説明

担持酸化ルテニウムの製造方法及び塩素の製造方法

【課題】熱安定性や触媒寿命に優れた担持酸化ルテニウムの製造方法を提供することにある。また、この方法により得られた担持酸化ルテニウムを用いて、長時間にわたり安定して塩素を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】担持酸化ルテニウム触媒の製造方法であって、チタニアにシリカが担持されてなり、かつX線回折法により測定されるルチル型チタニアの比率が、ルチル型チタニア及びアナターゼ型チタニアの合計に対し50%以上である粉末状のチタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成することを特徴とする。こうして製造された担持酸化ルテニウムを触媒として用い、この触媒の存在下に塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ルテニウムが担体に担持されてなる担持酸化ルテニウムを製造する方法に関する。また、本発明は、この方法により製造された担持酸化ルテニウムを触媒に用いて塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を製造する方法にも関係している。
【背景技術】
【0002】
担持酸化ルテニウムは、塩化水素を酸素で酸化して塩素を製造するための触媒として有用であり、その製造方法として、例えば、特許文献1及び2には、オルトけい酸テトラエチルとチタニウムテトライソプロポキシドの混合溶液に酢酸水溶液を滴下することにより生成した白色沈殿を、空気中、60℃で乾燥し、次いで550℃で焼成して得られたチタニアシリカ粉末にルテニウム化合物を担持させ、その後、空気中で焼成する方法や、成形したチタニアにルテニウム化合物を担持した後、焼成し、次いでアルコキシシラン化合物やシロキサン化合物等のケイ素化合物を担持させ、その後、空気中で焼成する方法が記載され、特許文献3には、成形したチタニアにアルコキシシラン化合物を担持した後、空気中で焼成することによりチタニアの成形体にシリカを担持し、次いでルテニウム化合物を担持させ、その後、空気中で焼成する方法や、シリカが担持され、かつX線回折法により測定されるルチル型チタニアの比率がルチル型チタニア及びアナターゼ型チタニアの合計に対し38%である粉末状のチタニアを成形した後、ルテニウム化合物を担持させ、次いで空気中で焼成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−292279号公報
【特許文献2】特開2004−074073号公報
【特許文献3】特開2008−155199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の製造方法により得られる担持酸化ルテニウムは熱安定性や触媒寿命の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、熱安定性や触媒寿命に優れた担持酸化ルテニウムの製造方法を提供することにある。また、この方法により得られた担持酸化ルテニウムを用いて、長時間にわたり安定して塩素を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、担持酸化ルテニウム触媒の製造において、チタニアにシリカが担持されてなり、かつX線回折法により測定されるルチル型チタニアの比率が、ルチル型チタニア及びアナターゼ型チタニアの合計に対し50%以上である粉末状のチタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成することにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、チタニアにシリカが担持されてなり、かつX線回折法により測定されるルチル型チタニアの比率が、ルチル型チタニア及びアナターゼ型チタニアの合計に対し50%以上である粉末状のチタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する担持酸化ルテニウムの製造方法を提供するものである。
【0008】
また、本発明によれば、上記方法により製造された担持酸化ルテニウムの存在下で、塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を製造する方法も提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱安定性や触媒寿命に優れた担持酸化ルテニウムを製造することができ、こうして得られる担持酸化ルテニウムを触媒に用いて、塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、チタニアにシリカが担持されてなる粉末状のチタニア担体を用いる。かかるチタニア担体におけるチタニアは、ルチル型チタニア(ルチル型の結晶構造を有するチタニア)やアナターゼ型チタニア(アナターゼ型の結晶構造を有するチタニア)、非晶質のチタニア等からなるものであることができ、また、これらの混合物からなるものであってもよい。本発明では、ルチル型チタニアを主成分とするチタニア担体が好ましく、中でも、チタニア担体中のルチル型チタニア及びアナターゼ型チタニアの合計に対するルチル型チタニアの比率(以下、ルチル型チタニア比率ということがある。)が50%以上のチタニア担体が好ましく、70%以上のチタニア担体がより好ましく、90%以上のチタニア担体がさらにより好ましい。ルチル型チタニア比率が高くなるほど、得られる担持酸化ルテニウムの熱安定性が向上し触媒寿命がより良好となる。上記ルチル型チタニア比率は、X線回折法(以下XRD法)により測定でき、以下の式(1)で示される。
