説明

振動音検出センサ

【課題】検査対象において発生する振動音を検出することを可能にする。
【解決手段】入力電気信号が印加されると、液体中に縦波が照射される。縦波はダイアフラム4によって反射され、遅延電気信号として検出される。このとき、検査対象に衝撃が加えられると、それにより発生した振動音は、振動伝搬体6を介してダイアフラム4に伝搬され、ダイアフラム4が振動し、ダイアフラム4と圧電基板1との離間距離(d)が変動する。その結果、液中縦波の伝搬路長(L)が変動するので、発振周波数(f0)も変動することとなる。このようにして、発振周波数(f0)の変動から、検査対象において発生する振動音を高感度で検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象が振動や衝撃を受けることにより発生する振動音や、検査対象としての生体などに生理的に発生する振動音を検出することができる振動音検出センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家屋や建造物の配線、土台、柱、壁などの部材がネズミなどの小動物やシロアリなどの害虫によって侵食されることがある。金属材料が長期間にわたり繰り返し力を受けることにより亀裂が生じることがある。また、トンネルなどの部材として使用されているコンクリート塊が、長期間にわたる振動、衝撃、自然破壊などにより劣化して、ひび割れや落下を生じることがある。このような被害を最小限にとどめるための有効な手段として、検査対象に発生する振動音を高感度で捉えるセンサを設置することが挙げられる。さらに、医学的見地から、生体などの診断の有力な手段の1つとして、生体などにおいて生理的に発生する振動音を高感度で捉えるセンサの開発が嘱望される。
【0003】
近年、建材におけるシロアリの食害時の弾性波を検出することにより、シロアリの食害を発見するシロアリの食害検出装置(特許文献1)が公開されている。これは、検査対象建材に金属片の一部を埋め込み、その金属片の露出部分にセンサを当接させる構成を有し、シロアリの食害時に金属片を介して伝搬する弾性波をセンサによって検出するというものである。ここでのセンサは、検出素子として圧電性セラミックなどが採用されており、検出素子と金属片とを当接させている。すなわち、使用時においては、個別に検出素子と金属片とを、接着剤により固着したり、ゴムベルト、バネなどにより密接したりすることを必要とする。また、検出感度を上げるためには、固着面積または密接面積を増大することを必要とする。その結果、取り付けの容易性、装置ごとの感度のばらつき、耐久性、量産性に問題を有し、装置の小型化も困難であり、狭い場所での使用は困難である。
【0004】
害虫を検出する木材の側面に超音波の送波器と受波器を設け、受波器の出力データを処理することにより、木材中の害虫の存在の有無を検出する害虫検出装置(特許文献2)が公開されている。これは、シロアリが木材のセルロースを食べることにより木材内部に形成された侵食部を検出することにより、シロアリの食害を検出するものであって、侵食部という特定部位での検出に限られているため、1つの木材を対象とするだけでも、かなりの数量の装置を必要とし実用性に乏しい。また、送信器からの超音波を効率よく受信するためには、木材ごとに受信器の取り付け位置に工夫を要することとなり、取り付けコストの上昇を招くばかりでなく、装置ごとの感度のばらつきにも問題を有することとなる。
【0005】
コンクリ−ト構造物の亀裂などの内部状態を診断するための非破壊検査装置(特許文献3)が公開されている。これは、亀裂などとコンクリートの表面などとの間に生ずる多重反射波を超音波センサによって検出することにより、コンクリート構造物などの内部状態を診断する装置である。超音波センサは、所定の中心周波数を有する超音波を送信する送波器と、多重反射波を受信して電気信号に変換する受波器を含む。そのため、亀裂が送波伝搬路上に存在することが条件となる。従って、コンクリート表面に対し垂直方向に送信される超音波の送波伝搬路上に存在する亀裂に対しては、多重反射波を最も効率よく受信することが可能であり、広範囲な深さの亀裂に対応しうる。しかしながら、コンクリート全体の劣化状態を検出するには、コンクリート表面に対し、スキャンさせるごとくセンサを移動させるか、多量のセンサを必要とし、多大な検査労力を要することとなり、効率の面で問題があり、実用性に乏しい。
【0006】
このようにして、従来の害虫検出装置や非破壊検査装置で採用されているセンサ技術は前述した問題点を有するが、その他、消費電力や、費用対効果などにおいても問題を有する。
