説明

抗CEA、抗CD3及び抗CD28の遺伝子組み換えによる糸状な単鎖の三重特異性抗体

本発明は、抗癌胎児性抗原の抗体、FCペプチドリンカー、抗ヒトCD3抗体、HSAペプチドリンカー及び抗ヒトCD28抗体を順序的に連接し、糸状な単鎖の融合蛋白質を形成することを特徴とする単鎖の三重特異性抗体に関する。具体的には、本発明は、抗CEA、CD3、CD28の遺伝子組み換えによる単鎖の三重特異性抗体であるCEA−TsAbに関する。この抗体は、3つの抗体断片(抗ヒトCEA単鎖抗体、抗CD3単鎖及び抗CD28単区域抗体)を、2つのペプチドリンカー(FCペプチドリンカー、HSAペプチドリンカー)を介して、順序的に連接して構築され、また、この抗体のC−末端にはc−myc−tag及びhis−tag((His)−tag)を添加することができる。本発明は、更にこの抗体の構築、発現及び精製方法、この抗体をコードするDNA配列、発現ベタター及びこのベクターを含む宿主細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組み換え抗体に関する。具体的には、抗CEA、抗CD3及び抗CD28の遺伝子組み換えによる糸状な単鎖の三重特異性抗体、この抗体の構築、発現及び精製方法、この抗体遺伝子を含むベクター及びエシェリヒア コリ(Escherichia coli)宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
生体におけるT細胞の活性化は、以下のダブルシグナル伝達経路において必要である。すなわち、抗原提示細胞(APC:Antigen Presenting Cells)の表面のMHC/抗原ペプチド複合体とT細胞により発現されたTCR/CD3複合体とが相互作用して、第1シグナルを産生する伝達経路を形成し、また、APC細胞表面の副刺激因子シグナル分子受容体(例えば、B7)とT細胞表面の副刺激因子シグナル分子(例えば、CD28)とが相互作用して、第2シグナルを産生する伝達経路、つまり補助シグナル伝達経路を形成する。通常、第1シグナルだけでは、T細胞を十分に活性化することができない(Baxter&Hodgkin,2002;Bemardetal.,2002)。
【0003】
T細胞は、主に、細胞傷害性T細胞(CTL;Cytotoxic T Lymphocytes)及びヘルパーT細胞(TH:T help cells)という二種類を含んでいる。その中でも、CTL細胞は、細胞性免疫における主要な効果細胞であり、また、TH細胞は、細胞から分泌されるサイトカイン(例えば、IL−2)により、直接的には、細胞と相互的に作用して、CTL細胞の活性を制御し、間接的には細胞性免疫に参加する。腫瘍免疫においては、細胞性免疫は主要な免疫となるので、特異的に活性化されたCTL細胞を目的として、抗腫瘍薬物を設計することは、腫瘍免疫治療において重要な方法になっている(Foss,2002)。
【0004】
最近では、T細胞を活性化する第1シグナル経路に対して、一系列の遺伝子組み換えによる腫瘍抗CD3に対する二重特異性抗体を設計、構築しており、その−部は臨床実験の段階に入っている(Daniel et al.,1998;Holliger et al.,1999;Loffler et al.,2,000;Manzke et al.,2001;Manzke et al.,2001;Dreier et al.,2002;Dreier et al.,2003;Loffler et al.,2003;Min Fang,2003;Fang et al.,2004)。現在知られている実験データから明らかなように、この二重特異性抗体は、特異的に腫瘍細胞を識別することができるT細胞を活性化させ、間接的かつ特異的に腫瘍細胞を殺傷する。しかし、上記の二重特異性抗体には、第1シグナル伝達経路だけが存在するので、T細胞を完全には活性化させることができない上、T細胞の活性化誘導による細胞死(AICD:activation induced cell death)が発生するため、腫瘍細胞に対する殺傷効果を低下させることがあった(Daniel et al.,1998)。
【0005】
この二重特異性抗体の欠点を克服するために、他の二重特異性抗体の抗腫瘍抗CD28二重特異性抗体が設計、構築された。T細胞の活性化のために、それを抗腫瘍抗CD3二重特異性抗体と合用することにより、完全なダブルシグナル経路が提供された(Jung et al.,2001;Kodama et al.,2002)。この実験では、上記のようにして、広い範囲において腫瘍細胞の殺傷効率が向上した。しかし、二種類の二重特異性抗体を合用する方式では、その応用分野において一系列的な不利益も伴うことがある。例えば、発現と精製の操作工程及び生産においてコスト高となり、臨床試験に応用する際には、この二種類の二重特異性抗体の相対比率等を考慮しなければならない。一方、三種類の抗原(腫瘍抗原CD3、TCR又はCD28)に対する三重特異性抗体(TsAb:tri−specific antibody)分子を構築すると、この三重特異性抗体分子は、上記の二種類の二重特異性抗体の特性を有するようになる。また、この三重特異性抗体分子は、発現、精製及び臨床といった応用分野において、特に優れた応用性を実現した。
【0006】
三重特異性抗体には、以下の三種類がある。(1)化学共役類(Jung et al.,1991;Tutt et al.,1991;French,1998;Wong et al.,2,000)、(2)遺伝子工程ポリマ類(Atwell et al.,1999;Dolezal et al.,2,000;Schoonjans et al.,2,000;Schoonjans et al.,2,000;Kortt et al.,2001;Schoonjans et al.,2001;Willems et al.,2003)、(3)遺伝子工程単鎖コンフューズ分子類(Song et al.,2003;Zhang et al.,2003)。上記のうち、三番目の三重特異性抗体の構築方式が、簡単に単一の発現産物を得られ、精製が容易であるので、最も優れている。
【0007】
この方式において、本願発明者らは、遺伝子組み換え工程による抗卵巣癌、抗CD3、抗CD28の糸状な単鎖の三重特異性抗体(Song et al.,2003;Zhanget al.,2003)を構築することに成功し、しかも、この抗体は、in vitroにおいて抗卵巣癌細胞において特異的な殺傷作用を与えることが既に証明されている。癌胎児性抗原−CEA(carcinoma embryonic antigen)は、幅広い腫瘍相関を有する抗原である(Shi et al.,1983;Ganjei et al.,1988;Horie et al.,1996;Kuo et al.,1996;Feil et al.,1999;Tomita et al.,2,000;Kammerer et al.,2003)。そのため、糸状な単鎖の三重特異性抗体(Song et al.2003;Zhang et al.,2003)を構築することにより、このような抗体を用いて、複数の腫瘍の予防及び治療に応用することができるようになる。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、幅広い腫瘍相関を有する抗原であるCEAを三重特異性抗体の構築に導入し、抗CEA、抗CD3及び抗CD28の遺伝子組み換えによる糸状な単鎖の三重特異性抗体CEA−TsAbを構築することにより、三重特異性抗体の腫瘍細胞に対する特異性標識を確立した。この三重特異性抗体は、一方では、三重特異性抗体を腫瘍細胞と生体の正常細胞とを区別させて、可能な限り非特異的な殺傷反応を回避し、他方では、CEAは幅広い腫瘍相関抗原であるので、複数の腫瘍の免疫治療分野に広く応用することができる。
【0009】
そこで、本発明は、複数の腫瘍を治療するための抗CEA、抗CD及び抗CD28の遺伝子組み換え工程による糸状な単鎖の三重特異性抗体を提供する。
【0010】
また、本発明は、この三重特異性抗体を構築する方法を提供する。
【0011】
本発明に開示されたマウス由来の抗CEAの単鎖抗体であるCEA−TsAbのアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)は、以下のようにした。
【0012】
QVQLQQSGAELMKPGASVKISCKATGYTFSDYWIEWVKQRPGHGLEWIGEILPGSGRTDYNERFKGKATFTGDVSSNTAYMKLSSLTSEDSAVYYCATGTTPFGYWGQGTLVTVSATSTPSHNSHQVPSAGGPTANSGSRDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASQSVSTSSYTYMHWYQQKPGQPPKLLIKYASNLESGVPARFSGSGSGTDFTLNIHPVEEEDTAYYYCQHSWEIPRTFGGGTKLEIK
【0013】
本発明に開示されたマウス由来の抗CD3の単鎖抗体であるCEA−TsAbのアミノ酸配列は、以下のようにした。
【0014】
EVKLVESGPELVKPGASMKISCKASGYSFTGYTMNWVKQSHGKNLEWMGLINPYKGVSTYNQKFKDKATLTVDKSSSTAYMELLSLTSEDSAVYYCARSGYYGDSDWYFDVWGAGTSVTVSSTSGGGGSGGGGSGGGGSSRDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDIRNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSRLHSGVPSKFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPWTFAGGTKLELKRA
【0015】
本発明に開示されたCEA−TsAbの核酸配列(SEQ ID NO:1)は、以下のようにした。
【0016】
1 ATGGGTCTCGAGCAGGTGCAGCTGCAGCAGAGCGGTGCGGAACTGATGAA
51 ACCGGGCGCGAGCGTGAAAATCAGCTGCAAAGCGACCGGCTATACCTTCA
101 GCGATTATTGGATCGAATGGGTGAAACAGCGTCCGGGTCACGGCCTGGAA
151 TGGATCGGTGAAATCCTGCCGGGCAGCGGCCGTACCGACTACAACGAACG
201 TTTCAAAGGCAAAGCGACCTTCACCGGCGACGTTTCTAGCAACACCGCGT
251 ATATGAAACTGTCTAGCCTGACCAGCGAAGATAGCGCGGTGTATTACTGC
301 GCGACCGGCACCACCCCGTTCGGTTACTGGGGTCAGGGCACCCTGGTTAC
351 CGTTTCCGCGACTAGTACCCCGAGCCATAACAGCCATCAGGTGCCGAGCG
401 CGGGCGGCCCGACCGCGAACAGCGGCTCTAGAGACATCGTGCTGACCCAG
451 AGCCCGGCGAGCCTGGCGGTGTCTCTGGGTCAGCGTGCGACCATCTCCTG
501 CCGTGCTTCCCAGTCCGTTTCCACCTCCTCCTACACCTACATGCACTGGT
551 ATCAGCAGAAACCGGGTCAGCCGCCGAAACTGCTGATCAAATATGCGAGC
601 AACCTGGAATCTGGTGTGCCGGCGCGTTTCAGCGGTTCTGGCAGCGGCAC
651 CGACTTCACCCTGAACATCCACCCGGTGGAAGAAGAAGATACCGCGTATT
701 ACTATTGCCAGCACTCTTGGGAAATCCCGCGTACCTTCGGTGGCGGCACC
751 AAACTGGAAATCAAAGAATTCAACAGCACGTACCGGGTTGTAAGCGTCCT
