説明

捩り振動低減装置

【課題】簡易な構成でトーショナルダンパに適正なヒステリシストルクを与えることができ、かつ、振動減衰能に優れた振動減衰装置を提供する。
【解決手段】駆動側部材8と従動側部材9とが相対回転可能に連結され、従動側部材9が流体継手2のフロントカバー6に連結され、従動側部材9の内周側に慣性質量体18の往復運動によってトルク変動を減衰する振子式ダンパ15が設けられている捩り振動低減装置において、駆動側部材8とフロントカバー6との間に、駆動側部材8とフロントカバー6とを相対回転可能に摩擦接触させて駆動側部材8と従動側部材9との相対回転を規制するヒステリシストルクを生じさせかつ流体継手2の膨張に伴うフロントカバー6の変形により駆動側部材8とフロントカバー6の接触圧力が変化してヒステリシストルクが変化する摩擦接触部20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動側の部材と従動側の部材とを相対回転可能に連結するとともに、これらの部材が相互に相対回転した場合すなわち捩りが生じた場合に弾性変形する弾性体をそれらの部材の間に配置した捩り振動低減装置に関し、特に動力を入力する駆動軸と流体継手との間に配置される捩り振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなどの回転体に取り付けられ、それらの回転体に生じる捩り振動を減衰させるトーショナルダンパが知られている。また、慣性質量体の往復運動により捩り振動を減衰させるように構成された振子式と称されるダンパ(以下、振子式ダンパと記す。)などが知られている。さらに、これらと同様の機能を奏する装置としてトルクコンバータなどの流体継手が知られている。上記のトーショナルダンパは、相対回転可能に連結される入力側の回転体および出力側の回転体と、これらの回転体に挟まれたダンパスプリングとを備えている。そして、入力側の回転体と出力側の回転体とが相対回転した場合に、すなわち捩りが生じた場合に、ダンパスプリングが圧縮されて捩り振動を減衰するように構成されている。これに加えて、トーショナルダンパは、ダンパスプリングの振動を減衰させる減衰機構を備えることもある。その減衰装置は、例えば入力側の回転体の内周側の部分を変速機のインプットシャフトに設けた摩擦材に摩擦接触させて構成される。そのため、入力側の回転体の内周側の部分と摩擦材とが相対回転する場合に、これらの間に生じる摩擦力によってダンパスプリングの振動を減衰するように構成されている。すなわち、上記の摩擦力がヒステリシストルクとなっている。
【0003】
特許文献1には、回転体の回転中心軸線から離れた箇所に、回転体の回転中心軸線と平行な軸線を中心として往復運動を行う慣性質量体を設けた振子式ダンパが記載されている。この振子式ダンパの慣性質量体は、回転体に伝達される捩り振動に応じて往復運動し、その往復運動次数に等しい次数の捩り振動を減衰するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−340097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したトーショナルダンパと振子式ダンパとトルクコンバータとを併用すれば、捩り振動を更に効果的に減衰できる可能性がある。その配列としては、トーショナルダンパの入力側の回転体にエンジンのクランクシャフトを連結し、トーショナルダンパの出力側の回転体に振子式ダンパを介してトルクコンバータのフロントカバーを連結することが考えられる。しかしながら、トーショナルダンパと振子式ダンパとトルクコンバータとをクランクシャフトの回転軸線方向で互いに重なり合うように連結した場合には、各部材が軸線方向に配列されるため、捩り振動低減装置の全長が長くなる可能性がある。
【0006】
そこで、トーショナルダンパの内周側に振子式ダンパを配置すれば、捩り振動低減装置の全長を短縮することができる。しかしながら、このような構成では、振子式ダンパの内周側で振子式ダンパとトルクコンバータのフロントカバーとを連結することになる。これに加えて、フロントカバーは、詳細は図示しないが、従来一般的に変速機のインプットシャフトに相対回転可能に支持される。そのため、振子式ダンパの内周側のスペースが限られてしまい、振子式ダンパの内周側に上述した減衰機構を設けることが困難になる可能性がある。これに加えて、振子式ダンパの内周側に減衰機構を設けるためのスペースを確保した場合には、捩り振動低減装置の外径が大きくなってしまう可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、簡易な構成でトーショナルダンパに適正なヒステリシストルクを与えることができ、かつ、振動減衰能に優れた振動減衰装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、駆動側部材と従動側部材とが相対回転可能に弾性体を介して連結され、前記従動側部材が流体継手におけるフロントカバーに連結され、かつ、前記従動側部材と前記フロントカバーとの間であって前記従動側部材の内周側に慣性質量体の往復運動によってトルクの変動を減衰する振子式ダンパが設けられている捩り振動低減装置において、前記駆動側部材と前記フロントカバーとの間に、前記駆動側部材と前記フロントカバーとの回転軸線方向で前記駆動側部材と前記フロントカバーとを相対回転可能に摩擦接触させて前記駆動側部材と従動側部材との相対回転を規制するヒステリシストルクを生じさせかつ前記流体継手の膨張に伴う前記フロントカバーの変形により前記駆動側部材とフロントカバーとの接触圧力が変化して前記ヒステリシストルクが変化するように構成された摩擦接触部が設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記流体継手は、前記フロントカバーの内面に摩擦接触させられる直結クラッチを備え、前記摩擦接触部は、前記直結クラッチが摩擦接触する前記フロントカバーの内面とは反対側の前記フロントカバーの面の一部と、前記フロントカバーの面の一部に対向する前記駆動側部材の面とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されていることを特徴とする捩り振動低減装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記駆動側部材の外周側であって前記駆動側部材の前記フロントカバー側を向いた面の一部に、前記フロントカバー側に凸となった凸部が形成され、前記摩擦接触部は、前記凸部の内周面と、前記フロントカバーの外周面の一部とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されていることを特徴とする捩り振動低減装置である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記フロントカバーの内周側の一部に前記駆動側部材に向けて凸となったボス部が形成され、前記摩擦接触部は、前記ボス部の外周面と、前記駆動側部材の内周側の一部とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されていることを特徴とする捩り振動低減装置である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記駆動側部材は、駆動力源の出力軸に連結され、前記摩擦接触部は、前記出力軸の一部と、前記従動側部材の一部とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されていることを特徴とする捩り振動低減装置である。