説明

排ガス浄化触媒の製造方法

【課題】実使用温度環境下においても、長期間安定して有害成分を浄化できる排ガス浄化用ハニカム構造体触媒の製造方法を提供すること。
【解決手段】担持層形成工程と触媒担持工程とを行うことにより、基材2と、その表面に形成された金属酸化物からなる担持層3と、これに担持された金属又は金属酸化物からなる触媒4とを有する排ガス浄化触媒1を製造する方法である。担持層形成工程においては、基材2の表面に担持層3を形成する。触媒担持工程においては、担持層3が形成された基材2を、触媒を溶媒に分散してなる触媒スラリー中に浸漬し、このスラリーに超音波を照射することにより、担持層3に触媒4を担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の排ガスを浄化できる排ガス浄化触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の排ガスなどに含まれるHC、CO、NOxなどの有害成分を浄化するための触媒としては、Pt、Pd、Rhなどの貴金属が使用されている。これらの触媒用貴金属は、排ガスとの接触面積を高めるために、貴金属粒子として、ハニカム構造体の表面においてアルミナなどの担体に担持されて用いられる。
【0003】
近年、自動車などの排出ガス規制は、さらに厳しくなる一方であり、排ガス浄化用触媒には、有害成分の浄化をより高効率で行うことが望まれている。同様に、燃料電池用、環境浄化用の触媒においても、さらに浄化性能及び機能を向上させることが望まれており、より高活性な触媒の開発が期待されている。
貴金属触媒の効率向上対策の一つとして、貴金属粒子を微粒子化して、有害成分などとの接触面積を大きくすることが考えられていた。
【0004】
従来の排ガス浄化用ハニカム構造体触媒としては、アルミナなどからなる多孔体で形成された粉状体に触媒成分を含有させてなる触媒を分散させたスラリー中にハニカム構造体を浸漬することで、ハニカム構造体の表面にディップコートしたものが広く使用されていた(特許文献1参照)。
また、超音波を用いて触媒成分を金属酸化物担体上に均一に担持する方法が開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−21128号公報
【特許文献2】特開2005−125282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、排ガス浄化用ハニカム構造体触媒は、実使用温度950℃以上という高温環境下で使用される。かかる高温環境下では、ディップコートにより作製した従来の排ガス浄化用ハニカム構造体触媒において多孔体が凝集して多孔体中に触媒が埋没し、その結果、有害成分と触媒粒子との接触面積が低下し、触媒活性が低下し易くなるという問題があった。
また、超音波を用いて触媒成分を担持させた金属酸化物担体をハニカム構造体上にコートした場合においても、実使用環境下で金属酸化物担体が凝集し、結局、有害成分と触媒粒子との接触面積が低下して触媒活性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、実使用温度環境下においても、長期間安定して有害成分を浄化できる排ガス浄化用ハニカム構造体触媒の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材と、該基材の表面に形成された金属酸化物からなる担持層と、該担持層に担持された金属又は金属酸化物からなる触媒とを有する排ガス浄化触媒の製造方法において、
上記基材の表面に上記担持層を形成する担持層形成工程と、
上記担持層が形成された上記基材を、上記触媒を溶媒に分散してなる触媒スラリー中に浸漬し、該触媒スラリーに超音波を照射することにより、上記担持層に上記触媒を担持させる触媒担持工程とを有することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、上記担持層形成工程と上記触媒担持工程とを行って上記排ガス浄化触媒を製造する。即ち、上記担持層形成工程において上記基材の表面に予め上記担持層を形成し、上記触媒担持工程において上記担持層を形成した上記基材を上記触媒スラリー中に浸漬し、超音波を照射することにより上記触媒を担持させている。
そのため、上記触媒担持工程においては、上記超音波により上記触媒スラリー中の気泡を圧壊させ、圧壊時の圧力を利用して上記触媒を例えばナノメートルオーダの微粒子、又は数原子層からなる金属被膜層として上記担持層に強固に担持させることができる。
【0010】
