説明

押しつぶされた形状の液体NMRサンプル管およびRFコイル

【課題】低下したRF損失および改善されたNMR測定感度を可能にする横方向に細長いサンプル容器、高周波コイル、コイル支持体、コイルアセンブリー、ならびに関連するシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】液体NMRサンプルを保持するための押しつぶされた(横方向に細長い)サンプル容器(サンプル管またはフローセル)、および一致する押しつぶされたサドル形状のRFコイルを用いる核磁気共鳴(NMR)システムおよび方法は、サンプル損失および/またはコイル損失を低下させることができ、また、RF回路の品質係数Qを増大させることができる。本発明の1つの実施において、RFコイルおよびサンプル容器は長方形の断面を有する。丸形(例えば、楕円形)の断面または他の押しつぶされた断面もまた使用することができる。非常に大きいサンプル損失に対応するコイルが、そのコイルにより生じる磁場がサンプル容器の主軸に沿うように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には核磁気共鳴(NMR)に関し、より詳細には、NMR用の高周波(RF)コイル、コイルアセンブリーおよびサンプル容器に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)分光計は、典型的には、静磁場Boを生じさせるための超伝導磁石と、場Boに直交する時間変化磁場B1を生じさせるための、また、加えられた磁場に対するサンプルの応答を検出するための1つ以上の特別目的の高周波(RF)コイルとを含む。それぞれのRFコイルは、サンプルに存在する目的とする核(原子核)のラーモア振動数(周波数)で共鳴することができる。目的とする共鳴周波数は、目的とする核および加えられた静磁場Boの強さによって決定される。これらのRFコイルは、典型的には、NMRプローブの一部として提供され、試験管またはフローセルに置かれたサンプルを分析するために使用される。従来のNMR磁石およびRFコイルは円筒型の対称性によって特徴づけられる。静磁場Boの方向がz軸として一般には示され、一方、z軸に直交する平面は一般にはx−y面またはθ面と呼ばれる。下記の議論では、用語「長さ方向の」は、通常、z方向を示すために使用され、一方、用語「横方向の」は、x方向およびy方向を示すために使用される。
【0003】
NMRのために使用される従来のRFコイルには、らせんコイル、サドルコイル、および鳥かご共鳴器が含まれる。液体NMR分光法において用いられる従来のRF共鳴器は、RF磁場が均一である大きな円筒形対称性の体積部をもたらすために注意して設計されている。様々なNMRシステムおよび方法に関する情報については、例えば、下記特許文献1ないし11を参照のこと。
【0004】
NMRプローブは、目的とする異なる核に対してNMR測定を行うためにそれぞれが調節される複数のNMRコイルを含むことができる。例えば、NMRプローブは、プロトンに対してNMR測定を行うために1つのコイルを、そして、目的とする他の核、例えば、13Cまたは15Nなどに対してNMR測定を行うために別のコイルを含むことができる。そのようなNMRプローブでは、1つのコイルの設計がそれ以外のコイルの性能に影響を及ぼし得る。2つのコイルの間での結合を低下させるために、コイルを直角(クワドラチャ)配置することができ、その結果、コイルにより生じる磁場は互いに直交する。この配置により、コイル間の相互インダクタンスが最小限に抑えられる。
【0005】
NMRコイルにより達成され得る測定感度は、コイルの品質係数Qおよびその空間占有率(フィルファクタ)nとともに増大する。品質係数Qは、コイル損失およびサンプル損失を低下させることによって最大にすることができる。空間占有率nは、サンプルに対するコイルサイズを小さくすることによって増大させることができる。同時に、サンプルに対するコイルサイズを小さくすることは、磁場の不均一性を増大させ得る。RF磁場の不均一性は測定感度に対して悪影響を及ぼす。さらに、コイルの設計および大きさは、コイルが所望の周波数範囲で共鳴する条件によって制約される。
【0006】
下記特許文献12において、Andersonは、サンプルを区画化する特別なサンプルセルの使用によりサンプルにおける電気的損失を減少させる方法を提案した。円筒状サンプルセルの体積部が、電気絶縁性の材料により隔てられた複数の管状区画に分けられている。絶縁性材料はサンプル内の電流経路を減少させる。仕切りの横断面の形状は、円形、三角形、長方形、正方形、または円筒状外殻の部分とすることができる。記載された方法は、実際に実施することが困難であり得る。
【特許文献1】米国特許第4,398,149号明細書
【特許文献2】米国特許第4,388,601号明細書
【特許文献3】米国特許第4,517,516号明細書
【特許文献4】米国特許第4,641,098号明細書
【特許文献5】米国特許第4,692,705号明細書
【特許文献6】米国特許第4,840,700号明細書
【特許文献7】米国特許第5,192,911号明細書
【特許文献8】米国特許第5,818,232号明細書
【特許文献9】米国特許第6,201,392号明細書
【特許文献10】米国特許第6,236,206号明細書
【特許文献11】米国特許第6,285,189号明細書
【特許文献12】米国特許第5,552,709号明細書
【特許文献13】米国特許第5,510,714号明細書
【特許文献14】米国特許第6,479,998号明細書
【特許文献15】米国特許第5,192,911号明細書
【特許文献16】米国特許第6,008,650号明細書
【非特許文献1】Poole "Electron Spin Resonance : A Comprehensive Treatise on Experimental Techniques" (Wiley Interscience, John Wiley & Sons, New York, 1983年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低下したRF損失および改善されたNMR測定感度を可能にする横方向に細長い(押しつぶされた)サンプル容器、高周波コイル、コイル支持体、コイルアセンブリー、ならびに関連するシステムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
