説明

排気温度センサの異常診断装置

【課題】排気温度センサの異常診断の実行頻度を増やすことができ、排気温度センサの異常を速やかに検出できるようにした排気温度センサの異常診断装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気系に設けられる排気温度センサの異常の有無を診断するための排気温度センサの異常診断装置において、所定期間内における前記内燃機関への燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が所定の第1の閾値以上のときに、前記排気温度センサによる検出温度の最大値及び最小値の差が所定の第2の閾値以上であるか否かを判定することにより、前記排気温度センサの異常の有無を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気系に設けられる排気温度センサの異常の有無を診断するための排気温度センサの異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載される内燃機関の排気系には、排気温度や触媒温度等の検出に用いられる排気温度センサが備えられている。排気温度センサによって検出される排気温度や触媒温度等は、排気浄化制御をはじめとする所定の制御に用いられる。ところが、排気温度センサの異常を生じている場合には、排気温度センサの検出温度を用いた制御の精度が失われることになる。そのため、排気温度センサの異常検出を精度よく、確実に行えるようにした排気浄化装置が提案されている。
【0003】
具体的には、内燃機関の排気管の途中に酸化触媒付パティキュレートフィルタが設置され、その下流に排気温度センサが配置されている場合に、ECU(電子制御装置)が、内燃機関の運転が所定の安定状態であるときに、内燃機関の運転状態に基づいて排気温度センサ近傍の排気温度を推定するとともに、排気温度センサによる排気温度の検出を行い、排気温度推定値とセンサ実測値の前回値からの変化量を比較して、その差が所定の閾値より大きい場合に、排気温度センサ異常と判定するようにした排気浄化装置が開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−22730号公報 (全文、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された排気浄化装置は、内燃機関が運転安定状態となっている期間の排気温度推定値及びセンサ実測値のそれぞれの変化量を求めて判定を行うこととしている。そのため、判定を行うための変化量を得ることができる機会が限られ、判定の頻度が少なくなるおそれがある。
【0006】
本発明の発明者はこのような問題にかんがみて、所定期間内における内燃機関への燃料噴射量又は燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が所定の第1の閾値以上のときに、排気温度センサによる検出温度の最大値及び最小値の差が所定の第2の閾値以上であるか否かを判定することによって排気温度センサの異常の有無を診断することによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、排気温度センサの異常診断の実行頻度を増やすことができ、排気温度センサの異常を速やかに検出できるようにした排気温度センサの異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、内燃機関の排気系に設けられる排気温度センサの異常の有無を診断するための排気温度センサの異常診断装置において、所定期間内における前記内燃機関への燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が所定の第1の閾値以上のときに、前記排気温度センサによる検出温度の最大値及び最小値の差が所定の第2の閾値以上であるか否かを判定することにより、前記排気温度センサの異常の有無を診断することを特徴とする排気温度センサの異常診断装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0008】
すなわち、本発明にかかる排気温度センサの異常診断装置は、内燃機関の燃料噴射量と排気温度との間に相関関係があることに着目し、内燃機関への燃料噴射量又は燃料噴射量の相関値が所定の振幅以上で変化したときに、排気温度センサによる検出温度が所定の振幅以上で変化したか否かによって排気温度センサの異常の有無を判別するように構成されている。したがって、排気温度センサの異常診断を行うための環境を個別に形成することなく、内燃機関の運転制御を実行しながら、排気温度センサの異常診断を実行することができる。その結果、排気温度センサの異常診断の実行頻度が担保され、排気温度センサに異常を生じたときに、早期に異常を検知することを可能にすることができる。
【0009】
また、本発明にかかる排気温度センサの異常診断装置において、前記排気温度センサの上流側に所定の加熱制御を実行するための加熱手段を備える場合において、前記所定期間内における前記燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が前記第1の閾値以上のときであっても、前記所定期間の経過時に前記加熱手段が作動されている場合には、前記判定を行わないようにすることが好ましい。
