説明

捕虫器

【課題】有害な化学物質や殺虫剤を用いずとも、手軽にかつ確実に、また設置場所なども選ばす、アリなどの害虫を捕獲できる捕虫器を提供することを目的とする。
【解決手段】捕虫器は害虫を捕獲する容器と、害虫が前記容器内に進入するための孔部と、前記孔部をふさぐ複数の線状部材を備えるブラシ部であって、前記線状部材が該線状部材の開放端側ほど前記容器の内部側に位置するように傾斜して配置されるブラシ部と、を備えることを特徴とする。また、捕虫器は、害虫が内部に進入するための孔部を備える容器と、一端が固定され他端が自由端である複数の線状部材を備えるブラシ部であって、前記線状部材が、前記容器内への進入方向側には害虫の進入を許容するように弾性変形するが、前記容器内から外部側へは進行できないように変形が規制されて前記孔部に配置されるブラシ部と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリなどの害虫をとらえる、簡便で安全性の高い捕虫器に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、家屋害虫と呼ばれるものには、ハエや蚊、ゴキブリ、アリ、シロアリのようなものがいる。中でも近年、問題となっているのは、国際自然保護連合の種の保全委員会が定めた世界の侵略的外来種ワースト100にも指定されているアルゼンチンアリで、日本では広島県廿日市市を中心に、周辺の山口県岩国市、兵庫県神戸市だけでなく、神奈川県横浜市、東京都内などでも生息が確認されている。このアリは、手の入った場所を営巣場所として好む事に加え、他のアリが通ることのできないほどの狭い隙間でも巧みに通り抜ける習性があるため、しばしば屋内に侵入し、家の中の食料を食い荒らしたり、寝ている人に噛みつくなどの被害が発生している。さらに多女王性であるため繁殖力も旺盛で、攻撃力も強いため、アルゼンチンアリが発生した地区では在来種のアリが根絶するなど、生態系にも影響を及ぼす。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、液体系殺虫剤、スプレー型殺虫剤、粉末型殺虫剤、えさ型殺虫剤などが推奨されているが、これらの薬剤中の殺虫成分の中には、土壌汚染となるホウ酸や、ヒドラメチルノン、フィプロニルなどの物質が混入しているため、長期間の使用には適さない。
【0004】
また、上記のような殺虫剤を用いない安全な方法として、昔からトラップによる捕獲が行われている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭49−146175号公報
【特許文献2】特開平6−141748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の場合、格子部分にかなり太い樹脂棒を用いており、樹脂棒の間隔が大きいため、ゴキブリのような大型昆虫に対しての捕獲能力はあるが、アリなどの小型昆虫では捕獲できない。さらに特許文献2の場合、トラップ装置自体が大型であるため、設置場所が限られてしまう。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、装置が簡便で設置場所も選ばず、殺虫剤による土壌汚染の心配がなく、アリやゴキブリなどの害虫を捕獲・駆除できる捕虫器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち第1の発明は、害虫が内部に進入するための孔部を備える容器と、一端が固定され他端が自由端である、前記孔部をふさぐ複数の線状部材を備えるブラシ部であって、前記線状部材は、前記一端よりも前記他端が前記害虫の前記容器内への進入方向の下流側に位置するように傾斜して配置されるブラシ部と、を備えることを特徴とする捕虫器である。
【0009】
また第2の発明は、害虫が内部に進入するための孔部を備える容器と、一端が固定され他端が自由端である複数の線状部材を備えるブラシ部であって、前記線状部材が、前記容器内への進入方向側には害虫の進入を許容するように弾性変形するが、前記容器内から容器外への方向へは進行できないように変形が規制されて前記孔部に配置されるブラシ部と、を備えることを特徴とする捕虫器である。
