説明

拡散層の切断方法およびその方法を用いて製造される膜電極接合体

【課題】膜電極接合体30の連続体を切断装置側に生じる損傷を少なくした状態で確実に切断する。
【解決手段】長尺状の電解質膜シート1の両面に所定の間隔をおいて触媒層2を積層し、一方側に触媒層2を覆う大きさに切断した拡散層21を積層する。他方側には複数個の触媒層2・・を覆うようにして長尺状の拡散層シート20bを積層する。電解質膜シート1の一方の面側における拡散層21の存在しない領域25から切断刃41をアンビルローラ43に向けて差し込んで電解質膜シート1と長尺状の拡散層シート20bとを切断する。その際に、切断刃41の先端がアンビルローラ43に衝接しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池で用いる拡散層の切断方法と、その切断方法を用いて製造される膜電極接合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺状の電解質膜シートの両面に所定の間隔をおいて触媒層を積層したシート材を移動させながら、その両側に所定の大きさに切断した拡散層をホットプレス等により順次積層することにより、長尺状の電解質膜シートを繋ぎ材とした膜電極接合体の連続体を製造することが知られている(例えば、特許文献1等参照)。この連続体における隣接する膜電極接合体間に存在する電解質膜シートを適宜の切断装置で切断することにより、個々に分離した膜電極接合体が得られる。
【0003】
また、前記特許文献1には、ロータリーカッターとアンビルとを備えた切断装置を用いて、長尺状の拡散層シートから所定の大きさに拡散層を連続的に切断していくことも記載されており、そこにおいて、切断後に触媒層と接することとなる面側から拡散層シートに切断装置の切断刃を差し込むことによって、拡散層シートから1枚1枚の拡散層を切り出すようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−135655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のようにして、長尺状の拡散層シートから拡散層を切り出すことにより、切断時に生じるバリは、膜電極接合体としたときに電解質膜側とは反対側に向けて生じるので、積層時に拡散層が電解質膜に対してダメージを与えることが回避できる。しかし、ロータリーカッターが、膜電極接合体としたときに電解質膜と接する面側、すなわち発電面となる側に位置しているので、ロータリーカッターの他の部位(例えば切断刃を支持する部材等)が切断面に接触して、発電面を切断粉等の異物で汚染させる恐れがある。このことは製造される膜電極接合体の性能低下を招く。
【0006】
また、連続体から個々の膜電極接合体に分離するときに、隣接する膜電極接合体間に存在する電解質膜シートを切断する必要があるが、電解質膜はきわめて薄いものであり、かつ延性材であることから、ロータリーカッターとアンビルとを備えた切断装置によって連続的に切断していくことが困難であり、精緻な切断制御を行わないと、カッター刃やアンビルに損傷が生じる。
【0007】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、触媒層と接することとなる面を汚染させることなく、拡散層を拡散層シートから切り出すことのできる拡散層の切断方法を開示することを第1の課題とする。また、膜電極接合体の連続体を切断装置側に生じる損傷を少なくした状態で切断して、個々の膜電極接合体に分離できるようにした膜電極接体の製造方法および膜電極接合体を開示することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記第1の課題を解決するための本発明による拡散層の切断方法は、燃料電池用の拡散層シートから切断装置を用いて所要の大きさの拡散層を切断する方法であって、燃料電池に組み込んだときに燃料電池の触媒層と接することとなる面から切断装置の切断刃を差し込むとともに、切断装置の切断刃以外の部分が該切断面側に接しないようにして切断することを特徴とする。
【0009】
上記の切断方法では、切断後の拡散層にバリが形成される場合、それは触媒層と接することとなる面とは反対側の面に形成されるので、切断された拡散層を、膜電極接合体とすべく触媒層の上に積層するときに、触媒層あるいは電解質膜に損傷を生じさせることはない。また、切断時に、切断刃が差し込まれる側の面、すなわち触媒層と接することとなる面は、切断刃以外の切断装置の部分が接することはないので、発電面が汚染されることもない。それにより、高性能の膜電極接合体を得ることができる。
