説明

排ガス再結合器の出口水素濃度予測装置及び出口水素濃度の予測方法

【課題】本発明では、沸騰水型原子力プラントの排ガス再結合器の出口水素濃度を、ガスの流入条件と触媒の状態から予測する装置を提供することにある。
【解決手段】沸騰水型原子力プラントの気体廃棄物処理系の排ガス再結合器に流入する排ガスの構成成分の流量,排ガスの温度,排ガス再結合器内の触媒の状態を示す指標、及び前記触媒の性能に影響を及ぼす被毒物質の流入量を入力する入力装置7と、前記入力装置7から入力された情報から排ガス再結合器出口の水素濃度を算出する演算装置2と、算出した水素濃度または水素濃度の時間変化を表示する表示装置を備えることによって、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力プラントに係り、特に、オフガス系に再結合装置を有する沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な沸騰水型原子力プラントンの再結合器の出口水素濃度の予測装置及び出口水素濃度の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(以下CO2と略す)などによる地球温暖化が深刻になる状況において、運転時にCO2を発生しない原子力発電システムは将来のエネルギー供給源として、年々、全世界で需要が高まっている。
【0003】
原子力発電システムの方式には、沸騰水型原子炉プラント(以下、BWRプラントと称す)、及び改良型沸騰水型原子炉プラント(以下、ABWRプラントと称す)がある。このようなBWRプラントでは、原子炉圧力容器内の炉心に装荷された複数の燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂によって発生する熱により冷却水を加熱して蒸気を発生させる。原子炉圧力容器内で発生したその蒸気がタービンに直接供給される。BWRプラントの運転中、炉心内の冷却水は、核分裂によって発生する中性子及びγ線等の放射線の照射により、放射線分解され、水素及び酸素が発生する。このような水素と酸素が、蒸気と共にタービン系に移行する。この際、蒸気は最終的に復水器において凝縮水となるが、水素と酸素は非凝縮性のガスとして残る。復水器内部の非凝縮性ガスは安全な状態を確保した上で排気される。特に水素と酸素の混合ガスは、気相反応で再結合すると燃焼の危険性がある。このため、BWRプラントでは、水素と酸素の再結合を促進させる燃焼触媒を充填した再結合器をオフガス系の配管に設け、この再結合器で、放射線分解により発生した水素と酸素を再結合させている。水素と酸素を再結合は、(式1)に示す反応によって行われる。
【0004】
【数1】

【0005】
最近、BWRプラントの起動時に、オフガス系の配管に設けられた再結合器から排出されるガス中の水素濃度が増大し、BWRプラントの運転を停止しなければならないという事象が発生した。
【0006】
再結合器の上流に設置されている低圧タービンでは、従来はパッキン部のシール材として亜麻仁油を使用していた。しかしながら、亜麻仁油の使用により気密性が低く、タービン効率が低下したため、タービン効率の低下を改善するためにシール材を液状パッキンに変更した。上記の再結合器から排出されたガスの水素濃度の上昇事象の発生時期は、シール剤を変更した時期とほぼ一致しており、また、再結合器から回収された触媒からケイ素が検出された。
【0007】
〔非特許文献1〕〔非特許文献2〕〔非特許文献3〕に開示されるように、室温でも液状パッキンから微量のヘキサメチルジシロキサン(HMDS)が発生し、これが可燃式水素センサーの電極に付着して性能が低下することに関する研究例は多くある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Karl Arnby, Mohammad Rahmani, Mehri Sanati:Applied Catalysis B, pp.1-7(2004)
【非特許文献2】Masahiko Matsumiya, Woosuck Shin, Fabin Qiu et al: Sensors and Actuators B, pp516-522(2003)