【0010】
また第3の発明は、上記第1または第2の発明において、前記線状部材は、前記害虫の前記容器内への進入方向となす角度が10度以上50度未満で傾斜して配置されることを特徴とする捕虫器である。
【0011】
また第4の発明は、上記第1から第3の発明のうちいずれか1つにおいて、害虫を誘引する誘引物質を前記ブラシ部に誘導する誘引物質誘導部をさらに備えることを特徴とする捕虫器である。
【0012】
また第5の発明は、上記第4の発明において、前記ブラシ部は、前記線状部材の前記一端側の少なくとも一部がメッシュ状であるメッシュ部を備え、前記誘引物質誘導部は、前記メッシュ部に前記誘引物質を誘導することを特徴とする捕虫器である。
【0013】
また第6の発明は、上記第1から第5の発明のうちいずれか1つにおいて、前記線状部材は、合成樹脂を含むことを特徴とする捕虫器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有害な化学物質や殺虫剤を用いずとも、手軽にかつ確実に、また設置場所なども選ばす、アリなどの害虫を捕獲できる捕虫器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態にかかるトラップ部分の模式図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるトラップ部分の模式図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる捕虫器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態にかかる捕虫器に用いられるトラップ10について図1および図2を用いて詳述する。このトラップ10は、害虫を捕獲する捕虫器の容器内に害虫を誘導するとともに、いったん容器内に進入した害虫を外に出さないためのブラシ部を備える部材である。このトラップ10を、開口部を設けた容器内に、その開口部に対して配置することで、捕虫器を構成することができる。したがって、トラップ10を配置可能な開口部を有する容器であれば、どのようなものでもトラップ10を配置して捕虫器を構成することができる。
【0017】
図1は、本発明の実施形態にかかる捕虫器に使われるトラップ10の模式図である。本実施形態のトラップ10は、入口21から進入した捕虫対象となる害虫が通り抜けるためのトンネル状の通路22を備えた本体部分2と、通路22の入口21とは反対側の出口23に角度θにて配置されるブラシ部としての捕虫ブラシ1とで構成されている。このトラップ10を用いて捕虫器を構成する場合は、入口21と通路22と出口23と、入口21との間に隙間が生じないようにトラップ10が配置される捕虫器側の開口部とにより、害虫を捕虫器内に導く孔部が形成される。なお入口21と通路22と出口23の形状や大きさについては捕獲対象の害虫の大きさや形などに応じて適宜決めることができる。
【0018】
捕虫ブラシ1は、上述のように、A方向からトラップ10の通路22を通って捕虫器内に進入した害虫が、捕虫器内から再び通路22を通って捕虫器外に出て行くのを防止するための部材であり、前記通路22の出口23付近に配置される。捕虫ブラシ1は、一端が出口23の上方において本体部分2に固定され、他端が自由端であってA方向の力を加えることで出口23の下端部分との間に隙間ができるように弾性変形する、複数の線状部材1aで構成されている。捕虫ブラシ1は、複数の線状部材1aが櫛歯状に一列に配置されたものか、一列に並んだ複数の線状部材1aが複数列配列したブラシ状のものを用いることができる。
【0019】
複数の線状部材1aは、上述のように、害虫が進入する方向であるA方向の力によって、A方向に変形が可能であるが、出口23側から入口21側(A方向とは逆方向)には変形が規制される。具体的には、線状部材1aは、線状部材1aの自由端が固定端よりも害虫の進入方向(A方向)における下流側に位置するように傾斜して配置されることで、A方向には自由に弾性変形するが、A方向とは逆の方向への線状部材1aの変形は規制することができる。
【0020】
