説明

持針器

【課題】 煩雑な操作を必要とせずに糸を簡便に保持および開放することができ、持針器の振り角が小さくても、体内外を問わず簡便で、迅速な器械結紮を行うことができる持針器を提供する。
【解決手段】 長尺な持針器本体(11)と、その先端側に回動把持部材(12A)と固定把持部材(12B)とを備えた把持部材が配設され、回動把持部材が軸支回動可能とされることで開閉自在な把持部(12)と、持針器本体の基端側にあって把持部の開閉操作を可能とする操作部(13)を有する持針器(1)において、把持部を構成する回動把持部材の基端部に糸収容部(2)が設けられ、把持部の閉状態において前記糸収容部は開口されて糸が収容可能とされ、把持部の開状態において回動把持部材の回動にともない糸収容部の開口が縮小され、収容された糸が脱離せずに糸保持空間(X)に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術に用いられる縫合糸や針付糸等の糸を保持および開放することのできる持針器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の腹腔鏡下手術等をはじめとする手術に用いる持針器は、一般的に、長尺な持針器本体と、持針器本体の先端側に縫合糸や針付糸等を把持する開閉自在な把持部を具備し、持針器本体の基端側(術者の手元側)に把持部を開閉操作する、たとえば、ハンドル状の操作部を具備した構成となっている。
【0003】
また、たとえば、以上のような構成を有するとともに、持針器本体の外周面上に、糸や針付糸を固定するための引掛片等からなる糸固定手段が設けられている持針器が提案されている(特許文献1)。
【0004】
そして、これら従来の持針器を用いた器械結紮は、図4に例示したように、たとえば、2つの持針器A,Bを用意し、一方の持針器Aで、他方の持針器Bの本体(軸体)に縫合糸や針付糸等の糸を巻き付ける。ついで、持針器Aで糸の一端(Long Tail)を把持して糸を引き抜くとともに、糸を巻き付けられた持針器Bで糸の他端(Short Tail)を把持して糸を持針器Aによる引き抜き方向とは逆方向に引き抜くことで、器械結紮を行っている。
【特許文献1】実開平5−88507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の一般的な持針器および上記特許文献1記載のような持針器ともに、体外で器械結紮を行う場合は、持針器のなす角度を自由に変化させることができるため、比較的容易に器械結紮を行うことができるが、体内で器械結紮を行う場合、特に腹壁等に穿通し固定して、鉗子や持針器等の手術器具を出し入れするための内径が細い筒状器具であるトロカール(通常、内径10mm前後)を介して器械結紮を行う腹腔鏡下手術等の場合は、持針器が腹壁にあたる等によって、持針器の振れ角が少ないため、一方の持針器に糸を巻き付ける操作が特に困難であるという問題があった。このことから、従来の持針器による体内での器械結紮は極めて困難な作業であり、術者には高度で熟練した技術が要求されていた。
【0006】
具体的には、一般的な持針器では、持針器Bに巻きつけてある糸のShort Tailを持針器Bで把持しようとすると、持針器Bに巻き付けてあった糸は、持針器Bに保持されていないため外れやすいという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献1記載のような持針器では、限られたスペースである腹腔内(体内)で、持針器を動かして糸を引掛片等に引掛けたり、外したりする煩雑な操作を要するという問題があった。
【0008】
そして、上記の問題に、腹腔鏡や鏡腔鏡を用いた内視鏡外科手術は、腹腔内に挿入したスコープからの画像をモニターで確認しながら行う手技で2次元の画像に頼らざるを得ないという不自由さも加わり、従来の持針器による体内での器械結紮の操作にさらに高度で熟練した技術を要するという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題を解消し、煩雑な操作を必要とせずに糸を簡便に保持および開放することができ、また、持針器の振り角が小さくても、体外・体内を問わずに簡便で、迅速な器械結紮を行うことができる、新しい持針器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決する手段として、第1には、長尺な持針器本体と、その先端側に回動把持部材と固定把持部材とを備えた把持部材が配設され、回動把持部材が軸支回動可能とされることで開閉自在とされた把持部と、持針器本体の基端側にあって把持部の開閉操作を可能とする操作部とを有する持針器において、把持部を構成する回動把持部材の基端部に糸収容部が設けられ、把持部の閉状態において前記糸収容部は開口されて糸が収容可能とされており、把持部の開状態において回動把持部材の回動にともなって糸収容部の開口が縮小されて、収容された糸が脱離せずに糸保持空間に保持されることを特徴としている。
