説明

捕虫シート

【課題】有害な虫を捕殺する器具として捕虫シートがある。従来のものは虫が積極的にそこに行くのではなく、たまたま衝突した虫が捕まるものである。よって、積極的の虫を誘引しないため、どうしても捕虫効果が上がらず、捕虫シートに虫が一杯になる前に粘着性が落ちることになる。粘着性が落ちると使用できないため交換しなければならず、効率の悪いものになっていた。そこで、本発明では誘虫効果の大きい捕虫シートを提供する。
【解決手段】シートの少なくとも1部に印刷を施し、その上に粘着剤を塗布したものであって、該印刷面で300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に35%以上反射するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕虫シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
捕虫シートは、それ単独又は捕虫装置の一部として使用されている。これは、粘着剤が塗布されており、そこにとまった虫を捕殺するものである。このようなシートとしては、従来黄色や緑色の印刷が施されていた。これはこの種の色が虫に好まれると考えられているためである。
【0003】
実際に、ある種の虫は黄色や緑色を識別し、そこに誘引されることが知られている。しかし、実際には紫外線をよりよく識別し誘引されることも知られている。そのため、紫外線照射ランプで誘引するのである。
【0004】
そこで、発明者は従来の捕虫シートを調査した結果、紫外線ランプからの大半の紫外線を吸収してしまい、紫外線を反射するようなものは無かった。よって、紫外線を識別する虫にとっては、捕虫シートはほとんど真っ暗としか認識できないのである。可視光線の黄色や緑色を認識する虫では少しは見えるがわずかである。
【0005】
結局、虫が積極的にそこに行くのではなく、紫外線ランプに誘引されて来た虫がたまたま衝突し捕まるだけのものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これではどうしても捕虫効果が上がらず、捕虫シートに虫が一杯になる前に粘着性が落ちることになる。粘着性が落ちると使用できないため交換しなければならず、効率の悪いものになっていた。
【0007】
そこで、本発明では虫を積極的に誘引する、捕虫効果の大きい捕虫シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような状況に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明捕虫シートを完成したものであり、その特徴とするところは、シートの少なくとも1部に印刷を施し、その上に粘着剤を塗布したものであって、該印刷面で300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に35%以上反射する点にある。
【0009】
虫が認識できる電磁波の波長域の電磁波は、250〜600nmと言われている。この中で特に紫外線領域である、300〜400nm付近の電磁波に強く誘引されると考えられている。図1に昆虫の分光視感効率のグラフを示す。350〜380nmの紫外線が最もよく見えていることが分かる。
【0010】
そこで、本発明の捕虫シートもこの300〜400nmの電磁波を強く反射するものが好ましいということである。更に、それ以外の紫外線は強く反射する必要はない。かえって300nm以下の紫外線の反射は、粘着剤の硬化や分解が促進するという点からしても、少ない方がよいことが実験でわかった。例えば、300nm以下では反射率が30%以下、15%以下等である。
【0011】
更に、
300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に40%以上、
250〜300nmの波長域の電磁波を平均的に15%以上反射するものが好適である。この程度になると効果が大きくなる。
【0012】
更に、
300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に65%以上、
250〜300nmの波長域の電磁波を平均的に20%以上反射するものが更に好適である。
【0013】
また、
350〜400nmの波長域の電磁波を平均的に60%以上、
300〜350nmの波長域の電磁波を平均的に50%以上、
250〜300nmの波長域の電磁波を平均的に20%以上反射するものも好適である。
【0014】
以上の中でも、250〜300nmのものを20〜50%、300〜400nmのものを70%以上反射するものがさらに好適である。このようなものは、300〜400nmの紫外線に誘引される虫にとって、300〜400nmの紫外線がより明確に認識できるためである。