線状部材1aの傾斜角は、害虫が入口21から出口23側に進入する際の進入方向Aとのなす角度θが10度以上、50度未満であることが好ましく、より好ましくは15度以上45度未満、さらに好ましくは30度以上40度未満の角度θで傾斜して設置される。なお、図1(及び図2)では、害虫が進入する際に通路22の底面を進行するとして、線状部材1aの傾斜角θを、線状部材1aと通路22の底面とのなす角度として示している。線状部材1aが上述のような角度で傾斜していることにより、捕らえた害虫が外に出ようとしても、虫の習性上、線状部材1aの自由端側を持ち上げたり押しのけたりすることはなく、線状部材1aの上を傾斜に沿って登ってしまい、逃げられなくなる。また、上記のような傾斜角度とすることで、害虫が通路22を通って捕虫器内に入る際も、捕虫ブラシ1の下をくぐりやすく、進入を妨げない。さらに、害虫が捕虫ブラシ1の下をくぐって通過する際、通過する虫により捕虫ブラシ1の下端側が持ち上げられるが、上記のような傾斜角度であれば持ち上げられた捕虫ブラシ1の下端側はすぐに元に戻り、出口5が捕虫ブラシ1によってふさがれるため、虫が外に出ることを確実に防ぐことができる。
【0021】
なお、線状部材1aを傾斜させて配置した場合に、害虫の進入方向とは逆の方向に線状部材1aの変形を規制するために、線状部材1aの一端から自由端である他端までの長さが、通路22の高さ(内寸)よりも大きいことが好ましい。このような長さとすることで、線状部材1aに対してA方向とは逆の方向に力を加えても、多少の弾性変形は起こるが、通路22の底面や出口23の下端に線状部材1aの自由端が当たり、それ以上の変形は規制される。
【0022】
このような捕虫ブラシ1により、A方向に侵入する害虫は、線状部材1aの自由端側を押し上げたり押しのけたりして捕虫器内に通り抜けることが可能である。一方で、捕虫器内から入口21側には線状部材1aの変形が規制されるため、捕獲された害虫が線状部材1aを押しのけて捕虫器外に出ることは不可能となり、いったん捕獲した虫を捕虫器内に確実にとどめておくことができる。
【0023】
なお、線状部材1aに加わる力は、捕獲対象とする害虫によって加えられる力である。したがって、捕獲対象の害虫が加えることができる最大限の力が加わっても、A方向の逆方向には変形が規制されて通過できないように、線状部材1aを配置すればよい。たとえば、捕獲対象の害虫がアリであれば、アリが線状部材1aを出口23側から入口21側に押した場合に、アリの力では入口21側に通り抜けることができない程度に線状部材1aの変形が規制されていればよい。
【0024】
捕虫ブラシ1の線状部材1aは合成樹脂でできているのが好ましい。これは、捕虫害虫が簡単に捕虫ブラシ1を押し上げてくぐり抜けられるほどの柔軟性と、くぐり抜けた後に元の形状に戻るだけの復元性を備えているからである。具体的には、本体部分2で挙げた一般的な合成樹脂に加え、夏期などに外に置いておくと捕虫器内部が高温になり、変形などの恐れがあることから、耐熱性、耐候性などのある、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネートポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子ポリエチレンなどのエンジニアプラスチックや、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ETFE(ethylene tetra fluoroethylene)やPTFE(polytetrafluoroethylene)などのフッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックや、ポリフェノール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂なども好適に用いられる。特に、捕虫害虫がくぐり抜けた後の復元性を考慮すると、用いる材料は、曲げ応力が40MPa以上150MPa未満のものがより好ましい。曲げ応力が40MPa以下だと復元性に劣るため、中に入った捕虫害虫が外に逃げてしまい、曲げ応力が150MPa以上だと硬すぎて、捕虫害虫が下をくぐることができないためである。
【0025】
