説明

振動成分検出方法、及びそれを用いた原子間力顕微鏡

【課題】 プローブの振動に基づく電流である振動成分を感度良く検出する振動成分検出方法、及び、該振動成分検出方法を用いることで、測定感度が高い原子間力顕微鏡を提供する。
【解決手段】2つの振動腕部6a,6bを有する電歪素子により構成された試料3の表面を走査するプローブ6を備え、振動腕部6a,6b夫々に設けられた電極7a,7bからの2つの検知信号の差分を求めることで、該2つの検知信号間で同相に出現する擾乱成分を除去し、逆相で発生するプローブ6の振動に基づく振動成分を検出して処理信号を生成する差動増幅回路9と、該差動増幅回路9で生成した処理信号に基づき試料3の情報を検出する周波数検出回路11を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブの振動に基づく振動成分を検出する振動成分検出方法に関する。併せて、前記振動成分検出方法を用いた原子間力顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)のうち、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は、測定対象となる試料の表面の様々な情報を画像化できる顕微鏡である。この原子間力顕微鏡では、前記試料表面上を走査するプローブが受ける種々の力に基づいて、当該試料の表面の情報を画像化する。特に、前記試料の表面の静電気力の分布を画像化できる原子間力顕微鏡は、ケルビンフォース顕微鏡(Kelvin Force Microscopy:KFM)と呼ばれている。
【0003】
従来、原子間力顕微鏡では、光てこ法と呼ばれる方法を適用してプローブが受ける力を検出している。例えば、特許文献1に開示される原子間力顕微鏡では、カンチレバー状であるプローブの背面にレーザー光を照射し、その反射位置の変化を捉えることでプローブが受ける力を検出している。この光てこ法を利用した原子間力顕微鏡では、レーザー光の調整が煩雑であるため、特に超高真空下、極低温下での使用が困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献2,3に開示されるように、音叉型水晶振動子により構成されるプローブを用いた原子間力顕微鏡が提案されている。この原子間力顕微鏡では、プローブの振動が変化することで、音叉型水晶振動子の2つの振動腕部に夫々設けられた電極に発生する電流が変化するので、いずれか一方の電極に生じる電流を検知して、その変化を捉えることによりプローブが受ける力を検出できる。この原子間力顕微鏡は、調整の煩雑さがなく、多様な環境下で使用できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−45157号公報
【特許文献2】米国特許第6240771号明細書
【特許文献3】ドイツ国特許19633546号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2,3に開示される原子間力顕微鏡には問題がある。それは、この原子間力顕微鏡において、予め、プローブを自励発振回路により所定の振幅及び周波数で振動させておく必要があるが、試料の表面の静電気力の分布を画像化するKFM測定で必要となる試料電圧変調信号を試料に印加した場合に、前記自励発振回路はプローブと試料との結合容量により流れる電流によりその動作が不安定になる。この場合には、正しい測定ができないので、試料に加える試料電圧変調信号を小さな振幅及び低い周波数に設定することで、その動作を安定させる必要がある。しかし、このように試料電圧変調信号を設定した場合には、測定の感度が低下すると共に、測定にかかる時間も長くなる。
【0007】
又、前記原子間力顕微鏡では、音叉型水晶振動子の振動腕部に取り付けられた電極で発生する電流が微小であるため、電気的なノイズの影響を受けて測定の感度が低下する問題も生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、プローブの振動に基づく電流である振動成分を感度良く検出する振動成分検出方法を提供し、併せて、該振動成分検出方法を用いることで、測定感度が高く、KFM測定においても試料の測定を実用的な測定時間で行うことができる原子間力顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の振動成分検出方法は、2つの振動腕部を有する電歪素子により構成された試料の表面を走査するプローブの、前記振動腕部夫々に設けられた電極からの2つの検知信号の差分を求めることで、該2つの検知信号間で同相に出現する擾乱成分を除去して、逆相で発生する前記プローブの振動に基づく振動成分を検出することを特徴としている。
