抗ROBO1抗体を含むPET用腫瘍診断剤
【課題】細胞膜に発現したROBO1を特異的に認識することができる新規な抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体の製造方法、及び該抗体を含むPET用腫瘍診断剤を提供すること。
【解決手段】ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体。
【解決手段】ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ROBO1を認識する抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体の製造方法、及び該抗体を含むPET用腫瘍診断剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性肝細胞癌は、2001年において日本国内の死亡原因第一である癌死の中において男性において第三位(13%)、女性において第四位(9.0%)を占める予後の悪い癌種の一つである(厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」抜粋)。ウイルス感染による慢性患者が年々増加し、その多くは肝硬変、そして肝細胞癌に至るケースが多いことから、肝硬変から肝細胞癌における段階の早期診断法、そして肝細胞癌の治療法は非常に強く要望されているものであり、画期的な解決のない場合は、今後10-15年間は死亡数の増加傾向をたどると考えられている。診断法においては血清中のGOP/GTP、アルカリ性フォスファターゼ、アルブミン等や腫瘍マーカーであるAFP(α-フェトプロテイン)の値等の生化学的データ、及び画像診断に基づいて総合的に評価した後、必要な場合は、針生検により少量の組織片をとり、病理学的判断に基づき確定診断が行われている。現在、特に肝細胞癌の診断において使用されているのは腫瘍マーカーであり、その中で最も使用されているアルファフェトプロテイン(AFP)の肝細胞癌患者の陽性率は6〜7割程度となっているが、慢性肝疾患患者や妊婦でも陽性となることもある。また肝癌腫瘍マーカーであるPIVKA-IIの陽性率は5割弱と低いが肝細胞癌への特異性はAFPよりも高いと考えられ、現在この2検査が主に実施されている。いずれにしても、偽陽性もしくは両陰性の症例が存在することから、特異性の高い腫瘍マーカーの存在が期待されている。
【0003】
近年、DNAマイクロアレイ等の高性能アレイを用いた遺伝子解析技術が開発され、包括的かつ網羅的な癌の遺伝子発現解析が実用可能となって来ている。DNAマイクロアレイ解析法を用いて癌組織のmRNAの発現量変化を解析することにより、多段階要因による癌の悪性化、癌細胞の浸潤・転移などに関わる遺伝子群の網羅的な同定が行われている。さらに、同定された遺伝子群の個々の生理機能を解明することによって、新しい癌細胞の特性に関して新たな知見が複数得られるものと期待され、さまざまな癌種において発現が亢進又は減少する分子の同定が進められている。
【0004】
肝細胞癌特異的発現分子であるROBO1はN-CAMやDCC、L1-CAMらが所属するイムノグロブリンスーパーファミリーメンバーのI型膜タンパク質である。その細胞外領域に5つのイムノグロブリンドメインと3つのファイブロネクチンIIIドメインを有する構造をとる。ハエからヒトまで高くアミノ酸配列が保存されており、C.elegansと34%、Dorosofilaと33%、マウスと96%、そしてラットとは95%の相同性を示している。ROBO1のハエホモログはショウジョウバエの遺伝的スクリーニング研究において、軸策の正中交差を制御する分子としてクローニングされ、Slitタンパクの受容体であることが報告されている。また、ROBO1は別のグループより、肺小細胞肺癌の細胞株であるU2020の染色体領域3p12におけるホモ欠損領域内に存在する分子としDutt1(Deleted U Twenty Twenty)としても同定されている。ROBO1は肺癌、乳癌、及び腎癌において、高頻度に染色体のヘテロ欠損(LOH)が検出され、さらにもう一方のアレルにおけるプロモーター領域のメチル化により発現抑制されていることなどから、癌抑制遺伝子の可能性が示唆されている。ROBO1のホモ欠損マウスにおいては半数が胎生致死、そして生存した半数も肺器官形成不全で死亡することが報告されている。さらに、ヘテロ欠損マウスにおいては生後1年以降における癌の発生率が正常マウスと比較し3倍に上昇することからも癌抑制遺伝子として考えられている。また、ROBO1リガンドの一つであるSlit2遺伝子も多くの癌種でメチル化等により発現抑制され、かつ、Slit2のコンディショニングメディウム等を用いた試験で、肺癌細胞株、乳癌細胞株、そして大腸癌細胞株に対して増殖抑制、アポトーシス作用があることから、Slit2も癌抑制遺伝子の候補分子と考えられている。まったく別の知見としてWangらはROBO1が新生血管に発現し、癌細胞でSlit2が発現亢進し癌細胞における血管新生に関与することが示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、肝細胞癌抗原としてROBO1が同定され、ROBO1抗原を標的とした抗ROBO1モノクローナル抗体による肝細胞癌の治療の可能性、及び可溶型ROBO1を指標とした肝細胞癌の血清診断の可能性が報告されている。
【0006】
一方、腫瘍の画像診断は、CTやMRIを用いて行われている。しかしながら、良性/悪性の鑑別・手術後再発の診断・他病変との鑑別などは、たとえ造影剤を用いてもCTやMRIでは難しい場合がある。最近では、CTやMRIを補助する画像診断として、18F-2-fluoro-2-deoxyglucose (18F-FDG)を用いたPositrom Emission Tomography (PET)診断が利用されている。しかし、18F-FDGは、診断メカニズム上ブドウ糖代謝の盛んな正常組織(例えば脳など)や急性期の炎症組織にも集積するため、腫瘍の種類によっては診断しにくい場合があった。また、創薬における分子イメージング技術は、生体内におけるタンパク分子など生体内に存在する微量分子を可視化し、その量を指標化し、さらに動態を定量化する技術である。特に(PET)を用いた方法は、検出感度、定量性において優れており、特に小動物用PETはin-vivoトランスレーショナルリサーチを飛躍的に加速し、創薬プロセスを変革するインパクトを持つことが期待される。
【0007】
【非特許文献1】Ito H, 他、Identification of ROBO1 as a nobel hepatocellular carcinoma antigen and a potential therapeutic and diagnostic target. Clin Cancer Res. 2006 Jun 1;12(11 Pt 1):3257-64.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞膜に発現したROBO1を特異的に認識することができる新規な抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体の製造方法、及び該抗体を含むPET用腫瘍診断剤を提供することを解決すべき課題とした。特に本発明は、肝臓癌を診断できるPET用腫瘍診断剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に膜タンパク分子を特異的に高感度で検出するモノクローナル抗体の作製は容易ではない。その理由として、抗原調製が容易ではないことが、一つには理由である。また、さらに膜タンパク質の機能は生物的に特に重要である場合が多く、種を越えて高く相同性が保たれていることから、抗原部位に対しマウスが免疫寛容となっていることが予測される。本発明では、バキュロウイルス発現系を応用したウイルスディスプレイ抗原を免疫原として使用し、さらにウイルス抗原の主構成タンパク質であるgp64を過剰発現させたトランスジェニックマウスにこれを免疫することにより、ウイルスに対する抗体産生を抑え、ROBO1に対するモノクローナル抗体を特異的に作製することを試みた。その結果、本発明者らは、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体を取得することに成功した。さらに上記のモノクローナル抗体を放射性金属で標識することによって、優れたPET用腫瘍診断剤を提供できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体。
(2) 免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである、(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3) 細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたスクリーニングによって選択される、(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体。
【0011】
(4) 受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマにより産生される、(1)から(3)の何れかに記載のモノクローナル抗体。
(5) (1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(6) 受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマ。
【0012】
(7) ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫し、該免疫動物から抗体産生細胞を回収し、該抗体産生細胞を用いて作製したハイブリドーマを培養して細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体を産生させることを含む、(1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
(8) 放射性金属で標識した(1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、PET用腫瘍診断剤。
(9) 放射性金属が64Cuである、(8)に記載のPET用腫瘍診断剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞膜に発現したROBO1を特異的に認識することができる新規な抗体が提供される。本発明によればさらに、上記抗体を用いたPET用腫瘍診断剤が提供される。本発明のPET用腫瘍診断剤を用いて腫瘍を体外よりイメージングし病変部のひろがり(浸潤や転移)を調べることにより、診断の正確さを高め、さらに放射線内用療法や外部照射、および超音波治療や温熱療法などと組み合わせることによって治療の可能性を拡げ治癒率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)抗原として使用するROBO1
ROBO1のタンパク質レベルの発現解析を実施するためには、特異性の高い抗ROBO1抗体が必要となることから、本発明では、抗ROBO1モノクローナル抗体の作製を実施した。ROBO1はマウスとアミノ酸配列レベルでの相同性が95%以上であることから、本発明においては、定法である一般的な免疫方法を使用せず、発芽型バキュロウイルス抗原(BV抗原)をgp64発現トランスジェニックマウスに免疫する方法と、可溶型ROBO1精製抗原(sROBO1-His)をMRL/lprマウスに免疫する方法の二種類の方法を採用した。ROBO1は細胞外領域に特徴的なドメインである、5つのイムノグロブリンドメインと3つのファイブロネクチンIIIドメインを有する。そのため、各ドメインを保持する形で、Gp64結合型抗原のデザインを行った。
【0015】
すなわち、本発明による細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体は、ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られることを特徴とする。好ましくは、免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである。
【0016】
ROBO1の全長cDNAとしては、野生型のROBO1のcDNAを用いてもよいし、変異体のROBO1のcDNAを用いてもよい。変異体は、好ましくは、野生型のROBO1のアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは90%またはそれ以上、より好ましくは95%またはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。当業者であれば公知の方法、例えば、部位特異的変異誘発法などを用いて、アミノ酸に適宜変異を導入することにより、該蛋白質と同等な蛋白質を調製することが可能である。
【0017】
本発明では、ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いる。抗原として用いるROBO1提示発芽バキュロウイルスの調製方法は公知であり、例えば、特開2001−333773号公報、特開2003−52370号公報、Loisel TP, Ansanay H, St-Onge S, Gay B, Boulanger P, Strosberg AD,Marullo S, Bouvier M., Nat Biotechnol. 1997 Nov;15(12):1300-4., Recovery of homogeneous and functional beta 2-adrenergic receptors from extracellular baculovirus particles:並びに国際公開WO98/46777などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0018】
具体的には、ROBO1の全長cDNAを含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用する。昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori )NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda )細胞(Sf細胞)などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいはPharmingen社(San Diego,CA)、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。
【0019】
本発明で用いる組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb〜10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5'領域と3'領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、キャプシド遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pEVmXIV2、pAcSG1、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcJP1、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBacIII、pAcUW51、pAcAB3、pAc360、pBlueBacHis、pVT−Bac33、pAcUW1、pAcUW42/43などが挙げられ、BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBK5、pBB30、pBE1、pBE2、pBK3、pBK52、pBKblue、pBKblue2、pBFシリーズ(以上、フナコシ株式会社、藤沢薬品工業株式会社等から入手可能)などが挙げられる。
【0020】
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入するか、あるいは予めウイルスで感染させた宿主として用いる培養細胞に上記のトランスファーベクターを移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。
【0021】
本発明の方法では、前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus, BV)を遠心などの分離操作によって回収することができる。細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。先ず感染細胞の培養液を500〜3,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000〜50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。
【0022】
タンパク質を外因性に発現させることは、生化学的な解析を行う上で重要であるが、膜タンパク質においては、その疎水的な特性から、解析する上で十分な量の発現が期待される適切な系は確立されていない。その中でバキュロウイルスと昆虫細胞を用いた発現システムは、高品質の発現が期待される系として水溶性、膜タンパク質ともに使用されている。バキュロウイルス発現系の利点として、大腸菌を用いた発現では通常起こらない脂肪酸アシル化やリン酸化のような翻訳後修飾が見込めることが挙げられる。また、酵母と比較すると、酵母のような細胞壁が発現タンパク質の回収を阻害することがないため、細胞の取り扱いは比較的容易である。動物細胞を用いた場合では、機能に必要な翻訳後修飾が期待されるが膜タンパク質の大量発現が困難である。ただし、バキュロウイルス発現系は高い発現レベルが期待できる反面、時として未熟なタンパク質が増えることにより凝集や分解が起きてしまうことも報告されている。
【0023】
本発明の抗体の種類は特に制限されず、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体、トリ抗体等や、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体 、例えば、キメラ抗体 、ヒト化抗体等の何れでもよい。遺伝子組換え型抗体 は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体 であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体 の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体 の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体 のCDRとヒト抗体 のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体 定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP 239400号公報 、国際公開WO96/02576号公報など)。