超音波は、粗密進行波であるため、上記触媒スラリーのような液体中を進行する際に微細領域で急激な圧力変動が生じる。その際、液体中に気泡が存在すると、圧力変動によって膨張及び収縮を繰り返し、気泡内部に高温高圧場が形成され、最終的には気泡が圧壊して、高温高圧場が気泡外へ開放される。この高温高圧場は、数1000℃、数100気圧にまで到達することが確認されており、加えて数100m/sに達するマイクロジェット水流を形成する。
【0011】
本発明においては、上述の超音波による高温高圧エネルギー及びマイクロジェット水流を利用して、上記触媒を上記担持層に密着させる。そのため、上記触媒を原子状態もしくは数10個の原子から形成されるクラスター状態で、瞬時にマイクロジェット水流により上記担持層に打ち込まむことができる。そのため、上記触媒の凝集を抑制し、ナノメートルオーダで、上記触媒を上記担持層に強固に固着させることが可能になる。
【0012】
その結果、触媒の担持時に高温での焼成を行う必要がなくなり、上記担持層中に上記触媒が埋没してしまうことを防止することができる。そのため、実使用温度環境下においても、長期間安定して有害成分を浄化できる排ガス浄化触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例における、基材の表面における断面構造を示す説明図(a)、担持層を形成した基材の表面における断面構造を示す説明図(b)、担持層表面に触媒を担持させた排ガス浄化触媒の基材表面における断面構造を示す説明図(c)。
【図2】実施例における、基材の全体構成を示す説明図。
【図3】実施例における、基材の軸方向と垂直な方向な面における断面構造を示す説明図。
【図4】実施例における、担体スラリー中に基材を浸漬する様子を示す説明図。
【図5】実施例における、触媒スラリー中に基材を浸漬し、触媒スラリー中に超音波を照射する様子を示す説明図。
【図6】実施例における、粒子表面に触媒を形成した担体粒子を示す説明図(a)、触媒を担持させた担体粒子を分散させた触媒スラリー中に基材を浸漬する様子を示す説明図(b)。
【図7】実施例における、担持層の内部及び表面に触媒を担持させた比較例用の排ガス浄化触媒の基材表面における断面構造を示す説明図
【図8】実施例における、排ガス浄化触媒(試料T)の担持層表面に形成された触媒(微粒子)を示す透過型電子顕微鏡写真代用図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、上記担持層形成工程と上記触媒担持工程とを行うことにより、上記排ガス浄化触媒を製造する。
上記排ガス浄化触媒は、例えばエンジンから排出される排ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害成分を除去するために用いられる。上記排ガス浄化触媒は、例えば排ガスの排ガス流路の途中に配置して用いることができる。
【0015】
上記担持層形成工程においては、上記基材の表面に金属酸化物からなる上記担持層を形成する。
このとき、上記金属酸化物からなる担体粒子を溶媒に分散して担体スラリーを作製し、該担体スラリー中に上記基材を浸漬し焼成することが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記基材の表面に上記担持層を簡単に形成することができる。
上記担体粒子を分散させる溶媒としては、担体粒子や基材等と反応しない液体を用いることができ、低コスト化の観点からは例えば水を用いることができる。
【0016】
また、上記担持層形成工程における焼成温度は、800℃以上であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記基材の表面を平滑にすることができ、上記触媒担持工程において上記触媒が上記担持層に侵入して埋没してしまうことを抑制することができる。そのためこの場合には、上記排ガス浄化触媒の触媒性能をより向上させることができる。
上記焼成温度が温度800℃未満の場合には、上記基材の表面を十分に平滑化することができず、上記触媒の一部が上記担持層に埋没してしまうおそれがある。より好ましくは上記焼成温度は850℃以上がよく、さらに好ましくは900℃以上がよい。
【0017】
また、上記と同様の理由により、上記担持層形成工程においては、上記基材の表面に上記担持層を表面積50m2/g以下で形成することが好ましい(請求項4)。
表面積が50m2/gを越える場合には、上記触媒担持工程において上記触媒が上記担持層に侵入して埋没し易くなるおそれがある。
【0018】
また、上記金属酸化物は、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Fe、Y、Zr、Nb、Bi、Pr、La、Ce、及びNdから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、又はこれら2種以上の元素の固溶体であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記基材及び上記触媒との密着性に優れた上記担持層を形成することができる。
