説明

振動子

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、直交座標軸におけるX軸に沿って振動可能な第1の振動片と該第1の振動片と対となる第2の振動片とを、両振動片の間で振動の伝播が可能に支持した振動子に関する。
【0002】
【従来の技術】所定方向に沿って振動している振動片、例えば直交座標軸平面(X−Y平面)におけるX軸に沿って振動している振動片がこのX−Y平面と直交するZ軸の回りに回転すると、その回転角速度により振動片にY軸方向にコリオリの力が生じる。このコリオリの力は角速度に依存して定まることから、コリオリの力を振動片の撓み変位量等として間接的に、或いは圧電素子の圧電効果により直接的に測定して、振動片の角速度を求めることができる。このため、振動する振動片を車両等に搭載して、車両旋回時に発生するヨーレイトを検出したり車両の走行軌跡を記録することが行なわれている。例えば、特公表4−504617には対となる振動片を音叉型に構成した振動子が、実開平1−81514にはH字型の振動子が提案されている。
【0003】これら公報に提案された振動子では、特公表4−504617にあっては各振動片のそれぞれを電極等により振動(励振振動)させているので、各振動片の共振周波数が一致するよう質量調整することが提案されている。そして、この質量調整の一手法として、実開平1−81514には、各振動片に調整用ウェイトをくびれ部を介して一体に設け、各振動片の共振周波数を測定しつつ各調整用ウェイトを溶融除去する技術が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記したように質量調整する方法では、共振周波数の測定と特定箇所の溶融除去処理とを平行して行なう都合上、その作業は煩雑であった。しかも、溶融除去した質量を測定することができないとともに、各振動片相互間においては、励振振動方向は勿論、コリオリの力により起きる振動の方向(検出振動方向)についても、各振動片間で各方向の共振周波数を一致させることが必要であった。このため、共振周波数の調整には、高度の熟練を要していた。なお、各振動片間で各方向の共振周波数を一致させることが必要なのは、次のような理由による。
【0005】励振振動方向であるX軸に沿って振動している振動片に角速度に起因するコリオリの力がY軸方向に加わると、この振動片の運動は単一方向(X軸方向)振動から回転運動に変化する。この際、振動片はその自由端が撓んだ状態で回転運動を起こす。この回転運動をX軸とこれに直交するY軸のベクトルに分解すると、当該回転運動は励振振動方向の振動(励振振動)と検出振動方向の振動(検出振動)に分けられる。この両振動が一つの振動片についてのものであれば、コリオリの力により発生した検出振動の周波数は、励振振動の周波数と必然的に一致する。そして、コリオリの力による検出振動の振幅を最大の振幅とするには、検出振動方向の共振周波数を励振振動方向の共振周波数に一致させればよいことがよく知られている。その一方で、コリオリの力の検出感度を上げるためには、検出振動方向の振動の振幅を極力大きくし振動片の撓み変位量を大きくすることが不可欠である。
【0006】ところで、上記した従来の振動子では、対となる振動片の各振動片をX軸に沿って常時振動させておき、コリオリの力が働いて各振動片がY軸に沿って振動した際の検出振動を検出することが各振動片について行なわれている。このため、上記した従来の振動子においてコリオリの力の検出感度を上げるためには、対となる各振動片について相互に励振振動方向の共振周波数と検出振動方向の共振周波数一致させることが不可欠であった。
【0007】しかし、振動片を2個以上としたとき、一般に各振動片にX軸方向の共振周波数fxi(添え字iは振動片を意味する)とy軸方向の共振周波数fyiが存在し、これらの4個以上の共振周波数が互いに関係し合う。このため、従来の技術では共振周波数の調整を行うと励振共振周波数と検出共振周波数とを独立に調整することが必要となり困難である。即ち、各振動片のX軸方向の共振周波数fxiとY軸方向の共振周波数fyi、これらの4個以上の共振周波数が互いに複雑に変化するため、共振周波数の調整が容易でないという問題があった。
【0008】本発明は、上記問題点を解決するためになされ、振動子を構成する振動片の共振周波数の調整を簡略化することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するためになされた本発明の振動子の採用した手段は、直交座標軸におけるX軸に沿って振動可能な第1の振動片と該第1の振動片と対となり、該第1の振動片についての前記X軸に沿った振動片幅w1 とは異なった値の、前記X軸に直交するY軸に沿った厚みt2 を有する第2の振動片とを、両振動片の間で振動の伝播が可能に支持した振動子であって、前記第1の振動片の振動片幅w1 の平方根値と前記X軸に沿って振動する際の振動の支点から自由端までの振動片長さl1 との比の値と、前記第2の振動片の厚みt2 の平方根値と前記Y軸に沿って振動する際の振動の支点から自由端までの振動片長さl2 との比の値とを等しくしたことをその要旨とする。
