説明

排ガス浄化用触媒

【課題】優れた排ガス浄化性能を有している排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】本発明の排ガス浄化用触媒は、一般式Aij・p(D2-q-rqr3)で表される第1複合酸化物及び一般式(Al2-x-yxy)O3で表される第2複合酸化物の少なくとも一方と、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の塩、アルカリ土類金属を含んだ有機金属化合物、アルカリ土類金属の単純酸化物及びこれらの混合物からなる群より選択されるアルカリ土類金属又はその化合物とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等に対する排ガス規制が強化されてきている。これに対応するため、排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)等をより効率的に浄化するための種々の排ガス浄化用触媒が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「希土類元素とアルカリ土類元素と貴金属とを含み、前記希土類元素の一部と前記アルカリ土類元素の一部とは複合酸化物を形成し、この複合酸化物と前記貴金属の一部とは固溶体を形成していることを特徴とする排ガス浄化用触媒」が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「希土類元素とアルカリ土類元素とジルコニウムと貴金属とを含み、希土類元素とジルコニウムとの和に対するアルカリ土類元素の原子比は10原子%以上であり、希土類元素の一部とジルコニウムの一部とはアルカリ土類元素の少なくとも一部と複合酸化物を形成し、この複合酸化物と貴金属の一部とは固溶体を形成していることを特徴とする排ガス浄化用触媒」が記載されている。
【0005】
更に、特許文献3には、「複合酸化物を含む触媒組成物であって、前記複合酸化物は、前記複合酸化物に対して、酸化雰囲気下で固溶し、還元雰囲気下で析出する遷移元素(白金族元素を除く)を含んでいることを特徴とする、触媒組成物」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−130444号公報
【特許文献2】特開2006−346587号公報
【特許文献3】国際公開第2008/096575号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能については、更なる改良の余地がある。そこで、本発明は、優れた排ガス浄化性能を有している排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、一般式Aij・p(D2-q-rqr3)で表される第1複合酸化物及び一般式(Al2-x-yxy)O3で表される第2複合酸化物の少なくとも一方と、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の塩、アルカリ土類金属を含んだ有機金属化合物、アルカリ土類金属の単純酸化物及びこれらの混合物からなる群より選択されるアルカリ土類金属又はその化合物とを含み、元素Aは、1価の元素、2価の元素及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素であり、元素Dは、Al又はAlと白金族元素を除く遷移金属元素との組み合わせであり、元素Eは白金族元素を除く遷移金属元素であり、元素Gは白金族元素であり、元素Jは白金族元素を除く遷移金属元素であり、元素Lは白金族元素であり、i及びjは、一般式Aijで表される酸化物における前記元素Aの価数がkであるときにki=2jを満たす最小の自然数の組合せであり、pは正の数であり、qは0<q<2を満たしており、rは0<r<2を満たしており、xは0<x<2を満たしており、yは0<y<2を満たしている排ガス浄化用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、優れた排ガス浄化性能を有している排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】排ガス浄化用触媒の粉末X線回折プロファイルの一例を示すグラフ。
【図2】実施例に係る排ガス浄化用触媒のSEM写真。
