説明

挙動異常判定器,挙動異常判定方法および情報記録分析装置

【課題】輸送機器の異常な挙動の要因となる事象を判定して信号を出力することで、異常な挙動の要因を究明することを可能にする。
【解決手段】操作系センサ11で検出される現時点の操作値と、運動系センサ12で検出される現時点の運動値とに基づいて、現時点より後の推定時点における車両10(輸送機器)の挙動を示す推定運動値J1を推定する挙動推定部22と、推定時点に運動系センサ12で検出される運動値が、状態推定部で推定した推定運動値J1を基準とする挙動許容範囲外の値になると、車両10に異常な挙動が発生したと判定して挙動異常信号J3を出力する挙動判定部24とを有する構成とした。この構成によれば、挙動異常信号J3に基づく前後期間の各種情報を記録しておくことによって、車両10に発生した異常な挙動の要因を究明することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器の異常な挙動を検出する挙動異常判定器およびその検出方法と、挙動異常判定器を備えた情報記録分析装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、ビデオ撮影開始条件を満たすと、車両事故が発生する瞬間を含む撮影映像を確実にビデオ撮影できるようにした事故情報収集システムおよび事故情報記録分析装置に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。ビデオ撮影開始条件としては、急ブレーキ,急加速,速度超過,急ハンドル操作,異常ハンドル操作,居眠り運転の検知が挙げられている(特許文献1の段落0056を参照)。この技術によれば、ビデオ撮影開始条件を満たすことでビデオ撮影を開始し、撮影された映像に基づいて事故状況を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−293536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術を用いてビデオ撮影を行っても、車両が異常な挙動を起こすに至る要因を究明(追求)することは極めて困難である。すなわち、ビデオ撮影は車両が走行中に発生する事故を撮影するに過ぎず、ビデオ撮影開始条件とされる急ブレーキや急加速等に至るまでにおける運転者の操作内容、あるいは車両の走行状態(加速,減速,旋回等)が不明である。そのため、車両の異常な挙動を起こす要因が、運転者の操作であるのか、車両の故障等であるのかを究明できないという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、第1の目的は、輸送機器(上記車両を含む)の異常な挙動の要因となる事象を判定して信号を出力することで、異常な挙動の要因を究明することが可能になる挙動異常判定器およびその検出方法を提供することである。第2の目的は、挙動異常判定器から出力される信号に基づいて操作者(上記運転者を含む)の操作および輸送機器の運動状態に関する検出情報を記録し、記録した検出情報に基づいて輸送機器に発生した異常な挙動の要因を究明することが可能になる情報記録分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、操作者の操作による操作状態を示す操作値を検出する一以上の操作系センサと、輸送機器の運動状態を示す運動値を検出する一以上の運動系センサと、を備える前記輸送機器に異常な挙動が発生したか否かを判定する挙動異常判定器において、前記操作系センサで検出される現時点の操作値と、前記運動系センサで検出される現時点の運動値とに基づいて、前記現時点より後の推定時点における前記輸送機器の挙動を示す推定運動値を推定する挙動推定部と、前記推定時点に前記運動系センサで検出される運動値が、前記挙動推定部で推定した前記推定運動値を基準とする挙動許容範囲外の値になると、前記輸送機器に異常な挙動が発生したと判定して挙動異常信号を出力する挙動判定部と、を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、挙動推定部が現時点より後(つまり近未来)の推定時点における輸送機器の挙動を示す推定運動値を推定し、挙動判定部は推定時点における輸送機器の運動値が推定運動値を基準とする挙動許容範囲外の値であれば異常な挙動が発生したとみなして(判定して)挙動異常信号を出力する。すなわち、現時点における操作者の操作から推定時点における輸送機器の挙動を推定し、推定時点で輸送機器に許容範囲外の挙動が発生した場合には挙動異常信号を出力する。このように輸送機器の異常な挙動の要因となる事象を判定して信号を出力するので、当該信号に基づく前後の期間について検出情報(すなわち操作値や運動値)を記録することにより、輸送機器に発生した異常な挙動の要因を究明することが可能になる。
【0008】
なお、用語の意義を次のように定義する。
(a)「輸送機器」は、人間や貨物等を輸送可能な機器であれば任意である。例えば、自動車,航空機,船舶,鉄道車両などが該当する。
(b)「異常な挙動(挙動異常)」は、事故等の有無を問わず、操作者の操作に基づいて輸送機器が正常に運動しない任意の挙動である。例えば、操作者が行う操作部材(例えばステアリング,スロットル,操縦桿,舵,ペダル,レバー,スイッチ等)の操作に対応しない輸送機器の運動(加速,減速,旋回等)や、操作者の操作に対応して輸送機器が運動するものの意図しない運動となる挙動(具体的には横風等による蛇行、凍結や砂等によるスリップ等)などが該当する。現時点から推定時点までの時間間隔(以下では単に「推定期間」と呼ぶ。)は任意に設定可能である。当該推定期間は、一定期間としてもよく、操作者の操作や輸送機器の運動状態に応じて伸縮してもよい。後者の例では、始動時に推定期間を初期値で設定した後、速度や加速度等が増加するにつれて推定期間を短くしたり、挙動許容範囲内に収まる運動状態が継続する時間や距離等が長くなるにつれて推定期間を伸ばしたりするなどが該当する。
(c)「操作系センサ」は、輸送機器に備えられ、操作者(運転者や操縦者等を含む)が上記操作部材を操作する操作量(絶対量または相対量)を検出可能な任意のセンサである。例えば、開度センサ,ストロークセンサ,操舵角センサ,ポジションセンサなどが該当する。一般的には、輸送機器の種類等に応じて備えられるセンサの種類等も異なる。
(d)「運動系センサ」は、輸送機器に備えられ、輸送機器の運動状態を示す運動値(例えば速度,舵角,加速度,ヨーレート,角度(回転角,ロール角,ピッチ角等),角速度,画像または映像,物体との相対距離等)を検出可能な任意のセンサである。例えば、速度センサ,舵角センサ,加速度センサ,ヨーレートセンサ,ジャイロスコープ,カメラ,距離センサ,角度センサなどが該当する。一般的には、輸送機器の種類に応じて備えるセンサが異なる。
(e)「推定運動値」は、推定時点における輸送機器の運動状態を示す運動値である。可能な全ての運動値を推定してもよく、輸送機器の運動態様(例えば加速,減速,旋回等)に応じて異なる一以上の運動値を推定してもよい。後者の例では、操作者がアクセル操作やブレーキ操作を行った場合には速度,加速度,距離等を推定し、操作者がステアリング,操縦桿,舵等の操作を行った場合には舵角,ヨーレート,角速度(角度)等を推定するなどが該当する。
(f)「挙動許容範囲」は、推定運動値を基準とし、操作者の操作に基づいて輸送機器が正常に運動する場合に運動値として取り得る範囲である。挙動許容範囲は任意に設定可能であり、固定範囲(例えば百分率等のような比率で指定する範囲)としてもよく、境界値(上限を示す絶対値または相対値や、下限を示す絶対値または相対値)で規定する可変範囲してもよい。いずれにせよ、輸送機器の運動状態に応じて範囲を変化させるのが望ましい。例えば、速度や加速度等が増減するにつれて範囲を広狭したり、ほぼ一定の運動状態が継続する時間や距離が長くなるにつれて範囲を狭めるなどが該当する。
