説明

拍動型補助循環システム、拍動流発生制御装置及び拍動流発生制御方法

【課題】心機能が低下した患者に施行する補助循環治療において、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、拡張期冠血流増大機能を維持し冠状動脈の血流を増大させ、かつまた、心臓に後負荷を与えることなく心機能の回復を目的とした治療効果を向上する。
【解決手段】拍動型補助循環システム(X)に装置系として包含される拍動流発生制御装置Yが、送血管路(4,6,8) で人工肺5の送出側に設けた電磁弁7と、電磁弁7の開閉動作に係る制御出力をおこなう制御手段11を具備する。制御手段11は、少なくとも遅延回路を有し、遅延検出に基づき電磁弁7を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき開動作駆動してなり、送血を周期的に断続するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心機能が低下した人体(患者に同じ。)に外部接続され脱血管路と送血管路からなる血液循環路と、該血液循環路を補助循環路として使用するため、又は人体と人工肺との間で血液を循環させるための遠心ポンプとを備えた血液循環システムに係り、詳しくは、心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、心疾患治療(補助循環治療)を施行又は推進するようにした拍動型補助循環システム、拍動流発生制御装置及び拍動流発生制御方法に関する。
【0002】
ここで、拍動型補助循環システムは、拍動流発生制御装置を包含する装置系を指称するものとする。
【背景技術】
【0003】
現在、心機能低下に対する治療方法は、その疾患の重症度により様々である。軽症においては、患者の生活指導や、薬剤療法が行われ、重度になるにつれて大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助(以下、PCPS)、補助人工心臓などの高度な治療機器が適用されている。手術時の人工心肺装置まで拡張して血液循環システムを概観するとき、種々の先行技術を参考抽出できる〔例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、7、8及び9を参照〕。
【特許文献1】特開平6−63124号公報
【特許文献2】特開平10−76002号公報
【特許文献3】特表2000−508950号公報
【特許文献4】特表2001−508669号公報
【特許文献5】特開2002−345949号公報
【特許文献6】特開2004−97611号公報
【特許文献7】特開2007−43436号公報
【特許文献8】特開2006−325750号公報
【特許文献9】特開2007−44302号公報
【0004】
こうしたなかで、急性心筋梗塞に伴う心原性ショックや、重度の急性心筋炎などに起因する心機能低下に対して補助循環(PCPSに同じ)は第一選択として数多く使用されている。
【0005】
例えば、種々の原因により心機能低下に至った患者に対して生命維持と心機能回復を目的とした補助循環が施行される場合、その治療期間は患者の状態ならびに治療効果によって決定されるが、一般に心臓手術で使用される人工心肺装置による体外循環(数時間)に比べると長期間に亘る(数日から数週間)。それ故にローラーポンプ方式の人工心肺装置による送血は血球破壊を引き起こすため不向きである。これらの理由から現在の補助循環治療は送血に遠心ポンプを用いるのが一般的である。しかし、患者の心機能が著しく低下している場合には定常流を発生させる遠心ポンプ装置では、全身に拍動流を供給することができないという問題がある(後述)。この状態においては全身への血流は維持されているが、個々の臓器に対する保護作用は不十分な場合が多く、とりわけ心臓においては拡張期冠血流増大(diastlic augmentation)機能による効果は期待できないからである。
【0006】
叙上のとおり、一般的には、遠心ポンプによる送血は無拍動流となる。これに対し、生体は生理的には自己心により拍動流を全身に供給している。その効果は、全身の循環維持のみならず各臓器の保護にとって大変重要な機能である。特に心臓においては、自己の拍動により冠状動脈の血流量を維持する拡張期冠血流増大機能を有しているため拍動流の維持は特に必要となる。
【0007】
しかしながら、現状のPCPSシステムでは自己心の機能が低下した状態での適応である事と、遠心ポンプが拍動流を発生できない事により、定常流での使用を余儀なくされている場合が多い。
