説明

折り畳み式の道具

【課題】 折り畳み式道具の道具本体を柄に対して確実に固定することができる折り畳み式道具を提供すること。
【解決手段】 少なくとも2つの部材を有し、軸孔25と軸35とが協働して2つの部材が開閉可能に折り畳まれる折り畳み式の道具であって、第一の部材1は軸孔を有しその第一の部材1と結合している第二の部材2は軸を有しており、軸孔25に対して前記軸35を相対的に移動させることができるように、第一の部材1には軸孔25とつながる軸移動区域26が設けられ、軸35を軸移動区域26に移動させたときに、第一の部材1と第二の部材2が相対的に回転することを規制する規制手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に一般家庭で使用される種々の折り畳み式の道具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭で使用される折り畳み式の道具としては、例えば折り畳み式歯ブラシ、折り畳み式果物ナイフ、折り畳み式ナイフ型の鉛筆削り、折り畳み式爪ヤスリ、折り畳み式櫛、あるいは折り畳み式カミソリなどがある。これらの道具はいずれも機能部を有する道具本体と柄とから成り、道具本体と柄とが軸を中心に折り畳み可能に結合され、道具を折り畳んだときに道具本体の機能部が柄の内部に納まる構造である。
【0003】
また、これらの道具はいずれも使用時に道具本体と柄とがほぼ180°をなすまで広げて直線状にして使用する。直線状にして道具を使用するときは、道具本体が柄に対して確実に固定されていることが好ましい。柄に対する道具本体の一方向の回転は確実に規制することができても、他方向には規制がなく自由に回転するときは、道具本体が回転しないように作業をしなければならないから使いづらいという欠点がある。
【0004】
さらに、柄に対する道具本体の回転を規制する他の構造として、軸の周囲における道具本体と柄との間の接触部分に凹凸を設けて弾性的に係止させた道具も存在する。この構造においては、直線状に開いた道具本体を閉じるときは凹凸による係止力よりも大きな力で道具本体を回転させて係止を解除する。したがって、凹凸による係止は道具本体の回転を確実に規制するものでなく、一定の力以下の力が加わったときは有効に回転を規制するが、それよりも大きな力が加わったときは道具本体が回転してしまう虞がある。折り畳み式道具がカミソリなどの刃物や爪ヤスリである場合は、使用中に道具本体が不意に回転したりすることは非常に危険であって、使用中における道具本体は確実に固定することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2-149520号公報
【特許文献2】実公平7-47092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の折り畳み式道具の道具本体を柄に対して確実に固定することができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は、少なくとも2つの部材を有し、軸孔と軸とが協働して2つの部材が開閉可能に折り畳まれる折り畳み式の道具であって、第一の部材は軸孔を有しその第一の部材と結合している第二の部材は軸を有しており、前記軸孔に対して前記軸を相対的に移動させることができるように、前記第一の部材には軸孔とつながる軸移動区域が設けられ、軸を軸移動区域に移動させたときに、第一の部材と第二の部材が相対的に回転することを規制する規制手段が設けられている構成である。
【0008】
請求項2は、軸が軸孔と軸移動区域との間で自然に移動することを防止するための戻り止め手段を有する要素が請求項1に付加された構成である。
【0009】
請求項3は、軸孔と軸移動区域との間に幅狭部が形成され、幅狭部を構成する幅狭構成部が弾性変形により幅が広がったとき、又は軸が幅狭部から受ける力により弾性変形したときにのみ軸が幅狭部を通過することができる戻り止め手段を有する要素が請求項2に付加された構成である。
【0010】