801 CACCGTACTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAATACAAATGCAAGA
851 GTACTGAGGTGAAGCTGGTGGAGTCTGGACCTGAGCTGGTGAAGCCTGGA
901 GCTTCAATGAAGATATCCTGCAAGGCTTCTGGTTACTCATTCACTGGCTA
951 CACCATGAACTGGGTGAAGCAGAGTCATGGAAAGAACCTTGAGTGGATGG
1001 GACTTATTAATCCTTACAAAGGTGTTAGTACCTACAACCAGAAGTTCAAG
1051 GACAAGGCCACATTAACTGTAGACAAGTCATCCAGCACAGCCTACATGGA
1101 ACTCCTCAGTCTGACATCTGAGGACTCTGCAGTCTATTACTGTGCAAGAT
1151 CGGGGTACTACGGTGATAGTGACTGGTACTTCGATGTCTGGGGCGCAGGA
1201 ACCTCAGTCACTGTCTCCTCAACTAGTGGTGGTGGTGGTTCTGGTGGTGG
1251 TGGTTCTGGTGGTGGTGGTTCTTCTAGAGACATCCAGATGACCCAGACCA
1301 CATCCTCCCTGTCTGCCTCTCTGGGAGACAGAGTCACCATCAGTTGCAGG
1351 GCAAGTCAGGACATTAGAAATTATTTAAACTGGTATCAACAGAAACCAGA
1401 TGGAACTGTTAAACTCCTGATCTACTACACATCAAGATTACACTCAGGAG
1451 TCCCATCAAAGTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGAACAGATTATTCTCTCACC
1501 ATTAGCAACCTGGAGCAAGAGGATATTGCCACTTACTTTTGCCAACAGGG
1551 TAATACGCTTCCGTGGACGTTCGCTGGAGGCACCAAACTGGAACTGAAGC
1601 GCGCTGTCGACTTCCAGAATGCGCTGCTGGTTCGTTACACCAAGAAAGTA
1651 CCCCAAGTGTCAACTCCAACTCCTGTAGAGGTCTCACATATGCAGGTACA
1701 GCTACAGGAATCTGGTCCGGGTCTGGTAAAACCGTCTCAGACCCTGTCTC
1751 TGACCTGTACCGTATCTGGTTTCTCTCTGTCTGACTATGGTGTTCATTGG
1801 GTACGTCAGCCGCCAGGTAAAGGTCTGGAATGTCTGGGTGTAATATGGGC
1851 TGGTGGAGGCACGAATTATAATTCGGCTCTCATGTCCAGACGTGTAACCT
1901 CTTCCGACGATACCTCTAAAAATCAGTTCTCTCTGAAACTGTCTCTGTCT
1951 TCCGTAGACACCGCTGTATACTATTGTGCTCGTGACAAAGGTTACTCCTA
2001 TTACTATTCTATGGACTACTGGGGTCAGGGCACCCTGGTAACCGTATCTT
2051 CCGGTACCGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGAATGGGGCCGCA
2101 CATCATCATCACCATCACGAGCAA
【0017】
本発明に開示されたCEA−TsAbのアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)は、以下のようにした。
【0018】
MGLEQVQLQQSGAELMKPGASVKISCKATGYTFSDYWIEWVKQRPGHGLEWIGEILPGSGRTDYNERFKGKATFTGDVSSNTAYMKLSSLTSEDSAVYYCATGTTPFGYWGQGTLVTVSATSTPSHNSHQVPSAGGPTANSGSRDIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASQSVSTSSYTYMHWYQQKPGQPPKLLIKYASNLESGVPARFSGSGSGTDFTLNIHPVEEEDTAYYYCQHSWEIPRTFGGGTKLEIKEFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKSTEVKLVESGPELVKPGASMKISCKASGYSFTGYTMNWVKQSHGKNLEWMGLINPYKGVSTYNQKFKDKATLTVDKSSSTAYMELLSLTSEDSAVYYCARSGYYGDSDWYFDVWGAGTSVTVSSTSGGGGSGGGGSGGGGSSRDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDIRNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSRLHSGVPSKFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPWTFAGGTKLELKRAVDFQNALLVRYTKKVPQVSTPTPVEVSHMQVQLQESGPGLVKPSQTLSLTCTVSGFSLSDYGVHWVRQPPGKGLECLGVIWAGGGTNYNSALMSRRVTSSDDTSKNQFSLKLSLSSVDTAVYYCARDKGYSYYYSMDYWGQGTLVTVSSGTEQKLISEEDLNGAAHHHHHHEQ
【0019】
本発明は、この抗体を発現するためのベクターCEA−TsAb/pTRIを提供することを目的とする。
【0020】
また、本発明は、低温誘導により、三重特異性抗体の胞内に可溶性発現を促進する方法を提供することを目的とする。
【0021】
更に、本発明は、DEAE陰イオン交換樹脂を使用して、この三重特異性抗体を精製する方法を提供することを目的とする。
【0022】
なお、本発明は、特に、以下の実施例において公開された本発明の内容を基礎として、本発明の優れた点を、当業者が容易に実現できるようにすることを目的とする。
【発明の詳細な説明】
【0023】
以下の説明において使用される用語は、特に説明がなければ、当業者において通常に理解される意味で用いられる。特に、以下の用語は、次の通りの意味で用いられる。
【0024】
本発明において、構築された遺伝子組み換えによる単鎖の三重特異性抗体は、遺伝子組み換え方法により構築され、また、3種類の抗原の結合特異性を有する単一の抗体分子である。具体的には、本発明において開示された抗CEA、抗CD3及び抗CD28の糸状な単鎖の三重特異性抗体は、3種類の抗体の断片を2種類のペプチドリンカー(FCペプチドリンカー及びHSA/ペプチドリンカー)(Min Fang,2003)を介して、順序的に連接され、単一分子である三重特異性抗体として作製された。この抗体のC−末端には、c−myc及び(His)−tag(Hengen,1995;Fan et al.,1998)を添加することができ、このtagは、活性の検出と抗体の精製に有用であるが、不添加であってもよい。3種類の抗体の断片は、単鎖の抗体の断片(scFv:single chain fragment of variable region)としてもよいし、抗体のFab断片としても、又は、単区域抗体の断片(VH及びVL)としてもよい。更に具体的には、CEA−TsAbは、抗CEAscFv、抗CD3scFv及び抗CD28VHを、FCペプチドリンカー及びHSAペプチドリンカーにより、順序的に連接し、その後で、C−末端にc−myc−tag及び(His)−tagを添加した。この抗体は、以下の優れた点がある。
【0025】
(1)T細胞の活性化に対して、ダブルシグナル伝達が必要であるという理論に基づいて構築されており、T細胞を完全に活性化させることができる。
【0026】
(2)幅広い相関を持つ抗原であるCEAを識別することができ、CTL細胞に対する特異性がある複数の腫瘍細胞を殺傷して、複数の腫瘍細胞を治療する応用が可能である。
【0027】
本発明において、低温誘導とは、三重特異性抗体の胞内可溶性の発現を促進する方法であって、0.4mMのIPTG(Isopropyl−β−D(−)−thiogalactopyranoside)により、30℃で、大腸菌における三重特異性抗体の発現を誘導することを指す。この方法では、広い範囲に亘って包封体の形成を低下させることができ、胞内可溶性が発現された三重特異性抗体の割合(全三重特異性抗体における割合)が、50%以上に達する。この方法により得られた発現産物は、変性や複製を伴わず、直接的に精製され、生産効率の向上及び材料の節約に寄与する。
【0028】
本発明では、DEAEアニオン交換樹脂を採用して、三重特異性抗体を溶出して、最適pH(pH8.0)で精製を行なった。上記の胞内可溶性の発現産物を、一度DEAEアニオン交換クロマトグラフィにかけると、殆ど全ての雑蛋白質はDEAEカラムに付着し、一方、大部分の三重特異性抗体は溶出液と共に流出する。得られた三重特異性抗体の純度は、75%以上に達した。
【0029】
本発明の技術方法は、以下のようにした。
【0030】
まず、特定のポリクローニングsiteを有する中間ベクターであるpTRIを構築した。その後、既存の発現ベクターを用いて、PCR法により、抗CD28単区域抗体をコードするDNA断片であるCD28VHを増幅した。同時に、両末端の制限酵素による切断siteを、NdeI/KpnIに取り替えて、既存のベクターを用いて、抗CD3単鎖抗体をコードするDNA断片を増幅すると共に、両末端の制限酵素による切断siteを、ScaI/SalIに取り替えて、既存のベクターを用いてCEAscFv(XhoI/EcoRI)を切断した。最後に、一定の順序で、制限酵素による切断断片を連接し、形質転換反応により、抗CEA、抗CD3及び抗CD28の糸状な単鎖の三重特異性抗体であるCEA−TsAbを構築した。
【0031】
次に、CEA−TsAb/pTRIを大腸菌BL21(DE3)で形質転換した後、IPTGを加えて低温誘導によってこれを発現させ、発現産物を超音波処理し、この上清成分に対して、DEAEアニオン交換樹脂によるクロマトグラフィを行い、初歩的な精製を行った。続いて、酵素免疫測定法(ELISA法)によりCEA−TsAb鈍化産物の抗原結合活性を測定し、また、FITCで標識したCEA−TsAb精製産物を、フローサイトメトリー(FACS)法により腫瘍細胞の結合特異性を検出した。更に、MTT法により、CEA−TsAb精製産物に含まれるT細胞が、CEA腫瘍細胞に対する殺傷効果を有するかを検出した。また、倒立型顕微鏡により上記の殺傷過程における腫瘍細胞の形態変化を記録すると共に、MTT法により、CEA−TsAb精製産物がT細胞を介して、CEAを発現した腫瘍細胞を殺傷する過程において、T細胞の増殖状態を検出した。また、PI/Annexin−Vのダブル染色FACSにより、CEA−TsAb精製産物がT細胞を介して、CEAを発現した腫瘍細胞に対する殺傷効果を有するか、その細胞のアポトーシス誘導効果を検出する共に、蛍光顕微鏡により、上記の殺傷過程におけるアポトーシス形態又はネクローシス形態を記録した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施例について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、いずれの実施例も、本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
<実施例1>Overlap−PCRによる三重特異性抗体の発現ベクターであるpTRIベクターを構築するためのポリクローニングDNA断片の連接