【図3】比較例に係る排ガス浄化用触媒のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の態様について説明する。なお、ここで「複合酸化物」とは、複数の酸化物を単に物理的に混合したものではなく、複数の酸化物が固溶体を形成しているものを意味することとする。また、「アルカリ土類金属元素」には、Be及びMgが含まれるものとする。
【0012】
本発明の一態様に係る排ガス浄化用触媒は、一般式Aij・p(D2-q-rqr3)で表される第1複合酸化物及び一般式(Al2-x-yxy)O3で表される第2複合酸化物の少なくとも一方と、アルカリ土類金属又はその化合物とを含んでいる。そして、このアルカリ土類金属又はその化合物は、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の塩、アルカリ土類金属を含んだ有機金属化合物、アルカリ土類金属の単純酸化物及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0013】
まず、一般式Aij・p(D2-q-rqr3)で表される第1複合酸化物について説明する。pは、後述するように、一般式 Aij で表される部分と一般式D2-q-rqr3で表される部分とのモル比を表している。
【0014】
この第1複合酸化物は、XYO型の複合酸化物である。即ち、この第1複合酸化物の組成は、一般式 Xlmn(l,m及びnは正の数)により表すこともできる。ここで、元素Xと元素Yとは、典型的には、単位格子中で異なるサイトを占めている。そして、元素Xは元素Aであり、元素Yは、元素D、E及びGの組合せである。即ち、この第1複合酸化物は、典型的には、XYO型の複合酸化物におけるYに対応したサイトの一部が元素Dにより占有され、他の一部が元素Eにより占有され、残りの部分が元素Gにより占有された化合物である。
【0015】
元素Aは、1価の元素、2価の元素及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素である。元素Aは、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素である。元素Aは、典型的には、白金族元素以外の元素である。
【0016】
1価の元素としては、例えば、Li、Na及びKなどのアルカリ金属元素を使用する。
【0017】
2価の元素としては、例えば、Be、Mg及びCaなどのアルカリ土類金属元素を使用する。或いは、2価の元素として、Co、Ni、Cu及びZnなどの2価の遷移金属元素を使用してもよい。
【0018】
希土類元素としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuを使用する。
【0019】
典型的には、元素Aは、アルカリ土類金属元素、特にはMgを含んでいる。例えば、元素Aは、Mg、Mgと他の2価の元素との組み合わせ、又は、Mgと1価の元素との組み合わせである。
【0020】
元素Dは、Alであるか、又は、Alと遷移金属元素との組み合わせである。元素Dは、雰囲気の組成が変化することに伴う価数の変化を生じないか又はこの価数の変化が極めて小さい元素である。元素Dは、第1複合酸化物の結晶構造を保持する役割を担っている。即ち、元素Dは、雰囲気の組成が変化することに伴う第1複合酸化物の結晶構造の変化を抑制する役割を担っている。
【0021】
元素Dが含み得る遷移金属元素は、後述する元素E及びGとは異なった元素である。また、この遷移金属元素は、典型的には、白金族元素以外の元素である。この遷移金属元素は、例えば、Ti、V、Cu又はZnである。元素Dは、複数の遷移金属元素を含んでいてもよい。典型的には、元素DはAlである。
【0022】
元素Eは、白金族元素を除く遷移金属元素である。元素Eは、雰囲気の組成が変化することに伴う価数の変化を生じ易い。
【0023】
元素Eは、第1複合酸化物中に固溶している。元素Eの少なくとも一部は、還元雰囲気において、第1複合酸化物から析出する。還元雰囲気及び酸化雰囲気における元素Eの挙動については、後で詳しく説明する。
【0024】
元素Eは、排ガス浄化反応を触媒する活性成分としての役割を担っている。元素Eは、例えば、Cr、Mn、Fe、Co及びNi等の2価及び3価の原子価をとり得る遷移金属元素である。元素Eは、複数の元素を含んでいてもよい。典型的には、元素EはFeである。