請求項4は、軸が、硬質の軸本体と、軸本体の周囲に取り付けられた弾性を有する軸スリーブとを含んでおり、軸本体と軸スリーブとの間の少なくとも一部に隙間を有し、軸スリーブが幅狭部内で前記隙間を閉じる方向に押圧されて変形することにより軸が幅狭部を通過する要素が請求項3に付加された構成である。
【0011】
請求項5は、第一の部材と第二の部材を開いたときに、軸が軸孔から軸移動区域に移動可能となる要素が請求項1乃至請求項4のいずれか一項に付加された構成である。
【0012】
請求項6は、第二の部材が第一の部材の相対的な回転を阻止するための2つのストッパーを有し、第一のストッパーは、両部材を一直線状になるまで開いたときに第一の部材を係止して、両部材がそれ以上開かないように第一の部材の回転を阻止し、第二のストッパーは、両部材を一直線状に開いた後に軸を軸移動区域に移動させたときに第一の部材を係止して、第一の部材が閉じる方向に回転することを阻止し第一のストッパーと協働して両部材を一直線状に固定する要素が請求項5に付加された構成である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1は、第一の部材が軸孔を有しその第一の部材と結合している第二の部材が軸を有しており、軸孔に対して軸を相対的に移動させることができるように、第一の部材には軸孔とつながる軸移動区域が設けられ、軸を軸移動区域に移動させたときに、第一の部材と第二の部材が相対的に回転することを規制する規制手段が設けられている。したがって、軸を軸移動区域に移動させて道具が使用可能状態になるときに、両部材が相対的に回転不能に規制されるので両部材は相対的に確実に固定され、使用時に両部材の間に大きな力が加わっても部材が回転することがないので安全に使用することができる。
【0014】
請求項2は、軸が軸孔と軸移動区域との間で自然に移動することを防止するための戻り止め手段を有している構成である。前述したように、軸を軸移動区域に移動させたときに両部材の回転を確実に規制することができても、軸が元の軸孔に戻ってしまうと両部材が容易に回転するから危険である。そこで、軸が軸孔と軸移動区域との間で自然に移動することを防止するための戻り止め手段を設けることにより、使用中に軸が軸孔に戻ることを防止して道具を安全に使用することができる。
【0015】
請求項3は、軸孔と軸移動区域との間に幅狭部が形成され、幅狭部を構成する幅狭構成部が弾性変形により幅が広がったとき、又は軸が幅狭部から受ける力により弾性変形したときにのみ軸が幅狭部を通過することができる戻り止め手段を有する。したがって、幅狭部を構成する部分又は軸を弾性変形させないと軸が軸孔と軸移動区域との間を移動することができず、幅狭部を構成する部分又は軸を弾性変形させるためには一定以上の力が必要であるから、軸が軸孔と軸移動区域の間を自然に移動することを防止できる。すなわち、軸孔に係合している軸を軸移動区域に移動させるときは、第一部材と第二部材とをそれぞれ手に持って軸が軸移動区域方向に移動するように両部材の間に力を加えると、軸が幅狭部に当たる。そこで、さらに力を加えて軸を幅狭部からの応力によってつぶれるように変形させ、あるいは幅狭部を構成する部分を硬質の軸からの応力によって幅狭部の幅が広がるように変形させることによって軸が幅狭部を通過する。このように、軸あるいは幅狭部を構成する部分のいずれかを弾性変形可能とすることにより、軸が自然に移動することを防止できる。
【0016】
請求項4は、軸は、硬質の軸本体と、軸本体の周囲に取り付けられた弾性を有する軸スリーブとを含み、軸本体と軸スリーブとの間の少なくとも一部に隙間を有し、軸スリーブが幅狭部内で前記隙間を閉じる方向に押圧されて変形することにより軸が幅狭部を通過する。したがって、例えば、軸スリーブは円筒形に形成し、軸本体は円柱の表面の一部を面取りすることによって隙間をつくることができるから、簡単な構造で軸の自然移動を防止できる。
【0017】
請求項5は、第一の部材と第二の部材を開いたときに、軸が軸孔から軸移動区域に移動可能となる。したがって、両部材を開いて道具を使用するときに両部材が回転しないように確実に固定できるので、円滑且つ安全に使用することができる。