【0010】
請求項2記載の原子間力顕微鏡は、2つの振動腕部を有する電歪素子により構成された試料の表面を走査するプローブを備える原子間力顕微鏡であって、請求項1記載の振動成分検出方法を用いて、前記振動腕夫々に設けられた電極からの2つの検知信号より、擾乱成分を除去し、振動成分を検出して処理信号を生成する処理部と、該処理部で生成した処理信号に基づき前記試料の情報を検出する検出部とを備えることを特徴としている。
【0011】
請求項3記載の原子間力顕微鏡は、前記検出部において前記試料の静電気力を検出するケルビンフォース顕微鏡として使用され、前記擾乱成分に、前記試料に試料電圧変調信号を印加することで、前記プローブと前記試料との間の容量成分により流れる電流が含まれることを特徴としている。
【0012】
請求項4記載の原子間力顕微鏡は、前記検出部において、前記試料の磁場分布を検出する磁気力顕微鏡、前記試料の容量分布又は誘電率を検出する走査型容量顕微鏡、前記試料の電歪特性を検出するピエゾ応答顕微鏡の少なくとも1つとして使用され、前記磁気力顕微鏡として使用される場合において、前記擾乱成分に前記試料に対し外部から磁場を加えることで前記プローブに発生する電流が含まれ、前記走査型容量顕微鏡又はピエゾ応答顕微鏡として使用される場合において、前記擾乱成分に前記試料に対し外部から電場を加えることで前記プローブに発生する電流が含まれることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の振動成分検出方法は、プローブを構成する電歪素子の2つの振動腕部に夫々設けられた電極からの2つの検知信号の差分を求めることにより、それらの間で同相に出現する擾乱成分を除去して、逆相で発生するプローブの振動に基づく振動成分を検出するので、前記振動成分を感度良く検出できる。
【0014】
請求項2記載の原子間力顕微鏡は、2つの振動腕を有する電歪素子により構成されるプローブを有しており、処理部が、前記振動腕夫々に設けられた電極からの2つの検知信号を、請求項1記載の振動成分検出方法を用いて処理して処理信号し、該処理信号に基づき検出部が試料の情報を検出するので、擾乱成分の影響を排除して、試料の測定感度の高い測定を実現できる。
【0015】
請求項3記載の原子間力顕微鏡は、擾乱成分に、試料に試料電圧変調信号を印加することで、プローブと試料との間の容量成分により流れる電流が含まれており、この擾乱成分を前記処理部が除去する。そのため、本原子間力顕微鏡は、試料に印加する試料電圧変調信号の電圧、周波数を高くすることができ、試料の測定を実用的な測定時間で行うことが可能なケルビンフォース顕微鏡として使用できる。
【0016】
請求項4記載の原子間力顕微鏡は、擾乱成分に、試料に対し電場、磁場の少なくも一方を加えることで、プローブに発生する電流が含まれており、この擾乱成分を前記処理部が除去する。そのため、本原子間力顕微鏡は、磁気力顕微鏡、走査型容量顕微鏡、ピエゾ応答顕微鏡の何れかとして使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の原子間力顕微鏡の模式図。
【図2】一方の電流電圧変換回路から出力される検知信号波形を示すグラフ。
【図3】他方の電流電圧変換回路から出力される検知信号波形を示すグラフ。
【図4】差動増幅回路から出力される処理信号波形を示すグラフ。
【図5】自励発振回路から出力される交流電圧信号波形を示すグラフ。
【図6】励振ピエゾに供給する交流電力の周波数を変化させたときの一方の電流電圧変換回路からの検知信号信号波形の振幅を示すグラフ。
【図7】励振ピエゾに供給する交流電力の周波数を変化させたときの他方の電流電圧変換回路からの検知信号信号波形の振幅を示すグラフ。
【図8】励振ピエゾに供給する交流電力の周波数を変化させたときの処理信号波形の振幅を示すグラフ。
【図9】試料の表面凹凸測定画像。
【図10】試料の静電気力測定画像。
【図11】本発明の他の実施形態に係る原子間力顕微鏡の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。本発明の原子間力顕微鏡1は、図1に示すように、筐体部2内に配設され、試料3が搭載される走査用圧電素子4と、前記筐体2の上部に励振ピエゾ5を介して取り付けられるプローブ6と、該プローブ6に設けられる一対の電極7a,7bとを備える。又、本原子間力顕微鏡1では、前記試料3、前記走査用圧電素子4、前記励振ピエゾ5、及び前記電極7a,7bが、電流電圧変換回路8a、8b、差動増幅回路9、自励発振回路10、周波数検出回路11、ロックインアンプ12、試料電圧変調回路13、試料高さフィードバック回路14を介して電気的に接続され、さらに走査用圧電素子4には走査信号出力回路15が電気的に接続されている。