(g)「挙動異常信号」は信号の種類(アナログ/デジタル)を問わず、文字や数値等の情報を含む場合もある。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記操作系センサで検出される操作値を監視し、単位時間当たりの変化値が変化する前の変化前値を基準とする変化許容範囲外の値になると、前記単位時間当たりの変化値が変化する時点を示す変化時点情報を記録する時刻記録部と、前記挙動判定部は、前記挙動異常信号とともに、前記時刻記録部によって記録された前記変化時点情報を出力することを特徴とする。挙動異常信号と変化時点情報とは個別の信号としてもよく、挙動異常信号に変化時点情報含めてもよい。この構成によれば、挙動異常信号によって輸送機器に異常な挙動が発生したことが分かり、変化時点情報によって異常な挙動の開始時点が分かる。この開始時点以前の時点から各種センサで検出される情報を記録することによって、異常な挙動の要因をより究明し易くなる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記挙動判定部は、前記運動系センサで検出される運動値が前記挙動許容範囲外の値になっても、所定期間内に前記挙動許容範囲内の値に戻る場合には、前記挙動異常信号を出力しないことを特徴とする。「所定期間」は運動値が挙動許容範囲外の値になった時点を始期とする期間であって、推定期間よりも短いことを条件として任意に設定することができる。例えば、一定期間としてもよく、推定期間と同様にして輸送機器の運動状態に応じて伸縮する期間としてもよい。運動系センサで検出される運動値は、外乱(例えば外来ノイズ等)の影響を受けて挙動許容範囲外の値になる場合がある。この構成によれば、運動値が一時的に異常値となっても所定期間内に正常値に戻る(すなわち挙動許容範囲に収まる)場合には、外乱による影響があったとみなして挙動異常信号を出力しない。したがって、外乱の影響を排除できるので不要な情報の記録を抑制し、異常な挙動の要因が究明し易くなる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記挙動判定部は、前記運動系センサで検出される速度,舵角,加速度,ヨーレート,角速度,角度,距離のうちで一以上の運動値に応じて、前記挙動許容範囲を規定する境界値を変化させることを特徴とする。この構成によれば、運動値に応じた適切な挙動許容範囲を規定することができるので、的確に挙動異常信号を出力できる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記挙動判定部は、前記運動系センサに応じて異なる前記挙動許容範囲を設定することを特徴とする。運動系センサには様々の種類があるため、挙動許容範囲を一律に適用すると、ある運動系センサによる挙動異常信号の出力が過多になったり、別の運動系センサによる挙動異常信号の出力が過小になったりする。この構成によれば、運動系センサの特性に合わせて異なる挙動許容範囲を設定するので、全ての運動系センサについて、挙動異常信号の出力を適切に行える。そのため、運動系センサの特性によらず、異常な挙動の要因が究明し易くなる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記挙動推定部は、前記操作値および前記運動値のうちで一方または双方に応じて、推定期間(前記現時点から前記推定時点までの時間間隔)を伸縮させることを特徴とする。この構成によれば、操作値(操作者の操作)や運動値(輸送機器の運動状態)に応じて推定期間を伸縮する。例えば、高速移動や急な旋回等では推定期間を縮め、低速移動や緩い旋回等では推定期間を伸ばす、などが該当する。特に急速な操作や高速運動等では推定期間を縮めることで、輸送機器に異常な挙動が発生した時点をより正確に特定して挙動異常信号を出力することができる。こうして異常な挙動が発生した時点がより正確になるので、異常な挙動の要因が究明し易くなる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、加速,減速,旋回等のような前記輸送機器の運動態様に応じて、前記挙動推定部による推定および前記挙動判定部による判定にそれぞれ必要な前記操作系センサおよび前記運動系センサを選択するセンサ選択部を有することを特徴とする。輸送機器の運動態様(すなわち加速,減速,旋回等)に応じて、検出値が大きく変化するセンサと、検出値が小さい変化にとどまるセンサとがある。例えば加速や減速についてみると、速度センサや加速度センサ等で検出する検出値が大きく変化するのに対し、ヨーレートセンサやジャイロスコープ等で検出する検出値は小さい変化にとどまる。この構成によれば、センサ選択部が大きく数量が変化するセンサを適切に選択するので、挙動推定部による推定や挙動判定部による判定の精度を高めることができる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、前記操作系センサは、アクセルの開度を検出する開度センサ、ブレーキのストローク量を検出するストロークセンサ、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ、変速操作(例えばシフトレバーやセレクトレバー)等によるポジション(ギアやレンジ等)を検出するポジションセンサなどのうちで一以上を備え、前記運動系センサは、速度を検出する速度センサ、舵角を検出する舵角センサ、加速度を検出する加速度センサ、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ、前記輸送機器の回転角(すなわち輸送機器を上から見たときの所定点(中心や重心)を軸とする回転角)や角速度を検出するジャイロスコープ、画像または映像を撮像するカメラ、物体との相対距離を検出する距離センサ、前記輸送機器のロール角やピッチ角等の角度を検出する角度センサなどのうちで一以上を備えることを特徴とする。この構成によれば、挙動推定部による推定や挙動判定部による判定を確実に行うことができる。
【0016】
請求項9に記載の発明は、操作者の操作による操作状態を示す操作値を検出する一以上の操作系センサと、輸送機器の運動状態を示す運動値を検出する一以上の運動系センサと、を備える前記輸送機器に異常な挙動が発生したか否かを判定する挙動異常判定方法において、前記操作系センサで検出される現時点の操作値と、前記運動系センサで検出される現時点の運動値とに基づいて、前記現時点より後の推定時点における前記輸送機器の挙動を示す推定運動値を推定する挙動推定工程と、前記推定時点に前記運動系センサで検出される運動値が、前記挙動推定部で推定した前記推定運動値を基準とする挙動許容範囲外の値になると、前記輸送機器に異常な挙動が発生したことを示す挙動異常信号を出力する挙動判定工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、挙動推定工程では現時点より後(つまり近未来)の推定時点における輸送機器の挙動を示す推定運動値を推定し、挙動判定工程では推定時点における輸送機器の運動値が推定運動値を基準とする挙動許容範囲外の値であれば異常な挙動が発生したとみなして(判定して)挙動異常信号を出力する。すなわち、現時点における操作者の操作から推定時点における輸送機器の挙動を推定し、推定時点で輸送機器に許容範囲外の挙動が発生した場合には挙動異常信号を出力する。このように輸送機器の異常な挙動の要因となる事象を判定して信号を出力するので、当該信号に基づく前後の期間について検出情報(すなわち操作値や運動値)を記録することにより、輸送機器に発生した異常な挙動の要因を究明することが可能になる。
【0018】
請求項10に記載の発明は、前記輸送機器に備えられる一以上の前記操作系センサおよび一以上の前記運動系センサを用いるとともに、請求項1から8のいずれか一項に記載の挙動異常判定器と、所定の情報を記録する情報記録部と、を有する情報記録分析装置において、前記情報記録部は、前記異常挙動信号を受ける受信時点より前(つまり過去)の記録開始時点から、前記操作系センサおよび前記運動系センサのうちで一以上のセンサで検出される検出情報を記録し始めることを特徴とする。この構成によれば、異常挙動信号を受けて、記録開始時点から一以上のセンサで検出される検出情報を記録(蓄積)し始める。そのため、輸送機器に発生した異常な挙動の要因を究明することが可能になる。
【0019】
なお、記録を終える条件(以下では単に「記録終了条件」と呼ぶ。)は任意に設定することができる。例えば、挙動異常信号を受けてから所定の記録期間(例えば5分や30分等)を経過したこと、記録対象となる検出情報の数値が特定値(具体的には速度がゼロ等)になったことなどが該当する。現時点から記録開始時点までの時間間隔(以下では単に「遡及期間」と呼ぶ。)は任意に設定可能である。当該遡及期間は、一定期間としてもよく、操作者の操作や輸送機器の運動状態に応じて伸縮してもよい。後者の例では、始動時に遡及期間を初期値で設定した後、速度や加速度等が増減するにつれて遡及期間を短くしたり、挙動許容範囲内に収まる運動状態が継続する時間や距離等が長くなるにつれて遡及期間を伸ばしたりするなどが該当する。
【0020】
請求項11に記載の発明は、前記情報記録部は、前記挙動判定部から前記異常挙動信号とともに前記変化時点情報を受けると、前記変化時点情報より前の時点を前記記録開始時点とし、前記検出情報を記録し始めることを特徴とする。この構成によれば、記録開始時点が変化時点情報より前の時点になるので、操作者がどのような操作を行ったのかを記録することができる。よって、輸送機器の異常な挙動を起こす要因をより確実に究明することが可能になる。
【0021】
請求項12に記載の発明は、前記情報記録部は、前記検出情報を記録し始めた後に再び前記異常挙動信号を受けても、前記記録開始時点を変化させることなく記録を継続することを特徴とする。「記録を継続する」には、記録を連続的に行うことや、記録を断続的(不連続的)に行うことを含む。この構成によれば、複数回の異常挙動信号を受けた場合でも記録開始時点が変化しないので、輸送機器の異常な挙動を起こす要因をより確実に究明することが可能になる。
