説明

排ガス浄化用触媒組成物

【課題】 本発明は、有機化合物及びケイ素化合物を含有する排ガスを浄化する際に、浄化性能の経時的な低下が抑制された触媒組成物、該触媒組成物を含む触媒、及び、該触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】 貴金属担持酸化チタン及び/又は貴金属担持ジルコニアと、ゼオライトを組み合わせてなる触媒組成物を用いることにより、触媒の耐シリコン性が大きく改善される。使用するゼオライトの酸量は、0.4ミリモル・NH/g〜1.5ミリモル・NH/gの範囲にあることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒組成物、該触媒組成物を含む触媒、該触媒を使用した排ガスの浄化方法及び、該触媒の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、特に耐シリコン性能の優れた触媒組成物、該触媒組成物を含む触媒、該触媒を使用した排ガスの浄化方法及び、該触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷、塗料、塗装、コーティング、電子材料、プラスチック、ガラス、セラミックスなどの表面処理、シリコーン製造等の幅広い分野で、溶剤や洗浄剤としてベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の有機化合物が使用されており、その一部は排ガスとして放出される。これらの有機化合物には有毒な化合物も含まれ、悪臭や大気汚染の原因となるものもある。従って、これらの有機化合物(VOC,揮発性有機化合物)を含む排ガスを浄化する必要がある。排ガス浄化用触媒としては、従来、有機化合物を酸化して除去する貴金属担持アルミナ触媒が用いられてきた。
【0003】
これら排ガス中には、シリコーン、同熱分解生成成分、シラン類、シロキサン類などの有機ケイ素化合物が含まれていることが多い。有機化合物及び有機ケイ素化合物を含む排ガスの処理に貴金属担持触媒を使用する場合、ケイ素が貴金属を被毒し、触媒活性の低下をもたらす(例えば、非特許文献1参照)。さらに、有機ケイ素化合物自体が有害であるため、その除去も求められている。有機ケイ素化合物は200℃前後で熱分解してヤニなどの粘着性物質を生成し、この粘着性物質が閉塞原因になると報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
排ガスが有機ケイ素化合物を含む場合でも、触媒活性を維持するため、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有したゼオライト、アルミナ、及び、活性炭等の吸着剤を触媒の充填された領域(以下、「後段」とする)よりもガス流通の上流側に設け(以下、吸着剤の充填された領域を「前段」とする)、シリコーンが後段に到達する前に前段で除去するという方法も報告されている(例えば、特許文献1−3参照)。しかし、この方法では反応器に2種類の材料を充填する必要があるため、反応器の構造が複雑となる。さらに、前段は酸化能に乏しいためタール類等の高沸点物質が蓄積しやすく、蓄積した物質が発火して急激な発熱を起こすおそれもある。そこで、単一の材料でしかも長期間活性を保つものが求められている。
【0005】
さらに、有機ケイ素化合物を含む排ガスの処理のため、ゼオライトに貴金属を担持した触媒も報告されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、ゼオライトよりも安価な担体を使用することが工業的に望ましい。細孔径が100Å以下の細孔が全細孔容積の15%以下にした酸化チタンに、白金を担持した触媒が、有機ケイ素化合物による触媒劣化を抑制できるとの報告もある(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
本発明者等は、上記背景技術に鑑み、有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを浄化するための、貴金属を担持したアルミナ及びゼオライトを含む触媒組成物について最近特許出願をした。
【0007】
この様に、有機ケイ素化合物を含有する排ガスを処理するための触媒であって、長期間活性が維持される触媒が依然として求められている。さらに、大量の排ガスを迅速に処理するため、高い空間速度(SV)でも優れた性能を示す触媒が求められている。
【0008】
