説明

振動式測定装置及び振動式測定装置におけるゼロ点演算方法

【課題】本発明はゼロ点の変動による異常の有無を判定することを課題とする。
【解決手段】流量計測制御回路20は、本質安全防爆バリア回路30と、信号処理回路40と、演算回路50とを有する。演算回路50は、マイクロコンピュータからなり、ヤング率演算部51と、流量演算制御回路52と、アナログ出力部54と、パルス出力部55とを有する。流量演算制御回路52は、時間差演算手段52Aと、質量流量演算手段52Bと、平均時間差演算手段52Cと、記憶手段52Dと、異常判定手段52Eとを有する。異常判定手段52Eは、平均時間差と基準時間差許容範囲とを比較して当該平均時間差が基準時間差許容範囲内であれば異常無しと判定し、当該平均時間差が基準時間差許容範囲外であれば異常有りと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れるセンサチューブの上流側変位と下流側変位との時間差に基づいて質量流量を演算する振動式測定装置及び振動式測定装置におけるゼロ点演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測流体が流れる流路を有するセンサチューブを振動させて被測流体の物理量(質量や密度など)を測定する測定装置として、コリオリ式質量流量計または振動式密度計と呼ばれる振動式測定装置がある。以下では、被測流体の質量流量を測定するコリオリ式質量流量計について説明する。
【0003】
この振動式測定装置では、例えば、被測流体の質量流量を測定する場合、被測流体が流れるセンサチューブを当該センサチューブの固有振動数(共振周波数)で加振器により管径方向に振動させ、小さな駆動力でセンサチューブの振幅を大きくすることで、質量流量に比例したコリオリ力によるセンサチューブの変位をセンサ(「ピックアップ」とも呼ばれる)により検出するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
センサチューブにおける被測流体の流速がゼロ(流量=ゼロ)のときは、上流側直管部分、下流側直管部分の相対変位が同じであるので、検出信号の時間差がゼロとなる。また、コリオリ力は、センサチューブの振動方向に働き、且つ上流側と下流側とで逆方向に作用するため、センサチューブの中間部分では捩れが生じる。すなわち、センサチューブにおける被測流体の流速がゼロ以上のときは、上流側直管部分における変位量に応じた検出信号は位相が進み、下流側直管部分における変位量に応じた検出信号は位相が遅れる。そのため、センサチューブの捩れ角に応じて得られた両検出信号の時間差がセンサチューブ内を流れる流体の質量流量に比例する。
【0005】
ところで、センサチューブは、コリオリ力の作用方向と同じ方向に加振されるため、例えば、他の振動成分がセンサチューブに作用した場合、あるいは加振器、センサの取付位置精度やセンサチューブの加工精度のばらつきがあると、センサから出力される検出信号に雑音(ノイズ)が重畳される。そのため、コリオリ力による捩れ角に応じた両検出信号の時間差は、誤差を含んでいるおそれがある。
【0006】
また、センサチューブは、ステンレス材などの金属パイプからなり、例えば、コリオリ力の検出感度を上げるために、肉薄パイプを使用した場合、温度の影響を受けやすくなる。さらに、センサチューブを流れる被測流体の温度が大幅に上昇したり、低下した場合には、センサチューブの弾性係数(ヤング率)が変化するため、センサチューブの固有振動数も変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2583011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の振動式測定装置では、センサチューブの流入側変位を測定する第1のセンサから出力された第1のセンサ信号と、センサチューブの流出側変位を測定する第2のセンサから出力された第2のセンサ信号との時間差に基づいて質量流量を計測するため、各センサ信号を生成する各回路(例えば、バリヤ回路、積分回路など)の温度特性の差違による伝達遅延時間に差が生じると、この伝達遅延時間差が計測誤差の原因となるという問題があった。
【0009】
また、振動式測定装置では、周囲の温度変化や被測流体の温度変化により伝達遅延時間が変動するおそれがあった。
【0010】
そこで、本発明は上記各回路の伝達遅延時間差による計測誤差の変化に応じて、上記課題を解決した振動式測定装置及び振動式測定装置におけるゼロ点演算方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
(1)本発明は、内部に流体が流れる流路が形成されたセンサチューブと、
前記センサチューブを加振する加振器と、
前記加振器に励振信号を出力する励振手段と、
前記加振器より上流側に設けられ、前記センサチューブの上流側の変位に応じた第1のセンサ信号を出力する第1のセンサと、