【0011】
ルチル型チタニア比率[%]=〔I/(I+I)〕×100 (1)
【0012】
:ルチル型チタニア(110)面を示す回折線の強度
:アナターゼ型チタニア(101)面を示す回折線の強度
【0013】
本発明で用いられるチタニア担体は、粉末状であって、チタニアに予めシリカが担持されてなり、ルチル型チタニアの比率が50%以上のものである。かかるチタニア担体は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法に準拠して調製したものを使用してもよい。市販のものとしては、例えば、堺化学工業(株)製のシリカ担持チタニア粉末(製品名:STR−100W)、テイカ(株)製シリカ担持チタニア粉末(製品名:MT−100WP)等が挙げられる。前記調製は、例えば、特開2006−182896号公報に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0014】
前記チタニア担体におけるシリカの含有量は、使用するチタニアの物性や、得られる担持酸化ルテニウムにおける酸化ルテニウムの含有量によって異なるが、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。
【0015】
また、前記チタニア担体は、アルカリ金属元素を含有してもよい。アルカリ金属元素としては、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられ、これらの2種以上でもよい。中でも、ナトリウムが好ましい。前記アルカリ金属元素は、上述の市販のチタニア担体に含まれるものであってもよいし、上述のチタニア担体の調製時にシリカの原料としてケイ酸のアルカリ金属塩を使用することにより含まれるものであってもよいし、上述のチタニア担体の調製時に、シリカの原料とは別にアルカリ金属化合物を添加することにより含まれるものであってもよい。前記アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属のハロゲン化物が好ましく、アルカリ金属のハロゲン化物の中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウムが好ましく、塩化ナトリウムがより好ましい。前記アルカリ金属元素の含有量は、前記チタニア担体に対して、5重量%以下が好ましく、2重量%以下がより好ましい。2種以上のアルカリ金属元素が含まれる場合、これらの合計含有量が、前記チタニア担体に対して、上記範囲となればよい。前記チタニア担体に含まれるアルカリ金属元素の含有量は、例えば、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP分析法」と言う。)により定量できる。
【0016】
前記チタニア担体は、熱処理が施されてもよい。かかる熱処理は、酸化性ガス、還元性ガス又は不活性ガスの雰囲気下で行うことができ、酸化性ガスの雰囲気下に行うことが好ましい。前記酸化性ガスとは、酸化性物質を含むガスであり、例えば酸素含有ガス等が挙げられ、その酸素濃度としては、通常、1〜30容量%程度である。この酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスや水蒸気で希釈される。酸化性ガスは、中でも、空気が好ましい。前記還元性ガスとは、還元性物質を含むガスであり、例えば水素含有ガス、一酸化炭素含有ガス、炭化水素含有ガス等が挙げられる。その濃度としては、通常、1〜30容量%程度であり、例えば、不活性ガスや水蒸気で濃度調整される。還元性ガスは、中でも、水素含有ガス、一酸化炭素含有ガスが好ましい。前記不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられ、必要に応じて水蒸気で希釈される。不活性ガスは、中でも、窒素、二酸化炭素が好ましい。
前記熱処理を行う場合の処理温度は、通常、300〜1000℃、好ましくは500〜900℃である。
【0017】
こうして得られるチタニア担体に酸化ルテニウムを担持させる方法としては、チタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する方法が挙げられる。
【0018】