【0008】
さらに、定常流による持続灌流は回復過程にある心臓の後負荷を増大させる危険を伴い、その結果心機能回復を目的とした治療において逆効果となる。拍動流については従来、心臓手術の補助手段として用いられる人工心肺装置において、ローラーポンプの回転により発生させる物や、大動脈内バルーンパンピング(IABP)装置に見られる患者の血管内に留置した風船のガスを出し入れすることにより発生させるものがあるが、いずれも適応症状、侵襲、コスト面などに問題があり十分ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、心機能低下の状態に陥った患者に対して行われる補助循環治療において、人工心肺装置のように患者の心停止状態に適応されるものではなく、自己心が拍動している状態で使用するため患者の心臓のリズムに同期させた拍動流を供給しなければならないという点にある。
【0010】
ここでは、同期のタイミングについても従来の除細動装置のように患者の心電R波そのものに同期して駆動するものではなく、心電R波を検知し、所定の時間幅で心電T波の初期に駆動するタイミングを調節できる機能が要請される。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、上記課題を解消し、心機能低下の状態に陥った患者に対して持続的に行われる補助循環治療において、生体に拍動流を提供することにより拡張期冠血流増大機能を維持し冠状動脈の血流を増大させ、かつまた、心臓に後負荷を与えることなく心機能の回復を目的とした治療効果を上昇させることが実現可能な拍動型補助循環システム、拍動流発生制御装置及び拍動流発生制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するために本発明は、心機能が低下した人体(患者に同じ。)に外部接続され、脱血管路と送血管路からなる血液循環路と、該血液循環路を補助循環路として使用するため、又は人体と人工肺との間で血液を循環させるための遠心ポンプとを備えた血液循環システムにおいて、
心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、心疾患治療を施行又は推進するようにした拍動型補助循環システムであって、
送血管路で人工肺の送出側に設けた電磁弁と、
前記電磁弁の開閉動作に係る制御出力をおこなう制御装置と、
前記制御装置に接続され少なくとも心電波形及び圧波形を含む生体信号を計測表示可能な生体信号監視装置を具備するとともに、
前記制御装置が、少なくとも遅延回路を介し、所定時間幅で前記電磁弁を閉動作維持することにより、送血を周期的に断続するための拍動流発生制御手段を有したものであることを特徴とするものである。
【0013】
また、上記血液循環システム又は拍動型補助循環システムにおいて、
心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、補助循環治療を施行又は推進するための拍動流発生制御装置であって、
送血管路で人工肺の送出側に設けた電磁弁と、
前記電磁弁の開閉動作に係る制御出力をおこなう制御手段を具備し、
前記制御手段が、少なくとも遅延回路を有し、遅延検出に基づき前記電磁弁を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき開動作駆動してなり、
送血を周期的に断続するようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
また、拍動型補助循環システムにおける拍動流発生制御方法であって、
患者から採取した心電波形を増幅し、波形整形処理により心電R波形をトリガ検出して遅延回路へ起点入力し、遅延検出に基づき電磁弁を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき前記電磁弁を開動作駆動する制御出力をおこなうことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重篤な心機能低下に至った患者に対しても生理的な拍動流を提供することが可能となり補助循環効果を増大させることができる。
【0016】