【0022】
請求項13に記載の発明は、前記情報記録部は、前記操作値および前記運動値のうちで一方または双方に応じて、前記検出情報を継続的に記録する際の時間間隔を伸縮することを特徴とする。この構成によれば、操作値(操作者の操作)や運動値(輸送機器の運動状態)に応じて、検出情報を継続的に記録する際の時間間隔(以下では単に「記録間隔」と呼ぶ。)を伸縮する。例えば、高速移動や急な旋回等では記録間隔を縮め、低速移動や緩い旋回等では記録間隔を伸ばす、などが該当する。特に急速な操作や高速運動等では記録間隔を縮めることで、輸送機器に発生した異常な挙動の変化を細かく分析できるようになる。そのため、異常な挙動の要因をより詳細に究明することが可能になる。
【0023】
請求項14に記載の発明は、前記情報記録部によって記録された前記検出情報に基づいて、前記輸送機器に異常な挙動が前記操作者および前記輸送機器のうち一方または双方に依るのかを分析して出力する分析出力部を有することを特徴とする。この構成によれば、輸送機器の異常な挙動を起こす要因を記録(蓄積)された検出情報に基づいて分析され、その結果が伝達機器(例えば表示器,音響装置,外部処理装置等)に出力(伝達)される。よって、操作者の操作であるのか、輸送機器の故障等であるのか、あるいは他の要因であるのかなどが究明し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の構成例を示す模式図である。
【図2】センサの種類と制御装置との関係を説明するブロック図である。
【図3】現時点処理の手続き例を示すフローチャートである。
【図4】推定時点処理の手続き例を示すフローチャートである。
【図5】情報記録分析処理の手続き例を示すフローチャートである。
【図6】減速(ブレーキ操作)に対する適用例を示すタイムチャートである。
【図7】減速(ブレーキ操作)に対する適用例を示すタイムチャートである。
【図8】加速(アクセル操作)に対する適用例を示すタイムチャートである。
【図9】旋回(ステアリング操作)に対する適用例を示すタイムチャートである。
【図10】減速(ブレーキ操作)に対する適用例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、特に明示しない限り、「接続する」という場合には電気的な接続を意味する。各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。
【0026】
本発明(すなわち挙動異常判定器20および情報記録分析装置30)の構成例について、図1と図2を参照しながら説明する。図1には本発明の構成例を模式図で示す。図2にはセンサの種類と制御装置との関係をブロック図で示す。なお、人間や貨物等を輸送可能な「輸送機器」として、車両(特に自動車)を適用した例を説明する。この適用例では、車両を運転する運転者が「操作者」に相当する。
【0027】
図1に示す車両10は、一以上の操作系センサ11と一以上の運動系センサ12とを備える。操作系センサ11は、運転者の操作による操作状態を示す操作値を検出する。運動系センサ12は、車両10の運動状態を示す運動値を検出する。これらの操作系センサ11および運動系センサ12の具体例については後述する(図2を参照)。なお、図1に示す挙動異常判定器20および情報記録分析装置30は、車両10内外のいずれに備えてもよい。車両10の内部に備える例としては、図2に示すECU40等が該当する。車両10の外部に備える例としては、通信回線を介して接続可能な外部処理装置等が該当する。
【0028】
図1に示す挙動異常判定器20は、センサ選択部21、挙動推定部22、時刻記録部23、挙動判定部24などを有する。これらの要素のうち、センサ選択部21および挙動判定部24については個別に必要に応じて備えればよい。
【0029】
挙動推定部22は、操作系センサ11で検出される現時点の操作値と、運動系センサ12で検出される現時点の運動値とに基づいて、現時点より後(つまり近未来)の推定時点における車両10の挙動を示す推定運動値J1を推定する。言い換えれば、操作値および運動値は現在値であり、推定運動値J1は将来値である。推定運動値J1は、可能な全ての運動値を推定してもよく、車両10の運動態様(例えば加速,減速,旋回等)に応じて異なる一以上の運動値を推定してもよい。例えば、運転者が加速のためのアクセル操作や減速のためのブレーキ操作を行った場合には速度,加速度,角速度等を推定する。運転者がステアリング操作を行った場合には速度,舵角,ヨーレート,角度,角速度等を推定する。挙動判定部24は、推定時点に運動系センサ12で検出される運動値が、挙動推定部22で推定した推定運動値J1を基準とする挙動許容範囲外の値になると、車両10に異常な挙動が発生したと判定して挙動異常信号J3を出力する。一方、運動値が推定運動値J1を基準とする挙動許容範囲内の値であれば、挙動異常信号J3を出力しない。
【0030】
センサ選択部21は、車両10の運動態様に応じて、挙動推定部22による推定および挙動判定部24による判定にそれぞれ必要な操作系センサ11および運動系センサ12を選択する。車両10の運動態様に応じて、検出値が大きく変化するセンサを選択するのが望ましい。例えば、加速や減速については速度センサ12aや加速度センサ12c等を選択し、旋回についてはヨーレートセンサ12dやジャイロスコープ12e等を選択する。時刻記録部23は、操作系センサ11で検出される操作値を監視し、単位時間当たりの変化値が変化する前の変化前値を基準とする変化許容範囲外の値になると、単位時間当たりの変化値が変化する時点を示す変化時点情報J2を記録する。
【0031】
また図1に示す情報記録分析装置30は、操作系センサ11および運動系センサ12を用いるとともに、上述した挙動異常判定器20や、情報記録部32などを有する。情報記録部32は、異常挙動信号を受ける受信時点より前(つまり過去)の記録開始時点から、操作系センサ11および運動系センサ12のうちで一以上のセンサで検出される検出情報J4を記録し始める。遡及期間は任意に設定可能であり、一定期間としてもよく、運転者の操作や車両10の運動状態等の条件に応じて伸縮してもよい。伸縮する場合には、例えば速度や加速度等が増すにつれて遡及期間を短くしたり、挙動許容範囲内に収まる運動状態が継続する時間や距離等が長くなるにつれて遡及期間を伸ばしたりする。情報記録部32が記録を終える記録終了時点は任意に設定可能である。例えば、記録開始時点から一定の期間を経過した時点、検出情報J4を記録可能な領域が無くなった時点、記録対象となる一以上の検出情報J4の数値が個々に特定値(例えば速度がゼロや、加速度が設定範囲外の数値等)になった時点などが該当する。当然のことながら、記録開始時点から記録終了時点までに記録可能な検出情報J4の記録量は、記録媒体の記録容量が上限になる。記録媒体は、ハードディスクやEEPROM等の不揮発性メモリを用いるのが望ましい。
【0032】
図2には、挙動異常判定器20および情報記録分析装置30をECU(Electronic Control Unit)40に備える構成例を示す。ECU40に備える他の要素は多様であり、周知でもあるので図示および説明を省略する。この構成例では、「伝達機器」に相当する表示器50をECU40に接続している。以下では、ECU40に接続する操作系センサ11および運動系センサ12の一例について説明する。
【0033】
図2には、操作系センサ11に該当するセンサと、運動系センサ12に該当するセンサとをそれぞれ一点鎖線で囲んで示す。操作系センサ11には、開度センサ11a、ストロークセンサ11b,11c,11d、操舵角センサ11e、ポジションセンサ11fなどのセンサが該当する。運動系センサ12には、速度センサ12a、舵角センサ12b、加速度センサ12c、ヨーレートセンサ12d、ジャイロスコープ12e、カメラ12f、距離センサ12g、角度センサ12hなどのセンサが該当する。各センサの機能を以下に概説するが、当該機能を奏する任意の計測方式を適用してよい。
【0034】
開度センサ11aは、運転者がアクセルペダルを操作して変化するアクセルの開度を検出して出力する。ストロークセンサ11bは、運転者がフットブレーキペダルを操作して変化するブレーキのストローク量を検出して出力する。ストロークセンサ11cは、運転者がサイドブレーキレバーを操作して変化するブレーキのストローク量を検出して出力する。二点鎖線で示すストロークセンサ11dはマニュアル車に備えられ、運転者がクラッチペダルを操作して変化するクラッチのストローク量を検出して出力する。操舵角センサ11eは、運転者がステアリング(ハンドル)を操作して変化する操舵角を検出して出力する。ポジションセンサ11fは、変速操作(例えばシフトレバーやセレクトレバー)等によるポジション(ギアやレンジ等)を検出して出力する。
【0035】