【0024】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体 を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体 遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体 を取得することができる(WO93/12227, WO92/03918,WO94/02602, WO94/25585,WO96/34096, WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体 ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体 を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体 の可変領域を一本鎖抗体 (scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体 の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体 を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047, WO92/20791, WO93/06213, WO93/11236, WO93/19172, WO95/01438, WO95/15388を参考にすることができる。
【0025】
また、これらの抗体 は、ROBO1遺伝子によってコードされる蛋白質の全長または一部を認識する特性を失わない限り、抗体 断片(フラグメント)等の低分子化抗体 や抗体の修飾物などであってもよい。抗体 断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Diabodyなどを挙げることができる。このような抗体 断片を得るには、これら抗体 断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。
【0026】
抗体 の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体 を使用することもできる。又、抗体 に放射性同位元素、化学療法剤等を結合することも可能であり、特に放射性標識抗体 は有用である。このような抗体 修飾物は、得られた抗体 に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体 の修飾方法は当業者に公知である。
【0027】
本発明のモノクローナル抗体およびハイブリドーマを製造する方法は、当該技術分野において公知である(Campbell,"Monoclonal Antibody Technology:Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology"、Elsevier Science Publishers,Amsterdam,The Netherlands,1984;St.Groth et al.、J.Immunol.Methods 35:1−21,1980)。DKK1遺伝子によりコードされる蛋白質またはフラグメントを免疫原として用いて、抗体 を生成することが知られている任意の動物(マウス、ウサギ等)に皮下または腹膜内注射することにより免疫することができる。免疫に際してアジュバントを用いてもよく、そのようなアジュバントは当業者に公知である。
【0028】
モノクローナル抗体 は、免疫した動物から脾臓細胞を切除し、ミエローマ細胞と融合させ、モノクローナル抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を作製することにより得ることができる。ELISAアッセイ、ウエスタンブロット分析、ラジオイムノアッセイ、細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたFACS等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて、ROBO1を認識する抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を選択することができる。所望の抗体 を分泌するハイブリドーマをクローニングし、適切な条件下で培養し、分泌された抗体を回収し、当該技術分野においてよく知られる方法、例えばイオン交換カラム、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。
【0029】
モノクローナル抗体 をコードするDNAは、慣用な方法(例えば、モノクローナル抗体 の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)により容易に単離、配列決定できる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAの好ましい出発材料である。一度単離したならば、DNAを発現ベクターに挿入し、E.coli細胞、COS細胞、CHO細胞または形質転換されなければ免疫グロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞へ組換え、組換え宿主細胞からモノクローナル抗体 を産生させることができる。
【0030】
ROBO1遺伝子は、特定の癌組織において亢進された発現を示すため、本発明の抗体 は、癌診断マーカーとしても有用である。本発明の抗体を、ウエスタンブロット法、ELISA法、組織染色法などの手法において用いて、組織または細胞における、ROBO1遺伝子によりコードされる蛋白質の発現を検出することができる。被験者の組織に由来する試料(例えば、生検サンプル、血液サンプル等)と本発明の抗体とを免疫複合体が形成されるような条件下で接触させ、該試料に抗体 が結合するか否かを判定することにより、該試料中のROBO1遺伝子によりコードされる蛋白質の存在または量を判定することができ、このことにより癌の診断、癌の進行または治癒のモニタリング、および予後の予測を行うことができる。生体試料としては、(a)組織、(b)採取した組織の培養物、(c)組織抽出物、(d)癌患者の喀痰、(e)尿、又は(f)血液等が挙げられる。当該組織は、バイオプシーにより採取できる。採取した組織は、免疫組織染色をする場合には、パラフィン包埋又は凍結して用いることもできる。
【0031】
本発明による細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体は、放射性金属で標識することによって、PET用腫瘍診断剤として用いることができる。放射性金属としては、64Cu、
などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。上記の中でも好ましくは、64Cuである。
【0032】
放射性金属で標識された本発明のモノクローナル抗体は、薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化などすることによって、PET用腫瘍診断剤として用いてもよい。例えば、放射性金属で標識された本発明のモノクローナル抗体は、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、放射性金属で標識された本発明のモノクローナル抗体は、水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。
【0033】
PET用腫瘍診断剤の投与経路は特に限定されないが、通常は非経口投与であり、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜などで投与することができる。
【0034】
投与量および投与回数は、患者の年齢、体重、診断の目的などによって異なるが、一般に、本発明の本発明のモノクローナル抗体は、1回あたり体重1kgあたり、約0.1mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.1mgから100mgの範囲となるように投与することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0036】
実施例1:抗ROBO1モノクローナル抗体の作製
(A)方法
(1)ROBO1 cDNAの単離
ROBO1のcDNAを以下の方法で単離した。Alexander細胞より一本鎖cDNAを調製し、それを鋳型としてプライマーRBV2F-TA:5'-ACCATGATTGCGGAGCCCGCTCAC-3'(配列番号1)とRBR-TA:5'-GCTTTCAGTTTCCTCTAATTC-3'(配列番号2)を用いてPCR法による増幅を行った。プライマーRBV2F-TAはROBO1遺伝子(GenBank:NM_133631)の5’-端にハイブリダイズするように、そしてRBR-TAは3’-端にパイブリダイズするようにデザインした。PCR法はLA-PCRキット(TAKARA社製)のプロトコールに準じて反応液を調製し、初めに95℃で2分間一次変性を行い、94℃で15秒、63℃で15秒、72℃で5分からなるサイクルを30回行なった後、最後の伸長反応を72℃で10分間からなる条件で実施した。そして、アガロースゲル電気泳動にてROBO1予測配列と一致する約5kbp付近のバンドの検出した後、その特異的増幅断片をTAクローニング法によりpcDNA3.1/V5-His TOPO(Invitrogen社製)に挿入した。塩基配列を定法により確認したところ、単離したcDNAがROBO1であることが明らかとなった(ROBO1/pcDNA3.1)。
【0037】
(2)ROBO1の細胞外領域ドメインを発現させたgp64結合型組み換えバキュロウイルスの作製
図1に示すように、ROBO1のN末から最初のイムノグロブリン領域(Ig1)を含む領域をはじめとして5種類の抗原をデザインし、バキュロウイルスの膜タンパク質gp64との融合タンパク質として発現させた。すなわち、以下に示すプライマーセットを用いて、上記のROBO1 cDNAを鋳型とし、PCR法にてROBO1の各領域をコードする遺伝子を増幅し、続いてpGEM-Teベクター(プロメガ社製)への挿入を行った。塩基配列を定法にて確認した後、制限酵素KpnIを用いて切断した遺伝子断片をpBacSurfベクター(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターROBO1N/pBS、gp1/pBS、gp2/pBS、gp3/pBS、そしてgp4/pBSを構築した。続いて、4μgの各ベクターを制限酵素BpII (Fermentas社製)により切断し直鎖化した後、Invitrogen社の指示書に準じてBac-N-Blue DNAと共にSf9細胞に導入し、ROBO1-各ドメイン(Ig1、Ig2、Ig3、Fn1、Fn3)とgp64との融合タンパク質発現組み換えバキュロウイルスを調製した。
【0038】
上記により調製した組換えウイルスをSf9細胞(2 x 106個細胞/mL)にMOIが5となるように加え感染させた後、27℃で3日間培養した。ROBO1各ドメインとgp64との融合タンパク質を発現する発芽型バキュロウイルス(BV)は3日間培養後の培養上清より回収した。すなわち、培養液を1500 x gで15分間遠心し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した後、回収した培養上清を45,000 x gで30分間遠心する。沈殿物をPBSに懸濁し、さらに1500 x gで遠心することで細胞成分を除去し、上清を再度45,000 x gで遠心することで得られる沈殿物をPBSで懸濁したものをBV画分とし、抗原として免疫に用いた。
【0039】
なお、すべてのタンパク質濃度はローリー法を改変したDC protein assay kit(Bio-rad社)によって定量した。タンパク質定量の標準にはウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。
【0040】
プライマーセット
ROBO1N-F:5'-GGTACCCCTTCGTCAGGAAGATTTTCCAC-3'(配列番号3)
ROBO1N-R:5'-GGTACCGAGTAATTCCTTGCTACACA-3'(配列番号4)
Gp1-F:5'-GGTACCCGATGAAGGAGTCTATGTCTGTGT-3'(配列番号5)
Gp1-R:5'-GGTACCGCACCAACACAAACATATTTGCCA-3’ (配列番号6)
Gp2-F:5'-GGTACCCACCAATATGGTTGGGGAACGTGA-3'(配列番号7)
Gp-2-R:5'-GGTACCGCAGATGCTTCAGCTTTGCCCACC-3'(配列番号8)
Gp3-F:5'-GGTACCCGCTAATGCATATGGAATTAGTGA-3'(配列番号9)
Gp3-R:5'-GGTACCGCATTCTTGGATACAGTTACACCT-3'(配列番号10)
Gp4-F:5'-GGTACCCGCACCCAGTGCCCCACCCCAAGG-3'(配列番号11)
Gp4-R:5'-GGTACCGCATCTGAAATCTGCTGAGCGAGG-3'(配列番号12)
【0041】
(3)全長ROBO1発現ウイルスの作製
上記(1)で記載した全長ORF領域を含むROBO1 cDNAをpBlueBac4.5-TOPOベクターに直接挿入し、配列解析を行った後、正しい塩基配列を有するトランスファーベクターROBO1/pBBを作製した。4μgのROBO1/pBBを用い、上記と同様に組み換えバキュロウイルスを作製した。上記(2)と同様にBV画分を調製し、抗原として免疫した。
【0042】
(4)組み換え抗原のウエスタンブロット法による検出
各種調製BV抗原の発現確認のため、ウエスタンブロット解析による検出を試みた。前述の各調製BV抗原をSDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、タンパク質を分離した後、Hybond-P(アマシャムバイオサイエンス社製)に転写した。そして一次抗体としてanti-gp64抗体(Tanaka T他、J Atheroscler Thrombo, 9: 233-242, 2002)を50000倍希釈で使用し、二次抗体にHRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソンラボラトリー社製)を用い、ECLプラス(アマシャムバイオサイエンス社製)による検出を行った。
【0043】
(5)組み換え体可溶型ROBO1(sROBO1-His)の作製
免疫用抗原として、抗体スクリーニングの際のELISA用抗原として、ROBO1の細胞外領域のC末にHisタグを付加した可溶型ROBO1(sROBO1-His)を以下のように作製した。
上記(1)で記載したROBO1 cDNAを鋳型としプライマーRBV2F-TA:5'-ACCATGATTGCGGAGCCCGCTCAC-3'(配列番号13)とプライマーRB_SH_TA:5'-GGCCGGCTGCTTCACCACAT-3'(配列番号14)を用いてPCR法により細胞外領域をコードする遺伝子を増幅した。PCR産物をpBlueBac4.5-TOPOベクターに直接挿入し、配列解析を行った後、正しい塩基配列を有するトランスファーベクターsROBO1/pBBを作製した。4μgのsROBO1/pBBを用い、上記と同様に組み換えバキュロウイルスを作製した。
【0044】
続いて、sROBO1-Hisは以下のようにして調製した。すなわち、2 x 106個/mLのsf9細胞にMOIが5となるようにsROBO1-His発現組換えバキュロウイルスを感染させ、27℃で3日間培養し、その培養上清を回収した。培養上清中に含まれるsROBO1-HisはNi-NTA superflow(QIAGEN社)を用い添付プロトコールに従い精製した。精製品をCentircon-10(Amicon社製)を用い濃縮、ならびにPBSへのバッファー置換を行うことでsROBO1-Hisを調製した。
【0045】
(6)ROBO1恒常的発現株の樹立
上記(1)で作製した1μgのROBO1/pcDNA3.1を2 x 105個HEK293細胞(6well plateを使用)にFuGene6試薬3μL(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて導入した。発現ベクター導入3日後に培地交換を実施し、DMEM+10% FCSにネオマイシン(Geneticin、GIBCO社)を500μg/mlで添加し、ネオマイシンによる薬剤選抜を実施した。一ヶ月間におよぶ薬剤選抜を実施し、ROBO1発現HEK293細胞のモノクローン化を行った。
【0046】
(7)抗ROBO1モノクローナル抗体の作製(BV抗原)
上記(2)にて調製したBV抗原であるROBO1-N(Ig1)、gp1(Ig2)、gp2(Ig3)、gp4(Fn3)、そして全長発現型BV(ROBO1-Full)を抗原として用い抗ROBO1モノクローナル抗体を作製した。すなわち、PBSに懸濁した1mgのタンパク量に相当する各BV抗原を200ngの百日咳毒素と混合したものをgp64トランスジェニックマウス(WO03/104453)に皮下注射により初回免疫を行った。gp64過剰発現トランスジェニックマウスはgp64をpCAGGSベクターにより全身性に発現させたマウスである。
【0047】
以後の免疫では500μgタンパク量相当の各BV抗原のみを皮下注射した。最終免疫として250μgの各BV抗原を静脈内に投与し、その3日後にマウスから脾臓細胞を単離し、常法によりマウスP3U1細胞との細胞融合を行い、ハイブリドーマ細胞を樹立した。以下に示すELISAをはじめとした各スクリーニング系によりハイブリドーマを選別した。
【0048】
各モノクローナル抗体は産生ハイブリドーマ細胞の培養上清より硫安沈殿法により調製した。また、マウス抗体のアイソタイピングは、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Test Kit MMT1(serotec製、大日本製薬株式会社販売)により同定した。
【0049】
(8)ハイブリドーマ上清のELISAスクリーニング
抗ROBO1モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択はsROBO1-Hisを固層したELISAにて実施した。ELISA法は、50μL(5μg/ml)のsROBO1-Hisを96ウェル平底プレート(ファルコン社製)に4℃で一昼夜おき、その後、40%ブロックエース試薬(大日本製薬社製)を含むTBS緩衝液を用いてブロッキングした後、ハイブリドーマ培養上清を加え、室温で1時間反応させた。次いで、室温にて1時間HRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を反応させ、4回洗浄した後、室温にて1時間、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)試薬(Sigma製)を反応させた。0.5N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレート・リーダーMultickanJX(Labsystems社製)で492nmにおける吸光度を測定した。
【0050】
また、BV抗原を免疫した際には、免疫源である50μLのBV抗原(50μg/mL)を96ウェル平底プレート(ファルコン社製)に4℃、一昼夜で固層化し、上記と同様にELISAアッセイを実施した。コントロールにはWild typeのBVを使用した。
【0051】
(9)ハイブリドーマ上清のFACSスクリーニング
立体構造を認識する抗体をスクリーニングするため、FACS解析によるハイブリドーマ上清のスクリーニングを実施した。すなわち、ROBO1強制発現HEK293細胞あるいは陰性対照であるHEK293細胞をFACS溶液(1%アルブミン、0.1% NaN3入りPBS)に懸濁した。細胞懸濁液にハイブリドーマ上清10μLを加えて、4℃で60分間反応させ、FACS溶液で2回洗浄した後、FITC標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を加えて、4℃で30分間反応させた。そしてFACS溶液で2回洗浄した後、使用説明書に準じてFACSCalibur(ベクトンディッキンソン社製)によるFACS解析を実施した。
【0052】
(10)FMAT8200CDSスクリーニング
