説明

抗ADDL抗体及びその使用

本発明にはアミロイドβ由来の拡散性リガンド(ADDL)に結合する抗体が含まれている。ADDLには、アミロイドβタンパク質が凝集して形成された、特定の細胞プロセスを活性化できる可溶性で球状の非フィブリルオリゴマー構造体が含まれている。また本発明には、ADDL特異的抗体を使用してADDLの生成、存在、受容体タンパク質との結合及び細胞活性を検定する方法とかような抗体を使用してADDLの生成又は活性をブロックする化合物を検出する方法、並びにこのような化合物を同定する方法も含まれている。本発明はさらに、とりわけ学習及び/又は記憶の障害を治療する際に、ADDL特異的抗体を使用してADDLの生成及び/又は活性を調節する方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、1999年8月4日付けで出願された米国特許願第09/369,236号の一部継続出願である。その米国特許願第09/369/236号は、1997年2月5日付けで出願され、現在、米国特許第6,218,506号になっている米国特許願第08/796,089号の一部継続出願である。米国特許願第09/369,236号は、1998年8月4日付けで出願された米国特許願第60/095,264号の優先権を主張するものである。本願に引用されているすべての特許、特許願及びすべての科学文献と技術文献は、矛盾しないように本願に援用するものである。
【0002】
米国連邦政府が支援する研究開発に関する陳述
本発明は、米国保険社会福祉省及び米国国立衛生研究所(NIH)の援助でなされた。したがって、米国政府は本発明に特定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
発明の技術分野
本発明は、薬物、分子生物学、細胞生物学及び生化学の技術分野に関する。具体的に述べると、本発明は、変性疾患、特にアルツハイマー病などの神経変性疾患の診断、予防及び治療に関する。さらに具体的に述べると、本発明は、アミロイドベータ(β)由来拡散性リガンド(ADDL)に結合する抗体すなわち抗ADDL抗体に関する。
【0004】
関連技術の説明
本願は、1998年5月22日付けで出願された米国特許願第60/086,582号;1998年2月5日付けで出願され1998年8月6日付けで国際特許願公開第WO98/33815号として公開された国際特許願第PCT/US98/02496号;及び2000年8月4日付けで出願され2001年2月15日付けで国際特許願公開第WO01/10900号として公開された国際特許願第PCT/US00/21458号に関連している。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は高齢の個体の痴呆の最も一般的な原因である。有効な治療法は存在しないが、研究が有意に進展した結果、この疾患の原因は、Aβ1-42すなわち長い形態のアミロイドベータペプチドのレベル増大であるという統一見解になっている。Aβ1-42のレベルがこのように増大するとどんな方式で確実にこの疾患になるのか正確には解明されていないが、最も頻繁に引用され長年続いている解釈は、アミロイドフィブリルの沈着及びその言われている毒性活性を含むアミロイドカスケードの仮説である(Hardy,J.A.& Higgins,G.A.(1992) Science, vol. 256, pp. 184 -185;Small,D.H.(1998) Amyloid,vol.5,pp.301-304;Golde,T.E.(2000)Biochim.Biophys.Acta,vol.1502,pp.172-187)。他の公開された研究は、CNSの炎症、酸化的損傷及び細胞骨格の異常を含む複数の要因が関連していると主張しているが(McGeer,P.L.&McGeer,E.G,(1999)J.Leukoc.Biol.,vol.65,pp.409-415;Mandelkow,E.M.&Mandelkow,E.(1998)Trends Cell Biol.,vol.8,pp.425-427;Spillantini,M.G.& Goedert,M.(1998) Trends Neurosci.,vol.21,pp.428-433;Smith,M.A.et al.(1995) Trends Neurosci.,vol.18,pp.172-176)、これらの現象はAβ1-42のレベルの増大が原因であり、それら自体、アルツハイマー病の根本原因ではないといわれている。
【0006】
1-42は、広く発表されている膜前駆体タンパク質が分解されて生成する42アミノ酸の両親媒性ペプチドである(Selkoe,D.J.(1994) Annu.Rev.Neurosci.,vol.17,pp.489-517)。アミロイドペプチドは、モノマーとしては毒作用を全く示さず、いくつかの研究では、神経栄養作用があると報告されている。
【0007】
1-42のモノマーは集合して少なくとも三種の神経毒性種すなわちフィブリルアミロイド(Pike,C.J.et al.(1993) J.Neurosci.,vol.13,pp.1676-1687;Lorenzo,A.&Yanker,B.A.(1994) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.91,pp.12243-12247)、プロトフィブリ(Hartley,D.M.et al.(1999) J.Neurosci.,vol.19,pp.8876-8884;Walsh,D.M.et al.(1999) J.Biol.Chem.,vol.274,pp.25945-25952)及びAβ1-42由来の拡散性リガンド(ADDL)(Lambert,M.P. et al.(1998) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol,95,pp.6448−6453)になる。フィブリルアミロイドは不溶性であり、フィブリルアミロイドの沈着物はチオフラビンSなどの染料で染色すると複屈折を示すのでADやトランスジェニックマウスで容易に検出される。フィブリルアミロイドは、アルツハイマー病の脳の老人斑の主なタンパク質成分である。Aβの1-40、1-42、1-43、25-35及び1-2を含む各種の長さのAβペプチドは生体外で集合してフィブリルになる。これらフィブリルはすべて、生体外でニューロンに対し毒性でありかつ広い範囲の細胞プロセスを活性化すると報告されている。数百の研究がAβフィブリルに神経毒性があると述べているが、多数の研究が試験結果の再現性が低くかつ毒性が非常に変わりやすいと述べている。この変わりやすいことは、一部、出発固体ペプチドのバッチごとの差が原因であったが、これらの差は、そのペプチドの化学構造又は化学組成より種々の物理的状態又は凝集状態に関連している。プロトフィブリルは、フルサイズのアミロイドフィブリルに至る途中の中間体として最初に同定された大きくてしかも可溶性の準安定状態の構造体である(Walsh,D.M.et al.(1997) J.Biol.Chem.,vol.272,pp.22364-22372)。
【0008】
ADDLは小さい可溶性のAβ1-42オリゴマーで構成され、大部分がトリマーとテトラマーであるがより高次の種も含有している(Lambert,M.P.et al.(1998) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.95,pp.6448-6453; Chromy,B.A. et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,p.1284)。集合したAβ1-42の3種の形態はすべて、染料MTTを還元する反応を迅速に阻害し(Shearman,M.S. et al.(1994) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.91,pp.1470-1474;Walsh D.M.et al.(1999) J.Bio.Chem.,Vol.274,pp.25945-25952;Oda,T.et al.(1995) Exp.Neurol.,vol.136,pp.22-31)、これは恐らく小胞の細胞内での輸送が阻害されたためと考えられ(Liu,Y.& Schubert,D.(1997) J.Neurochem.,vol,69,pp.2285-2293)、そしてこれら集合体は結局ニューロンを殺す(Longo,V.D.et al.(2000)J.Neurochem.,vol. 75, pp. 1977-1985;Loo,D.T.et al.(1993) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.90,pp.7951-7955;Hartley,D.M.et al.(1999) J.Neurosci.,vol.19,pp.8876-8884)。これら3種の形態はすべて非常に速い電気生理学的作用も示す。アミロイドとプロトフィブリルは、膜の脱分極、活動電位及びEPSPの増大を誘発する神経膜の特性を広範囲にわたって破壊し(Hartley,D.M.et al.(1999) J. Neurosci.,vol,19,pp.8876-8884)、一方ADDLは長期増強(LTP)を選択的にブロックする(Lambert,M.P.et al.(1998) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.95,pp.6448-6453;Wang,H.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,pp.1787;Wang et al.(2002) Brain Research,924,133-140)。またADDLは、神経毒性の選択性を示し、脳スライスの培養物の海馬を殺すが小脳のニューロンは殺さない(Kim,H.J.(2000) Doctoral Thesis,Northwestern University,pp.1-169)。フィブリルアミロイドと病勢悪化の関連が薄いと考えれば(Terry,R.D.et al.編集「Alzheimer's Disease」 pp.187-206,Lippincott Williams & Wilkins中のTerry,R.D.(1999)の論文)、フィブリルアミロイドの沈着物は、ADに最も関連があるAβ1-42の毒性形態ではないであろう。Aβの非フィブリル集合体はADの脳内に存在し(Kuo,Y.M.et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.271,pp.4077-4081;Roher,A.E.et al.(1996) J.Biol.,vol.271,pp.20631-20635;Enya,M. et al.(1999) Am.J.Pathol.,vol.154,pp.271-279;Funato,H.et al.(1999) Am. J. Pathol., vol.155,pp.13-28;Pitschke,M.et al.(1998) Nature Med.,vol.4,pp.832-834)そしてこれらの種はアミロイドよりADの重篤度に関連が深いようである(Mclean,C.A. et al.(1999) Ann.Neurol.,vol.46,pp.860-866;Lue,L.F. et al.(1999) Am.J.Pathol.,vol.155,pp.853-862)。可溶性Aβのオリゴマーは、アミロイド斑を生成しない複数の系統のトランスジェニックマウスに見られる神経学的欠損症の原因のようである(Mucke,L.et al.,(2000) J.Neurosci.,vol.20,pp.4050-4058;Hsia,A,Y.et al.(1999) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.96,pp.3228-3233;Chesselet,M.F.編集「Molecular Mechanisms of Neurodegenerative Diseases」, Humana Press中のKlein,W.L.(2000)の論文;Klein,W.L.et al.(2001) Trennds Neurosci.,vol.24,pp.219-224)。
【0009】
過去3年間に、凝集Aβ製剤の予防接種に基づいたアルツハイマー病の新規な治療法が出現した。この方法を利用した最初の試験は、Aβフィブリルを予防接種したトランスジェニックADモデルマウスを使用したが、これらのマウスに通常現れる行動の欠損に対していくらか保護すると報告された(Schenk,D.(1999) Nature,vol.400,pp.173-177;Morgan,D.G.et al.(2001)Nature 印刷中;Helmuth,L.(2000) Science,vol.289,p.375;Arendash,G.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,p.1059;Yu,W.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr,vol.26,p.497)。この試験結果は、有効な免疫保護が血液脳関門(BBB)の脳の側に提供できるということは一般に認められていないので予想外な結果であった。これらトランスジェニックADマウスの予防接種試験で観察された保護作用は、十分な量の抗アミロイド抗体が血液脳関門を通過して直接輸送されて毒性アミロイド構造体のレベルを低下させたためもたらされたことは明らかである。あるいは、血流中を循環している抗体が、十分な量のアミロイドに結合し除いて脳内のレベルを低下させ有利な対症効果を発揮できると考えられる。いくつものTgマウス予防接種試験は、全脳内アミロイドレベルが、対照群の未予防接種Tg ADマウスのアミロイドレベルと比べて有意に低下しなかったと報告したが、このことからAβ除去の機構のもっともらしさについて疑念が生じている。
【0010】
他の試験で、抗アミロイド抗体をトランスジェニックADマウスの脳に直接注射した結果、脳内アミロイドレベルが有意に低下したことが証明されたが(Bard,F.et al.(2000) Nature Med.,vol.6,pp.916-919)、この方法は、BBBを通過する受動輸送から予想できるレベルより有意に高いレベルの抗体を送達する必要がある。
【0011】
これらの予防接種されたTg ADマウスの動作機構に関わらず、上記の有望な行動保護の試験結果は、the Elan CorporationによるフィブリルAbワクチンAN1792(Helmuth,L.(2000) Science,vol.289,p.375)の人体試験に向かわせるのに充分な刺激を提供した。その第I相の安全性試験が成功したのでAD患者の第II相の効力試験が開始された。この第II相試験は、97名の被検AD患者中12名が脳の炎症と脳炎を含むワクチン関連の合併症を起こしたので、残念ながら現在停止されている。これらの重い合併症の明確な理由は確定的に分かっていないが、Abフィブリルによる予防接種は、脳内のアミロイド斑に対する有意な免疫応答を発し、その結果小グリア細胞の活性化がいつまでも続いて炎症媒体が生成するようになり、これらのことがすべて重篤な脳炎の原因になると推測することができる。事実、このグリア細胞活性化の機序こそ、Elanワクチン法の効力を説明するため提案されている機序である(Schenk,D. (1999)Nature,vol.400,pp.173-177)。
【0012】
これらの厳粛な結果から、ADの予防又は治療を行うために有効な免疫戦略は、ワクチン又は治療用抗体を必要とするかどうかに関係なく、毒性構造体を直接かつ特異的に標的にするより一層選択的な方法を必要としていることは明らかである。
【0013】
本発明は、フィブリルアミロイドであろうとモノマーのアミロイドであろうと、アミロイドの除去とは関係がない方法を提供するものである。本発明はADDLを直接標的にして中和する免疫戦略を提供する。本発明では、Aβモノマー又はアミロイドフィブリルに結合することなくADDLに特異的に結合する性能を発揮しその性能のため選択された抗体を、脳内のADDLの作用が原因の疾患を治療し予防するのに採用する。本発明はさらに、このような抗体を、脳又はCSF内に測定可能なレベルのADDLを持っている個体の特異的診断を行うのに利用する。その上に、本発明は、抗ADDL抗体を、ADDLの生成又は活性をブロックする分子を検出できる検定法に使用する。
【0014】
Elan Corporationが使用したような従来の免疫化プロトコルは、複数の形態のAβ1-42を不明確な比率で含有するAβ1-42の凝集溶液を使用している。本願に記載の本発明は、Aβ1-42のモノマーと小オリゴマーからなり低投与量で注射される明確に定義されたADDL製剤に基づいている。本願に示すデータは、Aβ1-42オリゴマーが、Aβモノマーより強力な免疫原であり、免疫ブロット中のADDLを優先的に認識する抗体を生じ、細胞表面に結合したADDLの斑点を免疫組織化学のプロトコルで検出しそして培養PC12細胞に対するADDLの毒性作用をブロックすることを示している。これらの試験結果は、小さい非フィブリルAβ1-42毒素を標的にする治療用抗体がADの発病を停止し予防する有効な薬剤であるという仮説を強く支持している。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は、アミロイドのフィブリルと斑点がADを起こすという欠点のある理論に主として基づいている従来技術の本質的な問題を克服しようとするものである。したがて、本発明の一つの目的は、ADDL(可溶性で球状の非フィブリルオリゴマーのAβ1-42の集合体)の活性又は生成を直接又は間接的に阻害できる抗ADDL抗体のような特異的なADDL結合分子を含有する新しい組成物の製造、特性決定及び使用である。本発明のこれらの目的と他の目的及び利点は、本発明の追加の特徴とともに本願の説明で明らかになるであろう。
【0016】
本発明は、アミロイドβ由来の拡散性リガンド(ADDL)、ADDLに結合する抗体(抗ADDL抗体)、抗ADDL治療法を発見するための抗ADDL抗体の使用、並びにアルツハイマー病、学習と記憶の障害及び神経変性障害を含むADDLに関連する疾患の診断、治療および予防の際の抗ADDL抗体の使用に関する。本発明は特に、優先的にADDLを認識してこれに結合するがモノマー型のアミロイドペプチドに対する結合性能は非常に低い抗体に関する。これらの特性を有する抗体はADDLの神経毒活性をブロックするのに有効でありかつ抗体−ADDL複合体を除くことによって脳からADDLを除くのに有効である。これらの特性を有する抗体は、ヒトの血漿、脳脊髄液及び脳組織を含む生物試料中のADDLを検出するのにも有効である。抗ADDL抗体は、脳脊髄液中のADDLを定量測定するのに有用であり、ADDLの有害作用を受けている個体を診断できる。かような有害作用は、学習と記憶の欠失、人格の変化、及びアルツハイマー病と関連障害とで損なわれることが分かっている機能のような他の認識機能の衰弱として現れる。抗ADDL抗体は剖検で得た脳組織中のADDLを定量検出してアルツハイマー病を死亡する前に確実に診断するのに有効である。
【0017】
本発明はさらに、優先的にADDLを認識してこれに結合するが、フィブリル型とモノマー型のアミロイドペプチドに対する結合性能が非常に低い抗体に関する。このような抗体は、広まっているフィブリルアミロイドの沈着が脳内に存在しかつフィブリル型アミロイドに優先的に結合する抗体で治療すると重い脳の炎症や脳炎を起こす患者のアルツハイマー病と他のADDL関連疾患の治療と予防に特に有効である。
【0018】
本発明はさらに、ADDLに結合し、ADDLを脳から除き、ADDLの活性をブロックし又はADDLの生成を予防できる抗体又は他のADDLに結合する分子もしくは巨大分子を選択又は同定するためのADDLの使用に関する。追加の発明としては、抗体又は抗ADDL結合分子を選択することができるか又は動物もしくはヒトに投与するとADDLをブロックする免疫応答を誘発できる分子の物質の新しい組成物がある。本発明にはさらに拡大して、合成抗体と結合性分子および他の特異的結合性分子を当該技術分野で知られている選択法又は組み換え工学の方法で製造する方法で利用されるときの使用が含まれている。
【0019】
具体的に述べると、本発明はかような抗ADDL抗体の製造法、特性決定法及び使用法に関する。また本発明は、ADDLの生成を検出するため及びADDLの生成を防止する分子を検出するための抗ADDL抗体の使用に関する。本発明はさらに、アルツハイマー病及び関連する障害で損なわれた神経細胞の表面に存在する特異的ADDL受容体に結合するADDLをブロックする分子を検出するためのかような抗体の使用に関する。
【0020】
ADDLは、集合して、特定の細胞プロセスを活性化できる可溶性の球状で非フィブリルのオリゴマー構造体になるアミロイドβ(Aβ)ペプチドを含んでいる。ADDLに対する抗体を製造し特性を決定する方法及びADDLの生成、存在、受容体タンパク質結合活性及び細胞活性を検定する方法が本願に開示される。ADDLの生成又は活性をブロックする化合物及びこのような化合物を同定する方法も本願に記載されている。ADDLの生成と活性は、とりわけ、損なわれた学習と記憶、神経細胞の衰弱及びアルツハイマー病の発症と進行に関連している。学習と記憶の障害及びADDLの作用が原因の他の疾患、障害又は症状を治療するのに、ADDLの生成又は活性を、本発明に従って調節できる。
【0021】
本発明は、アミロイドβ由来の拡散性リガンド又はアミロイドβ由来の痴呆発生(dementing)リガンドと呼ばれる物質(ADDL)の新しい組成物に関する。ADDLは、集合して、特定の細胞プロセスを活性化できる可溶性の非フィブリルオリゴマー構造体になるアミロイドβペプチドで構成されている。本発明の好ましい側面は、ADDLに対し特異的な抗体と結合性分子並びにADDLに特異的な抗体又は結合性分子を製造し特性を決定し使用する方法を含んでいる。別の好ましい実施態様には、ADDLに結合するがAβのモノマー又はフィブリル凝集体には結合しない抗体又は結合分子が含まれている。本発明の別の側面は、ADDLの生成、存在、受容体タンパク質との結合活性及び細胞活性を検定する方法並びにADDLの存在が原因の疾患又は可能性のある疾患を診断する方法からなっている。本発明のさらに別の側面は、アルツハイマー病又はADDLの存在に関連する他の疾患の治療及び/又は予防のための抗ADDL抗体又は抗ADDL結合分子の使用である。本発明はさらに、ADDLの生成及び/又は活性を調節する(例えば増大又は減少させる)化合物の検定方法及び同定方法を含んでいる。かような化合物はADDLの作用が原因の疾患、障害又は症状を治療するのに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明の詳細な説明
Aβ由来のオリゴマー(ADDL)は、分析の面で有用でありかつ治療と予防の面で価値がある可能性がある抗体を誘発する有効な抗原である。これらの抗体は、オリゴマーをモノマーから区別しかつ免疫ブロット及び免疫蛍光顕微鏡検査法で効力と特異性を示す。これらの抗体はさらにADDLの生物活性を中和する。このことは、明らかになった証拠が、ADDLはAβ1-42のレベルが高くなると生成する関連病原分子であることを示唆しているので重要である。ADDL類は、沈着したアミロイドと異なり、可溶性でかつ拡散性である小神経毒である。ADDL類は、情報の記憶に必要である重要な電気生理学上及び生化学上の作用すなわちLTPを直接阻害することが証明されたのである。したがって、これら可溶性の毒素を中和する性能は、アルツハイマー病及び関連障害の治療介入には非常に重要であろう。
【0023】
ADDL製剤が誘発する抗体は、オリゴマーに対し特異性を示す。場合によっては、モノマーは抗体の投与量が非常に高いときに検出できるが、連続希釈法で、幾種類かの動物由来の抗体(90,93又は94と命名されている)がオリゴマーを優先的に認識してこれと結合することが立証されている(図19と図20)。これらのADDL製剤はプロトフィブリル又はフィブリルに変換しないので、これらの大きい集合体が、観察された免疫応答を発する原因になる可能性はないことに注目すべきである。
【0024】
