説明

指向性バルク超音波連動素子

少なくとも1つの基材(1)と該基材上に配置され波動伝播に適した1つの層系(3)とを有する指向性バルク超音波連動素子を開示する。層系は、金属化層(33)と第1誘電体層(31)と第2誘電体層(32)とを含む。音波の速度は、第1誘電体層(31)中よりも第2誘電体層(32)中で大きい。少なくとも1つの誘電体層はTeOを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
GBAWすなわち指向性バルク超音波と連動する素子を開示する。GBAWは指向性バルク超音波(Guided Bulk Acoustic Wave)の略称である。指向性バルク超音波は、”境界音響波”とも呼ばれる。GBAW連動素子は、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1538748号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0175928号明細書
【特許文献3】米国特許第6046656号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0018536号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決すべき課題の1つは、温度応答の小さな周波数のGBAW連動素子を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
少なくとも1つの基材と、該基材上に配置され波動伝播に適した1つの層系とを有する指向性バルク超音波連動素子を開示する。層系は、金属化層と第1誘電体層と第2誘電体層とを含む。音波の速度は、第1誘電体層中よりも第2誘電体層中で大きい。一方の誘電体層はTeOを含む。他方の誘電体層は、好ましくは、SiOを含む。
【0005】
その上に金属化層が形成される、圧電基材あるいは圧電層を含む基材は、一般的に弾性係数の負の温度応答を特徴とする。TeOは逆の、すなわち、弾性係数の正の温度応答を特徴とする。そこで、TeOは、いくつかの領域でこの基材と隣接する第1誘電体層の材料として、低い温度応答の周波数を有する全素子を得るための基材の温度応答の補償に関して有利である。
【0006】
金属化層は、電気音響変換器、反射体、導体線、および、好ましくは外部から接触することができる接触面の電極構造を形成するように構造化される。
【0007】
第1と第2の誘電体層間の境界面は、好ましくは、凹凸を有する。しかし、第1と第2の誘電体層間の境界面は、平らであっても、特に、平坦化されていてもよい。
【0008】
第1誘電体層の表面の凹凸は、特に、構造化された金属化層上にこの層が戴置されるため、生じる。
【0009】
以下では、第1と第2の実施形態に係る素子の有利な構造を説明する。第1と第2の実施形態は互いに組み合わせてもよい。
【0010】
金属化層は基材上に配置される。第1誘電体層は、金属化層と第2誘電体層との間に配置される。第1誘電体層は、好ましくは、金属化層と直接に隣接する。第1誘電体層は、金属化層の構造を覆い、こうした構造のない区域で基材とぴったり重なる。
【0011】
ある変形例では、第2誘電体層は、第1誘電体層とカバー層との間に配置される。第2誘電体層は、少なくとも1つの電気絶縁層を有する。カバー層は、好ましくは、例えば、樹脂、フォトレジスト、あるいは、音波を減衰させるために適したその他の有機材料などの材料を含む。
【0012】
両誘電体層間の比較的大きな速度差は、波動伝播に、あるいは、音波のエネルギーを(垂直方向に対して)可能な限り狭い空間に集中させることに有利である。第1と第2の誘電体層間の音速の差は、好ましくは、少なくとも1.5倍である。
【0013】
両誘電体層間の音響インピーダンスの比較的小さな差は、この場合、素子の低い許容差を達成することに関して、これらの層の間に形成される境界面の特質に影響を与えないため有利である。このため、特に第1誘電体層の厚さが素子の所定の周波数に達するように変化させる周波数トリミング後、この層の表面の平坦化のための費用のかさむ平坦化工程を、第2誘電体層の戴置前に省くことができる。第1と第2の誘電体層間の音響インピーダンスの差は、好ましくは、最大でも50%である。
【0014】
