説明

抗蟻性材料の製造方法及び抗蟻性溶液の製造方法

【課題】環境に対する負荷を軽減するとともに、安定して材料を供給することができる抗蟻性材料の製造方法及び抗蟻性溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】天然に豊富に存在する季節変動の少ない竹材に対して加圧熱水処理を行うことにより抗蟻性物質が生成され、この抗蟻性物質を含む竹材を粉末状にして建材に配合又は塗布するか、もしくは抗蟻性物質を含む竹材にアセトンを混合し、抗議性物質を抽出した後に濃縮して建材に配合又は塗布することにより、シロアリがほぼ全滅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロアリ対策として建築物に使用する建材に好適な抗蟻性材料の製造方法及び抗蟻性溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロアリによる家屋などの建築物の被害は、特に、温帯地域、亜熱帯地域、熱帯地域等に属する各国で発生しており、その被害は甚大である。シロアリによる被害を受けると、耐震力が低下するため、家屋等の建築物が地震の発生により倒壊する恐れがある。そこで、シロアリによる被害を防止するために、木材に有機材料などの農薬を配合させたり塗布したりすることが一般に行われている。
【0003】
ところが最近は、環境に対する規制が厳しくなっているため、有害物質を含む農薬を用いることは好ましくない。そこで、環境に対する負荷を軽減するために、ホウ素化合物など、新規の薬剤の開発が行われている。例えば、特許文献1には、人体や環境への悪影響がなく、さらには一定期間が経過した後に速やかに分解して消失するフラボノイド誘導体を含有する昆虫忌避材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−60304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の昆虫忌避材料は、アカマツ、クロマツ、カラマツ等のマツ科の木材を原料としている。そのため、原料として使用するために伐採を行うと、本来の樹高に成長するまで長い年月を要するため、使用可能な量に限界がある。また、マツ科の樹木は季節変動が非常に大きいため、木材を採取した季節によって木材に含まれる物質の量が異なることがあり、安定した性能を得ることができない。
【0006】
本発明は前述の問題点に鑑み、環境に対する負荷を軽減するとともに、安定して材料を供給することができる抗蟻性材料の製造方法及び抗蟻性溶液の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の抗蟻性材料の製造方法は、竹材を加圧熱水処理して抗蟻性物質を含有する竹材を生成する工程を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の抗蟻性溶液の製造方法は、竹材を加圧熱水処理して抗蟻性物質を含有する竹材を生成する工程と、前記抗蟻性物質を含有する竹材とアセトンとを混合する工程と、アセトンを用いて、前記加圧熱水処理後の竹材から前記抗蟻性物質を抽出してアセトン抽出液を生成する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境に対する負荷を軽減するとともに、安定して抗蟻性材料及び抗蟻性溶液を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】固体、液体、気体の3相における温度と圧力との関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例における加圧熱水処理の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施例における加圧熱水処理の温度及び圧力の測定値を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、加圧熱水処理後における死虫率の測定結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、抽出液における死虫率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、豊富に賦存しているが、未利用資源として放置されている竹資源に着目し、竹材を加圧熱水処理することにより抗蟻性物質が得られることを見いだした。
【0012】