前記加振器より下流側に設けられ、前記センサチューブの下流側の変位に応じた第2のセンサ信号を出力する第2のセンサと、
前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との時間差から前記センサチューブを流れる質量流量を演算する質量流量演算手段とを有する振動式測定装置であって、
前記励振手段が前記第2のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との第1の時間差を演算する第1の時間差演算手段と、
前記励振手段が前記第1のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第2のセンサ信号と前記第1のセンサ信号との第2の時間差を演算する第2の時間差演算手段と、
前記第1の時間差と前記第2の時間差との平均時間差を演算する平均時間差演算手段と、
前記平均時間差演算手段により演算された前記平均時間差と比較するための基準となる基準時間差許容範囲を予め記憶する記憶手段と、
前記平均時間差が前記基準時間差許容範囲を超える場合に異常有りと判定する異常判定処理を行う異常判定手段と、
を有することを特徴とする。
(2)本発明は、前記質量流量演算手段により演算された質量流量が所定時間一定であるか否かを判定する流量判定手段を有し、
前記異常判定手段は、前記流量判定手段により質量流量が所定時間一定であると判定された場合に前記異常判定処理を行うことを特徴とする。
(3)本発明の前記質量流量演算手段は、前記異常判定手段による前記異常判定処理が行なわれているとき、当該異常判定が行われる直前に演算された質量流量を出力することを特徴とする。
(4)本発明は、内部に流体が流れる流路が形成されたセンサチューブと、
前記センサチューブを加振する加振器と、
前記加振器に励振信号を出力する励振手段と、
前記加振器より上流側に設けられ、前記センサチューブの上流側の変位に応じた第1のセンサ信号を出力する第1のセンサと、
前記加振器より下流側に設けられ、前記センサチューブの下流側の変位に応じた第2のセンサ信号を出力する第2のセンサと、
前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との時間差から前記センサチューブを流れる質量流量を演算する質量流量演算手段とを有する振動式測定装置における前記時間差のゼロ点を演算するゼロ点演算方法であって、
前記励振手段が前記第2のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との第1の時間差を演算する第1の時間差演算工程と、
前記励振手段が前記第1のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第2のセンサ信号と前記第1のセンサ信号との第2の時間差を演算する第2の時間差演算工程と、
前記第1の時間差と前記第2の時間差との平均時間差を演算する平均時間差演算工程と、
前記平均時間差演算工程により演算された前記平均時間差と比較するための基準となる基準時間差許容範囲を予め記憶する記憶工程と、
前記平均時間差が前記基準時間差許容範囲を超える場合に異常有りと判定する異常判定工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加振器を駆動している際における第1のセンサ信号と第2のセンサ信号との第1の時間差と、加振器を駆動している際における第2のセンサ信号と第1のセンサ信号との第2の時間差との平均時間差を演算し、平均時間差が基準時間差の許容範囲を超える場合に異常有りと判定するため、例えば、各センサ信号を生成する各回路の温度特性の差違による伝達遅延時間に差が生じた場合、この伝達遅延による計測誤差の有無を正確に判定することができ、計測結果の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による振動式測定装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】振動式測定装置の側面図である。
【図3】流量計測制御回路を示すブロック図である。
【図4】流量計測時の第1、第2のセンサ信号の時間差の変化を示す図である。
【図5】流量演算制御回路が実行するゼロ点演算処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】変形例1の流量演算制御回路が実行する流量計測処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】変形例2の中点記録処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】変形例3の異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0015】
〔振動式測定装置の構成〕