【0011】
また、第2には、持針器本体の内部には、操作部による操作力を回動把持部材に伝達するための操作力伝達中芯部材が摺動自在に装入され、この操作力伝達中芯部材の先端側を回動把持部材と連結させるとともに、基端側を操作部と連結することで、回動把持部材を軸支回動可能としていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、煩雑な操作を必要とせずに糸を簡便に保持および開放することができ、また、持針器の振り角が小さくても、体外・体内を問わずに簡便で、迅速な器械結紮を行うことができる。
【0013】
そして、第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加えて、よりスムーズに把持部を開閉することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明の持針器の一実施形態を例示した全体側面図および要部拡大側面図である。図2は、本発明の持針器の把持部における開閉動作の様子を例示した側面図である。図3は、本発明の持針器の把持部における糸を保持する様子を例示した平面図であり、(A)は把持部の閉状体、(B)は把持部の開状態を示している。
【0016】
まず、図1および図2に沿って、本発明の持針器(1)について説明する。本発明の持針器(1)は、長尺な持針器本体(11)と、持針器本体(11)の先端側に回動する回動把持部材(12A)と持針器本体(11)に固定されている固定把持部材(12B)を備えた把持部材が配設され、開閉自在とされた把持部(12)と、持針器本体(11)の基端側にあって把持部(12)の開閉操作を可能とする、たとえば、ハンドル状の操作部(13)とを有する、手術に用いられる縫合糸や針付糸等の糸(Y)を、簡便に保持および開放することができる持針器(1)である。
【0017】
このとき、本願発明の持針器(1)における把持部(12)の開閉機構は、前記把持部材を軸(4)を介して持針器本体(11)に配設して、この把持部材の一方を把持部材の基端部で軸支回動可能とすることで、把持部(12)を開閉自在としている。
【0018】
そして、上記のような構成を有する持針器(1)において、持把持部(12)を構成する回動把持部材(12A)の基端部には、糸(Y)を収容する糸収容部(2)としての切り欠けが設けられている。そして、把持部(12)の閉状態においては、糸収容部(2)は開口されていることから、糸収容部(2)で糸(Y)を収容可能とされている。一方、把持部(12)の開状態においては、回動把持部材(12A)の矢印で示した回動(開動)にともなって、前記の糸収容部(2)の開口が縮小されて、収容された糸(Y)が脱離せずに糸保持空間(X)に保持されることを特徴としている。この糸保持空間(X)は、たとえば、糸収容部(2)の開口箇所を、持針器本体(11)との連結箇所を形成する基端側の壁部とによって形成してもよい。
【0019】
なお、この把持部(12)は、持針器本体(11)と、一体に形成されてもよいし、別体に形成されていてもよい。また、この操作部(13)は、図1の例のように、可動操作部(13A)と固定操作部(13B)とから構成されていてもよく、可動操作部(13A)を握り締めたり、緩めたりするだけで、その操作力は回動把持部材(12A)に伝達され、スムーズに把持部(12)を自在に開閉することができる。
【0020】
ここで、本発明の持針器(1)における操作部(13)の操作力を回動把持部材(12A)に伝達する構成(すなわち、把持部の開閉機構)としては、たとえば、操作部(13)による操作力を回動把持部材(12A)に伝達するための操作力伝達中芯部材(4)を持針器本体(11)の内部に摺動自在に装入し、この操作力伝達中芯部材(4)の先端側を回動把持部材(12A)と連結するとともに、基端側(術者の手元側)を操作部(13)、すなわち、可動操作部(13A)と連結することで、操作部(13)の操作力を効率よく回動把持部材(12A)に伝達することができ、よりスムーズに把持部を開閉することができる。なお、この操作力伝達中芯部材(4)は、たとえば、ワイヤー状のものでもよいし、ロッド状のものでもよい。
【0021】
このような特徴を踏まえ、図3に沿って、本発明の持針器(1)による糸(Y)の収容(保持)の様子を説明する。まず、図3(A)に例示したように、把持部(12)を閉状態にして、糸収容部(2)を上方に向かって開口させ、そこに糸(Y)を収納する。糸(Y)を収納する操作は、糸(Y)を開口した糸収容部(2)の上に載置するように操作するだけなので、簡便に糸(Y)を収納することができる。もちろん、糸(Y)を外すときも簡便に行うことができる。
【0022】
