説明

抵抗溶接装置及びこれに用いる電極

【課題】高張力鋼のような溶接により接合しにくい材料であっても、内側電極の軟化を防止し、確実に接合することができる抵抗溶接装置を提供する。
【解決手段】内側電極20の横断面積を、平坦面22から基端側へ向けて徐々に大きくすることにより、ワークから平坦面22を介して伝わる熱が、体積のより大きくなる基端側へ向けて拡散されるため、内側電極20の先端部21の温度上昇を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接装置及びこれに用いる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接方法として、例えば図9(a)に示すように、2枚の金属板を重ねたワークWの一方の面に2本の電極101・102を接触させて通電する、いわゆる片側スポット溶接が知られている。この場合、電極101・102間には図9(b)に点線で示すような経路で電流が流れるため、各電極101・102とワークWとの接触部のうち、相手電極側部分の電流密度が高くなって高温となり(高温部をS1で示す)、その反対側の電流密度が低くなって低温となる(低温部をS2で示す)。ワークの温度が高くなりすぎると、ワーク表面が部分的に溶融してワーク表面に割れが発生する恐れがあり、ワークの温度が低すぎると、ワークが十分に軟化せず、接合されない恐れがある。このため、電極に流す電流値は、前記接触部の高温部S1で割れが発生しないように、且つ、前記接触部の低温部S2でワークが十分に接合されるように設定する必要がある。
【0003】
しかし、高張力鋼(ハイテン鋼)のように融点の高い材料を溶接する場合は、温度を少なくとも1000℃以上まで高める必要がある。このため、前記接触部の低温部S2が1000℃以上となるように電流値を大きくすると、高温部S1で割れが発生し、高温部S1で割れが発生しないように電流値を抑えると、低温部S2でワークが接合されないというジレンマが生じ、電流値を適切に設定することが極めて困難であった。
【0004】
例えば特許文献1には、図10(a)に示すように、筒状の外側電極201(第2の部分9)の内周に絶縁体202(電気的絶縁体8)を介して内側電極203(第1中央円筒形部分7)が同軸状に設けられた電極(以下、同軸電極と言う。)を有する溶接装置が示されている。このような同軸電極によれば、図10(b)に示すように、外側電極201と内側電極203との間における電流密度を周方向で均等に分布させることができるため、電極とワークとの接触部において、上記の高温部S1及び低温部S2のように温度差は形成されず、温度を均一化できる。従って、高張力鋼のような材料を溶接する場合であっても、ワークに割れを生じさせず、且つ、ワークを確実に接合することができる電流値を、比較的容易に設定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−284980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、同軸電極を用いて溶接する場合、電流密度が内側電極の直下部分に集中し、この部分の温度が非常に高温となる。例えば高張力鋼を溶接する場合は、溶接点を少なくとも1000℃以上にする必要がある一方で、内側電極に多く用いられるCr−Cu合金は400℃を超えると軟化し始める。このため、ワークの熱が内側電極に伝わり内側電極が軟化変形して、内側電極とワークとの接触部における面圧が低下することによりスパークが発生する恐れがある。
【0007】
例えば、内側電極を大径に形成してその体積を大きくすれば、内側電極の熱容量が大きくなり、ワークの熱による温度上昇を抑えることができる。しかし、内側電極を大径化するとワークとの接触面積が大きくなるため、内側電極とワークとの接触部における面圧が小さくなり、適切に溶接がされない恐れがある。かかる不具合を回避するために、電極をワークに強い力で押し付けると、ワークが撓んで電極とワークとの接触状態が不均一となり、やはり溶接が適切に施されない恐れがある。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、高張力鋼のような溶接により接合しにくい材料であっても、内側電極の軟化を防止し、確実に接合することができる抵抗溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、筒状に形成された外側電極と、外側電極の内周に同軸状に配された内側電極を有し、内側電極及び外側電極の先端部をワークに接触させて通電することでワークを溶接する抵抗溶接装置であって、内側電極の先端部に平坦面を形成し、この平坦面から基端側に向けて、電極の中心軸方向と直交する方向の断面積が徐々に大きくなるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