捕虫ブラシ1は、上述のように捕虫害虫がくぐり抜け易いように、ブラシのような形状になっているが、この捕虫ブラシ1の例としては、材料となる合成樹脂フィルムにスリットを入れた櫛状のものでもいいし、この櫛状のフィルムを重ねてブラシ状としたものを用いてもよい。また、捕虫ブラシ1は、金型などの樹脂成形により線状部材1aが櫛歯状あるいは櫛歯が複数列配列されたブラシ状のものとして製造してもよい。
【0026】
一例として、アリ等の小型昆虫を捕虫する場合には、合成樹脂フィルムを切って加工し50μm以上、250μm未満程度の幅の複数の櫛歯状の線状部材1aを形成した捕虫ブラシ1を用いることができる。これは50μm未満だと捕虫ブラシ1の柔軟性が増すため、捕虫したアリが捕虫ブラシ1の上を登れず、外に出てしまう恐れがあるためで、250μm以上であると、捕虫ブラシ1が硬くなり、捕虫ブラシ1の下を捕虫害虫がくぐり抜けられないからである。さらにフィルムの厚みを50μm以上、500μm以下とすることが、アリを捕獲するための適度な柔軟性を確保できるという意味で好ましい。厚みが50μm未満のフィルムであると、線状部材1aの幅を広くしても、過度に柔軟性が出てしまうため、捕獲したアリが捕虫ブラシ1を押し広げて外に逃げてしまう恐れがあり、500μmより厚いと、線状部材1aの幅を50μmにしても剛性が出てしまうため、アリが捕虫ブラシ1の下をくぐれなくなってしまう。また今回はアリを例として数値を挙げたが、櫛歯状の線状部材1aの幅およびゲート部(捕虫ブラシ1の害虫が通過可能な範囲)の高さは捕虫害虫の大きさにより適宜、変更できる。また、線状部材1a間の隙間の幅は、捕虫対象の虫の幅よりも狭ければよく捕虫対象の虫に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
なお、図1では出口23部分に捕虫ブラシ1を配置しているが、外部とつながる開口部をふさぐように傾斜したブラシを設けることができれば、入口21部分に設置してもよいし、両方に設置してもよいし、通路22の途中に配置してもよい。
【0028】
また、本実施形態のトラップ10の本体部分2は、どのような材料で構成してもよいが、たとえば、線状部材1aと同様に合成樹脂で形成することができる。合成樹脂は自由な形状での設計ができるので、設置場所や対象害虫の大きさなどに合わせて容易に形状を変更でき、軽量化を図ることもできる。具体的な材料としては、たとえば、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルフェニルエーテルサルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、PVF(poly vinyl fluoride)、FEP(fluorinated ethylene propylene copolymer)、ETFE、PTFE、PVDF(poly vinylidene difluoride)、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、PPTA(Poly(p-phenylene terephthalamide))などの溶融液晶ポリマーが挙げられるが、加工性や透明性の点からポリメタクリル酸メチル樹脂が好適に用いられる。また捕虫対象害虫がアルゼンチンアリのような外来指定生物である場合は、捕虫器を廃棄処理・移動する前に熱風で簡単に死滅処理することができるように耐熱性樹脂であることがさらに好ましい。
【0029】
(捕虫ブラシ1の変形例)
捕虫ブラシ1の実施形態の変形例として、図2のように、一部が多孔状になった多孔部1pを備えた捕虫ブラシ1’を用いてもよい。これは上部を多孔状にすることで、捕虫ブラシ1’に強度を持たせ、変形しにくくするという目的の他に、後述する誘引剤(ショ糖水をしみこませた濾紙など)を多孔部1pに接触させることで、誘引剤が広がりやすくなり、結果、誘因効果が増強されるためである。多孔部1pのオープニングエリア(開口部)については特に限定するものではないが、誘引剤が広がりやすくするためには20%以上、60%未満であることが望ましい。なおここでいうオープニングエリアとは、多孔面に垂直に平行光線を投射したときの投影面において、投射された多孔面の面積に対する平行光線の透過面積の割合を示す。