Overlap−PCRのスケジュールは、図1の記載に基づいて行われる。Overlap−PCRに使用された核酸断片は、以下のようにした。
【0034】
1. 5’−TATACCATGGGTCTCGAG−3’(SEQ ID NO:5)
2. 5’−TATACCATGGGTCTCGAGATGTACCCGCGCGGTAACACTAGTGAATTCAACAGCACGTA−3’(SEQ ID NO:6)
3. 5’−AGCCAGTCCTGGTGCAGTACGGTGAGGACGCTTACAACCCGGTACGTGCTGTTGAATTC−3’(SEQ ID NO:7)
4. 5’−CTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAATACAAATGCAAGAGTACTTCTAGAATGTA−3’(SEQ ID NO:8)
5. 5’−CGAACCAGCAGCGCATTCTGGAAGTCGACGTTACCGCGCGGGTACATTCTAGAAGTACT−3’(SEQIDNO:9)
6. 5’−AATGCGCTGCTGGTTCGTTACACCAAGAAAGTACCCCAAGTGTCAACTCCAACTCCTGT−3’(SEQ ID NO:10)
7. 5’−GCGGTACCGTTACCGCGCGGGTACATCATATGTGAGACCTCTACAGGAGTTGGAGTTGA−3’(SEQ ID NO:11)
8. 5’−CGCGGTAACGGTACCGCGCTGGAAGTTGACGAAACCTACGTTCCGAAAGAATTTAACGC−3’(SEQ ID NO:12)
9. 5’−TCGCTAGCCCCATCCGCGGGATGTCAGCGTGGAAGGTGAAGGTTTCCGCGTTAAATTCTTTCGG−3’(SEQ ID NO:13)
10. 5’−ATCGAGCTCATGTACCCGCGCGGTAACGCTAGCGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGA−3’(SEQ ID NO:14)
11. 5’−TATTGCTCGTGATGGTGATGATGATGTGCGGCCCCATTCAGATCCTCTTCTGAGATGAG−3’(SEQ ID NO:15)
12. 5’−CTCGACGGATCCTTATTGCTCGTGATGGTG−3’(SEQ ID NO:16)
【0035】
操作工程は、以下のようにした。
【0036】
(1)工程1:断片2−11について、図1に示されたような反応条件において、プライマー無添加で、別々にアニーリングし、伸長を進める。得られた反応産物を回収せずに、次の反応を行った。
【0037】
反応条件としては、各1μlの断片に、2μlのPCR用10倍緩衝液、2μlのdNTPs(2mmol/ml、each)(大通宝生物技術会社製)、0.3μlのTaqポリメラーゼ(1U)(大連宝生物技術会社製)及び14μlの水を加えた。
【0038】
94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間伸長させる工程を10回繰り返した。
【0039】
上記工程により、反応産物A(断片2及び3をハイブリダイズ)、B(断片4及び5をハイブリダイズ)、D(断片8及び9をハイブリダイズ)及びE(断片10及び11をハイブリダイズ)が得られた。
【0040】
(2)工程2;反応産物A及びB、B及びC、C及びD、D及びEを、図1に示すように、プライマー無添加で、別々にハイブリダイズして、伸長させた。いずれの反応産物も、1%アガロースゲル電気泳動により回収した。反応産物I(反応産物A及びBをハイブリダイズ)は約180bpであり、II(反応産物B及びCをハイブリダイズ)は約180bp、III(反応産物C及びDをハイブリダイズ)は約180bp、IV(反応産物D及びEをハイブリダイズ)は約100bpであった。
【0041】
上記の反応産物(I乃至IV)は、10μlの各反応産物(A乃至E)について、他の反応成分を添加せず、以下の条件で反応を行うことにより得られた。
【0042】
94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間伸長させる工程を10回繰り返した。
【0043】
(3)工程3:反応産物I及びII、反応産物III及びIVを、図1に示されるように、以下の反応条件で、別々にアニーリングし、伸長させた。いずれの反応産物も、1%アガロースゲル電気泳動により回収した。反応産物UP(反応産物I及びIIをハイブリダイズ)は約340bpであり、DOWN(反応産物III及びIVをハイブリダイズ)が、約260bpであった。
【0044】
上記の反応産物(UP及びDOWN)は、反応産物I及びII、反応産物III及びIVを各1μlに対して、PCR用10倍緩衝液を2μl、dNTPs(2mmol/ml、each)を2μl、Taqポリメラーゼ(1U)を0.3μl、水を13μl添加した。
【0045】
94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、72℃で50秒間伸長させる工程を25回繰り返した。
【0046】
(4)工程4;反応産物UPとDOWNをハイブリダイズさせて、断片1及び12をプライマーとし、Overlapにより伸長させた。
【0047】
本工程では、上記の反応産物UP及びDOWNの各1μlに対して、プライマーを各1μlとし、PCR用10倍緩衝液を2μl、dNTPs(2mmol/ml、each)を2μl、Taqポリメラーゼ(1U)を0.3μl、水を12μl添加した。
【0048】
94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、72℃で50秒間伸長させる工程を25回繰り返し、Overlap−PCR産物を得た。
【0049】
最後に、1%アガロースの電気泳動により、Overlap−PCR産物の大きさを測定し、その断片の大きさが、439bpであり(図2参照)、上記の方法により、効果的にポリクローニングsiteのDNA断片をつなぎ合わせた。Overlap−PCR産物において、ポリクローニングsiteのDNA断片の核酸配列、制限酵素の切断位点及び構成については、図3に示す。
【0050】
<実施例2>CEA−TsAbの構築
具体的な構築工程を、図4に示す。また、この構築工程において用いられる各種類ベタターの概略を図5に示す。以下、具体的な構築工程を説明する。
【0051】
(1)ベクターpTRIの構築
ポリクローニングsiteのDNA断片及びpTMF空ベクター(Zhang et al.,2002)について、同時に、NcoI/BamHIダブル制限酵素による切断反応を行い、ポリクローニングsiteのDNA断片の酵素による切断産物及びpTMFの酵素による切断断片を回収し、TOP10株へ形質転換し、陽性に形質転換されたクローニングのプラスミドを抽出し、PCRにより連接したプラスミドをpTRIと名付け、次の操作に使用した。
【0052】
上記の酵素による切断反応、連接反応、細菌のコンピテントセルの作製及び形質転換反応の具体的な操作は、以下のようにした。
【0053】
酵素による切断反応は、20μlのシステムを使用し、約1μlのpTMF空ベタター又はポリクローニングsiteDNAの断片について、夫々NcoI/BamHI(Promega会社製)ダブル酵素による切断反応を行った。酵素の用量、緩衝液及び反応条件は、その制限酵素の説明書の記載を参照した。酵素による切断産物は、1%アガロースゲル電気泳動を行った後、ゲル回収キット(上海華舜会社製)により、所定の大きさの断片が回収された。pTMF空ベクターの酵素による切断産物の大ききは、約5,000bpであり、ポリクローニングsiteDNAの断片の酵素による切断産物の大きさは、約430bpであった。
【0054】
連接反応は、50−100ngの酵素により切断したpTMFベクターの断片及びベクターの3−10倍の酵素により切断されたポリクローニングsiteDNAの断片に、2μlの10×T4DNAligase緩衝液、1UのT4DNAligase(大連宝生物会社製)、ddHOを添加し、全体積を20μlとし、16℃でインキュべートし、一晩連接させた。
【0055】
次に、大腸菌のコンピテントセルを作製した。TOP10株(Invitrogen会社製)を、2mlのLB培地((10g/l tryptone(GIBCO会社製)、5g/l yeast extract(GIBCO会社製)、5g/l NaCl、pH7.5))に接種し、37℃で一晩振とう培養した。ここでは、1:100の割合になるよう、20−40mlの抗生物質無添加のLB培地に接種した。高速で振とうし、A600が0.3−0.4(約2.5時間)になるまで培養した。次に、アイス浴を15分間行った。更に4℃、4,000rpmで10分間の遠心分離を行い、菌体を収集して、上清成分を捨て、10mlの予冷した0.1mol/l CaCl(Sigma会社製)を添加し、ソフトに菌体を懸濁してミクスチャーを行い、20分間アイス浴を行った。4℃、4,000rpmで遠心分離を10分間行い、1−2mlの予冷した12%グリセリンを含む0.1mol/ml CaClを添加し、ソフトに菌体を懸濁して、200μlを夫々チューブに入れて、−80℃で保存し、これを備用した。
【0056】
連接産物の形質転換は、200μlのコンピテントセルへ、上記の連接混合物1μlを添加し、ミクスチャーした後、アイス浴を30分間行い、42℃で100秒間の熱刺激し、その後、急速に2分間のアイス浴に置いた。アイス浴した混合物には、0.8mlのLB培地を添加し、37℃で、ソフトに45分間を揺動させる(<150rpm)又は静置により回復させた。10,000rpmで1分間遠心分離し、上清を捨て、50〜100μlのLB培地を添加し、沈殿を懸濁し、LB−K培地(10g/l tryptone、5g/l yeast extract、5g/l NaCl、15g/lを寒天(SIGMA会社製)に塗布し、カナマイシン((SIGMA会社製)pH7.5)50μg/mlを添加して、37℃で一晩培養した。
【0057】
陽性の組み換えクローンのスクリーン及びその判定は、以下のようにして行った。まず、カナマイシンによる陽性の連接産物のモノクローンを選択し、2mlのLB−K培地(10g/l tryptone、5g/l yeast extract、5g/l NaCl、50μg/ml カナマイシン((SIGMA会社製)pH7.5))に接種し、37℃で一晩培養した後、プラスミド抽出キット(上海華舜会社製)の説明書の記載を参照してプラスミドDNAを抽出し、これをpTRIと名付けた。そして、以下の方法に従って、PCR判定を行った。
【0058】
PCR判定は、20μlの増幅システムに、0.1−1μlのプラスミドDNA(約20〜200ng)を添加し、上流側プライマー(T7−up: 5’−TAATACGACTCACTATAGGGGA−3’)(SEQ ID NO:17)及び下流側プライマー(T7−down: 5’−GCTAGTTATTGCTCAGCGG−3’)(SEQ ID NO:18)を別々に10pmolとし、2μlの10×Taq酵素緩衝液及び2μlの2mmol/mlのdNTPs、1UのTaq酵素、水を添加して、全体積を20μlとした。具体的な反応工程としては、94℃で5分間の予備変性を行った後、94℃で40秒間の変性を行い、53℃で40秒間アニーリングして、72℃で40秒間伸長させる工程を25回繰り返し、5μlのPCR産物を採取して、1%アガロースゲル電気泳動による検出を行った。その結果、図6に示されるように、PCR産物の大きさは約500bpであった。
【0059】
(2)CD28VH/pTRIの構築
