説明

排尿障害の改善及び/又は治療に使用するレーザーの用途

【課題】治療に痛み・侵襲を伴わず、さらに薬の副作用等がない新たな排尿障害の改善及び/又は治療方法に関する材料を提供すること。
【解決手段】レーザー照射が、尿意の異常、頻尿、尿失禁、膀胱・骨盤部痛、排尿筋過活動などの排尿障害(特に、蓄尿障害)の改善及び/又は治療に適用できることを新たに見出した。さらに、排尿障害の改善及び/又は治療に用いる最適なレーザーの条件を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿障害の改善及び/又は治療に使用するレーザーの新規用途に関する。より詳しくは、排尿障害の改善及び/又は治療に使用する最適なレーザーの条件に関する。
【背景技術】
【0002】
光線(特に、低反応レベルレーザー)の照射は、末梢神経系において痛みを伝える感覚繊維(Aδ、C線維)の神経伝達を選択的に抑制、痛覚閾値の上昇、発痛物質産生を抑制、交感神経の緊張・伝導を抑制する効果が知られている。よって、光線の照射は、神経因性の慢性疼痛の治療に用いられている(参照:非特許文献1〜5)。
【0003】
また、光線は、皮膚から血管病変及び色素性病変を除去する治療に適用できることが報告されている(特許文献1)。さらには、光線は、しわの除去、創傷治癒にも適用できることが報告されている(特許文献2)。
しかしながら、光線が排尿障害の改善及び/又は治療に利用できることはいっさいの開示又は示唆がない。
【0004】
排尿障害とは、排尿行為に関する異常の総称で、尿意切迫感、膀胱知覚亢進、頻尿、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性など)、遺尿、排尿困難、排尿痛、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部(下腹部、腟、尿道、会陰、睾丸、陰嚢など)の痛み・不快感、過活動膀胱、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、間質性膀胱炎、神経因性膀胱等を意味する。
【0005】
尿意切迫感とは、急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが困難な状態である。通常、頻尿や尿失禁を伴う。
【0006】
排尿困難とは、排尿時に尿が出にくい状態の総称で、排尿しようとしても排尿が始まるまでに時間がかかる(排尿遅延)、尿の勢いが弱い(尿勢低下)、尿線が排尿中に1回以上途切れる(尿線途絶)、また、腹圧を加えないと尿が出にくい(腹圧排尿)などの状態である。
【0007】
頻尿とは、排尿回数が異常に多い状態である。正常人の排尿回数は日差、個人差が大きいが、目安として1日8回以上、就眠時1回以上が続くときを頻尿としている。頻尿は膀胱知覚亢進(早期からの持続的な尿意)、膀胱・骨盤部痛や排尿痛を伴う場合がある。
【0008】
排尿痛とは、排尿時に尿道に感じる疼痛のことで、排尿初期又は排尿末期にのみ感じることもある。
【0009】
尿失禁とは、不随意的に尿を漏らす状態である。なお、いくつかの型がある。膀胱に尿が充満して尿閉状態になるとあふれでてくる失禁(溢流性尿失禁)、尿意を感じると排尿を抑制できないために起こる失禁(切迫性尿失禁)、腹圧上昇時のみに起こる失禁(腹圧性尿失禁)、尿道括約筋の機能喪失で、膀胱に尿が貯まらずに持続的に起こる失禁(尿道弛緩性失禁)等がある。
【0010】
泌尿器疾患の治療上、頻尿、尿意切迫、尿失禁等の排尿障害を治療することは非常に重要である。治療方法としては、薬物療法と理学療法がある。
薬物療法における頻尿、尿意切迫、尿失禁等の排尿障害治療剤は抗コリン作用や交感神経(刺激)遮断作用のあるものが主体で薬物投与の性質上、その副作用は避けがたかった。
理学療法としては腟や肛門への挿入式の電気刺激治療器が知られているが、これは患者の使用抵抗感が強く、特にわが国では実質上使われていなかった。
