説明

振動式部品搬送装置

【課題】複合振動式の部品搬送装置において、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の発生を抑える。
【解決手段】トラフ(部品搬送部材)が取り付けられる上部振動体と中間振動体とを水平方向に向けた第2の板ばね(鉛直振動用弾性部材)で連結し、中間振動体と基台とを鉛直方向に向けた第1の板ばね(水平振動用弾性部材)で連結した振動式部品搬送装置において、トラフの鉛直方向の固有振動数Fが水平方向の固有振動数Fよりも5Hz以上大きくなるように調整した。これにより、トラフの水平方向の固有振動数Fにおける水平方向の振動振幅Vと鉛直方向の振動振幅Vに大きな差が生じるので、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の振幅を小さくすることができ、部品搬送に適した所望の振動が容易に実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振機構の駆動により部品搬送部材を振動させて部品を搬送する振動式部品搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動式部品搬送装置には、部品搬送部材に対して部品搬送に最適な振動を付与することを目的として、部品搬送部材の水平方向の振動と鉛直方向の振動をそれぞれ調整できる構成とした複合振動式のものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記のような複合振動式の部品搬送装置としては、例えば本発明の実施形態である図1および図2に示すように、部品搬送部材であるトラフ1が取り付けられる上部振動体2の周囲に矩形枠形状の中間振動体4を配して、中間振動体4と基台3とを鉛直方向に向けた第1の板ばね(水平振動用弾性部材)5で連結し、上部振動体2と中間振動体4とを水平方向に向けた第2の板ばね(鉛直振動用弾性部材)6で連結し、水平方向の振動を発生させる第1の加振機構7と鉛直方向の振動を発生させる第2の加振機構8を設けた構造のものが一般的である。
【0004】
そして、前記各加振機構7、8はそれぞれ交流電磁石9、11と可動鉄心10、12とで構成され、各加振機構7、8の電磁石9、11に印加する電圧を別々に制御することにより、トラフ1の水平方向の振動と鉛直方向の振動をそれぞれ調整できるようになっている。
【0005】
ところで、このような複合振動式部品搬送装置では、一般に、部品搬送速度を大きくしようとするときには、少ない電力で効率よく水平方向の振動の振幅を大きくするために、各加振機構をトラフの水平方向の固有振動数付近の周波数で駆動する。この際、水平方向と鉛直方向の振動振幅は、通常、水平方向の振動振幅が数百μm程度、鉛直方向の振動振幅が数十μm程度以下、すなわち鉛直方向の振動振幅が水平方向の振動振幅の1/10程度以下になるように調整される。
【0006】
ここで、図7に示すように、トラフを水平方向に加振したときのトラフの水平方向と鉛直方向の振動スペクトル波形において、トラフの水平方向の固有振動数Fと鉛直方向の固有振動数Fとが2〜3Hz程度しか離れていない場合には、周波数Fにおける水平方向の振動振幅Vと鉛直方向の振動振幅Vとの差が大きくない。従って、第1の加振機構をトラフの水平方向の固有振動数である周波数F付近の周波数で駆動して水平方向の振動のみを発生させようとしても、トラフに比較的大きな振幅をもつ鉛直方向の振動を発生させてしまうおそれがある。この鉛直方向の振動振幅が数十μm以上あると、第2の加振機構で発生させる鉛直方向の振動と重なって、トラフの鉛直方向の振動の調整が困難となり、部品搬送に最適な振動をトラフに付与することができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−84707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、複合振動式の部品搬送装置において、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の発生を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、部品搬送路が形成された部品搬送部材と、前記部品搬送部材が取り付けられる上部振動体と、床上に設置される基台と、前記上部振動体と基台との間に設けられる中間振動体と、前記中間振動体と基台とを連結する第1の弾性部材と、前記上部振動体と中間振動体とを連結する第2の弾性部材とを備え、前記第1の弾性部材と第2の弾性部材のうちの一方を水平振動用弾性部材、他方を鉛直振動用弾性部材とし、前記水平振動用弾性部材と第1の加振機構とで部品搬送部材に水平方向の振動を付与し、前記鉛直振動用弾性部材と第2の加振機構とで部品搬送部材に鉛直方向の振動を付与するようにした振動式部品搬送装置において、前記部品搬送部材の固有振動数を、水平方向と鉛直方向とで5Hz以上異ならせた構成とした。これにより、トラフの水平方向の固有振動数における水平方向と鉛直方向の振動振幅に大きな差が生じるので、各加振機構をトラフの水平方向の固有振動数付近の周波数で駆動したときも、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の振幅を小さくすることができる。