【0025】
元素Gは、白金族元素である。元素Gは、雰囲気の組成が変化することに伴う価数の変化を生じ易い。
【0026】
元素Gは、第1複合酸化物中に固溶している。元素Gの少なくとも一部は、還元雰囲気において、第1複合酸化物から析出する。還元雰囲気及び酸化雰囲気における元素Gの挙動については、後で詳しく説明する。
【0027】
元素Gは、還元雰囲気における元素Eの析出を促進する役割を担っている。また、元素Gは、排ガス浄化反応を触媒する活性成分としての役割を担っている。元素Gは、例えば、Pd、Pt又はRhである。元素Gは、複数の白金族元素を含んでいてもよい。典型的には、元素GはPdである。
【0028】
上記pは、正の数であり、第1複合酸化物において一般式 Aij で表される部分と一般式D2-q-rqr3で表される部分とのモル比を表している。後述するように、第1複合酸化物がとる結晶相は、pの大きさに応じて変化する。pは、自然数であってもよく、自然数でなくてもよい。
【0029】
pは、典型的には、1≦p≦9を満たしている。この場合、第1複合酸化物は、スピネル型結晶相、マグネトプランバイト型結晶相、アルミナ型結晶相、又はこれらの混合相を有した複合酸化物である。
【0030】
例えば、1≦p≦3の場合、第1複合酸化物は、主な結晶相としてスピネル型結晶相を有した複合酸化物である。4≦p≦6の場合、第1複合酸化物は、主な結晶相として、スピネル型結晶相、マグネトプランバイト型結晶相及びアルミナ型結晶相の混合相を有した複合酸化物である。7≦p≦9の場合、第1複合酸化物は、主な結晶相として、アルミナ型結晶相を有した複合酸化物である。
なお、第1複合酸化物は、pが異なる複数の複合酸化物の混合物であってもよい。
【0031】
上記i及びjは、一般式Aijで表される酸化物における元素Aの価数がkであるときにki=2jを満たす最小の自然数の組合せである。例えば、元素Aが2価である場合(k=2である場合)は、(i,j)=(1,1)である。また、元素Aが1価である場合(k=1である場合)は、(i,j)=(2,1)である。なお、一般式Aij で表される部分は、酸素の一部が欠損していてもよい。即ち、上記の「ki=2j」なる等式は、数学的な厳密さで満たされていなくてもよい。
【0032】
上記qは0<q<2を満たしており、上記rは0<r<2を満たしている。即ち、第1複合酸化物は、元素D、元素E及び元素Gの全てを必須成分として含んでいる。
【0033】
上記qは、例えば、0<q≦1.2を満たしている。qが小さいと、元素Eの触媒活性を十分に発現させられない場合がある。qが大きいと、第1複合酸化物の結晶構造が不安定となる場合がある。
【0034】
上記rは、例えば、0<r≦0.5を満たしている。rが小さいと、還元雰囲気において元素Eが析出し難くなると共に、元素Gの触媒活性を十分に発現させられない場合がある。rが大きいと、第1複合酸化物の結晶構造が不安定となる場合がある。
【0035】
第1複合酸化物としては、典型的には、上記一般式においてi=j=p=1である複合酸化物を使用する。この複合酸化物は、一般式A(D2-q-rqr)O4で表される化合物であり、スピネル型の結晶構造を有している。この化合物としては、例えば、式MgAl2-q-rFeqPdr)O4で表される化合物が挙げられる。
【0036】
第1複合酸化物の例としては、MgO(Al1.588Fe0.397Pd0.0153)即ちMgAl1.588Fe0.397Pd0.0154、MgO(Al0.9925Fe0.9925Pd0.0153)即ちMgAl0.9925Fe0.9925Pd0.0154、及びMgO・1.1(Al1.589Fe0.397Pd0.0143)等で表される化合物が挙げられる。
【0037】
なお、第1複合酸化物は、酸素の一部が欠損していてもよい。即ち、第1複合酸化物は、理論構成比とは異なった組成を有していてもよい。
また、この触媒は、元素Gの単体又はその化合物を更に含んでいてもよい。元素Gの単体又はその化合物を触媒に含有させることにより、例えば、触媒の初期性能を向上させることが可能となる。
【0038】
次に、一般式(Al2-x-yxy)O3で表される第2複合酸化物について説明する。
【0039】
元素Jは、白金族元素を除く遷移金属元素である。元素Jは、雰囲気の組成が変化することに伴う価数の変化を生じ易い。
