説明

排水処理方法及び装置

【課題】有機物濃度及び溶存イオン濃度が低い処理水を安定して得ることができる排水処理方法及び排水処理装置を提供する。
【解決手段】有機物を含む排水を嫌気性生物反応槽1で処理する嫌気性処理工程と、該嫌気性処理工程の嫌気性処理液を正浸透膜2aで透過液と濃縮液とに分離する正浸透膜分離工程と、該正浸透分離工程の透過液を逆浸透膜分離装置5に導入し、逆浸透膜5aで処理水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離工程とを備えた排水処理方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含む排水を嫌気的に処理した後、膜分離処理する生物処理方法及び装置に関し、特に、排水を生物処理して純水製造用の原水として利用する場合に好適な排水処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造、液晶製造等の電子産業工場のように純水を使用しその排水を排出する設備では、モノエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどプロセス工程で洗浄剤、剥離剤などとして使用される有機物を含む排水を生物処理し、その処理水を純水製造の原料として用いる水回収が進んでいる。生物処理水を純水製造に再利用する場合、処理水を固液分離装置で処理して微生物体を分離した後、RO(逆浸透)膜で脱塩処理する(例えば、特開2007−175582号公報)。
【0003】
生物処理を好気処理で行い、MF膜又はUF膜で固液分離を行うと、好気処理で生成する生物代謝産物によりMF膜又はUF膜が汚染され、頻繁に薬品洗浄を行う必要がある。そこで、生物処理を代謝産物の生成量の少ない嫌気処理で行うことが特開2009−148714号公報にて提案されている。この技術は、MF膜又はUF膜の汚染が少なくなるだけでなく、嫌気処理であるため、好気処理に比べ、酸素供給のための曝気が不要で省動力、汚泥発生量が少ないといったメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−175582号公報
【特許文献2】特開2009−148714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、嫌気性処理は、好気性処理に比べ、無機塩(Na、K、Ca、Mg、Fe、Co、Niなど)や硫黄の必要量が多いことが知られており、例えば、電子産業工場排水のような純水ベースでこれらの無機成分が少ない排水の処理を安定して行うには、充分量を添加する必要がある。そのため、嫌気処理水の無機塩類濃度は好気処理に比べ高くなることが多い。さらに、嫌気処理では排水中又は別途添加した硫黄分の多くは、硫化水素まで還元されて処理水に残留する。この無機塩類や硫化物の多い処理水をRO膜で脱塩処理すると、濃縮液側で無機塩類や硫化物が析出してRO膜を汚染しやすいという問題がある。特にFeSなどの金属の硫化物は溶解度が低く析出しやすい。
【0006】
本発明は、有機物を含む排水を嫌気性微生物で処理した後、膜分離処理する方法において、有機物濃度及び溶存イオン濃度が低い処理水を安定して得ることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)の排水処理方法は、有機物を含む排水を嫌気性微生物で処理する嫌気性処理工程と、該嫌気性処理工程の嫌気性処理液を正浸透膜で透過液と濃縮液とに分離する正浸透膜分離工程と、該正浸透分離工程の透過液を逆浸透膜で処理水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離工程とを備えたものである。
【0008】
本発明(請求項2)の排水処理装置は、有機物を含む排水を嫌気性微生物で処理する嫌気性処理槽と、該嫌気性処理槽の嫌気性処理液を正浸透膜で透過液と濃縮液とに分離する正浸透膜分離装置と、該正浸透分離装置の透過液を逆浸透膜で処理水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離装置とを備えたものである。
【0009】