【0019】
また、より好ましくは、上記金属酸化物は、Ce、Zr、La、Y、Fe、Bi、Pr、Ti、Mg及び、Nbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、又はこれら2種以上の元素の固溶金属酸化物が好ましい。
この場合には、上記金属酸化物からなる上記担持層は、周囲の酸素濃度に応じて酸素を吸収又は放出する作用を示すことができ、酸素濃度の調整が可能になる。そのためこの場合には、上記担持層は、上記触媒による有害成分の浄化作用が最も効果的に発揮されるように排ガスの酸素濃度を調整できるという助触媒性能を発揮することができる。より好ましくは、例えばCeO2/ZrO2等の固溶体がよい。
【0020】
また、上記担持層を形成する上記金属酸化物には、触媒成分と高い化学吸着エネルギーを有する元素を固溶させておくことが好ましい。触媒成分としてPtを例にすると、これと高い化学吸着エネルギーを有する元素としては、例えばMg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ti、Fe等が挙げられる。
【0021】
次に、上記触媒担持工程においては、上記担持層が形成された上記基材を、上記触媒を溶媒に分散してなる触媒スラリー中に浸漬し、該触媒スラリーに超音波を照射することにより、上記担持層に上記触媒を担持させる。
【0022】
上記触媒は、HC、CO、NOxに対する酸化触媒能又は還元触媒能を有する遷移金属又は遷移金属酸化物からなることが好ましい(請求項6)。
この場合には、自動車等の排ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害成分に対して優れた浄化性能を発揮できる上記排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0023】
具体的には、上記触媒としては、例えばPt、Pd、Rh、Ir、Ru、Au、Ag、Re、Os、Co、Ni、Fe、Cu、Mn、Cr、V、Mo、Wから選ばれる一種以上の単体、又はその酸化物、またはこれら二種以上の固溶体を採用することができる。
【0024】
また、上記触媒を分散させる上記溶媒としては、触媒、担持層、及び基材等と反応しない液体を用いることができ、低コスト化の観点からは例えば水を用いることができる。
例えば水を用いることができる。
【0025】
上記触媒担持工程においては、上記触媒として、金属酸化物、金属塩、有機金属錯体、又はこれらの誘導体からなる触媒前駆体を採用すると共に、上記触媒スラリーとしては、上記触媒前駆体をアルコールからなる上記溶媒に分散させてなるスラリーを採用することが好ましい(請求項7)。
また、上記触媒担持工程においては、上記触媒として、金属酸化物、金属塩、有機金属錯体、又はこれらの誘導体からなる触媒前駆体を採用すると共に、上記触媒スラリーとして、該触媒前駆体と、上記触媒前駆体の金属イオンに対する還元剤とを上記溶媒に添加してなるスラリーを採用することが好ましい(請求項8)。
これらの場合には、上記触媒担持工程において、上記基材における上記担持層上に、上記触媒前駆体を還元析出させて金属微粒子からなる上記触媒を形成することができる。
【0026】
すなわち、上記触媒前駆体と上記溶媒としてのアルコールとを組み合わせて用いた場合においては、アルコールが単なる溶媒としてだけではなく上記触媒前駆体の金属イオンに対して還元作用を示すことができる。そのためこの場合には、上記触媒担持工程において、アルコールにより上記触媒前駆体が還元され、金属微粒子からなる触媒を上記担持層上に析出させることができる。析出する金属微粒子からなる上記触媒は、上記触媒担持工程における上記超音波による高温高圧エネルギー及びマイクロジェット水流により、原子状態もしくは数10個の原子から形成されるクラスター状態で、瞬時に上記担持層表面に打ち込まれる。そのため、凝集することなくナノメートルオーダで、上記担持層表面に上記触媒を強固に固着させることが可能となる。そのため、上記触媒担持工程において焼成の必要性がより一層なくなり、触媒の担持層への埋没をより一層防止することができる。アルコールとしては例えばエタノール、プロパノール等を用いることができる。
【0027】
また、上記触媒前駆体と上記還元剤とを組み合わせて用いた場合においても、上記触媒担持工程において上記還元剤により上記触媒前駆体を還元することができ、金属微粒子からなる触媒を上記担持層上に析出させることができる。その結果、上述のごとく、凝集することなくナノメートルオーダで、上記担持層表面に上記触媒を強固に固着させることが可能となる。そのため、焼成の必要性がより一層なくなり、触媒の担持層への埋没をより一層防止することができる。