【非特許文献3】Jean-Jacques Ehrhardt, Lionel Colin, Didier Jamois, et al:Sensors and Actuators B, pp117-124(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、オフガス系配管に設けられた再結合器から排出されたガスに含まれた水素の濃度上昇に関する検討が行った。HMDSはSi原子を2個含む鎖状化合物だが、Si原子数が3以上に増えると、図2に示すような環状シロキサン化合物(以下、D類と略す)になる。このD類は、燃焼触媒の被毒物質になり得る。これらのことから、低圧タービンにおけるパッキング部のシール剤に用いた液状パッキングから発生したHMDSが、オフガス系の再結合器に充填された燃焼触媒の触媒毒になり、燃焼触媒の触媒作用が低下して再結合器から排出されるガス中の水素濃度が増大したものと考えられる。原子力発電プラントの安全性を維持するためには、事前に再結合器から排出されるガス中の水素濃度を予測できることが望ましい。
【0010】
本発明の目的は、沸騰水型原子力プラントのオフガス系配管に設けられた再結合器から排出されるガス中の水素濃度を予測する沸騰水型原子力プラントの運転方法,沸騰水型原子力プラント、及び水素濃度の予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するための本発明の特徴は、
(1)沸騰水型原子力プラントの気体廃棄物処理系の排ガス再結合器に流入する排ガスの構成成分の濃度,排ガスの温度,排ガス再結合器内の触媒の状態を示す指標、及び前記触媒の性能に影響を及ぼす物質の流入量を入力する入力装置と、前記入力された情報から排ガス再結合器出口の水素濃度を算出する演算装置と算出した水素濃度を表示する表示装置を備えることである。
【0012】
(2)(1)において好ましくは、入力する排ガスの構成成分が、少なくとも水素,酸素,水蒸気を含むことである。
【0013】
(3)(1)または(2)において好ましくは、排ガス再結合器内の触媒性能の状態を示す指標は、水素酸素再結合反応の活性化エネルギー及び頻度因子,触媒貴金属の添着量,一酸化炭素(CO)化学吸着量の少なくとも一つを含むことである。
【0014】
(4)(1)乃至(3)において好ましくは、流入量を入力する触媒性能に影響を及ぼす物質が有機ケイ素化合物であることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オフガス系配管に設けられた再結合器から排出されるガス中の水素濃度を予測することができるため、原子力発電プラントの安全性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子力プラントの構造図である。
【図2】環状シロキサンの化学構造を示す説明図である。
【図3】実施例1の沸騰水型原子力プラントに設ける水素濃度予測装置を示す構成図である。
【図4】水素と酸素の再結合反応の試験に用いた再結合反応試験装置を示す構成図である。
【図5】再結合器に用いる触媒に対する有機ケイ素の影響評価を行うための有機ケイ素試験装置を示す構成図である。
【図6】図5に示した有機ケイ素試験装置を用いた評価試験の結果を示し、出口水素濃度の時間変化を示す図である。
【図7】仮想の原子力プラントの起動時の出口水素濃度の予測例を示す図である。
【図8】仮想の原子力プラントの定格運転時の出口水素濃度の予測例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施例で具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)を、図1を用いて説明する。本実施例のBWRプラント137は、原子炉,低圧タービン104,復水器106,オフガス系配管131,再結合器(再結合装置)101を備えている。原子炉は、原子炉圧力容器105及び原子炉圧力容器105内に配置した炉心134を備える。核燃料物質を含む複数の燃料集合体111が炉心134に装荷されている。
原子炉には複数の制御棒112が設けられ、これらの制御棒112が炉心に出し入れされることによって原子炉の出力が制御される。
【0019】
高圧タービン(図示せず)及び低圧タービン104が主蒸気配管109によって原子炉圧力容器105に接続される。低圧タービン104は、高圧タービンの下流に配置されて復水器106に設置される。低圧タービン104のパッキング部にシール材として液状パッキングが用いられる。復水器106に接続された給水配管110が原子炉圧力容器105に接続される。給水ポンプ107が給水配管110に設けられる。発電機108が高圧タービン及び低圧タービン104の回転軸に連結される。
【0020】