【0010】
【作用】上記構成を有する本発明の振動子では、共振周波数の調整を容易とするために、励振方向をX軸方向とすることで、第1の振動片をセンサ動作時に常に一定振幅で振動している励振用の振動片とし、第2の振動片を角速度印加により振動が発生し角速度に比例した振動出力を検出する検出用振動片として両振動片を分離し、各振動片を連結した構造とした。これにより、励振用共振周波数は、励振用振動片(第1の振動片)のX軸方向の共振周波数fx1 のみを所定の周波数fdに合わせればよく、検出用共振周波数は、検出用振動片(第2の振動片)のY軸方向の共振周波数fy2 のみを所定の周波数fsに合わせればよい。また、振動片が独立しているので、励振用共振周波数fx1 と検出用共振周波数fy2 を独立に調整でき、そのため容易に両者の共振周波数(fx1 ,fy2 )を一致或いは所定範囲内に近似した値に調整することが可能となる。よって、従来複雑で困難であった共振周波数の設定が以下に説明するように容易になり、センサ特性の安定および向上が可能となる。
【0011】この振動子では、対となる振動片のうちの第1の振動片は、X軸に沿った振動片幅がw1 でこのX軸に沿って振動する際の振動の支点から自由端までの振動片長さがl1 の一様断面の片持ちの梁と仮定できる。このため、当該第1の振動片がX軸に沿って振動する際のX軸方向の共振周波数fx1 は、下記の式■で表わされる。
【0012】
fx1 =(λn 2/2π・l1 2)√(E・I・g/A・r) …■ここで、λn はn次振動モードの振動数係数,Eは縦弾性係数,Iは断面二次モーメント,gは重力加速度,Aは断面積,rは密度である。ここで、断面二次モーメントI=t・w1 3 /12であり、断面積A=t・w1 であることから(tは第1の振動片の厚み)、式■は式■に変形できる。
【0013】
fx1 =(λn 2/2π・l1 2)√(E・(t・w1 3 /12)・g/(t・w1 )・r) =(λn 2/2π・l1 2)√(E・w1 2・g/12・r) =(λn 2・w1 /2π・l1 2)√(E・g/12・r) …
【0014】一方、第2の振動片は、Y軸に沿った厚みがt2 でこのY軸に沿って振動する際の振動の支点から自由端までの振動片長さがl2 の一様断面の片持ちの梁と仮定できる。このため、当該第2の振動片がY軸に沿って振動する際のY軸方向の共振周波数fy2 は、下記の式■で表わされる。
【0015】
fy2 =(λn 2/2π・l2 2)√(E・I・g/A・r) …■ここで、λn ,E,I等は上記式■と同様であり、断面二次モーメントI=w・t2 3 /12であり、断面積A=w・t2 であることから(wは第2の振動片の幅)、式■は式■に変形できる。
【0016】
fy2 =(λn 2/2π・l2 2)√(E・(w・t2 3 /12)・g/(w・t2 )・r) =(λn 2/2π・l2 2)√(E・t22・g/12・r) =(λn 2・t2 /2π・l2 2)√(E・g/12・r) …
【0017】本発明では、第1の振動片の振動片幅w1 の平方根値とその振動片長さl1 との比の値(√(w1 )/l1 )と、第2の振動片の厚みt2 の平方根値とその振動片長さl2 との比の値(√(t2 )/l2 )とは等しい。よって、次の式■が成立する。
√(w1 )/l1 =√(t2 )/l2 …■この式■の両辺を二乗して変形すると、次の式■が導かれる。
w1 /l1 2=t2 /l2 2
【0018】この式■を式■に代入すると、第1の振動片の共振周波数fx1 は、次のようになる。
fx1 =(λn 2・t2 /2π・l2 2)√(E・g/12・r)=fy2
【0019】つまり、第1の振動片の共振周波数fx1 と、第2の振動片の共振周波数fy2 とは一致することになる。その一方で、この第1の振動片がX軸に沿って継続して振動している最中にこの第1の振動片に直交座標軸と直交するZ軸の回りの回転角速度が作用すると、この第1の振動片はY軸方向にコリオリの力を受けてY軸に沿った振動が励起される。この角速度による、第1の振動片がY軸に沿って振動する際の角速度周波数fyω1 は、この第1の振動片の共振周波数fx1と一致する。
【0020】このように第1の振動片がY軸に沿って振動すると、当該Y軸に沿った第1の振動片の振動は第2の振動片に伝播し、第2の振動片はY軸に沿って振動する。そして、この第2の振動片がY軸に沿って振動する際の共振周波数fy2 は、既述したように第1の振動片の共振周波数fx1 と一致することから、第1の振動片の角速度周波数fyω1 とも一致する。