【0010】
このように排気温度センサの異常診断装置を構成することにより、加熱手段から発生する熱の影響による誤診断の発生を防ぐことを可能にすることができる。
【0011】
また、本発明の排気温度センサの異常診断装置において、前記排気温度センサの上流側に、前記内燃機関から排出される排気中の粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタを備える場合において、前記所定期間内における前記燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が前記第1の閾値以上のときであっても、前記所定期間の経過時に、前記パティキュレートフィルタに捕集された前記粒子状物質を除去する再生制御が実行されている場合には、前記判定を行わないようにすることが好ましい。
【0012】
このように排気温度センサの異常診断装置を構成することにより、パティキュレートフィルタの再生制御時に発生する熱の影響による誤診断の発生を防ぐことを可能にすることができる。
【0013】
また、本発明の排気温度センサの異常診断装置において、前記排気温度センサの上流側に、前記内燃機関から排出される排気中の粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタを備える場合において、前記所定期間内における前記燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が前記第1の閾値未満のときであっても、前記所定期間内における、前記パティキュレートフィルタに捕集された前記粒子状物質を除去する再生制御の実行期間の割合が所定範囲内の場合には、前記排気温度センサによる検出温度の最大値及び最小値の差が所定の第4の閾値以上であるか否かを判定することにより、前記排気温度センサの異常の有無を診断することが好ましい。
【0014】
このように排気温度センサの異常診断装置を構成することにより、燃料噴射量が所定の振幅以上で変化しなかった期間においても、当該期間内に加熱手段のオンオフが切り換えられた場合には、加熱手段の影響による排気温度の上昇に伴って排気温度センサによる検出温度が所定程度以上の増加を示したか否かによって排気温度センサの異常診断を実行することができる。したがって、排気温度センサの異常診断の頻度がより担保され、排気温度センサに生じた異常を速やかに検知することを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置が備えられる内燃機関の排気系の全体的構成を概略的に示す図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置の構成を機能的に示すブロック図である。
【図3】第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置によって実行される異常診断方法の一例を示すフローチャート図である。
【図4】第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置によって実行される第2判定について説明するためのフローチャート図である。
【図5】第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置によって実行される異常診断方法において用いられる判定テーブル表である。
【図6】第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置が備えられる内燃機関の排気系の全体的構成を概略的に示す図である。
【図7】第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置の構成を機能的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる排気温度センサの異常診断装置に関する実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置が備えられた内燃機関1の排気系を説明するために示す図である。図2は、第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置の構成を説明するために示す図である。図3及び図4は、第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置によって実行される異常診断方法を示すフローチャート図である。図5は、異常判定を行う際の判定テーブル表を示している。
【0018】
1.内燃機関の排気系の全体的構成
図1に示すように、内燃機関1は複数の燃料噴射弁5を備えるとともに、排気を流通させる排気管3が接続されている。燃料噴射弁5は電子制御装置30によって駆動制御されるものであり、電子制御装置30は、機関回転数Nやアクセル操作量Acc、その他の情報に基づいて目標燃料噴射量Qを演算するとともに、算出された目標燃料噴射量Qに基づいて燃料噴射弁5の通電時期及び通電時間を求めて、燃料噴射弁5の通電制御を実行するようになっている。
【0019】
