説明

抵抗体組成物並びに厚膜抵抗体

【課題】 導電性成分及びガラスから有害な鉛成分を排除し、広い抵抗域でTCR特性、電流雑音特性、耐電圧特性、ヒートサイクル性等に優れた厚膜抵抗体を形成しうるルテニウム系抵抗体組成物並びに該組成物により形成された鉛フリーの抵抗体を提供する。
【解決手段】 鉛成分を含まないルテニウム系導電性成分と、ガラスの塩基度(Po値)が0.4〜0.9である鉛成分を含まないガラスと、有機ビヒクルとを含む抵抗体組成物であって、これを高温で焼成して得られる厚膜抵抗体中にMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする抵抗体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗体組成物に関し、特にチップ抵抗器をはじめ、半固定抵抗器、可変抵抗器、フォーカス抵抗、サージ素子等の各種抵抗部品、また厚膜回路、多層回路基板、各種積層複合部品等において、厚膜抵抗体を形成するために使用される、鉛を含まないルテニウム系の厚膜抵抗体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
厚膜抵抗体組成物は、導電成分とガラスを主成分とし、種々の絶縁基板上に厚膜抵抗体を形成するのに用いられる。抵抗体組成物は、主としてペーストや塗料の形で、電極を形成したアルミナ基板上やセラミック複合部品等に所定の形状に印刷され、600〜900℃程度の高温で焼成される。その後必要によりオーバーコートガラスで保護被膜を形成した後、必要に応じてレーザートリミング等により抵抗値の調整を行う。
【0003】
要求される抵抗体の特性としては、抵抗温度係数(TCR)が小さいこと、電流雑音が小さいこと、また耐電圧特性、ESD特性、寿命特性が良好であること、更にプロセス安定性が良好即ちプロセスの変動による抵抗値変化が小さいこと等がある。また特にチップ抵抗では、レーザートリミングによる抵抗値の調整が容易に行えること、またトリミング後の特性劣化が小さいことも必要である。
【0004】
従来、一般に、導電成分としてルテニウム系の酸化物粉末を用いた抵抗体組成物が広く使用されている。このルテニウム系抵抗体組成物は、空気中での焼成が可能であり、導電性とガラスの比率を変えることにより、1Ω/□以下から数MΩ/□の広い範囲の抵抗値を有する抵抗体が容易に得られ、良好な電気特性と優れた安定性を示す。
【0005】
ルテニウム系抵抗体組成物の導電成分としては、主として二酸化ルテニウムや、パイロクロア構造のルテニウム酸ビスマス、ルテニウム酸鉛等、ぺロブスカイト構造のルテニウム酸バリウム、ルテニウム酸カルシウム等のルテニウム複合酸化物類、またルテニウムレジネート等のルテニウム前駆体が使用される。特に、ルテニウム複合酸化物は、ガラスの含有比率の高い高抵抗域の抵抗体組成物において好ましく使用されている。これは、ルテニウム複合酸化物は、通常二酸化ルテニウムより抵抗率が1桁以上高いため、二酸化ルテニウムより多量に配合でき、これにより抵抗値ばらつきが少なく、電流雑音特性、TCR等の抵抗特性が良好で、安定な抵抗体を得ることができるからである。
【0006】
またガラスとしては、主として酸化鉛を含むガラスが使用されてきた。酸化鉛含有ガラスは軟化点が低く、流動性、導電性成分との濡れ性が良好で基板との接着性も優れ、また熱膨張係数がセラミック、特にアルミナ基板と適合する等、厚膜抵抗体の形成に適した、優れた特性を有するためである。
【0007】
しかし鉛成分は毒性があり、人体への影響及び公害の点から望ましくない。近年環境問題に対処するためエレクトロニクス製品がWEEE(廃電気電子機器指令 Waste Electrical and Electronic Equipment)及びRoHS(特定有害物質使用制限 Restriction of the Use of the Certain Hazardous Substances)対応を要求される中で、抵抗体組成物においても鉛フリーの素材の開発が強く求められている。
【0008】
従来より、例えば鉛を含まない二酸化ルテニウム、ルテニウム酸ビスマス、ルテニウム酸アルカリ土類金属塩等を導電成分として用い、鉛フリーのガラスを使用する抵抗体組成物がいくつか提案されている(特許文献1〜2参照)。
【0009】
しかし、鉛ガラスを使用せずに、しかも従来の鉛ガラス含有ルテニウム系抵抗体組成物に匹敵するような、広い抵抗値範囲に亘って優れた特性を示す抵抗体組成物は得られていない。特に、100KΩ/□以上の高抵抗域の抵抗体を形成するのが困難であった。
