説明

担持触媒

【課題】水素よりも2.0V以上低い還元電位を持つアルカリ金属のラジカル体を還元剤として使用することにより、水素よりも低い還元電位を備えた金属元素を構成元素に持つ規則型金属間化合物あるいは合金ナノ粒子を触媒活性点とする排気ガス清浄化触媒を開発する。
【解決手段】化学組成(化*)を備えたアルカリ金属ラジカル体を用いたプリカーサーの同時還元により、酸化物担持体の表面に担持されてなる触媒活性点が、下記化学式(化1)に示す化学組成を有する規則型金属間化合物であることを特徴とする。(化*)NaC10(化1)PtTi(x+y=100:モル比、19≦y≦25)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物担持体の表面にナノ粒子の形状を持った触媒活性点が担持された担持触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の担持触媒は、特許文献1から3に示されるように、主に自動車排気ガス清浄化を目的として開発されて来た。従来の担持触媒においては、高比表面積を備えた酸化物担持体に貴金属や希少元素等の貴重元素からなる触媒活性点を分散・担持させることによって、貴重元素の使用量低減が図られて来た。
近年の排ガス規制強化に伴い、担持触媒の需要は爆発的に増加している。前記特許文献は、主として触媒活性点の高分散化あるいは酸化物坦持体の高比表面積化によってこの需要に応えようとする技術であるが、その効果には限界があった。これとは別に、触媒活性点として、規則型金属間化合物ナノ粒子または合金ナノ粒子を使用することにより、貴重元素の使用量を抑えながら高い排気ガス清浄化触媒活性を実現しようとする試みも報告されている。しかしながら、触媒活性点として従来開発されてきた規則型金属間化合物または合金ナノ粒子はすべて、取り扱いが容易な水溶液中での還元反応に基づいて合成されており、したがって、標準電極電位(V)が、水素よりも高い還元電位(V>0)を持った金属元素を構成元素に持つ物質系に限定されてきた経緯がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、標準電極電位(V)が、水素よりも低い(V<0)金属元素を有する規則型金属間化合物を排気ガス清浄触媒として有用に用いる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の担持触媒は、粒子状の酸化物担持体の表面に、当該酸化物担持体と比較して少量のナノ粒子状の触媒活性点が担持された担持触媒であって、前記触媒活性点が、下記化学式1に示す化学組成を有する規則型金属間化合物であることを特徴とする。
(化1)
αβ…(1)
(α:標準電極電位(V)が<0である金属元素、β:標準電極電位(V)が>0である金属元素。なお、水素(H)の標準電極電位は零とする。x+y=100:モル比、19≦y≦25)
発明2は、発明1の担持触媒において、酸化物担持体がシリカ粒子であることを特徴とする。
発明3は、 発明1又は2の担持触媒において、前記αがPtであって、前記βがTiであることを特徴とする。
【0005】
発明4は、発明1から3の担持触媒に用いた規則型金属間化合物の製造方法であって、水素よりも2.0 V以上低い還元電位を持つアルカリ金属のラジカル体を還元剤として用いたプリカーサーの同時還元によることを特徴とする。
発明5は、発明4の製造方法において、前記アルカリ金属のラジカル体が、以下の化学式2に示す組成を有することを特徴とする。
(化2)
NaC10
【発明の効果】
【0006】
本発明は、前記化学式1を満たす化学組成を有する触媒活性点が、排ガス清浄化技術において最も重要な化学反応の一つである一酸化炭素清浄化反応(CO(一酸化炭素)→CO(二酸化炭素)転換反応)に対して高い触媒活性を発現するという新知見に基づく。本発明は、当該知見に基づき、独自のナノ粒子合成・分散・担持技術を駆使して、当該反応に対して高い触媒活性を備えた担持触媒を実現した点に特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】試料AのpXRDデータ。横軸に2theta、縦軸に回折強度をプロットする。
【図2】(1):試料Aの透過電子顕微鏡像。挿入図に高倍率像を示す。(2):(1)と同じ領域をAnnular dark field(ADF)モードで観察した像。
