説明

抗RNA抗体のスクリーニング方法及び抗RNA抗体の製造方法

【課題】新規な抗RNA抗体のスクリーニング方法及び抗RNA抗体の製造方法を提供する。
【解決手段】固相担体に固定化された前記抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させる工程(a)と、抗原RNAに結合した特異的抗体を回収する工程(b)と、を含む、抗原RNAに対して特異的な抗RNA抗体をスクリーニングする方法。また、ファージ提示型人工抗体ライブラリーを用いた本スクリーニング方法により得られた特異的抗体の抗原結合部位を有する抗体を発現する組換え発現ベクターを作製する工程と、前記組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞内で発現させる工程と、前記宿主細胞又はその培養液から前記抗体を回収する工程とを含む、抗RNA抗体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗RNA抗体のスクリーニング方法及び抗RNA抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質に翻訳されないノンコーディングRNA(ncRNA)は、生物の発生、分化、及び、がんをはじめとする疾患に関与することが知られており(例えば、非特許文献1、2参照)、医薬開発の標的としても有望である。
【0003】
生体におけるncRNAを検出するため、現在はPCR法や核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法が用いられている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、PCR法では検査組織をホモジナイズするため、組織や細胞におけるncRNAの局在情報は得ることができない。また、核酸プローブハイブリダイゼーション法は、処理に2〜3日かかることに加え、変性剤を用いることから特異的抗体を用いたタンパク質の検出法と併用することが極めて困難という短所がある。
【0004】
一方、抗RNA抗体を用い、周知の免疫組織化学的手法によってncRNAを検出することができれば、処理時間が短縮できるのに加え、他の抗原に特異的な抗体を用いた多重標識も可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Fabbri M., Calin G.A., Beyond genomics: interpreting the 93% of the human genome that does not encode proteins. Curr. Opin. Drug Discov. Devel., May 13(3): 350-358, 2010
【非特許文献2】Mattick J.S., Makunin I.V., Non-coding RNA, Human Molecular Genetics, Vol. 15, Review Issue 1: R17-R19, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、RNAはヌクレアーゼにより容易に分解されるため、RNA抗原を宿主動物に免疫する一般的な抗体調製方法によって抗RNA抗体を効率的に調製することは大変困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、新たな抗RNA抗体のスクリーニング方法及び抗RNA抗体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗体ライブラリーから抗RNA抗体をスクリーニングしようと試みた。しかし、抗原RNAはタンパク質と異なり直接ウェルに固定化できないことが問題となった。また、抗原RNAが分解されやすい点も問題となった。
【0009】
一方、ビオチン標識法、末端ビオチン標識法、あるいはアミノ基共有結合固定化法により固定化した抗原RNAを使用した場合には、抗体ライブラリーから抗RNA抗体をスクリーニングできた。このようにして、発明者らは、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るスクリーニング方法は、抗原RNAに対して特異的な抗体を得るためのスクリーニング方法であって、固相担体に固定化された抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させる工程(a)と、抗原RNAに結合した特異的抗体を回収する工程(b)と、を含むことを特徴とするスクリーニング方法である。
【0011】
ここで、抗体ライブラリーは、ファージ提示型人工抗体ライブラリーであることが好ましい。また、このファージ提示型人工抗体ライブラリーは、(I)cDNAライブラリーを鋳型としてイムノグロブリン遺伝子のV領域又はV領域のCDR1及びCDR2領域を含む断片と、CDR3領域を含む断片とをそれぞれPCR法により増幅する工程、(II)V領域及びV領域における、それぞれのCDR1及びCDR2領域を含む断片と、CDR3領域を含む断片とをシャッフリングし、Vライブラリー及びVライブラリーをそれぞれ作製する工程と、(III)工程(II)により得られたVライブラリー及びVライブラリーを異なる2つの非発現系ベクターに組み込む工程と、(IV)Vライブラリーが組み込まれた非発現ベクターと、Vライブラリーが組み込まれた非発現ベクターを共に宿主内に導入し、VライブラリーにおけるV領域とVライブラリーにおけるV領域をシャッフリングし、V領域とV領域を有する一本鎖抗体を発現する発現ベクターを作製する工程と、(V)シャッフリングにより得られたV領域とV領域を有する一本鎖抗体をファージ表面にディスプレイさせる工程と、を含む製造方法によって製造された一本鎖抗体ライブラリーであることがより好ましい。
【0012】
本発明に係るスクリーニング方法は、抗原RNAにビオチンが結合しており、固相担体に固定化されているビオチン特異的抗体に対しそのビオチンが結合することによって、抗原RNAが固相担体に固定化されていることが好ましく、また、非特異的RNAの存在下で、抗原RNAと人工抗体とを接触させることがより好ましい。
【0013】
本発明に係るスクリーニング方法は、工程(b)で回収された抗体を抗体ライブラリーとして用い、一連の工程(a)(b)をさらに2回以上行うことが、さらに好ましい。
【0014】
本発明に係る抗原RNAに特異的な抗体の製造方法は、本発明に係るスクリーニング方法のいずれかによって、抗原RNAに特異的なファージ提示型人工抗体をスクリーニングする工程と、そのスクリーニングによって得られたファージから、人工抗体の抗原結合部位をコードするDNAを回収する工程と、回収されたDNAを有し、抗原結合部位を有する抗体を発現する組換え発現ベクターを作製する工程と、組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、抗体を発現させる工程と、宿主細胞又はその培養液から抗体を回収する工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
なお、本明細書において「抗体」は、任意の抗原と結合する抗原結合部位を有し、その抗原と結合することができる分子を指し、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA等のように抗原結合部位(可変部、V部)と定常部(C部)を有する免疫グロブリン分子、抗原結合部位のみから成る分子、Fab抗体分子のように抗原結合部位と定常部の一部分から成る分子、Fv抗体のように抗原結合部位(可変部、V部)のみから成る分子、及び、一本鎖抗体等のように抗原結合部位(可変部、V部)とそれらを連結するリンカー部位から成る分子のいずれも含むものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抗RNA抗体のスクリーニング方法及び抗RNA抗体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態において、抗原RNAに対する特異的抗体をファージ提示型人工抗体ライブラリーからスクリーニングする際に、スクリーニング工程を計2回行った後(A)、及びスクリーニング工程を計3回行った後(B)に得られた、各ファージ提示型人工抗体のクローンが有するインサートDNAを電気泳動して得られた結果を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態において、抗原RNAに特異的な抗体を提示するファージを増幅するために用いた大腸菌が保有するpFSD4aベクターのベクターマップである。