Cell ELISAをべースとしたFMAT 8200 CDSを用いて、ハイブリドーマ上清のスクリーニングを実施した。すなわち、ROBO1発現HEK293細胞を1 x 104個の細胞をFMATアッセイ用96 well Black plateで一昼夜培養し、翌日、アッセイバッファー(1% BSA+0.01% アザイド /PBS)100μLに交換した。そして10μLのハイブリドーマ上清と50μLのFMAT Blueラベル化抗マウスIgG抗体(final 1μg/mL、アプライドバイオシステム社)を各Wellに添加し、室温、暗室で二時間静置した。その後、8200CDSにて検出し、蛍光強度比をネガティブコントロール(上清マイナス)と比較し、陽性判定を行った。
【0053】
(11)抗ROBO1モノクローナル抗体の作製(sROBO1-His抗原)
上記(5)にて調製したsROBO1-Hisを抗原として用い抗ROBO1モノクローナル抗体を作製した。すなわち、PBSに懸濁した100μgのタンパク量に相当するsROBO1-His抗原を200ngの百日咳毒素と混合したものを自己免疫疾患マウスであるMRL/lprマウスに皮下注射により初回免疫を行った。以後の免疫では50μgタンパク量相当のsROBO1-His抗原を4回から6回、皮下注射した。最終免疫として50μgのsROBO1-His抗原を静脈内に投与し、その3日後にマウスから脾臓細胞を単離し、常法によりマウスP3U1細胞との細胞融合を行い、ハイブリドーマ細胞を樹立した。
以降のスクリーニングは上記と同法にて実施した。
【0054】
(B)結果
(1)ROBO1のクローニング及び発現ベクターの作製
ROBO1 cDNAをPCRにより増幅し、動物細胞発現ベクターとしてROBO1/pcDNA3.1及び、昆虫細胞発現用トランスファーベクターROBO1/pBBを作製した。それぞれのC末端にV5とHis6タグが付加されている。また、膜貫通領域のN末側で切断した可溶型ROBO1(1-862アミノ酸、sROBO1-His)発現用のトランスファーベクターsROBO1/pBBを作製した。
【0055】
Gp64結合型抗原は図1に示すように、ROBO1のN末から最初のイムノグロブリン領域(Ig1)を含む領域をはじめとして5種類の抗原をデザインした。最終的に各目的ドメインを含む配列を、pBacSurfベクター(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターROBO1N/pBS、gp1/pBS、gp2/pBS、gp3/pBS、そしてgp4/pBSを構築した。
【0056】
ROBO1のcDNA配列はGenBankに登録してある配列と異なり、第3イムノグロブリンドメイン以降の309番目のアミノ酸以降に、VGSが挿入されたものであった(図2)。これは鋳型に使用したAlexander細胞における変異に起因するものかと考え、胎児肝臓、胎児脳、HuH6などのcDNAからクローニングしたところ、すべてのcDNAにおいて3アミノ酸の挿入が確認された。
【0057】
(2)抗原タンパクの発現確認
免疫用抗原として各組み換えウイルスを構築し、各発現をウエスタンブロット解析により確認を行った。その結果、ROBO1N_BV、gp1_BV、gp2_BV、及びgp4_BVはすべて図3のA及びBに示すように発現に成功した。しかしながら、イムノグロブリンドメインの3番目をコードするgp3の発現が認められなかった(図3のA)。そのため、免疫源としてgp3は以降除外した。
【0058】
Gp64結合型ではなくROBO1全長を発現させたROBO1-Full_BVは図3のBに示す。また、sROBO1-Hisに関してはNi-NTAカラムより精製した、図4に示すフラクション2,3の部分をあわせ、精製品とした。
【0059】
(3)ROBO1恒常的発現HEK293細胞の作製
ROBO1/pcDNA3.1を用いてROBO1恒常的発現細胞の樹立を行った。1μgのROBO1/pcDNA3.1を2 x 105個HEK293細胞に3μLのFuGene6試薬(ロシュダイダイアグノスティック社製)を用いて導入し、二目後にネオマイシン(500μg/mL, Geneticin、GIBCO社)を培地に添加し、さらに一週間後に1 cell/wellのリミティングダイリューションによるセレクションを実施した。そして、モノクローン化されネオマイシン耐性能を獲得した細胞を回収して、各RIPAライゼート液を調整し、等量2μgのタンパク相当量を各レーンに供与し、ウエスタンブロット解析を実施した(図5)。その結果、抗ROBO1モノクローナル抗体であるA7241A及び抗V5抗体などで検出されたROBO1と考えられる分子量の位置のバンドを指標に比較を行ったところ、R#6、R#10及びR#12におけるROBO1の発現が他のクローンと比較し高いことが明らかとなった。
【0060】
引き続き、抗V5抗体によるFACS解析を実施した。ROBO1に対するV5タグは細胞内領域のC末端に付加したため、抗体が細胞内のV5タグを検出できるよう一次抗体添加時に0.1%サポニンを含むFACS溶液を用いた。その結果、コントロールのHEK293細胞のシフトは認められなかったのに対し、ROBO1発現細胞株R#6、R#10及びR#12はV5抗体に対する特異的なピークのシフトが認められた(図5)。以上の解析より、ウエウスタンブロット解析の比較でもっとも発現量の高いR#6をROBO1発現HEK293細胞株とすることにした。
【0061】
(4)抗ROBO1モノクローナル抗体の作製
表1に示すように各種抗原とマウスの組み合わせにより、数々の抗ROBO1モノクローナル抗体の作製を実施した。
【0062】
【表1】
【0063】
スクリーニング系としては、精製抗原ELISA、そしてBV抗原ELISAは当初より実施していたが、FACSスクリーニングはB2200シリーズ以降、そしてFMAT8200CDSスクリーニングはB5200シリーズ以降に実施した。その結果、表2に示すように、種々の抗ROBO1モノクローナル抗体の作製に成功した。
【0064】
【表2】
【0065】
モノクローナル抗体B5209Bを産生するハイブリドーマは、受託番号FERM P−21238として、2007年(平成19年)3月2日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されている。
【0066】
(C)考察
抗体作製に関してはヒトROBO1のアミノ酸配列の相同性がマウスと95%以上と非常に高く、さらに目的のエピトープ部位が細胞外領域であったため、抗体取得方法に工夫を行った。すなわち、BV抗原とgp64発現トランスジェニックマウスに免疫する方法と、可溶型ROBO1精製抗原(sROBO1-His)をMRL/lprマウスに免疫する方法の二種類の方法を本研究にて実施した。
【0067】
免疫源の抗原性を挙げるためにBV抗原としてウイルスのまま免疫するが、ウイルスの主構成成分であるgp64に対する抗体が大量にできる可能性が新たに生まれる。そのため、本発明では、gp64過剰発現トランスジェニックマウスを用いることによって、目的抗原に対する抗体を大量に取得することを試みた。
【0068】
また、MRL/lprマウスは、これまでヒトのループス腎炎、結節性多発動脈炎、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群などの全身性自己免疫病モデルとして巾広く研究されてきたものである。このような自己免疫疾患マウスに抗原性が低いと予測されるROBO1を免疫した際には、通常のマウスよりもユニークな抗体が得られることを期待し、この方法を選択するにいたった。
【0069】
上記二つの戦略を実施した結果、表2に示すように、立体構造を認識する抗体も含め、非常に数多くの抗ROBO1モノクローナル抗体の作製に成功した。免疫源が異なることから、両方法の比較は単純にできないが、他のマウスと比較しMRL/lprマウスは免疫中のマウス自身へのダメージが大きくマウスのハンドリングに注意を要した。
【0070】
陽性クローンの数が各スクリーニングで大きく異なるが、これは使用した免疫源が要因の一つであると考えた。少なくともこれまでイムノグロブリンドメインに対するFACS陽性抗体の取得は確認されていない。この領域はROBO1リガンドの結合領域となり、種を越えてもっとも高く相同性が保たれているところである。そのため、免疫寛容となりうることが予測され抗体の作製が困難である可能性が一つには考えられた。また、抗ROBO1抗体をスクリーニングする際に、ウシ血清中のROBO1様タンパクが吸収成分として反応した可能性が考えられ、立体構造を認識する抗体ほどスクリーニングで漏れていることが予測された。
【0071】
さらなる要因としては、抗原として用いたgp64結合型抗原の立体構造がROBO1と異なる可能性が考えられた。各イムノグロブリンドメイン内にはS-S結合が存在するが、gp64とフユージョンする際に再構成されていない可能性が考えられた。実際には各イムノグロブリンドメインにおいて、再構成に必要と考えられるCysを保存してデザインを行っているが、gp64の構造の影響を受けている可能性も考えられる。
【0072】
以上の理由から、B52、53シリーズでは血清中のウシROBO1様タンパクが少ないCSをFBSの代わりに用いてハイブリドーマのスクリーニグを実施することと、イムノグロブリン領域の立体構造が保たれていると予測するROBO1-Full/BV抗原を免疫源として用いる二つの工夫を入れて、抗体作製を実施した。その結果、明らかにFACS陽性抗体の樹立数は増大する結果となった(表1及び表2)。本発明では、このシステムにより、最終的に高い細胞障害活性を示す抗体を単離することに成功した。
【0073】
実施例2:細胞障害活性(CDC活性)を指標とした抗ROBO1モノクローナル抗体のキャラクタライゼーション
(A)方法
(1)抗ROBO1モノクローナル抗体のFACS解析
実施例1における「ハイブリドーマ上清のFACSスクリーニング」に記載した方法に準じて解析を実施した。Fluorescense intensityを数値化(X mean)して用いた。
【0074】
(2)抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性測定
カルセイン(Wako)で標識したROBO1発現HEK293細胞を用いて解析を行った。具体的には以下の通りである。
(i)ヒトアルブミン・ベロナール・バッファ(HAVB)の作製
NaCl(特級、和光純薬工業株式会社)12.75g、Na-バルビタール(特級、和光純薬工業株式会社)0.5625g、バルビタール(特級、和光純薬工業株式会社)0.8625gをミリQ水に溶解し200mLとした後、オートクレーブ処理(121℃、20分間)を行った。オートクレーブ処理した100mLの温ミリQ水を加え、pH7.43を確認した(推奨pH7.5)。これを5×ベロナールバッファとした。CaCl2・ 2H2O(特級、純正化学株式会社)0.2205gを50mLミリQ水に溶解し0.03mol/Lとし、CaCl2溶液とした。MgCl2・6H2O(特級、純正化学株式会社)1.0165gを50mLミリQ水に溶解し0.1mol/Lとし、MgCl2溶液とした。5×ベロナールバッファ100mL、ヒト血清アルブミン(ブミネート(登録商標)25%、ヒト血清アルブミン濃度250mg/mL、バクスター株式会社)4mL、CaCl2溶液2.5mL、MgCl2溶液2.5mL、KCl(特級、純正化学株式会社)0.1g、グルコース(D(+)-グルコース、ブドウ糖無水、特級、和光純薬工業株式会社)0.5gをミリQ水に溶解し500mLとした。これをHAVBとした。ろ過滅菌後、設定温度5℃にて保存した。
【0075】
(ii) 標的細胞の調製
ROBO1強制発現HEK293細胞及びALXは、DMEM培地/10%FBS(SIGMA)で培養した(ROBO1発現HEK293細胞には0.5 mg/mLネオマイシン(Geneticin, GIBCO社)を添加)。そして、細胞剥離緩衝液(GIBCO)を用いてディッシュから剥離して、96ウェルU底プレート(BECTON DICKINSON)の各ウェルに1×104細胞/ウェルで分注し、一晩培養した。培養後、5.55MBqのクロム-51、あるいは終濃度20μg/mLのカルセイン試薬(WaKo)を加え、5%炭酸ガスインキュベータ中37℃ 1時間培養し、この細胞をHAVBで2回洗浄し、50μLのHAVBを加え標的細胞とした。
【0076】
(iii) 幼令ウサギ補体の調製
幼令ウサギ補体(BABY RABBIT COMPLEMENT、CEDARLANE)を、1バイアルあたり1mLの注射用蒸留水(扶桑薬品工業株式会社)に溶解し、補体溶液とした(試験時に用事調製)。
【0077】
(iv) CDC活性測定
抗ROBO1モノクローナル抗体をHAVBで希釈し抗体溶液とし、標的細胞に抗体溶液を50μLずつ添加し氷上で15分静置した(終濃度0.16μg/mL〜100μg/mL)。続いて各ウェルに補体溶液を100μg/mLずつ添加し(終濃度5〜25%)、5%炭酸ガスインキュベーター中に37℃で90分間静置した。プレートを遠心分離後、各ウェルより上清を100μLずつ回収し、ガンマカウンターにて放射活性を測定した(カルセイン標識の際には494nmで測定)。下式により特異的クロム遊離率を求めた。
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)/(B-C)×100
Aは各ウェルにおける放射活性(cpm)、Bは標的細胞に2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク株式会社)を100μL、HAVBを50μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値、Cは標的細胞にHAVBを150μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値を示す。試験は三重に行い、CDC活性(%)について平均値および標準偏差を算出した。
【0078】
(3)抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析
ROBO1発現細胞外領域に存在する5つのイムノグロブリンドメイン、3つのファイブロネクチンIIIドメインを保有することから、各エピトープ解析用抗原が、それぞれ重複する形でデザインし、GST結合型組み換え体として発現させた(図6)。8つの抗原にプラスし、膜貫通領域上流の30アミノ酸(UT1_GST、831-860アミノ酸)と、第2、第3イムノグロブリンドメインをあわせたIg2-3と第4、第5イムノグロブリンをあわせたIg4-5の計11種類である。すなわち、以下に示すプライマーセットを用いてPCR法により目的遺伝子断片をクローニングし、pET41bベクターにBamHI-HindIIIサイトにて挿入を行った(Ig1/pET41b〜UT1/pET41bの計11ベクター)。それぞれの発現ベクターをBL21(DE3)(Novagen)に形質転換し、0.5M IPTG、3時間、37℃で発現誘導した菌体を1% Triton X-100/PBSにて超音波破砕し、その不溶性画分、可溶性画分をエピトープ解析用抗原とした。また、免疫源として使用したsROBO1-Hisは細胞外領域全長のコントロールとして使用した。
【0079】
Ig1F:5'-GGATCCGATGATTGCGGAGCCCGCTCACTTTTACC-3’ (配列番号15)
Ig1R:5'-AAGCTTGACATCCGAAGGGTTTTGTCTGAAGTCAT-3'(配列番号16)
Ig2F:5'-GGATCCGAATGCATCGCTGGAAGTAGCCATACTTC-3'(配列番号17)
Ig2R:5'-AAGCTTACTGGGTCTCTTCACAAATGATGGTCTC-3'(配列番号18)
Ig3F:5'-GGATCCGGAGAGTGAAGTAGCCGAGCTGACTGTC-3'(配列番号19)
Ig3R:5'-AAGCTTCCGTCCCAAAGCAACAACCTGGTCACGG-3'(配列番号20)
Ig4F:5'-GGATCCGCCCCGTGACCAGGTTGTTGCTTTG-3'(配列番号21)
Ig4R:5'-AAGCTTTACAGTCTGATTCACAGGACCTTGTCG-3'(配列番号22)
Ig5F:5'-GGATCCGATCATCACAAAGGCATATTTGGAAG-3'(配列番号23)
Ig5R:5'-AAGCTTTGTATTTCTGCTGACATCTGTCACTTC-3'(配列番号24)
Fn1F:5'-GGATCCGCCAAATTTAATCCCTAGTGCCCCATC-3'(配列番号25)
Fn1R:5'-AAGCTTAAGGACGGTGGGGTTGTGGAGGTGCAG-3'(配列番号26)
Fn2F:5'-GGATCCGAAGCAGGTCCAGAGAGAGCTGGGAAATG-3'(配列番号27)
Fn2R:5'-AAGCTTCTTGGATACAGTTACACCTTGGGGTGG-3'(配列番号28)
Fn3F:5'-GGATCCGTTTGCCAAAACCCTGGAAGAAGCACC-3'(配列番号29)
Fn3R:5'-AGCTTCTGCTTCACCACATCTGAAATCTGCTG-3'(配列番号30)
UT1F:5'-GGATCCGCAGTTCATCCAGCTGGATGCC-3'(配列番号31)
UT1R:5'-AAGCTTCTGCTTCACCACATCTGAAATCTGCTG-3'(配列番号32)
*Ig2-3はIg2FとIg3R、Ig4-5はIg4FとIg5Rの各プライマーの組み合わせ
【0080】
(B)結果
(1)ROBO1発現HEK293細胞に対する各抗ROBO1モノクローナル抗体のFACS解析比較
B2318C抗体(IgG2a)を指標に、B1511A(IgM)とB2610A(IgG1)の容量依存的なFACSアフィニティー解析を実施した(図7のA)。B2318Cは抗体低濃度でのROBO1に対するアフィニティーが他の抗体と比較し、低くなる傾向が示された。引き続き、抗体濃度2μg/mLの値に統一し、ROBO1-Full_BV/gp64TGM免疫シリーズであるB47、B52、そしてB53シリーズの作製抗体(表1)のFACS解析を実施した(図7のB)。そして、主な抗体の濃度依存性カーブを図7のCに示した。以上の解析により、細胞表面上のROBO1に対するアフィニティーの高い抗体がB47, B52, B53シリーズに多数含まれることが明らかとなった。
【0081】
(2)抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性比較
B2318CとB1511A、及びB2610Aの抗体容量依存的なCDC活性評価を実施した(図8のA)。図7のAのFACS解析と相関する傾向がCDC活性測定でも示された。B2318Cと比較し、B1511A及びB2610Aは低容量での細胞障害活性が認めらることが明らかとなった。
【0082】
以上の検討結果を受け、抗体濃度0.1μg/mLと1.0μg/mLにおける抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性比較を実施した(図9)。その結果、B5209B、B5303A、そしてB5317Bは、これまで取得したいずれの抗体よりも、活性が強いことが示された。引き続き、上記の抗体と、B2318C抗体の抗体濃度依存的なCDC活性評価の比較を行った(図8のB)。その結果、B5209B(IgG2b)がもっともCDC活性が高いことが明らかとなった。
【0083】
(3)抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析
図6に示した各種GST結合タンパク質の発現解析を実施した。Ig2_GSTとIg5_GSTは可溶化・不溶化画分のいずれにも目的タンパクは検出されず、それ以外のGST結合タンパク質をエピトープ解析に使用した(lg2-3_GSTとIg4-5_GST)。各ドメインの発現を抗GST抗体で検出した結果を図10に示す。Ig3_GSTを除き、イムノグロブリンドメインであるIg1、2-3、4、及び4-5_GSTは可溶化画分で微量しか検出できなかったため、すべて不溶化画分をエピトープ解析に使用し、ファイブロネクチンIIIドメインであるFn1、2、3_GST及びUT1_GSTはすべて可溶化画分を使用した。
