説明

指向性スピーカ装置

【課題】 複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置において、装置全体の規模を大きくすることなく、低い周波数帯域での指向特性を改善する。
【解決手段】 装置1中央部1Aは端部1B,1Cに比べてスピーカユニットSを密に配置(装置1端部1B,1Cは中央部1Aに比べてスピーカユニットSを粗に配置)することで、スピーカユニットSの配列方向の音圧を小さくし、スピーカユニットSを等間隔に配置した場合に比べ低い周波数帯域での指向特性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の方向、特定のエリアに音声情報を提供する際に用いられる指向性スピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の同一特性のスピーカユニットSを直線上に等間隔dで配置したスピーカアレーで、各スピーカユニットSに同一信号を加えると、スピーカアレー前面では音圧が大きく、側面では小さくなり、アレー垂直方向に指向特性を持たせることができる(図6の(a)参照)。しかしながら、このスピーカアレーでは、信号の周波数が低くなり、波長がスピーカアレーの長さDより長くなると、スピーカアレー前面と側面の音圧差が小さくなり、指向特性が悪化することが知られている(図6の(b)参照)。
【0003】
特許文献1は、FIR(有限応答長デジタル・フィルタ)を用い、上記スピーカアレーの振幅・位相特性を個々に制御し、低い周波数帯域まで指向特性を保っている。
【特許文献1】特開平2−239798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のスピーカアレーのような指向性スピーカ装置における低い周波数帯域での指向特性の改善方法は、各スピーカユニットSごとのフィルタ回路が必要となり、装置全体の規模が大きくなるという課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明の第1の発明(請求項1)は、複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置において、中央部は端部に比べてスピーカユニットを密に配置(端部は中央部に比べてスピーカユニットを粗に配置)したことを特徴とする。この特徴構成においては、指向性スピーカ装置の全スピーカユニットに同一信号を加えた場合、装置中央部から集中的に音が出力される(装置端部からはあまり音が出力されない)。これにより、スピーカユニットの配列方向の音圧が小さくなり、スピーカユニットを等間隔に配置した場合に比べ低い周波数帯域での指向特性が改善される。
【0006】
本発明の第2の発明(請求項2)は、複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置において、中央部には端部のスピーカユニットに比べて共振周波数の低いスピーカユニットを配置(端部には中央部のスピーカユニットに比べて共振周波数の高いスピーカユニットを配置)したことを特徴とする。この特徴構成においては、指向性スピーカ装置の全スピーカユニットに同一信号を加えた場合、端部のスピーカユニットの共振周波数より低い周波数では中央部のスピーカユニットのみから音が出力される(端部のスピーカユニットからは音が出力されない)。これにより、スピーカユニットの配列方向の音圧が低下し、全スピーカユニットから音が出力される場合(同一特性のスピーカユニットを配置した場合)に比べ低い周波数帯域での指向特性が改善される。
【発明の効果】
【0007】
以上のように本発明によれば、複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置で、低い周波数帯域での指向特性を改善する場合に、各スピーカユニットごとのフィルタ回路等が不要となり、装置全体の規模を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態1の指向性スピーカ装置の構造を示す断面図であり、この実施形態1の指向性スピーカ装置1は、同一直径の振動板を持つ同一特性のスピーカユニット9個(S1〜S9)を直線上にアレー配列し、各スピーカユニットS1〜S9を図示しない信号源にアンプを介して並列接続し、全スピーカユニットS1〜S9に同一信号(音声信号)を出力し、全スピーカユニットS1〜S9を同一信号で駆動する。ここで、各スピーカユニットS1〜S9の配置については、指向性スピーカ装置1の中央部1Aは両端部1B,1Cに比べてスピーカユニットを密に配置(両端部1B,1Cは中央部1Aに比べてスピーカユニットを粗に配置)し、指向性スピーカ装置1の全スピーカユニットS1〜S9に同一信号を加えた場合、装置中央部1Aから集中的に音を出力する(装置両端部1B,1Cからはあまり音が出力しない)ように構成する。このように指向性スピーカ装置1内でスピーカユニットS1〜S9を粗密配置する場合、各スピーカユニットS1〜S9の配置位置は下記の数式1によって規定することができる。
【0009】
【数1】

【0010】
また、上記数式1によって各スピーカユニットS1〜S9の配置位置を規定する場合、端(本実施形態1では下端)からn番目(n=1,2,・・・N)のスピーカユニットSnの位置は下記の数式2で計算される関数f(x)の値に対応する。
【0011】
【数2】

【0012】