【0018】
請求項6は、第二の部材が第一の部材の相対的な回転を阻止するための2つのストッパーを有し、第一のストッパーは、両部材を一直線状になるまで開いたときに第一の部材を係止して、両部材がそれ以上開かないように第一の部材の回転を阻止し、第二のストッパーは、両部材を一直線状に開いた後に軸を軸移動区域に移動させたときに第一の部材を係止して、第一の部材が閉じる方向に回転することを阻止し第一のストッパーと協働して両部材を一直線状に固定する。本項においては軸を軸移動区域に移動させるときに両部材を一直線状になるように開く必要があるが、両部材を一直線状に開いたときに第二の部材が第一のストッパーに係止するので、両部材の一直線状の状態を認識でき且つその状態を維持できる。したがって、両部材を一直線状にして軸を軸移動区域に移動する作業を容易に行うことができる。また、第一のストッパーと第二のストッパーにより両部材を一直線状に確実に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は第一の部材であるヤスリ板と第二の部材である柄が一直線状に開いた状態を示す正面図。
【図2】図2は本発明の分解図。
【図3】図3は第二の部材の一方の側板の軸受付近の拡大図。
【図4】図4は第一の部材の軸孔付近の拡大図。
【図5】図5は第二の部材の他方の側板の軸受付近の拡大図。
【図6】図6は図4における第一の部材の拡大裏面図。
【図7】図7は軸の分解斜視図。
【図8】図8は軸が軸孔に係合している状態を示す分解図。
【図9】図9は軸が軸移動区域に移動した状態を示す分解図。
【図10】図10は第一の部材が第一のストッパーに係止した状態を示す一部斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施例は、第一の部材をヤスリ板1とし、第二の部材を柄2として、それらを開閉可能に結合した折り畳み式の爪ヤスリに関する。ヤスリ板1は、折り畳み時に柄2の両側板4,5の間の隙間で構成されるヤスリ板収納部7に収められる。
【0021】
柄2は、前述したように両側板4,5を重ね、接触部分を接合して形成される。その接触部分は、一方の側板4においてはその内面の背部から末端部にかけて設けられている合接部6である。その合接部6に囲まれた部分はそれよりも低く形成され、その低く形成された部分がヤスリ板収納部7の一方を構成する。また、側板4の基部11には孔状の軸受8が形成されている。軸受8の形状は円形の両側を平行な直線でカットした小判形である。この平行な直線は柄2の長さ方向に延びており、したがって小判形も柄2の長さ方向に延びている。
【0022】
軸受8の周辺部19の外側に弧状の案内溝9が形成され、さらにその弧状の案内溝9に連通し長さ方向に延びる直線状の案内溝10が形成されている。軸受8の周辺部19は弧状の案内溝9の底よりも高く、側板4の内面よりもやや低くなるように形成されている。側板4の基部11の背側端部に突起状の第一のストッパー12が形成されている。また、合接部6の端部に第二のストッパー31が形成されている。
【0023】
前述した両側板4,5の接触部分は、他方の側板5においてはその内面から末端部にかけて設けられている合接部13である。そして、その合接部13に囲まれた部分はそれよりも低く形成され、その低く形成された部分がヤスリ板収納部7の他方を構成する。また、側板5の基部14には孔状の軸受15が形成されている。軸受15の形状は一方の軸受8と同じように柄2の長さ方向に延びる小判形である。
【0024】
軸受15の周辺部20を残して基部14から末端方向に凹所16が形成されている。この凹所16は後述するねじりバネ17を取り付けるための空間を構成している。凹所16の背部に係止用溝18が形成されている。この係止用溝18はねじりバネ17の片方の屈曲端部43を係止するためのものである。軸受15の周辺部20は凹所16の底よりも高く、側板5の内面よりもやや低くなるように形成されている。側板5の基部14の背側端部に突起状の第一のストッパー21が形成されている。また、合接部13の端部に第二のストッパー32が形成されている。両側板4,5はアルミニウムダイカストで製造されるがこれに限定されるものではない。