【0021】つまり、第1,第2の振動片についての上記した二つの比の値が等しくなるように各振動片を形成するだけで、第2の振動片の共振周波数fy2 を、第1の振動片の共振周波数fx1 、延いてはこの第1の振動片の角速度周波数fyω1 と一致させることができる。よって、第2の振動片はY軸に沿って振動する際に角速度による振動と共振して大きな振幅で振動するので、第2の振動片の撓み変位量を大きくすることができ、この振動の振動状態を検出することでコリオリの力の検出感度を上げることが可能となる。
【0022】本発明では、第1の振動片についての比の値(√(w1 )/l1 )と第2の振動片についての比の値(√(t2 )/l2 )を等しくすることのみが重要である。従って、この関係を保ちながら上記式■から■におけるl1 ,l2 ,w,w2,t,t2 等の間に、l1 ≠l2 、w≠w2 、t≠t2 となる関係を持ち込むことができるので、各振動片の寸法、即ち、励振用振動片と検出用振動片の長さl、幅w、厚みtを互いに異なるものとすることができる。この場合、各振動片でX軸、Y軸方向の共振周波数を独立に設定できると共に励振用共振周波数fdをfx1 と一致させ、かつfy1 とは異なるように設定できる。また、検出用共振周波数fsをfy2 及びfx1 と一致させ、かつfx2 とは異なるように設定できる。
【0023】これにより、励振用振動片の持つ共振周波数fx1 とfy1 が大きく分離でき、fy1 の影響をセンサが受けないようにすることができる。また、検出用振動片の持つ共振周波数fx2 とfy2 が大きく分離でき、fx2 の影響をセンサが受けないようにすることができる。このため、fd,fsを合わせるとき、fx1 ,fy2 のみを測定、調整すればよく、作業が簡素化される。また、fx2 ,fy1 がfx1 ,fy2 と分離されているために、周波数調整時に複雑な変化をせず独立性のよい調整を可能とする。
【0024】また、上記二つの比の値が等しくなるように各振動片を形成するには、切削,研磨等の適宜な機械加工を行なったり、蒸着,スパッタリング,CVD等の薄膜形成処理を施すことにより、各振動片について測定が容易な振動片幅や厚みおよび振動片長さを規定しこれを調整すればよい。このため、第1の振動片の共振周波数fx1 と第2の振動片の共振周波数fy2 とを一致させるに際しては、第1の振動片と第2の振動片の間において、第1の振動片の共振周波数fx1 と第2の振動片の共振周波数fx2 とを一致させる必要がなく、そのための調整も要しない。
【0025】更には、第2の振動片についてのX軸に沿った振動片幅w2 や第1の振動片についてのY軸に沿った厚みt1 に無関係に、第1の振動片の共振周波数fx1 と第2の振動片の共振周波数fy2 とを一致させることができる。このため、第2の振動片のX軸に沿った振動片幅w2 や第1の振動片のY軸に沿った厚みt1 を規定することで、第2の振動片の共振周波数fx2 を第1の振動片のX軸に沿った反共振周波数fxγ1 に一致させることができる。よって、第1の振動片のX軸方向の振動が第2の振動片に伝播して第2の振動片がX軸方向に振動する際の振動を抑制して、第2の振動片の振動をY軸方向の単一の振動に近づけることができる。このため、第2の振動片においてコリオリの力を検出する際に検出感度の外乱となり得るX軸方向の振動の影響を排除でき、コリオリの力の検出感度を向上させることが可能となる。
【0026】また、第1の振動片がY軸に沿って振動したときにその振動を第2の振動片に伝播できればよく、振動子を構成する振動片についての材質的な制約はない。例えば、金属は勿論、水晶,半導体等の結晶体、ガラスやセラミック等の振動の伝播が可能な材料を用いて、振動片並びに振動子を形成することができる。
【0027】なお、この振動子を用いてヨーレイトを検出するには、第1の振動片をX軸に沿って継続して振動するよう構成し、第2の振動片においてY軸に沿った振動の振動状態を検出するよう構成すればよい。このようにすれば、第1の振動片がコリオリの力を受けて起きるY軸に沿った振動を第2の振動片に伝播させ、当該第2の振動片は共振してY軸に沿って振動する。このため、振動ジャイロがX−Y平面に直交する軸(Z軸)の回りに回転すると、その回転角速度に基づくコリオリの力による第1の振動片の振動を経て第2の振動片がY軸に沿って振動し、その振動状態を検出できる。ところで、振動子における第1の振動片の共振周波数fx1 と第2の振動片の共振周波数fy2 とは一致していることから、第2の振動片はコリオリの力によりY軸に沿って大きな振幅で振動してその撓み変位量が大きくなる。よって、コリオリの力を感度良く検出できる。
