説明

振動測定方法、および装置

【課題】 測定対象物の物性を、3点支持により非破壊で測定すること。
【解決手段】 本発明にかかる振動測定方法においては、測定対象物に音波振動を加振信号発生装置により付与する第1の工程と、前記加振信号発生装置により付与した音波振動をモニターする第2の工程と、前記測定対象物の振動を振動センサで受信する第3の工程と、前記モニターと前記振動センサで受信した信号を取得し前記測定対象物の特性を解析する第4の工程とを含んでおり、前記加振信号発生装置と前記振動センサは、測定対象物の中心点Oと前記加振信号発生装置と測定対象物の接触点Aを通る直線と前記中心点Oと前記振動センサと測定対象物の接触点Bを通る直線のなす角が直角の位置になるように同一円周上に設置し、前記同一円周上には支持点Cを直線AOおよび直線BOと直線COのなす角が等角になるように設置し、前記測定対象物を3点支持により測定できる事を特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波振動を用いて物体の振動および硬度を非破壊で測定する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の振動特性を測定するには、レーザードップラー装置などが使われていた。加振器やレーザー振動計を使い、大型な装置である。小型で持ち運びできる振動測定装置が開発されているが、加振振動をモニターする機能を有する物は無く、測定対象物の詳細な振動特性を測定することは不可能であった。また、測定対象物を3点支持により測定する技術もあるが、測定対象物の詳細な振動特性を測定できる位置に3点が配置されていない。本発明の装置では、同一円周上の特定の角度に配置された3点で支持しているため、測定対象物の質量や大きさに関係なく、共鳴周波数だけで測定対象物の硬度を測定することができる。
なお、測定対象物によっては高速フーリエ解析を行っても、共鳴周波数を特定し難い物体があるが、本発明の装置では、加振モニターの信号と振動センサの信号から位相のデータを取得でき、位相のデータから振動モードを測定できるので、共鳴周波数を正確に特定することが出来る。
【特許文献1】特開平9−274022
【特許文献2】特開平10−318991
【特許文献3】特開平10−318992
【特許文献4】特開2002−296254
【特許文献5】特開2005−134114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1(特開平9−274022)の装置によれば、マイクロフォンをメロンにあて、メロンの対面に打撃で振動を付与している。打撃では打撃点の違いや、打撃強度の違いにより測定誤差を生じ易い。また、特許文献1の装置はメロンの直径を超音波により測定し、直径の補正をしてメロンの熟度を判定しなければならない。
特許文献2(特開平10−3189921)と特許文献3(特開平10−3189922)の装置によれば、重量計に測定対象物を置き、その上から集音マイクを設置し、測定対象物の側面をハンマーで打撃して振動解析を行っている。測定対象物を重量計に置いた後、集音マイクを測定対象物に接触させる必要があり、ハンマーで打撃している為、打撃強度や打撃信号をモニターしていない為、ハンマーの素材の違いにより周波数解析の結果が異なってくる。また、質量による大きさの補正も必要である。
特許文献4(特開2002−296254)の装置によれば、メロンを加振信号発生装置と加速度センサで測定し、加振振動エネルギーと検出振動エネルギーから伝達関数を求め、果径および硬度を測定している。硬度を測定するには、伝達関数よりも振動解析による共鳴周波数の方が高い。特許文献4によると伝達関数と果径および硬度との相関は約0.8であり、硬度と共鳴周波数との相関が0.9以上あるのに対し精度が劣る。
特許文献5(特開2005−134114)の装置によれば、測定対象物を3点支持で支える方法が明記してあるが、3点支持の構造が、平面視で正三角形の頂点に位置する部分に設けられている。加振点と測定対象物の中心点と受信点を結んだ角度が直角もしくは180度でなければ、測定対象物の硬さを表す第2共鳴周波数の振動を検出することができないが、特許文献5の装置では120度になっているため、詳細な振動特性を測定することはできない。
【0004】