図1は本発明による振動式測定装置の一実施例の正面図である。図2は振動式測定装置の側面図である。なお、振動式測定装置は、被測流体の密度、及び密度を利用して質量流量を求めることができるため、振動式密度計及びコリオリ式質量流量計として用いられる。振動式密度計とコリオリ式質量流量計とは、同様な構成であるので、本実施例では質量流量計として用いた場合について詳細に説明する。
【0016】
図1及び図2に示されるように、振動式測定装置10は、マニホルド11と、マニホルド11の上面に接続され、平行に形成された逆U字状のセンサチューブ12,13と、センサチューブ12,13の円弧状の中間部分12c,13c間に取り付けられた加振器14と、センサチューブ12と13との流入側の相対変位を検出する流入側振動ピックアップ(第1のセンサ)15と、センサチューブ12と13との流出側の相対変位を検出する流出側振動ピックアップ(第2のセンサ)16とを有する。
【0017】
マニホルド11は、例えば、直方体形状の金属ブロックからなり、一方の端部に流入口11aが設けられ、他方の端部に流出口11bが設けられている。そして、センサチューブ12,13の流入側端部12a,13aが流入口11aに連通され、センサチューブ12,13の流出側端部12b,13bが流出口11bに連通されている。したがって、流入口11aに流入された流体は、センサチューブ12,13を通過して流出口11bより外部に流出される。
【0018】
加振器14は、センサチューブ12の先端に取り付けられた励振コイル14aとセンサチューブ13の先端に取り付けられたマグネット14bからなる。また、図2に示す流出側振動ピックアップ16は、センサチューブ12に取り付けられたセンサコイル16aと、センサチューブ13に取り付けられたマグネット16bとからなる。なお、流入側振動ピックアップ15は、図2において、流出側振動ピックアップ16と重なって見えないが、流出側振動ピックアップ16と同様に、振動するセンサチューブ12に取り付けられたセンサコイル15aと、センサチューブ13に取り付けられたマグネット15bとからなる。
【0019】
また、本実施例では、図1に示すように、センサチューブ12,13の流入側又はマニホルド11の流入口11a付近の温度を測定する温度センサ17が設けられている。
【0020】
加振器14、流入側振動ピックアップ15、流出側振動ピックアップ16は、図1に示すように正面からみてセンサチューブ12,13の中間位置を横切る縦線に対して対称に、且つ加振器14を中心に流入側振動ピックアップ15と流出側振動ピックアップ16とが左右対称に設けられている。そして、加振器14は流量計測制御回路20により駆動制御され、流入側振動ピックアップ15、流出側振動ピックアップ16よりそれぞれ出力された第1のセンサ信号SA、第2のセンサ信号SBは、流量計測制御回路20に入力される。
【0021】
加振器14は、励振コイル14aに正負のある交番電圧(交流信号)が印加されて生じる磁界に対してマグネット14bが吸引又は反発することで、センサチューブ12の中間部分を水平方向(Y方向、図2参照)に振動させる。当然センサチューブ13へはその反力として同じ力が働き、反対方向に振動する。
【0022】
流入側振動ピックアップ15は、センサコイル15aとマグネット15bから構成されているので、センサコイル15aとマグネット15bが流入側のセンサチューブ12とセンサチューブ13と共に近接・離間する。そのため、センサコイル15aからは、流入側におけるセンサコイル15aとマグネット15bの変位量(変位速度)に応じた第1のセンサ信号SA(第1の変位検出信号)が出力される。
【0023】
また、流出側振動ピックアップ16は、上記センサコイル16aとマグネット16bとから構成されているので、センサコイル16a、マグネット16bが流出側のセンサチューブ12,13と共に、近接・離間する。そのため、センサコイル16aからは、流出側におけるセンサコイル16aとマグネット16bの変位量(変位速度)に応じた第2のセンサ信号SB(第2の変位検出信号)が出力される。
〔流量計測制御回路20の構成〕
図3は、流量計測制御回路を示すブロック図である。図3に示されるように、流量計測制御回路20は、本質安全防爆バリア回路30(以下、「バリア回路30」と略称する。)と、信号処理回路40と、演算回路50とを有する。
【0024】
バリア回路30は、本実施形態におけるセンサユニットの各センサコイル15a,16aや加振器14の励振コイル14a、温度センサ17に対する各信号を本質安全防爆化する。なお、バリア回路30は、例えば電圧電流制限素子(例えば、ツェナーダイオード,抵抗)等からなる。
【0025】
信号処理回路40は、マイクロコンピュータからなり、振幅検出・励振検出部41と、励振部(励振手段)42と、温度測定部43とを有する。
【0026】