【0007】
近年、地震予知装置(特許文献4)が公開されている。これは、地震発生前に生じる微弱な磁気の異常や、極低周波音などを動物が感知して異常行動を起こすということを前提としたもので、具体的には、所定の期間内にトカゲが尾を立てたり壁などに登った回数又は時間を計測して、それらが所定の閾値に達した場合に地震が発生するものと推定している。すなわち、トカゲがセンサの役割を演じているものであり、トカゲの生態を熟知することを必要とするばかりでなく、飼育の手間や、健康管理も必要で、タイマーを利用しての画像撮影などの手段を必要とする。
【0008】
このようにして、従来、地震予知装置においては動物をセンサとして利用するものが認められるものの、極低周波音の検出に有効な工学的センサの利用は今後の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−089500号公報
【特許文献2】特開2002−186396号広報
【特許文献3】特開2003−149214号広報
【特許文献4】特開2010−085095号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする課題は、感度が低いこと、個体ごとに感度のばらつきを生じやすいこと、部材に対する取り付け容易性に劣ること、低電圧および低消費電力駆動が困難であること、耐久性に劣ること、量産性が困難であること、規模の縮小が難しく限られたスペースのもとでの使用が困難であることである。
【0011】
本発明は、検査対象が自然界の外的要因を受けることにより発生する振動音や、人為的な要因を受けることにより発生する振動音や、検査対象としての生体や動植物などにおいて生理的に発生する振動音を検出することが可能な振動音検出センサを提供することを目的とする。
【0012】
検査対象が自然界の外的要因を受けるとは、たとえば、ネズミなどの小動物やシロアリなどの害虫によって、家屋や建造物の配線、土台、柱、壁などの部材が侵食されることや、地震などにより発生する極低周波音が建造物の部材に伝搬することを意味し、本発明は、そのような外的要因を受けることにより発生する振動音を検出することを目的とする。
【0013】
検査対象が人為的な要因を受けるとは、たとえば、部材や金属片やコンクリート塊がハンマーで叩かれるなどの人為的な衝撃を受けることを意味し、本発明は、そのような人為的要因を受けることにより発生する振動音を検出することを目的とする。
【0014】
検査対象としての生体や動植物などにおいて生理的に発生する振動音とは、たとえば生体における心音や脈拍、樹木が水を吸い上げている音などを意味し、本発明は、そのようにして発生する振動音を検出することを目的とする。
【0015】
本発明は実用性を重視したもので、極小スペースのもとでの使用も可能であって、ある程度離れた場所に位置する検査対象や、狭い隙間や奥深い場所に位置する検査対象に対しても有効で、リアルタイムでの検出が可能で、複数の検査対象に対しても有効で、遠隔操作も可能で、効率に優れ、耐雑音性に優れ、温度変化による影響を受けにくく、低電圧および低消費電力駆動が可能で、検査対象に対する取り付けが容易で、高感度で、個体ごとの感度のばらつきもなく安定しており、耐久性に優れ、工業的にも容易に量産可能であることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するためになされた本発明は、圧電基板と、入力用すだれ状電極と、出力用すだれ状電極と、ダイアフラムと、増幅器と、振動伝搬体から成り、振動伝搬体に接触される検査対象において発生する振動音を検出する振動音検出センサである。
【0017】
入力用すだれ状電極および出力用すだれ状電極は、圧電基板の一方の端面上に設けられ、ダイアフラムは、圧電基板のもう一方の端面と対面する位置に、液体を介して設けられていることを特徴とする。また、振動伝搬体は先端部と末端部を有し、先端部が物質との接触部とされ末端部がダイアフラムに固着されることを特徴とする。
【0018】
このように構成することで、振動伝搬体は、検査対象において発生する振動音をダイアフラムに伝搬してダイアフラムを振動させ、ダイアフラムと圧電基板との離間距離を変動させる機能を有することとなる。
【0019】
また、このように構成することで、入力用すだれ状電極は、入力電気信号を印加されることにより、圧電基板に漏洩ラム波を励振し、その漏洩ラム波を液体中に縦波として照射する機能を有する。ダイアフラムはその縦波を反射する機能を有する。出力用すだれ状電極は、反射された縦波をダイアフラムと圧電基板との離間距離の変動に対応して変動する遅延電気信号として検出する機能を有する。