オリゴマーを、モノマーより一層抗原的にすることができるいくつもの可能性がある。一つの可能性は、オリゴマーが、モノマーにない立体構造に依存している新規なエピトープを提示するので本来、高い免疫原性を有していることである。またモノマーは、その生理的役割が、発育中一時的に豊富になるAPP分子(Enam,S.A.(1991) Ph.D.Thesis, Northwestern Univerciy)の通常の代謝の結果生じるので、本質的に免疫原性が低いようである(Selkoe,D.J.(1994) Annu.Rev. of Neurosci.,vol.17,pp.489-517)。もう一つの可能性は、モノマーがオリゴマーより効率的に除去できることである。
【0025】
ADDL-抗体の結合親和力と検出効力は商業製品のAβモノクロナール抗体に匹敵している(図19)。例えばADDLの濃度が高い場合(100 pmol)、0.3μg/mlのADDL-抗体は、0.4〜0.5μg/mlで使用される商業製品のモノクローナル抗体に匹敵する結合強度を示す(図19)。またこれら商業製品のモノクローナル抗体は、モノマー及びダイマーを含むいくつもの状態のAβ集合体に共通のエピトープを認識したが、このエピトープは抗ADDL抗体によって検出されなかった。別の集合状態のAβが異なるエピトープを示すことはそれらが異なる毒性活性を有することであり、これは将来、薬物を開発する際に利用できる特性である。またADDL-抗体は、Aβの非常に低い濃度で使用すると、モノクローナル抗体と少なくとも同等に良好な効力を示す(Ida,N.et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.271,pp.22908-22914;Potempska,A.et al.(1999) Amyloid,vol.6,pp.14-21)。IgGタンパク質の最終濃度0.6μg/mlにおいてADDL-抗体含有免疫ブロットは1fmol未満のADDLを検出できる。
【0026】
これら抗体は、効力に加えて有意な特異性を示すので、分析実験に有用になる。このことはAβペプチドに対して産生される他の抗体の場合、必ずしもそうではない。例えば、Aβ35-42及びAβ33-40に対するいくつかのモノクローナル抗体は、たとえ、ELISA法でAβに対し選択的であっても、免疫ブロット上のCSF及び血漿の成分に非特異的に結合する(Ida,N.et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.271,pp.22908-22914)。抗体M93とM94(以下に示す)は、モノマーを超えるオリゴマーに対する選択性と同様に全ラットホモジェネート中のタンパク質に対し結合性を全く示さなかった。同様に免疫蛍光顕微鏡検査法による実験で、これら抗体は、外因性ADDLの不在下、細胞表面にほとんど結合性を示さなかった。
【0027】
二つの興味深い観察結果が、免疫ブロット実験と免疫蛍光実験から見られる。第一に、ADDLを脳のホモジェネートと混合すると、免疫ブロットは通常の分子量の範囲内のADDLを示したが、その上に、分子量の高い種も観察された。この追加事象の根拠は分からないが、いくつもの異なるタンパク質がAβの凝集特性に影響することが以前に立証されている(Chesselet,M.F. 編集「Moleular Mechanisms of Neurodegenerative Diseases」, Humana Press中のKlein,W.L.(2000) の論文;Klein,W.L.(2001) Trends Neurosci., vol.24, pp. 219-224)。ここに見られるこれらの種の大きさ(約30-40kD)はADに冒されている脳で優勢な形態であることが示唆されている大きさと同じである(Guerette, P.A. et al.(2000)Soc.Neurosci.Abstr.,vol.25,p.2129)。しかしその追加の種は小さい脳タンパク質例えばアポEに結合する強結合性のADDLのこともある。AβとアポEの安定した複合体はすでに分かっている(LaDu,M.J.et al.(1997) J.Neurosci.Res.,vol.49,pp.9-18;LaDu,M.J.et al.(1995) J.Biol. Chem.,vol.270,pp.9039-9042)。第二に、ニューロンの培養実験からの免疫蛍光のデータは、ADDLが高度にパターン化した方式でニューロンと会合するようになることを示した。これら「ホットスポット」の性質は、ADDLの毒性に対して起こりうる受容体の関与を示唆している(Viola,Gong,Lambert,Lin and Klein 準備中)。
【0028】
少し意外なことで最も重要になる可能性があるのはサブストイキオメトリック投与量(substoichiometric dose)の抗体で神経が保護されることである。保護の試験ではPC12ニューロン様細胞を利用するMTT還元検定法を使った。開口分泌/飲食作用及び酸化的代謝を監視するこの生物検定法(Liu,Y.& Schubert,D.(1997) J.Neurochem.,vol.69,pp.2285-2293)では、ADDLは1-5μmの投与量でMTTの還元を最高にブロックする。サブストイキオメトリックレベルの抗体が、1:15という低い抗体/ADDLのモル比にて、明らかな阻害度でADDLの作用をブロックした。この効力は、モルモットの抗体が、1:20の比率で、PC12MTT検定法にて、アミロイドの毒性を防止できると報告しているデータに似ている(Frenkel,D.et al.(2000) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.97,pp.11455-11459)。本発明の場合、それら抗体に毒性オリゴマーに対する選択性があるため、抗体の投与量が比較的低くても保護作用があるようである(図19と20)。モノマーは毒性ではないが(Yanker,B.A.(1996) Neuron,vol.16,pp.921-932;Yanker,B.A.(1989) Science,vol.245,pp.417-420)、全可溶性Aβの45±5%を占めている(Chromy,B.C.et al.準備中)。したがって、これら抗体はADDL溶液中の毒性サブスペシーを標的としてその利用率を低下させているようである。
【0029】
毒性形態の自己集合Aβを標的にする抗体は、Aβに対する抗体が血液脳関門を通過してADのトランスジェニックマウスモデルに治療効果があるという最近の注目すべき発見があったので、極めて重要になっている(Bard,F.et al.(2000) Nature Med.vol.6,pp.916-919;Schenk,D.(1999) Nature vol.400,pp.173-177)。予防接種のプロトコルでアミロイドが減少して(Bard,F.et al.(2000) Nature Med.vol.6,pp.916-919;Schenk,D.(1999) Nature vol.400,pp.173-177)行動の減退を防止するのに有効である(Helmuth,L.(2000) Science,vol.289,p.375;Arendash,G.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol. 26, p.1059;Yu,W.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,p.497)。これらの免疫化/予防接種の研究の著者は、治療効力が、アミロイド斑タンパク質を除く活性化されたミクログリアが間接的な原因になっていると示唆している。しかし、他の研究は、ファージディスプレイで細菌や哺乳類に生成させた抗体が、生体外で、凝集Aβの解離を直接起こすことができることを示した(Frenkel,D.et al.(2000) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.97, pp.11455-11459;Frenkel,D.et al.(2000) J.Neuroimmunol.,vol.106,pp.23-31)。これらの抗体は、EFRHエピトープすなわちAβのアミノ酸#3-6 に対して生成する。この部位は、フィブリルのN末端の調節部位であるという仮説が立てられている(Frenkel,D.et al.(1998) J.Neuroimmunol.,vol.88,pp.85-90)。
【0030】
これら抗体の行動に対する効力に関する他の説明は、これら抗体が、トランスジェニックマウスのADモデル及びAD自体に発病させる役割を演じていると推定されている可溶性のADDLを中和できるという説明である。複数のトランスジェニックAPPマウスのモデルは、アミロイド沈着物が全く存在しないのに行動の変性減退を示す(Chesselet,M.F. 編集「Moleular Mechanisms of Neurodegenerative Diseases」, Humana Press中のKlein,W.L.(2000) の論文;Klein,W.L.(2001) Trends Neurosci., vol.24, pp. 219-224)。最近、例えばアミロイドを含有しないAPP-トランスジェニックマウスが、やはり可溶性Aβ1-42の種のレベルと関連する方式で(Mucke,L.et al.(2000) J.Neurosci.,vol.20,pp.4050-4058)、ADの認識減退の優れた尺度であるシナプトフィジン免疫反応性末端の減少を示すことが発見された(Terry,R.D.et al.編集「Alzheimer’s Disease」 pp.187-206,Lippincott Williams & Wilkins中のTerry,R.D.(1999)の論文)。これらの著者たちは、彼等の試験結果が、斑点とは無関係のAβの毒性がADにおけるシナプスの欠損発生には重要であるという台頭してきた見解を支持していると示唆している。シナプスの損失と可溶性Aβの間の類似の相関関係がADに観察されている(Lue,L.F.et al.(1999) Am.J.Pathol.,vol.155,pp.853-862;Chesselet,M.F. 編集「Moleular Mechanisms of Neurodegenerative Diseases」, Humana Press中のKlein,W.L.(2000) の論文;Klein,W.L.(2001) Trends Neurosci., vol.24, pp. 219-224;McLean,C.A.et al.(1999) Ann.Neurol.vol.46,pp.860-866)。可溶性の毒性オリゴマーは恐らく、斑点とは無関係のAβの毒性の重要な要因であろう。これらの発見は、本願に示す抗体のデータとあいまって、行動の改善が、少なくとも一部分は、斑点と無関係の現象であることを強く示唆している。
【0031】
ADDLを標的にする抗体は理想的な特異性を与えることができる。ペプチド集合に関連する新規なドメインを標的にする本発明の中和抗体は、治療予防接種のためのプロトタイプとして提案される。ADの早期段階に、相同の抗体を使用すると、記憶の損失と戦うと予想される。抗体は、ADDLに結合することによって神経の可塑性を保護し、このことは、ADDLの量が少ない場合に実験で示されている(Lambert,M.P.et al.(1998) Proc. Natl.Acad.Sci.USA,vol.95,pp.6448-6458;Wang,H.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,pp.1787)。さらに、これら抗体は、サブフィブリル種を標的にすることによって、斑点を生成するのに必要な中間体を除去する。この抗体は、その可能性のある直接の治療価値とは別に、オリゴマーの表面の毒性ドメインを確認して多くの伝統的な治療薬を開発するために重要な分子に関する識見を提供する強力な道具であるに違いない。さらに、ADDL選択性の抗体は、毒性オリゴマー化をブロックする化合物のライブラリーをスクリーニングするための簡単で高処理量の検定法の基礎を提供する。
【0032】
アミロイドβの神経毒性試料には、フィブリル構造体が存在するだけでなく、予想外のことであるが、神経毒性の原因と考えられる幾種類もの球状タンパク質構造体が存在することが発見されたのである。新規の方法を利用して、主としてこれら可溶性球状タンパク質集合体を含有しフィブリル構造体を含有しない試料を本願に記載されているようにして製造した。各種の方法で製造した不均一な試料中のより大きいフィブリル形のアミロイドβを遠心分離で除去しても上澄み液画分中のこれらアミロイドβの可溶性球状集合体は除去されない。これら上澄み画分は、文献の条件下で凝集した非分画アミロイド試料より有意に高い神経毒性を示した。これらの新規で予想外に神経毒性で可溶性の球形体は、本願では、アミロイドβ由来痴呆発生リガンド、アミロイドβ由来拡散性リガンド(ADDL)、アミロイドβ可溶性非フィブリル構造体、アミロイドβオリゴマー構造体又は簡単にオリゴマー構造体と呼称する。標準の文献条件下(例えばPike et al.(1993) J.Neurosci.,vol.13,pp.1676-1687)で三週間以上経過した「aged」 アミロイドβの試料は、たとえこれらの試料がADDLを少数含有しているか又は全く含有していないで主としてフィブリル構造体を含有していても、その神経毒性を失う。上記球状ADDLが神経毒性であるというこの発見は、現在の見解が毒性形態のアミロイドβを構成しているのはフィブリル構造体であると主張しているので、特に驚くべきことである(Lorenzo et al.(1994) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.91,pp.12243-12247;Howlett et al.(1995) Neuro- degen.,vol.4,pp.23-32)。
【0033】
ADDLは生体外で製造できる。モノマーのアミロイドβ1-42(又は本願に後で述べる他の適当なアミロイドβ)を含有する溶液(例えばDMSO溶液)を、冷組織培養培地(例えばF12細胞培養培地)で希釈し次いで約4℃にて約2〜約48時間インキュベートし次に約14,000gで約10分間4℃にて遠心分離すると、その上澄み液の画分は、例えばニューロン細胞及び脳スライスの培養液中で高い神経毒性の小さい可溶性のオリゴマー球体を含有している。またADDLは、アミロイドβを適当な特定の薬剤たとえばクラステリン(clusterin)(アポJとしても知られている老人斑タンパク質)とともに同時にインキュベートすることによって及び本願に記載されているような他の方法でも製造できる。
【0034】
したがって詳しく述べると、本発明は単離された可溶性で非フィブリルのアミロイドβオリゴマー構造体に関する。単離されたオリゴマー構造体は外因的に添加された架橋剤を含んでいない。そのオリゴマー構造体は架橋剤無しで安定なものが望ましい。
【0035】
例えば、実施例3に記載されているようなDigital Instrumentsの原子間力顕微鏡を使用して、原子間力顕微鏡分析(AFM)を、当該技術分野で知られているようにかつ本願に記載されているように実施できる。かような上澄み液画分(すなわちフィブリル構造体を除去された上澄み液画分)をAFM分析すると、幾種類もの大きさの異なる球体(すなわち異なる大きさのオリゴマー構造体)が前記画分中に存在することが明らかになる。これらの球体は約4.7〜約11.0nmの大きさの範囲内に入るが主な画分は約4.nm〜6.2nmの大きさの範囲内にある。この大きさの範囲内に入って、図2と図16に示すような特定のゲル電気泳動システムによる分析結果で示されるような特定の大きさのオリゴマーの種に対応する球体の別個の種があるようである。高さ表面(height surface)が僅かに変動するのは、AFMで分析する際に、特定の種がマイカの表面に載せられる方式が原因である。しかし、この僅かな変動にもかかわらず、4.7〜6.2nmの大きさの範囲内に球体のいくつもの主な大きさの範囲すなわち約4.9nm〜約5.4nm及び約5.7nm〜約6.2 nmがあり、これらの範囲内のものが、典型的な試料中のオリゴマー構造体の約50%を構成している。寸法が約5.3nm〜5.7nmの別の大きさの種の球体もあるようである。約6.5nm〜約11.0nmのより大きい球体は少ないときが多いがより優勢な小さい種に類似の神経毒性を有しているかもしれない。AFMによる測定の結果、寸法が約4.7nm〜約6.2nmの球体は、ペンタマーとヘキサマーの形態のオリゴマーのアミロイドβ(Aβ)タンパク質を含んでいるようである。約4.2nm〜約4.7nmのAFMサイズの球体はAβのテトラマーに相当するようである。約3.4nm〜約4.0nmの大きさの球体はトリマーに相当するようである。大きい球体は、約13個のアミロイドモノマー〜約24個のアミロイドモノマーの大きさの範囲内のオリゴマー種に相当するようである。約2.8nm〜約3.4nmの大きさの球体はダイマーに相当する(Roher et al.(1996) J.Biol. Chem.,vol.271,pp.20631-20635)。AβモノマーのAFMサイズは約0.8nm〜約1.8-2.0nmの範囲内である。モノマーとダイマーのアミロイドβはニューロン細胞の培養液又は脳スライスの器官型培養液内では毒性でない。
【0036】
したがって、本発明は、好ましくは約3個〜約24個のアミロイドβタンパク質モノマー、とりわけ約3個〜約20個のアミロイドβタンパク質モノマー、特に約3個〜約16個のアミロイドβタンパク質モノマー、最も好ましくは約3個〜約12個のアミロイドβタンパク質モノマー、そして望ましくは約3個〜約6個のアミロイドβタンパク質モノマーを含有する単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体(すなわちADDL)を提供するものである。先に述べたように、大きい球体(余り優勢でない種)は約13個のアミロイドβモノマー〜約24個のアミロイドβモノマーの大きさの範囲内のオリゴマー種に相当するようである。したがって、本発明は、オリゴマー構造体が好ましくはアミロイドβタンパク質のトリマー、テトラマー、ペンタマー、ヘキサマー、ヘプタマー、オクタマー、12量体、16量体、20量体及び24量体の凝集体を含有する単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体を提供するものである。特に、本発明は、オリゴマー構造体が好ましくはアミロイドβタンパク質のトリマー、テトラマー、ペンタマー又はヘキサマーの凝集体を含有する単離された可溶性非フィブリルアミロイドβタンパク質オリゴマー構造体を提供するものである。本発明のオリゴマー構造体は最適に神経毒活性を示す。
【0037】
可溶性非フィブリルアミロイドβタンパク質オリゴマー構造体(すなわちモノマーが凝集して形成されたオリゴマー構造体)のより高次の構造は、望ましくはアミロイドβ1-42からのみならず可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体を安定して形成できるあらゆるアミロイドβタンパク質から得ることができる。特にアミロイドβ1-43も採用できる。1位にビオシチンを有するアミロイドβ1-42も採用できる。N末端にシステインを有するアミロイドβ(例えば1-42又は1-43)も採用できる。同様に、アミノ末端で短小化されたAβ(例えば特にAβ1-42もしくはAβ1-43の1〜8のアミノ酸残基の配列の1もしくは2以上から全体までを欠いている)又は1もしくは2の余分のアミノ酸残基をカルボキシ末端に有するAβ(例えばAβ1-42もしくはAβ1-43)を採用できる。これとは対照的に、Aβ1-40は毒性であることもあるADDL様構造体を一時的に形成することがあるが、これら構造体は、恐らくそのタンパク質が短いため安定な方式で高次の集合体を形成する性能を制限するので、安定ではなく水溶液として単離できない。
【0038】
本発明の単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体は、望ましくは原子間力顕微鏡で測定した寸法が約4.7nm〜約11.0nm、特に4.7nm〜6.2nmの球体で構成されている。また好ましくは、本発明の単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体は、原子間力顕微鏡で測定した寸法が約4.9nm〜約5.4nm又は約5.7nm〜約6.2nm又は約6.5nm〜11.0nmの球体で構成されている。詳しく述べると、好ましくは本発明の単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体は、集合体の約30%〜約85%、さらにより好ましくは集合体の約40%〜約75%が、原子間力顕微鏡で測定した寸法が約4.9nm〜約5.4nmと約5.7〜6.2nmの二つの優勢な大きさの球体で構成されている。しかしオリゴマー構造体は約5.3〜約5.7nmのAFMサイズの球体で構成されていることも望ましい。またそのオリゴマー構造体は約6.5nm〜約11.0nmのAFMサイズの球体で構成されていることが望ましい。
【0039】
非変性(non-denaturing)ゲル電気泳動法によって、ADDLに対応するバンドが約26kDから約28kDまで延びそして約36kDから約108kDまでの大きさを示す別の広いバンドがある。変性条件下(例えば、15% SDS-ポリアクリルアミドゲルの場合)、ADDLは約22kDから約24kDまで延びるバンドを含みさらに約18kDから約19kDまで延びるバンドを含んでいる。したがって、本発明は好ましくは、非変性ゲル電気泳動法で測定した分子量が約26kD〜28kDの単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体(すなわちADDL)を提供するものである。また本発明は、好ましくは15%のSDS -ポリアクリルアミドゲルの電気泳動法で測定した分子量が約22kD〜約24kDに相当するバンドとして延びる単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体(すなわちADDL)を提供するものである。さらに本発明は、好ましくは15%のSDS -ポリアクリルアミドゲルの電気泳動法で測定した分子量が約18kD〜約19kDに相当するバンドとして延びる単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体(すなわちADDL)を提供するものである。
【0040】
また16.5%のトリス-トリシン SDS-ポリアクリルアミドゲルシステムを使って、追加のADDLのバンドを可視化することができる。このゲルシステムで達成される高い分解能が、16.5%のトリス-トリシン SDS-ポリアクリルアミドゲルの電気泳動法で測定した分子量が約13kD〜約116kDの範囲内の単離オリゴマー構造体を、本発明によって得ることができることを確認している。この追加のADDLのバンドは別の大きさの種に相当するもののようである。詳細に述べると、このゲルシステムを使用すると以下の単離オリゴマー構造体に相当するバンドを可視化することができる。すなわち大きさが約13〜14kDのトリマー、大きさが約17〜19kDのテトラマー、大きさが約22〜23kDのペンタマー、大きさが約26〜28kDのヘキサマー、大きさが約32〜33kDのヘプタマー及び大きさが約36〜38kDのオクタマー並びに大きさが約12個のモノマー〜約24個のモノマーの範囲内のより大きい可溶性オリゴマーである。したがって、本発明は望ましくは、オリゴマー構造体が、16.5%トリス-トリシン SDS-ポリアクリルアミドゲルの電気泳動法で測定したとき、分子量が約13kD〜約14kD、約17kD〜約19kD、約22kD〜約23kD、約26kD〜28kD、約32kD〜約33kD及び約36kD〜約38kDからなる群から選択される分子量である単離オリゴマー構造体を提供するものである。本発明はさらに単離された可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体の製造法を提供するものである。この方法は、任意に下記ステップ:
(a) モノマーのアミロイドβタンパク質の溶液を得て、
(b) そのタンパク質溶液を適当な培地で希釈し、
(c) ステップ(b)から得た培地を約4℃でインキュベートし、
(d) その培地を約4℃にて約14,000gで遠心分離し、次いで
(e) 上記遠心分離で得た、アミロイドβオリゴマー構造体を含有する上澄み液を回収する、
ステップを含んでいる。