速度センサ12aは、車両10の速度(例えば車輪の回転速度に基づく速度)を検出して出力する。舵角センサ12bは、車両10(例えば車輪)の舵角を検出して出力する。加速度センサ12cは、車両10の加速度(例えば車輪の回転速度に基づく加速度)を検出して出力する。ヨーレートセンサ12dは、車両10のヨーレートを検出して出力する。ジャイロスコープ12eは、車両10の角速度(あるいは回転角)を検出して出力する。カメラ12fは、車両10の周囲(特に進行方向前方側)にかかる画像または映像を撮像する。距離センサ12gは、車両10と物体との相対距離(例えば先行車両との車間距離等)を検出して出力する。「物体」は、自車の車両10を除く全ての物体である。例えば、他の車両、構造物(建築物を含む)、設置物(標識,信号機,ガードレール等)、動物(人間を含む)などが該当する。相対距離の検出法は任意である。例えば、検出波(例えば光,電波,音波等)の発信/受信による検出や、カメラ12fで撮像した画像の解析による検出などが該当する。角度センサ12hは、車両10の角度(ロール角やピッチ角等の傾斜角)を検出する。ロール角によってバンクの程度が分かり、ピッチ角によって前傾や後傾の程度が分かる。
【0036】
上述したECU40において、車両10の異常な挙動を検出するための処理手続き例について、図3〜図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。図3には現時点処理の手続き例を示す。当該図3に示すステップS11はセンサ選択部21に相当し、ステップS13は挙動推定部22および挙動推定工程に相当し、ステップS15,S16は時刻記録部23に相当する。図4には推定時点処理の手続き例を示し、当該推定時点処理は挙動判定部24に相当する。図5には情報記録分析処理の手続き例を示す。当該図5に示すステップS30〜S39は情報記録部32に相当し、ステップS40は分析出力部31に相当する。なお、ある時点では、現時点処理と推定時点処理とを並行して実行する。
【0037】
図3に示す現時点処理は、現時点から推定期間だけ先の推定時点における車両10の挙動を推定することを目的とする。具体的には、各センサの検出情報を取得し〔ステップS12〕、取得した検出情報(操作値や運動値)に基づいて推定運動値J1を推定する〔ステップS13〕。ステップS12では、操作系センサ11で検出される検出情報が現時点の操作値になり、運動系センサ12で検出される検出情報が現時点の運動値になる。ステップS13で推定する推定運動値J1は、現時点から推定期間を経過した後の推定時点における車両10の挙動を示す一以上の運動値である。運動値が速度である場合を例にすると、現時点で車両10が停止しているとき(運動値の速度がゼロ)、運転者がアクセルを操作した際の開度(操作値)に基づいて、推定時点における車両10の速度(運動値)を推定する。同様にして運動値が角速度である場合を例にすると、現時点で車両10が走行中(一定速度で直進中ならば運動値の角速度はゼロ)に、運転者がステアリング操作やブレーキ操作等をした際の操舵角(操作値)に基づいて、推定時点における車両10の角速度(運動値)を推定する。これらは単純化した例であり、実際には一以上の操作値および一以上の運動値に基づいてマップ等を参照したり関数式を演算するなどして推定時点における所要の運動値を推定する。例えば、運転者がアクセル操作やブレーキ操作を行った場合には速度,加速度,角速度等を推定する。同様に、運転者がステアリング操作を行った場合には速度,舵角,ヨーレート,角度,角速度等を推定する。
【0038】
ステップS12で取得した操作値について単位時間当たりの変化値を算出し、算出した変化値が変化する前の変化前値を基準とする変化許容範囲外の値になると(ステップS15でYES)、変化時点情報を記録する〔ステップS16〕。変化時点情報は、単位時間当たりの変化値が変化する時点(言い換えれば前回操作値を取得した時点)を表す日時や時刻等の情報である。一方、変化値が変化許容範囲内のときや(ステップS15でNO)、ステップS16を実行した後は、いずれも現時点処理を終えてリターンする。
【0039】
なお、図3に二点鎖線で示すステップS10,S11とステップS14とをそれぞれ必要に応じて実行してもよい。すなわち、ステップS10では車両10の運動態様を特定する。例えば、運転者がアクセル操作を行った場合には運動態様を「加速」と特定し、ブレーキ操作を行った場合には運動態様を「減速」と特定し、ステアリング操作を行った場合には運動態様を「旋回」と特定するなどが該当する。
【0040】
ステップS11では、ステップS10で特定した運動態様に基づいて操作値や運動値を取得するセンサを選択する。どのセンサを選択するのかは任意に設定可能である。一例として、車両10の運動態様が「加速」または「減速」の場合には、開度センサ11a、ストロークセンサ11b,11c,11d、ポジションセンサ11f、速度センサ12a、加速度センサ12c、ジャイロスコープ12e、カメラ12f、距離センサ12g、角度センサ12h(ピッチ角)などを選択する。運動態様が「旋回」の場合には、操舵角センサ11e、舵角センサ12b、ヨーレートセンサ12d、ジャイロスコープ12e、カメラ12f、角度センサ12h(ロール角)などを選択する。ステップS11によってセンサが選択される場合には、ステップS12は選択されたセンサの検出情報を取得する。
【0041】
ステップS14では、ステップS12で取得した検出情報(操作値や運動値)に基づいて推定期間を設定したり伸縮したりする。推定期間の伸縮方法は任意に設定可能である。始動時には推定期間を初期値で設定する。操作値については開度や操舵角等が対象となり、運動値では速度,舵角,加速度,角速度等が対象となる。操作値や運動値が増加するにつれて推定期間を短縮したり、減少するにつれて推定期間を伸張したりする。挙動許容範囲内に収まる運動状態が継続する時間や距離等が長くなるにつれて推定期間を伸張したり、短くなるにつれて推定期間を短縮したりする。
【0042】
次に図4に示す推定時点処理は、前回の現時点(すなわち過去の時点)で推定された推定運動値J1に基づいて車両10に異常な挙動が発生したか否かの判定を目的とする。具体的には、前回の現時点から推定期間を経過して推定時点に達すると(ステップS20でYES)、運動系センサ12で検出される検出情報(運動値)を取得し〔ステップS22〕、車両10に異常な挙動が発生したか否かの判定を行う〔ステップS24,S25〕。
【0043】
すなわち、ステップS22で取得した運動値が図3のステップS13で推定した推定運動値J1を基準とする挙動許容範囲外の値になったか否か〔ステップS24〕、挙動許容範囲外の値になってから所定期間内に挙動許容範囲内に収まるか否かで判別する〔ステップS25〕。ステップS24の挙動許容範囲は、固定範囲(例えば百分率等のような比率で指定する範囲)で設定してもよく、可変範囲(境界値で指定する範囲)で設定してもよい。ステップS25の所定期間は、運動値が挙動許容範囲外の値になった時点を始期とする期間である。この所定期間は、一定期間(例えば100[ミリ秒間]等)としてもよく、推定期間と同様に車両10の運動状態に応じて伸縮する期間としてもよい。
【0044】
運動値が挙動許容範囲外の値になり(ステップS24でYES)、所定期間内に挙動許容範囲に収まらなければ(ステップS25でNO)、車両10に異常な挙動が発生したとみなして挙動異常信号J3を出力する〔ステップS26〕。ステップS25を省略することも可能であり、この場合には運動値が挙動許容範囲外の値になるとすぐにステップS26を実行する。ステップS26では、ステップS16で記録された変化時点情報J2を併せて出力するのが望ましい。この場合は、挙動異常信号J3に変化時点情報J2を含めて出力してもよく、個別に出力してもよい。
【0045】
一方、前回の現時点から推定期間を経過していないとき(ステップS20でNO)、運動値が挙動許容範囲内のとき(ステップS24でNO)、所定期間内に挙動許容範囲に収まったとき(ステップS25でYES)、ステップS26を実行した後は、いずれも推定時点処理を終えてリターンする。
【0046】
なお、図4に二点鎖線で示すステップS21とステップS23とをそれぞれ必要に応じて実行してもよい。すなわちステップS21では、運動系センサ12ごとに比率や境界値等を用いて挙動許容範囲を設定する。ステップS23では、ステップS22で取得する運動値に応じて挙動許容範囲の境界値を変化させる。運動値は、例えば速度,舵角,加速度,ヨーレート,角速度のうちで一以上が該当する。境界値は、例えば運動値が増加するにつれて挙動許容範囲が広くなるように境界値を変化させ、減少するにつれて挙動許容範囲が狭くなるように境界値を変化させる。
【0047】
次に図5に示す情報記録分析処理は、挙動異常信号J3に基づいて操作系センサ11や運動系センサ12の検出情報(操作値や運動値)を記録媒体に記録(蓄積)することを目的とする。挙動異常信号J3はいつ出力されるのか分からない。そのため、記録媒体の記録容量を上限として、車両10に備えられたセンサの全部または一部で検出した検出情報J4を取得して記録媒体に記録して蓄積する〔ステップS30〕。