【0020】
増幅器は、入力用すだれ状電極および出力用すだれ状電極の間に接続されていることを特徴とする。
【0021】
このように構成することで、増幅器は、遅延電気信号を増幅して、その増幅信号の一部を入力用すだれ状電極に再び入力する機能を有する。
【0022】
本発明の振動音検出センサは、圧電基板が圧電セラミックで成り、その分極軸の方向は厚さ方向と平行であることを特徴とする。
【0023】
このように構成することで、入力用すだれ状電極の電極周期長(p)にほぼ対応する波長を有する漏洩ラム波を圧電基板に効率よく励振することが可能となり、圧電基板と接触する液体中に縦波が効率よく照射される。
【0024】
また、本発明の振動音検出センサは、圧電基板が圧電性高分子フィルムで成ることを特徴とする。
【0025】
このように構成することで、漏洩ラム波を圧電基板に効率よく励振することが可能となり、圧電基板と接触する液体中に縦波が効率よく照射される。
【0026】
また、本発明の振動音検出センサは、ダイアフラムが正方形平板状または円板状の形状を有し、振動伝搬体の末端部はダイアフラムのほぼ中心に固着されていることを特徴とする。
【0027】
このように構成することで、ダイアフラムを最も効率よく振動させることが可能となる。ダイアフラムの中心が振動の腹に相当する部分であり、しかも中心に固着すればダイアフラムの振動の振幅が最大となり得るからである。
【0028】
また、本発明の振動音検出センサは、振動伝搬体が弾性体から成ることを特徴とする。
【0029】
このように構成することで、検査対象において発生する振動音をダイアフラムに効率良く伝搬してダイアフラムを振動させることができるので、高感度のセンサを提供できる。
【0030】
また、本発明の振動音検出センサは、振動伝搬体が弾性体とそれをコーティングする膜から構成され、膜の音響インピーダンスは、弾性体の音響インピーダンスよりも高いことを特徴とする。
【0031】
このように構成することで、検査対象において発生する振動音を外部に漏洩させることなく効率よくダイアフラムに伝搬することができる。
【0032】
また、本発明の振動音検出センサは、振動伝搬体の先端部が集音機能を有することを特徴とする。
【0033】
このように構成することで、検査対象において発生する振動音を効率よくダイアフラムに伝搬することができる。
【0034】
また、本発明の振動音検出センサは、入力用すだれ状電極および出力用すだれ状電極として、それぞれ円弧状すだれ状電極を採用することが可能であることを特徴とする。
【0035】
このように構成することで、漏洩ラム波を圧電基板に効率よく励振することが可能となり、圧電基板と接触する液体中に縦波が効率よく照射される。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、害虫検出装置や非破壊検査装置などのセンサ部分への応用、地震予知装置などのセンサ部分への応用、樹木の健康診断装置などのセンサ部分への応用、聴診器など医療分野への応用など、幅広い分野への応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の振動音検出センサの第1の実施例を示す断面図である。(実施例1)
【図2】圧電基板1に設けられた入力用すだれ状電極2および出力用すだれ状電極3を示す斜視図である。
【図3】もう1つの振動伝搬体7の実施例を示す断面図である。
【図4】図1の振動音検出センサにおける自励発振出力信号の観測波形である。
【図5】図1の振動音検出センサにおける縦波伝搬路を示す概念図である。
【図6】図1の振動音検出センサにおける離間距離(d0)の機械的変位(Δd)と発振周波数(f0)の周波数変位(Δf)との関係を示す特性図である。
【図7】振動伝搬体6の長さと出力信号の遅延時間との関係を示す特性図である。
【図8】本発明の振動音検出センサの第2の実施例を示す断面図である。(実施例2)
【図9】入力用および出力用すだれ状電極が円弧状すだれ状電極で成る場合の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
検査対象が自然界の外的要因を受けることにより発生する振動音や、人為的な要因を受けることにより発生する振動音や、検査対象としての生体や動植物などにおいて生理的に発生する振動音を検出するという目的を、圧電基板、入力用および出力用すだれ状電極、ダイアフラム、増幅器および振動伝搬体から成る簡単な構造を有するセンサを提供することにより実現した。