オフガス系配管131が復水器106に接続される。オフガス系配管131には、空気抽出器115,除湿冷却器114,排ガス予熱器120,再結合器101,排ガス復水器113がこの順番で設けられる。再結合器101内には、水素と酸素の結合反応を促進させる再結合触媒(以下、触媒という)が充填される。本実施例では、この触媒として、多孔性のスポンジ状金属基材上に担体と活性成分を有する触媒(以下、金属触媒という)を用いた例を示す。この活性成分とは、酸素と水素を水に変換可能な活性成分を示し、水素分子を解離して活性化させる成分である貴金属(Pt,Pd,Rh,Ru及びIr)、及び酸素分子を活性化する成分であるAuから選ばれた少なくとも一種で構成される。本実施例では、スポンジ状金属基材上の表面にアルミナ担体を添着し、その上に活性成分として貴金属である白金(Pt)を分散させた金属触媒を例に説明する。なお、本実施例では、再結合器101に金属触媒を充填した例を示すが、担体を粒状または柱状などに成形したものに活性成分を担持した触媒(セラミック触媒)を充填した再結合器101であってもよい。このセラミック触媒の場合にも、活性成分とは、酸素と水素を水に変換可能な活性成分を示し、水素分子を解離して活性化させる成分である貴金属(Pt,Pd,Rh,Ru及びIr)、及び酸素分子を活性化する成分であるAuから選ばれた少なくとも一種で構成される。
【0021】
BWRプラント137の運転中、原子炉圧力容器105内の冷却水が、図示されていない再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)で昇圧され、炉心134に供給される。この冷却水は、燃料集合体111内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、主蒸気配管109を通って、高圧タービン及び低圧タービン104に順次供給され、高圧タービン及び低圧タービン104を回転させる。これらのタービンに連結された発電機108も回転し、電力を発生させる。低圧タービン104から排気された蒸気は復水器106で凝縮されて水になる。復水器106の底部に溜まっている水は、給水として、給水ポンプ107により昇圧され、給水配管110を通って原子炉圧力容器105に供給される。
【0022】
復水器106内のガスが、空気抽出器115によって吸引され、オフガス系配管131内に排出される。炉心134内の冷却水は、核分裂によって発生する放射線(中性子及びγ線等)を照射されることによって水素及び酸素に分解される。この水素及び酸素は、炉心134で発生する蒸気に随伴し、高圧タービン及び低圧タービン104を経て復水器106に排出される。復水器104に排出された水素及び酸素も、空気抽出器の吸引作用により、オフガス系配管131に排出される。
【0023】
復水器104から排出された水素及び酸素を含むガスは、オフガス系配管131を通って流れ、除湿冷却器114に到達する。ガスに含まれた水分が除湿冷却器114で除去され、水分が取り除かれたガスが排ガス予熱器120で所定温度まで加熱される。再結合器101内の触媒による水素と酸素の結合反応は温度が高いほど促進されるので、排ガス予熱器120でのガスの加熱は再結合器101内での水素と酸素の結合反応を促進させることになる。温度が上昇して排ガス予熱器120から排出されたガスは、再結合器101に供給される。ガスに含まれている水素と酸素が、再結合器101内の触媒の作用によって再結合され、水になる。このため、再結合器101から排出されるガスに含まれる水素の濃度が許容範囲内に低減される。再結合器101から排出されたガスは、オフガス系配管131に設けられた冷却器(図示せず)にて冷却され、ガスに含まれている水分が除去される。その後、ガスは、活性炭吸着装置(図示せず)に供給されてガスに含まれている放射性物質が除去されて排出される。
【0024】
次に、本実施例の沸騰水型原子力プラントの再結合器101から排出されるガス中の水素濃度(以下、出口水素濃度という)を予測する水素濃度予測装置7について、図3を用いて説明する。水素濃度予測装置7は、必要なデータを操作者が入力する入力装置1と、この入力装置1から入力されデータに基づいて出口水素濃度などを演算する演算装置2と、入力装置1から入力されたデータを表示し、かつ、演算装置2で演算された結果を表示する表示装置3を備える。入力装置1が演算装置2に接続され、演算装置2が表示装置3に接続される。水素濃度予測装置7は、より好ましくは、演算装置2の演算結果を記憶するデータ記憶装置6を有する。このデータ記憶装置6は、演算装置2に接続される。
【0025】
