説明

担持酸化ルテニウムの製造方法および塩素の製造方法

【課題】担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法、および、当該担持酸化ルテニウムを用いた塩素の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともルテニウム化合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0を越え、0.08質量%以下、シリコン:0を越え、1.00質量%以下、マンガン:0を越え、2.00質量%以下、リン:0を越え、0.045質量%以下、硫黄:0を越え、0.030質量%以下、ニッケル:10.00質量%以上、14.00質量%以下、クロム:16.00質量%以上、18.00質量%以下、モリブデン:2.00質量%以上、3.00質量%以下(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)である製造装置を用いて、担体にルテニウム化合物を含む溶液を担持させて乾燥させた担持担体を焼成する焼成工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ルテニウムを担体に担持してなる担持酸化ルテニウムの製造方法、および担持酸化ルテニウムを用いた塩素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
担持酸化ルテニウムは、塩化水素を酸素で酸化して塩素を製造する方法における触媒(塩酸酸化触媒)として有用であることが知られている。当該担持酸化ルテニウムの製造方法としては、例えば、酸化チタン(チタニア)、或いは、酸化チタンと酸化ジルコニウム(ジルコニア)との複合酸化物からなる担体に、ルテニウム化合物を担持させて乾燥させた後、乾燥した担体を焼成する方法(特許文献1)、酸化チタンに二酸化ケイ素(シリカ)を担持させてなる担体に、ルテニウム化合物を担持させて乾燥させた後、乾燥した担体を焼成する方法(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−67103号公報(1997年3月11日公開)
【特許文献2】特開2008−155199号公報(2008年7月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載の担持酸化ルテニウムは、触媒活性や熱安定性の面において、更なる改良の余地がある。
【0005】
そこで、触媒活性や熱安定性により一層優れ、塩素を長期間にわたって安定的に製造することができる担持酸化ルテニウムの製造方法について鋭意検討した。その結果、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)および二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物を含有する担体に、ルテニウム化合物を含む溶液を担持させる担持工程と、上記溶液を担持した担体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥した担体を焼成する焼成工程とを含む製造方法によって、触媒活性や熱安定性に優れ、塩素を長期間にわたって安定的に製造することができる担持酸化ルテニウムが得られることを見出した。
【0006】
ところが、ルテニウム化合物を含む溶液、特に塩化ルテニウム水溶液は、金属に対する腐蝕性が非常に高い。このため、上記製造方法においては、一般に耐腐蝕性を有するとされる金属(合金)からなる製造装置を使用しても、当該製造装置における上記溶液(水溶液)に接触する箇所が容易に腐蝕されてしまうという更なる課題を有していることが判明した。また、ルテニウム化合物を含む溶液、特に塩化ルテニウム水溶液の腐蝕性について検討(研究)した文献は無く、従って、当業者においてもどのような材質(金属(合金))が当該溶液(水溶液)に対して耐腐蝕性を有するのか不明であるという問題点も有している。
【0007】
一方、担持酸化ルテニウムおよび塩素の製造コストを削減するためには、焼成工程に用いる製造装置をより安価な材質で作成することが望ましい。つまり、焼成工程に用いる製造装置である焼成炉は、高温に長時間曝されると共に、繰り返し使用することにより高温と常温との間の激しい温度変化を受け続けることになる。従って、他の工程で用いる製造装置よりも消耗が激しく交換(更新)の頻度が多くなるので、焼成炉をより安価な材質で作成することが望ましい。
【0008】
それゆえ、焼成工程に用いることができ、ルテニウム化合物を含む溶液の腐蝕性に長期間にわたって耐え得る材質が求められている。即ち、担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法が求められている。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法、および、当該担持酸化ルテニウムを用いた塩素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、一般に耐腐蝕性に劣るとされ、比較的安価であるものの当業者においては使用を避けるステンレス鋼のなかでも、グレードがより低いと見なされている特定の化学組成を有するステンレス鋼が、当業者の常識を覆して、焼成工程に用いる製造装置の材質として好適に用いることができることが判明した。
【0011】
