説明

排水処理装置

【課題】微生物含有排液を排水処理装置から排出することに関連する問題点を緩和し、好ましくは解消できる工夫を提供する。
【解決手段】微生物の固定床104が内部に配置された槽102を有して成る排水処理装置100において、槽は、固定床の上方に位置する被処理排水の流入口106を有し、また、固定床の下方に、開口部を有する周状集水管108を被処理排水の排出手段として有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置に関する。より詳しくは、本発明は、微生物を利用して排水を処理する装置、特に下向流で処理する装置に関する。そのような装置は、排水、特に窒素分および/または炭素分を含む排水、例えば食品系産業(食品製造工場、調味料製造工場等)からの排水の処理に適当である。好ましい一例では、そのような本発明の排水処理装置は、食品(調味料を含む)を製造するに際して発生する排水(即ち、食品製造排水)、例えばビール製造工場において生成する排水の処理に好適である。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用して下向流で排水を処理する装置が種々提案されている。例えば、従来の下向流通水式固定床生物処理法が、通水工程再開直後の処理水水質、及び水洗浄工程における洗浄時間、排水量において欠点を有していることに鑑み、微生物膜を担持した粒状充填材の充填材層の表層面より下位で層高の1/3までの中間層部に空気および/または水を上向流で通気、通液する中間洗浄管を設けた排水処理装置が開示されている。この排水処理装置を運転するに際して、処理した排水を装置の充填材層の底部から排水管を介して排出する操作が必要となる(下記特許文献1参照)。
【0003】
また、活性炭充填層を有する排水処理装置の洗浄方法において、洗浄の良否を判定し、長期間のインターバルで通水処理ができ、逆洗水量の削減を可能にするために、所定の水位までの排水所要時間に応じて通水および通気により充填層を撹拌し、その後、通水によって懸濁物を流出させて洗浄し、そして、活性炭充填層の下部から排水して排水処理装置を洗浄する方法が開示されている。この方法では、活性炭充填層の下部からの排水(即ち、洗浄排水)は、排水処理装置の側壁に設けた開口部から排出することによって実施されている(下記特許文献2参照)。
【0004】
ところで、微生物を用いる排水処理において、排水処理系から外部に微生物が流出するのを防止するために、処理した排水を膜分離操作に付して、微生物を回収する方法が提案されている(下記特許文献3参照)。この方法では、膜分離操作が別に必要となり、そのための設備費および運転費が必要となり、また、メンテナンスも必要となり、このような点で必ずしも満足できる方法ではない。
【特許文献1】特開平9−75968号公報
【特許文献2】特開平10−75968号公報
【特許文献3】特開2003−24985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物を利用する排水処理装置は、通常、微生物を担持した充填材を内蔵し、排水処理の経過と共に微生物が増殖し、その一部は、充填材から脱離してその周囲に存在する排水中に懸濁することになる。このような排水処理装置を用いて排水処理を実施する場合、当然ながら、処理した排水を排水処理装置から排出する必要があり、また、装置を洗浄する場合、洗浄に用いた水を排水処理装置から排出する必要がある。
【0006】
このように排水処理装置から排出する排液(上述のような処理した排水、洗浄排水等を含む総称的概念として「排液」なる用語を用いる)は、懸濁している微生物を含む。排水処理操作時において、そのような排水をそのまま排水処理装置から排出すると、排水処理装置外へ微生物が流出する結果、排水処理装置内の微生物の量が減り、その後の十分な排水処理を期待できない。また、洗浄時においても、同様に、排水処理装置内の微生物の減少につながり、洗浄直後の排水処理に際して十分な排水処理を期待できないという問題がある。
【0007】
従って、微生物を含む排液を排水処理装置から排出するに際して、上述のような問題点を少しでも緩和し、好ましくは解消できる工夫を提供することが望まれている。しかしながら、上述のように、従来技術においては、そのような排液の排出に関する工夫については特に言及されていない。従って、本発明が解決しようとする課題は、そのような工夫を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題について、発明者が鋭意検討を重ねた結果、微生物を有する固定床によって排水を処理する排水処理装置において、固定床の下方に下向きに開口する開口部を有する、好ましくは周状の配管を設け、その開口部から排液を管内に取り込み、それを装置外へ排出することによって上記課題を解決できることが見出された。
【0009】