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記駆動側部材と従動側部材とが、前記駆動側部材と従動側部材との回転中心軸線を一致させた状態で前記駆動側部材と従動側部材とを相対回転させる軸受を介して連結されていることを特徴とする捩り振動低減装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、捩り振動が伝達された場合には、駆動側部材と従動側部材との間で弾性体を圧縮しつつ駆動側部材と従動側部材とが相対回転し、また弾性体が復元することにより上記の捩り振動が減衰される。また、振子式ダンパでは、振子式ダンパに伝達される捩り振動に応じて慣性質量体が往復運動することにより、その往復運動次数に等しい、あるいは近似した次数の捩り振動が減衰される。さらに、摩擦接触部においては、駆動側部材とフロントカバーとが相対回転することにより駆動側部材とフロントカバーとの間に摩擦力が生じ、その摩擦力が上記の捩り振動に応じた駆動側部材と従動側部材との相対回転を規制するヒステリシストルクとして作用する。すなわち、弾性体の振動が減衰される。その摩擦接触部は、駆動側部材とフロントカバーとを相対回転可能に摩擦接触させて構成されているため、駆動側部材とフロントカバーとの間のクリアランスを従来になく狭くすることができるとともに、振子式ダンパの内周側に、上述した駆動側部材と従動側部材との相対回転を規制するための装置や部材を設ける必要がなく、その分、捩り振動低減装置の全長を短縮したり、その外径を小さくしたりすることができる。これに加えて、上記のフロントカバーは流体継手に連結されているため、フロントカバーが流体継手の膨張に伴って変形すると、駆動側部材とフロントカバーとの接触圧力や接触面積が変化してヒステリシストルクが変化する。その結果、摩擦接触部におけるヒステリシストルクを可変にすることができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、摩擦接触部は互いに対向する二面によって構成されるため、摩擦接触させることが可能な面積が大きく、そのため、摩擦接触部の設計の自由度を向上させることができる。
【0016】
さらに、請求項3の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、摩擦接触部は回転軸線方向でフロントカバー側であってかつ回転軸線の半径方向で外周側に設けられるため、摩擦接触部と弾性体とが回転軸線の半径方向で同一平面上に並ばない。そのため、捩り振動低減装置の外径を小さくすることができるとともに、駆動側部材とフロントカバーとの間のクリアランスを詰めることができので、捩り振動低減装置を小型化することが可能になる。また、摩擦接触部は回転軸線方向でフロントカバー側に設けられるため、駆動側部材とフロントカバーとの接触圧力や接触面積は流体継手の膨張に伴うフロントカバーの変形の影響を受けやすくなる。したがって、流体継手の膨張に伴うフロントカバーの変形に伴ってヒステリシストルクを大きく変化することが可能になる。
【0017】
そして、請求項4の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、摩擦接触部は回転軸線方向でフロントカバー側であってかつ回転軸線の半径方向で内周側に設けられるため、摩擦接触部と弾性体とが回転軸線の半径方向に並ばない。そのため、捩り振動低減装置の外径を小さくすることができるとともに、駆動側部材とフロントカバーとの間のクリアランスを従来になく狭くすることができので、捩り振動低減装置を小型化することが可能になる。また、摩擦接触部は回転軸線方向でフロントカバー側に設けられるため、駆動側部材とフロントカバーとの接触圧力や接触面積は流体継手の膨張に伴うフロントカバーの変形の影響を受けやすくなる。したがって、流体継手の膨張に伴うフロントカバーの変形に伴ってヒステリシストルクを大きく変化することが可能になる。
【0018】
また、請求項5の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、摩擦接触部は回転軸線方向で駆動力源側であってかつ回転軸線の半径方向で内周側に設けられるため、摩擦接触部と弾性体とが回転軸線の半径方向に並ばない。そのため、捩り振動低減装置の外径を小さくすることができるとともに、駆動側部材とフロントカバーとの間のクリアランスを詰めることができので、捩り振動低減装置を小型化することが可能になる。また、摩擦接触部は回転軸線方向で駆動力源側に設けられるため、駆動側部材とフロントカバーとの接触圧力や接触面積は流体継手の膨張に伴うフロントカバーの変形の影響を受けにくくなる。したがって、流体継手の膨張に伴うフロントカバーの変形によってヒステリシストルクを変化させにくくすることが可能になる。
【0019】
さらに、請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、駆動側部材と従動側部材とは軸受を介して相互に連結されているので、駆動側部材と従動側部材との相対回転はそれぞれの回転中心軸線がずれることなく生じる。また、流体継手におけるフロントカバーが、その内部の圧力によって変形する場合、そのフロントカバーに連結されている従動側部材が、フロントカバーの変形に応じて変形しようとするが、その従動側部材は軸受に連結されているので、結局、従動側部材の変形は抑制されることによりフロントカバーの変形が抑制される。一方、フロントカバーの変形に応じて従動側部材が変形したとしても、従動側部材と駆動側部材とは軸受を介して連結されているので、駆動側部材も従動側部材と共に変形し、結局、フロントカバーの変形は抑制される。なお、駆動側部材が従動側部材と共に変形した場合、駆動側部材と従動側部材との回転中心軸線は相互に一致した状態に維持される。したがって、駆動側部材と従動側部材とのいわゆる位置のずれが防止されるので、ダンパ特性が当初の良好な状態に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る捩り振動低減装置を流体継手であるトルクコンバータと、エンジンのクランクシャフトとの間に設けた例を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す構成におけるトルクコンバータのケースの膨張を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す摩擦接触部の構成を改良した例を模式的に示す図である。
【図4】図1に示す摩擦接触部の構成を改良した他の例を模式的に示す図である。
【図5】図1に示す摩擦接触部の構成を改良した更に他の例を模式的に示す図である。
【図6】この発明に係る捩り振動低減装置を流体継手であるトルクコンバータと、エンジンのクランクシャフトとの間に設けた他の例を模式的に示す図である。