請求項3の排水処理装置は、該正浸透膜分離装置は、その正浸透膜が該嫌気性処理槽内の嫌気性処理液と接するように配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の排水処理装置は、請求項2又は3において、前記逆浸透膜分離装置からの濃縮水を正浸透膜分離装置内に返送する手段を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、有機物を含む排水を嫌気処理し、この嫌気性処理液をまず正浸透膜分離する。すなわち、嫌気性処理液を半透膜を介して高濃度の電解質水溶液(例えば食塩溶液)と接触させ、両者の浸透圧差により嫌気性処理液中の水を半透膜の二次側に移動させる。これにより、嫌気性処理液の固液分離と同時に溶存硫化物を始めとする無機塩類が除去される。このように溶存硫化物を始めとする無機塩類が処理された正浸透膜透過液を、逆浸透膜分離することにより脱塩処理する。これにより、有機物濃度及び溶存イオン濃度が低い処理水を安定して得ることができる。
【0012】
請求項3の排水処理装置は、正浸透膜分離装置が嫌気性処理槽内に配置されるようになり、排水処理装置がコンパクトなものとなる。
【0013】
請求項4の排水処理装置にあっては、このように、正浸透膜分離装置内に、逆浸透膜分離装置からの濃縮水が導入されるので、正浸透膜分離装置内の塩類濃度が、嫌気性生物反応槽内の嫌気性処理液中の塩類濃度よりも高いものとなる。この濃度差によって、嫌気性生物反応槽内の液が正浸透膜を透過して正浸透膜分離装置内に流入する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る分離の概略的な縦断面図である。
【図2】実施例1のフロー図とFO装置の模式図である。
【図3】実施例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1を参照して本発明の実施の形態に係る排水処理方法及び装置について詳細に説明する。
【0016】
有機物を含有する排水は、嫌気性生物反応槽1内に導入され、嫌気性微生物の作用によって嫌気的に分解処理される。排水中の分子量の大きい有機物は、高級脂肪酸、酢酸を経て、最終的にメタン、COまで分解される。また、メタノール、メチルアミン、TMAHなどは、直接、メタン、COに分解される。この際、有機物に含まれる硫黄分や、排水中の硫酸イオンは、HSに分解される。これらのガス成分は、嫌気性生物反応槽1内において気相の濃度と平衡となる濃度で液中に溶解して処理水と共に排出され、それを超える分が液中から気相中に放出される。この気相中に放出されたガスは、配管10を介して嫌気性生物反応槽1外に取り出されるが、その一部は、ブロワ11及びガス返送配管12を介して散気管13に供給される。この散気管13は正浸透膜分離装置(FO装置)2の下方に配置されている。散気管13から散気されたガスが上昇して正浸透膜(FO膜)2aに当たることにより、膜洗浄作用が奏される。
【0017】
正浸透膜分離装置2は、槽体と、該槽体の少なくとも底部に設けられた正浸透膜2aとを備え、この正浸透膜2aが嫌気性生物反応槽1内の嫌気性処理液中に浸漬されるように配管されている。
【0018】
なお、正浸透膜分離装置2の槽体のうち嫌気性生物反応槽1内の液と接する部分のさらに多くの部分、例えば、全体を正浸透膜にて構成してもよい。
【0019】
正浸透膜分離装置2の一端側に取出配管3が接続され、正浸透膜分離装置2内の正浸透膜液が該配管3及びポンプ4を介して逆浸透膜分離装置(RO装置)5内に供給される。逆浸透膜分離装置5の逆浸透膜(RO膜)5aを透過した透過水は、処理水として配管7から系外に取り出される。逆浸透膜5aを透過しなかった濃縮水は、配管6を介して正浸透膜分離装置2内の他端側に返送される。
【0020】
このように、正浸透膜分離装置2内には、逆浸透膜分離装置5からの濃縮液が導入されるので、正浸透膜分離装置2内の塩類濃度は嫌気性生物反応槽1内の嫌気性処理液中の塩類濃度よりも高いものとなっている。この濃度差によって、嫌気性生物反応槽1内の液が正浸透膜2aを透過して正浸透膜分離装置2内に流入する。
【0021】
嫌気性生物反応槽1内の嫌気性処理液中の溶存硫化物を始めとする無機塩類は、この正浸透膜2aを透過し得ず、嫌気性生物反応槽1内に残留する。溶存硫化物を始めとする無機塩類が除去された液が正浸透膜分離装置2から逆浸透膜分離装置5に導入されるので、逆浸透膜5aが硫化物その他無機塩類の析出により汚染されることがなく、安定して逆浸透膜分離処理水(透過水)が得られる。