Pd/ZrO2触媒やPd/TiO2触媒をメタン含有排ガスの浄化に使用することは公知である(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、Pd/ZrO2触媒やPd/TiO2触媒は、有機ケイ素化合物を含有する排ガス処理に使用すると、活性が急速に低下する問題がある。
【非特許文献1】J. Catal., Vol.86, p.187〜200 (1984)(アブストラクト等)
【特許文献1】特開昭59−147623号公報(請求項1、第2頁左上欄第16行〜同頁右上欄第5頁等)
【特許文献2】特開平10−267249号公報([0003]、[0004]等)
【特許文献3】特開平9−85087号公報([0010]等)
【特許文献4】特開2003−290626号公報([請求項1]、[0006]等)
【特許文献5】特開2003−71285号公報([請求項1]、[0004]等)
【特許文献6】特開平11−319559号公報([請求項1]、比較例5等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスの浄化において高い活性を長期間保持する触媒組成物、該触媒組成物を含む触媒、該触媒を使用した排ガスの浄化方法、該触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに具体的な本発明の目的は、貴金属担持の酸化チタン系及び/又は貴金属担持のジルコニア系触媒の耐シリコン被毒性(耐久性)を改良した炭化水素含有ガス浄化触媒を提供することにある。
【0011】
さらに別の本発明の目的は、ハニカム状やフィルター状などガス処理に適した成形体に容易に触媒層を形成できる触媒組成物を提供することにある。
さらに別の本発明の目的は、高SV比でも高い浄化性能を示す触媒を提供することにある。
【0012】
さらに別の本発明の目的は200℃においても、高い活性と寿命を発揮する触媒を提供することにある。
さらに本発明の別の目的は、上記のような性能を示す触媒の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはこれらの課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニア、並びにゼオライトを含む触媒組成物を用いることにより、高い活性が長期間保持されることを見出し、本発明を完成させた。本発明によれば、200℃においても、炭化水素分解に対して高い活性を発揮するとともに、高価なゼオライトの使用量を削減することができる。
【0014】
即ち、本発明は、以下の記載の発明にある。
(1)有機化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒組成物であって、貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニア並びにゼオライトを含む前記触媒組成物。
【0015】
(2)排ガスが有機ケイ素化合物を含有する排ガスである、(1)に記載の触媒組成物。
(3)貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニアと、ゼオライトとの重量比が10:90〜99:1の範囲にある、(1)又は(2)に記載の触媒組成物。
【0016】
(4)貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニアと、ゼオライトとの重量比が10:90:90:10の範囲にある、(1)〜(3)の何れかに記載の触媒組成物。
【0017】
(5)バインダーをさらに含む(1)〜(4)の何れかに記載の触媒組成物。
(6)貴金属がPt、Pd、Rh、Ir、Ru、これらの合金、又はこれらの混合物である(1)〜(5)の何れかに記載の触媒組成物。
【0018】
(7)触媒支持体;と、該触媒支持体上に形成された、(1)〜(6)の何れかに記載の触媒組成物を含む触媒層;とを含む触媒。
(8)触媒層の平均厚みが10〜500μmの範囲にある、(7)に記載の触媒。
【0019】
(9)有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを(7)又は(8)に記載の触媒と150〜500℃の温度で接触し反応させる工程を含む排ガス浄化方法。
(10)貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニア並びにゼオライトを含むスラリーを作成し;該スラリーを支持体に塗布し、乾燥する;各工程を含む、有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒の製造方法。
【0020】