【図3】本発明の一実施形態において、IgG製造のために使用したpHIgH4zeo発現ベクターのベクターマップである。
【図4】本発明の一実施形態において、IgG製造のために使用したpHIgK4neo発現ベクターのベクターマップである。
【図5】本発明の一実施形態において、IgG製造のために使用したpHIgL4neo発現ベクターのベクターマップである。
【図6】本発明の一実施形態において、抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG(A)と、抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG(B)の抗原に対する特異性を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において、抗U1snRNAに対する抗体が、ファージ提示型人工抗体である場合と、IgGである場合の、アミノ基共有結合固定化法により固定化したRNA抗原(A)あるいはビオチン標識法により固定化したRNA抗原(B)に対する特異性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0019】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0020】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
==スクリーニング方法==
本発明に係るスクリーニング方法は、抗原RNAに対して特異的な抗体を得るためのスクリーニング方法であって、固相担体に固定化された抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させる工程と、抗原RNAに結合した特異的抗体を回収する工程とを含む。
【0022】
(抗体ライブラリー)
本発明に係るスクリーニング方法に使用する抗体ライブラリーには、2種類以上の異なる抗原をそれぞれ認識する複数の抗体が含まれていればよいが、スクリーニングの効率を考慮すると、より多くの種類の抗原に対する抗体が含まれていることが好ましく、例えば、10種類以上の抗原に対する抗体が含まれていることが好ましいが、1011種類以上であればより好ましく、1012種類以上であればさらに好ましい。
【0023】
抗RNA抗体の抗原であるRNAは、生体内で安定に保つことが難しく、よって、宿主動物を抗原RNAで免疫し、その宿主動物体内で所望の抗RNA抗体価を十分上昇させることは一般的に容易ではない。従って、抗体ライブラリーに含まれる抗体は、遺伝子操作により得られた多様性の高い人工抗体であることが好ましい。
【0024】
ここで、人工抗体は、例えば、脊椎動物の胸腺、骨髄、末梢血等から抽出したcDNAライブラリーを鋳型として免疫グロブリンのV領域及びV領域をコードするDNAを増幅し、配列を決定した後、このV領域及びV領域から成る抗体結合部位を有する抗体分子を調製することにより、あるいは、V領域とV領域をシャッフリングしたランダムな組み合わせから成る抗体結合部位を有する抗体分子を調製することにより、作製できる(例えば、特許第4171844号)。
【0025】
このような人工抗体は、ヒト由来の遺伝子を用いて調製されたヒト型抗体であっても、ヒト以外の脊椎動物の遺伝子を用いて調製された抗体であってもよく、スクリーニングによって取得したい抗体の種類に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0026】
抗体ライブラリー中の人工抗体の形態は、遊離した抗体であっても、ファージ提示型人工抗体のように、抗体と抗体以外の分子との結合体であってもよいが、スクリーニングで得られた抗体について、その抗体の抗原結合部位を有する免疫グロブリンをコードする組換え遺伝子を製造するためには、人工抗体がファージ提示型人工抗体であることが好ましい。
【0027】
ファージ提示型人工抗体とは、抗体をコードする外来遺伝子を有するバクテリオファージが、そのファージ表面に抗体を発現した状態の抗体のことである(例えば、Marks J.D. et al., J. Mol. Biol. 222(3): 581-597, 1991 参照)。抗体を提示したファージが宿主バクテリア細胞に対する感染能を維持しており、スクリーニングにより選択された抗体を提示するファージを宿主バクテリア細胞に感染させることによって、スクリーニングにより選択された抗体を容易に複製することができる。
【0028】
ファージ提示型人工抗体ライブラリーを構成する抗体の組成や多様性は、その抗体遺伝子の由来や調製方法により異なる。例えば、免疫ライブラリー、ナイーブライブラリー、合成ライブラリー等の、調製方法の異なるファージ提示型人工抗体ライブラリーが知られているが(例えば、Marks J.D. et al., J. Mol. Biol. 222(3): 581-597, 1991;Knappik A. et al., J. Mol. Biol. 296: 57-86, 2000; Lee C.V. et al., J. Mol. Biol. 340: 1073-1093 参照)、本発明において、その調製方法は制限されない。ただし、抗原RNAに対する特異的抗体のスクリーニング効率を考慮し、より多様な抗体を均等な組成で含むファージ提示型人工抗体ライブラリーを使用することが好ましく、そのようなファージ提示型人工抗体ライブラリーとして、特許第4171844号で開示された方法で作製されたファージ提示型人工抗体ライブラリーが例示できる。なお、この方法は、(I)cDNAライブラリーを鋳型としてイムノグロブリン遺伝子のV領域又はV領域のCDR1及びCDR2領域を含む断片と、CDR3領域を含む断片とをそれぞれPCR法により増幅する工程、(II)前記V領域及びV領域における、それぞれのCDR1及びCDR2領域を含む断片と、CDR3領域を含む断片とをシャッフリングし、Vライブラリー及びVライブラリーをそれぞれ作製する工程と、(III)工程(II)により得られたVライブラリー及びVライブラリーを異なる2つの非発現系ベクターに組み込む工程と、(IV)前記Vライブラリーが組み込まれた非発現ベクターと、Vライブラリーが組み込まれた非発現ベクターを共に宿主内に導入し、VライブラリーにおけるV領域とVライブラリーにおけるV領域をシャッフリングし、V領域とV領域を有する一本鎖抗体を発現する発現ベクターを作製する工程と、(V)シャッフリングにより得られたV領域とV領域を有する一本鎖抗体をファージ表面にディスプレイさせる工程と、を含む製造方法である。
【0029】
(抗原RNA)
本発明に係るスクリーニングに使用する抗原RNAは、RNAである限り特に制限されず、例えば、リボソームRNAであっても、メッセンジャーRNAであっても、核内低分子RNAであってもよく、また、構成される塩基数あるいは修飾塩基の有無によっても制限されない。
【0030】
これらの抗原RNAに結合する抗体を前述の抗体ライブラリーからスクリーニングするため、抗原RNAを予め固相担体に固定化する。固相担体は、抗原RNAを固定化できるものであって、本発明に係るスクリーニング方法の工程で溶出することのない素材の担体であれば制限されず、例えば、ガラス固相担体、シリコン固相担体、プラスチック固相担体、金固相担体、銀固相担体、銅固相担体、プラチナ固相担体、Fe(鉄)固相担体、GaAs(ガリウム・ヒ素)固相担体、InP(インジウム・リン)固相担体等を挙げることができる。固相担体の形状も、本発明に係るスクリーニングの工程に適した形状であればよく、プレート状、ウェル状、繊維状、粉末状、ビーズ状、チップ状等から、適宜当業者が選択できる。
