説明

抗FK778抗体および高感度イムノアッセイ方法

本発明は、FK778物質に結合することが可能な抗体、FK778物質に対する抗体を利用する高感度イムノアッセイ法、およびFK778物質の濃度を測定するための試験キットに関する。本発明の1つの局面において、FK778物質についての高感度イムノアッセイ方法が提供され、この方法は、FK778物質に結合可能な抗体を固定化する工程、サンプル中に含まれるFK778物質と検出可能な物質によって標識されたFK778物質とを、該固定化された抗体と競合的に反応させる工程、および、該固定化された抗体に結合された該標識された物質を検出する工程を包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗体、高感度イムノアッセイ方法、および、該方法を実施するための試験キットに関する。より詳細には、本発明は、FK778物質に結合可能な抗体、FK778物質に対する抗体を使用する高感度イムノアッセイ方法、および、FK778物質の濃度を測定するための試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
FK778物質は、活性レフルノミド代謝産物A771726から誘導され、高い免疫抑制作用を有する。本化合物は以下の構造式を有することが知られている(PCT/JP03/04722):
FK778
【化1】

【0003】
FK778物質は、非常に少ない用量で、非常に効力のある免疫抑制活性を示す。それ故、移植(例えば、臓器移植)の際の拒絶反応を効果的かつ継続的に抑制するために、生体への投与後の本化合物の血中濃度についての高感度かつベッドサイドモニタリングを可能にする、単純かつ容易な技術が必要とされる。このようなモニタリングのためには、非常に低い濃度の本化合物についての正確かつ実用的な測定のための技術を確立することが、非常に重要であると考えられる。
【0004】
生体サンプル等に含まれている少量の低分子物質をアッセイするための現在までに使用されている方法としては、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ラジオイムノアッセイおよび酵素イムノアッセイなどが挙げられる。
【0005】
しかし、これらの方法は、ある種の点(例えば、(1)その手順が複雑である、および(2)大型の装置が必要とされる)において都合のよいものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、FK778物質を単純かつ容易な様式で測定するための物質およびシステムを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するための徹底的な研究の結果として、本発明者らはFK778物質に結合可能な抗体を得ることに成功した。次いで、本発明者らは、該抗体の免疫学的アッセイ方法における有効性を調査し、該抗体がFK778物質の測定のための試薬として非常に有用であることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、FK778物質に結合可能な抗体、FK778物質に対する抗体を使用する高感度イムノアッセイ方法、および、FK778物質の濃度を測定するための試験キットが提供される。
【0009】
以下において、本発明をさらに詳述する。
【0010】
(I) FK778物質に結合可能な抗体
上記の抗体としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が挙げられる。
【0011】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を得るための免疫原としては、上記のFK778、および、以下のようなFK778の誘導体が挙げられる:
FR270531(FK778−オキシヘキサン酸ペンタフルオロフェニルエステル):
【化2】