内燃機関1に接続された排気管3には排気浄化装置10が設けられている。排気浄化装置10は、排気管3の上流側から順に備えられた酸化触媒11とパティキュレートフィルタ12とNOX浄化触媒13とを有している。また、パティキュレートフィルタ12の上流側及び下流側には第1及び第2の圧力センサ17,18が設けられ、パティキュレートフィルタ12とNOX浄化触媒13との間には排気温度センサ15が設けられている。これらのセンサのセンサ信号は電子制御装置30に入力されるようになっている。
【0020】
酸化触媒11は、主に、パティキュレートフィルタ12の再生制御時において、排気中に含まれる未燃燃料を酸化(燃焼)して排気温度を上昇させる機能を有する触媒である。用いる酸化触媒11は限定されるものではなく、公知のディーゼル酸化触媒等を用いることができる
【0021】
パティキュレートフィルタ12は、内燃機関1から排出される排気中に含まれる煤等の微粒子(以下、「PM(Particulate Material)」と称する。)を捕集する機能を有するフィルタである。パティキュレートフィルタ12は、代表的にはハニカム構造を有するフィルタが用いられるが、このようなフィルタに限定されるものではない。
【0022】
NOX浄化触媒13は、排気中に含まれる窒素酸化物を分解する機能を有する触媒である。NOX浄化触媒13としては、主にNOX選択還元触媒又はNOX吸蔵触媒などが用いられる。図1に示す排気浄化装置10に備えられたNOX浄化触媒13は、ポンプ23及び還元剤噴射弁25を有する還元剤供給装置20から供給される還元剤を用いて窒素酸化物を選択的に還元するNOX選択還元触媒である。還元剤としては、尿素水溶液や未燃燃料が用いられるが、これ以外の還元剤を用いることもできる。
【0023】
排気温度センサ15は、直接的には排気温度Tを検出するものであるが、当該排気温度Tは、NOX浄化触媒13の温度の推定などにも用いられるようになっている。推定されるNOX浄化触媒13の温度は、例えば、還元剤供給装置20による還元剤噴射制御に用いられる。具体的には、NOX浄化触媒13における還元剤成分等の最大吸着量は触媒温度に応じて変化するとともに、最大吸着量に対する現在の吸着量に応じて窒素酸化物の浄化効率も変化する。そのため、還元剤供給装置20は、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tから推定される触媒温度に基づいて、還元剤の噴射の可否や噴射量を制御するように構成されている。
【0024】
2.電子制御装置(異常診断装置)
(1)装置の構成
図2は、電子制御装置30の構成のうち、燃料噴射制御、及び、排気温度センサ15の異常診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。この電子制御装置30が排気温度センサの異常診断装置としての機能を有している。
【0025】
電子制御装置30は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、目標燃料噴射量演算手段31と、燃料噴射弁制御手段33と、再生制御手段35と、排気温度検出手段37と、異常判定手段39とを備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0026】
また、電子制御装置30には、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶手段、及び、燃料噴射弁5への通電を行うための燃料噴射弁駆動回路41が備えられている。記憶手段には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各手段による演算結果等が書き込まれるようになっている。
【0027】
目標燃料噴射量演算手段31は、例えば、燃料噴射量マップに基づいて機関回転数Nやアクセル操作量Accから目標燃料噴射量Qを演算する。具体的な演算方法は限定されない。また、排気温度検出手段37は、排気温度センサ15のセンサ信号Stを読み込み、排気温度Tを検出する。
【0028】
再生制御手段35は、パティキュレートフィルタ12に捕集されたPMの堆積量が増大することによるパティキュレートフィルタ12の目詰まりを防ぐために、所定の時期にパティキュレートフィルタ12の再生制御を実行させる。第1の実施の形態にかかる電子制御装置30において、再生制御手段35は、パティキュレートフィルタ12の上流側の圧力P1と下流側の圧力P2との差圧ΔPが所定の閾値ΔP0に到達したときに再生制御の実行指示を生成する。パティキュレートフィルタ12の上流側の圧力P1及び下流側の圧力P2は、第1及び第2の圧力センサ17,18のセンサ信号をもとにして検出することができる。ただし、再生制御を実行させる時期を決定する方法については、差圧ΔPを監視する方法に限定されない。
【0029】
また、第1の実施の形態にかかる電子制御装置30では、内燃機関1への燃料噴射制御において、主噴射に遅れて微量の補助噴射(以下、この補助噴射を「再生用ポスト噴射」と称する。)を実行することにより再生制御が行われる。したがって、再生制御手段35は、パティキュレートフィルタ12の上流側の圧力P1と下流側の圧力P2との差圧ΔPが所定の閾値ΔP0に到達したときに、再生用ポスト噴射を実行するよう燃料噴射弁制御手段33に対して指示するようになっている。
【0030】
