説明

排水処理方法および排水処理装置

【課題】コスト低減を図るとともに、人体や環境に悪影響を及ぼすことなく穏和な条件で着色排水を脱色することが可能な構成の手段を提供する。
【解決手段】本発明の排水処理方法は、着色排水中の染料と担子菌栽培後の廃菌床から抽出した酵素とを反応させて、染料を分解処理することにより、着色排水を脱色する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば染料工場等から排出される着色排水中の染料を脱色する排水処理方法、および排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に関連して染色工場などから多量に排出される染料排水(着色排水)が問題となっており、地方自治体等によっても染料排水に対する規制が強化されている。染料は低濃度でも着色性が高く脱色処理が困難であるため、従来から染料排水は専門処理業者によって引き取られて処理委託され、産業廃棄物として処分されるか、あるいは河川等に放流できるまで脱色・浄化等の処理がなされている。このような場合、廃棄処分する場所や排水処理設備のある場所が限定されてしまう上に、上記のような規制強化等に伴って染料排水の処理コストが上昇傾向にあるため、最近では染料を分解する方法として、染料をオゾンと接触させることにより分解する方法(例えば、特許文献1を参照)や微生物を用いた処理方法(例えば、特許文献2を参照)などが注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−239383号公報
【特許文献2】特開平2000−287674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オゾンによる排水処理の場合には、発癌性化合物の生成に関与するため人体への影響が指摘されている。一方、微生物による場合には、反応条件を微生物の増殖条件に合わせる必要があるため処理条件の調節が困難であるとともに、活性汚泥(微生物の死骸)の発生により結果的に排水汚染を引き起こす虞があるという問題がある。また、上記いずれの場合にも、設備(オゾン発生装置、バッキ槽)に関して多大な費用を要するという欠点も有している。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、コスト低減を図るとともに、人体や環境に悪影響を及ぼすことなく穏和な条件で着色排水を脱色することが可能な構成の排水処理方法、および排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る排水処理方法は、着色排水中の染料と担子菌栽培後の廃菌床から抽出した酵素とを反応させて、染料を分解処理することにより、着色排水を脱色する構成である。
【0007】
なお、上記構成の排水処理方法において、排菌床の酵素によって脱色した排水中から、染料を分解処理した結果生じた生成物を膜濾過により分離して膜濾過水を精製することが好ましい。
【0008】
本発明に係る排水処理装置は、染料を含有する着色排水を脱色する排水処理装置であって、着色排水が導入されるとともに、着色排水中の染料と担子菌栽培後の廃菌床から抽出した酵素とを反応させ、染料を分解処理することにより、着色排水を脱色する分解処理槽を備えて構成される。
【0009】
なお、上記構成の排水処理装置において、分解処理槽において脱色された排水中から、染料を分解処理した結果生じた生成物を膜濾過により分離して膜濾過水を精製する膜分離手段を備えて構成されることが好ましい。
【0010】
また、上記構成の排水処理装置において、膜分離手段が、分解処理槽において脱色された排水を、染料を分解処理した結果生じた生成物を含む膜濃縮水と膜濾過水とに分離する膜濃縮装置を備えて構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に関する排水処理方法、および排水処理装置によれば、担子菌栽培後に残る廃菌床から抽出した染料分解能力を持つ酵素を有効利用することで、コスト低減を図るとともに、人体や環境に悪影響を及ぼすことなく穏和な条件で着色排水を脱色することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る排水処理方法を実施するのに好適な排水処理装置の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明に係る排水処理方法は、着色排水中の染料と担子菌栽培後の廃菌床から抽出した酵素とを反応させて、染料を分解処理することにより、着色排水を脱色することを特徴とする。