FR267471(FK778−オキシヘキサン酸):
【化3】

FR266831(FK778−グルタール酸):
【化4】

FR271764(M−III):
【化5】

【0012】
ポリクローナル抗体は、そのH鎖(重鎖)に従って、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEのようなクラスに分類され得、さらに各クラスのサブクラスに分類され得る。これらは、FK778物質に結合可能であれば、いずれのクラスであってもよい。特に好ましいクラスは、IgGである。
【0013】
ポリクローナル抗体は、上記のような免疫原で動物を免疫することによって得られた抗血清から精製される。
【0014】
免疫工程は、通常の方法によって行なわれる。
【0015】
免疫される動物種に関しては、特に制限はない。一般に、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ヤギ等が使用される。免疫原として機能する物質は、一般に、その免疫原性が増大され得るように、ウシ血清アルブミン(本明細書中以降、BSAと称する)、ウシサイログルブリン、ゼラチンまたはヘモシアニンのようなキャリアとの結合体の形態で使用される。BSAとのこのような結合体(BSA−免疫原結合体)は、例えば、免疫原物質をジカルボン酸(例えば、コハク酸)のハーフエステルに変換し、次いで、該ハーフエステルを縮合剤(例えば、ジクロロヘキシルカルボジイミド)の存在下でN−ヒドロキシスクシンイミド等と反応させ、そして、得られた活性化されたエステルをBSAとさらに反応させることによって取得され得る。
【0016】
ポリクローナル抗体は、このようにして得られた抗血清から従来の手段(例えば、硫酸アンモニウム等での塩析、遠心分離、透析およびカラムクロマトグラフィー)によって精製される。
【0017】
モノクローナル抗体は、ポリクローナル抗体の場合と同様に、そのH鎖に従って分類され得るが、FK778物質に結合可能である限り、任意のタイプのモノクローナル抗体が使用され得る。特に好ましいクラスは、IgGである。
【0018】
モノクローナル抗体は、一般に、細胞融合およびクローニングの技術によって産生される。モノクローナル抗体はまた、遺伝子工学技術を使用することによっても産生され得る。
【0019】
細胞融合工程に使用される抗体産生細胞(例えば、FK778物質に結合可能な抗体を産生する細胞)は、増大された免疫原性を有する免疫原物質(例えば、BSA−FR270531物質結合体)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ)の、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球である。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球等に対して免疫原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞もまた、使用され得る。後者の手順を使用する場合には、ヒト由来の抗体産生細胞を調製することも可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同じ動物種起源のものである。
【0020】
細胞融合技術を使用するモノクローナル抗体産生は、通常の方法(例えば、コーラーおよびミルスタイン(Kohler & Milstein)[Nature、1975年、第256巻、p.495]の主要な方法)によって行なわれる。
【0021】
特に好ましい実施形態において、ハイブリドーマは、BSA−FR270531物質結合体で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、そしてスクリーニングして、FK778物質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが得られる。該ハイブリドーマはマウスの腹腔内で増殖され、FK778物質に結合可能なモノクローナル抗体が、マウスの腹水から得られる。
【0022】
(II) FK778物質に対する抗体を利用した高感度かつ実用的なイムノアッセイ法
種々の免疫アッセイにおいて、FK778物質に結合可能な本発明の抗体を使用して、サンプル中のFK778物質を高感度で単純かつ容易な様式で検出し得る。このような免疫アッセイとしては、競合法(直接法および間接法)、サンドイッチ法、ARCHITECT(アボット・ラボラトリー(Abbott Laboratory))およびAxSYN(アボット・ラボラトリー)のような自動分析器によるイムノアッセイ、RIA、ELISA、化学発光イムノアッセイなど(これらの全ては当該分野で公知である)が挙げられる。
【0023】
以下の方法は、サンプル中のFK778物質をアッセイするための方法の例であって、本発明が以下の方法に限定されることは意図されない。
【0024】
(i) 競合法(直接法)
直接的なイムノアッセイ法は、FK778物質に結合可能な抗体を固定化し、サンプル中に含まれるFK778物質と検出可能な物質によって標識されたFK778物質とを、該固定化された抗体と競合的に反応させ、そして、該固定化された抗体に結合された該標識されたFK778物質を検出することによって行なわれる。
【0025】
FK778物質に結合可能な抗体は、本発明の第1の局面(I)において記載された抗体である。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方が使用され得るが、高い特異性を有すること、および、製造ロット間に特異性の差がないことから、モノクローナル抗体が、より好ましい。固定化のための固相として利用可能な材料は、例えば、プレート(免疫学的用途のためのプレートなど)、ビーズ(免疫学的用途のためのビーズなど)、磁性微粒子、ポリスチレンボールおよび試験管である。単純な操作という観点からは、免疫学用プレートおよび磁性微粒子が好ましい。
【0026】
FK778物質を標識するための検出可能な物質の例としては、当業者に公知の種々の物質、例えば、種々の酵素、蛍光物質、発光物質および放射性物質、が挙げられる。適切な酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、マレートデヒドロゲナーゼおよびウレアーゼが挙げられる。これらの中でも、ペルオキシダーゼ(本明細書中以降、PODと称する)が、好ましい酵素である。適切な蛍光物質としては、例えば、フルオレセインおよびフルオレセインイソチオシアネートが挙げられる。適切な発光物質としては、アクリジニウム、1,2−ジオキセタン、ルミナールおよびこれらの誘導体が挙げられる。アクリジニウムおよびその誘導体が好ましい。
【0027】
検出可能な物質は、当該分野で公知の技術を使用して、FK778物質に対し直接的に、または、介在物(例えば、当該分野で公知のリンカー)を介して間接的に、結合または結合体化され得る。
【0028】
例えば、酵素標識されたFK778物質は、従来の方法によって調製され得る。例えば、カップリング剤を使用する場合、上記の本発明の第1の局面(I)において記載されるような、ジカルボン酸(例えば、コハク酸)とのFK778物質のハーフエステルを、N−ヒドロキシスクシンイミド等と反応させ、得られた該ハーフエステルの活性化されたエステルを、標識目的に使用可能な酵素(例えば、POD)と反応させる。固定化された抗体に結合された、酵素標識された物質は、従来の様式で酵素の活性を測定することによって検出され得る。標識として使用される酵素がPODである場合、固定化された抗体に結合されたPODは、o−フェニレンジアミンおよび過酸化水素の酵素基質溶液を用い、基質の酸化に起因する発色の程度を光学密度として測定することによって、アッセイされ得る。発色の程度は、固定化された抗体に結合されたPOD標識FK778物質の量に比例する。
【0029】
あるいは、アクリジニウムエステルおよびアクリジニウム(N−スルフォニル)カルボキサミド標識のような発光化学物質が、FK778物質に対して標識される。固定化された抗体へ結合された発光化学物質は、従来の様式で化学発光を測定することによって検出される。この方法は、ARCHITECT(アボット・ラボラトリー)のような自動分析器によるイムノアッセイに使用され得る。
【0030】
この直接法は、非常に低い濃度のFK778物質を、単純かつ容易な様式で、定量的かつ定性的にアッセイし得る。
【0031】
(ii) 競合的方法(間接法)
間接的なイムノアッセイ法は、アッセイされる試験物質(例えば、FK778物質)に結合することが可能な第1抗体と、該第1抗体に結合することが可能な固定化された第2抗体とを使用し、サンプル中に含まれる試験物質と検出可能な物質によって標識された同じ試験物質とを、該第1抗体と競合的に反応させ、そして、第2抗体へ結合された第1抗体に結合されている、該標識された試験物質を検出することによって行なわれる。
【0032】
この間接的な方法は、ペプチド、ステロイド、プロスタグランジン、ポリサッカリド、および大環状化合物のような、種々の物質をアッセイし得、そして、大環状化合物、より具体的には、FK778物質の濃度測定において特に有用である。