この多孔部1pは、たとえば、網目を有するメッシュ部材により形成することができる。また、線状部材1aに直行するように、線状部材を設置して、メッシュ状として多孔部1pを形成してもよい。さらに、メッシュの端から経糸と緯糸のどちらか一方を抜き取って、残った緯糸または経糸によって自由端を有する線状部材1aを形成してもよい。この場合は、経糸または緯糸の一方が抜き取られなかった範囲がメッシュとして残り多孔部1pを構成する。多孔部1pは、線状部材1aの材料として例示した材料により形成することができる。また、上述したフィルムで捕虫ブラシ1を形成する場合には、フィルムの上部(固定端側)にパンチング加工を行って、多孔部1pを形成してもよい。
【0030】
(捕虫器について)
次に図3を用いて、本発明の捕虫器の実施形態ならびに捕虫方法について詳述する。
【0031】
図3は、一例として、アリを捕獲対象の害虫として形成したトラップ10を用いた捕虫器100の模式図である。捕虫器100は、捕獲したアリを閉じ込めるための容器50と、多孔部1pを備える捕虫ブラシ1’を備える、前述した複数個のトラップ10と、トラップ10の多孔部1p(メッシュ部分)に接するようにショ糖水などの誘引剤を染みこませた濾紙などからなる誘引物質誘導部4と、誘引物質誘導部4に誘引剤を供給するための供給孔5から構成されている。トラップ10は、容器50に形成された開口部とトラップ10の入口21との間に隙間できないように、容器の開口部に対して入口21を接続して容器50内に配置する。なお、図3には複数個のトラップ10を設置した捕虫器100を示しているが、トラップ10の数は適宜変更できる。また、トラップ10は多孔部1pを備える捕虫ブラシ1’を備えるものを示したが、多孔部1pがない捕虫ブラシ1を備えるトラップでもよい。
【0032】
捕虫の流れは次のとおりである。まず、誘引物質誘導部4から捕虫ブラシ1に供給される誘引剤に引き寄せられたアリが、トラップ10の入口21から入り、トラップ10の出口23に設置してある捕虫ブラシ1にたどり着く。捕虫ブラシ1には、誘引物質誘導部4が接しているため、アリはこの誘引物質誘導部4から供給されるショ糖水をさらに飲もうとして奥に進み、自然に捕虫ブラシ1をくぐり、捕虫器100中に入ってしまう。中に入ったアリは外に出ようとしても、自身の性質上、捕虫器100の底面に対して上述した角度で傾斜して設置された捕虫ブラシ1をかき分けてくぐることはできず、捕虫ブラシ1の上を登ってしまうため、外には逃げられない。
【0033】
誘引物質誘導部4により供給する誘導剤は、ショ糖水だけでなく、砂糖などの食べ物の他、タンパク質、炭水化物、脂質などの食餌成分、天然物由来および調合された芳香成分、フェロモンなどが挙げられ、これらは単独又は2種以上組合せて使用することができ、誘引のための有効量、たとえば液剤全量に対して0.1〜50重量%となるように配合すればよい。なお、誘導剤が固形である場合には、誘引物質誘導部4自体を固形の誘導剤により形成してもよい。この場合は、捕虫ブラシ1に誘導剤が浸透するわけではないが、同様に誘導剤によって捕虫ブラシ1を通って容器内に害虫を誘い込むことができる。
【0034】
また誘引物質誘導部4から供給する誘導剤には、殺虫成分を配合してもよい。具体的には、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、トランスフルトリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、d,d−T99−シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルスリン、デルタメスリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパスリン、シラフルオフェン、メトフルトリン、プロフルトリン、S−1864(住友化学工業社製)などのピレスロイド系化合物、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、アミドフルメット等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン等のニコチノイド系化合物、メトプレン、ハイドロプレン、ピリプロキシフェン等の昆虫成長制御化合物、ホウ酸、クロルフェナピル、フィプロニル、S−1991(住友化学工業社製)、ベンジルアルコール、ハッカ油等の殺虫性精油類、これらの異性体、誘導体等の1種又は2種以上が挙げられる。本発明の捕虫器100では、容器50の中に誘引部材4を設置し、その上、中に入ったアリは外に出られないため、このような殺虫成分を用いても、土壌汚染の心配や、人体への影響も大きく軽減できる。