【0010】
一般に高抵抗域で用いられるルテニウムの複合酸化物の多くは、抵抗体組成物を高温で焼成する際、ガラスと反応してルテニウムの複合酸化物より抵抗率の低い二酸化ルテニウムに分解する傾向がある。とりわけ鉛成分を含まないガラスと組み合わせた場合、焼成中800℃〜900℃付近での二酸化ルテニウムへの分解を抑制することが困難であり、このため、抵抗値が低下して所望の高抵抗値が得られず、また膜厚依存性や焼成温度依存性が大きくなる問題があった。特許文献1のように粒径の大きい、例えば平均粒径1μm以上のルテニウム複合酸化物粉末を用いることにより、ある程度分解を抑制することができる。しかし、粗大な導電性粉末を使用すると電流雑音や負荷特性が悪化し、優れた抵抗特性が得られない。
【0011】
また、一般にルテニウムの複合酸化物は、鉛を含まないガラスとの組合せでは、良好な微細構造の焼成膜を作りにくいと考えられている。例えばルテニウム酸ビスマスの分解防止には、特許文献2に記載されているようなビスマス系ガラスが有効であることが知られているが、この抵抗体組成物は、高抵抗域においてはTCRが負に大きくなり、使用できない。
【0012】
抵抗体焼成膜の微細構造を電子顕微鏡等で観察すると、通常はガラスのマトリックス全体に極めて微細な導電性粒子が分散し、導電性粒子同士が接触してネットワーク(網目状構造)を形成しており、これが導電パスとなって導電性を示すと考えられる。従来のルテニウムの複合酸化物と鉛を含まないガラスを用いた抵抗体組成物では、特に導電性成分の比率が少ない高抵抗域において、安定な構造(以下「導電ネットワーク」という)を極めて作りにくい。このため、鉛フリーでかつTCR特性、電流雑音特性、ばらつき等の諸特性の優れた高抵抗値の抵抗体を製造するのが困難であった。
【特許文献1】特開2005−129806公報
【特許文献2】特開平8−253342公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、導電性成分及びガラスから有害な鉛成分を排除し、しかも広い抵抗域で接着強度、抵抗値、TCR特性、電流雑音特性、耐電圧特性、ヒートサイクル性等において従来と同等以上の優れた特性を有する膜抵抗体を形成しうるルテニウム系抵抗体組成物を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、焼成中のルテニウム複合酸化物の分解を防止し、焼成条件による抵抗値、TCR等の変動及びばらつきが小さく、従って高抵抗域においても特性の安定した厚膜抵抗体を形成しうるルテニウム系抵抗体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記本発明の目的のためになされたものであって、以下に記載する構成よりなる。
【0015】
(1)鉛成分を含まないルテニウム系導電性成分と、ガラスの塩基度(Po値)が0.4〜0.9である鉛成分を含まないガラスと、有機ビヒクルとを含む抵抗体組成物であって、これを高温で焼成して得られる厚膜抵抗体中にMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする抵抗体組成物。
【0016】
(2)ガラスが少なくともバリウム及び/又はストロンチウムと、アルミニウムと、珪素とを必須成分として含み、焼成によりMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)を析出するものであることを特徴とする、上記(1)に記載の抵抗体組成物。
【0017】
(3)ガラスのヤング率が50〜95GPaの範囲であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の抵抗体組成物。
【0018】
(4)ルテニウム系導電性成分がルテニウム複合酸化物であることを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【0019】
(5)前記ルテニウム系導電性成分と前記ガラスとがそれぞれルテニウム系導電性粉末及びガラス粉末として含有されることを特徴とする、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【0020】