【0048】
図4のステップS26で出力される挙動異常信号J3を受けたか否かを判別する〔ステップS31〕。未だ挙動異常信号J3を受けていないときは(NO)、情報記録分析処理を終えてリターンする。一方、挙動異常信号J3を受けると(YES)、車両10に発生した異常な挙動の要因を分析可能とする記録処理を行う(ステップS32〜S39)。
【0049】
上述した記録処理は、記録開始時点を特定(もしくは変更)し〔ステップS32〕、検出情報J4の記録容量をより多く確保するために記録開始時点より前(過去)の記録を破棄または消去する〔ステップS33〕。そして、未だ記録終了条件を満たさないことを条件として(ステップS35でNO)、操作系センサ11および運動系センサ12のうちで全部または一部のセンサにかかる検出情報J4を取得して記録媒体に記録(蓄積)する〔ステップS36〕。ステップS35の記録終了条件は任意に設定することができる。例えば、挙動異常信号を受けてから所定の記録期間(例えば5分や30分等)を経過したこと、記録対象となる検出情報J4の数値が特定値(例えば速度がゼロ等)になったことなどが該当する。例外として、記録媒体の記録可能な容量が無くなったことが該当する。ステップS36で記録する検出情報J4は、全部のセンサを対象とするのが望ましい。一部のセンサにする場合には、図3のステップS11で選択するセンサが望ましい。また、検出情報J4は、カメラ12fで検出する画像や映像とシンクロさせるとなお良い。
【0050】
ステップS36の記録は、記録間隔ごとに〔ステップS37〕、記録開始時点の後に挙動異常信号J3を受けず(ステップS38でNO)、記録終了条件を満たさなければ(ステップS35でNO)、繰り返し行うことで蓄積する。ステップS37の記録間隔(図6〜図8に示すP1)は、任意の長さに設定することができる。すなわち記録間隔は、推定期間よりも長い期間を設定してもよく、短い期間を設定してもよい。なお、後述するステップS34を適宜実行することにより、記録間隔を伸縮することも可能である。
【0051】
ただし、記録開始時点の後に挙動異常信号J3を受け(ステップS38でYES)、かつ、併せて受けた変化時点情報J2の重要度がステップS31で受けた変化時点情報J2の重要度よりも高ければ(ステップS39でYES)、ステップS38で受けた挙動異常信号J3に基づいて記録開始時点を変更するためにステップS32に戻り、以降は上述した手続きを繰り返す。
【0052】
そして、記録終了条件を満たすと(ステップS35でYES)、検出情報J4の記録を終える。さらに、記録媒体に記録された検出情報J4に基づいて車両10に発生した異常な挙動の要因を分析し、その分析結果を表示器50に出力(伝達)して表示した後〔ステップS40〕、情報記録分析処理を終えてリターンする。なお必要に応じて、ステップS40では記録媒体に記録された検出情報J4を表示器50に出力してもよい。
【0053】
なお、図5に二点鎖線で示すステップS34を必要に応じて実行してもよい。すなわちステップS34では、ステップS30またはステップS36で取得した検出情報J4(操作値や運動値)に基づいて記録間隔を伸縮する。記録間隔の伸縮方法は任意に設定可能である。始動時には記録間隔を初期間隔で設定する。高速移動や急な旋回等では記録間隔を短縮したり、低速移動や緩い旋回等では記録間隔を伸張したりする。
【0054】
上述のように構成されたECU40(挙動異常判定器20および情報記録分析装置30)の適用例について、図6〜図10に示すタイムチャートを参照しながら説明する。図6,図7,図10には減速(ブレーキ操作)に対する適用例を示す。図8には加速(アクセル操作)に対する適用例を示す。図9には旋回(ステアリング操作)に対する適用例を示す。
【0055】
なお、実際の車両10は短時間でも運動態様が様々に変化するが、理解し易くするために操作や運動を単純化する。車両10には、オートマチック車の例を示す。また、検出情報J4が継続して記録媒体に記録された期間を斜線ハッチで示す。適用例1〜3は車両10側に要因がある場合を示し、適用例4は運転者側に要因がある場合を示す。
【0056】
〔適用例1〕
適用例1は、運転者がブレーキ操作で車両10を減速させる場合であり、図6と図7を参照しながら説明する。図6には検出情報J4が記録される例を示し、図7には検出情報J4が記録されない例を示す。図6と図7は、いずれも上から順番に、アクセル操作(アクセルペダル)による開度、ブレーキ操作(フットブレーキのブレーキペダル)によるストローク量、車両10の加速度、車両10の速度(車速)、車両10の変速操作(セレクトレバー)によるポジション、情報記録部32による検出情報J4の記録をそれぞれ示す。加速度と速度の変化は、現時点の変化を実線で示し、推定時点の変化を二点鎖線で示す。具体的には、加速度を特性線C2で示し、速度を特性線D2で示す。各特性線は、直線や曲線等で個々に規定される線である。挙動許容範囲は、いずれも細線の二点鎖線で示す。具体的には、加速度の上限値を特性線C1で示し、下限値を特性線C3で示す。同様に速度の上限値を特性線D1で示し、下限値を特性線D3で示す。なお、特性線D1,D3(境界値)は、速度が増加すると範囲が広くなり、速度が減少すると範囲が狭くなるように変化させている(図4のステップS23)。
【0057】
図6において、運転者は、車両10を定速走行中に開度「A1」であったアクセルペダルを時刻t12に離し、時刻t13以降はフットブレーキのブレーキペダルをストローク量「B1」になるまで踏み込む操作を行っている。これらの操作により、時刻t12からのアクセル操作と、時刻t13からのブレーキ操作とが、ともに変化許容範囲外となるため(図3のステップS15でYES)、時刻t12,t13の各時刻がそれぞれ変化時点情報として記録される(図3のステップS16)。なお、セレクトレバーによる変速操作は行われず、「ドライブ」のポジションのままである。
【0058】
上述した操作に伴って、速度センサ12aで検出する速度と、加速度センサ12cで検出する加速度とが変化する。図示しない運動系センサ12の中には変化するものもある。これらの検出情報は推定期間P2ごとに取得する(図3のステップS12,図4のステップS22)。推定期間P2は、一例として図6では時刻t14から時刻t15までの期間で示す。車両10の挙動が正常であるときは、二点鎖線の特性線D2で示すように、時刻t17で速度がゼロとなって停止する筈である。ところが実線の特性線D2で示すように、時刻t15には挙動許容範囲の上限値(特性線D1)を超えている(図4のステップS24でYES)。しかも、時刻t15から所定期間P3を経過する時刻t16までに挙動許容範囲内に収まらないので(図4のステップS25でNO)、挙動異常信号J3を出力する(図4のステップS26)。
【0059】
挙動異常信号J3を受けて(図5のステップS31でYES)、ブレーキ操作の前に行われたアクセル操作(時刻t12)が基準となり、当該時刻t12より前の時刻t10を「記録開始時点」として特定する(図5のステップS32)。そのため、時刻t10から記録間隔P1ごとに(図5のステップS37)、操作系センサ11および運動系センサ12のうちで全部または一部のセンサにかかる検出情報J4を取得して記録媒体に記録して蓄積する(図5のステップS36)。よって、挙動異常信号J3を受けた時刻t15から時刻t10まで遡及期間P4だけ遡って検出情報J4の記録が残され、時刻t10より前の記録は消去される(図5のステップS33)。なお、記録間隔P1は、一例として図6では時刻t10から時刻t11までの間隔で示す。
【0060】
時刻t10以降に継続して記録媒体に記録(蓄積)された検出情報J4に基づいて、車両10に生じた異常な挙動を分析すると(図5のステップS40)、次のようになる。時刻t12にアクセルが戻されて惰性運動し、時刻t12から時刻t13の間は速度が逓減しているので、この挙動に異常は認められない。しかし、時刻t13からブレーキ操作が行われているにもかかわらず、速度があまり低下していない。この挙動によれば、ブレーキ系統に異常が生じたことが要因とする結果を表示器50に出力して表示する(図5のステップS40)。
【0061】
図7に示す例は、運転者が行う操作が図6と同じである。図6と同様に、時刻t15には推定時点の速度(特性線D2)が挙動許容範囲の上限値(特性線D1)を超える(図4のステップS24でYES)。ところが、時刻t15から所定期間P3を経過する前に速度(特性線D2)が挙動許容範囲内に収まったので(図4のステップS25でYES)、挙動異常信号J3を出力しない。そのため、車両10に異常な挙動が発生したことを前提とする検出情報J4の記録は行わない(図5のステップS31でNO)。なお、車両10は速度(特性線D2)がゼロとなる時刻t18で停止する。
【0062】
〔適用例2〕
