説明

抗酸化抗菌性繊維

【課題】肌着、靴下、シャツ、パンツなどの繊維製品に使用しうる、柔軟な風合いを有し洗濯耐久性に優れた織編物を得るのに好適な抗酸化抗菌性繊維を提供することを技術的な課題とする。
【解決手段】脱アセチル化度が60%以上であるキトサン繊維にポリフェノールが付着してなる抗酸化抗菌性繊維。本発明の抗酸化抗菌性繊維においては、キトサン繊維が有する反応性の高いアミノ基と、ポリフェノールが有する水酸基とが強固に結合しているため、抗酸化性や抗菌性だけでなく洗濯耐久性にも優れている。また、当該抗酸化抗菌性繊維を用いた織編物は、柔軟な風合いを有しており、肌着、靴下、シャツ、パンツなどに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌着、靴下、シャツ、パンツなどの繊維製品に使用しうる、柔軟な風合いを有し洗濯耐久性に優れた織編物を得るのに好適な抗酸化抗菌性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向が高まり肌に刺激性の少ない衣料が望まれ、特に肌の弱い幼児やアレルギー体質者には、強く要望されてきた。この要望に対し、従来からスキンケアや抗酸化機能を目的として抗酸化剤や抗菌剤などを含ませた繊維製品が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、抗酸化能を具備した植物組織の粉砕物又は抽出物が含まれている微小粒状再生キトサンをセルロース再生繊維中に分散含有させた、抗酸化能及び抗菌性能を具備した改質セルロース再生繊維が開示されている。
【0004】
特許文献2には、繊維表面の一部に抗酸化剤としてトコフェロール同属体を特定質量付着させた繊維が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、抗酸化剤と蛋白質とのコンプレックスにより抗酸化剤を安定化させた後、このコンプレックスで繊維製品を処理した抗酸化性繊維材料が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、木綿、麻、絹などにカテキン類やその属性体といった抗酸化剤たるポリフェノールを付着させた繊維製品が開示されている。
【特許文献1】特開平11−1820号公報
【特許文献2】特開2000−110067号公報
【特許文献3】特開平10−331070号公報
【特許文献4】特開平9−316786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された再生繊維は、抗酸化剤の大部分を自身の繊維中に内包しているため、抗酸化性及び抗菌性が乏しくなる傾向にある。
【0008】
また、特許文献2に開示された繊維は、主に紙オムツ、生理用ナプキン、使い捨て肌着又はウェットティッシュなどの使い捨て繊維製品に供されるものであるため、洗濯耐久性が乏しくなる傾向にある。
【0009】
特許文献3に開示された抗酸化性繊維材料は、食品包装材料の分野で優れた機能を発揮しうるものの、衣料分野には不向きな傾向にある。
【0010】
さらに、特許文献4に開示された繊維製品は、抗酸化性に優れているものの、製造工程が複雑でコスト面で不利となる傾向にある。
【0011】
本発明は、肌着、靴下、シャツ、パンツなどの繊維製品に使用しうる、柔軟な風合いを有し洗濯耐久性に優れた織編物を得るのに好適な抗酸化抗菌性繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題を解決するものであって、脱アセチル化度が60%以上であるキトサン繊維にポリフェノールが付着してなることを特徴とする抗酸化抗菌性繊維を要旨とするものである。そして、本発明においては、前記ポリフェノールの付着量がキトサン繊維質量に対し0.1〜20質量%であることが好ましい態様として含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗酸化抗菌性繊維においては、キトサン繊維が有する反応性の高いアミノ基と、ポリフェノールが有する水酸基とが強固に結合しているため、抗酸化性や抗菌性だけでなく洗濯耐久性にも優れている。また、当該抗酸化抗菌性繊維を用いた織編物は、柔軟な風合いを有しており、肌着、靴下、シャツ、パンツなどに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の抗酸化抗菌性繊維は、キトサン繊維にポリフェノールが付着してなるものである。
【0016】
本発明に用いるキトサン繊維としては、カニやエビなどの甲殻類をはじめ、カブト虫やバッタなどの昆虫類の外殻成分として自然界に多量に存在しているキチンの、脱アセチル化物たるキトサンを繊維化したものなどがあげられる。キトサンは、セルロースと類似の化学構造を有しているが、セルロースと相違する点として、グルコース残基の2位の炭素と結合している水酸基がアミノ基となっている。
【0017】
キチンを脱アセチル化させてキトサンを得る方法としては、例えばキチンを濃水酸化ナトリウム水溶液で脱アセチル化するなどの公知の方法が採用できる。
【0018】
また、キトサンの分子量としては、300〜100000が好ましい。
【0019】
