説明

抗CEACAM1抗体およびその使用方法

ATCC登録番号PTA−9974の下で寄託されているハイブリドーマ細胞を開示する。また、抗体およびその使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、抗CEACAM1抗体、それを産生するハイブリドーマ細胞、およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜貫通タンパク質CEACAM1(胆汁糖タンパク質(BGP)、CD66a、およびC−CAM1としても知られる)は、免疫グロブリンスーパーファミリーにも属する、癌胎児性抗原ファミリー(CEA)のメンバーである。CEACAM1は、CD66a、CD66c、およびCD66eタンパク質を含めた他の公知のCD66タンパク質と相互作用する。それは、上皮細胞から造血系起源のもの(例えば、免疫細胞)に及ぶ、幅広い細胞で発現する。
【0003】
多くの異なる機能がCEACAM1タンパク質に起因している。CEACAM1タンパク質は、結腸、前立腺の癌腫、ならびに他の種類の癌において抗増殖特性を示すことが示された。さらなるデータにより、血管新生および転移におけるCEACAM1の中心的関与が裏付けられている。CEACAM1は、先天的および適応的免疫応答の調節にも役割を果たしている。例えば、CEACAM1は、ヒト腸上皮内に含有される活性化T細胞に対する抑制性受容体であることが示された[WO99/52552およびMoralesら,J.Immunol.163(1999),1363−1370を参照されたい]。さらなる報告により、mAbでのTCR架橋または淋菌Opaタンパク質のいずれかによるCEACAM1係合(engagement)は、T細胞の活性化および増殖を阻害することが示されている。
【0004】
黒色腫は、主に広範な転移のために、世界中の75%の皮膚癌関連発症の原因となる色素産生細胞(メラニン細胞)の悪性腫瘍である。転移性黒色腫(MM)は、ほとんどの抗癌レジメンにかすかに反応し、MMを有する患者に対する全生存平均は8.5ヶ月である。CEACAM1は、正常メラニン細胞によってめったに発現されないが、黒色腫細胞ではよく見られる。初期の皮膚黒色腫病変でのCEACAM1発現は、予後不良を有する転移性疾患の進行を強く予測する。さらに、健常ドナーと比較して、転移性黒色腫を有する数人の患者由来のNK細胞では、CEACAM1発現の増大が観察された。
【0005】
WO2007/063424および米国特許出願第20070110668号は、リンパ球活性の制御を含めた、免疫システムを制御するための方法、特に特定の免疫応答の制御のための方法を開示している。これらの方法には、CEACAM1タンパク質機能の負および正の調節の両方が含まれる。
【0006】
米国特許出願第20070071758号は、癌の治療および診断のための方法および組成物を開示している。具体的には、米国特許出願第20070071758号は、例えばCEACAM1に特異的な免疫グロブリンを用いるなどによる、CEACAM1タンパク質の活性を負に調節することによる癌の治療において、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法の効力を増強させるための方法および組成物を教示している。
【0007】
米国特許出願第20080108140号は、自己免疫疾患および組織の移植を要する疾患の治療において、特定の免疫応答を調節して、防御免疫を生み出す方法を開示している。特に、米国特許出願第20080108140号は、標的組織においてCEACAM1タンパク質の機能的濃度を増大させることによる、標的とする形式での免疫応答の抑制に関する。
【0008】
米国特許出願第20040047858号は、CEACAM1を介してT細胞活性を調節し得る特異的抗体(すなわち、34B1、26H7、および5F4)、ならびに免疫応答関連疾患(例えば、移植片対宿主病、自己免疫疾患、癌、等々)を治療するなどにおけるそれらの使用を開示している。
【0009】
米国特許出願第20020028203号、第20050169922号、および第20080102071号は、胆汁糖タンパク質結合剤など、T細胞抑制性受容体分子に結合し、かつT細胞活性(例えば、細胞毒性および増殖)を調節する(すなわち、増強するまたは抑制する)組成物、ならびに疾患(例えば、自己免疫疾患、免疫不全、癌、等々)の治療などのためにそのような組成物を使用する方法を開示している。
【0010】
他の関連技術:
5F4 mAb:胆汁糖タンパク質(CD66a)による、ヒト腸上皮内リンパ球の細胞溶解機能の制御[Morales VMら,J Immunol.(1999)163(3):1363−70]。
【0011】
GM8G5および29H2−どちらもAbcam社から市販されている。abcam.com.ポータル(abcamdotcomdotportal)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、ATCC登録番号PTA−9974の下で寄託されているハイブリドーマ細胞を提供する。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、前記ハイブリドーマ細胞から産生される抗体のCDR配列および配向性を有する抗原認識ドメインを含む、単離した抗体または抗体フラグメントを提供する。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、免疫調節の方法を提供し、該方法は、CEACAM1発現リンパ球を前記抗体または抗体フラグメントと接触させる工程を含む。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、CEACAM1発現腫瘍細胞の移動または増殖を阻害する方法を提供し、該方法は、該CEACAM1発現腫瘍細胞を前記抗体または抗体フラグメントと接触させ、それによって、CEACAM1発現腫瘍細胞の移動または増殖を阻害する工程を含む。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、それを必要としている対象における癌を診断するための方法を提供し、該方法は、該対象由来の生物学的サンプルを前記抗体または抗体フラグメントと接触させる工程を含み、既定の閾値を超えた複合体形成は、該対象における癌を示す。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、癌を治療する方法を提供し、該方法は、それを必要としている対象に治療上有効な量の前記抗体または抗体フラグメントを投与し、それによって、該対象における癌を治療する工程を含む。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、CEACAM1同型または異型タンパク質−タンパク質相互作用を阻害する方法を提供し、該方法は、CEACAM1発現リンパ球を前記抗体または抗体フラグメントと接触させ、それによって、CEACAM1同型または異型タンパク質−タンパク質相互作用を阻害する工程を含む。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、活性成分として前記抗体または抗体フラグメントを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記単離した抗体または抗体フラグメントは、細胞毒性部分に接着している。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記細胞毒性部分には、細胞毒素、ケモカイン、化学療法、アポトーシス促進性因子、インターフェロン、放射性部分、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記単離した抗体または抗体フラグメントは、同定可能な部分に接着している。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記癌の細胞は、罹患していない細胞と比較してCEACAM1の過剰発現を特徴とする。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記癌を治療する方法は、対象のリンパ球に投与する工程をさらに含む。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記リンパ球にはT細胞またはNK細胞が含まれる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記CEACAM1発現リンパ球は腫瘍浸潤リンパ球またはNK細胞である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記CEACAM1発現リンパ球は細胞毒性T細胞である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記腫瘍細胞には黒色腫腫瘍細胞が含まれる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記癌は黒色腫である。
【0030】