(11)酸化チタン及び/又はジルコニア並びにゼオライトを含むスラリーを作成し;該スラリーを支持体に塗布し、乾燥し;貴金属化合物を含む水溶液を塗布する、各工程を含む、有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の触媒組成物は、従来のものと比較して改善された耐シリコン性を有する。とりわけ180〜200℃の比較的低温でも、有機化合物を酸化除去する能力が高い触媒である。
【0022】
本明細書中で耐シリコン性とは、有機ケイ素化合物を含む排ガスの処理に用いた場合に、触媒性能の経時変化が小さいという性質を指す。具体的には、有機化合物及び有機ケイ素化合物を含む排ガスを触媒に流通させた場合に、有機化合物の除去率の経時的な低下が抑制されていることを指す。有機化合物の除去率は、触媒による処理前後の排ガスに含まれる該有機化合物濃度を用いて、以下の式で表される。
【0023】
【数1】

【0024】
排ガスの浄化とは、排ガス中に含有される有機化合物及び/又はケイ素有機化合物の少なくとも1種の濃度を低減させることを指す。
本発明で有機ケイ素化合物とは、その分子中に少なくとも1つのSi−C結合を有する有機ケイ素化合物をいうが、ハロゲン化ケイ素(一般式XSi;mは1〜2、nは1〜12の整数)等の有機基を含まない化合物も含まれる。
有機ケイ素化合物の例には、式:
SiX4−n
(式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、フェニル基などの有機基であり、XはF、Cl、Br、I、OH、H、アミンから独立に選択され、nは1〜3の整数である)で表されるシラン類をはじめとして、その他シロキサン類、シリル基含有化合物、シラノール基含有化合物シリコーンが挙げられる。ここでシリコーンとは、有機基と結合したケイ素(Si)と酸素(O)とが結合して形成された主鎖を有するオリゴマー及びポリマーおよびこれらの熱分解生成物をいい、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、環状シリコーン、脂肪酸変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン化合物等が含まれる。これら有機ケイ素化合物の少なくとも1種が、気体状、煙状あるいはミスト状として、有機化合物とともに排ガス中に含有され、本発明の触媒組成物により処理される。以下排ガス中に含有される有機ケイ素化合物の濃度を表すのに、Si濃度を用いることがある。
【0025】
本発明の触媒組成物及び触媒に流通させる排ガス中のSi濃度の上限に特に制限はないが、1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは20ppm以下である。上記範囲を超えると、触媒活性が低下しやすい。Si濃度の下限に特に制限はないが、0.01ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上の場合、本発明の効果が検出しやすい。
【0026】
本発明の触媒組成物は、貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニア(以下、成分1と表記する)、並びにゼオライト(以下、成分2と表記する)を必須成分として含むものである。好ましい組成としては、貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニアと、ゼオライトとの均一な混合物であって、具体的には、貴金属を担持した酸化チタン粒子及び/又は貴金属を担持したジルコニア粒子、並びにゼオライト粒子を必須成分とする均一な混合物よりなるものである。
【0027】
本発明で使用される酸化チタン(以下TiO2で表し、チタニアともいう。)として、アナターゼ型又はルチル型酸化チタンが利用できる。とりわけ多孔質であることが好ましく、アナターゼ型が好ましい。アナターゼ型TiO2は、湿式化学法(塩化物あるいは硫酸塩)で、又は四塩化チタンの炎加水分解により製造でき、通常50m/gより大きい比表面積を有する。
【0028】
また本発明で使用される酸化ジルコニウム(以下ZrO2で表わし、ジルコニアともいう。)としては、単斜晶系、正方晶系、立方晶系を問わず、一般に市販されているZrO2粉末、とりわけ比表面積が10m/g以上の多孔質のものが好ましく利用できる。また複合系のZrO2、例えば、ZrO2・nCeO2、ZrO2・nSiO2、ZrO2・nSO4等、も利用できる。
【0029】