前記ルテニウム化合物としては、例えば、RuCl、RuBrの如きハロゲン化物、KRuCl、KRuClの如きハロゲノ酸塩、KRuOの如きオキソ酸塩、RuOCl、RuOCl、RuOClの如きオキシハロゲン化物、K[RuCl(HO)]、[RuCl(HO)]Cl、K[RuOCl10]、Cs[RuOCl]の如きハロゲノ錯体、[Ru(NHO]Cl、[Ru(NHCl]Cl、[Ru(NH]Cl、[Ru(NH]Cl、[Ru(NH]Brの如きアンミン錯体、Ru(CO)、Ru(CO)12の如きカルボニル錯体、[RuO(OCOCH(HO)]OCOCH、[Ru(OCOR)]Cl(R=炭素数1〜3のアルキル基)の如きカルボキシラト錯体、K[RuCl(NO)]、[Ru(NH(NO)]Cl、[Ru(OH)(NH(NO)](NO、[Ru(NO)](NOの如きニトロシル錯体、ホスフィン錯体、アミン錯体、アセチルアセトナト錯体等が挙げられる。中でもハロゲン化物が好ましく用いられ、特に塩化物が好ましく用いられる。尚、ルテニウム化合物としては、必要に応じて、その水和物を使用してもよいし、また、それらの2種以上を使用してもよい。
【0019】
ルテニウム化合物とチタニア担体の使用割合は、後述する焼成後に得られる担持酸化ルテニウム中の酸化ルテニウム/チタニア担体の重量比が、好ましくは0.1/99.9〜20.0/80.0、より好ましくは0.3/99.7〜10.0/90.0、さらに好ましくは0.5/99.5〜5.0/95.0となるように、適宜調整すればよい。酸化ルテニウムがあまり少ないと触媒活性が十分でないことがあり、あまり多いとコスト的に不利となる。加えて、チタニア担体に担持されているシリカ1モルに対し酸化ルテニウム含有量が0.10〜20モルとなるようにルテニウム化合物とチタニア担体の使用割合を調整するのが好ましく、0.20〜10モルとなるように調整するのがより好ましい。シリカ1モルに対する酸化ルテニウムのモル数が高すぎると、担持酸化ルテニウムの熱安定性が低くなることがあり、低すぎると、触媒活性が低くなることがある。
【0020】
チタニア担体にルテニウム化合物を担持させる方法としては、チタニア担体をルテニウム化合物を含む水溶液と接触処理する方法が挙げられる。接触処理において、処理時の温度は、通常0〜100℃、好ましくは0〜50℃であり、処理時の圧力は通常0.1〜1MPa、好ましくは大気圧である。また、かかる接触処理は、空気雰囲気下や、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化酸素の如き不活性ガス雰囲気下で行うことができ、この際、水蒸気を含んでいてもよい。
【0021】
接触処理としては、含浸又は浸漬が挙げられる。前記水溶液と接触処理する方法として、例えば、(A)チタニア担体にルテニウム化合物を含む水溶液を含浸させる方法、(B)チタニア担体をルテニウム化合物を含む水溶液に浸漬させる方法等が挙げられるが、前記(A)の方法が好ましい。前記水溶液には、酸が含まれてもよい。
【0022】
前記水溶液に含まれる水としては、蒸留水、イオン交換水、超純水などの純度の高い水が好ましい。使用する水に不純物が多く含まれると、かかる不純物が触媒に付着して、触媒の活性を低下させる場合がある。水の使用量は、前記水溶液中のルテニウム化合物1モルに対しては、通常1.5〜8000モル、好ましくは3〜2500モル、より好ましくは7〜1500モルである。チタニア担体にルテニウム化合物を担持させるのに最低限必要な水の量は、使用するチタニア担体の総細孔容積から担持に使用する水溶液に含まれるルテニウム化合物の体積を除いた量である。
【0023】
こうして、チタニア担体にルテニウム化合物を担持させることができる。尚、ルテニウム化合物の担持後は必要に応じて、例えば特開2000−229239号公報、特開2000−254502号公報、特開2000−281314号公報、特開2002−79093号公報等に記載される如く還元処理を行ってもよい。
【0024】
前記チタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する。かかる焼成により、担持されたルテニウム化合物は酸化ルテニウムへと変換される。酸化性ガスとは、酸化性物質を含むガスであり、例えば、酸素含有ガスが挙げられる。その酸素濃度は通常1〜30容量%程度である。この酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。酸化性ガスは、中でも、空気が好ましい。焼成温度は、通常100〜500℃、好ましくは200〜400℃である。
【0025】
前記チタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、乾燥してから酸化性ガスの雰囲気下で焼成を行ってもよい。かかる乾燥方法としては、従来公知の方法を採用することができ、その温度は、通常、室温から100℃程度であり、その圧力は、通常0.001〜1MPa、好ましくは大気圧である。かかる乾燥は、空気雰囲気下や、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化酸素の如き不活性ガス雰囲気下で行うことができ、この際、水蒸気を含んでいてもよい。
【0026】
前記焼成により、担持酸化ルテニウムを製造することができる。担持されている酸化ルテニウムにおけるルテニウムの酸化数は、通常+4であり、酸化ルテニウムとしては二酸化ルテニウム(RuO)であるが、他の酸化数のルテニウムないし他の形態の酸化ルテニウムが含まれていてもよい。