【0031】
抗原RNAの固相担体への固定化方法は、抗原RNAがスクリーニングの工程において固相担体から剥離しない程度の強度で固定化できれば制限されず、アミノ基共有結合固定化法やビオチン標識法等が例示できる。アミノ基共有結合固定化法は、ペプチドの固定化に広く用いられている方法であり、これを応用して、抗原RNAの5’末端に付加したアミノ基と、固相担体に付加したカルボキシル基との結合を利用して固定化することができる。また、ビオチン標識法では、ビオチン標識した抗原RNAのビオチンと、固相担体に結合させたビオチン特異的抗体との結合を利用することにより、抗原RNAを固相担体に固定化することができる。ここで、抗原RNAのビオチン標識は、Biotin-16-UTPをRNAの塩基配列中にUTPとして取り込ませたり、又は、一本鎖RNAの3’末端に、Biotin-16-ddUTPを結合させたりする、当業者に周知の方法によって行うことができる。なお、本発明に係るスクリーニング方法による、任意の抗原RNAに対する特異的抗体の取得効率を考慮すると、抗原RNAはビオチン標識法により固相担体に固定化されていることが好ましい。
【0032】
(スクリーニング方法)
[抗原と抗体の接触]
本発明に係るスクリーニング方法では、まず、固相担体に固定化された抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させ、抗原RNAと、抗体ライブラリー中の抗原RNAに特異的な抗体とが抗原抗体反応を起こすことのできる状態にする。例えば、抗原RNAがプレート状、ウェル状、チップ状等の形状の固相担体の表面に固定化されている場合には、これらの固相担体の抗原RNAが固定化された表面に対して抗体ライブラリーを滴下すればよい。また、抗原RNAが粉末状、ビーズ状等の形状の固相担体の表面に固定化されている場合には、固定化された抗原RNAと、抗体ライブラリーとを抗原抗体反応のための容器中で混合すればよい。
【0033】
ここで、抗原抗体反応のための反応温度は、使用する抗体ライブラリーに含まれる抗体と、抗原RNAが抗原抗体反応できる範囲の温度であればよく、抗原や抗体の種類に合わせて当業者が適宜設定することができる。なお、抗原抗体反応を促進させるために、抗原RNAと抗体とを接触させる反応液を攪拌したり、振盪させたりしてもよい。
【0034】
[特異的抗体の回収]
次に、固相担体に固定化した抗原RNAに結合した特異的抗体を回収する。このために、まず、固相担体に固定化した抗原RNAに結合しなかった、非特異的抗体を除去する。抗原RNAがプレート状、ウェル状、チップ状等の形状の固相担体の表面に固定化されている場合は、例えば、固相担体を洗浄することで、抗原RNAに結合しなかった非特異的抗体を除去することができる。一方、抗原RNAが粉末状、ビーズ状等の形状の固相担体の表面に固定化されている場合、例えば、固相担体の重さを利用し、遠心分離法によって固相担体−抗原RNA−特異的抗体の複合体を沈殿させた後、上清を除去する工程を繰りかえすことにより、固相担体を洗浄すればよい。なお、洗浄には、固相担体に固定化した抗原RNAを剥離する作用を有さず、かつ、抗原RNAと特異的抗体との結合を解離させないような洗浄液を用いればよく、例えば、PBSやTween含有PBS、Triton含有PBS等の生理的緩衝液を用いることができる。
【0035】
このように、非特異的抗体を除去した後、抗原RNAと特異的抗体を解離させることにより特異的抗体を回収することができる。抗原RNAと特異的抗体とを解離させるには、例えば、グアニジン塩酸塩、カオトロピック塩(ドデシル硫酸ナトリウム、ヨウ化カリウム等)、尿素等を用いるような、当業者に周知のpH調整方法を用いて処理すればよい。回収した特異的抗体は、タンパク質の濃縮用フィルター等を用いて適切な濃度に調製し、抗原RNAに対する特異的抗体として用いることができる。
【0036】
又は、スクリーニングに用いた抗体ライブラリーがファージ提示型人工抗体を含むものであって、抗原RNAに結合した抗体がファージ提示型特異的抗体である場合、前述のように非特異的抗体を除去した後、抗原RNAに結合したファージ提示型特異的抗体をトリプシンやTryPLE Express (インビトロジェン社)等のプロテアーゼで処理することによりファージ提示型特異的抗体のファージ部分のみを遊離させ、回収することができる。回収したファージは、宿主細胞に感染させることにより、増幅させることができる。
【0037】
なお、特異的抗体のスクリーニングにおいて、取得された抗体中の特異的抗体の割合を高めるために、スクリーニング工程を複数回繰り返して行うことが好ましい。具体的には、初回のスクリーニングにより回収された抗体を、抗体ライブラリーの代わりに用い、1回目のスクリーニングと同じ抗原を用いてスクリーニング工程を繰り返す。この際、好ましくは合計2回以上、より好ましくは合計3回以上のスクリーニング工程を繰り返すことにより、取得された抗体中の抗原特異的抗体の割合を高めることができる。
【0038】
また、スクリーニングにおける、抗原RNAと非特異的抗体との間の非特異的結合を減らすために、抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させる工程において、反応溶液に非特異的RNAを添加することが好ましい。この際の、非特異的RNAの添加量は、10μg/ml〜10mg/mlであることが好ましく、100μg/ml〜1mg/mlであることがさらに好ましい。スクリーニング工程を複数回繰り返す場合には、2回目以降のスクリーニングにおいて非特異的RNAを添加することが好ましく、スクリーニングを繰り返す毎に、異なる非特異的RNAを添加することがより好ましい。非特異的RNAとしては、例えば、大腸菌由来tRNAもしくは酵母由来tRNAを使用することができる。
【0039】
スクリーニングにおける、抗原RNAと非特異的抗体との間の非特異的結合をさらに減らすために、抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させる工程の前にブロッキングを行うことが好ましい。具体的には、固相担体に固定化した抗原RNAに対し、ブロッキング剤を接触させる。使用するブロッキング剤は周知のものから当業者が適宜選択すればよいが、例えば、BSA溶液や、市販のブロッキング剤であるPerfectBlock(フナコシ社)BlockAce(雪印乳業)等を使用することができる。なお、スクリーニング工程を複数繰り返す場合には、1回目、2回目、3回目で異なるブロッキング剤を使用することが好ましい。
【0040】
==抗RNA抗体の製造方法==
スクリーニング後、ファージ提示型人工抗体ライブラリーを用いて回収されたファージ提示型特異的人工抗体は、抗原RNAに特異的な抗原結合部位を有する抗RNA抗体の製造に使用することができる(例えば、Kerbs B. et al., J. Immunol. Methods 254 (1-2): 67-84, 2001 参照)。
【0041】
まず、回収されたファージ提示型特異的人工抗体の抗原結合部位を有する抗RNA抗体を発現することのできる組換え発現ベクターを作製する。すなわち、回収したファージから人工抗体をコードするDNAを単離し、発現ベクターに導入する。
【0042】
抗体の抗原結合部位(V部)は、重鎖のV領域と軽鎖のV領域から構成され、定常部(C部)は重鎖のC領域、軽鎖のC領域、およびF領域から構成される。完全抗体は重鎖と軽鎖各2本ずつからなる4量体を基本構造としているので、抗原結合部位と定常部を持つ完全抗体を製造するためには、例えば、重鎖を構成する各領域をコードするDNAを有する、重鎖を発現できる組換えベクター、及び、軽鎖を構成する各領域をコードするDNAを有する、軽鎖を発現できる組換え発現ベクターを調製する。又は、複数のタンパク質を発現することのできる発現ベクターに対し、重鎖を構成する領域をコードするDNA、軽鎖を構成する領域をコードするDNAの両方を導入し、組換え発現ベクターを調製してもよい。あるいは、V、C領域から構成される重鎖の一部とV、C領域から構成される軽鎖の一部とからなるFab抗体や、V領域から構成される重鎖の一部とV領域から構成される軽鎖の一部とからなるFv抗体を製造するためには、それぞれ、V、V、C、Cの各領域をコードするDNAを1つ又は複数の発現ベクターに導入し、V、C領域から構成される重鎖の一部、V、C領域から構成される軽鎖の一部を発現できる組換え発現ベクターを調製する。
