説明

排ガス脱硝触媒およびその製造方法

【課題】従来技術の問題点を鑑み、Ti-V-Mo-P系触媒の優れた耐久性を損なうことなく350℃以上における脱硝率を改善し、性能・耐久性に優れた触媒を提供する。
【解決手段】チタン(Ti)、リン(P)の酸化物、およびモリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)、およびバナジウム(V)酸化物と、SiO2/Al2O3比が20以上の高シリカゼオライトとからなる触媒組成物であって、(1)酸化チタンと、酸化チタンに対しH3PO4として1を越えて15wt%以下のリン酸またはリン酸のアンモニウム塩、(2)モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸またはオキソ酸塩とバナジウム(V)のオキソ酸塩またはバナジル塩が0を越えて8atom%以下、および(3)高シリカゼオライトが酸化チタンに対し0を越えて20wt%以下の条件で水の存在下で混練、乾燥、焼成したものである排ガス脱硝触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス脱硝触媒およびその製造方法に係り、特に燃焼排ガス中に含まれる砒素、リン(P)、カリウム(K)などの触媒毒による劣化が小さく、かつ350℃以上での脱硝性能を大幅に向上せしめたアンモニア接触還元用排ガス脱硝触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンを主成分とするアンモニア接触還元用脱硝触媒は、活性が高く耐久性に優れるため、開発されて以来、国内外でボイラなどの排煙処理に広く用いられ、脱硝触媒の主流となっている(特許文献1等)。
【0003】
近年、エネルギ需要が急増し、硫黄分が高い石炭(高S炭)やPRB炭、またはバイオマスなど種々の燃料が用いられるようになり、これに伴って、使用の際の排煙脱硝触媒の劣化も多様になっている。その代表的なものは、高S炭焚で起る砒素(As)化合物による劣化、PRB炭焚排ガスで起り易いP化合物による劣化、バイオマス燃焼排ガスで起るカリ(K)化合物のよる劣化が挙げられる。これらは何れも蓄積性の触媒毒による劣化であり、触媒中に蓄積して大きな脱硝性能の低下を短期間に引き起こすことで知られている。
【0004】
これに対し、本願発明者らは、上記毒物が酸化チタンに吸着.蓄積することを防止したTi-V-Mo-P系の触媒を発明して既に出願している(未公知特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−128681号公報
【特許文献2】特願2010−026577号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記先願に係る触媒は、As、P、K化合物に対し極めて高い耐久性を有すだけでなく、SO2酸化率が低い、Hg酸化活性が高いなど種々の優れた点を有するものであるが、唯一の改善すべき点は、反応温度が350℃から400℃に上昇した場合の脱硝性能の上昇度が通常の触媒に比し小さい点である。高S炭焚ボイラの排煙脱硝は400℃近辺の温度になることが多く、上記した400℃での脱硝性能を改善できれば、更に優れた触媒になることは間違いない。
【0007】
本願発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を鑑み、Ti-V-Mo-P系触媒の優れた耐久性を損なうことなく350℃以上における脱硝率を改善し、性能・耐久性に優れた触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は、以下のとおりである。
(1)チタン(Ti)、リン(P)の酸化物、およびモリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)、およびバナジウム(V)酸化物と、SiO2/Al2O3比が20以上の高シリカゼオライトとからなる触媒組成物であって、(1)酸化チタンと、酸化チタンに対しH3PO4として1を越えて15wt%以下のリン酸またはリン酸のアンモニウム塩、(2)モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸またはオキソ酸塩とバナジウム(V)のオキソ酸塩またはバナジル塩が0を越えて8atom%以下、および(3)高シリカゼオライトが酸化チタンに対し0を越えて20wt%以下の条件で水の存在下で混練、乾燥、焼成したものである排ガス脱硝触媒。