(6)前記ルテニウム系導電性成分と前記ガラスの少なくとも一部とが予め複合化された複合粉末として含有されることを特徴とする、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【0021】
(7)前記ルテニウム系導電性粉末又は複合粉末の比表面積が5〜30m/gであることを特徴とする、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【0022】
(8)鉛成分を含まないガラスマトリックス中に、鉛成分を含まないルテニウム系導電相とMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする厚膜抵抗体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、鉛フリーの組成でありながら、従来の鉛を含むルテニウム抵抗体に匹敵する或いは更に優れた特性を有する抵抗体を、広い抵抗値範囲に亘って形成することができる。特に、導電成分としてルテニウム複合酸化物を用いた場合には、焼成中のルテニウム複合酸化物の分解が抑制され、かつガラスマトリックス中に均質で安定な導電ネットワークを作りやすいと考えられ、このため高抵抗域でも特性劣化がなく、かつ焼成条件等のプロセス依存性が小さく、ばらつきの少ない優れた厚膜抵抗体を製造できる。また、非常に微細なルテニウム複合酸化物粉末を用いた場合にも、分解を最小限に抑えることができるため、電流雑音特性や負荷特性の極めて優れた抵抗体を得ることができる。
【0024】
本発明の抵抗体組成物は、1KΩ/□以上の中抵抗域〜高抵抗域の抵抗体、とりわけ100KΩ/□以上の高抵抗域の抵抗体を製造するのに極めて有用である。
【0025】
特に、ヤング率が50〜95 GPaのガラスを使用することにより、レーザートリミング性及び焼成温度依存性が更に改善される。
【0026】
前記ルテニウム系導電性成分として比表面積が5〜30m/gのルテニウム系導電性粉末を使用するこことにより、更に電流雑音特性や負荷特性の優れた抵抗体を形成することができる。
【0027】
また、前記ルテニウム系導電性成分と、前記ガラス成分の一部または全部とが予め複合化された複合粉末を含有する抵抗体組成物を用いることにより、高抵抗域において更に良好な特性を有する抵抗体を得ることができる。またこの複合粉末の比表面積が5〜30m/gである場合には、得られる抵抗体の電流雑音特性や負荷特性を更に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
導電性成分
ルテニウム系導電性成分としては、鉛成分を含まないルテニウム含有導電性酸化物、例えば二酸化ルテニウム(RuO);ルテニウム酸ネオジウム(NdRu)、ルテニウム酸サマリウム(SmRu)、ルテニウム酸ネオジウムカルシウム(NdCaRu)、ルテニウム酸サマリウムストロンチウム(SmSrRu)、これらの関連酸化物等のパイロクロア構造を有するルテニウム複合酸化物;ルテニウム酸カルシウム(CaRuO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ルテニウム酸バリウム(BaRuO)等のペロブスカイト構造を有するルテニウム複合酸化物;ルテニウム酸コバルト(CoRuO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)等、その他のルテニウム複合酸化物;これらの混合物が主として使用される。
【0029】
特に、主として中抵抗域から高抵抗域の抵抗体を製造するために、導電成分としてルテニウム複合酸化物を単独で、又は二酸化ルテニウムと共に用いる場合において、本発明は前述のように優れた効果を奏するので好ましい。しかし、二酸化ルテニウムを単独で使用する場合においても、もちろん良好な抵抗特性を得ることができる。
【0030】
本発明の好ましい一態様では、これらの導電性成分は、前記ルテニウム系導電性酸化物の微粉末として含有される。本発明の好ましい別の態様では、前記ルテニウム系導電性酸化物とガラス粉末とを予め熱処理して複合化し、これを微粉砕して得た複合粉末が用いられる。このように複合粉末とすることにより、特に高抵抗域において、従来鉛フリー系の抵抗体では作りにくかった安定な導電ネットワークがより容易に形成されると考えられ、ばらつきが小さく、電気特性及びプロセス安定性の良好な抵抗体が得られる。
【0031】