即ち、本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法は、上記の課題を解決するために、酸化チタン、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物を含有する担体に、ルテニウム化合物を含む溶液を担持させる担持工程と、上記溶液を担持した担体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥した担体を焼成する焼成工程とを含む担持酸化ルテニウムの製造方法であって、少なくともルテニウム化合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0を越え、0.08質量%以下、シリコン:0を越え、1.00質量%以下、マンガン:0を越え、2.00質量%以下、リン:0を越え、0.045質量%以下、硫黄:0を越え、0.030質量%以下、ニッケル:10.00質量%以上、14.00質量%以下、クロム:16.00質量%以上、18.00質量%以下、モリブデン:2.00質量%以上、3.00質量%以下(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)である製造装置を用いて、上記焼成工程を行うことを特徴としている。
【0012】
上記の方法によれば、乾燥工程を経ているので、焼成工程に供される担体に含まれている溶液の量は少なくなっている。また、焼成が進むにつれて、当該溶液の量は急激に減少していく(最終的には無くなる)。それゆえ、一般に耐腐蝕性に劣るとされ、比較的安価であるものの当業者においては使用を避けるステンレス鋼のなかでも、特定の化学組成を有するステンレス鋼であれば、焼成工程に用いる製造装置の材質として用いることができる。つまり、特定の化学組成を有するステンレス鋼が上記焼成工程におけるルテニウム化合物を含む溶液の腐蝕性に耐え得るので、担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的に製造することができる。また、比較的安価であるステンレス鋼からなる製造装置を用いて焼成工程を行うので、担持酸化ルテニウムの製造コストを削減することができる。従って、担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明に係る塩素の製造方法は、上記の課題を解決するために、上記製造方法で製造された担持酸化ルテニウムを触媒として用いて、塩化水素を酸素で酸化する酸化工程を含むことを特徴としている。
【0014】
上記の方法によれば、塩素を長期間にわたって安定的に製造することができる。従って、塩素を長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法および塩素の製造方法によれば、担持酸化ルテニウムおよび塩素を長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法は、酸化チタン、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物を含有する担体に、ルテニウム化合物を含む溶液を担持させる担持工程と、上記溶液を担持した担体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥した担体を焼成する焼成工程とを含む担持酸化ルテニウムの製造方法であって、少なくともルテニウム化合物に接触する箇所が特定の化学組成を有するステンレス鋼からなる製造装置を用いて、上記焼成工程を行う方法である。また、本発明に係る塩素の製造方法は、上記製造方法で製造された担持酸化ルテニウムを触媒として用いて、塩化水素を酸素で酸化する酸化工程を含む方法である。各製造方法について以下に説明する。
【0017】
〔担持酸化ルテニウムの製造方法〕
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法は、上記担持工程、乾燥工程および焼成工程の他に、必要に応じて担体の作成工程を含んでいる。各工程について順に説明する。
【0018】
(担体の作成工程)
本発明における担体は、酸化チタン、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物を含有している。当該担体としては、具体的には、酸化チタン、酸化アルミニウム、または二酸化ケイ素からなる担体;酸化チタンおよび酸化アルミニウムからなる担体;酸化チタンおよび二酸化ケイ素からなる担体;酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる担体;酸化チタン、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる担体;が挙げられる。また、担体は、酸化ジルコニウムや酸化ニオブ等の他の酸化物を必要に応じて含有していてもよい。そして、担体が2つ以上の酸化物からなる場合には、これら酸化物は互いに混合された混合物であってもよく、複合酸化物を形成していてもよい。
【0019】
酸化チタンの結晶形態は、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の何れであってもよく、非晶質であってもよい。本発明における結晶形態としては、ルチル型および/またはアナターゼ型がより好ましい。
【0020】
そして、作成工程として、酸化チタン、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物を含む材料に、必要に応じて水や公知の成形助剤を添加した後、当該材料を混練し、次いで成形および乾燥して焼成することにより、本発明における担体を作成することができる。より具体的には、例えば、上記材料に水とバインダー(例えば、メチルセルロース等)等の成形助剤とを添加した後、当該材料を混練し、次いで円柱状に押し出し成形し、切断、乾燥すると共に必要に応じて破砕することによって成形体を得た後、当該成形体を空気等の酸化性ガスの雰囲気下で焼成することにより、本発明における担体を作成することができる。上記各酸化物は、粉体状やゾル状の状態で作成工程に供される。
【0021】
但し、担体の具体的な作成方法は、上記例示の方法に限定されない。例えば、酸化チタンや酸化アルミニウム、二酸化ケイ素を用いる代りに、ハロゲン化チタン等のチタン化合物、ハロゲン化アルミニウム等のアルミニウム化合物、ハロゲン化ケイ素等のケイ素化合物を用いて、焼成時に酸化チタンや酸化アルミニウム、二酸化ケイ素を形成する作成方法を行うこともできる。