また、演算回路50は、マイクロコンピュータからなり、ヤング率演算部51と、流量演算制御回路52と、アナログ出力部54と、パルス出力部55とを有する。流量演算制御回路52は、時間差演算手段52Aと、質量流量演算手段52Bと、平均時間差演算手段52Cと、記憶手段52Dと、異常判定手段52Eとを有する。
【0027】
ヤング率演算部51は、温度測定手段43から得られるヤング率に基づいて、時間差の補正を行う。また、ヤング率演算部51は、得られた補正情報及び時間差情報を流量演算制御回路52に出力する。
【0028】
時間差演算手段52Aは、流量計測中に第1のセンサ信号SAと第2のセンサ信号SBとの第1の時間差ΔT1、及び第2のセンサ信号SBと第1のセンサ信号SAとの第2の時間差ΔT2を演算する。質量流量演算手段52Bは、第1の時間差ΔT1、又は第2の時間差ΔT2に基づいて被測流体の質量流量を演算する。
【0029】
平均時間差演算手段52Cは、第1の時間差ΔT1と第2の時間差ΔT2との平均時間差を演算する。記憶手段52Dは、平均時間差演算手段52Cにより演算された平均時間差と比較するための基準時間差許容範囲を予め記憶する。
【0030】
異常判定手段52Eは、平均時間差と基準時間差許容範囲とを比較して当該平均時間差が基準時間差許容範囲内であれば異常無しと判定し、当該平均時間差が基準時間差許容範囲外であれば異常有りと判定する。異常判定手段52Eにより異常なしと判定された場合は、質量流量演算手段52Bによる流量計測値の計測精度が確認される。また、異常判定手段52Eにより異常有りと判定された場合は、流量計測値に誤差が生じていることを報知するか、あるいは流量計測を中止する等の処置が行われる。
【0031】
センサコイル15a、16aと振幅検出・励振検出部41とを接続する信号経路には、駆動信号切り替えスイッチ80が設けられている。駆動信号切り替えスイッチ80は、センサコイル15aから出力された第1のセンサ信号SA、またはセンサコイル16aから出力された第2のセンサ信号SBの何れかを振幅検出・励振検出部41における励振駆動信号を生成する際のトリガ信号として入力する。
【0032】
また、センサコイル15a、16aと演算回路50とを接続する信号経路には、受信信号切り替えスイッチ82が設けられている。受信信号切り替えスイッチ82は、センサコイル15aから出力された第1のセンサ信号SA、及びセンサコイル16aから出力された第2のセンサ信号SBの入力先となる演算回路50の+(CH1),−入力ポート(CH2)への入力を逆転させるように構成されている。
【0033】
すなわち、時間差演算手段52Aは、受信信号切り替えスイッチ82により+,−入力ポートに入力されるセンサコイル15a、16aからの各変位検出信号(各センサ信号)が切り替えられる。従って、時間差演算手段52Aは、受信信号切り替えスイッチ82による切り替え前は第1のセンサ信号SAと第2のセンサ信号SBとの第1の時間差ΔT1を演算する第1の時間差演算手段となり、受信信号切り替えスイッチ82による切り替え後は第2のセンサ信号SBと第1のセンサ信号SAとの第2の時間差ΔT2を演算する第2の時間差演算手段となる。
【0034】
駆動信号切り替えスイッチ80及び受信信号切り替えスイッチ82は、夫々切り替え手段84の駆動信号切り替え部84A、受信信号切り替え部84Bからの切り替え信号により切り替わる。また、駆動信号切り替え部84A、受信信号切り替え部84Bは、夫々流量演算制御回路52から出力される切り替え制御信号に基づいて駆動信号切り替えスイッチ80及び受信信号切り替えスイッチ82に切り替え信号を出力する。
【0035】
尚、駆動信号切り替えスイッチ80及び受信信号切り替えスイッチ82は、例えば、スイッチング素子からなり、図3に示すように模式的に示すと、切り替え信号のオン・オフにより各可動切片80a、82aが切り替え動作するように構成されている。
【0036】
また、流量計測制御回路20には、外部電源60から回路全体に電源を供給する電源回路70が設けられている。
【0037】
信号処理回路40の振幅検出・励振検出部41は、センサコイル15a,16aから得られる各センサ信号SA,SBからセンサチューブ12,13の振幅を検出し、センサチューブ12、13が共振状態の振幅まで増幅されたか否かを検出したり、振幅検出結果等に応じて共振状態の振幅に制御するための励振信号を検出する。
【0038】
また、振幅検出・励振検出部41は、検出した励振信号を励振部42に出力する。更に、振幅検出・励振検出部41は、検出した結果からバリア回路30における電圧電流制限や電源回路70からの電力供給を制御する制御信号を生成してそれぞれに対応する情報を出力する。具体的には、振幅検出・励振検出部41は、センサチューブ12,13の振動を監視し、共振状態の振幅まで増幅されたか否かを判断し、その結果、充分な振幅が得られている場合には、ハイ(High)を、充分な振幅が得られていない場合には、ロー(Low)を電源回路70に出力する。
【0039】