具体的には、心機能低下の状態に陥った患者に対して行われる補助循環治療において生体に拍動流を提供することにより拡張期冠血流増大機能を維持し冠状動脈の血流を増大させる。しかも、心拡張期の選択的補助循環が可能となり、結果的に自己心の拡張気圧Pに対してP+ΔPの昇圧効果が期待できるので、その二次的作用によって冠状動脈の血流量増加ならびに心機能の回復を望むことができる。このため、持続的に行われる補助循環治療において、心臓に後負荷を与えることなく心機能の回復を目的とした治療効果を上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良形態は、上記構成の拍動流発生制御装置において、制御手段は、心電波形の増幅回路、波形整形回路、遅延回路、電磁弁電流開閉制御回路を及び電磁弁開閉器を有し、増幅した心電波形から検出した心電R波形を起点入力して遅延検出をおこない、該遅延検出に基づき電磁弁を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき前記電磁弁を開動作駆動する制御出力をおこなうようにしている。
【0018】
また、上記構成の拍動型補助循環システム、拍動流発生制御装置又は拍動流発生制御方法において、所定時間幅が電磁弁操作により送血管路を遮断するための検出・解除をおこなう遅延回路の設定遅延時間であり、該設定遅延時間は、閾値に達した心電R波形を起点として遅延検出し、心電T波形の発生初期を終点として遅延解除するものであり、該遅延解除は大動脈拡張時の特性波形である圧波形のダイクロティックノッチを監視しながら調節可能としている。
【0019】
図1に本発明の拍動型補助循環システムの構成概要説明図を示し、その実施形態を具体的に説明する。
【0020】
図示するように、拍動型補助循環システムXは、患者の心機能が著しく低下した場合に、その機能を代行し生命を維持するとともに心機能の回復を図るものである。
【0021】
手順としては、患者の静脈に留置された脱血管に脱血チューブ2(静脈血送血管に同じ)を接続させて脱血管路を構成し、かつ、患者の動脈に留置された送血管に送血チューブ8(動脈血送血管に同じ)を接続させて送血管路を構成する。
【0022】
遠心ポンプ3の回転により脱血チューブ2〔脱血管路〕に陰圧が生じ患者の静脈血を遠心ポンプ3まで誘導する。そこで陽圧となった静脈血は人工肺5に送られ酸素化され動脈血となり送血チューブ8〔送血管路〕を通り患者へ供給される。
【0023】
この一連の過程において拍動流を発生させるために送血チューブ8〔送血管路〕に小型の電磁弁7を装着し、該送血チューブ8(弾性送血管6を含む)に対し圧閉と開放を繰り返すことにより拍動流を患者に提供する。
【0024】
電磁弁7の駆動の選択は、固定回数仕様(主に緊急時に使用:患者の心電波形の取り込みができない場合)ならびに同期仕様がある。
【0025】
至適には、同期仕様であって、拡張期冠血流増大機能が心臓の拡張期に働くことから心電波形上のT波の初期に電磁弁7による送血チューブ8〔送血管路〕の開放が行われるものである。
【0026】
そのために、心電計13より患者の心電波形を取り込みR波を検知し、デレイタイマー(遅延回路に同じ)を用いて電磁弁の駆動を自己拍動の収縮期及び拡張期に合わせる(同期させる)ように機能構成している。
【0027】
ここで、図2に制御装置の操作系を示すとおり、拡張期冠血流増大機能の効果を発揮させるために、コントロールボックス〔制御装置11〕内には駆動開始スイッチ110 と、心電波形の増幅率を可変調整するための増幅率調節操作手段111 、患者の脈拍数(心拍数)に電磁弁7の駆動回数を合せることを目的としたR波感度調節操作手段112 と、心電波形上のT波の初期に電磁弁7を開動作させ送血チューブ8〔送血管路〕を開放状態にするためのT波遅延調節操作手段113 を設けている。
【0028】
体外循環用の脱血チューブ2及び送血チューブ8(弾性送血管6を含む)は弾性管であって、閉塞や屈曲を防止する目的で比較的高い弾性を有する樹脂製素材、好適には塩化ビニールを用いている。電磁弁7により圧閉されてもスイッチが切れると、その弾性によりすぐに開放状態を復元することができるからである。
【0029】
すなわち、電磁弁7による圧閉とチューブの持つ弾性による開放が連続的に生じ、定常流下で行われている補助循環に対しても生理的な拍動流を提供することを可能とするからである。
【0030】
次に、ディレイタイマー(遅延回路に同じ)の設定について説明する。
【0031】
生理的な循環動態下において、心臓の栄養血管である冠状動脈の血流は、心臓の収縮期に押し流されるのではなく、主に拡張期の陰圧作用によって冠状動脈に引き込まれる形態をとる。
【0032】
従って、心機能の低下した状態では十分な拍動が生ぜずこの拡張期冠血流増大機能が効果的に作用しない場合がある。言い換えれば、心臓の拡張期に選択的に補助循環による血流が提供できれば、拡張期の血圧は上昇しその結果として、冠動脈の血流量は増加し心機能の回復に有効な手段となる。