そこで、本発明は、加振信号発生装置により測定対象物を振動させ、振動センサで受信した測定対象物の振動信号と加振信号発生装置に設置されたモニターの振動信号を差し引くことで測定対象物のみの信号を取得し、更に、特定の角度に配置された3点で支持することにより、測定対象物の直径や質量で補正の必要なしに簡単に測定対象物の振動解析および硬度の比較が可能な技術を提案する事を目的としてなされた物である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる振動測定方法の第1の発明においては、測定対象物に音波振動を加振信号発生装置により付与する第1の工程と、前記加振信号発生装置により付与した音波振動をモニターする第2の工程と、前記測定対象物の振動を振動センサで受信する第3の工程と、前記モニターと前記振動センサで受信した信号を取得し前記測定対象物の特性を解析する第4の工程とを含んでいることを特徴としている。
第2の発明では、前記加振信号発生装置と前記振動センサは、測定対象物の中心点Oと前記加振信号発生装置と測定対象物の接触点Aを通る直線と前記中心点Oと前記振動センサと測定対象物の接触点Bを通る直線のなす角が直角の位置になるように同一円周上に設置し、前記同一円周上には支持点Cを直線AOおよび直線BOと直線COのなす角が等角になるように設置し、前記測定対象物を3点支持により測定できる事を特徴としている。
第3の発明では、前記加振信号発生装置は入力電圧に応じて振動し、同時に加振振動をモニターできる事を特徴としている。
第4の発明では、加振信号発生装置により振動させた測定対象物の振動を受信した振動センサの信号を高速フーリエ解析したデータと、モニターの信号を高速フーリエ解析したデータを差し引くことにより測定対象物の振動スペクトル分布をえるように構成されており、振動センサの信号とモニターの信号を比較することにより、位相データを得るように構成されている事を特徴としている。
第5の発明では、3つの支持点を固定することにより測定対象物の共鳴周波数の値のみで、測定対象物の硬度を比較できることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明にかかる3点支持構造による青果物の振動測定方法、および装置よれば、測定対象物に音波振動を付与し、加振振動をモニターした信号と測定対象物の振動を受信する振動センサの信号を取得することによって、測定対象物の特性を解析することが出来る。また3点支持で測定対象物を固定するだけで、大きさや質量に関係なく、共鳴周波数だけで測定対象物の3つの支持点で切り取られる横断面の硬度を比較することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明にかかわる振動測定方法に用いる振動測定装置の最良の形態を示した図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には本発明に関わる振動測定装置の構成図を示した。この図において、1の測定対象物を2の加振信号発生装置、4の振動センサ、5の支持棒の3点支持の上に静置させる6の加振信号発生装置から、1〜20kHzのスイープサイン波、ホワイトノイズ、ピンクノイズなどの可聴域の周波数帯を使用した音波信号を出力する。7のDA変換回路を介し、加振信号発生装置2から音波振動を発生させる。加振信号発生装置2には加振信号を取得する3のモニターが内蔵されており、加振信号発生装置2で測定対象物1に付与した振動を取得し8のAD変換回路に入力する。前記音波振動により振動した測定対象物1の振動は、4の振動センサで取得しAD変換回路10に入力される。モニター3と振動センサ4で取得した信号を9の演算装置で高速フーリエ変換と周波数応答を計算し、振動スペクトルと位相データを表示させる。
【0008】
前記加振信号発生装置2には、自励振タイプの圧電素子を使用し、振動センサには他励振タイプの圧電素子を使用しているが、加振モニターや振動センサには振動エネルギーを電気信号変換でき、加振振動発生には電気信号を振動エネルギーに変換できるものであれば何でも良い。
【0009】
前記自励振タイプの圧電素子には、電気信号を振動エネルギーに変換する部位と、前記電気信号により振動した振動エネルギーを、電気信号に変換する部位とに分かれており、加振振動を正確にモニターする機能を有している。
【0010】
加振には電気信号を振動エネルギーに変換できるスピーカーやバイブロトランスデューサーなどを使用しても良い。加振モニターや振動センサには、振動エネルギーを電気エネルギーに変換できる加速度ピックアップなどを使用しても良い。
【0011】