(2)高シリカゼオライトがモルデナイトであることを特徴とする(1)記載の脱硝触媒。
(3)酸化チタンと、リン酸またはリン酸のアンモニウム塩とを予め水の存在下で接触させて酸化チタン表面にリン酸イオンを吸着せしめた後、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸またはオキソ酸塩と、バナジウム(V)のオキソ酸塩またはバナジル塩、および高シリカゼオライトを添加し、水の存在下で混練、乾燥、焼成することを特徴とする排ガス脱硝触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性が高い触媒成分の350℃以上の脱硝性能を向上させて、高活性かつ高耐久性の脱硝触媒を実現することが可能になる。その結果、米国など、400℃近辺で運転することの多い、高S炭焚ボイラからの排ガス脱硝装置に使用する触媒使用量を減らし装置をコンパクトにすることが可能になる。
【0010】
前記先願に係る未公知の触媒は、酸化チタンが有する触媒毒の吸着点に触媒毒の一種であるリン酸を吸着せしめておき、排ガス由来の触媒毒の触媒への吸着を阻止して劣化を防止しようとする発想のものとに生まれたものである。このリン酸の吸着する点には、活性成分であるV、助触媒成分であるMoまたはWなどの酸化物も吸着し、その結果、触媒上(即ち酸化チタン上)の吸着点は、これらの成分で隈なく覆われることになる。その結果、排ガスからの触媒毒の吸着が大幅に軽減される反面、NH3の吸着点の減少と、吸着力の弱化という副作用がある。その結果、NH3の吸着量が高温で減少し、350℃以上に温度上昇しても、脱硝性能が向上し難く、頭打ちになるという現象が発生する。本願発明者らは、この点を改善するため、As、Pなどの触媒毒を吸着せず、NH3を強く吸着する成分を添加・補うことを考え、多数の化学物質を用いて研究したが、何れも触媒成分中のP化合物、または排ガス中のPやAs化合物を吸着してNH3吸着性能を失い、使用することができなかったが、 唯一、高シリカゼオライトの場合は顕著な改善効果が得られ、本発明を完成するに至った。
【0011】
ゼオライトは10Å以下の細孔を多数有し、その内部にはNH3を強く吸着できる優れた吸着点を有している。この吸着点が触媒成分や排ガス中の毒成分で犯されてしまっては添加効果が発揮されないが、幸い、触媒調製段階でMo、V、W、P成分は、そのオキソ酸塩として添加され、それらのイオンは10Åより大きいため、触媒調製段階でゼオライト上のNH3吸着サイトは健全に維持される。また、排ガス中のAsやPの化合物は、該当する酸化物の蒸気として飛来するが、その大きさも10Åより大きく細孔内への進入することがなく、使用時にもNH3の吸着点が維持される。
【0012】
このようにゼオライト細孔内のNH3吸着点は、触媒調製段階、および使用段階を通じて維持され、触媒が使用温度が350℃を越え用いられる場合におこるTi-Mo-V-P成分のNH3の吸着量の減少を補って脱硝性能を高く維持する。
【0013】
本発明は、上述のように調製段階および使用段階を通じ、Pや活性成分のオキソ酸塩類からNH3の吸着点が保護されるゼオライトと、耐久性の高い触媒成分との組合せの結果、初めてなし得た画期的な触媒である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以上のように本発明の触媒は、リン酸イオンを吸着せしめたTiO2を用いて触媒毒の触媒への進入を防ぎ、あわせてゼオライト成分によってNH3の吸着点を維持するという二つの成分の協奏作用により初めて実現できるものであり、次の点に考慮する必要がある。
【0015】
酸化チタンに吸着され得るPO4イオンは、TiO2の表面積当り約0.05wt%であり、通常使われる100乃至300m2/gのTiO2原料では5乃至15wt%が吸着させうる最大量であり、それ以上ではNH3の吸着し得るOH基がなくなり、大きな活性低下を引き起こす。従ってTiO2原料の種類にもよるが、H3PO4の添加量はTiO2の15wt%以下、望ましくは10wt%以下にすることが、耐久性及び脱硝活性を両立でき、好結果を与え易い。また添加量の少ない方には制限が無いが、顕著な耐毒性を示させるためにはTiO2に対し1wt%以上に選定することが良い。
【0016】