【0010】
前記第2の課題を解決するための本発明による膜電極接合体は、触媒層と拡散層が順次積層されてなる積層体が電解質膜の両面に接合されてなる膜電極接合体であって、一方の拡散層の外縁は電解質膜の外縁よりも内側に位置しており、他方の拡散層の外縁は電解質膜の外縁とほぼ同じ位置に位置していることを特徴とする。
【0011】
また、前記第2の課題を解決するための本発明による膜電極接合体の製造方法は、前記膜電極接合体の製造方法であって、長尺状の電解質膜シートの両面に所定の間隔をおいて触媒層を積層する工程と、電解質膜シートの一方の面にそこに積層した触媒層を覆うようにして所定の大きさに切断した拡散層を積層する工程と、電解質膜シートの他方の面にそこに積層した複数個の触媒層を覆うようにして長尺状の拡散層シートを積層する工程と、電解質膜シートの前記一方の面側における拡散層の存在しない領域から切断装置の切断刃を差し込んで電解質膜シートと電解質膜シートの前記他方の面に積層した長尺状の拡散層シートとを切断する工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0012】
上記の膜電極接合体の製造方法では、長尺状の電解質膜シートに形成された膜電極接合体の連続体から個々の膜電極接合体に分離するときに、従来のように電解質膜だけでなく、電解質膜とその裏面に積層した拡散層とを同時に、かつ電解質膜側から切断刃を押し入れて切断するので、延性材である電解質膜を確実に切断することができる。また、切断厚みが拡散層分だけ厚くなるので、切断刃の先端と例えばアンビルである刃受け台とが衝接しないように制御するのも容易となり、切断装置側の損傷も低減することができる。切断刃の先端が刃受け台と衝接しない位置、すなわち拡散層を数μm残した位置まで食い込ませて切断を行っても、拡散層は脆性材料であり、その切断部位から個々の膜電極接合体として確実に分離することができる。
【0013】
上記の膜電極接合体の製造方法において、好ましくは、電解質膜シートの一方の面に積層する所定の大きさに切断した拡散層を製造する方法として、上記した拡散層の切断方法を用いるようにする。この態様では、前記した理由から、高性能の膜電極接合体を得ることができる。
【0014】
上記の製造方法により製造される前記した本発明による膜電極接合体は、外縁が厚さの薄い電解質膜だけでなく、比較して厚さの厚い拡散層と電解質膜との積層体で形成されるので、膜電極接合体のハンドリングや位置決め等が容易となる利点がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒層と接する面を汚染させることなく拡散層を拡散層シートから確実に切り出すことができる。また、膜電極接合体の連続体から切断装置側の損傷を少なくした状態で1つ1つの膜電極接合体として切断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は、本発明による拡散層の切断方法および膜電極接合体の製造方法により切断された拡散層および個々に切断された膜電極接合体を製造するプロセスの一例を示す概略図である。図2は本発明による拡散層の切断方法を説明するための図であり、図3は切断された拡散層を用いて膜電極接合体とするときの状態を説明する図である。図4は連続している膜電極接合体を個々に切断するときの状態を説明する図であり、図4(a)は切断中の状態を、図4(b)は切断後の状態を示している。
【0017】
図1において、1は、電解質樹脂(イオン交換樹脂)のであるパーフルオロスルホン酸ポリマー等である長尺状の電解質膜シートであり、図示しないローラから巻き出される。電解質膜シート1の両面には、従来知られた方法により、触媒層2,2が所定の間隔をおいて積層され、それが拡散層積層ゾーン10に連続して送り込まれる。
【0018】
拡散層積層ゾーン10は、対向し定置する一対の加熱ローラ11a,11bを備え、2つの加熱ローラ11a,11b間を、前記触媒層2,2を積層した電解質膜シート1が通過する。一方の加熱ローラ11aには巻き出しローラ12aから従来知られた長尺状の拡散層シート20aが送り込まれ、同様に、他方の加熱ローラ11bには巻き出しローラ12bから長尺状の拡散層シート20bが送り込まれる。
【0019】