図2は上記数式1でKを「4」とした場合のスピーカユニットS1〜S9の配置例を示す。同図からも明らかなように、上記数式1によって各スピーカユニットS1〜S9の配置位置を規定すると、装置中央のスピーカユニットS5とその直ぐ外側のスピーカユニットS4,S6の間隔d1,d2が最も小さく、最外側(装置端部)のスピーカユニットS1,S9とその直ぐ内側のスピーカユニットS2,S8の間隔d7,d8が最も大きくなるように、装置中央のスピーカユニットS5から最外側のスピーカユニットS1,S9にかけて隣接するスピーカユニットの間隔を段階的に大きくする形態(d1<d3<d5<d7,d2<d4<d6<d8)のスピーカユニット配置構造となる。
【0013】
図3は直径10mmの振動板を持つ同一特性のスピーカユニット9個(S1〜S9)からなる長さ(D=400mm)の指向性スピーカ装置の指向特性を示し、当該指向性スピーカ装置の指向特性を、装置中心から500mmでの(装置側面での音圧)−(装置正面での音圧)で評価する。スピーカユニットS1〜S9を等間隔で配置した場合の同図に示す特性1と、上記数式1(但し、K=8)によってスピーカユニットS1〜S9を粗密配置した場合の同図に示す特性2を比較すると、周波数900Hzから2000HzにかけてスピーカユニットS1〜S9を粗密配置した方が、指向特性が最大音圧15dB改善されている。
【0014】
なお、上記実施形態1において、スピーカユニットの数は9個としたが、これに限るものではなく、また偶数個でも良い。偶数配列の場合は中央の2個のスピーカユニットの間隔が最も小さくなる。また、指向性スピーカ装置内のスピーカユニットを粗密配置する場合でも、スピーカユニットを装置中心軸を中心に対称配置(図1においてはd1=d2,d3=d4,d5=d6,d7=d8)することに変わりはない。また、上記数式1によってスピーカユニットの配置位置を規定したので、装置中央部から端部にかけて隣接するスピーカユニットの間隔が段階的に大きくなっているが、装置中央部の例えばスピーカユニットS3〜S7を等間隔に配置し、その中央の密配置のスピーカユニット群の外側に、それよりも大きい間隔でスピーカユニットS1,S2及びS8,S9を装置両端部に配置しても良い。さらに、スピーカユニットの配列形態は直線状としたが、平面状に多角形状や円形状に配列しても良い。
【0015】
図4は本発明の実施形態2の指向性スピーカ装置の構造を示す断面図であり、この実施形態2の指向性スピーカ装置2は、同一直径の振動板を持つスピーカユニット5個(S11〜S15)を直線上に等間隔dでアレー配列し、各スピーカユニットS11〜S15を図示しない信号源にアンプを介して並列接続し、全スピーカユニットS11〜S15に同一信号(音声信号)を出力し、全スピーカユニットS11〜S15を同一信号で駆動する。ここで、指向性スピーカ装置2内に配置するスピーカユニットS11〜S15については、指向性スピーカ装置2の中央部には端部に比べて共振周波数fの低いスピーカユニットを配置(端部には中央部のスピーカユニットに比べて共振周波数fの高いスピーカユニットを配置)する。本実施形態2では指向性スピーカ装置2の中央に配置するスピーカユニットS13の共振周波数f1を両端に配置するスピーカユニットS11,S15の同じ共振周波数f0より低く(両端に配置するスピーカユニットS11,S15の同じ共振周波数f0を中央に配置するスピーカユニットS13の共振周波数f1より高く)設定(f1<f0)すると共に、中央のスピーカユニットS13と両端のスピーカユニットS11,S15の間に配置する中間のスピーカユニットS12,S14の共振周波数f2は両端のスピーカユニットS11,S15の共振周波数f0と同じ周波数に設定(f2=f0)し、指向性スピーカ装置2の両端に配置するスピーカユニットS11,S15の共振周波数f0より低い周波数では中央のスピーカユニットS13のみから音を出力する(両端と中間のスピーカユニットS11,S12,S14,S15からは音を出力しない)ように構成する。
【0016】
図5は直径10mmの振動板を持つ等間隔d配置のスピーカユニット5個(S11〜S15)からなる長さ(D=125mm)の指向性スピーカ装置の指向特性を示し、当該指向性スピーカ装置の指向特性を、装置中心から100mmでの(装置側面での音圧)−(装置正面での音圧)で評価する。中央の1個のスピーカユニットS13のみを駆動した場合の同図に示す特性3と、5個全てのスピーカユニットS11〜S15を駆動した場合の同図に示す特性4を比較すると、周波数800Hz以下では中央の1個のスピーカユニットS13のみを駆動した方が指向特性が良く、300Hz〜500Hzで約1dBの指向特性改善が実現されている。
【0017】
従って、上記の条件では中央の1個のスピーカユニットS13以外の4個のスピーカユニットS11,S12,S14,S15の共振周波数を800Hzとすれば、全スピーカユニットS11〜S15に同一信号を加えても、800Hz以下の低い周波数帯域では中央の1個のスピーカユニットS13のみから音が出力される(両端と中間のスピーカユニットS11,S12,S14,S15からは音が出力されない)ので、低い周波数帯域での指向特性が改善される。
【0018】
なお、上記実施形態2において、スピーカユニットの数は5個としたが、これに限るものではなく、また偶数個でも良い。また、スピーカユニットの配列形態は直線状としたが、平面状に多角形状や円形状に配列してもよい。さらに、スピーカユニットは等間隔で配置したが、上記実施形態1で述べたように、指向性スピーカ装置内の中央部は端部に比べてスピーカユニットを密に配置(端部は中央部に比べてスピーカユニットを粗に配置)するように、各スピーカユニットを粗密配置してもよい。