【0043】
ここで、発現ベクターは、宿主細胞の種類、宿主細胞への組換え発現ベクターの導入方法、タンパク質発現効率などを考慮して、当業者が周知の発現ベクターから適宜選択することができ、プラスミドベクターであっても、レトロウイルスやアデノウイルスに由来するウイルスベクターであってもよい。なお、発現ベクターは、導入したDNAを発現するのに適したプロモーターやターミネーター等を予め含んでいることが好ましいが、含んでいない場合には適宜必要なDNAを導入して調製してもよい。
【0044】
次に、調製した組換え発現ベクターを宿主細胞に導入する。この際、宿主細胞としては、組換え発現ベクターから所望の抗RNA抗体を発現できる細胞であれば制限されず、大腸菌、又は、HEK293、HEK293T、COS−7、Jurkat、NIH−3T3等の哺乳類培養細胞、又は、SF9等の昆虫培養細胞であってもよい。
【0045】
組換え発現ベクターの宿主細胞への導入方法は、当業者に周知の方法から、宿主細胞や発現ベクターの種類を考慮して適宜選択することができ、例えば、エレクトロポーテーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法や、FuGENE HDトランスフェクション試薬(ロシュアプライドサイエンス社)、FuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュアプライドサイエンス社)、Lipofextamine LTX(インビトロジェン社)、Lipofextamine 2000(インビトロジェン社)、polyethyleneimine等の市販の試薬を用いた方法が挙げられる。
【0046】
以上のように組換え発現ベクターを導入した宿主細胞を、その細胞種に適した培地、及び環境下で培養すると、宿主細胞中で組換え発現ベクターが発現した抗RNA抗体は宿主細胞の培養液中に放出される。
【0047】
以上のように培養液中に放出された抗RNA抗体は、宿主細胞の培養液を採取することによって回収できる。回収された抗RNA抗体は、前述のスクリーニング方法に使用した抗原RNAを用いたアフィニティクロマトグラフィーやプロテインAを用いて、精製したり、必要に応じて濃縮したりしてもよい。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
本実施例では、固相担体に固定化した抗原RNAに対する特異的抗体を人工抗体ライブラリーからスクリーニングした。
【0049】
==RNA抗原の固相担体への固定化==
(アミノ基共有結合固定化法によるRNAの固定化)
本研究で抗原に用いた一本鎖RNAの塩基配列は、ヒトU1snRNAのステムループII領域(48〜93 nt)、ヒト28SrRNAの1922〜2020 nt領域に相当する。これらの一本鎖RNAの5’末端にアミノ基を導入した一本鎖RNAは、Greiner bio-one社により委託合成した。
【0050】
このようにアミノ基を導入した各RNA抗原を、2μg/mlの濃度でPBSに溶解し、96穴マイクロプレート(Nunc Immobolizer AMINO plate カタログ番号436013、Nunc 社)の1ウェルあたり50μl(1ウェルあたり100ng)加えた。室温で1時間放置した後、0.05%Tween含有PBS(PBST)で洗浄し、これを抗原RNAプレートとした。
【0051】
(ビオチン標識法及び末端ビオチン標識法によるRNAの固定化)
ヒトU1snRNAのステムループII領域(4〜147 nt)、ヒト28SrRNAの1912〜2093 nt領域、ゼブラフィッシュU44snoRNA(83 nt全長)、ゼブラフィッシュU76snoRNA(78 nt全長)、ゼブラフィッシュU78snoRNA(77 nt全長)の5種類のRNAをビオチン標識法によって固定化し、ヒトU1snRNAのステムループII領域(4〜147 nt)を末端ビオチン標識法によって固定化した。
【0052】
具体的には、ヒトU1snRNAのステムループII領域(4〜147 nt)、ヒト28SrRNAの1912〜2093 nt領域、ゼブラフィッシュU44snoRNA(83 nt全長)、ゼブラフィッシュU76snoRNA(78 nt全長)、ゼブラフィッシュU78snoRNA(77 nt全長)の5種類のRNAについて、各鋳型DNAを作製するために、それぞれに特異的な以下のプライマーを用い、Expand High FidelityPLUS PCR System (Roche 社)によりPCRを行った。
ヒトU1snRNA用プライマーペア:
U1-F: CTTACCTGGCAGGGGAGATA(配列番号1)
U1-R: AAGCGCGAACGCAGTCCCCC(配列番号2)
ヒト28SrRNA用プライマーペア:
28S-F: GCTCATCAGACCCCAGAAA(配列番号3)
28S-R: CTCCCGTCCACTCTCGACT(配列番号4)
ゼブラフィッシュU44snoRNA用プライマーペア:
U44-F: TTTTGACTAGGGTGAGGAATCTG(配列番号5)
U44-R: AGACGGGACCAGATCAGACA(配列番号6)
ゼブラフィッシュU76snoRNA用プライマーペア:
U76-F: TGCATATGATGACCCTATTTGCT(配列番号7)
U76-R: TGCTTCAGACAAGGTATTTTGG(配列番号8)
ゼブラフィッシュU78snoRNA用プライマーペア:
U78-F: TTTTGGGTTTTGTGATGCTCT(配列番号9)
U78-R: GGCTTGAGTTTCAGTCAAAGATAA(配列番号10)
【0053】
得られたPCR産物をpGEM-T Easy Vector(pGEM(登録商標)-T Easy Vector System I、Promega 社)のT7プロモーター下流にクローニングし、大腸菌(DH5α)を形質転換した。大腸菌から回収したプラスミドを鋳型DNAとし、T7 RNA ポリメラーゼ (Roche 社)を用いて in vitro 転写した。ここで、in vitro 転写の際、5種類の一本鎖RNA(ヒトU1snRNA、28SrRNA、ゼブラフィッシュU44snoRNA、ゼブラフィッシュU76snoRNA、ゼブラフィッシュU78snoRNA)をビオチン標識するために、基質にBiotin‐16‐UTP(Ambion 社)を含むNTP(Promega 社)を用いることにより、RNAの塩基配列中の一部のUTPとしてBiotin-16-UTPを取り込ませた(ビオチン標識法)。また、ヒトU1snRNAを末端ビオチン標識するために、未標識の一本鎖RNAをin vitro 転写により作製し精製した後、その3’末端にbiotin-16-ddUTP (Roche 社)をターミナルトランスフェラーゼ(Roche 社)により結合させた(末端ビオチン標識法)。
【0054】
このようにビオチンで標識した各RNA抗原を固定化するため、まず、抗ビオチン抗体(B3640-1MG、 SIGMA-ALDRICH 社)を最終濃度20μg/mlになるようにPBSに溶解し、96穴マイクロプレート(Immobolizer AMINO plate カタログ番号436013、Nunc 社、又は、カタログ番号675161、Greiner bio-one 社)の1ウェルあたりに50μl(1ウェルあたり1μg)ずつ加えた。室温で1時間放置した後、PBSTでウェルを洗浄して、過剰な抗ビオチン抗体を除去した。次に、PBSに溶解したビオチン標識RNAを2μg/mlの濃度でPBSに溶解し、上記抗ビオチン抗体固定化済み96穴マイクロプレートの1ウェルあたりに50μl(1ウェルあたり100ng)ずつ加え、室温で1時間放置した後、PBSTで洗浄し、これを抗原RNAプレートとした。
【0055】
==特異的抗体のスクリーニング==