【図7】図6に示す構成におけるトルクコンバータのケースの膨張を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、この発明を具体的に説明する。図1に示す例は、エンジン(図示せず)のクランクシャフト1と、流体継手であるトルクコンバータ2との間に、この発明に係る捩り振動低減装置を設けた例を示す図であって、クランクシャフト1の回転中心軸線A1より上側の半分を模式的に示している。クランクシャフト1とトルクコンバータ2とは同一軸線上に配置されており、そのクランクシャフト1のトルクコンバータ2側の端部にボルト3によってドライブプレート4が取り付けられている。ドライブプレート4の外周部にはリングギヤ5が取り付けられている。そして、そのドライブプレート4とトルクコンバータ2のフロントカバー6との間であって、エンジン側に、トーショナルダンパ7が設けられている。このトーショナルダンパ7は、駆動側部材8と従動側部材9とを同一軸線上に相対回転可能に対向させて配置し、かつこれらの部材8,9を回転方向、すなわち円周方向に対して弾性体であるコイルスプリング10を介して連結したものであり、その原理的な構成は従来知られているものと同様である。駆動側部材8とドライブプレート4とはボルト11によって連結されている。
【0022】
図1に示す例では、駆動側部材8の外周側の部分が、内周側に向けて折り返された形状になってスリットを形成しており、その折り返して形成されたスリットの部分に従動側部材9の外周部が挿入されている。したがって、この外周側の部分は、所定の隙間を空けて三枚の板材を平行に配列した状態になっている。また、詳細は図示しないが、コイルスプリング10の長さとほぼ等しい長さの中空状のホルダが、駆動側部材8の円周方向に一定の間隔を空けて複数形成されている。一方、従動側部材9における上記のホルダに対向する位置に窓孔が形成されている。そして、ホルダ内に挿入された従動側部材9の窓孔にコイルスプリング10が収納されている。したがって、駆動側部材8と従動側部材9とに相対的な回転が生じた場合に、すなわち捩れが生じた場合に、ホルダと窓孔とが円周方向に互いにずれることによりコイルスプリング10が圧縮されるようになっている。これらの部材は上述したように捩れが生じた場合に摺動するため、潤滑油によって潤滑されるようになっている。
【0023】
なお、駆動側部材8の一方の内周端には、シール部材12が取り付けられており、そのシール部材12の端部が後述するダンパハウジング13に接触している。駆動側部材8の他方の内周端には、シール部材14が取り付けられており、そのシール部材14の端部が従動側部材9に接触している。したがって、シール部材12,14によりホルダ内に潤滑油が封止されるようになっている。
【0024】
上述した従動側部材9にダンパハウジング13が一体的に設けられている。このダンパハウジング13は、この発明に係る振子式ダンパ15の一部を構成するものである。その振子式ダンパ15は、図1に示す例では、トーショナルダンパ7の出力側であって、かつ、トーショナルダンパ7の内周側に設けられている。すなわち、振子式ダンパ15とトーショナルダンパ7とは直列に接続されるとともに、これらが回転中心軸線A1の半径方向で同一平面上に設けられている。ダンパハウジング13は、従動側部材9に沿う環状の中空部を備えている。その中空部は、図1に示すように、軸線方向に測った深さあるいは幅が浅い矩形断面をなし、かつ全体として環状をなす部分であり、フロントカバー6側に開口している。その開口端部が従動側部材9によって塞がれている。また、従動側部材9におけるダンパハウジング13が設けられている部分よりも内周側の部分と、フロントカバー6の内周側の部分とが、ボルト16によって連結されている。
【0025】
上述した中空部の内部の形状は、詳細は図示しないが、外周側の面が、半径方向に連続して凹凸に変化する曲面として形成され、内周側の面が単純な円弧面となっており、これら外周側の面と内周側の面との間隔が狭い部分の間によって区画された部分が転動室17とされている。そして、それぞれの転動室17の内部に、従動側部材9の回転方向に移動自在な慣性質量体、すなわち転動体18が収容されている。この転動体18は、一例として円盤状の錘であって、その外径は、転動室17を形成している外周側の面と内周側の面との最大の間隔より小さくかつ転動室17の両側の最小の間隔より大きく設定されている。すなわち、転動体18は、各転動室17の内部で従動側部材9の回転方向に転動しつつ移動できるように構成されている。なお、各転動室17の外周側の面は、転動体18が遠心力を受けた場合に接触し、かつ転動体18を沿わせて移動させる面であり、したがってその中央部を起点とした左右両側の面が例えばサイクロイド面として構成されている。なお、このように構成された振子式ダンパ15は、これが取り付けられる回転体に生じるトルク変動や捩り振動を転動体18の往復運動によって減衰するものであるから、転動体18の往復運動次数は減衰の対象である捩り振動の次数に等しくなるように、あるいは減衰の対象である捩り振動の次数に近似した値になるように設計されている。
【0026】
そして、図1に示す例では、フロントカバー6とトーショナルダンパ7の駆動側部材8とは、摩擦材19を介して摩擦接触されている。より具体的には、例えばフロントカバー6における駆動側部材8側の面であって、フロントカバー6の半径方向で内側に摩擦材19が設けられており、その摩擦材19と、これに対向する駆動側部材8の面とが摩擦接触されている。これらの摩擦接触している部分がこの発明に係る摩擦接触部20に相当している。この摩擦接触部20は、摩擦材19を介した駆動側部材8とフロントカバー6との接触圧力やこれらの接触面積に応じた摩擦力を生じるようになっている。したがって、駆動側部材8とフロントカバー6とが相対回転した場合に、これらの間に生じる摩擦力が、上述したトーショナルダンパ7の駆動側部材8と従動側部材9との相対回転およびその相対回転に伴うコイルスプリング10の振動を減衰させるヒステリシストルクとして作用するようになっている。なお、摩擦材19はフロントカバー6側と駆動側部材8側とのいずれの側に設けられていてもよい。摩擦材19としては合成樹脂製のブッシュなどの摩擦係数の経時的変化の小さい部材を用いることが好ましい。
【0027】
上述したトルクコンバータ2は従来知られている構造のものと同様のものであって、内周面にポンプブレード21を取り付けたポンプシェル22のフロント側(図1での右側)にフロントカバー6が接合され、これらポンプシェル22とフロントカバー6とによって液密状態のケース23が構成されている。そのケース23の中心軸線に沿って円筒状の固定軸24が挿入されており、またその固定軸24の中心軸線に沿って変速機入力軸25が挿入され、そのクランクシャフト1側の端部はフロントカバー6の内面近くにまで延びており、さらにその変速機入力軸25は固定軸24によって回転自在に支持されている。そして、上記のポンプシェル22の内周端は、固定軸24の外周面に液密状態を維持して回転するように嵌合している。
【0028】
ケース23の内部に、タービン26をポンプシェル22もしくはポンプブレード21に軸線方向で対向させた状態で配置している。このタービン26は、ポンプシェル22とほぼ対称形状のタービンシェルの内周面に、ポンプブレード21とほぼ同形状の多数のタービンブレードを取り付けた公知の構造のものである。このタービン26は、固定軸24から突出している変速機入力軸25にスプライン嵌合していて変速機入力軸25と一体化されている。