【0025】
ヤスリ板1は、両面にヤスリ面22,23を有している。ヤスリ面22,23の粗さは異なっていてもよく同じであってもよい。ヤスリ板1の基部24には軸孔25と軸移動区域26が幅狭部27を介して長さ方向に延びるようにつながっている。軸孔25と軸移動区域26は、共に同じ大きさの円形の一部をなす形状を有している。したがって、軸孔25と軸移動区域26を合成した全体形状は長さ方向に延びる上下左右対称なひょうたん形をなしている。このひょうたん形のくびれた部分が幅狭構成部28,28であって、この幅狭構成部28,28の間に幅狭部27が構成される。軸孔25の近くに細長い突部29が形成され、この突部29にバネ孔30が形成されている。バネ孔30はヤスリ板1を貫通しており、バネ孔30の他方の側からねじりバネ17の他方の屈曲端部42が挿入される。ヤスリ板1の基部24の一方の角に第二のストッパー31,32のストッパー受部33が形成されている。さらに、基部24の側部にヤスリ板1を回転させるための指掛け部34が設けられている。ヤスリ板1の全長は約79mmであり、幅は約10.5mmである。また、図6に示す長さaは約6.0mmであり、長さbは約5.6mmであり、長さcは約12.0mmである。
【0026】
軸35は、軸本体36と、軸スリーブ37と、軸ボルト38とから成る。軸本体36と軸ボルト38は共に金属製であり、軸本体36の内部に軸ボルト38を螺合させるためのボルト穴44が形成されている。軸本体36の胴部39に円柱の両側を面取りした平面部40,40が形成され、これら2つの平面部40,40は平行であって、断面形状は軸受8,15と同じ小判形である。したがって、軸本体36を軸受8,15に挿通させたときに軸本体36は軸受8,15に対して回転不能となる。そして、胴部39を軸スリーブ37に挿通させたときに、図8あるいは図9に示すように軸スリーブ37と軸本体36の平面部40,40との間に軸スリーブ37の変形許容空間である隙間41が生じる。隙間41の最大幅は約0.6mmである。また、軸本体36の両平面部40,40間の幅は幅狭部27の幅よりも小さい寸法を有している。両平面部40,40間の幅は約3.0mmであり、幅狭部27の幅は約5.6mmである。
【0027】
軸スリーブ37は可撓性を有するプラスチックで形成されている。軸スリーブ37の外径は約6.0mmであって軸孔25及び軸移動区域26の内径とほぼ同じであり、軸スリーブ37が軸孔25あるいは軸移動区域26内に嵌合しているときに、軸スリーブ37がやや圧接状態となって摩擦力が生じる程度の大きさが好ましい。また、ヤスリ板1の軸孔25から軸移動区域26までの全長は、軸スリーブ37の外径の1.5倍以上3倍以下であることが好ましい。軸スリーブ37の内径は軸本体36の円弧部分の外径よりもわずかに大きい程度の大きさが好ましい。すなわち、軸本体36の円弧部分の表面に軸スリーブ37の内面が近接していることが好ましい。ここで、近接とは僅かに隙間があるか或いは接している状態を言う。また、軸スリーブ37の外径は幅狭部27の幅よりも大きい寸法を有している。軸スリーブ37の外径は約6.0mmであり、内径は約4.2mmであり、したがって軸スリーブ37の厚みは約0.9mmである。隙間41を置いて軸本体36から離れている軸スリーブ37の部分が圧迫されると、軸スリーブ37のその部分は変形許容空間である隙間41側につぶれるように変形する。その結果、軸スリーブ37の横方向の幅、すなわちヤスリ板1の長さ方向に垂直な方向での軸スリーブ37の幅が狭くなる。幅は元の幅の約93%の長さに減少する。減少の割合は元の幅の80〜95%程度であることが好ましい。軸スリーブ37の幅が狭くなることにより軸スリーブ37はヤスリ板1の長さ方向にわずかに長い楕円形となり、軸スリーブ37すなわち軸35はヤスリ板1の幅狭部27を通過することができる。
【0028】