【0028】
上記触媒前駆体としては、上記のごとく、金属酸化物、金属塩、又は有機金属錯体、又はこれらの誘導体を採用することができる。上記触媒前駆体は、上記触媒と同様に、例えばPt、Pd、Rh、Ir、Ru、Au、Ag、Re、Os、Co、Ni、Fe、Cu、Mn、Cr、V、Mo、Wから選ばれる一種以上の金属元素を金属成分として含有するものを用いることができる。そして、上記触媒前駆体は、上記還元剤により還元され、上記金属元素の微粒子からなる上記触媒を析出させることができる。
上記触媒前駆体は、例えばPtを例すると、白金酸等の金属酸化物、塩化白金等の金属塩化物、テトラアンミンジクロロ白金等の金属アンモニウム塩、ジニトロジアミン白金錯体等の金属硝酸塩等があげられる。
【0029】
上記還元剤は、アミン類、糖類、アルデヒド類、カルボン酸類、及び高分子系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記触媒担持工程において上記触媒前駆体を十分に還元析出させることができる。
具体的には、アミン類としてはジエタノールアミン、糖類としてはショ糖、高分子系界面活性剤としてはポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウムなどがあげられる。
【0030】
上記還元剤は、上記触媒スラリー中に濃度0.01〜10wt%で添加することが好ましい(請求項10)。
上記還元剤の添加濃度を調整することにより、還元析出する触媒の粒径をコントロールすることが可能になる。上記濃度範囲で還元剤を用いれば、例えば10ナノメートル以下という微細な金属微粒子からなる上記触媒を析出させることができ、該触媒は優れた触媒活性を示すことができる。
上記還元剤の濃度が0.01wt%未満の場合には、上記触媒前駆体の還元が不十分になり、上記排ガス浄化触媒の触媒活性が低下するおそれがある。一方、10wt%を越える場合には、還元析出時に上記触媒の粒子成長が促進され、粒径が大きくなりすぎてしまうおそれがある。その結果、比表面積が低下し、触媒活性が低下するおそれがある。
【0031】
また、上記触媒担持工程においては、上記超音波を周波数20〜300kHzで照射することが好ましい(請求項11)。
周波数が20未満の場合には、上記触媒前駆体を用いた場合において該触媒前駆体が十分に還元されずに、上記担持層に析出されてしまうおそれがある。その結果、触媒性能が低下するおそれがある。一方、300kHzを越える場合には、上記触媒を上記担持層表面に析出させることが困難になり、結局は触媒性能が低下するおそれがある。
また、液相に溶解する触媒又は触媒前駆体に対しては、より高周波数の超音波を使用し、液相に不溶な触媒又は触媒前駆体に対しては、より低周波数の超音波を使用することが好ましい。
【0032】
また、上記触媒担持工程の前に、Ce、Zr、La、Y、Fe、Bi、Pr、Ti、Mg及び、Nbから選ばれる元素の酸化物、又はこれら2種以上の元素の固溶体からなる助触媒粒子を溶媒に分散させて助触媒スラリーを作製し、該助触媒スラリー中に、上記担持層を形成した上記基材を浸漬し、加熱することにより上記担持層に上記助触媒粒子を担持させる助触媒担持工程を行うことが好ましい(請求項12)。
この場合には、上記助触媒担持工程において上記担持層上に酸素濃度調整能を有する上記助触媒粒子を担持させることができ、上記触媒担持工程において上記担持層及び上記助触媒粒子に上記触媒を担持させることができる。そのためこの場合には、上記助触媒粒子により酸素濃の調整が可能になり、上記触媒は最適な酸素濃度で有害成分の浄化を行うことができる。したがって、有害成分に対してより優れた浄化性能を発揮できる上記排ガス浄化触媒を製造することができる。そしてこの場合には、上記担持層には上述の助触媒性能を有する金属酸化物を採用しなくとも、排ガスに対する優れた浄化性能を発揮できる上記排ガス浄化触媒を製造することができる。
【0033】
上記基材としては、多孔質隔壁を多角形格子状に配して軸方向に延びる多数のセルを形成したハニカム構造体を採用することが好ましい(請求項13)。
この場合には、上記多孔質隔壁に上記担持層及び上記触媒を形成することができる。そして、上記セル内に上記排ガスを通過させることにより、効率的に排ガスの浄化を行うことができる。
上記ハニカム構造体としては、例えばコーディエライト、SiC、アルミナ、チタン酸アルミニウム、ゼオライト、及びSiO2等からなるものを採用することができる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1〜図8を用いて説明する。