【0010】
ここで、前記部品搬送部材の鉛直方向の固有振動数は、水平方向の固有振動数よりも大きくすることが望ましい。このようにすれば、部品搬送部材の鉛直方向の剛性を高くできるので、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の振幅を小さくしやすい。また、鉛直方向の固有振動数を調整する際にも、水平方向の固有振動数よりも小さくする方には限界があるが、大きくする方には限界がないので、調整が容易に行える。
【0011】
また、前記部品搬送部材の水平方向の固有振動数と鉛直方向の固有振動数は、それぞれの5以下の整数倍の値が互いに素の関係になるように調整することが望ましい。固有振動数の整数倍はその固有振動数と異なる振動モードをもつ固有振動数となるため、部品搬送部材の水平方向と鉛直方向の固有振動数の整数倍が同じ値や近い値になると、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の振幅が大きくなるからである。ここで、その整数倍の値を5以下としたのは、その値に制限がないとそれぞれの固有振動数の設定が困難となること、および固有振動数の5倍より大きくなるとその振動モードにおける振動振幅は小さくなり、部品搬送部材に対する影響は小さくなることによる。
【0012】
さらに、前記水平振動用弾性部材を、部品搬送方向と直交する同一水平線上の2箇所の固定位置で固定するようにすれば、水平振動用弾性部材の水平方向の変形が鉛直方向の変位につながらなくなり、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の発生を抑えることができる。
【0013】
前記各加振機構を電磁石と可動鉄心とで構成し、そのうちの一方の電磁石への印加電圧設定回路に、印加電圧の基準波形を発生させる基準波形発生手段と、前記基準波形に対して振幅を調整する波形振幅調整手段を設け、他方の電磁石への印加電圧設定回路には、前記基準波形に対して所定の位相差をもつ波形を発生させる位相差調整手段と、位相差調整手段で発生した波形に対して振幅を調整する波形振幅調整手段を設けて、各電磁石への印加電圧の波形、周期、位相差および振幅を自在に制御できるようにすれば、水平方向の振動と鉛直方向の振動を容易に所望の振動に近づけることができる。
【0014】
また、前記各加振機構の電磁石への印加電圧設定回路に、それぞれの前記波形振幅調整手段で振幅を調整された波形をPWM(Pulse Width Modulation)信号に変換するPWM信号発生手段を設けて、PWM方式で各加振機構を駆動することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の振動式部品搬送装置は、上述したように、部品搬送部材の固有振動数を水平方向と鉛直方向とで5Hz以上異ならせたものであるから、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の発生を効果的に抑えることができる。従って、水平方向と鉛直方向の振動をそれぞれ調整する際に、水平方向の振動を鉛直方向の振動にほとんど影響しないように調整することができ、部品搬送に適した所望の振動を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の部品搬送装置の正面断面図
【図2】図1のトラフを除いた上面図
【図3】図1の部品搬送装置の各加振機構の印加電圧設定回路の概略図
【図4】図1の部品搬送装置の振動スペクトル波形を示すグラフ
【図5】図1の第1の板ばねの配置の変形例を示す正面断面図
【図6】図5のトラフを除いた上面図
【図7】従来の部品搬送装置の振動スペクトル波形を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1乃至図6に基づき、本発明の実施形態を説明する。この部品搬送装置は、図1および図2に示すように、直線状の搬送路1aが形成されたトラフ(部品搬送部材)1を上部振動体2の上面に取り付け、上部振動体2の周囲に矩形枠形状の中間振動体4を配して、中間振動体4と基台3とを鉛直方向に向けた第1の板ばね(水平振動用弾性部材)5で連結し、上部振動体2と中間振動体4とを水平方向に向けた第2の板ばね(鉛直振動用弾性部材)6で連結し、中間振動体4と基台3の間に水平方向の振動を発生させる第1の加振機構7を設け、上部振動体2と基台3の間に鉛直方向の振動を発生させる第2の加振機構8を設けたものである。その基台3は、床面に固定された防振ゴム等の防振部材(図示省略)に支持されている。
【0018】
前記第1の加振機構7は、基台3上に設置される交流電磁石9と、この電磁石9と所定の間隔をおいて対向するように中間振動体4に取り付けられる可動鉄心10とで構成されている。なお、可動鉄心10は、この例では中間振動体4に取り付けたが、上部振動体2に取り付けるようにしてもよい。一方、前記第2の加振機構8は、基台3上に設置される交流電磁石11と、この電磁石11と所定の間隔をおいて対向するように上部振動体2に取り付けられる可動鉄心12とで構成されている。
【0019】
第1の加振機構7の電磁石9に通電すると、電磁石9と可動鉄心10との間に断続的な電磁吸引力が作用し、この電磁吸引力と第1の板ばね5の復元力により、中間振動体4に水平方向の振動が発生し、この振動が第2の板ばね6を介して上部振動体2およびトラフ1に伝わる。また、第2の加振機構8の電磁石11に通電すると、電磁石11と可動鉄心12との間に断続的な電磁吸引力が作用し、この電磁吸引力と第2の板ばね6の復元力により、上部振動体2およびトラフ1に鉛直方向の振動が発生する。そして、この水平方向の振動と鉛直方向の振動により、トラフ1に供給された部品が直線状搬送路1aに沿って搬送される。
【0020】
従って、各加振機構7、8の電磁石9、11への印加電圧を別々に設定することにより、トラフ1の水平方向の振動と鉛直方向の振動をそれぞれ調整することができる。
【0021】
図3は各加振機構7、8の電磁石9、11へ印加電圧を設定する回路を示す。第1の加振機構7の回路には、印加電圧の基準波形を発生させる基準波形発生手段13が設けられている。基準波形発生手段13では、波形の種類(例えば、正弦波)とその波形の周期(周波数)の設定値に応じた基準波形を発生させる。一方、第2の加振機構8の回路には、基準波形発生手段13で発生した基準波形に対して所定の位相差をもつ波形を発生させる位相差調整手段14が設けられている。
【0022】
そして、各加振機構7、8の回路において、基準波形発生手段13または位相差調整手段14で発生した波形を、波形振幅調整手段15で所定の振幅に調整して、PWM信号発生手段16でPWM信号に変換した後、電圧増幅手段17で昇圧し、それぞれの電磁石9、11へ印加するようになっている。これにより、各電磁石9、11への印加電圧の波形、周期、位相差および振幅を自在に制御して、水平方向の振動と鉛直方向の振動をそれぞれ調整することができる。なお、PWM方式で各加振機構を駆動しない場合は、PWM信号発生手段16は不要となる。
【0023】
ここで、前記トラフ1は、図4に示すように、トラフ1を水平方向に加振したときのトラフ1の水平方向と鉛直方向の振動スペクトル波形において、鉛直方向の固有振動数Fが水平方向の固有振動数Fよりも5Hz以上大きくなるように調整され、その水平方向の固有振動数Fにおける水平方向の振動振幅Vと鉛直方向の振動振幅Vに大きな差が生じるようになっている。さらに、その水平方向の固有振動数Fと鉛直方向の固有振動数Fは、それぞれの5以下の整数倍の値が互いに素の関係になるように調整されている。これにより、各加振機構7、8をトラフ1の水平方向の固有振動数F付近の周波数で駆動したときも、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の振幅を小さくすることができる。
【0024】
この水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動振幅は小さいほど好ましいが、そのためにトラフ1の鉛直方向の固有振動数Fを大きくしすぎると、鉛直方向の剛性が高くなって第2の加振機構8によって鉛直方向の振動を発生させられなく可能性がある。所望の鉛直方向の振動振幅は数十μm程度なので、鉛直方向の固有振動数Fは、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の振幅が数μm〜十数μm程度になるように調整すればよい。
【0025】
上述したように、この振動式部品搬送装置は、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の発生を効果的に抑えることができるので、水平方向と鉛直方向の振動をそれぞれ調整する際に、水平方向の振動を鉛直方向の振動にほとんど影響しないように調整でき、部品搬送に適した所望の振動を容易にトラフ1に付与することができる。
【0026】
図5および図6は、第1の板ばね5の配置の変形例を示す。この変形例では、基台3の両端に柱状の板ばね取付部3aを立設し、第1の板ばね5を、部品搬送方向(図中の左右方向)と直交する同一水平線上の2箇所の固定位置で、中間振動体4と基台3の板ばね取付部3aに固定している。このようにすれば、第1の板ばね5の水平方向の変形が鉛直方向の変位につながらなくなり、水平方向の振動に起因する鉛直方向の振動の発生を一層効果的に抑えることができる。
【0027】
上述した実施形態では、中間振動体と基台とを連結する第1の板ばねを水平振動用弾性部材とし、上部振動体と中間振動体とを連結する第2の板ばねを鉛直振動用弾性部材としたが、これとは逆に、第1の板ばねが鉛直振動用弾性部材、第2の板ばねが水平振動用弾性部材となるように構成してもよい。また、板ばねは各箇所に1枚ずつ配置したが、2枚以上重ねて使用してもよい。また、板ばねは水平振動用と鉛直振動用に4箇所ずつ配置したが、2箇所以上で構成してもよい。
【0028】
さらに、実施形態では、水平振動用弾性部材および鉛直振動用弾性部材に板ばねを使用しているが、板ばね以外の弾性部材ももちろん用いることができる。また、各加振機構は、電磁石と可動鉄心とからなるものを使用しているが、これに限らず、同様の加振力を発生させることができるアクチュエータであればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 トラフ(部品搬送部材)
2 上部振動体
3 基台
4 中間振動体
5 第1の板ばね(水平振動用弾性部材)
6 第2の板ばね(鉛直振動用弾性部材)
7 第1の加振機構
8 第2の加振機構
9、11 電磁石
10、12 可動鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品搬送路が形成された部品搬送部材と、前記部品搬送部材が取り付けられる上部振動体と、床上に設置される基台と、前記上部振動体と基台との間に設けられる中間振動体と、前記中間振動体と基台とを連結する第1の弾性部材と、前記上部振動体と中間振動体とを連結する第2の弾性部材とを備え、前記第1の弾性部材と第2の弾性部材のうちの一方を水平振動用弾性部材、他方を鉛直振動用弾性部材とし、前記水平振動用弾性部材と第1の加振機構とで部品搬送部材に水平方向の振動を付与し、前記鉛直振動用弾性部材と第2の加振機構とで部品搬送部材に鉛直方向の振動を付与するようにした振動式部品搬送装置において、前記部品搬送部材の固有振動数を、水平方向と鉛直方向とで5Hz以上異ならせたことを特徴とする振動式部品搬送装置。
【請求項2】
前記部品搬送部材の鉛直方向の固有振動数を水平方向の固有振動数よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の振動式部品搬送装置。
【請求項3】
前記部品搬送部材の水平方向の固有振動数と鉛直方向の固有振動数を、それぞれの5以下の整数倍の値が互いに素の関係になるように調整したことを特徴とする請求項1または2に記載の振動式部品搬送装置。
【請求項4】
前記水平振動用弾性部材を、部品搬送方向と直交する同一水平線上の2箇所の固定位置で固定したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の振動式部品搬送装置。
【請求項5】
前記各加振機構を電磁石と可動鉄心とで構成し、そのうちの一方の電磁石への印加電圧設定回路に、印加電圧の基準波形を発生させる基準波形発生手段と、前記基準波形に対して振幅を調整する波形振幅調整手段を設け、他方の電磁石への印加電圧設定回路には、前記基準波形に対して所定の位相差をもつ波形を発生させる位相差調整手段と、位相差調整手段で発生した波形に対して振幅を調整する波形振幅調整手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の振動式部品搬送装置。
【請求項6】
前記各加振機構の電磁石への印加電圧設定回路に、それぞれの前記波形振幅調整手段で振幅を調整された波形をPWM信号に変換するPWM信号発生手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載の振動式部品搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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