該TiO2及びZrO2は共存するゼオライト粒子との接触性向上、支持体上での均質かつ滑らかな触媒層の形成、触媒層のクラック発生防止という観点から、粒子であって、その粒径は1〜100μmの範囲にあるものを使用することが好ましい。原料として100μmを超える大きい粒子は、ボールミルなどで粉砕して使用される。また該TiO2及びZrO2粒子の形状は、併用するゼオライト粒子との混合性と、粒子間の接触性の向上面から、球状が好ましいが、特にこれに限定されるものではない。なお本発明において、特に断らない限り、粒径はレーザー法で測定された2次粒子の平均粒径を指し、形状は二次粒子の形状を指す。
【0030】
本発明において使用されるTiO2及び/又はZrO2粒子には、貴金属、すなわちPt、Pd、Rh、Ir、Ru、これらの合金、又はこれらの混合物から選択されるいずれか1種又は2種以上が担持されている。低温活性の高いものを製造するにはPtが特に好ましく、高温域での使用の場合には、RhあるいはRhと他の貴金属を併用するのが特に好ましい。
【0031】
貴金属の担持には、含浸法及びウォッシュコート法を含む従来公知の各種の方法を用いることができる。
貴金属源は貴金属粒子であっても貴金属化合物であってもよく、貴金属の水溶性塩が好ましい。例えば、好ましい貴金属源として貴金属の硝酸塩、塩化物、アンモニウム塩、アンミン錯体が挙げられる。具体的には、塩化白金酸、硝酸パラジウム、塩化ロジウム、ジニトロジアミノ白金硝酸酸性水溶液が挙げられる。これらの貴金属源は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。Ptの担持手段の例としては、上記貴金属化合物、例えばPt(NH3)2(NO2)2、の水溶液にTiO2あるいはZrO2粒子を含浸し、その後100〜120℃にて乾燥し、400〜600℃にて焼成し、還元することにより、Ptが担持されたTiO2あるいはZrO2粒子(成分1)が得られる。還元方法には水素含有雰囲気中での加熱やヒドラジン等の還元剤による液相での反応が挙げられる。
【0032】
触媒中の貴金属量に特に制限はなく、触媒支持体に形成される触媒層の厚さ等の触媒の形態、並びに、排ガス中の有機化合物の種類、反応温度、及びSV等の反応条件に依存して決定される。典型的には、支持体の種類、例えばハニカムのセル数にもよるが、触媒層1mあたりの貴金属量は0.05〜2.0gの範囲にある。上記範囲未満では排ガス中の有機化合物の除去が充分でなく、上記範囲を超えると経済的でない。成分1中の貴金属量は、0.5〜10wt%の範囲にあることが好ましい。
【0033】
本発明の成分2として使用されるゼオライトは併用するTiO2あるいはZrO2粒子との接触性向上、支持体上での均質かつ滑らかな触媒層の形成、触媒層のクラック発生防止という観点から、粒子状であって、その粒径は1〜100μmの範囲にあるものを使用することが好ましい。また該ゼオライト粒子の形状は、併用するTiO2あるいはZrO2粒子との混合性と、粒子間の接触性の向上面から、球状が好ましいが、特にこれに限定されるものではない。触媒の耐シリコン性を改善するためには、酸性度の高いゼオライトが好ましい。酸性度の高いゼオライトとしては、HY型、X型、及びA型ゼオライトが挙げられる。
【0034】
本明細書において、ゼオライトの酸量は、アンモニア吸着法における160〜550℃でのNH脱離量で表示され、ゼオライト1gあたりの脱離NHのミリモルで表す。本発明で使用されるゼオライトの酸量は、0.4ミリモル/g以上、好ましくは0.5ミリモル/g以上、より好ましくは0.6ミリモル/g以上である。酸量の上限に制限はないが、1.5ミリモル/g以下、好ましくは1.2ミリモル/g以下のゼオライトは容易に入手できる。ゼオライトとして複数の種類の混合物を使用する場合、酸量は各ゼオライトの酸量の重量平均により求められる。
【0035】
本発明で使用されるゼオライトのSiO/Al(モル比)はゼオライトの構造に依存して選択されるが、耐シリコン性の改善のため、1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは5以上であり、50以下、好ましくは30以下である。HY型ゼオライトの場合、SiO/Al(モル比)は5〜50の範囲にある。代表的なA型及びX型ゼオライトのSiO/Al(モル比)は、それぞれ2及び2〜3である。
【0036】
本発明で使用されるゼオライト中のアルカリ金属を酸化物に換算した量及びアルカリ土類金属を酸化物に換算した量の和は、ゼオライトの重量について5wt%以下、好ましくは2wt%以下である。これらの酸化物の含有量が大きいゼオライトを成分1と併用した触媒は、耐シリコン性に劣ることがあるため、含有量が小さいものが好ましい。
【0037】