【0041】
この方法のステップ(c)では、溶液を、望ましくは約2時間〜約48時間特に約12時間〜約48時間、そして最も好ましくは約24時間〜約48時間インキュベートする。この方法のステップ(d)では、遠心分離を、好ましくは約5分間〜約1時間特に約5分間〜約30分間実施し、約10分間実施することが最適である。しかし一般に、これは、新生のフィブリル構造体又はプロトフィブリル構造体を除くための予防手段に過ぎず、特にADDL製剤の長期間の安定性が問題点でない場合は必要でない。
【0042】
このAβタンパク質は、ステップ(b)で、望ましくは約5nM〜約500μMとりわけ約5μM〜約300μM特に約100μMの最終濃度まで希釈する。ステップ(b)で前記Aβタンパク質溶液が希釈される「適当な培地」は好ましくは、ADDLの生成をたとえ促進しなくても保持する培地である。詳しく述べると、F12培地(市販されているし実験室で容易に配合できる)が本発明のこの方法に使用するのに好ましい。同様に「置換F12培地」も使用することが望ましい。置換F12培地は、市販されているか又は実験室で配合されるF12培地とは異なる。本発明による置換F12培地は好ましくは下記成分:N,N-ジメチルグリシン、D-グルコース、塩化カルシウム、硫酸銅五水和物、硫酸鉄(II)七水和物、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム及び硫酸亜鉛七水和物を含有している。
【0043】
詳しく述べると、本発明による合成のF12培地は任意に、N,N-ジメチルグリシン(約600〜約850mg/L)、D-グルコース(約1.0〜約3.0g/L)、塩化カルシウム(約20〜約40mg/L)、硫酸銅五水和物(約15〜40mg/L)、硫酸鉄(II)七水和物(約0.4〜約1.2mg/L)、塩化カリウム(約160〜約280mg/L)、塩化マグネシウム(約40〜約75mg/L)、塩化ナトリウム(約6.0〜約9.0g/L)、重炭酸ナトリウム(約0.75〜約1.4g/L)、リン酸水素ニナトリウム(約120〜約160mg/L)及び硫酸亜鉛七水和物(約0.7〜約1.1mgL)を含有している。本発明による合成のF12培地は最適には、N,N-ジメチルグリシン(約766mg/L)、D-グルコース(約1.802g/L)、塩化カルシウム(約33mg/L)、硫酸銅五水和物(約25mg/l)、硫酸鉄(II)七水和物(約0.8mg/L)、塩化カリウム(約223mg/L)、塩化マグネシウム(約57mg/L)、塩化ナトリウム(約7.6g/L)、重炭酸ナトリウム(約1.18g/L)、リン酸水素ニナトリウム(約142mg/L)及び硫酸亜鉛七水和物(約0.9mg/L)を含有している。さらに、置換F12培地のpHは好ましくは例えば0.1M 水酸化ナトリウムを使って望ましくは約7.0〜約8.5に好ましくは約8.0に調整する。
【0044】
上記方法はさらに、望ましくはクラステリンなどの適当な薬剤の存在下ゆっくり沈降するオリゴマー構造体を形成させることによって実行できる。これは例えば、ステップ(c)でクラステリンを添加し下記の諸実施例で述べるようにして行われる。
【0045】
さらに、本発明は、諸実施例で述べるように、本発明の可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体の製造方法を提供するものであり、その方法は、下記ステップ:
(a) 上記オリゴマー構造体を形成できるモノマーのアミロイドβタンパク質
の溶液を得て、
(b) そのアミロイドβモノマーをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、
(c) 高速減圧蒸発法でヘキサフルオロイソプロパノールを除いて固体ペプチドを得て、
(d) その固体ペプチドをDMSOに溶解してDMSO原液を製造し、
(e) その原液を適当な培地で希釈し、
(f) 攪拌し、次いで
(g) 約4℃で約24時間インキュベートする
ステップを含んでいる。
【0046】
ADDLを10%のビオチニル化アミロイドβ1−42(又は他の適当なビオチニル化アミロイドβタンパク質)を組みいれて製造する場合、そのADDLは、神経細胞を使う受容体結合検定法で利用することができ、そして例えば蛍光アビジン接合体で標識を付けて、蛍光標示式細胞分取器(FACS)で利用できる。あるいは、ビオチンをアミロイドβタンパク質中に組み入れる代わりに、ADDLと結合して蛍光標識化分子を形成することができる別の薬剤およびすでに蛍光標識化接合体の一部になっている別の試薬を利用できる。例えば、可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体は、アミロイドタンパク質が別の結合部分を含有するようにして製造することができる。なお用語「結合部分」は本願で使用する場合、試薬に結合させて蛍光標識化化合物又は接合体を製造するのに利用できる分子(例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ポリリシンなど)を含んでいる。オリゴマー構造体が結合する「蛍光試薬」は、それ自体直接蛍光を発する必要はないが、代わりに別の試薬に結合することによって蛍光を発することができるだけでよい。例えば、オリゴマー構造体に結合する蛍光試薬は、蛍光第二抗体を使うことによって蛍光を発するβアミロイド特異的抗体(例えば6E10)を含有していてもよい。
【0047】
他の実験に加えて、ラットCNS B103細胞のFACSscan分析をADDLのインキュベーション無し及び有りで行った。これらの試験結果及びその後の研究によって、細胞表面に対する結合は飽和させることができそしてトリプシンで短時間処理すると細胞表面タンパク質のサブセットが選択的に除かれADDLの結合が排除されることが確認されている。トリプシンによる短時間の処理でB103細胞の表面から開裂できるタンパク質も、ADDLがB103細胞又はラット海馬ニューロンの一次培養物に結合するのを防止する。これら試験結果はすべて、ADDLが特定の細胞表面受容体を通じて作用しそしてADDLによって仲介される早期事象(すなわち細胞を殺す前の事象)がADDLの生成と活性(例えば受容体の結合を含む)をブロックする化合物によって有利に抑制できる(例えば治療と研究のため)ことを裏付けている。
【0048】
したがって本発明は、ADDLの活性(例えば受容体と結合する活性など)を調節する(すなわち促進又はブロックする)化合物を同定する方法を提供するものである。この方法は、好ましくは下記ステップ:
(a) 被検化合物と接触させながら又は接触させずに、ニューロン細胞の別個の培養液を本発明のオリゴマー構造体と接触させ、
(b) オリゴマー構造体に結合しかつ蛍光を発する試薬を添加し、
(c) 前記別個の細胞培養液を蛍光標示式細胞分取法で分析し、次いで
(d) それら培養液の蛍光を比較して、被検化合物なしでオリゴマー構造体と接触させた対応する培養液と比較したとき、培養液の蛍光が低下した場合はオリゴマー構造体の活性(すなわち細胞表面タンパク質と結合する活性)をブロックする化合物が同定され、そして培養液の蛍光が増大した場合は細胞表面タンパク質(すなわち受容体)との結合を促進する化合物が同定される、
ステップを含んでいる。
【0049】
あるいは、それ自体がタンパク質複合体に結合できる蛍光剤を添加する代わりに、オリゴマー構造体が、蛍光剤に結合できる結合部分を含有するように製造されたアミロイドβ1-42タンパク質(又は別ののアミロイドβ)から製造される方法を実施することが望ましい。
【0050】
同様に、オリゴマー構造体の生成又は活性(例えば受容体などの細胞表面タンパク質に結合する活性)を調節する(すなわち促進又はブロックする)化合物を同定する方法を採用でき、その方法は下記ステップ:
(a) 被検化合物を混合されているか又は混合されていないアミロイドβの別の試料を作製し、
(b) その別の試料中にオリゴマー構造体を生成させ、
(c) その別の試料をニューロン細胞の別の培養液と接触させ、
(d) そのオリゴマー構造体に結合する蛍光剤を添加し、
(e) その別の細胞培養液を蛍光標示式細胞分取法で分析し、次いで
(f) それら培養液の蛍光を比較し、被検化合物無しでオリゴマー構造体と接
触させた対応する培養液と比較したとき、培養液の蛍光が低下した場合
はオリゴマー構造体の生成又はオリゴマー構造体の細胞表面タンパク質との結合をブロックする化合物が同定され、そして培養液の蛍光が増大した場合はオリゴマー構造体の生成又はオリゴマー構造体の細胞表面タンパク質との結合を促進する化合物が同定される、
ステップを含んでいる。
【0051】
さらに、それ自体がタンパク質複合体に結合できる蛍光剤を添加する代わりに、オリゴマー構造体が、蛍光剤に結合できる結合部分を含有するように製造されたアミロイドβタンパク質から製造される方法を実施することができる。
【0052】
培養液の蛍光はさらに任意に、オリゴマー構造体を生成させる前に被検化合物を添加するか又は添加しない代わりにオリゴマー構造体を生成させた後に被検化合物を添加するか又は添加しないことを除いて同じ方式で処理した培養液の蛍光と比較する。この場合、被検化合物をオリゴマー構造体生成の前に添加したときのみ、被検化合物無しでオリゴマー構造体と接触させた対応する培養液と比較したとき、培養液の蛍光が低下した場合はオリゴマー構造体の生成をブロックする化合物が同定され、そして培養液の蛍光が増大した場合はオリゴマー構造体の生成を促進する化合物が同定される。
【0053】
対照的に、被検化合物をオリゴマー構造体の前又は後に添加したとき、被検化合物無しでオリゴマー構造体と接触させた対応する培養液と比較して、培養液の蛍光が低下した場合はオリゴマー構造体が細胞表面タンパク質(例えば受容体)と結合するのをブロックする化合物が同定されそして培養液の蛍光が増大した場合はオリゴマー構造体が細胞タンパク質に結合するのを促進する化合物が同定される。
【0054】
同様に、細胞ベースの検定法、特に細胞ベースの酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を本発明にしたがって利用してADDL結合活性を評価できる。特にこの方法はオリゴマー構造体の細胞表面タンパク質との結合を検出するのに利用できる。この方法は下記ステップ:
(a) オリゴマー構造体をアミロイドβタンパク質から製造し、
(b) そのオリゴマー構造体をニューロン細胞の培養液と接触させ、
(c) 前記オリゴマー構造体と結合しかつ接合部分(例えばビオチン又は他の適当な試薬)を含有する抗体(例えば6E10)を添加し、
(d) 未結合の抗体を洗い落とし
(e) 前記オリゴマー構造体に結合した前記抗体に、前記接合部分によって酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)を結合させ、
(f) 前記酵素によって開裂される無色の基質(例えばABTS)を添加して色を変化させ、次いで
(g) 前記色の変化を(例えば分光光度計で)又はその色の変化の速度を、前記オリゴマー構造体の細胞表面タンパク質(例えば受容体)との結合の尺度として測定する、
ステップを含んでいる。
【0055】
先に述べたように、前記抗体は、ADDLを検出できるいかなる抗体でもよく(例えばADDLに対し特異的な抗体又はアミロイドβの露出部位に対する抗体)及び前記抗体接合部分は検出手段(例えば酵素)と結合できるいかなる試薬であってもよい。その酵素は、検出手段(例えば基質の開裂による色の変化)を提供しさらに他の部分によってオリゴマー構造体に結合する抗体(例えば二次抗体)に結合できる(例えば共有結合又は非共有結合)いかなる部分(例えばタンパク質以外のものがある)でもよい。また細胞は好ましくは本発明に従って、検定を実施する前に固体の基板(例えば組織培養プラスティック基板)に接着させる。ステップ(b)は本願で述べるようにADDLが細胞に結合できるように実施すべきであることは言うまでもない。同様に好ましくは、ステップ(c)は、充分な時間(例えば約10分間〜約2時間、望ましくは約30分間)、適当な条件下(例えばほぼ室温で好ましくは緩やかに攪拌しながら)実施して抗体をADDLと結合させるべきである。さらに、適当なブロッキング試薬を使って抗体の非特異的結合を減らす当業者に知られている適当なブロッキングステップを実施してもよい。当業者はELISA法に精通しているので当該技術分野で知られている検出法の改変法を利用できる。
【0056】
検定法は、オリゴマー構造体の生成又はオリゴマー構造体の細胞表面タンパク質との結合を調節する(例えば促進又はブロックする)化合物を同定するように実施できることが望ましい。この方法では、先に述べた被検化合物の検定法の場合のように、被検化合物は、細胞をADDLと接触させる前に添加する。したがってこの検定法は、オリゴマー構造体の生成を調節する(例えば先に述べたような)化合物を検出するのに利用できる。さらに被検化合物は、細胞に接触させる前に(しかしADDLを生成させた後に)ADDL製剤に添加するか又はADDLと接触させる前に細胞に添加してもよい。この方法は(例えば先に述べたような)、ADDLの細胞表面との結合を調節する化合物を検出するのに利用できる。また、被検化合物は細胞とADDLの混合物に添加してもよい。この方法は(例えば先に述べたような)、細胞表面タンパク質(例えばADDL受容体)に結合するADDLの下流に起こるADDL仲介事象に作用する化合物を検出するのに利用できる。ADDL仲介の下流の作用に作用する化合物の特異性は、例えばADDLとの同時インキュベーション無しで被検化合物を単に添加することで確認できる。勿論、さらに適当な対照を(下記実施例に記載されかつ当業者に記載されているような)すべての検定法に含めるべきである。
【0057】
同様に、本願に(例えば諸実施例に)記載の方法を使って、本発明は、本発明のオリゴマー構造体の生成をブロックする化合物を同定する方法を提供するものであり、この方法は望ましくは下記ステップ:
(a) 被検化合物を混合されているか又は混合されていないアミロイドβタンパク質の別個の試料を調製し、
(b) その別個の試料中にオリゴマー構造体を生成させ、
(c) その別個の試料中にタンパク質集合体が形成されたかどうかを、電気泳動法、免疫認識法及び原子間力顕微鏡法からなる群から選択される方法を使用して評価し、次いで
(d) 前記別個の試料中のタンパク質集合体の生成を比較し、オリゴマー構造体が被検化合物無しで生成される試料と比較したとき、試料中のオリゴマー構造体の生成が低下した場合にオリゴマー構造体の生成をブロックする化合物が同定される、
ステップを含んでいる。
【0058】
オリゴマー構造体の生成、活性又は生成と活性及び限定されないがオリゴマー構造体の細胞表面との結合を調節する(促進又はブロックする)化合物の情報は、ADDLが仲介する疾患、症状又は障害の研究と治療に利用できる。本発明の方法は、ADDL自体の活性と神経毒性を研究するのに利用できる。例えば、長期増強(LTP)実験(例えば、Namgung et al.(1995) Brain Research,vol.689,pp.85-92参照)を実施する60-70分間前に、20nLのADDL製剤を、成熟マウスの海馬領域に注射したとき、実験の刺激相(stimuration phase)が対照の食塩水注射と同一の様式で起こったが、コンソリデーション相(consolidation phase)は、細胞体のスパイク振幅で測定したシナプス活性がその後の2時間にわたって、シナプス活性が刺激相中に示したレベルに匹敵するレベルのままである対照動物と比べて、連続して有意に低下することを示した。上記実験後の脳のスライスを分析したところ、細胞死は全く起こっていなかったことを示した。この試験結果は下記実施例に記載の他の結果とともに、ADDLによる処置がLTPの応答を阻害したことを確認している。これは、ADDLが、神経細胞死の誘発よりむしろニューロンの信号伝達プロセスの妨害によってアルツハイマー病に見られる損なわれた学習と記憶に関与していることを示している。
【0059】
ADDLの作用(ADDLの生成及び/又は活性を調節する可能性のある被検化合物の存在下又は不在下)の追加の情報は、本発明の別の検定法を使って得ることができる。例えば、本発明は、好ましくは下記ステップ:
(a) オリゴマー構造体を動物の海馬に投与し、
(b) 電気刺激を加え、次いで
(c) 細胞体のスパイクの振幅を時間の経過とともに測定して長期増強の応答を測定する、
ステップを含んでなるADDLの作用を検定する方法を提供するものである。
【0060】
この方法は、任意に、動物の長期増強の応答を、電気刺激を加える前にオリゴマー構造体の代わりに食塩水を加えたこと以外同様に処置した別の動物の長期増強の応答と比較して実施する。この方法はさらに、例えばADDLを単独で又は被検化合物とともに投与された動物のLTP応答を比較することによって、ADDLの作用を調節する(すなわち増大又は低下させる)化合物を同定するのに利用できる。
【0061】
これらの方法に従って、本発明は、ADDLのオリゴマー構造体の作用を調節する化合物を同定する方法を提供するものである。この方法は好ましくは下記ステップ:
(a) 食塩水又は被検化合物を動物の海馬に投与し、
(b) 電気刺激を加え、
(c) 細胞体のスパイクの振幅を時間の経過とともに測定して長期増強の応答を測定し、次いで
(d) 食塩水を投与された動物の長期増強の応答を、被検化合物を投与された動物の長期増強の応答と比較する、
ステップを含んでいる。
【0062】
この方法はさらに、食塩水又は被検化合物を投与する前、投与しながら又は投与した後、オリゴマー構造体を海馬に投与することを任意に含んでいる。
【0063】
同様に本発明は、ADDLタンパク質集合体の神経毒性を調節する(すなわち増大又は低下させる)化合物を同定する方法を提供するものであり、この方法は下記ステップ:
(a) 被検化合物との接触あり又は無しで、ニューロン細胞の別個の培養液を
オリゴマー構造体と接触させ、
(b) 各培養液中の生細胞の比率を測定し、次いで
(c) 各培養液中の生細胞の比率を比較する、
ステップを含んでいる。
【0064】
例えば、被検化合物の不在下オリゴマー構造体と接触させた対応する培養液と比較したとき、培養液中の生細胞の比率が増大した場合はオリゴマー構造体の神経毒性をブロックする化合物が同定される。例えば、被検化合物の不在下オリゴマー構造体と接触させた対応する培養液と比較したとき、培養液中の生細胞の比率が低下した場合はオリゴマー構造体の神経毒性を増大する化合物が同定される。
【0065】
本発明の方法は、被験材料中にADDLを(例えば研究、診断及び/又は治療の一部分として)検出するのにも利用できる。例えば、ADDLは血清飢餓B103細胞の迅速な形態の変化を起こさせかつADDLはこれら細胞中のFynキナーゼの活性をADDLによる処置をしてから30分間以内に活性化する(データは示していない)。またADDLは、Fynとフォーカルアドヒージョンキナーゼ(FAK)の複合体の迅速な形成(Zhang et al.(1996) Neurosci.Lett.,vol.211,pp.1-4)及びいくつものリン酸化タンパク質とFyn-Fak複合体のトリトン不溶性画分へのトランスロケーション(Breg et al.(1997) J.Neurosi.Res.,vol.50,pp:979-989)も誘発する。これは、Fynと他の活性化信号伝達経路がADDLによって誘発される神経変性プロセスに関与していることを示唆している。このことは、機能性fyn遺伝子を欠いていてADDLを添加してもビークル対照物(vehicle control)と比べて神経毒性を全く増大しない、遺伝子を変化させたマウス由来の脳スライス培養液の実験で確認された。
【0066】
したがって、すなわちADDLに作用することによってFynの機能の1又は2以上又はFynのリローカライゼーション(relocalization)をブロックする化合物は、アルツハイマー病の重要な神経保護薬物である。同様に、ADDLを一次神経膠星状細胞の培養液に添加すると、この細胞は活性化されるようになりそしてIL-1、誘導可能一酸化窒素シンターゼ、アポE、アポJ及びα1−抗キモトリプシンを含むいくつものタンパク質のmRNAが増大するようになる。これらの現象は、本発明に従って、被検材料中にADDLタンパク質集合体を検出する方法に利用することが望ましい。この方法は任意に下記ステップ:
(a) 被検材料を抗体(例えば6E10抗体又は他の抗体)と接触させ、次いで
(b) その抗体のオリゴマー構造体との結合を検出する、
ステップを含んでいる。
【0067】
同様に、望ましくは
(a) 被検材料を血清飢餓神経芽細胞腫細胞(例えばB103神経芽細胞腫細胞)と接触させ、次いで
(b) 前記細胞の形態の変化を、前記細胞の形態を被検材料と接触させなかった神経芽細胞腫細胞と比較することによって測定する、
方法を利用できる。
【0068】
好ましくは、
(a) 被検材料を脳スライス培養液と接触させ、次いで
(b) 脳細胞の死を、被検材料と接触させなかった脳スライスの培養液と比較して測定する、
方法も利用できる。
【0069】
さらに望ましくは、
(a) 被検材料を神経芽細胞腫細胞(例えばB103神経芽細胞腫細胞)と接触させ、次いで
(b) fynキナーゼの活性の増大を、前記細胞のfynキナーゼの活性を前記被検材料と接触させなかった神経芽細胞腫細胞のfynキナーゼの活性と比較することによって測定する、
方法を実施できる。
【0070】
詳しく述べると、fynキナーゼの活性は、市販のキット(例えば米国マサチューセッツ州ケンブリッジ所在のOncogene Research Productsから入手できるKit#QIA-28)を使って又はBorowski et al.(1994) J.Biochem. (Tokyo), vol. 115, pp:825-829に記載されているのと類似の検定法を使用して比較できる。
【0071】
被検材料中のADDLを検出する方法のさらに別の好ましい実施態様の方法は、望ましくは下記ステップ:
(a) 被検材料を一次神経膠星状細胞の培養液と接触させ、次いで
(b) その神経膠星状細胞の活性化を、被検材料と接触させなかった一次神経膠星状細胞の培養液と比較して測定する、
ステップを含んでいる。
【0072】
この方法の一変形は任意に下記ステップ:
(a) 被検材料を一次神経膠星状細胞の培養液と接触させ、次いで
(b) インターロイキン-1、誘導可能一酸化窒素シンターゼ、アポE、アポJ及びα1-抗キモトリプシンからなる群から選択されるタンパク質のmRNAの神経膠星状細胞内での増大を、神経膠星状細胞内のmRNAのレベルを被検材料と接触させなかった一次神経膠星状細胞の培養液内の対応するmRNAのレベルと比較することによって測定する、
ステップを含んでいる。
【0073】
勿論、他の検定法、及び特に本願の開示内容から当業者には明らかな上記検定法のさらなる変形もある。
【0074】
したがって、明らかに本発明のADDL類は生体外で有用である。このようなADDL類はとりわけ、ADDLの結合及び細胞内での相互作用の研究並びにADDLの活性の検定方法の研究用具として使用できる。同様に、ADDL、並びにADDLの生成、活性及び調節の研究は生体内で利用できる。
【0075】
特に、本発明の方法を使って同定される化合物は、認識又は学習の欠損をもたらし(すなわち記憶不全のため)及び/又は記憶自体の欠損をもたらす多種類の疾患、障害又は症状のどれを治療するのにも使用できる。このような治療又は予防は、ADDLの生成及び/又は活動を防止する化合物又はADDLが相互に作用する細胞因子(例えばいわゆる「下流」事象)を調節する(望ましくはADDLに作用する結果ADDLの活性を増大又は低下させる)化合物を投与することによって実施できる。このようなADDLに作用できる化合物は本願では「ADDL調節化合物]と呼称する。ADDL調節化合物は、負の方式で作用することがあるだけでなく、場合によって好ましくはADDLの生成及び/又は活動を増大するために利用される。
【0076】