【0033】
第1抗体は、試験物質に結合することが可能である限り、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、高い特異性を有すこと、および、製造ロット間でその特異性に差がないことから、好ましくは、モノクローナル抗体である。この第1抗体は、上記の本発明の第1の局面(I)において記載された様式と同じ様式で調製される。試験物質がFK778物質である場合、上記の本発明の第1の局面(I)に記載される抗体が有用である。
【0034】
第1抗体に結合可能な第2抗体として有用であるのは、第1抗体を用いて従来の方法によって調製された抗体、第1抗体を免疫原とした同じ種の抗体、または市販の抗体でもよい。いずれにせよ、第1抗体と試験物質との間の抗原−抗体反応を妨害せず、第1抗体に結合することが可能であれば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれもが使用され得る。第1抗体がウサギから得られたIgGクラスの抗体である場合、第2抗体としてヤギ抗ウサギIgGを使用することが好ましい。第1抗体がマウスから得られたIgGクラスの抗体である場合、ウサギ抗マウスIgGを使用することが好ましい。
【0035】
あるいは、間接的なイムノアッセイ方法は、第1の検出可能な物質によって標識された、アッセイされる試験物質(例えば、FK778物質)に結合可能な第1抗体と、第2の検出可能な物質によって標識された試験物質と、該第2の検出可能な物質に結合可能な固定化された第2抗体とを使用して実施される(例えば、ARCHITECTアッセイ)。この場合、サンプル中の試験物質の量は、サンプル中に含まれる試験物質と、第2の検出可能な物質によって標識された同じ試験物質とを、該第1抗体と競合的に反応させ、そして、該第2の検出可能な物質が該固定化された第2抗体へ結合されている、該標識された試験物質に結合された、該標識された第1抗体を検出することによって測定されることが可能である。
【0036】
固定化のための固相、試験物質または第1抗体を標識するための検出可能な物質、および標識物質を検出する方法は、上記直接法(i)におけるものと同様である。好ましい実施形態において、第1の検出可能な物質はアクリジニウムであり、第2の検出可能な物質はフルオレセインであり、第2抗体は抗FITC抗体である。
【0037】
この間接法が用いられる場合、試験物質の検出限界は、固定化された第2抗体の量に対する第1抗体の量を調整することによって変更可能である。従って、非常に低い濃度のFK778物質が、高感度で、単純かつ容易な様式で、定量的かつ定性的にアッセイされ得る。
【0038】
(III)試験キット
本発明の試験キットは、FK778物質の検出のためのキットであって、FK778物質に結合可能な抗体および検出可能な物質により標識されたFK778物質を備える。
【0039】
「FK778物質に結合可能な抗体」は、前記の本発明の第一の局面(I)に記載されるようなポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であるが、好ましくは、モノクローナル抗体である。該抗体は、固定状態または溶液状態で供給し得る。
【0040】
「検出可能な物質により標識されたFK778物質」は、上記に記載の物質である。この標識されたFK778物質もまた、固定状態または溶液状態で供給し得る。
【0041】
本発明の試験キットは、本発明の高感度イムノアッセイを実施する際に利用可能な、他の成分を備えてもよい。例えば、これらの他の成分としては、定量的測定のための標準としての既知量のFK778物質、FK778抗体に結合可能な抗体、およびFK778物質を標識している検出可能な物質に結合可能な抗体が挙げられる。FK778物質を標識している検出可能な物質が酵素である場合、本発明のキットは該酵素の基質をさらに備えてもよい。
【実施例】
【0042】
(方法)
(免疫原として使用されるFK778誘導体の合成)
FK778物質に結合可能な抗体を産生するために、免疫原として使用する以下の4つのFK778誘導体を合成した。各誘導体のための合成スキームを、以下に示す。
【0043】
1)ペンタフルオロフェニル6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサノエート(FR270531)の合成スキーム
6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサン酸(50mg)(合成スキームに関しては以下を参照)、C65OH(37mg)、および1,4−ジオキサン(1mL)の混合物に対し、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(41mg)を添加した。この混合物を周囲温度において一晩撹拌した。
この混合物をCHCl3で希釈し、シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(溶出;25:1 CHCl3−MeOH)により精製し、生成物を得た。この生成物をジイソプロピルエーテル(4mL)中に懸濁し、超音波処理し、そして濾過して、ペンタフルオロフェニル6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサノエート(68mg、93%)を得た。
【0044】
2) 6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサン酸(FR267471)の合成スキーム
i) エチル6−(4−ニトロフェノキシ)ヘキサノエートの調製
エチル6−ブロモヘキサノエート(東京化成工業株式会社(Tokyo kasei Kogyo Co., Ltd.))(5.0g)、4−ニトロフェノール(3.43g)、K2CO3(3.41g)およびDMF(25mL)の混合物を、60℃において4時間撹拌した。
冷却後、この混合物をEtOAcと水との間に分配した。有機層を分離し、1N NaOH(3回)、水およびブラインで連続的に洗浄し、無水MgSO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。得られた沈殿物を、n−ヘキサン(50mL)中に懸濁し、この懸濁液を超音波処理し、氷浴中で冷却し、濾過してエチル6−(4−ニトロフェノキシ)ヘキサノエート(5.7g、90%)を得た。
【0045】
ii) エチル6−(4−アミノフェノキシ)ヘキサノエートの調製
エチル6−(4−ニトロフェノキシ)ヘキサノエート(5.5g)、10% Pd/C(50%湿重量、0.55g)、EtOH(55mL)、およびTHF(55mL)の混合物を、1気圧のH2下に周囲温度において3時間撹拌した。
触媒を濾過して除去し、濾液を真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(溶出;100:1 CHCl3−MeOH)により精製し、エチル6−(4−アミノフェノキシ)ヘキサノエート(4.0g、81%)を得た。
【0046】
iii) エチル6−{4−[(シアノアセチル)アミノ]フェノキシ}ヘキサノエートの調製
シアノ酢酸(2.0g)を、トルエン(24mL)中でPCl5(5.09g)により活性化した。この活性化された酸の溶液に対し、エチル6−(4−アミノフェノキシ)ヘキサノエート(4.1g)およびEt3N(1.64g)を添加し、混合物を周囲温度において1時間撹拌した。
混合物を水に注入し、EtOAcで抽出した。有機層を分離して、ブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配溶出;CHCl3−MeOH 100:1〜50:1)により精製されて生成物を得た。この生成物を、EtOAc(4mL)およびジイソプロピルエーテル(1mL)の溶媒混合物から再結晶化し、エチル6−{4−[(シアノアセチル)アミノ]フェノキシ}ヘキサノエート(0.28g、39%)を得た。
【0047】
iv) エチル6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサノエートの調製
エチル6−{4−[(シアノアセチル)アミノ]フェノキシ}ヘキサノエート(2.2g)、HO2C(CH22C≡CH(813mg)、K2CO3(2.29g)、およびTHF(18mL)の混合物を、50℃において半時間撹拌した。この混合物に、THF(4.4mL)中のClCO2iPr(1.19g)の溶液を滴下した。
混合物を水に注入し、EtOAcで2回抽出した。有機層を合わせ、ブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配溶出;CHCl3−1% NHOH/MeOH 50:1〜20:1〜10:1)により精製し、エチル6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサノエート(0.81g、29%)を得た。
【0048】
v) 6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサン酸の調製