各方法により調製した抗原RNAプレートの各ウェルに対し、ブロッキング剤(PBSで3%に希釈したBSA溶液、SIGMA社)を加え、500回転/分で振盪しながら37℃で1時間ブロッキングした。ブロッキング剤を除去した後、ファージ提示型人工抗体ライブラリー(特許第4171844号の実施例に従い調製)を50μlずつ各ウェルに加え、300回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。PBSTで洗浄することにより抗原RNAに結合しなかったファージ提示型人工抗体を除去した後、TryPLE Express(インビトロジェン社)を各ウェルに50μlずつ加え、25℃で5分間放置した。この処理により、抗原RNAに結合したファージ提示型人工抗体の抗体部分とファージ部分とが解離し、ファージが液中に放出される。このファージ液をピペットマンで各ウェルから回収した。再度、各ウェルにTryPLE Expressを50μl加え、25℃で5分間放置した後、ファージ液をピペットマンで回収した。1回目と2回目に回収されたファージ液は混合し、以下の工程に使用した。
【0056】
このように得られたファージ液をpFSD4a(図2、配列番号11)保有大腸菌XL1−Blue株液とPDG培地5ml (Sp (スペクチノマイシン) 50μ g/ml含有)に加え、50回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。ここに、濃縮済みヘルパーファージM13AX1を5μl(5x109 pfu以上)添加し素早く混ぜ、25℃で5分間インキュベートした。PDG培地(Sp 50 μg/ml、anhydrotetracycline (aTet) 2.5 ng/ml、Arabinose 0.01%、IPTG 1 mM含有)を20ml添加し、50回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。さらに抗生剤液(Carbenicillin (Cr) 50 μg/ml、Chrolamphenicol(Cm) 12.5 μg/ml、Kanamycine (Kn) 50 μg/ml、aTat 10 ng/ml)を加えて180回転/分で振盪しながら25℃で48時間インキュベートした。これにより、抗原RNAに特異的な抗体を提示するファージを増幅した。
【0057】
インキュベート開始から48時間後、ファージ液を50ml遠心管に移し、4℃、8000×gで10分遠心した。ファージ提示型特異的抗体の含まれる上清を回収し、20%PEG6000−5M NaCl溶液を上清全量1に対して1/4量加え、4℃で1時間インキュベートした後、4℃、8000×gで10分遠心することによって、ファージ提示型特異的抗体を沈殿させた。このペレットをPBS 1mlに懸濁した。
【0058】
このようにして得られたファージ提示型特異的抗体の懸濁液をファージ提示型人工抗体ライブラリーの代わりに用い、ここに酵母の10μg/ウェルのtRNAを添加した後に抗原RNAと接触させ、上記方法に従ってスクリーニングをさらに2回繰り返し、合計3回行った。なお、この際、ブロッキング剤に結合する抗体を除くため、スクリーニングを繰り返す毎に異なるブロッキング剤を使用した。1回目には前述のようにBSA(PBSで3%に希釈した溶液、SIGMA社)を使用したが、2回目にはPerfectBlock(PBSで9%に希釈した溶液、フナコシ社)、3回目にはBlockAce(原液、雪印乳業)を用いた。抗原RNAのプレートのサブトラクションには10μg/ウェルの抗原以外のRNAを用いた。抗U1RNA抗体のスクリーニングの2回目には酵母のtRNA(非標識)、スクリーニング3回目には28SrRNA(非標識)を用いた。抗28SrRNA抗体のスクリーニングの2回目には酵母のtRNA(非標識)、スクリーニング3回目にはU1RNA(非標識)を用いた。抗U44snoRNA抗体のスクリーニングの2回目には酵母のtRNA(非標識)、スクリーニング3回目にはU76RNA(非標識)を用いた。抗U76snoRNA抗体のスクリーニングの2回目には酵母のtRNA(非標識)、スクリーニング3回目にはU78RNA(非標識)を用いた。抗U78snoRNA抗体のスクリーニングの2回目には酵母のtRNA(非標識)、スクリーニング3回目にはU44RNA(非標識)を用いた。
【0059】
ここで、リン酸バッファーを用いたアミノ基共有結合固定化法により固定化した抗原RNAに対し、ファージ提示型人工抗体ライブラリー(特許第4171844号の実施例に従い調製)から特異的抗体のスクリーニングを行う際に、複数のブロッキング剤の導入、tRNAの添加、非標識RNAの添加等の本実施例で採用したような工程を導入しなかった場合には、特異的抗体を得ることができなかった。これは、抗原RNAとファージ提示型人工抗体との非特異的な反応や、抗原RNAの分解が生じたためであると考えられた。一方、本実施例に記載の方法によって多数のファージ提示型特異的抗体が得られた。従って、本実施例に記載のスクリーニング方法は、顕著な効果を有しているといえる。
【0060】
[実施例2]
本実施例では、実施例1で得られたファージ提示型特異的抗体から、完全長のV領域とV領域をコードするDNAを有するファージ提示型特異的抗体を選択した。
【0061】
実施例1においてファージを感染させたpFSD4a保有大腸菌XL1−Blue株の培養液20mlから0.1、1、又は10μlを、LB寒天培地(Cr 50 μg/ml、Sp 50 μg/ml含有)に播種した。30℃で2晩培養し、コロニーを形成させた。下記プライマーペアを用いたPCR法によって、各コロニーの抗体クローンについてファージ提示型特異的抗体のV領域とV領域をコードするDNAの塩基長を確認した。
pFab5seq-f:5'- GATTTGCGCTGTCGCTCCTTG -3'(配列番号12)
pFab5seq-r:5'- CCCAGCCAGGCTTCCACATCAC -3'(配列番号13)
【0062】
領域及びV領域をコードするDNAは通常約800〜900bpである。従って、約800〜900bpの完全長のインサートを有することが確認できた抗体クローンを選択した。実施例1において、ビオチン標識ヒトU1snRNAを抗原として得られたファージ提示型特異的抗体を用いてインサートの塩基長を確認した結果を図1に示す。スクリーニングを計2回繰り返して得られたファージ提示型特異的抗体では16クローン中9クローン(56%)が完全長のV領域とV領域を含んでいたが(図1A)、スクリーニングを計3回繰り返して得られたファージ提示型特異的抗体では16クローン中全て(100%)が完全長のV領域とV領域を含んでいた(図1B)。また、その他のRNA抗原を用いて、スクリーニングを2回、及び3回行うことにより得られたファージ提示型特異的抗体における、完全長のV領域とV領域を有するクローン率(%)を表1に示す。
【表1】

【0063】
このように、ビオチン標識法又は末端ビオチン標識法により固定化したRNA抗原を使用して、スクリーニングを前述のように3回行うことにより、完全長のV領域とV領域をコードするDNAを含むファージ提示型人工抗体をより高い確率で得ることができる。
【0064】
[実施例3]
本実施例では、実施例2で得られた完全長のV領域とV領域をコードするDNAを有するファージ提示型人工抗体が抗原RNAに対して抗原特異性を有することを検証した。また、スクリーニングに用いる抗原RNAの固定化方法の種類と、選択されるファージ提示型人工抗体の抗原特異性について検証した。
【0065】
==ELISA法==
約800〜900bpのインサートを有し、完全長のV領域とV領域をコードするDNAを有することが確認されたクローンのファージ提示型特異的抗体について、ELISA法を用いて抗原RNAに対する抗原特異性(S/N比)を調べた。
【0066】