望ましくは生体内で利用される場合、本発明の方法は、ADDLタンパク質集合体の作用によって認識、学習又は記憶が減退しないように動物を保護するのに利用できる。この方法はADDLの生成又は活性をブロックする化合物を投与することで構成されている。同様に、ADDLの生成及び/又は活性のため認識、学習及び/又は記憶の欠損が生じたときの程度まで、その欠損が、ADDLの活性(及び/又は生成)が一旦ブロックされた後に反転又は回復することがある。したがって、本発明は、好ましくは、本発明のオリゴマー構造体の作用による動物の認識、学習又は記憶の減退を反転(又は回復)させる方法を提供するものである。この方法は好ましくはADDLの生成又は活性をブロックすることを含んでいる。したがって、本発明は望ましくは、長期増強中、本発明の可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体の作用のため起こる神経細胞の減少を反転させる(及び長期増強中、本発明の可溶性非フィブリルアミロイドβオリゴマー構造体の作用のため神経細胞を減少しないように保護する)方法を提供するものであり、その方法は、細胞をオリゴマー構造体の生成又は活性をブロックする化合物と接触させるステップを含んでいる。
【0077】
特にこの方法は、望ましくは、認識、学習及び/又は記憶の欠損として現れかつADDLの生成又は活動が原因である疾患、障害又は症状、特にアルツハイマー病、成人ダウン症候群(すなわち40歳を超えた成人)及び老年性痴呆からなる群から選択される疾患、障害又は症状の治療又は予防に利用できる。
【0078】
またこの方法は、望ましくは、疾患、障害又は症状自体が発生する前に現れかつ疾患、障害又は症状自体の発生に寄与するか又は最終的に疾患、障害又は症状自体になる細胞の活性、認識、学習及び記憶に対する早期の有害作用を治療又は予防するのに利用できる。特にこの方法は好ましくは、ADDLの生成又は活性の結果もたらされる神経細胞などの脳細胞の早期機能不全を治療又は予防するのに利用できる。同様に、好ましくはこの方法は、文献に記載されているような局限性記憶欠損(focal memory deficit)(FMD)(例えばLinn et al.(1995) Arch.Neurol.,vol.52,pp.485-490参照)の原因がADDLの生成と活性であるとき、そのFMDを治療又は予防するのに利用できる。この方法はさらに望ましくは、ADDLが誘発する異常なニューロン信号伝達、高次書字能力の欠陥(例えばSnowdon et al.(19996) JAMA,vol.275,pp.528-532参照)又はADDLの生成又は活性の結果起こる長期増強時(又は長期増強を行っていない場合)の他の高次認識機能の減退を治療又は予防するのに利用できる。
【0079】
本発明によって、「ADDLが誘発する異常なニューロン信号伝達」は各種の手段で測定できる。例えば正常なニューロン信号伝達の場合(及び長期増強応答の見られる場合)、とりわけFynキナーゼが活性化されていなければならないようである。FynキナーゼはNMDAチャネルをリン酸化しなければならず(Miyakawa et al.(1997) Science,vol.278,pp.698-701;Grant(1996) J.Physiol.Paris,Vol.90,pp.337-338)そしてFynは適当な細胞部位に存在していなければならない(これは、例えばADDLが誘発する特定の細胞骨格の再編成時に起こるFyn-FAK複合体の形成によって妨害されることがある)。これに基づいて、ADDLが誘発する異常なニューロン信号伝達(ADDLによる細胞経路の異常な活性化で誘発される信号伝達の機能不全)及びその知識は、当業者にとって明らかなように、本発明の方法に利用できる。例えば、ADDLが誘発する異常な細胞信号伝達は、(例えばADDL調節活性について試験される化合物の存在下又は不在下でさらに行われる神経細胞とADDLの接触の結果として)、当業者には明らかな尺度例えばFynキナーゼの活性化(又はその変化)、Fyn-FAK複合体の生成(又はその変化)、細胞骨格の再編成(又はその変化)、Fynキナーゼの細胞レベル以下の局在化(又はその変化)、FynキナーゼによるNMDAチャネルのリン酸化(又はその変化)を利用して評価できる。
【0080】
さらに、本発明の方法を使って同定される化合物を使用する代わりに、生体外及び生体内で特定の効果があることが分かっている化合物を利用して上記治療法でADDLに作用させることができる。すなわち、アミロイドの生成を(必ずしも必要ではないが)2相のプロセスとしてモデル化することができる。第一相で、アミロイド前駆体タンパク質例えば695個のアミノ酸のアミロイド前駆体タンパク質(Kang et al.(1987) Nature,vol.325,pp.733-736)又は751個のアミノ酸のアミロイド前駆体タンパク質(Ponte et al.(1988) Nature,vol.331,pp.525-527)の産生が開始され、これら各タンパク質はその配列内にGlenner et al.の米国特許第4,666,829号によって同定された約4kDaのβアミロイドコアタンパク質の配列を有している。第二相では、アミロイドのプロセシング及び/又は高分子量構造体(例えばフィブリル又は分子量がβアミロイドモノマーより大きくかつ斑点およびプレ斑点よりかなり小さい構造体を含むβアミロイドの別の構造体)中への沈着が起こる。いくつかの化合物はこれらの相の一方又は両方に作用すると考えられる。いくつかの化合物の場合、有害な作用があるが、阻害の根源がタンパク質の産生にあるのか又はアミロイドのプロセシング及び/又は沈着に有るのか明らかでない。
【0081】
したがって、本発明に関連があるのは、第一相もしくは第二相で又は両方の相で作用する化合物である。詳しく述べると、第二相を調節する化合物はADDLに作用させるのに特に有用であり、ADDLの調節に依存する治療で使用できる。高分子量構造体中へのアミロイドの沈着を調節する(例えばブロックする)化合物としては、限定されないが、βアミロイドモノマーの、高分子量構造体特にフィブリル中への取り込みを調節する(特に阻害する)化合物がある。したがって、望ましくは本発明に従って、βアミロイドモノマーの、高分子量構造体への取り込みを阻害する化合物特にフィブリル生成を阻害することが分かっている(したがってβアミロイドの、高分子量構造体への取り込みを阻害することを確認されている)化合物を、本発明の方法に従って利用し、ADDLの生成及び/又は活動に対する阻害作用を(すなわちADDLの生成を減らすことによって)発揮させることができる。勿論、このように使用する前に、ADDLに作用する調節剤の性能を、例えば本発明の方法を使って確認することが好ましい。望ましくは本発明で使用できる公知の調節剤を以下に説明するが、他の類似の調節剤も利用できる。
【0082】
第二相で作用する化合物に関連して、PCT国際特許願公開第WO 96/39834号及びカナダ特許願第2222690号は、アミロイド又はアミロイド様の沈着物を生成するタンパク質又はペプチド上の疎水性構造決定因子と相互に作用することができ、その結果、タンパク質やペプチドの、アミロイドとアミロイド様の沈着物への異常な折りたたみを阻害し構造的にブロックする新規なペプチドに関するものである。詳しく述べると、'834号特許願公開は、約3個〜約15個のアミノ酸残基の配列を含みかつ少なくとも3個のアミノ酸の疎水性クラスターを有する阻害性ペプチドに関し、これら残基のうち少なくとも一つはPro、Gly、Asn及びHisから選択されるβシート形ブロッキング性アミノ酸残基であり、そしてこの阻害性ペプチドはタンパク質又はペプチド上の構造決定因子と会合してアミロイド又はアミロイド様の沈着物中への異常なフィリング(filling)を構造的にブロックして阻害できる。
【0083】
PCT国際特許願公開第WO95/09838号は一連のペプチド性化合物及びβアミロイドペプチドの異常な沈着を予防するためのこれら化合物の患者への投与に関する。
【0084】
PCT国際特許願公開第WO98/08868号は、天然のβアミロイドペプチドの凝集を調節するペプチドに関する。これらペプチド調節剤は、3個〜5個のD-アミノ酸残基を含有しそしてD-ロイシン、D-フェニルアラニン及びD-バリンからなる群から選択される少なくとも二つのD-アミノ酸残基を含んでいる。
【0085】
同様にPCT国際特許願公開第WO96/28471号は、少なくとも一つの修飾基(例えば環式、複素環式もしくは多環式の基を含有し、シス-デカリン基を含有し、コラニル構造を含有し、コリル基であり、ビオチン含有基、フルオレセイン含有基などを含有する)に直接又は間接的に結合されたアミロイド形成性のタンパク質又はそのペプチドフラグメント(例えばトランスチレチン、プリオンタンパク質、島アミロイドポリペプヂド、心房性ナトリウム利尿因子、カッパ軽鎖、ラムダ軽鎖、アミロイドA、プロカルシトニン、シスタチンC、β2-ミクログロブリン、アポA-1、ゲルゾリン、プロカルシトニン、カルシトニン、フィブリノーゲン及びリゾチーム)を含むアミロイド調節化合物に関し、その化合物は、これら天然のアミロイド形成性タンパク質又はペプチドと接触させると、天然のアミロイドのタンパク質又はペプチドの凝集を調節する。
【0086】
またPCT特許願公開第WO97/21728号は、重合を起こすのに必要なアミロイドβのLys-Leu-Val-Phe-Phe(KVLFF)配列を取り込むペプチドに関する。この配列を取り込むペプチドはアミロイドβに結合してフィブリルの生成をブロックできる。
【0087】
非ペプチド試薬に関連して、PCT国際特許願公開第WO97/16191号は、下記式:
【化1】

(式中、R1とR2は水素、ハロ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシ、トリフルオロメチル、アルキル、アルコキシ及びアルキルチオであり、R3は水素又はアルキルであり、そしてR4はアルキレン-NR5R6(式中、R5とR6は水素、C1-C4アルキルであるか又はそれらが結合している窒素原子と結合するとピペリジル又はピロリジニルになる))で表わされる9-アクリジノン化合物又はその医薬として許容できる塩を投与することによって動物内でアミロイドタンパク質が凝集するのを阻害する薬剤に関する。この開示された化合物は、すでに抗菌剤及び抗腫瘍剤として(米国特許第4,626,540号)並びに抗腫瘍剤として(Cholody et al.(1990) J.Med.Chem.,vol.33,pp.49-52;Cholody et al.(1992) J.Med.Chem., vol.35,pp.378-382)同定されていた。
【0088】
PCT国際特許願公開第WO97/16194号は、下記式:
【化2】

(式中、R1とR2は独立して水素、アルキル、置換アルキル又は完全複素環リングであり、R3は水素又はアルキルであり、R4、R5、R6及びR7は限定されないが水素、ハロ、アルキル及びアルコキシを含む置換基である)で表わされるナフチルアゾ化合物を投与することによって動物内でアミロイドタンパク質が凝集するのを阻害する薬剤に関する。
【0089】
日本国特許第90095444号は、下記式:
【化3】

(式中、RはOH又はCOOR4(アリール、複素環、COR5、CONHR6又はシアノで任意に置換されている)で置換された1-5炭素のアルキル;R4はH又は1-10炭素のアルキル、3-10炭素のアルケニル、3-10炭素の環式アルキル(すべて任意に置換されている)であり;R5とR6は任意に置換されたアリール又は複素環であり;R1とR2はH、1-5炭素のアルキル又はフェニルであり;R3は水素、1-5炭素のアルキル又はCOR7であり;R7はOR’、-R”又は-N(R''')2であり;R’、R”、R'''は1-4炭素のアルキルである)で表わされるチオナフタレン誘導体を含む、アミロイドタンパク質の凝集及び/又は沈着を阻害する薬剤に関する。
【0090】
日本国特許第7309760号とPCT国際特許願公開第WO95/11248号は、特別のリファマイシンの誘導体である、アミロイドβタンパク質の凝固及び/又は沈着の阻害剤に関する。日本国特許第7309759号は、特別のリファマイシンSVの誘導体である、アミロイドβタンパク質の凝固及び/又は沈着の阻害剤に関する。日本国特許第7304675号は、特別の3-ホモピペラジニル-リファマイシンの誘導体である、アミロイドβタンパク質の凝集及び/又は沈降の阻害剤に関する。
【0091】
日本国特許第7247214号は、βアミロイドの生成又は沈着の阻害剤として採用できるピリジン誘導体及びその塩又はプロドラッグに関する。
【0092】
米国特許第5,427,931号は、アミロイド斑の沈着を阻害するのに有効な量のプロテアーゼ ネキシン-2又はそのフラグメントもしくは類似体を哺乳類に投与することを含んでなる哺乳類中のアミロイド斑の沈着を阻止する方法に関する。
【0093】
第一又は第二の相で作用する (すなわち作用部位が不明である) 化合物に関連して、PCT国際特許願公開第WO96/25161号は、下記式:
【化4】

(式中、リングAは任意に置換されたベンゼンリングであり;RはOR1
【化5】

又はSR1であり(式中、R1、R2及びR3は同じでも異なっていてもよく、各々水素原子及び任意に置換された炭化水素基から選択されるか又はR2とR3は隣接する窒素原子と結合して任意に置換された窒素含有複素環基を形成する);そしてYは任意に置換されたアルキル基である)で表わされる化合物又はその医薬として許容できる塩を含有し、必要に応じて医薬として許容できる添加剤、担体もしくは賦形剤を含有する、アミロイドβタンパク質の産生もしくは分泌を阻害する医薬組成物に関する。勿論、これらの及び他の公知の調節剤(modulator)(例えば第一相又は第二相の)を本発明で使用することが好ましい。ゴシポール及びゴシポール誘導体を採用することも好ましい。さらに、ADDLの活性に作用する性能を有する調節剤を利用することが考えられる(例えばPCT国際特許願公開第WO93/15112号及び同第WO93/26913号)。
【0094】
またADDL自体、治療にも利用できる。本願に記載のこれら新規の集合体は、恐らく治療に利用できる、細胞に対する多くの予想外の作用を有することが発見されたのである。例えば、ADDLは内皮細胞を活性化し、その内皮細胞はとりわけ血管細胞と相互に作用することが知られている。これらのことから、ADDLは例えば創傷の治療に利用できる。一例としてあげると、ボツリヌス毒素A型(BoTox)は、細菌のクロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)が産生する神経筋接合部ブロッキング剤であり、神経伝達物質のアセチルコリンの分泌をブロックすることによって作用する。BoToxは筋緊張異常を含む能力低下筋肉痙攣の治療に有益であることが証明されている。ADDL自体は、神経細胞の機能を支配するか又は標的の神経細胞を選択的に破壊する(例えば中枢神経系の特に脳のがんの場合)ために理論的に利用できる。ADDL類は、この点について、細胞に対し著しく早く作用する場合及びその細胞に対する作用(その細胞を殺す作用は別として)が可逆的のようである場合、一層有利のようである。
【0095】
先に考察したように、本発明のADDL調節化合物すなわち高分子量構造体及びADDL自体に対するアミロイドβの取り込みに作用することが分かっている化合物は、生体外又は生体内で細胞に接触させるのに利用できる。本発明によれば、細胞はいずれの細胞でもよいが真核細胞が好ましい。典型的な真核細胞は、その一生のある段階で核膜で囲まれた核を有している細胞である。真核細胞としては、多細胞種の細胞(例えば単細胞の酵母細胞とは対照的に)が好ましく、そして哺乳類(任意にヒト)の細胞がさらに一層好ましい。しかし、上記方法は、広範囲の異なる細胞型例えば鳥の細胞及び哺乳類の細胞(限定されないが、げっ歯類;チンパンジー、サル、類人猿、ゴリラ、オランウータン又はテナガザルなどの霊長類;ネコ;イヌ;反芻動物もしくは豚などの有蹄類を含む)並びに特にヒトの細胞を使用して有効に実施できる。好ましい細胞型は、脳内で形成される神経細胞及びグリア細胞を含む細胞である。本発明の特に好ましい細胞型は神経細胞(正常又は異常の例えば形質転換細胞又は癌性細胞)である。その神経細胞は、組織培養で利用する場合、神経芽細胞腫細胞が望ましい。
【0096】
細胞は、単独の独立体として存在していてもよく又は細胞の大きな集団の一部であってもよい。このような「細胞の大きな集団」としては、例えば細胞培養液(混合培養液もしくは純培養液)、組織(例えば神経組織などの組織)、器官(例えば脳などの器官)、器官系(例えば神経系などの器官系)又は生物(例えば哺乳類など)が有る。本発明に関連して重要な器官/組織/細胞は好ましくは中枢神経系の器官/組織/細胞(例えば神経細胞)である。
【0097】
また本発明によれば、「接触」にはこれら薬剤を細胞に物理的に接触させる手段が含まれる。この方法は、導入するための特定の手段に依存しておらずかつそのようにみなすべきではない。導入手段は当業者にはよく知られており、また本願に例示されている。したがって、導入は、例えば生体外で(例えばエキソビボ型治療法もしくは組織培養試験で)又は生体内で実施できる。当業者に知られている他の方法も利用できる。
【0098】
上記「接触」は、当業者に知られていてかつ本願に記載されている手段で行なうことができ、その手段でADDLとADDL調節化合物と細胞の明確な接触(apparent touching)又は相互接触を実施できる。例えば、接触は、これら要素を同じ溶液の小容積で混合して行うことができる。任意に、これら要素はさらに、例えば当業者に知られている化学的手段などの手段によって共有結合させることができ又は好ましくは非共有相互作用(例えばイオン結合、水素結合、ファンデルワールス力及び/又は非極性相互作用)で連結することができる。他の方法と比較してみると、例えばADDL又はADDL調節化合物を宿主に投与してその複合体はそれが結合する細胞に向かって血液又は脳脊髄液のような他の体液によって移動する場合のように、作用を受ける細胞とADDL又はADDL調節化合物は必ずしも小容積で接触させる必要はない。細胞とADDL又はADDL調節化合物との接触は場合によって、対象の別の化合物を投与する前、投与と同時に又は投与した後に行う。この接触は、同時に投与した薬剤がその効果を細胞又はADDLに対し同時に発揮するように少なくともいくらかの時間をかけて行うことが望ましい。
【0099】
治療及び/又は診断、研究又は試験を目的として、本発明の薬剤(例えばADDL又はADDL調節化合物)を動物に投与する適切な方法は入手することができ、そして投与には1以上の経路を使えるが特定の経路が他の経路より即座で有効な反応を提供できることは、当業者は分かっているであろう。医薬として許容できる添加剤も、当業者によく知られており容易に入手できる。添加剤の選択はその薬剤を投与するのに使用される特定の方法によってある程度決まる。したがって本発明に関連して使われる適切な配合物は種類が多い。以下の方法と添加剤は単なる例であり本発明を限定するものではない。
【0100】
経口投与に適切な配合物は、(a) 液状水剤、例えば水、食塩水又はオレンジジュースなどの賦形剤に溶解した有効量の化合物;(b) カプセル剤、サシェ剤又は錠剤(各々予め定められた量の有効成分を固形分又は顆粒として含有している);(c) 適当な液体の懸濁剤;および(d) 適切な乳剤からなっている。錠剤は、ラクトース、マンニトール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド二酸化ケイ素、クロスカルメロース(croscarmellose)ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及び他の添加剤、着色剤、賦形剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、着香剤及び薬理学的に適合している添加剤の中の一種又は二種以上を含有している。トローチ剤は香料と通常スクロースとアラビアゴム又はトラガント中に有効成分を含有しており、パステル剤は不活性ベース例えばゼラチンとグリセリン中に有効成分を含有しており、乳剤、ゲル剤などは有効成分に加えて当該技術分野で公知の賦形剤を含有している。
【0101】
本発明の薬剤は、単独で又は他の適切な成分と組み合わせて、吸入で投与されるエーロゾル配合物を製造することができる。これらエーロゾル配合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの許容できる加圧噴射剤中に入れることができる。またこれら配合物は、ネブライザー又はアトマイザーなどに使う非加圧製剤用医薬としても配合できる。
【0102】
非経口投与に適した配合物は本発明によって選択され、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬及び配合物を予定されている受容者の血液と等張にする溶質を含有していてもよい水性及び非水性の滅菌等張注射液、並びに懸濁化剤、可溶化剤、粘稠化剤、安定化剤及び保存剤を含有していてもよい水性及び非水性の懸濁剤がある。これらの配合物は、ユニット投与量又はマルチ投与量が密封される容器例えばアンプル及びバイアルに入れることができ、そして滅菌液状添加剤例えば水を、注射するため使用直前に添加することだけが必要な凍結乾燥状態で保存できる。先に述べた種類の滅菌された散剤、顆粒剤及び錠剤から、必要に応じて調合される注射液及び懸濁剤を調製できる。
【0103】
本発明に関連して動物特にヒトに投与される投与量は、対象の薬剤、利用される組成物、投与方法及び治療される特定の部位や生物によって変化する。しかし、好ましくは薬剤(例えば本発明のADDL又はADDL調節化合物)の有効量に相当する投与量が採用される。「有効量」は宿主に所望の効果を起こすのに充分な量であり、当業者に知られているいくつかの終点を使って監視できる。所望の効果のいくつかの例としては、限定されないが、学習、記憶、LTP応答、神経毒性、ADDLの生成、ADDLと細胞表面タンパク質(例えば受容体)の結合、抗体の結合、細胞の形態の変化、Fynキナーゼの活性、神経膠星状細胞の活性化、及びインターロイキン-1、誘導可能一酸化窒素シンターゼ、アポE、アポJ及びα1-アンチキモトリプシンなどのタンパク質のmRNAのレベルの変化に対する効果がある。上記の諸方法は全部を網羅したものではなく特定の用途に適切な別の方法は当業者であれば分かるであろう。
【0104】
さらに特定の用途(例えば生体外又は生体内の用途)におけるADDL又はADDL調節化合物の実際の投与量と投与スケジュールは、その組成物が他の医薬組成物と組み合わせて投与されるかどうか又は薬物動態、薬物素因及び代謝の個体間の差によって変えることができる。同様に、生体外の用途での量は、利用される特定の細胞型又はADDLもしくはADDL調節化合物を培養液に移すのに使う手段又は溶液によって変えることができる。当業者は、特定の状態の要求に従って必要な調節を容易に行うことができる。
【0105】
特定の化合物を使用する場合、その化合物(すなわち薬剤)を医薬組成物として脳に直接又は間接的に導入することが望ましいか又は一層必要である。直接法としては、限定されないが、宿主の脳室系に薬物送達カテーテルを配置して血液脳関門をバイパスする方法がある。間接法としては、限定されないが、薬物が血液脳関門を通過できるようにする当該技術分野で公知の方法を使って(例えば薬物に存在しているヒドロキシル基、カルボキシル基及び第一級アミン基を保護することによって)親水性薬物を脂溶性薬物に変換するように組成物を配合する方法がある。さらに親水性薬物の送達は、例えば血液脳関門を一時的に開く高張液(又は他の溶液)を動脈内に注入することによって改善できる。
【0106】
上記説明(及び下記説明)は単に例示しただけである。本発明の方法と構成要素の他の用途は当業者には明らかであろう。したがって、以下の諸実施例は本発明をさらに説明するが、勿論、発明の範囲を限定するとみなすべきではない。
【実施例】
【0107】
実施例1
アミロイドβオリゴマーの製造
本発明に従って、ADDLは、1mgの固体アミロイドβ1-42(例えばLambert et al.(1994) J.Neurosci.Res.,vol.39,pp.377-395に記載されているようにして合成したもの)を44μLの無水DMSOに溶解して調製した。次にこの5mM溶液を冷(4℃)F12培地(Gibco BRL,Life Technologies米国メリーランド州ガイサーズブルグ所在)で全容積2.20mLまで希釈し(50倍希釈)次いで約30秒間攪拌した。得られた混合物を約0℃〜約8℃で約24時間インキュベートし続いて約4℃にて14000gで約10分間遠心分離した。得られた上澄み液を、特定の合成培地で1:10〜1:10,000の倍率で希釈した後、脳スライスの培養液、細胞培養液又は結合タンパク質の製剤とともにインンキュベートした。しかし一般に、ADDLは100μMの濃度のAβタンパク質で製造した。一般に、実験に使用される最高の濃度は10μMでありそして場合によってはADDL(初期のAβ濃度として測定される)は1nMまで(例えば細胞培養培地で)希釈した。原子間力顕微鏡法(AFM)で分析するため、前記1:100希釈液20μL分を新たにへき開した雲母ディスクの表面に塗布して分析した。他の操作は以下に説明したとおりであるか又は明らかである。