それぞれのサンプル容器は、好ましくは、対応するコイルの横方向の形状と一致する細長い横方向の形状を有する。複数の入れ子状の直交したコイルを使用することができる。サンプル容器の横断面の長軸は、好ましくは、目的とする受信器コイルに対応するRF磁場の方向と一致する。好ましい実施形態において、NMRプローブおよびNMR分光計のためのサドル形状の高周波コイルは、複数の長さ方向(縦方向)の導体と、第1の横方向に沿う向きの高周波磁場を生じさせるように長さ方向の導体に接続された複数の略横方向の導体(ここで、長さ方向の導体および横方向の導体により形成されるコイルの横断面が、第1の横方向に直交する第2の横方向に沿うよりも大きい第1の横方向に沿う大きさを有する略押しつぶされた(細長い)形状を有する)とを含む。第1の横方向は、コイルにより生じるRF磁場の方向と一致する。コイルは、長方形断面、丸形(例えば、楕円形)断面、または他の押しつぶされた(細長い)断面を有し得る。RF磁場の方向はサンプル容器の長い横方向の軸と一致する。押しつぶされたサンプル容器は、低温適用の場合には特に、円筒状の対称性を有する従来のコイルと一緒に使用することができる。
【0009】
本発明の前記の局面および利点は、下記の詳細な説明を読んだとき、また、図面を参照したとき、より良く理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
下記の説明において、それぞれの列挙された要素または構造は一体型構造によって形成され得るか、または一体型構造の一部であり得るか、または複数の別個の構造から形成され得ることが理解される。定置サンプル容器は、サンプルが通常の場合にはそれを通って流れない試験管などの容器である。サンプルは定置サンプル容器において運動(例えば、回転)させることができる。コイルがサンプルホルダーに機械的に結合されているという表現は、コイルがサンプルホルダーに対して固定された関係で保持されていることを意味することが理解される。そのようなコイルはサンプルホルダーに直接取り付けることができ、中間の支持体構造を介してサンプルホルダーに間接的に結合させることができる。第1のコイルが第2のコイルに関して直交配置されているという表現は、第1のコイルおよび第2のコイルにより生じる磁場が実質的に直交していることを意味することが理解される。第1のコイルおよび第2のコイルに関して同心円状に配置されているという表現は、2つのコイルが、実質的に一致する長さ方向の軸を有することを意味することが理解される。用語「環」は、スロットを有する(不連続)環を包含する。特に断らない限り、用語「低温」は、200Kよりも低い温度を示すことが理解される。明示的に別途限定されない限り、NMRコイルが「サドル形状」であるという表現は、コイルが、NMRサンプルの長軸に直交し、かつ静磁場の均一な領域の長軸に直交する単一の横方向に沿って磁場を生じさせるような形状にされていることを意味することが理解される。サドル形状のコイルは、典型的には直角(クワドラチャ)駆動され、直交する方向に沿って交互に変化する磁場を生じさせる鳥かごコイルとは異なり、筒形(ソレノイド)コイルとも異なる。コイルが、サンプルに対して核磁気共鳴測定を行うために使用されるという表現は、コイルが、発信器もしくは受信器またはその両方として使用されることを意味することが理解される。
【0011】
下記の説明により、本発明の様々な実施形態が、必ずしも限定としてではなく、例として示される。
液体NMRサンプルを保持するための従来のNMRサンプル容器および関連するRFコイルは、円筒状の対称性を特徴とする。本発明は、NMRシステムにおいて達成され得るシグナル対ノイズ比(SNR)が、適切な向きに横方向に押しつぶされたサンプル管と、場合により、横方向に押しつぶされた一致するサドル形状のRFコイルとの使用によって改善され得るという観測結果に依る。SNRの改善は、NMRプローブにおける電力損に対する支配的な吸い込み(シンク)が、例えば、高Qプローブにおける高イオン強度水性サンプルの分光法でのように、NMRサンプル自体である場合には特に顕著であり得る。
【0012】
y軸に沿う向きの下記の高周波磁場Bを考える。
【0013】
【数1】

【0014】
コイルが適切に設計されている場合、サンプル内の高周波電場は下記の形態を有する。
【0015】
【数2】

【0016】
xおよびyの大きさがそれぞれaおよびbであり、b(より大きい大きさ)がRF磁場(y軸)と合わせられているサンプル容器を考える。NMRシグナルはサンプル容器の断面積abに比例する。NMR試験におけるノイズは、RFパルスが伝送されている間に散逸する電力の平方根に比例する。次に、典型的には、低温プローブにおいて、または高Qプローブでの塩含有水性サンプルについては事実であるように、サンプル中での伝導損失がその散逸RF電力を支配する液体NMRサンプルを考える。散逸電力は、
【0017】
【数3】

【0018】
(式中、σはサンプルの電気伝導率であり、積分はサンプル容器の内部の断面にわたって行われる)
である。その場合、シグナル対ノイズ比は、
【0019】
【数4】

【0020】
である。
式[3]は、一般に、bが大きくなるに従い、また、aが小さくなるに従い、シグナル対ノイズ比(SNR)が改善されることを示している。実際には、アスペクト比b/aを過度に増大させると、サンプル体積の受け入れがたい損失、または静磁場およびRF磁場の均一性の低下をもたらし得る。アスペクト比b/aの増大はまた、サンプル中で散逸する電力がRFコイル内で散逸する電力と匹敵し得るようになると、十分に有益とならないことがある。一般には、所与の適用に対する最適なアスペクト比が経験的に決定/試験され得る。
【0021】
サンプル容器形状と一致する押しつぶされた形状を有するRFコイルを用いることにより、コイルの空間占有率(フィルファクタ)を改善することが可能になる。コイルおよびサンプル容器は、好ましくは、受信コイルに対応する磁場がサンプル容器の主軸と合うように配置される。典型的な配置において、プロトンチャネルが検出のために使用される場合、受信(プロトン)コイルはまた、最も大きいサンプル損失周波数にも対応する。プロトン共鳴周波数におけるサンプル損失は、多くの場合、他の核(例えば、炭素)の共鳴周波数でのサンプル損失よりも大きい。これは、プロトン測定がより高いRF周波数で行われるからである。そのような適用では、サンプル容器は、好ましくは、その主軸がプロトンRF磁場と合うように配置される。異なる核(例えば、炭素)が受信チャネルのために使用される場合、サンプル損失が異なる周波数でより大きい場合でさえも、RFコイルおよびサンプル容器は、受信チャネルの共鳴周波数での損失を最小限に抑えるために位置調整することができる。