適用例2は、運転者がアクセル操作で車両10を加速させる場合であり、図8を参照しながら説明する。図8は、いずれも上から順番に、アクセル操作による開度、フットブレーキのブレーキ操作によるストローク量、サイドブレーキのブレーキ操作によるストローク量、車両10の速度(車速)、車両10の変速操作によるポジション、情報記録部32による検出情報J4の記録をそれぞれ示す。速度および挙動許容範囲の変化は、図6および図7と同様の形態で示す。
【0063】
図8において、運転者は、フットブレーキおよびサイドブレーキをかけた状態でセレクトレバーを操作し、「パーキング」から「ドライブ」にポジションを変更している(時刻t20あたり)。そして、ブレーキレバーを操作してストローク量が「B3」であったサイドブレーキを時刻t22に解除し、ブレーキペダルを操作してストローク量が「B2」であったフットブレーキを時刻t23に解除している。さらに、時刻t25からアクセルペダルを操作し始め、時刻t29には開度「A2」にしている。これらの操作により、時刻t22,t23からのブレーキ操作と、時刻t25からのアクセル操作とが、ともに変化許容範囲外となるため(図3のステップS15でYES)、時刻t22,t23,t25の各時刻がそれぞれ変化時点情報として記録される(図3のステップS16)。
【0064】
上述した操作に伴って、速度センサ12aで検出する速度が変化する。図示しない運動系センサ12の中には変化するものもある。これらの検出情報は推定期間P2ごとに取得する(図3のステップS12,図4のステップS22)。推定期間P2は、一例として図8では時刻t26から時刻t27までの期間で示す。車両10の挙動が正常であるときは、フットブレーキが解除された時刻t24から動き始め、二点鎖線の特性線D2で示すような上昇をする筈である。ところが実線の特性線D2で示すように、フットブレーキを解除してもクリープ現象が現れず、時刻t25にアクセル操作をし始めてからようやく動き出している。そして、時刻t27には挙動許容範囲の下限値(特性線D3)を下回っている(図4のステップS24でYES)。しかも、時刻t27から所定期間P3を経過する時刻t28までに挙動許容範囲内に収まらないので(図4のステップS25でNO)、挙動異常信号J3を出力する(図4のステップS26)。
【0065】
挙動異常信号J3を受けて(図5のステップS31でYES)、アクセル操作の前に行われたブレーキ操作(時刻t23)が基準となり、当該時刻t23より前の時刻t20を「記録開始時点」として特定する(図5のステップS32)。そのため、時刻t20から記録間隔P1ごとに(図5のステップS37)、操作系センサ11および運動系センサ12のうちで全部または一部のセンサにかかる検出情報J4を取得して記録媒体に記録して蓄積する(図5のステップS36)。よって、挙動異常信号J3を受けた時刻t27から時刻t20まで遡及期間P4だけ遡って検出情報J4の記録が残され、時刻t20より前の記録は消去される(図5のステップS33)。なお、記録間隔P1は、一例として図8では時刻t20から時刻t21までの間隔で示す。
【0066】
時刻t20以降に継続して記録媒体に記録(蓄積)された検出情報J4に基づいて、車両10に生じた異常な挙動を分析すると(図5のステップS40)、次のようになる。時刻t23に全てのブレーキが解除されても、クリープ現象が生じていない。また、時刻t25からアクセル操作が行われているにもかかわらず、速度があまり増加していない。これらの挙動によれば、ブレーキ系統(例えばブレーキパッドの不具合やブレーキオイル漏れ等)またはエンジン系統(例えば燃料噴射装置やキャブレターの不具合等)で異常が生じたことが要因とする結果を表示器50に出力して表示する(図5のステップS40)。
【0067】
〔適用例3〕
適用例3は、運転者がステアリング操作で車両10を旋回させる場合であり、図9を参照しながら説明する。図9は、いずれも上から順番に、ステアリング操作(ハンドル)による操舵角、車両10の車輪の舵角、車両10のヨーレート、車両10の変速操作によるポジション、情報記録部32による検出情報J4の記録をそれぞれ示す。なお、舵角はヨーレートよりも重要度が高く設定されていると仮定する。
【0068】
図9において、運転者は車両10の走行中にコーナーやカーブ等を曲がるため、時刻t32からハンドルを一方向(例えば左方向)に緩やかに操舵角が「DL」まで回した後、時刻t37から逆方向(例えば右方向)にやや速めに回し、時刻t38には元の直進可能な位置に戻している。この操作により、時刻t32からのステアリング操作が変化許容範囲外となるため(図3のステップS15でYES)、時刻t32の時刻が変化時点情報として記録される(図3のステップS16)。
【0069】
上述した操作に伴って、舵角センサ12bで検出する車輪の舵角と、ヨーレートセンサ12dで検出するヨーレートとが変化する。図示しない運動系センサ12の中には変化するものもある。これらの検出情報は推定期間P2ごとに取得する(図3のステップS12,図4のステップS22)。推定期間P2は、一例として図9では時刻t33から時刻t34までの期間で示す。車両10の挙動が正常であるときは、二点鎖線の特性線E2,F2で示すように、ステアリング操作に合わせた変化をする筈である。ところが、実線の特性線E2で示すように、舵角およびヨーレートは全く変化していない。そして、時刻t34には舵角について挙動許容範囲の下限値(特性線E3)を下回っている(図4のステップS24でYES)。しかも、時刻t34から所定期間P3を経過する時刻t35までに挙動許容範囲内に収まらないので(図4のステップS25でNO)、挙動異常信号J3を出力する(図4のステップS26)。また、時刻t36にはヨーレートについて挙動許容範囲の上限値(特性線F1)を超えている(図4のステップS24でYES)。
【0070】
挙動異常信号J3を受けて(図5のステップS31でYES)、ステアリング操作(時刻t32)が基準となり、当該時刻t32より前の時刻t30を「記録開始時点」として特定する(図5のステップS32)。そのため、時刻t30から記録間隔P1ごとに(図5のステップS37)、操作系センサ11および運動系センサ12のうちで全部または一部のセンサにかかる検出情報J4を取得して記録媒体に記録して蓄積する(図5のステップS36)。よって、挙動異常信号J3を受けた時刻t34から時刻t30まで遡及期間P4だけ遡って検出情報J4の記録が残され、時刻t30より前の記録は消去される(図5のステップS33)。なお、記録間隔P1は、一例として図9では時刻t30から時刻t31までの間隔で示す。また、ヨーレートについても時刻t35より後に挙動異常信号J3が出力されるが、仮定によりヨーレートは舵角よりも重要度が低いので(図5のステップS39でNO)、記録開始時点は変化しない。
【0071】
時刻t30以降に継続して記録媒体に記録(蓄積)された検出情報J4に基づいて、車両10に生じた異常な挙動を分析すると(図5のステップS40)、次のようになる。時刻t32からステアリング操作が行われても、舵角やヨーレートが変化していない。これらの挙動によれば、ステアリング(ハンドル)から車輪までの操舵系統で異常が生じたことが要因とする結果を表示器50に出力して表示する(図5のステップS40)。
【0072】
〔適用例4〕
適用例4は、適用例1と同様に、運転者がブレーキ操作で車両10を減速させる場合であり、図10を参照しながら説明する。本例では、スリップし易い路面(例えば凍結路面や未舗装路面等)でブレーキ操作を行う場合を想定する。図10は、図6と同様に検出情報J4が記録される例を示すが、角度センサ12hによって検出されるピッチ角を追加する。なお、図6に示す要素と同一の要素には同一符号を付して、説明を省略する。
【0073】
図10において、運転者は、時刻t13以降にフットブレーキのブレーキペダルをストローク量「B1」になるまで踏み込む操作を行っている。このブレーキ操作に伴って、速度センサ12aが車輪の回転を検出して得られる速度は急激に低下し、時刻t43には「0」になっている。これに対して、加速度は、一時的にややマイナス値を示すものの、時刻t43以降は「0」に戻っている。ピッチ角は、ブレーキ操作を始めた直後に一時的に「E1」となって車両10がやや前傾するものの、すぐに「0」に戻っている。
【0074】
上述した操作や挙動に伴って、速度センサ12aで検出する速度は特性線D2で示すように急激に低下するので、時刻t41には挙動許容範囲の下限値(特性線D3)を下回る(図4のステップS24でYES)。しかも、時刻t41から所定期間P3を経過する時刻t42までに挙動許容範囲内に収まらないので(図4のステップS25でNO)、挙動異常信号J3を出力する(図4のステップS26)。
【0075】
挙動異常信号J3を受けて(図5のステップS31でYES)、時刻t10を「記録開始時点」として特定し(図5のステップS32)、時刻t10から記録間隔P1ごとに検出情報J4を取得して記録媒体に記録して蓄積する点は適用例1と同じである(図5のステップS36,S37)。時刻t10以降に継続して記録媒体に記録(蓄積)された検出情報J4に基づいて、車両10に生じた異常な挙動を分析すると(図5のステップS40)、次のようになる。時刻t13以降に行われるブレーキ操作に伴って、速度センサ12aで検出される速度は急減しているにもかかわらず、加速度やピッチ角に大きな変化がみられない。この挙動は、車両10が路面上をスリップしていることを示す。よって、車両10の諸機能は正常であり、運転者のブレーキ操作が要因である結果を表示器50に出力して表示する(図5のステップS40)。