励振部42は、上述した加振器14の励振コイル14aに正負のある交番電圧を印加するための加振信号を生成し、バリア回路30を介して励振コイル14aに出力する。また、温度測定部43は、温度センサ17により検出された温度信号から温度を測定し、測定された温度データを演算回路50のヤング率演算部51に出力する。
【0040】
そして、センサチューブ12,13は、振動している(即ち、往復運動を繰り返している)ことから、縦軸を誘導起電力とし横軸を時間軸としたグラフに変位検出信号を記載すると正弦波状の信号となる。この正弦波状の信号の一周期において、所定の誘導起電力(例えば0mV)の値をゼロ点とした場合のプラス側の誘導起電力が生じている時間と、マイナス側の誘導起電力が生じている時間との比を「デューティ比」と呼んでいる。
【0041】
従って、ゼロ点とする誘導起電力の値を、例えば、プラス側にシフトしたとすれば、その分プラス側の誘導起電力を生じている時間が短くなる分、マイナス側の誘導起電力を生じている時間が長くなることになり、その分、デューティ比もシフトすることになる。即ち、ゼロ点とする誘導起電力の値を変更することにより変位検出信号のデューティ比を変更することができる。また、本実施例では、ゼロ点をシフトしたときの誘導起電力の値を「DCオフセット」と称している。
【0042】
時間差演算手段52Aでは各変位検出信号がゼロ点と交差(ゼロクロス)したときの時間差を求めることとなる。そのため、時間差演算手段52Aにおいては、DCオフセットの影響を受けずに流入側と流出側との時間差を正確に計測することができる。
【0043】
質量流量演算手段52Bは、時間差演算手段52Aから入力される時間差情報から流量に換算する。また、質量流量演算手段52Bは、得られた流量情報をアナログ出力部54に出力する。
【0044】
アナログ出力部54は、質量流量演算手段52Bから入力される瞬時流量に相当するアナログ信号71を生成する。また、アナログ出力部54は、瞬時流量をパルス出力部55に出力すると共に、得られたアナログ信号を、バリア回路30を介してアナログ信号71として出力する。
【0045】
パルス出力部55は、アナログ出力部54から入力される瞬時流量から積算流量に相当する流量パルスを生成する。また、パルス出力部55は、得られた流量パルスを、バリア回路30を介して流量パルス信号72として出力する。
【0046】
電源回路70は、外部電源60から得られる電圧を制御し、信号処理回路40や演算回路50に電源電圧(Vcc)を供給する。また、電源回路70は、演算回路50に対し所定のタイミングでリセット信号やリセット解除信号を出力することにより、適切なタイミングで演算回路50による流量演算処理等を行わせる。
【0047】
上記構成になる振動式測定装置10において、流量計測時は流量計測制御回路20によって加振器14が駆動され、センサチューブ12,13の振動特性(固有振動数)に応じた周期、振幅でセンサチューブ12,13の中間部分12c,13cを振動させる。そして、センサチューブ12,13は、マニホルド11に固定された両端を支点として円弧状の中間部分12c,13cが近接、離間方向(Y方向、図2参照)に振動する。
【0048】
このとき、振動するセンサチューブ12と13に流体が流れると、その流量に応じた大きさのコリオリ力が発生する。そのため、センサチューブ12の流入側と流出側で動作遅れが生じ、これにより流入側振動ピックアップ15の変位検出信号と流出側振動ピックアップ16の変位検出信号との間に時間差が生じる。ここで、この流入側変位検出信号と流出側変位検出信号との時間差は、流量に比例するため、流量計測制御回路20の流量演算制御回路52においては、上述した構成により当該時間差に基づいて流量を演算する。
【0049】
したがって、センサチューブ12,13の変位が流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16により検出されると、上記センサチューブ12,13の振動に伴う時間差が求まり、流量演算制御回路52の質量流量演算手段52Bにより当該時間差が質量流量に変換される。
〔各変位検出信号の時間差の変化について〕
ここで、センサコイル15a、16aからの出力される各変位検出信号(各センサ信号)SA、SBの時間差の変化について図4を参照して説明する。
【0050】
図4は流量計測時の第1、第2のセンサ信号の時間差の変化を示す図である。図4中、第1のセンサ信号SAと第2のセンサ信号SBとの第1の時間差ΔT1(=SA−SB)と、第2のセンサ信号SBと第1のセンサ信号SAとの第2の時間差ΔT2(=SB−SA)との変化が分かる。
【0051】
第1の時間差TAを演算する第1の時間差演算工程では、駆動フィードバックに第2のセンサ信号SBを用いると共に、第1のセンサ信号SAと第2のセンサ信号SBとの第1の時間差ΔT1(=SA−SB)を求める。図4に示す例では、流量がゼロのときのTA=40μsの時間差(従来計測された「ゼロ点」に相当する)が計測され、その後、流量の増加と共にTA=70μsに増加する。
【0052】
