説明

振動子の周波数調整方法

【課題】振動子の周波数調整を高精度に行うことができる周波数調整方法を提供すること。
【解決手段】周波数調整方法は、シャッター装置120を開状態として振動子200の質量変化を開始し、シャッター装置200を開状態から閉状態として振動子200の質量の変化を終了することによって振動子200の共振周波数を調整する周波数調整工程[A]と、周波数調整工程[A]より前またはその途中に、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令が出力された第1時刻と、命令を受けてシャッター装置200が閉状態となった第2時刻との時間差を求める遅延時間検出工程[B]とを有し、周波数調整工程[A]では、制御手段160は、前記時間差に基づいて、シャッター装置200を閉状態とする命令を出力する時刻を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子の周波数調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、振動子の共振周波数を調整する方法として、振動子の質量を変化させる方法が知られている。このような方法は、例えば、振動子と、イオンビームを振動子に照射することにより振動子の一部を除去して振動子の質量を減少させるイオンガンと、振動子とイオンガンとの間に設けられたシャッターとを有する装置を用いて行われる(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、複数のシャッター板が重ねられた状態にて鉄芯に軸支されており、各シャッター板は、鉄芯を中心として回動可動となっている。また、各シャッター板は、対応するソレノイドの駆動により回動するように構成されている。特許文献1に記載の装置では、このようなシャッター板の回動を利用して、シャッターを開状態または閉状態とすることができる。
【0004】
このような装置では、イオンガンからイオンビームが発射されている状態にて、シャッターを開状態とする。これにより、イオンビームがシャッターを通過して振動子に照射され、振動子の一部が除去されることにより、振動子の共振周波数が変化する。そして、振動子の周波数が所定の周波数となった時点でシャッターを閉状態とすることにより、振動子へのイオンビームの照射を阻止する。このような方法により、振動子の共振周波数を調整する。
【0005】
しかしながら、このようなシャッターでは、シャッター板の回動によって、シャッター板同士が互いに擦れ合い、当該擦れに起因する摩耗により、シャッター板の摺動性が悪化する。また、イオンビームとの接触によるシャッター板の摩耗が生じ、この摩耗によってもシャッター板の摺動性が悪化する。
摺動性の悪化は、シャッター板の移動速度を低下させるため、シャッターを開状態から閉状態とするのにかかる時間が長くなる。この時間が長くなると、その時間分だけ余分に振動子の質量が減少してしまい、周波数調整後の振動子の共振周波数が、目的の共振周波数から大きくずれてしまう。
【0006】
また、シャッターを開状態から閉状態とするのにかかる時間は、シャッター板の摩耗度合いによって変化する。このように、シャッターを開状態から閉状態とするのにかかる時間が変化すると、周波数調整後の振動子の共振周波数が、目的の共振周波数から大きくずれてしまうのに加えて、そのずれ量が振動子ごとにばらばらとなる。
すなわち、特許文献1に記載の装置では、高精度な振動子の周波数調整を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−118156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、振動子の周波数調整を高精度に行うことができる振動子の周波数調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の振動子の周波数調整方法は、振動子の共振周波数を調整する周波数調整方法であって、
質量変化手段による前記振動子の質量変化を許容する開状態と、前記質量変化を阻止する閉状態とを切り替えることができるシャッター部と、
前記シャッター部の前記切り替えを制御する制御手段とを備えたシャッター装置を用意し、
前記振動子と前記質量変化手段との間に、前記シャッター部を配置する工程と、
前記シャッター部を前記開状態として前記振動子の質量変化を開始した後、前記シャッター部を前記閉状態にして前記振動子の共振周波数を調整する周波数調整工程と、
前記周波調整工程における前記閉状態の前に、前記制御手段から前記シャッター部を前記閉状態とする命令が出力された第1時刻と、前記命令を受けて前記シャッター部が前記閉状態となった第2時刻との時間差を求める遅延時間検出工程とを含み、
前記周波数調整工程では、前記制御手段は、前記時間差に基づいて、前記シャッター部を前記閉状態とする命令を出力する時刻を補正することを特徴とする。
これにより、高精度に、振動子の共振周波数を目的の共振周波数に合わせ込むことができる。
【0010】
[適用例2]
本発明の振動子の周波数調整方法では、前記遅延時間検出工程では、前記質量変化手段によって前記振動子の質量を変化させている状態において、前記第1時刻における前記振動子の共振周波数と前記第2時刻における振動子の共振周波数の差と、前記振動子の単位時間当たりの共振周波数変化量とに基づいて前記時間差を求めることが好ましい。
これにより、時間差を簡単に求めることができる。
【0011】
[適用例3]
本発明の振動子の周波数調整方法では、前記周波数調整工程には、第1の周波数調整工程である第1工程と第2の周波数調整工程である第2工程とがあって、前記第1工程の後に前記第2工程があって、前記第2工程の単位時間当たりの共振周波数変化量が前記第1工程よりも小さいことが好ましい。
これにより、共振周波数の粗調整と微調整とを行うことができるため、振動子の周波数調整を効率的に行うことができる。
【0012】
[適用例4]
本発明の振動子の周波数調整方法では、前記遅延時間検出工程は、前記第1工程と前記第2工程との間に行われることが好ましい。
これにより、振動子の周波数調整を円滑に行うことができる。
[適用例5]
本発明の振動子の周波数調整方法では、前記周波数調整工程では、前記第1工程を終了するために前記シャッター装置を開状態から閉状態に切り替え、
前記遅延時間検出工程における前記第1時刻は、前記第1工程を終了するために前記制御手段から前記シャッター部を前記閉状態とする命令が出力された時刻であることが好ましい。
これにより、シャッター装置の無駄な駆動を防止することができる。
【0013】
[適用例6]
本発明の振動子の周波数調整方法では、前記遅延時間検出工程は、前記第1工程および前記第2工程の少なくとも一方の工程の途中で、前記シャッター部を閉状態へ切り替えて、前記時間差を求めることが好ましい。
これにより、振動子の周波数調整を円滑に行うことができる。
【0014】
[適用例7]
本発明の振動子の周波数調整方法では、前記周波数調整工程は、時系列をもって順番にm個(ただしmは、2以上の自然数)の前記振動子の共振周波数を調整する工程であって、n個目(ただしnは、2以上かつm以下の自然数)の前記振動子の共振周波数を調整するとした場合、前記遅延時間検出工程は、n−1個目の振動子の共振周波数の調整を行う工程と、前記周波数調整工程との間に行われることが好ましい。
これにより、振動子の周波数調整を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を実施するための周波数調整装置の概略図である。