前述したように、軸受8,15の形状は柄2の長さ方向に延びる小判形であり、軸受8,15に挿通される軸本体36の胴部39の断面も同じように柄2の長さ方向に延びる小判形である。そして、ヤスリ板1の軸孔25と軸移動区域26は幅狭部27を介してヤスリ板1の長さ方向に延びるようにつながっており、全体的に長さ方向に延びるひょうたん形をなしている。したがって、軸スリーブ37すなわち軸35が幅狭部27を通過することができるのは、ヤスリ板1と柄2が一直線状となったときのみに限られ、ヤスリ板1の回転途中では通過不能である。また、ヤスリ板1を閉じたときは、ヤスリ板1が柄2の収納部7に納まっていてヤスリ板1を長さ方向に移動させる力をヤスリ板1に与えづらいから、ヤスリ板1はほぼ通過不能である。
【0029】
次に、爪ヤスリ3の組立について説明する。図2は、ヤスリ板1を閉じた状態で分解した爪ヤスリ3の分解図である。爪ヤスリ3の4つの構成部品が示されており、上から順に一方の側板4、ヤスリ板1、他方の側板5及び化粧板47である。化粧板47の右側には化粧板47の側面が示されている。軸本体36と軸ボルト38は省略してある。爪ヤスリ3は、ヤスリ板1に取り付けたねじりバネ17が側板5の凹所16に納まるように、ヤスリ板1が側板4と側板5との間に挟まれている。側板4と側板5を結合するために側板4に設けられた3つのピン孔49と側板5に設けられた3つのピン孔50との間にピン(図示せず。)を嵌合する。軸受8と軸受15とスリーブ37に軸本体36が挿通されており、軸本体36と軸ボルト38とを螺合する。化粧板47は両側板4,5の表面に取り付けられる。
【0030】
さらに、組み立て方法について詳細に説明する。まず、図5に示す状態の他方の側板5の軸受15に下側から軸本体36を挿通する。次いで、図4に示すように、軸スリーブ37を軸孔25に嵌合する。軸スリーブ37の長さはヤスリ板1の厚みよりも長いので、軸スリーブ37の両端部はヤスリ板1からはみ出す。次に、図4に示すようにねじりバネ17の屈曲端部42を、ヤスリ板1の突部29が設けられていない側からバネ孔30に差し込む。そして、ねじりバネ17の屈曲端部42をバネ孔30に差し込んだ状態のまま、ヤスリ板1をねじりバネ17が下側になるようにして、スリーブ37に軸本体36を挿通させながら側板5の上に載せる。その際、ねじりバネ17の他方の屈曲端部43を側板5に形成されている係止用溝18に係合させる。ねじりバネ17は両端が固定され、ねじりバネ17の八の字形に開いた2つの直線部分がやや閉じられ付勢力が生じる。
【0031】
次に、ヤスリ板1の上から、側板4の軸受8に軸本体36を挿通させながら側板4を重ねる。そして、両側板4,5の合接部6,13に設けられたそれぞれのピン孔49,50にピン(図示せず。)を嵌合して両側板4,5を結合する。前述したように、軸受8の周辺部19は側板4の内面よりもやや低くなるように形成され、軸受15の周辺部20は側板5の内面よりもやや低くなるように形成されている。周辺部19,20が低くなることによって段差45,46が生じるので、その段差45,46をヤスリ板1からはみ出している軸スリーブ37の両端部が埋めることになる。これにより、段差の分だけ軸スリーブ37の長さを長くすることができるから、肉薄で変形しやすい軸スリーブ37であっても十分な弾性力を得ることができる。
【0032】
ヤスリ板1の両側に両側板4,5を結合した後に軸ボルト38を軸本体36に螺合する。軸ボルト38を取り付けた後に、プラスチックで形成された断面U字形の化粧板47を両側板4,5の表面に装着する。化粧板47は、両側板4,5が剥がれて柄2が割れることを防止する作用をなす。なお、化粧板47に代えて合成皮革や本革のシートを張り付けてもよい。軸35を取り付けることによって、ヤスリ板1は柄2に対して回転可能となる。ヤスリ板1の回転に伴って、ヤスリ板1に形成されている細長い突部29は側板4の案内溝9内を移動する。このように、軸35の軸スリーブ37が軸孔25に嵌合しているときは、ヤスリ板1が柄2に対して回転可能であり、ヤスリ板1が収納部7内に閉じられた状態から、ヤスリ板1と柄2が一直線状になるまで開くことができる。