説明

押釦スイッチ構造

【課題】 ケースの貫通孔を長く形成しなくても、防水性を確保して、組立作業、分解作業を容易にする押釦スイッチ構造を提供する。
【解決手段】 腕時計ケース1の貫通孔11に軸方向の第1の位置とこの第1の位置より引き出された第2の位置とを移動可能に設けられた操作部材13に、この操作部材13が第1の位置にあるときに貫通孔11内のガイドパイプ12から腕時計ケース1の内部に突出し、操作部材13が第2の位置にあるときに貫通孔11のガイドパイプ12内に位置する第1の防水リング16と、操作部材13が第1の位置にあるときに貫通孔11のガイドパイプ12内に位置する第2の防水リング17とを、設けた。従って、腕時計ケース1の貫通孔11を長く形成しなくても、第1、第2の各防水リング16、17のいずれかによって、気密性、防水性を確保でき、組立作業や分解作業が容易にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、腕時計などの時計、電子カメラ、携帯電話機などの防水型の電子機器に用いられる押釦スイッチ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腕時計の押釦スイッチ構造においては、特許文献1に記載されているように、腕時計ケースの側壁部に貫通孔が設けられ、この貫通孔内に操作部材がその軸方向にスライド可能に挿入され、この操作部材をスライド操作することにより、腕時計ケース内のスイッチ板を押すように構成されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−178391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の押釦スイッチ構造では、腕時計ケースの貫通孔に挿入された操作部材の先端が腕時計ケースの内部に長く突出していると、腕時計ケース内に時計モジュールを組み込む際に、時計モジュールの文字板が操作部材の突出した先端部に当接するため、操作部材を腕時計ケースの貫通孔に挿入した状態で、腕時計ケース内に時計モジュールを組み込むことができない。
【0005】
このため、このような従来の押釦スイッチ構造では、腕時計ケース内に時計モジュールを組み込んだ後に、操作部材を腕時計ケースの貫通孔に装着しなければならないため、腕時計の組立作業や分解作業が面倒であるほか、腕時計ケース内に時計モジュールを組み込む前に、腕時計ケースに操作部材を装着した状態で、腕時計ケースおよび操作部材の気密、防水検査を行うことができないなどの問題がある。
【0006】
また、このような従来の押釦スイッチ構造では、操作部材を装着した状態で、腕時計ケース内に時計モジュールが組み込めるように、操作部材の先端が腕時計ケースの内部に突出する長さを短くした構成のものも考えられている。しかし、このように腕時計ケースの内部に突出する操作部材の先端の長さを単に短くした構造では、操作部材を腕時計ケースの貫通孔に装着した状態で、操作部材の先端に抜止め部材を取り付ける作業が難しくなるため、操作部材がスライドする長さを十分に長くする必要がある。
【0007】
すなわち、操作部材のスライド長さを長くすれば、操作部材を腕時計ケースの貫通孔に装着した状態で、操作部材の先端に抜止め部材を取り付ける際に、操作部材を腕時計ケースの内部に向けて押し込むことにより、操作部材の先端を腕時計ケース内に長く突出させ、この状態で操作部材の先端に抜止め部材を取り付けることができる。また、腕時計ケース内に時計モジュールを組み込む際には、操作部材を腕時計ケースの外部に向けて引き出すことにより、操作部材の先端が邪魔にならないようにすることができる。
【0008】
しかしながら、このように操作部材のスライド長さを十分に長くするためには、腕時計ケースの側壁部の厚みを十分に厚くして、貫通孔の長さを長く形成しなければ、腕時計ケースに操作部材を装着した状態で、操作部材を最も引き出した位置と、最も押し込んだ位置とで、操作部材に設けられた防水リングを貫通孔内に位置させて、防水性を確保することができないとうい問題があり、腕時計全体が大型化してしまうという問題が生じる。
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、ケースの貫通孔を長く形成しなくても、防水性を確保できると共に、組立作業、分解作業が容易にできる押釦スイッチ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、ケースの貫通孔に、先端に係止部が設けられた操作部材が、その軸方向における第1の位置と、この第1の位置より引き出された第2の位置とを移動可能に設けられた押釦スイッチ構造において、前記操作部材に装着され、この操作部材が前記軸方向の前記第1の位置にあるときに前記貫通孔から前記ケースの内部に突出し、前記操作部材が前記軸方向の前記第2の位置にあるときに前記貫通孔内に位置する第1の防水リングと、前記操作部材に装着され、この操作部材が前記軸方向の前記第1の位置にあるときに前記貫通孔内に位置する第2の防水リングとを備えていることを特徴とする押釦スイッチ構造である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記第1の防水リングが、前記操作部材の前記軸方向の前記第1の位置にあるときに、前記貫通孔から前記ケースの内部に突出した状態で、前記ケース内に位置する前記貫通孔の内側縁部に係止されることを特徴とする請求項1に記載の押釦スイッチ構造である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記第2の防水リングが、前記操作部材にその軸方向に沿って複数個装着されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押釦スイッチ構造である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記第1の防水リングと前記第2の防水リングとが、その材質の異なる弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の押釦スイッチ構造である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記操作部材に、前記ケースの前記貫通孔から前記ケースの外部に向けて突出する頭部が設けられており、この頭部と前記貫通孔の外部側に位置する外側縁部との間にばね部材が配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の押釦スイッチ構造である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、操作部材がその軸方向における第1の位置にあるときに、第1の防水リングがケースの貫通孔からケースの内部に突出していても、第2の防水リングが貫通孔内に位置するので、操作部材がその軸方向における第1の位置にあるときに、第2の防水リングによって防水性を確保することができる。また、操作部材がその軸方向における第1の位置より引き出されて第2の位置にあるときに、第1の防水リングがケースの貫通孔内に位置するので、操作部材がその軸方向における第2の位置にあるときには、第1の防水リングによって気密性、防水性を確保することができ、気密、防水検査が可能となる。
【0016】
このため、ケースの貫通孔を長く形成しなくても、第1、第2の各防水リングのいずれかによって、防水性を確保することができると共に、組立時および修理時に操作部材を第1の位置から第2の位置に引き出すことにより、操作部材を貫通孔に装着させた状態でも、操作部材の先端が邪魔にならずに、ケース内にモジュールなどの部品を組み込んだり、ケース内に組み込まれたモジュールなどの部品を取り出したりすることができるので、組立作業、分解作業が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明を腕時計に適用した実施形態1において、操作部材が第1の位置にある状態を示した要部の拡大断面図である。
【図2】図1に示された腕時計において、操作部材が第2の位置にある状態を示した要部の拡大断面図である。
【図3】図1に示された腕時計において、操作部材が第1の位置にある状態で押し込まれてスイッチ板をスイッチ操作した状態を示した要部の拡大断面図である。
【図4】この発明を腕時計に適用した実施形態2における要部を示した拡大断面図である。
【図5】この発明を腕時計に適用した実施形態3における要部を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
以下、図1〜図3を参照して、この発明を腕時計に適用した実施形態1について説明する。
この腕時計は、図1に示すように、腕時計ケース1を備えている。この腕時計ケース1は、ケース本体1aと、このケース本体1aの上部外周にパッキン1cを介して取り付けられたベゼル部1bとで構成されている。
【0019】
この腕時計ケース1の上部、つまりベゼル部1bの上部には、図1に示すように、時計ガラス2がパッキン2aを介して取り付けられており、この腕時計ケース1の下部、つまりケース本体1aの下部には、裏蓋3が防水パッキン3aを介して取り付けられている。また、この腕時計ケース1の内部には、図1に示すように、時計モジュール4が組み込まれている。この時計モジュール4は、ハウジング5を備えている。
【0020】
このハウジング5の内部には、図示しないが、時計ムーブメントや回路基板などの時計機能に必要な各種の部品が組み込まれている。このハウジング5の上面には、図1に示すように、ソーラーパネル6を介して光透過性を有する文字板7が配置されている。また、このハウジング5の下面には、図1に示すように、地板8が設けられている。この地板8には、スイッチ板9がハウジング5の側面に対向して設けられている。
【0021】