【0033】
そこで、患者の拡張期に電磁弁7の開放ポイントを合わせるために、患者の心電波形からR波を検出し、T波遅延調節手段113 を用いて患者の拡張期を示すT波の初期に電磁弁7が開放するように設定する。
【0034】
作用を要約すると、補助循環施行時、磁力伝達方式により遠心ポンプ3が回転する。回転により脱血チューブ2〔脱血管路〕側には陰圧が生じ患者の静脈血を導く。静脈血は脱血チューブ2〔脱血管路〕を介して遠心ポンプ3まで引かれ、ここで陽圧に変化し人工肺5へ送られる。
【0035】
人工肺5により酸素化された血液は動脈血となり送血チューブ8〔送血管路〕を通り患者の動脈へ送られる。しかし、遠心ポンプ3は定常流を発生させる装置であって、生理的な生体の拍動流を提供することはできないものである。
【0036】
そこで、送血側に簡易型電磁弁7を装着し、送血チューブ8〔送血管路〕に対し機械的な圧閉と開放を連続的に与えることにより生体に拍動流を与える。
【0037】
電磁弁7はコントロールボックス11で制御され患者の脈拍数(心拍数に心拍数に同じ)に応じて開閉する。
【0038】
至適には、補助循環治療を効果的にするために、患者の心電波形を計測可能であるならばモニターからR波を探知し、心臓の拡張期を示すT波の初期に電磁弁7が開放するように、電磁弁7の圧閉・開放時刻を調節するものとする。
【実施例1】
【0039】
本発明の一実施例である拍動流発生制御装置〔以下、実施例装置。〕について、図面を参照して以下説明する。
【0040】
図3は、実施例装置の構成概要説明図である。
【0041】
図4は、実施例装置の制御手段(手順)を示すフローシート(フローチャート)である
【0042】
図5は、実施例装置における心電波形と電磁弁開閉動作の時間関係を示すタイムチャートである。
【0043】
図示するように、実施例装置Xは、送血管路(8)で人工肺5の送出側に設けた電磁弁7と、
電磁弁7の開閉に係る制御出力をおこなう制御手段11と、
制御手段11に接続され、少なくとも心電波形及び圧波形を含む生体信号を計測表示可能な生体信号監視装置13(図示では心電波形計測装置)を具備し、
制御手段11が少なくとも遅延回路16を介し、所定時間幅で電磁弁7を閉動作維持することにより、送血を周期的に断続するための制御出力をおこなうようにしている。
【0044】
ここで、制御手段11は、心電波形の増幅回路14、波形整形回路15〔R波検出回路及びトリガ発生回路を含む〕、遅延回路16、電磁弁電流開閉制御回路17及び電磁弁開閉器18を有し、増幅した心電波形から波形整形処理により検出した心電R波形22をトリガ入力(起点入力)して遅延検出をおこない、該遅延検出に基づき電磁弁7を閉動作駆動し、かつ、遅延回路16を介して所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき電磁弁7を開動作駆動する制御出力をおこなうものである。
【0045】
所定時間幅は、電磁弁7操作により送血管路8を遮断するための検出・解除をおこなう遅延回路16の設定遅延時間であり、該設定遅延時間は、閾値に達した心電R波形21(22)を起点として遅延検出し、心電T波形の発生初期を終点として遅延解除するものであり、該遅延解除は大動脈拡張時の特性波形である圧波形のダイクロティックノッチ〔図示省略〕を監視しながら調節可能としている。
【0046】
具体的構成を詳説すると、図3に示すとおり、患者Hの右大腿静脈から挿入された脱血管1の先端を大静脈洞又は右心房10に置き、血液を静脈送血管2を通して遠心ポンプ3に導く。遠心ポンプ3へ導かれた血液は、血液が接する回転体の回転により遠心力を受け、連結管4を通り、人工肺5に導かれる。人工肺5で酸素が付加された血液は弾性送血管6に送られ電磁弁7の弁開閉口を通り、動脈血送血管8を経て患者の左大腿動脈9に戻される。電磁弁7の開閉は拍動流発生制御手段11により制御される。心電波形測定電極12a,12b,12cで得られた心電波形(20)は心電波形計測装置13に送られた後、その信号はモニター画面に心電波形(20)を描画すると同時に拍動流発生制御手段11にも送られる。拍動流発生制御手段11では心電波形(20)から心室収縮期信号であるR波22(21)を検出し、その検出した時刻から心室収縮期間に相当する時間ΔTの間、電磁弁7を閉じることにより動脈血送血管8を通した送血を止める。ΔTの期間が過ぎると、電磁弁7は開き動脈血送血管8を通して再び送血を始める。この電磁弁7の開閉によって送血されている時間はちょうど心室の拡張期にあたり、拡張期冠血流増強効果が期待できる。
【0047】