第1の要旨において、本発明は、微生物の固定床が内部に配置された槽を有して成る排水処理装置であって、槽は、固定床の上方に位置する被処理排水の流入口を有し、また、固定床の下方に、下向きに開口した複数の開口部を有する集水管を被処理排水の排出手段として有して成ることを特徴とする排水処理装置を提供する。この排水処理装置は、下向流排水処理装置として使用できる。
【0010】
第2の要旨において、本発明は、上述の本発明の排水処理装置を用いる排水処理方法を提供し、処理すべき排水、即ち、被処理排水を被処理排水の流入口から槽内に供給し、被処理排水が固定床中を下向流として通過し、その後、下向きに開口した複数の開口部を有する集水管を介して被処理排水を槽外に排出することを特徴とする排水処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の排水処理装置は、微生物が懸濁している排液(即ち、処理済排水、洗浄排水等)を排出するに際して、排液に同伴して排水処理装置の外部へ逃げる微生物の量を可及的に少なくすることができる。その結果、排水処理装置内に存在する微生物の量の減少を可及的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の排水処理装置において、槽内に微生物の固定床が配置されている。微生物の固定床が内部に配置された槽を用いる排水処理装置は、基本的に公知であり、本発明の排水処理装置においても、そのような公知の微生物、固定床、槽を使用できる。また、本発明の排水処理装置において、槽は、固定床の上方に位置する被処理水の流入口を有し、そのような流入口も公知の態様を採用してよく、通常、流入口は、槽の上部または頂部に取り付けられている。
【0013】
本発明の排水処理装置は、固定床の下方に配置され、被処理排水の排出手段として機能する、下向きに開口する複数の開口部を有する集水管に特徴があり、本発明の排水処理装置は、この点を除いて、公知の技術的事項を用いることができる。開口部が下向きであると、開口部を介して微生物が排出されるのを可及的に抑制できる。尚、開口部を規定する開口面の形状は一般的には円形であるが、いずれの他の適当な形状(例えば楕円形、長円形、矩形等)であってもよい。
【0014】
上述の集水管は、周状である、即ち、周状集水管であるのが特に好ましい。本発明の排水処理装置において、周状集水管は、全体として水平方向に延在し、槽の断面(詳しくは槽を規定する槽壁の断面)と実質的に相似形状であるのが好ましい。槽の断面とは、槽内の排水の全体としての流れ方向に対して垂直な断面を意味する。槽は、通常筒状であり、槽の上方から下方に向かって被処理排水が固定床を通過しながら下向流として下向きに流れる。従って、槽の断面とは、槽の水平方向の断面に相当する。
【0015】
周状集水管に用いる管は、排液を流すことができる限り、いずれの適当な管であってもよい。通常、円管であり、その直径は、JIS規格による8A〜50A、好ましくは15A〜25Aのものを一般的に使用できる。このような管を用いると、排水処理時の排液(即ち、排水処理した排液)、ならびに逆洗時の洗浄液の供給およびその後の排液(洗浄後の洗浄液)に際して、通常問題は生じない。
【0016】
相似形状に関しては、周状集水管が線状物であると仮定し、あるいは周状集水管の中心線に着目し、そのような線状物または中心線が含まれる、固定床の下方のレベルにおける槽の断面を考えた場合、槽の断面の中心点を相似の中心として、線状物または中心線と槽の断面を規定する槽壁とが相似の関係にあり、槽壁が線状物または中心線の外側に位置することを意味する。従って、周状集水管は、槽壁から離間してその内側に位置する。
【0017】
具体的には、槽が円筒状である場合、槽の断面は円形状となり、従って、槽壁は円周状であり、集水管は全体として、その円周内で同心的に位置する円周状(または環状)の管の形態である。尚、本明細書において、周状集水管に関連して、集水管を線状物であると仮定するか、あるいは周状集水管の中心線に着目して、その線状物または中心線の実質的に全部を意味するものとして用語「全体として」を用いる。
【0018】
別の態様では、槽は矩形断面を有する角筒状であり、従って、槽の断面は矩形状である。この場合、集水管は、矩形の槽壁の内側で矩形の中心と同心的に位置する矩形状管である。ここで、矩形は四角形を意味し、正方形であるのが特に好ましい。
【0019】
これらの態様における、周状集水管を含むレベルにおける槽の断面を、図1に模式的に示す。図1(a)は、槽が円筒状である場合、図1(b)は、槽が角筒状である場合に対応する。尚、簡単のため、径を無視して、周状集水管を線にて示す。
【0020】
図1(a)では、円周状の槽壁10の内側に全体として円周状の周状集水管12が配置されている。尚、集水管12は、その中心線が円周状である。槽壁10と周状集水管12とは、槽の断面の中心14を相似の中心として相互に相似形状である。
【0021】
図1(b)では、矩形状の槽壁20の内側に全体として矩形周状の周状集水管22が配置されている。尚、集水管12は、その中心線が矩形周状である。槽壁20と周状集水管22とは、槽の断面の中心24を相似の中心として相互に相似形状である。尚、矩形の角部分については、アールを有する曲線状であってもよい。
【0022】
いずれの態様においても、図示するように、槽の断面の中心と槽壁との間の距離の中央または可及的にそれに近い位置に周状集水管が位置するように、周状集水管を槽内に配置するのが好ましい。
【0023】
図1(a)の態様では、中心14と槽壁10との中央またはその付近に周状集水管12が位置するのが特に好ましい。このような配置にすると、周状集水管が位置するレベルにおける槽の断面のどの位置であっても、そこから周状集水管12までの距離が、最大の場合でも、周状集水管が位置するレベルにおける槽の円形断面の半径の1/2またはそれに近い距離となり、周状集水管が位置するレベルにおける槽の断面のどの位置であっても周状集水管12まで極端に遠い箇所が存在しない点で有利である。容易に理解できるようにこの態様では、周状集水管12により規定される円の直径は、周状集水管が位置するレベルにおける槽の断面の直径の1/2である。この態様も含めて、周状集水管により規定される円の直径は、周状集水管が位置するレベルにおける槽の断面の直径の0.3〜0.8倍であるのが好ましく、0.4〜0.7倍であるのがより好ましい。
【0024】
図1(b)の態様においては、図示するように、槽の矩形断面の中心24と槽壁20との間の距離の中央またはその付近に周状集水管22が位置するのが特に好ましい。このような配置にすると、周状集水管が位置するレベルにおける槽の矩形断面のどの位置であっても、そこから周状集水管22までの距離が、最大の場合でも、周状集水管が位置するレベルにおける槽の矩形断面の対角線の長さの1/2となり、周状集水管が位置するレベルにおける槽の矩形断面のどの位置であっても周状集水管まで極端に遠い箇所が存在しない点で有利である。容易に理解できるようにこの態様では、周状集水管により規定される矩形の一辺は、周状集水管が位置するレベルにおける槽の矩形断面の一辺の1/2である。この態様も含めて、周状集水管により規定される矩形の一辺は、周状集水管が位置するレベルにおける槽の矩形断面の一辺の0.3〜0.8倍であるのが好ましく、0.4〜0.7倍であるのがより好ましい。尚、矩形は、正方形であるのが好ましいが、長方形であっても構わない。
【0025】
周状集水管は、複数の開口部を有し、これらは、周状集水管の周方向に沿って等間隔で離れているのがより好ましい。また、そのような開口部は、上述のように下向きに開口しているため、懸濁している微生物が開口部に入りにくくなる。
【0026】
開口部の口径(開口部を規定する開口面の全周長を円周とする円の直径)は、使用する微生物の特徴に応じて適宜選択する必要がある。特に、固定床から脱離した微生物のサイズ、微生物の密度、懸濁液中の微生物の濃度等を考慮して適切な口径を選択する。一般的には、口径は1〜10mmであるのが好ましく、2〜8mmであるのがより好ましい。
【0027】
開口部の数は、処理すべき排水の量、逆洗時に用いる洗浄液の量等に応じて適宜選択する必要がある。一般的には、開口部の口径と開口部の数との組み合わせは、開口部の総面積が周状集水管が位置するレベルにおける槽の断面積(空塔時)の好ましくは0.005%〜1%となるように、より好ましくは0.01〜0.8%となるように選択する。
【0028】
本発明の排水処理装置は、固定床を形成する微生物がアナモックス菌である場合に特に有効である。この場合、増殖して固定床から脱離し易いアナモックス菌のサイズを考慮すると、開口部の口径(開口部が円形でない場合は相当直径)が3〜7mmであるのが特に有効である。
【0029】
アナモックス菌によって排水処理する場合、菌を担持する固定床は、ビール粕を原料とする炭または活性炭であるのが好ましく、この場合、固定床のpHが中性域である点で微生物の成育を促し、有利である。
【0030】
本発明の排水処理装置の一例を模式的に図2に示す。排水処理装置100は、槽102を有して成り、槽102内に微生物を担持した充填材を充填した固定床104が支持されている。固定床104の上方には、処理すべき排水の流入口106が配置され、また、固定床104の下方には、周状集水管108が配置されている。
【0031】
周状集水管108には、その開口部を介して集水管内に入ってくる、処理済みの排水を装置の外部に排出する排出管110が接続されている。図示した態様では、排出管110は、周状集水管108に対照的に2箇所に取り付けられている。排出管は、一箇所にのみ取り付けても、あるいは、3箇所以上に取り付けてもよい。
【0032】
図示した排水処理装置の運転に際して、処理すべき排水を流入口106に供給し、それに接続されたディストリビュータ112を介して固定床102の上方に排水を供給する。供給された排水は、固定床102を通過し、その間に排水中に含まれる有機物が固定床104に担持された微生物によって分解除去される。有機物が減少した処理済み排水は、周状集水管108および排出管110を経て、排水処理装置の外部に導かれ、必要に応じて追加の処理をした後、例えば一般排水中に放流される。
【0033】
通常、固定床104の全体が排水中に浸かり、排水が全体として下向きに流れるように供給する排水の量、および周状集水管を介して排出される処理済み排水の量をコントロールする。尚、排水処理装置を逆洗する場合、必要に応じて排出管110から周状集水管108を経て洗浄水および/または空気を供給することができる。
【実施例1】
【0034】
直径580mmの円筒状アクリル水槽に直径10〜15mmのビール粕炭を充填した。塊状のアナモックス菌を運転初期に投入することによってこのビール粕炭にアナモックス菌を担持させた。集水管は、全体として円周状(直径410mm)であり、直径27.2mmの円管を円周状に湾曲させたものを、この中心をアクリル水槽の中心軸上に位置するように配置した。集水管の開口部は、開口径4mmであり、集水管の真下に(即ち、集水管の底面図の中心線から対照的に開口部が存在するように)24個設けた。
【0035】
その後、ビール工場からの排水(全窒素量:184mg/l)を水槽に供給し、排水の下向流速が3.8mm/minとなるように操作して排水を処理した。この排水処理において、定常状態では集水管から排出される排液は、SS(固形分濃度)が8mg/lであり、全窒素量が64mg/lであった。
【0036】
上述の排水処理の間(運転時間:140日)、水槽からのアナモックス菌の大量流出は観察されず、特にグラニュール化(塊状化)した高濃度のアナモックス菌の流出は皆無であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の排水処理装置における、周状集水管を含む部分における槽の模式的断面図であり、(a)は槽が円筒状である態様であり、(b)は槽が角筒状である態様である。
【図2】図2は、本発明の排水処理装置の一例の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10…槽、12…周状集水管、14…中心、20…槽、22…周状集水管、
24…中心、100…排水処理装置、102…槽、104…固定床、
106…排水流入口、108…周状集水管、110…排出管、
112…ディストリビュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の固定床が内部に配置された槽を有して成る排水処理装置であって、槽は、固定床の上方に位置する被処理排水の流入口を有し、また、固定床の下方に、下向きに開口した複数の開口部を有する集水管を被処理排水の排出手段として有して成ることを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記集水管が、周状であることを特徴とする請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記集水管の周方向に沿って等間隔で離れていることを特徴とする請求項2記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記集水管は、水平方向に延在し、また、槽の断面と実質的に相似形状であり、槽壁から離間して槽の内側に位置することを特徴とする請求項2又は3に記載の排水処理装置。
【請求項5】
槽は、円形断面を有する円筒状槽であり、前記集水管は、円筒状槽の内側に位置する、全体として円周状の管であることを特徴とする請求項4に記載の排水処理装置。
【請求項6】
槽は、矩形断面を有する角筒状であり、前記集水管は、角筒状槽の内側に位置する、全体として矩形状の管であることを特徴とする請求項4に記載の排水処理装置。
【請求項7】
微生物がアナモックス菌であり、開口部の口径が3〜7mmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の排水処理装置。
【請求項8】
固定床が、アナモックス菌を担持したビール粕を原料とする炭であることを特徴とする請求項7に記載の排水処理装置。
【請求項9】
排水は、食品製造排水である請求項1〜8のいずれかに記載の排水処理装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の排水処理装置を用いて排水を処理することを特徴とする排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−125702(P2009−125702A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305532(P2007−305532)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】