前記導電性酸化物粉末や前記複合粉末の粒径は特に制限されないが、好ましくはBET法による比表面積が5〜30m/g、平均粒径に換算するとほぼ0.02〜0.2μmのものが使用されるが、好ましくは0.04〜0.1μmである。このような極めて微細な粉末を使用することにより、抵抗体焼成膜中で導電性粒子が良好に分散して、均一で安定な導電粒子/ガラス微細構造が形成され、電流雑音特性や負荷特性の極めて優れた抵抗体が得られる。本発明においては、導電性粉末としてこのような比表面積の大きい、微細なルテニウム複合酸化物を用いた場合でも、焼成による複合酸化物の分解が生じにくい。比表面積が5m/g未満では、電流雑音や負荷特性が悪化する傾向がある。また比表面積が30m/gより大きくなると、ガラスとの反応性が高くなるため、安定した特性が得られにくくなる。特に10〜25m/gの範囲が好ましい。
【0032】
なお、所望によりこれらルテニウム系導電性成分に、他の導電成分、例えば、銀、酸化銀、金、パラジウム、酸化パラジウム、白金、銅等の粉末やこれらの前駆体となる化合物を併用してもよい。
【0033】
ガラス
ガラスとしては、特定範囲の塩基度を有し、鉛成分を含まず、かつ抵抗体組成物を焼成して得られた抵抗体膜中にMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在するような組成であることが必要である。ガラスの塩基度Poは、Kenji Morinaga他のJ.Am Ceram.Soc.,77(12),3113−3118(1994)で提案しているガラスの酸素イオンの活量(供与能力)を表すパラメータであるガラスの塩基度Bの定義に従って算出したものである。具体的には、本願明細書に記載のガラスの塩基度Poはガラスを構成する酸化物成分から以下の計算によって求められ、値が大きくなるに従って塩基性が強くなることを示している。
Po=Σ(n×Po')(Po'はガラスを構成する各酸化物の塩基度、nはガラス中の陽イオンのモル分率)
各酸化物の塩基度(Po')は、CaOのPo'=1、SiOのPo'=0として、次式で表される。
Po'=(Po−0.405)/1.023
ここで、Poは各酸化物の酸素イオンの供与能力、即ち酸素イオンの離し易さを示し、陽イオン−酸素間引力Aの逆数である。即ち、
Po =1/A
は、クーロン力に基づく次式で示される。
=Z×2/(r+1.40)
(但し、Z は陽イオンの価数、r は 陽イオンの半径(A))
【0034】
本発明においては塩基度が0.4〜0.9の範囲のガラスが使用される。主なルテニウム複合酸化物の塩基度を同様の方法で計算すると、例えば、NdRuは0.406、NdCaRu は0.497、CaRuOは0.587、SrRuOは0.722と、ほぼ0.4〜0.8の範囲であるが、本発明者らの研究によれば、ガラスの塩基度がルテニウム複合酸化物の塩基度に近いと、ルテニウム複合酸化物の分解抑制効果が大きい。ガラスの塩基度が0.4〜0.9の範囲外では、ルテニウム複合酸化物の分解を抑制することができない。なお、塩基度が0.9を超えるガラスは、安定性、化学的耐久性が極めて低く、厚膜抵抗体には使用できない。
【0035】
MSiAl結晶は、セルシアン、ヘキサセルシアン、パラセルシアン等であるが、焼成して得られる厚膜抵抗体のガラスマトリクス中に均一に分散した状態で存在していればよい。この結晶の存在により、均一で安定な導電粒子/ガラス微細構造が形成でき、かつ導電性粒子同士がガラスマトリクス中で緊密に接触し、従来鉛フリーの厚膜抵抗体では作りにくかった安定な導電ネットワークが形成されると考えられる。
【0036】
このような抵抗体を形成するためには、MSiAl結晶粉末を、ガラスと別に抵抗体組成物中に添加してもよいが、好ましくは、焼成中にこの結晶を析出するような組成の非晶質ガラスを用いる。あるいは、このような組成の非晶質ガラスを予め熱処理してMSiAl結晶を析出させて得た、部分結晶化ガラスを用いてもよい。このような結晶化可能な非晶質ガラス又は部分結晶化ガラスを用いる場合、焼成後微細な結晶が抵抗膜全体にわたって均一に析出するため、導電ネットワークが安定化されると考えられる。
【0037】