【0022】
本発明における担体としては、酸化チタンおよび酸化アルミニウムからなる担体、並びに、酸化チタンおよび二酸化ケイ素からなる担体がより好ましい。そして、酸化チタンおよび二酸化ケイ素からなるより好ましい担体としては、酸化チタンに二酸化ケイ素が担持された二酸化ケイ素担持酸化チタン担体(以下、シリカ担持チタニア担体と記す)が挙げられる。シリカ担持チタニア担体は、これを用いて製造される担持酸化ルテニウムにおける、酸化チタンや酸化ルテニウムの高温(350℃以上)での焼結をより一層抑制することができる。このため、担持酸化ルテニウムの熱安定性をより一層向上させることができる。
【0023】
上記シリカ担持チタニア担体は、例えば、(a) 上記作成方法等によって作成された酸化チタンからなる担体に、ケイ素化合物を担持させた後、焼成する方法;(b) 塩化チタンや臭化チタン等のハロゲン化チタンと、塩化ケイ素や臭化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とを酸化性ガスの雰囲気下で熱処理する方法;で作成することができる。両方法について順に説明する。
【0024】
上記(a) 方法において、酸化チタンからなる担体は、例えば、粉体状やゾル状の酸化チタンを混練し、次いで成形および乾燥して焼成することにより得ることができる。上記ケイ素化合物としては、具体的には、例えば、Si(OR)(Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。以下同じ。)で示されるケイ素アルコキシド化合物、塩化ケイ素や臭化ケイ素等のハロゲン化ケイ素、SiCl(OR),SiCl(OR),SiCl(OR),SiBr(OR),SiBr(OR),SiBr(OR)で示されるハロゲン化ケイ素アルコキシド化合物、およびこれら化合物の水和物が挙げられる。これら化合物は一種類のみを用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。上記例示の化合物のうち、ケイ素アルコキシド化合物がより好ましく、ケイ素テトラエトキシド、即ち、オルトケイ酸テトラエチル{Si(OC}が特に好ましい。
【0025】
ケイ素化合物の使用量は、酸化チタン1モルに対して、0.001モル〜0.3モルの範囲内がより好ましく、0.004モル〜0.03モルの範囲内がさらに好ましい。
【0026】
酸化チタンからなる担体(以下、チタニア担体と記す)にケイ素化合物を担持させる方法としては、例えば、ケイ素化合物をメチルアルコールやエチルアルコール等のアルコールおよび/または水に溶解してなる溶液をチタニア担体にポアフィリング法等によって含浸させる方法;チタニア担体を上記溶液に浸漬する方法;チタニア担体に上記溶液を噴霧(スプレー)する方法;等が挙げられる。
【0027】
チタニア担体にケイ素化合物を担持させるときの温度は、0℃〜100℃の範囲内がより好ましく、0℃〜50℃の範囲内がさらに好ましい。また、圧力は、0.1MPa〜1MPaの範囲内がより好ましく、0.1MPa(1気圧)がさらに好ましい。ケイ素化合物の担持は、水蒸気を含んでいてもよい空気雰囲気下、或いは、水蒸気を含んでいてもよい窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。このうち、不活性ガス雰囲気下で行うことが、取り扱いの観点からより好ましい。さらに、チタニア担体に対するケイ素化合物の担持ムラをより少なくするために、上記担持方法に用いる容器(例えば、含浸釜)を回転させたり、当該容器に回転翼を設けたりして、チタニア担体を流動させながらケイ素化合物を担持させてもよい。尚、上記担持に要する時間は、ケイ素化合物の担持量や採用する工程等に左右されるため、特に限定されない。
【0028】
上記(a) 方法においては、ケイ素化合物を担持させた後、溶媒(アルコールおよび/または水)を除去するために、乾燥処理を行う。乾燥方法としては公知の方法を採用することができる。乾燥処理は、水蒸気を含んでいてもよい空気雰囲気下、或いは、水蒸気を含んでいてもよい窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる(但し、溶媒が水であるときは、飽和水蒸気を含んでいる場合を除く)。このうち、不活性ガス雰囲気下で行うことが、取り扱いの観点からより好ましい。乾燥させるときの温度は、0℃〜100℃の範囲内がより好ましい。また、圧力は、0.001MPa〜1MPaの範囲内がより好ましく、0.001MPa〜0.1MPaの範囲内がさらに好ましく、減圧下(0.1MPa(1気圧)未満)が特に好ましい。減圧下で乾燥させることにより、チタニア担体内部に担持されたケイ素化合物の偏在(担持ムラ)をより抑制することができる。即ち、チタニア担体内部にケイ素化合物をより均一に担持させることができるので、これを用いて製造される担持酸化ルテニウムの触媒活性をより一層向上させることができる。また、減圧下で乾燥させることにより、短時間で乾燥させることができると共に、溶媒がアルコールである場合には、引火等の危険性を有する当該アルコールの大気中への漏洩を防止することができると共に、回収することによって当該アルコールの無害化処理を省略することができる等、安全衛生面や製造面で有利となる。さらに、乾燥ムラをより少なくする(より均一に乾燥させる)ために、上記乾燥処理に用いる容器(例えば、乾燥釜)を回転させたり、当該容器に回転翼を設けたりして、チタニア担体を流動させてもよい。或いは、乾燥棚を用いて乾燥させる場合には、棚同士の間隔を一般的な間隔より広くしてもよい。尚、乾燥時間は、溶媒の量や上記温度,圧力等に左右されるため、特に限定されない。
【0029】