前記加振信号発生装置2と前記振動センサ4と支持点5は図2のように設置されている。加振信号発生装置2と測定対象物1との接触点Aと測定対象物1の中心Oと振動センサ4と測定対象物1との接触点Bをつないでできる角AOBが直角になる同一円周上に加振信号発生装置2と振動センサ4を設置する。更に、支持棒5と測定対象物1の接触点Cが、角AOCと角BOCが同じ角度になる位置にくるように、加振信号発生装置2と振動センサ4が設置されている同一円周上に支持棒5を設置する。
【0012】
なお,前記角AOBは45度および135度以外の角度であれば、第2共鳴周波数は測定できるが、直角の方が測定対象物の振動レベルが強くなるため、精度良く測定できる。
【0013】
従来、振動測定には、測定対象物の加振点の180度対面に配置した振動センサで振動を受信してきたが、図2に示す接触点Aと中心点Oと接触点Cをつないでできる角AOBのなす角が直角でも測定可能である。
【0014】
前記演算装置9は、受信した信号をAD変換回路8を介して取り込んで測定対象物の振動の周波数スペクトル分布を解析する機能を備えている。この周波数スペクトル分布の解析にあたっては、例えば、高速フーリエ変換処理等の手法を用いることができる。また、加振モニター3と振動センサ4の信号の周波数応答を演算し、位相角を計算する機能を備えている。これにより、測定対象物の振動モードを特定することができる。
【0015】
次に、振動測定装置の測定のフローチャートを図3に示す。ステップS1においては、測定開始に当たって、前記加振信号発生装置、振動センサ等の状態が正常であるか否かをチェックするとともに、各部および各変数などを初期化する。
次に、ステップS2において、測定開始スイッチの状態をチェックして、押されるとステップS3に進み、前記周波数帯で加振信号を出力し、前記加振信号発生装置を振動させる。
ステップS4においては、前記加振信号発生装置に設置した加振モニターおよび振動センサからの振動信号の入力を監視し、加振モニターと振動センサから振動信号が検出されるのを待つ。振動信号が入力されるとステップS5へ進む。
ステップ5においては、入力される振動信号をデジタル信号に変換しながら高速フーリエ変換および位相角の演算を行い、測定対象物の周波数特性を得る。
ステップS6においては、前記周波数特性と位相角のデータから第2共鳴周波数、第3共鳴周波数、第4共鳴周波数を演算して求める。
ステップS7においては、第2共鳴周波数、第3共鳴周波数、第4共鳴周波数の比率から内部の欠陥を判定し、硬度については第2共鳴周波数の値を使う。
ステップS8においては、ステップS7の判定結果をディスプレイに表示する。
【実施例1】
【0016】
実施例1では、前記振動測定装置を用いて測定体対象物として弾性体であるゴムボールを前記180度と直角の位置で測定した。その結果180度で測定したデータを図4に、90度で測定したデータを図4に示した。図4および図5の両方で、測定対象物の硬度情報を含む第2共鳴ピークが得られた。位相の90度と−90度の位置にピークが出現するが、加振と受信の角度を直角で測定した場合、振動モードに起因され位相変化の周波数間隔が180度の時の倍になる。その結果、奇数番号のピークが出現し難くなるが、測定対象物の硬度には第2共鳴周波数の値を使用するので問題は無い。
【0017】
なお、実施例1では、前記加振信号発生装置と前記振動センサと支持棒を設置する円周上の直径は、2cmとしたが、これに限定されない。前記円周上の直径は全ての測定対象物が3点支持できるような直径に予め設定しておく。
【実施例2】
【0018】
実施例2では、加振信号をモニターせず測定対象物を加振して振動させた測定対象物のみの振動を振動センサで測定し、振動解析を行った。加振振動発生装置で測定対象物として弾性体であるゴムボールを振動させ、加振振動はモニターせず、振動センサで検出した信号のみを高速フーリエ変換し、振動特性を調べた。結果を図6に示す。第2共鳴ピークを確認することが出来るが、加振振動をモニターしていないため、測定対象物の位相データを演算することができない。したがって、測定対象物の詳細な振動特性を測定することはできず、2番目のピークが第2共鳴ピークなのか確定することはできない。
【実施例3】
【0019】
実施例3では、前記振動測定装置を用いて測定対象物としての弾性体であるゴムボールを測定した。前記ゴムボールを暖めて柔らかくした場合と、冷やして硬くした場合とで第2共鳴周波数の違いを測定した。図7に示されたように、暖めて軟らかくしたゴムボールの第2共鳴周波数の方が、冷やして硬くしたゴムボールの第2共鳴周波数より低い。すなわち、第2共鳴周波数を測定するだけで測定対象物の硬度を比較することができる。
これらの第2共鳴周波数は図8に示されているように、硬度との間で高い相関関係があるので、前記振動装置を用いることによって、青果物の硬度を非破壊で検査できる。