金属化層とそれに隣接する誘電体層との間の音響インピーダンスの比較的大きな差は、電極構造の端での比較的大きな音響反射を得るために有利である。
【0015】
第1誘電体層の厚さは、好ましくは、垂直方向の音波の完全な減衰には不十分なため、その波のエネルギーの一部は第2誘電体層に残る。第1誘電体層の厚さは、好ましくは、素子の動作周波数での波長をλとするとき、0.2λと1.0λとの間である。
【0016】
第2誘電体層は、垂直方向の音波の好ましくは完全な減衰に十分な厚さを有する。第2誘電体層の厚さは、好ましくは、少なくともλであり、ある有利な変形例では、少なくとも2λである。基材の全体の厚さは、波が基材内で完全に減衰するように選ばれる。基材の全体の厚さは、例えば、少なくとも5λである。
【0017】
ある有利な実施形態では、第1誘電体層は、TeOを含み、第2誘電体層は、TeOよりも速い音速を有するSiOを含む。
【0018】
基材は、例えば、ニオブ酸リチウム単結晶であってもよい。結晶断面LiNbOφYX、このときφ=5°〜25°、例えばφ=15°、が、大きな電気機械結合を達成するために、特に有利である。大きな結合は、素子の広帯域に関して有利である。
【0019】
基材は、代わりに、ニオブ酸リチウムから作られる少なくとも1つの層を有していてもよい。代わりに、タンタル酸リチウムあるいは他の圧電材料を使用してもよい。
【0020】
ある変形例では、素子中で励起された音波は、水平に分極された横波である。別の変形例では、他の音響モードを使用することも可能である。
【0021】
誘電体層の少なくとも1つは、好ましくは、波にとって決定的な弾性係数に関して、基材のものとは逆の温度応答を有する。ある変形例では、それは第1誘電体層であり、別の変形例では、それは第2誘電体層である。別の変形例では、それは誘電体層の両方に当てはまる。
【0022】
ある変形例では、誘電体層の少なくとも1つに関して、好ましくは、誘電体層の両方に関して、対応する材料の弾性は温度Tの上昇に伴って増加し、基材の弾性は温度上昇に伴って減少する。これは、dc/dT>0を意味する。cは、波にとって決定的な弾性指数であり、例えば、c=c11またはc44である。好ましくは、水平に分極された横波が励起され、これはc44によって決定され、好ましくは、dc44/dT>0である。縦波と連動する素子に関して、それはdc11/dT>0に従う。
【0023】
別の変形例では、誘電体層の少なくとも1つに関して、好ましくは、誘電体層の両方に関して、対応する材料の弾性は温度Tの上昇に伴って減少し、基材の弾性は温度上昇に伴って増加する。これは、dc/dT>0を、すなわち、音響モードによれば、dc44/dT>0あるいはdc11/dT>0を意味する。
【0024】
基材と層系との弾性特性の温度応答の補償を介して、温度応答の極めて小さな動作周波数のGBAW連動素子を生産することが可能となる。
【0025】
金属化層は、好ましくは、アルミニウムのものよりも高い音響インピーダンスを特徴とする材料の、少なくとも1つの導電層を有する。以下の材料、Cu,Ti,Cr,Mo,W,Mg,Au,Pt,Ta,Niが考えられ、また同様に高い音響インピーダンスを有する別の導電材料が考えられる。これらの材料の音響インピーダンスは、第1誘電体層のものよりも顕著に高い。そのため、電極構造の端で、特に高い音響反射を得ることができる。
【0026】
ある変形例では、金属化層は、アルミニウムを含む少なくとも1つの導電層を有する。音響インピーダンスが比較的小さく、隣接する誘電体層のものと同程度の、比較的軽量な少なくとも1つのAl層に加えて、好ましくは、上記材料から作られる比較的重い少なくとも1つの金属層が使用される。
【0027】
基材は、その上に金属化層が配置される少なくとも1つの圧電層を有する。金属化層は、好ましくは、圧電層に直接に隣接する。これは、圧電層での音速が、いくつかの区域において圧電層とぴったり重なる第1誘電体層での音速よりも速いときに有利である。
【0028】
ある変形例では、圧電層は、例えば、LTCCあるいはHTCCセラミック、シリコン、ガラス、Al、あるいは、例えばFR4などの有機プラスチックを含む非圧電層上に配置される。この場合、極めて厚さの薄い圧電層を形成し、圧電層のための担体基材と成長基材との一方あるいは両方として基材の非圧電層を使用することが可能となる。圧電層の厚さは、好ましくは、音波がこの層内で実質的に完全に減衰するように選ばれる。