【0015】
また、300〜400nmの波長域の電磁波は、一般的に着色顔料には非常によく吸収される。よって、着色顔料を本発明シートの印刷に使用する場合にはどうしても該範囲の反射率が下がる。しかし、着色顔料を使用することによって、その色をよく認識する虫を誘引することができるという効果がある。
【0016】
例えば、肉眼で黄色や緑色の場合には、300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に35%以上反射するものが好適である。これらの色で、前記した65%以上の反射は実際的に難しいためである。
【0017】
本発明のような電磁波反射特性を持たせるためには、その印刷インクと粘着剤が問題となる。即ち、インクが所定の反射特性を示し、且つ粘着剤ができるだけそれらの電磁波を吸収しないようにするのである。
【0018】
本発明の印刷用インクとして使用できるものは、請求項1に記載した反射特性とほとんど同じか、それよりは少し反射率の大きい程度のものがよい。
【0019】
このようなインクは、同様又は類似の反射特性を有する顔料とビヒクルからなるインクである。顔料の例としては、硫酸バリウムや水酸化アルミニウム等がある。また種々の顔料の組み合わせでもよい。更に、このような特性を有すれば、白色だけでなく、着色されたものでもよい。要するに、ビヒクルと混合し、且つその上に粘着剤を塗布した後で、請求項1記載のような反射特性を持てばよい。
【0020】
一般的に黄色や緑色等の顔料は紫外線を吸収するため、それらを混合する場合には、その混合量は注意し、請求項1記載の反射率が確保できるようにしなければならない。
【0021】
本発明に使用するインクのビヒクルも自由であるが、紫外線の反射を効率よくするために、ビヒクルには紫外線吸収剤を混合しない方が望ましい。通常の樹脂には自身の分解や硬化を防止して寿命を長くするため紫外線吸収剤が含まれているが、これを特別に混合しないようにするのである。
また、ビヒクルとしては、フッ素樹脂系、ケイ素樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系のどれかが好ましい。フッ素樹脂系とケイ素樹脂系は、紫外線に強く(紫外線を透過する)、またアクリル樹脂系は安価で使いやすい。特に、アクリル樹脂系のもので紫外線吸収剤を入れないものは安価で好適である。
【0022】
本発明では印刷方法は自由であり、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン法等どのような方法でもよい。また、ディッピング(どぶ漬け)方式や噴霧、その他特殊な方法でもよい。更に、シートの片側にのみ印刷しても、両面印刷してもよい。
【0023】
本発明捕虫シートは、全面が上記した反射特性を有するものでなくともよい。即ち、部分的には上記の反射特性を有しない印刷(通常の印刷)を施してもよい。同じ色でも異なる色でもよい。
そのような印刷の方法は、通常の印刷のように1回で多色印刷(多色と言っても、色違いとは限らず人間の目には同じこともある)してもよいが、本発明の印刷を先に全面印刷し、その上に通常のインクで部分印刷してもよい。
【0024】
また、これとは逆に、通常のインク(黄色や黄緑等)で全面印刷した後に、本発明の印刷を部分印刷してもよい。
また、通常のインクに重ねて本発明の印刷をする場合には、本発明印刷のインク中の顔料の混合量を減らして印刷する方法もある。これは、本発明の印刷インクでもある程度電磁波を通過させ、下方で可視光の反射をさせるためである。
【0025】
この1枚のシートに色違い印刷する場合の模様としては、縞模様、水玉模様、同心円模様、虫や種々の形状の模様、花や果実等植物の模様、まったくのランダム形状等自由である。例としては、50×50cm程度のサイズのシートとして、1cm幅の縞模様で本発明インクと通常のインクとを交互に印刷する等である。
【0026】
更に、通常の顔料ではなく、蓄光顔料や蛍光顔料を含むインクを用いて印刷してもよい。これらは、光の照射がなくなった後でも一定時間は可視光線や紫外線を照射するので、紫外線ランプや蛍光灯等のない場所では非常に有効である。印刷の方法等は上記した黄色や黄緑等のインクと同様でよい。
【0027】
この印刷面の上方に粘着剤を塗布する。粘着剤としては、従来の捕虫シートと同様のものでよく、紫外線吸収剤を入れても入れなくてもよい。効率的に紫外線を透過するため、フッ素樹脂系、ケイ素樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系のどれかが好ましい。また、ポリブテン系のもの等であっても、紫外線吸収剤を入れないものは安価で好適である。