【0028】この際、第1の振動片をX軸に沿って継続して振動させるには、振動片の材質等を考慮して適宜な構成を選択すればよい。例えば、振動片が金属、水晶,半導体等の結晶体、ガラスやセラミック等を用いて形成されていれば、ピエゾ素子(PZT)等の圧電素子を用い、当該素子の逆圧電効果により振動片を振動させればよい。また、振動片が水晶,半導体等の結晶体やセラミック等の圧電効果を有する材料を用いて形成されていれば、電極を用いて当該振動片自体の逆圧電効果により振動片を振動させればよい。更に、振動片に作用する誘導磁力や容量電荷を変化させて振動片を振動させることも可能である。一方、第2の振動片がY軸に沿って振動したときには、その振動状態は、ピエゾ素子(PZT)等の圧電素子や電極を介した圧電効果や、誘導磁力や容量電荷の変化により検出できる。
【0029】
【実施例】次に、本発明に係る振動ジャイロの好適な実施例について、図面に基づき説明する。図1は、実施例の振動ジャイロ10の斜視図である。図示するように、振動ジャイロ10は、基部12から対となる2本の振動片14(第1の振動片)と振動片16(第2の振動片)を突出して備える。この振動ジャイロ10は、振動を伝播する金属、例えばジュラルミン等の軽合金の単一の板材から図示する形状に適宜な機械加工を経て形成されている。なお、振動片14,16の長さ,幅等の寸法の詳細については後述する。
【0030】図1およびその2−2線断面図である図2に示すように、各振動片には圧電素子であるピエゾ素子が貼着・固定されている。つまり、振動片14の両側面(X軸が直交するY−Z平面と平行な面)には、それぞれ一対のピエゾ素子20が、振動片16の上下面(Y軸が直交するX−Z平面と平行な面)には一対のピエゾ素子24が対向して貼着・固定されている。そして、対向する各ピエゾ素子20,24には、各ピエゾ素子に交流電圧を印加するための図示しない導電ラインが各振動片の振動を阻害しないようにが配線されている。
【0031】上記した振動ジャイロ10では、各振動片のうち振動片14が一対のピエゾ素子20によりX軸に沿って常時振動(励振)する。つまり、振動片14の一対のピエゾ素子20のそれぞれは、振動片14のX軸方向の共振周波数fx1 と一致する周波数で位相が180度異なる交流電圧の印加を図示しない励振回路から受け、逆圧電効果により電圧に応じて伸縮する。各素子の伸縮は、各素子へ印加される交流電圧の位相が180度異なることから、一方が伸びるときには他方が縮み、一方が縮むときには他方が伸びることになる。よって、振動片14は、この一対のピエゾ素子20によりX軸に沿って共振周波数fx1 で振動する。
【0032】一方、振動片16の一対のピエゾ素子24は、振動片16がY軸方向に振動した際の振動に伴って伸縮し、圧電効果により各素子の伸縮、即ち振動片16のY軸方向の振動の振幅に応じた交流電圧の電気信号を生じる。ピエゾ素子24の各素子の伸縮は互いに逆となるので、生じる電気信号は、位相が180度異なる交流電圧となる。この両電気信号は、図示しない検出バランス調整回路により一方の電気信号を反転して位相が揃えられる。そして、振動ジャイロ10からは、交流電圧である電気信号の負の部分を反転して正電圧とし整流作用を果たす図示しない同期検波回路を経由して、振動片16のY軸方向の振動の振幅に対応したリニアな出力信号が出力される。このため、振動ジャイロ10を車両に搭載すれば、車両の旋回方向とその大きさを検出することができる。
【0033】ここで、振動片14,振動片16の振動長さ(振動の支点から自由端までの長さ、つまり基部12からの突出長さ)や振動片幅,厚み等について説明する。図示するように、振動片14の振動片長さをl1 、X軸に沿った振動片幅をw1 、その厚みをt1 とし、振動片16の振動片長さをl2 、X軸に沿った振動片幅をw2 、その厚みをt2 (=t1 )とする。このように各振動片の振動片長さ等を表わした場合、振動ジャイロ10における振動片14と振動片16との間には、次の関係式■が成立する。
l2 =√(t2 /w1 )・l1 …■この式■を変形すると、l2 /√(t2 )=l1 /√(w1 ) …■となり、両辺を二乗して変形すると、既述した式■の関係が成立する。
w1 /l1 2=t2 /l2 2
【0034】よって、振動片14と振動片16は図示するように一様断面の片持ちの梁であり両振動片の間にはこの式■に示す関係が成り立つことから、既述したように本実施例の振動ジャイロ10では、振動片14のX軸方向の共振周波数fx1 と、振動片16のY軸方向の共振周波数fy2 とは一致することになる(fx1 =fy2 )。なお、この式■〜■における変数は、振動片14,振動片16についての振動片幅,厚み,振動片長さのみであり、各振動片の質量等を変数としない。しかも、式■を成立させるための振動片幅,厚み,振動片長さ等の寸法は、振動ジャイロ10の設計段階で規定できる。更には、振動片14の厚みt1 と振動片16のX軸に沿った振動片幅をw2 は式■に関与しないことから、任意の値を振動ジャイロ10の設計段階で規定できるとともに、振動片14の共振周波数fx1 と振動片16の共振周波数fx2 とを一致させる必要がない。