ここでアルカリ金属を酸化物に換算した量とは、アルカリ金属が全て酸化物として存在すると仮定した場合の量を指す。アルカリ土類金属を酸化物に換算した量も同様に定義される。アルカリ金属を酸化物に換算した量及びアルカリ土類金属を酸化物に換算した量の和の下限に特に制限はないが、換算量の和が0.01wt%以上のゼオライトは容易に入手できる。
【0038】
なお本発明の触媒組成物に用いるゼオライトは、さらに貴金属が担持されていてもよい。この場合、TiOもしくはZrOへの貴金属の担持とゼオライトへの貴金属の担持を同時に行うことができる。例えば、TiO及びゼオライトの両粒子の混合物に貴金属を担持することにより、貴金属担持TiO及び貴金属担持ゼオライトの混合物が得られる。さらに、触媒支持体にTiO及びゼオライトを含む層を形成した後、この層に貴金属を担持してもよい。
【0039】
本発明の触媒組成物は、貴金属担持TiO及び/又は貴金属担持ZrO(成分1)及びゼオライト(成分2)を含む。そして、以下の式:
【0040】
【数2】

【0041】
で表される成分2の割合は、1wt%以上、好ましくは2wt%以上、さらに好ましくは5wt%以上、より好ましくは8wt%以上、さらにより好ましくは10wt%以上であり、90wt%以下、好ましくは80wt%以下である。成分2の割合が上記範囲より小さい場合には、耐シリコン性が充分に改善されないことがある。成分2の割合が上記範囲より大きい場合には、有機化合物の除去が充分でないことがあり、高価なゼオライト量が増えるため経済的でない。
【0042】
本発明の成分2であるゼオライト単独(すなわち貴金属を含まない成分2が100%の触媒)では、排ガス中の有機化合物を酸化する能力は無いが、これを成分1に少量、すなわち2%以上、5%以上、8%以上、10%以上混合すると、成分1あるいは成分2単独の触媒では全く予想できない有機化合物を酸化し、浄化する作用を発揮する。しかも耐シリコン性が極めて向上し、さらには180〜200℃程度の低い温度においても、その作用を発揮する。
【0043】
本発明の触媒組成物は、バインダーをさらに含んでもよい。バインダーを含む場合、後述の触媒製造方法において、ハニカムなどの支持体へ触媒層を形成するのに好ましい。バインダーには特に制限はなく、従来公知のバインダーを使用できる。バインダーの例には、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ケイ酸ゾル、ベーマイト、ジルコニアゾルが挙げられる。
【0044】
本発明は、前述の触媒組成物を含む触媒層を触媒支持体の表面に形成した触媒にも関する。使用する支持体の形状に特に制限はなく、ガス流通時に発生する差圧が小さく、ガスとの接触面積が大きい形状が好ましい。例えば、ハニカム、シート、メッシュ、繊維、粒状、ペレット、ビーズ、リング、パイプ、網、フィルターが含まれる。これら支持体の材質に特に制限はなく、コージェライト、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア、チタニア、チタン酸アルミニウム、SiC,SiN,炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ステンレス、Fe−Cr−Al合金等の金属が挙げられる。支持体の材質としては、耐腐食性及び耐熱性に優れたものが好ましい。ハニカム担体の貫通孔形状(セル形状)は、円形、多角形、コルゲート型等任意の形状でよい。ハニカム担体のセル密度も特に限定されないが、6〜1500セル/平方インチ(0.9〜233セル/cm)の範囲のセル密度であることが、好ましい。
【0045】
触媒層の形成は、例えば以下の方法によって行われる。
(方法1)
まず、貴金属を担持した成分1の粒子、成分2の粒子、及びバインダーを含む水スラリーを作成する。このスラリーを前記支持体に塗布し、乾燥する。塗布方法には特に制限はなく、ウォッシュコートやディッピングを含む公知の方法を用いることができる。塗布後15〜800℃の温度範囲で加熱処理する。また加熱処理を水素ガスなどの還元雰囲気のもとで行っても良い。また成分2のゼオライトは、成分1と同種又は異種の貴金属成分を担持したもの、すなわち成分2として貴金属担持のゼオライトを用いても良い。
【0046】
(方法2)
貴金属を担持していない成分1の粒子、すなわちTiO2もしくはZrO2の粒子と、成分2の粒子と、バインダーを含む水スラリーを、前記製法1の方法にて支持体に塗布し、乾燥し、これに貴金属成分を含む溶液を含浸し、乾燥し、還元処理する。あるいは前記方法1を行った後、方法2により貴金属を更に付加してもよい。この方法2では、貴金属成分は成分1の粒子のみならず、成分2の粒子にも担持されることがあるが、触媒性能に関して全く問題ない。
【0047】