入力装置1は、キーボードやマウス等の一般的な入力装置で構成することができる。演算装置2は、一般的な情報処理装置(パーソナルコンピュータなど)で構成される。表示装置3は、演算装置2に接続可能なディスプレイやモニタで構成される。データ記憶装置6は、演算装置2に接続可能な記憶装置であり、ハードディスクドライブなどで構成される。これらの入力装置1,演算装置2,表示装置3及びデータ記憶装置6は、上記のような汎用品でなく、水素濃度予測装置7の専用機器として設計されたものであってもよい。
【0026】
操作者が入力装置1から排ガスデータ4と触媒状態データ5を入力すると、排ガスデータ4と触媒状態データ5が演算装置2に入力される。この排ガスデータ4には、再結合器101に流入する排ガスに含まれる水素,酸素,窒素及び水蒸気の各流量のデータと、再結合器101に流入する排ガスの温度のデータと、再結合器101に流入する排ガスに含まれる触媒被毒物質(本実施例では、有機ケイ素)の流量のデータが含まれている。再結合器101に流入する水素流量とは、原子炉にて放射線分解により発生する水素量に等しく、原子炉の出力にほぼ比例しているため、原子炉の出力に基づいて求めることができる。なお、水の放射線分解によって生じた原子炉水中の酸素及び過酸化水素濃度を低減することを目的として、給水系から水素を添加する技術(水素注入)を実施する原子力プラントに対しては、再結合器101に流入する水素流量は、放射線分解によって発生する水素量と水素注入で添加される水素量を考慮した値となる。再結合器101に流入する酸素流量とは、原子炉にて放射線分解により発生する酸素量と、タービン等の真空機器の内部に流入する空気に含まれる酸素量と、気体廃棄物処理系に注入される空気に含まれる酸素量から求めることができる。この放射線分解によって発生する酸素量は、原子炉の出力にほぼ比例する値であるため、原子炉の出力に基づいて求めることができる。再結合器101に流入する窒素流量とは、タービン等の真空機器の内部に流入する空気に含まれる窒素量と、気体廃棄物処理系で混合される空気に含まれる窒素量から求めることができる。再結合器101に流入する排ガスの温度とは、排ガス予熱器120に設定される温度条件によって決まる値であるため、この温度条件に基づいて決定さる。再結合器101に流入する排ガスに含まれる有機ケイ素の流量とは、原子炉内で使用したシール材などに含まれる有機ケイ素化合物の量に基づいて求めることができる。しかしながら、原子炉内で用いたシール材の量を全て把握することは困難であるため、本実施例では、事前に、再結合器101に流入する排ガスをサンプリングし、この排ガスに含まれる有機ケイ素の流量を分析することによって、排ガスに含まれる有機ケイ素の流量を求めることとする。この分析方法としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を適用することができる。
【0027】
触媒状態データ5には、再結合器101に充填される触媒に含まれる活性成分の量、触媒の活性化エネルギー及び頻度因子のデータが含まれている。本実施例では、金属触媒の活性成分として貴金属(Pt)を用いた例を示すため、触媒に含まれる活性成分量とは金属触媒に添加された貴金属添着量となる。なお、触媒状態データ5の活性成分の量として貴金属添着量が含まれる例を示したが、この貴金属添着量の替わりに、触媒における一酸化炭素(CO)化学吸着量のデータであっても良い。触媒の活性化エネルギー及び頻度因子のデータについては、図4に示す再結合反応試験装置16と図5に示す有機ケイ素試験装置17を用いて、事前に求めることができる。ここで、再結合反応試験装置16及び有機ケイ素試験装置17を用いた触媒の活性化エネルギー及び頻度因子のデータの取得方法について説明する。
【0028】
まずは、図4に示す再結合反応試験装置16を用いて、触媒の反応率について説明する。再結合反応試験装置16は、図4に示すように、径25mm,高さ11mmの円盤状に成形された金属触媒を高さ方向に5枚積層させた触媒層11と、反応管12と、断熱材13と、温度測定装置18と、水素流量を測定する水素測定装置19と、除湿器20を備える。反応管12の内部に触媒層11を設置し、反応管12と触媒層11の間に断熱材13が敷き詰められる。この触媒層11は、再結合器101に用いる金属触媒と同じ成分で構成され、本実施例の場合、スポンジ状金属基材上の表面にアルミナ担体を添着し、その上に活性成分として貴金属である白金(Pt)を分散させた金属触媒となる。触媒層11の下流側に、温度測定装置18と、水素測定装置19と、除湿器20が設置される。除湿器20は、水素測定装置19の上流側に設置され、触媒層11から排出されるガスに含まれる水蒸気を取り除く機能を有する。