【0035】そこで、本実施例ではfx1 とfy1 とを等しくせず、fy1 がfx1 よりかなり高い共振周波数を持つように設定した。fx1 とfy2 が等しくなるように設定しているので、振動子の持つ4つの共振周波数の関係は、fx1 =fy2 <fy1 ,fy2 となっている。
【0036】このように各共振周波数を設定することにより、fx1 とfy2 が独立に調整でき、fx2 あるいはfy1 との結合による不要振動の発生が抑制される。これにより、fx1 とfy2 を合わす場合は、例えばfy2 のみを調整して合わせればよく、これは検出用振動片(振動片16)のY軸方向振動に関係する部位の剛性を調整する、あるいは、質量を局所的に調整することにより容易に実現できる。この調整において、fx2 も同時に変化するが、本発明の方式によればfx2の変化はセンサ性能に影響を与えない。また、振動片が独立していて、fx1 とfx2 がかなり離れており、fy1 とfy2 がかなり離れているために、fy2の調整においてfx1 が変化することがないという利点がある。
【0037】なお、本実施例の振動ジャイロ10における具体的な数値は、以下の通りであり、図1はその違いを誇張して描かれている。
(1)振動片14について振動片長さl1 =40mm,振動片幅w1 =2.8mm,厚みt1 =3mm(2)振動片16について振動片長さl2 =41.4mm,振動片幅w2 =4mm,厚みt2 =3mm
【0038】上記した振動片14,振動片16の実際の数値から式■を見ると、式■の右辺(l1 /√(w1 ))の値は40/√(2.8)=23.905、式■の左辺(l2 /√(t2 ))の値は41.1×√3=23.902となり、両辺の式の値はよく一致し、式■の関係が実用的且つ理想的に成立しているといえる。
【0039】振動片14,振動片16がこのような関係にある振動ジャイロ10に直交座標軸と直交するZ軸の回りの回転角速度ωが作用すると、振動片14は、共振周波数fx1 で定常的に振動状態にあることから、Y軸方向にコリオリの力を受けてY軸に沿って振動する。この場合、振動片14は、この振動片14のX軸方向の共振周波数fx1 と一致した角速度周波数fyω1 (fx1 =fyω1 )で、Y軸に沿って振動することになる。
【0040】このように振動片14がY軸に沿って振動すると、このY軸に沿った振動片14は基部12を介して振動片16に伝播し、振動片16はY軸に沿って振動する。そして、この振動片16がY軸に沿って振動する際の共振周波数fy2 は、既述したように振動片14の共振周波数fx1 と一致することから、振動片14の角速度周波数fyω1 とも一致する。つまり、振動片16は、振動片14がコリオリの力を受けてY軸に沿って振動する際の角速度周波数fyω1 と同一の共振周波数fy2 でY軸に沿って振動することになる。そして、この振動片16のY軸に沿った振動の振動状態が振動片16のピエゾ素子24により電気信号に変換されて、外部に取り出されることになる。
【0041】以上説明したように、振動片14,振動片16について式■と■、即ち式■の関係が成立するよう各振動片の振動片幅,厚み,振動片長さ等の寸法をその設計段階で規定し、各振動片をその寸法で形成するだけで、検出用の振動片16の共振周波数fy2 を、振動片14の共振周波数fx1 と一致させることができる。具体的には、本実施例の振動ジャイロ10はジュラルミン等の軽合金製であるので、当該軽合金の単一の板材に放電加工,エンドミル加工,研磨等の機械加工を施して振動片14,振動片16を形成するだけで、振動片16の共振周波数fy2 と振動片14の共振周波数fx1 および共振周波数fy1 とを一致させることができる。この場合、蒸着,スパッタリング,CVD等の薄膜形成処理を施すことにより、振動片14,振動片16の振動片幅や厚みを容易に調整することもできる。
【0042】よって、本実施例の振動ジャイロ10によれば、各振動片についての共振周波数の調整を行なうに当たり、測定が容易な振動片長さや幅,厚みを設計段階で規定して各振動片を形成することにより、従来行なわれていた煩雑な質量調整が非常に簡便にできる。この結果、本実施例の振動ジャイロ10によれば、各振動片間における共振周波数の調整を簡略化することができる。また、振動片14と振動片16の間において、振動片14の共振周波数fx1 と振動片16の共振周波数fx2 とを一致させる必要がなく、そのための調整も要しないので、振動片の共振周波数の調整をより簡略化することができる。また、振動ジャイロ10は板材に適宜な加工を施すだけでよいので、製造が容易である。