前記MSiAl結晶を析出し得るガラスとしては、少なくともバリウム及び/又はストロンチウムと、アルミニウムと、珪素とを必須成分として含む(Ba,Sr)−Si−Al系ガラスが使用される。析出する結晶の量が過多になると、抵抗体が硬くなってレーザートリミング性が悪化する傾向があり、また抵抗値が上昇し過ぎる傾向がある。析出量が少ないと、特に高抵抗域で安定な特性が得られにくくなる。適切な量のMSiAl結晶を析出しうる好ましいガラスは、硼素、アルミニウムの含有量がそれぞれ酸化物換算で、Bを5〜30mol%以下、Alを1〜20mol%以下含有する(Ba,Sr)−Si−Al系ガラスである。このガラスには、アルカリ金属元素、ジルコニウムを、それぞれの酸化物換算で、RO(Rはアルカリ金属元素)10 mol%以下、ZrOを20mol%以下含有されてもよい。30mol%を越えるB含有量、10mol%を越えるRO含有量は、抵抗組成物が導電性成分としてルテニウム複合酸化物を含む場合、焼成時に該複合酸化物が分解し易くすることから好ましくない。上記のAl含有量が20mol%を越えるとMSiAl結晶の量が過多になる。また、ZrO含有が20mol%を越えるとヤング率が大きくなり過ぎる傾向があると共に、ZrO2自体の耐熱性が大きいのでレーザートリミング性が悪化する。
【0038】
MSiAl結晶を析出し得るガラスは、更に好ましくはCaO、BaO、SrOを、合計含有量で20〜60mol%、SiOを20〜50mol%含有する。CaO、BaO、SrOの合計含有量が20mol%より少ないと実質的にPo値が0.4より小さくなる傾向にあり、一方60mol%を超えると熱膨張係数が大きくなり過ぎたり、MSiAl結晶の量が過多になる傾向がある。SiOの含有量は、20mol%より少ないとMSiAlの生成が不十分となり、50mol%より多いとヤング率が大きくなり過ぎる傾向となると共に、Po値も実質的に小さくなってしまう。
【0039】
好ましいガラス組成としては、下記の組成のガラスが例示される。
SiO:25〜35mol%、Al:3〜15mol%、BaO及び/又はSrO:5〜50mol%、B:10〜25mol%、CaO:15〜40mol%、ZrO:0〜10mol%、RO:0〜5mol%
更に、ガラスの一成分として、前記Po値を満足する範囲で、TCRやその他の抵抗特性を調整し得る金属酸化物、例えばNb、Ta、TiO、CuO、MnO、La、ZnO等を1種又は2種以上含有させても良い。これらの成分は、ガラスに含有させることによって、抵抗体中により均一に分散させることが可能になり、少量でも高い効果を得ることができるが、通常は合計量で1〜10mol%程度のガラス中での含有量であり、目的とする特性に応じて適宜調整される。上記に加えて、WO、MoO、SnO等も、ガラスの特性を害さない範囲内で適宜添加することができる。
【0040】
前記MSiAl結晶を析出する(Ba,Sr)−Si−Al系ガラスは一般に硬度が高く、抵抗体のレーザートリミングが困難になったり、トリミング後の安定性が悪化したりする傾向がある。この点はヤング率の低い(Ba,Sr)−Si−Al系ガラスを用いることにより改善されるが、本発明においては、ヤング率が50〜95GPaのガラスを使用するのが好ましい。ヤング率が95GPaを越えると抵抗体が硬くなりすぎてレーザートリミングが困難になったり、ばらつきが大きくなる傾向がある。
【0041】
ガラスの熱膨張係数は優れた抵抗特性を得るためには重要であり、焼成後の抵抗体の熱膨張係数が基板の熱膨張係数と同程度かそれより小さくなるように選択することが望ましい。例えばアルミナ基板上に適用する場合には、熱膨張係数が65〜90×10−7/℃程度のガラスを用いることが好ましい。
【0042】
ガラスの軟化点は特に限定されるものではないが、本発明の抵抗体組成物は700〜900℃程度で焼成されるので、軟化点が500〜750℃の範囲のものを使用するのが好ましい。
【0043】
本発明の抵抗体組成物において、ガラス成分は、ガラス粉末として配合されてもよいが、前述のようにガラス成分の一部または全部が導電性成分との複合粉末として配合されても良い。導電性成分と複合化されていないガラス粉末を用いる場合、ガラス粉末の平均粒径は約3μm以下であればよいが、ばらつきの少ない安定した抵抗体を形成するためには平均粒径0.01〜1μm、特に0.05〜0.5μmの範囲が好ましい。
【0044】
なお、2種以上の異なる組成のガラスを混合して使用しても良い。例えば(Ba,Sr)−Si−Al系ガラスとこれ以外の組成を有する鉛フリーガラスを併用してもよい。複数のガラスを使用する場合、ガラスを構成する全ての成分酸化物から計算された塩基度が0.4〜0.9の範囲であることが必要である。
【0045】
導電性成分とガラスの配合比は、重量比で 65:35〜25:75の範囲であることが好ましい。
【0046】
有機ビヒクル