【図3】(1):低コントラストの球状物質に電子線を絞って得られた電子線プローブマイクロアナリシス(EDS)分析結果。挿入図黄色円で示した部分に電子線を照射した。(2):黒色粒子に電子線を絞って得られたEDS分析結果。挿入図黄色円で示した部分に電子線を絞った。
【図4】Pt0.25%/SiO、Pt0.50%/SiO、Pt1.0%/SiOおよびPtTi/SiOのCO清浄化触媒活性を示すグラフ。縦軸にCO→CO転換率をプロットする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、酸化物担持体の表面に、ナノ粒子の形状を持つ触媒活性点である規則型金属間化合物を担持した担持触媒に関するものである。
規則型金属間化合物としては、前記化学式1を満たすものであれば有用であるが、特に、αの金属元素として、Cu,Hg、As、Pt、Auのいずれか、βの金属元素として、Pb,Sn,Ni,Fe,Zn,Al、Ti、Mgのいずれかを用いるのが望ましい。
また、本実施例では、この規則型金属間化合物を、水素よりも2.0 V以上低い還元電位を持つアルカリ金属のラジカル体を還元剤として使用することにより、水素よりも低い還元電位を備えた金属元素(α)を構成元素に持つ規則型金属間化合物を合成した。特に、前記化学式(2)に示すSodium Naphithalideをアルカリ金属ラジカル体として用いたプリカーサーの同時還元により、規則型金属間化合物のナノ粒子を合成した。
本発明は、強力な還元剤の使用により、遷移金属元素と貴金属元素それぞれのプリカーサーを同時に還元することを可能にする。そのため、貴金属元素と遷移金属元素の原子割合が特定の数値である規則型金属間化合物を還元析出法で製造しようとする際、狙った組成のナノ粒子を析出させることができる。規則型金属間化合物ナノ粒子は、酸化物担持体表面上に高い分散度を保ちながら析出されるため、ナノ粒子同士の凝集および粒径の粗大化を抑制することができる。
この酸化物担持体の比表面積は1〜100m−1程度、好ましくは10〜100m−1程度とすることが望ましい。また、この酸化物担持体の表面に保持される触媒活性点の平均粒子径は50nm以下、好ましくは1〜5nmとすることが望ましい。触媒活性点の重量は、前記担持体の重量の0.1〜1%とすることが望ましい。また、PtTi(x+y=100:モル比)のyは、19≦y≦25とすることが望ましい。yが少なすぎた場合、目的反応に対する触媒活性は低下する。yが多すぎた場合にも、触媒活性点の相分離により、触媒活性は低下する。
以下、実施例に基づき、本発明の内容を明らかにする。
【実施例】
【0009】
1.合成
合成操作は、すべて常温・常圧の不活性ガス雰囲気下(酸素・水分濃度<5ppm)で行った。
Pt(白金)および金属元素Ti(チタン)それぞれを含有する有機金属プリカーサー:Pt(1,5−cyclooctadience)ClおよびTiCl(tetrahydrofuran)を、それぞれ0.042mmolおよび0.17mmol当量秤量し、25mlのtetrahydrofuran(THF)中に溶解した。この溶液中に0.15gのシリカ(SiO)微粒子粉末を加え、30分間攪拌し、薄黄色の懸濁溶液を得た(これをA液と記す。)。
別途、50mlのTHF溶媒中に、1.5mmol当量の金属ナトリウムおよびナフタリンを加え、一晩攪拌し、黒緑色透明の溶液を得た(これは、組成式がNaC10のSodium Naphthalide溶液である。以下B液と記す。)。
(A液)と(B液)を混合したのち一晩攪拌し、プリカーサーの同時還元を行って、黒褐色の懸濁溶液を得た(これをC液と記す。)。
減圧蒸留によって(C液)からTHFを除去し、沈殿物として黒褐色固体を得た(これをD体と記す。)。
(D体)に30mlのヘキサンを加え、超音波を2分間印加した(超音波洗浄器を使用)。
6000回転/分で10分間遠心分離を施し、上澄みと黒色沈殿物(これをE体と記す。)を分離したのち、上澄みを除去した。
(E体)に30mlのメタノールを加え、超音波を2分間印加した。
6000回転/分で10分間遠心分離を施し、上澄みと黒色沈殿物(これをF体と記す。)を分離したのち、上澄みを除去した。
上記メタノール添加・超音波印加・遠心分離・上澄み除去の一連の洗浄プロセスを総計4回行い、副反応物を除去した。
洗浄プロセス終了後、(F体)を真空乾燥した。乾燥に従い、(F体)の色は黒から灰白色へ変化した。
乾燥後、(F体)を不活性ガス雰囲気から大気中に取り出した。大気中で安定な灰白色粉末試料(これを試料Aと記す。)を得た。