【図2】図1に示す周波数調整装置が有するシャッター装置の側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明するための図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第4実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明するための図である。
【図7】本発明の第5実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の振動子の周波数調整方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を実施するための周波数調整装置の概略図、図2は、図1に示す周波数調整装置が有するシャッター装置の側面図、図3は、本発明の第1実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明するための図である。なお、以下では、説明の都合上、図1、図2中の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」として説明する。また、図1に示すように、互いに直交する3軸をx軸、y軸およびz軸とし、x軸と平行な方向を「x軸方向」と言い、y軸と平行な方向を「y軸方向」と言い、z軸と平行な方向を「z軸方向」と言う。
【0017】
1.周波数調整装置
図1に示す周波数調整装置100は、例えば、水晶振動子などの振動子200の共振周波数を調整することのできる装置である。
このような周波数調整装置100は、内部を所望の環境とすることのできるチャンバー110と、複数のシャッター装置120と、イオンガン130と、遮蔽板140と、振動子200の共振周波数を測定する周波数測定手段150と、複数のシャッター装置120の駆動を独立して制御する制御手段160とを有している。なお、シャッター装置120の数は、特に限定されず、例えば1〜50程度とすることができる。
【0018】
イオンガン130は、公知のイオンガンを用いることができ、例えば、Ar、Ne等の不活性ガスに電界を作用させて加速させることにより、イオンビームを発射するものである。このようなイオンガン130は、振動子200の質量を変化させる質量変化手段を構成する。イオンガン130は、チャンバー110内にてシャッター装置120よりも下側に位置しており、上方へ向けてイオンビームIBを出射する。
【0019】
また、遮蔽板140は、チャンバー110内にてシャッター装置120よりも上側に位置しており、隣り合うシャッター装置120の隙間から上方へ漏れるイオンビームIBを遮断する。すなわち、遮蔽板140は、前記隙間から上方へ漏れるイオンビームIBが振動子200に照射されるのを防止する。
複数のシャッター装置120は、それぞれ、制御手段160によって、独立して駆動が制御されており、イオンビームIBの通過を許容する開状態と、イオンビームIBを遮断する閉状態とを切り替えることができる。
具体的には、シャッター装置120は、図2に示すように、シャッター部121と、駆動部122と、シャッター部121と駆動部122とを連結する連結部123と、これらを支持する支持部124とを有している。
【0020】
シャッター部121は、z軸方向を厚さとする板状をなしており、x軸方向に延在している。シャッター部121の幅(y軸方向の長さ)としては、特に限定されず、振動子200の大きさ等によって異なるが、例えば、1mm以上、2mm以下程度であるのが好ましい。このような幅とすることにより、シャッター部121を十分に小さくすることができる。
このようなシャッター部121は、例えば、耐イオンエッチング性に優れる炭素、チタン等を構成材料として構成されている。これにより、イオンビームIBによるシャッター部121の損傷を効果的に抑制することができる。また、シャッター部121の軽量化を図ることができ、シャッター部121の反応性や移動速度を向上させることができる。
【0021】
駆動部122は、シャッター部121をx軸方向に往復移動させるための駆動源である。駆動部122としては、シャッター部121を移動させることができれば、特に限定されないが、本実施形態では、本体122aに対してシャフト122bがx軸方向に移動する公知のソレノイドを用いている。このような駆動部122は、制御手段160によって、その駆動が制御されている。
【0022】
連結部123は、駆動部122とシャッター部121とを連結し、駆動部122の駆動力をシャッター部121に伝達する機能を有する。なお、連結部123は、シャッター部121を着脱自在に支持しているのが好ましい。これにより、消耗品であるシャッター部121を簡単に交換することができる。
このようなシャッター装置120では、駆動部122のシャフト122bが本体122aから突出するように図2中右側に移動すると、それに伴ってシャッター部121が図2中右側に移動する。これにより、図2(a)に示すように、シャッター装置120は、シャッター部121にてイオンビームIBを遮断する閉状態となる。
【0023】
反対に、駆動部122のシャフト122bが本体122a内に退避するように図2中左側に移動すると、それに伴ってシャッター部121が図2中左側に移動する。これにより、図2(b)に示すように、シャッター装置120は、イオンビームIBの通過を許容する開状態となる。
このようなシャッター装置120の開状態と閉状態との切り替えを制御手段160によって行うことができる。
【0024】
周波数測定手段150は、振動子200の共振周波数を測定することができれば、特に限定されない。例えば、周波数測定手段150は、周波数測定装置が有する測定用端子(プローブ)を振動子200の電極に直接または間接的に接触させ、振動子200を駆動させることにより、振動子200の共振周波数を測定してもよい。
このような構成の周波数調整装置100では、後述するように、シャッター装置120を開状態として、イオンビームIBを振動子200に照射することにより、振動子200の一部を除去してその質量を低下させて振動子200の共振周波数を高め、振動子200の共振周波数が目的の値となったところでシャッター装置120を閉状態とすることにより、振動子200の共振周波数の調整を行う。
【0025】
ここで、シャッター装置120を閉状態とするときは、制御手段160からシャッター装置120を開状態から閉状態とするための命令(駆動信号)が出力され、この命令を受けてシャッター装置120が開状態から閉状態へ切り替わる。しかしながら、シャッター装置120では、前記命令を出力した時刻と、その命令を受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻とに時間差が生じる。すなわち、前記命令を出力した時刻に対してシャッター装置120が閉状態となる時刻が遅れる。
このような遅延時間が発生すると、その時間分だけ余分に振動子200の質量が減少してしまい、周波数調整後の振動子200の共振周波数が、目的の共振周波数から大きくずれてしまう問題がある。
【0026】
また、前記遅延時間は、複数のシャッター装置120間でも異なるし、各シャッター装置120においても、その状態等によって不規則に変化する。具体的には、例えば、シャッター装置120が有するシャッター部121は、イオンビームIBとの接触により摩耗する。このように、シャッター部121が摩耗すると、シャッター部121の質量が変化したり、支持部124との摺動性が変化したりするため、シャッター部121の移動速度が変化する。これによって、シャッター装置120が開状態から閉状態となるまでの時間が変化し、その結果、前記遅延時間が変化する。
このように、遅延時間が変化すると、振動子200の共振周波数が、目的の共振周波数から大きくずれてしまうという問題に加えて、そのずれ量(ずれ幅)が不規則となるという問題がある。