【0029】
再結合反応試験装置16の上部から水素,酸素,窒素,蒸気を含む反応ガス10を流入させると、反応ガス10は、触媒層11を通過して下流側から排出される。温度測定装置18は、触媒層11から排出されるガスの温度を測定する。また、除湿器20にて水蒸気が取り除かれたガスが水素測定装置19に送られ、水素測定装置19が触媒層11から排出されるガスに含まれる水素の流量(触媒層11を通過した後のガスに含まれる水素の流量、以下、出口水素流量という)を測定する。再結合反応試験装置16に流入する水素流量(以下、入口水素流量という)は、触媒層11に流入する前の反応ガス10に含まれる水素の流量である。この入口水素流量と水素測定装置19で測定した出口水素流量から、(式2)を用いて触媒の反応率を求めることができる。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、触媒の温度は水素の反応量で決まることから、触媒層11の流入する前の反応ガス10に含まれる水素と酸素の流量を複数種類に設定して、再結合反応試験装置16の出口水素流量を、水素測定装置19を用いて測定した。このように、水素と酸素の流量を替えた複数の条件下で試験することによって、複数の温度条件での触媒の反応率を求めることができる。本実施例では、表1に示すように、反応ガス10に含まれる水素と酸素の流量を6つの条件に変更して水素酸素の再結合反応試験を行った。ここで、反応ガス10に含まれる窒素の流量及び反応ガス10の入口温度、流速は、全ての試験条件でほぼ一定となるように設定した。本実施例では、水素と酸素の流量を変更して複数種類の温度条件で触媒の反応率を求めるが、再結合反応試験装置16に流入する反応ガス10の温度(以下、入口温度という)を変化させることによって、複数種類の温度条件での触媒の反応率を求めても良い。さらに、反応ガス10に含まれる水素,酸素及び窒素の各成分の濃度や流量などの試験条件を、実機の原子力プランを模擬するように設定することによって、実機での出口水素濃度の予測精度を向上させることができる。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示す6つの試験条件で実験した水素酸素の再結合反応試験の結果を、表2に示す。表2の「反応率」の「実験値」が、それぞれの試験条件で得られた入口水素流量と出口水素流量に基づいて得られた反応率を示し、表2の「出口温度」の「実験値」が、それぞれの試験条件において温度測定装置18で測定された出口温度を示す。このようにして、複数の温度条件での触媒の反応率と出口温度のデータを取得する。
【0034】
複数の温度条件での反応率が求まれば、アレニウスの式である(式3)から触媒の活性化エネルギーと頻度因子を求めることができる。以下、触媒の活性化エネルギーと頻度因子を求める方法について説明する。
【0035】
【数3】

【0036】
ここで、(式3)に示すEaは活性化エネルギー、Aは頻度因子、Rは気体定数、Tは絶対温度、pは水素の反応次数、qは酸素の反応次数を表す。また、[H2],[O2]はそれぞれ水素,酸素の濃度を表す。フィッティングにより実験結果をよく再現できる触媒の活性化エネルギーEaと、頻度因子Aを設定することで、反応速度の算出が可能となる。
【0037】
水素の反応次数pと酸素の反応次数qについては、化学反応の量論的にはp=1,q=0.5となる。しかしながら、実際の触媒上の反応における各成分濃度の反応への寄与の程度から水素の反応次数pと酸素の反応次数qの値を調整することにより、実機での出口水素濃度の予測精度を向上させることができる。例えば、酸素原子の白金への乖離吸着エネルギーが水素原子よりも大きく、白金表面上にはより多くの酸素原子が吸着していることから、気相の酸素濃度が触媒での反応に対しての寄与が低くなることから、水素の反応次数pの値を1とし、酸素の反応次数qの値を0.5よりも小さくすることで、より正確に実験結果を再現可能である。
【0038】
出口温度の計算方法を以下に示す。水素1molと酸素0.5molから水蒸気1molを生成するときの発熱量は241.8kJ/molである。したがって、上記のアレニウスの(式3)により反応速度が求められるため、触媒に滞留する時間とその時の反応量から発熱量が求まり、その体積を占める気体の比熱で除することにより温度上昇量が求まる。それを反応前の温度に加えることにより、反応後の温度が求まる。なお、分単位よりも長いタイムスケールでの評価を行う場合には、熱伝導に要する時間を無視することが可能であり、上記の平衡状態の計算により十分高精度の予測が可能である。また、本実施例の再結合反応試験装置16のように小規模の体系で放熱の影響が無視できない場合には、触媒から外気への熱伝達を考慮することも可能である。