ところで、この腕時計ケース1の側壁部、つまりケース本体1aの側壁部には、図1に示すように、押釦スイッチ10が設けられている。この押釦スイッチ10は、腕時計ケース1の側壁部に設けられて腕時計ケース1の内部と外部とに貫通する貫通孔11内にガイドパイプ12を介して操作部材13がスライド可能に設けられた構成になっている。
【0022】
この場合、貫通孔11は、図1に示すように、腕時計ケース1の側壁部における外部側に位置する大径孔部11aと、腕時計ケース1の側壁部における内部側に位置する小径孔部11bとが、同一軸上に設けられた構成になっている。この貫通孔11における小径孔部11b内には、金属製のガイドパイプ12が嵌め込まれている。
【0023】
このガイドパイプ12は、図1に示すように、その外側の端部(図1では右側の端部)に、大径孔部11aの内径とほぼ同じか、それよりも少し小さい大きさの鍔部12aが設けられ、この鍔部12aが大径孔部11aの段差面11cに当接した状態で、小径孔部11b内に嵌め込まれている。また、このガイドパイプ12は、その内側に位置する内端部12b(図1では左側の端部)が貫通孔11の小径孔部11bから腕時計ケース1内に少し突出している。
【0024】
一方、操作部材13は、その外径がガイドパイプ12の内径と同じか、それよりも少し小さい丸棒状に形成され、図1に示すように、ガイドパイプ12内にスライド可能に挿入するように構成されている。この操作部材13における腕時計ケース1の外部側に位置する端部には、図1に示すように、大径孔部11a内に挿入する頭部14が設けられている。この頭部14は、その外径が大径孔部11aの内径よりも少し小さく形成されている。
【0025】
この操作部材13は、図1に示すように、その頭部14が大径孔部11a内に挿入して頭部14の外端面と腕時計ケース1の外側面とが同一面上に位置した状態から、頭部14と反対側に位置する操作部材13の先端13aが腕時計ケース1内に突出して時計モジュール4のスイッチ板9に対面し、この状態で操作部材13の先端13aが時計モジュール4のスイッチ板9に接触または接近する程度の長さに形成されている。この操作部材13の先端13aには、Eリングなどの抜止めリング15が取り付けられている。
【0026】
これにより、この操作部材13は、図3に示すように、頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に押し込まれてガイドパイプ12の鍔部12aに当接する位置と、図2に示すように、頭部14が貫通孔11の大径孔部11aの外部に引き出されて操作部材13の先端13aに設けられた抜止めリング15がガイドパイプ12の内端部12bに当接する位置との間で、スライドするように構成されている。
【0027】
この場合、操作部材13のスライド位置は、図1および図3に示すように、頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に移動可能に挿入されている状態の第1の位置と、図2に示すように、頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内から外部に引き出されている状態の第2の位置とを有し、これら第1、第2の各位置の間で操作部材13がその軸方向に沿って移動するように構成されている。
【0028】
また、この操作部材13には、図1に示すように、第1の防水リング16と第2の防止リング17とが設けられている。この場合、第1、第2の各防水リング16、17は、ニトリルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどの弾性材料からなり、その断面形状が円形、楕円、半円形(D字形)などの形状に形成されている。また、操作部材13の外周面には、第1の防水リング16が装着する第1の装着溝13bと、第2の防止リング17が装着する第2の装着溝13cとがそれぞれ設けられている。
【0029】
第1の防止リング16は、図1および図3に示すように、操作部材13が第1の位置にあるときに貫通孔11の小径孔部11bから、腕時計ケース1の内部に突出し、また図2に示すように、操作部材13が第2の位置にあるときに貫通孔11内のガイドパイプ12内に位置して気密性を保持するように構成されている。
【0030】
すなわち、この第1の防水リング16は、図1および図3に示すように、操作部材13が第1の位置で腕時計ケース1の内部に突出しているときに、操作部材13の第1の装着溝13bから操作部材13の外周面方向に弾力的に突出し、この突出した部分が図1に示すようにガイドパイプ12の内端部12bに弾力的に当接して係止されるように構成されている。
【0031】
また、この第1の防水リング16は、図2に示すように、操作部材13が第2の位置に向けて移動して貫通孔11内のガイドパイプ12内に位置する際に、弾性変形してガイドパイプ12の内面に弾接し、この状態でガイドパイプ12の内面に沿って摺動することにより、気密性を保持するように構成されている。
【0032】