第2の時間差TBを演算する第2の時間差演算工程では、駆動フィードバックに第1のセンサ信号SAを用いると共に、第2のセンサ信号SBと第1のセンサ信号SAとの第2の時間差ΔT2(=SB−SA)を求める。図4に示す流量計測例では、流量がゼロのときのΔT2=−20μsの時間差(従来計測された「ゼロ点」に相当する)が計測され、その後、流量の増加と共にTB=−50μsに減少する。
【0053】
この場合の平均時間差は、第1の時間差演算工程で得られた第1の時間差と第2の時間差演算工程で得られた第2の時間差との平均値(ゼロ点の中点)であり、この場合、上記TA=70μsとTB=−50μsとの中点a=10μsとなる。
【0054】
このように流量計測中において、第1の時間差演算工程で得られた第1の時間差TAと第2の時間差演算工程で得られた第2の時間差TBとの平均値(中点)を求めることにより、流量計測中のゼロ点を正確に求めることができる。さらに、流量計測中のゼロ点と予め設定された基準時間差許容範囲との比較により、ゼロ点変動量が許容範囲内か否かをチェックすることで、流量計測中の異常の有無(例えば、温度変化に伴う計測誤差の有無)を判定することが可能になる。
〔流量演算制御回路52の制御処理について〕
流量演算制御回路52では、流量計測処理と、ゼロ点演算処理とを並列処理している。通常、流量演算制御回路52は、ゼロ点演算処理(後述する図5のS11〜S21の処理)を行っている間も第1の時間差ΔT1に基づいて質量流量を演算しており、アナログ出力部54は、流量演算値に応じて質量流量演算手段52Bから入力される瞬時流量に相当するアナログ信号71(図3参照)を出力する。また、パルス出力部55は、アナログ出力部54から入力される瞬時流量から積算流量に相当する流量パルス信号72(図3参照)を出力する。
【0055】
ここで、流量演算制御回路52が実行するゼロ点演算処理について説明する。
【0056】
図5は流量演算制御回路52が実行する制御処理の処理手順を示すフローチャートである。図5に示されるように、流量演算制御回路52は、S11で振幅検出・励振検出部41に入力されるフィードバック信号が第2のセンサ信号SBになるように駆動信号切り替え部84Aに指令信号を出力して駆動信号切り替えスイッチ80を切り替える。これにより、センサコイル16aから出力された第2のセンサ信号SBが駆動フィードバック信号として振幅検出・励振検出部41に入力される。
【0057】
次のS12では、加振器14によるセンサチューブ12、13の励振が安定したか否かをチェックしており、センサチューブ12、13の振幅が一定値で安定するまで、待機する。また、S12において、センサチューブ12、13の振幅が一定値で安定したとき(YESの場合)、S13に進み、センサコイル15aから出力された第1のセンサ信号SAが演算回路50の+入力ポート(CH1)に入力され、センサコイル16aから出力された第2のセンサ信号SBが演算回路50の−入力ポート(CH2)に入力されるように受信信号切り替え部84Bからの指令信号を受信信号切り替えスイッチ82に出力させる。
【0058】
続いて、S14では、第1のセンサ信号SAから第2のセンサ信号SBを差し引いた差(SA−SB)より第1の時間差ΔT1(図4参照)を求める(第1の時間差演算手段、第1の時間差演算工程)。
【0059】
次のS15では、振幅検出・励振検出部41に入力されるフィードバック信号が第1のセンサ信号SAになるように駆動信号切り替え部84Aに指令信号を出力して駆動信号切り替えスイッチ80を切り替える。これにより、センサコイル15aから出力された第1のセンサ信号SAが駆動フィードバック信号として振幅検出・励振検出部41に入力される。
【0060】
次のS16では、加振器14によるセンサチューブ12、13の励振が安定したか否かをチェックしており、センサチューブ12、13の振幅が一定値で安定するまで、待機する。また、S16において、センサチューブ12、13の振幅が一定値で安定したとき(YESの場合)、S17に進み、センサコイル15aから出力された第1のセンサ信号SAが演算回路50の−入力ポート(CH2)に入力され、センサコイル16aから出力された第2のセンサ信号SBが演算回路50の+入力ポート(CH1)に入力されるように受信信号切り替え部84Bからの指令信号を受信信号切り替えスイッチ82に出力させる。
【0061】
続いて、S18では、第2のセンサ信号SBから第1のセンサ信号SAを差し引いた差(SB−SA)より第2の時間差ΔT2(図4参照)を求める(第2の時間差演算手段、第2の時間差演算工程)。
【0062】
次のS19では、第1の時間差ΔT1と第2の時間差Δt2との平均値(中点a)をゼロ点として求める(平均時間差演算手段、平均時間差演算工程)。尚、時間差の平均値(中点a)は、a=(ΔT1+ΔT2)/2で求まる。
【0063】