【実施例1】
【0039】
図1は、本発明の振動音検出センサの第1の実施例を示す断面図である。本実施例は、圧電基板1、入力用すだれ状電極2、出力用すだれ状電極3、ダイアフラム4、増幅器5および振動伝搬体6から成る。圧電基板1は、圧電セラミック薄板で成るが、圧電性高分子フィルムを用いることも可能である。入力用すだれ状電極2および出力用すだれ状電極3は、ともにアルミニウム薄膜で成り、圧電基板1の一方の端面上に設けられている。ダイアフラム4は、リン青銅薄板で成り、圧電基板1の端面と平行になるような位置に設けられている。圧電基板1とダイアフラム4の間は、液体で満たされている。振動伝搬体6は先端部と末端部を有し、その先端部は検査対象である部材に接触され、末端部はダイアフラム4に固着されている。この際、先端部は部材の表面に接触されていれば足り、内部に固定されている必要はないものの、内部に固定された構成も可能である。また、先端部に集音器が設けられるなど、先端部が集音機能を有する構成も可能である。末端部とダイアフラム4との固着面積の大きさは問われないが、固着面積は大き過ぎないことが必要である。振動伝搬体6の材質は弾性体で成り、金属などの他、プラスチックなどの高分子材料なども可能であり、長さは1m程度までは可能であり、太さは問題にならない。このようにして、本発明の振動音検出センサは、小型軽量でしかも構造が簡単で製作容易である。
【0040】
図2は、圧電基板1に設けられた入力用すだれ状電極2および出力用すだれ状電極3を示す斜視図である。圧電基板1は、厚さ(t)が218μmの矩形薄板状構造を有し、その分極軸の方向は厚さ方向と平行である。入力用すだれ状電極2および出力用すだれ状電極3は、それぞれ15個の電極対を有し、5mmの電極重複幅(T)と、75μmの電極指幅(w)と、340μmの電極周期長(p)を有する。なお、圧電基板1の形状は問われないが、製造の容易性から、矩形板状の他、円板状構造などが有効である。
【0041】
図3は、もう1つの振動伝搬体7の実施例を示す断面図である。振動伝搬体7の先端部は検査対象である部材に接触され、末端部はダイアフラム4に固着されている。振動伝搬体7はコイル状を成すが、先端部をたとえば柱などの部材に巻きつけてもよい。このようにして、振動伝搬体の形状は直線状に限らず湾曲状でも可能で、長さ方向に垂直な断面の形状は問題とならない。また、ストローやチューブのような管状構造も可能である。この場合、振動伝搬体7の末端部は、ダイアフラム4に固着されることにより閉塞された構成となるが、先端部は開放された構成のみならず、閉塞された構成も可能である。
【0042】
図1の振動音検出センサにおいて、入力用すだれ状電極2の電極周期長(p)に対応する中心周波数にほぼ等しい周波数の入力電気信号が入力用すだれ状電極2に印加されると、入力用すだれ状電極2の電極周期長(p)にほぼ対応する波長を有する漏洩ラム波が圧電基板1に効率よく励振される。漏洩ラム波は、圧電基板1と液体との界面においてモード変換されて、縦波として液体中に照射される。なお、液体が水の場合、漏洩ラム波が水中に縦波として効率よく照射されることが確認されている。照射された縦波はダイアフラム4によって反射され、反射された縦波は、出力用すだれ状電極3によって、出力用すだれ状電極3の電極周期長(p)にほぼ対応する周波数を有する遅延電気信号として検出される。出力用すだれ状電極3で検出された遅延電気信号は増幅器5によって増幅され、その増幅信号の一部は入力電気信号として再び入力用すだれ状電極2に印加される。このようにして、入力用すだれ状電極2、出力用すだれ状電極3および増幅器5は帰還型の遅延線発振器を構成する。このような周波数追尾システムは、温度変化にも敏感に対応しうるばかりでなく、低消費電力駆動を可能にする。なお、液体中への縦波の照射角(θ)は発振周波数(f0)と、圧電基板1の厚さ(t)と、液体中を伝搬する縦波の位相速度(Vw)と、漏洩ラム波の位相速度(V)によって決まる。
【0043】
図1の振動音検出センサの駆動中、ダイアフラム4が振動して、ダイアフラム4と圧電基板1との離間距離(d)が変動すれば、それにより、液体中の縦波の伝搬路長(L)が変動する。このとき、自励発振が生じる位相条件は、近似的に、2πf0L/Vw≒2nπという関係(nは整数)で表されることから、伝搬路長(L)が変動すれば、発振周波数(f0)が変動することとなる。このようにして本発明の振動音検出センサでは、ダイアフラム4が振動したことを、発振周波数(f0)の変動から高感度で検出することが可能となる。
