説明

排水からセシウムと重金属類を除去する処理方法

【課題】セシウムと共に重金属類を含有する排水について、セシウムと重金属類とを同時に除去することができる処理方法を提供する。
【解決手段】排水に還元性鉄化合物を添加して還元性鉄化合物からなる沈澱を生成させ、該沈澱に排水中の重金属類を吸着させ、重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して重金属類を排水から除去する処理方法において、重金属類と共にセシウムを含む排水に還元性鉄化合物と可溶性シアン化合物を添加してセシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱を生成させ、該沈澱に排水中のセシウムと重金属類を吸着させ、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して排水からセシウムと重金属類を除去することを特徴とする処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウムと共に重金属類を含有する排水について、セシウムと重金属類とを同時に除去することができる処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セシウムの除去方法として、不溶性フェロシアン化物を吸着剤として用いる方法が従来から知られている。例えば、特開平04−118596号公報(特許文献1)には、セシウムを含む硝酸性溶液を不溶性フェロシアン化物に還元剤の存在下で接触させてセシウムを不溶性フェロシアン化物に吸着させる分離方法が記載されている。
【0003】
また、特開平05−254828号公報(特許文献2)には、酸化-還元型不溶性鉄シアノ錯塩を用い、還元状態の不溶性鉄シアノ錯塩にセシウム含有水を接触させてセシウムを吸着させた後に、該鉄シアノ錯塩を酸化処理してセシウムを脱着させるセシウムの回収方法が記載されている。
【0004】
さらに、特開平05−317697号公報(特許文献3)には、不溶性フェロシアン化物を用いてセシウムを吸着分離するときに、チオグリコール酸などの酸化防止剤やヒドラジン誘導体などの還元剤の存在下で行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−118596号公報
【特許文献2】特開平05−254828号公報
【特許文献3】特開平05−317697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の上記処理方法は、何れもセシウム吸着剤として予め製造された不溶性のフェロシアン化物を用いており、繰り返して使用する場合には、セシウム吸着後に脱着処理などの再生処理を行う必要がある。また、不溶性フェロシアン化物は親水性であり微粒子になりやすく、フィルターなどで分離しても微粒子の一部は通過してしまうため、処理水の全シアン濃度が排水基準値(1mg/L)や環境基準(検出されないこと)を満足することができず、後処理が必要になる。さらに、セシウムと共に重金属類を含む排水について、フェロシアン化物では重金属類を除去することができないので、セシウムと重金属類を除去するにはセシウムの除去工程と重金属の除去工程の二段処理が必要になり、操作が煩雑になる。
【0007】
本発明は、従来の処理方法における上記問題を解決したものであり、予め製造された不溶性フェロシアン化物を用いるのではなく、可溶性シアン化合物を用い、これを還元性鉄化合物(硫酸第一鉄など)と共に排水に添加して、セシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱(グリーンラストと鉄フェライトの混合物)を生成させ、この還元性鉄化合物沈澱に排水中のセシウムを重金属類と共に吸着させることによって、セシウムと重金属類を同時に除去できる処理方法を提供する。なお、セシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩を略して単に難溶性シアノ鉄酸塩と云う。
【0008】
本発明は以下の構成からなる処理方法である。
〔1〕排水に還元性鉄化合物を添加して還元性鉄化合物からなる沈澱を生成させ、該沈澱に排水中の重金属類を吸着させ、重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して重金属類を排水から除去する処理方法において、重金属類と共にセシウムを含む排水に還元性鉄化合物と可溶性シアン化合物を添加してセシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱を生成させ、該沈澱に排水中のセシウムと重金属類を吸着させ、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して排水からセシウムと重金属類を除去することを特徴とする処理方法。