【0029】
また、ポンプシェル22の内周側の部分とタービン26の内周側の部分との間、すなわちポンプにおいては吸入部となる部分とタービン26においては吐出部となる部分との間に、ステータ27が配置されている。このステータ27は、タービン26から吐出されたオイルの流れ方向を変化させるためのものであって、一方向クラッチ28を介して固定軸24に支持されている。さらに、タービン26とフロントカバー6の内面との間には、直結クラッチ29が配置されている。この直結クラッチ29は、フロントカバー6の内側面に摩擦接触することによりフロントカバー6からタービン26あるいは変速機入力軸25に直接トルクを伝達するためのものであって、円板状に形成され、タービン26を変速機入力軸25に連結しているハブ30に形成されている円筒部31の外周面にスプライン嵌合している。すなわち、直結クラッチ29は、タービン26と一体となって回転するとともに、フロントカバー6の内側面に対して接近し、また離隔するように構成されている。そして、直結クラッチ29のフロントカバー6に対向する面のうち外周側の部分には、摩擦材32が取り付けられている。なお、フロントカバー6のうち直結クラッチ29が摩擦接触する部分は平坦面に形成されている。また、この直結クラッチ29は油圧によって係合・解放させられるように構成されており、そのための油路の構成や油圧制御の手段は、従来知られているものでよい。
【0030】
上述したトルクコンバータ2は、そのポンプとタービン26との回転数差が大きい状態、すなわち速度比が小さい状態では、タービン26から流出したオイルの流れの向きがステータ27によって変化させられ、これがポンプに供給されるので、トルクの増幅作用が生じる。また、直結クラッチ29とフロントカバー6との間の油圧を、タービン26側の油圧よりも低くした場合には、直結クラッチ29がフロントカバー6側に移動して摩擦材32がフロントカバー6の内面に押し付けられて摩擦接触する。すなわち、直結クラッチ29が係合している状態になる。
【0031】
直結クラッチ29が係合している状態では、フロントカバー6とトルクコンバータ2のポンプとタービン26とは一体的に回転する。そのため、エンジン回転数に応じてトルクコンバータ2のポンプやタービン26の回転数も変化する。また、ポンプおよびタービン26はそれらの回転数に応じた遠心油圧を生じる。そのため、エンジン回転数が増大した場合には、遠心油圧も増大し、その結果、トルクコンバータ2の内部の油圧も高くなる。トルクコンバータ2の内部の油圧が増大した場合には、ケース23は幾分膨張する。
【0032】
なお、変速機入力軸25は、上述したように、タービン26をスプライン嵌合させるなどのために固定軸24のクランクシャフト1側に突出しており、それに伴ってフロントカバー6の内周側の部分は前述した直結クラッチ29と対向している外周側の部分よりもクランクシャフト1側に突出している。したがってこれらの部分の境界部分でクランクシャフト1側に凸なる湾曲部33が形成されている。その湾曲部33に上述したボルト16によって従動側部材9の内周側の部分が固定されている。
【0033】
つぎに上述したように構成されるこの発明に係る捩り振動低減装置の作用について説明する。図示しないエンジンが出力したトルクは、クランクシャフト1からこれに取り付けられたドライブプレート4を介してトーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達される。駆動側部材8と従動側部材9とは相対回転可能に構成されているとしても、これらの部材8,9はコイルスプリング10を介して連結されている。そのため、トーショナルダンパ7を介して振子式ダンパ15のダンパハウジング13にトルクが伝達される。また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8はフロントカバー6に摩擦材19を介して摩擦接触されており、その摩擦接触している部分が上述したように、摩擦接触部20とされている。その摩擦接触部20で生じる摩擦力は駆動側部材8とフロントカバー6との接触圧力や接触面積に応じて変化する。そのため、それらの接触圧力や接触面積が変化することにより摩擦力が変化した場合には、その摩擦力の変化に応じて駆動側部材8とフロントカバー6との間で伝達されるトルク容量も変化する。すなわち、駆動側部材8とフロントカバー6との接触圧力や接触面積に応じて摩擦接触部20におけるヒステリシストルクが変化する。
【0034】
エンジン回転数やフロントカバー6の回転数が低いことにより、トルクコンバータ2の内部に生じる遠心油圧が低い場合においては、すなわちケース23が膨張する前においては、フロントカバー6と駆動側部材8との間の接触圧力は予め定められた圧力に維持されている。この状態で、トーショナルダンパ7にトルク変動が伝達された場合には、駆動側部材8と従動側部材9とが相対回転し、すなわち捩れが生じてコイルスプリング10が振動することにより上記のトルクの変動、すなわち捩り振動が減衰され、そのコイルスプリング10の振動は予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達されたトルクは、コイルスプリング10を介して従動側部材9に伝達される。その従動側部材9には、上述したように、ダンパハウジング13が一体化されている。そのため、ダンパハウジング13に収容された転動体18が、伝達された捩り振動に応じて転動面を往復運動し、転動体18の往復運動次数に等しい、あるいは、それに近似した次数のトルクの変動が減衰される。それらの結果、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0035】
一方、上述した構成の捩り振動低減装置を搭載した車両の車速が増大するなどのことにより、エンジン回転数やフロントカバー6の回転数が増大した場合には、それらの回転数の増大に伴ってトルクコンバータ2の内部に生じる遠心油圧が増大する。その遠心油圧の増大に伴ってケース23を構成しているフロントカバー6は、図2に示すように、回転軸線方向でエンジン側に変形し、ケース23を構成しているポンプシェル22は変速機側に変形する。フロントカバー6が摩擦材19を介して摩擦接触している駆動側部材8は、上述したように、ボルト11を介してドライブプレート4に連結されているため、フロントカバー6の半径方向で外側の変形はドライブプレート4によって抑制あるいは規制されている。そのため、フロントカバー6の半径方向で内側の部分が上述した外側の部分よりもエンジン側に変形する。すなわち、膨張する。その結果、ここに示す例では、遠心油圧が増大することに伴ってフロントカバー6の半径方向で内側に設けられた摩擦材19と駆動側部材8との接触圧力が増大させられる。このようにして、フロントカバー6の半径方向で内側に設けられた摩擦材19と駆動側部材8との間に生じる摩擦力が増大させられることにより、摩擦接触部20におけるヒステリシストルクが増大させられる。言い換えれば、摩擦接触部20における剛性が相対的に増大させられる。そのため、トーショナルダンパ7に捩り振動が伝達されたとしても、その駆動側部材8と従動側部材9とが相対回転しにくく、すなわち、従動側部材9やフロントカバー6が駆動側部材8に固定された状態となって、フロントカバー6と駆動側部材8とが一体的に回転する。その結果、駆動側部材8に伝達されたトルクは摩擦接触部20を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