かかる再生用ポスト噴射によって排気中に未燃燃料が含まれることになり、この未燃燃料が酸化触媒11で酸化されることによって、パティキュレートフィルタ12に流入する排気温度が上昇する。その結果、パティキュレートフィルタ12に捕集されているPMが燃焼、除去される。
【0031】
燃料噴射弁制御手段33は、目標燃料噴射量Qその他の内燃機関1の運転条件に基づいて、燃料噴射弁5への通電時期及び通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路41に出力する指示信号を生成する。また、第1の実施の形態にかかる電子制御装置30においては、再生制御手段35によってパティキュレートフィルタ12の再生制御の実行指示が生成されると、燃料噴射弁制御手段33は、再生用ポスト噴射を実行するように噴射時期を決定する。
【0032】
異常判定手段39は、目標燃料噴射量演算手段31によって算出される目標燃料噴射量Q、再生制御手段35による再生制御実行指示の有無、及び排気温度検出手段37によって検出される排気温度Tを読み込むとともに、これらの情報に基づいて、排気温度センサ15の異常の有無を判定するように構成されている。このとき、読み込まれる目標燃料噴射量Qや排気温度Tの値は、PT1フィルタ等のローパスフィルタ43,45によってフィルタ処理が施されるようになっている。
【0033】
(2)異常診断方法
以下、第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置としての電子制御装置30によって実行される排気温度センサ15の異常診断方法を、図3〜図4のフローチャート図及び図5の判定テーブル表に基づいて説明する。以下に説明する異常診断のルーチンは、内燃機関1の運転中、常時、又は所定の期間ごとの割り込みによって実行されるようになっている。
【0034】
まず、ステップS1において、電子制御装置30は機関回転数Nやアクセル操作量Acc等の情報に基づいて目標燃料噴射量Qを演算するとともに、排気温度センサ15から入力されるセンサ信号Stに基づいて排気温度Tを検出する。得られた目標燃料噴射量Qや排気温度Tは、ローパスフィルタ43,45によってフィルタ処理が施されて記憶手段に記憶される。このとき、目標燃料噴射量Q及び排気温度Tを記憶する際には、それぞれの値の最大値及び最小値が更新されるたびに、当該最大値及び最小値のみを記憶するようにすることもできる。
【0035】
次いで、ステップS2において、電子制御装置30は、再生制御の実行指示の有無に基づき、前回のルーチンにおけるステップS2の積算時から今回のルーチンにおける積算時までの期間における再生制御の実行時間を求めるとともに、再生制御の積算時間tbを演算し記憶する。
【0036】
次いで、ステップS3において、電子制御装置30は、タイマ値が所定の閾値t1に到達しているか否かを判別する。この閾値t1は、目標燃料噴射量Qの増減が生じ、それに伴う排気温度Tの変化が生じるような内燃機関1の運転状態の変化が生じ得る時間として適宜設定することができる。タイマ値が閾値t1に到達していない場合には、そのままステップS1に戻る一方、タイマ値が閾値t1に到達していた場合には、ステップS4に進み第1判定に移る。
【0037】
以降のステップS4〜ステップS11は、第1判定のフローとなっている。
ステップS4において、電子制御装置30は、タイマ値がリセットされてから現在までの対象期間内に記憶手段に記憶された目標燃料噴射量Q及び排気温度Tそれぞれの最大値及び最小値の差分ΔQ,ΔTを演算する。その後、ステップS5において、電子制御装置30は、対象期間内に算出されて記憶された目標燃料噴射量Qの最大値及び最小値の差分ΔQが所定の閾値A以上になっているか否かを判別する。この閾値Aは、燃料噴射量の差分に応じて排気温度Tが大きく変化するような値として適宜設定することができる。
【0038】
差分ΔQが閾値A以上になっている場合(Yes判定)には、ステップS6に進み、電子制御装置30は、現在パティキュレートフィルタ12の再生制御の実行中か否かを判別する。パティキュレートフィルタ12の再生制御の実行中である場合(Yes判定)には、排気温度センサ15の異常診断を正確に行うことができないおそれがあることから、ステップS7に進み、判定処理を行わないでステップS1に戻る。
【0039】
一方、ステップS6において、パティキュレートフィルタ12の再生制御の実行中でない場合(No判定)には、ステップS8に進み、排気温度Tの最大値及び最小値の差分ΔTが所定の閾値D以上であるか否かを判別する。この閾値Dは、目標燃料噴射量Qの差分ΔQに応じて、最低限変化すると予測される排気温度Tの変動幅として適宜設定することができる。
【0040】
差分ΔTが閾値D以上になっている場合(Yes判定)には、目標燃料噴射量Qの増減に応じて、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tが適切な応答を示していることから、電子制御装置30は、ステップS9において排気温度センサ15の異常なしと判定する。一方、差分ΔTが閾値D未満になっている場合(No判定)には、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tが、目標燃料噴射量Qの増減に応じた応答を示していないことから、電子制御装置30は、ステップS10において排気温度センサ15の異常ありと判定する。