別様に定義されていない限り、本明細書において用いられるすべての技術的および/または科学的用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと同様のまたは同等の方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験に用いることができるが、例示的方法および/または材料を以下に記載する。抵触する場合には、定義を含めた特許明細書が規制するであろう。さらに、材料、方法、および実施例は、例証にすぎず、必ずしも限定することを意図するものではない。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を、添付の図面に関連して、ほんの一例として本明細書に記載する。ここでの図面への詳細な具体的言及に関して、示されている特定事項は、一例としてのものであり、かつ本発明の実施形態についての例証的考察を目的とするものであることを強調する。この点において、図面とともに付されている記載によって、本発明の実施形態がどのように実践され得るかが当業者に明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】図1A〜Bは、MRG1 mAbの特異性を表す。CEACAM1(緑色)、CEACAM5(赤色)、CEACAM6(紫色)、CEACAM8(青色)、または疑似物(黒色)を安定的にトランスフェクトした721.221親B細胞を、異なる抗ヒトCEACAM抗体:MRG1 mAb(図1A)およびKat4c mAb(図1B)を用いたFACS分析にかけた。
【図1B】図1A〜Bは、MRG1 mAbの特異性を表す。CEACAM1(緑色)、CEACAM5(赤色)、CEACAM6(紫色)、CEACAM8(青色)、または疑似物(黒色)を安定的にトランスフェクトした721.221親B細胞を、異なる抗ヒトCEACAM抗体:MRG1 mAb(図1A)およびKat4c mAb(図1B)を用いたFACS分析にかけた。
【図2】図2は、抗CEACAM1 mAbのMRG1によるCEACAM1同種相互作用の用量依存的阻害を表す。BW/CEACAM1(エフェクター細胞)または221/CEACAM1(標的細胞)のいずれかに、抗CEACAM1 mAbを種々の濃度で添加した。氷上での1時間のインキュベーションの後、相互の細胞(221/CEACAM1またはBW/CEACAM1)を添加し、マウスIL−2の分泌をELISAによって測定した。100%を、任意の抗体の非存在下での活性として定義する。4回のうちの1回の代表的実験の結果を提示しており、それぞれは3重で行われている。
【図3】図3は、CEACAM1阻害機能の無効化を表す。MRG1 mAbを、標的細胞(灰色で表されている)またはエフェクター細胞(白色で表されている)とあらかじめインキュベートした。前記mAbを添加せずにインキュベートした細胞を黒色で表す。表示されている黒色腫株(526mel、624mel、または09mel)を標的細胞として用いた。10:1のE:T比で、TIL014細胞をエフェクター細胞として用いた。氷上での1時間のインキュベーションの後、相互の細胞を添加し、37℃で5時間共インキュベートした。標的細胞を緑色蛍光色素(CFSE)であらかじめ標識し、特異的溶解をフローサイトメトリーにおけるヨウ化プロピジウム(PI)共染色によって測定した。自発的死を差し引いた。アッセイを3重で行った。
【図4】図4は、MRG1 mAbによる黒色腫浸潤の遮断を表す。黒色腫細胞(08melまたは09mel)を、1μg/mlのMRG1 mAbの非存在下または存在下であらかじめインキュベートし、次いでマトリゲル浸潤アッセイによって試験した。24時間浸潤させ、浸潤細胞の量を標準化XTTで定量化した。
【図5】図5は、MRG1 mAbによる黒色腫細胞のネット増殖の遮断を表す。526mel黒色腫細胞を、表示されている用量(0.5μg、1μg、または3μg)のMRG1 mAbとインキュベートし、処理後2日目または5日目に増殖をモニタリングした。
【図6A】図6A〜Bは、PBSと比較した、MRG1の全身注射によるSCIDマウスにおけるインビボでのヒト腫瘍の成長の阻害を表す。実験を以下のような2つの設定で行った。図6A:抗体の同時注射(1匹のマウスあたり腹腔内に0.5mg)および癌細胞の接種(皮下に5,000,000個の細胞);図6B:SCIDマウスにおいて生成した腫瘍(75mmの腫瘍容積)のMRG1抗体(上記に示した)の注射による処理。
【図6B】図6A〜Bは、PBSと比較した、MRG1の全身注射によるSCIDマウスにおけるインビボでのヒト腫瘍の成長の阻害を表す。実験を以下のような2つの設定で行った。図6A:抗体の同時注射(1匹のマウスあたり腹腔内に0.5mg)および癌細胞の接種(皮下に5,000,000個の細胞);図6B:SCIDマウスにおいて生成した腫瘍(75mmの腫瘍容積)のMRG1抗体(上記に示した)の注射による処理。
【図7】図7は、静脈内へのTILのみと比較した、MRG1とヒト反応性TILの静脈内投与との組み合わせによる、腫瘍の成長の阻害における効力の増強を表す。
【図8】図8は、機能的遮断アッセイによって測定される、以前に記載されている抗CEACAM1モノクローナル抗体、ならびにヒトCEACAM1を標的とする市販のウサギポリクローナル抗体(DAKO,Glostrup,デンマーク)よりも優れたMRG1 mAbの効果を表す。mIL−2の分泌によって報告される、CEACAM1活性の遮断について、種々の抗CEACAM1抗体を試験した。100%を、任意の抗体の非存在下での活性として定義した。3回のうちの1回の代表的実験の結果を提示しており、それぞれは3重で行われている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態の説明
本発明は、そのいくつかの実施形態において、抗CEACAM1モノクローナル抗体およびそれを産生するハイブリドーマ細胞、ならびに免疫調節および癌治療における該抗体の使用方法に関する。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その応用において、以下の記載に明記されているまたは実施例によって例示されている詳細事項に必ずしも限定されるものではないことを理解すべきである。本発明は、他の実施形態であり得、あるいは様々な方法で実践または実行され得る。
【0035】
本発明は、労力を要する実験およびスクリーニングによって、CEACAM1に選択的なモノクローナル抗体を作製している。この抗体は、機能的遮断アッセイによって実証されているように、他の抗CEACAM1モノクローナル抗体よりも優れていることが示された。
【0036】
本明細書において以下に例証されているように、本教示に従って作製されたMRG1抗体は、CEACAM1に選択的であり、CEACAMファミリーの他のメンバー(すなわち、CEACAM5、6、および8。実施例2を参照されたい)とは交差反応しない。免疫エフェクター細胞および標的黒色腫細胞の共インキュベーション、ならびにIL−2分泌および細胞溶解をアッセイすることによって決定されるように、前記抗体は、CEACAM1同種相互作用を阻害する(実施例3を参照されたい)。さらに、前記抗体は、黒色腫細胞の浸潤および増殖を阻害するのに有効であると示された。最後に、前記抗体の単独でのまたは反応性リンパ球と組み合わせてのいずれかによるインビボ投与は、黒色腫腫瘍の成長を阻害するのに有効であると示された。要するに、本教示は、MRG1抗体、フラグメント、および誘導体を、免疫調節および癌治療のための有効なツールとして用いることができることを示唆している。
【0037】
したがって、本発明の態様によれば、ATCC登録番号PTA−9974の下で寄託されているハイブリドーマ細胞を提供する。
【0038】
本発明のさらなる態様によれば、上記のハイブリドーマ細胞から産生される抗体のCDRセグメントおよび配向性を有する抗原認識ドメインを含む、単離した抗体または抗体フラグメントを提供する。
【0039】
本教示の抗体は、10−6、10−7、10−8、10−9Mの最小親和性でCEACAM1に結合し得る。
【0040】
本明細書において使用するとき、「CEACAM1」という用語は、CEACAM1遺伝子のタンパク質産物、例えばNP_001020083.1、NP_001703.2を表す。
【0041】
本発明において使用する「抗体」という用語には、無傷の分子、ならびにマクロファージに結合し得るFab、F(ab’)2、およびFvなど、その機能的フラグメントが含まれる。例示的実施形態によれば、抗体は、本明細書においてMRG1と称されるものなどのモノクローナル抗体である。機能的抗体フラグメントを以下のように定義する:(1)Fabは、抗体分子の一価の抗原結合フラグメントを含有するフラグメントであり、無傷の軽鎖および1本の重鎖の一部を生じる酵素パパインを用いた抗体全体の消化によって生成され得る;(2)Fab’は、無傷の軽鎖および重鎖の一部を生じるペプシンを用いた抗体全体の処理、それに続く還元によって得ることができる抗体分子のフラグメントであり、1個の抗体分子あたり2個のFab’フラグメントが得られる;(3)(Fab’)2は、その後に還元せずに抗体全体を酵素ペプシンで処理することによって得ることができる抗体のフラグメントであり、F(ab’)2は、2つのジスルフィド結合によって結び付けられている2個のFab’フラグメントの二量体である;(4)Fvは、2本の鎖で表される、軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作されたフラグメントとして定義される;ならびに(5)一本鎖抗体(「SCA」)は、遺伝子融合した一本鎖分子のような適切なポリペプチドリンカーによって連結された、軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作された分子である。
【0042】
上文に示したように、本発明の抗体は、上記の寄託詳細事項を有するハイブリドーマ細胞によって産生される抗体のものと同じ相補性決定領域(CDR)配向性を有する。すなわち、CDR1、CDR2、CDR3は、V鎖およびV鎖上で同じ配向に位置付けられている。