触媒層の平均厚さは、10μm以上、好ましくは20μm以上であり、500μm以下、好ましくは300μm以下である。触媒層の厚さが10μm未満の場合、有機化合物の除去率が充分でない場合があり、500μmを超えると、排ガスが触媒層内部に充分拡散しないため、触媒層中に排ガス浄化に寄与しない部分が生じやすい。所定の厚さの触媒層を得るため、塗布及び乾燥を繰り返してもよい。
【0048】
本明細書で触媒層の厚さは、以下の式で表される:
【0049】
【数3】

【0050】
(式中、Wは支持体1Lあたりの触媒コート量(g/L)であり、TDは触媒層の嵩密度(g/cm)であり、Sは支持体1Lあたりの表面積(cm/L)である。)
本発明の触媒組成及びこれを用いて形成される触媒層の好ましい態様例を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
さらに本発明は、揮発性有機物質(VOC)を含有する排ガスを、本発明の触媒に接触することにより、酸化除去する方法も提供する。排ガスを触媒に接触させる際の接触温度は、除去すべき有機化合物の種類や、除去しようとする程度やSVの条件に応じて、150〜500℃の温度範囲から、選択させることができる。本発明の触媒は有機ケイ素化合物を含有する排ガスの処理に特に好ましい。また実際の使用においては、より一層触媒活性を長期間維持させるため、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有したゼオライト、アルミナ、及び、活性炭等の吸着剤を、触媒の充填された領域(以下、「後段」とする)よりもガス流通の上流側に設け(以下、この吸着剤の充填された領域を「前段」とする)、その後段に本発明の触媒を充填した反応領域を設けた流通式排ガス浄化方法も、好ましい実施態様である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明が以下の実施例に制限されるものではない。
[成分1]
貴金属を担持したTiOを以下の通りにして調製した。
【0054】
TiO粉末(ミレニアム社製、平均粒径1μm、比表面積330m/g)にジニトロジアミノ白金硝酸酸性水溶液を加え、蒸発乾固し、500℃で2時間焼成してPtを9.0wt%担持したTiO粒子(成分1a)及びPtを4.5wt%担持したTiO粒子(成分1b)を得た。
【0055】
また貴金属を担持したZrOを以下の通り調製した。
ZrO粉末(ミレニアム社製、平均粒径1μm、比表面積250m/g)に,TiOと同様の条件にて,Ptをそれぞれ9.0wt%担持したZrO粒子(成分1c)及び4.5wt%担持したZrO粒子(成分1d)を得た。
【0056】
これら成分を以下のように表示することがある。
成分1a; Pt(9.0)/TiO
成分1b; Pt(4.5)/TiO
成分1c; Pt(9.0)/ZrO
成分1d; Pt(4.5)/ZrO
[成分2]
成分2として、HY型ゼオライト(UOP社製,LZY84,比表面積750m/g、平均粒径2μm、SiO2/Al2O3モル比5.9、Na含有量0.02wt%、酸量0.8mモル/g)を使用した(これを以下成分2aと表示する)。
【0057】
前記HY型ゼオライトにジニトロジアミノ白金硝酸酸性水溶液を加え、蒸発乾固し、500℃で2時間焼成してPtを4.5wt%担持したHY型ゼオライト粒子(以下これを成分2bと表示する)を得た。以下これら成分を以下のように表示することがある。
【0058】
成分2a; Pt(0)/HY
成分2b; Pt(4.5)/HY
[触媒の調製]
上記成分1と成分2を用いて、以下の触媒を調製した。
【0059】
<触媒1>
100gの成分1a、100gの成分2a、及びバインダーとしての50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。このスラリーを、支持体であるコージェライト製ハニカム(日本碍子社製、200セル/平方インチ)にウォッシュコート法により塗布し、過剰のスラリーを圧縮空気で吹き払い、温度150℃の乾燥器中で、3時間乾燥した後、水素雰囲気中で500℃において1時間加熱し、本発明のハニカム型触媒(触媒1)を得た。
【0060】
<触媒2>
100gの成分1b、100gの成分2a、及び50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下触媒1と同じ方法にて、本発明のハニカム型触媒(触媒2)を得た。
【0061】
<触媒3>
50gの成分1a、150gの成分2a、及び50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下触媒1と同じ方法にて、本発明のハニカム型触媒(触媒3)を得た。
【0062】