竹は、未利用バイオマスの1つとして、有効活用することが各地で検討されている資源である。竹は、他の樹木に比べて短期間で再生が可能な資源であり、3〜5年の周期で成長を繰り返すことが知られている。そのため、4年周期で竹材を収穫すると、日本国内で年間65万トン〜210万トンのモウソウチク(孟宗竹)を持続的に収穫することができる。また、他の樹木に比べて季節変動が少ないため、製造工場へ安定して供給することも可能である。
【0013】
このような竹材に加圧熱水処理を行うと、竹材に含まれるリグニン及びヘミセルロースが分解し、フェノール類やアルデヒド類、フルフラール類などが生成される。そして、これらの一部、あるいはこれらが総合的に作用してシロアリを駆除する機能を有する。
【0014】
図1は、固体、液体、気体の3相における温度と圧力との関係を示す図である。加圧熱水とは、100℃以上の液体状態の熱水であり、図1に示すように、常圧よりも高い圧力にすることにより加圧熱水を生成することができる。水は温度が上昇するとイオン積が上昇するため、酸などの触媒がなくても加水分解が可能となる。
【0015】
なお、加圧熱水の温度が100℃未満であると、イオン積が十分に大きくなく、さらにはリグニンが安定して存在するため、酸などの触媒を用いずに加水分解を行うことができない。また、温度が200℃を超えると、臨界点により近づくため加水分解が過剰に起こり、シロアリの駆除に必要な抗蟻性物質までもが分解されてしまう。したがって、竹材を浸す条件としては、加圧熱水の温度が100℃〜200℃であることが望ましく、120℃〜180℃であることがより望ましい。
【0016】
一方、圧力については、液体状態を維持するために、ゲージ圧が0.2MPa〜1.0MPaであることが望ましい。なお、ゲージ圧が0.2MPa未満になると、加圧熱水が気化するため、温度を120℃に維持することができない。また、圧力が1MPaを超えると、温度が180℃を超えて上昇してしまい、前述のように加水分解が過剰に起こってしまう。
【0017】
以上のような手順によって加圧熱水処理が施された竹材は、抗蟻性物質を含有しており、この竹材を建材に配合したり塗布したりすることにより、シロアリによる被害を防止することができる。
【0018】
なお、抗蟻性物質がより濃縮された液体を用いる場合には、加圧熱水処理が施された竹材を粉末状にしてアセトンを混合して粉末を分離し、残りの溶液を濃縮した溶液を用いてもよい。アセトンは、加圧熱水処理が施された竹材から抗蟻性物質を抽出することができ、所定の時間放置することにより、アセトンに抗蟻性物質が浸透する。なお、抗蟻性物質を十分に抽出するためには、放置する時間は、少なくとも6時間であることが望ましく、24時間以上であることがより望ましい。
【0019】
なお、アセトンを混合して粉末を分離した後に、濃縮を行わなくてもよいが、塗布処理などの作業性を考慮すると、濃縮することが望ましい。一方、濃縮しないで建材に塗布等を行う場合には、作業過程において自然と濃縮するように工夫することが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例について説明する。
試料として3年成長したモウソウチクを用い、図2に示すように、オートクレーブ20により圧力を1.0MPa、温度を180℃の条件で30分間、加圧熱水処理を行った。このとき、試料が熱水に完全に浸った状態で処理を行い、図3に示すように、40分かけて条件となる温度及び圧力まで上昇させた。
【0021】
次に、加圧熱水処理を行ったモウソウチクを粉末状にした後、3g採取してシャーレに蒸留水を3〜7ml加えて混合し、イエシロアリの職蟻30頭と兵蟻3頭とをシャーレに入れ、28℃の恒温容器の中で2週間飼育した。
【0022】
また、比較例として、加圧熱水処理を行っていないモウソウチク、スギの木材についても同様に3g採取してシャーレに蒸留水を3ml〜7ml加えて混合し、イエシロアリの職蟻30頭と兵蟻3頭とをシャーレに入れ、28℃の恒温容器の中で2週間飼育した。
【0023】
以上の3種類の試料において死虫数を24時間毎に測定し、3回測定した。図4は、本実施例において、加圧熱水処理後の死虫率の測定結果を示す図である。
図4に示すように、加圧熱水処理を行っていないスギの木材については、シロアリの死虫率が約2.0%しか得られなかった。また、加圧熱水処理を行っていないモウソウチクについても、約40%の死虫率しか得られなかった。なお、図4には示していないが、加圧熱水処理を行ったスギの木材についても15.2%の死虫率しか得られなかった。
【0024】
次に、加圧熱水処理を行ったモウソウチクを粉末状にし、粉末10gをアセトン100mlの中に入れ、24時間室温にて放置した。そして、粉末と抽出液とに濾別した。また、アセトンの代わりにn−ヘキサンを用いて、同様の手順で粉末と抽出液とに濾別した。そして、濾別した粉末を風乾させて、アセトン抽出試料及びn−ヘキサン抽出試料を作製した。