【0022】
押しつぶされた鳥かごコイルおよび勾配コイルが、例えば、上記特許文献13および14に記載されるように、ヒト身体などの非対称な物体の周りでコイルを適合させるために、MRI適用においてこれまで使用されている。押しつぶされたサンプルセルおよび共鳴空洞はまた、例えば、上記非特許文献1に記載されるように、ESR(電子スピン共鳴)における使用のために提案されている。電子スピン共鳴では、典型的には核磁気共鳴よりもはるかに高い周波数で生じる電子のスピン共鳴を測定することを含む。
【0023】
図1−Aは、本発明の好ましい実施形態による核磁気共鳴(NMR)分光計12を示す概略図である。分光計12は、磁石16と、磁石16の円筒状内孔に挿入されたNMRプローブ20と、磁石16およびプローブ20に電気的に接続された制御/取得システム18とを含む。1つ以上のシムコイル32が磁石16に結合している。シムコイル32は、特に、シムコイル32が低温で維持される超伝導クライオコイルである場合には、磁石16の一部として提供され得る。シムコイル32はまた、特に、シムコイル32が調節可能な室温コイルである場合には、磁石16とは別に提供され得る。シムコイル32は円筒状の対称性によって特徴づけることができる。1つ以上の勾配コイルが、磁場勾配を生じさせるために、プローブ20の一部として提供され得る。
【0024】
プローブ20は、目的とする1つの液体NMRサンプル22を一時保持し、その間に測定がサンプル22に対して行われるための従来のサンプルホルダーまたはサンプル保持用要素を含む。プローブ20はフロースループローブまたは定置サンプルプローブであり得る。フロースループローブでは、サンプル22は典型的にはフローセルに保持される。定置サンプルプローブでは、サンプル22は典型的には試験管に保持される。定置サンプルプローブでは、サンプルは、この分野では知られているように、試験管の長さ方向の軸の周りに回転させることができる。プローブ20はさらに、1つ以上のサドル形状の高周波(RF)コイル30a〜30bを有するコイルアセンブリーを含む。一般に、プローブ20は3つ以上のRFコイルを含むことができる。プローブ20は低温プローブまたは室温プローブであり得る。低温プローブでは、コイル30a〜30bが、通常、低温で、例えば、窒素の沸点(78K)よりも低い温度で保持される。
【0025】
磁石16により、長さ方向の静磁場Boがサンプル22に加えられる。シムコイル32により、サンプル22に加えられた静磁場Boの空間不均一性を減少させる補償静磁場が加えられる。制御/取得システム18は、所望の高周波パルスをプローブ20に加え、プローブ20内のサンプルの核磁気共鳴特性を示すデータを取得するためのエレクトロニクス要素を含む。コイル30a〜30bは、横方向の高周波磁場B1をサンプル22を加えるために、かつ/または加えられた磁場に対するサンプル22の応答を測定するために使用される。同じコイルを、RF磁場を加えるために、そして加えられた磁場に対するサンプル応答を測定するために、その両方で使用することができる。あるいは、1つのコイルを、RF磁場を加えるために使用することができ、別のコイルを、加えられた磁場に対するサンプルの応答を測定するために使用することができる。一般的な適用では、サンプル22は、複数のコイル30a〜30bを使用して複数の周波数で励起され、その一方で、シグナル(例えば、プロトンシグナル)が、コイル30a〜30bの1つ(例えば、内側コイル30a)だけを使用して1つの周波数で読み取られる。
【0026】
サドル形状のRFコイル30a〜30bはそれぞれが、サンプル22に電磁気学的に結合し、制御/取得システム18に電気的に接続されている。RFコイル30a〜30bは、好ましくは、プローブ20の長さ方向の軸に対して同心円状(同軸状)に配置されている。RFコイル30a〜30bは、相互に直交する横方向の磁場を生じさせるために、相互に直交して配置されている。RFコイル30a〜30bはそれぞれが、目的とするNMR測定に影響を及ぼさないように選ばれた、石英またはサファイヤなどの材料から作製された支持体に取り付けられていてもよい。コイル30a〜30bはそれぞれが、好ましくは、その環境(典型的には、空気または真空)の磁化率と一致させるように磁化率補償される。
【0027】
RFコイル30a〜30bはそれぞれが、目的とする核のラーモア振動数と一致するように選ぶことができる異なる共鳴周波数を有していてもよい。例えば、コイル30a〜30bの一方を、1H−NMR測定を行うために調整することができ、その一方で、もう一方を、13C−NMR測定を行うために調整することができる。コイル30a〜30bは、一般に、目的とする他の核(例えば、19Fおよび31Pなど)に対してNMR測定を行うために使用することができる。本発明の実施において、下記に記載されるような内側のパターン化ホイルコイル30aが、1H−NMR測定を行うために使用され、一方で、外側の直交するワイヤコイル30bが、13C−NMR測定を行うために使用される。代わりの実施では、両方のコイルがパターン化ホイルまたはワイヤから形成され得る。市販のNMR磁石とともに一般に使用されるRFコイルの共鳴周波数は約10MHzから約1GHzまで及ぶ。プロトンの共鳴周波数は、典型的には、数百MHzの程度である。他の核に対する共鳴周波数はそれよりも低くなり得る。
【0028】
図1−Bには、プローブ20のより詳細な図が示されている。示されるように、プローブ20は、コイル30a〜30bを低温で保持するための、デュワー瓶33などの低温制御要素を含んでもよい。低温制御要素は、好ましくは、サンプル22を所望するサンプル温度(例えば、室温)で維持することを可能にする。プローブ20はまた、サンプル22の温度を制御するためのサンプル温度要素を含んでもよい。サンプル温度は、例えば、気体(例えば、空気)をサンプル壁に沿って長さ方向に流すことによって制御することができる。プローブ20の外側表面は、好ましくは、磁石内孔の対応する円筒状形状と一致する円筒状形状を有する。プローブ20内の内側表面、例えば、デュワー瓶33の内側表面などは、目的とするサンプル容器の断面と一致する細長い横断面を有していてもよい。
