説明

押釦スイッチ用接点部材

【課題】 電流のON/OFF動作が繰り返し行われた後の導通限界電流値を向上させる。
【解決手段】 押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ2と、押圧部3と、接点部材4と、薄肉部5と、支持部6とを有する。接点部材4は、導電材として、ニッケル被覆グラファイトを使用する。ニッケル被覆グラファイトにおけるニッケルの含有量は、15〜85重量%である。ニッケル被覆グラファイトを構成するグラファイト粒子の平均粒径は、45〜150[μm]である。ニッケル被覆グラファイトは、シリコーン系ゴム材料 100重量部に対して、150〜950重量部含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、車載用電子機器、パソコン、リモコン等のスイッチ部として利用される押釦スイッチ用接点部材に関するものであり、特に、比較的高い電流を必要とするパワーウィンドウやミラースイッチ等の車載用電子機器に用いられる押釦スイッチ用接点部材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、シリコーン系ゴム材料を主材とし、銀粉またはニッケル粉とシランカップリング剤とを含有させたシリコーン系ゴム接点部材が開示されている。このシリコーン系ゴム接点部材は、銀粉またはニッケル粉を含有することによって接触電気抵抗を低下させ、初期の導通限界電流値を500[mA]以上(判定基準:電圧降下値1[V]以下)にまで上昇させている。
【特許文献1】特開平5―151853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電子機器の押釦スイッチにおいては、電子機器を正常に動作させるために、高電流による通電が必要とされる。しかしながら、一般に、押釦スイッチは、繰り返し打鍵されることによって、導通限界電流値が低下してしまう傾向にある。例えば、押釦スイッチの接点として上述したシリコーン系ゴム接点部材を用いた場合には、打鍵回数10万回の通電打鍵試験を行うと、導通限界電流値が20[mA]程度にまで低下してしまう。なお、通電打鍵試験とは、押釦スイッチを打鍵することによって電流のON/OFF動作を連続して繰り返す試験のことをいう。
【0004】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、電流のON/OFF動作が繰り返し行われた後の導通限界電流値を向上させる押釦スイッチ用接点部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の押釦スイッチ用接点部材は、シリコーン系ゴム材料に導電材を含有させた押釦スイッチ用接点部材であって、当該導電材は、0℃における比抵抗が10×10―6[Ωcm]以下である金属により被覆されたグラファイト粒子からなる金属被覆グラファイトであることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、金属よりも抵抗値が高いグラファイトを金属で被覆した金属被覆グラファイトを、接点部材に含有させることができるため、低抵抗かつ高い通電打鍵性を有する接点部材を得ることができる。したがって、電流のON/OFF動作が繰り返し行われた後の導通限界電流値を向上させることができる。
【0007】
本発明の押釦スイッチ用接点部材において、上記金属が、金、銀、ニッケルのいずれかであることが好ましい。このようにすれば、接点としての低抵抗性をより向上させることができる。
【0008】
本発明の押釦スイッチ用接点部材において、上記金属被覆グラファイトにおける上記金属の含有量が、15〜85重量%であることが好ましい。
【0009】
本発明の押釦スイッチ用接点部材において、上記グラファイト粒子の平均粒径が、45〜150[μm]であることが好ましい。このようにすれば、適量のグラファイト粒子を含み、かつ、耐久性にも優れた押釦スイッチ用接点部材を得ることができる。
【0010】