上記乾燥処理を行った後のケイ素化合物担持チタニア担体を焼成することにより、シリカ担持チタニア担体を得ることができる。焼成は、酸素含有ガス等の酸化性物質を含む酸化性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。当該雰囲気における酸素濃度は、1容量%〜30容量%の範囲内が好ましい。酸素含有ガスとしては、空気および純酸素ガスが挙げられ、空気がより好ましい。酸素含有ガスは必要に応じて不活性ガスや水蒸気で希釈されていてもよい。焼成温度は、100℃〜1000℃の範囲内が好ましく、250℃〜450℃の範囲内がより好ましい。尚、焼成時間は、ケイ素化合物担持チタニア担体に含まれる溶媒の量や上記温度等に左右されるため、特に限定されない。
【0030】
上記(b) 方法において、ハロゲン化チタンとハロゲン化ケイ素とを酸化性ガスの雰囲気下で熱処理する方法としては、具体的には、例えば、600℃以上に加熱してガス化したハロゲン化チタンおよびハロゲン化ケイ素を、600℃以上に加熱した酸素ガスおよび/または水蒸気の存在下で熱処理し、次いで得られた粉体を300℃〜600℃の範囲内で熱処理する方法が挙げられる(例えば、特開2004−210586号公報を参照)。これにより、粉体状のシリカ担持チタニア担体を得ることができる。ハロゲン化チタンとしては塩化チタンがより好ましく、ハロゲン化ケイ素としては塩化ケイ素がより好ましい。ハロゲン化ケイ素の使用量は、ハロゲン化チタン1モルに対して、0.001モル〜0.3モルの範囲内がより好ましく、0.004モル〜0.03モルの範囲内がさらに好ましい。尚、熱処理の時間は、上記温度等に左右されるため、特に限定されない。
【0031】
上記粉体状のシリカ担持チタニア担体は、そのままの状態(形状)で本発明に係る担持酸化ルテニウムの担体として用いてもよいが、より好ましくは、当該シリカ担持チタニア担体を上記(a) 方法と同様にして混練し、次いで成形および乾燥して焼成することにより得られる成形体を、本発明に係る担持酸化ルテニウムの担体として用いる。尚、担体の作成工程全体の作業時間は、特に限定されない。
【0032】
上記(a) 方法または上記(b) 方法で得られたシリカ担持チタニア担体において、担体である酸化チタンに対する二酸化ケイ素の被覆割合は、シリカ担持チタニア担体の比表面積S(m/g)に対する二酸化ケイ素の単分子被覆率θ(%)として、下記式(1)
θ=a×(A/S)×100 …(1)
(式中、Aは、シリカ担持チタニア担体1g当たりに担持されている二酸化ケイ素の分子数、aは、二酸化ケイ素の分子占有面積(=0.139×10−18 (m))を表す。)
で表すことができる。上記二酸化ケイ素の分子占有面積aは、下記式(2)
=1.091(M/(Nd))2/3 …(2)
(式中、Mは、二酸化ケイ素の分子量(=60.07(g/モル))、Nは、アボガドロ数(=6.02×1023 (個))、dは、二酸化ケイ素の真密度(=2.2(g/m))を表す。)
で算出することができる。
【0033】
上記単分子被覆率θは、10%〜200%の範囲内がより好ましく、20%〜120%の範囲内がさらに好ましい。従って、単分子被覆率θが上記範囲内となるように、担体やハロゲン化チタンに対する、ケイ素化合物やハロゲン化ケイ素の使用量を適宜調節することが望ましい。単分子被覆率θが10%未満であると、焼成後に得られる担持酸化ルテニウムにおいて担体や酸化ルテニウムの焼結が起こり易くなり、担持酸化ルテニウムの熱安定性が低下するおそれがある。一方、単分子被覆率θが200%を越えると、ルテニウム化合物が担体上に担持され難くなり、担持酸化ルテニウムの触媒活性が低下するおそれがある。
【0034】
(担持工程)
本発明に係る担持工程においては、例えば上記作成工程にて得られた担体に、ルテニウム化合物を含む溶液を担持させる。但し、本発明において、ルテニウム化合物を含む溶液には、ルテニウム化合物を溶媒に溶解してなる溶液の他に、ルテニウム化合物を溶媒に分散してなる分散液も含まれることとする。また、担体の製造(作成)方法は特に限定されるものではない。
【0035】
上記ルテニウム化合物としては、具体的には、例えば、RuCl,RuBr等のハロゲン化物、KRuCl,KRuCl等のハロゲノ酸塩、KRuO等のオキソ酸塩、RuOCl,RuOCl,RuOCl等のオキシハロゲン化物、K[RuCl(HO)],[RuCl(HO)]Cl,K[RuOCl10],Cs[RuOCl]等のハロゲノ錯体、[Ru(NHO]Cl,[Ru(NHCl]Cl,[Ru(NH]Cl,[Ru(NH]Cl,[Ru(NH]Br等のアンミン錯体、Ru(CO),Ru(CO)12等のカルボニル錯体、[RuO(OCOCH(HO)]OCOCH,[Ru(OCOR ]Cl(Rは炭素数1〜3のアルキル基を表す)等のカルボキシラト錯体、K[RuCl(NO)],[Ru(NH(NO)]Cl,[Ru(OH)(NH(NO)](NO,[Ru(NO)](NO等のニトロシル錯体、ホスフィン錯体、アミン錯体、アセチルアセトナト錯体、およびこれら化合物の水和物が挙げられる。これら化合物は一種類のみを用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。上記例示の化合物のうち、ハロゲン化物がより好ましく、RuCl等の塩化物が特に好ましい。
【0036】
上記溶媒は、ルテニウム化合物を溶解または分散させることができる溶媒であればよい。当該溶媒としては、具体的には、例えば、水、メチルアルコールやエチルアルコール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテルが挙げられる。上記例示の化合物のうち、アルコールおよび/または水がより好ましい。
【0037】