図1(c)に示すごとく、本例の排ガス浄化触媒1は、基材2と、その表面に形成された金属酸化物からなる担持層3と、この担持層3に担持された金属又は金属酸化物からなる触媒4とを有する。排ガス浄化触媒1は、例えばエンジンから排出される排ガス中に含まれる少なくともHC、CO、及びNOxの有害成分を浄化するために用いられる。
【0035】
図2及び図3に示すごとく、本例において、基材2は、多孔質隔壁21を多角形格子状に配して軸方向に延びる多数のセル22を形成したハニカム構造体からなる。セル22は、排ガスの通り道である排ガス流路を形成している。本例において、基材2は、高さ50mm、直径30mmの円筒形状を有している。
【0036】
ハニカム構造体2は、コージェライトセラミックスよりなり、多数の細孔を有する円筒状の多孔質体である。多孔質隔壁21は、四角格子状に配され、セル22の断面形状は、四角形状になっている。
【0037】
図1(c)に示すごとく、排ガス浄化触媒1においては、基材2の多孔質隔壁21の表面200に、セリア(CeO2)からなる担持層3が形成されている。そして、担持層3上には、粒径約0.5〜1nmのPt粒子からなる触媒4が担持されている。
【0038】
本例の排ガス浄化用触媒は、担持層形成工程及び触媒担持工程を行って製造することができる。
図1(a)及び(b)に示すごとく、担持層形成工程においては、基材2の表面200に担持層3を形成する。本例の担持層3の形成にあたっては、図4に示すごとく、金属酸化物(セリア)からなる担体粒子を溶媒に分散して担体スラリー30を作製し、この担体スラリー30中に基材2を浸漬してスラリー30中の担体粒子を基材2に担持させた後、焼成する。
【0039】
また、触媒担持工程においては、図5に示すごとく、担持層が形成された基材2を触媒スラリー40中に浸漬し、触媒スラリー40に超音波55を照射する。これにより、図3(c)に示すごとく、基材2の表面に形成された担持層3に触媒4を担持させる。
本例においては、触媒スラリー40に分散させる触媒として触媒前駆体を用いる。そして、触媒スラリー40としては、触媒前駆体をアルコールからなる溶媒に分散させてなるスラリー、又は触媒前駆体とその金属イオンに対する還元剤とを溶媒に添加してなるスラリーを用いる。
【0040】
以下、本例の製造方法につき、詳細に説明する。
図4に示すごとく、まず、平均粒径3μmのCeO2からなる担体粒子を水に分散させて担体スラリー30を作製した。
また、図2及び図3に示すごとく、基材2として、コーディエライトからなり、多孔質隔壁21を多角形格子状に配して軸方向に延びる多数のセル22を形成してなるハニカム構造体を準備した。
図4に示すごとく、担体スラリー30中に、基材2(ハニカム構造体2)を浸漬し、スラリー中の担体粒子を基材2全体に均一にコートした。
【0041】
次に、担体粒子をコートした基材2を温度1000℃で5時間焼成した。これにより、図1(b)に示すごとく、セリアからなり、基材2の表面200を覆う担持層3を形成した。担持層3は、基材2の多孔質隔壁21の表面全体に形成されている。本例においては、基材2にセリアを40g/Lコートし、担持層3が形成された基材2の比表面積は1.02m2/gであった。
【0042】
次に、エタノール溶媒中に、PtO2からなる粉末状の触媒前駆体を添加し、撹拌しながら分散させた。触媒前駆体は、Ptが0.6gとなるように添加した。このようにして、溶媒中に触媒前駆体が分散された触媒スラリーを得た。
【0043】
次いで、図5に示すごとく、攪拌機49を備えた容器45内に触媒スラリー40を収容し、スラリー40中に担持層を形成した基材2を浸漬した。そして、超音波発生装置5(本多電子(株)のソノリアクター)を用いて触媒スラリー40に超音波55を照射した。
本例においては、少なくとも底面がステンレス等の金属からなる水槽51と、底面に設けられた超音波振動子52とを備えた超音波発生装置5を用いた。
【0044】
具体的には、図5に示すごとく、触媒スラリー40を攪拌機49で撹拌しつつ、スラリー40中に基材2を浸漬し、基材2と触媒スラリー40を容器45ごと、超音波発生装置5の水槽51内に浸漬した。水槽51内の水温は25℃とした。そして、超音波発生装置5を作動させ、超音波振動子52から超音波55を発生させて触媒スラリー40内に超音波55を照射した。超音波55の周波数は20〜30kHz、照射時間は1時間とした。
これにより、触媒スラリー40中の触媒前駆体を基材2上に形成された担持層3上で還元しつつ析出させた(図1(c)参照)。その結果、図3(c)に示すごとく、担持層3上にPt粒子からなる触媒4を担持させた。
以上のようにして、排ガス浄化触媒1を得た。これを試料E1とする。
【0045】
また、本例においては、上記試料E1とは組成の異なる触媒スラリーを用いて更に3種類の排ガス浄化触媒(試料E2〜試料E4)を作製した。