【0041】
ステップS9及びステップS10において排気温度センサ15の異常の有無の判定を終えると、電子制御装置30は、ステップS11において、タイマ値や、積算値及び差分等の記憶された演算値をリセットしてスタートに戻る。
【0042】
すなわち、図5(a)に示すように、第1判定においては、対象期間中の目標燃料噴射量Qの差分ΔQが閾値A未満の場合には、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tの差分ΔTが閾値D以上であるか未満であるかにかかわらず第2判定に移行する。一方、対象期間中の目標燃料噴射量Qの差分ΔQが閾値A以上の場合には、排気温度Tの差分ΔTが閾値D以上であれば異常なしと判定し、排気温度Tの差分ΔTが閾値D未満であれば異常ありと判定する。
【0043】
上記のステップS5において、差分ΔQが閾値A未満である場合(No判定)には、目標燃料噴射量Qの変化のみによっては、排気温度Tに大きな変化が生じないと考えられることから、図4のフローチャート図のステップS21に進む。以下のステップS21以降のステップは、燃料噴射量が大きく変化しなかった場合においても、再生制御のオンオフによる排気温度Tの変化を利用して、排気温度センサ15の異常の有無を判定する第2判定を実行するステップとなっている。
【0044】
ステップS21においては、電子制御装置30は、対象期間の全体の時間t1に対して、ステップS2で求められた再生制御の積算時間tbの割合tb/t1が所定範囲内に入っているか否かを判別する。この範囲の上限B及び下限Cは、例えば25%〜75%とすることができる。全体時間t1に対する積算時間tbの割合tb/t1が25%未満の場合には、対象期間中の大部分の時間に再生制御が実行されておらず、排気温度Tが大きく変化しにくくなるからである。また、全体時間t1に対する積算時間tbの割合tb/t1が75%を超える場合においても、対象期間中の大部分の時間に再生制御が実行されており、排気温度Tが大きく変化しにくくなるからである。上限B及び下限Cの値については、排気温度Tの変化状態に応じて適宜最適な値を選択して設定することができる。
【0045】
ステップS21において、再生制御の積算時間tbの割合tb/t1が所定範囲内にない場合(No判定)には、排気温度センサ15の異常診断を正確に行うことができないことから、今回の対象期間での診断を中止するためそのままステップS25に進む。一方、ステップS21において、再生制御の積算時間tbの割合tb/t1が所定範囲内になっている場合(Yes判定)には、ステップS22に進み、排気温度Tの最大値及び最小値の差分ΔTが所定の閾値E以上であるか否かを判別する。この閾値Eは、再生制御のオンオフに応じて、最低限変化すると予測される排気温度Tの変動幅として適宜設定することができる。
【0046】
差分ΔTが閾値E以上になっている場合(Yes判定)には、再生制御のオンオフに応じて、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tが適切な応答を示していることから、電子制御装置30は、ステップS23において排気温度センサ15の異常なしと判定する。一方、差分ΔTが閾値E未満になっている場合(No判定)には、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tが、再生制御のオンオフに応じた応答を示していないことから、電子制御装置30は、ステップS24において排気温度センサ15の異常ありと判定する。
【0047】
ステップS21においてNo判定とされて診断を中止する際、又は、ステップS23及びステップS24において排気温度センサ15の異常の有無の判定を終えると、電子制御装置30は、ステップS25において、タイマ値や、積算値及び差分等の記憶された演算値をリセットしてスタートに戻る。
【0048】
このように、第1の実施の形態にかかる電子制御装置30は、燃料噴射量の増減が見られない場合であっても、再生制御のオンオフが切り替えられている場合には、再生制御のオンオフに応じて排気温度センサ15が応答しているかを見ることで、排気温度センサ15の異常の有無を診断するようになっている。
【0049】
すなわち、図5(b)に示すように、第2判定においては、対象期間中の全体の時間t1に対する再生制御の積算時間tbの割合tb/t1が所定範囲外の場合には、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tの差分ΔTが閾値E以上であるか未満であるかにかかわらず、今回の対象期間での診断を中止する。一方、対象期間中の全体の時間t1に対する再生制御の積算時間tbの割合tb/t1が所定範囲内の場合には、排気温度Tの差分ΔTが閾値E以上であれば異常なしと判定し、排気温度Tの差分ΔTが閾値E未満であれば異常ありと判定する。
【0050】
