り返し単位で構成されており、このユニットの割合が、合成ポリペプチド中80重量%以上であり、分子量分布において2×10〜500×10の範囲に分子量のピークを有し、かつ合成ポリペプチドの少なくとも一部が3重らせん構造を形成可能である請求項1〜7のいずれかの項に記載の水性化粧品。
【請求項9】
水性化粧品に、少なくとも式Pro-Y-Gly(式中、YはPro又はHypを示す)で表されるアミノ酸配列を有し、コラーゲン様の構造を形成する合成ポリペプチドを添加して、水性化粧品における微生物の繁殖を抑制する方法。

【公開番号】特開2009−132654(P2009−132654A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310966(P2007−310966)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(505389444)株式会社PHG (6)
【Fターム(参考)】