【0029】
図2−Aおよび図2−Bには、本発明による2つのNMR定置サンプル管122、222の等角図がそれぞれ示されている。サンプル管122、222は、一様な横断面を有する横方向に押しつぶされた管として全体的に成形されている。サンプル管122は、略長方形の横断面を有し、一方、サンプル管222は、略楕円形の横断面を有する。サンプル管122は、サンプル保持体積部130を包む5面(4つの平面側面および1つの底部)の壁124を有する。壁124により、目的とするサンプルをサンプル管122に挿入し、また、サンプル管122から取り出すために使用される長方形のサンプル管開口部128が規定されている。サンプル管222は、対応する楕円形のサンプル管開口部228を有する。サンプル保持体積部130は、サンプル保持体積部130の向き合う両側に位置する2つの押しつぶされた栓126a〜126bと長さ方向で接する。栓126a〜126bは、目的とするサンプルの体積が、壁124内に含まれる総体積よりも小さいとき、目的とするサンプルをコイル30a内の中心に置くために使用することができる。栓126a〜126bは、好ましくは、目的とする液体サンプルに対して磁化率が一致させられる。サンプル管222は、楕円形断面を有する類似した栓を含んでいてもよい。サンプル管122、222は、好ましくは、下記に記載されるように、一致する形状およびアスペクト比を有する対応するRFコイルおよび他の要素とともに使用される。
【0030】
図3−Aには、本発明によるフローセル322の概略的な長さ方向の断面図が示されている。フローセル322により、目的とするサンプルを保持するための押しつぶされたサンプル保持体積部330が規定されている。サンプル流入口328aおよびサンプル流出口328bがサンプル保持体積部330の向き合う両側に位置している。図3−Bおよび図3−Cには、サンプル保持体積部330に沿うフローセル322の横断面について2つの好適な形状が示されている。図3−Bには、略長方形の横断面を有するフローセル422が示されており、一方、図3−Cには、略楕円形の横断面を有するフローセル522が示されている。
【0031】
サンプル容器、例えば、容器122、222、322などの横方向のアスペクト比(2つの横方向の大きさの比)は、好ましくは1.2〜10の間であり、より好ましくは1.5〜8の間であり、理想的には2〜4の間である。本発明の実施において、NMRサンプル容器の横方向の内側の大きさは約2mmおよび7mmである。所与サンプル容器の最大横方向サイズについては、下記で詳しく議論されるように、横方向のアスペクト比を増大させると、RFのサンプル喪失を減少させることができる。同時に、アスペクト比を過度に大きくすると、サンプル体積の受け入れがたい喪失、従って、シグナル強度の受け入れがたい喪失がもたらされ得る。
【0032】
サンプル容器の長さ方向の広がり(長さ)は、好ましくは4インチ〜12インチ(10cm〜30cm)の間であり、より好ましくは6インチ〜10インチ(15cm〜25cm)の間である。本発明の実施において、サンプル容器は長さが約8インチ(20cm)である。短すぎるサンプル容器を用いると、NMRプローブ内でのサンプル容器の最適でない位置合わせ、サンプル容器を覆う加熱ガスの流れの不均一性の増大、およびシム補正の困難がもたらされ得る。加熱ガスの流れが不均一であることは、サンプル温度の空間的不均一を生じさせることがあり、一方、最適でないシム補正は静磁場の空間的不均一を生じさせることがある。サンプル容器により規定されるサンプル保持体積部は、好ましくは数cm程度の長さである。サンプル容器は、好ましくは、NMR適合性の材料から、例えば、石英、サファイヤまたはホウケイ酸ガラス(例えば、パイレックス(登録商標))などから作製される。
【0033】
上記に記載されるような押しつぶされたサンプル容器は、好ましくは、下記で例示されるように、RFコイル、および一致する断面を有する関連する要素とともに使用される。一致する断面をコイルおよびサンプル容器について使用することにより、改善された空間占有率を達成することができ、これにより、一般には、改善されたシグナル対ノイズ比(SNR)が可能になる。押しつぶされたサンプル容器はまた、特に、サンプル損失が優勢である低温適用の場合には、従来の円筒状RFコイルおよび関連する要素とともに使用することができる。そのような適用では、コイル損失は比較的低く、そして、コイルの空間占有率が最大でない場合でさえ、NMR測定に対する改善されたSNRが、押しつぶされたサンプル容器により達成され得る。
【0034】
図4−Aには、本発明の現在好ましい実施形態による押しつぶされた(横方向に細長い)サドル形状の高周波(RF)コイル30の電気伝導性の中心構造32の等角図が示されている。中心構造32は、中心構造32とともに用いられるサンプル容器の形状と一致する横方向に押しつぶされた管の全体的な形状を有する。サドル形状のコイル30aは、静磁場Boに直交し、かつサンプルの長さ方向の軸に直交する単一方向54に沿う向きのRF磁場を生じさせる。方向54は、サドル形状のRFコイル30b(これは図1−Aおよび図1−Bに示されている)によって生じるRF磁場の方向と直交する。中心構造32は、押しつぶされた誘電性支持体60(これは図4−Bに示されている)に取り付けられている。コイル30aは、中心構造32、誘電性支持体60、および1対の押しつぶされた導電性のキャパシタンス増強性フロートシールド34a〜34b(これは図4−Cに示されている)を含む。シールド34a〜34bは、中心構造32の中心に対して長さ方向の向き合う両側に配置されている。それぞれのシールド34a〜34bの中心軸は中心構造32の長さ方向の中心軸と合わせられている。中心構造32およびシールド34a〜34bは、好ましくは、支持体60の向き合う両側に配置されている。例えば、中心構造32を支持体60の外側に取り付けることができ、シールド34a〜34bを支持体60の内側に取り付けることができる。シールド34a〜34bは、図4−Cに示されるように連続体であってもよく、または、RFコイル30bによって生じる直交したRF磁場の進入を増大させるために長さ方向のスロットを含んでいてもよい。先行技術の円筒状コイルとの使用について記載されている円筒状シールドに関する情報については、例えば、上記特許文献15(Hill他)および上記特許文献16(Behbin)を参照のこと。
【0035】