【0027】
本発明の担持酸化ルテニウムは、好ましくは成形体として使用される。成形体の担持酸化ルテニウムを得る方法として、例えば、(A)前記チタニア担体を成形後、ルテニウム化合物を担持させ、次いで酸化性ガスの雰囲気下で焼成する方法、(B)前記チタニア担体を前記熱処理後、成形し、次いでルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する方法、(C)前記チタニア担体を成形後、前記熱処理を行い、次いでルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する方法、(D)前記チタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、成形し、次いで酸化性ガスの雰囲気下で焼成する方法、(E)前記チタニア担体を前記熱処理後、ルテニウム化合物を担持させ、次いで成形後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する方法、(F)前記チタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成し、次いで成形する方法、(G)前記チタニア担体を前記熱処理後、ルテニウム化合物を担持させ、次いで酸化性ガスの雰囲気下で焼成後、成形する方法等が挙げられるが、前記(A)又は(B)の方法が好ましく、前記(B)の方法がより好ましい。成形は、例えば、前記チタニア担体、前記熱処理後のチタニア担体、前記チタニア担体にルテニウム化合物を担持させたもの、前記熱処理後のチタニア担体にルテニウム化合物を担持させたもの、前記チタニア担体にルテニウム化合物を担持させ酸化性ガスの雰囲気下で焼成したもの又は前記熱処理後のチタニア担体にルテニウム化合物を担持させ酸化性ガスの雰囲気下で焼成したものと、チタニアゾルと、有機バインダー等の成形助剤と、水とを混練し、ヌードル状に押出成形した後、乾燥、破砕することにより行うことができる。成形後は、引き続き酸化性ガスの雰囲気下で焼成を行うのが好ましい。酸化性ガスとは、酸化性物質を含むガスであり、例えば、酸素含有ガスが挙げられる。その酸素濃度は通常1〜30容量%程度である。この酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。酸化性ガスは、中でも、空気が好ましい。成形後に引き続き行う焼成における焼成温度は、通常400〜900℃、好ましくは500〜800℃である。
【0028】
前記(A)の方法における成形後のチタニア担体又は前記(B)の方法における熱処理後に成形したチタニア担体の比表面積は、通常5〜300m/gであり、好ましくは5〜60m/gである。成形後に引き続き焼成を行う場合は、焼成後の比表面積が前記範囲となるようにすればよい。比表面積が高すぎると、得られる担持酸化ルテニウムにおけるチタニアや酸化ルテニウムが焼結しやすくなり、熱安定性が低くなることがある。一方、比表面積が低すぎると、得られる担持酸化ルテニウムにおける酸化ルテニウムが分散しにくくなり、触媒活性が低くなることがある。比表面積は、窒素吸着法(BET法)で測定することができ、通常BET1点法で測定する。
【0029】
かくして製造される担持酸化ルテニウムを触媒に用い、この触媒の存在下で塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を効率的に製造することができる。反応方式としては、流動床、固定床、移動床等の反応方式が採用可能であり、断熱方式又は熱交換方式の固定床反応器が好ましい。断熱方式の固定床反応器を用いる場合には、単管式固定床反応器、多管式固定床反応器のいずれも使用することができるが、単管式固定床反応器を好ましく使用することができる。熱交換方式の固定床反応器を用いる場合には、単管式固定床反応器、多管式固定床反応器のいずれも使用することができるが、多管式固定床反応器を好ましく使用することができる。
【0030】
この酸化反応は平衡反応であり、あまり高温で行うと平衡転化率が下がるため、比較的低温で行うのが好ましく、反応温度は、通常100〜500℃、好ましくは200〜450℃である。また、反応圧力は、通常0.1〜5MPa程度である。酸素源としては、空気を使用してもよいし、純酸素を使用してもよい。塩化水素に対する酸素の理論モル量は1/4モルであるが、通常、この理論量の0.1〜10倍の酸素が使用される。また、塩化水素の供給速度は、触媒1Lあたりのガス供給速度(L/h;0℃、1気圧換算)、すなわちGHSVで表して、通常10〜20000h−1程度である。
【0031】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の各例において、シリカ担持チタニア粉末中のナトリウム含有量は、ICP発光分析装置(日本ジャーレル・アッシュ(株)製、IRIS Advantage)を用いて分析した。
【0033】
実施例1
(担体の成形)