【0014】
本発明において対象となる染料としては、アゾ系染料、フタロシアニン系染料、アクリジン系染料、トリフェニルメタン系染料、トリアジン系染料などが適用可能であるが、これに限定されるものではない。その中でも染料として主に使用されるアゾ系染料としては、Acid Orange20やAcid Violet3等のモノアゾ系染料、Direct Blue2等のジアゾ系染料、トリアゾ系、およびテトラアゾ系などが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明において使用される担子菌(バシディオミセテス)としては、上記染料の分解能力を有する酵素を持つ担子菌であれば特に限定しないが、例えば、トキイロヒラタケ(Pleurotus salmoneostramineus)、ツクリタケ(Agaricus bisporus)、ナラタケ(Armillariella mellea)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、シイタケ(Lentinus edodes)、ムキタケ(Pnellus serotinus)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)等の食用キノコ類が例示される。なお、担子菌の中でも木材腐朽菌、白色腐朽菌が好適に用いられる。
【0016】
担子菌の廃菌床とは、例えば担子菌の人工栽培後に残る菌床(培地)であって、オガ粉、培地添加物(栄養添加物)、および水等の混合物であるため、人体や環境に悪影響を及ぼすことはない。また、従来大量に廃棄されていた担子菌廃菌床の有効活用を図ることもできる。
【0017】
本発明で利用される担子菌由来の酵素は、担子菌が一般に生成するラッカーゼ(特に、木材腐朽菌や白色腐朽菌等に多く存在する)であり、このラッカーゼ(Laccase)は基本的には種々の基質(例えばフェノール性の化合物)の一電子酸化を触媒する活性酵素である。なお、同じラッカーゼという名前の酵素であっても、上記担子菌の種類によってその性質は異なり、好適に作用する基質や、最適温度、最適pHなどの活性条件が異なってくる。また、同じ担子菌でも性質の異なる複数のラッカーゼを有することもある。よって、上記担子菌群の廃菌床から抽出される少なくとも1種以上のラッカーゼが用いられる。すなわち、複数種のラッカーゼを組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ラッカーゼの作用としては、例えば染料中のフェノール類(電子供与体)から電子(水素)を引き抜き、その電子を酸素分子(電子受容体)に渡して水を生成する化学反応の触媒をしている。この過程において、染料の発色団に関係する構造が破壊され、染料の脱色が生じると推定される。このラッカーゼの反応に関しては、穏和な条件下で反応を進行させることが可能である。
【0019】
ここで、上記酵素を用いた脱色能力(脱色活性)の測定法としては、一定時間ごとに着色排水を採取して、当該染料の最大吸収波長の吸光度(吸光度減少率)を測定し、これを脱色率として推定するのが好ましい。
【0020】
また、上記のように酵素(ラッカーゼ)と染料とを反応させると、その結果物として染料の成分に応じた生成物(残留物)が生じる。したがって、染料の分解処理の後段に、脱色処理された排水と上記生成物とを分離するための膜分離手段を設けることが好ましい。膜分離手段としては、生成物を濃縮した膜濃縮水と透過水とに分離する膜濃縮法が好適である。
【0021】
次に、本発明の排水処理方法を実施するために好適な排水処理装置について説明する。図1に本実施形態に係る排水処理装置の一例を示すフロー図を示しており、この図を参照して排水処理装置の概略構成を説明する。
【0022】
排水処理装置1は、大別的には、染料を含む排水(以下、着色排水と称する)を一時的に貯留する貯留槽2と、貯留槽2から送給される着色排水を脱色処理する分解処理槽4と、分解処理槽4で脱色された処理液中に残留する生成物を捕捉する膜濃縮装置11とを備えて構成される。
【0023】
貯留槽2は、例えば印刷装置や染色工場等から排出される着色排水(染料排水)を原水として一時的に貯留する。貯留槽2の着色排水は送給ポンプ3によって吸い上げられて分解処理槽4へ送給される。なお、分解処理槽4での処理の効率化のために、分解処理槽4に導入する前の貯留槽2に滞留する着色排水を、予め酵素活性に適した水温に予熱するための予熱手段を設けてもよい。