押しつぶされた測定体積部36が、シールド34a〜34bの間で、中心構造32の中心部に規定されている。測定体積部36は、押しつぶされたサンプル管またはフローセルに保持される目的とするNMRサンプルを連続して収容する。シールド34a〜34bは、測定体積部36に隣接するシールド34a〜34bの表面の少なくとも一部に沿った中心構造32に容量結合している。シールド34a〜34bは、コイルリード線または他の導電性構造からのRFピックアップによるNMRサンプルの寄生励起を減少させるために、そして、望ましくない外部電場からNMRサンプルを遮蔽するために使用することができる。シールド34a〜34bはまた、さらなる分布キャパシタンスをコイル30aにもたらす。
【0036】
中心構造32は、測定体積部36から長さ方向に外に向かって延びる1対の外側の長さ方向の(縦方向の)リード部38a〜38bを含む。リード部38a〜38bにより、制御/測定エレクトロニクス18(これは図1に示されている)に対する電気的接続が提供される。中心構造32はさらに、1対の押しつぶされた横方向の導体(環)40a〜40b、および、環40a〜40bを相互に接続する1組の長さ方向の導体52を含む。横断面において、導体52の位置により、好ましくは、細長い外周が規定される。環40a〜40bは測定体積部36の向き合う両側に配置されている。複数の細長い長さ方向の導電性セグメント(ラング、導体)52により、環40a〜40bが相互に接続されている。長さ方向のセグメント52は、環40a〜40bの間で、測定体積部36に沿って広がる。図4−Aに示される形態において、環40bは、方向54に面する1対の長さ方向のスロット41を含む。
【0037】
環40a〜40bおよびセグメント52は、方向54に沿ったRF磁場を生じさせるために、横方向(x方向またはy方向)に沿って互いに面する2つのループを形成している。電流は、2つのループによって生じるRF磁場が互いに強め合うように、2つのループを同じ方向(時計回りまたは反時計回り)に流れる。それぞれのループにおけるRF電流は、方向54に面する対応するコイルウインドウ53の周りを流れる。外部からの電圧がリード部38a〜38bに加えられたとき、電流がリード部38aから環40a〜40bおよび長さ方向のセグメント52を通ってリード部38bに流れる。環40bの周りを流れる交流は、シールド34bにより長さ方向のスロット41をはさんで容量結合する。コイル30aを通る電流の流れは、横方向のRF磁場を方向54に沿って生じさせる。
【0038】
複数の対の細長い略長さ方向のスロット58a〜58cが、セグメント52の間に形成されている。中心の1対のスロット58aが、セグメント52の間で、環40aを通って延びている。スロット58a〜58cは、方向54に直交する横方向に面している。それぞれの対における2つのスロットは、方向54に平行する中心軸に関して対称的に配置されている。スロット58a〜58cは、直交するコイル30bによって生じる磁力線に対する、導体52により形成される障害を減少させるために役立つ。好ましくは、スロット58a〜58cのおおよその位置および数は、直交するコイル30bによって生じる磁場の改善された磁場均一性および増大した浸透をもたらすように選ばれる。
【0039】
スロット58a〜58cの形状および向きは、好ましくは、スロット58a〜58cの局所的な向きがコイル30a内のRF電流の流れの局所的な方向をたどるように選ばれ、その結果、コイル30aを通過するRF電流に対するスロット58a〜58cの影響を最小限に抑え、従って、コイル30aについて大きいQ値を維持するようにされる。好ましくは、1対の中心スロット58aは、長さ方向に、環40bの内側から、体積部36および環40aに沿って、環40aの外側縁まで延びている。一般に、スロット58a〜58cなどのスロットは、環40bにわたって、環40bの外側まで延び得る。2対の側方スロット58b〜58cが、中心の体積部36に沿って長さ方向に延びており、そして、環40aの内側に沿って横方向に(図4−Aでは水平方向に)曲がっている。スロット58b〜58cの曲率は、セグメント52を通り、かつ環40aを回る電流の流れの局所的な方向をたどるように選ばれる。環40aが、方向54に面する長さ方向のスロットを含まない図4−Aにおける配置などの配置において、側方スロット58b〜58cをRF磁場ウインドウの周りに曲げることにより、低下したRFコイル損失および改善されたQ値が達成され得ることが観測された。
【0040】
中心構造32は、環40a〜40bおよび長さ方向の導体52を含むが、好ましくは、磁化率が補償された1つの薄いシートから形成されている。例えば、中心構造32はおよびシールド34a〜34bを、磁化率が補償された、厚さが約0.002インチのパラジウムめっき銅から作製することができる。一般に、アルミニウム、白金、銅などの他の材料、およびそのような材料の積み重ね体が、中心構造32およびシールド34a〜34bのために好適である。例えば、Al−Cuの磁化率補償サンドイッチ体を使用することができる。反対符号の磁化率を有する他の材料を、コイル30aに対する磁化率を空気または真空の磁化率に等しくするために使用することができる。コイル30aを作製するために、好適なパターンが、最初に、広く知られている方法によって、所望する材料(1つまたは複数)の平坦なシートに切断される。その後、この平坦なパターンは、コイル30aの押しつぶされた環40a〜40bを形成するために、ガラス管または石英管の周りに配置される。
【0041】
本発明の実施において、環40a〜40bおよびシールド34a〜34bの全体的な横方向のサイズは1cm程度であり、それぞれの長さ方向の導体52の横方向のサイズは約1mmである。典型的なNMR適用の場合、コイル30aに対する横方向のコイルサイズは数ミリメートルから数センチメートルまでの範囲にすることができ、長さ方向の導体52の横方向のサイズは10分の数mmから数mmまでの範囲にすることができる。長さ方向の導体52および環40a〜40bの長さ方向の広がりは数cmの程度であってもよい。
【0042】