図4及び図5に示すとおり、拡張期冠血流増強効果を発揮するためには、R波22に始まりT波の始まりの直前までの心室収縮期には拍動流発生制御手段11を介した血流を止め、収縮期の終了とともにこの血流を拍動流発生制御手段11を通して送る。そのため、心電波形20を適当な電圧に増幅する増幅器14に心電波形計測装置13からの信号を入力し増幅する。この増幅器14の出力信号(20)からR波22(21)を検出するため、波形整形回路15へ増幅された信号20を入力する。心電波形信号20にR波閾値21を適当に設定することによりR波22の開始時期を決定しその時刻を起点とするR波22の時間幅に相当するトリガ波形23を発生する。このトリガ波形23を開始時期として遅延回路16では時間幅可変のΔT24のパルス信号(25)を出力する。この遅延回路16からのパルス信号(25)の時間幅ΔT24は、電磁弁電流開閉制御回路17に入力される。電磁弁電流開閉制御回路17はこのΔT24の期間、電磁弁遮断器18に電流を通すことによって電磁弁7を閉じる。電磁弁7が閉じると、血液が流れる弾性送血管6が圧閉され血流はΔT24の期間遮断する。ΔT24の期間は心筋収縮期であり、この期間が終わると電磁弁7は開き、弾性送血管6を通して血液は再び流れる。この血流が送られる期間が心室拡張期となる。この動作を繰り返すことにより拡張期冠血流増強効果が発揮される。なお、図5中に示した符号24の「ΔT(電磁弁電流導通時間幅;設定遅延時間)」と符号25の「電磁弁への電流導通時間(パルス信号)」は、互換的に理解されたい。
【0048】
以下に、動作概略を述べる。
【0049】
患者Hの大腿静脈から脱血した血液は脱血管路(1,2)を通って遠心ポンプ3に送られる。遠心ポンプ3では血液に接する回転体の回転により、血液は遠心力を得、その力により人工肺5(酸素付加器)へ送られる。人工肺5で酸素化された血液は弾性送血管6を通じ、電磁弁7開閉口を通り、患者Hの大腿動脈9へ戻される。この際、電磁弁7の開閉、言い換えれば、送血管8の圧閉と開放を通じて送血の停止と導通が生じ、その結果拍動流が得られる。この拍動流を生じさせる時間関係は、心電波形20のR波22の立ち上がりを起点とし心室収縮期終了までの時間ΔT24(25)の間は血流を遮断し、他の期間は送血するような関係である。この拍動流発生を実現するための拍動流発生制御手段11は、心電波形20の増幅回路14、R波検出回路とそのR波22(21)を起点とするトリガ(パルス)発生回路を含む波形整形回路15、トリガ入力を受けてΔTの時間幅24を持つパルスを発生する遅延パルス発生回路16(遅延回路)、その遅延回路16からのパルスを受けて電磁弁7への電流を導通または遮断する電磁弁遮断器18、(及び電磁弁7)からなる。実際には、ΔT(24)のパルス発生期間中(25)には電磁弁7への電流を導通させることにより、電磁弁7を閉じ、よって送血管8を圧閉し血流を遮断する。心拍の1周期のうちΔT24の間だけ血流を遮断し、他の期間は血流を患者の大腿動脈9を通じて送る。この血液を送る期間は、心室の拡張期にあたり、拡張期冠血流増強効果を発揮することができ、患者心筋の回復に寄与する。
【0050】
なお、ここで述べた拍動流は、患者Hの自己心による拍動流に重畳して流れる血液を発生させるものであって、自己心の拡張期にあたる血圧の低下時に付加的に血圧を上げて、冠状動脈への血液流通を促し、もって拡張期冠血流増強効果を発揮させることを目的とし、患者心臓が心疾患のため十分な拡張期血圧が得られない場合に、その効果を発揮し、心臓の回復を促すものである。
【0051】
また、ここで述べた電磁弁7は、電磁弁7を駆動するコイルに電流が流れている間だけ弁が閉じ、電流が流れていない期間は弁には圧力が発生せずしたがって弾性管(弾性送血管6)の復元力によって弁は開放される。弾性管を用いるのはこのような理由による。
【0052】
図5中の増幅器14は心電波形を増幅する増幅器であって、増幅率は可変である(図2中の増幅率調節操作手段111)。この増幅器は演算増幅器を用いて容易に実現できる。心電波形電圧の大きさには個人差があり、これを調節し以後の処理を容易にするため、この増幅器14を用いて波形整形回路15への入力波形R波22(21)が十分大きくなるよう調節する。
【0053】
波形整形回路15はR波22を検出し、遅延回路16への入力パルスを発生させる回路であって、比較器回路(R波検出回路に同じ)を用いて実現できる。R波22は患者Hによりピーク電圧値が異なるので、効率よくR波22を検出できるよう閾値21は自由に設定できる(図2中のR波感度調節操作手段112)。
【0054】