続いて、S20では、上記平均値(中点a)の演算結果と予め記憶された平均値許容範囲とを比較する(異常判定手段、異常判定工程)。そして、S20において、上記平均値(中点a)が平均値許容範囲外の場合(NOの場合)、異常有りと判定してS21に進み、異常信号を出力する。この異常信号が出力された場合、流量計測値に誤差が発生したことを記憶したり、あるいは流量計測を停止させることもある。
【0064】
このように平均値(中点a)が平均値許容範囲外の場合は、異常有りと判定するため、例えば、各センサ信号を生成する各回路の温度特性の差違による伝達遅延時間に差が生じた場合、この伝達遅延による計測誤差の有無を正確に判定することができ、計測結果の信頼性を高めることが可能になる。
【0065】
また、S20において、上記ゼロ点となる平均値(中点a)が平均値許容範囲内の場合(YESの場合)、異常無し(正常)と判定して上記S11の処理に戻る。
〔変形例1について〕
図6は変形例1の流量演算制御回路52が実行する流量計測処理の処理手順を示すフローチャートである。図6に示されるように、S31では、予め定期的に設定されたゼロ点定期点検時に達したか否かをチェックしており、ゼロ点定期点検時でない場合(NOの場合)は、S32に進み、時間差ΔT1に基づいて流量演算を行う。変形例1では、ゼロ点定期点検時以外は流量演算処理を行う。
【0066】
また、S31において、予め定期的に設定されたゼロ点定期点検時に達した場合(YESの場合)は、S33に進み、時間差ΔT1に基づいて計測された流量計測値が予め設定された一定時間が経過するまで安定しているか否かをチェックする(流量判定手段、流量判定工程)。S33において、流量計測値が一定時間経過する間安定しない場合(NOの場合)は、S32に進み、時間差ΔT1に基づいて流量を演算する。
【0067】
また、S33において、流量計測値が一定時間経過する間安定している場合(YESの場合)は、S34に進み、S34〜S44の処理を実行する。尚、S34〜S44の処理は、前述した図5のS11〜S21の処理と同じなので、ここではその説明を省略する。
【0068】
変形例1では、流量が安定している状態(図4参照)のとき、S34〜S42の処理を実行して第1の時間差ΔT1と第2の時間差Δt2との平均値(中点a)をゼロ点として求める。そして、S43、S44により上記平均値(中点a)の演算結果と予め記憶された平均値許容範囲とを比較し、上記平均値(中点a)が平均値許容範囲外の場合(NOの場合)、異常有りと判定して異常信号を出力する。尚、S43、S44の処理は、前述した図5のS20、S21の処理と同じなので、ここではその説明を省略する。
〔変形例2について〕
図7は変形例2の中点記録処理の処理手順を示すフローチャートである。図7に示されるように、S51では、温度センサ17により測定された温度検出信号を読み込む。温度センサ17は、マニホルド11に設けられており、マニホルド11に接続されたセンサチューブ12,13を流れる被測流体の温度によってほぼセンサチューブ12,13と同じ温度を計測することができる。本実施例では、温度センサ17により測定された温度データをセンサチューブ温度として記憶する。
【0069】
次のS52では、今回のゼロ点演算処理によって得られた中点aとセンサチューブ温度との各データを読み込む。続いて、S53に進み、各データをメモリに記憶する。メモリに記憶された各データは、中点aのデータとセンサチューブ温度のデータとが関連して記憶されるため、温度変化に伴う中点aの変動(変動量又は変動率)を確認することが可能になる。
〔変形例3について〕
図8は変形例3の異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。図8に示されるように、S61では、中点aのデータを温度範囲別(例えば、第1分類の温度範囲を10°C〜20°C、第2分類の温度範囲を21°C〜30°C、第3分類の温度範囲を31°C〜40°Cとする)に分類する。続いて、S62に進み、分類された各温度範囲別に標準偏差を求める。
【0070】
S63では、当該標準偏差と予め設定された判定値とを比較し、標準偏差が判定値以上の場合(YESの場合)は、異常有りと判定してS64に進み、異常報知(アラーム)を行う。また、S63において、標準偏差が判定値未満の場合(NOの場合)は、異常無しと判定して今回の処理を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記実施例では、センサチューブが逆U字状に形成された振動式測定装置を例に挙げて説明したが、センサチューブの形状としてはこれ以外のものにも適用できるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
10 振動式測定装置
11 マニホルド
12,13 センサチューブ
14 加振器
14a 励振コイル
14b マグネット
15 流入側振動ピックアップ(第1のセンサ)
15a、16a センサコイル
15b、16b マグネット
16 流出側振動ピックアップ(第2のセンサ)
17 温度センサ
20 流量計測制御回路