一方、第2の防水リング17は、図1および図3に示すように、操作部材13が第1の位置にあるときに、貫通孔11内のガイドパイプ12内に位置することにより、ガイドパイプ12の内面に弾接し、この状態でガイドパイプ12の内面に沿って摺動することにより、気密性を保持するように構成されている。
【0033】
また、この第2の防水リング17は、図2に示すように、操作部材13が第1の位置から第2の位置に向けて移動して、第1の防水リング16が貫通孔11内のガイドパイプ12内に位置している際に、ガイドパイプ12内から貫通孔11の大径孔部11a内に位置するように構成されている。このとき、第2の防水リング17は、図2に示すように、弾性復帰して操作部材13の第1の装着溝13bから操作部材13の外周面方向に弾力的に突出するように構成されている。
【0034】
ところで、この第1、第2の各防水リング16、17は、その材質が異なる弾性材料で形成されている。例えば、第1の防水リング16は、第2の防水リング17よりも硬質の弾性材料で形成されていても良く、また逆に、第1の防水リング16は、第2の防水リング17よりも軟質の弾性材料で形成されていても良い。
【0035】
次に、このような押釦スイッチ10の作用について説明する。
まず、腕時計ケース1内に時計モジュール4を組み込む前に、腕時計ケース1の貫通孔11に押釦スイッチ10の操作部材13を取り付ける。このときには、図1〜図3に示すように、予め、腕時計ケース1の上部に時計ガラス2を取り付ける。また、操作部材13の第1の装着溝13bに第1の防水リング16を取り付けると共に、操作部材13の第2の装着溝13cに第2の防水リング17を取り付ける。
【0036】
この後、腕時計ケース1の外部から操作部材13の先端13aを貫通孔11内のガイドパイプ12に挿入させる。このときには、まず、図2に示すように、第1の防水リング16が弾性変形してガイドパイプ12内に挿入される。すると、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11aの外部に位置し、第2の防水リング17が大径孔部11a内に位置する。
【0037】
この状態で、操作部材13を更に押し込むと、図1に示すように、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に位置すると共に、第2の防水リング17が弾性変形してガイドパイプ12内に挿入される。これに伴って、第1の防水リング16がガイドパイプ12内を移動してガイドパイプ12内から腕時計ケース1の内部に突出する。
【0038】
この後、図3に示すように、操作部材13を更に押し込み、操作部材13の頭部14を貫通孔11の大径孔部11a内に配置されたガイドパイプ12の鍔部12aに当接させると、第2の防水リング17がガイドパイプ12の内面に弾接した状態で、第1の防水リング16が腕時計ケース1の内部に突出し、腕時計ケース1の内面から最も離れる。これに伴って、操作部材13の先端13が腕時計ケース1内に最も突出する。
【0039】
この状態で、操作部材13の先端13aに抜止めリング15を取り付ける。このときには、操作部材13の先端13が腕時計ケース1の内面から十分に離れているので、抜止めリング15を操作部材13の先端13aに容易に取り付けることができる。これにより、操作部材13を引き出した際には、抜止めリング15がガイドパイプ12の内側の端部12bに当接することにより、操作部材13がガイドパイプ12から抜け出すことがない。
【0040】
次に、操作部材13が装着された腕時計ケース1内に時計モジュール4を組み込む場合について説明する。
この場合には、図2に示すように、操作部材13を腕時計ケース1の外部に向けて引き出し、操作部材13の先端13aに取り付けられた抜止めリング15をガイドパイプ12の内端部12bに当接させる。
【0041】
このときには、図2に示すように、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内から外部に引き出され、第2の防水リング17がガイドパイプ12から外部に抜け出して貫通孔11の大径孔部11a内に位置し、第1の防水リング16が弾性変形してガイドパイプ12内に位置する。この状態では、第1の防水リング16がガイドパイプ12の内面に弾接していることにより、気密性が保持される。
【0042】
このため、時計モジュール4を腕時計ケース1内に組み込む前に、腕時計ケース1の下部に防水パッキン3aを介して裏蓋3を取り付けることにより、腕時計ケース1の気密性および防水性を検査することができる。すなわち、腕時計ケース1の気密性および防水性を検査する際には、操作部材13が引き出されて第2の位置にある場合においても、また操作部材13が押し込まれて第1の位置にある場合においても、良好に気密性および防水性を検査することができる。
【0043】