エチル6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサノエート(0.80g)およびEtOH(2mL)の混合物に対し、4N NaOH(2mL)の溶液を添加した。混合物を周囲温度で一晩撹拌した。
混合物を真空中で濃縮し、残渣を水(20mL)中に溶解した。溶液を氷浴中で冷却し、濃HCl(1mL)で酸性化した。得られた懸濁液を水(25mL)で希釈し、周囲温度において半時間撹拌した。沈殿物を収集し、真空中で乾燥し、EtOH(10mL)から再結晶化して、6−(4−{[(2Z)−2−シアノ−3−ヒドロキシ−2−ヘプテン−6−イノイル]アミノ}フェノキシ)ヘキサン酸(0.48g、64%)を得た。
【0049】
3) (5Z)−6−シアノ−5−ヒドロキシ−7−オキソ−7−{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−5−ヘプテン酸(FR266831)の合成スキーム
i) 2−シアノ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミドの調製
シアノ酢酸(76.5g)を、トルエン(900mL)中でPCl5(194.3g)により活性化した。この活性化された酸の溶液に、[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミン(東京化成工業株式会社(Tokyo kasei Kogyo Co., Ltd.))(100g)およびEt3N(62.7g)を添加した。この反応混合物に、水(600mL)を添加し、2−シアノ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミドを結晶化した。沈殿物を濾過により集め、水(100mL)およびメタノール(50mL)で洗浄し、次いで、真空中で乾燥した(121g、86%)。
【0050】
ii) エチル(5Z)−6−シアノ−5−ヒドロキシ−7−オキソ−7−{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−5−ヘプテノエートの調製
2−シアノ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド(2.0g)およびTHF(80mL)の混合物に、NaH(771mg)を10℃以下で分割添加した。この混合物を周囲温度で2.5時間撹拌した。混合物に、THF(8mL)中のClCO(CH23CO2Et(1.88g)溶液を滴下し、その間に内部温度は30℃に上昇した。添加後、混合物を周囲温度において1時間撹拌した。
混合物を水に注入し、EtOAcで2回抽出した。有機層を合わせ、ブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配溶出;25:1 CHCl3−MeOH〜100:4:1 CHCl3−MeOH−HCO2H)により精製して生成物を与た。この生成物をEtOH(20mL)から再結晶化し、エチル(5Z)−6−シアノ−5−ヒドロキシ−7−オキソ−7−{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−5−ヘプテノエート(0.95g、29%)を得た。
【0051】
iii) (5Z)−6−シアノ−5−ヒドロキシ−7−オキソ−7−{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−5−ヘプテン酸の調製
(5Z)−6−シアノ−5−ヒドロキシ−7−オキソ−7−{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−5−ヘプテノエート(0.95g)およびEtOH(2.5mL)の混合物に、4N NaOH(4mL)の溶液を添加した。混合物を周囲温度において10分間撹拌した。
混合物を真空中で濃縮し、残渣を水(10mL)に溶解させた。溶液を氷浴中で冷却し、濃HCl(3mL)で酸性化した。得られた懸濁液を水(20mL)で希釈し、周囲温度において半時間撹拌した。沈殿物を収集し、真空中で乾燥し、EtOHから再結晶化して、(5Z)−6−シアノ−5−ヒドロキシ−7−オキソ−7−{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−5−ヘプテン酸(0.75g、85%)を得た。
【0052】
4) (2Z)−2−シアノ−3,5−ジヒドロキシ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−ヘプテン−6−イナミド(FR271764)の合成スキーム
i) 2−シアノ−3−オキソ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ブタンアミドの調製
2−シアノ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]アセトアミド(70g)、AcOH(22.11g)、K2CO3(101.76g)、およびTHF(560mL)の混合物を、50℃において半時間撹拌した。混合物に対し、THF(70mL)中のClCO2iPr(52.64g)の溶液を滴下した。
冷却後、混合物に水(420mL)を添加した。混合物を17.5% HCl(210mL)の添加により酸性化した。混合物にPhMe(315mL)を添加し、周囲温度において15分間撹拌した。得られた沈殿物を収集し、乾燥して、2−シアノ−3−オキソ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ブタンアミド(52.4g、63%)を得た。
【0053】
ii) (2Z)−2−シアノ−3,5−ジヒドロキシ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−7−(トリメチルシリル)−2−ヘプテン−6−イナミドの調製
ヘキサン(25mL)中のn−BuLiの2.4M溶液を、−50℃に冷却した。この溶液に、THF(200mL)中の2−シアノ−3−オキソ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ブタンアミド(5.0g)の溶液を、半時間にわたり滴下した。滴下中、内部温度を約−50℃で維持した。添加後、混合物を−50℃で半時間撹拌した。混合物に、THF(5mL)中のOHC−C≡C−TMS(2.34g)の溶液を、半時間にわたり滴下した。滴下中、内部温度は約−50℃に維持した。添加後、混合物を半時間にわたって撹拌し、その時点で内部温度は−30℃に達した。
この反応混合物を漏斗に移して、1Mクエン酸(120mL)の冷溶液へ、10℃以下で滴下した(混合物のpHは3.5に達した)。
混合物をEtOAcで1回抽出し、抽出物をブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配溶出;n−ヘキサン−アセトン 2:1〜1:1)により精製し、(2Z)−2−シアノ−3,5−ジヒドロキシ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−7−(トリメチルシリル)−2−ヘプテン−6−イナミド(2.8g、38%)を得た。
【0054】
iii) (2Z)−2−シアノ−3,5−ジヒドロキシ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−ヘプテン−6−イナミドの調製
MeOH(69mL)中の(2Z)−2−シアノ−3,5−ジヒドロキシ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−7−(トリメチルシリル)−2−ヘプテン−6−イナミド(2.3g)の溶液に、K2CO3(4.81g)を添加し、混合物を周囲温度において40分間撹拌した。
反応混合物を真空中で濃縮し、残渣に1M クエン酸(70mL)を添加した。混合物をEtOAcで1回抽出し、抽出物をブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、真空中で濃縮した。残渣をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配溶出;n−ヘキサン−アセトン 2:1〜3:2)により精製し、生成物を得た。生成物を熱EtOH(4mL)中に溶解し、撹拌しながらジイソプロピルエーテル(8mL)で希釈した。周囲温度まで冷却させた後、混合物をジイソプロピルエーテル(4mL)でさらに希釈し、氷浴中で寝かせた。懸濁液を濾過して、(2Z)−2−シアノ−3,5−ジヒドロキシ−N−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−2−ヘプテン−6−イナミド(0.51g、27%)を得た。
【0055】
(FK778物質に対する高力価抗体を得るための免疫原の選択)