以上説明したように、第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置としての電子制御装置30は、内燃機関1への目標燃料噴射量Qが所定の振幅(ΔQ)以上で変化したときに、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tが所定の振幅(D)以上で変化したか否かによって排気温度センサ15の異常の有無を判別するように構成されている。したがって、排気温度センサ15の異常診断を行うための環境を個別に形成することなく、内燃機関1の運転制御を実行しながら、排気温度センサ15の異常診断を実行することができる。その結果、排気温度センサ15の異常診断の実行頻度が担保され、排気温度センサ15に異常を生じたときに、早期に異常を検知することを可能にすることができる。
【0051】
また、第1の実施の形態にかかる電子制御装置30においては、対象期間内に目標燃料噴射量Qの差分ΔQが閾値A以上になっている場合であっても、パティキュレートフィルタ12の再生制御が実行されている間は異常判定を行わないこととしている。そのため、再生制御の継続によって排気温度Tが高温に維持されることによる誤診断を防ぐことができる。
【0052】
また、第1の実施の形態にかかる電子制御装置30においては、対象期間中に目標燃料噴射量Qの差分ΔQが閾値A未満のときであっても、対象期間の全体の時間t1に対するパティキュレートフィルタ12の再生制御の積算時間tbが所定範囲内の場合には、排気温度センサ15によって検出される排気温度Tの最大値及び最小値の差分ΔTが閾値E以上になっているか否かによって、排気温度センサ15の異常の有無を判定することとしている。そのため、排気温度センサ15の異常診断の頻度がより担保されるようになり、排気温度センサ15に生じた異常を速やかに検知することができる。
【0053】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置は、診断対象の排気温度センサが設けられる内燃機関の排気系の構成が第1の実施の形態にかかる内燃機関の排気系の構成とは異なっている。具体的には、第2の実施の形態にかかる異常診断装置が備えられる内燃機関の排気系には、パティキュレートフィルタの再生制御に用いられる加熱手段が備えられている。
以下、第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置について、第1の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置と異なる点を中心に説明する。
【0054】
図6は、第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置としての電子制御装置が備えられた内燃機関の排気系を説明するために示す図である。図7は、第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置としての電子制御装置の構成を説明するために示す図である。
【0055】
図6に示すように、内燃機関1の排気系において、パティキュレートフィルタ12の上流側に加熱手段40が備えられている。この加熱手段40は、燃料タンク41内の燃料を燃焼することで発生する高温の燃焼ガスを排気管3内に供給するバーナ装置43を有している。ただし、加熱手段40はバーナ装置43を有するものに限定されず、電熱線等の他の手段によって構成することもできる。
【0056】
かかる内燃機関1の排気系の構成では、加熱手段40が直接的に排気温度を上昇させるため、パティキュレートフィルタ12の上流側に酸化触媒は備えられていない。加熱手段40を備える一方で酸化触媒を備えていない点以外は、第1の実施の形態において説明した内燃機関の排気系の場合と同様に構成することができる。
【0057】
また、図7に示すように、第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置としての電子制御装置50は、再生制御手段51が加熱手段駆動回路53に対して指示信号を生成するように構成されている以外は、第1の実施の形態にかかる電子制御装置の場合と同様に構成することができる。また、再生制御手段51が再生制御の実行指示を生成する時期を決定する具体的な方法については、第1の実施の形態にかかる電子制御装置と同様に構成することができる。
【0058】
さらに、異常判定手段55が、目標燃料噴射量Q、再生制御の実行指示の有無、及び排気温度センサ15によって検出される排気温度Tの情報に基づき、排気温度センサ15の異常判定を実行する具体的な方法についても、第1の実施の形態にかかる電子制御装置と同様に構成することができる。すなわち、図3及び図4に示すフローチャート図に沿って排気温度センサの異常の有無を診断することができる。
【0059】
以上説明したように、第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置としての電子制御装置50によれば、内燃機関1の排気系が、パティキュレートフィルタ12の上流側に備えられる加熱手段40を用いてパティキュレートフィルタ12の再生制御を実施するように構成されている場合であっても、第1の実施の形態にかかる電子制御装置30と同様の効果を得ることができる。
【0060】
[他の実施の形態]
以上説明した第1及び第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、それぞれの実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。第1及び第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0061】