例えば、操作部材13が引き出されて第2の位置にある場合には、上述したように、第1の防水リング16がガイドパイプ12の内面に弾接して気密性を保持しているので、腕時計ケース1の気密性および防水性の検査ができる。また、操作部材13が押し込まれて第1の位置にある場合には、第2の防水リング17がガイドパイプ12の内面に弾接して気密性を保持しているので、腕時計ケース1の気密性および防水性の検査ができる。
【0044】
このようにして、気密性および防水性の検査をした後には、裏蓋3を取り外すことにより、腕時計ケース1内に時計モジュール4を組み込むことができる。このときには、図2に示すように、操作部材13を腕時計ケース1の外部に向けて引き出し、操作部材13の先端13aに取り付けられた抜止めリング15をガイドパイプ12の内端部12bに当接させる。
【0045】
これにより、操作部材13の先端13aが腕時計ケース1内に突出する長さが最も短くなる。このため、図2に示すように、操作部材13の先端13aと時計モジュール4の側部(つまり文字板7およびソーラーパネル6の各側部)との間に隙間が生じ、この隙間によって操作部材13の先端13aが邪魔にならずに、時計モジュール4を腕時計ケース1内に容易に且つ良好に組み込むことができる。このときには、時計モジュール4の地板8に設けられたスイッチ板9を操作部材13の先端13aに対応させる。
【0046】
そして、図1に示すように、操作部材13を押し込んで、操作部材13の頭部14を貫通孔11の大径孔部11a内に挿入させると、第2の防水リング17が弾性変形してガイドパイプ12内に配置され、第1の防水リング16がガイドパイプ12内から腕時計ケース1内に突出し、この操作部材13の先端13aが時計モジュール4のスイッチ板9に接触または接近した状態になる。これにより、押釦スイッチ10が構成される。
【0047】
この状態で、押釦スイッチ10の操作部材13に設けられた頭部14を押圧操作すると、図3に示すように、操作部材13が腕時計ケース1内に向けてスライドし、その頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に押し込まれると共に、第2の防水リング17がガイドパイプ12内をその内面に弾接した状態で摺動する。
【0048】
これにより、第2の防水リング17によって気密性が保持された状態で、図3に示すように、第1の防水リング16が腕時計ケース1内を移動しながら、操作部材13の先端13aがスイッチ板9を押圧して、このスイッチ板9を時計モジュール4の側面に設けられた接点部(図示せず)に押し付けることにより、スイッチ操作が行われる。
【0049】
この場合、第1の防水リング16が腕時計ケース1内を移動する際には、第1の防水リング16が操作部材13の第1の装着溝13bから操作部材13の外周面方向に弾力的に突出し、この突出した部分が図1に示すようにガイドパイプ12の内端部12bに弾力的に当接して係止されることにより、操作部材13が第1の位置から第2の位置に勝手に移動するのを防ぐことができる。
【0050】
これにより、操作部材13が第1の位置にある状態で、第1の防水リング16がガイドパイプ12の内端部12bに当接する位置と、操作部材13の先端13aがスイッチ板9を押圧してスイッチ動作させた位置との間で、操作部材13を円滑に且つ良好にスライドさせて、スイッチ操作を行うことができる。
【0051】
ところで、このような腕時計を修理する場合には、腕時計ケース1の下部から裏蓋3を取り外した状態で、まず、押釦スイッチ10の操作部材13を腕時計ケース1の外部に引き出し、この操作部材13の先端13aに取り付けられた抜止めリング15を腕時計ケース1の内面に位置するガイドパイプ12の内端部12bに当接させる。
【0052】
これにより、操作部材13の先端13aが腕時計ケース1内に突出する長さが最も短くなるため、図2に示すように、操作部材13の先端13aが邪魔にならずに、時計モジュール4を腕時計ケース1内から簡単に且つ容易に取り外すことができ、この取り外した時計モジュール4を良好に修理することができる。
【0053】
このように、この腕時計の押釦スイッチ10によれば、腕時計ケース1の貫通孔11に軸方向における第1の位置とこの第1の位置より引き出された第2の位置とを移動可能に設けられた操作部材13に、この操作部材13が第1の位置にあるときに貫通孔11内のガイドパイプ12から腕時計ケース1の内部に突出し、操作部材13が軸方向の第2の位置にあるときに貫通孔11のガイドパイプ12内に位置する第1の防水リング16と、操作部材13が軸方向の第1の位置にあるときに貫通孔11のガイドパイプ12内に位置する第2の防水リング17とを、設けたことにより、腕時計ケース1の貫通孔11を長く形成しなくても、防水性および気密性を確保できると共に、組立作業、分解作業が容易にできる。
【0054】
すなわち、この押釦スイッチ10によれば、操作部材13がその軸方向における第1の位置にあるときに、第1の防水リング16が腕時計ケース1における貫通孔11のガイドパイプ12から腕時計ケース1の内部に突出していても、第2の防水リング17が貫通孔11のガイドパイプ12内に位置するので、操作部材13がその軸方向における第1の位置にあるときに、第2の防止リング17によって気密性および防水性を確保することができる。