【0035】
以上、本実施形態について図を用いて説明をしたが、さらに簡略化したものとして、捕虫ブラシ1を取り付けたトラップにかえて、容器の開口部に直接捕虫ブラシ1を配置した捕虫器でもよい。具体的には、容器の壁面に害虫の侵入孔を設け、この孔部に直接、線状部材1aが傾斜するように捕虫ブラシ1を配置してもよい。このような構成にすることで、捕虫器100が安価に製造できる。
【0036】
また、捕虫器は、直方体などの箱状の容器の側面に捕虫器内への入り口となる開口部を設け、容器内の途中に捕虫ブラシを傾斜させて配置したものでもよい。この捕虫器の場合は、箱状の容器内に進入した害虫が、捕虫ブラシを通り抜けると、入口側に戻ることができないため、捕虫ブラシより奥の空間にとどめておくことができる。このような構造の捕虫器であれば、構造が単純で安価に製造できる。
【0037】
また、容器を紙などの廃棄できる材料で作成すれば、捕虫器100と害虫をまとめて破棄することもできる。
【0038】
また、本実施形態においては、捕虫ブラシ1は線状部材1aの自由端を下方にむけて配置したが、これに限られない。アリなどの虫は侵入する際に孔の下方だけでなく、側面を進行したり逆さになって上面を進行することもできる。従って、線状部材1aの向きは、自由端が下方に向く場合に限られず、どのような方向に向けて配置してもよい。その場合も、線状部材1aの自由端が固定端側よりも害虫の進入方向下流側に位置するように配置されていればよい。
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、以下の実施例は、アリを捕虫対象としているが、本発明の捕虫器の捕虫対象はアリに限られず、ゴキブリなどのそのほかの害虫やコバエなどの飛行性害虫なども含むことは言うまでもない。
【実施例】
【0040】
(実施例1〜9の作成)
実施例1〜9として捕虫ブラシの傾斜角がそれぞれ異なる9つの捕虫器を作成した。捕虫器は捕虫ブラシを配置したトラップと容器とから構成される形式のものを用いた。容器は、10×15×10cmの中空のアクリルケースを用いた。トラップは、2.5×2.5×1.5cmの(中実の)アクリル製樹脂の中心に、幅1.4cm、高さ0.5cmの楕円形状の通路孔をあけ、さらに出口側の面を切削して傾斜面を形成した。実施例ごとに傾斜面と害虫の進入方向となす角度を変えるために、傾斜角度を10度から50度まで5度おきに変えて傾斜面を形成した。そして、トラップの傾斜面に、トラップの出口をふさぐように捕虫ブラシを配置することで、捕虫ブラシの害虫の進入方向となす角度がそれぞれ異なるトラップを作成した。出口部分に配置する捕虫ブラシは、60メッシュ/inchのPPS製織物(線径150μm)のヨコ糸を、固定端とする部分を残して引き抜いたものを用いた。そして、容器にトラップを差し込んで配置するための孔をあけ、その孔にトラップの入口が容器の外側に向くようにトラップを差し込み、トラップと容器とをエポキシ系接着剤によって隙間なく接着して固定したものを、各実施例の捕虫器とした。誘引物質としては10%ショ糖水を濾紙(1cm×5cm)にしみこませたものを用い、捕虫ブラシと濾紙を5mmほど重ねて設置した。
【0041】
(実施例10の作成)
10%ショ糖水をしみこませた濾紙を捕虫ブラシから1cm離して(濾紙と捕虫ブラシを直接接触させないで)設置した以外は実施例6と同様の方法にて作成した。
【0042】
(実施例11〜19の作成)
捕虫ブラシとして、100メッシュ/inchのPPS製織物(糸径115μm)のヨコ糸を引き抜いたものを用いた以外は実施例1〜9と同じ方法で作成した。
【0043】