例えば図11に示すように、内側電極300を段付き軸状に形成すれば、大径部301により大きな体積を確保できると共に、小径部302の先端部に設けられた平坦部303の面積を小さくすることができる。しかし、大径部301により内側電極300の体積を大きくしても、ワークと接触する内側電極300の先端部に円柱状の小径部302が形成されるため、この小径部302が熱により軟化してスパークを発生させる恐れがある。これに対し、本発明のように、内側電極の中心軸方向と直交する方向の断面積(以下、横断面積)を、平坦面から基端側へ向けて徐々に大きくすることにより、ワークから平坦面を介して伝わる熱が、体積のより大きくなる基端側へ向けて拡散されるため、内側電極の先端部の温度上昇を抑えることができ、軟化変形を防止できる。
【0011】
上記の内側電極の先端部に、前記平坦部から外径を徐々に大きくした中実の円すい部を形成すれば、その横断面積を基端側へ向けて徐々に大きくすることができる。この円すい部の頂角が小さすぎると、平坦部から伝わる熱を基端側へ十分に拡散することができず、円すい部の頂角が大きすぎると、内側電極の押し付け力によりワークが少し凹むことで円すい部とワークとが接触するため、接触面積が大きくなって面圧が低下する恐れがある。このため、円すい部の頂角は100〜170度に設定することが好ましい。
【0012】
また、同軸電極により溶接する場合は、内側電極の直下でワークが高温となり、その外周を筒状の外側電極で囲まれた状態となる。このとき、外側電極の先端部が周方向全域においてワークに接触し、外側電極の内部の空間を密閉すると、内部の熱を外に逃がすことができず、内部電極の軟化を促進する恐れがある。そこで、外側電極の先端部に切り欠き部を形成すれば、外側電極をワークに当接させた状態で、内部空間と外部とを連通する窓が形成され、内部の熱を逃がすことができ、内部電極の軟化防止に寄与することができる。尚、切り欠き部はワークと接触しないため、切り欠き部を外側電極の周方向等間隔位置に形成することで、外側電極とワークとの接触部(すなわち通電箇所)を周方向で均等に配することができ、内側電極と外側電極との間における電流密度を均等に分布させることができる。
【0013】
また、同軸電極で溶接を行うと、内側電極とワークとの当接部で発生したスパッタが、外側電極の内周面に付着して固化することがある。この固化したスパッタが外側電極から剥がれ落ち、内側電極と外側電極との間の領域に落下すると、通電を阻害する恐れがある。そこで、上記のように外側電極の先端部に切り欠き部を形成すれば、スパッタの一部が外側電極の切り欠き部から外部に抜けるため、外側電極の内周面に付着するスパッタを低減することができ、通電が阻害される恐れを減じることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の抵抗溶接装置によれば、高張力鋼のような溶接により接合しにくい材料であっても、内側電極の軟化に伴うスパーク発生を抑制すると共に、ワークを確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】溶接装置の断面図である。
【図2】同軸電極の断面図である。
【図3】同軸電極の正面図である。
【図4】同軸電極の下面図である。
【図5】内側電極の先端部の断面図である。
【図6】同軸電極をワークに当接させる手順を示す断面図である。
【図7】同軸電極をワークに当接させる手順を示す断面図である。
【図8】外側電極をワークに食い込ませた状態を示す断面図である。
【図9】(a)は、従来の電極による抵抗溶接の様子を示す断面図であり、(b)は、ワーク表面における電流密度の分布を示す平面図である。