具体的には、実施例1に記載の方法に従い、アミノ基共有結合固定化法又はビオチン標識法によってヒトU1snRNA又はヒト28SrRNAを96ウェルプレートのウェルに固定化した(固定化ウェル)。一方、対照として、抗原RNAを固定化しないウェル(対照ウェル)を用いた。固定化ウェルと対照ウェルに対し、ブロッキング剤(N101をPBSで5倍希釈した溶液、日油株式会社)を加え、500回転/分で振盪しながら37℃で1時間ブロッキングした。ヒトU1snRNA特異的抗体、又は、ヒト28SrRNA特異的抗体について、実施例2の方法により、V領域とV領域をコードするDNAを含むことが確認された各96クローンのファージ提示型特異的抗体25μlを添加して300回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。
【0067】
固定化ウェルをPBSTで洗浄した後、各ウェルにファージ提示型特異的抗体を含む培養上清25μlを加え、500回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。その後、PBSTで洗浄し、過剰なファージ提示型特異的抗体を除去した。さらに、5000倍希釈した抗ヒトIgG (Fab特異的) POD標識ヤギ宿主抗体(A0293、1mL、SIGMA-ALDRICH 社)25μlを加え、300回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした後、PBSTで洗浄し、過剰な二次抗体を除去した。ここに、可視化のための基質としてo-phenylenediamine (5 mg OPD tablet、P6912 SIGMA-ALDRICH 社)1個を4μl/11ml過酸化水素水に溶解した溶液を加え、37℃で30分間インキュベートした後、吸光度(492〜595nm)を測定した。固定化ウェルの吸光度と対照ウェルの吸光度との比を計算し、固定化ウェル/対照ウェル(S/N)=1.25以上のファージ提示型特異的抗体のクローンを陽性抗体クローンと判断した。
【0068】
各抗原RNAに対する特異的抗体のV領域とV領域をコードするDNAを含む96クローンのうち、抗原RNAに対する特異性が陽性と判断されたクローン(陽性抗体クローン)数を表2に示す。
【表2】

【0069】
本実施例の結果は、抗体ライブラリーからの抗体のスクリーニングにおいて、ビオチン標識法により固定化した抗原RNAを用いた場合の方が、アミノ基共有結合固定化法により固定化した抗原RNAを用いた場合に比較して、抗原RNAに対して特異性を有する抗体をより多く得られることを示している。
【0070】
[実施例4]
本実施例では、実施例1〜3において得られた抗原RNAに対して特異的なファージ提示型特異的抗体を利用し、IgGを作製した。
【0071】
実施例3で得られた全ての陽性抗体クローンについて、V領域とV領域をコードするDNA配列を決定した。このDNA配列について、統合V遺伝子データベース(VBASE2、http://www.vbase2.org/)においてBLAST検索を行い、V領域とV領域からなる抗原結合部位における、相補性決定領域(超可変領域、CDR)と、それ以外の比較的変化の少ないフレームワーク領域(FR)を同定した。なお、相補性可変領域はCDR1〜CDR3の3領域から成り、フレームワーク領域はFR1〜FR4の4領域から成る。
【0072】
このように配列決定した全73の陽性抗体クローンのうち、35個は新規な抗原結合部位を有していた。これらのフレームワーク領域は90%以上の相同性を有していた。一方、CDR3領域では、CDR3領域の全長が0〜20アミノ酸、そのうち新規に挿入されたのは0〜17アミノ酸であり、多様性が高かった。前述の新規な抗原結合部位を持つ抗体として、抗ヒトU1snRNA(アミノ基共有結合)抗体は10種類、抗ヒトU1snRNA(ビオチン標識)抗体は17種類、抗28SrRNA抗体(アミノ基共有結合)は8種類が、それぞれ得られた。これらのうち、翻訳フレームのずれ、ストップコドン挿入、V領域又はV領域の欠損等がなく、IgG化に必要な配列が欠損していないことが確認された抗ヒトU1snRNA(アミノ基共有結合)抗体の10種類、及び、抗ヒトU1snRNA(ビオチン標識)抗体の15種類について、IgGを調製した。
【0073】
==IgGの調製==
このように得られた新規な抗原結合部位を有するIgGを、以下のように作製した。使用した発現ベクターは配列番号14、15、16の塩基配列を有し、そのベクターマップをそれぞれ図3(pHIgH4zeo)、4(pHIgK4neo)、5(pHIgL4neo)に示す。余分なアミノ酸配列が、発現するIgGタンパク質中に挿入されないようするため、V領域をコードするDNAとV領域をコードするDNAのそれぞれを、ベクターと相同的な15塩基を5’側に有する、以下に示す特異的プライマーを用いて増幅し、クローンテック社製InFusion PCRクローニングキットを用いてベクターのEsp3I部位に組み込んだ。なお、pHIgH4zeoにはV領域をコードするDNAを、pHIgK4neoにはKappa鎖由来V領域DNAを、pHIgL4neoにはlambda鎖由来V領域DNAを、それぞれ組み込み、V領域組換え発現ベクター、Kappa鎖由来V領域組換え発現ベクター、及び、lambda鎖由来V領域組換え発現ベクターを調製した。これらの組換えベクターについて、導入したDNAの塩基配列を確認した後、GenoMed 社EndoFree Midi Plasmid精製キットを用いて精製した。
【0074】
なお、以下の配列番号17から35の塩基配列において、d、r、s、n、w、y、hは縮重塩基を示し、dはA、G、又はT、rはA又はG、sはC又はG、nはA、C、G、又はT、wはA又はT、yはC又はT、hはA、C、又はTを示す。
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン3調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン4調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf2:5'- ggtgcctagctccggcGAwATTGTrhTGACnCAGwCT -3'(配列番号21)
L鎖用:EXVLr1.2:5'- gaagacagatggggcCGCCACAGTTCGTTTrATyTCCAGTCGTGTCCCT -3'(配列番号22)
H鎖用:ExVHf4:5'- ccttccgtgctgtctCAGrTCACCTTGAAGGAGTC -3'(配列番号23)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン5調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf9:5'- ggtgcctagctccggcTCCTATGwGCTGACwCAGCCA -3'(配列番号24)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン8調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf6:5'- ggtgcctagctccggcCAGdCTGTGGTGACyCAGGAG -3'(配列番号26)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr5:5'- tgggcccttggtcgacGCsGATGGGCCCTTGGTGGArGC -3'(配列番号27)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン28調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン30調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf8:5'- ggtgcctagctccggcCAGTCTGyyCTGAyTCAGCCT -3'(配列番号28)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン38調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf3:5'- ggtgcctagctccggcGAAACGACACTCACGCAGTCT -3'(配列番号29)