【0040】
元素Jは、第2複合酸化物中に固溶している。元素Jの少なくとも一部は、還元雰囲気において、第2複合酸化物から析出する。還元雰囲気及び酸化雰囲気における元素Eの挙動については、後で詳しく説明する。
【0041】
元素Jは、例えば、Mn、Fe、Co及びNi等の3d軌道に最外殻電子を有した元素である。元素Jは、複数の元素を含んでいてもよい。典型的には、元素JはFeである。
【0042】
元素Lは、白金族元素である。元素Lは、雰囲気の組成が変化することに伴う価数の変化を生じ易い。
【0043】
元素Lは、第2複合酸化物中に固溶している。元素Lの少なくとも一部は、還元雰囲気において、第2複合酸化物から析出する。還元雰囲気及び酸化雰囲気における元素Lの挙動については、後で詳しく説明する。
【0044】
元素Lは、排ガス浄化反応を触媒する活性成分としての役割を担っている。元素Lは、例えば、Pd、Pt又はRhである。元素Lは、複数の白金族元素を含んでいてもよい。典型的には、元素LはPdである。
【0045】
上記xは0<x<2を満たしており、上記yは0<y<2を満たしている。即ち、第2複合酸化物は、Al、元素J及び元素Lの全てを必須成分として含んでいる。xが大きいと、第2複合酸化物の結晶構造が不安定となる場合がある。yが大きいと、元素Lのシンタリングが生じ易くなる可能性がある。
【0046】
第2複合酸化物は、アルミナAl23 に元素J及び元素Lが固溶した化合物である。この第2複合酸化物は、例えば、γ、δ、θ、α又はκ−アルミナと同形である。なお、この第2複合酸化物は、酸素の一部が欠損していてもよい。
【0047】
また、この触媒は、元素Lの単体又はその化合物を更に含んでいてもよい。元素Lの単体又はその化合物を触媒に含有させることにより、例えば、触媒の初期性能を向上させることが可能となる。
【0048】
元素Eと元素Jとの合計量は、排ガス浄化用触媒(基材を除く)の単位質量を基準として、例えば、0.1質量%乃至14質量%の範囲内とする。
【0049】
元素Gと元素Lとの合計量は、排ガス浄化用触媒(基材を除く)の単位質量を基準として、例えば、0.01質量%乃至10質量%の範囲内とする。
【0050】
アルカリ土類金属又はその化合物は、上述したように、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の塩、アルカリ土類金属を含んだ有機金属化合物、アルカリ土類金属の単純酸化物及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0051】
アルカリ土類金属の塩は、例えば、アルカリ土類金属の無機塩又は有機塩である。アルカリ土類金属の無機塩としては、例えば、その硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩及び塩化物が挙げられる。アルカリ土類金属の有機塩としては、例えば、その酢酸塩、シュウ酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。
【0052】
アルカリ土類金属を含んだ有機金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属のアルコキシドが挙げられる。アルカリ土類金属のアルコキシドとしては、例えば、そのアルコラート及びアルコキシアルコラートが挙げられる。
【0053】
これら単体又は化合物を構成しているアルカリ土類金属元素は、例えば、Mg、Ca、Sr又はBaである。典型的には、このアルカリ土類金属元素はBaである。
【0054】
このアルカリ土類金属元素は、元素Eと元素Gとの合金化に起因した元素Gの触媒活性の低下を抑制する役割を担っている。また、このアルカリ土類金属元素は、元素Jと元素Lとの合金化に起因した元素Lの触媒活性の低下を抑制する役割を担っている。還元雰囲気及び酸化雰囲気におけるアルカリ土類金属又はその化合物の挙動については、後で詳しく説明する。
【0055】
このアルカリ土類金属元素は、典型的には、排ガス浄化用触媒中にほぼ均一に分散させる。こうすると、アルカリ土類金属元素と、元素E及び元素G、及び/又は、元素J及び元素Lとの接触が生じ易くなる。それゆえ、こうすると、元素Eと元素Gとの合金化及び/又は元素Jと元素Lとの合金化に起因した触媒活性の低下をより効果的に抑制することが可能となる。アルカリ土類金属元素のこのような分布を可能とする方法の例については、後で説明する。