【0024】
分解処理槽4は、送給ポンプ3によって導入された染色排水で満たされており、この染色排水中に染料を分解するための酵素(ラッカーゼ)を含有する排水処理剤6が投入されている。排水処理剤6に使用する酵素については、担子菌の廃菌床もしくはこれを粉砕したものに緩衝液を加えて攪拌することで当該酵素を溶出された後、濾過等によって抽出する。
【0025】
緩衝液としては、例えば酢酸アンモニウムや燐酸などが適用され、抽出対象の酵素活性が維持されればpHは特に限定されない。排水処理剤6としては、緩衝液からの抽出液を遠心分離して得た上澄み液である酵素液や、この酵素液を凍結乾燥処理した酵素製剤などが例示される。酵素製剤は、粉末化したものや、これを整形して錠剤化(タブレット化)したものが例示される。特に、排水処理剤6を錠剤にすれば、その取り扱いが容易になるとともに、1個当たりの重量が一定になるため、処理対象の着色排水に対して適切な投与量(添加量)を錠剤の個数をもって算定することができる。なお、排水処理剤6を、例えば所定時間間隔で分解処理槽4内に自動的に投与する処理剤投入装置を設けて構成してもよい。
【0026】
分解処理槽4においては、着色排水中の染料と排水処理剤6の酵素とが反応して、当該染料(着色排水)が脱色される。この分解処理槽4内には着色排水を攪拌させるための攪拌装置5が設置されており、これにより着色排水の染料と排水処理剤6の酵素との接触の機会を増大させている。また、染料と酵素との反応を促進させるために、着色排水の温度を調整する水温調整手段や、着色排水に塩酸や燐酸液等を加えてpHを調整するpH調整手段を設けてもよい。
【0027】
また、分解処理槽4には、脱色処理後の排水(以下、処理水と称する)の吸光度を計測する吸光度計測装置7が接続されている。この吸光度計測装置7は、処理水の一部を間欠的もしくは連続的に抜き出して処理水の吸光度を測定し、この測定情報を制御部8へ出力する。吸光度計測装置7としては、例えばフローセル型紫外可視吸光光度計が例示される。この吸光光度計は、染料の色素波長と同じ波長帯域の光を透過させて、当該透過率を計測することで染料の吸光度を求めるものである。
【0028】
制御部8は、吸光度計測装置7から入力される計測情報に基づいて、計測された吸光度が予め設定された所定値以下、すなわち脱色処理が十分に行われていると判定すると、分解槽に設けられた電磁弁9を開いて送給ポンプ10を介して分解処理槽4と膜濃縮装置11とを連通させる。なお、吸光度計測装置7を設けることなく、例えば、タイマカウンタによって分解処理槽4での着色排水の滞留時間(処理時間)を計測して、規定の滞留時間の経過に伴って電磁弁9を開弁させる構成としてもよい。
【0029】
分解処理槽4で脱色された処理水は、送給ポンプ10によって吸い上げられて次段の膜濃縮装置11へ送給される。ここで、染料の脱色とは、無色透明への脱色のみに限定されるものではなく、変色や減色をも含む概念である。
【0030】
膜濃縮装置11は、排水処理剤6によって脱色された処理水を膜透過水W1と膜濃縮液W2とに分離するための分離膜12を有している。分離膜12としては、精密濾過膜(マイクロフィルタ)或いは限外濾過膜等の有機膜や無機膜が適用可能である。また、分離膜12の形態は、膜モジュールとして平膜型、中空糸型、スパイラル型、円筒(管状)型、プリーツ型等を適宜採用することができる。分離膜の孔径としては、例えば精密濾過膜の場合と限外濾過膜の場合で異なるが、トラップ対象の生成物に応じて適宜なものが選定される。
【0031】
膜濃縮装置11において、導入された処理水の一部は、膜間差圧によって分離膜12を透過して膜透過水W1として膜透過水受入槽13に流入される。膜透過水受入層13へ導かれた膜透過水W1は、例えばpH処理された後、最終的には河川等に放流される。一方、前段の酵素分解によって生じた生成物等の不純物は分離膜12によって阻止されて、膜濃縮水W2として系外へ排出される。膜濃縮装置11より間欠的もしくは連続的に系外に引き抜かれた膜濃縮水W2(生成物)は、例えば脱水装置14によって脱水された上で廃棄される。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る排水処理方法、および排水処理装置によれば、担子菌の栽培後に残る廃菌床から抽出した染料分解能力を持つ酵素(ラッカーゼ)を有効利用することで、コスト低減を図るとともに、人体や環境に悪影響を及ぼすことなく穏和な条件で着色排水を脱色することを可能にした排水処理手段を提供することができる。
【0033】