一方の加熱ローラ11aには、ロータリーカッター13が対向して配置しており、加熱ローラ11aは、切断時でのロータリーカッター13に対するアンビルローラ(刃受け台)として機能する。図示されるように、ロータリーカッター13により長尺状の拡散層シート20aから所定の大きさに切断された拡散層21は、切断刃が差し込まれた側の面、すなわち切断面側を外側して加熱ローラ11aに乗って図で矢印方向に移送され、前記切断面側が前記触媒層2に対向する面となった状態で、触媒層2に加熱圧着により積層される。
【0020】
図2は、本発明の方法により拡散層シート20aから拡散層21を切り出すときの状態を説明している。なお、図2に示す例で、図で上面側が膜電極接合体とするときに触媒層と接することとなる面であり、ここでは、その面に導電性材料であるカーボン粒子と撥水剤して機能するPTFEからなるペースト22を塗布されている。なお、このペースト22は省略してもよい。図2において、13pは、図1に示したロータリーカッター13におけるカッター本体部分の一部を示し、前記カッター本体部分13pに切断刃14が取り付けてある。切断板14は矩形状をなすように取り付けてあり、それにより、矩形状の拡散層21が切り出される。また、11apは、図1に示したアンビルローラとして機能する加熱ローラ11aの一部を示している。
【0021】
切断に当たっては、図示のように、切断刃14は、拡散層シート20aのペースト22を塗布した面から差し込まれる。また、ロータリーカッター13と加熱ローラ11aとの軸間距離、およびロータリーカッター13に取り付けられる切断刃14の高さは、切断刃14の先端が加熱ローラ11aの表面には衝接せず、かつロータリーカッター13における切断刃14以外の部分が拡散層シート20aのペースト22を塗布した面に接しないように、セッティングされる。すなわち、切断時に、拡散層シート20aのペースト22を塗布した面とカッター本体部分13pとの間には、僅かな隙間sを保持した状態が維持される。
【0022】
それにより、切断時に拡散層シート20aのペースト22を塗布した面にロータリーカッター13に起因するコンタミが付着して汚染するのを阻止することができ、同時に、切断刃14およびアンビルとして機能する加熱ローラ11aの損傷も低減できる。切断刃14の先端が加熱ローラ11aと衝接しない位置、すなわち拡散層シート20aを数μm残した位置まで食い込ませて切断を行っても、拡散層シート20aは脆性材料であり、その切断部位から容易に拡散層21を分離することができる。
【0023】
図3は、図2に示すようにした切断されて拡散層21が、電解質膜1上に形成された触媒層2に積層される状態を示している。図示のように、拡散層21を切り出すときに生じるこのとあるバリ23は、触媒層2の側とは反対側に形成されており、積層時に、電解質膜1あるいは触媒層2がバリにより傷つけられることはない。また、前記のように、拡散層21のペースト22を塗布した面(発電面側)が汚染されていないので、高い性能の膜電極接合体が得られる。
【0024】
再び、図1に戻る。前記したように、他方の加熱ローラ11bには巻き出しローラ12bから長尺状の拡散層シート20bが送り込まれており、拡散層シート20bはそのままの状態で、電解質膜シート1の他方の面に積層した複数個の触媒層2・・を覆うようにして積層され、加熱圧着される。それにより、図1に示すように、長尺状の電解質膜シート1を繋ぎ材として、複数の膜電極接合体30・・が連続した形で作られる。そして、電解質膜シート1の一方の面側には、拡散層21の存在しない領域25が形成される。
【0025】
複数の膜電極接合体30・・が連続した形で形成されている電解質膜シート1は、切断ゾーン40に送られる。切断ゾーン40は、切断刃41を備える第2のロータリーカッター42と、ロータリーカッター42に対向する位置に設けられるアンビルローラ43とを備える。図示のように、第2のロータリーカッター42は、拡散層21が積層されている側に位置しており、アンビルローラ43は長尺状の拡散層シート20bが積層されている側に位置している。
【0026】
電解質膜シート1が第2のロータリーカッター42とアンビルローラ43の間に送り込まれると、切断刃41は、電解質膜シート1の一方の面側における拡散層21の存在しない領域25から、電解質膜シート1に向けて差し込まれ、電解質膜シート1と電解質膜シート1の他方の面に積層した長尺状の拡散層シート20bとを切断する。
【0027】