【0084】
はじめにgp4_BVで免疫して得られた抗体であるB2318C、B2212A及びB2610Aのエピトープ解析を実施した。図6に示すように抗原部位には膜貫通領域上流から第3ファイブロネクチンIIIドメインまで含まれているため(738-855アミノ酸)、Fn3_GSTとUT1_GSTを用いてウエスタンブロット法によるエピトープ解析を実施した。その結果、図11のAに示すように、いずれもUT1_GSTには結合せず、Fn3のみであったため、それぞれの認識部位が第3ファイブロネクチンIIIドメインであることが明らかとなった。
【0085】
次にROBO1-Full_BV抗原をgp64TGMに免疫して得られたB47、B52およびB53シリーズで得られた抗体のエピトープ解析を各GST抗原を用いて実施した。そのウエスタン解析結果の代表としてB5317B抗体のブロット図を図11のBに示す。そして最終的にすべての抗体の結合ドメインが同定されたため、それを表3にまとめて示した。ROBO1-Full_BVの免疫により細胞外領域のいずれの箇所にも結合する抗体が得られる可能性があったはずであるが、結果としてB5304Aの第1ファイブロネクチンIIIドメイン以外は、すべて第5イムノグロブリンドメインへ結合する抗体であった。また、sROBO1-HisをMRL/lprマウスに免疫して得たB1511A(IgM)の結合サイトも第5イムノグロブリンドメインであることが明らかとなった。
【0086】
【表3】
【0087】
(C)考察
本研究にて取得した抗ROBO1モノクローナル抗体のキャラクタライゼーションにより、各抗体のCDC活性能、細胞表面上のROBO1結合能(FACS解析)、そしてROBO1結合ドメイン(エピトープ)が明らかとなった。そして、本研究で試みた3種類の免疫方法の中で、もっとも細胞障害活性能を持つ抗体の単離に成功したのはROBO1-Full_BVをgp64TGMに免疫する方法であった。この際に血清をFCS(ウシ胎児血清)からCS(ウシ血清)に変更している点も重要である。
【0088】
ROBO1各ドメインのgp64結合型抗原免疫の際にFACS陽性抗体を得ることに成功したのは第3ファイブロネクチンドメイン(gp4_BV)だけであった。また、エピトープマッピングの際に使用したGST結合型タンパク質でファイブロネクチンドメインのタイプは容易に大腸菌発現系で可溶化したが、イムノグロブリンドメインに関しては、第3ドメインを除き、第2, 5は発現せず、第1、4は不溶性であった。これらの現象から考察すると、イムノグロブリンドメインのようにシステイン等が立体構造に大きく影響する領域に対する抗体の作製の際には、部分的な発現は望ましくないことが示唆された。
【0089】
また、ROBO1細胞外領域すべてを含む抗原であるROBO1-Full_BVとsROBO1-Hisの免疫により、得られた細胞障害活性能を保有する抗体のエピトープは、1例を除き、すべて第5イムノグロブリンであった(表3)。FACS陰性のクローンはスクリーニングの過程で選別されてこないため、実際には他のエピトープを認識するFACS陰性抗体がマウス脾臓で産生されていた可能性は否定できないと考える。他の部位(ドメイン)は免疫源の立体構造と細胞表面の立体構造が類似していない可能性も考えられるが、何らかの理由により第5イムノグロブリンに対する抗体が産生されやすい可能性が考えられた。
【0090】
今回作成した抗体パネル(表3)により至適エピトープ部位の考察を行った。CDC活性等の強弱の影響には、抗体のアイソタイプとROBO1とのアフィニティー、そして抗原結合部位の3点が考えられる。そのため、同一アイソタイプで、かつ、同等のアフィニティーを持つ抗体を比較することにより、至適抗原結合部位の類推が行える。今回単離したB2212AとB5303AはともにIgG2aで、FACS解析におけるアフィニティー(EC50値)が7.3nMと4.9nMで、お互いに近い値を示す(図12のA)。それらの細胞障害活性能は、明らかにB5303Aのほうが高いことを考えると(図12のB)、第3ファイブロネクチンドメインよりも、第5イムノグロブリンドメインを標的とする方が、細胞障害活性が誘導されやすいことが示唆された。
【0091】
実施例3:PETによる腫瘍の体外イメージング」
(A)方法
(1)18FDG Study
使用動物:HepG2細胞107個を6週齢のBALB/cAjcl-nu/nu雄マウスに移植し、xenograft modelを作成、実験時に9週齢、腫瘤サイズ10x8mm、体重25gとした。
【0092】
麻酔:自作小動物用吸入麻酔器具を用いてIsoflurane吸入麻酔を実施した。自発呼吸状態をビデオカメラで監視し、呼吸数と投与濃度を定時に記録した。
【0093】
保温:体温低下をさけるため、自作透明カバーにより外気との直接接触をさけ、少量のハロゲンランプ光をスキャナー外から間接的に照射して保温。室内とカバー内の温度を定時に記録した。
【0094】
使用放射性医薬品とその投与方法:18FDG(18F半減期:110分)、約0.8mCi(10MBq)を、27G針から作製した自作カニュレーション器具を用いて、静脈ラインから約1分間かけて投与した。
【0095】
撮像装置とPETデータ収集プロトコール:Siemens社製MicroPET Focus 120(Figure1、右下)を用いて、20sec x6,60sec x6,2min x6,5min x8(合計26フレーム、60分間)の動態画像データ収集を行った。
【0096】
(2)64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb Study
使用動物:前術のHepG2細胞xenograft model2匹を17週齢で使用した。実験初日前夜から初日の実験終了までは絶食とした。Mouse#1とMouse#2の腫瘍サイズはそれぞれ15mm x13mmと18mm x12mm、実験中の5日間(2007年1月16日〜20日)で体重はそれぞれ22-26g、19-21gであった。なお、最終日(20日)の実験終了後、腫瘍部を切り出し、ホルマリン固定し、腫瘍部以外は凍結保存とした。
【0097】
放射性医薬品の合成:ポジトロン核種64Cu(半減期12.7時間)を、64Ni(p,n)64Cu反応により住重試験検査(愛媛県、新居浜市)にて製造した。次に第一ラジオアイソトープ社(千葉県松尾町)にて、双機能性キレート剤1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10 -tetraacetic acid(DOTA)を反応性の高いイソチオシアネート基を介して抗Robo1 mAb(実施例1で作製したモノクローナル抗体B5209B)へ導入した。最後にDOTA化mAbを64Cu標識し、活性評価を行った。
【0098】
放射性医薬品の仕様:64Cu-DOTA-抗Robo1 whole IgGモノクローナル抗体の放射能濃度は23.3MBq/mL(ただし、511KeV測定では16.4MBq/mL)であった。投与液量は0.8mL(mouse#1),0.5 mL(mouse#2)で、それぞれ投与時には約9MBq、6MBq(511KeV window)に相当する。なお、抗体濃度は0.331mg/mLであった。
【0099】
麻酔と保温:麻酔や保温の方法はFDG studyと同様であるが、MicroPETデータ収集にあわせて、一匹あたり複数回の麻酔を実施した。
【0100】
PETデータ収集プロトコール:Mouse#1には留置静脈ラインから64Cu-DOTA mAb溶液0.8mLを5分間かけて投与し、さらにMouse#2にも0.5mLを投与した。Mouse#1に対して合計8回、22.5時間のデータ収集を、Mouse#2に対して合計6回、18.5時間のデータ収集を、投与直後から4日目にかけて行った。なお、データ収集時間が8時間の最終スキャンは、投与から4日後にヌードマウスを安楽死させた後に実施した。
【0101】
画像再構成と画像データ解析(概略):収集したPETデータは、Part1、Part2ともに一連の処理後、最終的にFiltered Back Projection法によって、3Dもしくは4D画像(dynamicデータ収集の場合)へと再構成した。画像表示は関心領域(ROI)設定、時間放射能曲線(TAC)の計算は、MicroPET用ソフトウェアであるAsiProを用いて行った。
【0102】
(B)結果
(1)18FDG Study
HepG2腫瘍ヌードマウス、18FDG投与後55-60分の画像を図13に示す。HepG2腫瘍部の18FDG集積は、hexokinase活性の高い心臓や脳よりも低く、18FDG metaboliteが脱リン酸化によって分解される肝臓よりも高いことを確認した。
【0103】
18FDG投与直後から60分まで、同一coronal断面、合計26フレームの動態画像を図14に示す。投与直後の血流相における腎動脈血流(図14のA)、腫瘍の初期描出(図14のB)、尿中に排泄されたRIによる膀胱描出(図14のC)、18FDG のmetabolic trappingによると考えられる腫瘍の集積(図14のD)、肝集積(図14のE)、心筋集積(図14のF)を、スキャン範囲を拡張するために寝台を移動させることなくマウス全身のRI動態画像とした。
【0104】
18FDGの各臓器における薬物動態を簡便に評価するために設定した肝臓、腎臓、HepG2腫瘍部の3つの関心領域(ROI)から時間放射能曲線(TAC)を得た(図15)。18FDG投与後60分間は、腎集積が常にもっとも高く、HepG2腫瘍の集積は緩徐に上昇するが、約12分後に正常肝の集積を越えていた。
【0105】
Supplement:Additional 18FDG Study with lung cancer xenograft
肺扁平上皮癌QG-56担癌ヌードマウス、60分後18FDG画像を図16に示す。PET画像上、肺扁平上皮癌xenograftの内部は低〜無集積となっており、腫瘍組織割面では、腫瘍内部に固形の腫瘍成分は見られなかった。
【0106】
(2)64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb Study
Mouse#1へ64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb投与後、6時間、1日、2日、3日後のPET画像を図17に示す。6時間像では心内腔の血液プール像と比較してHepG2腫瘍への集積は少なかったが、3日後まで腫瘍への集積は緩徐に増加した。64Cu-DOTA mAbの肝臓へ非特異的集積は、胆道系を介してゆっくりと腸管へ排泄されていた。なお、腎と膀胱の集積は確認できなかった。
【0107】
Mouse#2へ64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb投与後、1日、2日、3日後のPET画像を図18に示す。一日後では腫瘍への集積は正常肝臓への集積より低く、腫瘍内部には64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAbの分布を確認できない部分が見られたが、三日後には腫瘍体積全体へ高集積の分布が認められた。
【0108】
二匹のヌードマウスを安楽死させた時点(Mouse#1:87時間後、Mouse#2:84時間後)での64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAb(64Cu標識分解産物を含む)の体内分布を図19に示す。HepG2腫瘍への集積は全身の臓器中で最も高く、これは標識抗体のRobo1抗原に対する特異的結合によるとして矛盾しない。なお、Mouse#1腫瘍の外側にみられる低集積は、PET実験終了後にmacroscopicに確認されたnecrosis(Mouse#1の全腫瘍体積の3割程度)によく一致した。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、抗モノクローナル抗体作製用抗原デザインを示す。
【図2】図2は、Alexander細胞よリクローニングしたROBO1とGenBank:NM133631に登録されているROBO1を示す。
【図3】図3は、各種BV抗原のウエスタンブロット法による発現確認を示す。A及びBはgp64抗原のanti-gp64抗体(1:10000)による検出を示す。Cは、ROBO1-Full_BVのanti-V5抗体(1:50000)による検出を示す。
【図4】図4は、Ni-NTAカラムによるsROBO1-Hisのアフィニティー精製を示す。各々10μLを適用、CBB染色、10T%_Gel使用。
【図5】図5は、ROBO1発現HEK293細胞のスクリーニングを示す。Aは、ウエスタンブロット法によるCell lysateの解析を示す。Bは、ROBO1発現HEK293を用いたFACS解析を示す。
【図6】図6は、抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析用GST結合タンパク質を示す。
【図7】図7は、抗ROBO1モノクローナル抗体によるROBO1発現HEK293細胞に対するFACS解析を示す。A及びCは、蛍光強度を数値化し、折れ線グラフで比較した。Bは、蛍光強度を傍線グラフで比較した。
【図8】図8は、抗ROBO1モノクローナル抗体によるROBO1発現HEK293細胞に対するCDC活性試験を示す。Aは、gp64_BV抗原免疫で得られた抗体のCDC活性を示す。Bは、ROBO1-Full_BV免疫で得られた抗体とB2318CとのCDC活性比較を示す。
【図9】図9は、抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性比較を示す。A及びBは、カルセイン標識ROBO1発現HEK293細胞に対するBRC5%におけるCDC活性比較を示す。
【図10】図10は、抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析用GST結合タンパク質を示す。Ig:immunoglobulin domain, Fn:fibronectin III domain Ig sampleはすべて不溶画分を使用。Fn、UT1及びGST_Controlは可溶性画分。
【図11】図11は、抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープマッピングを示す。Aは、gp64結合型抗原であるgp4_BV(Fniii-3rd免疫により得られた抗体のエピトープマッピングを示す。Bは、ROBO1-Full_BV免疫により得られたB5317Bのエピトープマッピングを示す。
【図12】図12は、B2212A(IgG2a、エピトープ3rd-FnIII)とB5303A(IgG2a、エピトープ5th-Ig)の比較を示す。Aは、B2212AとB5303AのROBO1発現HEK293細胞に対するFACS解析の比較を示す。Bは、B2212AとB5303AのROBO1発現HEK293細胞に対するCDC活性の比較を示す。
【図13】図13は、HepG2腫瘍ヌードマウス、18FDG投与後55-60分の画像を示す。黄十字で示された腫瘍部を横切る3方向断面像、左からそれぞれaxial, coronal, sagittal断面像)矢印の集積が腫瘍。中央のcoronal像では、糖代謝(hexokinase)の活発な心筋、脳への良好な集積を確認。さらに、排泄経路である腎と膀胱内RI retentionが描出されている。
【図14】図14は、18FDG投与直後から60分まで(同一断面、26フレーム、20sec x6, 60sec x6, 2min x6, 5min x8を表示)を示す。上段左:RI投与直後の血流(動脈)相、下段右:60分後。A:腎動脈血流、B:初期の腫瘍描出、C:尿中に排泄されたRIによる膀胱描出、D:腫瘍描出、E:肝集積、F:心筋集積
【図15】図5は、3つの異なる再構成断面(coronal)としたPET画像上の関心領域設定例(左)と3つの関心領域(ROI)から得られた18FDG投与時刻から60分間の時間放射能曲線(右)を示す。PET画像(左)の赤色矢印は左から順に肝臓のROI、HepG2腫瘍部のROI、腎臓のROIを示す。時間放射能曲線(TAC、右)のX軸は時間(秒)を、Y軸はPETの計数率を示す。
【図16】図16は、18FDG MicroPET Supplementary Images:肺扁平上皮癌QG-56担癌ヌードマウス、60分後像を示す。PET画像(上段)とヌードマウス写真(下段左)の赤色矢印は、肺扁平上皮癌xenograftを示す。18FDG PET画像上、腫瘍の内部は低〜無集積を呈しており(上段)、腫瘍組織割面では、腫瘍内部に固形の腫瘍成分は見られなかった(下段右)。
【図17】図17は、上段から64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb投与後、6時間、1日、2日、3日後のMicroPET画像(各時間とも左からaxial、coronal、sagital断面像、各時間の最高集積をRainbowカラースケールの赤とする相対表示)を示す。心内腔血液プール像に比して、腫瘍への集積は6時間後像では少ないが、腫瘍への集積は相対的に増加した。肝集積はやや低下、腸管へ排泄。腎、膀胱の描出なし。(D:Doral, V:Ventral, L:Left, R:Right, H:Head, T:Tail)
【図18】図18は、Mouse#2における、64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAb集積の経時的変化を示すPET画像を示す。(上段:一日後、中段:二日後、下段:三日後、黄十字は腫瘍を示す。)一日後では腫瘍への集積は正常肝臓への集積より低いが、三日後では腫瘍への集積が最も高くなっている。1日後の像では、腫瘍内部に明らかな64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAbの分布を確認できなかったが、8日目には腫瘍体積全体への分布が認められた。
【図19】図19は、ヌードマウス安楽死時の64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAb(64Cu標識分解産物を含む)の体内分布を示す。(上段:Mouse#1 87時間後、下段:Mouse#2 84時間後)HepG2腫瘍への集積は標識抗体のRobo1抗原に対する特異的な結合によるとして矛盾しない。Mouse#1腫瘍の外側にみられる低集積(上段左と中央)は、necrosisに相当すると考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ROBO1を認識する抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体の製造方法、及び該抗体を含むPET用腫瘍診断剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性肝細胞癌は、2001年において日本国内の死亡原因第一である癌死の中において男性において第三位(13%)、女性において第四位(9.0%)を占める予後の悪い癌種の一つである(厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」抜粋)。ウイルス感染による慢性患者が年々増加し、その多くは肝硬変、そして肝細胞癌に至るケースが多いことから、肝硬変から肝細胞癌における段階の早期診断法、そして肝細胞癌の治療法は非常に強く要望されているものであり、画期的な解決のない場合は、今後10-15年間は死亡数の増加傾向をたどると考えられている。診断法においては血清中のGOP/GTP、アルカリ性フォスファターゼ、アルブミン等や腫瘍マーカーであるAFP(α-フェトプロテイン)の値等の生化学的データ、及び画像診断に基づいて総合的に評価した後、必要な場合は、針生検により少量の組織片をとり、病理学的判断に基づき確定診断が行われている。現在、特に肝細胞癌の診断において使用されているのは腫瘍マーカーであり、その中で最も使用されているアルファフェトプロテイン(AFP)の肝細胞癌患者の陽性率は6〜7割程度となっているが、慢性肝疾患患者や妊婦でも陽性となることもある。また肝癌腫瘍マーカーであるPIVKA-IIの陽性率は5割弱と低いが肝細胞癌への特異性はAFPよりも高いと考えられ、現在この2検査が主に実施されている。いずれにしても、偽陽性もしくは両陰性の症例が存在することから、特異性の高い腫瘍マーカーの存在が期待されている。