【0108】
あるいは、ADDLの製造は、下記成分:N,N-ジメチルグリシン(766mg/L)、D-グルコース(1.802g/L)、塩化カルシウム(33mg/L)、硫酸銅5水和物(25mg/L)、硫酸鉄(II)7水和物(0.8mg/L)、塩化カリウム(223mg/L)、塩化マグネシウム(57mg/L)、塩化ナトリウム(7.6g/L)、重炭酸ナトリウム(1.18g/L)、リン酸水素二ナトリウム(142mg/L)及び硫酸亜鉛7水和物(0.9mg/L)を含有する緩衝液で、F12培地を置換した(すなわち「置換F12培地」)ことを除いて先に述べたのと同様にして実施した。この緩衝液のpHは、0.1M 水酸化ナトリウムを使って8.0に調節した。
【0109】
実施例2
アミロイドβオリゴマーの架橋
グルタルアルデヒドを各種の生化学系に使用して成功した。グルタルアルデヒドは、高濃度のモノマータンパク質との非特異的反応とは対照的に直接接触しているタンパク質を架橋する傾向がある。この実施例では、グルタルアルデヒドが支配するアミロイドβの架橋反応を研究した。
【0110】
置換F12培地を使い実施例1に記載したようにして、オリゴマーを製造した。遠心分離によって(場合によっては分別によって)得た上澄み液を、グルタルアルデヒドの25%水溶液(Aldrich, 米国ミズーリ州セントルイス所在)0.22mLで処理し続いて0.1M NaOH中0.175Mの水素化ホウ素ナトリウム0.67mLで処理した(Levine,Neurobiology of Aging,1995の方法に従って)。得られた混合物を4℃で15分間攪拌し次に20%スクロース水溶液1.67mLを添加してクエンチした。得られた混合物をSpeedVacで5倍濃縮を行い次に透析して1kDより小さい成分を除いた。得られた物質をSDS PAGEで分析した。ゲル濾過クロマトグラフィーを次のように実施した。すなわち、Superose 75PC 3.2/3.0カラム(Pharmasia,スエーデン ウプサラ 所在)を、流量が0.02mL/minの濾過して脱ガスした0.15%炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH=7.8)で室温にて18時間平衡化した。流量を0.04mL/minに変更して20mLの溶媒を溶離させた。50マイクロリットルの反応溶液を上記カラムに注入し流量は0.04mL/minで再開した。化合物の溶離状態は220nmのUVを検出することで監視し、クロマトグラフィーの過程で0.5〜1.0mLの画分を収集した。UV吸光度の第三ピークに対応する第三画分が単離され、次いで4.9±0.8nmの球体(幅分析法による)を含有していることがAFMで証明された。この画分は、下記諸実施例で示すように、脳スライスのニューロンと接触させたとき高い神経毒性を示した。
【0111】
実施例3
ADDLのサイズ特性の決定
この実施例では、各種の方法(例えば未変性(native)電気泳動法、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、AFM、フィールドフローフラクショネーション、免疫認識法(immunorecognition)など)を使って行った、実施例1のようにして製造したADDLのサイズ特性の決定について述べる。
【0112】
AFMは、先に述べた(例えば、Stine et al.(1996) J.Protein Chem., vol. 15, pp. 193-203)のとほぼ同様に実施した。すなわち、xyレンジが150μのJ-スキャナーを使用するDigital Instruments(米国カリフォルニア州サンタバーバラ所在)のNanoscope III a Multimode Atomic force microscopeを使って画像を得た。Tapping Modeを、エッチングされたシリコンTESP ナノプローブ(Digital Instruments)を使って、すべての画像に採用した。Nanoscope III aソフトウェア及びIGOR Pro(商標)波形分析ソフトウェアを使ってAFMのデータを分析する。AFMの分析には、4μのスキャン(すなわち4μm x 4μmスケアの評価)を実施した。本願で報告する寸法はセクション分析法で得たものであり、幅分析法を採用した場合は幅分析法で得た価である旨明記する。セクション分析法と幅分析法は、Nanoscope III aソフトウェアの別個の分析モジュールの分析法である。一般に、ADDLを分析する場合、セクション分析法で得た大きさと幅分析法で得た大きさとの間に系統的な偏差がある。すなわち、4μスキャンの場合、セクション分析法では通常約0.5nm高い高さを示すので、前記球体の大きさについて得られる値に約0.5nmの偏差が生じる。
【0113】
ゲル電気泳動法による分析を15%ポルアクリルアミドゲルで実施し次いでクーマシーブルーで染色して可視化した。ADDLを、非変性条件(non-denaturing condition)下4-20%トリス-グリシンゲルで分割した(Novex)。電気泳動は20mAで約1.5時間行った。Zhang et al.(1994) J.Biol.Chem.,vol.269,pp.25247- 25250に記載されているようなSDS-PAGEによってタンパク質を分割した。次にタンパク質を、例えばSherchenko et al.(1996) Anal.Chem.,vol.68,pp.850-858に記載されているような銀染色法を使って可視化した。未変性ゲル及びSDSゲルの両者由来のゲルタンパク質を、Zhang et al.(1994) J.Biol.Chem.,vol.269, pp.25247-25250に従ってニトロセルロースの膜に移した。免疫ブロット法をビオチニル化6E10抗体(Senetak Inc.,米国ミズーリ州セントルイス所在)で1:5000にて実施し次いでECL(Amersham)を使って可視化した。一般に、ゲルはデンシトメーターを使用して走査した。これによってゲルのコンピュータ作成画像(computer-generated image)が得られた(例えばゲル自体の写真に対して)。
【0114】
AFMセクション分析法(例えば、Stine et al.(1996) J.Protein Chem., vol. 15, pp. 193-203に記載されているような)又は幅分析法(Nanoscope III ソフトウェア)によってADDLのサイズ特性決定を行ったところ、優勢な種はZ軸にそった約4.7nm〜約6.2nmの球体であることを示した。小球体のタンパク質(Aβ1-40モノマー、アプロチニン、bFGF、カルボニックアンヒドラーゼ)と比較して、ADDLは質量が17-42kDであることが示唆された。別個の種と考えられるものを認識できる。これらは、寸法が、約4.9nm-約5.4nm、約5.4nm-約5.7nm及び約5.7nm-約6.2nmの球体に相当するようである。寸法が約4.9nm-約5.4nm及び約5.7nm-約6.2nmの球体が球体の約50%を占めているようである。
【0115】
AFM分析法と同様に、ADDLのSDS-PAGEブロット法は、約17kD〜約22kDのAβオリゴマーを同定したが、多量の4kDのモノマーを含有しておりこれは恐らく分解産物である。この解釈と一致して、ADDLの非変性ポリアクリルアミドゲルは、30kD近傍の主要バンドと余り多量でない約17kDのバンドを含有しフィブリル又は凝集体の形跡が全くない少量のモノマーを示している。銀染色未変性ゲルとクーマシー染色SDS-ポリアクリルアミドゲルそれぞれのコンピュータ作成画像を図1と図2に示してある。SDSゲルと非変性ゲルが一致しているのは、ADDLのオリゴマーの大きさが小さいことは界面活性剤の作用が原因でなかったことを確認している。ADDL製剤に見られるオリゴマーは、使用されるクラステリン(clusterin)の濃度が低いことから(Aβの1/40であるのでAβと会合して1:1Aβ-クラステリン複合体になることが阻止される)予想されるように、クラステリンより小さかった(変性ゲル中、Mr 80kD、40kD)。
【0116】
本発明のADDL製剤を,Superdex 75カラム(Pharmacia,Superose 75PC3.2/3.0カラム)で分画した。ADDLを含有する画分は、UVを吸収しカラムから溶離する第三画分であり、AFM法及びSDS-ポリアクリルアミド電気泳動法で分析した。第三画分の代表的なAFM分析結果を図3に示す。分画によって均質性の高いADDLが得られ、その球体の大部分の寸法は約4.9nm〜約5.4nmであった。上記画分のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は、Aβのモノマー/ダイマー型に相当するヘビーローワーバンド(heavy lower band)を示した。ADDLの未分画製剤で観察されたように、これはADDLの分解産物のようである。画分を多量に負荷すると大寸法の広いバンド(恐らくダブレット)が現れた。これは、非フィブリルオリゴマーのAβ構造体のSDSに対する安定性をさらに確認している。
【0117】
実施例4
アミロイドβのクラステリンによる処理
フィブリル構造体が毒性型のAβを示していると提唱されているが(Lorenzo et al.(1994) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.91,pp.12243-12247;Howlett et al.(1995) Neurodegen.,vol.4,pp.23-32)、Aβ1-42が「アポJ」としても知られているクラステリンの低投与量とともにイキュベートされると、沈降性フィブリルとして挙動しない新規の神経毒が生成する(Oda et al.(1995) Exper.Neurol.,vol.136,pp.22-31;Oda et al.(1994) Biochem.Biophys.Res.Commun.,vol.204,pp.1131-1136)。これらのゆっくり沈降する毒素が小さいフィブリル又は新生フィブリルを依然として含有しているかどうかを試験するため、クラステリンで処理したAβ製剤を原子間力顕微鏡法で検査した。
【0118】
クラステリンによる処理は、実施例1で述べたインキュベーションにおけるクラステリンを添加することによって、基本的にOda et al.(1995) Exper. Neurol.,vol.136,pp.22-31に記載されているように実施した。あるいは、出発Aβ1-42はDMSOではなくて0.1N HClに溶解してもよくそしてこの出発Aβ1-42は最初にフィブリル構造であってもよい。しかし、室温37度で24時間クラステリンとともにインキュベートすると、ゆっくり沈降することから分かるようにほとんどフィブリルを含有していない製剤が生成した。このことは、クラステリンの添加量を増大するとフィブリルの生成が減少することを示す実験によって確認された。
【0119】
クラステリンによる処理で得られた製剤は、Superdex 75 ゲルカラムで分画したADDLを分析したときのAFM分析法で測定したところ大きさが約5-6nmの小球構造体を排他的に含有していた。従来の電子顕微鏡法でも同じ結果が得られた。対照的に、クラステリン不在下の標準状態で自己会合したAβ1-42(Snyder et al.(1994) Biophys.J.,vol.67,pp.1216-1228)は、主として大きくて非拡散性のフィブリル種を示した。さらに、生成したADDL製剤は、Centriconの10kDカットオフ膜を通過させ、次いでSDS-ポリアクリルアミド勾配ゲルで分析した。図4に見られるように、モノマーだけがCentricon 10フィルタを通過し、一方ADDLはこのフィルタに保持されている。分離されたのち見出されたモノマーは、このフィルタに保持された大分子量の種から生成されたものだけである。
【0120】
これらの結果は、毒性ADDL製剤はAβ1-42の小さいフィブリルなしのオリゴマーで構成されそしてADDLはアミロイドβの適当なクラステリン処理で得ることができることを確認している。
【0121】
実施例5
ADDLの生理的生成
実施例4に示した有毒成分はオリゴマーAβとクラステリンを含有する稀な構造体で構成されているのかもしれない。一方、Oda et al.(Exper.Neurol.,vol.136,pp.22-31)は、クラステリンがAβ1-42の溶液の毒性を増大することが発見されたと報告したが、他の研究者は、化学量論的レベルのクラステリンがAβ1-40の毒性に対して保護することを発見した(Boggs et al.(1997) J.Neurochem.,vol.67,pp.1324-1327)。したがって、クラステリン不在時のADDLの生成の特徴をこの実施例で確認した。
【0122】
モノマーAβ1-42の溶液を適当な培地中に低温で保持したとき、沈降性Aβフィブリルの生成はほとんど完全にブロックされた。しかし、Aβは、これらの低温溶液中で自己会合して、クラステリンが存在しているときとほとんど区別できないほどADDLを生成した。最後になるが、ADDLは、モノマーAβの溶液を、脳スライス培養培地中、37℃でしかし非常に低い濃度(50nM)でインキュベートしたときにも生成したが、これは生理的に生成する可能性を示している。ADDLの製剤はすべて、比較的安定でありかつ24時間の組織培養実験中フィブリルへの転化を全く示さなかった。
【0123】
これらの試験結果は、ADDLが生理的条件下で生成しかつ安定であることを確認しそしてADDLは同様に生体内で生成しかつ安定であることを示唆している。
【0124】
実施例6
ADDLは拡散性で極めて強力なCNS神経毒である
ADDLが、クラステリン、低温、又は低いAβの濃度で誘発されたことと関係なく、生成した安定なオリゴマーは強力な神経毒であった。毒性は、マウスの脳スライスの器官型培養液で検査したが、これは成熟CNSに対し生理的に関連があるモデルを提供する。脳組織は、保管中高い生存能力を維持するためフィルタによって大気と培地の界面に保持した。
【0125】
これら実験用の脳スライスは、B6129 F2系統とJR 2385系統のマウス(Jackson Laboratories,米国メイン州バーハーバー所在)から得て、修正して先に述べたようにして培養した(Stoppini et al.(1991) J.Neurosci.Meth.,vol.37,pp.173-182)。すなわち、成熟マウスを、二酸化炭素を吸入させ続いて迅速に頭を落として殺した。その頭部を、滅菌された冷解剖緩衝液(2mLの0.5M MgCl2、2mLの25%グルコース及び2mLの1.0M Hepesを補充した94mLのゲイの緩衝塩類溶液、pH7.2)に浸漬し、次いで脳を取り出してSylgardをコートした滅菌プレート上に置いた。小脳を取り出し次に正中切断を行い大脳半球を分離した。各半球を別々にスライスした。半球は、正中切断面を下にして置き背面に対し30°の角度でスライスして半球をオリエント(orient)した。その半球を切断側を下にしてCampden 組織チョッパーのプラスティックステージに接着し(事前にエタノールで拭いた)次いで氷冷滅菌緩衝液中に浸漬した。横から中央に向かって200μm厚のスライスをつくり、海馬が見えるスライスを集めた。
【0126】
各スライスを、滅菌ピペットの先端で、10% ウシ胎仔血清、2% S/P/F(ストレプトマイシン、ペニシリン及びフンギゾン;Life Technologies(Gibco,BRL)米国メリーランド州ゲイザズバーグ所在)を含有するダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)を入れた小ペトリ皿中に移し、顕微鏡で観察して海馬が存在することを確認し次いで深いウエル組織培養皿(Falcon,6ウエル皿)内のMillicell-CM インサート(Millipore)上に置いた。各ウエルには1.0mLの増殖培地が入っていて通常二つのスライスを各インサート上に置いた。スライスをインキュベーター(6%CO2,100%湿度)内に一夜置いた。増殖培地を取り出し、ウエルを1.0mLの温Hanks BSS(Gibco,BRL,Life Technologies)で洗浄した。アミロイドβオリゴマーを含有しかつ阻害化合物を含有又は含有しない合成培地(DMEM、N2 サプリメント、SPF、例えばBottenstein et al.(1979) Proc.Natl. Acad.Sci.,vol.76,pp.514-517に記載されている)を各ウエルに添加し次にインキュベーションを24時間続けた。
【0127】
細胞死を、LIVE/DEAD(登録商標)検定キット(Molecular Probes、米国オレゴン州ユージーン所在)を使って測定した。これは、生細胞が、カルセイン(calcein)-AMをカルセインに開裂させて緑色の蛍光を発するエステラーゼの存在で検出される二重ラベル蛍光検定法である。死んだ細胞はエチジウムのホモダイマーを吸収し、そのホモダイマーはDNAとインターカレートして赤色の蛍光を発する。この検定法を、製造業者の指示に従って、2μMのエチジウムホモダイマーと4μMのカルセインを使って実施した。エピ蛍光(epifluorescence)を備えたNikon Diaphot 顕微鏡を使って、30分以内に画像を得た。MetaMorph Image analysis system(Universal Imaging Corporation,米国ペンシルベニア州フィラデルフィア所在)を使用して緑色又は赤色の蛍光を示す細胞の数又は面積を定量した。
【0128】
これらの実験で、ADDLは、全Aβの最大5μMの投与量で24時間存在していた(すなわち全Aβは、どのADDL実験でも決して5μMを超えて高くしなかった)。「偽黄色染色」で示される細胞死はほとんど完全に、錐体層(CA 3-4)と歯状回(DG)に限定されていたが、これは、海馬の主ニューロン(錐体細胞と顆粒細胞それぞれ)がADDLの誘発する毒性の標的であることを強く示唆している。さらに、グリア細胞の生存能力は、トリパンブルー排除試験及びMTT検定法で測定すると、ラットの脳の一次グリア細胞のADDLによる24時間の処理で影響を受けない(Finch et al.未発表)。歯状回(DG)とCA3領域は特に敏感であり、加齢P20の動物(離乳期)〜加齢P84の動物(ヤングアダルト)から得たあらゆる培養液中にADDLが誘発する細胞死を示した。この領域の40%までがADDLに対する長期の暴露によって死んだ。ニューロンの死のパターンはNMDAについて観察されたパターンと同一ではなく、NMDAはDGとCA1のニューロンを殺したがCA3のニューロンを殺さなかった。
【0129】
20日齢を超えた動物の海馬のDG領域とCA3領域由来のいくつかの培養液を、フィブリルAβの通常の製剤で処理した。フィブリルが非拡散性であることと一致して、20μMでさえも明らかに全く細胞死が無かった(黄色染色)。この培養液中の生細胞の染色パターンによって、海馬のCA3/歯状回の領域が検査されていたことが確認された。通常のAβ(すなわちフィブリルAβ製剤)による処理の後に観察された細胞死の程度は、培養液が既定の培地又はクラステリンのサプリメントを含有する培地である負の対照と区別できなかった。典型的な対照の細胞死は5%未満であった。事実、対照の高い生存能力は、細胞の生存が標準の培養条件によって損なわれなかったことを確認する一般的な試験を超えて数日間維持した培養液中でさえも見られた。
【0130】
投与量応答試験を実施して、細胞死を誘発する際のADDLの効力を測定した。画像分析法を利用して、DG/CA3領域を含む領域の死んだ細胞と生細胞の染色を定量した。図5は、初期アミロイドβ1-42の濃度(nM)として測定したADDLの濃度に対する死んだ細胞の百分率を示す。脳のスライスを定量することは難しいので、試験結果はEC50を正確に確認するのに充分詳細に述べていない。しかし図5から分かるように、1000倍希釈した後でさえ(約5nMAβ)、ADDLが誘発する細胞死は20%を超えた。毒性は、0.3nMのADDLでさえも観察された。これは、約20-約50μMの培養液中のニューロンに対し毒性である通常の時間を経過した(aged)Aβで得た試験結果と対照的である。これらデータは、ADDLがフィブリルAβの実験で使った投与量のほぼ1/1000〜1/10,000の投与量で有効であることを示している。
【0131】
海馬スライスからのこれらデータはこのようにADDLの超毒性を証明している。さらに、ADDLは細胞死を起こすには培養液支持フィルタを通過しなければなかったので、上記結果は、ADDLが大きさの小さいオリゴマーであることから拡散性であることを証明している。また本願に記載の方法は、細胞の生存能力のADDLによる変化についての検定法としても利用できる。特にこの検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又は減少させる可能性がある薬剤をADDLとともに同時にインキュベートするか又は同時に投与することによって実施できる。かような同時インキュベーション又は同時投与で得た試験結果はADDLだけ含有させて得た試験結果と比較できる。
【0132】
実施例7
酸化ストレス毒性のMTT検定法−PC12細胞
この実施例では、アミロイドβオリゴマーに応答して毒性が早期に変化するのを検出するのに利用できる検定法を説明する。
【0133】
これらの実験では、PC12細胞を、96ウエル培養プレート上4x104細胞/ウエルで継代培養し、DMEM+10%うし胎仔血清+1% S/P/F(ストレプトマイシン、ペニシリン及びフンギゾン)中で24時間増殖させた。プレートを200μg/mLのポリ-l-リシンで2時間処理した後、細胞のプレーティングを行い細胞の接着性を高めた。6個のウエル一組を未処理のまま残し新しい培地を供給し、一方、別の一組のウエルをビークル対照(vehicle control)(0.01N HClを10%含有するPBS,aged o/n at RT)で処理した。正の対照を、トリトン(1%)とアジ化ナトリウム(0.1%)を含有する標準増殖培地で処理した。実施例1に記載したようにして製造したか又はクラステリンと同時にインキュベートして得たアミロイドβオリゴマーを、阻害化合物の存在下又は不在下、細胞に添加して24時間放置した。24時間のインキュベーションの後、MTT(0.5mg/mL)を細胞に添加して2.5時間放置した(PBS中、100μLの培地に可溶化した5mg/mlのストック11μL)。健康な細胞はMTTを還元してホルマザンの青色産物を生成する。MTTとともにインキュベートした後、培地を吸引し、100μLの100% DMSOを添加して細胞を溶解し青色結晶を溶解した。そのプレートをRTで15分間インキュベートしプレートリーダー(ELISA)で550nmの読み取りを行った。
【0134】
このような実験の結果を図6に示す。この図から分かるように、ADDLに曝されていない対照の細胞(「Cont」)、クラステリンだけに曝された細胞(「アポJ」)及びモノマーのAβに曝された細胞(「Aβ」)は細胞毒性を全く示さない。対照的に、クラステリンと同時凝集された(co-aggregated)アミロイドβに曝されて1日経過した細胞(「Aβ:アポJ」)はMTTの還元の低下を示し、毒性の早期変化を明示している。その最後のアミロイド製剤は、アミロイドフィブリルを欠いていることがAFMで確認された。
【0135】
したがって、この実験の結果は、クラステリンを介してAβを同時凝集することによって得たADDL製剤は毒性を増大したことを証明している。さらにこの試験結果は、PC12の酸化ストレス応答がADDLによる細胞の早期変化を検出する検定法として利用できることを証明している。この検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又は減少させる可能性がある薬剤をADDLとともに同時にインキュベートするか又は同時に投与することによって実施できる。このような同時インキュベーション又は同時投与によって得た試験結果は、ADDLだけを含有させて得た結果と比較できる。
【0136】
実施例8
酸化ストレス毒性のMTT検定法−HN2細胞
この実施例ではADDLによる細胞の変化の別の検定法について述べる。すなわちこの実施例で提供する酸化ストレス毒性のMTT検定法は、PC12細胞の代わりにHN2細胞で実施できる。他の適当な細胞も同様に採用できる。