【0019】
前記筐体部2には、前記走査用圧電素子4に搭載される前記試料3の表面と、前記プローブ6に取り付けられる金属針16とが対向できるように、走査用圧電素子4、励振ピエゾ5及びプローブ6が配置される。この筐体部2は、図1に示すように、例えば、走査用圧電素子4が載置される底板2aと、該底板2aの一端より垂直に上方に延びる側板2bと、該側板2bの上端より水平に、且つ、前記底板2aと対向するように伸びる天板2cと、該天板2cの先端より下方へ突出して、その先端に前記励振ピエゾ5を介して、プローブ6が取り付けられる突出部2dを具備する。
【0020】
前記試料3は、本原子間力顕微鏡1にて測定される測定対象物であり、前記走査用圧電素子4上に搭載される。この試料3には、試料電圧変調信号を印加して測定することが可能であり、当該試料電圧変調信号を生成するための前記試料電圧変調回路13が電気的に接続されている。
【0021】
前記走査用圧電素子4は、上面に前記試料3が搭載され、電圧を印加することで試料3と前記プローブ6の金属針16との相対位置を変化させることができるものである。この走査用圧電素子4には、試料3の高さを調整するための信号である試料高さフィードバック信号を生成するための前記試料高さフィードバック回路14、及び、前記プローブ6により試料3の表面を走査させるための信号である走査信号を生成するための走査信号出力回路15が電気的に接続されている。
【0022】
前記励振ピエゾ5は、前記プローブ6を振動させるためのものであり、前記筐体部2の突出部2dと、プローブ6との間に配設される。この励振ピエゾ5は、自励発振回路10から供給される交流電圧信号に応じて、所定の周波数及び振幅の微小な振動を生じ、当該振動をプローブ6に伝達する。
【0023】
前記プローブ6は、電歪素子、より具体的には音叉型水晶振動子により構成されており、その2つ具備する振動腕部6a、6bに前記電極7a,7bが設けられ、更に、前記振動腕部6aの下面には前記金属針16が取り付けられている。このプローブ6は、前記励振ピエゾ5より伝達される所定の周波数、振幅の微小な振動、及び試料3と金属針16との相互間で生じる原子間力等の力によって振動し、該振動に応じた周波数及び振幅である振動成分を含んだ電流信号である検知信号を電極7a,7bに発生させる。
【0024】
前記電流電圧変換回路8a,8bは、夫々、前記電極7a,7bに発生した前記検知信号を受け取り、電流電圧変換を行って、それを、図2,3に示すような電圧信号である検知信号に変換する。この電流電圧変換回路8a,8bが変換を行った検知信号には、図2,3に振幅が大きく周波数の低い正弦波成分として表れ、両信号間で位相が逆相であるプローブ6の振動に基づく振動成分が含まれている。更に、この検知信号には、振幅が小さく周波数の高い成分として表れ、両信号間で位相が同相である前記試料3とプローブ6との間に生じる容量成分により流れる電流や、電極7a,7bと当該電流電圧変換回路8a,8bとを接続する配線から侵入するノイズ等による擾乱成分も含まれている。
【0025】
前記差動増幅回路9は、前記電流電圧変換回路8a,8b夫々が変換した検知信号を受け取り、それらを差動増幅して、図4に示すような処理信号を生成する。この差動増幅回路9が生成した処理信号は、電流電圧変換回路8a、8b夫々からの検知信号の差分を取っていることにより、互いに位相が同相である前記擾乱成分が除去されており、又、互いに位相が逆相である前記振動成分が加算されたものとなっている。
【0026】
前記自励発振回路10は、前記差動増幅回路9より処理信号を受け取り、当該処理信号の位相及びゲインの調整を行い、図5に示すような前記交流電圧信号を生成する。この自励発振回路10は、交流電圧信号を、前記励振ピエゾ5にその駆動用として供給し、更に、前記周波数検出回路11にも供給する。
【0027】
前記周波数検出回路11は、前記自励発振回路10から供給された前記交流電圧信号を受けて、その周波数の変化を検出して周波数検出信号を生成する。この周波数検出回路11は、生成した前記周波数検出信号を図外の画像化装置に供給して、該図外の画像化装置に画像化させる。又、周波数検出回路11は、前記ロックインアンプ12及び前記試料高さフィードバック回路14にも、前記周波数検出信号を供給する。
【0028】
前記ロックインアンプ12は、前記周波数検出回路11より前記周波数検出信号を受け取り、所定の処理をして前記試料電圧変調回路13に伝送し、該試料電圧変調回路13が、それに基づき前記試料電圧変調信号を生成して前記試料3に印加する。
【0029】