【0043】
本発明による抗体フラグメントを、該抗体のタンパク質分解性加水分解によって、または該フラグメントをコードするDNAの大腸菌(E.coli)または哺乳類細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養または他のタンパク質発現系)における発現によって調製することができる。従来の方法による抗体全体のペプシンまたはパパイン消化によって、抗体フラグメントを得ることができる。例えば、ペプシンを用いた抗体の酵素的切断によって抗体フラグメントを生成して、F(ab’)2を意味する5Sフラグメントを提供することができる。このフラグメントを、チオール還元剤、および場合によってはジスルフィド連結の切断によって生じるスルフヒドリル基に対するブロック基を用いることによってさらに切断して、3.5S Fab’一価フラグメントを生成することができる。あるいは、ペプシンを用いた酵素的切断によって、2個の一価Fab’フラグメントおよびFcフラグメントが直接生成される。これらの方法は、例えばGoldenberg,米国特許第4,036,945号および第4,331,647号、ならびに本明細書に含有される参考文献によって記載されており、それら特許は参照することによりそれらの全体として本明細書によって組み入れられている。Porter,R.R.[Biochem.J.73:119−126(1959)]も参照されたい。フラグメントが無傷の抗体によって認識される抗原に結合する限り、一価の軽鎖−重鎖フラグメントを形成する重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、あるいは他の酵素的、化学的、または遺伝学的な技術など、抗体を切断する他の方法も用いることができる。
【0044】
Fvフラグメントは、VH鎖およびVL鎖の会合を含む。この会合は、Inbarら[Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 69:2659−62(19720]に記載されているように、非共有結合性であってよい。あるいは、可変鎖を、分子間ジスルフィド結合によって連結させることができ、またはグルタルアルデヒドなどの化学物質によって架橋することができる。好ましくは、Fvフラグメントは、ペプチドリンカーによって接続されたVH鎖およびVL鎖を含む。オリゴヌクレオチドによって接続されたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって、これらの一本鎖抗原結合タンパク質(sFv)を調製する。構造遺伝子を発現ベクター内に挿入し、それをその後大腸菌などの宿主細胞内に導入する。組換え宿主細胞は、2個のVドメインを橋渡しするリンカーペプチドを有する1本のポリペプチド鎖を合成する。sFvを作製するための方法は、例えばWhitlowおよびFilpula,Methods 2:97−105(1991);Birdら,Science 242:423−426(1988);Packら,Bio/Technology 11:1271−77(1993);ならびに参照することによりその全体として本明細書によって組み入れられている米国特許第4,946,778号によって記載されている。
【0045】
抗体フラグメントの別の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。対象となる抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって、CDRペプチド(「最小認識単位」)を得ることができる。例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するポリメラーゼ連鎖反応を用いることによって、そのような遺伝子を調製する。例えば、LarrickおよびFry[Methods,2:106−10(1991)]を参照されたい。本発明のいくつかの実施形態によれば、組換えDNA技術の使用などによって、CDRを任意の形態の抗体に実現することができる。
【0046】
ヒト化形態のヒト以外(例えば、ネズミ科)の抗体は、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそれらのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’).sub.2、または抗体の他の抗原結合部分配列など)のキメラ分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)を形成する残基が、所望の特異性、親和性、および性能を有する、マウス、ラット、またはウサギなどのヒト以外の種のCDR由来の残基(ドナー抗体)に置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応するヒト以外の残基に置換されている。ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にもインポートされたCDRまたはフレームワーク配列中にも見られない残基を含んでいてもよい。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト以外の免疫グロブリンのものに対応し、かつFR領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1個、典型的には2個の可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、場合によっては、免疫グロブリンの定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む[Jonesら,Nature,321:522−525(1986);Riechmannら,Nature,332:323−329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992)]。
【0047】
ヒト以外の抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である。一般に、ヒト化抗体は、その中に導入された、ヒト以外である供給源由来の1個以上のアミノ酸残基を有する。これらのヒト以外のアミノ酸残基は、しばしば、典型的にインポート可変ドメインから選ばれる、インポート残基と呼ばれる。Winterおよび共同研究者[Jonesら,Nature,321:522−525(1986);Riechmannら,Nature 332:323−327(1988);Verhoeyenら,Science,239:1534−1536(1988)]の方法に従って、ヒト抗体の対応配列を齧歯類CDR配列で置換することによって、ヒト化を本質的に実施することができる。したがって、そのようなヒト化抗体は、実質的には、無傷のヒト可変ドメインがヒト以外の種由来の対応配列によって置換されているとはいえない、キメラ抗体である(米国特許第4,816,567号)。実際には、ヒト化抗体は、典型的に、いくつかのCDR残基およびもしかするといくつかのFR残基が齧歯類抗体中の類似部位由来の残基によって置換されている、ヒト抗体である。
【0048】
ファージディスプレイライブラリー[HoogenboomおよびWinter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marksら,J.Mol.Biol.,222:581(1991)]を含めた、当該技術分野において公知の様々な技術を用いることによっても、ヒト抗体を作製することができる。ColeらおよびBoernerらの技術も、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である[Coleら,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985)およびBoernerら,J.Immunol.,147(1):86−95(1991)]。同様に、トランスジェニック動物、例えば内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されているマウス内へのヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入によって、ヒト抗体を作り出すことができる。投与(challenge)すると、遺伝子の再構成、組立て、および抗体レパートリーを含めたあらゆる点においてヒトで見られるものと酷似している、ヒト抗体の産生が観察される。この手法は、例えば米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号、ならびに以下の科学出版物:Marksら,Bio/Technology 10:779−783(1992);Lonbergら,Nature 368:856−859(1994);Morrison,Nature 368 812−13(1994);Fishwildら,Nature Biotechnology 14,845−51(1996);Neuberger,Nature Biotechnology 14:826(1996);およびLonbergとHuszar,Intern.Rev.Immunol.13,65−93(1995)に記載されている。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記抗体は、細胞毒性部分に接着している。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記抗体は、同定可能な部分に接着している。