【0003】
近年、DNAマイクロアレイ等の高性能アレイを用いた遺伝子解析技術が開発され、包括的かつ網羅的な癌の遺伝子発現解析が実用可能となって来ている。DNAマイクロアレイ解析法を用いて癌組織のmRNAの発現量変化を解析することにより、多段階要因による癌の悪性化、癌細胞の浸潤・転移などに関わる遺伝子群の網羅的な同定が行われている。さらに、同定された遺伝子群の個々の生理機能を解明することによって、新しい癌細胞の特性に関して新たな知見が複数得られるものと期待され、さまざまな癌種において発現が亢進又は減少する分子の同定が進められている。
【0004】
肝細胞癌特異的発現分子であるROBO1はN-CAMやDCC、L1-CAMらが所属するイムノグロブリンスーパーファミリーメンバーのI型膜タンパク質である。その細胞外領域に5つのイムノグロブリンドメインと3つのファイブロネクチンIIIドメインを有する構造をとる。ハエからヒトまで高くアミノ酸配列が保存されており、C.elegansと34%、Dorosofilaと33%、マウスと96%、そしてラットとは95%の相同性を示している。ROBO1のハエホモログはショウジョウバエの遺伝的スクリーニング研究において、軸策の正中交差を制御する分子としてクローニングされ、Slitタンパクの受容体であることが報告されている。また、ROBO1は別のグループより、肺小細胞肺癌の細胞株であるU2020の染色体領域3p12におけるホモ欠損領域内に存在する分子としDutt1(Deleted U Twenty Twenty)としても同定されている。ROBO1は肺癌、乳癌、及び腎癌において、高頻度に染色体のヘテロ欠損(LOH)が検出され、さらにもう一方のアレルにおけるプロモーター領域のメチル化により発現抑制されていることなどから、癌抑制遺伝子の可能性が示唆されている。ROBO1のホモ欠損マウスにおいては半数が胎生致死、そして生存した半数も肺器官形成不全で死亡することが報告されている。さらに、ヘテロ欠損マウスにおいては生後1年以降における癌の発生率が正常マウスと比較し3倍に上昇することからも癌抑制遺伝子として考えられている。また、ROBO1リガンドの一つであるSlit2遺伝子も多くの癌種でメチル化等により発現抑制され、かつ、Slit2のコンディショニングメディウム等を用いた試験で、肺癌細胞株、乳癌細胞株、そして大腸癌細胞株に対して増殖抑制、アポトーシス作用があることから、Slit2も癌抑制遺伝子の候補分子と考えられている。まったく別の知見としてWangらはROBO1が新生血管に発現し、癌細胞でSlit2が発現亢進し癌細胞における血管新生に関与することが示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、肝細胞癌抗原としてROBO1が同定され、ROBO1抗原を標的とした抗ROBO1モノクローナル抗体による肝細胞癌の治療の可能性、及び可溶型ROBO1を指標とした肝細胞癌の血清診断の可能性が報告されている。
【0006】
一方、腫瘍の画像診断は、CTやMRIを用いて行われている。しかしながら、良性/悪性の鑑別・手術後再発の診断・他病変との鑑別などは、たとえ造影剤を用いてもCTやMRIでは難しい場合がある。最近では、CTやMRIを補助する画像診断として、18F-2-fluoro-2-deoxyglucose (18F-FDG)を用いたPositrom Emission Tomography (PET)診断が利用されている。しかし、18F-FDGは、診断メカニズム上ブドウ糖代謝の盛んな正常組織(例えば脳など)や急性期の炎症組織にも集積するため、腫瘍の種類によっては診断しにくい場合があった。また、創薬における分子イメージング技術は、生体内におけるタンパク分子など生体内に存在する微量分子を可視化し、その量を指標化し、さらに動態を定量化する技術である。特に(PET)を用いた方法は、検出感度、定量性において優れており、特に小動物用PETはin-vivoトランスレーショナルリサーチを飛躍的に加速し、創薬プロセスを変革するインパクトを持つことが期待される。
【0007】
【非特許文献1】Ito H, 他、Identification of ROBO1 as a nobel hepatocellular carcinoma antigen and a potential therapeutic and diagnostic target. Clin Cancer Res. 2006 Jun 1;12(11 Pt 1):3257-64.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞膜に発現したROBO1を特異的に認識することができる新規な抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体の製造方法、及び該抗体を含むPET用腫瘍診断剤を提供することを解決すべき課題とした。特に本発明は、肝臓癌を診断できるPET用腫瘍診断剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に膜タンパク分子を特異的に高感度で検出するモノクローナル抗体の作製は容易ではない。その理由として、抗原調製が容易ではないことが、一つには理由である。また、さらに膜タンパク質の機能は生物的に特に重要である場合が多く、種を越えて高く相同性が保たれていることから、抗原部位に対しマウスが免疫寛容となっていることが予測される。本発明では、バキュロウイルス発現系を応用したウイルスディスプレイ抗原を免疫原として使用し、さらにウイルス抗原の主構成タンパク質であるgp64を過剰発現させたトランスジェニックマウスにこれを免疫することにより、ウイルスに対する抗体産生を抑え、ROBO1に対するモノクローナル抗体を特異的に作製することを試みた。その結果、本発明者らは、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体を取得することに成功した。さらに上記のモノクローナル抗体を放射性金属で標識することによって、優れたPET用腫瘍診断剤を提供できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体。
(2) 免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである、(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3) 細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたスクリーニングによって選択される、(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体。
【0011】
(4) 受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマにより産生される、(1)から(3)の何れかに記載のモノクローナル抗体。
(5) (1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(6) 受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマ。
【0012】
(7) ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫し、該免疫動物から抗体産生細胞を回収し、該抗体産生細胞を用いて作製したハイブリドーマを培養して細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体を産生させることを含む、(1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
(8) 放射性金属で標識した(1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、PET用腫瘍診断剤。
(9) 放射性金属が64Cuである、(8)に記載のPET用腫瘍診断剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞膜に発現したROBO1を特異的に認識することができる新規な抗体が提供される。本発明によればさらに、上記抗体を用いたPET用腫瘍診断剤が提供される。本発明のPET用腫瘍診断剤を用いて腫瘍を体外よりイメージングし病変部のひろがり(浸潤や転移)を調べることにより、診断の正確さを高め、さらに放射線内用療法や外部照射、および超音波治療や温熱療法などと組み合わせることによって治療の可能性を拡げ治癒率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)抗原として使用するROBO1
ROBO1のタンパク質レベルの発現解析を実施するためには、特異性の高い抗ROBO1抗体が必要となることから、本発明では、抗ROBO1モノクローナル抗体の作製を実施した。ROBO1はマウスとアミノ酸配列レベルでの相同性が95%以上であることから、本発明においては、定法である一般的な免疫方法を使用せず、発芽型バキュロウイルス抗原(BV抗原)をgp64発現トランスジェニックマウスに免疫する方法と、可溶型ROBO1精製抗原(sROBO1-His)をMRL/lprマウスに免疫する方法の二種類の方法を採用した。ROBO1は細胞外領域に特徴的なドメインである、5つのイムノグロブリンドメインと3つのファイブロネクチンIIIドメインを有する。そのため、各ドメインを保持する形で、Gp64結合型抗原のデザインを行った。
【0015】
すなわち、本発明による細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体は、ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られることを特徴とする。好ましくは、免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである。
【0016】
ROBO1の全長cDNAとしては、野生型のROBO1のcDNAを用いてもよいし、変異体のROBO1のcDNAを用いてもよい。変異体は、好ましくは、野生型のROBO1のアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは90%またはそれ以上、より好ましくは95%またはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。当業者であれば公知の方法、例えば、部位特異的変異誘発法などを用いて、アミノ酸に適宜変異を導入することにより、該蛋白質と同等な蛋白質を調製することが可能である。
【0017】
本発明では、ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いる。抗原として用いるROBO1提示発芽バキュロウイルスの調製方法は公知であり、例えば、特開2001−333773号公報、特開2003−52370号公報、Loisel TP, Ansanay H, St-Onge S, Gay B, Boulanger P, Strosberg AD,Marullo S, Bouvier M., Nat Biotechnol. 1997 Nov;15(12):1300-4., Recovery of homogeneous and functional beta 2-adrenergic receptors from extracellular baculovirus particles:並びに国際公開WO98/46777などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0018】
具体的には、ROBO1の全長cDNAを含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用する。昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori )NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda )細胞(Sf細胞)などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいはPharmingen社(San Diego,CA)、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。
【0019】
本発明で用いる組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb〜10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5'領域と3'領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、キャプシド遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pEVmXIV2、pAcSG1、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcJP1、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBacIII、pAcUW51、pAcAB3、pAc360、pBlueBacHis、pVT−Bac33、pAcUW1、pAcUW42/43などが挙げられ、BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBK5、pBB30、pBE1、pBE2、pBK3、pBK52、pBKblue、pBKblue2、pBFシリーズ(以上、フナコシ株式会社、藤沢薬品工業株式会社等から入手可能)などが挙げられる。
【0020】
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入するか、あるいは予めウイルスで感染させた宿主として用いる培養細胞に上記のトランスファーベクターを移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。
【0021】
本発明の方法では、前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus, BV)を遠心などの分離操作によって回収することができる。細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。先ず感染細胞の培養液を500〜3,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000〜50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。
【0022】
タンパク質を外因性に発現させることは、生化学的な解析を行う上で重要であるが、膜タンパク質においては、その疎水的な特性から、解析する上で十分な量の発現が期待される適切な系は確立されていない。その中でバキュロウイルスと昆虫細胞を用いた発現システムは、高品質の発現が期待される系として水溶性、膜タンパク質ともに使用されている。バキュロウイルス発現系の利点として、大腸菌を用いた発現では通常起こらない脂肪酸アシル化やリン酸化のような翻訳後修飾が見込めることが挙げられる。また、酵母と比較すると、酵母のような細胞壁が発現タンパク質の回収を阻害することがないため、細胞の取り扱いは比較的容易である。動物細胞を用いた場合では、機能に必要な翻訳後修飾が期待されるが膜タンパク質の大量発現が困難である。ただし、バキュロウイルス発現系は高い発現レベルが期待できる反面、時として未熟なタンパク質が増えることにより凝集や分解が起きてしまうことも報告されている。
【0023】
本発明の抗体の種類は特に制限されず、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体、トリ抗体等や、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体 、例えば、キメラ抗体 、ヒト化抗体等の何れでもよい。遺伝子組換え型抗体 は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体 であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体 の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体 の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体 のCDRとヒト抗体 のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体 定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP 239400号公報 、国際公開WO96/02576号公報など)。
【0024】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体 を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体 遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体 を取得することができる(WO93/12227, WO92/03918,WO94/02602, WO94/25585,WO96/34096, WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体 ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体 を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体 の可変領域を一本鎖抗体 (scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体 の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体 を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047, WO92/20791, WO93/06213, WO93/11236, WO93/19172, WO95/01438, WO95/15388を参考にすることができる。
【0025】
また、これらの抗体 は、ROBO1遺伝子によってコードされる蛋白質の全長または一部を認識する特性を失わない限り、抗体 断片(フラグメント)等の低分子化抗体 や抗体の修飾物などであってもよい。抗体 断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Diabodyなどを挙げることができる。このような抗体 断片を得るには、これら抗体 断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。
【0026】
抗体 の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体 を使用することもできる。又、抗体 に放射性同位元素、化学療法剤等を結合することも可能であり、特に放射性標識抗体 は有用である。このような抗体 修飾物は、得られた抗体 に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体 の修飾方法は当業者に公知である。