図4−Bには、コイル30aの導電性部分を支持するために好適な誘電性コイル支持体60の等角図が示されている。支持体60は、中空の外殻として成形されており、目的とするサンプル管またはフローセルを収容するための長さ方向の内側内孔66を有する。内側内孔66は支持体60の上部端から底部端まで延びている。支持体60は長さ方向の外側表面62および長さ方向の内側表面64を有する。シールド34a〜34b(これは図2−Cに示されている)が内側表面64に取り付けられており、内側表面64と接している。中心構造32(これは図2−Aに示されている)が外側表面62に取り付けられており、外側表面62と接している。支持体60は、好ましくは、NMR測定を妨害しない誘電性材料から、例えば、石英またはサファイヤなどから作製される。支持体60は、コイル30aを収容しているプローブの構造体にその長さ方向の両端で固定されている。支持体60は、単一の一体型のものから、または4つの組み立てられた平面状の部品から形成され得る。
【0043】
中心構造32、支持体60およびシールド34a〜34bの横断面は、好ましくは、使用されるサンプル容器のアスペクト比と一致する長方形として一般には成形される。代わりの実施形態において、横断面は、略丸形の形状、例えば、楕円形の形状を有し得る。一般的な形状のアスペクト比(幅に対する長さの比率)は、好ましくは、約2:1〜4:1の間である。より小さいアスペクト比、またはより大きいアスペクト比、例えば、1.2:1〜1:5:1、1.5:1〜2:1または4:1〜10:1などを使用することができる。
【0044】
図5には、本発明の別の好ましい実施形態によるRFコイルの中心の導電性部分の等角図が示されている。コイルによって生じるRF磁場が方向54に沿う向きを向いている。中心部132は、誘電性支持体およびキャパシタンス増強シールド(例えば、図4−Bおよび図4−Cに示されるものなど)と一緒に使用することができる。中心部132は、測定体積部136の長さ方向の向き合う両側に配置された2つの導電性の環140a〜140bを含む。環140a〜140bは複数の長さ方向の導電性セグメント152によって相互に接続されている。それぞれの環140a〜140bは、1対の長さ方向のスロット141a〜141bをそれぞれ含む。スロット141a〜141bは方向54に面している。
【0045】
複数の対の長さ方向のスロット158a〜158cが、セグメント152の間で、環140aを通って規定される。長さ方向のスロット158a〜158cは、環140bの内側から直線的に、体積部136および環140aに沿って、環140aの外側縁まで延びている。図5に示されるような直線スロットが、スロット141aを含むRFコイルでは好ましく使用される。そのような直線スロットは導電性部分132の内部における実際のRF電流分布を一致させ、従ってコイル損失の低下を可能にすることが観測された。
【0046】
図6−Aには、(図4−A〜図4−Cに示されている)コイル30aと一緒にコイルアセンブリーに使用するための好適なマルチターン型サドル形状RFコイル30bの導電性部分の概略的な等角図が示されている。コイル30bは、好ましくは、コイル30aと同軸的に配置されている。図6−Aの導体は、従来の磁化率補償ワイヤから形成することができ、RF磁場ウインドウ53’の周りにループを形成する。コイル30bにより生じる横方向のRF磁場の方向が矢印78によって示されている。コイル30bにより生じる磁場は、(図4−Aに54で示されている)コイル30aにより生じる磁場と直交する。同様に、磁場ウインドウ53’はコイル30aのウインドウ53と直交する。
【0047】
図6−Bには、コイル30bの導体を支持するために好適なコイル支持体82の等角図が示されている。コイル支持体82は、2つの平行する横方向の取り付けプレート86a〜86bと、取り付けプレート86a〜86bをつなぐ複数の長さ方向の棒88とを含む。取り付けプレート86a〜86bは、コイル30aおよび目的とするサンプルを収容するための内部コイル空間90を規定する、対応する位置合わせされた中心開口部を有する。長さ方向の棒88は取り付けプレート86a〜86bの中心開口部の周りに配置されている。長さ方向の棒88の位置により、押しつぶされた外周が規定される。図6−Aに示されるワイヤの長さ方向の導体は、それぞれが1カ所以上において長さ方向の棒88の1つに取り付けられている。取り付けプレート86a〜86bは、コイル30bを収容しているプローブの構造体に固定されている。
【0048】
好ましくは、NMRプローブ内におけるコイル30bの空間占有率およびの空間の使用を最適化するために、コイル30bは、一般には、全体的な横方向形状および横方向アスペクト比がコイル30aと一致している。例えば、コイル30aが長方形断面を有する場合、コイル30bは、好ましくは、類似するアスペクト比の長方形断面を有するように選ばれる。コイル30aが楕円形断面を有する場合、コイル30bは、好ましくは、楕円形断面を有するように選ばれる。しかしながら、一般には、コイル30bは、コイル30aの断面と一致しない円形断面または何らかの他の断面を有していてもよい。
【0049】
コイル30bにより生じるRF磁場の方向を、押しつぶされたサンプル容器の短軸と合わせることは、コイル30bの共鳴RF周波数におけるサンプル損失の増大をもたらし得る。そのようなサンプル損失は、コイル30bが、検出のためでなく、サンプルの励起のためにだけ使用される場合、および、コイル30bの共鳴周波数におけるサンプル損失がコイル30aの共鳴周波数におけるサンプル損失よりも低い場合、大きな意味を有しないことがある。プロトンチャネルが検出のために使用される典型的な実施において、サンプル容器およびコイルは、好ましくは、サンプル容器の長軸がプロトンコイルのRF磁場の方向と一致するように位置合わせされる。プロトン周波数におけるサンプル損失は、典型的には、他の核の共鳴周波数における場合よりも大きいので、そのような位置合わせはまた有用である。プロトンチャネル以外のチャネル(例えば、炭素チャネル)が検出のために使用される場合、サンプル損失が炭素周波数において最大でないとしても、サンプル容器の長軸を、そのチャネルのRF磁場の方向(例えば、炭素コイルのRF磁場の方向)と一致させるために位置合わせすることができる。
【0050】
図7−Aはプローブ20の上面概略図であり、プローブ20の様々な要素が積み重なっていることが示されている。サンプル容器22から順に外側に移動すると、図7−Aには、シールド34a、コイル支持体60、コイル30aの導電性部分、さらなる誘電性支持体90、さらなるシールド環92、支持体ラング88、およびコイル30bの導電性部分が示される。誘電性支持体90は、好ましくは、コイル30aの導電性部分を所定位置に固定するようにその導電性部分を押し下げる。好ましくは、さらなるシールド環92は、コイルのキャパシタンスを調節し、従って、コイル30aの共鳴周波数を制御するために、コイル30aの導電性部分に対して長さ方向に滑らせることができる。
