説明

振動判定装置

【課題】びびり振動の検知精度が一層向上された振動判定装置を提供する。
【解決手段】最大加速度と閾値との比較に加えて、振動継続時間や周波数変化量といった判定用パラメータを用いた判定を行うようにした。したがって、外乱などに起因する瞬間的な振動や加工状態が不安定なことに起因する振動等とびびり振動とを識別することができ、びびり振動の検知精度を向上することができるし、無用な回転速度の変更を行わないことから加工面精度の向上や工具の長寿命化をも図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを回転させながら加工を行う工作機械において、加工中に発生する振動がびびり振動であるか否かを判定するための振動判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、工具又はワークを回転させながら加工を行う工作機械において加工中に発生するびびり振動を抑制するための振動抑制装置として、本件出願に先立ち特許文献1や特許文献2に記載の振動抑制装置を考案した。特許文献1の振動抑制装置では、振動センサを用いて回転軸ハウジングに生じる時間領域の振動加速度を検出するとともに、FFT演算装置により時間領域の振動加速度のフーリエ解析を行って周波数領域の振動加速度を求め、その最大値と閾値とを比較することによりびびり振動が発生しているか否かを判定するようになっている。また、特許文献2の振動抑制装置では、回転軸の回転速度が定常状態になった時点において回転軸ハウジングに生じている振動を考慮し、びびり振動が発生しているか否かの判定に採用する閾値を設定するようになっており、機械自身の振動等をびびり振動として誤検知しない、すなわちびびり振動の検知精度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−290188号公報
【特許文献2】特開2010−89227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の振動抑制装置では、機械自身の振動や突発的な外乱振動、加工に起因する不安定振動により、周波数領域の振動加速度の最大値が閾値を超えてしまった場合、びびり振動が発生していると誤検知してしまうおそれがある。また、特許文献2に記載の振動抑制装置では、上述したように機械自身の振動に対応してはいるものの、突発的な外乱振動や加工に起因する不安定振動等には対応しておらず、依然としてびびり振動の検知精度の向上に改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、びびり振動の検知精度が一層向上された振動判定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち、請求項1に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じる振動の振動加速度及び周波数を検出する振動検出手段と、前記振動加速度にもとづいて前記振動がびびり振動であるか否かを判定する振動判定手段とを備えた振動判定装置であって、前記振動加速度と比較するための閾値と、前記判定のために使用する判定用パラメータとを記憶した記憶手段を備え、前記振動判定手段は、前記振動加速度が前記閾値を超え、且つ、前記判定用パラメータにより定められた条件を満たしていると、前記振動がびびり振動であると判定することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記判定用パラメータとして所定の振動継続時間が設定されており、前記振動判定手段は、所定の振動継続時間以上にわたって連続的に前記振動加速度が前記閾値を超えると、前記振動がびびり振動であると判定することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記判定用パラメータとして所定の周波数変化量が設定されており、前記振動判定手段は、所定の振動継続時間以上にわたって連続的に前記振動加速度が前記閾値を超え、且つ、前記閾値を超える前記振動加速度の周波数の変化量が前記周波数変化量内に収まると、前記振動がびびり振動であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、振動判定手段が、振動加速度と閾値とに比較に加え、たとえば振動継続時間や周波数変化量といった判定用パラメータにもとづいて、回転軸に生じている振動がびびり振動であるか否かを判定するため、外乱などに起因する瞬間的な振動や加工状態が不安定なことに起因する振動等とびびり振動とを識別することができ、びびり振動の検知精度を向上することができるし、無用な回転速度の変更を行わないことから加工面精度の向上や工具の長寿命化をも図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】振動抑制装置のブロック構成を示した説明図である。