【0028】
ここで、シートとは紙、プラスチックフィルム、不織布等の薄い膜状のものである。シートの形状は通常の矩形でもよいが、幅の小さい長さのあるテープ状でもよい。
【0029】
この捕虫シートは、通常使用されている捕虫装置の内部に貼付する方法だけでなく、捕虫装置とはまったく別個に使用してもよい。テープ状にして生鮮食品の陳列棚の上方に吊る、虫が入っては困る入口の横に貼る等紫外線ランプ等と関係なく使用できる。太陽光や通常の蛍光灯にも紫外線が含まれているため、それらの電磁波を受けて紫外線を反射する。また通常の色も印刷されているとすれば、それもそれらの光で可視光線を反射する。
【発明の効果】
【0030】
本発明捕虫シートには次のような大きな利点がある。
(1) 本発明捕虫シートは、従来のものと異なり、紫外線を積極的に反射するため、虫が誘引され捕虫効果が大きい。
(2) 本発明インクと可視光線反射インクとが塗り分けられたシートでは、可視光線に誘引されるものにも効果があり捕虫効果がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下実施の形態に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
実施例1
ビヒクルとしてウレタン系樹脂22重量部、硫酸バリウムの粉体を22重量部、水酸化アルミニウムの粉体を22重量部、そして溶剤(アルコール系溶媒)を34重量部を混合しインクを作成した。
そして別個に通常の黄色のインクと黄緑のインクを準備した。
【0032】
このインクを用いて、紙1に図2のように印刷(ロールコーターで厚み25μm)を施した。幅が等間隔の縞模様である。実施例1のインク2は白であり、順次黄色3と黄緑4である。この表面に粘着剤(ポリブテン系のもので紫外線吸収剤なし)が通常の100μmの厚みで塗布されている。
これを地方のコンビニエンスストアの窓の横に貼り、コンビニエンスストアからの照明が当たるようにした。紫外線ランプを使用しなくても相当の虫が誘引され捕獲された。また、昼間もある程度の誘引効果はあった。勿論、これを捕虫装置に従来の捕虫シートの代わりに取り付ければ、より効果が大きい。
【0033】
図3は、図2の他の実施例であり、フレキソで厚みが20μmの印刷を施した。この例では、黄緑4と実施例1のインク2との2種類を用いた。この例は市松模様である。これも相当効果があった。粘着剤は図2と同様であった。
【0034】
次に電磁波の反射特性について説明する。
図4は、ABS樹脂製の薄いグレーの板に電磁波を照射し、各波長域の電磁波の反射率を測定したグラフである。この図で分かるように、300〜400nm程度の波長域の電磁波では、ほとんど反射がなく10〜20%程度である。
【0035】
図5は、図4で用いた板に酸化チタンを顔料とするインク(アクリル系ビヒクル10重量%、顔料50重量%、その他トルエン系有機溶剤)を、厚み20μmで塗布したものを同様に測定したものである。この例でも図4同様300〜400nmでは反射が少ないことがわかる。
【0036】
図6は、図5で用いたインクの顔料のみを硫酸バリウムに変えたもので、その混合量や塗布量は同じである。この図から、硫酸バリウムでは300〜400nm域で大きく反射していることがわかる。
【0037】
図7、図8は、図6と同様であるが、顔料が酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムにした例である。これらも大きく反射していることが分かる。
【0038】
図9は、ビヒクルとしてフッ素樹脂10重量%、水酸化アルミニウムの粉体を25重量%、炭酸カルシウムの粉体を25重量%、そして溶剤を40重量%混合したインクの例である。このインクを白色コート紙に薄く塗布(塗布厚み約20μm)したものを用いて、反射光の分光分析を行なった結果を示す。この図から明らかなように、300〜400nmが非常によく反射していることが分かる。
【0039】
図10は、図9の印刷面に透明粘着剤(アクリル系粘着剤で紫外線吸収剤なし)を厚み100μmで塗布したものの反射率の分光分析の結果を示す。このように粘着剤を塗布したものでも、十分紫外線を反射していることがわかる。
【0040】
図11は、図9の例と同じであるが、ビヒクルだけがアクリル系樹脂を用いたものである。この例でも、300〜400nmが非常によく反射していることが分かる。
【0041】
図12は、図11の印刷面に透明粘着剤(ポリブテン系粘着剤で紫外線吸収剤なし)を厚み100μmで塗布したものの反射率の分光分析の結果を示す。これも図10同様、十分紫外線を反射していることがわかる。
【0042】