また、治療にはそれぞれの原因疾患の治療が基本となるが、それが不可能なときは対症療法を行なっている。
【0011】
さらに、蓄尿障害の治療法では、抗コリン薬を中核とした薬物療法、膀胱拡張術などの手術療法などがある。しかし、現在、膀胱の収縮(排出機能)に影響を及ぼさない治療法は報告されていない。
【0012】
上記現状により、患者の薬物投与による副作用、治療よる痛み・侵襲を伴わない新たな排尿障害の治療方法の開発が望まれていた。
【0013】
上記新たな治療方法の候補としては、低周波電気治療器による低周波電流による治療方法が報告されている(特許文献3)。
該治療方法は、電極の一方を下腹部に他方の電極を臀部に設置し、電流の交差を実質的に膀胱及び/又は尿道近傍で生じさせるものである。
すなわち、本発明の新規用途とは、レーザーを使用しない点で明らかに異なる。また、本出願時点において、低周波電流による排尿障害の治療方法として実用化されているとの報告がない。
【非特許文献1】ペインクリニック Vol.24 No.4 (2003.4)
【非特許文献2】ペインクリニック Vol.16 No.4 (1995.8)
【非特許文献3】Neuroscience Letters 323 (2002) 207-210
【非特許文献4】Brain Research Bulletin, Vol.34, No.4, pp.369-374
【非特許文献5】埼玉医科大学雑誌 第23巻 第2号 平成8年4月
【非特許文献6】下部尿路機能に関する用語基準:国際禁制学会標準化部会報告
【特許文献1】特表平11-508802
【特許文献2】特表2006-519047
【特許文献3】特開平5-64665
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消すべく、治療に痛み・侵襲を伴わず、さらに薬の副作用等がない新たな排尿障害の改善及び/又は治療方法に関する材料を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するために、レーザーの照射による膀胱の感覚を伝える感覚神経線維(Aδ、C繊維)の神経伝達を選択的に抑制およびその感覚の閾値を上昇させる効果を、膀胱の収縮を調節している運動神経の機能(排出機能)に影響を及ぼすことなく、膀胱の感覚異常による尿意切迫感、膀胱感覚亢進(過敏)といった尿意の異常、頻尿、尿失禁、膀胱・骨盤部痛、排尿筋過活動などの排尿障害(特に、蓄尿障害)の改善及び/又は治療に適用できることを新たに見出した。さらに、排尿障害の改善及び/又は治療に用いる最適なレーザーの条件を見出した。
以上により、本発明者は、上記知見を基にして、排尿障害の改善及び/又は治療に使用するレーザーの新規用途の発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明は以下に関する。
「1.レーザー波長が700nm〜900nm、レーザー出力が40mW〜10W、総光線量が0.9J/cm2〜117000J/cm2及びレーザー照射が両側又は片側の仙骨孔の近傍への経皮的照射であることを特徴とする排尿障害の改善及び/又は治療に使用するレーザーの用途。
2.レーザー照射条件が、以下のいずれか1以上であることを特徴とする前項1の用途。
(1)1回当たりの総照射量が、0.9J/cm2 〜300J/cm2である。
(2)1回当たりの照射時間が、10秒〜5分である。
(3)同一部位の照射が、1日当たり1回〜15回である。
(4)第1週目は、5日〜7日間照射である。
(5)第2週目は、4日〜6日間照射である。
(6)第3週目は、3日〜5日間照射である。
(7)第4週目は、2日〜4日間照射である。
(8)第5週目は、1日〜4日間照射である。
3.排尿障害が、以下の群より選ばれるいずれか1以上であることを特徴とする前項1又は2の用途;