【0022】
なお、上記の正浸透膜2aとしては、半浸透性を有する膜であれば特に限定されることなく使用可能である。逆浸透膜であれば、一般的に正浸透膜として用いることができる。
【0023】
本発明において、処理対象となる有機物含有排水は、通常生物処理される有機物含有排水であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、電子産業排水、化学工場排水、食品工場排水などが挙げられる。例えば、電子部品製造プロセスでは、現像工程、剥離工程、エッチング工程、洗浄工程などから各種の有機性排水が多量に発生し、しかも排水を回収して純水レベルに浄化して再使用することが望まれているので、これらの排水は本発明の処理対象排水として適している。
【0024】
このような有機性排水としては例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどを含有する有機性排水、モノエタノールアミン(MEA)、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)などの有機態窒素、アンモニア態窒素を含有する有機性排水、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの有機硫黄化合物を含有する有機性排水が挙げられる。
【0025】
排水を嫌気的に生物処理するための嫌気性生物処理手段としては、有機物の分解効率に優れるものであれば良く、各種の嫌気性生物処理方式の生物反応槽が使用できる。
【0026】
嫌気性生物反応槽は、浮遊方式(撹拌方式)、汚泥床方式(スラッジブランケット方式)など任意の方式でよく、また、担体添加型、造粒汚泥型であってもよい。
【0027】
上記実施の形態では、正浸透膜分離装置2を嫌気性生物反応槽1内に配置しているが、後述の実施例1のように、嫌気性生物反応槽と正浸透膜分離装置とを別個に配置し、嫌気性生物反応槽からの生物処理液をポンプによって正浸透膜分離装置の1次側に供給しても良い。ただし、第1図のように正浸透膜分離装置2を嫌気性生物反応槽1内に浸漬配置すると、かかるポンプが不要である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例について説明する。
[実施例1]
下記の排水を第2図(a)の通り、嫌気性生物反応槽18で処理した後、FO装置20及びRO装置30で処理した。即ち、嫌気性生物反応槽18からの生物処理液をFO装置20の1次室21に供給し、FO膜23の透過液を2次室22からRO装置30に供給した。FO膜23を透過しなかった液は、嫌気性生物反応槽18に返送した。RO装置30の濃縮水は、FO装置20の2次室22に返送し、RO膜31の透過水を処理水として取り出した。実施例に用いた排水、嫌気性生物反応槽、FO装置、RO装置は、以下の通りである。
【0029】
<排水>
液晶工場の排水に対して、栄養剤としてP、Na、K、Ca、Mg、Fe、及びその他の金属を適宜添加したものを排水として用いた。この排水の特性は以下の通りである。
【0030】
モノエタノールアミン : 300mg/L
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド : 300mg/L
ジメチルスルホキシド : 300mg/L
TOC : 360mg/L
ThOD : 1,280mg/L
T−N : 110mg/L
T−S : 120mg/L
【0031】
<嫌気性生物反応槽>
500Lの撹拌機19付きの反応槽に前記排水を平均して85L/Hrにて導入した。この排水を120rpmで撹拌し、温度を35℃に維持した。
【0032】
<FO装置>
FO装置として、第2図(b)に示す装置を作製して用いた。このFO装置20は、1次室21と2次室22とをFO膜23で隔てたものである。なお、1次室21及び2次室22は、いずれもFO膜23に対面する面が開放している。1次室21の容積は○○L、2次室22の容積は、2.5L、FO膜の面積は5,000cmである。FO膜23としては、RO平膜(日東電工(株)製:ES−20)を用いた。この1次室21に嫌気性生物反応槽から生物処理液をポンプによって、膜表面流速が0.5m/secとなるように4.5m/hrの流量で導入した。2次室22には、運転当初は2%NaCl水溶液を満たしておき、運転開始後は、RO装置30からの濃縮水を導入した。2次室22からの流出水をRO装置30に供給した。