【0051】
前記同定可能な部分は、結合ペアのさらなるメンバーとのその相互作用および直接可視化される標識を介して同定可能である、結合ペアのメンバーであってよい。一例としては、結合ペアのメンバーは、対応する標識抗体によって同定される抗原である。一例としては、標識は、蛍光タンパク質または比色反応を生み出す酵素である。
【0052】
以下の表1は、同定可能な部分の配列の例を提供している。
【表1】

【0053】
前記細胞毒性または治療用部分は、例えば細胞毒性部分、毒性部分、サイトカイン部分、二重特異性抗体部分、細胞毒素、ケモカイン、化学療法、アポトーシス促進性因子、インターフェロン、放射性部分、またはそれらの組み合わせであってよく、その例を以下に提供する。
【0054】
以下の表2は、治療用部分の配列の例を提供している。
【表2】

【0055】
化学的接合を用いることによって、または組換えDNA技術によって、そのような融合を達成することができることは理解されるであろう。
【0056】
本発明の抗体は、抑制性CEACAM1同種(もしくは同型)または異型相互作用を減少させ、それによって、リンパ球の活性を増強させることができる。CEACAM1同種相互作用は、Nドメインを介して生じる。R43、Q44、D64、およびR82を含めたいくつかのアミノ酸が、この相互作用に重要である。前記相互作用は、SHP−1ホスファターゼを誘導する細胞質チロシン残基のリン酸化をもたらす。これによって、ZAP70などの隣接する仲介物質を標的とする、リンパ球内の抑制性カスケードが開始する。
【0057】
したがって、本発明の抗体を用いて、免疫エフェクター細胞上(CEACAM1発現リンパ球、例えば腫瘍浸潤細胞、T細胞、またはNK細胞)および標的細胞上(例えば、癌細胞などのCEACAM1発現病的細胞)のいずれかまたは両方のCEACAM1を遮断することができる。この療法の候補である癌細胞の例には、黒色腫、肺、甲状腺、乳腺、結腸、前立腺、肝臓、膀胱、腎臓、子宮頸部、膵臓、白血病、リンパ腫、骨髄、卵巣、子宮、肉腫、胆管、または子宮内膜の細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明は、上記のハイブリドーマ細胞によって産生される抗体とCEACAM1への結合を競合する単離した抗体または抗体フラグメントも企図する。それらの抗体は、例えば治療的応用に適したヒト化、異種、またはキメラ抗体(上文に詳細に記載している)であってよい。前記抗体の抗体フラグメントは、例えば一本鎖Fvフラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab)フラグメント、およびF(ab’)2フラグメントであってよい。
【0059】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、CEACAM1発現腫瘍細胞を免疫調節の影響を受けやすい状態にする方法を提供する。前記方法は、CEACAM1発現腫瘍細胞(例えば、黒色腫、肺、甲状腺、乳腺、結腸、前立腺、肝臓、膀胱、腎臓、子宮頸部、膵臓、白血病、リンパ腫、骨髄、卵巣、子宮、肉腫、胆管、または子宮内膜の細胞)を上記の抗体または抗体フラグメントと接触させ、それによって、該CEACAM1発現腫瘍細胞を免疫調節の影響を受けやすい状態にする工程を含む。
【0060】
本明細書において使用するとき、「免疫調節」とは、リンパ球依存的免疫調節(例えば、NK細胞または腫瘍浸潤リンパ球による)を表す。
【0061】
付加的または代替的に、本発明は、CEACAM1発現リンパ球を本明細書に記載する抗体または抗体フラグメントと接触させることによる免疫調節(例えば、CEACAM1同型または異型タンパク質−タンパク質相互作用を阻害する)方法も想定する。
【0062】
インビトロ、エクスビボ(例えば、T細胞に基づく養子免疫療法)、またはインビボで、本教示の方法を達成することができる。
【0063】
前述のように、本発明のいくつかの実施形態の抗体は、上記のその免疫調節活性から独立した抗癌活性を有していてよい。
【0064】
したがって、本教示は、CEACAM1発現腫瘍細胞の移動または増殖を阻害する方法をさらに提供し、該方法は、該CEACAM1発現腫瘍細胞を本明細書に記載する抗体または抗体フラグメントと接触させ、それによって、CEACAM1発現腫瘍細胞の移動または増殖を阻害する工程を含む。
【0065】
本明細書において使用するとき、「阻害する」とは、当該技術分野において周知である方法(下文の実施例の節を参照されたい)を用いてアッセイすることができる増殖または移動における、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、100%の阻害を表す。
【0066】
本発明の抗体を、癌の治療に効果的に用いることができる。
【0067】
したがって、さらなる態様によれば、癌を治療する方法を提供し、該方法は、それを必要としている対象に治療上有効な量の本明細書に記載する抗体または抗体フラグメントを投与し、それによって、該対象における癌を治療する工程を含む。本教示に従って診断または治療され得る癌の例には、黒色腫、肉腫、肺癌、甲状腺の癌、乳癌、結腸癌、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、腎臓癌、子宮頸癌、膵臓癌、白血病、リンパ腫、骨髄細胞関連癌、卵巣癌、子宮癌、胆管癌、または子宮内膜癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記癌は黒色腫である。
【0069】
「治療する」という用語は、病状(疾患、障害、または病態)の進行を阻害する、予防する、または停止させること、ならびに/あるいは病状の縮小、寛解、または退縮をもたらすことを表す。当業者であれば、種々の方法論およびアッセイを用いて病状の進行を評価することができ、かつ同様に、種々の方法論およびアッセイを用いて病状の縮小、寛解、または退縮を評価することができることを理解するであろう。
【0070】
本明細書において使用するとき、「予防する」という用語は、疾患の危険性があり得るが、まだ該疾患を有すると診断されていない対象において、疾患、障害、または病態が生じないようにすることを表す。
【0071】
本明細書において使用するとき、「対象」という用語には、哺乳類、好ましくは病状に苦しむあらゆる年齢のヒトが含まれる。好ましくは、この用語は、病状を進行させる危険性がある個体を包含する。
【0072】
治療(例えば、癌治療)を強化するために、T細胞(例えば、腫瘍浸潤リンパ球)またはNK細胞などのリンパ球を、本発明の抗体または抗体フラグメントの投与の前に、同時に、または後に対象に投与してよい。したがって、リンパ球を、対象から(例えば、末梢血からまたはその腫瘍から)あるいはドナー(同種異系または同系のリンパ球ドナー)から入手し、入手した生存リンパ球についてのエクスビボ拡張法によって[例えば、参照することにより本明細書に完全に組み入れられている、Besser MJら,Clin Cancer Res(印刷前の電子出版物)2010年5月1日およびBesser MJら,Journal of Immunotherapy(印刷前の電子出版物)2009年4月1日に以前記載されているように、IL−2を補充した照射フィーダー層上で成長させることによって]処理し、かつ該対象に投与することができる。
【0073】
抗体または抗体フラグメントの投与前、あるいはリンパ球の投与前に、任意の他の抗癌治療(例えば、化学療法、放射線療法、等々)によって対象を治療してよいことは理解されるであろう。
【0074】
本発明の抗体は、生命体そのものに投与されても、あるいはそれが適切なキャリアまたは賦形剤と混合されている医薬組成物の状態であってもよい。
【0075】
本明細書において使用するとき、「医薬組成物」とは、本明細書に記載する1種以上の活性成分と、生理学的に適切なキャリアおよび賦形剤などの他の化学構成成分との調製物を表す。医薬組成物の目的は、生命体への化合物の投与を容易にすることである。
【0076】
本明細書において、「活性成分」という用語は、生物学的効果について説明可能な抗体を表す。
【0077】
以下、互換可能に用いられ得る「生理学的に許容可能なキャリア」および「医薬上許容可能なキャリア」という語句は、生命体に大きな刺激をもたらさず、かつ投与した化合物の生物学的活性および特性を無効にしないキャリアまたは希釈剤を表す。これらの語句の下に、アジュバントが含まれる。
【0078】
本明細書において、「賦形剤」という用語は、活性成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を表す。賦形剤の例には、限定することなく、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖類、ならびにデンプン、セルロース、誘導体、ゼラチン、植物油、およびポリエチレングリコールの一種が含まれる。
【0079】
薬物の製剤化および投与のための技術は、参照することにより本明細書に組み入れられている、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」,Mack Publishing社,Easton,PA,最新版に見ることができる。
【0080】
適切な投与経路には、例えば筋肉内、皮下、および髄内注射、ならびに髄腔内、直接脳室内、心腔内、例えば右または左心室腔内へ、共通(common)冠動脈内へ、静脈内、腹腔内(inrtaperitoneal)、鼻腔内、または眼内注射を含めた、経口、直腸内、経粘膜、とりわけ経鼻、腸内、または非経口送達が含まれてよい。
【0081】