担体にルテニウム化合物を担持させる方法としては、例えば、ルテニウム化合物を含む溶液を担体にポアフィリング法等によって含浸させる方法;担体を上記溶液に浸漬する方法;担体に上記溶液を噴霧(スプレー)する方法;等が挙げられる。そして、上記含浸させる方法においては、担体に対するルテニウム化合物の担持ムラをより少なくするために、必要に応じて、含浸させた後に、ヒドラジンや水酸化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いた還元処理を行ってもよい。さらに、担体に対するルテニウム化合物の担持ムラをより少なくするために、上記担持方法に用いる容器(例えば、含浸釜)を回転させたり、当該容器に回転翼を設けたりして、担体を流動させながらルテニウム化合物を担持させてもよい。尚、担持工程に要する時間は、ルテニウム化合物の担持量や採用する工程等に左右されるため、特に限定されない。
【0038】
担体に対するルテニウム化合物の使用量は、焼成後に得られる担持酸化ルテニウムにおける酸化ルテニウムと担体との質量比(酸化ルテニウム/担体)が、0.1/99.9〜20/80の範囲内、より好ましくは0.3/99.7〜10/90の範囲内、さらに好ましくは0.5/99.5〜5/95の範囲内となるように適宜調節することが望ましい。ルテニウム化合物の使用量が上記質量比よりも少ないと、担持酸化ルテニウムの触媒活性が低下するおそれがある。一方、ルテニウム化合物の使用量が上記質量比よりも多いと、ルテニウム化合物が高価であるので、担持酸化ルテニウムを安価に製造することができないおそれがある。
【0039】
そして、担体がシリカ担持チタニア担体である場合には、焼成後に得られる担持酸化ルテニウムにおけるチタニア担体に担持されている二酸化ケイ素1モルに対して、酸化ルテニウムが0.1モル〜4モルの範囲内、より好ましくは0.3モル〜2モルの範囲内となるように、ルテニウム化合物の上記使用量を調節することが望ましい。ルテニウム化合物の使用量が上記モル数よりも少ないと、担持酸化ルテニウムの触媒活性が低下するおそれがある。一方、ルテニウム化合物の使用量が上記モル数よりも多いと、担持酸化ルテニウムの熱安定性が低下するおそれがある。
【0040】
(乾燥工程)
本発明に係る乾燥工程においては、上記溶液を担持した担体を乾燥させる。乾燥工程は、大気圧下で行ってもよいが、減圧下(0.1MPa(1気圧)未満)で行うことがより好ましい。減圧下で乾燥させることにより、担体内部に担持されたルテニウム化合物の偏在(担持ムラ)をより抑制することができる。即ち、担体内部にルテニウム化合物をより均一に担持させることができるので、焼成後に得られる担持酸化ルテニウムの触媒活性および熱安定性をより一層向上させることができる。また、減圧下で乾燥させることにより、短時間で乾燥させることができると共に、溶媒がアルコールやエーテルである場合には、引火等の危険性を有する当該アルコールやエーテルの大気中への漏洩を防止することができると共に、回収することによって当該アルコールやエーテルの無害化処理を省略することができる等、安全衛生面や製造面で有利となる。さらに、乾燥ムラをより少なくする(より均一に乾燥させる)ために、乾燥工程に用いる容器(例えば、乾燥釜)を回転させたり、当該容器に回転翼を設けたりして、担体を流動させてもよい。或いは、乾燥棚を用いて乾燥させる場合には、棚同士の間隔を一般的な間隔より広くしてもよい。
【0041】
具体的な乾燥方法としては公知の方法を採用することができる。乾燥工程は、水蒸気を含んでいてもよい空気雰囲気下、或いは、水蒸気を含んでいてもよい窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる(但し、溶媒が水であるときは、飽和水蒸気を含んでいる場合を除く)。このうち、不活性ガス雰囲気下で行うことが、取り扱いの観点からより好ましい。乾燥させるときの温度は、0℃〜100℃の範囲内がより好ましく、熱負荷の観点から5℃〜50℃の範囲内がさらに好ましい。また、圧力は、0〜150kPaで行うことが好ましく、15〜150kPaで行うことがより好ましい。これにより、焼成後に得られる担持酸化ルテニウムの触媒活性および熱安定性をより一層向上させることができる。乾燥時間は、溶媒の量や上記温度,圧力等に左右されるため、特に限定されないが、1時間〜12時間の範囲内が好適である。本発明に係る乾燥工程においては、比較的短時間(1時間〜3時間程度)で乾燥させても、触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムを得ることができる。
【0042】
乾燥工程後の溶媒残存率(乾燥工程後のルテニウム化合物担持担体における溶媒の含有率)(%)は、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。上記溶媒残存率(%)は、
溶媒残存率(%)=(ルテニウム化合物担持担体に含まれる溶媒の質量(g)/乾燥工程後のルテニウム化合物担持担体の質量(g))×100
で算出することができる。溶媒残存率が10%を越えると、次の焼成工程において、担体内部に担持されたルテニウム化合物の偏在(担持ムラ)が生じるおそれがある。
【0043】
(焼成工程)
本発明に係る焼成工程においては、乾燥工程後のルテニウム化合物担持担体を焼成する。ルテニウム化合物担持担体を焼成することにより、担持されているルテニウム化合物が酸化されて酸化ルテニウムに変換される。即ち、担持酸化ルテニウムが得られる。
【0044】
焼成工程は、酸素含有ガス等の酸化性物質を含む酸化性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。当該雰囲気における酸素濃度は、1容量%〜30容量%の範囲内が好ましい。酸素含有ガスとしては、空気および純酸素ガスが挙げられ、空気がより好ましい。酸素含有ガスは必要に応じて不活性ガスや水蒸気で希釈されていてもよい。焼成温度は、100℃〜500℃の範囲内が好ましく、200℃〜400℃の範囲内がより好ましい。尚、焼成時間は、ルテニウム化合物担持担体に含まれる溶媒の量や上記温度等に左右されるため、特に限定されない。
【0045】