FK778に対する選択的な抗体を得るために、ウシサイログロブリン(シグマ・アルドリッチ・コープ(Sigma-Aldrich Corp.))と結合体化した2種類の免疫原(FR267471およびFR266831)を、フロイント完全アジュバント(FCA)(ディフコ(Difco))と混合し、過免疫Balb/cマウスに免疫した。4回の免疫後、血清中でのFR267471−BSAまたはFR266831−BSAに対する抗体の力価を、酵素免疫測定法によって測定した。残念なことに、両方の免疫原に関する力価は、FK778に対する選択的イムノアッセイ法を確立するには充分ではなかった。この2つの免疫原よりも高い力価を有する免疫原を得るために、別のタイプの免疫原FR270531を合成した。同様の方法で7回免疫後、FR270531からの力価は改善され、FR267471およびFR266831の力価よりも高かった。従って、本発明者らは、FR270531を、FK778に対する抗体を産生するための免疫原として、またFR267471およびFR266831を、FK778物質に特異的に結合するFK778抗体を選択するためのポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとして使用した。
【0056】
1.免疫原の調製
FR270531をN,N−ジメチルホルムアミド中に21mg/mLの濃度で溶解させた。ウシサイログロブリンを0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)中に5mg/mLの濃度で溶解させた。300μLのFR270531溶液を、1.76mLのウシサイログロブリン溶液と混合し、室温で1時間撹拌した。次いで、この混合物を、PBSに対して透析し、免疫原として使用した。
【0057】
2.ハイブリドーマスクリーニングのための結合体の調製
0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)中に5mg/mLの濃度で溶解させたウシ血清アルブミン(BSA)(シグマ・アルドリッチ・コープ)を、キャリアタンパク質として使用した。FR267471およびFR266831を、N,N−ジメチルホルムアミド中に、それぞれ、21mg/mLおよび17mg/mLの濃度で溶解させた。ウシサイログロブリンを、0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)中に5mg/mLの濃度で溶解させた。
【0058】
48μLのFR267471溶液を、82μLのBSA溶液と混合し、次いで、室温で1時間撹拌した。次いで、混合物をPBSに対し透析し、ELISA用の抗原として使用した。
【0059】
100μLのFR266831溶液を、31μLのDCC溶液(N,N−ジメチルホルムアミド中100mg/mLのN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド溶液)(和光純薬工業株式会社(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.))と1:3のモル比で混合し、室温で30分間撹拌した。次いで、混合物を、17μLのNHS溶液(N,N−ジメチルホルムアミド中100mg/mLのN,N−ヒドロキシスクシンイミド溶液)(和光純薬工業株式会社)と1:3のモル比で混合し、室温で1時間撹拌した。混合物のpHを、60μLの0.1N HClにより3.0に調整した。室温で1時間の撹拌後、混合物のpHを110μLの0.1N NaOHで6.0〜7.0に調整した。次いで、318μLの混合物を650μLのBSA溶液と100:1のモル比で混合し、室温で3時間撹拌した。混合物をPBSに対して透析し、ELISA用の抗原として使用した。
【0060】
3.モノクローナル抗体産生
1)免疫
上記のように調製した免疫原FR270531を、フロイント完全アジュバントと混合し、次いで、50μg/マウスの免疫原を、4匹のマウス(BALB/c)に、週1回皮下注射した。5回の免疫後、血液サンプルを採集し、血清中でのFR267471−BSAまたはFR266831−BSAに対する抗体の力価を、以下に詳細に記載する、抗原コート酵素免疫測定法(ELISA)により測定した(表1)。免疫をさらに2回繰り返し、血液サンプルを採集し、抗体の力価を再度測定した(表2)。
【0061】
2)融合
単回の追加免疫後、脾臓細胞(8.5×108細胞)を採集し、ポリエチレングリコール媒介細胞融合技術により、X63−Ag8−653細胞と融合し、33枚の96ウェルプレートに播種した。
【0062】
3)ハイブリドーマのスクリーニング
37℃で9日間の培養後、ハイブリドーマ細胞を、陽性プレートとしてFR267471−BSAを、陰性プレートとしてFR2668331−BSAを用いたELISAによりスクリーニングした。49個のウェルからの細胞が、FR267471特異的mAbを産生し(表3中、No.1〜49として示されている)、85個のウェルからの細胞が、FR267471およびFR266831の両方に対するmAbを産生した(表3中、No.50〜134として示されている)。
【0063】
これらの抗体を、BSAに対する交差反応性について試験した。49ウェルからの細胞が、FR267471特異的mAbを産生し(表4中、No.1〜49として示されている)、11ウェルからの細胞が、FR267471およびFR266831の両方に対する交差反応性のmAbを産生した(表4中、No.54、55、57、65、72、81、83、108、118、122および132として示されている)。
【0064】
5日間の培養後、抗体を、FR267471−BSAに対する反応性が外因的に添加したFK778と競合的であるか否かについて決定するために試験し、8つのクローンを選択した(No.7、9、14、18、20、24、28、31、表5)。
【0065】
4)限界希釈
細胞を、限界希釈、および、それに続くELISAスクリーニングによってクローニングした。3つのクローン(例えば、No.7A、7B、および7Cとして示されている)を、各々のクローンNo.7、9、14、18、20、24、28、31について選択した(表6の全24のクローン)。次いで、各々のNo.Aクローンをサブクローニングした。3つのクローンをNo.Aサブクローンから選択した(例えば、表7中、No.7A1、7A2、および7A3として示されている)。これらを各々24ウェルプレートの4つのウェル中で培養し、凍結し、保存した。
【0066】
(抗原コート酵素免疫測定法(ELISA)を用いた免疫血清中での免疫原に対する力価の測定)
マイクロタイタープレート(96ウェル;グライナー(Greiner))を、FR267471−BSAまたはFR266831−BSA(各ウェル当たり50μL;0.1M炭酸緩衝液(pH9.5)中、1μg/mL)で、4℃で一晩コートし、次いで、0.05% NaN3を含有する、PBS中0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)(ブロッキング緩衝液と称する)200μLでブロックした。抗血清を希釈緩衝液(0.05% Tween−20含有PBS中1%BSA)で連続的に希釈し、次いで、抗原がコートされた96ウェルプレートへ添加した。37℃で30分間のインキュベーション後、各ウェルを洗浄緩衝液(10mMリン酸緩衝液(pH7.5)中、0.05% Tween−20)で洗浄した。50μLの125ng/mL西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(H+L)ヤギIgG Fab’抗体(IBL)を、各ウェルへ添加し、37℃で30分間インキュベートした。洗浄緩衝液による洗浄後、K2HPO4−クエン酸緩衝液(pH5.1)中の400μg/mL o−PD(o−フェニレンジアミン、シグマ)(基質緩衝液)100μLを、各ウェルに添加し、暗中で室温において15分間インキュベートした。発色を、100μLの停止溶液(1N H2SO4)を添加して停止させた。490nmにおける光学密度(OD)を、各ウェルについて測定した。測定した抗血清の力価を、490nmで0.2 OD以上を示す希釈率として定義した。
【0067】
(FK778を用いた各ハイブリドーマの競合試験のためのプロトコール)
各ハイブリドーマからの50μLの培養上清を、交差反応性の測定のために、50μLのFK778またはFR271764溶液と混合し、または混合せずに、4℃において一晩インキュベートした。50μLの混合物をFR267471−BSAプレートへ添加し、次いで、37℃で30分間インキュベートした。50μLの抗マウスIgGヤギFab’−HRP結合体を添加し、37℃で30分間インキュベートした。K2HPO4−クエン酸緩衝液(pH5.1)中の400μg/mL o−PD(o−フェニレンジアミン、シグマ)(基質緩衝液)100μLを、各ウェルに添加し、暗中にて室温で15分間インキュベートした。発色を、100μLの停止溶液(1N H2SO4)を添加して停止させた。490nmにおける光学密度(OD)を、各ウェルについて測定した。
【0068】
(結果)
1.5回免疫および7回免疫後の血清の力価
5回の免疫後、抗血清を採集し、抗体の力価を測定した。4匹のマウスは6400倍(×6400)の力価を示した(表1)。さらなる2回の免疫後、抗血清の力価は12800倍(×12800)または25600倍(×25600)に上昇した(表2)。
(表1 FR267471またはFR266831に対する5回免疫後の血清の力価)
【0069】
【表1】