【図2】回転軸ハウジングを側方から示した説明図である。
【図3】回転軸ハウジングを軸方向から示した説明図である。
【図4】振動抑制装置によるびびり振動の振動抑制制御を示したフローチャート図である。
【図5】びびり振動が発生している場合における振動波形の一例を示した説明図である。
【図6】図5に示す振動が生じている場合の各時刻における最大加速度成分及びその周波数を抽出したグラフである。
【図7】外乱等に起因した瞬間的な振動が発生している場合における振動波形の一例を示した説明図である。
【図8】図7に示す振動が生じている場合の各時刻における最大加速度成分及びその周波数を抽出したグラフである。
【図9】加工状態が不安定なことに起因した振動が発生している場合における振動波形の一例を示した説明図である。
【図10】図9に示す振動が生じている場合の各時刻における最大加速度成分及びその周波数を抽出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となる振動判定装置を含んだ振動抑制装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0010】
図1は、振動抑制装置10のブロック構成を示した説明図である。図2は、振動抑制の対象となる回転軸ハウジング1を側方から示した説明図であり、図3は、回転軸ハウジング1を軸方向から示した説明図である。
振動抑制装置10は、回転軸ハウジング1にC軸周りで回転可能に備えられた回転軸3に生じる「びびり振動」を抑制するためのものであって、回転中の回転軸3に生じる振動に伴う特性値である時間領域の振動加速度(時間軸上の振動加速度を意味する)を検出するための振動センサ2a〜2cと、該振動センサ2a〜2cによる検出値を解析して「びびり振動」の発生の有無を判定し、その判定結果に基づいて回転軸3の回転速度を制御する制御装置5とを備えてなる。
【0011】
振動センサ2a〜2cは、図2及び図3に示す如く回転軸ハウジング1に取り付けられており、一の振動センサは、他の振動センサに対して直角方向への時間領域の振動加速度を検出するようになっている(たとえば、振動センサ2a〜2cにて、それぞれ直交するX軸、Y軸、Z軸方向での時間領域の振動加速度を検出するように取り付ける)。
【0012】
一方、制御装置5は、振動センサ2a〜2cから検出される時間領域の振動加速度をもとにした解析を行うFFT演算装置11と、びびり振動が発生しているか否かの判定に用いる閾値や判定用パラメータを作業者が入力するための入力装置12と、作業者に入力された各種の値を記憶するための記憶装置13と、びびり振動が発生しているか否かを判定するとともに、後述の如くして安定回転速度を算出する演算装置14と、回転軸3の回転速度を制御する回転速度制御装置15を備えてなる。
【0013】
ここで、振動抑制装置10による「びびり振動」の振動抑制制御について、図4のフローチャートにしたがい説明する。
まず、加工を開始する前に、入力装置12によりびびり振動が発生しているか否かを判定するための閾値及び判定用パラメータを入力し、記憶装置13に予め記憶させておく。すなわち、周波数領域の振動加速度の最大値と比較する閾値(たとえば5.0[G])と、判定用パラメータである振動継続時間(たとえば2.0[s])及び周波数変化量(たとえば50[Hz])とを記憶装置13へ記憶させる。また、安定回転速度を算出する際に使用する工具刃数等も入力し記憶させておく。
【0014】
そして、加工中は、振動センサ2a〜2cにより回転軸ハウジング1における時間領域の振動加速度を常時検出し、FFT演算装置11においてその時間領域の振動加速度のフーリエ解析を行い(S1)、周波数領域の振動加速度の最大値(最大加速度)とその周波数(びびり周波数)とを取得する(S2)。また、演算装置14において、取得した最大加速度と記憶装置13に記憶されている閾値とを比較し(S3)、最大加速度が閾値以下(すなわち5.0[G]以下)である場合(S3でNO)には、びびり振動は発生していないと判定してS1へ戻る。