【0033】
<RO装置>
RO装置30として、2インチROモジュール(日東電工(株)製:ES−20スパイラル型)を用いた。このRO装置に対して、FO装置からの透過液を供給圧が1.5MPaとなるようにポンプによって供給した。このRO装置30への流入水に対しpHが5.5となるように10%塩酸水溶液を添加すると共に、回収率が50%となるように運転した。
【0034】
<運転>
下水消化汚泥(TS2%、VS/TS比0.65)を種汚泥として、3ヶ月間馴養した後、嫌気性生物反応槽のThOD負荷が5kg/m・d(HRT6hr)となるようにして、2ヶ月間運転を行い、その生物処理液を第2図(a)のようにFO装置20及びRO装置30の順に通水した。ROフラックスと経過日数との関係を図3に示す。
【0035】
[比較例]
実施例1において、FO装置の代わりに、槽外型UFモジュール(日本ノリット(株)製:33PE)を用い、膜面流速を0.5m/secとして嫌気性生物反応槽18からの生物処理液をこの槽外型UFモジュールで濾過し、このUF透過水をRO装置に供給するようにしたこと以外は、実施例1と同じフロー及び条件で運転した。結果を図3に示す。
【0036】
[結果]
2ヶ月間のRO装置への流入水のTOC除去率は、実施例1及び比較例1のいずれも98%以上であり、RO装置流入水のTOCの平均値は、実施例1が1.1mg/L、比較例1が4.2mg/Lであった。また、RO透過水のTOC平均値は、実施例1が0.8mg/L、比較例1が0.9mg/Lで、両者の間にほとんど差はなかった。しかしながら、実施例1では、2ヶ月間でROフラックスの値が15%程度しか低下しなかったのに対して、比較例1は、通水開始直後から急速に低下し、1週間後には通水開始直後の値の1/2、2週間には1/3、2ヶ月後には1/10まで低下した。試験後、比較例1のRO膜の表面には、黒色の析出物が付着していた。これをSEM−EDXにより分析したところ硫化鉄であることが認められた。この実施例1及び比較例1より、本発明によると、有機物を含む排水を嫌気性微生物で処理した後、FO膜及びRO膜分離処理することにより、有機物濃度及び溶存イオン濃度が低い処理水を安定して得ることができることが認められた。
【符号の説明】
【0037】
1,18 嫌気性生物反応槽
2,20 正浸透膜分離装置(FO装置)
2a,23 正浸透膜
5,30 逆浸透膜分離装置(RO装置)
5a,31 逆浸透膜
13 散気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む排水を嫌気性微生物で処理する嫌気性処理工程と、
該嫌気性処理工程の嫌気性処理液を正浸透膜で透過液と濃縮液とに分離する正浸透膜分離工程と、
該正浸透分離工程の透過液を逆浸透膜で処理水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離工程とを備えた排水処理方法。
【請求項2】
有機物を含む排水を嫌気性微生物で処理する嫌気性処理槽と、
該嫌気性処理槽の嫌気性処理液を正浸透膜で透過液と濃縮液とに分離する正浸透膜分離装置と、
該正浸透分離装置の透過液を逆浸透膜で処理水と濃縮水とに分離する逆浸透膜分離装置とを
備えた排水処理装置。
【請求項3】
請求項2において、該正浸透膜分離装置は、その正浸透膜が該嫌気性処理槽内の嫌気性処理液と接するように配置されていることを特徴とする排水処理装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記逆浸透膜分離装置からの濃縮水を正浸透膜分離装置内に返送する手段を備えたことを特徴とする排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−173040(P2011−173040A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37436(P2010−37436)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】