前記試料高さフィードバック回路14は、前記周波数検出回路11より前記周波数検出信号を受け取り、試料3の高さを調整するための信号である前記試料高さフィードバック信号を生成して前記走査用圧電素子4に印加する。又、前記走査信号出力回路15は、前記プローブ6により試料3の表面を走査させるための前記走査信号を生成して、走査用圧電素子4に印加する。
【0030】
上記のように各部が構成される本発明の原子間力顕微鏡1について、その効果を検証するために行った実験の結果を以下に示す。
【0031】
まず、原子間力顕微鏡1において、前記励振ピエゾ5に対し、前記自励発振回路10にかわり、独立して周波数を変化させることができる図外の発振回路を接続して、該図外の発振回路より交流電圧信号を印加した際の前記電流電圧変換回路8a,8bから出力される検知信号,及び前記差動増幅回路9から出力される処理信号の振幅を測定した。
【0032】
その結果、図6,7に示すように、前記電流電圧変換回路8a,8bから出力される検知信号に含まれる振動成分であり、夫々に大きな振幅のピークとして表れる前記プローブ6の共振ピークは、図8に示すように、差動増幅回路9から出力される処理信号においてより大きな振幅のピークとして表れた。又、前記電流電圧変換回路8a,8bから出力される検知信号夫々に細かな振幅の変動として表れる擾乱成分は、前記処理信号において小さくなることが確認された。これらの結果により、本原子間力顕微鏡1では、擾乱成分の影響を低減できることが示された。
【0033】
次に、原子間力顕微鏡1において、前記試料3に対して、前記試料電圧変調回路13より周波数500Hz、電圧1V(peak to peak)の試料電圧変調信号を印加した状態で、当該試料3の表面の凹凸の測定と、静電気力の分布の測定を同時に行った。
【0034】
その結果、本原子間力顕微鏡1において観測した周波数検出信号には、従来と比較して、検知信号に含まれている擾乱成分に起因する成分が少なくなり、検知信号に含まれている振動成分に起因する成分が鮮明に表れることが確認された。その結果、本原子間力顕微鏡1による試料3の表面の凹凸の測定と、静電気力の分布の測定の測定結果である図9及び図10に示すような表面凹凸像と静電気力分布を同時に取得できることが確認できた。尚、本原子間力顕微鏡1では、当該画像を取得するのに要する時間が10分程度であった。
【0035】
以上の実験結果に基づき、本原子間力顕微鏡1では、従来の原子間力顕微鏡と比べて、測定感度の高い測定を実現することができることが明らかになった。又、原子間力顕微鏡1では試料の表面の静電気力の分布を画像化するKFM測定においても実用的な測定時間での試料の測定が可能であることも明らかになった。
【0036】
以上説明した本発明の原子間力顕微鏡1は、前記励振ピエゾ5の駆動や、前記周波数検出回路11において周波数の変化を検出するための交流電圧信号が、前記差動増幅回路9が前記検知信号に含まれる擾乱成分を除去し、振動成分に基づき生成した処理信号に基づくものである。そのため、本原子間力顕微鏡1は、前記擾乱成分の影響を受けず、前記プローブ6を大きな振幅及び高い周波数で振動させること等ができるので、測定感度の高い測定を実現できる。
【0037】
又、本原子間力顕微鏡1は、上記のように、試料3の表面の凹凸の測定と、試料3の静電気力の分布の測定とを行うことができるので、走査型ケルビンフォース顕微鏡としても使用することができる。しかも、原子間力顕微鏡1では、前記試料3とプローブ6との間に生じる容量成分により流れる電流をキャンセルすることが可能であり、高い周波数及び大きな振幅の変調を行った試料電圧変調信号を試料3に印加することができる。これにより、測定時間の短縮を図ることもできる。
【0038】
尚、本実施の形態で示した原子間力顕微鏡1は、本発明に係る原子間力顕微鏡の一態様にすぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0039】
例えば、原子間力顕微鏡1は、振幅、位相の変化に基づき測定を行うものとして構成することも可能である。この場合において、原子間力顕微鏡1は、図11に示すように、前記自励発振回路10、前記周波数検出回路11のかわりに、オシレータ17、振幅・位相検出回路18を備える。
【0040】
前記オシレータ17は、前記励振ピエゾ5の駆動用の交流電力を生成し、当該励振ピエゾ5に供給する。又、オシレータ17は、前記交流電力信号を前記振幅・位相検出回路18にも供給する。
【0041】
前記振幅・位相検出回路18は、差動増幅回路9からの処理信号を、前記オシレータ17から供給される前記交流電力信号と共に受け入れて、処理信号の振幅の変化と位相の変化との少なくとも一方を検出して振幅位相検出信号を生成する。この振幅・位相検出回路18は、生成した前記振幅位相検出信号を前記図外の画像化装置に供給して、該図外の画像化装置に画像化させる。又、振幅・位相検出回路18は、前記ロックインアンプ12及び前記試料高さフィードバック回路14にも、前記振幅位相検出信号を供給する。