中枢神経系(CNS)への薬物送達のための従来の手法には、神経外科的戦略(例えば、脳内注射または脳室内注入);血液脳関門(BBB)の内因性輸送経路の一つを利用する目的での薬剤の分子操作(例えば、それ自体はBBBを通過できない薬剤と組み合わせた、内皮細胞表面分子に対する親和性を有する輸送ペプチドを含むキメラ融合タンパク質の産生);薬剤の脂溶性を増大させるように設計された薬理学的戦略(例えば、脂質またはコレステロールキャリアへの水溶性薬剤の接合);および高浸透圧崩壊によるBBBの完全性の一時的崩壊(頸動脈内へのマンニトール溶液の注入またはアンジオテンシンペプチドなどの生物学的活性剤の使用によって生じる)が含まれる。しかしながら、これらの戦略のそれぞれは、侵襲的外科的処置に伴う固有の危険性、内因性輸送システムに固有の制限によって課されるサイズ制限、CNSの外側で活性を有し得るキャリアモチーフから構成されるキメラ分子の全身投与に伴う潜在的に望ましくない生物学的副作用、およびBBBが崩壊している脳の領域内での脳損傷の起こり得る危険性など、それを準最適な送達方法にする制限を有する。
【0082】
あるいは、全身的様式よりもむしろ局所的に、例えば患者の組織領域へ医薬組成物を直接注射することによって、医薬組成物を投与してもよい。
【0083】
「組織」という用語は、類似構造および/または共通機能を有する細胞の凝集体からなる生命体の一部を表す。例には、脳組織、網膜、皮膚組織、肝組織、膵臓組織、骨、軟骨、結合組織、血液組織、筋組織、心臓組織、脳組織、血管組織、腎組織、肺組織、生殖腺組織、造血組織が含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の医薬組成物を、当該技術分野において周知のプロセスによって、例えば従来の混合、溶解、粒状化、糖衣錠作り、粉末化、乳化、カプセル化、封入、または凍結乾燥のプロセスによって製造することができる。
【0085】
したがって、本発明による使用のための医薬組成物を、医薬的に使用され得る調製物への活性成分の加工を容易にする賦形剤および助剤を含む、1種以上の生理学的に許容可能なキャリアを用いた従来の様式で製剤化することができる。適当な製剤化は、選択される投与経路に依存する。
【0086】
注射のために、医薬組成物の活性成分を、水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩緩衝液などの生理学的に適合した緩衝液に製剤化することができる。経粘膜投与のために、浸透すべき障壁に適した浸透剤を製剤化に用いる。そのような浸透剤は、当該技術分野において一般的に公知である。
【0087】
経口投与のために、活性化合物を当該技術分野において周知の医薬上許容可能なキャリアと組み合わせることによって、医薬組成物を容易に製剤化することができる。そのようなキャリアによって、患者による経口摂取のための、錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として医薬組成物を製剤化することが可能になる。錠剤または糖衣錠のコアを得るために、所望に応じて適切な助剤を加えた後に、固形賦形剤を用いることによって、場合によっては結果として生じる混合物をすりつぶすことによって、かつ顆粒の混合物を加工することによって、経口使用のための薬理学的調製物を作り出すことができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含めた糖類などの充填剤;例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(sodium carbomethylcellulose)などのセルロース調製物;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容可能なポリマーである。所望に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、あるいはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を添加してよい。
【0088】
糖衣錠のコアは、適切な被覆を備えている。この目的のために、場合によってはアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合液を含有し得る濃縮した糖液を用いてよい。染料または顔料を、同定のための錠剤または糖衣錠の被覆に、あるいは活性化合物の用量の異なる組み合わせを特徴付けるために添加してよい。
【0089】
経口的に用いられ得る医薬組成物には、ゼラチンから作られている押し込み型カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可逆剤から作られているソフト密封カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および場合によっては安定剤と混ぜ合わせた活性成分を含有していてよい。ソフトカプセル中で、活性成分は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁していてよい。さらに、安定剤を添加してよい。経口投与のためのすべての製剤は、選択される投与経路に適した投薬形態であるべきである。
【0090】
口腔投与のために、組成物は、従来の様式で製剤化された錠剤またはトローチ剤の形態をとってよい。
【0091】
鼻孔吸入による投与のために、本発明による使用のための活性成分は、適切な推進剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ−テトラフルオロエタン、または二酸化炭素を用いて、加圧型パックまたは噴霧器からのエアロゾルスプレーによる提示の形態で好都合に送達される。加圧型エアロゾルの場合、バルブを備えて計量された量を送達することによって、投薬単位を決定することができる。ディスペンサーにおける使用のための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジを、化合物とラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との混合粉末を含有するように製剤化することができる。
【0092】
本明細書に記載する医薬組成物を、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与のために製剤化することができる。注射のための製剤を、単位投薬形態で、例えばアンプル中にまたは多用量容器中に、場合によっては添加保存剤とともに提示することができる。組成物は、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液、または乳濁液であってよく、かつ懸濁化剤、安定剤、および/または分散剤などの製剤化剤(formulatory agent)を含有していてよい。
【0093】
非経口投与のための医薬組成物には、水溶性形態の活性調製物の水溶液が含まれる。さらに、活性成分の懸濁液を、適当な油性または水ベースの注射用懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒または媒体には、ゴマ油などの脂肪油、あるいはオレイン酸エチル、トリグリセリド、またはリポソームなどの合成脂肪酸エステルが含まれる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなど、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有していてよい。場合によっては、懸濁液は、適切な安定剤、または活性成分の溶解度を増大させて高濃度溶液の調製を可能にする薬剤も含有していてよい。
【0094】
あるいは、活性成分は、使用前に適切な媒体、例えば無菌の発熱性物質を含まない水ベースの溶液で構成するための粉末形態であってよい。
【0095】
本発明の医薬組成物を、例えばココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐薬用基剤を用いることによって、坐薬または停留浣腸などの直腸用組成物に製剤化することもできる。
【0096】
本発明の文脈における使用に適した医薬組成物には、意図される目的を達成するのに有効な量で活性成分を含有している組成物が含まれる。より具体的には、治療上有効な量とは、障害(例えば、癌)の症状を予防、軽減、または改善するのに、あるいは治療される対象の生存を延長させるのに有効な活性成分の量を意味する。
【0097】
治療上有効な量の決定は、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らせば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0098】
本発明の方法で用いられる任意の調製に対して、治療上有効な量または用量を、初めにインビトロおよび細胞培養アッセイで推定することができる。例えば、所望の濃度または力価を達成するように、動物モデルにおいて用量を定めることができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。
【0099】
本明細書に記載する活性成分の毒性および治療効力を、インビトロ、細胞培養、または実験動物での標準的な製薬手順によって決定することができる。これらのインビトロおよび細胞培養アッセイおよび動物調査から得られたデータを、ヒトにおける使用のための投薬量の範囲を定めるのに用いることができる。投薬量は、採用される投薬形態および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な製剤化、投与経路、および投薬量は、患者の病態を考慮して個々の医師によって選択されてよい。(例えば、Finglら,1975,「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,第1勝,p.1を参照されたい)。