具体的には、試料E2は、溶媒(水)に触媒前駆体(PtCl2)と還元剤(ジエタノールアミン)とを添加し混合して触媒スラリーを作製し、この触媒スラリーを用いた点を除いては上記試料E1と同様にして作製した。なお、還元剤としてのジエタノールアミンは、濃度0.01wt%となるように水に混合して用いた。
【0046】
試料E3は、溶媒(水)に触媒前駆体(PdCl2)と還元剤(ジエタノールアミン)とを添加し混合して触媒スラリーを作製し、この触媒スラリーを用いた点を除いては上記試料E1と同様にして作製した。なお、還元剤としてのジエタノールアミンは、上記試料E2と同様に濃度0.01wt%となるように水に混合して用いた。
試料E4は、溶媒(水)に触媒前駆体(Rh(NO3)3)と還元剤(ジエタノールアミン)とを添加し混合して触媒スラリーを作製し、この触媒スラリーを用いた点を除いては上記試料E1と同様にして作製した。なお、還元剤としてのジエタノールアミンは、上記試料E2及びE3と同様に濃度0.01wt%となるように水に混合して用いた。
【0047】
また、本例においては、上記試料E1〜試料E4の比較用として、5種類の排ガス浄化触媒(試料C1〜試料C5)を作製した。
試料C1の作製にあたっては、まず、CeO2からなる担体粒子(平均粒径3μm)と、塩化白金酸からなる触媒前駆体とを混合して混合スラリーを作製した。次いで、混合スラリーを温度800℃で焼成することにより、図6(a)に示すごとく、担体粒子91の表面にPtからなる触媒92を析出させた。
次いで、図6(b)に示すごとく、触媒(Pt)92を析出させた担体粒子91を水中に分散させることにより触媒スラリー90を作製した。この触媒スラリー90に、上記試料E1と同様の基材(ハニカム構造体)93を浸漬することにより、基材93に触媒92が析出した担体粒子91をディップコートし、次いで温度500℃で焼成した。これにより、基材93にCeO2からなる担持層94を形成すると共に、この担持層94に、触媒92を担持させ、比較用の排ガス浄化触媒9(試料C1)を得た(図7参照)。
【0048】
また、試料C2の作製にあたっては、まず、アルミナ粒子を水に分散してなるスラリーに、基材を浸漬し、温度1000℃で焼成することにより、基材(ハニカム構造体)の表面に、アルミナからなる担持層を形成した。次いで、上記試料C1と同様に、触媒(Pt)を析出させた担体粒子を水中に分散させることにより触媒スラリーを作製し、この触媒スラリー中にアルミナからなる担持層を形成した基材を浸漬することにより、基材の担持層に触媒が析出した担体粒子をディップコートした。その後、焼成を行うことにより、比較用の排ガス浄化触媒(試料C2)を得た。
【0049】
試料C3の作製にあたっては、まず、CeO2からなる担体粒子(平均粒径3μm)と、PtCl2からなる触媒前駆体と、還元剤としてのジエタノールアミンとを水に混合して混合スラリーを作製した。このとき、還元剤は濃度0.01wt%となるように混合した。次いで、混合スラリーに超音波を照射することにより、担体粒子91の表面にPtからなる触媒92を還元析出させた(図6(a)参照)。
次いで、上記試料C1の場合と同様に、触媒(Pt)を析出させた担体粒子を水中に分散させることにより触媒スラリーを作製し、この触媒スラリーに、基材(ハニカム構造体)を浸漬することにより、基材に触媒が析出した担体粒子をディップコートした。次いで、ディップコートした基材を温度500℃で焼成した。これにより、比較用の排ガス浄化触媒(試料C3)を得た。
【0050】
試料C4の作製にあたっては、まず、上記試料C3と同様にして、超音波を用いて担体粒子91の表面にPtからなる触媒92を析出させ(図6(a)参照)、これを水に分散させて触媒スラリーを作製した。
また、上記試料C2と同様にして、基材の表面にアルミナからなる担持層を形成した。
次いで、アルミナからなる担持層を形成した基材を触媒スラリーに浸漬することにより、基材の担持層に、触媒が析出した担体粒子をディップコートした。その後ディップコートした基材を温度500℃で焼成した。これにより、比較用の排ガス浄化触媒(試料C4)を得た。
【0051】
試料C5の作製にあたっては、まず、上記試料C3と同様にして、超音波を用いて担体粒子91の表面にPtからなる触媒92を析出させた(図6(a)参照)。次いで、触媒を析出させた担体粒子と、アルミナ粒子とを水に分散して触媒スラリーを作製し、この触媒スラリー中に基材(ハニカム構造体)を浸漬した。これにより、基材の表面に、触媒が析出した担体粒子とアルミナ粒子とをディップコートした。その後ディップコートした基材を温度500℃で焼成した。これにより、比較用の排ガス浄化触媒(試料C5)を得た。
なお、上記試料E1〜試料E4及び試料C1〜試料C5において、CeO2、触媒、アルミナのコート量はすべて同一である。