そこで、本発明の振動子の周波数調整方法では、このような遅延時間のずれに基づいて、制御手段160からのシャッター装置120を閉状態とする命令の出力タイミングを補正することにより、振動子200の共振周波数を目的の値に高精度に合わせ込むことができるようになっている。
【0027】
2.周波数調整方法
次いで、周波数調整装置100を用いた振動子200の共振周波数の調整方法(本発明の振動子の周波数調整方法)について詳細に説明する。なお、以下では、説明の便宜上、1つのシャッター装置120に対応する振動子200について代表して説明する。
本実施形態の周波数調整方法は、周波数調整工程[A]と、周波数調整工程[A]の途中に行われる遅延時間検出工程[B]とを有している。
【0028】
具体的には、周波数調整工程[A]は、第1のローモード工程[A1]と、ハイモード工程(第1工程)[A2]と、第2のローモード工程(第2工程)[A3]とを有しており、遅延時間検出工程[B]は、第1のローモード工程[A1]とハイモード工程[A2]の間に行われる第1の遅延時間検出工程[B1]と、ハイモード工程[A2]と第2のローモード工程[A3]の間に行われる第2の遅延時間検出工程[B2]とを有している。
【0029】
すなわち、本実施形態の周波数調整方法は、図3に示すように、第1のローモード工程[A1]、第1の遅延時間検出工程[B1]、ハイモード工程[A2]、第2の遅延時間検出工程[B2]および第2のローモード工程[A3]の順に実施される。
ハイモード工程[A2]とローモード工程[A1]、[A3]は、周波数調整レート(エッチングレート)が異なっており、ハイモード工程[A2]の方がローモード工程[A1]、[A3]よりも調整レートが高く設定される。また、ローモード工程[A1]、[A2]は、互いに等しい調整レートに設定される。このように、異なる調整レートの工程を設けることにより、共振周波数fの粗調整と微調整とを行うことができるため、より効率的(短時間)かつ高精度に、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0に調整することができる。
【0030】
以下では、説明の便宜上、ハイモード工程[A2]の調整レートを「調整レートH」とし、ローモード工程[A1]、[A3]での調整レートを「調整レートL」とする。調整レートH、Lとしては、特に限定されず、例えば、調整レートHを1000〜2000ppm/sec程度とし、調整レートLを10〜200ppm/sec程度とすることができる。このようなレートとすることにより、振動子200の共振周波数の粗調整と微調整とをより効果的に行うことができる。
【0031】
また、本実施形態の周波数調整方法は、振動子200の共振周波数を周波数測定手段150によって常時(または、所定時間間隔ごとに)測定しながら行われ、測定された共振周波数に関する情報(データ)は、リアルタイムに制御手段160に送信される。ただし、共振周波数の測定が不要な状況(例えば、後述するようなイオンビームIBを安定化させている状況等)では、周波数測定手段150による振動子200の共振周波数の測定を停止してもよい。
【0032】
以下、これら工程を順に説明する。
[A1]第1のローモード工程
まず、周波数調整装置100のチャンバー110内の所定の位置に振動子200を配置する。なお、振動子200の共振周波数(Hz)は、周波数調整が行われていない状態では、目的の共振周波数f0(Hz)よりもある程度低い値となっている。
【0033】
次いで、チャンバー110内を減圧し、例えば、10−3Pa程度とする。次いで、シャッター装置120を閉状態とする。なお、既にシャッター装置120が閉状態となっているときは、この工程は省略することができる。次いで、イオンガン130を駆動しイオンビームIBを発射する。そして、イオンビームIBが安定するまでシャッター装置120を閉状態としたまま放置する。この際、次の工程である第1のローモード工程[B1]における調整レートLとなるように、イオンビームIBのエネルギーを調整する。
【0034】
次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200の所定箇所に照射され、振動子200の一部が除去されることにより振動子200の質量が減少し、調整レートLに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。
次いで、例えば、シャッター装置120を開状態としてから所定時間経過した後に、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令(シャッター装置120を駆動させる駆動信号)Sを出力し、シャッター装置120を閉状態とする。これにより、第1のローモード工程が終了する。
【0035】
[B1]第1の遅延時間検出工程
まず、制御手段160は、周波数測定手段150からの情報に基づいて、命令Sを出力した時刻(第1時刻)T1における振動子200の共振周波数f1を検出する。
また、制御手段160は、命令Sを受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T2における振動子200の共振周波数f2を検出する。具体的には、シャッター装置120が閉状態となると、振動子200の共振周波数fの変化が停止する。そのため、制御手段160は、周波数測定手段150から送信される情報に基づいて、振動子200の共振周波数fが所定時間(例えば1〜5秒程度の十分に長い時間)変化しない状態を検知し、その状態での共振周波数fを時刻T2における振動子200の共振周波数f2として検出する。
【0036】
すなわち、前記「時刻T2における共振周波数f2」とは、シャッター装置120が閉状態となり第1のローモード工程[A1]が終了してから、次の工程であるハイモード工程[B2]が開始されるまでの時間内における振動子200の共振周波数fを言い、この間であれば、いずれの時刻における共振周波数fであっても、前記「時刻T2における共振周波数f2」となる。
【0037】
共振周波数f2の検出方法としては、上記の方法に限定されず、例えば、時刻T1から、種々の要因を加味してもシャッター装置120が開状態から閉状態となるのに十分な時間よりも長い時間(例えば、1〜5秒程度)経過した時刻における振動子200の共振周波数fを検出し、この共振周波数fを共振周波数f2として検出してもよい。このような時刻には、確実にシャッター装置120が閉状態となっていると判断できるため、前記時刻における振動子200の共振周波数fを共振周波数f2とすることができる。また、次の工程であるハイモード工程[B2]を開始する直前の時刻における共振周波数fを共振周波数f2として検出してもよい。
【0038】
次いで、制御手段160は、上記のようにして検出した共振周波数f1と共振周波数f2の差Δf(Δf=f2−f1)を求める。なお、Δfの大きさは、時刻T1、T2の時間差ΔTが大きくなるに連れて大きくなる。これは、時刻T1を過ぎても時刻T2となるまではイオンビームIBの照射によって振動子200の質量が減少し続けているためである。
【0039】
次いで、制御手段160は、Δfと、第1のローモード工程[A1]の調整レートLとに基づいてΔTを求める。具体的には、設定された調整レートLから、共振周波数fの単位時間当たりの変化量Q(Hz/sec)が求まる。なお、変化量Qは、制御手段160に予め記憶させておいてもよいし、必要時に算出して求めてもよい。そして、Δfと変化量Qとに基づいてΔTを算出する。なお、ΔTは、ΔT=Δf/Qなる式で表すことができるため、Δfおよび変化量Qを前記式に代入することにより、簡単に求めることができる。
以上によって、時刻T1、T2の時間差ΔT、すなわち時刻T1に対する時刻T2の遅延時間が求められる。このような方法によれば、ΔTを簡単に求めることができる。