【0036】
なお、トルクコンバータ2のフロントカバー6にトルクが伝達されると、フロントカバー6と一体のポンプシェル22およびその内周面に取り付けられたポンプブレード21が回転する。トルクコンバータ2のケース23の内部にはオイルが供給されており、ポンプシェル22およびポンプブレード21が回転することによりオイルの螺旋流が生じ、これがタービン26に向けて流れるので、タービン26が回転する。すなわち、オイルを介してタービン26にトルクが伝達される。タービン26は変速機入力軸25に連結されている。また、フロントカバー6に伝達されるトルクに変動がある場合には、そのトルクの変動は振子式ダンパ15や、トルクコンバータ2において、オイルを介してトルクを伝達する過程で減衰される。
【0037】
このように上述した図1に示す構成では、摩擦接触部20はフロントカバー6における駆動側部材8側の面と、これに対向する駆動側部材8の面とを摩擦接触させて構成されるため、これらの間のクリアランスを従来になく狭くすることができるとともに、トーショナルダンパ7の内周側に摩擦接触部20を設けるためのスペースを要しない。それらの結果、捩り振動低減装置の全長を短縮でき、かつ、小型化することができる。その摩擦接触部20は、上述したように対向する二面を用いて構成されるため、すなわち利用可能な面積が大きいため摩擦接触部20の設計の自由度を向上させることができる。これに加えて、トルクコンバータ2のケース23の膨張にともなってヒステリシストルクを増大させるように構成されているため、図1に示す構成の捩り振動低減装置を搭載した車両のエンジン回転数が相対的に低い領域においては、捩り振動低減装置のダンパ特性を所期の良好な状態に維持することができる。そして、エンジン回転数が相対的に高い領域においては、ドライバビリティを向上させることができる。すなわち、この発明によれば、簡易な構成でヒステリシストルクを可変とすることができ、これにより、ドライバビリティの向上と、捩り振動の減衰能とを両立させることができる。
【0038】
図3に、図1に示す摩擦接触部の構成を改良した例を模式的に示してある。ここに示す例は、駆動側部材8の外周側であってフロントカバー6側に凸となった凸部34を設け、その凸部34の内周面34aと、フロントカバー6の外周面6aとを摩擦接触させるように構成した例である。すなわち、駆動側部材8とフロントカバー6とをインロー勘合させた例であり、その摩擦接触する部分が摩擦接触部20とされている。なお、図3において、振子式ダンパ15は図示していない。
【0039】
図3に示すように構成した捩り振動低減装置においても、上述した図1に示す例と同様に、トルクコンバータ2のポンプの回転数が低いことにより、トルクコンバータ2のケース23が膨張する前においては、摩擦接触部20は予め定められたヒステリシストルクを生じる。そのため、トーショナルダンパ7で捩り振動を減衰する場合に生じるコイルスプリング10の振動は、その予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達されたトルクは、コイルスプリング10を介して従動側部材9に伝達され、従動側部材9に伝達されたトルクは、ダンパハウジング13に伝達される。それらの結果、エンジンが出力したトルクは、エンジン側から、ドライブプレート4、トーショナルダンパ7、振子式ダンパ15、トルクコンバータ2の順に伝達され、結局、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0040】
一方で、トルクコンバータ2のポンプの回転数が高い場合においては、ケース23の膨張に伴って凸部34の内周面34aと、フロントカバー6の外周面6aとの接触圧力や接触面積が増大することにより、これらの間に生じる摩擦力が増大させられる。そして摩擦力が増大させられることにより、摩擦接触部20におけるヒステリシストルクが増大させられる。すなわち摩擦接触部20における剛性が相対的に増大させられるため、トーショナルダンパ7に捩り振動が伝達されたとしても、駆動側部材8と従動側部材9とが相対回転しにくく、すなわち、フロントカバー6と駆動側部材8とが固定された状態となって、これらが一体的に回転する。その結果、駆動側部材8に伝達されたトルクは摩擦接触部20を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
【0041】
図4に、図1に示す摩擦接触部の構成を改良した他の例を模式的に示してある。ここに示す例は、フロントカバー6の内周側に駆動側部材8側に凸となったボス部を設け、そのボス部の外周面と、駆動側部材8のうちフロントカバー6側の内周端の内周側端面8aとを摩擦接触させるように構成した例であり、その摩擦接触する部分が摩擦接触部20とされている。そのボス部としては、クランクシャフト1側に突出して形成されている上述した湾曲部33を用いてもよく、その場合においては、湾曲部33の外周面33aと、駆動側部材8の内周側端面8aとを摩擦接触させるように構成すればよい。なお、図4においても、図3に示す例と同様に、振子式ダンパ15は図示していない。
【0042】
図4に示すように構成した捩り振動低減装置においても、上述した図1に示す例と同様に、トルクコンバータ2のポンプの回転数が低いことにより、トルクコンバータ2のケース23が膨張する前においては、摩擦接触部20は予め定められたヒステリシストルクを生じる。そのため、トーショナルダンパ7で捩り振動を減衰する場合に生じるコイルスプリング10の振動は、その予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達されたトルクは、コイルスプリング10を介して従動側部材9に伝達され、従動側部材9に伝達されたトルクは、ダンパハウジング13に伝達される。それらの結果、エンジンが出力したトルクは、エンジン側から、ドライブプレート4、トーショナルダンパ7、振子式ダンパ15、トルクコンバータ2の順に伝達され、結局、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0043】
一方で、トルクコンバータ2のポンプの回転数が高い場合においては、ケース23の膨張に伴って湾曲部33の外周面33aと、駆動側部材8の内周側端面8aとの接触圧力や接触面積が増大することにより、これらの間に生じる摩擦力が増大させられる。そして摩擦力が増大させられることにより、摩擦接触部20におけるヒステリシストルクが増大させられる。すなわち摩擦接触部20における剛性が相対的に増大させられるため、トーショナルダンパ7の従動側部材9とフロントカバー6とが固定された状態となってこれらが一体的に回転する状態となる。その結果、駆動側部材8に伝達されたトルクは摩擦接触部20を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
【0044】