【0070】
(表2 FR267471またはFR266831に対する7回免疫後の血清の力価)
【表2】

【0071】
2.ハイブリドーマの一次スクリーニング
ハイブリドーマ細胞を、陽性プレートとしてFR267471−BSAを、陰性プレートとしてFR266831−BSAを用いたELISAによりスクリーニングした。49ウェルからの細胞が、FR267471特異的mAbを産生し(No.1〜49)、85ウェルからの細胞が、FR267471およびFR266831の両方に対するmAbを産生した(No.50〜134)(表3)。
【0072】
(表3 FR267471またはFR267471およびFR266831の両方に対するmAbを産生するハイブリドーマの一次スクリーニングの490nm OD値)
【表3】

Pos:FK778(FR267471)−BSAプレート
Pos:FK778(FR266831)−BSAプレート
RO:範囲外
No.1−49のハイブリドーマ細胞はFR267471特異的mAbを産生する。
No.50−134のハイブリドーマ細胞はFR267471およびFR266831の両方に対するmAbを産生する。
【0073】
3.ハイブリドーマの特異性および交差反応性
一次スクリーニングの後、ハイブリドーマをBSAに対する交差反応性について試験した。49ウェルからの細胞が、FR267471特異的mAbを産生し(No.1〜49)、11ウェルからの細胞が、FR267471およびFR266831の両方に対する交差反応性のmAbを産生した(No.54〜132)(表4)。
【0074】
(表4 陽性プレート、陰性プレートおよびBSAプレートに対する選択されたハイブリドーマの490nm OD値)
【表4】