【0051】
図7−Bは、本発明の別の実施形態によるプローブ620の上部概略図である。プローブ620は、高周波コイル630を低温に保つためのデュワー瓶33を含む。サンプル容器22はデュワー瓶33の内側内孔の内部で室温に維持される。示されているように、コイル630は、円筒状の対称性によって特徴づけられる従来のサドル形状のRFコイルであってもよい。コイル630は低温に保たれるので、コイル630内のRF損失は、典型的には、サンプル容器22に保持されたサンプルの内部での損失よりもはるかに小さい。図7−Bに示されるような円筒状RFコイルおよび円筒状デュワー瓶を含むアセンブリーは、低温プローブにおける使用のために好適である一方で、低温プローブはまた、上記に記載されたような横方向に細長いRFコイル、および一致する形状を有する横方向に細長いデュワー瓶の使用から利益を受けることができる。
【0052】
図8には、円筒状の対称性によって特徴づけられる従来のコイルおよびサンプル容器について、計算された磁力線の横方向の図が示されている。図9−Aおよび図9−Bには、上記に記載されるような押しつぶされた長方形容器/コイル配置について計算された磁力線が示されている。図9−Aには、内側コイルに対応する磁力線が示されており、一方、図9−Bには、外側コイルにより生じる磁場が示されている。示されたサンプル容器のアスペクト比は約3.5:1である。図9−Aおよび図9−Bに示される磁場の均一性は、図8の従来の幾何形状を使用して達成される均一性に匹敵する。同時に、図9−Aおよび図9−Bの配置における電力損失は、下記に記載されるように、3倍以上改善することができる。図9−Cには、上記に記載されるような押しつぶされた楕円形容器/コイル配置に対する類似するデータが示されている。
【0053】
図10には、内側の大きさが2mm×7mmである長方形のサンプル容器と、図5に示される設計の一致する長方形RFコイルとを使用して得られたNMR章動プロットが示されている。サンプルは、99%D2Oにおける1%H2Oであった。NMRプローブおよび単コイルは、プロトンおよび重水素をロックするために二重に調整(チューニング)された。重水素シグナルがロックのために使用された。示されたデータは、800MHzにおけるプロトンデータである。パルス持続時間の増大に伴うNMRシグナル振幅の遅い減衰は、コイルのRF磁場が空間的に比較的一様であることを示している。
【0054】
上記に記載される押しつぶされた容器/コイル配置は、サンプル損失および/またはコイル損失を減少させることができ、従って、NMR測定回路に対してより高い品質(Q)因子を可能にする。サンプルの物理的断面が1つの横方向の大きさにおいてもう一方の方向に対して細長くなっているとき、改善されたNMR測定性能が達成され得る。実質的に正角的な横方向の断面を有する好適に設計されたサドル形状のRFコイルは、押しつぶされたサンプルとの組合せで、大きいQ値をもたらすことができ、従って、シグナル対ノイズ比を増大させることができる。性能の向上は、大きい電気伝導性を有するサンプル(例えば、著しい塩濃度を有する水性サンプルなど)について、そして、サンプル損失が特に重要である他のNMRシステム(例えば、低温NMRシステムなど)において特に著しい。
【0055】
上記の実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの点で変更し得ることは当業者には明らかである。本発明のコイルは、正確に4つの長さ方向の導体を有する必要はない。より複数の長さ方向の導体、またはより少数の長さ方向の導体を、特定の所望されるコイル形状およびコイルの巻き数に依存して使用することができる。従って、本発明の範囲は、下記の特許請求の範囲およびその法上の均等物によって決定されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1−A】本発明による例示的なNMR分光計の概略図である。
【図1−B】本発明による図1−Aの分光計の例示的なNMRプローブの概略図である。
【図2−A】本発明の例示的な定置サンプル容器幾何形状の等角図を示す。
【図2−B】本発明の例示的な定置サンプル容器幾何形状の等角図を示す。
【図3−A】本発明による例示的なフローセル形態の断面図を示す。
【図3−B】本発明による例示的なフローセル形態の断面図を示す。
【図3−C】本発明による例示的なフローセル形態の断面図を示す。
【図4−A】本発明の好ましい実施形態による、長方形の横断面を有する例示的な押しつぶされたRFコイルの導電性中心部の等角図を示す。
【図4−B】図2−Aの導電性部を支持するための誘電性支持体の等角図を示す。
【図4−C】図2−Aおよび図2−Bの導電性部分および誘電性部分とともに使用される好適な2つのキャパシタンス増強環の等角図を示す。
【図5】本発明の別の好ましい実施形態による、長方形の横断面を有する例示的な押しつぶされたRFコイルの導電性中心部の等角図を示す。
【図6−A】本発明による、図4−Aおよび図5に示されるコイルのようなコイルとの組合せでの使用のために好適な、長方形の横断面を有する例示的なコイルのサドル形状の導電性部分の等角図を示す。
【図6−B】本発明による、図6−Aの導電性部分を支持するための支持体の等角図を示す。
【図7−A】本発明による例示的なNMRプローブ幾何形状の横方向の断面図を示す。
【図7−B】本発明による例示的なNMRプローブ幾何形状の横方向の断面図を示す。
【図8】本発明に従って、円筒状の対称性により特徴づけられる例示的なコイル形態において生じる計算された磁力線を横方向の断面図で例示する。
【図9−A】本発明に従って、長方形の対称性により特徴づけられる2つの同軸の相互に直交するRFコイルを含む例示的なコイル形態において生じる計算された磁力線を示す。
【図9−B】本発明に従って、長方形の対称性により特徴づけられる2つの同軸の相互に直交するRFコイルを含む例示的なコイル形態において生じる計算された磁力線を示す。
【図9−C】本発明に従って、楕円形の対称性により特徴づけられる例示的なコイルにより生じる計算された磁力線を示す。