【0055】
また、操作部材13がその軸方向における第1の位置より引き出されて第2の位置にあるときには、第1の防水リング16が腕時計ケース1における貫通孔11のガイドパイプ12内に位置するので、操作部材13がその軸方向における第2の位置にあるときに、第1の防水リング16によって気密性および防水性を確保することができる。
【0056】
このため、腕時計ケース1の貫通孔11を長く形成しなくても、第1、第2の各防水リング16、17のいずれかによって気密性および防水性を確保することができると共に、組立時および修理時に操作部材13を第1の位置から第2の位置に引き出すことにより、操作部材13を貫通孔11のガイドパイプ12内に装着させた状態でも、操作部材13の先端13aが邪魔にならずに、腕時計ケース1内に時計モジュール4を容易に組み込んだり、また腕時計ケース1内に組み込まれた時計モジュール4を簡単に取り出したりすることができるので、組立作業、分解作業が容易にできる。
【0057】
この場合、第1の防水リング16は、操作部材13が軸方向の第1の位置にあるときに、貫通孔11のガイドパイプ12内から腕時計ケース1の内部に突出した状態で、腕時計ケース1内に位置する貫通孔11の内側縁部であるガイドパイプ12の内縁部12bに係止されることにより、操作部材13が第1の位置から第2の位置に勝手に移動するのを防ぐことができる。
【0058】
これにより、操作部材13が第1の位置にある状態で、第1の防水リング16がガイドパイプ12の内端部12bに当接する位置と、操作部材13の先端13aがスイッチ板9を押圧してスイッチ動作させた位置との間で、操作部材13を円滑に且つ良好にスライドさせることができ、これによりスイッチ操作性を向上させることができる。
【0059】
また、この押釦スイッチ10では、第1の防水リング16と第2の防水リング17とが、その材質の異なる弾性材料で形成されていることにより、操作部材13を第1の位置に押し込んでも、また操作部材13を第2の位置に引き出しても、第1、第2の各防水リング16、17のいずれかによって、防水性および気密性を確保することができると共に、操作部材13の操作性の向上を図ることができる。
【0060】
例えば、第1の防水リング16が第2の防水リング17よりも硬質の弾性材料で形成されていれば、操作部材13を第2の位置に引き出した際に、第2の防水リング17よりも硬質の第1の防水リング16によって、防水性および気密性を確保することができると共に、操作部材13を第1の位置に押し込んで第2の防水リング17を貫通孔11のガイドパイプ12内に位置させた際に、第1の防水リング16よりも軟質の第2の防水リング17によって、円滑に且つ良好に操作部材13をスライド操作させることができる。
【0061】
また、第1の防水リング16が第2の防水リング17よりも軟質の弾性材料で形成されていれば、操作部材13を第2の位置に引き出した際に、第2の防水リング17よりも軟質の第1の防水リング16によって、操作部材13を円滑に且つ良好にスライド操作させることができると共に、操作部材13を第1の位置に押し込んで第2の防水リング17を貫通孔11のガイドパイプ12内に位置させた際に、第1の防水リング16よりも硬質の第2の防水リング17によって、防水性および気密性を確保することができる。
【0062】
(実施形態2)
次に、図4を参照して、この発明を腕時計に適用した実施形態2について説明する。なお、図1〜図3に示された実施形態1と同一部分には同一符号を付して説明する。
この腕時計は、図4に示すように、押釦スイッチ20の操作部材13に2つの第2の防水リング21、22を設けた構成であり、これ以外は実施形態1とほぼ同じ構成になっている。
【0063】
この場合、操作部材13には、実施形態1と同様、第1の防水リング16が装着する第1の装着溝13bが設けられているほかに、図4に示すように、2つの第2の防水リング21、22が装着する2つの第2の装着溝23、24が設けられている。すなわち、2つの第2の防水リング21、22のうち、1つの第2の防水リング21は、第1の防水リング16の近傍に位置する第2の装着溝23に装着されており、他の第2の防水リング22は、操作部材13の頭部14側に位置する第2の装着溝24に装着されている。
【0064】
この2つの第2の防水リング21、22は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、その頭部14の外端面と腕時計ケース1の外側面とが同一面上に位置した状態のときに、貫通孔11内のガイドパイプ12内に位置してガイドパイプ12の内面に弾接した状態で、摺動するように構成されている。
【0065】