シリカ担持チタニア粉末〔堺化学工業(株)製のSTR−100W、シリカ(SiO)含有量0.5重量%、ルチル型チタニア比率90%以上、ナトリウム含有量0.14重量%〕を空気中、室温から800℃まで3時間かけて昇温した後、同温度で3時間保持して熱処理した。得られた熱処理品100重量部と有機バインダー〔信越化学工業(株)製の65SH−400〕2重量部を混合した。次いで純水30重量部、チタニアゾル〔堺化学工業(株)製のCSB、チタニア含有量40重量%〕12.5重量部を加えて混練した。この混合物を直径3.0mmφのヌードル状に押出し、60℃で2時間乾燥した後、長さ3〜5mm程度に破砕した。得られた成形体を、空気中で室温から600℃まで1.7時間かけて昇温した後、同温度で3時間保持して焼成し、シリカの含有量が0.5重量%である白色のシリカ担持チタニアの成形品〔ルチル型チタニア比率90%以上、比表面積:25m/g〕を得た。
【0034】
(担持酸化ルテニウムの製造)
塩化ルテニウム水和物〔NEケムキャット(株)製のRuCl・nHO、Ru含有量40.0重量%〕0.486gを純水4.56gに溶解して調製した水溶液を上記で得られたシリカ担持チタニアの成形品20.0gに含浸させ、空気雰囲気下、室温で2日間乾燥し、20.6gの茶色の固体を得た。得られた固体20.6gを、空気流通下、室温から300℃まで1.3時間かけて昇温した後、同温度で2時間保持して焼成し、酸化ルテニウムの含有量が1.25重量%である担持酸化ルテニウム20.1gを得た。
【0035】
(担持酸化ルテニウムの初期活性評価)
上記で得られた担持酸化ルテニウム1.0gを、直径2mmのα−アルミナ球〔ニッカトー(株)製のSSA995〕12gで希釈し、ニッケル製反応管(内径14mm)に充填し、さらに反応管のガス入口側に上と同じα−アルミナ球12gを予熱層として充填した。この中に、塩化水素ガスを0.214mol/h(0℃、1気圧換算で4.8L/h)、及び酸素ガスを0.107mol/h(0℃、1気圧換算で2.4L/h)の速度で常圧下に供給し、触媒層を282〜283℃に加熱して反応を行った。反応開始1.5時間後の時点で、反応管出口のガスを30%ヨウ化カリウム水溶液に流通させることによりサンプリングを20分間行い、ヨウ素滴定法により塩素の生成量を測定し、塩素の生成速度(mol/h)を求めた。この塩素の生成速度と上記の塩化水素の供給速度から、下式より塩化水素の転化率を計算し、表1に示した。
【0036】
塩化水素の転化率(%)=〔塩素の生成速度(mol/h)×2÷塩化水素の供給速度(mol/h)〕×100
【0037】
(担持酸化ルテニウムの熱安定性試験)
上記で得られた担持酸化ルテニウム1.2gを、石英製反応管(内径21mm)に充填した。この中に、塩化水素ガスを0.086mol/h(0℃、1気圧換算で1.9L/h)、及び酸素ガスを0.075mol/h(0℃、1気圧換算で1.7L/h)、塩素ガスを0.064mol/h(0℃、1気圧換算で1.4L/h)、水蒸気を0.064mol/h(0℃、1気圧換算で1.4L/h)の速度で常圧下に供給し、触媒層を435〜440℃に加熱して反応を行った。反応開始50時間後の時点で、反応を停止し、窒素ガスを0.214mol/h(0℃、1気圧換算で4.8L/h)の速度で供給しながら冷却した。
【0038】
(熱安定性試験後の担持酸化ルテニウムの活性評価)
上記熱安定性試験に付された担持酸化ルテニウム1.2gのうち、1.0gを分取し、上記初期性能評価と同様の方法で塩化水素の転化率を求め、表1に示した。
【0039】
実施例2
(担体の成形)
シリカ担持チタニア粉末〔堺化学工業(株)製のSTR−100W、シリカ(SiO)含有量0.5重量%、ルチル型チタニア比率90%以上、ナトリウム含有量0.14重量%〕に代えて、シリカ担持チタニア粉末〔堺化学工業(株)製のSTR−100W、シリカ(SiO)含有量2.0重量%、ルチル型チタニア比率90%以上、ナトリウム含有量0.26重量%〕を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で担体の成形を行い、シリカの含有量が2.0重量%である白色のシリカ担持チタニアの成形品〔ルチル型チタニア比率90%以上、比表面積:51m/g〕を得た。
【0040】
(担持酸化ルテニウムの製造と評価)
実施例1と同様に、(担持酸化ルテニウムの製造)、(担持酸化ルテニウムの初期活性評価)、(担持酸化ルテニウムの熱安定性試験)、及び(熱安定性試験後の担持酸化ルテニウムの活性評価)を行い、結果を表1に示した。
【0041】
比較例1
(担体の成形)
特開2004−210586号公報に記載の方法に基づき、塩化チタン279重量部及び塩化ケイ素1.0重量部を熱処理して得られた粉末〔昭和タイタニウム(株)製のF−1S、シリカ含有量0.3重量%、ルチル型チタニア比率38%、比表面積:20m/g〕100重量部と、有機バインダー2重量部〔ユケン工業(株)製のYB−152A〕とを混合し、次いで純水29重量部、チタニアゾル〔堺化学工業(株)製のCSB、チタニア含有量40重量%〕12.5重量部を加えて混練した。この混合物を直径3.0mmφのヌードル状に押出し、60℃で2時間乾燥した後、長さ3〜5mm程度に破砕した。得られた成形体を、空気中で室温から600℃まで1.7時間かけて昇温した後、同温度で3時間保持して焼成し、シリカの含有量が0.3重量%である白色のシリカ担持チタニアの成形品〔ルチル型チタニア比率35%、比表面積:22m/g〕を得た。