〔2〕セシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩が難溶性ヘキサシアノ鉄酸塩であり、該難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱がグリーンラストと鉄フェライトの混合物である上記[1]に記載する処理方法。
〔3〕上記[1]または上記[2]に記載する処理方法において、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離し、分離した汚泥の一部または全部を反応工程に戻して再使用することによって、難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱の生成を促す処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理方法は、可溶性シアン化合物と還元性鉄化合物を排水に添加して沈澱を生成させる。この沈澱は難溶性シアノ鉄酸塩を含み、グリーンラストと鉄フェライトの混合物からなる還元性鉄化合物沈澱であり、このグリーンラストは第一鉄と第二鉄の水酸化物からなる層状化合物であり、層間にアニオンを取り込む構造を有しているので、排水中のクロム、セレン、ヒ素、アンチモンなどのオキシアニオン系の重金属類はこの層間に取り込まれた状態で沈澱する。さらに、鉄の一部が陽イオン系の重金属類と置換することにより、カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、コバルトなどの重金属類が取り込まれる。
【0010】
本発明の処理方法は、さらに可溶性シアン化合物を添加するので、上記還元性鉄化合物沈澱は難溶性シアノ鉄酸塩を含み、この難溶性シアノ鉄酸塩によってセシウム吸着能を有する還元性鉄化合物沈澱が形成される。排水中で上記還元性鉄化合物沈澱が生成されると、排水中のセシウムは重金属類と共にこの還元性鉄化合物沈澱に取り込まれて沈澱する。このように本発明の処理方法は排水中のセシウムと重金属類を同時に沈澱化して除去することができるので、セシウムの除去工程と重金属の除去工程の二段処理を行う必要がない。
【0011】
また、本発明の処理方法は、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離し、分離した濃縮汚泥の一部または全部を反応工程に戻して再使用することによって、難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱の生成を促すことができ、セシウムの脱着処理せずに汚泥を再利用して処理効果を高めることができる。また、濃縮汚泥の一部または全部を沈殿生成工程にもどすことにより、沈降速度を増加させることができ、短時間に固液分離することができる。さらに、固液分離後の処理水中の浮遊粒子(SS)はほとんどなく、シアン化合物は還元性鉄化合物沈澱中のグリーンラストによって吸着可能であるため、溶解性および不溶性のシアン化合物の濃度を検出限界未満まで低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る処理方法の概略を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、排水に還元性鉄化合物を添加して還元性鉄化合物からなる沈澱を生成させ、該沈澱に排水中の重金属類を吸着させ、重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して重金属類を排水から除去する処理方法において、重金属類と共にセシウムを含む排水に還元性鉄化合物と可溶性シアン化合物を添加して難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱を生成させ、該沈澱に排水中のセシウムと重金属類を吸着させ、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して排水からセシウムと重金属類を除去することを特徴とする排水からセシウムと重金属類を除去する処理方法である。本発明の処理方法の概略を図1に示す。
【0014】
本発明の処理方法は、重金属類と共にセシウムを含む排水からセシウムと重金属類を同時に除去する処理方法である。この排水は自然発生的および人為的に生じた各種の廃水や排水等を含み、例えば、工場排水や下水、海水、河川水、沼や湖池の水、地表の溜り水、河川等の堰止域の水、地下の流水や溜り水、暗渠の水、放射性物質で汚染された地下水、放射性物質で汚染された土壌、瓦礫、建造物、農作物、飛灰、あるいは汚泥などを除染したときに発生する洗浄水などを含めて広く排水と云う。また、重金属類とは、例えば、セレン、カドミウム、六価クロム、鉛、亜鉛、銅、ニッケル、ヒ素、アンチモン、コバルト、マンガン、鉄などの金属元素である。