そして、キトサンは、分子内に反応性に富むアミノ基を有しており、このアミノ基とポリフェノールとが化学結合することにより、繊維に優れた抗酸化性や抗菌性が付与される。したがって、本発明では、脱アセチル化度として60%以上であることが必要である。脱アセチル化度が60%未満になると、ポリフェノールと結合するためのアミノ基が少なくなり、良好な抗酸化性、抗菌性が発揮できなくなる。
【0020】
ここで、脱アセチル化度は、以下に示す方法で測定することができる。すなわち、試料約2gを2N−塩酸水溶液200ml中に投入し、室温で30分間攪拌する。次に、ガラスフィルターで濾過して塩酸水溶液を除去した後、200mlのメタノール中に投入して30分間攪拌する。このものを、さらにガラスフィルターで濾過し、フレッシュなメタノール200ml中に投入し30分間攪拌する。このメタノールによる洗浄操作を4回繰り返したのち、風乾及び真空乾燥したもの約0.2gを精秤し、100ml容の三角フラスコに取り、イオン交換水40mlを加えて30分間攪拌する。そして、この溶液を0.1N−苛性ソーダ水溶液で中和滴定する。このとき、フェノールフタレインを指示薬として用いる。脱アセチル化度(A)は次式によって求められる。
【0021】
【数1】

【0022】
ただし、aは試料の質量(g)、fは 0.1N−苛性ソーダ水溶液の力価、bは0.1N−苛性ソーダ水溶液の滴定量(ml)である。
【0023】
かかるキトサン繊維を得る方法としては、特に限定されるものでないが、従来公知の方法が採用できる。例えば、キチンを高濃度の水酸化ナトリウム溶液で脱アセチル化して得たキトサンを酢酸水溶液に溶解して紡糸原液とし、アルコールと水の混合溶媒中に紡出し繊維化する湿式方法、あるいは脱アセチル化したキトサンを酢酸水溶液と尿素の混合溶液に溶解して紡糸原液とし、塩基性水溶液とアルコールの混合溶液中に紡出し繊維化する湿式方法などがあげられる。
【0024】
キトサン繊維の単糸繊度としては、特に限定されないが、0.9〜20.0dtexが好ましい。また、キトサン繊維の形態としては、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。
【0025】
一方、本発明に用いるポリフェノールとしては、同一分子内に複数のフェノール性水酸基を有する抗酸化物質があげられる。具体的には、カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノンなどのフラボノイド系ポリフェノール、又は没食子酸、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリンなどがあげられる。本発明においては、上記のポリフェノールを1種又は複数同時に使用する。
【0026】
ポリフェノールの付着量としては、キトサン繊維質量に対し0.1〜20質量%であることが好ましい。付着量が0.1質量%未満であると、抗酸化性が低減する傾向にあり、一方、20質量%を超えると、抗酸化性の向上がこれ以上見込め難いばかりかコスト高をも招く傾向にあり、好ましくない。
【0027】
本発明の抗酸化抗菌性繊維は、上記のキトサン繊維にポリフェノールを付着させることにより得ることができる。この場合、キトサン繊維を使用して、紡績糸、加工糸などの糸状物、又は織物、編物、不織布などの面状物に一旦加工し、しかる後にポリフェノールを付着させてもよい。上記糸状物、面状物には、綿、麻、竹、羊毛、絹などの天然繊維、レーヨン、キュプラ、溶剤紡糸セルロース繊維など再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維を含ませてもよい。このときキトサン繊維の含有率としては、1質量%以上が好ましい。
【0028】
本発明の抗酸化抗菌性繊維を得るための具体的手段としては、ポリフェノールを溶解又は分散させた浴に温度10〜130℃、時間5〜60分間キトサン繊維を浸漬させることにより、ポリフェノールをキトサン繊維へ付着させることができる。ポリフェノールをキトサン繊維へ付着させるための装置としては、装置へ投入する繊維構造物の形態によって異なるのが一般的である。例えば、繊維状の場合はバラ毛染め機などが、糸状の場合はチーズ染色機、カセ染め機などが、面状の場合は液流染色機、ウインス染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機などが使用しうる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこの範囲に限定されるものでない。なお、実施例、比較例にかかる織編物の抗酸化性及び抗菌性の評価は下記の方法による。
【0030】
1.抗酸化性
抗酸化性の評価として、XYZ活性酸素消去発光試験を採用した。この試験は、過酸化水素(X)、抗酸化物質(Y)及びメディエーター(Z)が共存する系において観察される発光現象を画像として検出する方法である。Xとして0.6%過酸化水素を、Yとして飽和没食子酸/10%アセトアルデヒドを、Zとして飽和炭酸水素カリウム/10%アセトアルデヒドを使用する。測定布として0.3gを混合させ、発光検出器で600秒間測定した。抗酸化性としてはX、Z、Eの検出量が高いほど優れる。
【0031】
2.抗菌性
抗菌性の評価として、JIS L1092に規定する抗菌性試験方法によって求められる静菌活性値が2.2以上の場合に抗菌性有りと評価した。なお、使用菌株として黄色ブドウ状球菌ATCC6538Pを使用した。