波形整形回路15から出力された遅延回路16への入力パルスは、遅延回路16を用いて時間幅ΔT24(25)の遅延パルスに変換される(図2中のT波遅延調節操作手段113)。この心臓収縮期間をあらわす時間幅ΔT24(25)は患者Hの心拍周期Tに依存し、また個人差があるため時間幅25を人為的に変えられるようになっている。この遅延回路16を実現する方法は種々考えられるが、たとえばIC素子であるタイマー555を用いて実現できる。
【0055】
電磁弁7の動作には、たとえば15W以上の電力が必要なため、24V直流電源から0.6A以上の電流を電磁弁7に供給しなければならない。このためこの電流の導通と遮断を制御するためリレー素子(電磁弁遮断器18)を利用する。リレー(18)はスイッチの一種であり、リレー(18)の開閉をΔT(24)のパルス(25)が行う。ΔTの時間幅(24)の間リレー(18)は閉じ、リレー(18)が閉じている間、電磁弁7には電流が供給されて、補助血流〔本装置Y(X)を用いて得られる拍動血流〕を供給するチューブ6が圧閉され補助血流を遮断する。
【0056】
ΔT(24)のパルス(25)の入力がなくなると、リレー(18)は遮断され電磁弁7への電流は供給をやめ、圧閉されていた動脈血送血管8は開き、補助血液は患者Hの大動脈9へ送り込まれる。この期間が心臓拡張期であり、拡張期冠血流増強効果が発揮される。
【0057】
拍動流発生制御手段11には、患者Hの心拍周期や心臓収縮期間さらに心電波形20の変化に応じて、拍動流発生制御手段11の応答が適正になるよう、心電波形20の増幅率、R波検出閾値21、心臓収縮期間ΔT24(25)が適切に設定できるようになっている〔先述のコントロールボックスの操作系111;112;113 に同じ〕。
【0058】
叙上のとおり、本発明は、心臓治療における補助循環施行時に、機器的手段により生体に対し生理的拍動流を提供するものであり、治療効果の上昇が期待できる点で、斯界への貢献は大である。
【実施例2】
【0059】
また、本発明システム(拍動流発生制御装置を含む)の臨床効果を動物実験により検証した。
【0060】
〔実験目的〕は、現在、急性期の心機能低下に対する治療方法として経皮的心肺補助法(PCPS)が第一選択として数多く使用されている。しかしながら、通常のPCPSシステムは様々な有意性から遠心ポンプを用いる。さらに、自己心の機能が低下した状態での適応であることから、十分な拍動流が得られず、定常流の状態で補助循環が維持されている場合がある。そこで、本発明構成では、簡易電磁弁を用いた心電図同期可能な拍動流を発生する装置(拍動流発生制御装置に同じ)を開発し、その機能性及び安全性について検証を行ったものである。
【0061】
〔実験方法〕被験体として白ウサギ(オス; 2.5-3.0kg,n [被験体の数] =3) を使用した。
【0062】
図6に、この実験での本発明システム(拍動流発生制御装置を含む)の回路構成説明図を示す。図中の英文表記は、それぞれ以下のとおりである。
venous line from the right artrium: 右心房からの脱血(静脈)管路
arterial line to left carotid,A: 左総頚動脈への送血(動脈)管路
centrifugal pump :遠心ポンプ
oxygenerator:人工肺
pulsatile generator :拍動流発生装置
control unit:制御装置
EKG monitor :心電計
【0063】
そこで、各例(被験体)についてそれぞれ12時間の補助循環を行い、心電図の拡張期に同期させて流量制御をおこなった。実験中、CPK−MB分画(クレアチニンホスホキナーゼMB分画)を定期的に測定し心機能評価を行った。図7はCPK−MB値の変化(推移)を示すデータプロットである。
【0064】
〔実験結果及び考察〕実験終了後、3時間と6時間連続駆動させた部位において、拍動流発生装置の電磁弁による圧閉部位における電子顕微鏡写真を撮影し(添付を省略する)、駆動部位における回路(チューブ)内表面の損傷評価をおこなったところ、損傷はみられず、安全性について問題はないことが確認された。
【0065】
実験結果に関し、全例において心電図同期が可能であり拡張期圧の上昇を確認することができた。このことにより、心機能の改善にも有用であることが示唆される。
【実施例3】
【0066】
さらに、本発明システム(拍動流発生制御装置を含む)の適用範囲は上記実施例1、2に留まらず汎用性がある。例えば、通常の心臓手術に用いられる心筋保護注入法においても心筋保護液供給時に生理的な流体特性である拍動流状態を容易に発生させることができる。
【0067】