【0100】
生物学的効果(最小有効濃度,MEC)を誘起または抑制するのに十分な活性成分の抗体レベルを提供するように、投薬の量および間隔を個々に調整することができる。MECは、各調製物によって変化するが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するのに必要な投薬量は、個々の特徴および投与経路に依存する。検出アッセイを用いて、血漿中濃度を測定することができる。
【0101】
当該技術分野において周知である相関動物モデルで、治療効力をさらに確認することができる。免疫不全マウスにおけるヒト異種移植片。治療される病態の重症度および反応性に依存して、投薬は、治療過程が数日から数週間、あるいは治癒がもたらされるまたは疾患状態の減退が達成されるまで持続する、単回または複数回の投与であってよい。
【0102】
投与される組成物の量は、当然、治療される対象、苦痛の重症度、投与の様式、処方する医師の判断、等々に依存する。
【0103】
本発明の組成物を、所望に応じて、活性成分を含有する1以上の単位投薬形態を含有し得る、FDAに認可されたキットなどのパックまたはディスペンサーデバイスで提示することができる。パックには、例えばブリスターパックなどの金属箔またはプラスチック箔が含まれてよい。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与説明書が添付されていてよい。パックまたはディスペンサーデバイスには、医薬品の製造、使用、または販売を規制する行政機関によって指示された形態の容器に関連した告示も収容されていてよく、該告示は、組成物あるいはヒトまたは家畜への投与の形態についての機関による認可を反映している。そのような告示は、例えば処方薬に対して米国食品医薬品局によって認可された標識付け、または認可された製品への書き込みであってよい。適合した医薬用キャリアで製剤化された本発明の調製物を含む組成物を、上文にさらに詳述しているように、調製しても、適当な容器に収納しても、かつ表示された病態の治療に対して標識付けしてもよい。
【0104】
治療的応用だけでなく、本発明の抗体を診断的応用に用いることもできる。
【0105】
したがって、さらなる態様によれば、それを必要としている対象における癌を診断するための方法を提供し、該方法は、該対象由来の生物学的サンプルを本明細書に記載する抗体または抗体フラグメントと接触させる(インビボまたはエクスビボ)工程を含み、既定の閾値を超えた複合体形成は、該対象における癌を示す。いくつかの実施形態によれば、前記癌の細胞は、罹患していない細胞と比較してCEACAM1の過剰発現を特徴とする。
【0106】
前述のように、本発明の方法は、免疫複合体を形成するのに十分な条件下で達成され、そのような条件(例えば、適当な濃度、緩衝液、温度、反応時間)、ならびにそのような条件を最適化する方法は当業者に公知であり、例を本明細書に開示する。本明細書において使用するとき、「免疫複合体」という語句は、本発明の抗体およびCEACAM1を含む複合体を表す。
【0107】
本発明の免疫複合体の存在またはレベルの決定は、直接であっても、または抗体に接着していてよい同定可能(検出可能)な部分を検出することによるものであってもよい。
【0108】
試験した細胞(例えば、それを必要としている対象の細胞)における免疫複合体のレベルを、既定の閾値と比較する。本発明の抗体を用いて血清可溶性のCEACAM1の量を測定することもできることは理解されるであろう。とにかく、公知の参照レベルおよび/またはコントロールの細胞もしくは血清のレベルに基づいて、閾値を決定することができる。コントロールの健常な対象(例えば、癌に罹患していない対象)から、あるいは疾患の発症前または治療後の同じ対象から、コントロール細胞を入手することができる。本発明のいくつかの実施形態によれば、コントロール対象は、同じ種のもの、例えばヒト、好ましくはそれを必要としている対象と同じ年齢、体重、性別、等々に合致しているものである。
【0109】
本明細書において使用するとき、「診断する」という用語は、病状の有無を決定すること、病状または症状を分類すること、病状の重症度を決定すること、病状の進行をモニタリングすること、病状の結果および/または回復の見込みを予測することを表す。
【0110】
診断を容易にするために、上記の教示を、当該技術分野において周知であるが、画像化、分子試験、および外科的生検に限定されない癌を診断する他の方法と組み合わせることができる。
【0111】
診断が確立されると、対象は、診断および開始され得る適切な治療を知らされる。
【0112】
「含む」、「含んでいる」、「含める」、「含めている」、「有している」という用語およびそれらの同根語は、「を含むがこれらに限定されない」を意味する。この用語は、「からなる」および「から本質的になる」という用語を包含する。
【0113】
「から本質的になる」という語句は、組成物または方法が、さらなる成分および/または工程を含み得るが、これは該さらなる成分および/または工程が特許請求される組成物または方法の根本的かつ新規な特徴を物質的に変化させない場合に限られていることを意味する。
【0114】
本明細書において使用するとき、単数形には、別様に文脈ではっきりと指示されていない限り、複数形の指示対象が含まれる。例えば、「化合物」または「少なくとも1種の化合物」という用語には、その混合物を含めた、複数の化合物が含まれてよい。
【0115】
本出願を通して、本発明の種々の実施形態を、範囲形式で提示することができる。範囲形式での記載は、便宜および簡略のためにすぎないことを理解すべきであり、本発明の範囲を固く限定するものとして解釈されるべきではない。したがって、範囲の記載は、あらゆる可能な部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1〜6などの範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6、等々の部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば1、2、3、4、5、および6を具体的に開示していると見なされるべきである。このことは、範囲の幅にかかわらず適用される。
【0116】
本明細書において数的範囲が表示されている場合には、必ずそれは表示された範囲の中の任意の挙げられた数字(分数または整数の)を含むことを意味する。第一の表示数と第二の表示数「に及んでいる/の間に及ぶ」、ならびに第一の表示数「から」第二の表示数「に及んでいる/に及ぶ」という語句は、本明細書において互換可能に用いられ、かつ第一および第二の表示数、ならびにそれらの間の分数および整数の数字を含むことを意味する。
【0117】
本明細書において使用するとき、「方法」という用語は、化学、薬理学、生物学、生化学、および医学の分野の実施者に公知の、または該実施者によって公知の様式、手段、技術、および手順から容易に開発される様式、手段、技術、および手順を含むがこれらに限定されない、与えられた課題を達成するための様式、手段、技術、および手順を表す。
【0118】
本明細書において「例示的」という単語は、「例、事例、または例証としての役割を果たす」ことを意味するために用いられる。「例示的」として記載される任意の実施形態は、必ずしも他の実施形態よりも好ましいまたは有利であるとして、かつ/あるいは他の実施形態からの特色の組込みを排除すると解釈されるべきではない。
【0119】
本明細書において「場合によっては」という単語は、「いくつかの実施形態では提供されるが、他の実施形態では提供されない」ことを意味するために用いられる。本発明の任意の特定の実施形態は、複数の「場合による」特色を、そのような特色が抵触しない限り、含んでいてよい。
【0120】
明確にするために別々の実施形態の文脈で記載されている本発明のある特色を、1つの実施形態において組み合わせて提供してもよい。逆に、簡略のために1つの実施形態の文脈で記載されている本発明の種々の特色を、別々に、または任意の適切な部分的組み合わせで、または本発明の任意の他の記載されている実施形態で適切なように提供してもよい。種々の実施形態の文脈で記載されているある特色は、該実施形態がそれらの要素なしで実施不能でない限り、それらの実施形態の本質的特色と見なされるべきでない。
【0121】
上文に記述されているおよび下文の特許請求の範囲の節で主張されている、本発明の種々の実施形態および態様は、以下の実施例において実験的裏付けを見出している。
【実施例】
【0122】
ここで、上記の記載とともに、限定しない形式で本発明のいくつかの実施形態を例証する以下の実施例に対して言及する。
【0123】