尿意切迫感、膀胱知覚亢進、頻尿、尿失禁、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部の痛み・不快感、過活動膀胱、遺尿、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、間質性膀胱炎、及び神経因性膀胱。
4.レーザー波長が700nm〜900nm、レーザー出力が40mW〜10W及び総光線量が0.9J/cm2〜117000J/cm2であることを特徴とする排尿障害の改善及び/又は治療用レーザー光源の使用。
5.レーザー波長が700nm〜900nm、レーザー出力が40mW〜10W及び総光線量が0.9J/cm2〜117000J/cm2であることを特徴とする排尿障害の改善及び/又は治療用レーザー照射装置の使用。」
【発明の効果】
【0017】
本発明の新規レーザーの用途により、排尿機能に対して、排出機能を損なうことなく、排尿障害を改善することができた。
すなわち、本発明の新規レーザーの用途は、膀胱感覚亢進(過敏)、尿意の異常、排尿筋過活動といった病態及び尿意切迫感、頻尿、尿失禁、膀胱痛等の症状に対する画期的な治療方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の排尿障害の改善及び/又は治療に使用する最適なレーザーの条件を説明する。しかしながら、下記記載のレーザー条件は、患者の性別、年齢、身長、体重、排尿障害の症状等を考慮して、適宜選択される。
【0019】
(レーザーの照射部位)
本発明の用途におけるレーザーの照射部位は、両側又は片側の仙骨孔の近傍である。好ましくは、S2、S3及び/又はS4の仙骨孔から仙髄神経根に向けて照射する。そして、レーザー照射方法は、原則経皮的照射である。照射部位での照射の表面積は、約0.1cm〜約1.0cmである。
なお、本発明者は、両側の仙骨孔の近傍に対する経皮的照射は、片側のみの仙骨孔の近傍に対する経皮的照射と比較して、排尿障害の改善及び/又は治療の効果が高いことを確認している。
【0020】
(レーザーの波長)
本発明の用途におけるレーザーの波長は、700nm〜900nmであり、好ましくは、750nm〜850nmであり、より好ましくは780nm〜830nmである。
【0021】
(レーザーの出力)
本発明の用途におけるレーザーの出力は、40mW〜10Wであり、好ましくは、60mW〜500mWであり、より好ましくは、100mW〜1.0Wである。
【0022】
(レーザーの照射態様)
本発明の用途におけるレーザーでは、連続照射及び/又はパルス照射を使用する。
なお、照射部位である仙骨孔の奥に存在する末梢神経・仙髄神経根に対して連続照射する場合には、高いレーザー出力が必要となる。しかし、レーザー出力を上げると体表での熱作用(熱傷)が強くなる障害がある。
よって、高いレーザー出力を用いる場合は、好ましくは、1.0〜10Hzのパルス照射により、発熱を抑えながら照射をする。
【0023】
(レーザーの総光量)
本発明の用途におけるレーザーの総光量は、0.9J/cm2〜117000J/cm2であり、好ましくは、13.5J/cm2〜30000J/cm2であり、より好ましくは23400J/cm2〜70200J/cm2である。
なお、上記記載のレーザーの総光量(総照射量)は、一度に照射するのではなく、1日、1週間、数週間、1月又は数ヶ月間に1日当たり1回〜15回に分けて照射する。
【0024】
(レーザーの照射条件)
本発明の用途におけるレーザー照射条件は、以下の通りである。なお、各排尿障害の患者の状態により、以下の条件範囲より適宜決定される。
(1)1回照射当たりの総照射量が、0.9J/cm2 〜300J/cm2であり、好ましくは60J/cm2 〜180J/cm2である。
(2)1回当たりの照射時間が、10秒〜5分であり、好ましくは60秒〜3分間である。
(3)同一部位の照射が、1日当たり1回〜15回である。
(4)照射回数は、第1週目は5日〜7日間照射であり、第2週目は4日〜6日間照射であり、第3週目は3日〜5日間照射であり、第4週目は2日〜4日間照射であり、第5週目は1日〜4日間照射である。