【実施例4】
【0020】
実施例4では、測定対象物として、内部が正常なスイカと内部に異常の有るスイカを前記振動測定装置で測定した。測定して得た振動スペクトルを図9に示す。正常なスイカの振動スペクトルはシャープなピークが複数出現し、第2共鳴周波数、第3共鳴周波数も明瞭に確認できる。一方、内部に異常の有るスイカでは、第3共鳴周波数以降のピークは明瞭に確認することができない。また、異常の有るスイカでは第2共鳴周波数が正常なスイカよりも低周波であることが分かり、果肉が軟らかい事が確認できる。さらに、第2共鳴ピークと第3共鳴ピークの周波数比率も正常なスイカに比べて小さくなっており、この比率を見ることで内部の異常を判定できる。
【0021】
なお、品質を評価する為の相関関係のデータベースとしては、測定対象の青果物の種類や品種応じた評価基準をあらかじめ実験等によって求めて解析装置のコンピュータなどに登録しておき、種類や品種に応じて前記評価基準を参照して、評価するとよい。
また、前記第2共鳴周波数の信号強度と前記第4共鳴周波数の信号強度および周波数の比率を利用しても評価が可能である。

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、青果物に限らず、球体や円錐形などの物体の硬度や内部の状態を非接触で検査する技術にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる測定方法に用いる装置の実施形態の構成図である。
【図2】前記方法に用いる3点支持構造を示す図である。
【図3】測定の流れを示すフローチャート図である。
【図4】実施例1における180度測定時の測定対象物の振動の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例1における直角測定時の測定対象物の振動測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例2における振動センサのみの振動解析結果を示すグラフである。
【図7】実施例3における測定対象物の硬さの違いによる振動スペクトルの違いを示した図である。
【図8】共鳴周波数と果実の硬度との間の相関関係を示すグラフである。
【図9】実施例4における正常なスイカと異常の有るスイカの振動スペクトルを比較したグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 測定対象物
2 加振信号発生装置
3 加振モニター
4 振動センサ
5 支持棒
6 加振信号発生装置
8 AD変換回路
9 演算装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に音波振動を加振信号発生装置により付与する第1の工程と、前記加振信号発生装置により付与した音波振動をモニターする第2の工程と、前記測定対象物の振動を振動センサで受信する第3の工程と、前記モニターと前記振動センサで受信した信号を取得し前記測定対象物の特性を解析する第4の工程からなる振動測定方法。
【請求項2】
前記加振信号発生装置と前記振動センサは、測定対象物の中心点Oと前記加振信号発生装置と測定対象物の接触点Aを通る直線と前記中心点Oと前記振動センサと測定対象物の接触点Bを通る直線のなす角が直角の位置になるように同一円周上に設置し、前記同一円周上には直線AOおよび直線BOと直線COのなす角がともに等角になるように支持点Cを設置し、前記測定対象物を3点支持により測定できる事を特徴とした振動測定装置。
【請求項3】
前記加振信号発生装置は入力電圧に応じて振動し、同時に加振振動をモニターできる事を特徴としている請求項2に記載の振動測定装置。
【請求項4】
前記解析手段は、加振信号発生装置により振動させた測定対象物の振動を受信した振動センサの信号を高速フーリエ解析したデータと、モニターの信号を高速フーリエ解析したデータを差し引くことにより測定対象物の振動スペクトル分布を得るように構成されており、振動センサの信号とモニターの信号を比較することにより、位相のデータを得るように構成された、請求項2に記載の振動測定装置。
【請求項5】
前記3点支持は、3つの支持点を固定することにより測定対象物の共鳴周波数の値のみで、測定対象物の硬度を比較できることを特徴した請求項2、4に記載の振動測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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