【0042】
以上のように各部が構成される本原子間力顕微鏡1は、周波数検出回路11で検出する周波数の変化に基づき測定を行う本原子間力顕微鏡1と同様の効果を発揮する。
【0043】
又、前記電流電圧変換回路8a,8bは、夫々独立にゲイン調整、位相調整できるように構成してもよい。このようにすることで、電流電圧変換回路8a,8bから夫々出力される前記検知信号に含まれる擾乱成分の僅かな強度の違いを揃えて、差動増幅回路9に送ることができるので、より確実に擾乱成分を除去した処理信号を生成することができる。
【0044】
又、本発明の原子間力顕微鏡1は、プローブ6を構成する材料に磁気材料を使用することで、該試料3の表面の磁場分布を計測する磁気力顕微鏡としても使用することができる。
【0045】
又、本発明の原子間力顕微鏡1は、試料3に交流電圧を与えることで、該試料3とプローブ6との間の容量により、該プローブ6に発生する電流に基づき、試料3の容量又は誘電率を計測する走査型容量顕微鏡としても使用することができる。
【0046】
又、本発明の原子間力顕微鏡1は、試料3とプローブ6との間に交流の電位差を与え、その時の試料3の変位応答を検出することで、該試料3の電歪特性を計測するピエゾ応答顕微鏡としても使用することができる。
【0047】
尚、本発明の原子間力顕微鏡1では、上記磁気力顕微鏡として使用される場合において、外部から試料3に加わる磁場によりプローブ6に発生する電流が前記擾乱成分に含まれており、又、走査型容量顕微鏡或いはピエゾ応答顕微鏡として使用される場合において、外部から試料3に加わる電場によりプローブ6に発生する電流が擾乱成分に含まれている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る振動成分検出方法は、原子間力顕微鏡にて使用することができる。又、本発明に係る原子間力顕微鏡は、走査型ケルビンフォース顕微鏡、磁気力顕微鏡、走査型容量顕微鏡、ピエゾ応答顕微鏡等として利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 原子間力顕微鏡
3 試料
6 プローブ
6a,6b 振動腕部
7a,7b 電極
8a,8b 電流電圧変換回路
9 差動増幅回路(処理部)
11 周波数検出回路(検出部)
18 振幅・位相検出回路(検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの振動腕部を有する電歪素子より構成された試料の表面を走査するプローブの、前記振動腕部夫々に設けられた電極からの2つの検知信号の差分を求めることで、該2つの検知信号間で同相に出現する擾乱成分を除去して、逆相で発生する前記プローブの振動に基づく振動成分を検出することを特徴とする振動成分検出方法。
【請求項2】
2つの振動腕部を有する電歪素子により構成された試料の表面を走査するプローブを備える原子間力顕微鏡であって、
請求項1記載の振動成分検出方法を用いて、前記振動腕夫々に設けられた電極からの2つの検知信号より、擾乱成分を除去し、振動成分を検出して処理信号を生成する処理部と、
該処理部で生成した処理信号に基づき前記試料の情報を検出する検出部と、を備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項3】
前記検出部において、前記試料の静電気力を検出するケルビンフォース顕微鏡として使用され、
前記擾乱成分に、前記試料に試料電圧変調信号を印加することで、前記プローブと前記試料との間の容量成分により流れる電流が含まれることを特徴とする請求項2記載の原子間力顕微鏡。
【請求項4】
前記検出部において、前記試料の磁場分布を検出する磁気力顕微鏡、前記試料の容量分布又は誘電率を検出する走査型容量顕微鏡、前記試料の電歪特性を検出するピエゾ応答顕微鏡の何れかとして使用され、
前記磁気力顕微鏡として使用される場合において、前記擾乱成分に前記試料に対し外部から磁場を加えることで前記プローブに発生する電流が含まれ、前記走査型容量顕微鏡又はピエゾ応答顕微鏡として使用される場合において、前記擾乱成分に前記試料に対し外部から電場を加えることで前記プローブに発生する電流が含まれることを特徴とする請求項2に記載の原子間力顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図11】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate