説明

排水処理装置及び排水処理槽

【課題】 脱窒性リン蓄積細菌を用いて排水処理を行う際に、嫌気工程後に有機物を添加せずに排水処理を行うこと。
【解決手段】 脱窒性リン蓄積細菌を含む排水Hが供給される槽本体15と、この槽本体15内に配置されて硝化細菌Nが担持された細菌担持装置16と、細菌担持装置16に酸素を供給するエアーポンプ13とを備えて排水処理装置10が構成されている。細菌担持装置16は、シリコン製のチューブ19を多数本結束することで構成され、各チューブ19は、内部空間S1にエアーポンプ13からの酸素が供給され、周壁19Aから外部に透過可能になっており、外周面を覆うように硝化細菌Nが担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置及び排水処理槽に係り、更に詳しくは、脱窒性リン蓄積細菌を用いて排水処理を行う際に、嫌気工程後に添加する有機物を不要にできる排水処理装置及び排水処理槽に関する。
【背景技術】
【0002】
湖沼、内湾、内海等の停滞的な閉鎖性水域においては、窒素やリンがアオコや赤潮の発生を引き起こすことから、前記閉塞性水域の健全な水環境を創出するには、当該水域に流入する生活排水から窒素及びリンを十分に除去する必要がある。そこで、排水から窒素及びリンを除去する排水処理技術として、所定の細菌を用いた種々の生物学的処理が知られており、この生物学的処理として、嫌気/無酸素/好気法(AO法)が知られている(特許文献1参照)。このAO法は、硝化細菌及び脱窒細菌を使って排水中から窒素成分を除去するとともに、リン蓄積細菌を使って排水中からリンを除去する方法である。ここで、脱窒細菌及びリン蓄積細菌による反応を進行させるには、排水中の有機物が必要不可欠である。
【0003】
しかしながら、前記AO法では、雨水等の流入により有機物濃度が低くなった排水の場合、脱窒及び脱リンのための有機炭素源を十分に確保することができず、窒素及びリンの効率的な除去は見込めないという問題がある。
【0004】
そこで、本発明者らは、前記AO法の問題を解決するべく、無炭素、無酸素条件下で脱窒及びリンの取り込みを同時に行える脱窒性リン蓄積細菌を利用した嫌気/好気/無酸素法(AOA法)を既提案した(特許文献1参照)。このAOA法では、先ず、嫌気工程で、脱窒性リン蓄積細菌により、有機物の摂取及びリンの放出が行われる。次に、好気工程で、硝化細菌を使ってアンモニア等を硝酸態窒素に変える硝化反応が行われる。そして、無酸素工程で、脱窒性リン蓄積細菌により、硝酸態窒素の窒素ガスへの変換及びリンの取り込みが行われる。このAOA法では、嫌気工程後、好気工程前に、有機物を排水に添加することで、好気工程時の脱窒性リン蓄積細菌によるリン取り込みを制限する。これは、有機物を添加しないと、好気工程時に、酸素の存在によって脱窒性リン蓄積細菌にリンが取り込まれてしまい、その分、後の無酸素工程で、リンと同時に取り込まれる硝酸態窒素の取り込み量が少なくなるからである。
【特許文献1】特開2003−285096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記AOA法にあっては、嫌気工程後、好気工程前に、有機物を排水に別途添加する必要があるという問題がある。しかも、当該有機物の添加量は、好気工程時における脱窒性リン蓄積細菌のリン取り込みを阻害し、且つ、硝化細菌による硝化反応を阻害しない程度に調整しなければならず、有機物の添加制御が非常に困難になるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題に着目して案出されたものであり、その目的は、脱窒性リン蓄積細菌を用いて排水処理を行う際に、嫌気工程後に有機物を添加せずに排水処理を行うことができる排水処理装置及び排水処理槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、脱窒性リン蓄積細菌を含む排水が供給される排水領域と、この排水領域に対して隔壁で区分された酸素領域と、この酸素領域に酸素を供給する酸素供給手段とを備えた排水処理装置において、
前記隔壁は、前記酸素領域から前記排水領域に向かって酸素を透過可能に設けられるとともに、前記排水領域側の面に硝化細菌が担持され、
前記酸素供給手段は、水中に溶存可能な状態で酸素を供給する、という構成を採っている。
【0008】
(2)ここで、前記排水領域内は、溶存酸素濃度が0.5g/m以下に設定される、という構成を採ることが好ましい。
【0009】
(3)更に、本発明は、脱窒性リン蓄積細菌を含む排水が供給される排水領域と、この排水領域に対して隔壁で区分され、外部から酸素が供給される酸素領域とを備えた排水処理槽において、
前記隔壁は、酸素を透過可能に設けられるとともに、前記排水領域側の面に硝化細菌が担持される、という構成を採っている。
【0010】
なお、本明細書において、「硝酸態窒素」とは、NO−N及びNO−Nの総称を意味する。
【発明の効果】
【0011】
前記(1),(3)の構成によれば、脱窒性リン蓄積細菌により有機物の摂取及びリンの放出が行われる嫌気工程後に、酸素領域に酸素を供給すると、当該酸素が隔壁を通じて排水領域側に放出される。このとき、隔壁の排水領域側の面に存在する硝化細菌が酸素を消費することで、排水中のアンモニア成分を硝酸態窒素に変える硝化反応が行われる。そして、隔壁から放出された直後の酸素が優先的に硝化細菌によって消費され、残った僅かの酸素が排水中に溶存することになる。このため、排水中の脱窒性リン蓄積細菌には殆ど酸素が供給されなくなり、それによるリン取り込みが殆ど行われず、このリン取り込みを阻害する有機物の添加を行わなくてもよく、当該有機物の添加量の複雑な制御も不要となる。
【0012】
前記(2)のようにすれば、リン取り込みを阻害する有機物の添加を行わずに、しかも、排水処理に要する時間をAOA法で排水処理を行った場合とほほ同程度にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0014】
図1には、本実施例に係る排水処理装置の概略構成図が示されており、図2には、図1中A部の拡大断面図が示されている。これらの図において、排水処理装置10は、脱窒性リン蓄積細菌及び硝化細菌を使って排水処理を行う排水処理槽12と、この排水処理槽12に酸素を供給する酸素供給手段としてのエアーポンプ13とを備えて構成されている。
【0015】
前記排水処理槽12は、脱窒性リン蓄積細菌を含む排水Hが供給管14から内部に供給される槽本体15と、この槽本体15の内部に配置され、硝化細菌Nが担持された細菌担持装置16と、槽本体15内の排水を攪拌する攪拌手段17とを備えている。
【0016】
前記細菌担持装置16は、シリコン製のチューブ19を多数本結束することで構成される。
【0017】
前記各チューブ19は、上下方向に延出する向きでそれぞれ配置されており、それらの一端側から、エアーポンプ13に繋がる供給路20を通じて内部空間S1(図2参照)に酸素が導入され、当該導入酸素が、各チューブ19の他端側に繋がる排出路21から外部に排出される構造となっている。また、各チューブ19の周壁19Aは、内部空間S1に供給された酸素をその外側に向かって透過可能にする構造をしているとともに、その外周面を覆うように硝化細菌Nが担持されている。ここで、硝化細菌Nの担持は、チューブ19の外周面に沿って硝化細菌Nを保持できる限り、種々の手法を採ることができる。本実施例では、チューブ19の外周面に、硝化細菌Nが付いたスラグウールWを巻きつけることで、硝化細菌Nを担持している。その他、硝化細菌Nが入ったゲルをチューブ19の外周面側に固定化してもよい。また、チューブ19の外周面に糸等を巻くことによって、当該外周面の摩擦係数を高くし、その状態で硝化細菌Nを付けるようにしてもよい。更に、グラフト重合等を使って、チューブ19の外周面に対し、化学的に表面修飾を施し硝化細菌Nを固定化することも可能である。
【0018】
チューブ19の内部空間S1に供給された酸素は、前記排出路21から外部に排出される他に、周壁19Aを透過し、その外側に担持された硝化細菌Nに向かって放出される。そして、硝化細菌Nが放出酸素を消費し、消費されなかった残りの酸素が、細菌担持装置16を除く槽本体15の排水受容空間S2に放出される。
【0019】
従って、チューブ19の内部空間S1は、エアーポンプ13から酸素が供給される酸素領域を構成し、槽本体15の排水受容空間S2は、脱窒性リン蓄積細菌を含む排水が供給される排水領域を構成する。そして、周壁19Aは、酸素領域と排水領域とを区分する隔壁を構成する。
【0020】
前記攪拌手段17は、排水受容空間S2に配置された翼体17Aを図示しないモータ等で回転させることで、排水Hを攪拌可能とする構成となっているが、排水Hを攪拌可能な構成であれば何でも良い。
【0021】
前記エアーポンプ13は、酸素がチューブ19から排水受容空間S2内に放出されたときに、排水H中の残存酸素濃度が0.5g/m以下になるように、供給流量等が調整される。この調整は、排出管路21中に設けた図示しない流量計等の流量に基づいてエアーポンプ13の駆動が制御される。その他、溶存酸素濃度を測定可能なDOメータユニットを使って、排水中の溶存酸素濃度の計測値を基にして、エアーポンプ13の駆動を制御してもよい。
【0022】
次に、排水処理装置12を使った排水処理手順について説明する。なお、ここでは、排水処理装置12を回分式の排水処理システムに適用している。
【0023】
有機物が含まれている排水Hが槽本体15内に供給される。そして、先ず、嫌気工程が行われる。すなわち、エアーポンプ13から細菌担持装置16側への酸素の供給を停止した状態で、攪拌手段17によって槽本体15内の排水Hが所定時間攪拌される。この過程で、排水Hに含まれる脱窒性リン蓄積細菌により、有機物の取り込み及びリンの放出が行われる。
【0024】
そして、エアーポンプ13が作動し、各チューブ19内に酸素が供給される。この酸素は、各チューブ19の周壁19Aを透過し、その外周面側に担持された硝化細菌Nに優先的に供給され、当該硝化細菌Nの作用により、排水Hのアンモニア成分を硝酸態窒素に変える硝化反応が行われる。また、排水Hに含まれる脱窒性リン蓄積細菌によって、排水H中のリンが摂取され、同時に前述の硝化反応により生じた硝酸態窒素が窒素ガスに変換される。このとき、エアーポンプ13から供給された酸素は、チューブ19内の外側の硝化細菌Nに優先的に供給されて消費されるため、その僅かな残り分が、排水H中に溶存することになる。従って、脱窒性リン蓄積細菌は酸素に殆どさらされることがなく、酸素の存在による脱窒性リン蓄積細菌のリンの過剰吸収を抑制する有機物の添加が不要となり、当該有機物を添加しなくても、脱窒性リン蓄積細菌によって、リンの摂取と硝酸態窒素の変換とをバランス良く行うことができる。
【0025】
なお、前記排水処理装置10を使って、上述のように排水Hからリンや硝酸態窒素を除去するのに要する時間は、従来のAOA法での所要時間と同程度になることが、実験の結果、立証されている。
【0026】
次に、排水Hの溶存酸素が脱窒性リン蓄積細菌の窒素除去速度に与える影響を検証するための実験を行った。
【0027】
図3に示されるように、本実験装置30は、実験排水Hが入れられるビーカ32と、このビーカ32内の底壁32Aに設置され、磁性を帯びた攪拌子33と、ビーカ32の下に置かれ、攪拌子33を磁力で回転させるスターラー35と、ビーカ32の外側に配置されたエアーポンプ37と、ビーカ32内に設置され、エアーポンプ37からの酸素を実験排水Hに溶存する状態で曝気させる噴出ノズル38と、実験排水Hの溶存酸素濃度を測定するDOメータユニット39とを備えている。
【0028】
前記実験装置30に対して、次の手順で実験を行った。
【0029】
全有機炭素濃度が120g/m、アンモニア態窒素が30g/m、リン酸態リン濃度が15g/mとなる模擬排水250mlをビーカに入れた状態で、脱窒性リン蓄積細菌を含む汚泥懸濁液250mlを加え、MLSS濃度が2000g/mとなる実験排水Hを作成した。
そして、スターラー35の作動によって攪拌子33を回転させ、実験排水Hを嫌気条件下で2時間攪拌し、脱窒性リン蓄積細菌による有機物の取り込み及びリンの吐き出しを行わせた。その後、硝酸ナトリウムを添加し、実験排水Hの硝酸態窒素濃度を30g/mとした。そして、DOメータユニット39で実験排水Hの溶存酸素濃度を計測しながら、エアーポンプ37から実験排水Hに供給される空気の流量を調整し、実験排水Hの溶存酸素濃度が、0g/m、0.1g/m、0.5g/m、1.2g/m、2.0g/m、6.0g/mの6種類について、窒素除去速度を計測した。この窒素除去速度は、硝酸態窒素とアンモニア態窒素それぞれについて、経過時間と濃度の関係を求め、各濃度を加えた上で、それらの初期2時間分を1次近似し、その傾き(濃度差/経過時間)を計算することにより求めた。その結果を図4に示す。
【0030】
図4によれば、残存酸素濃度が0.5g/m以下の場合は、それを超える場合に比べ、窒素除去速度が格段に増大することが理解されるであろう。従って、排水処理槽12中で、チューブ19の外側の硝化細菌Nが消費仕切らずに、排水Hに溶存した酸素の濃度が0.5g/m以下になったときに、排水処理上有用となる。
【0031】
なお、前記実施例では、排水処理装置10を回分式の排水処理システムに適用した例を説明したが、排水処理装置10を連続式の排水処理システムに適用することもできる。この場合は、嫌気工程を行う槽を別途設け、当該槽にて嫌気工程による処理終了後、その排水を排水処理槽12に供給する構成となる。
【0032】
また、前記実施例では、上下方向に延びるチューブ19を使っているが、本発明はこれに限らず、酸素を透過する隔壁を使って、酸素領域と排水領域を区分し、排水領域側の隔壁の面に硝化細菌を担持させる構成である限り、種々の構成を採用することができる。
【0033】
その他、本発明における各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施例に係る排水処理装置の概略構成図。
【図2】図1中A部の拡大断面図。
【図3】実験装置を示す概念図。
【図4】溶存酸素濃度と窒素除去速度との関係を示す図表。
【符号の説明】
【0035】
10 排水処理装置
12 排水処理槽
13 エアーポンプ(酸素供給手段)
15 槽本体
19A 周壁(隔壁)
H 排水
N 硝化細菌
S1 内部空間(酸素領域)
S2 排水受容空間(排水領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱窒性リン蓄積細菌を含む排水が供給される排水領域と、この排水領域に対して隔壁で区分された酸素領域と、この酸素領域に酸素を供給する酸素供給手段とを備えた排水処理装置において、
前記隔壁は、前記酸素領域から前記排水領域に向かって酸素を透過可能に設けられるとともに、前記排水領域側の面に硝化細菌が担持され、
前記酸素供給手段は、水中に溶存可能な状態で酸素を供給することを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記排水領域内は、溶存酸素濃度が0.5g/m以下に設定されることを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項3】
脱窒性リン蓄積細菌を含む排水が供給される排水領域と、この排水領域に対して隔壁で区分され、外部から酸素が供給される酸素領域とを備えた排水処理槽において、
前記隔壁は、酸素を透過可能に設けられるとともに、前記排水領域側の面に硝化細菌が担持されていることを特徴とする排水処理槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−87990(P2006−87990A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274386(P2004−274386)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】