【0015】
本発明の処理方法は、重金属類およびセシウムを含むこれらの排水に、還元性鉄化合物と可溶性シアン化合物を添加して、難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱を生成させる。還元性鉄化合物としては、硫酸第一鉄(FeSO4)、塩化第一鉄(FeCl2)などの第一鉄化合物を用いることができる。可溶性シアン化合物としては、フェロシアン化カリウム〔K4[Fe(CN)6]〕、フェリシアン化カリウム〔K3[Fe(CN)6]〕フェロシアン化ナトリウム〔Na4[Fe(CN)6]〕、フェリシアン化ナトリウム〔Na3[Fe(CN)6]〕、シアン化ナトリウム〔NaCN〕、シアン化カリウム〔KCN〕などを用いることができる。また、シアン化合物を含む廃メッキ浴なども用いることができる。
還元性鉄化合物および可溶性シアン化合物の添加量は、還元性鉄化合物沈澱が十分に生成する量であればよい。
【0016】
排水に還元性鉄化合物と共に可溶性シアン化合物を添加することにより、難溶性シアノ鉄酸塩が生成し、この難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱が生成する。難溶性シアノ鉄酸塩は、例えば、難溶性ヘキサシアノ鉄酸塩〔MIxII(4-x)/2[FeII(CN)6](MI:1価金属、アンモニウムイオンなど、MII:2価金属)〕などであり、MIやMIIの一部が置換することによってセシウムを吸着することができる。
【0017】
上記排水に還元性鉄化合物を添加し、反応条件を整えると、グリーンラストと鉄フェライトの混合物からなる還元性鉄化合物沈澱を生成させることができる。グリーンラストは次式[1]に示すように、第一鉄と第二鉄の水酸化物からなる層状化合物であり、層間にアニオンを取り込む構造を有しているので、排水中のオキシアニオン系の重金属類(クロム、ヒ素、セレン、アンチモンなど)はこの層間に取り込まれて、汚泥と一緒に沈澱する。
〔FeII(6-x)FeIIIx(OH)12x+〔Ax/n・yH2O〕x-……[1]
(0.9<x<4.2、Fe2+/全Fe=0.4〜0.8、A:オキシアニオン系重金属類)
【0018】
さらに、鉄の一部が陽イオン系の重金属類と置換することにより、カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、コバルトなどの重金属類が取り込まれて、汚泥と一緒に沈澱する。また、グリーンラストはシアン化合物も吸着することができるため、排水中にシアンが残留することがなく、環境汚染の心配がない。
【0019】
鉄フェライトは鉄(III)酸塩であり、マグネタイト(FeIIFeIII34)を主体とするが、一部に重金属類の鉄酸塩を含むものでもよい。排水中の重金属類はグリーンラストに取り込まれ、グリーンラストは重金属類を一部に含んだ状態で鉄フェライト化する。
【0020】
図1に示すように、還元性鉄化合物および可溶性シアン化合物を添加した排水は反応工程(沈澱生成工程)の反応槽に導入される。反応槽は密閉された非酸化性雰囲気のものが好ましい。pH8.5〜11、好ましくはpH9.0〜10のアルカリ性下で反応させる。液温は10℃〜30℃程度で良く、加熱する必要はない。反応時間は30分〜3時間程度で良い。添加するアルカリ剤としては、特に限定されず、消石灰、生石灰、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0021】
生成した沈澱が還元力を有するように、該沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕が0.4〜0.8になるようにするのが良く、上記鉄イオン比を0.55〜0.65に制御するのが更に好ましい。この比が上記範囲を外れると還元性が不十分になり、また澱物の沈降性が低下するので好ましくない。上記還元性鉄化合物沈澱を生成させることによって、排水中の重金属類が還元され、容易に沈澱(汚泥)に取り込まれる。さらに、還元力を有することにより、セシウムの吸着能力も高めることができる。
【0022】
排水に還元性鉄化合物と可溶性シアン化合物を添加することによって、上記還元性鉄化合物沈澱は難溶性シアノ鉄酸塩を含み、この難溶性シアノ鉄酸塩によってセシウム吸着能を有する還元性鉄化合物沈澱が生成される。このような沈澱が排水中で生成されることによって、この沈澱に排水中のセシウム(Cs)が重金属類と共に取り込まれる。また、添加順序は還元性鉄化合物、可溶性シアン化合物のどちらが先でもよく、添加方法も特に限定されない。
【0023】
反応槽で生成した還元性鉄化合物沈澱を含むスラリーは、セシウムおよび重金属類を取り込んだ状態で、固液分離工程の固液分離槽(シックナーなど)に導入され、固液分離する時間(数時間〜数十時間)静置される。
【0024】