また、図4に示す構成では、駆動側部材8の内周側端面8aを摩擦接触させている箇所は湾曲部33の外周面33aであり、この湾曲部33は従動側部材9の内周端がボルト16を介してフロントカバー6に連結される箇所である。したがって、このような構成とすることにより、湾曲部33を共用することができ、これにより部品点数を削減することができる。
【0045】
図5に、図1に示す摩擦接触部の構成を改良した更に他の例を模式的に示してある。ここに示す例は、従動側部材9におけるエンジン側の端面9aと、クランクシャフト1の変速機側の端面1aとを摩擦接触させるように構成した例であり、その摩擦接触する部分が摩擦接触部20とされている。なお、図5においても、図3および図4に示す例と同様に、振子式ダンパ15は図示していない。
【0046】
図5に示すように構成した捩り振動低減装置においても、上述した図1および図3ならびに図4に示す例と同様に、トルクコンバータ2のケース23が膨張する前においては、摩擦接触部20は予め定められたヒステリシストルクを生じる。そのため、トーショナルダンパ7で捩り振動を減衰する場合に生じるコイルスプリング10の振動は、その予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達されたトルクは、コイルスプリング10を介して従動側部材9に伝達され、従動側部材9に伝達されたトルクは、ダンパハウジング13に伝達される。それらの結果、エンジンが出力したトルクは、エンジン側から、ドライブプレート4、トーショナルダンパ7、振子式ダンパ15、トルクコンバータ2の順に伝達され、結局、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0047】
一方で、トルクコンバータ2のポンプの回転数が高い場合においては、ケース23の膨張に伴って従動側部材9の端面9aと、クランクシャフト1の端面1aとの接触圧力や接触面積が増大することにより、これらの間に生じる摩擦力が増大させられ、また摩擦接触部20におけるヒステリシストルクが増大させられる。すなわち摩擦接触部20における剛性が相対的に増大させられるため、クランクシャフト1と従動側部材9とが一体的に回転する状態となる。その結果、エンジンが出力したトルクはクランクシャフト1から摩擦接触部20を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
【0048】
上述した捩り振動低減装置の例は、摩擦接触部20のヒステリシストルクを予め定めた値からトルクコンバータ2のケース23の膨張に伴って増大させるように構成した例であるが、この発明では、上記の例に限らず、摩擦接触部20のヒステリシストルクを予め定めた値からトルクコンバータ2のケース23の膨張に伴って減少させるように構成することもできる。その例を図6および図7に示してある。なお、図6および図7に示す例において、上述した図1および図2に示す例と同様の構成の部分には、図1および図2と同様の符号を付してその説明を省略する。従動側部材9に一体のダンパハウジング13は、図6に示す例では、従動側部材9に沿う環状の中空部を備えていることに加えて、ダンパハウジング13をフロントカバー6に連結するボス部35を備えている。ボス部35は中空部よりも内周側に設けられている。したがって、これらの部材の連結部分36は、図6に示すように、エンジン側から、ボス部35、従動側部材9、フロントカバー6の順になっており、従動側部材9におけるクランクシャフト1側の面がボス部35に接触し、これとは反対側の従動側部材9におけるフロントカバー6側の面がフロントカバー6のうちクランクシャフト1側の内周側の部分に接触している。そしてこれらの部材が上述したボルト16によって連結されている。
【0049】
また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8と従動側部材9とは、常時、同一軸線上に位置するように、軸受37を介して連結されている。具体的に説明すると、ドライブプレート4における内周側の部分に、素材を曲げ加工することにより円筒状に形成された円筒状部分38が設けられている。この円筒状部分38の外周面に、ボールベアリングやローラベアリングなどの軸受37が嵌め込まれている。一方、上述したダンパハウジング13のボス部35におけるフロントカバー6側にフランジ部39が形成されている。そのフランジ部39におけるクランクシャフト1側の側面と、上述した軸受37の外輪40におけるフロントカバー6側の側面とが接触しており、これに加えて、ボス部35における内周側の面と、これに対向する軸受37の外輪40における外周面とが接触している。そして、軸受37は、図6に示すように、その外輪40におけるクランクシャフト1側の側面でスナップリング41によりボス部35に抜け止めされている。また、上述したフランジ部39におけるフロントカバー6側の側面は、上述した連結部分36よりもフロントカバー6の内周側でフロントカバー6と接触している。
【0050】
つぎに、図6に示すように構成した捩り振動低減装置の作用について説明する。図示しないエンジンが出力したトルクは、クランクシャフト1からこれに取り付けられたドライブプレート4を介してトーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達される。駆動側部材8と従動側部材9とは相対回転可能に構成されているとしても、これらの部材8,9はコイルスプリング10を介して連結されている。そのため、トーショナルダンパ7を介して振子式ダンパ15のダンパハウジング13にトルクが伝達される。また、トーショナルダンパ7の駆動側部材8はフロントカバー6に摩擦材19を介して摩擦接触されており、その摩擦接触している部分が上述した摩擦接触部20とされている。その摩擦接触部20で生じる摩擦力は駆動側部材8とフロントカバー6との接触圧力や接触面積に応じて変化する。そのため、それらの接触圧力や接触面積が変化することにより摩擦力が変化した場合には、その摩擦力の変化に応じて駆動側部材8とフロントカバー6との間で伝達されるトルク容量も変化する。すなわち、駆動側部材8とフロントカバー6との接触圧力や接触面積に応じて摩擦接触部20におけるヒステリシストルクが変化する。
【0051】
エンジン回転数やフロントカバー6の回転数が低いことにより、トルクコンバータ2の内部に生じる遠心油圧が低い場合においては、すなわちケース23が膨張する前においては、フロントカバー6と駆動側部材8との間の接触圧力は予め定められた接触圧力に維持されており、摩擦接触部20は予め定められたヒステリシストルクを生じる。そのため、捩り振動が伝達されることによってトーショナルダンパ7の駆動側部材8と従動側部材9とに捩れが生じ、コイルスプリング10が振動した場合には、そのコイルスプリング10の振動は、その予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。
【0052】