【0039】
アレニウスの式(式3)を用い、活性化エネルギーEa,頻度因子A,水素の反応次数p及び酸素の反応次数qのパラメータを変化させて、触媒の反応率及び出口温度を算出する。ここで算出された触媒の反応率及び出口温度が、再結合反応試験装置16の実験で得られた触媒の反応率及び出口温度をよく再現するような活性化エネルギーEa,頻度因子A,水素の反応次数p及び酸素の反応次数qが、本実施例の金属触媒における活性化エネルギーEa,頻度因子A,水素の反応次数p及び酸素の反応次数qの値となる。表2には、活性化エネルギーEa=2220,頻度因子A=3600,水素の反応次数p=1.0,酸素の反応次数q=0.2、触媒層から外気への熱伝達係数を約5.8W/m2Kと設定したときに得られる反応率を「反応率」の「計算値」の欄に示し、出口温度を「出口温度」の「計算値」の欄に示し、この値のときに実験値と計算値がよい一致を示した。つまり、本実施例に用いる金属触媒の活性化エネルギーはEa=2220、頻度因子はA=3600となる。
【0040】
【表2】

【0041】
以上のように、操作者は、再結合器101に流入する排ガスデータ4と再結合器101に充填する触媒の状態を示す触媒状態データ5を、事前に取得して、入力装置1に入力することとなる。
【0042】
次に、水素濃度予測装置7(図3)を用いて、騰水型原子力プラントの再結合器101から排出されるガスに含まれる水素濃度(出口水素濃度)を予測する方法について説明する。前述したアレニウスの式(式3)に、被毒物質による活性低下の項を加えた式(式4)を用いることで再結合器101から排出されるガスに含まれる水素濃度を、求めることができる。
【0043】
【数4】

【0044】
(式4)に示すM0は触媒の初期の活性量、Mは時刻tでの触媒の活性量を表す。触媒の活性量Mは本実施例においては以下の方法によって求める。ただし、これに限定するものではない。
【0045】
【数5】

【0046】
【数6】

【0047】
(式5)(式6)に示すCSIL,jは積層された触媒のj層目における有機ケイ素化合物の濃度、XSILは有機ケイ素の付着係数、nは被毒係数、rは回復係数を表す。層数jは触媒が積層された構造の場合は実際の層数と合わせても良いし、計算上仮想的に分割された層でも良い。また、付着係数XSILは流入した有機ケイ素の内、触媒に付着する割合を示し、被毒係数nは触媒に付着した有機ケイ素により白金が失活する割合を示し、回復係数rは失活した白金が活性を回復する割合を示す。これらのパラメータは、実験室規模の触媒層を用い、流入ガス中に有機ケイ素化合物を混入させ、触媒性能が低下するときの出口水素濃度の経時変化を測定することにより、求めることができる。より具体的には、(式4)の算出結果が、試験の出口水素濃度の経時変化を最もよく再現できる付着係数,被毒係数,回復係数を選定することで、該当する触媒の付着係数,被毒係数,回復係数を求めることができる。
【0048】
以下に、図5に示す有機ケイ素試験装置17を用いた、触媒に対する有機ケイ素の影響評価試験について説明する。有機ケイ素試験装置17は、図4に示す再結合反応試験装置16の上流側に、有機ケイ素注入機構14及びシリンジポンプ15を備えた構成を有する。触媒層11は、図4と同様、径25mm,高さ11mmの円盤状に成形された金属触媒を高さ方向に5枚積層させた触媒層である。有機ケイ素試験装置17の上部から流入させる反応ガス10は、水素,酸素,窒素及び水蒸気を含んでいる。この反応ガス10の条件は、水素流量が0.028Nm3/h、酸素流量が0.015Nm3/h、窒素流量が0.011Nm3/h、水蒸気流量:3.9kg/h、反応ガスの入口温度が155℃、線流速が2.8Nm/sとして試験した。また、有機ケイ素化合物としてデカメチルシクロペンタシロキサン(以下、D5という)を用いた。D5の流入速度をパラメータとし3種類の流入速度の試験を行った。D5の3種類の流入速度としては、ケース1が6μL/h、ケース2が1.5μL/h、ケース3が0.75μL/hとする。D5はヘキサンで希釈し、希釈液をシリンジポンプ15にて60μL/hの割合で注入した。図6に各ケースの試験結果と、(式4)〜(式6)を用いて算出した出口水素濃度の経時変化を示す。図6の実線が算出結果であり、各点が試験結果を示す。なお、水素濃度とは全非凝縮性ガス中に対する水素の体積比で表す。各パラメータとしては、活性化エネルギーEa=2220,頻度因子A=3600,水素の反応次数p=1.0,酸素の反応次数q=0.2,有機ケイ素の付着係数XSIL=0.95,被毒係数n=3.7,回復係数r=0.0007の値を用いたときの計算結果が、実験結果をよく再現した。また、M0は触媒の貴金属添着量や一酸化炭素(CO)化学吸着量から設定することができる。