【0052】
次に、上記のようにして作製した各試料(試料E1〜試料E4及び試料C1〜試料C5)について、排ガス浄化触媒としての性能の評価を行った。
まず、高温環境下における各試料に担持された触媒の粒径を確認した。
具体的には、まず、各試料の加熱条件を統一するために各試料を温度800℃で加熱した。その後、透過型電子顕微鏡観察(TEM観察)及びCOパルス法により触媒の表面積の測定を行って触媒の粒子径を測定した。なお、COパルス法は、COガスを連続的に触媒粒子へ注入し、触媒粒子上へのCO吸着量を求め、このCO吸着量と触媒金属種、金属含有量からその粒子径を算出する方法である。本例においては、全自動触媒ガス吸着量測定装置R6015((株)大倉理研製)を用いて測定した。その結果を後述の表1に示す。
さらに、各試料を温度950℃で加熱した後、上記と同様にして触媒の粒子径を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より知られるごとく、焼成により触媒を担持させた試料C1及び試料C2においては、それぞれ20nm及び18nmという比較的粒径の大きな触媒が担持されていた。これは、焼成によって触媒が凝集したためであると考えられる。また、TEM観察の結果、試料C1及び試料C2においては、担持層94中に触媒92の多くが埋没していることが確認できた(図7参照)。
これに対し、超音波を用いて触媒の担持を行った試料E1〜E4及び試料C3〜試料C5においては、粒径0.5〜1nmという非常に微細な触媒微粒子が担持されていた。これは、超音波によって形成されるマイクロジェット水流によって、触媒微粒子同士の凝集を抑制しつつ触媒が担持されたためであると考えられる。
【0055】
また、超音波を用いて析出させた粒径0.5〜1nmの触媒微粒子は、透過型電子顕微鏡の検出限界以下であるため、試料E1〜試料E4についてTEM観察により触媒の埋没の有無を観察することは困難である。
そこで、2nm程度まで粒径を大きくした触媒を超音波を用いて担持させた排ガス浄化触媒を作製し、その触媒の埋没の有無を観察した。
具体的には、触媒前駆体をエタノール溶媒中に、Ptが1.2gとなるように添加して触媒スラリーを作製した点を除いては、上記試料E1と同様にして、TEM観察用の排ガス浄化触媒(試料T)を作製した。試料TのTEM観察の結果を図8に示す。
【0056】
図8より知られるごとく、試料Tにおいては、触媒4は、担持層3の表面に形成されており、ほとんど埋没していない。したがって、超音波を用いて析出させることにより、担持層中に埋没させることなく、担持層の表面に触媒を担持させることができることがわかる。
【0057】
また、表1より知られるごとく、温度950℃での加熱後においては、試料C1〜試料C5においては、触媒が凝集してその粒径が増大していた。これに対し、試料E1〜試料E4においては、触媒の凝集は確認されず、加熱前後でほぼ同じ粒径を示した。
また、TEM観察によれば、アルミナからなる担持層を形成した試料C2、C4及びC5においては、アルミナの凝集による触媒の埋没が確認できた(図示略)。
【0058】
次に、各試料(試料E1〜試料C4及び試料C1〜試料C5)について、排ガスに対する浄化性能を評価した。
具体的には、まず、各試料を石英ガラス管内にセットした。次いで、赤外線イメージ炉の50〜400℃の温度条件下において、入口側から、COガス、プロピレンガス、NOガスを流し、出口側から出てくるガス量、ガス成分をガスクロマトグラフィーにて分析した。そして、COガス、プロピレンガス、NOガスを50%浄化する温度(浄化温度)を測定した。その結果を後述の表1に示す。
さらに、高温での安定性を評価するために、各試料を温度950℃の炉で24時間放置した後に、上述の浄化温度の測定を行った。そして、950℃の加熱前後における浄化温度の差(浄化温度上昇)(℃)を算出した。その結果を後述の表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2より知られるごとく、試料C1〜試料C5に比べ試料E1〜試料E4は、浄化温度が低く優れた浄化性能を発揮できることがわかる。また、温度950℃での加熱後においても、試料E1〜試料E4は、試料C1〜試料C5に比べて浄化性能がほとんど劣化しておらず、優れた浄化性能を維持できることがわかる。よって、試料E1〜試料E4は、高温での耐久性にすぐれていることがわかる。
【0061】
以上のように、本例によれば、例えば950℃という実使用温度環境下においても、長期間安定して有害成分を浄化できる排ガス浄化用ハニカム構造体触媒(試料E1〜試料E4)を製造することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 排ガス浄化触媒