【0056】
なお、この排ガス浄化用触媒において、第1複合酸化物、第2複合酸化物、及びアルカリ土類金属又はその化合物の各々は、典型的には、粒子の形態で存在している。そして、第1複合酸化物及び/又は第2複合酸化物からなる第1粒子は、典型的には、アルカリ土類金属又はその化合物からなる第2粒子を担持している。この第1粒子の粒径は、典型的には、第2粒子の粒径と比較してより大きい。
【0057】
本発明者らは、この排ガス浄化用触媒が、高温条件下において雰囲気の組成を変化させた場合に、以下のような状態変化を示すと考えている。なお、ここで「高温条件」とは、例えば「1000℃」を意味している。
【0058】
以下では、一例として、排ガス浄化用触媒が第1複合酸化物を含んでいる場合について説明する。第1複合酸化物には、上述したように、元素Eと元素Gとの双方が固溶している。
【0059】
まず、この排ガス浄化用触媒を高温条件下で低酸素濃度雰囲気に晒した場合、例えばエンジンに多量の燃料を供給し続けている場合に起こり得る状態変化について説明する。即ち、この排ガス浄化用触媒を高温還元雰囲気に晒した場合に起こり得る状態変化について説明する。
【0060】
この場合、上述したように、元素Eの少なくとも一部及び元素Gの少なくとも一部が第1複合酸化物から析出する。析出した元素Eの少なくとも一部は、元素Eの単体からなる粒子を形成する。同様に、析出した元素Gの少なくとも一部は、元素Gの単体からなる粒子を形成する。これら粒子は、排ガス浄化反応を触媒する活性成分として機能する。これら粒子は、一般に粒径が極めて小さいため、優れた活性を発揮し得る。
【0061】
次に、この排ガス浄化用触媒を高温条件下で高酸素濃度雰囲気に晒す。即ち、この排ガス浄化用触媒を高温酸素雰囲気に晒す。例えば、エンジンへの燃料供給を停止する。こうすると、第1複合酸化物から析出した元素Eの少なくとも一部と元素Gの少なくとも一部とは、第1複合酸化物中に再度固溶する。
【0062】
次いで、この排ガス浄化用触媒を再び還元雰囲気に晒すと、先に述べたのと同様に、元素Eの少なくとも一部及び元素Gの少なくとも一部が第1複合酸化物から析出する。これら元素は、先に述べたのと同様に、優れた触媒活性を示し得る。
【0063】
このように、この排ガス浄化用触媒は、これを取り巻く雰囲気を高温還元雰囲気と高温酸化雰囲気との間で交互に変化させると、この雰囲気の変化に応じて、第1複合酸化物からの元素E及びGの析出と、第1複合酸化物への元素E及びGの固溶とを繰り返す。従って、この触媒は、長期間に亘って優れた排ガス浄化性能を発揮することが可能である。
【0064】
ところで、本発明者らは、高温還元雰囲気において、第1複合酸化物から析出した元素Eの一部と元素Gの一部とは合金(以下、合金EGともいう)を形成する場合があることを見出している。合金EGを形成している元素Gは、単体としての元素Gと比較して、第1複合酸化物中への固溶を生じ難い。そのため、合金EGからなる粒子が成長し、その結果、元素Gの触媒活性が低下する可能性がある。
【0065】
なお、本発明者らは、この合金化の原因を以下のように推測している。即ち、元素E及びGは、第1複合酸化物に固溶していたため、互いに近接した状態で析出し易い。それゆえ、析出したこれら元素の単体からなる粒子は、互いに接触し易い。従って、これら粒子は、合金化反応を生じ易い。
【0066】
この排ガス浄化用触媒は、上記の通り、アルカリ土類金属又はその化合物を含んでいる。高温酸化雰囲気中において、このアルカリ土類金属又はその化合物が含んでいるアルカリ土類金属元素の少なくとも一部は、合金EGの酸化物が含んでいる元素Eの少なくとも一部と反応して、複合酸化物を形成する。例えば、元素EがFeであり、アルカリ土類金属元素がBaである場合、これら元素は、典型的にはBaFe1219で表される化合物を形成する。
【0067】
元素Eとアルカリ土類金属元素との複合酸化物は、典型的には、熱力学的及び速度論的に安定である。即ち、この複合酸化物を形成している元素Eが、元素Gと合金EGを再度形成することは殆んどない。
【0068】