図13は、ビヒクルとしてアクリル樹脂10重量%、水酸化アルミニウムの粉体を50重量%、黄色顔料2重量%、そして溶剤を38重量%混合したインクの例である。即ち、図11とビヒクルその他は同様であるが、白色顔料の炭酸カルシウムの変わりに、黄色の顔料を入れたものである。この例では黄色の顔料が邪魔をするため、印刷面の反射率はある程度低下するが、ほぼ40%以上は反射していることがわかる。これでも従来のほとんど反射しないものと比較すると大きな効果がある。
【0043】
図14は、図13のものに透明面着剤(ポリブテン系粘着剤で紫外線吸収剤なし)を厚み100μmで塗布したものである。少し低下しているがそれでもなお効果がある。
【0044】
図15は、通常の紫外線ランプの照射電磁波の分光分析のグラフである。この紫外線ランプでは、360nm、440nmにピークがあり、光量としては360〜380nmが多い。これを図1と比較すると、この360〜380nmでの反射率が大きければよいことが分かる。
【0045】
図16は、図15の紫外線ランプを図11の印刷面に照射したときの反射率の分光分析結果である。図15からあまり低下していないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】昆虫の分光視感効率のグラフである。
【図2】本発明の捕虫シートの1例を示す平面図である。
【図3】本発明の捕虫シートの他の例を示す平面図である。
【図4】プラスチック板の反射率を測定したグラフである。
【図5】酸化チタンの反射率を測定したグラフである。
【図6】硫酸バリウム反射率を測定したグラフである。
【図7】酸化アルミニウムの反射率を測定したグラフである。
【図8】水酸化アルミニウムの反射率を測定したグラフである。
【図9】本発明に用いる印刷面の反射率を測定したグラフである。
【図10】図9の印刷面に透明粘着剤を塗布したものの反射率を測定したグラフである。
【図11】本発明に用いる他の印刷面の反射率を測定したグラフである。
【図12】図11の印刷面に透明粘着剤を塗布したものの反射率を測定したグラフである。
【図13】本発明の他の印刷面の反射率を測定したグラフである。
【図14】図13の印刷面に透明粘着剤を塗布したものの反射率を測定したグラフである。
【図15】通常の紫外線ランプの照射電磁波の分光分析のグラフである。
【図16】図15の紫外線ランプを図11の印刷面に照射したときの反射率の分光分析結果である。
【符号の説明】
【0047】
1 捕虫シート
2 本発明インク
3 黄色のインク
4 黄緑のインク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの少なくとも1部に印刷を施し、その上に粘着剤を塗布したものであって、該印刷面で300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に35%以上反射することを特徴とする捕虫シート。
【請求項2】
該印刷面で、
300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に40%以上、
250〜300nmの波長域の電磁波を平均的に15%以上反射するものである請求項1記載の捕虫シート。
【請求項3】
該印刷面で、
350〜400nmの波長域の電磁波を平均的に60%以上、
300〜350nmの波長域の電磁波を平均的に50%以上、
250〜300nmの波長域の電磁波を平均的に20%以上反射するものである請求項2記載の捕虫シート。
【請求項4】
該印刷面が肉眼で白色であり、且つ300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に65%以上反射するものである請求項1〜3記載の捕虫シート。
【請求項5】
該印刷面が肉眼で黄色であり、且つ300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に35%以上反射するものである請求項1〜3記載の捕虫シート。
【請求項6】
該印刷面が肉眼で緑色であり、且つ300〜400nmの波長域の電磁波を平均的に35%以上反射するものである請求項1〜3記載の捕虫シート。
【請求項7】
該印刷に用いるインクのビヒクルには紫外線吸収剤を混合しないものである請求項1〜6記載の捕虫シート。
【請求項8】
シートの一部は、通常のインクで印刷したものである請求項1〜7記載の捕虫シート。
【請求項9】
粘着剤には紫外線吸収剤を混合しないものである請求項1〜8記載の捕虫シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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