【0027】
本発明のモノクローナル抗体およびハイブリドーマを製造する方法は、当該技術分野において公知である(Campbell,"Monoclonal Antibody Technology:Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology"、Elsevier Science Publishers,Amsterdam,The Netherlands,1984;St.Groth et al.、J.Immunol.Methods 35:1−21,1980)。DKK1遺伝子によりコードされる蛋白質またはフラグメントを免疫原として用いて、抗体 を生成することが知られている任意の動物(マウス、ウサギ等)に皮下または腹膜内注射することにより免疫することができる。免疫に際してアジュバントを用いてもよく、そのようなアジュバントは当業者に公知である。
【0028】
モノクローナル抗体 は、免疫した動物から脾臓細胞を切除し、ミエローマ細胞と融合させ、モノクローナル抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を作製することにより得ることができる。ELISAアッセイ、ウエスタンブロット分析、ラジオイムノアッセイ、細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたFACS等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて、ROBO1を認識する抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を選択することができる。所望の抗体 を分泌するハイブリドーマをクローニングし、適切な条件下で培養し、分泌された抗体を回収し、当該技術分野においてよく知られる方法、例えばイオン交換カラム、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。
【0029】
モノクローナル抗体 をコードするDNAは、慣用な方法(例えば、モノクローナル抗体 の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)により容易に単離、配列決定できる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAの好ましい出発材料である。一度単離したならば、DNAを発現ベクターに挿入し、E.coli細胞、COS細胞、CHO細胞または形質転換されなければ免疫グロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞へ組換え、組換え宿主細胞からモノクローナル抗体 を産生させることができる。
【0030】
ROBO1遺伝子は、特定の癌組織において亢進された発現を示すため、本発明の抗体 は、癌診断マーカーとしても有用である。本発明の抗体を、ウエスタンブロット法、ELISA法、組織染色法などの手法において用いて、組織または細胞における、ROBO1遺伝子によりコードされる蛋白質の発現を検出することができる。被験者の組織に由来する試料(例えば、生検サンプル、血液サンプル等)と本発明の抗体とを免疫複合体が形成されるような条件下で接触させ、該試料に抗体 が結合するか否かを判定することにより、該試料中のROBO1遺伝子によりコードされる蛋白質の存在または量を判定することができ、このことにより癌の診断、癌の進行または治癒のモニタリング、および予後の予測を行うことができる。生体試料としては、(a)組織、(b)採取した組織の培養物、(c)組織抽出物、(d)癌患者の喀痰、(e)尿、又は(f)血液等が挙げられる。当該組織は、バイオプシーにより採取できる。採取した組織は、免疫組織染色をする場合には、パラフィン包埋又は凍結して用いることもできる。
【0031】
本発明による細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体は、放射性金属で標識することによって、PET用腫瘍診断剤として用いることができる。放射性金属としては、64Cu、
などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。上記の中でも好ましくは、64Cuである。
【0032】
放射性金属で標識された本発明のモノクローナル抗体は、薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化などすることによって、PET用腫瘍診断剤として用いてもよい。例えば、放射性金属で標識された本発明のモノクローナル抗体は、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、放射性金属で標識された本発明のモノクローナル抗体は、水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。
【0033】
PET用腫瘍診断剤の投与経路は特に限定されないが、通常は非経口投与であり、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜などで投与することができる。
【0034】
投与量および投与回数は、患者の年齢、体重、診断の目的などによって異なるが、一般に、本発明の本発明のモノクローナル抗体は、1回あたり体重1kgあたり、約0.1mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.1mgから100mgの範囲となるように投与することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0036】
実施例1:抗ROBO1モノクローナル抗体の作製
(A)方法
(1)ROBO1 cDNAの単離
ROBO1のcDNAを以下の方法で単離した。Alexander細胞より一本鎖cDNAを調製し、それを鋳型としてプライマーRBV2F-TA:5'-ACCATGATTGCGGAGCCCGCTCAC-3'(配列番号1)とRBR-TA:5'-GCTTTCAGTTTCCTCTAATTC-3'(配列番号2)を用いてPCR法による増幅を行った。プライマーRBV2F-TAはROBO1遺伝子(GenBank:NM_133631)の5’-端にハイブリダイズするように、そしてRBR-TAは3’-端にパイブリダイズするようにデザインした。PCR法はLA-PCRキット(TAKARA社製)のプロトコールに準じて反応液を調製し、初めに95℃で2分間一次変性を行い、94℃で15秒、63℃で15秒、72℃で5分からなるサイクルを30回行なった後、最後の伸長反応を72℃で10分間からなる条件で実施した。そして、アガロースゲル電気泳動にてROBO1予測配列と一致する約5kbp付近のバンドの検出した後、その特異的増幅断片をTAクローニング法によりpcDNA3.1/V5-His TOPO(Invitrogen社製)に挿入した。塩基配列を定法により確認したところ、単離したcDNAがROBO1であることが明らかとなった(ROBO1/pcDNA3.1)。
【0037】
(2)ROBO1の細胞外領域ドメインを発現させたgp64結合型組み換えバキュロウイルスの作製
図1に示すように、ROBO1のN末から最初のイムノグロブリン領域(Ig1)を含む領域をはじめとして5種類の抗原をデザインし、バキュロウイルスの膜タンパク質gp64との融合タンパク質として発現させた。すなわち、以下に示すプライマーセットを用いて、上記のROBO1 cDNAを鋳型とし、PCR法にてROBO1の各領域をコードする遺伝子を増幅し、続いてpGEM-Teベクター(プロメガ社製)への挿入を行った。塩基配列を定法にて確認した後、制限酵素KpnIを用いて切断した遺伝子断片をpBacSurfベクター(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターROBO1N/pBS、gp1/pBS、gp2/pBS、gp3/pBS、そしてgp4/pBSを構築した。続いて、4μgの各ベクターを制限酵素BpII (Fermentas社製)により切断し直鎖化した後、Invitrogen社の指示書に準じてBac-N-Blue DNAと共にSf9細胞に導入し、ROBO1-各ドメイン(Ig1、Ig2、Ig3、Fn1、Fn3)とgp64との融合タンパク質発現組み換えバキュロウイルスを調製した。
【0038】
上記により調製した組換えウイルスをSf9細胞(2 x 106個細胞/mL)にMOIが5となるように加え感染させた後、27℃で3日間培養した。ROBO1各ドメインとgp64との融合タンパク質を発現する発芽型バキュロウイルス(BV)は3日間培養後の培養上清より回収した。すなわち、培養液を1500 x gで15分間遠心し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した後、回収した培養上清を45,000 x gで30分間遠心する。沈殿物をPBSに懸濁し、さらに1500 x gで遠心することで細胞成分を除去し、上清を再度45,000 x gで遠心することで得られる沈殿物をPBSで懸濁したものをBV画分とし、抗原として免疫に用いた。
【0039】
なお、すべてのタンパク質濃度はローリー法を改変したDC protein assay kit(Bio-rad社)によって定量した。タンパク質定量の標準にはウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。
【0040】
プライマーセット
ROBO1N-F:5'-GGTACCCCTTCGTCAGGAAGATTTTCCAC-3'(配列番号3)
ROBO1N-R:5'-GGTACCGAGTAATTCCTTGCTACACA-3'(配列番号4)
Gp1-F:5'-GGTACCCGATGAAGGAGTCTATGTCTGTGT-3'(配列番号5)
Gp1-R:5'-GGTACCGCACCAACACAAACATATTTGCCA-3’ (配列番号6)
Gp2-F:5'-GGTACCCACCAATATGGTTGGGGAACGTGA-3'(配列番号7)
Gp-2-R:5'-GGTACCGCAGATGCTTCAGCTTTGCCCACC-3'(配列番号8)
Gp3-F:5'-GGTACCCGCTAATGCATATGGAATTAGTGA-3'(配列番号9)
Gp3-R:5'-GGTACCGCATTCTTGGATACAGTTACACCT-3'(配列番号10)
Gp4-F:5'-GGTACCCGCACCCAGTGCCCCACCCCAAGG-3'(配列番号11)
Gp4-R:5'-GGTACCGCATCTGAAATCTGCTGAGCGAGG-3'(配列番号12)
【0041】
(3)全長ROBO1発現ウイルスの作製
上記(1)で記載した全長ORF領域を含むROBO1 cDNAをpBlueBac4.5-TOPOベクターに直接挿入し、配列解析を行った後、正しい塩基配列を有するトランスファーベクターROBO1/pBBを作製した。4μgのROBO1/pBBを用い、上記と同様に組み換えバキュロウイルスを作製した。上記(2)と同様にBV画分を調製し、抗原として免疫した。
【0042】
(4)組み換え抗原のウエスタンブロット法による検出
各種調製BV抗原の発現確認のため、ウエスタンブロット解析による検出を試みた。前述の各調製BV抗原をSDS-ポリアクリルアミドゲルに供し、タンパク質を分離した後、Hybond-P(アマシャムバイオサイエンス社製)に転写した。そして一次抗体としてanti-gp64抗体(Tanaka T他、J Atheroscler Thrombo, 9: 233-242, 2002)を50000倍希釈で使用し、二次抗体にHRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソンラボラトリー社製)を用い、ECLプラス(アマシャムバイオサイエンス社製)による検出を行った。
【0043】
(5)組み換え体可溶型ROBO1(sROBO1-His)の作製
免疫用抗原として、抗体スクリーニングの際のELISA用抗原として、ROBO1の細胞外領域のC末にHisタグを付加した可溶型ROBO1(sROBO1-His)を以下のように作製した。
上記(1)で記載したROBO1 cDNAを鋳型としプライマーRBV2F-TA:5'-ACCATGATTGCGGAGCCCGCTCAC-3'(配列番号13)とプライマーRB_SH_TA:5'-GGCCGGCTGCTTCACCACAT-3'(配列番号14)を用いてPCR法により細胞外領域をコードする遺伝子を増幅した。PCR産物をpBlueBac4.5-TOPOベクターに直接挿入し、配列解析を行った後、正しい塩基配列を有するトランスファーベクターsROBO1/pBBを作製した。4μgのsROBO1/pBBを用い、上記と同様に組み換えバキュロウイルスを作製した。
【0044】
続いて、sROBO1-Hisは以下のようにして調製した。すなわち、2 x 106個/mLのsf9細胞にMOIが5となるようにsROBO1-His発現組換えバキュロウイルスを感染させ、27℃で3日間培養し、その培養上清を回収した。培養上清中に含まれるsROBO1-HisはNi-NTA superflow(QIAGEN社)を用い添付プロトコールに従い精製した。精製品をCentircon-10(Amicon社製)を用い濃縮、ならびにPBSへのバッファー置換を行うことでsROBO1-Hisを調製した。
【0045】
(6)ROBO1恒常的発現株の樹立
上記(1)で作製した1μgのROBO1/pcDNA3.1を2 x 105個HEK293細胞(6well plateを使用)にFuGene6試薬3μL(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて導入した。発現ベクター導入3日後に培地交換を実施し、DMEM+10% FCSにネオマイシン(Geneticin、GIBCO社)を500μg/mlで添加し、ネオマイシンによる薬剤選抜を実施した。一ヶ月間におよぶ薬剤選抜を実施し、ROBO1発現HEK293細胞のモノクローン化を行った。
【0046】
(7)抗ROBO1モノクローナル抗体の作製(BV抗原)
上記(2)にて調製したBV抗原であるROBO1-N(Ig1)、gp1(Ig2)、gp2(Ig3)、gp4(Fn3)、そして全長発現型BV(ROBO1-Full)を抗原として用い抗ROBO1モノクローナル抗体を作製した。すなわち、PBSに懸濁した1mgのタンパク量に相当する各BV抗原を200ngの百日咳毒素と混合したものをgp64トランスジェニックマウス(WO03/104453)に皮下注射により初回免疫を行った。gp64過剰発現トランスジェニックマウスはgp64をpCAGGSベクターにより全身性に発現させたマウスである。
【0047】
以後の免疫では500μgタンパク量相当の各BV抗原のみを皮下注射した。最終免疫として250μgの各BV抗原を静脈内に投与し、その3日後にマウスから脾臓細胞を単離し、常法によりマウスP3U1細胞との細胞融合を行い、ハイブリドーマ細胞を樹立した。以下に示すELISAをはじめとした各スクリーニング系によりハイブリドーマを選別した。
【0048】
各モノクローナル抗体は産生ハイブリドーマ細胞の培養上清より硫安沈殿法により調製した。また、マウス抗体のアイソタイピングは、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Test Kit MMT1(serotec製、大日本製薬株式会社販売)により同定した。
【0049】
(8)ハイブリドーマ上清のELISAスクリーニング
抗ROBO1モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択はsROBO1-Hisを固層したELISAにて実施した。ELISA法は、50μL(5μg/ml)のsROBO1-Hisを96ウェル平底プレート(ファルコン社製)に4℃で一昼夜おき、その後、40%ブロックエース試薬(大日本製薬社製)を含むTBS緩衝液を用いてブロッキングした後、ハイブリドーマ培養上清を加え、室温で1時間反応させた。次いで、室温にて1時間HRP標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を反応させ、4回洗浄した後、室温にて1時間、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)試薬(Sigma製)を反応させた。0.5N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレート・リーダーMultickanJX(Labsystems社製)で492nmにおける吸光度を測定した。
【0050】
また、BV抗原を免疫した際には、免疫源である50μLのBV抗原(50μg/mL)を96ウェル平底プレート(ファルコン社製)に4℃、一昼夜で固層化し、上記と同様にELISAアッセイを実施した。コントロールにはWild typeのBVを使用した。
【0051】
(9)ハイブリドーマ上清のFACSスクリーニング
立体構造を認識する抗体をスクリーニングするため、FACS解析によるハイブリドーマ上清のスクリーニングを実施した。すなわち、ROBO1強制発現HEK293細胞あるいは陰性対照であるHEK293細胞をFACS溶液(1%アルブミン、0.1% NaN3入りPBS)に懸濁した。細胞懸濁液にハイブリドーマ上清10μLを加えて、4℃で60分間反応させ、FACS溶液で2回洗浄した後、FITC標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を加えて、4℃で30分間反応させた。そしてFACS溶液で2回洗浄した後、使用説明書に準じてFACSCalibur(ベクトンディッキンソン社製)によるFACS解析を実施した。
【0052】
(10)FMAT8200CDSスクリーニング
Cell ELISAをべースとしたFMAT 8200 CDSを用いて、ハイブリドーマ上清のスクリーニングを実施した。すなわち、ROBO1発現HEK293細胞を1 x 104個の細胞をFMATアッセイ用96 well Black plateで一昼夜培養し、翌日、アッセイバッファー(1% BSA+0.01% アザイド /PBS)100μLに交換した。そして10μLのハイブリドーマ上清と50μLのFMAT Blueラベル化抗マウスIgG抗体(final 1μg/mL、アプライドバイオシステム社)を各Wellに添加し、室温、暗室で二時間静置した。その後、8200CDSにて検出し、蛍光強度比をネガティブコントロール(上清マイナス)と比較し、陽性判定を行った。
【0053】
(11)抗ROBO1モノクローナル抗体の作製(sROBO1-His抗原)
上記(5)にて調製したsROBO1-Hisを抗原として用い抗ROBO1モノクローナル抗体を作製した。すなわち、PBSに懸濁した100μgのタンパク量に相当するsROBO1-His抗原を200ngの百日咳毒素と混合したものを自己免疫疾患マウスであるMRL/lprマウスに皮下注射により初回免疫を行った。以後の免疫では50μgタンパク量相当のsROBO1-His抗原を4回から6回、皮下注射した。最終免疫として50μgのsROBO1-His抗原を静脈内に投与し、その3日後にマウスから脾臓細胞を単離し、常法によりマウスP3U1細胞との細胞融合を行い、ハイブリドーマ細胞を樹立した。
以降のスクリーニングは上記と同法にて実施した。
【0054】
(B)結果
(1)ROBO1のクローニング及び発現ベクターの作製
ROBO1 cDNAをPCRにより増幅し、動物細胞発現ベクターとしてROBO1/pcDNA3.1及び、昆虫細胞発現用トランスファーベクターROBO1/pBBを作製した。それぞれのC末端にV5とHis6タグが付加されている。また、膜貫通領域のN末側で切断した可溶型ROBO1(1-862アミノ酸、sROBO1-His)発現用のトランスファーベクターsROBO1/pBBを作製した。
【0055】