ヤスリ板1と柄2が一直線状に開いたときに、図10に示すようにヤスリ板1の指掛け部34と反対側の縁部が第一のストッパー12,21に係止して、ヤスリ板1がそれ以上回転することを規制する。したがって、使用者は、ヤスリ板1と柄2が一直線状になったことを明確に認識できる。ヤスリ板1が収納部7内に閉じられているときは、前述したように、ねじりバネ17の2つの直線部分がやや閉じられ付勢力が生じている。その付勢力はヤスリ板1を閉じようとする方向にはたらくので、閉じられているヤスリ板1が自然に開くことを防止できる。なお、ヤスリ板1を閉じるときに、ヤスリ板1に形成されている細長い突部29は側板4の案内溝9内を移動し、ヤスリ板1が完全に閉じられたときに突部29は案内溝9の終端に突き当たる。突部29が終端に突き当たることにより、ヤスリ板1の長さ方向の移動防止を補助する。ヤスリ板1を閉じた状態の爪ヤスリ3の全長は約85mmである。
【0033】
次に、本発明の実施例である爪ヤスリ3の使用方法について説明する。ヤスリ板1を開くときは、まず、指掛け部34に指先を宛がってヤスリ板1が開く方向に力を加えながらヤスリ板1を徐々に開く。そうすると、ねじりバネ17の八の字形をなす2つの直線部分は徐々に閉じて指先がねじりバネ17から弾性的な反力を受けるので、その弾性力に抗してヤスリ板1を開いていく。そうして、ヤスリ板1が閉じた状態から約60°開くと、ヤスリ板1を閉じる方向に付勢していたねじりバネ17の2つの直線部分が一転して弾性的に開き始めるので、指掛け部34に力を加えなくてもヤスリ板1はねじりバネ17の弾性力で自動的に開く。ヤスリ板1が自動的に180°開くとヤスリ板1の回転はそこで規制されるが、その状態においてねじりバネ17はヤスリ板1を開く方向に付勢しているから、ヤスリ板1は開いた状態を維持できる。ヤスリ板1を閉じるときはそれと逆に、指掛け部34に指先を宛がってその指先でヤスリ板1が閉じる方向に力を加えると、ヤスリ板1が開いた状態から約120°の角度まで閉じたときに、ねじりバネ17の作用によってヤスリ板1は自動的に閉じる。これにより、ヤスリ板1の開閉はいずれも片手で操作することができる。
【0034】
図8は、ヤスリ板1が完全に開いて柄2と一直線状になったときのヤスリ板1と側板4と軸35の位置関係を示している。軸35は軸孔25に嵌合している。ヤスリ板1の指掛け部34と反対側の縁部は第一のストッパー12に係止してそれ以上の回転が規制されている。この状態のままでは、ヤスリ板1は閉じる方向、すなわち時計回りの方向に回転してしまうので、その回転を規制している状態が図9に示されている。ヤスリ板1を完全に開いてから図9の状態とするためには、図8の状態でヤスリ板1と柄2をそれぞれ別の手で持ち、長さ方向に沿ってヤスリ板1を柄2の方向に押す。あるいは、片手で柄2を握り、その手の親指を指掛け部34に宛がってヤスリ板1を柄2の方向に引く。そうすると、軸スリーブ37が幅狭構成部28,28に当たってつぶれるように変形して幅狭部27を通過し、軸35は軸移動区域26に移る。幅狭構成部28,28は滑らかな弧状に形成され、軸スリーブ37は適度な弾性を有しているので、軸スリーブ37は軸移動区域26に移るときに幅狭構成部28,28によって圧迫されて変形し、軸移動区域26に移ったときに一気に元の形状に復帰する。この軸スリーブ37の一連の変形は使用者に心地よい感触を与える。軸スリーブ37が軸移動区域26に移ることにより、ヤスリ板1のストッパー受部33が第二のストッパー31と係合して、ヤスリ板1が閉じる方向に回転することを規制する。すなわち、ヤスリ板1は柄2に対していずれの方向の回転も規制される。なお、ストッパー受部33は他方の側板5の第二のストッパー32とも係合する。
【0035】