リン酸イオンを吸着せしめたTiO2と組み合わせる活性成分としては、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸またはオキソ酸塩とバナジウム(V)のオキソ酸塩またはバナジル塩が使用可能であり、その添加量には特に制限は無いが、TiO2に対し各々0を越えて8atom%以下に選定される。TiO2原料の比表面積が大きい場合には高い値を、低いときは添加量を少なく選定すると脱硝性能を高く、SO2の酸化性能を低くでき、好都合である。これら活性成分の添加方法はどのような方法でもあっても良いが、水の存在下で混練または加熱混練する方法が経済的であり、優れている。
【0017】
以上の触媒成分と組み合わせるゼオライト成分には、SiO2/Al203比が20以上のモルデナイトまたはペンタシル型ゼオライト(ZSM-5)が良く、SiO2/Al203比が20以上、30以下で好結果を与え易い。該比が小さすぎると排ガス中や触媒成分中のS分で構造が破壊され、高すぎるとNH3の活性点が少なくなり高い活性向上率が得難い。
【0018】
活性成分担持後の触媒成分は、公知の方法によりハニカム状に成形して用いられる他、網状に加工した金属基板やセラミック繊維の網状物に目を埋める様に塗布して板状化した後波型などにスペーサ部を成形したものを積層した構造体として用いることが出来る。特に後者は、カリウム化合物を含む灰が触媒間に堆積しにくいので好結果を与え易い。
【0019】
なお、本発明とは直接関係のない成形のためのバインダーであるシリカゾルなどの結合剤、強化を目的とする無機繊維の添加を行うことが可能であり、その結果得られる触媒も本発明の範囲であることは言うまでもない。
【実施例】
【0020】
以下、具体例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
酸化チタン(石原産業社製、比表面積290m2/g)900g、85%リン酸84.5g、シリカゾル(日産化学社製、商品名OSゾル)219g、水5568gとをニーダに入れ45分間混練し、リン酸をTiO2表面に吸着させた。これにモリブデン酸アンモニウム113g、メタバナジン酸アンモニウム105g、H型モルデナイト(東ソー社製、商品名TSZ-650、SiO2/Al2O3比=23) 90gを添加して更に1時間混練し、リン酸を吸着したTiO2表面にMoとVの化合物担持した。しかる後、シリカアルミナ系セラミック繊維(東芝ファインフレックス社製)を151gを徐々に添加しながら30分間混練して均一なペースト状物を得た。得られたペーストを厚さ0.2mmのSUS430製鋼板をメタルラス加工した厚さ0.7mmの基材の上にき、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラを通して、メタルラス基材の網目を埋めるように塗布した。これを風乾後、500℃で2時間焼成して触媒を得た。本触媒の組成はTi/Mo/V=88/5/7原子比であり、H3PO4添加量、及びゼオライト添加量は各々TiO2に対し8wt%と10wt%である。
【0021】
[実施例2及び3]
実施例1において、リン酸添加量をそれぞれ10.6gおよび42.4gに変える以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。
[実施例4]
実施例1において、リン酸の添加量を159gに、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を121gに、およびH型モルデナイトを東ソー社製、商品名TSZ-640(SiO2/Al2O3=22)180gに変更する以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。本触媒の組成はTi/Mo/V=88/5/8原子比であり、H3PO4及びゼオライト添加量はTiO2に対し各々15wt%と20wt%である。
【0022】
[実施例5及び6]
実施例1に用いた酸化チタンを比表面積90m2/gの酸化チタンに変更すると共に、触媒のリン酸添加量をTiO2に対し4wt%に変え、さらにメタバナジン酸アンモニウムとモリブデン酸アンモニウムとを、それぞれ6.8gと61.8g、及び27.7gと62.7gに、H型モルデナイトを東ソー社製、商品名TSZ-660(SiO2/Al2O3=31) 27gに変更する以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。本触媒の組成は、Ti/Mo/V=96.5/3/0.5原子比と95/3/2原子比、H3PO4とゼオライト添加量は、TiO2に対し各々4wt%と3wt%である。