Gp64結合型抗原は図1に示すように、ROBO1のN末から最初のイムノグロブリン領域(Ig1)を含む領域をはじめとして5種類の抗原をデザインした。最終的に各目的ドメインを含む配列を、pBacSurfベクター(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターROBO1N/pBS、gp1/pBS、gp2/pBS、gp3/pBS、そしてgp4/pBSを構築した。
【0056】
ROBO1のcDNA配列はGenBankに登録してある配列と異なり、第3イムノグロブリンドメイン以降の309番目のアミノ酸以降に、VGSが挿入されたものであった(図2)。これは鋳型に使用したAlexander細胞における変異に起因するものかと考え、胎児肝臓、胎児脳、HuH6などのcDNAからクローニングしたところ、すべてのcDNAにおいて3アミノ酸の挿入が確認された。
【0057】
(2)抗原タンパクの発現確認
免疫用抗原として各組み換えウイルスを構築し、各発現をウエスタンブロット解析により確認を行った。その結果、ROBO1N_BV、gp1_BV、gp2_BV、及びgp4_BVはすべて図3のA及びBに示すように発現に成功した。しかしながら、イムノグロブリンドメインの3番目をコードするgp3の発現が認められなかった(図3のA)。そのため、免疫源としてgp3は以降除外した。
【0058】
Gp64結合型ではなくROBO1全長を発現させたROBO1-Full_BVは図3のBに示す。また、sROBO1-Hisに関してはNi-NTAカラムより精製した、図4に示すフラクション2,3の部分をあわせ、精製品とした。
【0059】
(3)ROBO1恒常的発現HEK293細胞の作製
ROBO1/pcDNA3.1を用いてROBO1恒常的発現細胞の樹立を行った。1μgのROBO1/pcDNA3.1を2 x 105個HEK293細胞に3μLのFuGene6試薬(ロシュダイダイアグノスティック社製)を用いて導入し、二目後にネオマイシン(500μg/mL, Geneticin、GIBCO社)を培地に添加し、さらに一週間後に1 cell/wellのリミティングダイリューションによるセレクションを実施した。そして、モノクローン化されネオマイシン耐性能を獲得した細胞を回収して、各RIPAライゼート液を調整し、等量2μgのタンパク相当量を各レーンに供与し、ウエスタンブロット解析を実施した(図5)。その結果、抗ROBO1モノクローナル抗体であるA7241A及び抗V5抗体などで検出されたROBO1と考えられる分子量の位置のバンドを指標に比較を行ったところ、R#6、R#10及びR#12におけるROBO1の発現が他のクローンと比較し高いことが明らかとなった。
【0060】
引き続き、抗V5抗体によるFACS解析を実施した。ROBO1に対するV5タグは細胞内領域のC末端に付加したため、抗体が細胞内のV5タグを検出できるよう一次抗体添加時に0.1%サポニンを含むFACS溶液を用いた。その結果、コントロールのHEK293細胞のシフトは認められなかったのに対し、ROBO1発現細胞株R#6、R#10及びR#12はV5抗体に対する特異的なピークのシフトが認められた(図5)。以上の解析より、ウエウスタンブロット解析の比較でもっとも発現量の高いR#6をROBO1発現HEK293細胞株とすることにした。
【0061】
(4)抗ROBO1モノクローナル抗体の作製
表1に示すように各種抗原とマウスの組み合わせにより、数々の抗ROBO1モノクローナル抗体の作製を実施した。
【0062】
【表1】
【0063】
スクリーニング系としては、精製抗原ELISA、そしてBV抗原ELISAは当初より実施していたが、FACSスクリーニングはB2200シリーズ以降、そしてFMAT8200CDSスクリーニングはB5200シリーズ以降に実施した。その結果、表2に示すように、種々の抗ROBO1モノクローナル抗体の作製に成功した。
【0064】
【表2】
【0065】
モノクローナル抗体B5209Bを産生するハイブリドーマは、受託番号FERM P−21238として、2007年(平成19年)3月2日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されている。
【0066】
(C)考察
抗体作製に関してはヒトROBO1のアミノ酸配列の相同性がマウスと95%以上と非常に高く、さらに目的のエピトープ部位が細胞外領域であったため、抗体取得方法に工夫を行った。すなわち、BV抗原とgp64発現トランスジェニックマウスに免疫する方法と、可溶型ROBO1精製抗原(sROBO1-His)をMRL/lprマウスに免疫する方法の二種類の方法を本研究にて実施した。
【0067】
免疫源の抗原性を挙げるためにBV抗原としてウイルスのまま免疫するが、ウイルスの主構成成分であるgp64に対する抗体が大量にできる可能性が新たに生まれる。そのため、本発明では、gp64過剰発現トランスジェニックマウスを用いることによって、目的抗原に対する抗体を大量に取得することを試みた。
【0068】
また、MRL/lprマウスは、これまでヒトのループス腎炎、結節性多発動脈炎、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群などの全身性自己免疫病モデルとして巾広く研究されてきたものである。このような自己免疫疾患マウスに抗原性が低いと予測されるROBO1を免疫した際には、通常のマウスよりもユニークな抗体が得られることを期待し、この方法を選択するにいたった。
【0069】
上記二つの戦略を実施した結果、表2に示すように、立体構造を認識する抗体も含め、非常に数多くの抗ROBO1モノクローナル抗体の作製に成功した。免疫源が異なることから、両方法の比較は単純にできないが、他のマウスと比較しMRL/lprマウスは免疫中のマウス自身へのダメージが大きくマウスのハンドリングに注意を要した。
【0070】
陽性クローンの数が各スクリーニングで大きく異なるが、これは使用した免疫源が要因の一つであると考えた。少なくともこれまでイムノグロブリンドメインに対するFACS陽性抗体の取得は確認されていない。この領域はROBO1リガンドの結合領域となり、種を越えてもっとも高く相同性が保たれているところである。そのため、免疫寛容となりうることが予測され抗体の作製が困難である可能性が一つには考えられた。また、抗ROBO1抗体をスクリーニングする際に、ウシ血清中のROBO1様タンパクが吸収成分として反応した可能性が考えられ、立体構造を認識する抗体ほどスクリーニングで漏れていることが予測された。
【0071】
さらなる要因としては、抗原として用いたgp64結合型抗原の立体構造がROBO1と異なる可能性が考えられた。各イムノグロブリンドメイン内にはS-S結合が存在するが、gp64とフユージョンする際に再構成されていない可能性が考えられた。実際には各イムノグロブリンドメインにおいて、再構成に必要と考えられるCysを保存してデザインを行っているが、gp64の構造の影響を受けている可能性も考えられる。
【0072】
以上の理由から、B52、53シリーズでは血清中のウシROBO1様タンパクが少ないCSをFBSの代わりに用いてハイブリドーマのスクリーニグを実施することと、イムノグロブリン領域の立体構造が保たれていると予測するROBO1-Full/BV抗原を免疫源として用いる二つの工夫を入れて、抗体作製を実施した。その結果、明らかにFACS陽性抗体の樹立数は増大する結果となった(表1及び表2)。本発明では、このシステムにより、最終的に高い細胞障害活性を示す抗体を単離することに成功した。
【0073】
実施例2:細胞障害活性(CDC活性)を指標とした抗ROBO1モノクローナル抗体のキャラクタライゼーション
(A)方法
(1)抗ROBO1モノクローナル抗体のFACS解析
実施例1における「ハイブリドーマ上清のFACSスクリーニング」に記載した方法に準じて解析を実施した。Fluorescense intensityを数値化(X mean)して用いた。
【0074】
(2)抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性測定
カルセイン(Wako)で標識したROBO1発現HEK293細胞を用いて解析を行った。具体的には以下の通りである。
(i)ヒトアルブミン・ベロナール・バッファ(HAVB)の作製
NaCl(特級、和光純薬工業株式会社)12.75g、Na-バルビタール(特級、和光純薬工業株式会社)0.5625g、バルビタール(特級、和光純薬工業株式会社)0.8625gをミリQ水に溶解し200mLとした後、オートクレーブ処理(121℃、20分間)を行った。オートクレーブ処理した100mLの温ミリQ水を加え、pH7.43を確認した(推奨pH7.5)。これを5×ベロナールバッファとした。CaCl2・ 2H2O(特級、純正化学株式会社)0.2205gを50mLミリQ水に溶解し0.03mol/Lとし、CaCl2溶液とした。MgCl2・6H2O(特級、純正化学株式会社)1.0165gを50mLミリQ水に溶解し0.1mol/Lとし、MgCl2溶液とした。5×ベロナールバッファ100mL、ヒト血清アルブミン(ブミネート(登録商標)25%、ヒト血清アルブミン濃度250mg/mL、バクスター株式会社)4mL、CaCl2溶液2.5mL、MgCl2溶液2.5mL、KCl(特級、純正化学株式会社)0.1g、グルコース(D(+)-グルコース、ブドウ糖無水、特級、和光純薬工業株式会社)0.5gをミリQ水に溶解し500mLとした。これをHAVBとした。ろ過滅菌後、設定温度5℃にて保存した。
【0075】
(ii) 標的細胞の調製
ROBO1強制発現HEK293細胞及びALXは、DMEM培地/10%FBS(SIGMA)で培養した(ROBO1発現HEK293細胞には0.5 mg/mLネオマイシン(Geneticin, GIBCO社)を添加)。そして、細胞剥離緩衝液(GIBCO)を用いてディッシュから剥離して、96ウェルU底プレート(BECTON DICKINSON)の各ウェルに1×104細胞/ウェルで分注し、一晩培養した。培養後、5.55MBqのクロム-51、あるいは終濃度20μg/mLのカルセイン試薬(WaKo)を加え、5%炭酸ガスインキュベータ中37℃ 1時間培養し、この細胞をHAVBで2回洗浄し、50μLのHAVBを加え標的細胞とした。
【0076】
(iii) 幼令ウサギ補体の調製
幼令ウサギ補体(BABY RABBIT COMPLEMENT、CEDARLANE)を、1バイアルあたり1mLの注射用蒸留水(扶桑薬品工業株式会社)に溶解し、補体溶液とした(試験時に用事調製)。
【0077】
(iv) CDC活性測定
抗ROBO1モノクローナル抗体をHAVBで希釈し抗体溶液とし、標的細胞に抗体溶液を50μLずつ添加し氷上で15分静置した(終濃度0.16μg/mL〜100μg/mL)。続いて各ウェルに補体溶液を100μg/mLずつ添加し(終濃度5〜25%)、5%炭酸ガスインキュベーター中に37℃で90分間静置した。プレートを遠心分離後、各ウェルより上清を100μLずつ回収し、ガンマカウンターにて放射活性を測定した(カルセイン標識の際には494nmで測定)。下式により特異的クロム遊離率を求めた。
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)/(B-C)×100
Aは各ウェルにおける放射活性(cpm)、Bは標的細胞に2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク株式会社)を100μL、HAVBを50μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値、Cは標的細胞にHAVBを150μL添加したウェルにおける放射活性(cpm)の平均値を示す。試験は三重に行い、CDC活性(%)について平均値および標準偏差を算出した。
【0078】
(3)抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析
ROBO1発現細胞外領域に存在する5つのイムノグロブリンドメイン、3つのファイブロネクチンIIIドメインを保有することから、各エピトープ解析用抗原が、それぞれ重複する形でデザインし、GST結合型組み換え体として発現させた(図6)。8つの抗原にプラスし、膜貫通領域上流の30アミノ酸(UT1_GST、831-860アミノ酸)と、第2、第3イムノグロブリンドメインをあわせたIg2-3と第4、第5イムノグロブリンをあわせたIg4-5の計11種類である。すなわち、以下に示すプライマーセットを用いてPCR法により目的遺伝子断片をクローニングし、pET41bベクターにBamHI-HindIIIサイトにて挿入を行った(Ig1/pET41b〜UT1/pET41bの計11ベクター)。それぞれの発現ベクターをBL21(DE3)(Novagen)に形質転換し、0.5M IPTG、3時間、37℃で発現誘導した菌体を1% Triton X-100/PBSにて超音波破砕し、その不溶性画分、可溶性画分をエピトープ解析用抗原とした。また、免疫源として使用したsROBO1-Hisは細胞外領域全長のコントロールとして使用した。
【0079】
Ig1F:5'-GGATCCGATGATTGCGGAGCCCGCTCACTTTTACC-3’ (配列番号15)
Ig1R:5'-AAGCTTGACATCCGAAGGGTTTTGTCTGAAGTCAT-3'(配列番号16)
Ig2F:5'-GGATCCGAATGCATCGCTGGAAGTAGCCATACTTC-3'(配列番号17)
Ig2R:5'-AAGCTTACTGGGTCTCTTCACAAATGATGGTCTC-3'(配列番号18)
Ig3F:5'-GGATCCGGAGAGTGAAGTAGCCGAGCTGACTGTC-3'(配列番号19)
Ig3R:5'-AAGCTTCCGTCCCAAAGCAACAACCTGGTCACGG-3'(配列番号20)
Ig4F:5'-GGATCCGCCCCGTGACCAGGTTGTTGCTTTG-3'(配列番号21)
Ig4R:5'-AAGCTTTACAGTCTGATTCACAGGACCTTGTCG-3'(配列番号22)
Ig5F:5'-GGATCCGATCATCACAAAGGCATATTTGGAAG-3'(配列番号23)
Ig5R:5'-AAGCTTTGTATTTCTGCTGACATCTGTCACTTC-3'(配列番号24)
Fn1F:5'-GGATCCGCCAAATTTAATCCCTAGTGCCCCATC-3'(配列番号25)
Fn1R:5'-AAGCTTAAGGACGGTGGGGTTGTGGAGGTGCAG-3'(配列番号26)
Fn2F:5'-GGATCCGAAGCAGGTCCAGAGAGAGCTGGGAAATG-3'(配列番号27)
Fn2R:5'-AAGCTTCTTGGATACAGTTACACCTTGGGGTGG-3'(配列番号28)
Fn3F:5'-GGATCCGTTTGCCAAAACCCTGGAAGAAGCACC-3'(配列番号29)
Fn3R:5'-AGCTTCTGCTTCACCACATCTGAAATCTGCTG-3'(配列番号30)
UT1F:5'-GGATCCGCAGTTCATCCAGCTGGATGCC-3'(配列番号31)
UT1R:5'-AAGCTTCTGCTTCACCACATCTGAAATCTGCTG-3'(配列番号32)
*Ig2-3はIg2FとIg3R、Ig4-5はIg4FとIg5Rの各プライマーの組み合わせ
【0080】
(B)結果
(1)ROBO1発現HEK293細胞に対する各抗ROBO1モノクローナル抗体のFACS解析比較
B2318C抗体(IgG2a)を指標に、B1511A(IgM)とB2610A(IgG1)の容量依存的なFACSアフィニティー解析を実施した(図7のA)。B2318Cは抗体低濃度でのROBO1に対するアフィニティーが他の抗体と比較し、低くなる傾向が示された。引き続き、抗体濃度2μg/mLの値に統一し、ROBO1-Full_BV/gp64TGM免疫シリーズであるB47、B52、そしてB53シリーズの作製抗体(表1)のFACS解析を実施した(図7のB)。そして、主な抗体の濃度依存性カーブを図7のCに示した。以上の解析により、細胞表面上のROBO1に対するアフィニティーの高い抗体がB47, B52, B53シリーズに多数含まれることが明らかとなった。
【0081】
(2)抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性比較
B2318CとB1511A、及びB2610Aの抗体容量依存的なCDC活性評価を実施した(図8のA)。図7のAのFACS解析と相関する傾向がCDC活性測定でも示された。B2318Cと比較し、B1511A及びB2610Aは低容量での細胞障害活性が認めらることが明らかとなった。
【0082】
以上の検討結果を受け、抗体濃度0.1μg/mLと1.0μg/mLにおける抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性比較を実施した(図9)。その結果、B5209B、B5303A、そしてB5317Bは、これまで取得したいずれの抗体よりも、活性が強いことが示された。引き続き、上記の抗体と、B2318C抗体の抗体濃度依存的なCDC活性評価の比較を行った(図8のB)。その結果、B5209B(IgG2b)がもっともCDC活性が高いことが明らかとなった。
【0083】
(3)抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析
図6に示した各種GST結合タンパク質の発現解析を実施した。Ig2_GSTとIg5_GSTは可溶化・不溶化画分のいずれにも目的タンパクは検出されず、それ以外のGST結合タンパク質をエピトープ解析に使用した(lg2-3_GSTとIg4-5_GST)。各ドメインの発現を抗GST抗体で検出した結果を図10に示す。Ig3_GSTを除き、イムノグロブリンドメインであるIg1、2-3、4、及び4-5_GSTは可溶化画分で微量しか検出できなかったため、すべて不溶化画分をエピトープ解析に使用し、ファイブロネクチンIIIドメインであるFn1、2、3_GST及びUT1_GSTはすべて可溶化画分を使用した。
【0084】
はじめにgp4_BVで免疫して得られた抗体であるB2318C、B2212A及びB2610Aのエピトープ解析を実施した。図6に示すように抗原部位には膜貫通領域上流から第3ファイブロネクチンIIIドメインまで含まれているため(738-855アミノ酸)、Fn3_GSTとUT1_GSTを用いてウエスタンブロット法によるエピトープ解析を実施した。その結果、図11のAに示すように、いずれもUT1_GSTには結合せず、Fn3のみであったため、それぞれの認識部位が第3ファイブロネクチンIIIドメインであることが明らかとなった。
【0085】
次にROBO1-Full_BV抗原をgp64TGMに免疫して得られたB47、B52およびB53シリーズで得られた抗体のエピトープ解析を各GST抗原を用いて実施した。そのウエスタン解析結果の代表としてB5317B抗体のブロット図を図11のBに示す。そして最終的にすべての抗体の結合ドメインが同定されたため、それを表3にまとめて示した。ROBO1-Full_BVの免疫により細胞外領域のいずれの箇所にも結合する抗体が得られる可能性があったはずであるが、結果としてB5304Aの第1ファイブロネクチンIIIドメイン以外は、すべて第5イムノグロブリンドメインへ結合する抗体であった。また、sROBO1-HisをMRL/lprマウスに免疫して得たB1511A(IgM)の結合サイトも第5イムノグロブリンドメインであることが明らかとなった。
【0086】
【表3】
【0087】
(C)考察
本研究にて取得した抗ROBO1モノクローナル抗体のキャラクタライゼーションにより、各抗体のCDC活性能、細胞表面上のROBO1結合能(FACS解析)、そしてROBO1結合ドメイン(エピトープ)が明らかとなった。そして、本研究で試みた3種類の免疫方法の中で、もっとも細胞障害活性能を持つ抗体の単離に成功したのはROBO1-Full_BVをgp64TGMに免疫する方法であった。この際に血清をFCS(ウシ胎児血清)からCS(ウシ血清)に変更している点も重要である。
【0088】