【0043】しかも、本実施例の振動ジャイロ10では、振動片14はピエゾ素子20により定常的にX軸に沿って振動しているので、振動ジャイロ10にZ軸の回りに回転角速度ωが働くと、振動片14は、この角速度に基づくコリオリの力を受けてY軸に沿って振動する。このコリオリの力により起きた振動片14のY軸方向の振動は、基部12を経て振動片16に伝播する。そして、この振動片16は、振動片14のX軸方向の共振周波数fx1 、延いてはこの振動片14のY軸方向の角速度周波数fyω1 に等しい共振周波数fy2 で共振してY軸に沿って振動する。このため、本実施例の振動ジャイロ10によれば、コリオリの力により振動片16がY軸に沿って振動する際の振幅を大きくして振動片の撓み変位量を大きくすることができる。よって、本実施例の振動ジャイロ10によれば、簡単な共振周波数の調整や質量調整により、コリオリの力を感度良く検出できる。
【0044】更には、振動片16の振動片幅w2 や振動片14の厚みt1 に無関係に、振動片14の共振周波数fx1 と振動片16の共振周波数fy2 とを一致させることができる。本実施例の振動ジャイロ10にあっては、単一の板材からなることから振動片14の厚みt1 は当該板厚により規定されるので、振動片16の振動片幅w2 に無関係に、振動片14の共振周波数fx1 と振動片16の共振周波数fy2 とを一致させることができる。そして、本実施例の振動ジャイロ10では、振動片16の振動片幅w2 を4mmとしたので、この振動幅w2 と振動片長さl2 で定まる振動片16のX軸方向の共振周波数fx2 は振動片14のX軸に沿った共振周波数fx1 に一致しない。
【0045】よって、本実施例の振動ジャイロ10では、X軸に沿った振動片14の振動が振動片16に伝播して振動片16がX軸方向に振動する際に、振動片16を共振させることがない。このため、本実施例の振動ジャイロ10によれば、振動片16のX軸方向の振動を抑制し、振動片16の振動をY軸方向の単一の振動に近づけることができる。この結果、本実施例の振動ジャイロ10によれば、振動片16においてコリオリの力を検出する際に検出感度の外乱となり得るX軸方向の振動の影響を排除でき、コリオリの力の検出感度をより向上させることができる。なお、振動片16の振動片幅w2 は任意の値とすることがきるので、この振動片16の振動片幅w2 を、振動片16のX軸方向の共振周波数fx2 が振動片14のX軸に沿った反共振周波数に一致するよう規定して、振動片16がX軸方向に振動する際の振動をより一層抑制し、振動片16の振動をY軸方向の単一の振動により一層近づけることができる。
【0046】また、本実施例の振動ジャイロ10では、各振動片に単一の目的(励振用或いは検出用)のピエゾ素子を設けるだけでよい。より詳しくは、振動片14にはこの振動片をX軸に沿って振動させるためのピエゾ素子20のみを、振動片16にはこの振動片がY軸に沿って振動している際の振動状態を検出するためのピエゾ素子24のみを設けるだけでよい。このため、本実施例の振動ジャイロ10によれば、一つの振動片に目的の異なる複数のピエゾ素子を設ける必要がないので、振動ジャイロの構成を簡略化することができるとともに小型化を図ることができる。
【0047】しかも、本実施例の振動ジャイロ10では、各振動片が振動した際の歪が著しい振動片の根元に該当するピエゾ素子を独立して設けることができる。このため、本実施例の振動ジャイロ10によれば、ピエゾ素子20により振動片14を効率よく振動させることができるとともに、コリオリの力、延いては回転角速度ωの方向およびその大きさ(ヨーレイト)を振動片16におけるピエゾ素子24により感度よく検出できる。
【0048】次に、本発明にかかる他の実施例の変形例について説明する。第1の変形例は、上記した振動ジャイロ10に振動片18を追加したものである。つまり、図3に示すように、変形例の振動ジャイロ10は、既述した振動片14,振動片16に並んで振動片18を基部12から突出して備える。この振動片18は、振動片幅,振動片長さが共に振動片14と同一の振動片であり、振動片14と同様に、一対のピエゾ素子22を有する。
【0049】この変形例の振動ジャイロ10では、ピエゾ素子20により振動片14が図中に示すX軸に沿って定常的に振動する。そして、このX軸方向の振動は振動片18に伝播し、振動片18はX軸に沿って継続して振動することになる。この際、振動片18は、振動片14とその寸法が同一であることから、振動片14の共振周波数fx1 とほぼ同一の共振周波数fx3 で振動する。そして、この振動片18のX軸に沿った振動は、このピエゾ素子22の圧電効果により電気信号(交流電圧)に変換され、検出バランス調整回路,同期検波回路等を経て外部に出力される。