【0049】
以上のようにして設定したパラメータを用いて、実際の原子力プラントの予測を行うことができる。以下に例を示す。本実施例においては、再結合器101の触媒層の寸法を径800mm,層高200mmとした。パラメータは上述した活性化エネルギーEa=2220,頻度因子A=3600,水素の反応次数p=1.0,酸素の反応次数q=0.2,有機ケイ素の付着係数XSIL=0.95,被毒係数n=3.7,回復係数r=0.0007を用いた。有機ケイ素(D5)の流入量としては、3とおりの計算を行い、各流入量はケース1:5×10-4mol/min、ケース2:3×10-4mol/min、ケース3:1×10-4mol/minとした。また、再結合器101に流入するガスの条件としてはプラント起動時を想定し表3のとおりとした。表3では、原子力プラントの起動開始からの経過時間が0−12時間と、12−24時間と、24−36時間と、36−48時間の各々での水素,酸素,窒素,水蒸気の流入量を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
上記の条件を用いてD5の流入量が5×10-4mol/min,3×10-4mol/minまたは1×10-4mol/minのときに出口水素濃度の経時間変化を予測した。
【0052】
予測計算を行った結果例を、図7に示す。図7の横軸が原子力プラントの起動開始からの経過時間、縦軸が出口水素濃度を示す。この結果から、D5の流入量が1×10-4mol/minを超える場合には起動時に水素濃度が上昇する可能性が想定される。したがって、排ガス中の有機ケイ素濃度を分析などにより予め定めておき、さらに触媒の活性を評価したりしておくことで、起動時の健全性を本実施例により評価できる。
【0053】
即ち、操作者は排ガスデータ4としては、水素流量が0.028Nm3/h、酸素流量が0.015Nm3/h、窒素流量が0.011Nm3/h、水蒸気流量:3.9kg/h、入口温度が155℃とし、触媒状態データ5としては、活性化エネルギーEa=2220,頻度因子A=3600,水素の反応次数p=1.0、酸素の反応次数q=0.2を入力装置1に入力し、有機ケイ素濃度としては、5×10-4mol/min(ケース1),3×10-4mol/min(ケース2),1×10-4mol/min(ケース3)の3つのケースを入力装置1に入力する。演算装置5は、これらの入力データを用いて出口水素濃度の経時変化を演算し、演算結果(例えば、図7)を表示装置3に表示することにより、触媒性能の健全性を評価できる。なお、表示装置3は、入力データを表示できる機能を有することで、入力データの正誤を視覚的に確認できるので好ましい。
【実施例2】
【0054】
実施例1では、原子力プラントの起動時における再結合器101の健全性を評価したが、本実施例では定格運転時の長期的な再結合触媒の健全性を評価した例を示す。再結合器101は実施例1と同様に触媒層の寸法を径800mm,層高200mmとした。また、パラメータは活性化エネルギーEa=2220,頻度因子A=3600,水素の反応次数p=1.0,酸素の反応次数q=0.2,有機ケイ素の付着係数XSIL=0.95,被毒係数n=3.7,回復係数r=0とした。ここでは、長期的な評価を行うので、保守性を確保するために回復率rを0としている。それ以外は、実施例1と同じ値である。有機ケイ素(D5)の流入量は3とおりの計算を行い、各流入量はケース1:3×10-7mol/min、ケース2:1×10-7mol/min、ケース3:5×10-8mol/minとした。
【0055】
図8は上記の条件により予測計算を行った結果例を示す。横軸が原子力プラントの起動開始からの経過時間、縦軸が再結合器101から排出されるガスの水素濃度の予測値を示す。ケース1では約400日、ケース2では約1100日で水素濃度の上昇が始まる予測結果となった。保守性を含んでいるため、現実的には水素濃度上昇が起こるのは予測よりも遅くなるが、本結果を元に触媒の点検や交換の周期を設定することが可能である。
【0056】