【0025】
(レーザー光源)
本発明の用途におけるレーザー光源は、レーザー波長700nm〜900nm、レーザー出力40mW〜10W及び総光線量0.9J/cm2〜117000J/cm2の条件を満たす。さらに、本発明の用途におけるレーザー光源は、自体公知のレーザー照射装置に組み込むことができる。
【0026】
(レーザー照射装置)
本発明の用途におけるレーザーの照射装置は、疼痛緩和で使用されている自体公知の半導体レーザー治療器が利用できる。
例えば、ミナト医科株式会社製のSOFTLASERY JQ310、持田シーメンスメディカルシステム社製のメディレーザーソフト1000、メディレーザーソフトパルス10等が挙げられる。
【0027】
(レーザー照射方法)
本発明の用途におけるレーザーの照射方法は、上記レーザー照射条件を達成するために、上記レーザー照射装置のプローブ先端を照射部位に設置し、経皮的に照射する。この際、皮下組織での拡散を防ぐため、可能な限り、プローブの先端を皮膚に押し付ける。また、仙骨孔の角度に従い、照射角度を調節する。初めは小出力から開始し、徐々に出力を上げていく。なお、高齢者、末梢神経に障害を持つことが疑われる患者では、比較的低出力が望ましい。
【0028】
(排尿障害)
本発明の用途における改善及び/又は治療が可能な排尿障害は、以下のいずれか1以上である;
尿意切迫感、胱知覚亢進、頻尿、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性など)、遺尿、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部(下腹部、腟、尿道、会陰、睾丸、陰嚢など)の痛み・不快感、過活動膀胱、排尿筋過活動、間質性膀胱炎、及び神経因性膀胱。
【0029】
(治療方法)
本発明の用途における治療方法の一例としては、第1週目は5日〜7日間照射、2週目以降は順次1日ずつ減らし、週当たり1日照射になると一旦終了する。なお、この照射期間中では、効果の有無と各週当たりの照射回数を観察、記録しておく。治療期間後しばらく経過して、排尿障害改善効果が継続しなくなった場合、又は改善効果が乏しい場合には、もう一度、上記照射条件を繰り返すか、又は効果が認められた週の照射条件を数週間(1〜5週間)行なう。さらに、効果が乏しい場合には、効果が認められた週の照射条件を継続して行なう。
なお、繰り返しレーザー照射を行なうことにより、排尿障害改善効果の継続時間が段々長くなっていくと考えられる。
【0030】
(改善及び治療効果の判定方法)
本発明の用途における排尿障害の改善及び/又は治療効果の判定には、以下の判定方法が利用できる。しかしながら以下に限定されず、自体公知の排尿障害の改善、治療効果に利用されている判定方法を使用可能である。
尿意切迫感、頻尿、尿失禁、過活動膀胱(OAB)では、OABスコアー(OABガイドライン推奨)及び排尿日誌等を利用する。
膀胱、尿道、会陰部等の骨盤部痛(間質性膀胱炎などによる)では、間質性膀胱炎の症状と問題に関する質問表(間質性膀胱炎ガイドライン推奨)及び排尿日誌等を利用する。
【0031】
(排尿障害の機序)
排尿障害の機序において、いわゆる感覚系では膀胱知覚(求心路系)の異常が関与すると知られている。また、膀胱知覚(求心路系)の異常は、蓄尿期の異常(蓄尿障害)の排尿筋過活動、膀胱知覚の亢進(尿意切迫、持続性の尿意、痛み)に関与すると考えられている。
すなわち、選択的に排尿反射の求心路を抑制するができれば、膀胱の収縮を調節している運動神経の機能(排出機能)に影響を及ぼすことなく、膀胱の知覚異常による尿意切迫、膀胱感覚亢進(過敏)といった尿意の異常、排尿筋過活動などの病態、尿意切迫感、頻尿、尿失禁、膀胱・骨盤部痛の排尿障害(特に、蓄尿障害)の改善及び/又は治療に有効であると考えられる。
【0032】
(モデルラット)
実施例で使用したモデルラットは、以下の通りである。