本発明の押釦スイッチ用接点部材において、上記シリコーン系ゴム材料 100重量部に対して、上記金属被覆グラファイトを150〜950重量部含有させることが好ましい。このようにすれば、十分な導電性を有し、かつ、耐久性にも優れた押釦スイッチ用接点部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る押釦スイッチ用接点部材によれば、電流のON/OFF動作が繰り返し行われた後の導通限界電流値を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施形態の説明に先立ち、本発明の特徴である押釦スイッチ用接点部材に金属被覆グラファイトを含有させることに至った経緯について説明する。
【0013】
まず、一般に、押釦スイッチでは、打鍵が繰り返されることによって、接点部材の一部が基板上に滑落して堆積する。したがって、従来のように接点部材に金属単体を含有させた場合には、抵抗値が低い金属粒子が基板上に滑落して堆積することになる。このため、堆積した金属粒子によって電極間にブリッジが形成されると、すぐにショートしてしまうという問題がある。この問題を解決するために、金属粒子よりも抵抗値が高いグラファイト単体を接点部材に含有させることが考えられる。これは、抵抗値が高い分、金属粒子の場合に比して多くのグラファイト粒子が堆積しなければショートが発生しないためである。しかしながら、接点部材にグラファイト単体を含有させた場合には、接点部材として必要な低抵抗が得られない。そこで、本願発明者は、グラファイトを金属で被覆した金属被覆グラファイトを接点部材に含有させることによって、低抵抗かつ高い通電打鍵性を実現させることができるとの知見を得て、本発明を完成した。
【0014】
以下、本発明に係る押釦スイッチ用接点部材の実施形態を図面に基づき説明する。
【0015】
まず、図1を参照して、本実施形態における押釦スイッチ用接点部材が適用された押釦スイッチ用カバー部材について説明する。図1は、押釦スイッチ用カバー部材1の断面図である。図1に示す押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ2と、押圧部3と、接点部材4と、薄肉部5と、支持部6とを有する。このように構成される押釦スイッチ用カバー部材1は、パワーウィンドウやミラースイッチ等の電子機器に取り付けられると、以下のように動作する。まず、キートップ2が押下されることにより、薄肉部5が屈曲し、押圧部3が押し下げられる。押圧部3が押し下げられると、押圧部3の先端に配置されている接点部材4が、基板上に対向して配置されている固定接点に接触する。これにより、押下されたキートップ2に対応する押釦スイッチが導通状態となる。
【0016】
本実施形態における接点部材4は、導電材として、ニッケル被覆グラファイトを使用する。ニッケル被覆グラファイトは、ニッケルにより被覆されたグラファイト粒子からなる金属被覆グラファイトである。
【0017】
ニッケル被覆グラファイトにおけるニッケルの含有量は、15〜85重量%である。ニッケル被覆グラファイトを構成するグラファイト粒子の平均粒径は、45〜150[μm]である。ここで、グラファイト粒子の平均粒径を15重量%未満にすると、グラファイトを被覆している金属の割合が少なくなりすぎて十分な低抵抗が得られなくなってしまう。一方、グラファイト粒子の平均粒径を85重量%超にすると、金属の割合が多くなりすぎてコスト的に高くなってしまう。
【0018】
ニッケル被覆グラファイトは、シリコーン系ゴム材料 100重量部に対して、150〜950重量部含有させる。ここで、ニッケル被覆グラファイトを、150重量部以下にすると十分な導電性を得ることができず、950重量部以上にするとゴムとしての強度を十分に発揮することができなくなる。これらの特性を考慮すると、ニッケル被覆グラファイトは、180〜400重量部含有させることが好ましく、より好ましくは、230〜300重量部含有させるのがよい。
[実施例]
以下において、本実施形態における接点部材4の実施例および比較例について説明する。
【0019】
(実施例1)まず、表1に示す各配合材料をロールにて混練した。次に、混練した材料を成形金型に注入し、160[℃]、5分間、210[kgf/cm]の条件で加熱圧縮成形した。これにより、厚さ0.5[mm]の導電ゴムシートが得られた。
【表1】