一般に、本明細書において用いられる命名、および本発明において利用される実験室手順には、分子、生化学、微生物学、および組換えDNAの技術が含まれる。そのような技術は、文献において徹底的に説明されている。例えば、「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら,(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻,Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら,「Current Protocols in Molecular Biology」,John Wiley&Sons,Baltimore,Maryland(1989);Perbal,「A Practical Guide to Molecular Cloning」,John Wiley&Sons,New York(1988);Watsonら,「Recombinant DNA」,Scientific American Books,New York;Birrenら(編)「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」,1−4巻,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998);米国特許第4,666,828号;第4,683,202号;第4,801,531号;第5,192,659号、および第5,272,057号に明記されている方法論;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」,I−III巻,Cellis,J.E.編(1994);「Current Protocols in Immunology」I−III巻,Coligan J.E.編(1994);Stitesら(編),「Basic and Clinical Immunology」(第8版),Appleton&Lange,Norwalk,CT(1994);MishellおよびShiigi(編),「Selected Methods in Cellular Immunology」,W.H.Freeman and Co.,New York(1980);利用可能な免疫アッセイは、特許および科学文献に幅広く記載されており、例えば米国特許第3,791,932号;第3,839,153号;第3,850,752号;第3,850,578号;第3,853,987号;第3,867,517号;第3,879,262号;第3,901,654号;第3,935,074号;第3,984,533号;第3,996,345号;第4,034,074号;第4,098,876号;第4,879,219号;第5,011,771号、および第5,281,521号を参照されたい;「Oligonucleotide Synthesis」Gait,M.J.編(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney,R.I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press,(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.(1984)および「Methods in Enzymology」Vol.1−317,Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」,Academic Press,San Diego,CA(1990);Marshakら,「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996)を参照されたく、それらすべては参照することにより本明細書に完全に明記されているかのように組込まれている。本明細書を通して、他の一般的参考文献を提供する。その中の手順は、当該技術分野において周知であると考えられ、読者の便宜のために提供されている。その中に含有されているすべての情報は、参照することにより本明細書に組み入れられている。
【0124】
実施例1
モノクローナル抗体の生成
MRG1モノクローナル抗体の生成
ナノモル濃度でCEACAM1同種相互作用をインビトロで効果的に遮断するモノクローナル抗体を生成した。簡潔には、マウスを、2週間間隔で3回、5μgの組換えヒトCEACAM1(タンパク質全体,R&D Systemsから市販されている)で免疫した。脾細胞を回収し、SP2/0細胞と融合させて、ハイブリドーマライブラリーを生成した。
【0125】
CEACAM1遮断抗体(MRG1 mAb)を産生するハイブリドーマを数回再クローン化し、安定クローンを産出した。
【0126】
他のモノクローナル抗体
Kat4c mAbおよびウサギポリクローナル抗CEACAMを、DAKO(Glostrup,デンマーク)から購入した。
【0127】
実施例2
抗CEACAM1 mAbの特異性
材料および実験手順
CEACAM発現細胞の生成
CEACAM陰性721.221ヒト細胞(親B細胞)に、エレクトロポレーションによってCEACAM1、CEACAM5、CEACAM6、またはCEACAM8を安定的にトランスフェクトし、G418で選択した。
【0128】
ネズミ科胸腺腫BW親細胞(TCRαおよびβ鎖を欠いているが、IL−2の完全な分泌機構を保持している細胞)に、ネズミ科ζ鎖の膜貫通および細胞質テールと融合させたヒトCEACAM1の細胞外部分を含むキメラ分子をトランスフェクトした。エレクトロポレーションによってトランスフェクションを行い、G418で選択した。
【0129】
FACSによる抗体スクリーニング
CEACAM1結合活性について、ハイブリドーマをフローサイトメトリーによって以下のようにスクリーニングした。
(a)50,000個のトランスフェクトされたCEACAM細胞を、U字形をした96ウェルに入れた。
(b)細胞を、冷却したFACS用緩衝液(PBS、BSA0.5%、アジド0.05%)で洗浄した。
(c)細胞を染色用mAb(MRG1またはKat4c)とインキュベートした:100μlあたり0.1μgのmAb、氷上で30分間。
(d)細胞を遠心分離し、上清を除去し、細胞を1:200の希釈での100μlのFITC接合ヤギ抗マウス抗体(Jackson Immunoresearch)中に再懸濁した。
(e)インキュベーション(暗条件中、氷上)の30分後に、細胞を遠心分離し、洗浄し、FACS用緩衝液に再懸濁した。
(f)FACScaliburおよびCellQuestソフトウェアを用いて、細胞を分析した。
【0130】
結果
721.221親細胞はCEACAMタンパク質のいずれも発現しないため、これらの細胞にCEACAM1、CEACAM5、CEACAM6、またはCEACAM8を安定的にトランスフェクトし、CEACAM1モノクローナル抗体(mAb)の特異性を試験した。次いで、CEACAM1結合活性について、ハイブリドーマをフローサイトメトリーによってスクリーニングした。図1Aに示されているように、本教示に従って生成されたMRG1 mAbは、ヒトCEACAM1に特異的である。それは、CEACAM5とのごくわずかな交差反応があるが、CEACAM6またはCEACAM8とは結合しない。図1Bは、すべてのトランスフェクタントがCEACAM分子を発現し、CEACAM1が最も低かったことを示しており、MRG1の特異性パターンを強調している。
【0131】
実施例3
前記mAbはCEACAM1同種結合を阻害し得る
材料および実験手順
ELISAによる抗体スクリーニング
CEACAM1遮断活性をBW機能的システムを用いることによって試験した。BW機能的システムは、マウスζ鎖と融合させたヒトCEACAM1の細胞外ドメインを含むキメラ分子を安定的にトランスフェクトしたマウス細胞株(BW)(BW/CEACAM1−ζ、上記の実施例2を参照されたい)を含む。BW/CEACAM1−ζ細胞と他のCEACAM1陽性細胞との共インキュベーションによって、測定可能な濃度のマウスIL−2の分泌が生じた。
【0132】
したがって、BW/CEACAM1−ζ(エフェクター細胞)または221/CEACAM1(標的細胞)を、それぞれ別々に10〜40ng/mlのMRG1 mAbとあらかじめインキュベートした。氷上での1時間のインキュベーションの後、相互の細胞(221/CEACAM1またはBW/CEACAM1)を添加し、マウスIL−2の分泌をサンドイッチELISA(R&D Systems)によって測定した。
【0133】
細胞毒性アッセイ
1μg/mlのMRG1 mAbの存在下または非存在下で、腫瘍浸潤リンパ球による種々の黒色腫株の殺傷を試験する細胞毒性アッセイを行った。CEACAM1526mel、624mel、およびCEACAM109mel黒色腫細胞を標的細胞として用いた。10:1のE:T比で、TIL014細胞をエフェクター細胞として用いた。氷上でのMRG1 mAbとの1時間のインキュベーションの後、相互の細胞を添加し、37℃で5時間共インキュベートした。標的細胞を緑色蛍光色素(CFSE)であらかじめ標識し、特異的溶解をフローサイトメトリーにおけるヨウ化プロピジウム(PI)共染色によって測定した。自発的死を差し引いた。
【0134】
結果
精製MRG1 mAbのCEACAM1同種結合阻害能を検証した。図2に示されているように、精製MRG1 mAbは、CEACAM1同種結合の用量依存的阻害を示した。10ng/mlの濃度で、前記mAbはCEACAM1相互作用を効率的に減少させ、20ng/mlの濃度で、効果的にプラトーに達した。重要なことには、2つの実験的設定、すなわちエフェクター細胞BW/CEACAM1−ζへのまたは標的細胞221/CEACAM1へのMRG1 mAbの添加は、同様の結果(マウスIL−2の分泌が効果的に遮断された)を示した。
【0135】
MRG1 mAbの遮断効果を、細胞毒性アッセイでさらに実証した。図3に示されているように、CEACAM1526melおよび624mel細胞の殺傷は、抗体とエフェクター細胞とのインキュベーションによって増進した(しかしながら、標的細胞に関してはそうではなかった)。CEACAM109mel細胞の殺傷は、MRG1 mAbの存在によって影響を受けなかった(図3)。
【0136】
実施例4
抗CEACAM1 mAbは癌細胞の移動および増殖を阻害する