焼成後に得られる担持酸化ルテニウム、即ち、本発明に係る担持酸化ルテニウムにおける酸化ルテニウムは、その大部分が二酸化ルテニウム(RuO)である。つまり、ルテニウムの酸化数は「+4」である。但し、上記酸化ルテニウムには他の酸化数のルテニウムが含まれていてもよい。
【0046】
(製造装置の材質)
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法において、上記焼成工程に用いる製造装置は、少なくともルテニウム化合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0を越え、0.08質量%以下、シリコン:0を越え、1.00質量%以下、マンガン:0を越え、2.00質量%以下、リン:0を越え、0.045質量%以下、硫黄:0を越え、0.030質量%以下、ニッケル:10.00質量%以上、14.00質量%以下、クロム:16.00質量%以上、18.00質量%以下、モリブデン:2.00質量%以上、3.00質量%以下(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)である。当該化学組成を有するステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレル鋼と称される。また、上記焼成工程に用いる製造装置としては、焼成炉が好適である。
【0047】
上記化学組成は、炭素:0.06質量%、シリコン:0.62質量%、マンガン:0.78質量%、リン:0.029質量%、硫黄:0.003質量%、ニッケル:12.3質量%、クロム:16.66質量%、モリブデン:2.22質量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)であることがより好ましい。
【0048】
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法における焼成工程において使用される製造装置の材質は、担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができるために、後述する腐蝕速度が0.015g/(m・hr)以下(0.015mm/year以下)であることが要求される。上記化学組成を有するステンレス鋼は、上記条件を満足することができる。それゆえ、焼成工程を繰り返し行うことができる。上記製造装置は、少なくともルテニウム化合物に接触する箇所が上記特定の化学組成を有するステンレス鋼からなっていればよいが、より安定的に製造するには装置内部(内壁)全体が上記特定の化学組成を有するステンレス鋼からなっている方がより好ましく、さらに安定的に製造するには装置全体が上記特定の化学組成を有するステンレス鋼からなっている方がさらに好ましい。
【0049】
焼成工程に用いる製造装置は、高温に長時間曝されると共に、繰り返し使用することにより高温と常温との間の激しい温度変化を受け続けることになる。従って、他の工程(担持工程および乾燥工程)で用いる製造装置よりも消耗が激しく交換(更新)の頻度が多くなるので、当該製造装置をより安価な材質で作成することが望ましい。本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法においては、比較的安価であるステンレス鋼からなる製造装置を用いて焼成工程を行うので、担持酸化ルテニウムの製造コストを削減することができる。それゆえ、本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法によれば、触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる。
【0050】
一方、上記担持工程および乾燥工程で用いる製造装置は、焼成工程に用いる製造装置よりも消耗が少なく交換(更新)の頻度が少ないので、より安価な材質で作成するよりも、より耐腐蝕性に優れた金属(合金)で作成することが望ましい。担持工程および乾燥工程で用いる製造装置は、例えば、少なくともルテニウム化合物に接触する箇所がニッケル合金からなり、当該ニッケル合金の化学組成が、炭素:0を越え、0.015質量%以下、シリコン:0を越え、0.08質量%以下、マンガン:0を越え、0.5質量%以下、リン:0を越え、0.025質量%以下、硫黄:0を越え、0.020質量%以下、クロム:20.0質量%以上、22.5質量%以下、モリブデン:12.5質量%以上、14.5質量%以下、タングステン:2.5質量%以上、3.5質量%以下、コバルト:0を越え、2.5質量%以下、鉄:2.0質量%以上、6.0質量%以下、バナジウム:0を越え、0.35質量%以下(残りはニッケルであり、ニッケルを含めた化学組成が100質量%となる)である。
【0051】
上記化学組成は、炭素:0.003質量%、シリコン:0.06質量%、マンガン:0.09質量%、リン:0.01質量%未満、硫黄:0.01質量%未満、クロム:21.2質量%、モリブデン:13.3質量%、タングステン:3.0質量%、コバルト:1.2質量%、鉄:4.3質量%(残りはニッケルであり、ニッケルを含めた化学組成が100質量%となる)であることがより好ましい。
【0052】
上記化学組成を有するニッケル合金は、耐腐蝕性に優れているので、上記担持工程および乾燥工程を繰り返し行うことができる。当該製造装置は、少なくともルテニウム化合物に接触する箇所が上記特定の化学組成を有するニッケル合金からなっていればよいが、より安定的に製造するには装置内部(内壁)全体が上記特定の化学組成を有するニッケル合金からなっている方がより好ましく、さらに安定的に製造するには装置全体が上記特定の化学組成を有するニッケル合金からなっている方がさらに好ましい。
【0053】
〔塩素の製造方法〕
本発明に係る塩素の製造方法は、上記担持酸化ルテニウムを触媒として用いて、塩化水素を酸素で酸化する酸化工程を含む。即ち、上記酸化工程は、塩化水素の酸化反応を行う工程である。
【0054】