導電性成分とガラスは、必要により他の無機添加剤と共に、スクリーン印刷等の抵抗体組成物を適用する方法に適したレオロジーのぺースト、塗料、又はインク状の抵抗体組成物とするために、有機ビヒクルと混合される。ビヒクルとしては、特に制限はなく、普通に知られているテルピネオール、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、ブチルセロソルブやこれらのエステル類、トルエン、キシレン等の溶剤や、これらにエチルセルロースやニトロセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン等の樹脂を溶解した溶液が用いられる。必要により可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属有機化合物等を添加してもよい。
【0047】
有機ビヒクルの配合比率も、通常抵抗体組成物に使用される範囲でよく、印刷等の抵抗体組成物の適用方法に応じて適宜調整される。好ましくは無機固形分50〜80重量%、ビヒクル50〜20重量%程度である。
【0048】
その他の添加剤
本発明の抵抗体組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、TCR、電流雑音、ESD特性等抵抗特性の改善、調整の目的で通常使用される種々の無機添加剤、例えばNb、Ta、TiO、CuO、MnO、ZnO、ZrO、Al等を単独で又は組合わせて添加してもよい。このような添加剤を配合することにより、広い抵抗値範囲にわたってより優れた特性の抵抗体を製造することができる。添加量は、その使用目的に応じて適宜調整されるが、通常は、導電性成分とガラス成分の合計100重量部に対して合計で1〜10重量部程度である。
【0049】
抵抗体の製造
本発明の抵抗体組成物は、通常の方法により、アルミナ基板、ガラスセラミック基板等の絶縁性基板や積層電子部品上に所定の形状で印刷法等で適用され、乾燥後、例えば700〜900℃程度の高温で焼成される。このようにして形成された抵抗体には、通常オーバーコートガラスを焼付けることにより保護被膜が形成され、必要に応じてレーザートリミング等により抵抗値の調整が行われる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1
比表面積20m/g、平均粒径に換算して約0.06μmのCaRuO粉末:40重量部
表1に示す組成の平均粒径約0.1μm、Po値0.468のガラス粉末A:60重量部
有機ビヒクル(エチルセルロースの25%テルピネオール溶液):30重量部
を混練し、ペースト状の抵抗体組成物を作製した。なお、ガラス粉末Aのヤング率(計算値)、軟化点、熱膨張係数は表1に示す通りである。
【0052】
この組成物を、予めAg/Pd系厚膜電極を焼付けして形成したアルミナ基板上に、1mm×1mmの正方形パターンで乾燥膜厚が約15μmとなるようにスクリーン印刷し、150℃で乾燥後、空気中ピーク温度850℃、40分サイクルで焼成して抵抗体を製造した。
【0053】
焼成膜をFE−SEM(フィールド・エミッション型走査電子顕微鏡)及びX線回折装置により調べたところ、抵抗体被膜全体に亘ってガラス中にBaSiAl結晶(セルシアン及びヘキサセルシアン)が析出しているのが確認された。また、得られた抵抗体のシート抵抗値(焼成膜厚7μm換算)、+25〜+125℃及び−55〜+25℃で測定されたTCR、電流雑音、STOL(短時間過負荷特性)を調べ、結果を表2に示した。数値はいずれも抵抗体試料20個についての平均値である。尚、STOLは、1/4W定格電圧の2.5倍の電圧(但し最大400V)を5秒間かけた後の抵抗値変化率を測定したものである。
【0054】
実施例2
CaRuOとガラスの比率を表2の通りとする以外は実施例1と同様にして、抵抗ペーストを作製した。実施例1と同様に抵抗体を製造し、シート抵抗値、TCR、電流雑音、STOLを測定した。得られた結果を表2に併せて示した。
【0055】
実施例3
添加剤としてNb粉末を、CaRuOとガラスの合計100重量部に対して5重量部添加する以外は実施例1と同様にして、抵抗ペーストを作製した。実施例1と同様に抵抗体を製造し、特性を調べて表2に併せて示した。
【0056】
実施例4〜10
ガラス粉末として表1のガラスB〜H(平均粒径約0.1μm)を使用し、かつCaRuO、RuO、ガラス、添加剤の配合量を表2の通りとする以外は実施例1と同様にして、抵抗ペーストを作製した。実施例1と同様に抵抗体を製造し、特性を調べて表2に併せて示した。