ところで、ケース23が膨張する前において、その接触圧力を相対的に大きく設定した場合には、フロントカバー6と駆動側部材8との間に生じる摩擦力が大きくなり、摩擦接触部20におけるヒステリシストルクも大きくなる。そのため、トーショナルダンパ7に捩り振動が伝達されたとしても、トーショナルダンパ7の駆動側部材8と従動側部材9とが相対回転しにくくなり、すなわち、従動側部材9やフロントカバー6が駆動側部材8に固定された状態となり、これらが一体的に回転するようになる。言い換えれば、摩擦接触部20における剛性が大きくなる。したがって、ケース23が膨張する前においては、駆動側部材8に伝達されたトルクは摩擦接触部20を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、エンジンの始動性などを向上させることができる。
【0053】
なお、図6に示す構成においても、トルクコンバータ2のフロントカバー6にトルクが伝達されると、フロントカバー6と一体のポンプシェル22およびその内周面に取り付けられたポンプブレード21が回転する。トルクコンバータ2のケース23の内部にはオイルが供給されており、ポンプシェル22およびポンプブレード21が回転することによりオイルの螺旋流が生じ、これがタービン26に向けて流れるので、タービン26が回転する。すなわち、オイルを介してタービン26にトルクが伝達される。タービン26は変速機入力軸25に連結されている。また、フロントカバー6に伝達されたトルクに変動がある場合には、そのトルクの変動はトルクコンバータ2および従動側部材9に一体の振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0054】
一方、上述した捩り振動低減装置を搭載した車両の車速が増大するなどのことにより、エンジン回転数やフロントカバー6の回転数が増大した場合には、それらの回転数の増大に伴ってトルクコンバータ2の内部に生じる遠心油圧が増大する。その遠心油圧の増大に伴ってケース23は幾分膨張する。しかしながら、図6に示す構成では、図1に示す構成と比較して、ケース23を構成しているフロントカバー6の変形は軸受37によって規制されるため、ケース23を構成しているポンプシェル22が変速機側に変形する。具体的に説明すると、フロントカバー6に連結されている従動側部材9は、フロントカバー6の変形に応じて変形しようとする。その従動側部材9と駆動側部材8とは、上述したように、軸受37を介して連結されていて両者の回転中心軸線が常時一致する状態に維持されている。そのため、従動側部材9の変形に合わせて駆動側部材8が変形したとしても両者の回転中心軸線にずれが生じることはない。なお、それらの回転中心軸線はクランクシャフト1の回転中心軸線A1上に維持される。したがって、駆動側部材8と従動側部材9との相対位置にずれが生じることはない。また、駆動側部材8および軸受37の内輪42はドライブプレート4に一体化されている。そのため、捩り振動低減装置の全体としての変形は、結局は、ドライブプレート4およびこれに連結されたクランクシャフト1によって規制される。その結果、ケース23を構成しているポンプシェル22が、図7に示すように、変速機側に変形する。
【0055】
ポンプシェル22が変速機側に変形する場合、その変形に伴ってフロントカバー6の外周側が、図7に示すように、変速機側に幾分変形する。すなわち、駆動側部材8からフロントカバー6が離隔するようにフロントカバー6が変速機側に変形するため、フロントカバー6と駆動側部材8との接触圧力や接触面積が減少することになる。その結果、これらの間に生じる摩擦力が減少して従動側部材9とフロントカバー6とが相対回転可能な状態となるから、摩擦接触部20を介したトルクの伝達が遮断あるいは減少されるとともに、トーショナルダンパ7の振動減衰作用が回復する。この状態で、捩り振動が伝達されると、トーショナルダンパ7における駆動側部材8と従動側部材9とがコイルスプリング10を圧縮しつつ相対回転し、またコイルスプリング10がその弾性力で復元することにより捩り振動が減衰される。コイルスプリング10の振動は摩擦接触部20のヒステリシストルクによって減衰される。
【0056】
トーショナルダンパ7の駆動側部材8に伝達されたトルクは、コイルスプリング10を介して従動側部材9に伝達され、その従動側部材9には、上述したように、ダンパハウジング13が一体化されている。そのため、ダンパハウジング13に収容された転動体18が、伝達された捩り振動に応じて転動面を往復運動し、転動体18の往復運動次数に等しい、あるいは、それに近似した次数の捩り振動が減衰される。それらの結果、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0057】
これに加えて、上述した連結部分36からトルクコンバータ2のフロントカバー6にトルクが伝達される。そして、上述したように、フロントカバー6と一体のポンプシェル22およびその内周面に取り付けられたポンプブレード21が回転する。トルクコンバータ2のケース23の内部にはオイルが供給されており、ポンプシェル22およびポンプブレード21が回転することによりオイルの螺旋流が生じ、これがタービン26に向けて流れるので、タービン26が回転する。すなわち、オイルを介してタービン26にトルクが伝達される。
【0058】
このように上述した図6に示す構成では、摩擦接触部20はフロントカバー6の外周側の面とこれに対向する駆動側部材8の面とを摩擦接触させて構成されるため、これらの間のクリアランスを従来になく狭くすることができるとともに、トーショナルダンパ7の内周側に摩擦接触部20を設けるためのスペースを要しない。それらの結果、捩り振動低減装置の全長を短縮でき、かつ、小型化することができる。その摩擦接触部20は、上述したように対向する二面を用いて構成されるため、すなわち利用可能な面積が大きいため摩擦接触部20の設計の自由度を向上させることができる。これに加えて、ケース23の膨張にともなって摩擦接触部20におけるヒステリシストルクを減少させるように構成されているため、図6に示す構成の捩り振動低減装置を搭載した車両のエンジン回転数が相対的に低い領域においては、エンジンの始動性などを向上させることができる。そして、エンジン回転数が相対的に高い領域においては、適正なヒステリシストルクを生じて捩り振動低減装置のダンパ特性を良好な状態にすることができる。すなわち、この発明によれば、簡易な構成でヒステリシストルクを可変とすることができ、これにより、ドライバビリティの向上と、捩り振動の減衰能とを両立させることができる。
【0059】
図6に示す構成の捩り振動低減装置において、詳細は図示しないが、上述した図3に示す例と同様に、駆動側部材8の外周側に、フロントカバー6側に凸となった凸部を設け、その凸部の内周面と、フロントカバー6の外周面とを摩擦接触させることもできる。すなわち、駆動側部材8とフロントカバー6とをインロー勘合させることにより、その摩擦接触する部分を上述した摩擦接触部とすることもできる。また、上述した図4に示す例と同様に、フロントカバー6の内周側に駆動側部材8側に凸となったボス部を設け、そのボス部の外周面と、駆動側部材8のうちフロントカバー6側の内周端の内周側端面とを摩擦接触させ、その摩擦接触する部分を摩擦接触部とすることもできる。いずれの構成であって、トルクコンバータ2のケース23が膨張する前においては、摩擦接触部は予め定められたヒステリシストルクを生じる。そのため、捩り振動が伝達されることによってトーショナルダンパ7のコイルスプリング10が振動した場合には、そのコイルスプリング10の振動は、その予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。