【0020】
次に、得られた導電ゴムシートを、直径3[mm]のポンチで打抜いた。これにより、直径3[mm]の接点部材が得られた。なお、接点部材は、直径が3[mm]である必要はなく、接点部材を用いる押釦スイッチの形状に適した大きさであればよい。
【0021】
実施例1の接点部材を用いて押釦スイッチを作製するには、まず、押釦スイッチ用成形金型の所定位置に接点部材を配置する。次に、所定配合された原料ゴムを成形金型内に注入し、所定条件で加熱圧縮成形する。これにより押釦スイッチが得られる。
【0022】
(比較例1)次に、表2に示す各配合材料を用いて、上述した実施例1の接点部材と同様にして比較例1の接点部材を得た。
【表2】



【0023】
次に、上述した実施例1の接点部材の初期電気特性を確認するために、実施例1の接点部材を用いた押釦スイッチの接触抵抗値および初期電圧降下値を測定した。この接触抵抗値および初期電圧降下値の測定結果を表3に示す。
【表3】



【0024】
表3に示す接触抵抗値および初期電圧降下値を測定する際の諸条件は、以下の通りである。まず、接触抵抗値を測定する測定器として、デジタルマルチメータ「DIGITAL MULTIMETER R6561」((株)アドバンテスト製)を使用し、初期電圧降下値を測定する測定器として、電圧/電流発生器「DC VOLTAGE CURRENT SOURCE/MONITOR TR6143」((株)アドバンテスト製)を使用した。この電圧/電流発生器の電圧リミットは、一般的な自動車のバッテリーに合わせて12[V]に設定した。また、押釦スイッチの基板として、電極間隔および電極幅が共に0.5[mm]であるクシ歯型金めっき基板を用い、押釦スイッチへの上方からの荷重を200[g]とした。さらに、測定時の判断基準を、通電が可能でかつ電圧降下値が1[V]以下であることとした。
【0025】
このような諸条件のもとで測定された接触抵抗値は0.345[Ω]であり、1000[mA]の電流を流すのに必要な初期電圧降下値は0.352[V]であった。すなわち、1000[mA]の高電流を流す場合であっても電圧降下値が判断基準である1[V]を大幅に下回っていた。これにより、実施例1の接点部材は、高電流下においても十分に実用可能であることが実証された。
【0026】
次に、実施例1の接点部材の耐久性を確認するために、実施例1の接点部材を用いた押釦スイッチと、比較例1の接点部材を用いた押釦スイッチとを使用して、それぞれ通電打鍵試験を実施した。この通電打鍵試験の試験結果を表4に示す。
【表4】



【0027】
表4に示す通電打鍵試験を実施する際の諸条件は、以下の通りである。まず、押釦スイッチを打鍵する打鍵機として、突き上げ式の打鍵機を使用した。また、この打鍵機に取り付けられた押釦スイッチに対する上方からの荷重を200[g]とし、この押釦スイッチに対する下方からの突き上げ量を2[mm]として1秒間に1回ずつ合計10万回突き上げた。さらに、押釦スイッチの導通状態を測定するための測定器として、上述した電圧/電流発生器「DC VOLTAGE CURRENTSOURCE/MONITOR TR6143」を使用し、この電圧/電流発生器の電圧リミットを12[V]に設定した。また、電圧/電流発生器において電圧リミットである12[V]以上の電圧が発生した場合や、10万回の打鍵の途中で接点に異常(例えば、ショートによる燃焼等)が発生した場合に、導通不良であると判断した。なお、押釦スイッチの基板として、電極間隔および電極幅が共に0.5[mm]であるクシ歯型金めっき基板を用いた。
【0028】
このような諸条件のもとで通電打鍵試験を実施した結果、実施例1の接点部材では、10万回打鍵された後も、200[mA]までは、導通不良と判断されることなく通電した。すなわち、実施例1の接点部材における10万回打鍵時の導通限界電流値は、200[mA]であることが判明した。これに対して、比較例1の接点部材では、10万回打鍵時の導通限界電流値が20[mA]であった。
【0029】
これらの結果を踏まえると、接点部材の導電材にニッケル被覆グラファイトを使用することによって、10万回打鍵された後の導通限界電流値を確実に向上させられることが実証された。
【0030】
なお、上述した実施形態においては、導電材としてニッケル被覆グラファイトを使用しているが、導電材はこれに限られない。例えば、金、銀、銅、アルミニウム等のように0[℃]における比抵抗が10×10―6[Ωcm]以下である金属により被覆されたグラファイト粒子からなる金属被覆グラファイトを、導電材として使用してもよい。ただし、接点に使用されることを考慮する場合には、ニッケル被覆グラファイト、金被覆グラファイトまたは銀被覆グラファイトを使用することが好ましい。さらにコスト面についても考慮する場合には、ニッケル被覆グラファイトを使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態における押釦スイッチ用接点部材が適用された押釦スイッチの断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1・・・押釦スイッチ用カバー部材、2・・・キートップ、3・・・押圧部、4・・・接点部材、5・・・薄肉部、6・・・支持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン系ゴム材料に導電材を含有させた押釦スイッチ用接点部材であって、
前記導電材は、0℃における比抵抗が10×10―6Ωcm以下である金属により被覆されたグラファイト粒子からなる金属被覆グラファイトであることを特徴とする押釦スイッチ用接点部材。
【請求項2】
前記金属が、金、銀、ニッケルのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用接点部材。
【請求項3】
前記金属被覆グラファイトにおける前記金属の含有量が、15〜85重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の押釦スイッチ用接点部材。
【請求項4】
前記グラファイト粒子の平均粒径が、45〜150μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の押釦スイッチ用接点部材。
【請求項5】
前記シリコーン系ゴム材料 100重量部に対して、前記金属被覆グラファイトを150〜950重量部含有させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の押釦スイッチ用接点部材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−331804(P2006−331804A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152781(P2005−152781)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】