このように、合金EGが含んでいる元素Eの少なくとも一部はアルカリ土類金属元素との反応に消費されるため、合金EGを形成している元素Gの少なくとも一部は、単体金属又は単一金属酸化物となる。単体金属としての元素G及び単一金属酸化物が含んでいる元素Gは、合金EGを形成している元素Gと比較して、第1複合酸化物中により容易に固溶する。即ち、合金EGを形成していた元素Gの少なくとも一部は、高温還元雰囲気において合金EGを再び形成することなしに、酸化雰囲気において第1複合酸化物中に再固溶する。
【0069】
従って、アルカリ土類金属又はその化合物を使用した場合、これを使用しない場合と比較して、より多くの元素Gが、第1複合酸化物からの析出と第1複合酸化物への固溶とを繰り返すことが可能である。即ち、この場合、元素Gの触媒活性をより長期間に亘って保持することが可能となる。
【0070】
なお、ここでは、第1複合酸化物を使用した場合について説明したが、第2複合酸化物を使用した場合にも同様の効果を得ることができる。本発明者らは、この場合に、元素Lの触媒活性を長期間に亘って保持することが可能であるのは、排ガス浄化用触媒が第2複合酸化物を含んでいる場合も上述したのと同様の状態変化が生じるため、即ち、元素Jとアルカリ土類金属元素とが複合酸化物を形成するためであると考えている。
【0071】
この排ガス浄化用触媒は、例えば、以下の方法により製造する。
【0072】
<第1複合酸化物の製造>
まず、元素Aの化合物と元素Dの化合物と元素Eの化合物とを、水等の溶媒に溶解させる。次に、得られた混合溶液に塩基を加えることにより、共沈物を得る。次いで、この共沈物を乾燥させた後、焼成する。このようにして、元素Aと元素Dと元素Eとを含んだ複合酸化物を得る。ここでは共沈法を利用しているが、その代わりに、含浸法、クエン酸錯体法及びアルコキシド法等を用いてもよい。
【0073】
続いて、得られた複合酸化物に、元素Gの化合物の溶液を含浸させる。次いで、これを乾燥及び焼成して、上記の複合酸化物に元素Gを固溶させる。このようにして、第1複合酸化物を得る。なお、上記の含浸法の代わりに、共沈法、クエン酸錯体法及びアルコキシド法等を用いてもよい。
【0074】
<第2複合酸化物の製造>
まず、アルミナ粉末を、元素Jを含んだ化合物の溶液に浸漬させる。その後、これを乾燥及び焼成して、元素Jが固溶したアルミナ粉末を調製する。ここでは含浸法を利用しているが、その代わりに、共沈法、クエン酸錯体法及びアルコキシド法等を用いてもよい。
【0075】
次に、この粉末を元素Lの化合物の溶液に浸漬させる。その後、これを乾燥及び焼成して、元素Jと元素Lとが固溶したアルミナ粉末を得る。即ち、このようにして、第2複合酸化物を得る。なお、上記の含浸法の代わりに、共沈法、クエン酸錯体法及びアルコキシド法等を用いてもよい。
【0076】
<アルカリ土類金属又はその化合物の導入>
第1複合酸化物及び/又は第2複合酸化物の粉末に、アルカリ土類金属元素の無機塩又は有機塩の溶液を含浸させる。次いで、加熱により溶媒を除去した後、これを焼成する。このようにして、第1複合酸化物及び/又は第2複合酸化物からなる第1粒子上に、アルカリ土類金属又はその化合物からなる第2粒子を担持させる。
【0077】
さらに、得られた粉末を圧縮成形し、必要に応じて、成形物を粉砕する。以上のようにして、ペレット状の排ガス浄化用触媒を得る。
【0078】
なお、アルカリ土類金属又はその化合物の導入は、上記の含浸法の代わりに、共沈法及びアルコキシド法等を用いて行ってもよい。但し、上記の含浸法を用いてアルカリ土類金属又はその化合物を導入すると、アルカリ土類金属元素を、触媒中にほぼ均一に分散させることが可能となる。それゆえ、こうすると、上述したように、元素Eと元素Gとの合金化及び/又は元素Jと元素Lとの合金化に起因した触媒活性の低下をより効果的に抑制することが可能となる。
【0079】
また、上では排ガス浄化用触媒がペレット触媒である場合を例に説明したが、排ガス浄化用触媒は様々な形態をとりうる。例えば、排ガス浄化用触媒は、モノリス触媒であってもよい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0081】
<例1:触媒C1の製造>
107.2gの酢酸マグネシウム四水和物〔(CH3COO)2Mg・4H2O〕と、337.6gの硝酸アルミニウム九水和物〔Al(NO33・9H2O〕と、40.4gの硝酸鉄九水和物〔Fe(NO33・9H2O〕とを、2000mLのイオン交換水に溶解させた。即ち、これら化合物の混合水溶液を、MgとAlとFeとの原子比が1:1.8:0.2となるようにして調製した。