また、2つの第2の防水リング21、22のうち、1つの第2の防水リング21は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、その頭部14が大径孔部11a内に押し込まれてガイドパイプ12の鍔部12aに当接する際に、ガイドパイプ12内から腕時計ケース1の内部に突出するように構成されている。
【0066】
また、他の第2の防水リング22は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置から、その頭部14が大径孔部11a内から外部に引き出される第2の位置に移動する際に、ガイドパイプ12内から貫通孔11の大径孔部11a内に突出するように構成されている。
【0067】
この場合にも、2つの第2の防水リング21、22は、実施形態1と同様、ニトリルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどの弾性材料からなっている。また、この2つの第2の防水リング21、22と第1の防水リング16とは、その材質が異なる弾性材料で形成されている。例えば、2つの第2の防水リング21、22は、第1の防水リング16よりも軟質の弾性材料で形成されていても良く、また逆に、2つの第2の防水リング21、22は、第1の防水リング16よりも硬質の弾性材料で形成されていても良い。
【0068】
このような押釦スイッチ20によれば、実施形態1と同様の作用効果があるほか、操作部材13に2つの第2の防水リング21、22を設けた構成であるから、実施形態1のものよりも防水性および気密性を高めることができる。すなわち、この押釦スイッチ20では、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、その頭部14の外端面と腕時計ケース1の外側面とが同一面上に位置した状態のときに、2つの第2の防水リング21、22が貫通孔11内のガイドパイプ12内に位置してガイドパイプ12の内面に弾接するので、実施形態1のものよりも防水性および気密性を十分に高めることができる。
【0069】
(実施形態3)
次に、図5を参照して、この発明を腕時計に適用した実施形態3について説明する。この場合にも、図1〜図3に示された実施形態1と同一部分には同一符号を付して説明する。
この腕時計の押釦スイッチ30は、図5に示すように、貫通孔11の大径孔部11a内にばね部材31を設けた構成であり、これ以外は実施形態1とほぼ同じ構成になっている。
【0070】
すなわち、このばね部材31は、図5に示すように、コイルばねであり、貫通孔11の大径孔部11a内に位置した状態で、操作部材13の頭部14とガイドパイプ12の鍔部12aとの間に配置され、この状態で頭部14を大径孔部11aの外部に向けて押し出す方向に付勢するように構成されている。
【0071】
この場合、ばね部材31は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、第2の防水リング17がガイドパイプ12の内面に弾接して摺動する際における第2の防水リング17の弾接力よりも、ばね部材31のばね力が強く設定されている。
【0072】
また、このばね部材31は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置から、その頭部14が大径孔部11a内の外部に引き出される第2の位置に移動する際に、第1の防水リング16がガイドパイプ12内に挿入する弾性変形力よりも、ばね部材31のばね力が弱く設定される。
【0073】
これにより、操作部材13は、その頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、ばね部材31のばね力に抗して頭部14を指で押し込むと、操作部材13の先端13aが時計モジュール4のスイッチ板9を押圧して、スイッチ板9をスイッチ操作するように構成されている。
【0074】
また、この操作部材13は、第1の位置にあるときに、ばね部材31のばね力に抗して押された状態で、頭部14から指を離すと、ばね部材31のばね力によって頭部14が大径孔部11a内を外部に向けて押し出され、操作部材13の先端13aが時計モジュール4のスイッチ板9から自動的に離れるように構成されている。
【0075】
この場合、操作部材13は、ばね部材31のばね力によって頭部14が大径孔部11a内を外部に向けて押し出されても、第1の防水リング16がガイドパイプ12の内端部12bに当接することにより、頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入している第1の位置で停止するように構成されている。
【0076】
このように、この腕時計の押釦スイッチ30によれば、実施形態1と同様の作用効果があるほか、腕時計ケース1の貫通孔11の外部側に位置する外側縁部であるガイドパイプ12の鍔部12aと操作部材13の頭部14との間に、ばね部材31を配置した構成であるから、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、ばね部材31のばね力に抗して操作部材13をスライドさせてスイッチ板9をスイッチ操作することができる。