[実施例7]
実施例1の触媒に用いたモリブデン酸アンモニウム113gをメタタングステン酸アンモニウム162g、H型モルデナイトの添加量を9gに変える以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。本触媒の組成はTi/W/V=88/5/7原子比であり、H3PO4及びゼオライト添加量は、TiO2に対し各々8wt%と1wt%である。
【0023】
[比較例1〜7]
実施例1〜7において、ゼオライトの添加を行わない以外は同様にして触媒を調製した。
[比較例8〜11]
実施例1、5〜7において、リン酸の添加-吸着処理を行わない以外は同様にして触媒を調製した。
【0024】
[試験例1]
実施例1〜7及び比較例1〜7の触媒を20mm幅×100mm長さに切り出し、表1の条件で各触媒の脱硝性能を測定した。得られた結果を表2に纏めて示した。
表2において、本発明の実施例の触媒の性能を比較例のそれと比較してみると、350℃では両者の差は小さいが、400℃では実施例による触媒の性能が顕著に高く、350℃以上の脱硝性能が改善された優れた触媒であることが分かる。
[試験例2及び3]
本願発明の触媒の優れた点を明確にするため、実施例1、5〜7及び比較例8〜17の触媒を20mm幅×100mm長さに切り出し、炭酸カリウムの水溶液を触媒成分に対しK2Oとして0.5wt%添加になるように含浸後150℃で乾燥してバイオマス燃焼灰中に含まれるカリウム化合物による劣化を模擬した試験を行った。
【0025】
これとは別に、実施例1、5〜7及び比較例8〜17の触媒に亜ヒ酸の水溶液を触媒成分に対しAs2O3が2wt%になるように含浸後、350℃で1時間焼成して高S炭排ガスにおける劣化を模擬する試験を実施した。
【0026】
上記2種類の模擬試験後の触媒と模擬試験前の触媒とについて、表3の条件で脱硝性能を測定し、各触媒の耐毒性を評価した。得られた結果を表4に纏めて示した
表4において、実施例と比較例の各触媒の性能を比較すると、本願発明の実施例による触媒はカリウム及びヒ素化合物による劣化が極めて小さく、耐久性に優れることが分かる。
【0027】
本結果と先に示した試験例の結果とから、本発明の触媒は、350℃以上の高温特性に優れるだけでなく、K、Asなどの触媒毒による劣化もし難いという特徴を有する優れた触媒であることは明白である。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン(Ti)、リン(P)の酸化物、およびモリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)、およびバナジウム(V)酸化物と、SiO2/Al2O3比が20以上の高シリカゼオライトとからなる触媒組成物であって、(1)酸化チタンと、酸化チタンに対しH3PO4として1を越えて15wt%以下のリン酸またはリン酸のアンモニウム塩、(2)モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸またはオキソ酸塩とバナジウム(V)のオキソ酸塩またはバナジル塩が0を越えて8atom%以下、および(3)高シリカゼオライトが酸化チタンに対し0を越えて20wt%以下の条件で水の存在下で混練、乾燥、焼成したものである排ガス脱硝触媒。
【請求項2】
高シリカゼオライトがモルデナイトであることを特徴とする請求項1記載の脱硝触媒。
【請求項3】
酸化チタンと、リン酸またはリン酸のアンモニウム塩とを予め水の存在下で接触させて酸化チタン表面にリン酸イオンを吸着せしめた後、モリブデン(Mo)及び/またはタングステン(W)のオキソ酸またはオキソ酸塩と、バナジウム(V)のオキソ酸塩またはバナジル塩、および高シリカゼオライトを添加し、水の存在下で混練、乾燥、焼成することを特徴とする排ガス脱硝触媒の製造方法。

【公開番号】特開2012−55810(P2012−55810A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199925(P2010−199925)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】