【0032】
(実施例1)
脱アセチル化度が80%で単糸繊度が2.2dtexであり、平均繊維長が40mmであるキトサン繊維と、単糸繊度が3.8dtexであり、平均繊維長が40mmである綿繊維とを質量比30:70で混合し、通常の綿紡績手段により英式綿番手30番手の混紡糸を得た。
【0033】
そして、この混紡糸を用いて、30インチ、28ゲージの丸編機により天竺組織の丸編地を得た。
【0034】
次に、この丸編地を精練、漂白、シルケットし、さらに蛍光増白処理することで白色化させた。そして、ポリフェノールとして没食子酸を2%omf用い、ウインス染色機にて浴比1:30、温度40℃、加工時間30分間の条件で丸編地を付帯加工し、その後乾燥して本発明の抗酸化抗菌性繊維を含む丸編地を得た。
【0035】
得られた丸編地において、キトサン繊維のみ茶色に着色されていることから、没食子酸はキトサン繊維にのみに付着していることが確認できた。また、得られた丸編地は優れた抗酸化性、抗菌性を有し、インナー用途に好適であった。
【0036】
(比較例1)
キトサン繊維に替えて綿繊維(単糸繊度2.2dtex、平均繊維長40mm)を用いる以外は、実施例1と同様にして丸編地を得た。得られた丸編地には着色が認められず、没食子酸の綿繊維への付着が確認できなかった。
【0037】
(比較例2)
ポリフェノールを用いた付帯加工を省く以外は、同様にして丸編地を得た。
【0038】
(実施例2)
脱アセチル化度が90%で単糸繊度が2.2dtexであり、平均繊維長が40mmであるキトサン繊維と、単糸繊度が3.8dtexであり、平均繊維長が40mmである綿繊維とを質量比10:90で混合し、通常の綿紡績手段により英式綿番手30番手の混紡糸を得た。
【0039】
そして、この混紡糸を用い、エアージェット織機により経糸密度110本/2.54cm、緯糸密度60本/2.54cmの平組織織物を得た。
【0040】
次に、この織物を精練、漂白、シルケットし、さらに液流染色機を用いて下記処方にて95℃で15分間染色した。
【0041】
〈処方〉
Sumilight Blue BRR(住化ケムテックス(株)製、直接染料) 0.004%omf
芒硝 15g/L
浴比 1:30
【0042】
そして、ポリフェノールとしてエピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートが質量比10:15:5:5の割合で配合されたカテキン混合物を2%omf用い、液流染色機にて浴比1:30、温度40℃、時間30分の条件で織物を付帯加工し、その後乾燥して本発明の抗酸化抗菌性繊維を含む織物を得た。
【0043】
得られた織物において、キトサン繊維のみ茶色に着色されていることから、カテキン混合物はキトサン繊維にのみに付着していることが確認できた。具体的には、織物が混紡糸からなるものであるため、織物表面においてカテキン混合物が付着しているキトサン繊維(すなわち、本発明の抗酸化抗菌性繊維)の配置が杢状に観察された。得られた織物は優れた抗酸化性、抗菌性を有し、シャツ用途に好適であった。
【0044】
(比較例3)
キトサン繊維に替えて綿繊維(単糸繊度2.2dtex、平均繊維長40mm)を用いる以外は、実施例2と同様にして織物を得た。得られた織物には着色が認められず、カテキン混合物の綿繊維への付着が確認できなかった。
【0045】
(実施例3)
脱アセチル化度が70%で単糸繊度が2.2dtexであり、平均繊維長が40mmであるキトサン繊維と、単糸繊度が3.8dtexであり、平均繊維長が40mmである綿繊維とを質量比50:50で混合し、通常の綿紡績手段により英式綿番手40番手の混紡糸を得た。
【0046】
そして、この混紡糸をチーズ形状のパッケージとして巻き返し、パッケージを精練、漂白、シルケットし、さらに蛍光増白処理することで白色化させた。
【0047】
次に、ポリフェノールとして柿しぶポリフェノールを2%omf用い、チーズ染色機にて上記パッケージを付帯加工し、その後乾燥して本発明の抗酸化抗菌性繊維を得た。
【0048】
この抗酸化抗菌性繊維を用いて靴下編機によりスポーツソックスを作製したところ、抗酸化性、抗菌性及び着衣快適性が確認できた。
【0049】
(比較例4)
キトサン繊維に替えて綿繊維(単糸繊度2.2dtex、平均繊維長40mm)を用いる以外は、実施例3と同様にして混紡糸を得た。さらにこの混紡糸を用いて実施例3と同様の手段でスポーツソックスを得た。
【0050】
以上の実施例及び比較例で得られた織編物の抗酸化性、抗菌性についての測定結果を表1に示す。なお、同測定は、未洗濯の状態と、JIS L0217 103法に基づく洗濯を10回行った後の状態とで測定した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、実施例1〜3にかかる織編物は、抗酸化性及び抗菌性共に優れているのに対し、比較例1〜3にかかる織編物は、抗酸化性及び抗菌性共に劣っていることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱アセチル化度が60%以上であるキトサン繊維にポリフェノールが付着してなることを特徴とする抗酸化抗菌性繊維。
【請求項2】
前記ポリフェノールの付着量がキトサン繊維質量に対し0.1〜20質量%であることを特徴とする請求項1記載の抗酸化抗菌性繊維。