PCR法でプラスミドCD28VH/pTMF(Cheng et al.,2002)により、抗CD28VHのDNA断片を増幅し、使用された上流側プライマー(P1: 5’−TCACATATGCAGGTACAGCTACAG−3’)(SEQ ID NO:19)及び下流側プライマー(P2; 5’−TTCGCTAGCGGAAGATACGGTACCA−3’)(SEQ ID NO:20)の5’末端には、夫々に制限酵素の切断位点であるNdeIとNheIがあるので、PCR産物の両末端も、これら2つの新しい制限酵素の切断位点を持つようになった。
【0060】
PCR反応混合物の構成は、各プライマーに対して、2μlのdNTPs(各種類2mol/mlを含む)、2μlの10×Pfu緩衝液、1μlのプラスミドCD28VH/pTMF(約100ng)、0.3μlのPfu酵素(Promega会社製)、ddHOを補充し、全量を20μlとした。PCR反応の条件は、以下のようにした。94℃で3分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、55℃で30秒間アニーリングし、72℃で50秒間伸長させる工程を25回繰り返した。PCR産物の大きさは、約500bpであった。1%アガロースゲル電気泳動の後に、ゲル回収キット(上海華舜会社製)で、約350bpのPCR産物を回収した。
【0061】
このPCR産物とベクターpTRIについて、NdeI/NheI(Promega会社製)のダブル酵素による切断反応が行われた。具体的な酵素による切断反応条件は、酵素の提供者の説明書の記載を参照し、ゲル回収キットによるPCR産物の酵素による切断産物(約350bp)とpTRIの酵素による切断大断片の産物(約5300bp)とを連接し、形質転換した。その詳しい反応過程は、上記の工程(1)に準じる。その後、カナマシン耐性陽性クローンを抽出し、PCRよる判定を行った。判定方法は、上記の工程(1)に準じる。その結果は、図6に示されるように、PCR産物の大きさが750bp程度となったクロニーグは、正しく連接されたのであり、それをCD28VH/pTRIと名付け、次の操作に使用した。
【0062】
(3)CD3scFv/CD28VH/pTRlの構築
PCR法でプラスミドCD3scFv/pTMF(▲喜富,粛颯,▼征,等.抗ヒトCD3、単▲抗体与改型単域抗体的表迭.中国科学(C▼),1996,26(5):428〜435))により、抗CD3scFvのDNA断片を増幅し、上流側プライマー(P1; 5’−AAGAGTACTGAGGTGAAGCTGGTGG−3’)(SEQ ID NO:21)及び下流側プライマー(P2: 5’−GAAGTCGACAGCGCGCTTCAGTTCCAG−3’)(SEQ ID NO:22)の5’末端には、夫々制限酵素による切断位点であるScaIとSalIがあるので、PCR産物の両末端にも、2つの新しい制限酵素による切断位点を持つようになった。
【0063】
PCR反応混合物の構成は、1μlの各プライマー、2μlのdNTPs(各種類2mmol/mlを含む)、2μlの10×Pfu緩衝液、1μlのプラスミドCD3scFv/pTMF(約100ng)、0.3μlのPfu酵素(Promega会社製)、ddHOを補充し、全体積を20μlとした。PCR反応の条件は、以下のようにした。94℃で3分間予変性した後、94℃で30秒間の変性を行い、55℃で30秒間アニーリングし、72℃で50秒間伸長させる工程を25回線り返した。1%アガロースゲル電気泳動の後に、ゲル回収キット(上海華舜会社製)で、約750bpのPCR産物を回収した。
【0064】
このPCR産物とベクターCD28VH/pTRIについて、ScaI/SalI(Promega会社製)ダブル酵素による切断反応を行った。具体的な酵素による切断反応条件は、酵素の供給元の説明書の記載を参照し、ゲル回収キットによるPCR産物の酵素による切断産物(750bp程度)とCD28VH/pTRIの酵素による切断大断片の産物(約5700bp程度)とを連接し、TOP10株へ形質転換した。その詳しい反応過程は、上記の工程(1)に準じる。その後、カナマシン耐性陽性クローンを選択し、PCR判定を行った。このPCR判定の方法は、上記の工程(1)に準じる。その判定結果は、図6に示されるように、PCR産物の大きさが1400bp程度であるクローンが正しく連接したものであり、陽性が現れるているクローンを保留し、プラスミドを抽出し、それをCD28VH/pTRIと名付け、次の操作に使用した。
【0065】
(4)CEA−TsAb/pTRIの構築
Overlap−PCRにより抗CEA単鎖抗体を構築した。抗CEAモノクローン抗体の重鎖と軽鎖の可変区のアミノ酸配列(Koga et al.,1990)とをポリペプチド配列(GGGGSGGGGSGGGGS)(SEQ ID NO:23)で連接し、抗CEA単鎖抗体として設計した。その後、大腸菌の偏好なコドン表(Nakamura et al.,2,000)に基づいて、DNA配列をトランスレーションし、相補的な核酸塩基配列に分けて(以下の配列番号1−22に示される)、Overlap−PCRにより、抗CEA単鎖抗体DNA断片の全長をつなぎ合わせた。以下、抗CEA単鎖抗体の全遺伝子断片の核酸断片である。
【0066】
1. 5’−TTCCTCGAGCAGGTTCAGCT−3’(SEQ ID NO:24)
2. 5’−TCGCGCCCGGTTTCATCAGTTCCGCACCGCTCTGCTGCAGCTGAACCTGCTCGAGGAA−3’(SEQ ID NO:25)
3. 5’−ACTGATGAAACCGGGCGCGAGCGTGAAAATCAGCTGCAAAGCGACCGGCTATACCTTC−3’(SEQ ID NO:26)
4. 5’−CACCCATTCGATCCAATAATCGCTGAAGGTATAGCCGGTCGCTT−3’(SEQ ID NO:27)
5. 5’−ATTATTGGATCGAATGGGTGAAACAGCGTCCGGGTCACGGCCTGGAATGGATCGGTGAA−3’(SEQ ID NO:28)
6. 5’−ACGTTCGTTGTAGTCGGTACGGCCGCTGCCCGGCAGGATTTCACCGATCCATTCCAGG−3’(SEQ ID NO:29)
7. 5’−CGTACCGACTACAACGAACGTTTCAAAGGCAAAGCGACCTTCACCGGCGACGTTTCTAGC−3’(SEQ ID NO:30)
8. 5’−TTCGCTGGTCAGGCTAGACAGTTTCATATACGCGGTGTTGCTAGAAACGTCGCCGGTGAA−3’(SEQ ID NO:31)
9. 5’−TGTCTAGCCTGACCAGCGAAGATAGCGCGGTGTATTACTGCGCGACCGGCACCACCCCG−3’(SEQ ID NO:32)
10. 5’−GCTCACGGTCACCAGGGTGCCCTGACCCCAGTAACCGAACGGGGTGGTGCCGGTCPCGCA−3’(SEQ ID NO:33)
11. 5’−GCACCCTGGTGACCGTGAGCGCGACTAGTACCCCGAGCCATAACAGCCATCAGGTGCCG−3’(SEQ ID NO:34)
12. 5’−GTCTCTAGAGCCGCTGTTCGCGGTCGGGCCGCCCGCGCTCGGCACCTGATGGCTGTTAAT−3’(SEQ ID NO:35)
13. 5’−CGAACAGCGGCTCTAGAGACATCGTGCTGACCCAGAGCCCGGCGAGCCTGGCGGTGTC−3’(SEQ ID NO:36)
14. 5’−CTGGGAAGCACGGCAGGAGATGGTCGCACGCTGACCCAGAGACACCGCCAGGCTCGCCGG−3’(SEQ ID NO:37)
15. 5’−TCTCCTGCCGTGCTTCCCAGTCCGTTTCCACCTCCTCCTACACCTACATGCACTGGTAT−3’(SEQ ID NO:38)
16. 5’−GATCAGCAGTTTCGGCGGCTGACCCGGTTTCTGCTGAIACCAGTGCATGTAGGTGT−3’(SEQ ID NO:39)
17. 5’−AGCCGCCGAAACTGCTGATCAAATATGCGAGCAACCTGGAATCTGGTGTGCCGGCGCGT−3’(SEQ ID NO:40)
18. 5’−GTTCAGGGTGAAGTCGGTGCCGCTGCCAGAACCGCTGAAACGCGCCGGCACACCAGATT−3’(SEQ ID NO:41)
19. 5’−GCACCGACTTCACCCTGAACATCCACCCGGTGGAAGAAGAAGATACCGCGTATTACTAT−3’(SEQ ID NO:42)
20. 5’−GCCACCGAAGGTACGCGGGATTTCCCAAGAGTGCTGGCAATAGTAATACGCGGTATCTT−3’(SEQ ID NO:43)
21. 5’−TCCCGCGTACCTTCGGTGGCGGCACCAAACTGGAAATCAAAGAATTCGCC−3’(SEQ ID NO:44)
22. 5’−GGCGAATTCTTTGATTTCCAG−3’(SEQ ID NO:45)
s1) 5’−GGCGAATTCTTTGATTTCCAG−3’(SEQ ID NO:46)
s17) 5’−AGCCGCCGAAACTGCTGATC−3’(SEQ ID NO:47)
s16) 5’−GATCAGCAGTTTCGGCGGCT−3’(SEQ ID NO:48)
s13) 5’−CGAACAGCGGCTCTAGAGAC−3’(SEQ ID NO:49)
s12) 5’−GTCTCTAGAGCCGCTGTTCG−3’(SEQ ID NO:50)
s7) 5’−GTACCGACTACAACGAACGT−3’(SEQ ID NO:51)
s6) 5’−ACGTTCGTTGTAGTCGGTAC−3’(SEQ ID NO:52)
【0067】
(i)工程1:プライマー無添加で、断片1−22を別々に、ハイブリダイズして伸長させ、反応産物は回収せず、そのまま、次の反応を行った。1μl(10pmol)の反応に使用された各断片に対して、PCR用×10緩衝液を2μl、2μlのnodNTPs(2mmol/ml、each)(大通宝生物技術会社製、以下同じ)、0.3μlのTaqポリメラーゼ(1U)(大連宝生物技術会社製、以下同じ)、14μlの水を添加した。94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間伸長させる工程を10回線り返した。
【0068】
上記工程により、反応産物A(断片1及び2をハイブリダイズ)、B(断片3及び4をハイブリダイズ)、C(断片5及び6をハイブリダイズ)、D(断片7及び8をハイブリダイズ)、E(断片9及び10をハイブリダイズ)、F(断片11及び12をハイブリダイズ)、G(断片13及び14をハイブリダイズ)、H(断片15及び16をハイブリダイズ)、I(断片17及び18をハイブリダイズ)、J(断片19及び20をハイブリダイズ)、K(断片21及び22をハイブリダイズ)を得た。
【0069】
(ii)工程2:プライマー無添加で、Overlapにより反応産物AとB、DとE、GとH、JとKを別々にハイブリダイズして伸長させた。各物質の10μl(10pmol)について、94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒伸長させる工程を10回繰り返した。また、1%アガロースゲル電気泳動により、ゲル回収キットで反応産物を回収した。この工程では、反応産物a(反応産物A及びBをハイブリダイズ)、b(反応産物Cに対応)、c(反応産物D及びEをハイブリダイズ)、d(反応産物Fに対応)、e(反応産物G及びHをハイブリダイズ)、f(I)、g(反応産物J及びKをハイブリダイズ)が得られた。反応産物aとgの大きさは約120bpであり、c及びeの大きさは約170bp、b、d及びfの大ききは約100bpであった。
【0070】