【0076】
上述した実施の形態によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、挙動異常判定器20において、操作系センサ11で検出される現時点の操作値と、運動系センサ12で検出される現時点の運動値とに基づいて、現時点より後の推定時点における車両10の挙動を示す推定運動値J1を推定する挙動推定部22と、推定時点に運動系センサ12で検出される運動値が、状態推定部で推定した推定運動値J1を基準とする挙動許容範囲外の値になると、車両10に異常な挙動が発生したと判定して挙動異常信号J3を出力する挙動判定部24とを有する構成とした(図1を参照)。この構成によれば、車両10の異常な挙動の要因となる事象を判定して信号を出力する。よって、当該信号に基づく前後期間の各種情報を記録しておくことによって、車両10に発生した異常な挙動の要因を究明することが可能になる。
【0077】
請求項2に対応し、操作系センサ11で検出される操作値を監視し、単位時間当たりの変化値が変化する前の変化前値を基準とする変化許容範囲外の値になると、単位時間当たりの変化値が変化する時点を示す変化時点情報J2を記録する時刻記録部23と、挙動判定部24は、挙動異常信号J3とともに、時刻記録部23によって記録された変化時点情報J2を出力する構成とした(図1を参照)。この構成によれば、挙動異常信号J3によって車両10に異常な挙動が発生したことが分かり、変化時点情報J2によって異常な挙動の開始時点が分かる。この開始時点以前の時点から各種センサで検出される情報を記録することによって、異常な挙動の要因をより究明し易くなる。
【0078】
請求項3に対応し、挙動判定部24は、運動系センサ12で検出される運動値が挙動許容範囲外の値になっても、所定期間P3内に挙動許容範囲内の値に戻る場合には、挙動異常信号J3を出力しない構成とした(図1,図4のステップS25,図6〜図10を参照)。この構成によれば、運動値が一時的に異常値となっても所定期間P3内に正常値に戻る(すなわち挙動許容範囲に収まる)場合には、外乱による影響があったとみなして挙動異常信号J3を出力しない。したがって、外乱の影響を排除できるので不要な情報の記録を抑制し、異常な挙動の要因が究明し易くなる。
【0079】
請求項4に対応し、挙動判定部24は、運動系センサ12で検出される速度,舵角,加速度,ヨーレート,角速度,角度,距離のうちで一以上の運動値に応じて、挙動許容範囲を規定する境界値を変化させる構成とした(図1,図4のステップS23,図6〜図10を参照)。この構成によれば、運動値に応じた適切な挙動許容範囲を規定することができるので、的確に挙動異常信号J3を出力できる。
【0080】
請求項5に対応し、挙動判定部24は、運動系センサ12に応じて異なる挙動許容範囲を設定する構成とした(図1,図4のステップS21,図6〜図10を参照)。この構成によれば、運動系センサ12の特性に合わせて異なる挙動許容範囲を設定するので、全ての運動系センサ12について、挙動異常信号J3の出力を適切に行える。そのため、運動系センサ12の特性によらず、異常な挙動の要因が究明し易くなる。
【0081】
請求項6に対応し、挙動推定部22は、操作値および運動値のうちで一方または双方に応じて、推定期間P2を伸縮させる構成とした(図1,図4のステップS23,図6〜図10を参照)。この構成によれば、操作値(運転者の操作)や運動値(車両10の運動状態)に応じて推定期間P2を伸縮する。例えば、高速移動や急な旋回等では推定期間P2を縮め、低速移動や緩い旋回等では推定期間P2を伸ばす、などが該当する。特に急速な操作や高速運動等では推定期間P2を縮めることで、車両10に異常な挙動が発生した時点をより正確に特定して挙動異常信号J3を出力することができる。こうして異常な挙動が発生した時点がより正確になるので、異常な挙動の要因が究明し易くなる。
【0082】
請求項7に対応し、車両10の運動態様に応じて、挙動推定部22による推定および挙動判定部24による判定にそれぞれ必要な操作系センサ11および運動系センサ12を選択するセンサ選択部21を有する構成とした(図1,図3のステップS11,図6〜図10を参照)。この構成によれば、センサ選択部21が大きく数量が変化するセンサを適切に選択するので、挙動推定部22による推定や挙動判定部24による判定の精度を高めることができる。
【0083】
請求項8に対応し、操作系センサ11は、開度センサ11a、ストロークセンサ11b,11c,11d、操舵角センサ11e、ポジションセンサ11fなどのうちで一以上を備える構成とした。また、運動系センサ12は、速度センサ12a、舵角センサ12b、加速度センサ12c、ヨーレートセンサ12d、ジャイロスコープ12e、カメラ12f、距離センサ12g、角度センサ12hなどのうちで一以上を備える構成とした(図2を参照)。この構成によれば、挙動推定部22による推定や挙動判定部24による判定を確実に行える。
【0084】
請求項9に対応し、挙動異常判定方法において、操作系センサ11で検出される現時点の操作値と、運動系センサ12で検出される現時点の運動値とに基づいて、現時点より後の推定時点における車両10の挙動を示す推定運動値J1を推定する挙動推定工程と(図3のステップS13を参照)、推定時点に運動系センサ12で検出される運動値が、状態推定部で推定した推定運動値J1を基準とする挙動許容範囲外の値になると、車両10に異常な挙動が発生したことを示す挙動異常信号J3を出力する挙動判定工程とを有する構成とした(図4を参照)。この構成によれば、車両10の異常な挙動の要因となる事象を判定して信号を出力する。そのため、当該信号に基づく前後期間の検出情報J4を記録しておけば、異常な挙動の要因が容易に究明することが可能になる。
【0085】
請求項10に対応し、情報記録分析装置30において、情報記録部32は、挙動異常信号J3を受ける受信時点より前(つまり過去)の記録開始時点から、操作系センサ11および運動系センサ12のうちで一以上のセンサで検出される検出情報J4を記録し始める構成とした(図5のステップS32,S33を参照)。この構成によれば、車両10に発生した異常な挙動の要因となる記録開始時点から検出情報J4を記録(蓄積)し始めるので、当該異常な挙動の要因を究明することが可能になる。
【0086】
請求項11に対応し、情報記録部32は、挙動判定部24から挙動異常信号J3とともに変化時点情報J2を受けると、変化時点情報J2より前の時点を記録開始時点とし、検出情報J4を記録し始める構成とした(図5のステップS32,S33)。この構成によれば、記録開始時点が変化時点情報J2より前の時点になるので、運転者がどのような操作を行ったのかを記録することができる。よって、車両10の異常な挙動を起こす要因をより確実に究明することが可能になる。
【0087】
請求項12に対応し、情報記録部32は、検出情報J4を記録し始めた後に再び挙動異常信号J3を受けても、記録開始時点を変化させることなく記録を継続する構成とした(図5を参照)。この構成によれば、複数回の挙動異常信号J3を受けた場合でも記録開始時点が変化しないので、車両10の異常な挙動を起こす要因をより確実に究明することが可能になる。
【0088】
請求項13に対応し、情報記録部32は、操作値および運動値のうちで一方または双方に応じて、記録間隔P1を伸縮する構成とした(図5のステップS34を参照)。この構成によれば、特に急速な操作や高速運動等では記録間隔を縮めることで、車両10に発生した異常な挙動の変化を細かく分析できるようになる。そのため、挙動に対応して検出情報J4の記録量を適正化し、異常な挙動の要因をより詳細に究明することが可能になる。
【0089】
請求項14に対応し、情報記録部32によって記録された検出情報J4に基づいて、車両10に異常な挙動が運転者および車両10のうち一方または双方に依るのかを分析して結果を表示器50(伝達機器)に出力する分析出力部31を有する構成とした(図1,図2,図5のステップS40を参照)。この構成によれば、車両10の異常な挙動を起こす要因は、運転者の操作であるのか、車両10の故障等であるのか、あるいは他の要因であるのかなどが究明し易くなる。
【0090】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0091】
上述した実施の形態では、輸送機器として車両10を適用した(図1〜図10を参照)。この形態に代えて、車両10以外の他の輸送機器にも同様に適用することが可能である。他の輸送機器は、例えば航空機や船舶などが該当する。単に構造上の違いに過ぎず、人間や貨物等を輸送可能であるので、上述した実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0092】