L鎖用:EXVLr1.2:5'- gaagacagatggggcCGCCACAGTTCGTTTrATyTCCAGTCGTGTCCCT -3'(配列番号22)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン42調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン46調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG クローン76調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr4:5'- tgggcccttggtcgacGCGGTTGGGGCGGATGCACTCC -3'(配列番号30)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン1調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf5:5'- ggtgcctagctccggcCAGCCTGTGCTGACTCAryC -3'(配列番号31)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン3調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf8:5'- ggtgcctagctccggcCAGTCTGyyCTGAyTCAGCCT -3'(配列番号28)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン16調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン17調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン27調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf1:5'- ggtgcctagctccggcGACATCCCrGdTGACCCAGTC -3'(配列番号32)
L鎖用:EXVLr2.1:5'- gaagacagatggggcCGCCACAGTTCGTTTrATATCCACTTTGGTCCCA -3'(配列番号33)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン28調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf8:5'- ggtgcctagctccggcCAGTCTGyyCTGAyTCAGCCT -3'(配列番号28)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr3:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACGGTGACCGTGGT -3'(配列番号34)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン30調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン31調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン32調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf6:5'- ggtgcctagctccggcCAGdCTGTGGTGACyCAGGAG -3'(配列番号26)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン34調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン41調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン52調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf11:5'- ggtgcctagctccggcTCCTCTGAGCTGAsTCAGGA -3'(配列番号35)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr4:5'- tgggcccttggtcgacGCGGTTGGGGCGGATGCACTCC -3'(配列番号30)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン63調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf11:5'- ggtgcctagctccggcTCCTCTGAGCTGAsTCAGGA -3'(配列番号35)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン74調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr4:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTTGGTGC -3'(配列番号25)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19)
H鎖用:ExVHr3:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACGGTGACCGTGGT -3'(配列番号34)
抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG クローン76調製用プライマー:
L鎖用:ExVLf12:5'- ggtgcctagctccggcAATTTTATGCTGACTCAGCCC -3'(配列番号17)
L鎖用:EXVLr5:5'- gaagacagatggggcACCGAGGACGGTCAGCTGGGTGC -3'(配列番号18)
H鎖用:ExVHf1:5'- ccttccgtgctgtctCAGGTGCAGCTrCAGsAGT -3'(配列番号19
H鎖用:ExVHr1:5'- tgggcccttggtcgacGCTGAGGAGACrGTGACCAGGGT -3'(配列番号20)
【0075】
IgG発現のための宿主細胞として使用するHEK293T細胞は、10%牛胎児血清添加DMEM培地において、80%コンフルエントまで5%CO存在下で37℃で培養した。トランスフェクション当日、常法のトリプシン処理によりHEK293T細胞を回収し、0.5%(w/v)Yeast Extracts (GIBCO社製) 添加及び2%超低IgG牛胎児血清(Super Low IgG FBS カタログ番号SH30898.02、HyClone 社製)添加及びGentamycin 50 μg/ml添加MegaCell DMEM/F12培地(カタログ番号M4192、SIGMA-ALDRICH社)に懸濁した。この細胞懸濁培地溶液を、70〜80%コンフルエントになるように、コラーゲンコート10cmディッシュ(カタログ番号11-018-006、IWAKI社)に10ml播種した。
【0076】
このように調製したHEK293T細胞に対し、精製した各組換え発現ベクターをポリエチレンイミンによってトランスフェクトした。具体的には、V領域組換え発現ベクター、Kappa鎖由来V領域組換え発現ベクター、及び、lambda鎖由来V領域組換え発現ベクター各7.5μgを1mlのOptiMEM培地(インビトロジェン社)に添加、混合した後、Polyethylenimine Max(カタログ番号24765-2、 40 mg/ml 5% Glucose溶液、Polyscience社)1.5μlを添加して素早く混合した。この混合液を、30分室温で放置した後、上記のように調製したHEK293T細胞に添加し、5%CO存在下で37℃で培養した。
【0077】