(1)膀胱炎・膀胱痛(膀胱・末梢神経病変による)モデルラット
生食の代わりに0.1%酢酸を膀胱内へ注入したラットである。これにより、膀胱・末梢神経での刺激閾値の低下(過敏)を達成できる。
(2)脊髄損傷(脊髄病変による)モデルラット
脊髄(T8)に予め傷害(切断)を与え、損傷後4週間経ち排尿反射が亢進しているラットである。これにより、仙髄以上の中枢からの脱抑制による排尿反射(脊髄-脊髄)の亢進を達成できる。
(3)パーキンソン病(脳病変化による)モデルラット
両側の黒質に6-hydroxydopamineで傷害し、術後4週間経ち排尿反射が亢進しているラットである。これにより、橋以上の高位中枢からの脱抑制による排尿反射(脊髄-脳幹-脊髄)の亢進を達成できる。
【0033】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(レーザー照射による各モデルラットの排尿機能への影響の検討)
レーザー照射が、膀胱の感覚異常による尿意切迫、膀胱感覚亢進(過敏)といった尿意の異常、排尿筋過活動、尿意切迫感、頻尿・尿失禁、膀胱・骨盤部痛をきたしうる排尿障害(蓄尿障害)の各病態を、膀胱の収縮を調節している運動神経の機能(排出機能)に影響を及ぼすことなく、改善又は治療できるかを検討した。詳細は、以下の通りである。
【0035】
(使用したモデルラットと方法)
(1)使用したモデルラット
SDラット(雄:250-300g前後)の正常モデル、各病態モデル(膀胱炎、膀胱痛モデルラット、脊髄損傷モデルラット、パーキンソン病モデルラット)を使用した。なお、各モデルにおいて、下記に示すように経皮的に照射および両側のL6/S1椎間孔(ヒトのS3に相当する)を予め露出しておき、直接照射した。
(2)方法
検査数日前:ペントバルビタール腹腔内注入麻酔下に経腹壁的にPE 5Frの膀胱カテーテルを膀胱頂部に留置した。なお、検査当日に、ウレタン麻酔下で、経腹壁的に膀胱頂部にカテーテルを留置しても良い。
検査当日:ウレタン(皮下+腹腔内 1.5mg/kg)麻酔下に、設置カテーテルから膀胱へ持続的に生食を注水し、連続的に膀胱機能を観察した。膀胱の状態が安定した後、 各値(排尿間隔、膀胱容量、1回の排尿量、残尿、蓄・排尿時膀胱内圧(排尿時膀胱内圧法:留置カテーテルの一方を外部の圧トランデューサー、圧測定器、A/Dコンバーター、記憶装置につなぎ、内圧を連続的に測定する)を測定した。その後、両側のL6/S1椎間孔に、レーザー照射装置のプローブを介して経皮的又は直接的(露出したラット)に、低出力の半導体レーザーを照射又は偽照射(偽照射方法:プローブを照射の時と同様の位置に置く)し、照射中及び照射後の排尿機能の各値を計測した。なお、プローブは、経皮的に照射する場合には、モデルラットの皮膚に接触させたが、直接的に照射する場合には、モデルラットには接触させなかった。
なお、膀胱内圧測定では、排尿間隔、膀胱容量、膀胱のコンプライアンス、尿排出時の膀胱の収縮力などを評価することができる。
照射条件は、以下の通りである。
総光量:60, 100mW×10, 180mW×10, 30, 60, 180秒 (0.6, 1.0, 1.8, 5.4, 10.8, 32.4J)
レーザー:半導体レーザー(GaAlAs)
波長 :810nm
使用した照射装置:ミナト医科学株式会社 SOFTLASERY JQ 310
【0036】
(経皮的に照射を行った場合の健常モデルでの排尿間隔の結果)
経皮的に照射を行った場合の健常モデルでの排尿間隔の増減率の結果を図1に示す。
図1から明らかなように、照射後の排尿間隔が延長した。すなわち、レーザー照射により、膀胱に照射前より多くの尿を溜めることができるようになった。
【0037】
(経皮的に照射を行った場合の健常モデルでの1回の排尿量の結果)
経皮的に照射を行った場合の健常モデルでの1回の排尿量の増減率の結果を図2に示す。
図2から明らかなように、照射後の排尿量が増大した。すなわち、レーザー照射により、膀胱に照射前より多くの尿を溜めて排出することができるようになった。