また、脱色処理の結果生じた生成物を捕捉する膜濃縮装置(膜分離手段)を設けることにより、脱色された処理水を河川等公共用水に放流可能な水質にまで浄化することが可能である。
【0034】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態においては、脱色の対象となる着色排水を一旦、貯留槽2に導入する構成を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、分解処理槽4に直接導入する構成であってもよい。
【0035】
また、上述の実施形態においては、分解処理槽4を1つのみ設けた構成を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、複数の分解処理槽を直列に接続して設け、これらをダーティタンクとクリーンタンクとに分けて構成したり、複数の分解処理槽の間を循環させる構成であってもよい。
【0036】
さらに、上述の実施形態においては、分解処理手段の後段に膜濾過手段として膜濃縮装置11を備えた構成を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、膜濾過手段として1段目に精密濾過膜(マイクロフィルタ)を配置し、2段目に限外濾過膜を配置した2段構成の膜濾過手段としてもよい。また、例えば、膜濾過手段の前段もしくは後段に、沈降分離法(沈殿池)や加圧浮上法といった固液分離手段を更に設けて構成してもよい。
【0037】
また、上述の実施形態においては、分解処理槽4で脱色された処理液を送給ポンプ10によって膜濃縮装置11に導入する構成を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、分解処理槽4の上澄み液が膜濃縮装置11に供給されるものであってもよい。
【0038】
さらに、上述の実施形態においては、酵素(ラッカーゼ)を含有する排水処理剤6を用いた構成を例示して説明したが、例えば、廃菌床自体(廃菌床を適宜な大きさに加工したもの等)を排水処理剤として用いてもよい。また、排水処理剤に酵素活性(ラッカーゼ活性)を促進させる添加剤を添加して構成してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 排水処理装置
2 貯留槽
3 送給ポンプ
4 分解処理槽
5 攪拌装置
6 排水処理剤
7 吸光度計測装置
8 制御部
9 電磁弁
10 送給ポンプ
11 膜濃縮装置(膜分離手段)
12 分離膜
13 膜透過水受入槽
14 脱水装置
W1 膜透過水
W2 膜濃縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色排水中の染料と担子菌栽培後の廃菌床から抽出した酵素とを反応させて、前記染料を分解処理することにより、前記着色排水を脱色することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記排菌床の酵素によって脱色した排水中から、前記染料を分解処理した結果生じた生成物を膜濾過により分離して膜濾過水を精製することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
染料を含有する着色排水を脱色する排水処理装置であって、
前記着色排水が導入されるとともに、前記着色排水中の染料と担子菌栽培後の廃菌床から抽出した酵素とを反応させ、前記染料を分解処理することにより、前記着色排水を脱色する分解処理槽を備えて構成されることを特徴とする排水処理装置。
【請求項4】
前記分解処理槽において脱色された排水中から、前記染料を分解処理した結果生じた生成物を膜濾過により分離して膜濾過水を精製する膜分離手段を備えて構成されることを特徴とする請求項3に記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記膜分離手段が、前記分解処理槽において脱色された排水を、前記染料を分解処理した結果生じた生成物を含む膜濃縮水と膜濾過水とに分離する膜濃縮装置を備えて構成されることを特徴とする請求項4に記載の排水処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−131199(P2011−131199A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295740(P2009−295740)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】