<触媒4>
100gの成分1c、100gの成分2a、及び50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下、触媒1と同じ方法にて、本発明のハニカム型触媒(触媒4)を得た。
【0063】
<触媒5>
200gの成分1bと50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下、触媒1と同じ方法にて、本発明外の比較ハニカム型触媒(触媒5)を得た。
【0064】
<触媒6>
200gの成分1dと50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下、触媒1と同じ方法にて、本発明外の比較ハニカム型触媒(触媒6)を得た。
【0065】
<触媒7>
200gの成分2aと50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下、触媒1と同じ方法にて、本発明外の比較ハニカム型触媒(触媒7)を得た。
【0066】
<触媒8>
200gの成分2bと50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下、触媒1と同じ方法にて、本発明外の比較ハニカム型触媒(触媒8)を得た。
【0067】
(参考例)
<触媒9>
γ―アルミナ粉(日揮ユニバーサル社製、平均粒径5μm、比表面積150m/g)に、ジニトロジアミノ白金硝酸酸性水溶液を加えて、蒸発乾固した後、500℃で2時間加熱してPt担持量9.0wt%のPt担持アルミナ粒子を得た。該アルミナ粒子の100gと、前記成分2aの100gと、バインダーとしてのベーマイト50gとを混合し、この混合物を25gの60%硝酸と725gのイオン交換水に加え、スラリーを作成した。以下触媒1と同じ方法にて、本発明外の参考ハニカム型触媒(触媒9)を得た。
【0068】
触媒1〜触媒9の何れについても、成分1及び2の重量の和に対するバインダーの重量は、20wt%であった。使用したコージェライトの表面積(S)は22400cm/Lであった。触媒層の嵩密度(TD)は0.8g/cmと仮定した。
【0069】
[排ガス処理試験1]
触媒1−9を各々反応器に充填し、400分間の排ガス処理試験を行った。試験は、触媒層を300℃に保ち、ガス空間速度(SV):50000hr−1で排ガスを反応器に流通させ、反応器から出るガスの組成を分析することによって行った。本明細書中では、排ガス流量/支持体体積をSVとした。未処理の排ガス中のMEK濃度は反応器入口でガスをサンプリングして測定し、処理後の排ガス中のMEK濃度は反応器出口でサンプリングして測定した。
【0070】
反応器に流通させた排ガスの組成は、以下の通りである。
メチルエチルケトン(MEK) ;500ppm
ジメチルシロキサン ;Siとして2.5ppm
水 ;2vol%
空気 ;残部
[排ガス処理試験2]
触媒層を200℃に保持した以外は、排ガス処理試験1と同じ条件にて排ガス処理試験を行い、ガス分析を行った。
【0071】
(試験結果)
本発明の触媒である触媒1及び触媒4、また比較として触媒5及び6、参考として触媒9について、シリコーン化合物(ジメチルシロキサン)を含んだ排ガスを連続的に400分間流した試験(排ガス処理試験1及び同試験2)での、MEK除去率の経時変化を図1(300℃)及び図2(200℃)に示す。また表2には、同試験における触媒1〜9の400分後におけるMEK除去率を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
図1及び図2並びに表2に示されているように、Pt(9.0)/TiOにゼオライトを混合(重量割合;50:50)した触媒組成物で構成された触媒層をハニカム型に成形した触媒1(実施例1)は、活性低下が少なく、400分後の300℃でのMEK除去率は92%、200℃でのそれは68%であり、優れた耐シリコン性を発揮した。また、Pt(9.0)/ZrOにゼオライトを混合(重量割合;50:50)した触媒組成物で構成された触媒層をハニカム型に成形した触媒4(実施例4)も、活性低下が少なく、400分後の300℃でのMEK除去率は93%、200℃でのそれは55%であり、優れた耐シリコン性を発揮した。さらに、表2に示されているように、Pt(4.5%)/TiOとゼオライトを混合(重量割合;90:10)してなる触媒2(実施例2)及びPt(9.0%)/TiOとゼオライトを混合(重量割合;25:75)してなる触媒3(実施例3)も、活性低下が少なく、400分後においても高いMEK除去率を示した。
【0074】