(iii)工程3:反応産物a及びb、c及びd、f及びgを別々にハイブリダイズし、反応産物eは単独で使用して、各プライマーを添加し(s1及びs6が反応産物a及びbのハイブリダイズ体に対応し、s7及びs12が反応産物c及びdのハイブリダイズ体に対応し、s13及びs16が反応産物eに対応し、s17及び22が反応産物f及びgのハイブリダイズ体に対応する)、PCRにより増幅させた。1μlの反応用の各物質(約100ng)に対して、2μlの10×PCR緩衝液、2μlのdNTPs(2mM each)、1μlの各プライマー(10pmol)、0.3μlのTaq(1U)を添加し、最終的に体積が20μlとなるよう水を補充した。反応条件は、94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間伸長させる工程を25回繰り返した。1%アガロースゲル電気泳動により、ゲル回収キットを使用し、反応産物I(反応産物a及びbをハイブリダイズ)、II(反応産物c及びdをハイブリダイズ)、III(反応産物eに対応)及びIV(反応産物f及びgをハイブリダイズ)を夫々回収した。反応産物Iの大きさが約200bp、IIの大きさが約250bp、IIIの大きさが約140bp、IVの大きさが約230bpであった。
【0071】
(iv)工程4:反応産物I及びII、反応産物III及びIVを別々にハイブリダイズさせて、各プライマーを添加し(s1及びs12が反応産物I及びIIのハイブリダイズ体に対応し、S13及び22が反応産物III及びIVのハイブリダイズ体に対応する)、PCR増幅を進めた。1μlの反応用の各物質(約100ng)に対して、2μlの10×PCR緩衝液、2μlのdNTP(2mMeach)、1μl(10pmol)の各プライマー、0.3μlのTaq(1U)、12μlの水を添加した。反応条件は、94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間伸長させる工程を25回繰り返した。得られた反応産物UP(反応産物I及びIIをハイブリダイズ)及びDOWN(反応産物III及びIVをハイブリダイズ)を1%アガロースゲル電気泳動のより、ゲル回収キットで、回収した。反応産物UPの大きさは約430bp、DOWNの大きさが約340bpであった。
【0072】
(v)工程5:反応産物UP及びDOWNをハイブリダイズさせて、プライマー(断片s1及び断片22)を添加し、PCR増幅した。各1μl(約100ng)の反応産物UP及びDOWNに、2μlの10×PCR緩衝液、2μldNTP(2mM each)、1μl(10pmol)の各プライマー、0.3μlのTaq(1U)、12μlの水を添加した。反応条件は、94℃で1分間の予備変性を行った後、94℃で30秒間の変性を行い、45℃で30秒間アニーリングし、72℃で1分間伸長させる工程を25回繰り返した。得られた反応産物WHOLE(約750bp)を1%アガロースゲル電気泳動により、ゲル回収キットで、回収した。
【0073】
上記の工程のステップを図7に示し、上記各工程により得られた反応産物のPCR検出を図8に示した。
【0074】
また、上記の750bpのDNA断片及びベクターpTMFに対して、共にXhoI及びEcoRI(Promega会社製)と呼ばれるダブル制限酵素による切断反応を行った。具体的な制限酵素による切断反応条件は、制限酵素の販売元が提供する説明書の記載を参照した。そして、ゲル回収キットにより、PCR産物の制限酵素による切断産物(750bp程度)及びpTMFの切断大断片産物(5200bp程度)を回収し、これらを連接し、TOP10株へ形質転換した。具体的な連接及び形質転換反応の過程は、工程(1)に準じる。その後、カナマシン抗性陽性クローンのプラスミドを抽出し、これをCEAscFv/pTMFと名付けた。
【0075】
CEAscFv/pTMF及びCD3scFv/CD28VH/pTRIに対して、共にXhoI及びEcoRI(Promega会社製)と呼ばれるダブル制限酵素による切断反応を行った。具体的な制限酵素による切断反応条件は、制限酵素の販売者が提供する説明書の記載を参照した。そして、750bp程度のCEAscFv/pTMFの小さい切断断片産物(抗CEAscFv)とCD3scFv/CD28VH/pTRIの大きい切断断片産物(6,000bp程度)とを連接し、TOP10株へ形質転換した。具体的な連接及び形質転換反応の過程は、工程(1)に準じる。その後、カナマシン抗性陽性クローンのプラスミドを抽出し、PCRより判定した。PCRの判定方法は、工程(1)に準じる。判定した結果を図6に示した。PCR産物の大きさは、2100bp程度のクローンとなったものが正しく連接したプラスミドであり、それをCEA−TsAb/pTRIと名付けた。
【0076】
<実施例3>低温誘導によるCEA−TsAbの胞内可溶性発現
(1)CEA−TsAb/pTRIの大腸菌BL21(DE3)(Novagen会社製)への形質転換
実施例2のコンピテントセルの作製方法に従って、大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル細胞を作製した。プラスミド抽出キット(上海華舜会社製)の説明書に基づき、プラスミドCEA−TsAb/pTRIを抽出し、実施例2の工程(1)に準じて形質転換実験を行い、実施例2の通りに判定を進めた。
【0077】
(2)低温による発現誘導
CEA−TsAb/pTRIを有するBL21(DE3)を含む細菌を、LB−K培地を用いて37℃で一晩培養した後、モノクローンをとり、これを5mlのLB−K液体培地に移植して、大きいチューブを用いて37℃で振とうし、一晩培養(200rpm/分)した。翌日、一晩培養したものを1/100の割合に基づいて、250mlのLB−K液体の培地へ移植し、37℃で振とう培養(200rpm/分)を続けて、A600が0.6に達したとき、IPTG(大連宝生物会社製)を添加して、最終濃度を0.4mmol/mlとし、30℃で4時間培養を継続し、低温による発現を誘導した。その後、室温、12,000rpmで10分間の遠心分離を行い、菌体を採取し、1/5培養体積のPBS緩衝液中に懸濁し、菌体の超音波破砕を行った。更に、室温、12,000rpmで10分間の遠心分離を行った。遠心分離した上清成分は、胞内に可溶性発現のCEA−TsAbを含み、遠心分離した沈殿成分は、封入体として発現したCEA−TsAbを含む。遠心分離した沈殿成分を1/5培養体積のPBSで懸濁した。「分子クローン実験指南(金冬雁、黎孟楓逢、1996、科学出版社)」の記載に基づき、未還元性SDS−PAGE電気泳動及びWestern blotにより、上記の超音波処理産物の上清成分及び沈殿成分について、CEA−TsAbの発現状況を検出し、数字図像分析器(アメリカ Alpha Innotech会社、AlphaImage 2200 Documentation & analysis system)により、胞内の可溶性発現と封入体の発現との相対割合を確定した。SDS−PAGE電気泳動(図9に示す)及びWestern blot(図10に示す)の結果は、上記の胞内の可溶性発現の方法により、胞内可溶性発現の割合が、70%程度に達したことを示す。超音波処理産物の上清成分は、そのまま精製することで、次に説明する体外の活性実験に使用することができるので、変性及び複製の工程を少なくし、生産効率を向上させ、生産時間を低下させることができる。
【0078】
<実施例4>DEAEアニオン交換樹脂によるCEA−TsAbの精製
上記の250mlの低温誘導された胞内可溶性の発現産物について、室温、12,000rpmで10分間遠心分離を行い、菌体を採集し、1/5体積(50ml)のDEAEアニオン交換樹脂(ファマシア会社製)、平衡緩衝液(20mmol/ml NaCl、50mmol/ml Tris−HCl(pH8.0))を加えて懸濁し、超音波破砕した。その後、室温、12,000rpmで10分間遠心分離し、遠心分離した上清成分をそのまま精製に使用した。
【0079】
20mlのDEAEアニオン交換樹脂を100mlの平衡緩衝液で懸濁して、カラム(カラムの寸法:16mm×2cm)(上海華舜会社製)に装填し、その後、5倍のカラム体積に相当する平衡緩衝液を流速1ml/分で流して平衡化した。そして、上記の超音波処理産物を遠心分離した上清成分をそのままカラムに置き、サンプル注入が流速0.25ml/分となるようにして、流出した級分、すなわち精製されたCEA−TsAbを採集した後、2×カラム体積(約40ml)の溶出緩衝液(500mmol/ml NaCl、50mmol/ml Tris−HCl(pH8.0))を流速0.25ml/分で流して溶出させた。また、2×カラム体積(約40ml)の0.5mol/l NaOHでカラムを洗浄し、2×カラム体積(約40ml)の1mol/l NaClを流速0.5ml/分で流してカラムを再生させ、最後に、2×カラム体積(40ml)の平衡緩衝液を流速1ml/分で流してカラムを平衡化し、次の精製に使用した。もし、長時間、使用しないのであれば、細菌が生じないようにするため、4×カラム体積以上の20%アルコールの水溶液をカラムに流した後、4℃で保存しなけらばならない。
【0080】
上記の流出した級分をそのまま、未還元性SDS−PAGEにより、精製の効果を検出した。SDS−PAGEの結果(図11に示す)は、DEAEアニオン交換により精製を行い、超音波処理により上清成分の大部分の雑蛋白が除去されたことにより、数字図像分析器(アメリカ Alpha Innotech会社、AlphaImage 2200 Documentation & analysis system)の分析では、CEA−TsAbの純度が70%程度に達したことを示す。
【0081】
上記の精製サンプルをPBS(8gのNaCl、0.2gのKCl、1.44gのNaHPO及び0.24gのKHPO、HClでpH7.4に調整し、全量を1lとした)で一晩透析(4℃)した。透析の体積は500mlとし、6時間経過後に、一度、透析液を交換した。そして、Bradford法により透析したサンプルについて蛋白定量を行った。この具体的な操作は、「精編分子生物学実験指南(顔子穎,王海林逢,金冬雁校,1999,科学出版社,)」を参照した。定量のサンプルに、防腐剤として、NaN(Sigma会社製)を、最終濃度が0.05%(W/V)となるよう添加し、安定剤として、プレスリリース(中国科学院微生物研究所から購入)を最終濃度が0.15mol/lとなるよう添加した。その後、1mlごとに分注し、−80℃で冷凍保存して備用した。
【0082】
<実施例5>ELISA法よるCEA−TsAbの抗原の結合活性の検出
Jurkat細胞膜の抗原の作製:Jurkat細胞(ヒト急性T細胞性白血病細胞株)(米国典型培養物保蔵中心(American Type Culture Collection,ATCC)から購入、番号はTIB−152)を約5×10個採集し、1,000gで10分間、遠心分離した後、細胞の沈殿成分を0.5mlのPBSで懸濁し、超音波処理により破砕した。超音波処理した破砕液を、室温、12,000rpmで10分間、遠心分離した後、超音波処理した上清成分を保留し、Bradford法により、蛋白濃度の定量を行った。その後、防腐剤として、NaNを最終濃度が0.05%(W/V)となるよう添加し、安定剤として、プレスリリース(中国科学院微生物研究所から購入)を最終濃度が0.15mol/lとなるよう添加した。その後、100μlごとに分注し、−80℃で冷凍保存して備用した。
【0083】
ELISA法の操作工程を以下に説明する。
(1)コート:抗原濃度は、CEAを1μg/ml(Fitzerald会社製,ドイツ)とし、CD28−FCchimeraを1μg/ml(R&D会社製)とし、Jurkat細胞膜抗原を10μg/mlとした。コート体積としては、10μl/孔でコートした。コートの緩衝液の構成は、1.36gのNaCO、7.35gのNaHCO、950mlの水、1mol/lのHCl又は1mol/lのNaOHで、pH9.2に調整し、水を補加して1lとした。PBSにより37℃で2時間のコート又は4℃で一晩のコートを行った。
【0084】
(2)ブロッキング:PBSで1−2度洗浄した後、ブロッキング液であるPBSA(PBS−1% BSA(W/V)を200μl/孔で加えて、37℃で1−2時間、ブロッキングした。
