説明

排気ガスの処理方法

【課題】 本発明の目的は、塩化メチレンを主溶剤とする排気ガスを電子線を照射することにより安価にしかも手軽に有害物質を生成することなく分解する方法を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも一種類のハロゲンを含有するガスに電子線を照射することを特徴とする排気ガスの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塩化メチレンを含む排気ガスに電子線ビームを照射して、塩化メチレンを分解する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】排気ガス中の硫黄酸化物及び/又は窒素酸化物を除去するための電子ビーム多段照射排気ガス処理方法及び装置が特公平7−12413号公報に開示されている。
【0003】塩化メチレンは、写真用支持体の一つであるトリアセチルセルロースの溶剤として長年使用されてきた、塩化メチレンは、活性炭素を用いた吸脱着による溶剤装置により回収されているが、大きな装置が必要でありランニングコストも高く更に排出濃度を更に下げることは極めて困難であった。塩化メチレンのような塩素を含んだ溶剤は、燃焼処理するとダイオキシン等の有害物質の生成や燃焼炉を腐食させる等の問題があり実用性に乏しいのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとしている課題】本発明の目的は吸脱着処理をした比較的低濃度(1000ppm以下)の塩化メチレンを主溶剤とする排気ガスを安価にしかも手軽に有害物質を生成することなく分解する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、塩化メチレンを含む排気ガスに電子線照射することにより、ほぼ100%分解することを見出した。
【0006】即ち、本発明は、濃度0.001〜1000ppmの塩化メチレンンを含有する排ガスに、線量合計0.01〜100kGyの電子線を少なくとも1回、温度10〜80℃において、これにアルカリ及び/または水を添加し、または添加せずに、照射することにより、塩化メチレンを分解処理する塩化メチレン含有排気ガスの処理方法である。
【0007】また、本発明は、濃度0.001〜1000ppmの塩化メチレンに加えて、濃度0〜100ppmのケトン及び/またはアルコールを含有する排ガスに、線量合計0.01〜100kGyの電子線を1回以上温度10〜80℃において照射することにより、塩化メチレン等を分解処理する塩化メチレン含有排気ガスの処理方法である。
【0008】更に、また、濃度0.001〜1000ppmの塩化メチレン、濃度0〜100ppmのケトン及び/またはアルコールを含有する排ガスに線量合計0.01〜100kGyの電子線を少なくとも1回温度10〜80℃において、これにアルカリ及び/または水の添加して照射することにより塩化メチレン等を分解処理する塩化メチレン含有排気ガスの処理方法である。
【0009】
【発明の実施の態様】本発明は以下の記載に限定されるものではないが以下に詳述する。
【0010】本発明にいう電子線とは、電子加速器により発生させる電子の流れであり、実用的には50keVから2MeV程度のエネルギーを有するものが適している。
【0011】本発明における排気ガスの組成としては、少なくとも一種のハロゲンを有するものであれば特に制限はないが、特に塩化メチレンが好ましい。排気ガスの濃度は、特に制限がないが、好ましくは1000ppm以下であり、更に好ましくは0.01〜500ppmであり、最も好ましいのは1〜50ppmである。
【0012】本発明における排気ガスには、ケトン及びまたはアルコールが0〜100ppm含まれても効果には支障がない。ケトンとしては、特に制限はないがアセトン・メチルエチルケトン・メチルイソブチルケトン・シクロヘキサノン等が挙げられる。アルコールとしては、特に制限はないがメタノール・エタノール・n−プロパノール・iso−プロパノール・n−ブタノール・iso−ブタノール・t−ブタノール等が挙げられる。
【0013】電子線の照射線量の合計は、0.01〜100kGyが好ましく、0.01kGyよりも少ないと効果が不十分であり、100kGyより大きいと装置も大がかりとなりコストも高く経済的にメリットが小さくなる。より、好ましくは1〜50kGyであり、更に好ましくは5〜35kGyである。
【0014】電子線は一度に照射するよりも2回以上に分けて照射することが好ましく、3〜5回に分けて照射するのが最も好ましい。2回以上照射するときの間隔は、0.05秒〜600秒間隔が好ましく、更に0.1秒〜300秒間隔が好ましく、5秒〜300秒間隔が最も好ましい。
【0015】電子線を照射する系にアルカリ及び/または水を添加することが好ましく、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム及びこれらの水溶液がより好ましく、アンモニア水と水酸化ナトリウム水溶液が最も好ましい。
【0016】排気ガスの処理温度は、10〜80℃が好ましく、更に15〜60℃が好ましく、20〜50℃が最も好ましい。排気ガスの処理は、バッチ式でも連続でも問題ないが、大量の排気ガスを処理するのには連続式が好ましい。
【0017】本発明を図1に基づいて説明する。塩化メチレン等を含有する工程排出ガスが活性炭等を充填した吸着処理装置6に導入され、排出ガスの吸着処理が行われる。吸着処理後に残存する塩化メチレン等を含有する吸着処理後のガスが、除湿機5を経て第1段目の電子線照射室2に導入され、その電子線照射領域3において電子線発生装置1からの電子線によって照射され、残存する塩化メチレン等が分解される。
【0018】分解処理後のガスが、水、アルカリ溶液接触装置4において水、アルカリ溶液と向流接触して洗浄された後、第2段目の電子線照射室及び水、アルカリ溶液接触装置に導入されて分解及び洗浄処理が更に行われ、次に第3段目の電子線照射室及び水、アルカリ溶液接触装置に導入されて分解及び洗浄処理が最終的に行われた後に、大気中に放出される。以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれに限定するものではない。
【0019】
【実施例1】25℃において182ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は62%であった。
【0020】
【実施例2】25℃において182ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、水4mlを添加した後16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は90%であった。
【0021】
【実施例3】25℃において182ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、アンモニアガス4mlを添加した後16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は98%であった。
【0022】
【実施例4】25℃において182ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、1モルの水酸化ナトリウム水溶液4mlを添加した後16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は100%であった。
【0023】
【実施例5】25℃において48ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は54%であった。
【0024】
【実施例6】25℃において48ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、8kGyの電子線を10秒間隔で2度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は72%であった。
【0025】
【実施例7】25℃において48ppmの濃度の塩化メチレンのガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、4kGyの電子線を10秒間隔で4度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は76%であった。
【0026】
【実施例8】25℃において48ppmの濃度の塩化メチレン48ppm、メタノール3ppm、アセトン2ppm、n−ブタノール2ppmの濃度の混合ガスをパイレックスガラス容器(内容量500ml)に採取し、1モルの水酸化ナトリウム水溶液4mlを添加した後16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は100%であった。
【0027】
【実施例9】25℃において48ppmの濃度の塩化メチレン48ppm、エタノール3ppmの濃度の混合ガスをパイレックスガラス容器(内容量600ml)に採取し、1モルの水酸化ナトリウム水溶液4mlを添加した後16kGyの電子線を1度照射した。照射後のガスをガスクロマトグラフィーで分析したところ、分解率は100%であった。
【0028】
【実施例10】吸着処理後のガス流量が620Nm3/分(NTP)、塩化メチレンの濃度が10ppm、メタノールの濃度が20ppmのガスを30〜40℃に冷却したのち、電子線照射室で電子線を照射し、水1200リットルを入れた鐘泡タイプの気液接触装置(装置容積120m3)に通気させ、更に電子照射、水との接触、電子線照射、水との接触というプロセスを直列で実施した。電子線照射量はいずれも10kGyであった。各工程出口のガス濃度は次の表のようになった。最終出口では、塩化メチレンの分解率は98%であった。
【0029】
【表1】