【0077】
この場合、ばね部材31は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置において、第2の防水リング17がガイドパイプ12の内面に弾接する弾接力よりもばね力が強く設定されているので、ばね部材31のばね力に抗して操作部材13をスライドさせてスイッチ板9をスイッチ操作させても、ばね部材31のばね力によって操作部材13を第1の位置における元の位置に自動的に復帰させることができ、これにより実施形態1のものよりスイッチ操作性を向上させることができる。
【0078】
また、このばね部材31は、操作部材13の頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入した第1の位置から、その頭部14が大径孔部11a内の外部に引き出される第2の位置に移動する際に、第1の防水リング16がガイドパイプ12内に挿入する弾性変形力よりもばね力が弱く設定されるので、ばね部材31のばね力によって頭部14が大径孔部11a内を外部に向けて押し出されても、第1の防水リング16がガイドパイプ12の内端部12bに当接することにより、頭部14が貫通孔11の大径孔部11a内に挿入している第1の位置で、操作部材13を停止させることができる。
【0079】
なお、上述した実施形態3の押釦スイッチ30では、操作部材13に第2の防水リング17を1つ設けた構成である場合について述べたが、これに限らず、例えば図4に示された実施形態2の押釦スイッチ20のように、操作部材13に2つの第2の防水リング21、22を設けた構成である場合にも適用することができる。
【0080】
また、上述した実施形態1〜3およびその変形例では、腕時計に適用した場合について述べたが、必ずしも腕時計である必要はなく、例えばトラベルウオッチ、目覚まし時計、置き時計、掛け時計などの各種の時計に適用することができ、また時計に限らず、電子カメラ、携帯電話機などの防水型の電子機器にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 腕時計ケース
2 時計ガラス
3 裏蓋
4 時計モジュール
9 スイッチ板
10、20、30 押釦スイッチ
11 貫通孔
11a 大径孔部
11b 小径孔部
12 ガイドパイプ
12a ガイドパイプの鍔部
12b ガイドパイプの内端部
13 操作部材
14 頭部
15 抜止めリング
16 第1の防水リング
17 第2の防水リング
21、22 2つの第2の防水リング
31 ばね部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの貫通孔に、先端に係止部が設けられた操作部材が、その軸方向における第1の位置と、この第1の位置より引き出された第2の位置とを移動可能に設けられた押釦スイッチ構造において、
前記操作部材に装着され、この操作部材が前記軸方向の前記第1の位置にあるときに前記貫通孔から前記ケースの内部に突出し、前記操作部材が前記軸方向の前記第2の位置にあるときに前記貫通孔内に位置する第1の防水リングと、
前記操作部材に装着され、この操作部材が前記軸方向の前記第1の位置にあるときに前記貫通孔内に位置する第2の防水リングと
を備えていることを特徴とする押釦スイッチ構造。
【請求項2】
前記第1の防水リングは、前記操作部材が前記軸方向の前記第1の位置にあるときに、前記貫通孔から前記ケースの内部に突出した状態で、前記ケース内に位置する前記貫通孔の内側縁部に係止されることを特徴とする請求項1に記載の押釦スイッチ構造。
【請求項3】
前記第2の防水リングは、前記操作部材にその軸方向に沿って複数個装着されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押釦スイッチ構造。
【請求項4】
前記第1の防水リングと前記第2の防水リングとは、その材質が異なる弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の押釦スイッチ構造。
【請求項5】
前記操作部材には、前記ケースの前記貫通孔から前記ケースの外部に向けて突出する頭部が設けられており、この頭部と前記貫通孔の外部側に位置する外側縁部との間にばね部材が配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の押釦スイッチ構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−54201(P2012−54201A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197844(P2010−197844)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】