【0025】
アセトン抽出試料及びn−ヘキサン抽出試料についても同様に、3gを採取してシャーレに蒸留水を3ml〜7ml加えて混合し、イエシロアリの職蟻30頭と兵蟻3頭とをシャーレに入れ、28℃の恒温容器の中で2週間飼育した。
【0026】
図4に示すように、アセトン抽出処理を行うと、死虫率が大きく低下しており、n−ヘキサン抽出処理を行った場合も、死虫率が低下していることがわかる。このことから、アセトン処理もしくはn−ヘキサン処理によって抗蟻性物質がモウソウチクから抽出されたことがわかる。
【0027】
以上の結果に基づいて、次に、アセトン抽出液を10倍に濃縮して、シャーレに入れたろ紙にアセトン抽出液を1ml滴下し、常温で風乾させて、蒸留水を3ml加えた試料を作製した。また、比較例として、n−ヘキサン抽出液についても同様に、10倍に濃縮して、シャーレに入れたろ紙にn−ヘキサン抽出液を1ml滴下し、常温で風乾させて、蒸留水を3ml加えた試料を作製した。そして、それぞれの試料に職蟻30頭及び兵蟻3頭を強制的に接触させる実験を行った。
【0028】
また、抽出効果を比較するため、蒸留水のみを3ml滴下したろ紙も用意し、同様に職蟻30頭及び兵蟻3頭を強制的に接触させる実験を行った。なお、いずれの試料においても繰り返し数を3とした。
【0029】
図5は、本実施例において、抽出液における死虫率の測定結果を示す図である。
図5に示すように、蒸留水のみにおいては、死虫率が約5%しかないのに対し、10倍に濃縮したアセトン抽出液においては、死虫率が100%であった。一方、10倍に濃縮したn−ヘキサン抽出液においては、死虫率が15〜20%であった。このことから、アセトン処理を行うと、抗蟻性物質がモウソウチクからアセトン中に浸透していることがわかる。また、図4及び図5に示した結果から、n−ヘキサン処理よりもアセトン処理のほうが、抗蟻性物質がより浸透しやすいことがわかる。なお、図5には示していないが、濃縮を行っていないアセトン抽出液についても同様の試験を行ったところ、死虫率が平均で20.2%であったが、作業過程において自然と濃縮させれば、死虫率は上昇するものと思われる。
【0030】
以上のように本実施例によれば、加圧熱水処理を行ったモウソウチクを粉体状で用いた場合、及びアセトンにより抽出された溶液を用いた場合は、シロアリの死虫率がほぼ100%となる。これにより、建材に配合、塗布又は注入することによって、シロアリ対策として抗蟻性を有する建材を提供することができる。また、天然に豊富に存在する季節変動の少ない竹材を用いているので、材料を安定して供給することができる。さらに、加圧熱水処理を行うことにより、抗蟻性物質を生成する際に酸などの触媒が不要となるので、排水処理を行う手間をなくすことができる。
【符号の説明】
【0031】
20 オートクレーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹材を加圧熱水処理して抗蟻性物質を含有する竹材を生成する工程を備えたことを特徴とする抗蟻性材料の製造方法。
【請求項2】
前記加圧熱水処理の温度は、100℃〜180℃であることを特徴とする請求項1に記載の抗蟻性材料の製造方法。
【請求項3】
竹材を加圧熱水処理して抗蟻性物質を含有する竹材を生成する工程と、
前記抗蟻性物質を含有する竹材とアセトンとを混合する工程と、
アセトンを用いて、前記加圧熱水処理後の竹材から前記抗蟻性物質を抽出してアセトン抽出液を生成する工程とを備えたことを特徴とする抗蟻性溶液の製造方法。
【請求項4】
前記加圧熱水処理の温度は、100℃〜180℃であることを特徴とする請求項3に記載の抗蟻性溶液の製造方法。
【請求項5】
前記アセトン抽出液を濃縮する工程をさらに備えたことを特徴とする請求項3又は4に記載の抗蟻性溶液の製造方法。
【請求項6】
前記アセトン抽出液を生成する工程は、前記加圧熱水処理後の竹材とアセトンとを混合し、6時間以上放置した後に、前記竹材を分離する工程を備えたことを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の抗蟻性溶液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208976(P2010−208976A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55548(P2009−55548)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】