【0030】
【実施例11】吸着処理後のガス流量が620Nm3/分(NTP)、塩化メチレンの濃度が10ppm、メタノールの濃度が20ppmのガスを30〜40℃に冷却したのち、電子線照射室で電子線を照射し、1Nの水酸化ナトリウム水溶液1200リットルを入れた鐘泡タイプの気液接触装置(装置容積120m3)に通気させ、更に電子線照射、1Nの水酸化ナトリウム水溶液との接触、電子線照射、1Nの水酸化ナトリウム水溶液との接触というプロセスを直列で実施した。電子線照射量はいずれも10kGyであった。各工程出口のガス濃度は次の表のようになった。最終出口では、塩化メチレンの分解率は100%であった。
【0031】
【表2】


【0032】
【実施例12】吸着処理後のガス流量が620Nm3/分(NTP)、塩化メチレンの濃度が10ppm、メタノールの濃度が20ppm、アセトンの濃度が10ppm、n−ブタノールの濃度8ppmのガスを30〜40℃に冷却したのち、電子線照射室で電子線を照射し、水1200リットルを入れた鐘泡タイプの気液接触装置(装置容積120m3)に通気させ、更に電子照射、水との接触、電子線照射、水との接触というプロセスを直列で実施した。電子線照射量はいずれも10kGyであった。各工程出口のガス濃度は次の表のようになった。最終出口では、塩化メチレンの分解率は97%であった。
【0033】
【表3】


【0034】
【発明の効果】本発明により、ハロゲンを少なくとも一種含有する排気ガスを簡便に安価に分解できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の連続排気ガス処理装置のフローを示す図である。
【符号の説明】
1: 電子線発生装置
2: 電子線照射室
3: 電子線照射領域
4: 水、アルカリ溶液接触装置
5: 除湿機
6: 吸着処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一種類のハロゲンを含有するガスに電子線を照射して分解処理することを特徴とする排気ガスの処理方法。
【請求項2】 該ハロゲンが塩化メチレンであることを特徴とする請求項1に記載の排気ガスの処理方法。
【請求項3】 塩化メチレンの濃度が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気ガスの処理方法。
【請求項4】 塩化メチレンの濃度が0.001〜500ppmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項5】 該排気ガスに含まれる溶剤が塩化メチレンの他に少なくともケトン及び/またはアルコールが含まれることを特徴とする請求項1乃至4にいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項6】 該排気ガスに含まれるケトン及び/またはアルコールの濃度が0〜100ppmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項7】 該排気ガスに含有されるケトンの少なくとも一種類がアセトンであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項8】 該排気ガスに含有されるアルコールがメタノール、エタノールまたはブタノールの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項9】 電子線の照射を2回以上繰り返すことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項10】 電子線の照射にあたりアルカリ及び/または水を添加することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項11】 電子線の照射量の線量合計が0.01〜100kGyであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。
【請求項12】 該処理ガスの温度が10〜80℃であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の排気ガスの処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2001−170447(P2001−170447A)
【公開日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−354661
【出願日】平成11年12月14日(1999.12.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成11年6月20日 社団法人日本アイソトープ協会発行の「第36回理工学における同位元素研究発表会要旨集」に発表
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】