【0085】
(3)サンプルの加入:PBSで3度洗浄した後、精製サンプルを加入し、100μl/孔とし、37℃で1−2時間、インキュベートした。サンプルの使用法:10μg/mlの精製CEA−TsAbを起始濃度として、6段階に希釈して、段階毎に3孔を設立した。
【0086】
(4)第1抗体の加入:PBST(PBS−0.05% Tween−20(V/V))で3度洗浄した後、ブロッキング液により1/1,000倍比となるように、抗cmyc−tagモノ抗体(9E10、SANTA CRUTZ会社から購入)を希釈して100μl/孔とし、37℃で1−2時間、インキュベートした。
【0087】
(5)第2抗体の添加:PBSTで3度洗浄した後、ブロッキング液により1/1,000倍比となるように、HRP標識された羊抗マウスIgG(華美会社から購入)を希釈して100μl/孔とし、37℃で1−2時間、インキュベートした。
【0088】
(6)呈色:PBSTで5度洗浄した後、呈色液(48.6mlの0.1Mクエン酸、51.4mlの0.2MNaHPO及び水を加入して全量1lとしたpH5.0の基質緩衝液を製作し、10ml基質緩衝液に4mgのOPD((o−phenylenediamine(Sigma会社製))と15μlの30%Hとを添加し、呈色液を製作した)を100μ/孔とし、室温の避光条件下で15−30分間、呈色させた。
【0089】
(7)停止反応:停止液(1mol/l HCl)を添加して50μl/孔とした。
【0090】
(8)測定の結果:490nmの吸光度を測定した。
【0091】
ELISA法の結果(図12に示す)は、CEA−TsAbと二種類の純抗原(CEA及びCD28)が特異的に結合することを示す。つまり、Jurkatは、多くのCD3を発現するので、CEA−TsAb及びCD3共に特異的に結合することを示す。
【0092】
<実施例6>FACS(フローサイトメトリー)法によるCEA−TsAbと腫瘍細胞の結合活性の検出
間接FACS法を用いて、CEA−TsAbの各種腫瘍細胞に対する結合特異性を検出した。下記の表1は、使用された各種腫瘍細胞の腫瘍相関性及び由来を示す。
【0093】
【表1】

【0094】
具体的な操作は、以下のようにした。
(1)上記の4種類の細胞を培養、採集し、SW1116細胞を除き、他の3種類の細胞は、RPMI−1640液体培地(GIBCO会社製)で、10%ウシ胎児血清(黒尤江江海生物工程技木会社製)を添加して、5%CO、37℃の培養室で培養した。SW1116細胞の培養は、L15液体培地(GIBCO会社製)で、10%新生仔ウシ血清血清(黒尤江江海生物工程技木会社製)を添加し、5%CO、37℃の培養室で培養した培養した。細胞が対数期になるまで増殖させた後、種類毎の細胞を5×10個採集した。
【0095】
(2)上記の各細胞を1,000gで10分間、遠心分離した後、PBSで細胞を懸濁し、更に1,000gで10分間、遠心分離した後、細胞沈殿物を100μlの10μg/mlCEA−TsAbを含むPBSで懸濁し、4℃で30分間を静置した。種類毎の細胞について抗体無添加の同型コントロールを作製した。以下の各工程において、このコントロールに対しても試料サンプルと同じ操作が行われた。
【0096】
(3)1,000gで10分間、遠心分離した後、細胞沈殿物を100μlの1/1000希釈した抗cmyc−tag抗体(9E10、SANTA CRUTZ会社製)のPBSで懸濁し、4℃で30分間を静置し続けた。
【0097】
(4)1,000gで10分間、遠心分離した後、細胞沈殿物を、100μlの1/1000希釈したFITC−conjugated羊抗マウスIgG(BD会社製)のPBSで懸濁し、4℃で30分間、放置し続けた。
【0098】
(5)励起光を488nmとするフローサイトメトリー(BD会社、FACS Calibur)検出により、毎度に10,000個の細胞を採集した。
【0099】
上記の実験結果(図13に示す)は、CEA−TsAbと各種類の腫瘍細胞との結合能力が異なるので、SKOV3、SW1116に対しては強く結合し、A549に対しては弱く結合し、MCF−7に対しては結合しないことを示す。
【0100】
<実施例7>FACS(フローサイトメトリー)法によるCEA−TsAbの末梢血単核細胞(PBMC)及びJurkat細胞との結合活性の検出
直接的FACS法により、CEA−TsAbの末梢血単核細胞(PBMC)(北京市血液センターから購入)とJurkat細胞との結合活性を検出した。具体的な実験操作は、以下のようにした。
【0101】
(1)CEA−TsAbを蛍光素FITC(Sigma会社製)で標識した。蛍光標識法は、「現代免疫学実験技術(沈▲心 周汝麟 主編、湖北科学技術出版社出版)」の記載を参照した。
【0102】
(2)Ficol法により、PBMC(末梢血単核細胞)を採集し、これを10%の新生仔ウシ血清を含むRPMI1640培地に加え、ガラスの細胞培養バドルヘ移入し、37℃で一晩置いて、ミクロファージ細胞等の粘附細胞を除去した。未附着の細胞(主にはT細胞)を計数した後、これらの5×10個細胞を採集し、FACS法による検測に使用した。Ficol法は、「現代免疫学実験技術(沈▲心 周汝麟 主編、湖北科学技術出版社出版」のに記載に基づいて操作した。
【0103】
(3)10%新生仔ウシ血清を含むRPMI1640培地で、37℃でCO(5%)の培養室において、二種類の細胞を培養した。細胞が対数期に達した後、5×10個の細胞を採集し、FACS法に使用した。
【0104】
(4)上記の二種類の細胞を1,000gで10分間、遠心分離した後、PBSで細胞を懸濁し、更に1,000gで10分間、遠心分離した後、細胞沈殿物を100μlの10μg/mlのFITCで標識されたCEA−TsAbを含むPBSで懸濁し、4℃で30分間、放置した。種類毎の細胞について抗体無添加の同型コントロールを作製し、以下の各工程は、このコントロールについても、試料サンプルと同じ操作を行った。
【0105】
(5)励起光を488nmとするフローサイトメトリー(BD会社、FACS Calibur)により、夫々10,000個の細胞を測定した。
【0106】
上記の実験結果(図14に示す)は、CEA−TsAbが二種類の細胞と特異的に結合することができることを示す。
【0107】
CEA−TsAbと腫瘍細胞の結合特異性の実験をまとめると、CEA−TsAbと、PBMC及びJurkat細胞との結合特異性の実験から、CEA−TsAbがT細胞及びCEAを発現した腫瘍細胞と、特異的な結合作用があるという結論が得られた。
【0108】
<実施例8>MTT法よるCEA−TsAbのT細胞を介した大腸癌細胞SW1116の殺傷活性の検出
CEA−TsAbと特異的に結合する大腸癌細胞SW1116を標的細胞(Target cells)とし、PBMCを効果細胞(Effect cells)とし、invitroで、一定の標的細胞と効果細胞の比率となるように(標的細胞/効果細胞、E/T)混合し、同時に、一定濃度のCEA−TsAbを添加し、その後37℃で48時間、培養し、更にMTT法により腫瘍細胞の存活の状況を測定した。これにより、CEA−TsAbのT細胞を介した大腸癌細胞SW1116の殺傷活性を測定した。具体的な操作は以下のようにした。
【0109】
(1)PBMCを採集し、具体的な操作は、実施例7と同様とした。
【0110】
(2)SW1116細胞を採取し、具体的な操作は、実施例6と同様とした。
【0111】
(3)L15培地(GIBCO会社から購入)を用いて効果細胞(PBMC)及び標的細胞(SW1116)の濃度を調整し、SW1116細胞の密度を1×10個/mlとし、10μl/孔として、96孔の細胞プレート(Nunc会社製)に加えた。同時に、異なる濃度のPBMCを添加し、別々に、異なる効果細胞と標的細胞の割合(別々に1、5、10とする)で、10μl/孔とし、上記の細胞プレートに添加した。また、同時に、L15培地でCEA−TsAbの濃度を5倍に濃縮し、使用した抗体濃度(例えば、CEA−TsAbの使用濃度は1μg/mlであり、その場合、濃縮液の濃度は5μg/mlである)とした。抗体の濃縮液を50μl/孔とし、既に効果細胞及び標的細胞を含む96孔の細胞プレートに添加し、37℃でCO(5%)の培養室で48時間、培養した。種類毎のサンプルについては、4個の複孔がある。同じく、毎種の効果細胞と標的細胞の比率は、抗体不添加の陰性コントロール、単独の効果細胞又は標的細胞の陰性コントロール及び細胞無添加の培地の陰性コントロールを作製した。
【0112】
(4)細胞の培地を捨てた後、PBS(300μl/孔)で、一度洗浄し、更にMTT(Sigma会社製)溶液(濃度200μl/孔)を添加し、37℃で4時間インキュベートした後、PBS(300μl/孔)で一度洗浄し、DMSO(200μl/孔)(Sigma会社製)を添加し、37℃で30分間インキュベートした後、A600を測定した。
【0113】
(5)特異性殺傷率(specific cytolysis)は下記の計算式により求められた。
特異性殺傷率(%)=[A600(E/T)−A600(E/T/A)]/[A600(E/T)−A600(M)]×100%
【0114】
上記のA600(E/T)は、種類毎の抗体無添加の実標比の毎種類の効果細胞と標的細胞の比率の抗体無添加の陰性コントロールのA600測定値であり、A600(E/T/A)は、種類毎のサンプルのA600測定値であり、A600(M)は、無細胞の培地における陰性コントロールのA600測定値である。
【0115】
まず、上記の方法により、効果細胞と標的細胞の比率が異なる(1、5、10)CEA−TsAbが、T細胞を介して腫瘍細胞の殺傷率に与える影響を比べた。その結果(図15)は、殺傷率は、効果細胞と標的細胞の比率が高くなるに連れて高くなることを示した。効果細胞と標的細胞の比率を1としたとき、特異性殺傷効率は最も低く、効果細胞と標的細胞の比率を5としたときが、2番目であり、効果細胞と標的細胞の比率を10としたとき、特異性殺傷率は最も高くなった。この最も高い特異性殺傷率は85%程度に達した。このことは、特異性殺傷率は、単に効果細胞と標的細胞の比率ばかりではなく、他の要素も影響していることを示す。更に、抗体濃度が特異殺傷率に与える影響を検討するため、効果細胞と標的細胞の比率を5とし、特異性殺傷率の抗体濃度(0.4ng/ml−12μg/ml)による依存性曲線を測定した。その結果(図16に示す)、特異性殺傷率の変化は、4つ段階に分けられた。すなわち、段階1としては、6μg/ml−12μg/mlの間としたとき、特異性殺傷率と抗体濃度とは、負相関が現れ、6μg/mlとしたときに、特異性殺傷率は最高に達した。段階2としては、特異性殺傷率と抗体濃度とは、正相関が現れ、750ng/mlに達したときには、特異性殺傷率は最低に達した。段階3としては、24ng/ml−750ng/mlの間としたときには、特異性殺傷率と抗体濃度とは、負相関が現れ、24ng/mlとしたとき合には、特異性殺傷率が最高に達した。段階4としては、特異性殺傷率と抗体濃度は、再び正相関が現れる。全過程において特異性殺傷率は、2つの最大値がある。すなわち、6μg/mlとしたときは、約85%であり、24ng/mlとしたときは、約70%である。この結果は、低い効果細胞と標的細胞の比率及び極めて低い抗体濃度であっても、CEA−TsAbは、T細胞を介して、依然として腫瘍細胞を殺傷する高い能力を保持していることを示す。
【0116】
<実施例9>CEA−TsAbがT細胞を介してSW1116細胞を殺傷する過程における細胞形態の観察