【0040】
[A2]ハイモード工程(粗調整)
まず、調整レートHとなるように、イオンガン130の駆動状態を切り替え、イオンビームIBが安定するまで放置する。なお、この状態では、シャッター装置120が閉状態となっているため、振動子200の質量の減少が生じない。
次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0に近づいたら制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S’を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。これにより、ハイモード工程[A2]、すなわち振動子200の共振周波数fの粗調整が終了する。このような調整レートの比較的高い本工程を有することにより、振動子200の共振周波数fの粗調整を短時間で行うことができ、周波数調整の効率性が向上する。
【0041】
ここで、本工程は、周波数調整の効率性をより向上させるために、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0により近くなるまで続けるのが好ましい。しかしながら、前述したように、命令S’を出力した時刻T1’に対して、その命令S’を受けてシャッター装置120が閉状態となる時刻T2’が遅延する場合があり、時刻T1’、T2’の時間差ΔT’もシャッター装置120の状態(シャッター部121の移動速度等)によって変化する。
【0042】
そのため、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0により近づけようとして、本工程をより長く行ってしまうと、シャッター装置120が閉状態となったときには、振動子200の質量が減少し過ぎてしまい、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0よりも高くなってしまう場合が考えられる。
そこで、本実施形態の周波数調整方法は、直前の遅延時間検出工程[B]にて求めた時間差ΔTに基づいて、命令S’の出力タイミング(シャッター装置120の駆動タイミング)を補正することにより、上述のような問題の発生を防止している。
【0043】
具体的に説明すれば、例えば、共振周波数f0により近い共振周波数f0’(例えばf0−10ppm程度)を、本工程での目標値とする場合、まず、制御手段160は、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0’と一致する時刻T3を求める。本工程は、定められた調整レートHで行われているため、単位時間当たりの共振周波数fの変化量Q’(Hz/sec)が決まっている。そのため、例えば、本工程中の任意の時刻T4と、時刻T4における振動子200の共振周波数f4と、変化量Q’とに基づいて、時刻T3を求めることができる。なお、時刻T3は、時刻T4から(f0’−f4)/Q’(sec)遅れた時刻として表すことができる。
【0044】
次いで、制御手段160は、時刻T3よりも、前述した遅延時間検出工程[B]にて求めたΔTだけ早い時刻T5を求める。そして、制御手段160は、時刻T5に命令S’を出力する。すると、シャッター装置120は、命令S’が出力された時刻T5からΔT遅れた時刻に閉状態となる。この時刻は、時刻T3とほぼ同時刻であるため、より高精度に、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0’に合わせ込むことができる。
【0045】
このように、時間差ΔTに基づいて、命令S’の出力タイミングを補正することにより、より高精度に、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0’に合わせ込むことができる。そのため、本工程によって、共振周波数fが共振周波数f0よりも高くなるのを効果的に防止しつつ、共振周波数fを共振周波数f0により近づけることができる。これにより、本工程をより長く行うことができ、振動子200の周波数調整をより効率的かつ短時間で行うことができる。
【0046】
なお、前述したように、制御手段160がシャッター装置120を閉状態とする命令を出力した時刻と、その命令を受けてシャッター装置120が閉状態となる時刻との時間差は、シャッター装置120の状態によって変化する。そのため、本工程では、直前(1回前)のシャッター装置120の開状態から閉状態への駆動から求められたΔTに基づいて、命令S’の出力タイミングを補正している。これにより、より高精度に、共振周波数fを共振周波数f0’に合わせ込むことができる。
【0047】
具体的には、命令S’を出力する時刻T5と、命令Sを出力する時刻T1との差は小さく、この間におけるシャッター装置120の状態変化(シャッター部121の移動速度の変化)は、殆ど起こらない。すなわち、時刻T5と時刻T1とでは、シャッター装置120の駆動条件が互いにほぼ等しい。そのため、ΔTは、ΔT’と実質的に等しく、このようなΔTを用いて命令S’の出力タイミングを補正することにより、より高精度に、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0’に合わせ込むことができる。
【0048】
[B2]第2の遅延時間検出工程
前述したように、直前の工程であるハイモード工程[A2]にて、その工程を終えるためにシャッター装置120を閉状態とするが、この際、制御手段160からは命令S’が出力される。制御手段160は、周波数測定手段150から送信される情報に基づいて命令S’を出力した時刻(第1時刻)T1’(=時刻T5)における振動子200の共振周波数f1’を検出する。
【0049】
また、制御手段160は、命令S’を受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T2’における振動子200の共振周波数f2’を検出する。なお、計算上では、時刻T2’は、時刻T3と同時刻であり、時刻T2’での振動子200の共振周波数f2’は、共振周波数F0’と等しい。しかしながら、より高精度な制御を行うために、時刻T2’での振動子200の共振周波数2’を周波数測定手段150からの情報に基づいて実測するのが好ましい。なお、共振周波数f2’の検出は、前述した共振周波数f2の検出と同様の方法にて行うことができる。
【0050】
次いで、制御手段160は、共振周波数f1’と共振周波数f2’の差Δf’(Δf’=f2’−f1’)を求める。次いで、制御手段160は、Δf’と、ハイモード工程[A2]における調整レートHとに基づいてΔT’を求める。具体的には、調整レートHから、振動子200の共振周波数fの単位時間当たりの変化量Q’(Hz/sec)を求め、Δf’と変化量Q’とに基づいて、ΔT’を算出する。なお、ΔT’は、ΔT’=Δf’/Q’なる式で表すことができるため、Δf’および変化量Q’を前記式に代入することにより、簡単に求めることができる。
以上によって、時刻T1’、T2’の時間差ΔT’、すなわち時刻T1’に対する時刻T2’の遅延時間が求められる。
【0051】
[A3]第2のローモード工程(微調整)
まず、調整レートLとなるように、イオンガン130の駆動状態を切り替え、イオンビームIBが安定するまで放置する。なお、この状態では、シャッター装置120が閉状態となっているため、振動子200の質量の減少が生じない。
次いで、シャッター装置120を開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200の所定箇所に照射され、調整レートLに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S”を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。