以上のことから、表示装置3は、予め決められた出口水素濃度(例えば、4%)に達する時間を予測して表示する機能を有していても良い。さらに、表示装置3は、予測された時間が予め決められた時間(例えば、次回点検までの時間)を超えないと判断された場合には、再結合触媒の交換を促す表示をする機能を有しても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 入力装置
2 演算装置
3 表示装置
4 排ガスデータ
5 触媒状態データ
6 データ記憶装置
10 反応ガス
11 触媒層
12 反応管
13 断熱材
14 有機ケイ素注入機構
15 シリンジポンプ
16 再結合反応試験装置
17 有機ケイ素試験装置
101 再結合器
115 空気抽出器
120 排ガス予熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子力プラントの気体廃棄物処理系の排ガス再結合器に流入する排ガスの構成成分の流量,前記排ガスの温度,前記排ガス再結合器内に充填される触媒の状態を示す指標、及び前記触媒の性能に影響を及ぼす被毒物質の流入量を入力する入力装置と、
前記入力装置から入力された情報に基づいて、排ガス再結合器出口の水素濃度を算出する演算装置と、
算出した前記水素濃度または前記水素濃度の時間変化を表示する表示装置を備えることを特徴とする排ガス再結合器の出口水素濃度予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の出口水素濃度予測装置において、
前記入力装置に入力する排ガスの構成成分は、少なくとも水素,酸素,水蒸気を含むことを特徴とする排ガス再結合器の出口水素濃度予測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の出口水素濃度予測装置において、
前記排ガス再結合器内の触媒の状態を示す指標は、水素酸素再結合反応の活性化エネルギー及び頻度因子,前記触媒に含まれる貴金属の添着量,前記触媒の一酸化炭素化学吸着量の少なくとも一つを含むことを特徴とする排ガス再結合器の出口水素濃度予測装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の出口水素濃度予測装置において、
前記触媒の性能に影響を及ぼす被毒物質が有機ケイ素化合物であることを特徴とする排ガス再結合器の出口水素濃度予測装置。
【請求項5】
入力装置と演算装置と表示装置を備える出口水素濃度予測装置を用いた、沸騰水型原子力プラントの気体廃棄物処理系の排ガス再結合器から排出される出口ガス中の水素濃度を予測する水素濃度予測方法であって、
前記出口水素濃度予測装置は、
前記入力装置から入力された前記排ガス再結合器に流入する排ガス情報及び前記排ガス再結合器に充填される触媒の状態を示す触媒情報に基づいて、前記演算装置が前記排ガス再結合器から排出される出口ガス中の水素濃度を予測し、
予測した前記水素濃度または前記水素濃度の時間変化を前記表示装置に表示することを特徴とする水素濃度予測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の水素濃度予測方法において、
前記排ガス情報は、前記排ガス再結合器に流入する前記排ガスに含まれる水素の流量,酸素の流量,水蒸気の流量及び前記触媒の性能に影響を及ぼす被毒物質の流量の情報を含み、
前記触媒情報は、水素酸素の再結合反応の活性化エネルギー及び頻度因子、前記触媒の活性成分量の情報を含み、
前記演算装置は、これらの前記排ガス情報及び前記触媒情報に基づいて、前記排ガス再結合器から排出される前記出口ガス中の水素濃度を予測することを特徴とする水素濃度予測方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水素濃度予測方法において、
前記触媒の活性化成分の情報とは、前記触媒に含まれる貴金属の添着量又は前記触媒の一酸化炭素の化学吸着量の情報のいずれか一方であることを特徴とする水素濃度予測方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の水素濃度予測方法において、
前記触媒の性能に影響を及ぼす被毒物質が有機ケイ素化合物であることを特徴とする水素濃度予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−21777(P2012−21777A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157435(P2010−157435)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】