このように、ヤスリ板1は、閉じた状態である第一の状態と、その第一の状態からヤスリ板1を回転させて開いた第二の状態と、さらにその第二の状態からヤスリ板1を直線的に柄2の方向に押していずれの回転方向にもロックされた第三の状態の3つの状態をとる。そして、第一の状態から第二の状態に移るときのヤスリ板1の動作は回転運動であり、第二の状態から第三の状態に移るときの動作は直線運動であり、使用状態とするためにヤスリ板1は回転運動と直線運動の複数の動作をとる。異なる動作によってヤスリ板1の状態が移るので、動作の変更とヤスリ板1の状態の変更が連動し、使用者はヤスリ板1を見ていなくても感覚的にヤスリ板1の状態を認識することができる。
【0036】
前述したように、第一の状態から第二の状態に移るときのヤスリ板1の動作は回転運動であり、第二の状態から第三の状態に移るときの動作は直線運動であり、使用状態とするためにヤスリ板1は回転運動と直線運動の複数の動作をとる。これらの回転運動及び直線運動は、指掛け部34に宛がった指先の操作で行うことができる。指掛け部34は弧状の形状をなしているから、ヤスリ板1の長手方向の前後両側に指先を宛てることができる。このため、ヤスリ板1を開く回転運動と、ヤスリ板1をロックする直線運動、及びロックを解除する直線運動と、ヤスリ板1を閉じる回転運動のいずれもが、1つの操作部としての指掛け部によって行うことができる。このように、ヤスリ板1の回転運動と直線運動mのいずれもが指掛け部34の操作によって行うことができる理由は、図1に示すようにヤスリ板1を開いたときに指掛け部34が柄2の幅方向の一方の側(図1において上側)から突出し、ヤスリ板1を閉じたときに指掛け部34が柄2の幅方向の他方の側(図1において下側)から突出し、ヤスリ板1の開閉時のいずれにおいても突出している指掛け部34に指を宛てることが可能だからである。さらに、図6に示すように指掛け部34は軸孔25の側方(図6で上方)に近接して位置している。したがって、指掛け部34に宛がった指先は直線的な運動で始まるが、その後のスムースな回転運動につなげることができる。
【0037】
爪ヤスリ3で爪を磨くときは爪ヤスリ3を爪に対して種々の方向に移動させながら使用するが、爪ヤスリ3を長さ方向に往復させながら使用することが比較的多い。このようなときに、ヤスリ板1が柄2に対して長さ方向に動いてしまうと円滑に爪を磨くことができない。本発明では、爪ヤスリ3の使用中などに軸35が軸孔25に戻ろうとしても軸スリーブ37と幅狭構成部28とが協働して軸35の移動を阻止するので、結局、ヤスリ板1が柄2に対して長さ方向に移動することは阻止される。したがって、爪ヤスリ3の使用中に爪ヤスリ3を長さ方向に往復させても、ヤスリ板1が柄2に対して長さ方向に動くことがなく、回転することもない。なお、図8に示された直線状の案内溝10は、図9のヤスリ板1が固定された状態のときにヤスリ板1の裏面に設けられている突部29が納まるための溝である。すなわち、突部29の逃がし溝である。突部29が案内溝10に納まることにより、ヤスリ板1の回転防止と柄2方向への移動防止を補助している。
【0038】
図8は、前述したようにヤスリ板1を開いた状態を示しており、この状態からヤスリ板1を時計回りの方向に回転して閉じることができる。ヤスリ板1を完全に閉じると、指当て部34の切欠部48に第一のストッパー12,21が入り込んでヤスリ板1の長さ方向の移動防止を補助している。
【0039】
なお、本発明は前述した構成に基づいて種々の態様をとることが可能である。例えば、道具は爪ヤスリに限定されるものでなく、例えば折り畳み式歯ブラシ、折り畳み式果物ナイフ、折り畳み式ナイフ型の鉛筆削り、折り畳み式櫛、あるいは折り畳み式カミソリであってもよい。また、軸35は別体の軸スリーブを使用せずに、軸本体36の胴部39を断面円形として二層の材料で形成し、中心をなす部分は金属あるいは硬質のプラスチックとし、外側の層は柔軟性を有するプラスチックとして外側の層を変形させる構成であってもよい。あるいは、軸孔25、軸移動区域26及び幅狭部27の内周の全長に亘って柔軟性を有する材料で形成された被覆部を取り付け、軸35が幅狭部27を通過するときに軸35の押圧力で被覆部を変形させて幅狭部27の幅を広げ、これにより軸35が幅狭部27を通過できるようにしてもよい。