【0052】
ここで、前述したのと同様に、命令S”を出力した時刻T1”に対して、命令S”を受けてシャッター装置120が閉状態となる時刻T2”が遅延する場合があり、時刻T1”、T2”の時間差ΔT”もシャッター装置120の状態によって変化する。そこで、本実施形態では、直前の第2の遅延時間検出工程[B2]にて求めたΔT’に基づいて、命令S”の出力タイミングを補正する。これにより、高精度に、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0に合わせ込むことができる。
【0053】
本工程における時間差ΔT’に基づいた命令S”の出力タイミングの補正は、前述したハイモード工程[A2]におけるΔTに基づいた命令S’の出力タイミングの補正と同様である。
すなわち、まず、制御手段160は、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0と一致する時刻T6を求める。時刻T6は、本工程の単位時間当たりの共振周波数fの変化量Q(Hz/sec)と、本工程中の任意の時刻T7と、時刻T7における振動子200の共振周波数f7とに基づいて求めることができる。この場合には、時刻T6は、時刻T7から(f0−f7)/Q(sec)遅れた時刻として表すことができる。
【0054】
次いで、制御手段160は、時刻T6よりも、ΔT’だけ早い時刻T8を求める。そして、制御手段160は、時刻T8に命令S”を出力する。すると、シャッター装置120は、時刻T8からΔT’遅れた時刻に閉状態となる。この時刻は、時刻T6とほぼ同時刻であるため、高精度に、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0に合わせ込むことができる。
このように、ΔT’に基づいて、命令S”の出力タイミングを補正することにより、確実かつ高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
【0055】
また、本工程では、直前(1回前)のシャッター装置120の開状態から閉状態への駆動から求められたΔT’に基づいて、命令S”の出力タイミングを補正している。ここで、命令S”を出力する時刻T8と、命令S’を出力する時刻T3との差は小さく、この間におけるシャッター装置120の状態変化は、殆ど起こらない。そのため、ΔT’は、ΔT”と実質的に等しいと考えることができ、このようなΔT’を用いて命令S”の出力タイミングを補正することにより、より高精度に、共振周波数fを共振周波数f0に合わせ込むことができる。
【0056】
以上のような工程によって、高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数F0に合わせ込むことができる。具体的には、例えば、振動子200の共振周波数fを共振周波数f0±1ppm程度の範囲内とすることができる。特に、シャッター装置120の状態変化に影響されることなく、高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数F0に合わせ込むことができるため、本実施形態の周波数調整方法は、優れた周波数調整特性を経時的に発揮し続けることができる。
【0057】
また、本実施形態の周波数調整方法では、ハイモード工程[A2]で共振周波数fの粗調整を行い、最後に、第2のローモード工程[A3]にて共振周波数fの微調整を行っている。そのため、効率的かつ高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
また、本実施形態では、遅延時間検出工程[B1]、[B2]を周波数調整工程の各工程[A1]、[A2]、[A3]の間に設けている。そのため、周波数調整工程の各工程[A1]、[A2]、[A3]を中断する必要がなく、効率的に、振動子200の周波数調整を行うことができる。
【0058】
また、本実施形態では、周波数調整工程[A]のモードを切り替える際に、イオンビームIBを安定化させるためにシャッター装置120を開状態から閉状態とするのを利用して時間差ΔT、ΔT’を求めている。言い換えれば、工程[A1]、[A2]を終了するために行うシャッター装置120の駆動を利用して時間差ΔT、ΔT’を求めている。これにより、シャッター装置120の無駄な駆動(例えば時間差ΔT、ΔT’を求めるためだけの駆動)を防止することができるため、効率的に、振動子200の周波数調整を行うことができる。
【0059】
また、本実施形態の周波数調整方法では、ハイモード工程[A2]および第2のローモード工程[A3]の両工程にて、その直前のシャッター装置120の開状態から閉状態への駆動から求められた時間差(ΔT、ΔT’)に基づいてシャッター装置120を閉状態とする命令(S’、S”)の出力タイミングを補正している。そのため、より正確な補正を行うことができ、より高精度に振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
【0060】
なお、本実施形態では、第2の遅延時間検出工程[B2]を設け、この工程にて求められた時間差ΔT’に基づいて、命令S”の出力タイミングを補正しているが、例えば、第2の遅延時間検出工程[B2]を省略し、代わりに、第1の遅延時間検出工程[B1]で求められた時間差ΔTに基づいて、命令S”の出力タイミングを補正してもよい。このような場合は、本実施形態と比較して周波数調整の精度が劣る可能性もあるが、それでもなお、従来に比べて優れた周波数調整特性を発揮することができる。また、このような方法によれば、本実施形態と比較して工程の簡略化を図ることができる。第2の遅延時間検出工程[B2]を省略するか否かは、振動子200に求められる確度(許容される誤差)、コスト等によって適宜判断すればよい。
【0061】
<第2実施形態>
次に、本発明の振動子の周波数調整方法の第2実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明する図である。
以下、第2実施形態の周波数調整方法について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0062】
本発明の第2実施形態にかかる周波数調整方法は、その工程が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。また、以下では、説明の便宜上、1つのシャッター装置120に対応する振動子200について代表して説明する。
本実施形態の周波数調整方法は、周波数調整工程[A]と、周波数調整工程[A]の途中に行われる遅延時間検出工程[B]とを有している。具体的には、周波数調整工程[A]は、ハイモード工程[A1]と、ローモード工程[A2]とを有しており、遅延時間検出工程[B]は、ハイモード工程[A1]の途中に行われる。
【0063】
以下、本実施形態の周波数調整方法について詳細に説明する。
[A1]ハイモード工程(前半)
まず、前述した第1実施形態と同様に、チャンバー110内に振動子200を配置し、チャンバー110を所定環境下とし、シャッター装置120を閉状態としてからイオンビームIBのエネルギーを調整レートHとなるように調整する。次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。
【0064】
[B]遅延時間検出工程