【0137】
この検定法では、HN2細胞を、96ウエル培養プレート上4x104細胞/ウエルで継代培養し、DMEM+10%うし胎仔血清+1% S/P/F(ストレプトマイシン、ペニシリン及びフンギゾン)中で24時間増殖させた。プレートを200μg/mLのポリ-l-リシンで2時間処理した後、細胞のプレーティングを行い細胞の接着性を高めた。これら細胞を5μMのレチノイン酸で24-48時間分化させそしてさらに増殖を1%の血清で阻害させた。一組のウエルを未処理のままにしておいて新しい培地を与えた。別の一組のウエルをビークル対照(0.2% DMSO)で処理した。正の対照をトリトン(1%)とアジ化ナトリウム(0.1%)で処理した。実施例1に記載されたようにして製造したアミロイドβオリゴマーを、阻害剤化合物の存在下および不在下、細胞に添加し24時間放置した。24時間インキュベートした後、MTT(0.5mg/mL)を細胞に添加し2.5時間放置した(100μLの培地に可溶化した5mg/mlのストック11μL)。MMTとともにインキュベートした後、培地を吸引し、100μLの100% DMSOを添加して細胞を溶解し青色結晶を溶解した。そのプレートをRTで15分間インキュベートしプレートリーダー(ELISA)で550nmの読み取りを行った。
【0138】
この検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又は低下させる可能性がある薬剤をADDLとともに同時にインキュベートするか又は同時に投与することによって実施できる。このような同時インキュベーション又は同時投与によって得た試験結果は、ADDLだけを含有させて得た結果と比較できる。
【0139】
実施例9
位相顕微鏡法による細胞の形態
この実施例では、ADDLによる細胞の変化の別の検定法−位相顕微鏡法による細胞の形態の検定法について述べる。
【0140】
この検定法では、培養液を低密度(50-60%集密度)まで増殖させた。実験を開始するため、細胞を、F12培地中1時間血清飢餓状態にした。次に細胞を、実施例1で述べたようにして細胞に添加された阻害化合物の存在下及び不在下で24時間かけて調製したアミロイドβオリゴマーとともに3時間インキュベートした。3時間後、細胞を形態の差について検査するか又は免疫蛍光標識化を行うため固定した。試料を、MetaMorph Image Analysis system 及びMRIビデオカメラ(Universal Imaging,Inc.)を使って検査した。
【0141】
このような検定法の試験結果を以下の諸実施例で提供する。特にこの検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又低下させる可能性がある薬剤をADDLとともに同時にインキュベートするか又は同時に投与することによって実施できる。このような同時インキュベーション又は同時投与で得た試験結果はADDLだけを含有させて得た結果と比較できる。
【0142】
実施例10
ADDLと細胞表面の結合に関するFACScan Assay
通常製造されるAβに対する細胞表面受容体が最近グリア細胞上に同定され(Yan et al.(1996) Nature,vol.382,pp.685-691;EI Khoury et al.(1998) Nature,vol.382,pp.716−719)かつADDLの低い投与量でのニューロンの死がシグナル伝達機構が関与している可能性を示唆したので、ニューロン上に、ADDLに対して特異的な細胞表面結合部位が存在するかどうかを確認するため実験を行った。
【0143】
フローサイトメトリーを行うため、細胞を0.1%トリプシンで分離させ次に組織培養プラスティックに低密度で少なくとも一夜プレートした。細胞を、冷リン酸緩衝食塩水(PBS)/0.5mM EDTAで取り出し、3回洗浄し次いで氷冷PBS中に最終濃度500,000細胞/mLで再懸濁させた。その細胞を、10%のアミロイドβが1位のアスパルテートを置換されてビオシチンを含有するアミロイドβ1-42の類似体であることを除いて実施例1に記載されているようにして製造したアミロイドβオリゴマーとともに冷PBS中でインキュベートした。阻害化合物あり及び阻害化合物無しのオリゴマーを細胞に添加して24時間放置した。その細胞を、冷PBS中で2回洗浄し自由な未結合のアミロイドβオリゴマーを除いて、フルオロセインに複合させたアビジンの1:1,000希釈液中に再懸濁させ次いで4℃で1時間緩やかに攪拌しながらインキュベートした。あるいは、アミロイドβ特異的抗体及び蛍光二次抗体をアビジンの代わりに利用して10%のビオチニル化アミロイドβ類似体を組み入れる必要をなくした。すなわち、ビオチニル化6E10モノクローナル抗体(1μL, Senetec,Inc.,米国ミズーリ州セントルイス所在)を前記細胞懸濁液に添加し次に30分間インキュベートした。細胞をペレット化し次いで500μLのPBS中に再懸濁させた後、FITC接合ストレプトアビジン(1:500,Jackson Laboratories)を30分間使って、結合抗体を検出した。
【0144】
細胞を、Becton-Dickinson Fluorescence Activated Cell Scanner(FACScan)で分析した。10,000又は20,000の事象を前方散乱(大きさ)及び蛍光強度のために集め、そのデータをConsort 30ソフトウェア(Becton-Dickinson)で分析した。結合性を、平均の蛍光に事象の全数を掛け算しそして6E10とFITCの存在下でのバックグランド細胞蛍光の価を差し引いて定量した。
【0145】
これらの実験では、FACScan分析を行って、対数期の酵母細胞(大部分が炭水化物の表面)とB103 CNS ニューロン細胞系(Schubert et al.(1974) Nature,vol.294,pp.224-227)の懸濁液中でのADDLの免疫反応性を比較した。B103細胞の場合、ADDLを添加すると、図7に示すように細胞内蛍光が大きく増大した。B103細胞をトリプシンで1分間処理すると、ADDLは結合しなくなった。対照的に、対照の酵母細胞(データは記載していない)はADDLが結合しないことを示し、細胞表面に存在するタンパク質に対するADDLの選択性を証明した。海馬細胞(トリプシンで処理し続いて2時間代謝回復(metablic recovery)を行った組織)の懸濁製剤もADDLに結合したが、標識化ピークの蛍光強度の低下で証明されているように結合事象の数がB103細胞と比べて減少している。このことは図8に現れており、標識化ピークが左側にシフトしている。
【0146】
したがって、これらの試験結果は、ADDLが特定の細胞表面受容体に結合することによってその作用を発揮することを示唆している。具体的にいえば、B103細胞のトリプシン選択性は、この細胞のADDL結合部位が細胞表面タンパク質でありかつ結合がこれらタンパク質内の特定のドメインのサブセットに対し選択的であることは示した。
【0147】
さらに、この検定法はADDLによる細胞の結合の検定法としても利用できる。具体的に述べると、この検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又は低下させる可能性がある薬剤をADDLとともに同時インキュベートするか又は同時投与することによって実施できる。このような同時インキュベーション又は同時投与によって得た試験結果は、ADDLだけを含有させて得た試験結果と比較できる。
【0148】
実施例11
ゴシポールによるADDL生成の阻害
この実施例では、ADDLの生成を例えばゴシポールを使って阻害できる方式を説明する。
【0149】
この実験では、ADDLを実施例1に記載したようにして製造した。ゴシポール(Aldrich)を、Aβタンパク質をインキュベートしている間、100μMの濃度まで添加してADDLを製造した。先に述べたようなLIVE/DEAD(登録商標)検定キットを使って、得られた製剤の神経毒性を評価した。ゴシポール/ADDL製剤に24時間暴露された後生じた細胞死の数は5%未満であった。これは、対応するDMSOの対照製剤で得た毒性のレベル(すなわち6%)又はADDLを含有していなかったゴシポールの対照製剤(すなわち4%)で得た毒性のレベルに匹敵している。
【0150】
したがって、これらの試験結果は、ゴシポールなどの化合物をADDLの生成を阻害するために利用できることを証明している。
【0151】
実施例12
トリプシンペプチドによるADDLの結合の阻害
B103細胞をトリプシン処理すると、その後のADDLの結合をブロックすることが発見されたので、この実施例で述べるように、細胞表面から放出されるトリプシンフラグメント(tryptic fragment)がADDLの結合活性を阻害するかどうかを試験する実験を行った。
【0152】
トリプシンペプチドは、4枚の100mmディシュから得た集密B103細胞を使って調製した。培地を、3分間トリプシン処理(0.025%、Life Technologies)した後収集し、トリプシン-キモトリプシン阻害剤(Sigma、ハンクス緩衝食塩水中0.5mg/mL)を添加し、次いで500xgで5分間遠心分離することによって細胞を除いた。上澄み液(約12mL)を、Centricon 3フィルタ(Amicon)を使って約1.0mLまで濃縮し次いでタンパク質の濃度を測定した後凍結した。ブロッキング実験の場合は、滅菌濃縮トリプシンペプチド(0.25mg/mL)を、ADDLを添加するのと同時に、器官型脳スライスに又は前記FACs検定法の懸濁B103細胞に添加した。
【0153】
FACScan検定法では、培養培地に放出されたトリプシンペプチド(0.25mg/mL)が、図9に示すようにADDLの結合を>90%阻害した。比較すると、BSAに暴露された対照の細胞は100mg/mLの場合でさえ結合の損失はなかった。トリプシンペプチドは、ADDLがすでに細胞に結合した後に添加すると、蛍光強度が有意には低下しなかった。これは、このペプチドが、この検定法の結合したADDLを定量する性能を損なわなかったことを示している。トリプシンペプチドは、ADDLの結合をブロックすることに加えてADDL誘発細胞死のアンタゴニストでもある。すなわち図9に示すように、トリプシンペプチドを添加すると、細胞死は75%低下した(p<0.002)。
【0154】
これらのデータは、特定の細胞表面タンパク質がADDLの結合を仲介し、そして細胞表面からの可溶化されたトリプシンペプチドが、神経を保護するADDL中和活性を提供することを証明している。さらに、この検定法は、ADDLの細胞との結合又はADDLの細胞活性に対する作用を仲介する薬剤の検定法としても利用できる。具体的に述べると、この検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又は低下させる可能性がある薬剤を、ADDLとともに同時にインキュベート又は同時に投与することによって実施できる。このような同時インキュベーション又は同時投与で得られた試験結果は、ADDLだけを含有させて得た結果と比較できる。さらに、ADDLが細胞表面に結合する前又は後に薬剤を添加し比較して、このような結合に作用するか又は結合が起こったのちに作用する薬剤を同定することができる。
【0155】
実施例13
ADDLの細胞との結合に関する投与量応答曲線
この実施例では、ADDLの細胞表面との結合が可飽和性であるかどうかを確認するため行った投与量応答実験について述べる。このような可飽和性(saturabitity)は、ADDLが実際に特定の細胞表面受容体と相互に作用するならば予想される。
【0156】
これらの試験では、B103細胞を、量を順次増大したADDLとともにインキュベートし次にADDLの結合をFACscan 分析法で定量した。その結果を図10に示してある。これらの結果は、ADDLの結合について明確なプラトーが得られることを証明している。ADDLの結合の可飽和性は、約250nmの相対Aβ1−42濃度(すなわちAβに対するADDLの濃度)で起こる。
【0157】
したがって、これらの試験結果はADDLの結合が可飽和性であることを証明している。ADDLの結合のかような可飽和性は、特にトリプシン試験の結果と考え合わせると、ADDLが特定の細胞表面受容体を通じて作用していることを証明している。
【0158】
実施例14
ADDLの結合活性の細胞ベースELISA法
この実施例では、細胞ベースの検定法、特にADDLの結合活性を評価するのに利用できる細胞ベースの酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)について述べる。
【0159】
これらの試験の場合、実験を実施する48時間前に100μLのDMEM中に懸濁液として存在する2.5 x 104個のB103細胞を、96ウエルマイクロタイタープレートの各検定ウエルに入れて、インキュベーター内で37℃に保持した。ADDLは、実験を実施する24時間前に、実施例1に記載の方法に従って製造した。検定を始めるため、細胞が入っているマイクロタイタープレートの各ウエルを、50μLの固定液(DMEM中3.7%のホルマリン)で室温にて10分間処理した。この固定液/DMEM溶液を取り出し次いで50μLのホルマリン(DMEM無し)による第二処理を室温で15分間行った。固定液を除いて各ウエルを100μLのリン酸緩衝食塩水PBSで2回洗浄した。200μLのブロッキング剤(PBS中1%のBSA)を各ウエルに添加し、室温で1時間インキュベートした。100μLのPBSで2回洗浄した後、50μLのADDL(PBSで1:10の比率で予め希釈したもの)を適当なウエルに添加するか又はPBSだけを対照として添加し次いで得られたウエルを37℃で1時間インキュベートした。100μLのPBSで3回洗浄し次に1%BSA/PBSで1:1000の比率で希釈したビオチニル化6E10(Senetek)50μLを適当なウエルに添加した。その外のウエルには対照としてPBSを添加した。回転器上で室温にて1時間インキュベートした後、これらウエルを50μLのPBSで3回洗浄し、次に50μLのABC試薬(Elite ABC kit,Vector Labs)を添加し回転器上で室温にて30分間インキュベートした。50μLのPBSで4回洗浄した後、各ウエルに50μLのABTS基質溶液を添加しそのプレートを室温にて暗所でインキュベートした。そのプレートについて405nmのおける増大する吸収を分析した。ADDL、細胞及び6E10が存在していたときだけ、図11に示したように有意な信号があった。
【0160】
これらの結果はさらに、細胞ベースのELISA検定法がADDL仲介細胞結合の検定法として採用できることを証明している。具体的に述べると、この検定法は、ADDLの生成及び/又は活性を増大又は低下させる可能性がある薬剤を、ADDLとともに同時にインキュベートするか又は同時に投与することによって実施できる。かような同時インキュベーション又は同時投与で得た結果は、ADDLだけを含有させて得た結果と比較できる。
【0161】
実施例15
fynキナーゼをノックアウトするとADDLの毒性に対して防御する
ADDLの毒性に信号伝達が関与している可能性があることをさらに研究するため、この実施例の実験では、同質遺伝子的なfyn-/-動物及びfyn+/+動物由来の脳スライスに対するADDLの作用を比較した。fynは、多細胞の信号と応答にとって重要なタンパク質チロシンキナーゼのSrcファミリーに属している(Clark,E.A.&Brugge,J.S.(1995) Science,vol.268,pp.233-239)。Fynは、ADに冒された ニューロン内で上向きに調整される(upregulated)ので特に重要である(Shirazi et al.(1993) Neuroreport,vol.4,pp.435-437)。またfynは、その後のAFM試験によってADDLを含有していることが分かっている通常のAβ製剤で活性化されるようである(Zhang et al.(1996) Neurosci.Lett.,vol.211,pp.187-190)。Fynノックアウトマウスはさらに、成長中の海馬のアポトーシスが低下した(Grant et al.(1992) Science,vol.258,pp.1903-1910)。
【0162】
これらの試験では、Fynノックアウトマウス(Grant et al.(1992) Science, vol.258,pp.1903-1910)を、上記実施例に記載されているように処理して、ADDLで24時間処理したか又は処理しなかったマウスの脳スライスの画像を比較しDG及びCA3領域の死んだ細胞を測定した。4〜7個のスライスの平均値±SEMを表わす誤差バーで定量的比較(図12に示す)を行った。
【0163】
野生型動物由来の培養液とは対照的に、fyn-/-動物由来の培養液は図12に示すように無視できるADDL誘発細胞死を示した。ADDLの場合、fyn+/+スライスの細胞死のレベルはfyn-/-培養液の5倍を超えた。fyn-/-培養液内におけるADDLの存在下での細胞死は、バックグランドのレベルであった。その神経保護応答は選択的であり、NMDA受容体アゴニストにより誘発される海馬細胞の死(Bruce et al.(1995) Exper.Neurol.,vol.132,pp.209-219;Vornov et al.(1991) Neurochem.,vol.56,pp.996-1006)は、影響を受けなかった(図示せず)。チューキーの多重比較法(Tukey multiple comparison)を使う分析(ANOVA)によって、他のすべての条件と比較してADDL fyn+/+データに対してp<0.001の価が与えられた。
【0164】
これらの結果は、Fynキナーゼの欠損が、DGとCA3の海馬領域を、ADDLが誘発する細胞死から守ったことを証明している。これらの試験結果は、ADDLの毒性がFynタンパク質チロシンキナーゼのノックアウトによってブロックされる機構によって仲介されることを証明している。これら試験結果はさらに、神経保護の利益が、Fynタンパク質チロシンキナーゼの活性又はFynタンパク質キナーゼをコードする遺伝子の発現を排除する処置で得られることを示唆している。
実施例16
神経膠星状細胞の活性化の実験
ADDLの毒性が信号伝達に関与している可能性をさらに調べるため、この実施例の実験で神経膠星状細胞の活性化に対するADDLの作用を比較した。
【0165】
これらの実験用に、皮質の神経膠星状細胞の培養液を、すでに述べられているように(Hu et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.271,pp.2543-2547)、Banker et al.編「Culturing Nerve Cells」,pp.309-336,MIT Press 米国マサチューセッツ州ケンブリッジ中のLevison et al.(1991)の論文に記載のLevisonとMcCarthyの方法で、Sprague-Dawleyラットの新生仔(1〜2日齢)から調製した。簡単に述べると、大脳皮質を切り取りトリプシン処理を行い、次いで10%ウシ胎仔血清(Hyclone Laboratories Inc.,米国ユタ州ローガン所在)及び抗生物質(100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン)を含有するα-MEM(Gibco,BRL)中で培養した。11日間培養した後、細胞をトリプシン処理し次いで約6x105の細胞/プレートの密度で100mmのプレートに再プレートし集密状態になるまで増殖させた(Hu et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.271,pp.2543-2547)。
【0166】
神経膠星状細胞を、実施例1に従って製造したADLL又はAβ17-42(Lambert et al.(1994) Neurosci.Res.,vol.39,pp.377-384に従って合成した;市販されてもいる)で処理した。処理は次のように行った。すなわち、神経膠星状細胞の集密培養液をトリプシン処理し、1 x 106細胞/ディッシュの密度で60mm組織培養ディッシュ(例えばRNA分析及びELISA法用)に、5 x 104細胞/ウエルの密度で4ウエルチャンバースライド(例えば免疫組織化学試験用)に又は5 x 104細胞/ウエルの密度で96ウエルプレート(例えばNO検定用)にプレートすることによって行った。24時間インキュベートした後、細胞をPBSで2回洗浄して血清を除き、次いでその培養液をN2サプリメントを含有するα-MEM中でさらに24時間インキュベートしてからAβペプチド又は対照の緩衝液(すなわち希釈剤を含む緩衝液)を添加した。
【0167】
神経膠星状細胞の形態の検査を、Javelin SmartCam camera、Sony videomonitor及びカラービデオプリンターを備えたNikon TMS 倒立顕微鏡下で細胞を検査することによって行った。一般に四つの無作為に選んだ顕微鏡視野(20倍率)の写真を各実験条件で撮影した。形態学的な活性化は、前記四つの視野における活性化された細胞(1又は2以上のプロセスを有し少なくとも一つの細胞体の長さを有する細胞として定義される)の数を数えることによって、前記写真からNIH画像で定量した。
【0168】
培養液中のmRNAのレベルは、ノーザンブロット法及びスロットブロット法を使って測定した。これは、細胞をADDL又は対照の緩衝液に24時間暴露することによって行った。その後、その細胞をピロ炭酸ジエチル(DEPC)で処理したPBSで2回洗浄し次にRNeasy 精製ミニカラム(Qiagen,Inc.,米国カリフォルニア州チャッツワース所在)で製造業者が推薦するようにして単離した。RNAの一般的な収量は、1ディッシュ当たりの全RNAが8〜30mgという収量であった。ノーザンブロット分析の場合は、1試料当たり5mgの全RNAをアガロース-ホルムアルデヒドゲル上に分離し、毛細管作用でHybond-N膜(Amersham,米国イリノイ州アーリントンハイツ所在)に移し次にUVで架橋させた。スロットブロット分析の場合は、1試料当たり200mgの全RNAを減圧下Duralon-UV膜(Stratagene,米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ所在)にブロットし次にUVで架橋させた。臭化エチジウムによる染色又はGAPDHプローブによるハイブリッド形成と規格化(normalization)によって均等なRNAの負荷を確認した。
【0169】
プローブは、プラスミドを制限酵素で切断し次に適当なフラグメントをゲルで精製することによって製造した。すなわち、cDNAのフラグメントを、ラットの皮質の神経膠星状細胞由来の全RNAを使ってRT-PCR法で調製した。RNAをSuperscript IIsystem(GIBCO/BRL)で逆転写し、次に以下の設定:52℃で40秒間、72℃で40秒間、96℃で40秒間のサイクルを35サイクル利用して、PCRをPTC-100熱制御器(MJ Research Inc.,米国マサチューセッツ州ウォータータウン所在)で実施した。ラットのIL-1βの447bpのフラグメントを増幅するために使ったプライマーの対は、フォーワード:5'GCACCTTCTTTCCCTTCATC3'[配列番号:1]及びリバース:5’TGCTGATGTACCAGTTGGGG3’[配列番号:2]であった。ラットGFAPの435bpのフラグメントを増幅するために使ったプライマーの対は、フォーワード:5'CAGTCCTTGACCTGCGACC3'[配列番号:3]及びリバース:5’GCCTCACATCACATCCTTG3’[配列番号:4]であった。PCRの産物を、Invitrogen TA cloning kitでpCR2.1ベクター中にクローン化し次いでDNAの配列を決定することによって構造を確認した。プローブは、そのベクターをEcoRIで切断し続いて適当なフラグメントをゲルで精製することによって製造した。上記プラスミドは、ラットiNOS cDNAベース3007-39438(Galea et al.(1994) J.Neurosci.Res.,vol. 37,pp.406−414)に相当するラットiNOS cDNA プラスミド pAstNOS-4及びラットGAPDH cDNA プラスミド pTRI-GAPDH(Amblon,Inc.,米国テキサス州オースチン所在)であった。
【0170】