【0038】
(経皮的に照射を行った場合の健常モデルでの排出時膀胱内圧の結果)
経皮的に照射を行った場合の健常モデルでの排出時膀胱内圧の変化率を図3に示す。
図3から明らかなように、照射後の排出時の膀胱内圧は変化しなかった。すなわち、レーザー照射は、膀胱の収縮力(尿の排出力)に影響を与えていない。これにより、レーザー照射効果は、排出機能(膀胱への遠心性神経線維)には影響を与えないことがわかった。
【0039】
(露出して照射を行った場合の健常モデルでの各結果)
露出して照射を行った場合の健常モデルでは、上記各結果(排尿間隔、1回の排尿量及び排出時膀胱内圧)と同様な結果であった。
すなわち、露出してのレーザー照射でも、排尿間隔の延長効果、排尿量の増大効果及び膀胱の収縮力に対しての影響がないことがわかった。
【0040】
(経皮的に照射を行った場合の各病態モデルでの各結果)
経皮的に照射を行った場合の各病態モデル(膀胱炎・膀胱痛モデルラット、脊髄損傷モデルラット、パーキンソン病モデルラット)では、上記各結果(排尿間隔、1回の排尿量及び排出時膀胱内圧)と同様な結果であった。
すなわち、レーザー照射により、炎症性(膀胱炎)及び神経因性(脳病変・脊髄病変ともに)の排尿障害(蓄尿障害)が、排出機能を損なうことなく、改善できた。
【実施例2】
【0041】
(レーザー照射による排尿機能への影響に対する機序の検討)
レーザー照射による排尿機能への影響に対する機序を検討した。詳細は、以下の通りである。
【0042】
(使用したモデルラットと方法)
(1)使用したモデルラット
SDラット(雄:250-300g前後)の正常モデル、膀胱炎・膀胱痛モデルラットを使用した。
(2)方法
ウレタン(皮下+腹腔内 1.5mg/kg)麻酔下に露出させた、L6/S1椎間孔両側に、低出力の半導体レーザーを照射した。対照には、偽照射したものを用いた。照射後又は偽照射後すぐに還流し、L6脊髄を摘出した。次に、摘出したL6脊髄をクリオスタットで切片(40μm)を作製した後、免疫染色法(ABC法)にて、 c-Fosタンパク質を染色した。そして、L6脊髄(後角から中間外側核周辺)の各関心領域におけるc-Fosタンパク質を発現している細胞の数を、照射群と偽照射群で、比較した。
照射条件は、以下の通りである。
総光量:膀胱への注水直前と注水後30分毎に、180mW×180秒 (32.4J):4回
レーザー:半導体レーザー(GaAlAs)
波長 :810nm
使用した照射装置:ミナト医科学株式会社 SOFTLASERY JQ 310
【0043】
(レーザー照射による排尿機能への影響に対する機序の検討結果)
正常モデル及び膀胱炎・膀胱痛モデルラットにおいて、下部尿路支配神経系の求心路のL6脊髄入力部位において、膀胱の感覚刺激に従ってc-Fosタンパク質を発現した細胞の数が、非照射郡に比べ、照射郡で有意に減少していたことを確認した(図4参照:膀胱炎・膀胱痛モデルラット)。
すなわち、レーザー照射によって、正常の膀胱感覚、蓄尿障害時の膀胱感覚の脊髄への入力強度が、抑制されることがわかった。なお、正常モデルでも同様の結果であった。
【実施例3】
【0044】
(レーザー照射による安全性の検討)
レーザー照射による安全性の検討をした。すなわち、長時間のレーザー照射による細胞への影響を検討した。詳細は、以下の通りである。
【0045】
(使用したモデルラットと方法)
(1)使用したモデルラット
SDラット(雄:250-300g前後)の正常モデル
(2)方法
ウレタン(皮下+腹腔内 1.5mg/kg)麻酔下に露出させたL6/S1椎間孔又は坐骨神経片方に、低出力の半導体レーザーを照射し、反対側には偽照射した。その後、照射又は偽照射後すぐに、L6脊髄根、坐骨神経を摘出した。そして、神経横断の薄切切片を作製した後、照射群と偽照射群で、比較した。
照射条件は、以下の通りである。
総光量:180mW×20分
レーザー:半導体レーザー(GaAlAs)
波長 :810nm