【0029】
非圧電層での音速は、好ましくは、圧電層での音速より速いので、波は可能な限り急速に減衰する。これは、特に、エネルギーの一部が非圧電層に存在する場合に当てはまる。これは、圧電層と非圧電層との速度差が比較的大きく、例えば、少なくとも1.5倍であるときに有利である。
【0030】
以下では、開示した素子とその有利な構造を、原寸に比例して描かれていない模式図を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】GBAW素子の横断面図を示す。
【図2】GBAW素子の別の横断面図を示す。
【図3】GBAWと連動する共鳴装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1では、基材1と該基材上に配置される層系3とを有する指向性バルク超音波連動素子を示す。層系3は、金属化層33、第1誘電体層31、および、第2誘電体層32を含む。
【0033】
ある変形例では、音響減衰材料、すなわち、弾性の低い材料から作られるカバー層2が、層系3に強固に接続されてもよい。第2誘電体層32は、第1誘電体層31とカバー層2との間に配置される。しかし、第2誘電体層32は、露出面を有する末端層を意味するものであってもよい。
【0034】
変換器41、反射体42,43、トラックコンダクタ、および、電気接触面を形成するために構造化された金属化層33が、基材1上に生成される。ここで、トラックコンダクタは変換器を互いに、および、接触面に接続する(図示せず)。変換器41と反射体42,43とは帯状の電極構造を有する。
【0035】
そして、例えば、TeOから作られる第1誘電体層31は、構造化された金属化層33を有する基材上に、蒸着法あるいは別の堆積法を介して、戴置される。この層は、電極構造を覆い、基材1の表面とぴったり重なる。この層の表面は、電極構造によって”押し出される”ため、滑らかではない。素子の周波数位置が求められ、第1誘電体層31は、この周波数位置を増加させるときは薄く作られ、動作周波数を減少させるときは厚く作られる。薄くすることは、エッチング法で行なうことができ、厚くすることは、スパッタリング法あるいは別の、好ましくは、経済的な方法を介して行なうことができる。薄くすることは、材料の機械的除去を介して行なうこともできる。素子の周波数位置の調整はトリミングと呼ばれる。
【0036】
トリミング後、好ましくは二酸化ケイ素から作られる第2誘電体層32が、層31上に、例えば、蒸着法あるいはスパッタリング法によって、生成される。
【0037】
金属化層33で形成される電気音響的能動部品構造41,42,43の電気的接触は、基材の一面と他面との一方あるいは両方から行なわれてもよい。このようにして、基材1と、任意ではあるがカバー層2と、また任意ではあるが誘電体層31,32とが接続される。
【0038】
図2に示す変形例では、金属化層33は、第1導電層331と、この層上に配置される第2導電層332とを有する。ある変形例では、第1導電層331は金属アルミニウムを含み、第2導電層332は高い音響インピーダンスを有する金属を含む。別の変形例では、第1導電層331は高い音響インピーダンスを有する金属を含み、第2導電層332は金属アルミニウムを含む。
【0039】
図1に係る変形例では、基材1は圧電特性を有する。図2に係る変形例では、圧電層12は、基材1を形成するために非圧電層11上に生成される。
【0040】
図3では、1つの変換器41と2つの反射体42,43とを有し、GBAWと連動する共鳴装置を示す。変換器41は、反射体42,43間に配置される。変換器41は、図示した変形例では、交互に2つの異なる母線に接続される帯状の電極構造を有する。音波は、2つの異なる極性の電極構造間で励起される。
【0041】
明記したGBAW素子は、その実施形態に制限されるものではなく、また、図で示し明記した材料に制限されるものでもない。言及した材料は、音響インピーダンスと音速に関して類似した性質を有する別の材料と置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 基材
11 基材1の非圧電層
12 圧電層
2 カバー層
3 層系
31 第1誘電体層
32 第2誘電体層
33 金属化層