図4(a)に示すように、その際に、第2のロータリーカッター42とアンビルローラ43との軸間距離を、切断刃41の先端がアンビルローラ43の表面に衝接せず、拡散層シート20bを数μm残した位置まで食い込ませるように、調整しておく。それにより、延性材である電解質膜シート1を確実に切断することができ、同時に、切断刃41の先端やアンビルローラ43が損傷するのも防止することができる。前記したように、拡散層シート20bを数μm残した位置まで食い込ませて切断を行っても、拡散層シートは脆性材料であり、図4(b)に示すように、その切断部位から個々の膜電極接合体30として確実に分離することができる。
【0028】
そして、切断された膜電極接合体30は、一方の拡散層21の外縁は電解質膜1の外縁よりも内側に位置しており、他方の拡散層20bの外縁は電解質膜1の外縁とほぼ同じ位置に位置しており、外縁が厚さの薄い電解質膜1だけでなく、比較して厚さの厚い拡散層20bと電解質膜1との積層体で形成されるので、膜電極接合体30のハンドリングや位置決め等が容易となる利点がある。また、図4(b)に示すように、切断時に生じることのあるバリ23は膜電極接合体30の外側に向けて形成されるので、電解質膜1が傷つくこともない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による拡散層の切断方法および膜電極接合体の製造方法により切断された拡散層および個々に切断された膜電極接合体を製造するプロセスの一例を示す概略図。
【図2】本発明による拡散層の切断方法を説明するための図。
【図3】切断された拡散層を用いて膜電極接合体とするときの状態を説明する図。
【図4】連続している膜電極接合体を個々に切断するときの状態を説明する図であり、図4(a)は切断中の状態を、図4(b)は切断後の状態を示している。
【符号の説明】
【0030】
1…電解質膜シート、2…触媒層、10…拡散層積層ゾーン、11a…アンビルローラとしても機能する加熱ローラ,11b…加熱ローラ、13…ロータリーカッター、14…切断刃、20a、20b…長尺状の拡散層シート、21…所定の大きさに切断された拡散層、22…ペースト、23…バリ、30…膜電極接合体、25…拡散層の存在しない領域、40…切断ゾーン、41…切断刃、42…第2のロータリーカッター、43…アンビルローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の拡散層シートから切断装置を用いて所要の大きさの拡散層を切断する方法であって、燃料電池に組み込んだときに燃料電池の触媒層と接することとなる面から切断装置の切断刃を差し込むとともに、切断装置の切断刃以外の部分が該切断面側に接しないようにして切断することを特徴とする拡散層の切断方法。
【請求項2】
触媒層と拡散層が順次積層されてなる積層体が電解質膜の両面に接合されてなる膜電極接合体であって、一方の拡散層の外縁は電解質膜の外縁よりも内側に位置しており、他方の拡散層の外縁は電解質膜の外縁とほぼ同じ位置に位置していることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項3】
請求項2に記載の膜電極接合体の製造方法であって、
長尺状の電解質膜シートの両面に所定の間隔をおいて触媒層を積層する工程と、
電解質膜シートの一方の面にそこに積層した触媒層を覆うようにして所定の大きさに切断した拡散層を積層する工程と、
電解質膜シートの他方の面にそこに積層した複数個の触媒層を覆うようにして長尺状の拡散層シートを積層する工程と、
電解質膜シートの前記一方の面側における拡散層の存在しない領域から切断装置の切断刃を差し込んで電解質膜シートと電解質膜シートの前記他方の面に積層した長尺状の拡散層シートとを切断する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
電解質膜シートの一方の面に積層する所定の大きさに切断した拡散層を製造する方法として、請求項1に記載の拡散層の切断方法を用いることを特徴とする請求項3に記載の膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−258097(P2008−258097A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101695(P2007−101695)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】