【図10】(a)は、従来の同軸電極による抵抗溶接の様子を示す断面図であり、(b)は、ワーク表面における電流密度の分布を示す平面図である。
【図11】段付き軸状の内側電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明の第1実施形態に係る抵抗溶接装置は、図1に示すように、筒状の外側電極10、及び外側電極10の内周に配された内側電極20を有する同軸電極30と、同軸電極30を支持する支持部40と、支持部40に対して外側電極10を軸方向に移動させるための外側電極移動手段(本実施形態ではスプリング50)と、支持部40に対して内側電極20を軸方向に移動させるための内側電極移動手段(本実施形態ではシリンダ60)と、支持部40を介して同軸電極30全体を中心軸方向に移動させる同軸電極移動手段(本実施形態では昇降機70)とを備える。外側電極10及び内側電極20は、図2に示すように、コイル81を介して電源80に接続される。外側電極10と内側電極20との径方向間には、円筒状の絶縁部材90が配される。尚、本実施形態では、同軸電極30の中心軸方向を鉛直方向とし、同軸電極30を降下させて外側電極10及び内側電極20の先端部をワークWの上面に当接させる場合を示す。
【0018】
外側電極10は、金属材料(例えばCr−Cu合金)で略円筒形状に形成され、先端部を下方に向けて配される。外側電極10の先端部11は、図2に示すように、先端側(下方)へ向けて徐々に肉厚が小さくなっており、本実施形態では軸方向断面で下向きに膨らんだ円弧状を成している。外側電極10には、図3及び図4に示すように、先端部11から基端側(上方)に延びた切り欠き部12が、円周方向等間隔の複数箇所(図示例では6箇所)に形成される。本実施形態では、切り欠き部12の円周方向幅L1は、隣り合う切り欠き部12間の円周方向間隔L2よりも小さくなるように設定される(図4参照)。
【0019】
外側電極移動手段としてのスプリング50は、図2に示すように、外側電極10の上端部と支持部40との軸方向間に圧縮状態で配され、これにより外側電極10が常に下向きに付勢される。また、外側電極10の下方への移動は、支持部40に設けられた保持部41で規制される。具体的には、外側電極10の上端部には、外径へ突出した係止部13が形成され、保持部41の下端部には内径向きの突出部42が形成される。これらの外側電極10の係止部13と保持部41の突出部42とが軸方向で係合することで、係合部より下方への外側電極10の移動が規制される。
【0020】
内側電極20は、金属材料(例えばCr−Cu合金)で中実に形成され、外側電極10の内周面に固定された円筒形状の絶縁部材90の内周に挿入される。内側電極20は外側電極10に対して軸方向に相対移動可能に設けられ、本実施形態では、内側電極20は絶縁部材90に対して摺動可能に設けられる。内側電極20の先端部(下端部)21には、図5に示すように平坦面22が形成され、この平坦面22から基端側へ向けて横断面積が徐々に大きくなっている。本実施形態では、平坦面22から上方へ向けて外径を徐々に大きくした中実の円すい部23が形成される。円すい部23の頂角αは100〜170度の範囲内に設定され、例えば140度に設定される。
【0021】
内側電極移動手段としてのシリンダ60は、図1に示すように支持部40に取付けられ、シリンダ60内の圧力を高めると、支持部40に対して内側電極20が下方に押し出される。
【0022】
以下、上記構成の抵抗溶接装置による溶接方法の一例を説明する。
【0023】
まず、図1に示すように、内側電極20の先端部を外側電極10の先端部よりも下方に突出させた状態とし、この状態で同軸電極30全体を昇降機70により降下させ、図6に示すように、内側電極20の先端部21をワークWの上面に当接させる。続けて同軸電極30を降下させると、内側電極20がシリンダ60内部の圧力に抗して相対的に後退する(実際は、内側電極20がワークWに当接して静止した状態で、シリンダ60等が降下する)。このとき、内側電極20の先端部21はシリンダ60内部の圧力によりワークWに押し付けられている。
【0024】