使用した照射装置:ミナト医科学株式会社 SOFTLASERY JQ 310
【0046】
(レーザー照射による安全性の検討結果)
露出した坐骨神経及びL6神経根に、レーザーを過剰照射(長時間照射)するも、形態学的(光顕レベル)には変化がなかった(図5参照)。
すなわち、レーザー照射は、安全性に問題がないと考えられる。
【0047】
以上の各実施例の結果により、レーザー照射は、排尿機能に対して、排出機能を損なうことなく、蓄尿機能を有意に向上させることができる。
より詳しくは、レーザー照射は、膀胱の感覚異常による膀胱感覚亢進(過敏)、尿意の異常、排尿筋過活動による尿意切迫感、頻尿・尿失禁、膀胱痛の各病態を、排出機能に影響を及ぼすことなく、有意に改善した。
さらに、排尿障害の改善の機序は、下部尿路支配末梢神経に対するレーザー照射が、選択的に排尿反射の求心路を抑制したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
すなわち、本発明の新規レーザーの用途は、膀胱感覚亢進(過敏)、尿意の異常、排尿筋過活動といった病態及び尿意切迫感、頻尿、尿失禁、膀胱痛等の症状に対する画期的な治療方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】健常モデルでの排尿間隔の結果
【図2】健常モデルでの1回の排尿量の結果
【図3】健常モデルでの排出時膀胱内圧の結果
【図4】膀胱炎・膀胱痛モデルラットでのc-Fosタンパク質の染色結果
【図5】レーザー照射後の健常モデルでの(坐骨神経)の切片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー波長が700nm〜900nm、レーザー出力が40mW〜10W、総光線量が0.9J/cm2〜117000J/cm2及びレーザー照射が両側又は片側の仙骨孔の近傍への経皮的照射であることを特徴とする排尿障害の改善及び/又は治療に使用するレーザーの用途。
【請求項2】
レーザー照射条件が、以下のいずれか1以上であることを特徴とする請求項1の用途。
(1)1回当たりの総照射量が、0.9J/cm2 〜300J/cm2である。
(2)1回当たりの照射時間が、10秒〜5分である。
(3)同一部位の照射が、1日当たり1回〜15回である。
(4)第1週目は、5日〜7日間照射である。
(5)第2週目は、4日〜6日間照射である。
(6)第3週目は、3日〜5日間照射である。
(7)第4週目は、2日〜4日間照射である。
(8)第5週目は、1日〜4日間照射である。
【請求項3】
排尿障害が、以下の群より選ばれるいずれか1以上であることを特徴とする請求項1又は2の用途;
尿意切迫感、膀胱知覚亢進、頻尿、尿失禁、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部の痛み・不快感、過活動膀胱、遺尿、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、間質性膀胱炎、及び神経因性膀胱。
【請求項4】
レーザー波長が700nm〜900nm、レーザー出力が40mW〜10W及び総光線量が0.9J/cm2〜117000J/cm2であることを特徴とする排尿障害の改善及び/又は治療用レーザー光源の使用。
【請求項5】
レーザー波長が700nm〜900nm、レーザー出力が40mW〜10W及び総光線量が0.9J/cm2〜117000J/cm2であることを特徴とする排尿障害の改善及び/又は治療用レーザー照射装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−172068(P2009−172068A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12066(P2008−12066)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】