【0015】
一方、最大加速度が閾値を超えている(S3でYES)と、演算装置14は、記憶装置13に記憶されている判定用パラメータをもとに、その最大加速度がびびり振動によるものか否かを判定する(S4)。すなわち、閾値を超える最大加速度が振動継続時間を超えて連続的に取得されるか否か、及び、閾値を超える最大加速度が連続して取得された場合にびびり周波数(最大加速度をとる周波数)の変化量が周波数変化量を超えているか否かを判定し、閾値を超える最大加速度が振動継続時間を超えて連続的に取得され、且つ、びびり周波数の変化量が周波数変化量内に収まった場合には、びびり振動が発生していると判定する(S4でYES)。また、閾値を超える最大加速度が取得されたものの連続的な取得が振動継続時間に満たなかった場合や、閾値を超える最大加速度が振動継続時間を超えて連続的に取得されたものの、びびり周波数の変化量が周波数変化量を超えていた場合には、取得された閾値を超える最大加速度はびびり振動によるものではない、すなわちびびり振動は発生していないと判定する(S4でNO)。尚、振動継続時間を超えているか否かを判定するにあたっては、演算装置14にタイマー等の計時手段を備え、最大加速度が閾値を超えたことをもって計時手段をセットして時間の計時を開始し、その時間と振動継続時間とを比較すればよい。また、最大加速度が閾値を下回ると、演算装置14は計時手段をクリアすることになる。
【0016】
そして、回転軸3にびびり振動が発生している判定すると(S4でYES)、演算装置14では、以下の演算式(1)〜(3)により安定回転速度を演算する(S5)。また、算出した安定回転速度を回転速度制御装置15へ出力し、回転軸3の回転速度を算出した安定回転速度へと変更し(S6)、びびり振動の抑制を図る。
そして、振動抑制装置10は、以上のような振動抑制制御を加工が終了するまで繰り返し実行する。
【0017】
k’値=60×びびり周波数/(工具刃数×回転速度) ・・・(1)
k値=k’値の整数部 ・・・(2)
安定回転速度=60×びびり周波数/{工具刃数×(k値+1)} ・・(3)
なお、演算式(1)、(3)における「工具刃数」は、作業者により予め入力され記憶装置13に記憶されている。また、演算式(1)における「回転速度」とは、「びびり振動」が発生している状態での回転速度(安定回転速度へ変更する前の回転速度)のことである。さらに、演算式(1)、(3)における「びびり周波数」とは、S2で取得されるものである。
【0018】
ここで、振動抑制制御の具体例を示すと、びびり振動が発生している場合、その振動波形は図5に示すような波形となる。また、図5の振動波形に対し、各時刻における最大加速度成分及びその周波数を抽出すると、図6に示すようなグラフとなる。この図5及び図6からわかるとおり、びびり振動の場合、図6に示すように特定の周波数で振動が生じ、加速度レベルは当初時間の経過とともに上昇するものの、最終的には飽和・安定する(つまり、びびり周波数の変化量がほぼ0となる)という傾向がある。そして、上記振動抑制装置10では、閾値を超える最大加速度が2秒以上連続して検知され、且つ、そのびびり周波数の変化量が50Hz未満であると、びびり振動が発生していると判定するようになっている。
【0019】
一方、外乱などにより瞬間的に生じる振動の波形は、図7に示すような波形となる。つまり、瞬間的に閾値を超える最大加速度が取得されるものの、振動継続時間を超えて連続することはない。したがって、このような場合に回転速度を変更してしまうと、無用に回転速度を変更することになり、加工面精度の悪化などを招くことになる。しかしながら、上記振動抑制装置10によれば、図8に示すように振動継続時間が2秒に満たないし、びびり周波数の変化量も50Hzを超えているため、そのような瞬間的な振動をびびり振動であると判定せず、回転速度を変更したりしない。
【0020】
また、加工状態が不安定な場合等には、図9に示すような振動波形が得られることがある。つまり、様々な周波数で振動が発生し、加速度レベルも安定していないという状況となる。このような場合における回転速度の変更は、上記同様に無用な制御となってしまう上、安定回転速度を算出するための周波数が時々刻々と変化するため、安定回転速度が次々と新たに算出されてしまうことになり、加工トラブルの原因となってしまう。しかしながら、上記振動抑制装置10によれば、図10に示すように振動継続時間は2秒を超すものの、びびり周波数の変化量が50Hzを超えているため、そのような加工状態が不安定なことに起因する振動をびびり振動であると判定せず、回転速度を変更したりしない。
【0021】
以上のような振動抑制装置10によれば、最大加速度と閾値との比較に加えて、振動継続時間や周波数変化量といった判定用パラメータを用いた判定を行うため、外乱などに起因する瞬間的な振動や加工状態が不安定なことに起因する振動等とびびり振動とを識別することができ、びびり振動の検知精度を向上することができるし、無用な回転速度の変更を行わないことから加工面精度の向上や工具の長寿命化をも図ることができる。
【0022】
なお、本発明に係る振動判定装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、振動検出手段、振動判定手段、及び記憶手段等に係る構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0023】
たとえば、上記実施形態では、振動継続時間と周波数変化量とを判定用パラメータとしているが、たとえば振動継続時間のみを判定用パラメータとして採用してもよい。この場合でも、図9や図10に示すような振動については識別できないものの、外乱等に起因する瞬間的な振動については識別することができ、びびり振動の検知精度の向上を図ることができる。
【0024】
また、制御装置にモニター等の表示手段を設け、振動判定手段におけるびびり振動であるか否かの判定を表示手段に表示させ、回転速度の変更については作業者が行うように構成してもよいし、「びびり振動」の検出や安定回転速度の演算にあたって、周波数領域の振動加速度が最大値を示す波形のみではなく、周波数領域の振動加速度の値が上位となる複数(たとえば、3つ)の波形を用いるようにし、「びびり振動」の抑制効果の更なる向上を図ってもよい。
加えて、上記実施形態では、工作機械の回転軸における振動を検出する構成としているが、回転しない側(固定側)の振動を検出し、安定回転速度を算出するように構成してもよい。また、工具を回転させるマシニングセンタに限らず、ワークを回転させる旋盤等といった工作機械にも適用可能であるし、振動検出手段の設置位置や設置数、閾値や判定用パラメータの値等を、工作機械の種類、大きさ等に応じて適宜変更してもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0025】
1・・回転軸ハウジング、2a〜2c・・振動センサ(振動検出手段)、3・・回転軸、5・・制御装置、10・・振動抑制装置(振動判定装置)、11・・FFT演算装置(振動検出手段)、12・・入力装置(入力手段)、13・・記憶装置(記憶手段)、14・・演算装置(振動判定手段)、15・・回転速度制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じる振動の振動加速度及び周波数を検出する振動検出手段と、前記振動加速度にもとづいて前記振動がびびり振動であるか否かを判定する振動判定手段とを備えた振動判定装置であって、
前記振動加速度と比較するための閾値と、前記判定のために使用する判定用パラメータとを記憶した記憶手段を備え、
前記振動判定手段は、前記振動加速度が前記閾値を超え、且つ、前記判定用パラメータにより定められた条件を満たしていると、前記振動がびびり振動であると判定することを特徴とする振動判定装置。
【請求項2】
前記判定用パラメータとして所定の振動継続時間が設定されており、
前記振動判定手段は、所定の振動継続時間以上にわたって連続的に前記振動加速度が前記閾値を超えると、前記振動がびびり振動であると判定することを特徴とする請求項1に記載の振動判定装置。
【請求項3】
前記判定用パラメータとして所定の周波数変化量が設定されており、
前記振動判定手段は、所定の振動継続時間以上にわたって連続的に前記振動加速度が前記閾値を超え、且つ、前記閾値を超える前記振動加速度の周波数の変化量が前記周波数変化量内に収まると、前記振動がびびり振動であると判定することを特徴とする請求項2に記載の振動判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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