【0060】
また、摩擦接触部のヒステリシストルクを相対的に大きく設定した場合には、ケース23が膨張する前においては、そのヒステリシストルクが維持されるため、トーショナルダンパ7に捩り振動が伝達されたとしても、トーショナルダンパ7の駆動側部材8と従動側部材9とが相対回転しにくく、その結果、フロントカバー6と駆動側部材8とが一体的に回転する状態となる。したがって、ケース23が膨張する前においては、駆動側部材8に伝達されたトルクは摩擦接触部を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、エンジンの始動性などのドライバビリティを向上させることができる。
【0061】
一方で、トルクコンバータ2のポンプの回転数が高くなると、図6に示す構成の捩り振動低減装置においては、フロントカバー6のエンジン側に向けた変形は軸受37によって規制されるが、ポンプシェル22は変速機側に向けて変形する。ポンプシェル22が変速機側に変形すると、その変形に伴ってフロントカバー6が変速機側に変形する。そのため、上述した駆動側部材8の外周側の凸部の内周面とフロントカバー6の外周面とを摩擦接触させて摩擦接触部を構成した場合には、それらの間の接触圧力や接触面積が減少する。これと同様に、フロントカバー6のボス部の外周面と駆動側部材8の内周側端面とを摩擦接触させて摩擦接触部を構成した場合には、それらの間の接触圧力や接触面積が減少する。その結果、摩擦接触部におけるヒステリシストルクが相対的に小さくされ、トーショナルダンパ7の振動減衰機能が回復する。したがって、エンジンが出力したトルクは、エンジン側から、ドライブプレート4、トーショナルダンパ7、振子式ダンパ15、トルクコンバータ2の順に伝達され、結局、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【0062】
これに加えて、図6に示す構成の捩り振動低減装置において、詳細は図示しないが、上述した図5に示す例と同様に、従動側部材9におけるエンジン側の端面と、クランクシャフト1の変速機側の端面とを摩擦接触させ、その摩擦接触する部分を摩擦接触部とすることもできる。この場合において、トルクコンバータ2のケース23が膨張する前においては、摩擦接触部は予め定められたヒステリシストルクを生じる。そのため、捩り振動が伝達されることによってトーショナルダンパ7のコイルスプリング10が振動した場合には、そのコイルスプリング10の振動は、その予め定められたヒステリシストルクによって減衰させられる。また、摩擦接触部のヒステリシストルクを相対的に大きく設定した場合には、ケース23が膨張する前においては、そのヒステリシストルクが維持されるため、クランクシャフト1とトーショナルダンパ7の従動側部材9とが一体的に回転する状態となる。その結果、エンジンが出力したトルクはクランクシャフト1から摩擦接触部を介してフロントカバー6に、減衰や緩衝されずに、あるいはそのような減衰作用を特には受けずに伝達されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
【0063】
一方で、トルクコンバータ2のポンプの回転数が高くなると、図6に示す構成の捩り振動低減装置においては、フロントカバー6のエンジン側に向けた変形は軸受37によって規制されるが、ポンプシェル22は変速機側に向けて変形する。ポンプシェル22が変速機側に変形すると、その変形に伴ってフロントカバー6およびこれと一体の従動側部材9が変速機側に変形する。そのため、従動側部材9におけるエンジン側の端面と、クランクシャフト1の変速機側の端面との間の接触圧力や接触面積が減少して摩擦接触部におけるヒステリシストルクが相対的に小さくされる。その結果、トーショナルダンパ7の振動減衰機能が回復する。したがって、エンジンが出力したトルクは、エンジン側から、ドライブプレート4、トーショナルダンパ7、振子式ダンパ15、トルクコンバータ2の順に伝達され、結局、フロントカバー6に現れるトルクの変動はトーショナルダンパ7および振子式ダンパ15などによって減衰される。
【符号の説明】
【0064】
2…トルクコンバータ、 6…フロントカバー、 8…駆動側部材、 9…従動側部材、 15…振子式ダンパ、 18…転動体(慣性質量体)、 20…摩擦接触部、 A1…クランクシャフトの回転中心軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側部材と従動側部材とが相対回転可能に弾性体を介して連結され、前記従動側部材が流体継手におけるフロントカバーに連結され、かつ、前記従動側部材と前記フロントカバーとの間であって前記従動側部材の内周側に慣性質量体の往復運動によってトルクの変動を減衰する振子式ダンパが設けられている捩り振動低減装置において、
前記駆動側部材と前記フロントカバーとの間に、前記駆動側部材と前記フロントカバーとの回転軸線方向で前記駆動側部材と前記フロントカバーとを相対回転可能に摩擦接触させて前記駆動側部材と従動側部材との相対回転を規制するヒステリシストルクを生じさせかつ前記流体継手の膨張に伴う前記フロントカバーの変形により前記駆動側部材とフロントカバーとの接触圧力が変化して前記ヒステリシストルクが変化するように構成された摩擦接触部が設けられている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項2】
前記流体継手は、前記フロントカバーの内面に摩擦接触させられる直結クラッチを備え、
前記摩擦接触部は、前記直結クラッチが摩擦接触する前記フロントカバーの内面とは反対側の前記フロントカバーの面の一部と、前記フロントカバーの面の一部に対向する前記駆動側部材の面とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の捩り振動低減装置。
【請求項3】
前記駆動側部材の外周側であって前記駆動側部材の前記フロントカバー側を向いた面の一部に、前記フロントカバー側に凸となった凸部が形成され、
前記摩擦接触部は、前記凸部の内周面と、前記フロントカバーの外周面の一部とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の捩り振動低減装置。
【請求項4】
前記フロントカバーの内周側の一部に前記駆動側部材に向けて凸となったボス部が形成され、
前記摩擦接触部は、前記ボス部の外周面と、前記駆動側部材の内周側の一部とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の捩り振動低減装置。
【請求項5】
前記駆動側部材は、駆動力源の出力軸に連結され、
前記摩擦接触部は、前記出力軸の一部と、前記従動側部材の一部とが相対回転可能に摩擦接触させられて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の捩り振動低減装置。
【請求項6】
前記駆動側部材と従動側部材とが、前記駆動側部材と従動側部材との回転中心軸線を一致させた状態で前記駆動側部材と従動側部材とを相対回転させる軸受を介して連結されていることを特徴とする請求項1ないし5に記載の捩り振動低減装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate