説明

排水処理方法

【課題】重金属類、フッ素及び有機物を含有する有害排水を浄化処理し、該排水を放流可能な状態にまで無害化する。
【解決手段】塩素バイパスダストを含むスラリーS1を浮遊選鉱した際に発生する浮遊選鉱排水W3等のpHを8.0〜12.0程度に調整し、排水W3等に含まれる重金属類を沈殿化し、重金属類が沈殿したスラリーS2中のフッ素を沈殿化し、重金属類及びフッ素が沈殿したスラリーS3中の固形分を固液分離機12で除去し、固液分離機12のろ液W4を、砂ろ過器14で二次ろ過し、キレート樹脂塔15で重金属類を吸着除去したろ液W5に対し、有機物処理槽16において酸化剤を添加し、ろ液W5中の有機化合物を分解する。重金属類とともにセレンを沈殿化して除去することもできる。該排水処理方法により、ばいじんのスラリーを浮遊選鉱した際に発生する排水や、汚染土壌のスラリーを浮遊選鉱した際に発生する排水等も無害化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害排水を浄化処理する排水処理方法に関し、特に、該排水中の重金属類、セレン、フッ素及び有機物を除去し、該排水を無害化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが用いられている。
【0003】
この塩素バイパスシステムでは、抽気した燃焼ガスを冷却して生成したダストの微粉側に塩素が偏在しているため、分級機によってダストを粗粉と微粉とに分離し、粗粉をセメントキルン系に戻すとともに、分離された塩化カリウム等を含む微粉(塩素バイパスダスト)を回収していた。
【0004】
しかし、抽気した燃焼ガスには、塩素等以外にも、鉛、カドミウム等の重金属類や、セレン、フッ素等が含まれており、回収した塩素バイパスダストを廃棄する場合及び原料系に戻す場合のいずれにおいても、適切に処理する必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、塩素バイパスダストから鉛を除去するため、塩素バイパスダストに水と硫酸を混合して液性をpH1〜4に調整し、硫酸カルシウムを含むスラリーを生成した後に、該スラリーに硫化剤を加えて硫化鉛を生成し、その後、スラリーに捕収剤等を加えて浮遊選鉱し、硫化鉛を浮鉱させて回収する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、上記と同様の目的で、塩素バイパスダストに水と硫酸を混合して液性をpH4以下に調整し、硫酸カルシウム及び硫酸鉛を含むスラリーを生成した後に、該スラリーにアルカリ剤を加えて液性をpH5以上に調整し、その後、スラリーに捕収剤等を加えて浮遊選鉱し、硫酸鉛を沈鉱させて回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−346512号公報
【特許文献2】特開2006−299394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び2に記載の処理方法によれば、塩素バイパスダストに含まれる鉛を効果的に除去することができるものの、除去し切れなかった重金属類の一部は、浮遊選鉱の際に排出される排水中に残留する。その一方で、近年、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルンに持ち込まれる鉛等の重金属類、セレン、フッ素の量も増加している。
【0009】
また、上記処理方法においては、浮遊選鉱の前処理として、捕収剤としての疎水化剤(例えば、ザンセート)等をスラリーに添加するが、該疎水化剤等の有機化合物は、浮遊選鉱の際に除去されず、浮遊選鉱排水中に残留するため、該排水を放流するにあたっては、それらの成分の除去も求められる。
【0010】
こうした問題は、塩素バイパスダストのスラリーを浮遊選鉱した際に発生する浮遊選鉱排水に限らず、ばいじんのスラリーを浮遊選鉱した際に発生する排水や、汚染土壌のスラリーを浮遊選鉱した際に発生する排水等においても、概ね同様に生じ、適切に無害化処理する必要がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する有害排水を浄化処理し、該排水を放流可能な状態にまで無害化することが可能な排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、重金属類、フッ素及び有機物を含有する排水を浄化処理する排水処理方法であって、前記排水のpHを所定値に調整することにより、該排水に含まれる重金属類を沈殿化する重金属類沈殿化処理工程と、前記重金属類が沈殿した排水中のフッ素を沈殿化するフッ素沈殿化処理工程と、前記重金属類及びフッ素が沈殿した排水中の固形分を除去することで重金属類及びフッ素を除去する固液分離工程と、前記重金属類及びフッ素が除去された排水に酸化剤を添加し、該排水中の有機物を酸化する有機物処理工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、排水に含まれる重金属類、フッ素及び有機化合物を除去することができ、排水を放流可能な状態にまで無害化することが可能になる。
【0014】
また、本発明は、重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する排水を浄化処理する排水処理方法であって、前記排水のpHを所定値に調整することにより、該排水に含まれる重金属類及びセレンを沈殿化する重金属類及びセレン沈殿化処理工程と、前記重金属類及びセレンが沈殿した排水中のフッ素を沈殿化するフッ素沈殿化処理工程と、前記重金属類、セレン及びフッ素が沈殿した排水中の固形分を除去することで重金属類、セレン及びフッ素を除去する固液分離工程と、前記重金属類、セレン及びフッ素が除去された排水に酸化剤を添加し、該排水中の有機物を酸化する有機物処理工程とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、排水に含まれる重金属類、セレン、フッ素及び有機化合物を除去することができ、排水を放流可能な状態にまで無害化することが可能になる。
【0016】
上記排水処理方法において、前記重金属類沈殿化処理工程又は前記重金属類及びセレン沈殿化処理工程で、前記排水のpHを8.0以上12.0以下に調整することができ、これによれば、排水に含まれる重金属類を効果的に沈殿させることが可能になる。
【0017】
上記排水処理方法において、前記重金属類沈殿化処理工程又は前記重金属類及びセレン沈殿化処理工程で、前記重金属類、フッ素及び有機物を含有する排水、又は前記重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する排水に対し、金属鉄又は/及び第一鉄化合物を添加することができ、金属鉄又は/及び第一鉄化合物を添加することで、重金属類、セレンとともに、ヒ素、6価クロムを同時に沈殿化することができる。ここで、前記第一鉄化合物を、塩化第一鉄(FeCl2)、硫酸第一鉄(FeSO4)、硝酸第一鉄(FeNO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種とすることができる。
【0018】
また、上記排水処理方法において、前記フッ素沈殿化処理工程で、前記排水のpHを9.0以上12.0以下に調整することができ、これによれば、排水に含まれるフッ素を効果的に沈殿させることが可能になる。
【0019】
上記排水処理方法において、前記酸化剤として、過酸化水素水(H22)、次亜塩素酸ソーダ(NaClO)、オゾン(O3)及び酸素(O2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0020】
上記排水処理方法において、前記固液分離工程において排出されるろ液の二次ろ過及び/又は前記固液分離にて排出されるろ液中の重金属類の吸着除去を行うことができる。これによれば、固液分離で除去し切れなかった重金属類を除去することができ、排水の一層の浄化を図ることが可能になる。
【0021】
上記排水処理方法の一実施の態様として、前記重金属類、フッ素及び有機物を含有する排水、又は前記重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する排水として、浮遊選鉱した際に発生する浮遊選鉱排水を処理することができる。
【0022】
上記排水処理方法の一実施の態様として、前記浮遊選鉱排水が、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスに含まれるダストをスラリー化し、該スラリーに捕収剤を添加した物質を浮遊選鉱した際に発生する浮遊選鉱排水を処理することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する有害排水を浄化処理し、該排水を放流可能な状態にまで無害化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる排水処理方法を適用したシステムの第1の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明にかかる排水処理方法を適用したシステムの第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図3】有機物処理における35%過酸化水素水の添加量とヨウ素消費量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明にかかる排水処理方法を適用したシステムの第1の実施形態を示し、この排水処理システム1は、大別して、鉛回収設備2と、排水処理設備3とで構成される。
【0027】
鉛回収設備2は、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスに含まれるダスト(塩素バイパスダスト)中の鉛を回収するための設備であり、スラリー化した塩素バイパスダストに対し、pH調整、硫化、補収剤の添加等を行うための前処理設備4と、前処理設備4より供給されるスラリーS1を浮遊選鉱し、スラリーS1から硫化鉛を分離するための浮遊選鉱設備5と、浮遊選鉱設備5で回収されたフロスF及びテールTを各々固液分離するための固液分離機6、7とで構成される。
【0028】
前処理設備4は、スラリー化した塩素バイパスダストに対し、硫化剤を添加して硫化鉛を生成するとともに、硫酸を添加し、スラリー中のカルシウムと反応させて硫酸カルシウムを生成した後、捕収剤及び起泡剤を添加するために備えられる。硫化剤としては、水硫化ソーダ(NaSH)、硫化ソーダ(Na2S)、硫化水素ガス(H2S)等を用いることができる。
【0029】
また、捕収剤としては、ザンセート、酸性ジチオリン酸エステル類(商品名:エロフロート)、n−ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、オレイン酸ナトリウム等の不飽和脂肪族カルボン酸塩等を用いることができる。
【0030】
さらに、起泡剤としては、メチルイソブチルカルビノール(MIBC;4−メチル−2−ペンタノール)、メチルイソブチルケトン、パイン油、エチレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、クレゾール酸等を用いることができる。
【0031】
浮遊選鉱設備5は、前処理設備4より供給されるスラリーS1を浮遊選鉱し、スラリーS1から硫化鉛を分離するために備えられる。浮遊選鉱設備5では、スラリーS1中の硫化鉛を、内部で生成する気泡に付着させて浮上させ、フロスFとして回収する。尚、スラリーS1中の硫酸カルシウムは、浮遊選鉱設備5内の液中底部に沈降し、テールTとともに排出される。
【0032】
固液分離機6は、浮遊選鉱設備5で回収されたフロスFを固液分離するために備えられ、フロスFをケークC1とろ液W1に分離する。また、固液分離機7は、浮遊選鉱設備5から供給されるテールTを固液分離するために備えられ、テールTをケークC2とろ液W2とに分離する。
【0033】
排水処理設備3は、鉛回収設備2で発生した工業排水を無害化処理するための設備であり、重金属類沈殿槽10と、フッ素沈殿槽11と、固液分離機12と、調整槽13と、砂ろ過器14と、キレート樹脂塔15と、有機物処理槽16とで構成される。
【0034】
重金属類沈殿槽10は、固液分離機6、7から排出されるろ液(浮遊選鉱排水)W3(W1+W2)にアルカリ剤を添加し、ろ液W3のpHを調整し、ろ液W3に含まれる重金属類を沈殿化するために備えられる。尚、アルカリ剤としては、消石灰スラリー、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等を用いることができ、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
フッ素沈殿槽11は、重金属類沈殿槽10から排出されるスラリーS2に、マグネシウム化合物を添加するとともに、フッ素沈殿槽11内のpHを調整し、スラリーS2に含まれるフッ素を沈殿化するために備えられる。尚、マグネシウム化合物としては、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選択される1種以上を用いることができる。また、この際、pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を用いることができ、特に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、あるいはこれらの両方を用いた場合には、排水中にスケールが生じ難いという利点がある。
【0036】
固液分離機12は、フッ素沈殿槽11で生成されたスラリーS3を固液分離し、スラリーS2中に沈殿した重金属類及びフッ素を回収するために備えられる。固液分離機12で生成されたケークC3は、セメント原料等として再利用される。
【0037】
調整槽13は、固液分離機12から排出されるろ液W4に塩酸を添加し、ろ液W4のpHを4〜6に調整するために備えられる。pHが調整されたろ液W4を砂ろ過器14によって二次ろ過した後、キレート樹脂塔15においてキレート樹脂によって重金属類を吸着除去し、ろ液W4を浄化する。
【0038】
有機物処理槽16は、砂ろ過器14及びキレート樹脂塔15によって浄化されたろ液W5に酸化剤を添加し、ろ液W5中に溶解する有機化合物を酸化するために備えられる。酸化剤としては、過酸化水素水(H22)、次亜塩素酸ソーダ(NaClO)、オゾン(O3)、酸素(O2)等を用いることができ、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
次に、本発明にかかる排水処理方法について、図1を参照しながら説明する。
【0040】
前処理設備4に、塩素バイパスダストを供給し、水と混合してスラリーを生成した後、硫化剤及び硫酸を添加し、硫化鉛及び硫酸カルシウムを生成する。次いで、捕収剤としての疎水化剤と、起泡剤とをスラリーに添加する。
【0041】
次に、前処理設備4からのスラリーS1を浮遊選鉱設備5に供給し、浮遊選鉱設備5において、気泡を発生させ、その気泡にスラリーS1中の硫化鉛を付着させる。その後、硫化鉛とともに浮上した気泡を回収し、回収したフロスFを固液分離機6に供給する。尚、スラリーS1に含有される硫酸カルシウムは、気泡に付着せずに沈降し、テールTとともに固液分離機7に供給される。
【0042】
次いで、固液分離機6によって浮遊選鉱設備5からのフロスFを固液分離し、硫化鉛を回収する。脱水処理された硫化鉛は、硫化鉛以外の成分の含有率が低いため、山元還元による非鉄精錬原料等として再利用される。
【0043】
それと併行して、固液分離機7によって浮遊選鉱設備5からのテールTを固液分離し、硫酸カルシウムを石膏として回収する。回収された石膏は、セメントミル等に添加するなどして再利用される。
【0044】
次に、固液分離機6、7のろ液W3を重金属類沈殿槽10に供給し、重金属類沈殿槽10において、消石灰スラリー等のアルカリ剤をろ液W3に添加し、重金属類沈殿槽10内のスラリーS2のpHを調整し、重金属類を沈殿させる。このときのスラリーS2のpHは、8.0〜12.0に調整することが好ましい。
【0045】
次に、重金属類沈殿槽10のスラリーS2をフッ素沈殿槽11に供給し、フッ素沈殿槽11において、マグネシウム化合物を添加するとともに、フッ素沈殿槽11内のpHを調整し、スラリーS2に含まれるフッ素を沈殿させる。例えば、水酸化マグネシウムを添加して共沈によりフッ素を沈殿させることができる。このときのフッ素沈殿槽11内のスラリーS3のpHは、9.0〜12.0に調整することが好ましい。尚、重金属類沈殿槽10において既にpH調整を行っているため、フッ素沈殿槽11でマグネシウム化合物を添加しても、フッ素沈殿槽11内のスラリーS3のpHが9.0〜12.0の範囲にある場合には、フッ素沈殿槽11でのpH調整は不要である。
【0046】
次いで、フッ素沈殿槽11からスラリーS3を固液分離機12に供給し、スラリーS3を固液分離する。そして、スラリーS3をろ液W4とケークC3に分離し、分離したケークC3を回収する。これにより、スラリーS2中の重金属類及びフッ素、すなわち、浮遊選鉱設備5の浮遊選鉱排水W3中に残留する重金属類及びフッ素が回収される。
【0047】
次に、固液分離機12のろ液W4を調整槽13に供給し、調整槽13において、中和剤としての塩酸をろ液W4に添加して、ろ液W4のpHを4〜6に調整する。その後、pH調整したろ液W4を砂ろ過器14に供給して二次ろ過し、さらに、キレート樹脂塔15によってろ液W4中に残留する重金属類を吸着除去する。
【0048】
次いで、重金属類を除去したろ液W5を有機物処理槽16に供給し、有機物処理槽16において、ろ液W5に塩酸を添加してろ液W5のpHを2〜4に調整する。その後、pH調整したろ液W5に、過酸化水素水等の酸化剤を添加し、ろ液W5中に溶解する有機化合物を酸化して分解する。このとき、酸化剤として例えば35%過酸化水素水を用いた場合のその添加量は、薬剤コスト等を考慮すると、1リットルのろ液W5に対して、0.5〜2ml/lとすることが好ましい。
【0049】
最後に、有機化合物が分解されたろ液W5に苛性ソーダ(NaOH)を添加し、ろ液W5のpHを6〜8の中性域に調整する。pH調整したろ液W6は、下水道に放流可能な性状である。
【0050】
以上のように、本実施の形態によれば、鉛回収設備2から排出されるろ液W3に対し、重金属類沈殿化処理及びフッ素沈殿化処理を行った後、固液分離によって重金属類及びフッ素を除去し、その後、重金属類及びフッ素を除去したろ液W5に酸化剤を添加して、ろ液W5中の有機化合物を分解するため、塩素バイパスダストを処理した際の浮遊選鉱排水W3に含まれる重金属類、フッ素及び有機化合物を除去することができ、該排水W3を放流可能な状態にまで無害化することが可能となる。
【0051】
尚、上記実施の形態の重金属類沈殿槽10に、還元剤として金属鉄、第一鉄化合物等を添加することにより、重金属類とともに、ヒ素、6価クロムを同時に沈殿化することができる。ここで、第一鉄化合物として、塩化第一鉄(FeCl2)、硫酸第一鉄(FeSO4)、硝酸第一鉄(FeNO3)等を用いることができる。
【0052】
尚、上記実施の形態においては、フッ素沈殿槽11において、重金属類沈殿槽10から排出されるスラリーS2に含まれるフッ素を沈殿化するため水酸化マグネシウムとの共沈等を利用したが、この他に、フルオロアパタイト生成による沈殿化、カルシウム化合物の添加による沈殿化を用いることもできる。
【0053】
フルオロアパタイト生成の場合は、スラリーS2中にリン酸とカルシウム化合物を添加するとともに、スラリーS2のpHを9.0〜12.0程度に調整する。この際に用いるpH調整剤は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。pH調整剤として水酸化カルシウムスラリーを用いると、pH調整と同時にカルシウムの添加が可能となる。
【0054】
一方、カルシウム化合物の添加による沈殿化の場合には、カルシウム化合物を添加するとともに、フッ素沈殿槽11内のpHを調整し、スラリーS2に含まれるフッ素を沈殿化する。尚、カルシウム化合物としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等を用いることができ、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。酸化カルシウム又は水酸化カルシウム、あるいはこれらの両方を用いた場合には、pH調整も同時に行うことができる。酸化カルシウム、水酸化カルシウム以外のカルシウム化合物を用いた場合には、重金属類沈殿槽10と同様に、苛性ソーダ等のアルカリ剤を用いることができる。