【0082】
この混合水溶液に、70gのNH3を1000mLのイオン交換水に溶解させた水溶液を室温で滴下して、共沈物を得た。この共沈物を110℃で乾燥した後、大気中で3時間に亘り600℃で仮焼した。得られた粉末を乳鉢を用いて粉砕した後、これを大気中で5時間に亘り980℃で焼成した。
【0083】
焼成後の粉末について、X線回折スペクトルを測定した。その結果、この粉末は、スピネル型の結晶構造を有したMgAl1.8Fe0.24の単相からなることが分かった。
【0084】
次に、この粉末に、硝酸パラジウム水溶液を含浸させた。この含浸は、触媒の全質量を基準としたPdの含量が0.5質量%となるようにして行った。その後、これを110℃で12時間に亘って乾燥させた。次いで、これを大気中で3時間に亘り800℃で焼成した。このようにして、MgAl1.8Fe0.24で表される化合物にPdを固溶させた。
【0085】
得られた粉末の一部を抜き取り、これを、室温に維持した10%のフッ化水素水溶液中に12時間浸漬させた。なお、この条件は、先の粉末のうち複合酸化物のみが溶解する条件である。続いて、この液を濾過し、濾液を誘導結合高周波プラズマ(ICP)分光分析に供した。その結果、上記の硝酸パラジウム水溶液に含まれていたPdのうち35%がMgAl1.8Fe0.24で表される化合物に固溶していることが分かった。
【0086】
また、蛍光X線分析(XRF分析;PANalytical MagiX PRO)により、得られた化合物が、式MgAl1.798Fe0.200Pd0.0024によって表される化合物であることが分かった。
【0087】
続いて、得られた粉末のうち20gを、2.24gの酢酸バリウム四水和物〔(CH3COO)2Ba・4H2O〕を50mLのイオン交換水に溶解させた溶液に加えた。30分間に亘ってこれを攪拌した後、加熱により水分を除去した。これにより、MgAl1.8Fe0.24にPdが固溶した化合物に、Baを担持させた。その後、得られた粉末を、大気中で1時間に亘り500℃で焼成した。なお、得られた粉末において、Feに対するBaの割合は、25原子%であった。
【0088】
次いで、得られた粉末を圧縮成形した。さらに、この成形物を粉砕し、粒径が0.5mm乃至1.0mmのペレット状の排ガス浄化用触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C1」と呼ぶ。
【0089】
<例2:触媒C2の製造>
Baを担持させる工程を省略したことを除いては、例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を製造した。以下、この触媒を「触媒C2」と呼ぶ。
【0090】
<耐久試験>
触媒C1及びC2の各々を耐久試験に供した。具体的には、窒素ガスに5体積%の酸素を加えたリーンガスを5分間流通させる第1期間と、窒素ガスに5体積%の一酸化炭素を加えたリッチガスを5分間流通させる第2期間とからなるサイクルを、床温1000℃、流量100mL/minの条件下、40時間に亘って繰り返した。
【0091】
<活性評価>
耐久試験後の触媒C1及びC2の各々を、常圧固定床流通反応装置に設置した。次いで、理論空燃比としたモデルガスを流通させながら、100℃から500℃まで、12℃/minの速度で昇温した。この間、THC(全炭化水素)、CO及びNOx浄化率を連続的に測定した。そして、THC、CO及びNOxの各々について、50%浄化温度を求めた。その結果を、下記表1に示す。
【表1】

【0092】
表1に示すように、触媒C1は、触媒C2と比較して、THC、CO及びNOxの浄化性能がより優れていた。
【0093】
<X線回折プロファイル>
耐久試験後の触媒C1及びC2の各々について、粉末X線回折スペクトルを測定した。その結果を図1に示す。
【0094】
図1は、触媒の粉末X線回折プロファイルの一例を示すグラフである。図1において、横軸は回折角度2θを表しており、縦軸は回折強度を表している。
図1に示すように、触媒C1では、PdとFeとの合金に対応したピークと共に、Pdの単体に対応したピークが確認された。他方、触媒C2では、PdとFeとの合金に対応したピークは観察されたものの、Pdの単体に対応したピークは確認されなかった。
【0095】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