【0010】
2.試料同定
粉末X線回折(pXRD)、ICP分析、透過電子顕微鏡および透過電子顕微鏡付属の電子線プローブマイクロアナライザー(EDS)によって、試料Aの同定を行った。
(2.1)pXRD
図1に、試料AのpXRD測定結果(CuKa線を使用)を示す。SiO(111)反射に該当する2q〜21°のピークの他に回折線を認めることはできない。試料Aの主相は、結晶性の低いSiOである。
(2.2)ICP分析
0.05gの粉末試料を酸溶解し、500mlに定容後、ICP分析法による化学組成評価を行った。試料Aは、Pt、TiおよびSiを、重量比Pt:Ti:Si=1:1:100で含有することが分かった。pXRDの結果と併せて、試料Aは、0.5重量%のPt、およびTiを含有したSiOであると結論される。
(2.3)透過電子顕微鏡
試料Aをメタノール溶媒に超音波分散して懸濁溶液を得た。懸濁溶液に透過電子顕微鏡用グリッド(コロジオン膜附き銅(Cu)グリッド)を浸潤・乾燥し、透過電子顕微鏡用試料を得た。図2−1に、透過電子顕微鏡像(Bright field像)を示す。コントラストの低い直径10〜100nm程度の球状物質と共に、直径2〜3nmの黒色粒子が観察される。図2−2は、図2−1と同じ視野をAnnular dark field(ADF)モードで観察した画像である。図2−1の黒色粒子は、ADFモードにおいては白く明るい輝点として観察されることから、球状物質の構成元素に比べて重い元素を含有している相であることが分かる。
(2.4)EDS分析
図2−1に示された2種類の相:球状物質と黒色粒子それぞれに電子線を収束させ、発生する特性X線のエネルギーと強度を測定することにより、化学組成を評価した(EDS分析)。図3−1および図3−2に、球状物質および黒色粒子それぞれから得られたEDSプロファイルを示す。球状物質のEDSプロファイルには、グリッド由来のCu以外にSi由来の信号のみが認められる。球状物質は、EDS分析結果、pXRDおよびICP分析の結果を総合して、球状のSiO粒子であると結論できる。一方、黒色粒子のEDSプロファイルには、Cu、Si以外に、PtおよびTiの信号が認められる。PtおよびTiの信号強度からそれぞれの元素の存在比率を計算した結果、黒色粒子はPt:Ti=3:1(モル比)を備えた金属間化合物相:PtTiであることが分かった。
以上の同定結果から、試料Aは、粒子径2〜3nmのPtTiナノ粒子が粒子径10〜100nmの球状SiO担持体表面に分散・担持された担持触媒(以降、PtTi/SiOと呼ぶ)であるものと結論される。
【0011】
3.CO清浄化触媒活性評価
CO清浄化反応に対するPtTi/SiOの触媒活性を測定した。垂直に配置した長さ400mm、内径φ8mmの石英反応管中央部に、10mmほどの厚みに石英綿を詰めた。石英反応管上部開口部から総量50mgの試料を導入し、石英綿の上面に均一に敷き詰めた。別の石英綿を、石英反応管上部開口部から、試料に接触するまで挿入した。これにより、試料は、厚み約10mmの石英綿で上下から挟み込まれる形になった。石英反応管を管状電気炉炉心に挿入した。石英反応管下部開口部から熱電対を挿入、熱電対先端を試料直下の石英綿に接触させ、試料の温度をモニターした。石英反応管下部開口部をCO・O(酸素)・He(ヘリウム)混合ガスラインに接続した。石英反応管上部開口部をガスクロマトグラフィのガスインレットポートに接続した。
石英反応管に、CO・O・He混合ガス(体積比2:1:97)を、1気圧下、毎分100mlで流した。インレットガスとして石英反応管下部開口部から導入された混合ガスは、試料部を通過した後、アウトレットガスとして上部開口部から排出され、ガスクロマトグラフィのガスインレットポートに達する。混合ガスを流しながら、管状電気炉に通電し、常温から340℃まで試料温度を上昇させた。25℃ごとに温度上昇を止め、定常温度とした。それぞれの定常温度で、ガスクロマトグラフィによるアウトレットガスの組成分析を行った。比較のため、PtTi/SiOと同じ球状SiO粒子表面に、PtTiナノ粒子と同じ粒子径を持った純Ptナノ粒子を、SiOに対して0.25、0.5、1.0重量%で分散・担持させた3種類の標準試料(以降それぞれ、Pt0.25%/SiO、Pt0.50%/SiO、Pt1.0%/SiOと呼ぶ)を用いて、同じ測定を行った。測定結果を表1と図4に示す。
【表1】

【0012】