あるいは、被覆部を取り付けずに、幅狭構成部28,28の縁部と平行に細長い孔を設けることによってその縁部に弾性力を持たせ、軸35が幅狭部27を通過するときにその縁部が押されて変形することにより幅狭部27が通過できる構成であってもよい。軸本体36を一方の側板と一体に形成してもよい。また、実施例では軸35がヤスリ板1に対して相対的に移動する構成であるが、軸35が側板4,5に対して相対的に移動する構成であってもよい。この場合は、側板4,5の軸受8,15の形状を軸孔25及び軸移動区域26と同じひょうたん形とし、ヤスリ板1の軸孔25及び軸移動区域26の形状を軸受8と同じ小判形とする。また、本発明の各数値は前述した通りであるが、本発明がこれらの数値に限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
使用中に爪ヤスリ3が不意に回転することがないから、円滑に爪を磨くことができる。道具が刃物である場合は刃を固定できるのであるから非常に安全である。
【符号の説明】
【0041】
1 ヤスリ板
2 柄
3 爪ヤスリ
4 側板
5 側板
6 合接部
7 収納部
8 軸受
9 案内溝
10 案内溝
11 基部
12 第一のストッパー
13 合接部
14 基部
15 軸受
16 凹所
17 ねじりバネ
18 係止用溝
19 周辺部
20 周辺部
21 第一のストッパー
22 ヤスリ面
23 ヤスリ面
24 基部
25 軸孔
26 軸移動区域
27 幅狭部
28 幅狭構成部
29 突部
30 バネ孔
31 第二のストッパー
32 第二のストッパー
33 ストッパー受部
34 指掛け部
35 軸
36 軸本体
37 軸スリーブ
38 軸ボルト
39 胴部
40 平面部
41 隙間
42 屈曲部
43 屈曲部
44 ボルト穴
45 段差
46 段差
47 化粧板
48 切欠部
49 ピン孔
50 ピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの部材を有し、軸孔と軸とが協働して2つの部材が開閉可能に折り畳まれる折り畳み式の道具であって、第一の部材は軸孔を有しその第一の部材と結合している第二の部材は軸を有しており、前記軸孔に対して前記軸を相対的に移動させることができるように、前記第一の部材には軸孔とつながる軸移動区域が設けられ、軸を軸移動区域に移動させたときに、第一の部材と第二の部材が相対的に回転することを規制する規制手段が設けられていることを特徴とする折り畳み式の道具。
【請求項2】
軸が軸孔と軸移動区域との間で自然に移動することを防止するための戻り止め手段を有する請求項1記載の道具。
【請求項3】
軸孔と軸移動区域との間に幅狭部が形成され、幅狭部を構成する幅狭構成部が弾性変形により幅が広がったとき、又は軸が幅狭部から受ける力により弾性変形したときにのみ軸が前記幅狭部を通過することができる戻り止め手段を有する請求項2記載の道具。
【請求項4】
軸は、硬質の軸本体と、軸本体の周囲に取り付けられた弾性を有する軸スリーブとを含み、軸本体と軸スリーブとの間の少なくとも一部に隙間を有し、軸スリーブが幅狭部内で前記隙間を閉じる方向に押圧されて変形することにより軸が幅狭部を通過する請求項3記載の道具。
【請求項5】
第一の部材と第二の部材を開いたときに、軸が軸孔から軸移動区域に移動可能となる請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の道具。
【請求項6】
第二の部材は第一の部材の相対的な回転を阻止するための2つのストッパーを有し、第一のストッパーは、両部材を一直線状になるまで開いたときに第一の部材に係止して、両部材がそれ以上開かないように第一の部材の回転を阻止し、第二のストッパーは、両部材を一直線状に開いた後に軸を軸移動区域に移動させたときに第一の部材に係止して、第一の部材が閉じる方向に回転することを阻止し第一のストッパーと協働して両部材を一直線状に固定する請求項5記載の道具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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