30 本質安全防爆バリア回路
40 信号処理回路
41 振幅検出・励振検出部
42 励振部
43 温度測定部
50 演算回路
51 ヤング率演算部
52 流量演算制御回路
54 アナログ出力部
55 パルス出力部
52A 時間差演算手段
52B 質量流量演算手段
52C 平均時間差演算手段
52D 記憶手段
52E 異常判定手段
70 電源回路
80 駆動信号切り替えスイッチ
82 受信信号切り替えスイッチ
84 切り替え手段
84A 駆動信号切り替え部
84B 受信信号切り替え部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が流れる流路が形成されたセンサチューブと、
前記センサチューブを加振する加振器と、
前記加振器に励振信号を出力する励振手段と、
前記加振器より上流側に設けられ、前記センサチューブの上流側の変位に応じた第1のセンサ信号を出力する第1のセンサと、
前記加振器より下流側に設けられ、前記センサチューブの下流側の変位に応じた第2のセンサ信号を出力する第2のセンサと、
前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との時間差から前記センサチューブを流れる質量流量を演算する質量流量演算手段とを有する振動式測定装置であって、
前記励振手段が前記第2のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との第1の時間差を演算する第1の時間差演算手段と、
前記励振手段が前記第1のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第2のセンサ信号と前記第1のセンサ信号との第2の時間差を演算する第2の時間差演算手段と、
前記第1の時間差と前記第2の時間差との平均時間差を演算する平均時間差演算手段と、
前記平均時間差演算手段により演算された前記平均時間差と比較するための基準となる基準時間差範囲を予め記憶する記憶手段と、
前記平均時間差が前記基準時間差許容範囲を超える場合に異常有りと判定する異常判定処理を行う異常判定手段と、
を有することを特徴とする振動式測定装置。
【請求項2】
前記質量流量演算手段により演算された質量流量が所定時間一定であるか否かを判定する流量判定手段を有し、
前記異常判定手段は、前記流量判定手段により質量流量が所定時間一定であると判定された場合に前記異常判定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の振動式測定装置。
【請求項3】
前記質量流量演算手段は、前記異常判定手段による前記異常判定処理が行なわれているとき、当該異常判定が行われる直前に演算された質量流量を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の振動式測定装置。
【請求項4】
内部に流体が流れる流路が形成されたセンサチューブと、
前記センサチューブを加振する加振器と、
前記加振器に励振信号を出力する励振手段と、
前記加振器より上流側に設けられ、前記センサチューブの上流側の変位に応じた第1のセンサ信号を出力する第1のセンサと、
前記加振器より下流側に設けられ、前記センサチューブの下流側の変位に応じた第2のセンサ信号を出力する第2のセンサと、
前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との時間差から前記センサチューブを流れる質量流量を演算する質量流量演算手段とを有する振動式測定装置における前記時間差のゼロ点を演算するゼロ点演算方法であって、
前記励振手段が前記第2のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号との第1の時間差を演算する第1の時間差演算工程と、
前記励振手段が前記第1のセンサ信号に基づいて前記加振器を駆動している際における前記第2のセンサ信号と前記第1のセンサ信号との第2の時間差を演算する第2の時間差演算工程と、
前記第1の時間差と前記第2の時間差との平均時間差を演算する平均時間差演算工程と、
前記平均時間差演算工程により演算された前記平均時間差と比較するための基準となる基準時間差許容範囲を予め記憶する記憶工程と、
前記平均時間差が前記基準時間差許容範囲を超える場合に異常有りと判定する異常判定工程と、
を有することを特徴とする振動式測定装置におけるゼロ点演算方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−242204(P2012−242204A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111210(P2011−111210)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000110099)トキコテクノ株式会社 (264)
【Fターム(参考)】