Pos:FK778(FR267471)−BSAプレート
Pos:FK778(FR266831)−BSAプレート
BSA:BSAプレート
RO:範囲外
No.1−49のハイブリドーマ細胞はFR267471特異的mAbを産生する。
No.54、55、57、65、72、81、83、108、118、122および132のハイブリドーマ細胞はFR267471およびFR266831の両方に対するmAbを産生する。
【0075】
4.FK778を用いた各ハイブリドーマの競合試験
抗体を、FR267471−BSAに対する反応性、および、外因的に添加したFK778との競合について試験した。この試験から、8つのmAbを選択した(No.7、9、14、18、20、24、28、31、表5)。
【0076】
(表5 FK778を使用した各ハイブリドーマについての競合試験の490nm OD値)
【表5】

No.1−49のハイブリドーマ細胞はFR267471特異的mAbを産生する。
No.54、55、57、65、72、81、83、108、118、122および132のハイブリドーマ細胞はFR267471およびFR266831の両方に対するmAbを産生する。
FK778と競合した8つの選択したハイブリドーマ(No.7、9、14、18、20、24、28および31)に下線を付す。
【0077】
5.一次限界希釈
一次限界希釈の後、3つのクローン(No.A、BおよびCと示す)を選択した(表6)。
【0078】
(表6 FK778を使用した各ハイブリドーマについての競合試験から選択されたクローンの限界希釈の490nm OD値)
【表6】

Pos:FK778(FR267471)−BSAプレート
Pos:FK778(FR266831)−BSAプレート
RO:範囲外
【0079】
6.二次限界希釈
No.Aクローンをサブクローニングした。3つのサブクローンが得られた(No.1、2および3と示す)。これらのクローンを、各クローンについて、24ウェルプレートの4つのウェルで培養し、凍結し、保存した(表7)。細胞保存培地(Cell Stock Media)(IBL No.34001)(IBL培地I(Media I)(IBL No.33201)中、10%DMSOおよび30%FBSを含有)を使用した。
【0080】
7.活性代謝物FR271764の交差反応性
8つのNo.A1クローンを、FR267471−BSAに対する反応性、および、外因的に添加したFK778またはFR271764との競合について試験した(表8)。EC50値を、非線形回帰分析プログラムWINNONLIN(ファーサイト社(Pharsight Co., Ltd.))を用いた、等式1で定義された阻害効果シグモイドEmaxモデルに対する数値フィッティングにより、濃度−応答結合曲線から推定した。
【数1】

【0081】
各クローンについてのFR271764の交差反応性を、以下の等式2において示される、FK778とFR271764との間のEC50値の比較から推定した(表9)。
【数2】

【0082】
3つのクローン7A1、20A1および9A1についてのFR271764交差反応性は、それぞれ、10%、3%および27%であった(図1〜3)。
【0083】
(表8 FR267471−BSAに対する反応性および外因的に添加したFK778またはFR271764との競合について試験した希釈サブクローンのB/B0値)
【表8】