【0044】
もしも、家屋や建造物の配線、土台、柱、壁などの部材がネズミなどの小動物やシロアリなどの害虫によって侵食された場合、それらの部材において侵食時に発生する振動音は、振動伝搬体6を介してダイアフラム4に伝搬され、その結果、ダイアフラム4が振動する。同様にして、地震などにより発生した極低周波音により建造物の部材に発生する振動音は、振動伝搬体6を介してダイアフラム4に伝搬され、ダイアフラム4が振動する。ダイアフラム4の振動に伴い、ダイアフラム4と圧電基板1との離間距離(d)が変動することから、液体中の縦波の伝搬路長(L)も変動する。従って、部材において侵食時に発生する振動音を発振周波数(f0)の変動から検出することが可能となる。このようにして、本発明の振動音検出センサを利用すれば、害虫などの発見に有効なデバイスや、地震予知などに有効なデバイスを構成できる。なお、振動伝搬体6の末端部とダイアフラム4との固着面積は大き過ぎないことが必要である。ダイアフラム4の振動の腹に相当する箇所を逸脱しない範囲内の面積に収まるように固着することにより、ダイアフラム4を最も効率よく振動させることが可能となるからである。ダイアフラム4の形状は問われないが、製造の容易性から矩形平板状、円板状などが適切である。正方形平板状および円板状の場合には、振動伝搬体6の末端部はダイアフラム4のほぼ中心に固着されることが望ましい。中心が振動の腹に相当する部分であり、しかも中心に固着すればダイアフラム4の振動の振幅が最大となることが推測されるので、検出感度が増すからである。
【0045】
また、コンクリート塊や金属片などの部材を検査対象とすることができる。この場合、検査対象をたとえばハンマーで叩くことにより人為的に発生させた振動音は、振動伝搬体6を介してダイアフラム4に伝搬し、ダイアフラム4を振動させる。その結果、発振周波数(f0)が変動する。このようにして、検査対象において発生させた振動音を発振周波数(f0)の変動から検出することが可能となる。このとき、検査対象に損傷がある場合と、ない場合とでは、ダイアフラム4の振動形態に相違が生じることが予測されることから、発振周波数(f0)の変動域や変動のパターンなどにも相違が生じることが推測される。従って、本発明の振動音検出センサを利用すれば、コンクリート塊におけるひび割れなどの劣化や、金属片における金属疲労などの亀裂の発見に有効なデバイスを構成できる。
【0046】
さらに、生体や動植物などを検査対象とすることも可能である。たとえば生体を検査対象とし、心音や脈拍を検出する場合、振動伝搬体6の先端部は、たとえば図3のように、聴診器のごとく板状構造にして胸部や腕などと接触させる構成を採ることにより、安全で高感度な振動音検出が可能となる。このようにして、本発明の振動音検出センサを利用すれば、生体や動植物の健康状態の診断が可能なデバイスを構成できる。
【0047】
図1の振動音検出センサは、前述したように、人為的な要因に限らず、自然的要因、生体や動植物における内的要因により発生する振動音にも対処し得る。このようにして、建築部材の害虫による侵食の発見、地震の予知、コンクリート塊や金属片の損傷の発見、生体や動植物の健康状態の診断などに有効なデバイスを構成できる。このようなデバイスにおいて、自励発振出力信号から検査対象の状態を精査する最も効果的な方法としては、第1に、特定の要因に基づく自励発振出力信号と、要因が不明な場合の自励発振出力信号とを比較解析することが挙げられる。たとえば、自励発振出力信号において発振周波数(f0)の変動が観測された場合には、建築部材が侵食されているか否かは発見されるものの、それがシロアリによるものか否かなどや、地震の前触れであるか否かなどについては、発振周波数(f0)の変動域や変動パターンなどについて比較解析することにより判明する。第2に、検査対象が損傷を有する場合の自励発振出力信号と、有しない場合の自励発振出力信号とを比較解析することが挙げられる。たとえば、亀裂を有する金属と有しない金属について、人為的にハンマーなどで叩くことにより検出した自励発振出力信号の発振周波数(f0)の変動域や変動パターンなどを比較解析することにより、亀裂があるか否かが、またどの程度の亀裂があるかどうかも判明する。建築部材の侵食の度合いなども、同様な手法で判明する。また、検査対象になっている人についての自励発振出力信号の発振周波数(f0)の変動域や変動パターンなどを健康な人についてのデータと比較解析することにより、健康状態が判明する。
【0048】