(実施例20の作成)
10%ショ糖水をしみこませた濾紙を捕虫ブラシから1cm離して設置した以外は実施例16と同様の方法にて作成した。
【0044】
(比較例1、2の作成)
トラップの出口角度を5度、60度にして、捕虫ブラシの害虫の進入方向となす角度を5度と60度にした以外は実施例1〜9と同じ方法で作成した捕虫器をそれぞれ比較例1、2とした。
【0045】
(比較例3、4の作成)
捕虫ブラシを100メッシュ/inchのPPS製織物(糸径115μm)のヨコ糸を引き抜いたものを用いた以外は、比較例1、2と同じ方法で作成した。
【0046】
(捕虫器によるアリの捕虫試験)
以上のようにして作成した実施例および比較例の捕虫器を用いて実際にアリを捕獲する実験を行った。実験は、晴れた日の10時〜11時の1時間、実施例1〜10、および比較例1、2を、クロアリ(体長4〜5mm)が列をなして歩いている付近に置いてアリの捕獲数を調べた。また実施例11〜20、および比較例3、4は、実施例1〜10、比較例1,2より糸径が細く糸の間隔が狭いため、クロアリよりも体長の小さい虫に適している。そのため、実施例11〜20と比較例3,4は、同じ日の同じ時間にクロアリより体長の小さいアメイロアリ(体長2mm)が列をなして歩いている付近に、10cm間隔で置いてアリの捕獲数を調べた。その後さらに、各実施例と比較例について、別の晴れた日に同じ試験を行い、計3回試験を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
以上の結果より、すべての実施例においてアリが捕虫できたことが確認できた。ただし誘引物質である濾紙を捕虫ブラシに接触させないものでは捕虫効率が悪かった。また捕虫試験後の捕虫器を密閉したビニル袋に入れて24時間放置して、捕虫器の外の出たアリがいるかを確認したところ、捕虫器の中に入ったアリが外に出たものはいなかった。以上のことから、本発明の捕虫器は、有害な物質による土壌汚染などの問題もなく、効率よくアリが捕獲できることが確認できた。
【符号の説明】
【0049】
100 捕虫器
10 トラップ
1 捕虫ブラシ
2 本体部分
21 入口
22 通路
23 出口
50 容器
4 誘引物質誘導部
5 誘引物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫が内部に進入するための孔部を備える容器と、
一端が固定され他端が自由端である、前記孔部をふさぐ複数の線状部材を備えるブラシ部であって、前記線状部材は、前記一端よりも前記他端が前記害虫の前記容器内への進入方向の下流側に位置するように傾斜して配置されるブラシ部と、
を備えることを特徴とする捕虫器。
【請求項2】
害虫が内部に進入するための孔部を備える容器と、
一端が固定され他端が自由端である複数の線状部材を備えるブラシ部であって、前記線状部材が、前記容器内への進入方向側には害虫の進入を許容するように弾性変形するが、前記容器内から容器外への方向へは進行できないように変形が規制されて前記孔部に配置されるブラシ部と、
を備えることを特徴とする捕虫器。
【請求項3】
前記線状部材は、前記害虫の前記容器内への進入方向となす角度が10度以上50度未満となるように傾斜して配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の捕虫器。
【請求項4】
害虫を誘引する誘引物質を前記ブラシ部に誘導する誘引物質誘導部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の捕虫器。
【請求項5】
前記ブラシ部は、前記複数の線状部材の前記一端側がメッシュ状であるメッシュ部を備え、
前記誘引物質誘導部は、前記メッシュ部に前記誘引物質を誘導することを特徴とする請求項4に記載の捕虫器。
【請求項6】
前記線状部材は、合成樹脂を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の捕虫器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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