331 第1導電層
332 第2導電層
41 変換器
42,43 反射体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基材(1)と、該基材上に配置され、波動伝播に適した1つの層系(3)とを有する、
指向性バルク超音波と連動する素子であって、
前記層系(3)は、金属層(33)と、第1誘電体層(31)と、第2誘電体層(32)とを有し、
前記超音波の前記第2誘電体層(32)での速度は、第1誘電体層(31)での速度よりも大きく、
前記誘電体層(31,32)のうち1つはTeOを含む、
素子。
【請求項2】
前記第1誘電体層(31)はTeOを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記第2誘電体層(32)はTeOを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項4】
前記第1誘電体層(31)はSiOを有する、請求項1または3に記載の素子。
【請求項5】
前記第2誘電体層(32)はSiOを有する、請求項1,2または4に記載の素子。
【請求項6】
前記金属化層(33)は前記基材(1)上に配置され、前記第1誘電体層(31)は前記金属化層(33)と前記第2誘電体層(32)との間に配置される、請求項1から5のいずれか1項に記載の素子。
【請求項7】
前記第1と第2の誘電体層(31,32)間の音速の差が少なくとも1.5倍である、請求項1から6のいずれか1項に記載の素子。
【請求項8】
前記第1と第2の誘電体層(31,32)間の音響インピーダンスの差が最大50%である、請求項1から7のいずれか1項に記載の素子。
【請求項9】
前記第1と第2の誘電体層(31,32)の弾性の温度応答が、前記基材(1)の弾性の温度応答とは逆である、請求項1から8のいずれか1項に記載の素子。
【請求項10】
前記第1と第2の誘電体層(31,32)では、対応する材料の弾性は温度上昇に伴って増加し、
前記基材(1)の弾性は温度上昇に伴って減少する、
請求項9に記載の素子。
【請求項11】
前記第1と第2の誘電体層(31,32)では、対応する材料の弾性は温度上昇に伴って減少し、
前記基材(1)の弾性は温度上昇に伴って増加する、
請求項9に記載の素子。
【請求項12】
λを素子の動作周波数の波長とするとき、前記第1誘電体層(31)の厚さは0.2λからλの間である、請求項1から11のいずれか1項に記載の素子。
【請求項13】
前記第2誘電体層(32)の厚さは少なくともλである、請求項1から12のいずれか1項に記載の素子。
【請求項14】
前記第1と第2の誘電体層(31,32)間の境界面は凹凸を有する、請求項1から13のいずれか1項に記載の素子。
【請求項15】
前記第1誘電体層(31)は前記金属化層(33)に隣接し、
前記金属化層(33)は、前記第1誘電体層の少なくとも2倍の音響インピーダンスを有する素材からなる少なくとも1つの電気伝導層を有する、
請求項1から14のいずれか1項に記載の素子。
【請求項16】
前記金属化層は、アルミニウムのインピーダンスよりも高い音響インピーダンスを有する素材からなる少なくとも1つの電気伝導層を有する、請求項1から15のいずれか1項に記載の素子。
【請求項17】
前記金属化層(33)は、アルミニウムを含む少なくとも1つの電気伝導層を有する、請求項1から16のいずれか1項に記載の素子。
【請求項18】
前記基材(1)は、その上に前記金属化層(33)が配置される少なくとも1つの圧電層(12)を有する、請求項1から17のいずれか1項に記載の素子。
【請求項19】
前記圧電層(12)は非圧電層(11)上に配置される、請求項18に記載の素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−521114(P2010−521114A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553135(P2009−553135)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052955
【国際公開番号】WO2008/110576
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】