一方、Pt(4.5%)/TiOのみで構成された触媒層をハニカム型に成形した触媒5(比較例1)、Pt(4.5%)/ZrOのみで構成された触媒6(比較例2)は、300℃及び200℃のいずれも、シリコーン含有排ガスにより、急激に活性が低下し、400分後ではMEK除去率は5%であった(図1、図2)。またゼオライトのみで構成された触媒層を担持した触媒7(比較例3)は、MEK除去活性を示さなかった(表2)。
【0075】
また、本発明の触媒1及び4のいずれもが、Pt(9.0)/Alにゼオライトを混合(重量割合;50:50)した触媒組成物で構成された触媒層をハニカム型に成形した参考触媒1(参考例1)の300℃でのMEK除去率90%、200℃での41%よりも優れた結果を示した。
【0076】
<触媒10>の製造
100gの成分1b、100gの成分2b、及びバインダーとしての50gのシリカゾルを混合し、この混合物を475gのイオン交換水の混合液?に加え、スラリーを作成した。このスラリーを、支持体であるコージェライト製ハニカム(日本碍子社製、200セル/平方インチ)にウォッシュコート法により塗布し、過剰のスラリーを圧縮空気で吹き払い、乾燥器中にて温度150℃で、3時間乾燥した後、水素雰囲気中で500℃において1時間加熱し、本発明のハニカム型触媒(触媒10)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明では、貴金属担持酸化チタン及び/又は酸化ジルコニウムにゼオライトを混合することにより、触媒の耐シリコン性が改善される。従って、本発明の触媒は長期間性能が維持され、高いSVでも使用できる。とりわけ200℃のような比較的低い温度においても、高い活性を発揮するため、経済的であり、用途も広い。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、温度300℃での各種の触媒のMEK除去率の経時変化を示す。
【図2】図2は、温度200℃での各種の触媒のMEK除去率の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒組成物であって、貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニア並びにゼオライトを含む前記触媒組成物。
【請求項2】
排ガスが有機ケイ素化合物を含有する排ガスである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニアと、ゼオライトとの重量比が10:90〜99:1の範囲にある、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニアと、ゼオライトとの重量比が10:90:90:10の範囲にある、請求項1〜3の何れかに記載の触媒組成物。
【請求項5】
バインダーをさらに含む請求項1〜4の何れかに記載の触媒組成物。
【請求項6】
貴金属がPt、Pd、Rh、Ir、Ru、これらの合金、又はこれらの混合物である請求項1〜5の何れかに記載の触媒組成物。
【請求項7】
触媒支持体;と、
該触媒支持体上に形成された、請求項1〜6の何れかに記載の触媒組成物を含む触媒層;と
を含む触媒。
【請求項8】
触媒層の平均厚みが10〜500μmの範囲にある、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを請求項7又は8に記載の触媒と150〜500℃の温度で接触し反応させる工程を含む排ガス浄化方法。
【請求項10】
貴金属を担持した酸化チタン及び/又は貴金属を担持したジルコニア並びにゼオライトを含むスラリーを作成し;
該スラリーを支持体に塗布し、乾燥する;
各工程を含む、
有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒の製造方法。
【請求項11】
酸化チタン及び/又はジルコニア並びにゼオライトを含むスラリーを作成し;
該スラリーを支持体に塗布し、乾燥し;
貴金属化合物を含む水溶液を塗布する、
各工程を含む、
有機化合物及び有機ケイ素化合物を含有する排ガスを浄化するための触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−314867(P2006−314867A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137407(P2005−137407)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000226219)日揮ユニバーサル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】