【0019】
また、中央部に配置する低い共振周波数を持つスピーカユニットの数は1個または複数個何れでも良く、端部に配置する高い共振周波数を持つスピーカユニットも1個または複数個何れでも良い。例えば図4において、中央の3個のスピーカユニットS12,S13,S14は上記低い共振周波数f1を持つスピーカユニットとし、両端の2個のスピーカユニットS11,S15は上記高い共振周波数f0を持つスピーカユニットとしたり、上記したように中央の1個のスピーカユニットS13は上記低い共振周波数f0を持つスピーカユニットとし、両端と中間の4個のスピーカユニットS11,S12,S14,S15は上記高い共振周波数f1を持つスピーカユニットとしたり、その他、中央から端にかけてスピーカーユニットの共振周波数を段階的に低くしてよい。すなわち、図4においては中央の1個のスピーカユニットS13は最も低い共振周波数f1を持つスピーカユニットとし、両端の2個のスピーカユニットS11,S15は最も高い共振周波数f0を持つスピーカユニットとし、中間の2個のスピーカユニットS12,S14は最も低い共振周波数f1より高く、且つ、最も高い共振周波数f0より低い共振周波数を持つスピーカユニットとする。さらには、中央部の低い共振周波数f1と両端部の高い共振周波数f0との共振周波数特性を段階的に変化させるように、各スピーカユニットの共振回路を構成しても良い。
【0020】
以上のように、複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置で、低い周波数帯域での指向特性を改善する場合に、本実施形態1では、中央部は端部に比べてスピーカユニットを密に配置(端部は中央部に比べてスピーカユニットを粗に配置)することで、指向性スピーカ装置の全スピーカユニットに同一信号を加えた場合、装置中央部から集中的に音が出力される(装置端部からはあまり音が出力されない)ようにし、スピーカユニットの配列方向の音圧を小さくし、スピーカユニットを等間隔に配置した場合に比べ低い周波数帯域での指向特性を改善する一方、本実施形態2では、中央部には端部のスピーカユニットに比べて共振周波数の低いスピーカユニットを配置(端部には中央部のスピーカユニットに比べて共振周波数の高いスピーカユニットを配置)することで、指向性スピーカ装置の全スピーカユニットに同一信号を加えた場合、端部のスピーカユニットの共振周波数より低い周波数では中央部のスピーカユニットのみから音が出力される(端部のスピーカユニットからは音が出力されない)ようにし、スピーカユニットの配列方向の音圧を低下させ、全スピーカユニットから音が出力される場合(同一特性のスピーカユニットを配置した場合)に比べ低い周波数帯域での指向特性を改善する。このように、本実施形態1,2は、各スピーカユニットの振幅・位相特性を個々に制御することなく、低い周波数帯域での指向特性を改善しているので、各スピーカユニットの振幅・位相特性を個々に制御するための各スピーカユニットごとのフィルタ回路等が不要となり、装置全体の規模を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態1の指向性スピーカ装置の構造を示す断面図である。
【図2】実施形態1のスピーカユニットの配置例を示す図である。
【図3】実施形態1の指向特性を示す図である。
【図4】本発明の実施形態2の指向性スピーカ装置の構造を示す断面図である。
【図5】実施形態1の指向特性を示す図である。
【図6】従来の指向性スピーカ装置(スピーカアレー)の構造を示す断面図で、(a)は指向特性を示す図、(b)は低い周波数での指向特性を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1,2 指向性スピーカ装置
S スピーカユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置において、中央部は端部に比べてスピーカユニットを密に配置したことを特徴とする指向性スピーカ装置。
【請求項2】
複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置において、中央部には端部のスピーカユニットに比べて共振周波数の低いスピーカユニットを配置したことを特徴とする指向性スピーカ装置。
【請求項3】
複数個のスピーカユニットを配列状に配置して構成する指向性スピーカ装置において、中央部は端部に比べてスピーカユニットを密に配置すると共に、中央部には端部のスピーカユニットに比べて共振周波数の低いスピーカユニットを配置したことを特徴とする指向性スピーカ装置。
【請求項4】
中央部から端部にかけて隣接するスピーカユニットの間隔を段階的に大きくした請求項1または請求項3記載の指向性スピーカ装置。
【請求項5】
中央部に配置される共振周波数の低いスピーカユニットは1個または複数個である請求項2または請求項3記載の指向性スピーカ装置。
【請求項6】
端部に配置される共振周波数の高いスピーカユニットは1個または複数個である請求項2または請求項3記載の指向性スピーカ装置。
【請求項7】
中央部から端部にかけてスピーカーユニットの共振周波数を段階的に低くした請求項2または請求項3記載の指向性スピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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