【図10】本発明に従って、長方形のRFコイルおよびサンプル容器を含む例示的なNMRプローブに対する章動プロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の核磁気共鳴サンプルを保持するための核磁気共鳴サンプル容器であって、
液体サンプルを受け取るための流入口と、
前記流入口と流体的に連通している核磁気共鳴サンプル保持体積部を囲み、アスペクト比が2:1よりも大きく、4:1よりも小さい細長い横断面を前記サンプル保持体積部に沿って有する側壁とを含むサンプル容器。
【請求項2】
前記横断面が略長方形である、請求項1に記載のサンプル容器。
【請求項3】
前記横断面が略楕円形である、請求項1に記載のサンプル容器。
【請求項4】
前記サンプル容器が、定置サンプル管を含む、請求項1に記載のサンプル容器。
【請求項5】
前記サンプル容器が、前記流出口が流入口とは長さ方向の反対側に配置された流出口を有する核磁気共鳴フローセルを含む、請求項1に記載のサンプル容器。
【請求項6】
前記側壁が石英から形成されている、請求項1に記載のサンプル容器。
【請求項7】
前記側壁がサファイヤから形成されている、請求項1に記載のサンプル容器。
【請求項8】
液体サンプルに対して核磁気共鳴測定を行うためのサドル形状の核磁気共鳴高周波コイルであって、
複数の長さ方向の導体と、
第1の横方向に沿う向きの高周波磁場を生じさせるように前記長さ方向の導体に接続された複数の略横方向の導体であって、前記長さ方向の導体および横方向の導体によって形成されるコイルの横断面が、前記第1の横方向に直交する第2の横方向に沿うよりも大きい前記第1の横方向に沿う大きさを有する略細長い形状を有する略横方向の導体とを含むコイル。
【請求項9】
前記略細長い形状が略楕円形である、請求項8に記載のコイル。
【請求項10】
前記略細長い形状が略長方形である、請求項8に記載のコイル。
【請求項11】
前記略細長い形状が、2:1よりも大きく、4:1よりも小さいアスペクト比を有する、請求項8に記載のコイル。
【請求項12】
サンプルに対して前記第2の横方向に沿う向きの外部の高周波磁場のアクセスを増大させるために、前記第1のサドル形状のコイルの内部に規定されるサンプル測定体積部に沿って長さ方向に延び、前記第2の横方向に面する少なくとも1つのスロットをさらに含む、請求項8に記載のコイル。
【請求項13】
前記第1のサドル形状のコイルが、前記サンプル測定体積部に沿って長さ方向に延び、かつ前記第2の横方向に面する複数のスロットを含む、請求項12に記載のコイル。
【請求項14】
前記少なくとも1つのスロットが、前記第1の横方向に面するコイルのウインドウ周りの曲がり部を含む、請求項13に記載のコイル。
【請求項15】
サンプルに対して核磁気共鳴測定を行うための核磁気共鳴高周波コイルアセンブリーであって、
横断面で略押しつぶされた形状を有する第1のコイル支持体であって、このコイル支持体の形状は、第1の横方向に直交する第2の横方向に沿うよりも大きい前記第1の横方向に沿う大きさを有する第一のコイル支持体と、
前記第1の横方向に沿う向きの高周波磁場を生じさせるための、前記コイル支持体に取り付けられた横方向に細長いサドル形状の第1の高周波核磁気共鳴コイルとを含むコイルアセンブリー。
【請求項16】
前記コイル支持体の形状が略長方形である、請求項15に記載のコイルアセンブリー。
【請求項17】
前記第1のコイル支持体が、長方形の外周を規定する複数の別個の相互に固定された平面プレートを含む、請求項16に記載のコイルアセンブリー。
【請求項18】
前記横方向に細長いサドル形状のコイルが、2:1よりも大きく、4:1よりも小さいアスペクト比を有する、請求項15に記載のコイルアセンブリー。
【請求項19】
液体の核磁気共鳴サンプルを、第1の横方向に直交する第2の横方向に沿う大きさよりも大きい前記第1の横方向に沿う大きさを有する横方向に、細長いサンプル容器に入れること、
前記第1の横方向が、サドル形状のコイルによって生じる高周波磁場の方向と実質的に合うように、前記サンプル容器を核磁気共鳴プローブの前記サドル形状の高周波コイルの中に配置すること、
前記核磁気共鳴プローブを核磁気共鳴分光計の磁石の内孔の中に配置すること、および
前記磁石および前記サドル形状の高周波コイルを用いて、サンプルに対して核磁気共鳴測定を行うことを含む核磁気共鳴測定方法。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図3−C】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図4−C】
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【図5】
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【図6−A】
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【図6−B】
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【図7−A】
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【図7−B】
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【図8】
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【図9−A】
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【図9−B】
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【図9−C】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−509213(P2006−509213A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559163(P2004−559163)
【出願日】平成15年11月24日(2003.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/037559
【国際公開番号】WO2004/053513
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)