次に、図3(B)に例示したように、回動把持部材(12A)を開けて、把持部(12)を開状態にすることで、第1の糸収容部(2)内に糸(Y)の一部を収納した状態を維持し、第1の糸収容部(2)の開口を縮小(たとえば、持針器本体(11)との連結箇所を形成する基端側の壁部(5)とによって形成)され、糸保持空間(X)内に確実に糸(Y)を収納(保持)することができる。そして、この操作とは逆に、把持部(12)を閉状態にすると、糸収容部(2)が開口した状態に戻り、糸(Y)を簡便に外すことができる。
【0023】
このような特徴を有する本発明の持針器(1)を用いることで、図4に例示したような従来の器械結紮方法、すなわち、たとえば、2つの持針器A,B(この2つの持針器は、少なくとも1つは本発明の持針器(1)であること)を用意し、一方の持針器Aで、他方の持針器Bの持針器本体(軸体)に縫合糸や針付糸等の糸を巻き付ける。ついで、持針器Aで糸の一端(Long Tail)、もしくは、縫合針を把持して糸を引き抜くとともに、糸を巻き付けられた持針器Bで糸の他端(Short Tail)を把持して糸を持針器Aによる引き抜き方向とは逆方向に引き抜くことで器械結紮を行う場合でも、煩雑な操作を必要とせずに糸を簡便に保持および開放することができ、また、持針器の振り角が小さくても、体外・体内を問わずに簡便で、迅速な器械結紮を行うことができる。特に、腹壁等に穿通し固定して、鉗子や持針器等の手術器具を出し入れするための内径が細い筒状器具であるトロカール(通常、内径10mm前後)を介して器械結紮を行う腹腔鏡下手術等の場合でも、本発明の持針器によって、簡便に、かつ、迅速に器械結紮を行うことができる。
【0024】
もちろん、本発明は以上の例によって限定されるものではなく、その細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。たとえば、持針器本体の横断面形状は、円形、楕円形、多角形等、特に限定されるものではなく、また、円形の場合、その外径はトロカールに挿入可能な程度とすることが好ましい。持針器本体は、トロカールへの挿入を考慮すると、直線状が好ましいが、その他の形状でもよい。たとえば、任意の形状にあらかじめ湾曲あるいは屈曲したものであってもよい。また、持針器本体や操作力伝達用中芯部材等の材質についても、特に限定されるものではなく、たとえば、炭素鋼やチタニウム合金等の金属類、ポリアミドやポリエステル等の高分子素材(これらを、たとえば、ロッド状やワイヤー状等としたもの)等、各種の材質のものが使用できる。
【0025】
さらに、回動把持部材および固定把持部材には、糸や糸に取付けられている針(縫合針)をより確実に把持することを考慮すると、適宜にエンボス加工を施したり、ゴム材等からなる滑り止め部材を設けたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の持針器の一実施形態を例示した全体側面図および要部拡大側面図である。
【図2】本発明の持針器の把持部における開閉動作の様子を例示した側面図である。
【図3】本発明の持針器の把持部における糸を保持する様子を例示した平面図であり、(A)は把持部の閉状態、(B)は把持部の開状態を示している。
【図4】持針器を用いた器械結紮の手順の概略を例示した概略模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1 持針器
11 持針器本体
12 把持部
12A 回動把持部材
12B 固定把持部材
13 操作部
13A 可動操作部
13B 固定操作部
2 糸収容部
3 軸
4 操作力伝達中芯部材
5 壁部
X 糸保持空間
Y 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な持針器本体と、その先端側に回動把持部材と固定把持部材とを備えた把持部材が配設され、回動把持部材が軸支回動可能とされることで開閉自在とされた把持部と、持針器本体の基端側にあって把持部の開閉操作を可能とする操作部とを有する持針器において、把持部を構成する回動把持部材の基端部に糸収容部が設けられ、把持部の閉状態において前記糸収容部は開口されて糸が収容可能とされており、把持部の開状態において回動把持部材の回動にともなって糸収容部の開口が縮小されて、収容された糸が脱離せずに糸保持空間に保持されることを特徴とする持針器。
【請求項2】
持針器本体の内部には、操作部による操作力を回動把持部材に伝達するための操作力伝達中芯部材が摺動自在に装入され、この操作力伝達中芯部材の先端側を回動把持部材と連結させるとともに、基端側を操作部と連結することで、回動把持部材を軸支回動可能としている請求項1記載の持針器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−44400(P2007−44400A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234206(P2005−234206)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】