図4は、図1の振動音検出センサにおける自励発振出力信号の観測波形である。但し、漏洩ラム波の高次モードに対応する波形である。周波数がほぼ15 MHzのときに振幅が最大値を示すピークが存在することが分かる。このピークに対応する周波数が、この高次モードの漏洩ラム波の発振周波数(f0)であると解される。
【0049】
図5は、図1の振動音検出センサにおける縦波伝搬路を示す概念図である。ダイアフラム4が振動していない場合の離間距離(d0)は、振動により機械的変位(Δd)を生じ、それにより伝搬路も変化し、ダイアフラム4が振動していない場合の縦波の照射角(θ0)も変化する。なお、たとえば高次モード漏洩ラム波の場合には、圧電基板1の厚さ(t)が一定の場合、発振周波数(f0)の増加とともに漏洩ラム波の位相速度(V)は減少し、それに伴い縦波の照射角(θ0)が鈍角になる。言い換えれば、出力用すだれ状電極3において反射縦波を効率よく受信し、高感度のシステムを構築するためには、圧電基板1の厚さ(t)や、圧電基板1上の入力用すだれ状電極2と出力用すだれ状電極3との距離や、いずれのモードの漏洩ラム波が最適かなどについて幅広い選択の余地がある。
【0050】
図6は、図1の振動音検出センサにおける離間距離(d0)の機械的変位(Δd)と発振周波数(f0)の周波数変位(Δf)との関係を示す特性図である。但し、漏洩ラム波の高次モードに対応するものである。実線および●印はそれぞれ理論値および測定値を示している。機械的変位(Δd)と周波数変位(Δf)との間に良好な線形関係が存在することが認められる。このようにして、1μmの機械的変位(Δd)に対し、周波数変位(Δf)が1 kHzであることが算出されるので、図1の振動音検出センサによれば、1μm以下の機械的変位(Δd)でも充分感知され得ることが分かる。
【0051】
図7は、振動伝搬体6の長さと出力信号の遅延時間との関係を示す特性図である。但し、振動伝搬体6は直径0.2 mmの金属線で成る場合を示す。実線および●印はそれぞれ理論値および測定値を示している。振動伝搬体6の長さと出力信号の遅延時間との間に良好な線形関係が存在することが認められる。このようにして、図1の振動音検出センサは、ある程度離れた場所に位置する部材や、狭い隙間や奥深い場所に位置する部材からの振動音を効率良くダイアフラム4に伝搬させることが分かる。
【実施例2】
【0052】
図8は、本発明の振動音検出センサの第2の実施例を示す断面図である。本実施例は圧電基板1、入力用すだれ状電極2、出力用すだれ状電極3、ダイアフラム4、側壁8および振動伝搬体9から成る。圧電基板1、側壁8およびダイアフラム4は貯液室を構成する。貯液室には液体が収納されている。圧電基板1の下端面にシリコン樹脂などで成る膜をコーティングすることも可能である。この際、その膜としては、音響インピーダンスが圧電基板1よりも小さく液体よりも大きい物質を用いることにより、圧電基板1の下端面に対し縦波が効率よく液中に照射されることとなる。振動伝搬体9の先端部は検査対象である部材に固定され、末端部はダイアフラム4に固着されている。振動伝搬体9は弾性体と、それをコーティングする膜から構成されており、膜としては、その弾性体よりも音響インピーダンスが高い材質のものが採用されている。振動伝搬体9として、このようなコーティング構造を採用することにより、部材からの振動音を外部に漏洩させることなく効率よくダイアフラム4に伝搬することができる。振動伝搬体の構造としては、枝分れ状の構造も可能であり、分岐した部分が、さらに少なくとも2つに分岐した構造も可能である。さらに、これらの形状および構造すべての組み合わせ構造も可能である。従って、同時に複数の部材に対して複数の末端部を固定させることが可能となるので、同時に複数の部材を検査対象とすることができる。また、遠隔操作も可能となる。図8の振動音検出センサにおいても、図1の振動音検出センサと同様にして、検査対象に発生する振動音を発振周波数(f0)の変動から検出することが可能となる。
【0053】
図9は、入力用および出力用すだれ状電極が円弧状すだれ状電極で成る場合の平面図である。圧電基板1に設けられた円弧状の入力用すだれ状電極10および出力用すだれ状電極11は、それぞれ15個の電極対、45度の開口角、75μmの電極指幅(w)、340μmの電極周期長(p)を有する。入力用すだれ状電極10と出力用すだれ状電極11の離間距離は、入力用すだれ状電極10および出力用すだれ状電極11それぞれの円弧の中心が一致する配置となるよう構成する。図1および図8において、入力用すだれ状電極2および出力用すだれ状電極3の代わりに、入力用すだれ状電極10および出力用すだれ状電極11を用いた場合、液中に照射された縦波は、フォーカスされてダイアフラム4で反射されることとなることから、高感度の振動音検出センサを提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