図4は、アウトレットガス中のCOとインレットガス中のCOの体積比(転換率:conversionrate)を、温度の関数としてプロットしたものである。Pt0.25%/SiOの場合、転換率は常温から225℃まで0%である。試料温度を上げると、転換率は250℃近傍で有限の値となった後に増加し、300℃で約70%に達する。Pt0.50%/SiOの場合、転換率は常温から200℃まで0%を保つ。試料温度を上げると、転換率は250℃近傍から増加しはじめ、290℃で約70%に達する。250℃で転換率を比較すると、Pt0.25%/SiO、Pt0.50%/SiO、Pt1.0%/SiOそれぞれに対する転換率は、4.3、12、32%と、Ptの含有量に伴って単調に増加する。一方PtTi/SiOの場合、125℃においてすでに有意の転換率を示す。転換率は温度上昇とともに増加し、250℃で39%を示したのち、300℃で100%に達する。PtTi/SiOは、当量のPtを含有したPt0.50%/SiOと比較して、100℃以上低い温度で触媒活性を発現するだけでなく、250℃で転換率を比較した場合には3倍以上の転換率を示す。またPtTi/SiOは、重量比で2倍のPtを含有するPt1.0%/SiOと同じ温度で比較した場合、常にこれを上回る転換率を示す。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明の担持触媒は、化石燃料排気ガスの主要毒性成分であるCOに対して高い清浄化触媒活性を発揮することから、以下の3例の産業利用が考えられる。
1. 自動車排気ガス清浄化触媒材料
本発明の担持触媒は、駆動直後のガソリンエンジンから燃料の不完全燃焼に伴って排出されるCOガスの清浄化に有効である。
2. ガスタービン排出ガス清浄化触媒材料
本発明の担持触媒は、発電所で利用されるガスタービン機関からの排出ガスの清浄化に有効である。
3. 燃料電池燃料中の不純物除去
本発明の担持触媒は、水素燃料駆動型の燃料電池において問題とされる燃料中不純物の酸化除去に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−49280
【特許文献2】特開2006−312161
【特許文献2】特開2006−501983
【特許文献3】国際公開WO2005/120686
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Chem.Comm. (2001)1080.
【非特許文献2】J.Catalysis 258 (2008) 306-314.
【非特許文献3】J.A.C.S 130 (2008) 5452-5458.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の酸化物担持体の表面に、当該酸化物担持体と比較して少量のナノ粒子状の触媒活性点が担持された担持触媒であって、前記触媒活性点が、下記化学式1に示す化学組成を有する規則型金属間化合物であることを特徴とする担持触媒。
(化1)
αβ…(1)
(α:標準電極電位(V)が<0である金属元素、β:標準電極電位(V)が>0である金属元素。なお、水素(H)の標準電極電位は零とする。x+y=100:モル比、19≦y≦25)
【請求項2】
請求項1に記載の担持触媒において、酸化物担持体がシリカ粒子であることを特徴とする担持触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の担持触媒において、前記αがPtであって、前記βがTiであることを特徴とする担持触媒。
【請求項4】
請求項1から3に記載の担持触媒に用いた規則型金属間化合物の製造方法であって、水素よりも2.0 V以上低い還元電位を持つアルカリ金属のラジカル体を還元剤として用いたプリカーサーの同時還元によることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法において、前記アルカリ金属のラジカル体が、以下の化学式2に示す組成を有することを特徴とする製造方法。
(化2)
NaC10


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131112(P2011−131112A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290000(P2009−290000)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】