HEK293T細胞に各組換え発現ベクターを添加後2日目に培地を回収して新たな培地に交換し、4日後(培地交換からさらに2日後)まで培養してから再び培地を回収した。HEK293T細胞が発現、放出したIgGを含む、2日目と4日目に回収した培地は混合し、未精製でELISA法による検証に用いた。
【0078】
==IgGの抗原RNAに対する特異性のELISA法による検証==
上記のようにして得られた、抗U1snRNA(アミノ基共有結合)IgG10種類、及び、抗U1snRNA(ビオチン標識)IgG15種類について、抗原RNAに対する特異性(S/N比)を調べた。まず、実施例1の「アミノ基共有結合固定化法によるRNAの固定化」、及び、「ビオチン標識法及び末端ビオチン標識法によるRNAの固定化」の記載に従い、96ウェルプレートにヒトU1snRNA、あるいはヒト28SrRNAを固定化した。
【0079】
アミノ基共有結合固定化法により抗原ヒトU1snRNA、対照群としてヒト28SrRNAを固定化したウェルに対し、ブロッキング剤(N101をPBSで5倍希釈した溶液、日油株式会社)を加え、500回転/分で振盪しながら37℃で1時間ブロッキングした。このウェルに対し、50μlの10種類の抗ヒトU1snRNA(アミノ基共有結合)IgGを添加し、300回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。過剰なIgGをPBSTで洗浄し、除去した後、1ウェルあたりHRP標識プロテインA(カタログ番号32400、Thermo scientific社製)を5μg加えた。300回転/分で振盪しながら37℃で1時間インキュベートした後、PBSTで洗浄し、過剰なHRP標識プロテインAを除去した。ここに、可視化のための基質としてo-phenylenediamine (5 mg OPD tablet、P6912 SIGMA-ALDRICH 社)1個を4μl/11ml過酸化水素水に溶解した溶液を加え、37℃で30分間インキュベートした後、吸光度(492〜595nm)を測定した。ヒトU1snRNAを固定化したウェルの吸光度と、対照群のヒト28SrRNAを固定化したウェルの吸光度との比を計算した(図6A)。
【0080】
また、ビオチン標識法によりヒトU1snRNA、対照群としてヒト28SrRNAを固定化したウェルに対し、15種類の抗ヒトU1snRNA(ビオチン標識)IgGを用いて同様にELISA法を行った(図6B)。
【0081】
図6A、Bに示す様に、アミノ基共有結合固定化法により固定化された抗原RNAを用いてスクリーニングされた抗ヒトU1snRNA抗体では、10種類の抗体中7種類が有意に特異的であった。一方、ビオチン標識法により固定化された抗原RNAを用いてスクリーニングされた抗ヒトU1snRNA抗体では、15種類の抗体中13種類が有意に特異的であった。
【0082】
==ファージ提示型人工抗体とIgGとの比較==
ここで、実施例3でELISA法により解析したファージ提示型特異的抗体のうち、陽性クローンと判断された抗体の抗原特異性(固定化ウェル/対照ウェル)、及び、本実施例4においてELISA法により解析したIgGの抗原特異性(抗ヒトU1snRNA添加群/対照群)を比較した結果を図7に示す。図7Aはアミノ基共有結合固定化法により固定化したヒトU1snRNAを抗原として得られた抗体、図7Bはビオチン標識法により固定化したヒトU1snRNAを抗原として得られた抗体であるが、どちらの固定化法による場合であっても、IgGの方がファージ提示型特異的抗体よりも特異性が高い傾向があり、特にビオチン標識法の場合には、IgGの方がファージ提示型特異的抗体よりも有意に特異性が高かった。また、アミノ基共有結合固定化法の場合とビオチン標識法の場合のIgGについて比較すると、ビオチン標識法の場合に、特異性が顕著に高かった。
【0083】
この結果は、抗RNA抗体の抗体ライブラリーからのスクリーニング方法において、ビオチン標識法によって抗原RNAを固相担体に固定化した場合に、アミノ基共有結合固定化法により固定化した場合よりもさらに特異性の高い抗体を得ることができることを示している。また、スクリーニングによって得られた抗体の抗原結合部位を有するIgGを調製することで、抗原RNAに対する特異性がさらに高く、S/Nの高い優れた抗体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原RNAに対して特異的な抗体を得るためのスクリーニング方法であって、
固相担体に固定化された前記抗原RNAと抗体ライブラリーに含まれる抗体とを接触させる工程(a)と、
前記抗原RNAに結合した特異的抗体を回収する工程(b)と、
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
前記抗体ライブラリーが、ファージ提示型人工抗体ライブラリーであることを特徴とする、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記ファージ提示型人工抗体ライブラリーが、
(I)cDNAライブラリーを鋳型としてイムノグロブリン遺伝子のV領域又はV領域のCDR1及びCDR2領域を含む断片と、CDR3領域を含む断片とをそれぞれPCR法により増幅する工程、
(II)前記V領域及びV領域における、それぞれのCDR1及びCDR2領域を含む断片と、CDR3領域を含む断片とをシャッフリングし、Vライブラリー及びVライブラリーをそれぞれ作製する工程と、
(III)工程(II)により得られたVライブラリー及びVライブラリーを異なる2つの非発現系ベクターに組み込む工程と、
(IV)前記Vライブラリーが組み込まれた非発現ベクターと、Vライブラリーが組み込まれた非発現ベクターを共に宿主内に導入し、VライブラリーにおけるV領域とVライブラリーにおけるV領域をシャッフリングし、V領域とV領域を有する一本鎖抗体を発現する発現ベクターを作製する工程と、
(V)シャッフリングにより得られたV領域とV領域を有する一本鎖抗体をファージ表面にディスプレイさせる工程と、
を含む製造方法によって製造された一本鎖抗体ライブラリーであることを特徴とする、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記抗原RNAにビオチンが結合しており、前記固相担体に固定化されているビオチン特異的抗体に対し前記ビオチンが結合することによって、前記抗原RNAが前記固相担体に固定化されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
非特異的RNAの存在下で、前記抗原RNAと人工抗体とを接触させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記工程(b)で回収された抗体を抗体ライブラリーとして用い、一連の工程(a)(b)をさらに2回以上行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
抗原RNAに特異的な抗体の製造方法であって、
請求項2〜6のいずれか1項に記載のスクリーニング方法によって、前記抗原RNAに特異的なファージ提示型人工抗体をスクリーニングする工程と、
前記スクリーニングによって得られたファージから、前記人工抗体の抗原結合部位をコードするDNAを回収する工程と、
前記DNAを有し、前記抗原結合部位を有する抗体を発現する組換え発現ベクターを作製する工程と、
前記組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記抗体を発現させる工程と、
前記宿主細胞又はその培養液から前記抗体を回収する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228209(P2012−228209A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98698(P2011−98698)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、重点地域研究開発推進プログラム(シーズ発掘試験)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】