【0057】
実施例11
比表面積20m/g、平均粒径に換算して約0.06μmのCaRuO粉末25重量部と、比表面積14m/g、平均粒径に換算して約0.06μmのRuO2粉末15重量部、ガラスHを60重量部使用する以外は実施例1と同様にして、抵抗ペーストを作製した。実施例1と同様に中抵抗域の抵抗体を製造し、特性を調べて表2に併せて示した。
【0058】
実施例12
比表面積15m/gのCaRuO粉末40重量%と、平均粒径約0.1μmのガラス粉末C 60重量%からなる混合物を、600℃で1時間熱処理した後ボールミルで粉砕して比表面積18m/g、平均粒径に換算して約0.07μmの複合粉末を得た。この複合粉末100重量部をエチルセルロースの25%テルピネオール溶液からなる有機ビヒクル40重量部と共に混練して、ペースト状の抵抗体組成物を作製した。
【0059】
実施例1と同様にして抵抗体を製造し、シート抵抗値、TCR、電流雑音、STOLを測定した。得られた結果を表2に併せて示した。
【0060】
実施例13
比表面積15m/gのCaRuO粉末を30重量%、ガラス粉末Dを70重量%使用する以外は実施例12と同様にして、比表面積18m/g、平均粒径に換算して約0.07の複合粉末を得、抵抗ペーストを作製した。実施例12と同様に抵抗体を製造し、特性を調べて表2に併せて示した。
【0061】
比較例I〜VI
ガラス粉末として表1のガラスI〜M(平均粒径約0.1μm)を使用し、かつCaRuO、ガラス、添加剤の配合量を表2の通りとする以外は実施例1と同様にして、抵抗ペーストを作製した。実施例1と同様に抵抗体を製造し、特性を調べて表2に併せて示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
上記の結果から明らかなように、本発明によれば、広い抵抗値範囲に亘ってTCR、電流雑音特性や負荷特性のいずれにも優れた抵抗体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分を含まないルテニウム系導電性成分と、ガラスの塩基度(Po値)が0.4〜0.9である鉛成分を含まないガラスと、有機ビヒクルとを含む抵抗体組成物であって、これを高温で焼成して得られる厚膜抵抗体中にMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする抵抗体組成物。
【請求項2】
ガラスが少なくともバリウム及び/又はストロンチウムと、アルミニウムと、珪素とを必須成分として含み、焼成によりMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)を析出するものであることを特徴とする、請求項1に記載の抵抗体組成物。
【請求項3】
ガラスのヤング率が50〜95GPaの範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抵抗体組成物。
【請求項4】
ルテニウム系導電性成分がルテニウム複合酸化物であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【請求項5】
前記ルテニウム系導電性成分と前記ガラスとがそれぞれルテニウム系導電性粉末及びガラス粉末として含有されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【請求項6】
前記ルテニウム系導電性成分と前記ガラスの少なくとも一部とが予め複合化された複合粉末として含有されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【請求項7】
前記ルテニウム系導電性粉末又は複合粉末の比表面積が5〜30m/gであることを特徴とする、請求1ないし6のいずれかに記載の抵抗体組成物。
【請求項8】
鉛成分を含まないガラスマトリックス中に、鉛成分を含まないルテニウム系導電相とMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする厚膜抵抗体。

【公開番号】特開2007−103594(P2007−103594A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290216(P2005−290216)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】