上述した実施の形態では、ECU40は挙動異常判定器20および情報記録分析装置30の双方を備える構成とした(図2を参照)。この形態に代えて、挙動異常判定器20および情報記録分析装置30のうちで一方または双方を、ECU40以外の車両10内や、車両10外に備える構成としてもよい。単に配置の違いに過ぎないので、上述した実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0093】
上述した実施の形態では、推定時点で検出する運動値が推定運動値J1の挙動許容範囲外の値になると挙動異常信号J3を出力し、挙動許容範囲内の値では挙動異常信号J3を出力しない構成とした(図4のステップS24,S26を参照)。この形態に代えて、挙動許容範囲内の値では挙動正常信号を出力する構成としてもよい。情報記録分析装置30では挙動異常信号J3を受けて記録を行うので(図5のステップS31を参照)、上述した実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0094】
上述した実施の形態では、伝達機器として表示器50を適用した(図2を参照)。この形態に代えて(あるいは加えて)、表示器50を除いた他の伝達機器を適用してもよい。他の伝達機器は、例えば車両10(輸送機器)内に備えられた他のECUを含む処理装置や、スピーカ等の音響装置、信号線や通信回線等を介して接続されるコンピュータやサーバー等の外部処理装置などが該当する。他の伝達機器であっても、車両10に発生した異常な挙動の要因についての分析結果や、分析対象となる検出情報J4を得ることができる。よって、上述した実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0095】
10 車両(輸送機器)
11 操作系センサ
11a 開度センサ
11b,11c,11d ストロークセンサ
11e 操舵角センサ
11f ポジションセンサ
12 運動系センサ
12a 速度センサ
12b 舵角センサ
12c 加速度センサ
12d ヨーレートセンサ
12e ジャイロスコープ
12f カメラ
12g 距離センサ
12h 角度センサ
20 挙動異常判定器
21 センサ選択部
22 挙動推定部
23 時刻記録部
24 挙動判定部
30 情報記録分析装置
31 分析出力部
32 情報記録部
40 ECU(制御装置)
50 表示器(伝達機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者の操作による操作状態を示す操作値を検出する一以上の操作系センサと、輸送機器の運動状態を示す運動値を検出する一以上の運動系センサと、を備える前記輸送機器に異常な挙動が発生したか否かを判定する挙動異常判定器において、
前記操作系センサで検出される現時点の操作値と、前記運動系センサで検出される現時点の運動値とに基づいて、前記現時点より後の推定時点における前記輸送機器の挙動を示す推定運動値を推定する挙動推定部と、
前記推定時点に前記運動系センサで検出される運動値が、前記挙動推定部で推定した前記推定運動値を基準とする挙動許容範囲外の値になると、前記輸送機器に異常な挙動が発生したと判定して挙動異常信号を出力する挙動判定部と、
を有することを特徴とする挙動異常判定器。
【請求項2】
前記操作系センサで検出される操作値を監視し、単位時間当たりの変化値が変化する前の変化前値を基準とする変化許容範囲外の値になると、前記単位時間当たりの変化値が変化する時点を示す変化時点情報を記録する時刻記録部と、
前記挙動判定部は、前記挙動異常信号とともに、前記時刻記録部によって記録された前記変化時点情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の挙動異常判定器。
【請求項3】
前記挙動判定部は、前記運動系センサで検出される運動値が前記挙動許容範囲外の値になっても、所定期間内に前記挙動許容範囲内の値に戻る場合には、前記挙動異常信号を出力しないことを特徴とする請求項1または2に記載の挙動異常判定器。
【請求項4】
前記挙動判定部は、前記運動系センサで検出される速度,舵角,加速度,ヨーレート,角速度,角度,距離のうちで一以上の運動値に応じて、前記挙動許容範囲を規定する境界値を変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の挙動異常判定器。
【請求項5】
前記挙動判定部は、前記運動系センサに応じて異なる前記挙動許容範囲を設定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の挙動異常判定器。
【請求項6】
前記挙動推定部は、前記操作値および前記運動値のうちで一方または双方に応じて、前記現時点から前記推定時点までの時間間隔を伸縮させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の挙動異常判定器。
【請求項7】
加速,減速,旋回等のような前記輸送機器の運動態様に応じて、前記挙動推定部による推定および前記挙動判定部による判定にそれぞれ必要な前記操作系センサおよび前記運動系センサを選択するセンサ選択部を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の挙動異常判定器。
【請求項8】
前記操作系センサは、アクセルの開度を検出する開度センサ、ブレーキのストローク量を検出するストロークセンサ、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ、変速操作等によるポジションを検出するポジションセンサなどのうちで一以上を備え、
前記運動系センサは、速度を検出する速度センサ、舵角を検出する舵角センサ、加速度を検出する加速度センサ、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ、前記輸送機器の回転角や角速度を検出するジャイロスコープ、画像または映像を撮像するカメラ、物体との相対距離を検出する距離センサ、前記輸送機器のロール角やピッチ角等の角度を検出する角度センサなどのうちで一以上を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の挙動異常判定器。
【請求項9】
操作者の操作による操作状態を示す操作値を検出する一以上の操作系センサと、輸送機器の運動状態を示す運動値を検出する一以上の運動系センサと、を備える前記輸送機器に異常な挙動が発生したか否かを判定する挙動異常判定方法において、
前記操作系センサで検出される現時点の操作値と、前記運動系センサで検出される現時点の運動値とに基づいて、前記現時点より後の推定時点における前記輸送機器の挙動を示す推定運動値を推定する挙動推定工程と、
前記推定時点に前記運動系センサで検出される運動値が、前記挙動推定部で推定した前記推定運動値を基準とする挙動許容範囲外の値になると、前記輸送機器に異常な挙動が発生したことを示す挙動異常信号を出力する挙動判定工程と、
を有することを特徴とする挙動異常判定方法。
【請求項10】
前記輸送機器に備えられる一以上の前記操作系センサおよび一以上の前記運動系センサを用いるとともに、請求項1から8のいずれか一項に記載の挙動異常判定器と、所定の情報を記録する情報記録部と、を有する情報記録分析装置において、
前記情報記録部は、前記異常挙動信号を受ける受信時点より前の記録開始時点から、前記操作系センサおよび前記運動系センサのうちで一以上のセンサで検出される検出情報を記録し始めることを特徴とする情報記録分析装置。
【請求項11】
前記情報記録部は、前記挙動判定部から前記異常挙動信号とともに前記変化時点情報を受けると、前記変化時点情報より前の時点を前記記録開始時点とし、前記検出情報を記録し始めることを特徴とする請求項10に記載の情報記録分析装置。
【請求項12】
前記情報記録部は、前記検出情報を記録し始めた後に再び前記異常挙動信号を受けても、前記記録開始時点を変化させることなく記録を継続することを特徴とする請求項10または11に記載の情報記録分析装置。
【請求項13】
前記情報記録部は、前記操作値および前記運動値のうちで一方または双方に応じて、前記検出情報を継続的に記録する際の時間間隔を伸縮することを特徴とする請求項10から12のいずれか一項に記載の情報記録分析装置。
【請求項14】
前記情報記録部によって記録された前記検出情報に基づいて、前記輸送機器に異常な挙動が前記操作者および前記輸送機器のうち一方または双方に依るのかを分析して結果を出力する分析出力部を有することを特徴とする請求項10から13のいずれか一項に記載の情報記録分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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