(1)第1及び第2の実施の形態において説明した内燃機関の排気系を構成する各構成要素や、電子制御装置30,50の設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。
【0062】
(2)第1及び第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置は、目標燃料噴射量Qを用いて異常診断を行うこととしているが、目標燃料噴射量Qの値を直接用いるのではなく、目標燃料噴射量Qと相関関係を有する相関値を用いて異常診断を行うようにすることもできる。
【0063】
(3)第2の実施の形態において説明した内燃機関の排気系に備えられた加熱手段はパティキュレートフィルタの再生制御に用いられるものとなっているが、他の制御に用いられる加熱手段が備えられている場合であっても、同様の手順に沿って排気温度センサの異常診断を実行することができる。
【0064】
(4)第1及び第2の実施の形態にかかる排気温度センサの異常診断装置の診断対象となる排気温度センサは、パティキュレートフィルタとNOX触媒との間に設けられているが、排気温度センサが設けられている位置は特に限定されない。例えば、パティキュレートフィルタが備えられていない場合や、パティキュレートフィルタの上流側に排気温度センサが設けられている場合などには、再生制御に関連するステップや第2判定は省略される。
【符号の説明】
【0065】
1:内燃機関、3:排気管、5:燃料噴射弁、10:排気浄化装置、11:酸化触媒、12:パティキュレートフィルタ、13:NOX浄化触媒、15:排気温度センサ、17:第1の圧力センサ、18:第2の圧力センサ、20:還元剤供給装置、21:ポンプ、23:還元剤噴射弁、30:電子制御装置(異常診断装置)、31:目標燃料噴射量演算手段、33:燃料噴射弁制御手段、35:再生制御手段、37:排気温度検出手段、39:異常判定手段、41:燃料噴射弁駆動回路、43,45:ローパスフィルタ、50:電子制御装置(異常診断装置)、51:再生制御手段、53:加熱手段駆動回路、55:異常判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系に設けられる排気温度センサの異常の有無を診断するための排気温度センサの異常診断装置において、
所定期間内における前記内燃機関への燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が所定の第1の閾値以上のときに、前記排気温度センサによる検出温度の最大値及び最小値の差が所定の第2の閾値以上であるか否かを判定することにより、前記排気温度センサの異常の有無を診断することを特徴とする排気温度センサの異常診断装置。
【請求項2】
前記排気温度センサの上流側に所定の加熱制御を実行するための加熱手段を備える場合において、前記所定期間内における前記燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が前記第1の閾値以上のときであっても、前記所定期間の経過時に、前記加熱手段が作動されている場合には、前記判定を行わないようにすることを特徴とする請求項1に記載の排気温度センサの異常診断装置。
【請求項3】
前記排気温度センサの上流側に、前記内燃機関から排出される排気中の粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタを備える場合において、前記所定期間内における前記燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が前記第1の閾値以上のときであっても、前記所定期間の経過時に、前記パティキュレートフィルタに捕集された前記粒子状物質を除去する再生制御が実行されている場合には、前記判定を行わないようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気温度センサの異常診断装置。
【請求項4】
前記排気温度センサの上流側に、前記内燃機関から排出される排気中の粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタを備える場合において、前記所定期間内における前記燃料噴射量又は前記燃料噴射量の相関値の最大値及び最小値の差が前記第1の閾値未満のときであっても、前記所定期間内における、前記パティキュレートフィルタに捕集された前記粒子状物質を除去する再生制御の実行期間の割合が所定範囲内の場合には、前記排気温度センサによる検出温度の最大値及び最小値の差が所定の第4の閾値以上であるか否かを判定することにより、前記排気温度センサの異常の有無を診断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の排気温度センサの異常診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−219743(P2012−219743A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87608(P2011−87608)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】