【0042】
(担持酸化ルテニウムの製造と評価)
実施例1と同様に、(担持酸化ルテニウムの製造)、(担持酸化ルテニウムの初期活性評価)、(担持酸化ルテニウムの熱安定性試験)、及び(熱安定性試験後の担持酸化ルテニウムの活性評価)を行い、結果を表1に示した。
【0043】
比較例2
(チタニアの成形)
チタニア粉末〔昭和タイタニウム(株)製のF−1R、ルチル型チタニア比率93%〕100重量部と有機バインダー2重量部〔ユケン工業(株)製のYB−152A〕とを混合し、次いで純水29重量部、チタニアゾル〔堺化学(株)製のCSB、チタニア含有量40重量%〕12.5重量部を加えて混練した。この混合物を直径3.0mmφのヌードル状に押出し、60℃で2時間乾燥した後、長さ3〜5mm程度に破砕した。得られた成形体を、空気中で室温から600℃まで1.7時間かけて昇温した後、同温度で3時間保持して焼成した。
【0044】
(チタニア成形体へのシリカの担持)
上記で得られた焼成物の内20.0gに、オルトケイ酸テトラエチル〔和光純薬工業(株)製のSi(OC〕0.36gをエタノール2.90gに溶解して調製した溶液を含浸させ、空気雰囲気下、24℃で15時間乾燥した。得られた固体20.1gを、空気流通下、室温から300℃まで0.8時間かけて昇温した後、同温度で2時間保持して焼成し、シリカの含有量が0.5重量%である白色のシリカ担持チタニアの成形品20.0g〔ルチル型チタニア比率90%以上、比表面積:17m/g〕を得た。
【0045】
(担持酸化ルテニウムの製造と評価)
実施例1と同様に、(担持酸化ルテニウムの製造)、(担持酸化ルテニウムの初期活性評価)、(担持酸化ルテニウムの熱安定性試験)、及び(熱安定性試験後の担持酸化ルテニウムの活性評価)を行い、結果を表1に示した。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニアにシリカが担持されてなり、かつX線回折法により測定されるルチル型チタニアの比率が、ルチル型チタニア及びアナターゼ型チタニアの合計に対し50%以上である粉末状のチタニア担体にルテニウム化合物を担持させた後、酸化性ガスの雰囲気下で焼成する担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項2】
前記チタニア担体を成形した後に前記ルテニウム化合物の担持を行う請求項1に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項3】
前記チタニア担体を熱処理した後に前記成形を行う請求項2に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理を酸化性ガスの雰囲気下に行う請求項3に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理を500〜900℃の温度で行う請求項3又は4に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項6】
前記成形の後に、焼成を行い、次いで前記ルテニウム化合物の担持を行う請求項2〜5のいずれかに記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項7】
前記成形後の焼成を、酸化性ガスの雰囲気下に行う請求項6に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項8】
前記成形後の焼成を、500〜800℃の温度で行う請求項6又は7に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項9】
前記担持酸化ルテニウムにおける酸化ルテニウム/チタニア担体の重量比が、0.1/99.9〜20.0/80.0となるように前記チタニア担体と前記ルテニウム化合物との使用割合を調整する請求項1〜8のいずれかに記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項10】
前記担持酸化ルテニウムにおける酸化ルテニウムの含有量が、前記チタニア担体に含まれるシリカ1モルに対して0.10〜20モルとなるように前記チタニア担体と前記ルテニウム化合物との使用割合を調整する請求項1〜9のいずれかに記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により製造された担持酸化ルテニウムの存在下で、塩化水素を酸素で酸化することを特徴とする塩素の製造方法。

【公開番号】特開2012−35252(P2012−35252A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247226(P2010−247226)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】