2 基材(ハニカム構造体)
3 担持層
4 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された金属酸化物からなる担持層と、該担持層に担持された金属又は金属酸化物からなる触媒とを有する排ガス浄化触媒の製造方法において、
上記基材の表面に上記担持層を形成する担持層形成工程と、
上記担持層が形成された上記基材を、上記触媒を溶媒に分散してなる触媒スラリー中に浸漬し、該触媒スラリーに超音波を照射することにより、上記担持層に上記触媒を担持させる触媒担持工程とを有することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記担持層形成工程においては、上記金属酸化物からなる担体粒子を溶媒に分散して担体スラリーを作製し、該担体スラリー中に上記基材を浸漬し焼成することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、上記担持層形成工程における焼成温度は、800℃以上であることを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記担持層形成工程においては、上記基材の表面に上記担持層を表面積50m2/g以下で形成することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記金属酸化物は、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Sc、Ti、Fe、Y、Zr、Nb、Bi、Pr、La、Ce、及びNdから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、又はこれら2種以上の元素の固溶体であることを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記触媒は、HC、CO、及びNOxに対する酸化触媒能又は還元触媒能を有する遷移金属又は遷移金属酸化物からなることを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記触媒担持工程においては、上記触媒として、金属酸化物、金属塩、有機金属錯体、又はこれらの誘導体からなる触媒前駆体を採用すると共に、上記触媒スラリーとしては、上記触媒前駆体をアルコールからなる上記溶媒に分散させてなるスラリーを採用することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記触媒担持工程においては、上記触媒として、金属酸化物、金属塩、有機金属錯体、又はこれらの誘導体からなる触媒前駆体を採用すると共に、上記触媒スラリーとして、該触媒前駆体と、上記触媒前駆体の金属イオンに対する還元剤とを上記溶媒に添加してなるスラリーを採用することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記還元剤は、アミン類、糖類、アルデヒド類、カルボン酸類、及び高分子系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、上記還元剤は、上記触媒スラリー中に濃度0.01〜10wt%で添加することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項において、上記触媒担持工程においては、上記超音波を周波数20〜300kHzで照射することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項において、上記触媒担持工程の前に、Ce、Zr、La、Y、Fe、Bi、Pr、Ti、Mg及び、Nbから選ばれる元素の酸化物、又はこれら2種以上の元素の固溶体からなる助触媒粒子を溶媒に分散させて助触媒スラリーを作製し、該助触媒スラリー中に、上記担持層を形成した上記基材を浸漬し、加熱することにより上記担持層に上記助触媒粒子を担持させる助触媒担持工程を行うことを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項において、上記基材としては、多孔質隔壁を多角形格子状に配して軸方向に延びる多数のセルを形成したハニカム構造体を採用することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−247079(P2010−247079A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99685(P2009−99685)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】