CEA−TsAbと特異的に結合する大腸癌細胞SW1116を標的細胞(Target cells)として、PBMCを効果細胞(Effect cells)とし、これらをin vitroで効果細胞と標的細胞との比率(E/T)が5となるよう混合し、一定濃度(750ng/ml)のCEA−TsAbを添加し、37℃で20−40時間培養し、更にOLYMPUS IMT−2 倒立型顕微鏡により、効果細胞による腫瘍細胞の殺傷状況を観察し、顕微鏡写真を撮影した。40倍レンズで20時間、観察及び記録した。その結果(図18に示す)、CEA−TsAbの効果細胞を介した腫瘍細胞の殺傷過程は、以下の4つの工程に分けることができた。まず、標的細胞を順序的に、付着細胞を剥離(図18B)し、その後、効果細胞が腫瘍細胞の表面に集まる(図18C)。集まっている効果細胞の数の増加に連れて、腫瘍細胞の表面には、突起が発生する(図18D)。最後に、細胞の縁がファジーになって、細胞は完全に破砕し、死滅した(図18E、F、G)。
【0117】
<実施例10>CEA−TsAbがT細胞を介してSW1116細胞を殺傷する過程における、MTT法によるT細胞の増加の検出
MTT法によるT細胞の増加を検出し、これによりCEA−TsAbがT細胞を介してSW1116細胞を殺傷する過程を判断し、T細胞の活性化の状況を観察した。具体的な操作は、以下のようにした。
【0118】
(1)PBMCを採集した。具体的な操作は実施例7と同様である。
【0119】
(2)SW1116細胞を培養、採集した。具体的な操作は実施例6と同様である。
【0120】
(3)L15培地で、SW1116細胞の濃度を1×10個/mlに調整し、その後、マイトマイシンC(最終濃度25μg/ml、SIGMA会社製)を添加し、37℃でCO(5%)の培養室で20分間インキュベートした後、PBSで3度洗浄し、残りのマイトマイシンCを除去して、これを備用した。
【0121】
(4)L15培地で、効果細胞(PBMC)の濃度を5×10個/mlとし、標的細胞(SW1116)を1×10個/mlとなるよう調整した。ミクスチャーした後、10μl/孔とし、96孔の細胞プレート(Nunc会社製)に添加した。また、L15培地でCEA−TsAb濃度(抗体の使用濃度は、最終濃度の5倍であり、例えば、最終濃度が1μg/mlであれば、抗体の濃度は5μg/mlである)を調整し、50μl/孔で、既に、効果細胞と標的細胞とを含む96孔の細胞プレートに添加した。その後、37℃でCO(5%)の培養室で、4日間培養した。抗体無添加のコントロール、単独の効果細胞又は標的細胞のコントロール及び無細胞培地のコントロールを夫々作製した。上記の試料サンプルについて、サンプル毎に4孔の繰り返しを用意した。
【0122】
(5)1,000gで10分間、遠心分離し、細胞培地の上清成分を捨てて、PBS(30μl/孔)で、細胞沈殿成分を懸濁し、更に、1,000gで10分間、遠心分離し、遠心分離した上清成分を捨てて、更にMTT溶液(濃度:25μg/ml、200μl/孔)を添加し、37℃で4時間インキュベートした後、PBS(30μl/孔)で、1度を洗浄し、DMSO(Dimethyl sulfoxide、200μl/孔)を添加し、37℃で30分間インキュベートした後、A600を測定した。
【0123】
(6)特異性インデックス(SI:Specific index)の計算式は、以下のようにした。
SI=[A600(E/T/A)/A600(E/T)]
上記のA600(E/T)は、抗体無添加のコントロール孔のA600測定値であり、A600(E/T/A)は抗体を添加したサンプル孔のA600測定値である。
【0124】
図17に示されるように、CEA−TsAb濃度が変化するに従って、SIの変化は、3つ段階に分けられる。まず、段階1としては、抗体濃度を750ng/ml−12μg/mlの間としたとき、SIとCEA−TsAb濃度との間には正相関の変化が現れる。CEA−TsAb濃度を750ng/mlとしたとき、最低に達する。段階2としては、SIとCEA−TsAb濃度との間には負相関の変化が現れ、CEA−TsAb濃度を47ng/ml程度としたとき、最高に達する。段階3としては、CEA−TsAb濃度が47ng/mlより小さいとき、SIとCEA−TsAb濃度との間に正相関の変化が現れ、0.7ng/mlで、SIは最低に達する。この結果は、低いCEA−TsAb濃度としたとき、CEA/TsAbは、依然として、T細胞を活性化する能力を有することが示された。SIの変化法則を腫瘍細胞の特異性殺傷率の変化法則と比べると、CEA−TsAbのT細胞を介した腫瘍細胞の殺傷効率は、T細胞の活性化の程度と直接的に相関しており、T細胞の活性化の程度が高ければ、腫瘍細胞の殺傷効率が高くなることが発見された。
【0125】
上述の実施例4、5、6、7、8、9の実験結果をまとめると、上記の殺傷過程において、CEA−TsAbの作用は、主に、二つの方面がある。その一つが、腫瘍細胞及び効果細胞(T細胞)の間に直接的な連係を立てる、すなわち、標的化作用を現し、腫瘍細胞の回りの効果細胞を活性化させ、腫瘍細胞を殺傷する機能を発現する。この作用は、図19に示されたメカニズムのモデルにまとめた。すなわち、CEA−TsAbは、生体に使用されると、T細胞と、又はCEAを発現した腫瘍細胞と特異的な結合作用を行い、結果的に、T細胞を腫瘍細胞の回りへ標的化する作用を発揮する。また、CEA−TsAbは、CD3と、又はCD28と特異的に結合し、T細胞を活性化する。活性化されたCTL細胞は、直接的に腫瘍細胞を殺傷し、活性化されたTH細胞は、細胞因子(例えば、IL−2、IFN−γが挙げられる)を分泌し、活性化CTL、NK細胞等の細胞性免疫の効果細胞を補助し、間接的に腫瘍細胞を殺傷する。
【0126】
<実施例11>CEA−TsAbのT細胞を介した腫瘍細胞の殺傷メカニズムの検出
活性化されたCTL細胞は、3つの経路により腫瘍細胞を殺傷することができる。そのうち、一つの経路は、perforinを分泌し、このperforinは、腫瘍細胞の表面に微小孔を造成して細胞を破砕させ、更に、細胞をネクローシスさせる。他の活性化されたCTL細胞から分泌されたGranzymeが、上記の微小孔から腫瘍細胞内に侵入し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、また、活性化きれたCTL細胞の表面に誘導されて発現したFASLと腫瘍細胞の表面のFASとが相互的に作用して、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。CEA−TsAbがT細胞を介して行う腫瘍細胞の殺傷メカニズムを詳しく分析するため、PI(Propidium Iodide)及びFITC−conjugated−Annexin−V(BD会社から購入)を使用し、殺傷された腫瘍細胞を標識し、その後、蛍光顕微鏡とFACS法により、腫瘍細胞のネクローシス及びアポトーシスの状況、その割合を観察、検出した。具体的な操作は、以下のようにした。
【0127】
(1)PBMCを採集し、具体的な操作は、実施例7と同様である。
【0128】
(2)SW1116細胞を培養、採集し、具体的な操作は、実施例6と同様である。
【0129】
(3)L15培地を使用して、効果細胞であるPBMCと標的細胞であるSW1116の濃度とを1×10個/mlとなるように調整した。ミクスチャーした後、1.0ml/孔となるように、48孔の細胞プレート(Nunc会社製)に添加した。何れもL15培地を使用して、CEA−TsAb濃度が5μg/mlとなるように調整し、250μl/孔とした細胞培養孔に添加し、CEA−TsAbの使用濃度を1μg/mlとなるように調整し、37℃、CO(5%)の培養室で20時間培養した。また、抗体無添加のコントロール、単独の効果細胞及び単独の標的細胞のコントロールを夫々作製した。
【0130】
(4)48孔の細胞プレートを1,000gで10分間、遠心分離した後、培地の上清成分を捨てて、0.3%トリプシン(Sigma会社製)(w/v)を用いて附着細胞を1分間(50μl/孔)かけて消化し、10%ウシ胎児血清のRPMI1640を添加(1ml/孔)し、細胞をソフトに懸濁し、1.5mlの遠心分離チューブに移入して、1,000gで10分間、遠心分離した。
【0131】
(5)PBS(500μl/チューブ)で、細胞を一度洗浄し、更に、結合緩衝液(BD会社から購)(100μl/チューブ)を添加し、細胞沈殿成分を懸濁し、各チューブに、5μlのPI溶液(50μg/ml)及び3μlのFITC−Annexin−V溶液を添加し、4℃で避光的に15分間維持した。
【0132】
(6)チューブ毎に、300μlの結合緩衝液を添加し、少しの細胞の細胞スライドを採取して、LeicaDMRA2蛍光顕微鏡により、殺傷された腫瘍細胞の形態及び蛍光標識状況を観察した。分析は、QFISHソフトウェア(Leica会社製)を使用して行われた。その結果を図20に示す。
【0133】
(7)BD FACS Caliburによりダブル蛍光を検出した(FL1及びFL2)。その条件は、全20,000個の細胞を測定し、励起波長を488nmol/Lとした。その結果を図21に示す。
【0134】
図20は、早期アポトーシス細胞、晩期アポトーシス細胞及びネクローシス細胞の差異を示す。早期アポトーシス細胞の表面には、緑色の蛍光(FITC)のみが見られるが、晩期アポトーシス細胞の表面には、緑色と同時に、赤色(PI)の二種類の蛍光が見られ、ネクローシス細胞の表面には、主に赤色の蛍光が見られ、同じく若干の緑色蛍光が見られた。
【0135】
図21は、4つに区分された、夫々異なる4つの状態の細胞を表している。左下区は存活の腫瘍細胞であり、右下区は早期のアポトーシス細胞であり、右上区は晩期アポトーシス細胞であり、左上区はネクローシス細胞である。抗体無添加のコントロールサンプルにおいて、4つ状態の細胞の割合は、順に、90.17%、1.66%、2.23%、5.94%であったが、抗体の添加後、4つ状態の細胞の割合は、順に、52.83%、16.12%、21.25%、9.86%となった。この結果は、CEA−TsAbの添加後、活性化されたT細胞は、腫瘍細胞のネクローシス及びアポトーシスを誘導することにより、殺傷効応を発現する。また、抗体無添加のコントロールと比べて、早期アポトーシス細胞及び晩期アポトーシス細胞の割合が、9倍程度高くなり、ネクローシス細胞の割合が、1倍高くなったことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1はOverlap−PCRによるCEA−TsAbのベクターのポリクローニングDNAを構築するスケジュールの概略図。図中、番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11は、各構築において用いられた合成核酸断片を表し、符合A、B、C、D、E、ローマ数字I、II、III、IV及び記号UP、DOWNは、別々の構築工程の中間産物を表し、WHOLEは最終産物を表す。
【図2】図2はOverlap−PCRによるCEA−TsAbベクターのポリクローニングDNA断片のアガロースゲル電気泳動の検出結果を示す図。図中、第1レーンはOverlap−PCR産物、第2レーンはOverlap−PCR産物及びDL2000DNA分子量マーカー(大連宝生物会社製)。
【図3】図3はポリクローニングサイト(site)のDNA断片の核酸配列であり、制限酵素の切断位点及びその構成を示す図。
【図4】図4はCEA−TsAbを構築の操作工程の概略図。
【図5】図5はCEA−TsAbを構築するための各中間ベクター及び構築されたCEA−TsAbを含むベクターの概略図。
【図6】図6はアガロースゲル電気泳動によるCEA−TsAbの構築過程における各中間産物と最終産物の検出結果を示す図。図中、第1レーンはプラスミドpTRIを鋳型としたPCR産物、第2レーンはプラスミドCD28/pTRIを鋳型としたPCR産物、第3レーンはプラスミドCD3scFv/CD28VH/pTRIを鋳型としたPCR産物、第4レーンはプラスミドCEA−TsAb/pTRIを鋳型としたPCR産物、第5レーンはDL2000DNA分子量マーカー(大連宝生物会社製)。
【図7】図7はOverlap−PCRによる、マウス由来の抗CEA単鎖抗体であるCEA−TsAbをコードするDNAを構築するためのスケジュールの概略図。図中、数字1−22は、構築のための合成核酸の断片を示し、符号A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、a、b、c、d、e、f、g、ローマ数字I、II、III、IV及び記号UP、DOWNは、別々に構築過程における中間産物を示し、WHOLEが最終産物を示す。