まず、工程[A1]を開始するためにシャッター装置120を開状態としてから所定時間経過した後に、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令Sを出力し、シャッター装置120を閉状態とする。制御手段160は、周波数測定手段150からの情報に基づいて、命令Sを出力した時刻(第1時刻)T1における振動子200の共振周波数f1を検出する。また、また、制御手段160は、命令Sを受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T1における振動子200の共振周波数f2を検出する。次いで、制御手段160は、共振周波数f1、f2の差Δf(Δf=f2−f1)を求め、さらに、Δfと、調整レートHとに基づいて、時刻T1、T2の時間差ΔTを求める。
なお、本工程中、調整レートHを維持しておくのが好ましい。これにより、次の工程を速やかに行うことができる。
【0065】
[A1]ハイモード工程(後半)
まず、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBの振動子200への照射が再開され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。
次いで、振動子200の共振周波数fが本工程での目的値である共振周波数f0’(例えばf0−10ppm程度)となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S’を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。この際、制御手段160は、遅延時間検出工程[B]にて求めたΔTに基づいて命令S’の出力タイミングを補正する。
【0066】
[A2]ローモード工程
まず、調整レートLとなるように、イオンガン130の駆動状態を切り替え、イオンビームIBが安定するまで放置する。次いで、シャッター装置120を開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200に照射され、調整レートLに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S”を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。この際、制御手段160は、遅延時間検出工程[B]にて求めたΔTに基づいて命令S”の出力タイミングを補正する。
以上により、振動子200の共振周波数の調整が完了する。
【0067】
このように、ΔTに基づいて、命令S’、S”の出力タイミングを補正することにより、高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。また、遅延時間検出工程[B]にて求めたΔTを、命令Sの出力タイミングの補正と命令S’の出力タイミングの補正の両方に用いることにより、周波数調整方法の工程を少なくすることができる。
【0068】
なお、命令S’、S”を出力する時刻は、ともに命令Sを出力する時刻と近いため、その間のシャッター装置120の状態変化は、殆ど起こらない。したがって、本実施形態の周波数調整方法によっても、高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
このような第2実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0069】
<第3実施形態>
次に、本発明の振動子の周波数調整方法の第3実施形態について説明する。
図5は、本発明の第3実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明する図である。
以下、第2実施形態の周波数調整方法について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0070】
本発明の第3実施形態にかかる周波数調整方法は、その工程が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。また、以下では、説明の便宜上、1つのシャッター装置120に対応する振動子200について代表して説明する。
本実施形態の周波数調整方法は、周波数調整工程[A]と、周波数調整工程[A]の途中に行われる遅延時間検出工程[B]とを有している。
【0071】
周波数調整工程[A]は、その行程中、一定の調整レートで行われる。本工程での調整レートとしては、特に限定されず、例えば、前述した第1実施形態のハイモード工程[A2]と同様の調整レートであってもよいし、ローモード工程[A1(A3)]と同様の調整レートであってもよい。調整レートを上げるほど、振動子200の周波数調整にかかる時間を短縮することができ、調整レートを下げるほど、より高精度な周波数調整を行うことができる。そのため、調整レートは、振動子200に求められる確度(許容される誤差)や、生産性等によって適宜設定すればよい。なお、以下では、説明の便宜上、前述した第1実施形態のハイモード工程[A2]と同様の調整レートを用いた場合について代表して説明する。
【0072】
以下、本実施形態の周波数調整方法について詳細に説明する。
[A]周波数調整工程(前半)
まず、前述した第1実施形態と同様に、チャンバー110内に振動子200を配置し、チャンバー110を所定環境下とし、シャッター装置120を閉状態としてからイオンビームIBのエネルギーを調整レートHとなるように調整する。次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。
【0073】
[B]遅延時間検出工程
シャッター装置120を開状態としてから所定時間経過した後に、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令Sを出力し、シャッター装置120を閉状態とする。制御手段160は、周波数測定手段150からの情報に基づいて、命令Sを出力した時刻(第1時刻)T1における振動子200の共振周波数f1を検出する。また、制御手段160は、命令Sを受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T1における振動子200の共振周波数f2を検出する。
【0074】
次いで、制御手段160は、共振周波数f1、f2の差Δf(Δf=f2−f1)を求め、求められたΔfと、調整レートHとに基づいて、時刻T1、T2の時間差ΔTを求める。
なお、本工程中、調整レートHを維持しておくのが好ましい。これにより、次の工程を速やかに行うことができる。
【0075】
[A]周波数調整工程(後半)
まず、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBの振動子200への照射が再開され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S’を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。この際、制御手段160は、遅延時間検出工程[B]にて求めたΔTに基づいて命令S’の出力タイミングを補正する。
以上により、振動子200の共振周波数の調整が完了する。
このように、ΔTに基づいて、命令S’の出力タイミングを補正することにより、確実かつ高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
【0076】
ここで、本実施形態の周波数調整方法では、遅延時間検出工程[B]は、周波数調整工程[A]のなるべく最後の方に行うのがよい。これにより、遅延時間検出工程[B]にて命令Sを出力する時刻と、周波数調整工程[A]を終了するために命令S’を出力する時刻との時間差をより短くすることができる。そのため、これら時刻におけるシャッター装置120の状態をより等しくすることができ、より高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