【0050】この変形例における振動ジャイロ10では、既述した振動ジャイロ10と同様の効果を奏することができるほか、振動片14の振動が伝播することにより振動する振動片18の振動状態を検出することができる。よって、この変形例における振動ジャイロ10では、振動片18の振動状態に基づいてピエゾ素子20に印加する交流電圧を制御することにより、振動片14のX軸方向の振動の振幅をより一定とすることができ、コリオリの力の検出感度をより一層向上させることができる。従って、より安定した特性を得ることができるのであり、また、温度特性的にも有利である。しかも、このような振動ジャイロ10を、板材から容易に製造することができる。
【0051】更に、振動ジャイロ10を次のように変形することもできる。つまり、図4に示すように、基部12からその上下に振動片14と振動片14a、振動片16と振動片16a、振動片18と振動片18aを突出したものとすることもできる。この場合、振動片14と振動片16については、各振動片の振動片幅,厚み,振動片長さは既述した式■と■、即ち式■の関係にあることは勿論であり、振動片14aと振動片16aとについても同様である。
【0052】また、図5に示すように、二つの振動片14と二つの振動片16とを基部12からその上下に突出したいわゆるH字型の振動ジャイロ10とすることもできる。更には、図6や図7に示すように、二つの振動片14から構成される音叉と二つの振動片16から構成される音叉とを基部12にて結合した形状の振動ジャイロ10とすることもできる。
【0053】以上本発明の一実施例について説明したが、本発明はこの様な実施例になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0054】例えば、本実施例では、振動ジャイロ10をジュラルミン等の軽合金の板材から形成し振動片の励振や振動検出にピエゾ素子を用いたが、これに限るわけではない。つまり、振動ジャイロ10を単結晶体である水晶の板材(水晶基板)をエッチングして形成することもできる。水晶の場合、l1 =4mm,w1 =0.28mm,t1 =0.3mm,l2 =4.14mm,w2 =0.4mm,t2 =0.3mmと小型にできる。この場合には、水晶自体が圧電効果を有するので、X軸に沿って定常的に振動させる側の振動片には、水晶自体の逆圧電効果によりこの振動片をX軸に沿って励振することができる電極を設ければよい。また、Y軸方向の振動状態を検出する側の振動片には、この振動片がY軸に沿って振動した場合に水晶自体の圧電効果によりその振動状態を検出することができる電極を設ければよい。このように水晶基板を用いる場合には、水晶の結晶方向により励振方向と検出方向の縦弾性係数が若干異なるので、その差を補正すれば、より好ましい。
【0055】具体的には、励振方向の縦弾性係数をE1 ,検出方向の縦弾性係数をE2 とした場合、上記した式■を更に次のように変形し、この式が成立するように振動片長さl1 ,l2 ,振動片幅w1 ,厚みt2 を定めればよい。
w1 ・√(E1 )/l1 2=t2 ・√(E2 )/l2 2
【0056】また、本実施例では、振動片16の振動片長さl2 が振動片14の振動片長さl1 より長くなる場合について説明したが、式■と■、即ち式■の関係が成立すればこの限りではない。例えば、振動ジャイロ10の厚みを上記した厚み3mmの半分の1.5mmとすれば、式■からl2 =√(1.5/2.8)×40=29.3mmとなる。このように振動片16の振動片長さl2 が振動片14の振動片長さl1 より短くても、式■と■、即ち式■の関係が成立することから上記した効果を奏することができる。しかも、このように振動ジャイロ10を薄くすれば、励振用の電極をその側面に形成する際にその側面全面に電極を形成すればよく、電極形成が容易となる。
【0057】なお、上記した本発明の記載において、X軸を振動片の並びに沿った方向の軸として説明したが、X軸を振動片の並びに沿った軸および振動片軸方向と直交する軸(上記の説明におけるY軸)としてもよく、Y軸はこのX軸と直交する軸であればよい。
【0058】