ROBO1各ドメインのgp64結合型抗原免疫の際にFACS陽性抗体を得ることに成功したのは第3ファイブロネクチンドメイン(gp4_BV)だけであった。また、エピトープマッピングの際に使用したGST結合型タンパク質でファイブロネクチンドメインのタイプは容易に大腸菌発現系で可溶化したが、イムノグロブリンドメインに関しては、第3ドメインを除き、第2, 5は発現せず、第1、4は不溶性であった。これらの現象から考察すると、イムノグロブリンドメインのようにシステイン等が立体構造に大きく影響する領域に対する抗体の作製の際には、部分的な発現は望ましくないことが示唆された。
【0089】
また、ROBO1細胞外領域すべてを含む抗原であるROBO1-Full_BVとsROBO1-Hisの免疫により、得られた細胞障害活性能を保有する抗体のエピトープは、1例を除き、すべて第5イムノグロブリンであった(表3)。FACS陰性のクローンはスクリーニングの過程で選別されてこないため、実際には他のエピトープを認識するFACS陰性抗体がマウス脾臓で産生されていた可能性は否定できないと考える。他の部位(ドメイン)は免疫源の立体構造と細胞表面の立体構造が類似していない可能性も考えられるが、何らかの理由により第5イムノグロブリンに対する抗体が産生されやすい可能性が考えられた。
【0090】
今回作成した抗体パネル(表3)により至適エピトープ部位の考察を行った。CDC活性等の強弱の影響には、抗体のアイソタイプとROBO1とのアフィニティー、そして抗原結合部位の3点が考えられる。そのため、同一アイソタイプで、かつ、同等のアフィニティーを持つ抗体を比較することにより、至適抗原結合部位の類推が行える。今回単離したB2212AとB5303AはともにIgG2aで、FACS解析におけるアフィニティー(EC50値)が7.3nMと4.9nMで、お互いに近い値を示す(図12のA)。それらの細胞障害活性能は、明らかにB5303Aのほうが高いことを考えると(図12のB)、第3ファイブロネクチンドメインよりも、第5イムノグロブリンドメインを標的とする方が、細胞障害活性が誘導されやすいことが示唆された。
【0091】
実施例3:PETによる腫瘍の体外イメージング」
(A)方法
(1)18FDG Study
使用動物:HepG2細胞107個を6週齢のBALB/cAjcl-nu/nu雄マウスに移植し、xenograft modelを作成、実験時に9週齢、腫瘤サイズ10x8mm、体重25gとした。
【0092】
麻酔:自作小動物用吸入麻酔器具を用いてIsoflurane吸入麻酔を実施した。自発呼吸状態をビデオカメラで監視し、呼吸数と投与濃度を定時に記録した。
【0093】
保温:体温低下をさけるため、自作透明カバーにより外気との直接接触をさけ、少量のハロゲンランプ光をスキャナー外から間接的に照射して保温。室内とカバー内の温度を定時に記録した。
【0094】
使用放射性医薬品とその投与方法:18FDG(18F半減期:110分)、約0.8mCi(10MBq)を、27G針から作製した自作カニュレーション器具を用いて、静脈ラインから約1分間かけて投与した。
【0095】
撮像装置とPETデータ収集プロトコール:Siemens社製MicroPET Focus 120(Figure1、右下)を用いて、20sec x6,60sec x6,2min x6,5min x8(合計26フレーム、60分間)の動態画像データ収集を行った。
【0096】
(2)64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb Study
使用動物:前術のHepG2細胞xenograft model2匹を17週齢で使用した。実験初日前夜から初日の実験終了までは絶食とした。Mouse#1とMouse#2の腫瘍サイズはそれぞれ15mm x13mmと18mm x12mm、実験中の5日間(2007年1月16日〜20日)で体重はそれぞれ22-26g、19-21gであった。なお、最終日(20日)の実験終了後、腫瘍部を切り出し、ホルマリン固定し、腫瘍部以外は凍結保存とした。
【0097】
放射性医薬品の合成:ポジトロン核種64Cu(半減期12.7時間)を、64Ni(p,n)64Cu反応により住重試験検査(愛媛県、新居浜市)にて製造した。次に第一ラジオアイソトープ社(千葉県松尾町)にて、双機能性キレート剤1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10 -tetraacetic acid(DOTA)を反応性の高いイソチオシアネート基を介して抗Robo1 mAb(実施例1で作製したモノクローナル抗体B5209B)へ導入した。最後にDOTA化mAbを64Cu標識し、活性評価を行った。
【0098】
放射性医薬品の仕様:64Cu-DOTA-抗Robo1 whole IgGモノクローナル抗体の放射能濃度は23.3MBq/mL(ただし、511KeV測定では16.4MBq/mL)であった。投与液量は0.8mL(mouse#1),0.5 mL(mouse#2)で、それぞれ投与時には約9MBq、6MBq(511KeV window)に相当する。なお、抗体濃度は0.331mg/mLであった。
【0099】
麻酔と保温:麻酔や保温の方法はFDG studyと同様であるが、MicroPETデータ収集にあわせて、一匹あたり複数回の麻酔を実施した。
【0100】
PETデータ収集プロトコール:Mouse#1には留置静脈ラインから64Cu-DOTA mAb溶液0.8mLを5分間かけて投与し、さらにMouse#2にも0.5mLを投与した。Mouse#1に対して合計8回、22.5時間のデータ収集を、Mouse#2に対して合計6回、18.5時間のデータ収集を、投与直後から4日目にかけて行った。なお、データ収集時間が8時間の最終スキャンは、投与から4日後にヌードマウスを安楽死させた後に実施した。
【0101】
画像再構成と画像データ解析(概略):収集したPETデータは、Part1、Part2ともに一連の処理後、最終的にFiltered Back Projection法によって、3Dもしくは4D画像(dynamicデータ収集の場合)へと再構成した。画像表示は関心領域(ROI)設定、時間放射能曲線(TAC)の計算は、MicroPET用ソフトウェアであるAsiProを用いて行った。
【0102】
(B)結果
(1)18FDG Study
HepG2腫瘍ヌードマウス、18FDG投与後55-60分の画像を図13に示す。HepG2腫瘍部の18FDG集積は、hexokinase活性の高い心臓や脳よりも低く、18FDG metaboliteが脱リン酸化によって分解される肝臓よりも高いことを確認した。
【0103】
18FDG投与直後から60分まで、同一coronal断面、合計26フレームの動態画像を図14に示す。投与直後の血流相における腎動脈血流(図14のA)、腫瘍の初期描出(図14のB)、尿中に排泄されたRIによる膀胱描出(図14のC)、18FDG のmetabolic trappingによると考えられる腫瘍の集積(図14のD)、肝集積(図14のE)、心筋集積(図14のF)を、スキャン範囲を拡張するために寝台を移動させることなくマウス全身のRI動態画像とした。
【0104】
18FDGの各臓器における薬物動態を簡便に評価するために設定した肝臓、腎臓、HepG2腫瘍部の3つの関心領域(ROI)から時間放射能曲線(TAC)を得た(図15)。18FDG投与後60分間は、腎集積が常にもっとも高く、HepG2腫瘍の集積は緩徐に上昇するが、約12分後に正常肝の集積を越えていた。
【0105】
Supplement:Additional 18FDG Study with lung cancer xenograft
肺扁平上皮癌QG-56担癌ヌードマウス、60分後18FDG画像を図16に示す。PET画像上、肺扁平上皮癌xenograftの内部は低〜無集積となっており、腫瘍組織割面では、腫瘍内部に固形の腫瘍成分は見られなかった。
【0106】
(2)64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb Study
Mouse#1へ64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb投与後、6時間、1日、2日、3日後のPET画像を図17に示す。6時間像では心内腔の血液プール像と比較してHepG2腫瘍への集積は少なかったが、3日後まで腫瘍への集積は緩徐に増加した。64Cu-DOTA mAbの肝臓へ非特異的集積は、胆道系を介してゆっくりと腸管へ排泄されていた。なお、腎と膀胱の集積は確認できなかった。
【0107】
Mouse#2へ64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb投与後、1日、2日、3日後のPET画像を図18に示す。一日後では腫瘍への集積は正常肝臓への集積より低く、腫瘍内部には64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAbの分布を確認できない部分が見られたが、三日後には腫瘍体積全体へ高集積の分布が認められた。
【0108】
二匹のヌードマウスを安楽死させた時点(Mouse#1:87時間後、Mouse#2:84時間後)での64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAb(64Cu標識分解産物を含む)の体内分布を図19に示す。HepG2腫瘍への集積は全身の臓器中で最も高く、これは標識抗体のRobo1抗原に対する特異的結合によるとして矛盾しない。なお、Mouse#1腫瘍の外側にみられる低集積は、PET実験終了後にmacroscopicに確認されたnecrosis(Mouse#1の全腫瘍体積の3割程度)によく一致した。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、抗モノクローナル抗体作製用抗原デザインを示す。
【図2】図2は、Alexander細胞よリクローニングしたROBO1とGenBank:NM133631に登録されているROBO1を示す。
【図3】図3は、各種BV抗原のウエスタンブロット法による発現確認を示す。A及びBはgp64抗原のanti-gp64抗体(1:10000)による検出を示す。Cは、ROBO1-Full_BVのanti-V5抗体(1:50000)による検出を示す。
【図4】図4は、Ni-NTAカラムによるsROBO1-Hisのアフィニティー精製を示す。各々10μLを適用、CBB染色、10T%_Gel使用。
【図5】図5は、ROBO1発現HEK293細胞のスクリーニングを示す。Aは、ウエスタンブロット法によるCell lysateの解析を示す。Bは、ROBO1発現HEK293を用いたFACS解析を示す。
【図6】図6は、抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析用GST結合タンパク質を示す。
【図7】図7は、抗ROBO1モノクローナル抗体によるROBO1発現HEK293細胞に対するFACS解析を示す。A及びCは、蛍光強度を数値化し、折れ線グラフで比較した。Bは、蛍光強度を傍線グラフで比較した。
【図8】図8は、抗ROBO1モノクローナル抗体によるROBO1発現HEK293細胞に対するCDC活性試験を示す。Aは、gp64_BV抗原免疫で得られた抗体のCDC活性を示す。Bは、ROBO1-Full_BV免疫で得られた抗体とB2318CとのCDC活性比較を示す。
【図9】図9は、抗ROBO1モノクローナル抗体のCDC活性比較を示す。A及びBは、カルセイン標識ROBO1発現HEK293細胞に対するBRC5%におけるCDC活性比較を示す。
【図10】図10は、抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープ解析用GST結合タンパク質を示す。Ig:immunoglobulin domain, Fn:fibronectin III domain Ig sampleはすべて不溶画分を使用。Fn、UT1及びGST_Controlは可溶性画分。
【図11】図11は、抗ROBO1モノクローナル抗体のエピトープマッピングを示す。Aは、gp64結合型抗原であるgp4_BV(Fniii-3rd免疫により得られた抗体のエピトープマッピングを示す。Bは、ROBO1-Full_BV免疫により得られたB5317Bのエピトープマッピングを示す。
【図12】図12は、B2212A(IgG2a、エピトープ3rd-FnIII)とB5303A(IgG2a、エピトープ5th-Ig)の比較を示す。Aは、B2212AとB5303AのROBO1発現HEK293細胞に対するFACS解析の比較を示す。Bは、B2212AとB5303AのROBO1発現HEK293細胞に対するCDC活性の比較を示す。
【図13】図13は、HepG2腫瘍ヌードマウス、18FDG投与後55-60分の画像を示す。黄十字で示された腫瘍部を横切る3方向断面像、左からそれぞれaxial, coronal, sagittal断面像)矢印の集積が腫瘍。中央のcoronal像では、糖代謝(hexokinase)の活発な心筋、脳への良好な集積を確認。さらに、排泄経路である腎と膀胱内RI retentionが描出されている。
【図14】図14は、18FDG投与直後から60分まで(同一断面、26フレーム、20sec x6, 60sec x6, 2min x6, 5min x8を表示)を示す。上段左:RI投与直後の血流(動脈)相、下段右:60分後。A:腎動脈血流、B:初期の腫瘍描出、C:尿中に排泄されたRIによる膀胱描出、D:腫瘍描出、E:肝集積、F:心筋集積
【図15】図5は、3つの異なる再構成断面(coronal)としたPET画像上の関心領域設定例(左)と3つの関心領域(ROI)から得られた18FDG投与時刻から60分間の時間放射能曲線(右)を示す。PET画像(左)の赤色矢印は左から順に肝臓のROI、HepG2腫瘍部のROI、腎臓のROIを示す。時間放射能曲線(TAC、右)のX軸は時間(秒)を、Y軸はPETの計数率を示す。
【図16】図16は、18FDG MicroPET Supplementary Images:肺扁平上皮癌QG-56担癌ヌードマウス、60分後像を示す。PET画像(上段)とヌードマウス写真(下段左)の赤色矢印は、肺扁平上皮癌xenograftを示す。18FDG PET画像上、腫瘍の内部は低〜無集積を呈しており(上段)、腫瘍組織割面では、腫瘍内部に固形の腫瘍成分は見られなかった(下段右)。
【図17】図17は、上段から64Cu-DOTA-anti-Robo1 whole IgG mAb投与後、6時間、1日、2日、3日後のMicroPET画像(各時間とも左からaxial、coronal、sagital断面像、各時間の最高集積をRainbowカラースケールの赤とする相対表示)を示す。心内腔血液プール像に比して、腫瘍への集積は6時間後像では少ないが、腫瘍への集積は相対的に増加した。肝集積はやや低下、腸管へ排泄。腎、膀胱の描出なし。(D:Doral, V:Ventral, L:Left, R:Right, H:Head, T:Tail)
【図18】図18は、Mouse#2における、64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAb集積の経時的変化を示すPET画像を示す。(上段:一日後、中段:二日後、下段:三日後、黄十字は腫瘍を示す。)一日後では腫瘍への集積は正常肝臓への集積より低いが、三日後では腫瘍への集積が最も高くなっている。1日後の像では、腫瘍内部に明らかな64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAbの分布を確認できなかったが、8日目には腫瘍体積全体への分布が認められた。
【図19】図19は、ヌードマウス安楽死時の64Cu-DOTA-anti-Robo1 mAb(64Cu標識分解産物を含む)の体内分布を示す。(上段:Mouse#1 87時間後、下段:Mouse#2 84時間後)HepG2腫瘍への集積は標識抗体のRobo1抗原に対する特異的な結合によるとして矛盾しない。Mouse#1腫瘍の外側にみられる低集積(上段左と中央)は、necrosisに相当すると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体。
【請求項2】
免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたスクリーニングによって選択される、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマにより産生される、請求項1から3の何れかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項6】
受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマ。
【請求項7】
ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫し、該免疫動物から抗体産生細胞を回収し、該抗体産生細胞を用いて作製したハイブリドーマを培養して細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体を産生させることを含む、請求項1から4の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項8】
放射性金属で標識した請求項1から4の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、PET用腫瘍診断剤。
【請求項9】
放射性金属が64Cuである、請求項8に記載のPET用腫瘍診断剤。
【請求項1】
ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体。
【請求項2】
免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたスクリーニングによって選択される、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマにより産生される、請求項1から3の何れかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項6】
受託番号FERM P−21238を有するハイブリドーマ。
【請求項7】
ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫し、該免疫動物から抗体産生細胞を回収し、該抗体産生細胞を用いて作製したハイブリドーマを培養して細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体を産生させることを含む、請求項1から4の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項8】
放射性金属で標識した請求項1から4の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、PET用腫瘍診断剤。
【請求項9】
放射性金属が64Cuである、請求項8に記載のPET用腫瘍診断剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−290996(P2008−290996A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140356(P2007−140356)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月30日に国立国会図書館に送付した博士論文において発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月30日に国立国会図書館に送付した博士論文において発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【Fターム(参考)】
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