このような第3実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0077】
<第4実施形態>
次に、本発明の振動子の周波数調整方法の第4実施形態について説明する。
図6は、本発明の第4実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明する図である。
以下、第4実施形態の周波数調整方法について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0078】
本発明の第4実施形態にかかる周波数調整方法は、その工程が異なる以外は、前述した第3実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。また、以下では、説明の便宜上、1つのシャッター装置120に対応する振動子200について代表して説明する。
本実施形態の周波数調整方法は、周波数調整工程[A]と、周波数調整工程[A]に先立って行われる遅延時間検出工程[B]とを有している。
【0079】
具体的には、所定のシャッター装置120を用いてn個目(ただし、nは、2以上の自然数)の振動子200の共振周波数を調整するとした場合、遅延時間検出工程[B]は、n−1個目の振動子200’の共振周波数を調整する周波数調整工程[C]と、n個目の振動子200の共振周波数を調整する周波数調整工程[A]との間に行われる。
なお、周波数調整工程[A]、[C]は、互いに異なっていてもよいし、同様であってもよい。以下では、説明の便宜上、周波数調整工程[A]、[C]が互いに同様である場合について説明する。これら工程[A]、[C]は、その行程中一定の調整レートで行われる。調整レートとしては、特に限定されないが、以下では、説明の便宜上、調整レートHを用いた場合について説明する。
【0080】
以下、本実施形態の周波数調整方法について詳細に説明する。
[C]振動子200’の周波数調整工程
まず、前述した第1実施形態と同様に、チャンバー110内に振動子200’を配置し、チャンバー110を所定環境下とし、シャッター装置120を閉状態としてからイオンビームIBのエネルギーを調整レートHとなるように調整する。
【0081】
次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200’に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200’の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200’の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令Sを出力し、シャッター装置120を閉状態とする。
以上により、振動子200’の共振周波数の調整が完了する。
【0082】
[B]遅延時間検出工程
制御手段160は、周波数測定手段150からの情報に基づいて、命令Sを出力した時刻(第1時刻)T1における振動子200の共振周波数f1を検出する。また、制御手段160は、命令Sを受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T1における振動子200の共振周波数f2を検出する。次いで、制御手段160は、共振周波数f1、f2の差Δf(Δf=f2−f1)を求め、Δfと、調整レートHとに基づいて、時刻T1、T2の時間差ΔTを求める。
【0083】
[A]振動子200の周波数調整工程
まず、チャンバー110内から振動子200’を取り出し、新たな振動子200を配置する。次いで、チャンバー110を所定環境下とし、シャッター装置120を閉状態としてからイオンビームIBのエネルギーを調整レートHとなるように調整する。
次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S’を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。この際、制御手段160は、遅延時間検出工程[B]にて求めたΔTに基づいて命令S’の出力タイミングを補正する。なお、補正方法は、前述した第1実施形態と同様である。
以上により、振動子200の共振周波数の調整が完了する。
【0084】
このように、ΔTに基づいて、命令S’の出力タイミングを補正することにより、確実かつ高精度に、振動子200の共振周波数fを目的の共振周波数f0に合わせ込むことができる。
特に、本実施形態では、直前の振動子200’の周波数調整を終えるために行うシャッター装置120の駆動を利用して時間差ΔTを求めている。これにより、シャッター装置120の無駄な駆動(例えば時間差ΔTを求めるためだけの駆動)を防止することができるため、効率的に、振動子200の周波数調整を行うことができる。
このような第4実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0085】
<第5実施形態>
次に、本発明の振動子の周波数調整方法の第5実施形態について説明する。
図7は、本発明の第5実施形態にかかる振動子の周波数調整方法を説明する図である。
以下、第5実施形態の周波数調整方法について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0086】
本発明の第5実施形態にかかる周波数調整方法は、その工程が異なる以外は、前述した第3実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。また、以下では、説明の便宜上、1つのシャッター装置120に対応する振動子200について代表して説明する。
本実施形態の周波数調整方法は、周波数調整工程[A]と、遅延時間検出工程[B]とを有している。
【0087】
また、周波数調整工程[A]は、ハイモード工程[A1]と、ローモード工程[A2]とを有している。
また、遅延時間検出工程[B]は、周波数調整工程[A]に先立って行われる第1の遅延時間検出工程[B1]と、周波数調整工程[A]の途中に行われる第2の遅延時間検出工程[B2]とを有している。
【0088】
具体的には、時系列をもって順番にm個(ただしmは、2以上の自然数)の振動子200の共振周波数を調整する工程であって、所定のシャッター装置120を用いてn個目(ただし、nは、2以上の自然数)の振動子200の共振周波数を調整するとした場合、第1の遅延時間検出工程[B1]は、n−1個目の振動子200’の共振周波数を調整する周波数調整工程[C]と、n個目の振動子200の共振周波数を調整する周波数調整工程[A]の間に行われ、第2の遅延時間検出工程は、ハイモード工程[A1]とローモード工程[A2]の間に行われる。
【0089】
[C]振動子200’の周波数調整工程
まず、前述した第1実施形態と同様に、チャンバー110内に振動子200’を配置し、チャンバー110を所定環境下とし、シャッター装置120を閉状態としてからイオンビームIBのエネルギーを調整レートHとなるように調整する。
次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200’に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200’の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200’の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令Sを出力し、シャッター装置120を閉状態とする。