プローブ(25ng)を、Prime-a-Gene Random-Prime labeling kit(Promega,米国ウイスコンシン州マディソン所在)を使用して32P-dCTPで標識化し次いでプッシュカラム(Stratagene)を使って取り込まれていないヌクレオチドから分離した。ハイブリッド形成を、ストリンジェントハイブリット形成用に推薦されているプロトコルを使用して、QuikHyb溶液(Stratagene)でストリンジェント条件下実施した。簡単に述べると、プレハイブリッド形成を68℃で約30-60分間行い次いでハイブリッド形成を68℃で約60分間実施した。次にブロットを、ストリンジェント条件下洗浄し次いでオートラジオグラフィー又はホスホイメージングプレート(phosphoimaging plate)に対し露出した。オートラジオグラムを、BioRad GS-670 レーザスキャナーで走査し、バンド密度をMolecular Analyst v2.1(BioRad,米国カリフォルニア州ハーキュレス所在)画像分析ソフトウェアで定量した。ホスホイメージ(phosphoimage)をStorm 840 System(Molecular Dynamics,米国カリフォルニア州サニーベール所在)上に捕獲し次にバンド密度をImage Quant v1.1(Molecular Dynamics) 画像分析ソフトウェアで定量した。
【0171】
亜硝酸検定法でNOを測定するため、細胞を、Aβペプチド又は対照の緩衝液とともに48時間インキュベートし、ならし培地中の亜硝酸のレベルを先に述べたようなグリース反応で測定した(Hu et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.271,pp.2543-2547)。NOS阻害剤のN-ニトロL-アルギニンメチルエステル(L-ネーム)又はその不活性のD-ネーム異性体を使用したときは、これら試薬はAβと同時に培養液に添加した。
【0172】
これら実験の結果は図13に示してある。この図から分かるように、グリア細胞の活性化は、神経膠星状細胞をADDLとともにインキュベートしたとき増大するが、Aβ17-42とともにインキュベートときは増大しなかった。
【0173】
これらの試験結果は、ADDLがグリア細胞を活性化することを証明している。グリア細胞タンパク質が例えばアルツハイマー病で起こるような神経欠損に関与しそしてADDLのいくつもの作用が実際にグリア細胞の活性化によって間接的に仲介されている可能性がある。具体的に述べると、グリア細胞タンパク質は、ADDLの生成又は受容体結合の下流に起こるADDL仲介作用を促進するのかもしれない。また、クラステリンは、アルツハイマー病の患者の脳内で上向きに調節されかつ活性化されているグリア細胞内でのみ高いレベルで製造されることが分かっている。非ADDLによるグリア細胞のこの活性化に基づいて、非アミロイドの刺激がクラステリンを産生し、そのクラステリンが順にADDLになり、そのADDLが順にニューロンを損傷してグリア細胞を一層活性化させるのかもしれない。
【0174】
その機序に関係無しに、これらの試験結果は、ADDLが仲介するグリア細胞の活性化を調節する(すなわち増大又は低下させる)治療によって、神経保護の利益を得ることができることをさらに示唆している。さらにこの試験結果は、ニューロンの作用をブロックすることとは別にグリア細胞に対するこれらの作用をブロックすることが有益であることを示唆している。
【0175】
実施例17
LTP検定法-ADDLはLTPを破壊する
長期増強(LTP)は、シナプス可塑性の古典的なパラダイムでありかつ早期ADで選択的に失われる記憶と学習の能力のモデルである。この実施例では、LTP特に内側貫通経路(medial perforant path)-顆粒細胞LTPに対するADDLの作用を検査するために行った実験について述べる。
【0176】
無傷動物への注射:マウスをウレタンで麻酔してから定位固定装置に入れた。加熱水ジャケットパッドを使って体温を維持した。脳の表面を頭蓋の通孔を通じて露出させた。海馬の中間分子層への注射のブレグマ位とラムダ位はブレグマの後方2mm、正中線の横1mm及び脳表面の前方1.2-1.5mmの位置である。アミロイドβオリゴマーの注射は、直径が約10nmのガラス製ピペットを通じて窒素のパフで行った。20-50nLの容積のアミロイドβオリゴマー溶液(リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解したアミロイドβの180nM溶液)を1時間かけて注射した。対照のマウスには等容積のPBSだけを注射した。動物は期間を変えて休息させた後LTP刺激を加えた(典型的に60分間)。
【0177】
注射された動物のLTP:実験は、マウスのLTPについてRouttenbergと同僚が確立したパラダイムに従っている(Namgung et al.(1995) Brain Research,vol.689,pp.85-92)。内側嗅皮質(entorhinal cortex)からの貫通経路刺激を使用し歯状回の中間分子層と細胞体から記録した。ポピュレーション興奮性シナプス後電位(pop-EPSP)とポピュレーションスパイク電位(pop-spike)を、電気刺激を加えて観察した。LTPは、400Hzで8 x 0.4 ms パルス/回の3回連続刺激によって、これらの応答に誘発できた(Namgung et al.(1995) Brain Res.,vol.689,pp.85-92)。刺激を行ってから2-3時間(刺激は0時に加えたとして)記録してLTPが保持されているかどうか確認した。その後動物を直ちに殺すか又は1,3又は7日間回復させた後に上記のように殺した。脳を30%スクロースで凍結しないようにしてからミクロトームで切片(30μM)を作製した。いくつかの切片を、ゼラチンを塗布したスライドガラスに載せそして残りの切片は自由浮動プロトコル(free-floating protocol)を使って分析した。免疫組織化学法を利用して、GAP-43、PKCサブタイプ、並びにタウ(PHF-1)、パキシリン及びフォーカルアドヒージョンキナーゼのタンパク質リン酸化の変化を監視した。波形を先に述べたようにして機械で分析した(Colly et al.(1990) J.Neurosci.,Vol.10,pp.3353-3360)。2-way ANOVAで、処置群と未処置群の間のスパイク振幅の変化を比較した。
【0178】
図14は動物全身におけるADDLのスパイク振幅の作用を示す。この図から明らかに分かるように、ADDLは、内側嗅皮質に加えられた高周波数の電気刺激で誘発されて歯状回の中間分子層の細胞体のスパイク振幅として測定されるLTPの持続相(persistence phase)をブロックする。
【0179】
LTP実験を行った後、動物を、各種の期間回復させ次いで麻酔薬のペントバルビタールナトリウムを使い4%パラホルムアルデヒドを潅流させて殺した。生存能力を試験するため、3時間、24時間、3日間及び7日間の期間を利用した。脳を3%のスクロースで凍結しないようにしてからミクロトームで切片(30μM)を作製した。切片を、ゼラチンを塗布したスライドガラスに載せ、最初にクレシルバイオレトで染色した。細胞の損失を、歯状回、CA3、CA1及び内側嗅皮質の細胞体を計数することによって測定してADDLの投与量及び暴露時間と関連付けた。これら実験の結果は、LTP実験の後24時間現在で細胞死が全く起こらないことを証明した。
【0180】
同様に、LTP応答をヤングアダルトラット由来の海馬のスライスで検査した。図15から分かるように、ラットの海馬のスライスをADDLとともにインキュベートすると、LTPは十分に阻害されて細胞が退化する明白な徴候が現れる。500nMのADDLに予め45分間暴露された海馬のスライス(n=6)は、活動電位の連続容量(continuing capacity)にもかかわらず、強縮刺激(平均振幅99%±7.6)の30分後のポピュレーションスパイクに増強作用を全く示さなかった。対照的に、ビークルとともにインキュベートされたスライス(n=6)には、LTPがその前の10分間の138%±8.1の振幅で誘発されたが、この値はこの年齢の群ですでに示された値(Trommer et al.(1995) Exper. Neurol., vol. 131, pp. 83- 92)に匹敵する価である。LTPはADDLで処理されたスライスには、存在しないが、これらの細胞は活動電位を生成する能力があり退化の徴候を全く示さなかった。
【0181】
これらの試験結果は、ADDLを添加すると、動物全身と組織スライスの両方で、1時間以内にLTPを有意に破壊しその後細胞を退化させるか又は殺すことを証明している。したがって、これらの実験は、ADDLが非常に早期の作用を発揮するので、ADDLの生成及び/又は活性を阻害することによって、疾患、障害又は症状(例えばアルツハイマー病)が細胞死の起こる段階まで進行する前に治療効果を得ることができることを裏付けている。換言すれば、これらの結果は、記憶の低下がニューロンが死ぬ前に起こることを証明している。このような細胞死の起こる前に阻害することによって、記憶低下の進行を阻止して記憶低下を回復させることができるであろう。
【0182】
実施例18
生体内でのADDLの早期作用
この実施例では、生体内でのADDLの早期作用とその方式について述べ、かような早期作用の知識は利用することができる。
【0183】
アルツハイマー病の主な徴候は学習と記憶の欠損である。しかし行動の欠損と凝集アミロイドの沈着との関連を証明することは依然として困難であった。トランスジェニックマウスでは、血小板由来増殖因子のプロモーターの制御下にある過剰発現性変異体APPが多量のアミロイドの沈着をもたらす(Games et al.(1995) Nature,vol.373,pp.523-527)。対照的に、このシステムでは行動の欠損は報告されていない。トランスジェニックマウスを研究している他の研究者ら(すなわち、Nalbantoglu,J. et al.(1997) Nature,vol.387,pp.500-505;Holcomb,L. et al.(1998) Nat.Med.,vol.4,pp.97-100)は、凝集アミロイドの著しい沈着が観察される充分前に行動と認識の有意な欠損が起こったことを観察したと報告している。これら行動と認識の欠損には長期増強の不全が含まれている(Nalbantoglu,J. et al.の前掲文献)。これらのモデルは、非沈着型のアミロイドが、誘発されたニューロンの機能不全の結果として起こる認識と行動の早期欠損の原因であることを総合的に示唆している。本願に記載されている新規のADDLが認識と行動の早期欠損を起こす非沈着型のアミロイドであるということはこれらのモデルと一致している。このことから、本発明のADDL調節化合物は、ADDLの誘発するニューロンの機能不全がもたらすこれら認識と行動の早期欠損の治療及び/又は予防に利用できるか又はADDL自体を例えば動物モデルに適用してかような誘発されるニューロンの機能不全を研究できる。
【0184】
同様に、高齢のヒトの場合、恐らくアルツハイマー病のI期であろうという診断がなされる充分前に認識の衰退と記憶の限局欠損(focal memory deficit)が起こることがある(Linn et al.(1995) Arch.Neurol.,vol.52,pp.485-490)。これら記憶の限局欠損は、細胞死よりむしろニューロンに誘発された異常な信号伝達が原因であろう。他の機能の例えば高次の書字技能(Snowdon et al.(1996) JAMA,vol.275,pp528-532)も細胞死が起こるずっと前に起こるニューロンの異常機能の影響をうける。例えばADDLで誘発されるLTP機能の欠陥と類似の方式でADDLが上記欠損を誘発するということは、これら欠損に関して知られていること及び本願で提供されているADDLに関する情報と一致している。これらのことから、本発明のADDL調節化合物は、ADDLの生成又は活性からもたらされるこれら早期の認識の衰退と記憶の限局欠損及び高次書字技能の欠陥の治療及び/又は予防に利用することができ、又はADDL自体を例えば動物モデルに使用してかような誘発される欠陥を研究することができる。具体的に述べると、このような研究は、当業者に知られているようにして、例えば治療されたか又はプラシーボで治療された年齢対応被験者を比較することによって実施できる。
【0185】
実施例19
アミロイドβオリゴマー(ADDL)の別の製造方法
この実施例では、例えば実施例1及び4に記載の方法の代わりに利用できるADDLの別の製造方法について述べる。
【0186】
アミロイドβモノマーの原液は、モノマーをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、続いてそのHFIPを高速減圧蒸発法で除いて製造する。得られた固体のペプチドを乾燥DMSOに5mMで再溶解してDMSO原液を製造し次いでそのDMSO原液1μlをF12培地(血清無し、フェノールレッドなし)49μlで希釈してADDLを調製する。得られた混合物を攪拌し次に4℃で24時間インキュベートする。
【0187】
実施例20
アミロイドβオリゴマーの別のゲル試験
この実施例では、アミロイドβオリゴマーについて行った別のゲル試験を説明する。
アミロイドβオリゴマー(すなわち前の実施例に記載したようにして製造されたオリゴマー)を製造した後に行うゲル分析では、1μlのオリゴマー溶液を、4μlのF12及び5μlのトリス-トリシン ローディング緩衝液に添加し、次に予め調製した16.5%トリス-トリシンゲル(Biorad)に負荷した。電気泳動を100Vで2.25時間行う。電気泳動に続いて、ゲルをSilver Xpress kit(Novex)を使って染色する。あるいは、ゲルを染色する代わりに、アミロイドβ種を、4℃にて100Vで1時間かけて、ゲルから、SDSを含有する転移緩衝液中のHybond-ECL(Amersham)に移す。そのブロットは、TBS-T1含有5%ミルク内で室温にて1時間ブロックする。TBS-T1で洗浄した後、そのブロットを一次抗体(26D6,1:2000)とともに室温にて1.5時間インキュベートする。その26D6抗体はアミロイドβのアミノ末端領域を認識する。さらに洗浄した後、そのブロットを二次抗体(抗マウスHRP,1:3500)とともに室温にて1.5時間インキュベートする。さらに洗浄した後、そのブロットを、West Pico Supersignal 試薬(各々50μl,Pierceが供給)及び3mlのddH2O内で5分間インキュベートする。最後にそのブロットをフィルムに露出して現像した。
【0188】
このような別のゲル試験の結果は図16に示してあるが、この図はデンシトメーターが走査した16.5%トリス-トリシンSDS-ポリアクリルアミドゲル(Blorad)のコンピューター作成画像を示す。この図は、オリゴマーの可溶性ADDL(標識化「ADDL」)、ダイマー(標識化「ダイマー」)及びモノマー(標識化「モノマー」)の範囲を確認している。したがってこのゲルシステムは、少なくとも3個のモノマー(トリマー)〜約24個のモノマーを含む別個のADDLを可視化できる。
【0189】
図16には示していないが凝集の前後に得たゲル/ウエスターンを比較することで明らかになることは、凝集によってテトラマーのバンドは増大するがペンタマー〜24量体のオリゴマー種は凝集後のみに現れることである。オリゴマー(特にダイマーとテトラマー)の銀で染色される量と免疫検出される量が異なるのは、これらオリゴマーが凝集で得た異なるコンホメーションを示していることを示唆している。
【0190】
実施例21
アミロイドβオリゴマーの別のAFMによる試験
この実施例では、アミロイドβオリゴマーについて行った別のAFMによる試験について述べる。
【0191】
Superdex 75カラムによる分画を実施せずそしてフィールド中の大きさの大きい球体を測定するようにフィールドを特別に選択したことを除いて、AFMを実施例3に記載されているようにして行った。この分析は、技術的観点から実施例3で行ったのと同じ分析であるが、この場合、特別に選択されて検査されたフィールドは、切片の分析で測定された大きさより大きい大きさのオリゴマーを可視化できる。AFMは、TappingMode(登録商標)(Digital Instruments,米国カリフォルニア州サンタバーバラ所在)を利用するNanoScope(登録商標)III MultiMode AFM(MMAFM)のワークステーションを使用して実施した。
【0192】
これら試験の結果は図17に示してあるが、この図は、異なるアミロイドβオリゴマーの各種の大きさの構造体を示す、ADDLのAFM分析結果のコンピューター作成画像である。その付着構造体の大きさの範囲はz高さが1〜10.5nmの範囲である。この特性決定の結果に基づいて、この構造体は3〜24個のモノマーのサブユニットを含有しており、これはトリス-トリシンSDS-PAGEに示したバンドに一致している。別の実験で(図示せず)、約11nmほどの高さの種が観察された。
【0193】
実施例22
抗ADDL抗体の製造、特性決定及び使用
材料と方法
材料:1-42はAmerican Peptideから入手した。細胞培養の産物はCellGro及びLife Technologiesから得た。特に断らない限り、化学薬剤と試薬はSigma-Aldrichから入手したものである。以下のキット:Boehringer Mannheim Cell Proliferation(MTT)キット、Novex Silver Xpressキット及び化学発光法用のPierce West Femtoキットを使用した。SDS-PAGEゲルと緩衝液はBioRadから入手した。抗体の6E10,6E10Bi及び4G8はSnetekから入手した。26D6はSibia Corporationから贈られた。接合二次抗体はJackson LabsとAmershamから入手した。
【0194】
Aβ由来拡散性リガンド(ADDL)の製造:1-42をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に溶解して微量遠心分離管に分取した。HFIPを凍結乾燥で除きその遠心分離管を−20℃で保管した。分取したAβ1-42を無水DMSOに溶解し5mMの溶液にした。次にそのDMSO溶液を冷F12培地(Life Technologies)に添加して100μMの溶液にした。この溶液を少なくとも24時間インキュベートし次いで14,000 x gで10分間遠心分離した。その上澄み液がADDLであり、通常、培地で1:10又は1:20の比率で希釈して使用する。
【0195】
MTT検定法: PC12細胞を、96ウエルプレートに30,000細胞/ウエルでプレートし一夜増殖させた。この培地を除き、ADDL(5もしくは10μM)又はビークルを、新しい培地(F12K、1%のウマ血清、抗生物質/抗真菌剤)に添加した。37℃で4時間経過した後、MTT(10μl)を各ウエルに添加し37℃で4時間インキュベートした。可溶化緩衝液(100μl)を添加し、そのプレートを37℃で一夜放置した。プレート読取り器で550又は550/690nmを読み取って定量検定し、データを測定の標準誤差(SEM)付きの平均値としてプロットした。
【0196】
銀染色法: 製造業者(Novex)が説明している手順に従って実施した。
【0197】
抗体の調製: ポリクローナル抗体はBethyl Laboratories,Inc.,Texasが製造し精製したものである。初期24時間の材料を氷上に置いて一夜かけて上記抗体の会社に送った。到着したその日に、前記材料は完全フロイントアジュバントで1:1の比率で希釈され注射された。したがって標識化され48時間経過した抗原が注射された材料である。ブースター注射を数週間にわたって続け、不完全アジュバントを使った。2匹のウサギに産生された高度免疫血清を、96ウエルフォーマットの原抗原溶液に対してELISA法で定量した。適当な抗体力価を確保した後、動物から採血し次に抗体を収集してアフィニティーカラムを使って精製した。そのアフィニティーカラムは、臭化シアン法によってAβ40溶液(50μg/mlゲル)をアガロースに連結することによって調製した。適当な抗体の上記カラムとの結合をELISA法で監視した。次にそのポリクローナル抗体を前記カラムから取り出し、硫酸アンモニウム沈降法とイオン交換クロマトグラフィーを利用して分画し、>95%の純度のIgG製剤として我々の方に送付された。我々は、各々合計3回採血された2匹のウサギ由来の抗体(M93とM94)を受け取った。
【0198】
免疫ブロッティング: すでに公表されている方法に従って行った(Zhang,C. et al.(1994) J.Biol.Chem.,vol.269,pp.25247-25250)。要約すると、等量のタンパク質又はADDLを試料の緩衝液に添加し次いで16.5%トリス-トリシンゲルに負荷した。混合された試料の場合、ADDLをタンパク質に添加しその直後に試料緩衝液を添加し次いで直ちに上記ゲル上に置いた。試料緩衝液がゲルの底部に到達するまで100Vで電気泳動を行ってタンパク質を分離した。次にタンパク質を100Vで1時間かけて冷却状態でニトロセルロースに移した。その膜を、0.1%トリトン含有トリス緩衝食塩水中5%の脱脂乾燥ミルクで、RTにて1時間ブロックした。試料を、一次抗体とともにRTにて1.5時間インキュベートし次いで15分間ずつ3回洗浄した。使用される抗体に対応して、0.3〜0.6μg/mlの濃度のタンパク質に当量の一次抗体を通常、1:2000の希釈比率で使用した。その膜を二次抗体とともにRTにて1時間インキュベートし(通常1:20,000の希釈比率)次に同様に洗浄した。タンパク質を化学発光法で可視化した。IS440CF Image Station用のKodak 1D Image Analysis softwareを使って定量した。
【0199】
ラットの海馬の培養液の調製: 胎仔マウスの培養液の調製に関するBrewerの方法(Brewer,G.J.(1997) J.Neurosci.,vol.71pp.143-155)に従って行った。海馬を動物から取り出し次にすべての海馬が切開され洗浄されるまでHibernate (商標)/B27培地中に入れておいた。次に組織をパパインで分解した。細胞をトリチュレーションで分離し、ポリ-リシン(200μg/ml)とラミニン(15μg/ml)でコートしたガラス製カバースリップ上に再度結合させてプレートした。プレーティング培地は、0.5mMのグルタミン、5ng/mlのβ-FGF及び抗生物質/抗真菌剤(Life Technologies)を補充したNeurobasal(商標)-E/B27であった。この方法は通常、長いプロセスを成長してきた清浄な主としてニューロンの培養液と細胞を我々に提供する。培養液が3日使用されなかったならば、培地は新しい培地と取り替えた。
【0200】
ADDLの免疫蛍光: 細胞をすでに述べたようにしてコートされたガラス製カバースリップ上で培養した(Stevens,G.R. et al.(1996) J.Neurosci.Res., vol. 46,pp.445-455)。ADDLを、血清なしの培地の細胞に時間を変えて添加した。遊離ADDLを、温培地で洗浄することによって除いた。細胞を、室温にて10分間1.88%のホルムアルデヒドで固定し、続いて3.7%のホルムアルデヒドで15分間、後固定を行った。結合したADDLをM94 ポリクローナル抗体とともにインキュベートすることによって同定し次いでOregon Green-514(Jackson Labs)に接合された抗ウサギIgGを使って可視化した。エピ蛍光用に装備されたNikon Diaphot倒立顕微鏡を分析に使用した。
【0201】
試験結果