検査対象が自然界の外的要因を受けることにより発生する振動音や、人為的な要因を受けることにより発生する振動音や、検査対象としての生体や動植物などにおいて生理的に発生する振動音を検出することが可能であることから、害虫検出装置や非破壊検査装置などのセンサ部分への応用、地震予知装置などのセンサ部分への応用、樹木の健康診断装置などのセンサ部分への応用、聴診器など医療分野への応用など、幅広い分野への応用が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 圧電基板
2 入力用すだれ状電極
3 出力用すだれ状電極
4 ダイアフラム
5 増幅器
6 振動伝搬体
7 振動伝搬体
8 側壁
9 振動伝搬体
10 入力用すだれ状電極
11 出力用すだれ状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、入力用すだれ状電極と、出力用すだれ状電極と、ダイアフラムと、増幅器と、振動伝搬体から成り、前記振動伝搬体に接触される検査対象において発生する振動音を検出する振動音検出センサであって、
前記入力用すだれ状電極および前記出力用すだれ状電極は、前記圧電基板の一方の端面上に設けられ、
前記ダイアフラムは、前記圧電基板のもう一方の端面と対面する位置に、液体を介して設けられており、
前記増幅器は、前記入力用すだれ状電極および前記出力用すだれ状電極の間に接続され、
前記振動伝搬体は、先端部と末端部を有し、前記先端部が前記検査対象との接触部とされ前記末端部が前記ダイアフラムに固着されることにより、前記振動音を前記ダイアフラムに伝搬して前記ダイアフラムを振動させ、前記ダイアフラムと前記圧電基板との離間距離を変動させる機能を有し、
前記入力用すだれ状電極は、入力電気信号を印加されることにより、前記圧電基板に漏洩ラム波を励振し、前記漏洩ラム波を前記液体中に縦波として照射する機能を有し、
前記ダイアフラムは、前記縦波を反射する機能を有し、
前記出力用すだれ状電極は、反射された前記縦波を前記離間距離の変動に対応して変動する遅延電気信号として検出する機能を有し、
前記増幅器は、前記遅延電気信号を増幅して、その増幅信号の一部を前記入力用すだれ状電極に再び入力する機能を有することを特徴とする振動音検出センサ。
【請求項2】
前記圧電基板は、圧電セラミックで成り、その分極軸の方向は厚さ方向と平行であることを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項3】
前記圧電基板は、圧電性高分子フィルムで成ることを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項4】
前記ダイアフラムは、正方形平板状の形状を有し、前記末端部は前記ダイアフラムのほぼ中心に固着されていることを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項5】
前記ダイアフラムは、円板状の形状を有し、前記末端部は前記ダイアフラムのほぼ中心に固着されていることを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項6】
前記振動伝搬体は弾性体から成ることを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項7】
前記振動伝搬体は弾性体と、それをコーティングする膜から構成され、前記膜の音響インピーダンスは、前記弾性体の音響インピーダンスよりも高いことを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項8】
前記振動伝搬体の前記先端部が集音機能を有することを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。
【請求項9】
前記入力用すだれ状電極および前記出力用すだれ状電極が、それぞれ円弧状を成すことを特徴とする請求項1に記載の振動音検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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