〔実験目的〕そこで、拍動流発生制御装置を組み込んだ心筋保護実験回路を形成し、拍動流心筋保護の流体特性を検証した。
【0068】
〔実験方法〕市販の心筋保護回路に容量2.0mlのピローを装着し、本発明の拍動流発生装置を駆動させ、ピローの前(A) 後(B) で最高圧/最低圧を測定した。流体には市販の心筋保護液(セント・トーマスII液)を使用した。
【0069】
図8に、拍動流心筋保護実験回路の構成説明図を示す。図中の英文表記は、それぞれ以下のとおりである。
cardioplegia reserver:貯血槽
roller pump:ローラーポンプ
pillow:ピロー
pulsatile generator :拍動流発生装置
control unit:制御装置
【0070】
〔実験結果及び考察〕表1に示す測定結果は、10回の計測血の平均値であり、小数点以下は切捨てとした。なお、表1の(a)は対照データであって定常流(拍動流発生装置OFF)の場合を示すものである。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示されるとおり、ローラーポンプによる通常の心筋保護システムにおいても、20mmHgの脈圧を確認することができた(a)。一方、本発明構成の適用した拍動型心筋保護注入法では、最大で50mmHgの脈圧を発生させることが可能であった(b)。また、駆動中に回路内において気体の発生は見られなかったことから、本発明が心筋保護注入法においても適用可能であることが認められた。
【0073】
この実験的事実から理解されるように、心筋保護液供給時に本発明手法を適用すれば、心筋保護効果の向上に寄与することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、心機能低下に対して施行される補助循環治療において、心電図に同期させた生理的拍動流を供給することが可能である。
【0075】
また、通常の心臓手術時においても、従来的には心停止の状態で可能であった拍動流の供給を、体外循環の循環中を通して可能とするものである。
【0076】
さらに、現在定常流で行われている心筋保護法や、胸部大動脈瘤の治療において行われている脳分離体外循環(slective cerebral perfusion )に関しても生理的拍動流を供給することが可能であり、心筋保護や脳保護の観点からも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の拍動型補助循環システムの構成概要説明図である。
【図2】同じくコントロールボックス〔制御装置〕の操作系を示す説明図である。
【図3】実施例装置(拍動流発生制御装置)の構成概要説明図である。
【図4】実施例装置(拍動流発生制御装置)の制御手段(手順)を示すフローシート(フローチャート)である。
【図5】実施例装置(拍動流発生制御装置)における心電波形と電磁弁開閉動作の時間関係を示すタイムチャートである。
【図6】実施例2記載の本発明システム(拍動流発生制御装置を含む)の回路構成説明図である。
【図7】同じく実験結果であるCPK−MB値の変化(推移)を示すデータプロットである。
【図8】実施例3記載の拍動流心筋保護実験回路を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0078】
1 脱血口つき送血管〔脱血管路〕
2 静脈血送血管〔脱血管路〕
3 遠心ポンプ
4 連結管〔送血管路〕
5 人工肺(酸素付加器)
6 弾性送血管〔送血管路〕
7 電磁弁
8 動脈血送血管〔送血管路〕
9 左大腿動脈
10 大静脈洞又は右心房
11 制御装置(拍動流発生制御手段;制御手段)
110 駆動開始スイッチ
111 増幅率調節操作手段
112 R波感度調節操作手段
113 遅延調節操作手段
12a 心電波形測定電極
12b 心電波形測定電極
12c 心電波形測定電極
13 心電波形計測装置〔生体信号監視装置〕
14 増幅器(増幅回路)
15 波形整形回路
16 遅延回路
17 電磁弁電流開閉制御回路
18 電磁弁遮断器(リレー)
20 心電波形
21 R波検出用閾値(電圧)
22 R波
23 波形整形回路出力波形
24 ΔT(電磁弁電流導通時間幅;設定遅延時間)
25 電磁弁への電流導通時間(パルス信号)
26 電磁弁開閉の時間推移

H 患者
X 拍動型補助循環システム
Y 拍動流発生制御装置〔実施例装置〕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能が低下した人体(患者に同じ。)に外部接続され、脱血管路と送血管路からなる血液循環路と、該血液循環路を補助循環路として使用するため、又は人体と人工肺との間で血液を循環させるための遠心ポンプとを備えた血液循環システムにおいて、