合成(defined)ADDL抗原で免疫化するため、我々はまず我々の製剤が予想された構造と神経毒性を一貫して提供することを証明した。ADDLの溶液は、モノマーと毒性オリゴマーだけを含有していなければならない(Lambert,M.P. et al.(1998) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.95,pp.6448-6453)。フィブリルの生成を促進する根源を除くため、供給元からのAβ1-42を第一に、ヘキサフルオロ-イソプロパノール(HFIP)に溶解してモノマー化し次いで保管するために乾燥した(Stine,W.B. et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,p.800)。このモノマー化Aβ1-42を8週間毎週使用して同じ濃度のADDL(0.24±0.01mg Aβ/ml;方法の項参照)を確実に提供した。原子間力顕微鏡法は、ADDLの溶液がフィブリルを含有していないこと(図示せず)を証明したがこれは以前の観察結果を確認している(Lambert,M.P. et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.95,pp. 6448 -6453)。各製剤の成分をさらにSDS-PAGE法と銀染色法で分析した結果、小オリゴマーとモノマー(主要成分、45±5%)だけで構成されていることが見出された。図18Aは免疫化に使用した製剤の組成を示す。時点は最初の製剤の状態と1日後の製剤の状態を示す。時間の経過によって組成の変化は全く無かった。各製剤は、PC12細胞に対する毒性を、MTTの還元に対する作用で検定して試験した。測定を製造後直ちに行うか又は1日後に行うかに関わらず、ADDL溶液はMTTの還元をブロックする一貫した力価を示した(図18B)。その作用は特に5μMで最大であった。これらの結果は、免疫原が、タンパク質の濃度、オリゴマーの形態及び毒性活性に関する研究の過程を通じて一致していることを立証した。
【0202】
上記のように調製したADDL溶液(全タンパク質0.23mg/ml、方法の項参照)を1mlの完全フロイントアジュバントと混合し、直ちに2匹のウサギに注射した(0.12mgタンパク質/動物)。ブースター注射(5)は、不完全アジュバントを使い10週間続けた。これらウサギから3回採血して抗血清(M93とM94)を得てこれをアフィニティークロマトグラフィーで精製し分画して純度が>95%のIgG製剤を得た。
【0203】
これら新しい抗体の各種のAβ種を同定する性能を免疫ブロット法で評価した。試験結果を標準のモノクローナル抗体4G8,26D6及び6E10の試験結果と比較した。26D6(Kounnas,M.Z.の私信)と6E10(Kim,K.S. et al.(1990) Neuroscci.Res.Commun.,vol.7,pp.113-122)はそれぞれAβの類似のエピトープaa1-12とaa1-16を認識し、4G8はAβのaa17-24を認識する(Enya,M. et al.(1999) Am.J.Pathol.,vol.154,pp.271-279)。比較した結果、類似の効力を示したが特異性には著しい差を示した。これら3種のモノクローナル抗体はオリゴマーの種のみならずモノマーも認識する。また4G8は少量のダイマーに結合させるのに特に有効である。対照的に前記新しいポリクローナル抗体は、オリゴマーの種に対し強い選好性を示した。M94とM93は、前記モノクローナル抗体と同じ投与量でADDLの同じ製剤に加えると、トリマーとテトラマーだけを認識する(図19と20)。投与量応答データは、M93はモノマーに結合できるが抗体濃度が高いときだけであることを示した(図20)。6E10がオリゴマーのみならず少なくともモノマーに結合する希釈度で、M93抗体はオリゴマーとだけ結合する。ダイマーはどちらの抗体にも認識されない。これらのデータは、これらポリクローナル抗体はより高度に組織化された形態のAβを容易に認識するがモノマーは認識しないことを示している。
【0204】
起こりうる抗体とADDLの非特異的会合について、抗体をADDLに4℃にて2時間、前吸収(pre-absorbing)させることによって試験した。前吸収によって免疫ブロットのすべての結合が消失した(図21)。抗体がADDL以外の神経タンパク質に非特異的に結合できるかどうかを確認するため、ラットの脳由来のホモジネートを使って免疫ブロッティングを実施した。試験結果は、このホモジネート中のいかなるタンパク質ともほとんど反応しないことを示している(図22、中央レーン)。同様の結果が、ラットの後ミトコンドリア膜(postmitochondrial membrane)のホモジネート及びB103 CNS神経芽細胞腫細胞のホモジネートで得られた(図示せず)。抗体が、他の脳タンパク質の存在下ADDLを検出できるかどうかを試験するため、ADDLを前記ホモジネートに添加した後、ゲル分離を行い次いで免疫ブロッティングを行った(図22、右のレーン)。トリマーとテトラマー(黒矢印)を検出しさらにこれら抗体は高分子量の種を認識した。これらのバンドの中で最も顕著なバンドを白矢印で示してあり、高分子量の位置に痕跡量が明示されている。この高分子量の種は、ヒトの脳内に以前に見つけられた大きいオリゴマー(Guertte,P.A. et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr., vol.25, p.2129)すなわちたぶんADDLとアポEなどの第二タンパク質との複合体(LaDu,M.J. et al.(1996) J.Biol.Chem.,vol.270,pp.9039-9042)であろう。
【0205】
これらの抗体は他の脳タンパク質の存在下でADDLを認識したので、次に我々は、これら抗体が、培養中に細胞と結合したADDLを顕微鏡法で検出するのに有効であるかどうかを試験した。培養液をE18ラット海馬から調製し、AD DLとともに37℃で90分間インキュベートした(方法の項参照)。細胞を固定し、M94とともにインキュベートし次にオレゴングリーン-514に接合した二次IgGで可視化した。ADDL無しでは、信号が全く見られなかったが、これは免疫ブロットに見られた特異性と一致している。ADDLの存在下、ほとんど神経突起にのみ小さく点在しているM94が検出された(図23)。この点状結合は、ADDLが市販の抗体で可視化されるときに見出される結合と類似している(Viola,K.L.et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,p.1285)。
【0206】
前記抗体が溶液中のADDLを標的にしてその神経毒性を防止するかどうかを試験するため、最後の実験を設計した。毒性は、PC12細胞におけるMTTの還元に対するADDLの作用で評価した(Shearman M.S. et al.(1994) Proc.Natl. Acad.Sci.USA,vol.91,pp.1470-1474;Liu,Y. et al.(1998) Proc.Natl.Acad.Sci. USA,vol.95,pp.13266-12271;Liu,Y.& Schubert,D.(1997) J.Neurochem.,vol.69,pp.2285-2293;Oda,T. et al.(1995) Exp.Neurol.,vol.136,pp.22-31;Lambert,M.P. et al.(2000) Soc.Neurosci.Abstr.,vol.26,p.1285)。免疫前血清の存在下でのADDLの活性の対照検定は、MTTの還元の投与量依存性ブロッキングを示した(図24の白の四角印)。起こりうる保護を試験するため、抗体とADDLをともに、2時間インキュベートした後に検定した。この場合、ADDLはもはや活性でなかった(図24の黒四角印)。示したデータはADDLの4時間の作用のデータである。同じ結果が24時間の作用の試験で得られた(図示せず)。その上に、ADDLがシャペロンのクラステリンによって又はシャペロンなしの条件下で製造されるかに関わらず、保護は起こった(図示せず)。これらの結果はADDL抗体の神経毒性を中和する強力な性能を証明している。
【0207】
特許、特許願、科学文献、学術論文、刊行物などを含む本願に挙げられている引用文献はすべて、それらが矛盾しない程度にその全体(その中の文献を含む)を本願に援用するものである。
【0208】
好ましい実施態様の上記説明は、本発明を限定すると決してみなすべきではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく多くの変型が可能であることが分かるであろう。好ましい実施態様で強調して本発明を説明してきたが、好ましい実施態様の変型を利用することができかつ本発明は本願で具体的に説明したのと異なる方法で実施できるものであることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明は、本願の請求項で定義される本発明の範囲内に含まれるすべての変型を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】約30kDに相当するプライマリーバンド、約17kDに相当する余り豊富でないバンド及びフィブリルもしくは凝集体の証拠無しで電気泳動するADDLを示すデンシトメーター走査銀染色ポリアクリルアミドゲルのコンピューター作成画像である。
【図2】約17〜約20kDの大きさに相当するプライマリーバンド(上方のダブレット)及び豊富な4kDのモノマー恐らくは分解産物を示すもう一つのバンド(下方のダークバンド)で電気泳動するADDLを示すデンシトメーター走査クーマシー染色SDS-ポリアクリルアミドゲルのコンピューター作成画像である。なお第一レーンは分子の大きさのマーカーであり、第二レーンはADDLの製剤でありそして第三レーンは重負荷のADDL製剤である。
【図3】ADDL含有「画分3」(Superdex 75 ゲル濾過カラムで分画した)のAFM分析結果の代表的なコンピューター作成画像である。
【図4】クラステリン(レーンA)又は冷F12培地(レーンB)と同時にインキュベートすることによって製造したADDL、及びクラステリンと同時にインキュベートして製造され、Centricon 10kD カットオフ膜を通過させたか(レーンC)又はCentricon 10kD カットオフ膜で保持された(レーンD)ADDLのデンシトメーター走査クーマシー染色SDS-ポリアクリルアミド勾配ゲルのコンピューター作成画像である。
【図5】ADDL製剤で処置したマウス由来の脳のスライスの、アミロイドβ1-42として測定したADDL濃度(nM):死亡細胞の百分率のグラフである。
【図6】ADDLに暴露されていない対照のPC12細胞(「Cont」)、クラステリンだけに暴露されたPC12細胞(「アポJ」)、モノマーのAβに暴露されたPC12細胞(「Aβ」)、クラステリンと同時に凝集したアミロイドβに暴露され1日経過したPC12細胞(「Aβ:アポJ」)のMTTの還元比率を示すバーチャートである。
【図7】ADDLに暴露されていないB103細胞(陰影なしのピーク)と蛍光標識化ADDLと結合されたB103細胞(陰影付きピーク)の事象(0-300)に対する蛍光強度(0-170)を示すFACScanである。
【図8】ADDLに暴露されていない海馬の細胞(陰影なしのピーク「-ADDL」)及び蛍光標識化ADDLと結合された海馬の細胞(陰影付きピーク「+ADDL」)の事象(0-300)に対する蛍光強度(0-200)を示すFACScanである。
【図9】B103細胞のトリプシン処理で放出されたペプチドに暴露されなかった(「−」)か又は同時に暴露された(「+」)B103細胞のADDL結合又はADDL誘発の死の最大百分率のバーチャートである。
【図10】ADDL製剤で処理されたマウス由来の脳のスライスの相対ADDL濃度:死んだ細胞の百分率のグラフである。相対濃度を確認するため10μM Aβタンパク質の初期濃度を採用して最高のデータポイント(ポイント「16」)でADDLを製造した。次にこれを1/2(ポイント「8」),1/4(ポイント「4」)などに希釈した。
【図11】ADDL結合ELISA検定法で得た光学濃度を示すバーチャートであり、B103細胞をADDL及び6E10抗体と同時インキュベートしたとき(「cells, ADDL,6E10」のバー)、B103細胞をADDLと同時にインキュベートしたとき(「cells,ADDL」のバー)、B103細胞を6E10抗体と同時にインキュベートしたとき(「cells,6E10」のバー)、B103細胞だけをインキュベートしたとき(「cells」のバー)、6E10抗体だけをインキュベートしたとき(「6E10」のバー)、又は希釈剤の光学濃度を読み取った。
【図12】ADDLで処理しなかった(「培地」)又はADDLと接触させた(「ADDLs」)、fyn+/+マウス(野生型、「Fyn+」;網状陰影付きバー)又はfyn-/-マウス(ノックアウト、「Fyn-」;黒バー)の死んだ細胞の百分率のバーチャートである。
【図13】神経膠星状細胞を、ADDL(黒三角印)又はAβ17-42(黒四角印)とともにインキュベートしたときに得たAβの濃度(μM):活性化グリア細胞の数のグラフである。
【図14】ADDLで処理しなかった対照マウス(黒三角印)又はADDLで処理したマウス(黒四角印)の時間(分):%ベースライン細胞体スパイク振幅のグラフである。
【図15】ADDLに暴露されなかった対照のラットの海馬スライス(黒三角印):ADDLに暴露されたラットの海馬スライス(黒四角印)の時間(分):平均スパイク振幅のグラフである。
【図16】オリゴマー、可溶性ADDL(標識化「ADDLs」)及びアミロイドβのダイマー(標識化「Dimer」)とモノマー(標識化「Monomer」)を示すデンシトメーター走査16.5%トリス−トリシンSDS-ポリアクリルアミドゲル(Biorad)のコンピューター作成画像である。第一レーンは銀で染色したMark XII分子量標準(Novex,米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)であり、第二レーンは銀で染色したADDLであり、第三レーンはモノクローナル抗体26D6を使用して得た第二レーンのウエスタンブロットである(Sibia Neurosciences,米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)。
【図17】ADDLをAFMで分析した結果のコンピューター作成画像である。上面図のサブトラクテッド(subtracted)画像は新たにへき開された雲母上にスポットされた凝集アミロイドβ分子の高倍率の図(2.0μm x 2.0μm)を示す。
【図18】ADDLが、4℃で保管した後そのオリゴマーの形態と細胞傷害活性を保持することを示すデータを示す図である。A図:初期ADDL製剤及び1日後の同じ製剤の銀染色。Aβ1-42をDMSOに溶解し次にF12に溶解し(実施例22 材料と方法 参照)次いで4℃で24時間インキュベートした。遠心分離した後、初期ADDL製剤である上澄み液を新しい試験管に取り出した。上澄み液のタンパク質を、SDS-PAGEを使ってトリス-トリシンゲル上に分離し次に銀染色で可視化した。第一レーン:着色された分子量マーカー(銀染色されていない)。第二レーン:初期ADDL製剤であり、豊富なモノマー、僅かなダイマー及び実質的にトリマーとテトラマーのオリゴマーを示している。第三レーン:4℃で1日経過後のADDL製剤でありほぼ同じ形態を示している。この画像において、これら二つのレーンの均一なグレーのバックグランドは銀染色の着色バックグランド由来のものである。B図:初期ADDL製剤及び1日経過後の同じ製剤のMTT検定結果。MTT検定法を使って、PC12細胞上でADDLを4時間インキュベートしたときの作用を比較した(実施例22 材料と方法 参照)。ADDL製剤は、新しいものであろうと保管したものであろうと少なくとも50%の阻害性を示した。A図とB図からのデータは、注射に使用した48時間の試料が構造と毒性が初期製剤に類似していることを示している。
【図19】抗体M94が、免疫ブロットのオリゴマーに対し強い選好性を示すことを示すデータを提供する。ADDLを、SDS-PAGEを使って分離し、ニトロセルロースに移し次いで指定の抗体でプローブした。結合は西洋ワサビペルオキシダーゼに対する二次接合で同定し化学発光法を使って可視化した。モノクローナル抗体4G8(右側レーン)は、モノマーからテトラマーまでの4種のAβ種を認識する。モノクローナル抗体26D6(中央のレーン)と6E10(図3)は、モノマー、トリマー及びテトラマーを認識するがダイマーを認識しない。新しいポリクローナル抗血清M94(左側のレーン)とM93(図3)はオリゴマーを優先的に認識する。
【図20】オリゴマー選択性M93抗体が高い抗体濃度のときだけアミロイドβモノマーを検出することを示すデータを提供する。A図:免疫ブロット。ADDLの免疫ブロットを、減少する濃度の抗体でプローブした。ADDLの可視化は化学発光法で行った。M93の効力は少なくとも6E10の効力であり、オリゴマーに対し非選択性の市販のモノクローナル抗体(1:2000の希釈率)を参考のために示してある。B図:化学発光バンドの定量。各バンドの強度を画像分析(方法の項)で測定し、6E10モノマーのバンド(100%)に対し規格化した。M93抗体は高い抗体濃度(<1:500の希釈比率)のときだけモノマーと結合した。これらのデータは、オリゴマーがM93抗体によって優先的に認識されることを示している。
【図21】オリゴマー選択性抗体をADDLに前吸収させると(pre-absorption)、免疫ブロット中の結合が消失することを示すデータを提供する。各抗体(指定の)を、0,1,5又は10倍のタンパク質濃度でADDLとともに2時間インキュベートした。次にその溶液を、標準法で展開されたADDLの免疫ブロットに使用した。ADDLで予め吸収させるとすべての結合が消失する。この結果は、抗体がADDLと結合するには特異的な認識が必要であることを示している。
【図22】オリゴマー選択性抗体が正常な脳タンパク質に対する結合性を全く示さないことを示すデータを提供する。抗体がADDL以外の脳タンパク質に結合するかどうかを確認するため、ラットの脳のホモジネートを調製し次にSDS-PAGEを利用して単独で又はADDLの存在下で分離した。ADDLをタンパク質(60μg)に添加し、直後に電気泳動させた。得られた免疫ブロットをM94でプローブし次いで結合を化学発光法で可視化した。脳タンパク質単独に対しては結合が全く起こらなかった(中央のレーン)。ADDLとホモジネートを含有する試料(右側のレーン)は、高分子量の種のみならずテトラマーとトリマー(黒矢印)を示した。これらバンドのうち最も優勢なものは白矢印で示してあり、痕跡量の高分子量物が示されている。ADDL単独の場合は左側のレーンに示してある。これらの結果は、抗体がAβオリゴマーだけを認識し脳タンパク質を認識しないことを示している。
【図23】培養ラット海馬細胞中でのADDLの結合の局在を示すデータを提供する。ラットの海馬細胞の培養液を調製しADDLに90分間暴露し次いで固定した。結合したADDLをM94抗体を使って同定し、次にオレゴングリーン-514に接合された二次IgGで可視化した。上部パネルは免疫発光画像であり、下部パネルは倒立蛍光画像である。左側の図:培養液をADDLで処理したが一次抗体では処理しなかった。中央の図:培養液をADDL及びM94抗体で処理した。右側の図:培養液をビークル対照物及びM94抗体で処理した。初代培養液又はADDLなしの培養液には結合が全く無かった。ADDLとM94の両者で処理された培養液に見られる標識はほとんど神経突起にのみ位置している。下部左隅のバーは25ミクロンを示す。
【図24】PC12細胞に対する毒性(MTT検定法で測定)がADDL選択性抗体によってブロックされることを示すデータを提供する。免疫前血清をADDLに添加して2時間放置した後、MTT反応をPC12細胞で実施した。この添加では、投与量依存方式でMTTの還元を防止しない(白四角印、下方のライン)。しかし、抗体をADDLとともに2時間、前インキュベートすると、MTT還元反応に変化が全く見られない(黒四角印、上方のライン)。これらのデータは、抗体がADDLの作用をブロックすることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドβタンパク質の可溶性で非フィブリルのオリゴマー集合体と優先的に相互作用する一種又は二種以上の抗体を含む組成物。
【請求項2】
前記集合体がADDLである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記一種又は二種以上の抗体が、M90、M93又はM94の抗体である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
アミロイドβ1-42の可溶性で球状の非フィブリルタンパク質集合体と優先的に結合する一種又は二種以上の抗体を含む組成物。
【請求項5】
前記集合体がADDLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗体がM90、M93又はM94の抗体である、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
アミロイドβ由来の拡散性リガンド(ADDL)と優先的に結合する抗体を含む組成物。
【請求項8】
前記抗体がM90、M93又はM94の抗体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ADDLと優先的に結合する一種又は二種以上の抗体結合部位を含む組成物。
【請求項10】
ADDLと優先的に結合する一種又は二種以上の修飾された抗体結合部位を含む組成物。
【請求項11】
ADDLと優先的に結合する一種又は二種以上の結合部位から成る組成物。
【請求項12】
前記ADDL結合部位がヒトの抗体のフレームワークに組み込まれている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
患者から採取した液体中に、アミロイドβタンパク質の可溶性で非フィブリルの集合体の存在を検出する方法であって、前記液体を請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物と接触させることを含む前記方法。
【請求項14】
患者から採取した組織中に、アミロイドβタンパク質の可溶性で非フィブリルの集合体の存在を検出する方法であって、前記組織をホモジネートし、その組織を緩衝液で抽出し、その緩衝液を請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物と接触させて前記集合体の存在を確認することを含む前記方法。
【請求項15】
アミロイドβタンパク質の可溶性で非フィブリルの集合体の効果を中和する方法であって、このような治療を必要とする患者に請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含む前記方法。
【請求項16】
アミロイドβタンパク質の可溶性で非フィブリルの集合体の生成を阻害する分子の存在を検出する方法であって、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を、被検分子の存在下でADDLを生成することが分かっている条件下にてインキュベートしたAβ1-42の溶液と接触させ、次いでドットブロト法又は他の方法でADDLの存在の有無を確認することを含む前記方法。
【請求項17】
アミロイドβタンパク質の可溶性で非フィブリルの集合体がニューロン上の特異的ADDL受容体に結合するのを阻害する分子の存在を検出する方法であって、一種又は二種以上の被検化合物を神経細胞膜タンパク質のブロットとともにインキュベートし、続いてそのブロットをADDL含有溶液とともにインキュベートし、続いてそのブロットを洗浄し次に請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物と接触させて前記被検化合物がADDLの前記ブロットされたタンパク質との結合をブロックしたかどうかを確認することを含む前記方法。
【請求項18】
前記ADDL受容体が約140kDa及び260kDaの分子量を有する、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2006−509721(P2006−509721A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−511497(P2004−511497)
【出願日】平成15年6月11日(2003.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/019640
【国際公開番号】WO2003/104437
【国際公開日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【出願人】(596057893)ノースウエスタン ユニバーシティ (35)
【出願人】(396012241)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (2)
【Fターム(参考)】