【図8】図8はアガロースゲル電気泳動によるOverlap−PCRによる、抗CEA単鎖抗体を構築するためのDNA断片の検出を示す図。図中、第1及び第9レーンはDNA分子量マーカーDL2000(大連宝生物会社製)であり、第2−第5レーンは、順に、構築過程における中間産物I、II、III及びIVであり、第6及び第7レーンは、別々の構築の過程における中間産物UP及びDOWNであり、第8レーンは、単鎖抗体断片の全長であるWHOLEを示す。
【図9】図9はSDS−PAGEによる低温誘導で胞内に可溶的に発現されたCEA−TsAbの検出結果を示す図。図中、第1レーンは超音波処理した沈澱成分であり、第2レーンは超音波処理した上清成分であり、第3レーンは低分子量蛋白質のマーカー(シャツハイ生物化学研究所から購入)であり、第4レーンは超音波処理したpTRI空ベクターにより発現された産物の沈澱成分であり、第5レーンはpTRI空ベクターにより発現された産物の上清成分であり、矢印はCEA−TsAbの特異性バンドを示す。
【図10】図10はWestern blotによる低温誘導で発現されたCEA−TsAbの検出結果を示す図。図中、第1レーンは予着色蛋白質の分子量マーカー(NEB会社製)であり、第2レーンは超音波処理したCEA−TsAb/pTRIの発現産物の沈澱成分であり、第3レーンは超音波処理したpTRI空ベクターにより発現された産物の沈澱成分であり、第4レーンは超音波処理したCEA−TsAb/pTRIの発現産物の上清成分であり、第5レーンはpTRI空ベクターにより発現された産物の上清成分を示す。
【図11】図11はSDS−PAGEによるDEAEアニオン交換精製の検出結果を示す図。図中、第1レーンはpTRI空ベクターで表現された産物の超音波処理した上清成分であり、第2レーンは超音波処理したCEA−TsAbで表現された産物の上清成分であり、第3レーンはDEAEアニオン交換で精製されたカラムからの流出級分であり、第4レーンはDEAEアニオン交換で精製されたNaCl溶出級分であり、第5レーンはDEAEアニオン交換で精製されたNaOH溶出級分であり、第6レーンは低分子量蛋白質の分子量マーカー(シャッハイ生物化学研究所から購入)であり、矢印は、CEA−TsAbの特異的なバンドを示す。
【図12】図12はELISA法によるCEA−TsAbの検出結果を示す図。図中の曲線は、夫々4つの異なる検出結果を示す。第1曲線は1μg/mlのJurkat細胞膜抗原、第2曲線は1μg/mlのCEA抗原、第3曲線は1μg/mlのCD28抗原、第4曲線は無抗原の検出結果を示す。
【図13】図13はFACS法によるCEA−TsAbと複数の腫瘍細胞との結合特異性の検出結果を示す図。図中、陰影を有するピークは、CEA−TsAb抗体が不添加するコントロール試料の測定結果であり、陰影を有さないピークは、CEA−TsAb抗体が添加する試料の測定結果を示す。
【図14】図14はFACS法によるCEA−TsAbとJurkat細胞又はPBMC細胞との結合特異性の検出結果を示す図。図中、陰影を有するピークは、CEA−TsAb抗体不添加のコントロール試料の測定結果であり、陰影を有さないピークは、CEA−TsAb抗体を添加した試料の測定結果を示す。
【図15】図15はMTT法による、異なる効果細胞と標的細胞の比率でCEA−TsAbのT細胞を介した腫瘍細胞の殺傷効率に与える影響の検出結果を示す図。3つの曲線は、夫々異なる効果細胞と標的細胞の比率(E/T=10、5、1)であり、腫瘍細胞の殺傷効率と抗体濃度との関連性を示す。図中、第1曲線は効果細胞と標的細胞の比率が10であるとき、第2曲線は効果細胞と標的細胞の比率が5であるとき、第3曲線は効果細胞と標的細胞の比率が1であるときを示す。
【図16】図16はMTT法による抗体濃度がCEA−TsAbのT細胞を介した腫瘍細胞の殺傷効率に対する影響を検出した結果を示す図。図中には、特異性殺傷率の変化を4段階に分類して示しており、その段階1は、6μg/ml−12μg/mlの間において、特異性殺傷率と抗体濃度と負相関的に変化し、6μg/mlで特異性殺傷率が最高に達することを、段階2は、特異性殺傷率と抗体濃度とが正相関的に変化して750ng/mlで特異性殺傷率が最低に達することを、段階3は、24ng/ml−750ng/mlの間において、特異性殺傷率と抗体濃度とが負相関的に変化し、24ng/mlにおいて特異性殺傷率が最高に達することを、段階4は、特異性殺傷率と抗体濃度とが、再び正相関的な関係となることを示す。
【図17】図17はCEA−TsAbのT細胞を介した腫瘍細胞の殺傷過程において、抗体濃度がT細胞の増殖に与える影響を示す図。図中、SIの変化を3段階に分類して示しており、その段階1は、抗体濃度が、75μg/ml−12μg/mlの間において、SIと抗体濃度とが正相関的に変化して、75μg/mlとしたときに、最低に達することを、段階2は、SIと抗体濃度とが負相関的に変化し、47ng/ml程度としたときに、最高に達することを、段階3は、47ng/mlより小さいときに、SIと抗体濃度とが正相関的に変化し、0.7ng/mlとしたときに、最低に達することを示す。
【図18】図18は、CEA−TsAbのT細胞を介した腫瘍細胞の殺傷過程における細胞の形態の観察記録を示す図。図中、Aは、SW1116細胞を単独で20時間培養した後の細胞形態を、B−Iは、効果細胞と標的細胞の割合を5とし、SW1116細胞及びPBMC細胞と共にインキュベートし、CEA−TsAb(最終濃度750μg/ml)を添加し、20時間インキュベートした後の、殺傷段階の異なる各種類の細胞形態を示し、そのうち、Bは、標的細胞が壁から剥離し始める様子、Cは効果細胞が標的細胞の表面に集まり始める様子、Dは標的細胞の表面の局部領域が突出した様子、Eは標的細胞の局部領域が破砕された様子、Fは標的細胞の全体が破砕された様子、G−Iは標的細胞が漸次的に破砕された様子を示す。
【図19】図19はCEA−TsAbがT細胞を介して腫瘍細胞を殺傷するメカニズムの概略図。上図はCEA−TsAbの構造の概略図であり、下図はCEA−TsAbの腫瘍細胞の殺傷するメカニズムであり、すなわち、CEA−TsAbが、腫瘍細胞及びCTL細胞と特異的に結合し、CTL細胞の活性化により腫瘍細胞を殺すことを示す。
【図20】図20はPI及びFITC−Annexin−Vでダブル標識した殺傷された腫瘍細胞(SW1116)の蛍光顕微鏡による観察記録を示す図。図中、A、B及びCは夫々、3種類の異なる状態で殺傷された腫瘍細胞(順に、ネクローシス細胞、晩期アポトーシス細胞及び早期アポトーシス細胞)であり、第2列が、緑色蛍光の単色による検出結果であり、第3列が、赤色蛍光の単色による検出結果であり、第1列は、Leica QFISHソフトウェアを用いて、上記2種類の単色蛍光の検出結果を積み重ねて示す。
【図21】図21はFACS法によるPI及びFITC−Annexin−Vでダブル標識した殺傷された腫瘍細胞(SW1116)の検出結果を示す図。明確に異なる殺傷状態を示ている区;左下区(Low Left,LL)が生細胞(viable cells)であり、右下区(Low Right,LR)が、早期アポトーシス細胞(early apoptosis cells)であり、左上区(Up Left,UL)が、ネクローシス細胞(necrosis cells)であり、右上区が(Up Right,UR)が晩期アポトーシス細胞(late apoptosis cells)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単鎖の三重特異性抗体であって、抗癌胎児性抗原の抗体、ペプチドリンカー、抗ヒトCD3抗体、ペプチドリンカー及び抗ヒトCD28抗体を順序的に連接し、糸状な単鎖の融合蛋白質を形成することを特徴とする単鎖の三重特異性抗体。
【請求項2】
前記抗癌胎児性抗原の抗体、抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD3抗体及び抗ヒトCD28抗体は、単鎖抗体の断片、抗体のFab断片又は抗体の単区域(single domain)断片とすることを特徴とする請求項1に記載の単鎖の三重特異性抗体。
【請求項3】
前記糸状な単鎖の三重特異性抗体は、C−末端にc−myc−tag及び/又はhis−tagを有する/有さないことを特徴とする請求項1に記載の単鎖の三重特異性抗体。
【請求項4】
前記糸状な単鎖の三重特異性抗体は、抗癌胎児性抗原の単鎖抗体、FCペプチドリンカー、抗ヒトCD3単鎖抗体、HSAペプチドリンカー及び抗CD28抗体の重鎖の断片を順序的に連接し、糸状な単鎖の融合蛋白質を形成し、SEQ ID NO:4で表されるアミノ酸配列を有するCEA−TsAbであることを特徴とする請求項2に記載の単鎖の三重特異性抗体。
【請求項5】
前記抗癌胎児性抗原の単鎖抗体は、SEQ ID NO:1で表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項4に記載の単鎖の三重特異性抗体。
【請求項6】
前記抗ヒトCD3単鎖抗体は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項4に記載の単鎖の三重特異性抗体。
【請求項7】
請求頂4に記載の単鎖の三重特異性抗体をコードするDNAであって、SEQ ID NO:3で表される核酸配列を有することを特徴とするDNA。
【請求項8】
請求項7に記載のDNA配列を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項9】
発現ベクターであって、請求項4に記載の単鎖抗体であるCEA−TsAbをベクターpTRIにクローニングして構築されることを特徴とする請求項8に記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする宿主細胞。
【請求項11】
単鎖の三重特異性抗体が発現される菌体を1/5培養体積の超音波緩衝液で懸濁し、超音波による破砕処理を行った後、室温、12,000rpmで10分間の遠心分離を行い、前記超音波緩衝液は、20mmol/mlのNaClと50mmol/mlのTris−HClとから成り、この混合液のpHを8.0とする工程と、
前記遠心分離した上清成分を、5倍カラム体積の平衡緩衝液により平衡化したDEAEアニオン交換カラムに置いて、流出した級分を採集し、初歩的な精製を行って単鎖の三重特異性抗体を得る工程と、を含むことを特徴とする単鎖の三重特異性抗体の精製方法。
【請求項12】
請求項1に記載の単鎖の三重特異性抗体及び薬理学的に容許されるキャリアーを含むことを特徴とする抗癌胎児性抗原を発現する腫瘍の治療用又は予防用薬品組合物。
【請求項13】
請求項1に記載の単鎖の三重特異性抗体の抗癌胎児性抗原を発現する腫瘍の治療又は予防用薬品としての使用。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−535915(P2007−535915A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505359(P2007−505359)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【国際出願番号】PCT/CN2005/000408
【国際公開番号】WO2005/095456
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506332340)北京安波特基因工程技▲術▼有限公司 (1)
【出願人】(506332982)▲東▼莞豪▲發▼生物工程技▲術▼▲開▼▲發▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】