材料および実験手順
浸潤アッセイ
抗体の遮断効果を浸潤アッセイで試験した。簡潔には、黒色腫細胞(08melまたは09mel)を、1μg/mlのMRG1 mAbの存在下または非存在下であらかじめインキュベートし、次いでマトリゲル浸潤アッセイによって試験した。24時間浸潤させ、浸潤細胞の量を標準化XTTで定量化した。
【0137】
ネット増殖アッセイ
0日目に、CEACAM1526mel細胞を48ウェルプレート中に播種した(1ウェルあたり2,500個の細胞)。播種の際に、MRG1を3つの異なる濃度(0.5、1、または3μg/ml)で添加し、あるいは全く添加しなかった。播種後2日目または5日目に、総生存細胞をカウントした。増殖を、標準化XTTを用いておよび細胞を直接カウントすることによって測定した。
【0138】
結果
図4に示されているように、MRG1は、CEACAM1陽性08mel細胞(CEACAM1発現レベルが中程度、すなわちCEACAM1発現の蛍光強度中央値が50)の浸潤を遮断し、かつCEACAM1dim09mel細胞(CEACAM1発現レベルが低い、すなわちCEACAM1発現の蛍光強度中央値が15)に対してほとんどまたは全く効果がなかった。
【0139】
MRG1をネット増殖アッセイでも試験した。526mel細胞のネット増殖における用量依存的阻害が観察された(図5)。処理の5日後、増殖が60%を上回って減少した(3μgのMRG1 mAbで)。
【0140】
実施例5
MRG1は動物実験モデルにおいて癌細胞の成長を阻害する
材料および実験手順
黒色腫異種移植モデル
5×10個のCEACAM1ヒト黒色腫細胞を、7週齢のSCID−NODマウスの側腹部に皮下注射した。100%のマウスにおいて14〜17日以内に腫瘤が形成され、成長し続けた。腫瘍の寸法をカリパスを用いて週3回非侵襲的にモニタリングし、容積の近似値を(d1×d2×d3/2)として算出した。
【0141】
0.5mlの滅菌PBS中に希釈した0.5mgの抗体を腹腔内注射することによって、MRG1の投与を行った。PBSの注射はコントロールとしての役割を果たした。
【0142】
200μlの滅菌PBS中に希釈した20×10個の細胞を尾静脈内に静脈注射することによって、反応性ヒト抗黒色腫リンパ球の投与を行った。
【0143】
結果
上記で実証されている遮断機能と一致して、MRG1抗体の投与によって、腫瘍の成長が阻害された。この効果は、腫瘍細胞の接種の時に(図6A、「予防設定」)、または測定可能な腫瘤がすでに形成された後に(図6B、「治療設定」)、前記抗体を投与した場合に明らかであった。これらの効果は、非侵襲的モニタリングが続く8日以内の4回の注射の後に明らかであった(図6中の矢印を参照されたい)。SCID−NODマウスは免疫不全であるため、この効果はいかなる免疫調節効果とも無関係であったことに留意すべきである。
【0144】
腫瘍の成長を阻害した反応性ヒト抗黒色腫リンパ球の単回静脈注射によって、抗黒色腫免疫応答のシミュレーションを行った(図7)。この効果は、週1回のMRG1の腹腔内注射によって有意に増強した。
【0145】
実施例6
MRG1は以前に記載されている抗CEACAM1抗体よりも優れている
材料および実験手順
ELISAによる抗体スクリーニング
上文の実施例3で詳細に記載しているように、CEACAM1遮断活性をBW機能的システムを用いることによって試験した。
【0146】
100,000個のBW/CEACAM1−ζ細胞を、15ng/mlのMRG1 mAb、2600ng/mlのKat4c mAb、または600ng/mlのウサギポリクローナル抗CEACAM抗体とあらかじめインキュベートした。氷上での1時間のインキュベーションの後、50,000個の721.221/CEACAM1細胞を添加し、マウスIL−2の分泌をサンドイッチELISA(R&D Systems)によって測定した。
【0147】
結果
上文の実施例3に表記されているように、本発明者らは、15ng/mlのMRG1 mAbを用いることによって、CEACAM1活性のほぼ完全な遮断を実証した。対照的に、抗CEACAM1モノクローナル抗体のKat4cは、200倍高い濃度を試験した場合にのみわずかな遮断効果をもたらすことができ、ポリクローナルウサギ抗CEACAM抗体は、40倍高い濃度で同様の阻害効果をもたらした(それぞれ2600ng/mlおよび600ng/ml、図8)。
【0148】
本発明はその具体的な実施形態とともに記載されているが、多くの代替手段、修正、および変化が当業者に明白であろうことは明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広範な範囲に入るそのようなすべての代替手段、修正、および変化を包含することを意図する。
【0149】
本明細書において言及されているすべての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許、または特許出願が、具体的かつ個々に、参照することにより組み入れられることが表示されているかのように同程度に、参照することによりそれらの全体として本明細書に組み入れられている。さらに、本出願における任意の参考文献の引用または同定は、そのような参考文献が先行技術として本発明に利用可能であることを承認するものとして解釈されるべきでない。節の見出しが用いられる程度に、それらは必ずしも限定するものとして解釈されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATCC登録番号PTA−9974の下で寄託されている、ハイブリドーマ細胞。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリドーマ細胞から産生される抗体のCDR配列および配向性を有する抗原認識ドメインを含む、単離した抗体または抗体フラグメント。
【請求項3】
細胞毒性部分に接着している、請求項2に記載の単離した抗体または抗体フラグメント。
【請求項4】
前記細胞毒性部分には、細胞毒素、ケモカイン、化学療法、アポトーシス促進性因子、インターフェロン、放射性部分、またはそれらの組み合わせが含まれる、請求項3に記載の単離した抗体または抗体フラグメント。
【請求項5】
同定可能な部分に接着している、請求項2に記載の単離した抗体または抗体フラグメント。
【請求項6】
免疫調節の方法であって、CEACAM1発現リンパ球を請求項2に記載の抗体または抗体フラグメントと接触させる工程を含む、方法。
【請求項7】
CEACAM1発現腫瘍細胞の移動または増殖を阻害する方法であって、該CEACAM1発現腫瘍細胞を請求項2に記載の抗体または抗体フラグメントと接触させ、それによって、CEACAM1発現腫瘍細胞の移動または増殖を阻害する、方法。
【請求項8】
必要としている対象における癌を診断するための方法であって、該対象由来の生物学的サンプルを請求項2または5に記載の抗体または抗体フラグメントと接触させる工程を含み、既定の閾値を超えた複合体形成が該対象における該癌を示す、方法。
【請求項9】
前記癌の細胞が、罹患していない細胞と比較してCEACAM1の過剰発現を特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
癌を治療する方法であって、それを必要としている対象に治療上有効な量の請求項2に記載の抗体または抗体フラグメントを投与し、それによって、該対象における該癌を治療する工程を含む、方法。
【請求項11】
前記対象のリンパ球に投与する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リンパ球にはT細胞またはNK細胞が含まれる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
CEACAM1同型または異型タンパク質−タンパク質相互作用を阻害する方法であって、CEACAM1発現リンパ球を請求項2に記載の抗体または抗体フラグメントと接触させ、それによって、CEACAM1同型または異型タンパク質−タンパク質相互作用を阻害する工程を含む、方法。
【請求項14】
前記CEACAM1発現リンパ球が腫瘍浸潤リンパ球またはNK細胞である、請求項6または13に記載の方法。
【請求項15】
前記CEACAM1発現リンパ球が細胞毒性T細胞である、請求項6または13に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍細胞には黒色腫腫瘍細胞が含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記癌が黒色腫である、請求項8または10に記載の方法。
【請求項18】
活性成分として請求項2または3に記載の抗体または抗体フラグメントを含む、医薬組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−525142(P2012−525142A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507879(P2012−507879)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000348
【国際公開番号】WO2010/125571
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511255421)テル ハショメール メディカル リサーチ インフラストラクチャー アンド サービシズ リミテッド (2)
【出願人】(507253749)ラモット アット テル アビブ ユニバーシティ, リミテッド (5)
【Fターム(参考)】