本発明の処理方法によれば、固液分離槽内で沈降した汚泥は沈降性・脱水性が良く圧密した汚泥(濃縮汚泥)を得ることができるので、取扱いやすく、また小型の固液分離槽を使用することができる。濃縮汚泥に含まれるセシウムおよび重金属類の濃度が高くなったものは余剰汚泥として系外に取り出し、適切に処分することができる。
【0025】
また、セシウムおよび重金属類の濃度があまり高くない濃縮汚泥は、その一部または全部にアルカリを添加してpH11〜13に調整し(アルカリ調整工程)、これを反応工程の密閉反応槽に戻して繰り返し使用し、難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱の生成を促すことができる。
【0026】
一方、固液分離した液分(処理水)は、セシウムおよび重金属類の大部分が除去されており、重金属類の排水基準(0.01mg/L以下)を容易に満たすことができる。排水基準を満たすものは系外に放流される。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
原水(Cs濃度5mg/L、Co濃度1mg/L、Ni濃度1mg/L)に、フェロシアン化カリウム4mg/Lを添加し、15分間撹拌する。次いで、原水にさらに硫酸第一鉄1.5g/L(鉄として300mg/L)を加えて反応槽に導入した。この反応槽に、直前のバッチ処理で分離した濃縮汚泥全量に5%濃度の消石灰液を加えて15分間撹拌し、pH11〜13に調整したアルカリ汚泥を添加して、フェロシアン化カリウムおよび硫酸第一鉄を加えた原水と混合した。反応槽にさらに5%濃度の消石灰液を加えて槽内をpH9.5に調整し、15分間撹拌して沈澱(汚泥)を生成させた。汚泥を含むスラリーを取り分けて一晩放置し、固液分離した。分離した汚泥は次のバッチ処理に使用した。分離した液分のCs濃度、Co濃度、およびNi濃度をICP発光分析法により測定した。この結果を表1に示した。
【0028】
〔実施例2〕
フェロシアン化カリウム8mg/Lを使用した以外は実施例1と同様にして原水を処理し、分離した液分のCs濃度、Co濃度、およびNi濃度を測定した。この結果を表1に示した。
【0029】
表1に示すように、実施例1および実施例2の何れにおいても、処理水のCo濃度およびNi濃度は0.01mg/L未満であり、重金属類が除去されている。また、実施例1の処理水のCs濃度は2.9〜3.6mg/Lであり、原水のCs濃度の約60%〜約70%に低下している。さらに、実施例2の処理水のCs濃度は1.5〜1.9mg/Lであり、原水のCs濃度の約30%〜約40%に低下しており、重金属と同時にセシウムが除去されている。また、残留CN濃度も繰り返し回数の増加により低下していくことがわかった。さらに繰り返し回数の増加により、沈降速度が上昇して分離性が向上することがわかった。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水に還元性鉄化合物を添加して還元性鉄化合物からなる沈澱を生成させ、該沈澱に排水中の重金属類を吸着させ、重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して重金属類を排水から除去する処理方法において、重金属類と共にセシウムを含む排水に還元性鉄化合物と可溶性シアン化合物を添加してセシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱を生成させ、該沈澱に排水中のセシウムと重金属類を吸着させ、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離して排水からセシウムと重金属類を除去することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
セシウムに対して吸着性のある難溶性シアノ鉄酸塩が難溶性ヘキサシアノ鉄酸塩であり、該難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱がグリーンラストと鉄フェライトの混合物である請求項1に記載する処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する処理方法において、セシウムと重金属類を吸着した濃縮汚泥を固液分離し、分離した汚泥の一部または全部を反応工程に戻して再使用することによって、難溶性シアノ鉄酸塩を含む還元性鉄化合物沈澱の生成を促す処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−75252(P2013−75252A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215810(P2011−215810)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】