耐久試験後の触媒C1及びC2の各々を、電界放出型SEM(FE−SEM)を用いて観察した。その結果を図2及び図3に示す。
【0096】
図2は、実施例に係る触媒のSEM写真である。図3は、比較例に係る触媒のSEM写真である。
【0097】
図2に示すように、触媒C1では、粒径が100nm以下のPd粒子が観察された。他方、図3に示すように、触媒C2では、粒径が100nmより大きなPdとFeとの合金からなる粒子が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Aij・p(D2-q-rqr3)で表される第1複合酸化物及び一般式(Al2-x-yxy)O3で表される第2複合酸化物の少なくとも一方と、
アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の塩、アルカリ土類金属を含んだ有機金属化合物、アルカリ土類金属の単純酸化物及びこれらの混合物からなる群より選択されるアルカリ土類金属又はその化合物とを含み、
元素Aは、1価の元素、2価の元素及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素であり、元素Dは、Al又はAlと白金族元素を除く遷移金属元素との組み合わせであり、元素Eは白金族元素を除く遷移金属元素であり、元素Gは白金族元素であり、元素Jは白金族元素を除く遷移金属元素であり、元素Lは白金族元素であり、i及びjは、一般式Aijで表される酸化物における前記元素Aの価数がkであるときにki=2jを満たす最小の自然数の組合せであり、pは正の数であり、qは0<q<2を満たしており、rは0<r<2を満たしており、xは0<x<2を満たしており、yは0<y<2を満たしている排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属又はその化合物に含まれるアルカリ土類金属元素はBaである請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記元素EはFeである請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記元素GはPdである請求項1乃至3の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記元素DはAlである請求項1乃至4の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記元素AはMgである請求項1乃至5の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記i=j=p=1であり、前記第1複合酸化物はスピネル型の結晶構造を有している請求項1乃至6の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
高温還元雰囲気において、前記元素Eの少なくとも一部及び前記元素Gの少なくとも一部が前記第1複合酸化物から析出し、
高温酸化雰囲気において、前記高温還元雰囲気において析出した前記元素Eの少なくとも一部と、前記アルカリ土類金属又はその化合物に含まれるアルカリ土類金属元素の少なくとも一部とが第3複合酸化物を形成する請求項1乃至7の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記元素EはFeであり、前記アルカリ土類金属又はその化合物に含まれるアルカリ土類金属元素はBaであり、前記第3複合酸化物はBaFe1219を含んでいる請求項8に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記第1及び第2複合酸化物の少なくとも一方に、アルカリ土類金属の塩の溶液を含浸させることを含んだ方法により製造される請求項1乃至9の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−131142(P2011−131142A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291770(P2009−291770)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】