【0055】
また、上記実施の形態においては、ろ液W3にアルカリ剤を添加した後、沈殿した重金属類を除去したが、ろ液W3中の重金属類の濃度が低い場合には、これらの操作に代えて、キレート樹脂によって重金属類を吸着除去することができる。
【0056】
さらに、ろ液W3を処理するにあたって、排水処理において一般的に用いられる、塩化第二鉄(FeCl3)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム、Al2(SO43)、水硫化ソーダ(NaSH)等の凝集剤や、液体キレート剤を用いることもできる。
【0057】
次に、本発明にかかる排水処理方法を適用したシステムの第2の実施形態について、図2を参照しながら説明する。尚、同図において、図1に示す排水処理システム1と同一の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。また、鉛回収設備は、図1の鉛回収設備2と同一であるため、図示を省略する。
【0058】
図2に示す排水処理システム20は、図1に示す排水処理システム1と略々同様の基本構成を有し、排水処理設備3において、調整槽21を備える点で相違する。
【0059】
調整槽21は、重金属類沈殿槽10の上流側に配置され、固液分離機6、7(図1参照)からのろ液W3に含まれるセレンを除去するために備えられる。調整槽21では、まず、ろ液W3に塩酸を添加して酸性にする。この際、ろ液W3のpHを好ましくは4.5以下、より好ましくは4.0以下に調整する。次いで、調整槽21に還元剤を添加する。以上の操作を行うことにより、その後、重金属類沈殿槽10においてろ液W3のpHを高めていく際に、水酸化第一鉄とセレンの共沈物を良好に生成させることができ、その結果、第一鉄化合物の添加量を大きく削減することができる。
【0060】
生成された水酸化第一鉄とセレンの共沈物は、固液分離機12での固液分離によってスラリーS3から分離され、これにより、浮遊選鉱排水W3に含まれるセレンが除去される。
【0061】
上記排水処理システム20によれば、塩素バイパスダストを処理した際の浮遊選鉱排水W3に含まれるセレンを除去することができ、該排水W3中にセレンが多く含まれている場合でも、セレン含有量を放流基準値以下にまで低減することが可能になる。
【0062】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0063】
図1の排水処理システム1を用いて、重金属類沈殿槽10内のスラリーS2のpHを10.5、フッ素沈殿槽11内のスラリーS3のpHを10.5に調整しながら塩素バイパスダストを処理し、そのときの固液分離機12のろ液W4(処理後排水)を分析した。また、それと併せて、重金属類沈殿槽10の上流のろ液W3(処理前排水)も分析した。
【0064】
分析結果を表1に示す。ここで、表1における各数値は、溶液1リットルあたりの重金属類の量を示し、単位は、mg/lである。表1に示されるように、ろ液W3中の金属、重金属類及びフッ素を確実に除去できることが判明した。
【0065】
【表1】

【実施例2】
【0066】
次に、セレン含有量が高い塩素バイパスダストを、図2の排水処理システム20を用いて処理し、調整槽21の上流のろ液W3(処理前排水)と、有機物処理槽16から排出されるろ液W6(処理後排水)とを各々分析した。また、有機物処理槽16において、酸化剤を添加して有機化合物を酸化し、ろ液W6中のヨウ素消費量を測定した。
【0067】
ここで、調整槽21中のスラリーS2のpHを9.0に調整し、有機物処理槽16内のろ液W5のpHを3.0に調整した。また、有機物処理槽16での酸化剤には、過酸化水素水を使用した。ろ液W3、W6の分析結果を表2に、ヨウ素消費量の測定結果を表3に示す。尚、両表における分析値等の単位は、mg/lである。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
表2に示されるように、酸化処理後のろ液W6においては、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)及びセレン(Se)が検出されたが、いずれも、放流基準値の1/10以下と微量であり、鉛回収設備2からの排水W3を無害化し得ることが確認された。
【0071】
また、表3に示されるように、酸化処理後のろ液W6(処理後排水)中のヨウ素消費量は、法令基準値を大きく下回り、環境面からも何ら問題のないことが確認された。
【実施例3】
【0072】
次に、図2の排水処理システム20を用い、酸化剤の量を調整しながら、ろ液W5中の有機化合物を処理した。ここで、酸化剤には35%過酸化水素水を使用した。35%過酸化水素水の添加量と排水W6中のヨウ素消費量との関係を図3に示す。
【0073】
図3に示すように、35%過酸化水素水を使用しない場合には、ヨウ素消費量が約1100mg/lとなるのに対し、ヨウ素消費量を0mg/lにするには、約1.3ml/lの35%過酸化水素水が必要となることが分かった。ヨウ素消費量の放流基準値を勘案すると、0.7ml/l以上の35%過酸化水素水の添加量が好ましいことが分かった。尚、処理対象の塩素バイパスダスト及び浮選処理の条件等により図3の各値は変化し、同図は、ある塩素バイパスダストから、鉛を効率的に回収するのに最適な補収剤、起泡剤の添加量とした場合の排水についての試験例である。
【符号の説明】
【0074】
1 排水処理システム
2 鉛回収設備
3 排水処理設備
4 前処理設備
5 浮遊選鉱設備
6 固液分離機
7 固液分離機
10 重金属類沈殿槽
11 フッ素沈殿槽
12 固液分離機
13 調整槽
14 砂ろ過器
15 キレート樹脂塔
16 有機物処理槽
20 排水処理システム
21 調整槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類、フッ素及び有機物を含有する排水を浄化処理する排水処理方法であって、
前記排水のpHを所定値に調整することにより、該排水に含まれる重金属類を沈殿化する重金属類沈殿化処理工程と、
前記重金属類が沈殿した排水中のフッ素を沈殿化するフッ素沈殿化処理工程と、
前記重金属類及びフッ素が沈殿した排水中の固形分を除去することで重金属類及びフッ素を除去する固液分離工程と、
前記重金属類及びフッ素が除去された排水に酸化剤を添加し、該排水中の有機物を酸化する有機物処理工程とを有することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する排水を浄化処理する排水処理方法であって、
前記排水のpHを所定値に調整することにより、該排水に含まれる重金属類及びセレンを沈殿化する重金属類及びセレン沈殿化処理工程と、
前記重金属類及びセレンが沈殿した排水中のフッ素を沈殿化するフッ素沈殿化処理工程と、
前記重金属類、セレン及びフッ素が沈殿した排水中の固形分を除去することで重金属類、セレン及びフッ素を除去する固液分離工程と、
前記重金属類、セレン及びフッ素が除去された排水に酸化剤を添加し、該排水中の有機物を酸化する有機物処理工程とを有することを特徴とする排水処理方法。
【請求項3】
前記重金属類沈殿化処理工程又は前記重金属類及びセレン沈殿化処理工程において、前記排水のpHを8.0以上12.0以下に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の排水処理方法
【請求項4】
前記重金属類沈殿化処理工程又は前記重金属類及びセレン沈殿化処理工程において、前記重金属類、フッ素及び有機物を含有する排水、又は前記重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する排水に対し、金属鉄又は/及び第一鉄化合物を添加することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記第一鉄化合物は、塩化第一鉄(FeCl2)、硫酸第一鉄(FeSO4)、硝酸第一鉄(FeNO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記フッ素沈殿化処理工程において、前記排水のpHを9.0以上12.0以下に調整することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の排水処理方法。
【請求項7】
前記酸化剤が、過酸化水素水(H22)、次亜塩素酸ソーダ(NaClO)、オゾン(O3)及び酸素(O2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の排水処理方法。
【請求項8】
前記固液分離工程において排出されるろ液の二次ろ過及び/又は前記固液分離にて排出されるろ液中の重金属類の吸着除去を行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の排水処理方法。
【請求項9】
前記重金属類、フッ素及び有機物を含有する排水、又は前記重金属類、セレン、フッ素及び有機物を含有する排水が、浮遊選鉱した際に発生する浮遊選鉱排水であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の排水処理方法。
【請求項10】
前記浮遊選鉱排水が、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスに含まれるダストをスラリー化し、該スラリーに捕収剤を添加した物質を浮遊選鉱した際に発生する浮遊選鉱排水であることを特徴とする請求項9に記載の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−240587(P2010−240587A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92648(P2009−92648)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】