【発明の効果】以上詳述したように本発明の振動子では、第1の振動片についてのX軸に沿った振動片幅w1 の平方根値と振動片長さl1 との比の値と第2の振動片についてのY軸に沿った厚みt2 の平方根値と振動片長さl2 との比の値とを等しくして両振動片を形成するだけで、第2の振動片のY軸方向の共振周波数fy2 を、第1の振動片のX軸方向の共振周波数fx1 、延いてはこの第1の振動片のY軸方向の角速度周波数fyω1 と容易に一致させることができる。つまり、測定が容易な振動片長さや幅,厚みを規定し調整するだけでよい。この結果、本発明の振動子によれば、各振動片についての共振周波数の調整を行なうに当たり、調整項目が少なく独立に調整できるので、従来行なわれていた煩雑な質量調整を要しないので、振動片の共振周波数の調整を簡略化することができる。また、第1の振動片と第2の振動片の間において、第1の振動片の共振周波数fx1 と第2の振動片の共振周波数fx2 とを一致させる必要がなく、そのための調整も要しないので、振動片の共振周波数の調整をより簡略化することができる。
【0059】しかも、本発明の振動子の第1の振動片がX軸に沿って振動している最中にX−Y平面に直交する軸(Z軸)の回りに回転角速度が働くと、この角速度に基づくコリオリの力により起きた第1の振動片のY軸方向の振動は第2の振動片に伝播する。そして、この第2の振動片は、第1の振動片のX軸方向の共振周波数fx1 、延いてはこの第1の振動片のY軸方向の角速度周波数fyω1 に等しい共振周波数fy2 で共振してY軸に沿って振動する。このため、本発明の振動子によれば、コリオリの力により第2の振動片がY軸に沿って振動する際の振幅(検出振動方向の振動の振幅)を大きくして振動片の撓み変位量を大きくし、コリオリの力の検出感度を質量調整といった特別な操作を行なうことなく容易に向上させることができる。よって、本発明の振動子を用いることで、煩雑な共振周波数の調整や質量調整等を行なうことなく、コリオリの力を感度良く検出できる。
【0060】更には、第2の振動片についてのX軸に沿った振動片幅w2 や第1の振動片についてのY軸に沿った厚みt1 に無関係に、第1の振動片の共振周波数fx1 と第2の振動片の共振周波数fy2 とを一致させることができる。このため、第2の振動片のX軸に沿った振動片幅w2 や第1の振動片のY軸に沿った厚みt1 を規定することで、第2の振動片の共振周波数fx2 を第1の振動片のX軸に沿った反共振周波数に一致させて第2の振動片がX軸方向に振動する際の振動を抑制し、第2の振動片の振動をY軸方向の単一の振動に近づけることができる。よって、本発明の振動子によれば、第2の振動片においてコリオリの力を検出する際に検出感度の外乱となり得るX軸方向の振動の影響を排除でき、コリオリの力の検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である振動ジャイロ10の斜視図。
【図2】図1おける2−2線断面図。
【図3】変形例における振動ジャイロ10の斜視図。
【図4】変形例における振動ジャイロ10の斜視図。
【図5】変形例におけるH字型の振動ジャイロ10の斜視図。
【図6】変形例における振動ジャイロ10の斜視図。
【図7】変形例における振動ジャイロ10の斜視図。
【符号の説明】
10…振動ジャイロ
12…基部
14,16,18…振動片
14a,16a,18a…振動片
20…ピエゾ素子
22…ピエゾ素子
24…ピエゾ素子
fx1…振動片14のX軸方向の共振周波数
fx2…振動片16のX軸方向の共振周波数
fx3…振動片18のX軸方向の共振周波数
fy1…振動片14のY軸方向の共振周波数
fy2…振動片16のY軸方向の共振周波数
ω…回転角速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】 直交座標軸におけるX軸に沿って振動可能な第1の振動片と該第1の振動片と対となり、該第1の振動片についての前記X軸に沿った振動片幅w1 とは異なった値の、前記X軸に直交するY軸に沿った厚みt2 を有する第2の振動片とを、両振動片の間で振動の伝播が可能に支持した振動子であって、前記第1の振動片の振動片幅w1 の平方根値と前記X軸に沿って振動する際の振動の支点から自由端までの振動片長さl1 との比の値と、前記第2の振動片の厚みt2 の平方根値と前記Y軸に沿って振動する際の振動の支点から自由端までの振動片長さl2 との比の値とを等しくしたことを特徴とする振動子。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3029001号(P3029001)
【登録日】平成12年2月4日(2000.2.4)
【発行日】平成12年4月4日(2000.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−294495
【出願日】平成5年10月28日(1993.10.28)
【公開番号】特開平7−128068
【公開日】平成7年5月19日(1995.5.19)
【審査請求日】平成10年7月15日(1998.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)