【0084】
(表9 FR271764(FK778の活性代謝物、M3)の交差反応性)
【表9】

【0085】
(マウス腹水からのmAbの精製)
1.腹水の収集
30匹のBALB/cマウスに、0.2mL/マウスのプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン、T7640、シグマ)を腹腔内に注射し、その後、3週間にわたり採血した。ハイブリドーマ(クローン7A1、20A1、9A1)を、10%ウシ胎仔血清を補充したTIL培地(No.33612、IBL)中で培養し、収集し、プリスタン注射したマウスの腹腔内へ注射した(2×107細胞/mL×0.5mL/マウス)。ハイブリドーマの注射後、マウスを10〜12日間採血した。腹部の膨張後、腹水を採取し、3000rpmで5分間遠心分離し、−20℃で保存した。腹水量は、7A1および20A1では50mL、9A1では25mLであった。
【0086】
2.腹水からのmAbの精製
mAbを、HiTrapプロテインA−HPカラム(アマシャム・ファルマシア・バイオテック(Amersham Pharmacia Biotech)、スウェーデン、ウプサラ)を用いたアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。腹水を2容量の結合緩衝液(3M NaCl含有1.5Mグリシン緩衝液(pH8.9))で希釈し、10カラム容量の結合緩衝液で平衡化したHiTrapプロテインA−HPカラム上へアプライした。結合緩衝液での洗浄後、抗体を溶出緩衝液(0.1M コハク酸緩衝液(pH4.0))で溶出した。抗体含有画分を、シームレス・セルロース・チュービング(Seamless Cellulose Tubing)(MWCO;14,000、三光純薬(Sanko Junyaku)、日本)を用いて、100容量のCa2+およびMg2+非含有ダルベッコ(Dalbecco)リン酸緩衝食塩水(D−PBS、No.33273、IBL)に対して透析し(2回交換)、−20℃に保存した。
【0087】
3.mAbの濃度および純度の推定
各mAbの濃度を、280nmの吸光度により(IgMについて、ε=1.38(0.1%,1cm)およびMr=150000)測定した。
【0088】
280nmの吸光度を1.38で除した値が、抗体濃度(mg/mL)である。7A1、9A1および20A1の濃度は、それぞれ、2.23mg/mL、2.58mg/mLおよび2.63mg/mLであった。
【0089】
各mAbの純度を、スーパーデックス(Superdex)200カラム(アマシャム・ファルマシア・バイオテク、スウェーデン、ウプサラ)によるゲル濾過クロマトグラフィーを用いて測定した。mAb溶液の100μLのアリコートを、D−PBSで平衡化したスーパーデックス200カラムへアプライし、流速0.75mL/分で50分間流し、280nmの吸光度によってモニターした。IgG分画のピーク領域のパーセンテージは、ユニコーン(UNICORN)ソフトウェア(アマシャム・ファルマシア・バイオテク、スウェーデン、ウプサラ)を用いて計算し、各mAbについて純度を推定した。7A1、9A1および20A1の純度は、それぞれ、96.84%、97.50%および80.32%であった。
【0090】
(7A、9Aおよび20Aクローンのアイソタイプ)
これらのmAbのアイソタイプは、IgG(1)重鎖およびκ軽鎖として同定された。
【0091】
(結果)
過免疫BALB/cマウスを、mAbの産生に使用した。マウスを7回免疫し、その後最終の追加免疫を行い、脾臓細胞を収集し、PEGの存在下でX63−Ag8−653ミエローマ細胞と融合させた。FK778物質と高力価で結合可能な抗体を分泌しているハイブリドーマ細胞株を、酵素免疫測定法(ELISA)によって選択し、次いで、限界希釈を用いてサブクローニングした。抗FK778 mAbを産生している3つのマウスハイブリドーマを得て、これらのクローンを7A1、9A1および20A1と命名した。ハイブリドーマ7A1、9A1および20A1(各識別表示:マウス−マウスハイブリドーマFK778−7A1、マウス−マウスハイブリドーマFK778−9A1およびマウス−マウスハイブリドーマFK778−20A1)を、それぞれ、FERM ABP−10260、FERM ABP−10261およびFERM ABP−10262として、2005年2月23日付けで、国立産業技術総合研究所(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST))の特許生物寄託センター(Patent Organism Depository Center)(305−8566 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6)に寄託した。これらのmAbのアイソタイプは、IgG(1)重鎖およびカッパ軽鎖として同定した。高純度のmAbを、アフィニティクロマトグラフィーによって得た。mAbの純度分析を、ゲル濾過クロマトグラフィーによって行った。mAbの濃度を、IgGについてのε=1.38(0.1%,1cm)およびMr=150000を用いて、280nmの吸光度により測定した。7A1、9A1および20A1の純度は、各々96.84%、97.50%および80.32%であり、濃度は、各々2.23mg/mL、2.58mg/mLおよび2.63mg/mLであった。3つのクローン7A1、20A1および9A1についてのFR271764の交差反応性は、各々10%、3%、27%であった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、FR271764−BSAへのモノクローナル抗体7Aの結合に対する、FK778およびFR271764の阻害効果の濃度−応答曲線を示す。
【図2】図2は、FR271764−BSAへのモノクローナル抗体9Aの結合に対する、FK778およびFR271764の阻害効果の濃度−応答曲線を示す。
【図3】図3は、FR271764−BSAへのモノクローナル抗体20Aの結合に対する、FK778およびFR271764の阻害効果の濃度−応答曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FK778物質に結合可能な抗体。
【請求項2】
ポリクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記ポリクローナル抗体のクラスがIgGである、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
FK778物質に結合可能な抗体を産生する動物由来の細胞とミエローマ細胞との間の細胞融合から得られたハイブリドーマ細胞系によって産生されるモノクローナル抗体である、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
FK778物質に結合可能な抗体を産生する前記細胞が、脾臓細胞系である、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記動物がマウスである、請求項5または6に記載の抗体。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体のクラスがIgGである、請求項4、5、6または7に記載の抗体。
【請求項9】
FK778物質についての高感度イムノアッセイ方法であって、FK778物質に結合可能な抗体を固定化する工程、サンプル中に含まれるFK778物質と検出可能な物質によって標識されたFK778物質とを、該固定化された抗体と競合的に反応させる工程、および、該固定化された抗体に結合された該標識された物質を検出する工程を包含する、方法。
【請求項10】
FK778物質についての高感度イムノアッセイ方法であって、FK778物質に結合可能な第1抗体および該第1抗体に結合可能な固定化された第2抗体とを使用し、サンプル中に含まれるFK778物質と検出可能な物質によって標識されたFK778物質とを、該第1抗体と競合的に反応させる工程、および、該第2抗体に結合された該第1抗体に結合されている、該標識されたFK778物質を検出する工程を包含する、方法。
【請求項11】
FK778物質についての高感度イムノアッセイ方法であって、第1の検出可能な物質によって標識された、FK778物質に結合可能な第1抗体と、第2の検出可能な物質によって標識されたFK778物質と、該第2の検出可能な物質に結合可能な固定化された第2抗体とを使用し、サンプル中に含まれるFK778物質と該第2の検出可能な物質によって標識されたFK778とを、該第1抗体と競合的に反応させる工程、および、該標識されたFK778物質に結合された該第1抗体を検出する工程であって、該標識されたFK778物質の該第2の検出可能な物質が該第2抗体に結合されている、工程を包含する、方法。
【請求項12】
前記第1抗体がポリクローナル抗体である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の高感度イムノアッセイ方法。
【請求項13】
前記第1抗体がモノクローナル抗体である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の高感度イムノアッセイ方法。
【請求項14】
前記第2抗体がプレート上に固定化されている、請求項9〜11のいずれか1項に記載の高感度イムノアッセイ方法。
【請求項15】
サンプル中のFK778物質の量をアッセイするための試験キットであって、FK778物質に結合可能な抗体と、検出可能な物質によって標識されたFK778物質とを備える、試験キット。
【請求項16】
FK778物質に結合可能な前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項15に記載の試験キット。
【請求項17】
標準として既知量のFK778物質をさらに備える、請求項15または16に記載の試験キット。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載の試験キットであって、FK778物質に結合可能な前記抗体に結合することが可能な抗体、または、前記FK778物質を標識している前記検出可能な物質に結合することが可能な抗体をさらに備える、試験キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−504212(P2008−504212A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526451(P2006−526451)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003819
【国際公開番号】WO2005/085290
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】