以上により、振動子200’の共振周波数の調整が完了する。
【0090】
[B1]第1の遅延時間検出工程
制御手段160は、周波数測定手段150からの情報に基づいて、命令Sを出力した時刻(第1時刻)T1における振動子200の共振周波数f1を検出する。また、制御手段160は、命令Sを受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T1における振動子200の共振周波数f2を検出する。次いで、制御手段160は、共振周波数f1、f2の差Δf(Δf=f2−f1)を求め、Δfと、調整レートHとに基づいて、時刻T1、T2の時間差ΔTを求める。
【0091】
[A1]ハイモード工程
まず、チャンバー110内から振動子200’を取り出し、新たな振動子200を配置する。次いで、チャンバー110を所定環境下とし、シャッター装置120を閉状態としてからイオンビームIBのエネルギーを調整レートHとなるように調整する。
次いで、シャッター装置120を閉状態から開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200に照射され、調整レートHに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが本工程での目標値である共振周波数f0’となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S’を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。この際、制御手段160は、第1の遅延時間検出工程[B1]にて求めたΔTに基づいて命令S’の出力タイミングを補正する。
【0092】
[B2]第2の遅延時間検出工程
制御手段160は、周波数測定手段150からの情報に基づいて、命令S’を出力した時刻(第1時刻)T1’における振動子200の共振周波数f1’を検出する。また、制御手段160は、命令S’を受けてシャッター装置120が閉状態となった時刻(第2時刻)T1’における振動子200の共振周波数f2’を検出する。次いで、制御手段160は、共振周波数f1’、f2’の差Δf’(Δf’=f2’−f1’)を求め、Δf’と、調整レートHとに基づいて、時刻T1’、T2’の時間差ΔT’を求める。
【0093】
[A2]ローモード工程
まず、調整レートLとなるように、イオンガン130の駆動状態を切り替え、イオンビームIBが安定するまで放置する。
次いで、シャッター装置120を開状態とする。これにより、イオンビームIBが振動子200の所定箇所に照射され、調整レートLに応じた速度にて振動子200の共振周波数fが高くなる。次いで、振動子200の共振周波数fが共振周波数f0となるように、制御手段160からシャッター装置120を閉状態とする命令S”を出力し、シャッター装置120を閉状態とする。この際、制御手段160は、第2の遅延時間検出工程[B2]にて求めたΔT’に基づいて命令S”の出力タイミングを補正する。
以上により、振動子200の共振周波数の調整が完了する。
このような第5実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0094】
以上、本発明の振動子の周波数調整方法について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、本発明に、他の任意の構成物(工程)が付加されていてもよい。また、各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
また、前述した実施形態では、イオンビームによって振動子の質量を減少させることにより振動子の共振周波数を変更する方法について説明したが、これに限定されず、例えば蒸着によって金属粒子を振動子に付着させ、振動子の質量を増加させることにより、振動子の共振周波数を変更してもよい。
【符号の説明】
【0095】
100……周波数調整装置
110……チャンバー
120……シャッター装置
121……シャッター部
122……駆動部
122a……本体
122b……シャフト
123……連結部
124……振動子
130……イオンガン
140……遮蔽版
150……周波数測定手段
160……制御手段
200、200’……振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子の共振周波数を調整する周波数調整方法であって、
質量変化手段による前記振動子の質量変化を許容する開状態と、前記質量変化を阻止する閉状態とを切り替えることができるシャッター部と、
前記シャッター部の前記切り替えを制御する制御手段とを備えたシャッター装置を用意し、
前記振動子と前記質量変化手段との間に、前記シャッター部を配置する工程と、
前記シャッター部を前記開状態として前記振動子の質量変化を開始した後、前記シャッター部を前記閉状態にして前記振動子の共振周波数を調整する周波数調整工程と、
前記周波調整工程における前記閉状態の前に、前記制御手段から前記シャッター部を前記閉状態とする命令が出力された第1時刻と、前記命令を受けて前記シャッター部が前記閉状態となった第2時刻との時間差を求める遅延時間検出工程とを含み、
前記周波数調整工程では、前記制御手段は、前記時間差に基づいて、前記シャッター部を前記閉状態とする命令を出力する時刻を補正することを特徴とする振動子の周波数調整方法。
【請求項2】
前記遅延時間検出工程では、前記質量変化手段によって前記振動子の質量を変化させている状態において、前記第1時刻における前記振動子の共振周波数と前記第2時刻における振動子の共振周波数の差と、前記振動子の単位時間当たりの共振周波数変化量とに基づいて前記時間差を求める請求項1に記載の振動子の周波数調整方法。
【請求項3】
前記周波数調整工程には、第1の周波数調整工程である第1工程と第2の周波数調整工程である第2工程とがあって、前記第1工程の後に前記第2工程があって、前記第2工程の単位時間当たりの共振周波数変化量が前記第1工程よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の振動子の周波数調整方法。
【請求項4】
前記遅延時間検出工程は、前記第1工程と前記第2工程との間に行われる請求項3に記載の振動子の周波数調整方法。
【請求項5】
前記周波数調整工程では、前記第1工程を終了するために前記シャッター装置を開状態から閉状態に切り替え、
前記遅延時間検出工程における前記第1時刻は、前記第1工程を終了するために前記制御手段から前記シャッター部を前記閉状態とする命令が出力された時刻である請求項4に記載の振動子の周波数調整方法。
【請求項6】
前記遅延時間検出工程は、前記第1工程および前記第2工程の少なくとも一方の工程の途中で、前記シャッター部を閉状態へ切り替えて、前記時間差を求める請求項3に記載の振動子の周波数調整方法。
【請求項7】
前記周波数調整工程は、時系列をもって順番にm個(ただしmは、2以上の自然数)の前記振動子の共振周波数を調整する工程であって、n個目(ただしnは、2以上かつm以下の自然数)の前記振動子の共振周波数を調整するとした場合、前記遅延時間検出工程は、n−1個目の振動子の共振周波数の調整を行う工程と、前記周波数調整工程との間に行われる請求項1または2に記載の振動子の周波数調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−74360(P2013−74360A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210189(P2011−210189)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】