上記酸化反応は、液相反応であってもよく、気相反応であってもよい。また、上記酸化反応の方式(触媒の作用方式)は、固定床方式であってもよく、流動床方式であってもよい。このうち、固定床気相流通方式や流動床気相流通方式等を採用した気相反応で上記酸化反応を行うことが、工業的に有利である。
【0055】
上記酸化反応は平衡反応であるので、高温で行う程、平衡転化率が低下する。それゆえ、酸化反応は比較的低温で行うことが望ましく、具体的には、反応温度は、100℃〜500℃の範囲内がより好ましく、200℃〜450℃の範囲内がさらに好ましい。反応圧力は、0.1MPa(1気圧)〜5MPaの範囲内がより好ましい。酸素源は、空気および純酸素ガスが挙げられ、純酸素ガスがより好ましい。上記酸化反応における、塩化水素に対する酸素の理論モル比は1/4モルであるが、本発明に係る塩素の製造方法においては、この理論モル比の0.1倍〜10倍に相当する量の酸素ガスを使用することが望ましい。また、気相反応で上記酸化反応を行う場合における塩化水素の供給速度は、触媒(担持酸化ルテニウム)1L当たりのガス供給速度(L/h;0℃、1気圧換算)、即ち、GHSVで表して、10h−1〜20000h−1の範囲内がより好ましい。尚、反応時間(触媒との接触時間)は、塩化水素の供給速度や反応温度、反応圧力等に左右されるため、特に限定されない。
【0056】
本発明に係る担持酸化ルテニウムは触媒活性および熱安定性に優れているので、上記酸化反応において、良好な転化率を長期間にわたって維持することができる。従って、本発明に係る塩素の製造方法によれば、塩素を長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる。
【実施例】
【0057】
〔実施例1〕
(製造装置の材質)
焼成工程に用いる製造装置の材質としてステンレス鋼(A)を用いた。ステンレス鋼(A)の化学組成は、炭素:0.06質量%、シリコン:0.62質量%、マンガン:0.78質量%、リン:0.029質量%、硫黄:0.003質量%、ニッケル:12.3質量%、クロム:16.66質量%、モリブデン:2.22質量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)である。
【0058】
上記ステンレス鋼(A)を縦25mm×横20mm×厚さ2mmの平板に加工し、次いで、いわゆる鋭敏化熱処理として、750℃で2時間加熱処理した後、その中央部に直径2mmの穴を空け、試験片とした。
【0059】
そして、上記試験片は、純水を用いて洗浄し、水分を拭き取り、窒素ガス中で10分間乾燥させた後、下記促進試験に供した。
【0060】
(担持酸化ルテニウムの製造)
酸化チタン(堺化学株式会社製:STR−60R(商品名),100%ルチル型)50質量部、チタニアゾル(堺化学株式会社製:CSB(商品名),チタニア含有量38%)13.2質量部、酸化アルミニウム(住友化学株式会社製:AES−12(商品名),α−アルミナ)100質量部、および、バインダーであるメチルセルロース(信越化学株式会社製:メトローズ65SH−4000(商品名))2質量部を混合し、次いで純水を加えて混練した。この混練物を直径3.0mmの円柱状に押し出し成形し、乾燥させた後、長さ4mm〜6mm程度に破砕した。そして、この破砕物を、焼成炉を用いて1気圧の空気中、800℃で3時間かけて焼成することにより、ペレット状の担体を作成した。
【0061】
一方、塩化ルテニウム(NEケムキャット株式会社製)7.85質量部を純水21.15質量部に溶解させることにより、27質量%塩化ルテニウム水溶液29質量部を調製した。
【0062】
そして、上記担体100質量部をフラスコに入れ、エバポレータを用いて25rpm程度で回転させながら、当該担体に上記水溶液29質量部を、1気圧の空気中、およそ10℃で10分間〜30分間かけて滴下することにより、担体に塩化ルテニウム水溶液を担持させた(担持工程)。
【0063】
次に、上記水溶液を担持した担体を、エバポレータを用いて、窒素ガスを1L/分の割合で吹き込みながら、1気圧の窒素ガス中、50℃で4時間かけて、水分量が3質量%になるまで乾燥(風乾)させた(乾燥工程)。
【0064】
その後、試験片の耐腐蝕性を確認するために、焼成工程に代えて、焼成工程を行うよりも腐蝕を促進させることができる促進試験を行った。即ち、乾燥した担体100質量部を密閉することができる蓋付きの容器に入れた後、当該担体に上記試験片を埋め込んだ(以下、埋め込んだ試験片を試験片Aと記す)。また、担体に触れないようにして、容器内の上部に上記試験片を設置した(以下、上部に設置した試験片を試験片Bと記す)。その後、1気圧の空気中で容器を密閉し、30℃で167時間(およそ一週間)放置した。
【0065】
焼成工程では焼成が進むにつれて、担体に含まれている水溶液の量は急激に減少していく(最終的には無くなる)。これに対して、上記促進試験では、密閉された容器に担体を入れているので、上記水溶液の量は殆ど減少しない。それゆえ、上記促進試験では、焼成工程を行うよりも試験片の腐蝕を促進させることができる。
【0066】
上記試験片A,Bは、促進試験終了後、取り出して純水を用いて洗浄し、水分を拭き取り、窒素ガス中で10分間乾燥させた。そして、試験片の重量減少量を測定すると共に、外観を観察した。また、試験片を、穴を通る位置で切断し、その断面を顕微鏡で観察した。結果を表1に示す。表1中の「腐蝕速度」は、上記重量減少量を、1時間,1m当たりの重量減少速度に換算した値(g/(m・hr))、並びに、1年間の腐蝕進行速度に換算した値(mm/year)である。但し、当該腐蝕進行速度は、試験片全面が均一に腐蝕されると仮定して算出した。
【0067】
尚、上記促進試験とは別に、乾燥工程後の担体を、焼成炉を用いて、自然対流の1気圧の空気中、90分間かけて300℃まで昇温させた後、300℃で2時間かけて焼成した(焼成工程)。焼成炉内は、水蒸気および塩素ガスを含む空気雰囲気であった。焼成後、得られた担持酸化ルテニウムを自然冷却させた。得られた担持酸化ルテニウムは、触媒活性および熱安定性に優れていた。