さらに同軸電極30を降下させると、図7に示すように、外側電極10の先端部11がワークWに当接し、スプリング50の弾性力に抗して外側電極10が支持部40に近づく側に相対的に移動する(実際は、外側電極10及び内側電極20がワークWに当接して静止した状態で、支持部40等が降下する)。このとき、外側電極10は、スプリング60の弾性反力によりワークWに押し付けられ、図8に示すように、外側電極10の先端部11がワークWに僅かに食い込む。
【0025】
以上により、外側電極10及び内側電極20のワークWへの当接が完了する。このとき、外側電極10はスプリング50の弾性反力によりワークWに押し付けられ、内側電極20はシリンダ60内の圧力によりワークWに押し付けられている。
【0026】
この状態で外側電極10と内側電極20との間に通電することにより、溶接が行われる。具体的には、同軸電極30に通電することにより、ワークWのうち、内側電極20の直下部分に電流密度が集中し、この部分の温度が上昇する。この熱が上側の板W1と下側の板W2との接触部に伝達され、この接触部の材料が軟化(あるいは溶融)し、ナゲットを形成して両者を接合する。
【0027】
このとき、内側電極20の直下部分におけるワークWの熱が、平坦面22を介して内側電極20に伝達される。上記のように、内側電極20の先端部は、平坦面22から基端側へ横断面積が徐々に大きくなっており、すなわち、内側電極20の中心軸方向の微小長さ当りの体積が、基端側へ行くに従って徐々に大きくなっているため、平坦面22から伝わった熱が、より体積の大きくなる基端側へ拡散し、内側電極20の先端部21の温度上昇を抑えることができる。
【0028】
また、通電中は、外側電極10がワークWに当接することにより内部空間が形成されているが、外側電極10に切り欠き部12が設けられているため、外側電極10の内部空間と外部とを連通する窓が形成され、内部空間の熱を外へ逃がすことができる。これにより、外側電極10の内部空間における冷却効果を高め、内側電極20の軟化をより確実に防止できる。尚、切り欠き部12は周方向等間隔に設けられているため、すなわち、外側電極10の先端部に、ワークに接触する接触部(断面円弧状曲面)とワークに接触しない非接触部(切り欠き部12)とが周方向等間隔に設けられているため、外側電極10と内側電極20との間の電流密度を周方向で均等に分布させることができる。
【0029】
また、外側電極10に切り欠き部12を設けることで、外側電極10の内周で発生したスパッタが切り欠き部12を抜けて外部に抜けるため、外側電極10の内周面に付着するスパッタの量が低減され、通電が阻害される恐れを減じることができる。
【符号の説明】
【0030】
10 外側電極
20 内側電極
21 先端部
22 平坦面
23 円すい部
30 同軸電極
40 支持部
50 移動手段
60 スプリング
70 絶縁部材
80 シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成された外側電極と、外側電極の内周に同軸状に配された内側電極を有し、内側電極及び外側電極の先端部をワークに接触させて通電することでワークを溶接する抵抗溶接装置であって、
内側電極の先端部に平坦面を形成し、この平坦面から基端側に向けて、電極の中心軸方向と直交する方向の断面積が徐々に大きくなるようにしたことを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項2】
内側電極の先端部に、前記平坦部から基端側へ向けて外径を徐々に大きくした中実の円すい部を形成し、該円すい部の頂角が100〜170度である請求項1記載の抵抗溶接装置。
【請求項3】
外側電極の先端部の周方向等間隔箇所に切り欠き部を形成した請求項1又は2記載の抵抗溶接装置。
【請求項4】
筒状に形成された外側電極の内周に同軸状に配される内側電極であって、先端部をワークに接触させて外側電極との間で通電することによりワークの溶接を行う内側電極において、
先端部に平坦面を形成し、この平坦面から基端側に向けて、中心軸方向と直交する方向の断面積が徐々に大きくなるようにしたことを特徴とする内側電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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