心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、心疾患治療を施行又は推進するようにした拍動型補助循環システムであって、
送血管路で人工肺の送出側に設けた電磁弁と、
前記電磁弁の開閉動作に係る制御出力をおこなう制御装置と、
前記制御装置に接続され少なくとも心電波形及び圧波形を含む生体信号を計測表示可能な生体信号監視装置を具備するとともに、
前記制御装置が、少なくとも遅延回路を介し、所定時間幅で前記電磁弁を閉動作維持することにより、送血を周期的に断続するための拍動流発生制御手段を有したものであることを特徴とする拍動型補助循環システム。
【請求項2】
所定時間幅が電磁弁操作により送血管路を遮断するための検出・解除をおこなう遅延回路の設定遅延時間であり、該設定遅延時間は、閾値に達した心電R波形を起点として遅延検出し、心電T波形の発生初期を終点として遅延解除するものであり、該遅延解除は大動脈弁閉鎖時の特性波形である圧波形のダイクロティックノッチを監視しながら調節可能とするものである請求項1記載の拍動型補助循環システム。
【請求項3】
心機能が低下した人体(患者に同じ。)に外部接続され、心電波形および/または圧波形を計測可能で画像表示出力可能な生体信号監視装置と、脱血管路と送血管路からなる血液循環路と、該血液循環路を補助循環路として使用するため、又は人体と人工肺との間で血液を循環させるための遠心ポンプとを備えた血液循環システムにおいて、
心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、補助循環治療を施行又は推進するための拍動流発生制御装置であって、
送血管路で人工肺の送出側に設けた電磁弁と、
前記電磁弁の開閉動作に係る制御出力をおこなう制御手段を具備し、
前記制御手段が、少なくとも遅延回路を有し、遅延検出に基づき前記電磁弁を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき開動作駆動してなり、
送血を周期的に断続するようにしたことを特徴とする拍動流発生制御装置。
【請求項4】
制御手段が、心電波形の増幅回路、波形整形回路、遅延回路、電磁弁電流開閉制御回路及び電磁弁開閉器を有し、
増幅した心電波形から検出した心電R波形を起点入力して遅延検出をおこない、該遅延検出に基づき電磁弁を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき前記電磁弁を開動作駆動するための制御出力をおこなうものである請求項3記載の拍動流発生制御装置。
【請求項5】
所定時間幅が電磁弁操作により送血管路を遮断するための検出・解除をおこなう遅延回路の設定遅延時間であり、該設定遅延時間は、閾値に達した心電R波形を起点として遅延検出し、心電T波形の発生初期を終点として遅延解除するものであり、該遅延解除は大動脈弁閉鎖時の特性波形である圧波形のダイクロティックノッチを監視しながら調節可能とするものである請求項3又は4記載の拍動流発生制御装置。
【請求項6】
心機能が低下した人体(患者に同じ。)に外部接続され、脱血管路と送血管路からなる血液循環路と、該血液循環路を補助循環路として使用するため、又は人体と人工肺との間で血液を循環させるための遠心ポンプとを備えた血液循環システムにおいて、
心電波形および/または圧波形の計測に基づき、患者の自己拍動における収縮期及び拡張期に同期した拍動流を発生させることにより、心疾患治療を施行又は推進するようにした拍動流発生制御方法であって、
患者から採取した心電波形を増幅し、波形整形処理により心電R波形をトリガ検出して遅延回路へ起点入力し、遅延検出に基づき電磁弁を閉動作駆動し、かつ、所定時間幅で閉動作維持し、遅延解除に基づき前記電磁弁を開動作駆動する制御出力をおこなうことを特徴とする拍動流発生制御方法。
【請求項7】
所定時間幅が電磁弁操作により送血管路を遮断するための検出・解除をおこなう遅延回路の設定遅延時間であり、該設定遅延時間は、閾値に達した心電R波形を起点として遅延検出し、心電T波形の発生初期を終点として遅延解除するものであり、該遅延解除は大動脈弁閉鎖時の特性波形である圧波形のダイクロティックノッチを監視しながら調節可能とするものである請求項6記載の拍動流発生制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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