〔比較例1〕
焼成工程に用いる製造装置の材質として比較ステンレス鋼(B)を用いた。比較ステンレス鋼(B)の化学組成は、炭素:0.05質量%、シリコン:0.82質量%、マンガン:1.27質量%、リン:0.017質量%、硫黄:0.001質量%、ニッケル:19.22質量%、クロム:25.1質量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)である。尚、比較ステンレス鋼(B)の化学組成と同等の化学組成を有するステンレス鋼はSUS310Sとして知られており、市販されている。
【0068】
上記比較ステンレス鋼(B)をステンレス鋼(A)と同様に加工等して、試験片とした。但し、いわゆる鋭敏化熱処理は、650℃で2時間加熱とした。
【0069】
そして、上記試験片を用いて実施例1と同様に促進試験を行った後、当該試験片の重量減少量を測定すると共に、外観を観察した。また、試験片を、穴を通る位置で切断し、その断面を顕微鏡で観察した。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
焼成工程に用いる製造装置の材質としてニッケル合金(C)を用いた。ニッケル合金(C)の化学組成は、炭素:0.09質量%、シリコン:0.34質量%、マンガン:0.8質量%、リン:0.01質量%、硫黄:0.01質量%、クロム:16.07質量%、モリブデン:0.12質量%、鉄:8.5質量%(残りはニッケルであり、ニッケルを含めた化学組成が100質量%となる)である。尚、ニッケル合金(C)の化学組成と同等の化学組成を有するニッケル合金はInconel 600として知られており、市販されている(例えば、MA600(商品名):三菱マテリアル株式会社製)。尚、Inconel 600は、一般に耐腐蝕性に優れているとされている。
【0070】
上記ニッケル合金(C)をステンレス鋼(A)と同様に加工等して、試験片とした。但し、いわゆる鋭敏化熱処理は、650℃で2時間加熱とした。
【0071】
そして、上記試験片を用いて実施例1と同様に促進試験を行った後、当該試験片の重量減少量を測定すると共に、外観を観察した。また、試験片を、穴を通る位置で切断し、その断面を顕微鏡で観察した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法における焼成工程において使用される製造装置の材質は、担持酸化ルテニウムを長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができるために、腐蝕速度が0.015g/(m・hr)以下(0.015mm/year以下)であることが要求される。
【0074】
表1に記載の結果から明らかなように、ステンレス鋼(A)では腐蝕速度が0.012g/(m・hr)(0.013mm/year)であり、腐蝕があまり進行していないのに対して、比較ステンレス鋼(B)およびニッケル合金(C)では腐蝕速度が0.015g/(m・hr)(0.015mm/year)を大幅に越えており、腐蝕が認められた。即ち、上記ステンレス鋼(A)は、塩化ルテニウム水溶液の腐蝕性に耐え得る材質であり、耐腐蝕性に優れていることが判る。それゆえ、焼成工程に用いる製造装置の材質として上記ステンレス鋼(A)を用いることにより、担持酸化ルテニウムおよび塩素を長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができることが判る。
【0075】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施することができ、従って、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法および塩素の製造方法によれば、担持酸化ルテニウムおよび塩素を長期間にわたって安定的にかつ安価に製造することができる方法を提供することができるという効果を奏する。
【0077】
それゆえ、本発明に係る担持酸化ルテニウムの製造方法および塩素の製造方法は、塩素を製造する産業のみならず、塩素を使用する各種産業において広範に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物を含有する担体に、ルテニウム化合物を含む溶液を担持させる担持工程と、上記溶液を担持した担体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥した担体を焼成する焼成工程とを含む担持酸化ルテニウムの製造方法であって、
少なくともルテニウム化合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、
炭素:0を越え、0.08質量%以下、
シリコン:0を越え、1.00質量%以下、
マンガン:0を越え、2.00質量%以下、
リン:0を越え、0.045質量%以下、
硫黄:0を越え、0.030質量%以下、
ニッケル:10.00質量%以上、14.00質量%以下、
クロム:16.00質量%以上、18.00質量%以下、
モリブデン:2.00質量%以上、3.00質量%以下
(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100質量%となる)
である製造装置を用いて、上記焼成工程を行うことを特徴とする担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で製造された担持酸化ルテニウムを触媒として用いて、塩化水素を酸素で酸化する酸化工程を含むことを特徴とする塩素の製造方法。

【公開番号】特開2012−183479(P2012−183479A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48079(P2011−48079)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】